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特許7627038スメクタイトスラリー、粘土膜、及びスメクタイトスラリーの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-28
(45)【発行日】2025-02-05
(54)【発明の名称】スメクタイトスラリー、粘土膜、及びスメクタイトスラリーの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/40 20060101AFI20250129BHJP
【FI】
C01B33/40
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2021119509
(22)【出願日】2021-07-20
(65)【公開番号】P2023015614
(43)【公開日】2023-02-01
【審査請求日】2024-01-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000104814
【氏名又は名称】クニミネ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】弁理士法人クオリオ
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【弁理士】
【氏名又は名称】赤羽 修一
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 道也
(72)【発明者】
【氏名】窪田 宗弘
(72)【発明者】
【氏名】原 康祐
【審査官】磯部 香
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-193276(JP,A)
【文献】特開2018-083728(JP,A)
【文献】特開2015-147300(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104760969(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第104891513(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンモニア、水、及び極性有機溶媒を含有する極性媒体中に、陽イオン交換容量が50meq/100g以下の多価金属固定型スメクタイトが分散してなり、該分散状態における前記多価金属固定型スメクタイトの粒子径が20μm以下であり、前記スメクタイトがモンモリロナイトである、スメクタイトスラリー。
【請求項2】
前記多価金属固定型スメクタイトが、2価金属固定型スメクタイト及び/又は3価金属固定型スメクタイトである、請求項1に記載のスメクタイトスラリー。
【請求項3】
前記2価金属固定型スメクタイトが、Ca固定型スメクタイト、Mg固定型スメクタイト、Fe固定型スメクタイト、Zn固定型スメクタイト及びCu固定型スメクタイトの1種又は2種以上である、請求項2に記載のスメクタイトスラリー。
【請求項4】
前記3価金属固定型スメクタイトが、Al固定型スメクタイト及び/又はFe固定型スメクタイトである、請求項2又は3に記載のスメクタイトスラリー。
【請求項5】
前記極性有機溶媒が、エーテル溶媒、アルコール溶媒、ケトン溶媒、エステル溶媒、及び含窒素溶媒の1種又は2種以上である、請求項1~のいずれか1項に記載のスメクタイトスラリー。
【請求項6】
前記極性媒体中の前記水の含有量が4~90質量%である、請求項1~のいずれか1項に記載のスメクタイトスラリー。
【請求項7】
前記スメクタイトスラリー中の前記アンモニアの含有量が、前記多価金属固定型スメクタイト1g当たり0.1mmol以上である、請求項1~のいずれか1項に記載のスメクタイトスラリー。
【請求項8】
請求項1~のいずれか1項に記載のスメクタイトスラリーを用いた粘土膜。
【請求項9】
陽イオン交換容量が50meq/100g以下の多価金属固定型スメクタイト、アンモニア、水、及び極性有機溶媒を混合し、この混合物を35~100℃の加熱処理に付して極性媒体中に多価金属固定型スメクタイトを分散してなるスラリーを得ることを含み、前記極性媒体に占める水の割合が4質量%以上であり、前記極性媒体中に分散してなる多価金属固定型スメクタイトの粒子径が20μm以下であり、前記スメクタイトがモンモリロナイトである、スメクタイトスラリーの製造方法。
【請求項10】
前記多価金属固定型スメクタイトが、2価金属固定型スメクタイト及び/又は3価金属固定型スメクタイトである、請求項に記載のスメクタイトスラリーの製造方法。
【請求項11】
前記2価金属固定型スメクタイトが、Ca固定型スメクタイト、Mg固定型スメクタイト、Fe固定型スメクタイト、Zn固定型スメクタイト及びCu固定型スメクタイトの1種又は2種以上である、請求項10に記載のスメクタイトスラリーの製造方法。
【請求項12】
前記3価金属固定型スメクタイトが、Al固定型スメクタイト及び/又はFe固定型スメクタイトである、請求項10又は11に記載のスメクタイトスラリーの製造方法。
【請求項13】
前記極性有機溶媒が、アルコール溶媒、ケトン溶媒、エーテル溶媒、エステル溶媒、及び含窒素溶媒の1種又は2種以上である、請求項12のいずれか1項に記載のスメクタイトスラリーの製造方法。
【請求項14】
前記極性媒体中の前記水の含有量が4~90質量%である、請求項13のいずれか1項に記載のスメクタイトスラリーの製造方法。
【請求項15】
前記アンモニアの混合量が、前記多価金属固定型スメクタイト1g当たり0.1mmol以上である、請求項14のいずれか1項に記載のスメクタイトスラリーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スメクタイトスラリー、粘土膜、及びスメクタイトスラリーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工業用粘土は増粘剤、粘結剤、レオロジー改質剤、無機バインダー、土木泥水、止水材、化粧品原料等、様々な分野で利用されている。
工業用粘土の一種としてスメクタイトが知られている。スメクタイトの一般的な結晶構造は、ケイ酸のネットワークが広がるケイ酸四面体シートがアルミナ八面体シートを挟んで存在する、2:1層構造の単位結晶層からなる。多くの場合、この結晶層中においてアルミナ八面体シートの中心原子であるアルミニウムの一部がマグネシウムに置換され、これにより結晶層は負に帯電し、この負電荷を中和する形で層間には陽イオンが取り込まれている。また、この陽イオンはイオン交換が可能であるため、スメクタイトは陽イオン交換性を示す。イオン交換可能な陽イオン量は陽イオン交換容量(CEC)と呼ばれ、スメクタイトの特性を示す指標の一つとなっている。
【0003】
スメクタイトを加熱処理に付すると、脱水に伴い層間の陽イオン(プロトン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、リチウムイオン、セシウムイオン、アンモニウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン等)が固定化されることが知られている。陽イオンが固定化されると、水に対する分散安定性、増粘性、膨潤性、陽イオン交換性といったスメクタイトの基本的な特性が低下する。
【0004】
上記の加熱処理による層間陽イオンの固定化現象を利用してスメクタイトの機能性を高めることが報告されている。例えば、特許文献1及び2には、層間にリチウムイオンを有するモンモリロナイトの水分散液を用いて成膜した後、これを乾燥機中で加熱処理に付することで、耐水性(水蒸気バリア性)に優れた粘土膜が得られることが記載されている。
加熱してリチウムイオンが固定化されたリチウム型モンモリロナイト(リチウム固定型モンモリロナイト)の水分散性(分散安定性)を高めることができれば、当該リチウム固定型モンモリロナイトのスラリーの調製が可能となり、このスラリーを塗布し、乾燥するだけで、耐水性(本明細書において「耐水性」とは「水蒸気ガスバリア性」を意味する)に優れた粘土膜の形成が可能になる。そして実際に、リチウム固定型モンモリロナイトの水分散性を高める技術がいくつか報告されている。
例えば特許文献3には、陽イオン交換容量が50meq/100g以下のリチウム固定型モンモリロナイトと、アンモニアと、水と、ホルムアミド基を有する極性有機溶媒とを各特定量配合してなるスラリーが、リチウム固定型モンモリロナイトの分散安定性に優れることが記載されている。また特許文献4には、陽イオン交換容量が50meq/100g以下のリチウム固定型モンモリロナイトと、アンモニアと、水と、少なくともアセトニトリル及びメチルエチルケトンから選択される有機溶媒とを各特定量含有するスラリーが、リチウム固定型モンモリロナイトの分散安定性に優れることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2008-247719号公報
【文献】特開2009-107907号公報
【文献】特開2015-147300号公報
【文献】特開2018-83728号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献3及び4の技術により、リチウム固定型モンモリロナイトが安定に分散したスラリーの調製が可能になり、リチウム固定型モンモリロナイトの機能性材料としての工業的利用分野の拡大が期待される。しかし、これらの技術では、層間イオンに用いる金属がリチウムに限定されている。リチウムはクラーク数(地殻中の元素の存在割合)が0.006質量%であり、金属元素の多い順からの序列が27番目と資源的に希少である。加えて、リチウムイオン電池の需要も旺盛であり、今後も需要が拡大していくと予測されている。そのためリチウムは資源量が慢性的に不足し、価格的に不安定、且つ高価な傾向にある。リチウム固定型モンモリロナイトと同様の高耐水性を、より資源量が豊富(クラーク数が大きい)な多価元素を層間に持ち、焼成等の処理により部分的に固定化した多価金属固定型スメクタイトで行うことができれば、より安価で汎用な材料とでき、これに伴い多くの適応先に展開することが可能となる。
加えて、スラリー化において必須となる有機溶媒の、生体に対する安全性が問題視される場合がある。そのため、安全性、汎用性が高く、汎用の塗料、コーティング材類にも用いることができる有機溶媒に、多価金属固定型スメクタイトを分散させてスラリー化することができれば、さらに技術の汎用性が高くなる。
【0007】
リチウム固定型モンモリロナイトのスラリーを用いて耐水膜などのバリア機能を高めた膜を形成する場合、スラリー中において、リチウム固定型モンモリロナイトが微粒状に分散して存在することが重要である。例えば、スラリー中に分散したリチウム固定型モンモリロナイトの粒子径が大きいと(凝集していると)、このスラリーを用いて形成した膜には微細な欠陥が生じやすく、目的の耐水性を発現することが難しくなる。
これまで、多価金属固定型スメクタイトをスラリー化し、上記のような耐水膜として使用した例はない。
【0008】
本発明は、資源的に豊富である多価金属イオンが粘土層に固定化されて陽イオン交換性及び水分散性が低下した多価金属固定型スメクタイトが安定に分散してなり、分散状態の多価金属固定型スメクタイトの粒子径が十分に小さいスラリー、当該スラリーを用いた粘土膜、及び当該スラリーの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題に鑑み鋭意検討を重ねた。その結果、多価金属固定型スメクタイトの分散液を調製するに当たり、分散媒(水)中にアンモニアと、特定の有機溶媒とを混合した上で、この混合液と陽イオン交換性が一定レベル以下の多価金属固定型スメクタイト粉末とを混合し、次いで混合物を加熱処理に付すことにより、当該多価金属固定型スメクタイトをより微粒化した状態で分散媒中に安定に分散でき、経時的な分散安定性にも優れたスラリーが得られることを見出した。本発明はこれらの知見に基づきさらに検討を重ね、完成させるに至ったものである。
【0010】
本発明の上記課題は下記の手段により達成された。
〔1〕
アンモニア、水、及び極性有機溶媒を含有する極性媒体中に、陽イオン交換容量が50meq/100g以下の多価金属固定型スメクタイトが分散してなり、該分散状態における前記多価金属固定型スメクタイトの粒子径が20μm以下である、スメクタイトスラリー。
〔2〕
前記多価金属固定型スメクタイトが、2価金属固定型スメクタイト及び/又は3価金属固定型スメクタイトである、〔1〕に記載のスメクタイトスラリー。
〔3〕
前記2価金属固定型スメクタイトが、Ca固定型スメクタイト、Mg固定型スメクタイト、Fe固定型スメクタイト、Zn固定型スメクタイト及びCu固定型スメクタイトの1種又は2種以上である、〔2〕に記載のスメクタイトスラリー。
〔4〕
前記3価金属固定型スメクタイトが、Al固定型スメクタイト及び/又はFe固定型スメクタイトである、〔2〕又は〔3〕に記載のスメクタイトスラリー。
〔5〕
前記スメクタイトがモンモリロナイトである、〔1〕~〔4〕のいずれか1項に記載のスメクタイトスラリー。
〔6〕
前記極性有機溶媒が、エーテル溶媒、アルコール溶媒、ケトン溶媒、エステル溶媒、及び含窒素溶媒の1種又は2種以上である、〔1〕~〔5〕のいずれか1項に記載のスメクタイトスラリー。
〔7〕
前記極性媒体中の前記水の含有量が4~90質量%である、〔1〕~〔6〕のいずれか1項に記載のスメクタイトスラリー。
〔8〕
前記スメクタイトスラリー中の前記アンモニアの含有量が、前記多価金属固定型スメクタイト1g当たり0.1mmol以上である、〔1〕~〔7〕のいずれか1項に記載のスメクタイトスラリー。
〔9〕
前記スメクタイトスラリーが、35~100℃の加熱処理に付されたものである、〔1〕~〔8〕のいずれか1項に記載のスメクタイトスラリー。
〔10〕
前記多価金属固定型スメクタイトが、多価金属型スメクタイトを200~700℃の加熱処理に付して得られたものである、〔1〕~〔9〕のいずれか1項に記載のスメクタイトスラリー。
〔11〕
〔1〕~〔10〕のいずれか1項に記載のスメクタイトスラリーを用いた粘土膜。
〔12〕
陽イオン交換容量が50meq/100g以下の多価金属固定型スメクタイト、アンモニア、水、及び極性有機溶媒を混合し、この混合物を35~100℃の加熱処理に付して極性媒体中に多価金属固定型スメクタイトを分散してなるスラリーを得ることを含む、スメクタイトスラリーの製造方法。
〔13〕
前記多価金属固定型スメクタイトが、2価金属固定型スメクタイト及び/又は3価金属固定型スメクタイトである、〔12〕に記載のスメクタイトスラリーの製造方法。
〔14〕
前記2価金属固定型スメクタイトが、Ca固定型スメクタイト、Mg固定型スメクタイト、Fe固定型スメクタイト、Zn固定型スメクタイト及びCu固定型スメクタイトの1種又は2種以上である、〔13〕に記載のスメクタイトスラリーの製造方法。
〔15〕
前記3価金属固定型スメクタイトが、Al固定型スメクタイト及び/又はFe固定型スメクタイトである、〔13〕又は〔14〕に記載のスメクタイトスラリーの製造方法。
〔16〕
前記スメクタイトがモンモリロナイトである、〔12〕~〔15〕のいずれか1項に記載のスメクタイトスラリーの製造方法。
〔17〕
前記極性有機溶媒が、アルコール溶媒、ケトン溶媒、エーテル溶媒、エステル溶媒、及び含窒素溶媒の1種又は2種以上である、〔12〕~〔16〕のいずれか1項に記載のスメクタイトスラリーの製造方法。
〔18〕
前記極性媒体中の前記水の含有量が4~90質量%である、〔12〕~〔17〕のいずれか1項に記載のスメクタイトスラリーの製造方法。
〔19〕
前記アンモニアの混合量が、前記多価金属固定型スメクタイト1g当たり0.1mmol以上である、〔12〕~〔18〕のいずれか1項に記載のスメクタイトスラリーの製造方法。
〔20〕
前記極性媒体中に分散してなる多価金属固定型スメクタイトの粒子径が20μm以下である、〔12〕~〔19〕のいずれか1項に記載のスメクタイトスラリーの製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明のスメクタイトスラリー(以下、単に「本発明のスラリー」ともいう。)は、陽イオン交換性が特定レベル以下にある水分散性の低い多価金属固定型スメクタイトが、より微粒化されて安定に分散され、経時的な分散安定性にも優れる。
また本発明の粘土膜は、本発明のスラリーを用いて形成された膜であり、耐水性に優れ、生産効率にも優れる。
また本発明のスメクタイトスラリーの製造方法(以下、単に「本発明のスラリーの製造方法」ともいう。)によれば、陽イオン交換性が特定レベル以下にある水分散性の低い多価金属固定型スメクタイトを、より微粒子状に、かつ安定に分散してなり、さらに経時的な分散安定性にも優れるスラリーを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の好ましい実施の形態について以下に説明するが、本発明は、本発明で規定すること以外はこれらの形態に限定されるものではない。
【0013】
[スメクタイトスラリー]
本発明のスラリーは、陽イオン交換容量(CEC:Cation Exchange Capacity)が50meq(ミリ当量)/100g以下である多価金属固定型スメクタイトが極性媒体中に分散してなるスラリーである。この極性媒体はアンモニア、水、及び極性有機溶媒を含有し、前記多価金属固定型スメクタイトは当該極性媒体中に、粒子径が20μm以下の微粒子状に分散している。
本発明のスラリーは、本発明の効果を損なわない範囲で、上記の各成分以外の成分を含有していてもよい。
本発明のスメクタイトスラリーを構成する各成分について、以下に詳細に説明する。
【0014】
<多価金属固定型スメクタイト>
本発明に用いる多価金属固定型スメクタイトは、本発明のスラリーにおいて分散質を構成する。
【0015】
前記スメクタイトの種類は特に限定されず、目的に応じて適宜に設定することができる。当該スメクタイトは、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、ソーコナイト、及びスチブンサイトから選ばれる1種又は2種以上であることが好ましく、モンモリロナイト、サポナイト、スチブンサイトから選ばれる1種又は2種以上であることがより好ましく、モンモリロナイトであることがさらに好ましい。
【0016】
本発明で用いる多価金属固定型スメクタイトとは、多価金属イオンの少なくとも一部が、粘土層の八面体シート、もしくは四面体シートの空きサイト(空席)に固定化されたスメクタイトである。多価金属固定型スメクタイトは、多価金属型スメクタイトの高温処理(後述ように、例えば200~700℃の熱処理)により、層間の多価金属イオンが八面体シート又は四面体シートの空きサイトに固定化されることで得られる。多価金属イオンが固定化されることで、スメクタイトの結晶層間が閉じた構造となり、親水性が大きく低下する。これは、多価金属イオンが粘土結晶の八面体シート又は四面体シートの空席に移動して固定化されることで、粘土結晶が電気的に中和されて層間が密に閉じた状態になり、水分子が進入しにくくなる(層間陽イオンの水和が生じにくくなる)ためと考えられる。
【0017】
本発明で用いる多価金属固定型スメクタイトのCECは、低極性溶剤、低極性樹脂への分散性、発色、水蒸気バリア性等を付与する観点から、50meq/100g以下であり、好ましくは45meq/100g以下でり、より好ましくは40meq/100gである。また、上記の多価金属固定型スメクタイトのCECは、通常は1meq/100g以上であり、5meq/100g以上でもよく、8meq/100g以上でもよい。
例えば、2価及び/又は3価の多価金属型スメクタイトは、通常、CECは80~150meq/100g程度であるが、後述する高温処理により多価金属イオンの少なくとも一部が固定化され、CECを50meq/100g以下に低下させることができる。
なお、本発明において、多価金属固定型スメクタイトのCECは、極性媒体中に分散している多価金属固定型スメクタイトのCECを意味する。
【0018】
本発明で用いる多価金属固定型スメクタイトは、前述したように多価金属イオンが粘土層間に固定された状態で存在するスメクタイトである。中でも当該スメクタイトは、2価及び/又は3価の多価金属固定型スメクタイト(すなわち、2価金属固定型スメクタイト及び3価金属固定型スメクタイトから選ばれる1種又は2種以上の多価金属固定型スメクタイト)であることが好ましい。
【0019】
前記2価の多価金属固定型スメクタイトの多価金属の種類に特に制限はなく、例えば、Ca固定型スメクタイト、Mg固定型スメクタイト、Ba固定型スメクタイト、Cu固定型スメクタイト、Zn固定型スメクタイト、Sn固定型スメクタイト、Fe固定型スメクタイト、Pb固定型スメクタイト、Co固定型スメクタイト、及びMn固定型スメクタイトから選ばれる1種又は2種以上の2価金属固定型スメクタイトを用いることができる。なかでも入手が容易である点や、機能性、安全性の観点から、Ca固定型スメクタイト、Mg固定型スメクタイト、Ba固定型スメクタイト、Fe固定型スメクタイト、Cu固定型スメクタイト、及びZn固定型スメクタイトから選ばれる1種又は2種以上の2価金属固定型スメクタイトを用いることが好ましく、Ca固定型スメクタイト、Mg固定型スメクタイト、Fe固定型スメクタイト、Cu固定型スメクタイト、及びZn固定型スメクタイトから選ばれる1種又は2種以上の2価金属固定型スメクタイトを用いることがより好ましい。
【0020】
また、前記3価の多価金属固定型スメクタイトの多価金属の種類にも特に制限はなく、例えば、Al固定型スメクタイト、Fe固定型スメクタイト、Mn固定型スメクタイト、Co固定型スメクタイト、Sn固定型スメクタイト、及びCr固定型スメクタイトから選ばれる1種又は2種以上の3価金属固定型スメクタイトを挙げることができる。なかでも入手が容易である点や、機能性、安全性の観点から、Al固定型スメクタイト及び/又はFe固定型スメクタイトから選ばれる3価金属固定型スメクタイトを用いることが好ましい。
【0021】
また、上記多価金属固定型スメクタイトは、通常は、浸出陽イオンとして多価金属イオン以外に、ナトリウムイオン(Na)、カリウムイオン(K)等を含んでいる。本発明に用いる多価金属固定型スメクタイトにおいて、Na及びKの浸出イオン量は、総量で1~30meq/100gが好ましく、1~20meq/100gがより好ましく、1~10meq/100gがさらに好ましい。
【0022】
本発明で用いる多価金属固定型スメクタイトは、例えば多価金属型スメクタイトの結晶構造の層間に存在する多価金属イオン(多価の陽イオン)を、高温処理等により固定化して得ることができる。
多価の陽イオンを固定する高温処理の温度条件は、多価の陽イオンを少なくとも部分的に固定化できれば特に制限はない。前述のように、CECが小さいほど、多価金属固定型スメクタイトを含有する水性分散物を用いて形成された層の水蒸気バリア性及び酸素バリア性がより向上する傾向にある。そこで、多価金属イオンを効率的に固定化し、CECを小さくする観点から、200℃以上で加熱することが好ましい。上記加熱処理の温度は、より好ましくは200~700℃であり、更に好ましくは250~650℃であり、特に好ましくは300~650℃であり、最も好ましくは350~600℃である。上記温度範囲で加熱することにより、CECをより効率的に低下させることができると同時に、スメクタイト中の水酸基の脱水反応等を抑えることができる。上記加熱処理は開放系の電気炉で実施することが好ましい。この場合、加熱時の相対湿度は5%以下となり、圧力は常圧となる。上記加熱処理の時間は、多価の陽イオンを固定できれば特に制限はない。上記加熱処理の時間は、生産の効率性の観点から、0.5~48時間とすることが好ましく、1~24時間とすることがより好ましい。
【0023】
上記加熱処理により多価金属イオンが固定化されていることは、CEC及び対象イオンのイオン溶出量(Lc: Liquid Chromatography)を測定することにより判定することができる。部分固定化処理(例えば上記加熱処理等)を行った後のCEC及び対象イオンのLc値が、部分固定化処理前のCEC及び対象イオンのLc値よりも低い場合には、少なくとも対象イオンの一部分が、スメクタイトの結晶構造の層間に固定化されたことを示している。
【0024】
本明細書において、多価金属固定型スメクタイトの製造に用いることができる「多価金属型スメクタイト」とは、スメクタイトの浸出陽イオン量(すなわち浸出陽イオンの総量、単位:meq/100g、以下同様)に占める多価金属イオンの量(すなわち浸出多価金属イオン量、単位:meq/100g、以下同様)が60%以上の多価金属型スメクタイトであることが好ましく、より好ましくは、浸出陽イオン量に占める浸出多価金属イオン量が70%以上、さらに好ましくは80%以上の多価金属型スメクタイトである。多価金属型スメクタイトの浸出陽イオン量に占める浸出多価金属イオン量は100%であってもよいが、通常は99%以下である。
なお本明細書において「X固定型スメクタイト」(Xは多価金属の種類)という場合、原料とする多価金属型スメクタイトの浸出陽イオン量に占める浸出Xイオンの量が60%以上の多価金属型スメクタイトを用いて得た多価金属固定型スメクタイトであることが好ましい。より好ましくは、前記多価金属型スメクタイトの浸出陽イオン量に占める浸出Xイオンの量が70%以上、さらに好ましくは80%以上の多価金属型スメクタイトを用いて得た多価金属固定型スメクタイトである。多価金属型スメクタイトの浸出陽イオン量に占める浸出Xイオン量は100%であってもよいが、通常は99%以下である。
また、本明細書において「多価金属型スメクタイト」とは、そのCECが50meq/100gを越えるものであることが好ましい。当該多価金属型スメクタイトのCECは、より好ましくは60~150meq/100gであり、さらに好ましくは70~120meq/100gであり、よりさらに好ましくは80~110meq/100gである。
【0025】
前記多価金属型スメクタイト(例えば、2価金属型スメクタイト又は3価金属型スメクタイト)の製造方法に特に制限はなく、例えば、天然や合成のナトリウム型スメクタイトの水性分散液に、目的の多価金属イオンの塩水溶液(例えば、ハロゲン化物、硫化物、硫酸塩、炭酸塩、硝酸塩、酢酸塩、リン酸塩、亜リン酸塩、過塩素酸塩、塩素酸塩)を添加し、陽イオン交換させることにより得ることができる。分散液中に添加する塩の量を調節することにより、得られるスメクタイトの浸出陽イオン量に占める、目的の多価金属イオンの割合を適宜に調節することができる。また、例えば多価金属型スメクタイトは、陽イオン交換樹脂を用いたカラム法やバッチ法によっても得ることができる。
【0026】
本発明のスラリー中の多価金属固定型スメクタイトの含有量に特に制限はなく、目的に応じて適宜に調節することができる。スラリーとしての流動性を確保し、混練、および撹拌工程が実際的に可能なものとする観点から、本発明のスメクタイトスラリー中の多価金属固定型スメクタイトの含有量は、1~30質量%が好ましく、2~28質量%がより好ましく、5~25質量%がさらに好ましく、9~21質量%がさらに好ましい。
当該スメクタイトの形態は特に制限されないが、例えば粉末状又は脱水ケーキの形態のものを用いてもよい。
【0027】
本発明のスラリー中において、多価金属固定型スメクタイトは粒子径が20μm以下の状態で分散している。スラリーを用いて形成した膜の欠陥を防いで耐水性等の機能性をより高める観点から、上記粒子径は好ましくは15.0μm以下、より好ましくは13.0μm以下、さらに好ましくは10.0μm以下、さらに好ましくは8.0μm以下である。また、本発明のスラリー中、多価金属固定型スメクタイトの粒子径の下限に特に制限はなく、通常は1.0μm以上であり、1.5μm以上でもよく、2.0μm以上でもよい。
本発明において、スラリー中の多価金属固定型スメクタイトの「粒子径」とは、体積基準のメディアン径である。この粒子径は、例えばレーザー回析/散乱式粒子径分布測定装置により決定することができる。
【0028】
<アンモニア>
本発明のスラリーを構成する極性媒体は、アンモニアを含有する。アンモニア源としては、アンモニア水、気体アンモニア、液体アンモニアのいずれを使用してもよいが、大気圧下でスラリーを製造する場合には、アンモニア水を用いることが好ましい。
本発明のスラリー中のアンモニアの含有量は、スラリー中の多価金属固定型スメクタイト1g当たり、0.1mmol以上であることが好ましく、より好ましくは0.2mmol以上、さらに好ましくは0.5mmol以上、さらに好ましくは0.8mmol以上であり、1.0mmol以上とすることも好ましい。アンモニアの含有量を上記好ましい値とすることで、多価金属固定型スメクタイトの粘土結晶の層間に十分な分子数のアンモニアが侵入し、多価金属固定型スメクタイトの溶液分散性をより向上させることができる。また、アンモニア臭気の発生や製造コストを考慮すると、本発明のスラリー中のアンモニアの含有量は、当該スラリー中の多価金属固定型スメクタイト1g当たり、10mmol以下が好ましく、より好ましくは5mmol以下、さらに好ましくは2mmol以下である。
本明細書において「多価金属固定型スメクタイト1g当たり」とは、具体的には、スラリー中に含まれる多価金属固定型スメクタイト1g当たり、を意味する。より詳細には、スラリー中に含まれる多価金属固定型スメクタイトをスラリー中から取り出し、取り出したスメクタイトを、温度200℃で24時間処理して得られる処理物の質量1g当たり、を意味する。上記加熱処理は開放系の電気炉で実施することが好ましい。この場合、加熱時の相対湿度は5%以下となり、圧力は常圧となる。
また、多価金属固定型スメクタイト1g当たりのアンモニアの量は、スラリー中のアンモニアの量(mmol)を、スラリー中の多価金属固定型スメクタイトの質量(すなわち、スラリー中に存在する多価金属固定型スメクタイトを取り出し、取り出したスメクタイトを温度200℃で24時間加熱処理して得られる処理物の質量)(単位:g)で除することで得られる。
スラリー中のアンモニアの含有量は、インドフェノール法、ケルダール法、ガスクロマトグラフィー、イオンクロマトグラフィーにより測定することができる。
【0029】
<有機溶媒>
本発明のスラリーを構成する極性媒体は極性有機溶媒を含有する。極性有機溶媒は極性基(炭素原子以外かつ水素原子以外のヘテロ原子を含む基)を有し、水と混じり合うものであれば特に制限なく用いることができる。極性有機溶媒として例えば、エーテル溶媒、アルコール溶媒、ケトン溶媒、エステル溶媒、及び含窒素系溶媒を挙げることができ、これらの1種又は2種以上の有機溶媒を用いることができる(以降、極性有機溶媒を単に「有機溶媒」と称する場合がある)。上記例示の各有機溶媒は極性が比較的高く、多価金属固定型スメクタイトを膨潤させるのに適する。
【0030】
本発明に用いられる有機溶媒は、水溶性の高い(親水性の)有機溶媒(有機溶剤)であることが好ましい。多価金属固定型スメクタイトを極性媒体に分散させる際には、一定量の水が共存していると分散効率が高い。そのため前記有機溶媒は、25℃において水を、好ましくは5質量%以上、より好ましくは7質量%以上、さらに好ましくは10質量%以上、より更に好ましくは20質量%以上の濃度で溶解するものであることが好ましい。また、前記有機溶媒は、水と無限混和できる有機溶媒であることも好ましい。
また本発明に用いられる有機溶媒は、多価金属固定型スメクタイトとゲル化などの反応を生じない、酸基を有しない有機溶媒であることが好ましい。
また、上記の有機溶媒は常温で液体であることが好ましい。
【0031】
前記エーテル溶媒としては、分子内に少なくとも1つのエーテル結合を持つ化合物で、上記の水溶性を示す化合物を好適に用いることができる。このようなエーテル溶媒としては、例えばテトラヒドロフラン、トリオキサン、テトラヒドロピラン、ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、メチラール、アセタール、低分子量のポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、クラウンエーテル等が挙げられる。
【0032】
前記アルコール溶媒としては、分子内に少なくとも1つの水酸基を持つ化合物で、上記の水溶性を示す化合物を好適に用いることができる。このようなアルコール溶媒としては、例えば1価の直鎖型アルコールとしてはメタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、tert―ブチルアルコール、1-ペンタノール、2-ペンタノール、3-ペンタノール、2-メチルー1―ブタノール、イソペンチルアルコール、tert―ペンチルアルコール、3-メチルー2―ブタノール、ネオペンチルアルコール等が挙げられる。また、多価のアルコールとしては1,2-エタンジオール、1,2―プロパンジオール、1,3―プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,5―ペンタンジオール、2-ブテンー1,4―ジオール、2-メチルー2,4―ペンタンジオール、2-エチルー1,3―ヘキサンジオール、グリセロール、2-エチルー2-(ヒドロキシメチル)―1,3-プロパンジオール、1,2,6-ヘキサントリオール、グリセロール等が挙げられる。
なお、水酸基とともにエーテル結合を有する有機溶媒は、本発明ではアルコール溶媒ではなく、エーテル溶媒に包含されるものとする。
【0033】
前記ケトン溶媒としては、分子内に少なくとも1つのケトン基を持つ化合物で、上記の水溶性を示す化合物を好適に用いることができる。このようなケトン溶媒としては、例えばアセトン、メチルエチルケトン、2-ペンタノン、3-ペンタノン、アセトニルアセトン、アセチルアセトン等が挙げられる。
なお、ケトン基を有していても、上記のエーテル溶媒やアルコール溶媒にも該当するものは、本発明ではケトン溶媒には包含されないものとする。
【0034】
前記エステル溶媒としては、分子内に少なくとも1つのエステル結合を持つ化合物で、上記の水溶性を示す化合物を好適に用いることができる。このようなエステル溶媒としては、例えばギ酸メチル、ギ酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、3―メトキシブチルアセタート、γ―ブチロラクトン、エチレングリコールモノアセテート、二酢酸エチレン、モノアセチレン、エチレングリコールモノアセテート、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、低分子ポリエステル等が挙げられる。
なお、エステル結合を有していても、上記のエーテル溶媒、アルコール溶媒又はケトン溶媒にも該当するものは、本発明ではエステル溶媒には包含されないものとする。
【0035】
前記含窒素溶媒としては、分子内に少なくとも1つの窒素原子を含んでいる化合物で、上記の水溶性を示す化合物を好適に用いることができる。このような含窒素溶媒としては、例えばN-メチルピロリドン、ε-カプロラクタム、2-ピロリドン、N-N-ジメチルアセトアミド、N-N-ジエチルホルムアミド、N-メチルホルムアミド、N-メチルアセトアミド、アセトアミド、アセトニトリリル、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチレンジアミン、ヒドラジン等が挙げられる。
なお、窒素原子を有していても、上記のエーテル溶媒、アルコール溶媒、ケトン溶媒又はエステル溶媒にも該当するものは、本発明では含窒素溶媒には包含されないものとする。
【0036】
本発明で用いることができる有機溶媒としては、複数の官能基を有する化合物からなる有機溶媒(例えば、上記に例示した官能基を2種類以上有する化合物からなる有機溶媒)も好適に用いることができる。このような有機溶媒としては、例えば2-メトキシエタノール、2-エトキシエタノール、2-(メトキシ)エタノール、2-イソプロポキシエタノール、2-ブトキシエタノール、フルフリルアルコール、テトラヒドロフルフリルアルコール、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコール、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、ポリエチレングリコール、1-メトキシー2-プロパノール、1-エトキシー2-プロパノール、ポリプロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジアセトンアルコール等が挙げられる。これらの有機溶媒は、上記の説明に従って、各有機溶媒種にカテゴライズされる。
【0037】
<水>
本発明のスラリーを構成する極性媒体は水を含む。アンモニア源としてアンモニア水を用いた場合には、アンモニア水中の水は、スラリー中の水を構成する。また、スラリー中の水はアンモニア水以外に別途混合した水を含んでいてもよい。
使用する水には特に制限はないが、蒸留水、イオン交換水等の水中のイオン成分を除去したものが好ましい。イオン除去度合としては、水のイオン伝導度が10μS/m以下が好ましく、5μS/m以下がより好ましく、2μS/m以下が更に好ましい。
【0038】
本発明のスラリーを構成する極性媒体に占める水の割合(含有量:質量%)は、多価金属固定型スメクタイトの分散性向上の観点から、90質量%以下であることが好ましく、80質量%以下であることがより好ましく、75質量%以下とすることも好ましく、70質量%以下としてもよい。また、同様の観点から、本発明のスラリーを構成する極性媒体に占める水の割合は、4質量%以上が好ましく、7質量%以上がより好ましく、10質量%以上がさらに好ましく、15質量%以上がさらに好ましい。
【0039】
本発明のスラリーを構成する極性媒体に占める、水と有機溶媒の各含有量の合計の割合は、50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましく、90質量%以上がさらに好ましく、95質量%以上とすることも好ましい。前記極性媒体のうち、アンモニアを除いた残部のすべてが水と有機溶媒で構成されていることも好ましい。
【0040】
アンモニアと水と有機溶媒を含む極性媒体を用いて、これに多価金属固定型スメクタイトを混合して、後述するように、35~100℃の加熱処理に付して多価金属固定型スメクタイトに当該極性媒体を作用させることにより、水の存在下で有機溶媒がアンモニアと連鎖的に多価金属固定型スメクタイトに作用するなどして、スラリー中における多価金属固定型スメクタイトを十分に微細化できる。
【0041】
<その他の成分>
本発明のスラリーを構成する極性媒体は、アンモニア、有機溶媒及び水に加え、本発明の効果を損なわない範囲でさらに各種成分を含有することができる。多価金属固定型スメクタイトの分散性向上を考慮すれば、例えば、特開2015-147300号公報に記載されるホルムアミド基を有する極性有機溶媒や、特開2018-83728号公報に記載されるアセトニトリルやメチルエチルケトンを含有することができる。
本発明のスラリーの用途によるが、例えば生体安全性の観点からは、本発明のスラリーを構成する極性媒体は、ホルムアミド基を有する極性有機溶媒、アセトニトリル及びメチルエチルケトンのいずれも含まないことが好ましい。
【0042】
また、本発明のスラリーは、本発明の効果を実質的に損なわない範囲で、さらにシランカップリング剤、架橋剤、有機高分子、非膨潤性ケイ酸塩化合物、シリカ、界面活性剤、無機ナノ粒子等を含んでいてもよい。
【0043】
本発明のスラリーは粘土濃度が高濃度であれば目的の濃度に希釈して用いることができる。
【0044】
[スメクタイトスラリーの製造方法]
続いて本発明のスラリーの製造方法について説明する。
本発明のスラリーは、スラリーを構成する各成分(原料)を混合し、35~100℃の加熱処理に付すことにより得ることができる。すなわち、上記加熱処理を経ることにより、極性媒体中の有機溶媒とアンモニアが、水の存在下で多価金属固定型スメクタイトに作用してその層間に高効率に侵入し、多価金属固定型スメクタイトがより微粒化した状態で安定的に分散してなるスラリーが得られる。すなわち、本発明のスラリーを得るには、現状では、この加熱処理は必須の工程である。
【0045】
各原料の混合方法(加熱処理前の混合方法)は特に制限されるものではなく、各原料を同時にあるいは任意の順序で混合することができる。また、混合に際しては、一般的な羽根つき撹拌機、ホモミキサー、万能混合機、自転公転ミキサー、アイリッヒミキサーなどを用いることができる。なかでも、スメクタイト濃度が20質量%を超えるような場合でも効率的に混合することができる万能混合機、自転公転ミキサーを好適に用いることができる。各原料を混合する温度は40℃未満が好ましく、30℃未満とすることが好ましい。
【0046】
上記の各原料の混合後の35~100℃の加熱処理は、35~100℃の温度に加熱する処理であれば特に制限はない。多価金属固定型スメクタイトの分散性、ハンドリング性の両面から、加熱処理温度は40~90℃がより好ましく、50~90℃がより好ましく、55~85℃がさらに好ましく、60~85℃がさらに好ましい。
また、35~100℃の加熱処理の時間は、多価金属固定型スメクタイトを目的の粒子径へと微細化できれば特に制限はなく、加熱温度等に応じて適宜に設定される。加熱処理時間は、通常は2時間以上であり、4時間以上がより好ましく、6時間以上がさらに好ましい。加熱処理時間が長い方が、多価金属固定型スメクタイトをより微粒化できる傾向にあり、例えば加熱処理温度が35~50℃の比較的低温であっても、加熱処理時間を10時間以上、好ましくは15時間以上、さらに好ましくは20時間以上、さらに好ましくは24時間以上とすることにより、多価金属固定型スメクタイトの目的の微粒化をより確実に達成することができる。また、加熱処理時間の上限に特に制限はなく、通常は50時間以下であり、30時間以下であっても十分な分散性を実現することができる。また、オートクレーブ等を用いて高温高圧処理を施すことにより、加熱処理時間を短縮できる傾向にある。また、オートクレーブ等の高温、高圧容器を用いない場合には、スラリーが含有する有機溶媒及び、水の沸点以下に加熱温度を設定しても良い。
35~100℃の加熱処理時間は、通常は2~50時間であり、4~40時間が好ましく、6~30時間とすることも好ましく、10~30時間とすることも好ましい。
この加熱処理は静止状態で行ってもよく、撹拌しながら行ってもよい。
【0047】
上記加熱処理により、得られる本発明のスラリー中において、多価金属固定型スメクタイトを粒子径が20μm以下の微細な粒子(分散質)として分散媒中に安定に分散させることができる。スラリー中の多価金属固定型スメクタイトの好ましい粒子径の説明は上述した通りである。
【0048】
本発明のスラリーは、これを基板上に成膜し、所望のレベルまで乾燥させるだけで、耐水性に優れた粘土膜を形成することができる。すなわち、本発明のスラリーは、水分と接触しても吸水しにくく、耐久性の高い粘土膜の形成に好適に用いることができる。
本発明のスラリーを用いて調製した粘土膜は、例えば、包装フィルム、電子基盤、難燃フィルム、水蒸気バリアフィルム、絶縁フィルム、コートフィルム等として用いることができる。
【実施例
【0049】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0050】
<多価金属型スメクタイトの調製>
原料とする多価金属型スメクタイトを、天然Na型モンモリロナイト(商品名:クニピアF、クニミネ工業社製)のイオン交換処理によって得た。得られた各陽イオンを持つ多価金属型スメクタイトを、浸出陽イオン分析に付し、交換性陽イオン組成を調べた。より詳細には、層間に存在する陽イオンの浸出を1M酢酸アンモニウム、あるいは1M硫酸(Al型モンモリロナイトのみ)を用いて4時間かけて行い、その浸出液を、4100MP-AES分光分析装置(AgilentTechnologies社製)により分析し、交換性陽イオン組成を調べた。
また、同じく、得られた多価金属型スメクタイトを陽イオン交換容量測定試験に付し、CECを測定した。測定は日本ベントナイト工業会標準試験方法JBAS-106-77に記載の方法により行なった。より詳細には、層間に存在する陽イオンを1M酢酸アンモニウムで完全にアンモニウムイオンへ交換した後、再び該アンモニウムイオンをKCl(塩化カリウム)溶液由来のカリウムイオンで追い出し、その量をアンモニウム電極により定量する方法により測定し、CECを定量した。
結果を下記表1に示す。
【0051】
【表1】
【0052】
<多価金属固定型スメクタイトの調製>
上記の方法で得た多価金属型スメクタイト各100gを電気炉(マッフル炉、FO410、ヤマト科学社製)に入れ、昇温速度10℃/分で昇温し、それぞれ表2に記載の焼成温度に到達させたのち、同温度で24時間保持して加熱処理を行った。その後、放冷し50℃以下で焼成サンプルを回収することにより、多価金属固定型スメクタイトを得た。
得られた多価金属固定型スメクタイトのCECを、前記のCEC測定方法に従って定量した。結果を下記表2に示す。
【0053】
[スラリーの調製]
<実施例1>
蒸留水38.0g、28%アンモニア水(関東化学社製)2.0g、Mg固定型モンモリロナイト(CEC:35meq/100g)20g、アセトン(関東化学社製)40.0gをビーカーに入れ、攪拌機(商品名:TORNAD PM-201、AS ONE社製)を用いて回転数700rpmとして、25℃で1時間撹拌した。得られた混合物をガラス容器(KIMAX(登録商標)耐熱広口びん100ml、KIMBLE社製)へ入れ、送風定温恒音器(商品名:DKM400、ヤマト科学社製)にて50℃で24時間加熱処理を施した。こうして実施例1の多価金属固定型スメクタイトスラリーを得た。
実施例1のスメクタイトスラリーにおいて、Mg固定型モンモリロナイト1g当たりのアンモニアの配合量は1.65mmolであった(後述の各実施例及びアンモニア未添加以外の各比較例も同様)。
【0054】
以下、実施例2~9及び比較例1~9のスメクタイトスラリーを、下記の方法により得た。なお、使用した有機溶媒はいずれも関東化学社製の試薬を用いた。
<実施例2~9>
多価金属固定型スメクタイト及び有機溶媒の種類、各主成分の配合量、並びに加熱温度を下記表2に記載の条件に変更した以外は、実施例1と同様にして各種多価金属固定型スメクタイトスラリーを得た。
【0055】
<比較例1、8>
多価金属固定型スメクタイトスラリーの作製の際に有機溶媒を用いず、実施例1及び8で用いた有機溶媒と同量の蒸留水をさらに加えることでスラリー中のスメクタイトの含有量を同じにした以外は、実施例1及び8と同様にして、多価金属固定型スメクタイトを得た。
【0056】
<比較例2、5、7>
多価金属固定型スメクタイトスラリーの作製の際に蒸留水を用いず、実施例2、5及び7で用いた蒸留水と同量の有機溶媒をさらに加えることでスラリー中のスメクタイトの含有量を同じにした以外は、実施例2、5及び7と同様にして、多価金属固定型スメクタイトを得た。
【0057】
<比較例3、9>
多価金属固定型スメクタイトスラリーの作製の際に加温処理を行わずに、室温25℃で24時間放置後に評価を行った以外は、実施例3及び9と同様にして、多価金属固定スメクタイトを得た。
【0058】
<比較例4、6>
多価金属固定スメクタイトスラリーの作製の際にアンモニア水を用いず、実施例4及び6で用いたアンモニア水と同量の水をさらに加えることでスラリー中のスメクタイトの含有量を同じにした以外は、実施例4及び6と同様の方法で、多価金属固定スメクタイトを得た。
【0059】
[試験例1] 多価金属固定型スメクタイト(分散質)の粒子径
実施例1~9及び比較例1~9のスラリーを水で固形分2質量%になるまで希釈し、湿式粒度測定により多価金属固定型スメクタイトのメディアン径を測定した。このメディアン径は体積基準である。メディアン径の測定にはレーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置(LA-950V2、HORIBA社製)を使用した。結果を下記表2に示す。
【0060】
[試験例2] 分散安定性
得られた実施例1~9及び比較例1~9のスラリーを、ガラス容器に入った状態で、25℃で24時間静置した。この24時間静置後の多価金属固定型スメクタイトの分散状態を目視で観察し、分散安定性を下記評価基準により評価した。結果を下記表2に示す。

-分散安定性の評価基準-
○:層分離が生じておらず、安定した分散状態にある。
×:層分離が生じ、沈殿が認められる。
【0061】
【表2】
【0062】
上記表2に示される通り、極性媒体が有機溶媒を含まない場合には、スラリーを加熱しても、分散質である多価金属固定型スメクタイトの粒子径を所望の小粒径(20μm以下)とすることができず、分散安定性にも劣る結果となった(比較例1、8)。また、極性媒体が有機溶媒を含む場合でも、水を配合しない場合には比較例1及び8と同様に粒子径を所望の小粒径とすることができず、分散安定性にも劣る結果となった(比較例2、5、7)。また、極性媒体が水と有機溶媒を含む場合でも、アンモニアを含まない場合には、上記比較例と同様に、粒子径を所望の小粒径とすることができず、分散安定性にも劣る結果となった(比較例4及び6)。さらに、極性媒体が水、有機溶媒及びアンモニアを含有していても、加温処理を行わなかった場合には、粒子径が大きく、分散安定性に劣る結果となった(比較例3及び9)。
これに対し、極性媒体に、水とともに有機溶媒とアンモニア水とを組み合わせて配合し、スラリーを加熱処理に付すことにより、分散質である多価金属固定型スメクタイトの粒子径を所望の小粒径とすることができ、かつ分散安定性にも優れたスラリーが得られた(実施例1~9)。