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特許7627048次亜塩素酸水溶液の調製方法及び弱酸性陽イオン交換体の再生処理方法
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  • 特許-次亜塩素酸水溶液の調製方法及び弱酸性陽イオン交換体の再生処理方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-28
(45)【発行日】2025-02-05
(54)【発明の名称】次亜塩素酸水溶液の調製方法及び弱酸性陽イオン交換体の再生処理方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 11/04 20060101AFI20250129BHJP
   B01J 49/53 20170101ALI20250129BHJP
   B01J 49/57 20170101ALI20250129BHJP
   B01J 39/07 20170101ALI20250129BHJP
【FI】
C01B11/04
B01J49/53
B01J49/57
B01J39/07
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021555124
(86)(22)【出願日】2020-11-06
(86)【国際出願番号】 JP2020041552
(87)【国際公開番号】W WO2021090916
(87)【国際公開日】2021-05-14
【審査請求日】2023-11-06
(31)【優先権主張番号】P 2019203478
(32)【優先日】2019-11-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】514073352
【氏名又は名称】株式会社Local Power
(74)【代理人】
【識別番号】110004163
【氏名又は名称】弁理士法人みなとみらい特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100137338
【弁理士】
【氏名又は名称】辻田 朋子
(74)【代理人】
【識別番号】100196313
【弁理士】
【氏名又は名称】村松 大輔
(72)【発明者】
【氏名】寺田 稔
【審査官】廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-001620(JP,A)
【文献】国際公開第2018/146002(WO,A1)
【文献】特開平10-216535(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 11/04
B01J 49/53
B01J 49/57
B01J 39/07
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
次亜塩素酸塩の水溶液を弱酸性陽イオン交換体に接触させて前記次亜塩素酸塩を構成する陽イオンと水素イオンとを交換し前記水溶液中の次亜塩素酸濃度を上昇させる次亜塩素酸水溶液の調製方法において、
前記次亜塩素酸塩の水溶液と弱酸性陽イオン交換体との接触を行った際にpH3.5以上の前記次亜塩素酸水溶液が得られる量の強酸と強塩基の中性塩溶液を、再生された、又は実質的に陽イオンの交換に供されていない弱酸性陽イオン交換体に前記次亜塩素酸塩水溶液と弱酸性陽イオン交換体との接触に先立って接触させることを特徴とする次亜塩素酸水溶液の調製方法。
【請求項2】
後記被処理溶液よりも低い所定pH域にて目的物性を喪失する物質と陽イオンとを含む被処理溶液から前記陽イオンの除去を行う弱酸性陽イオン交換体の再生処理方法であって、
陽イオンの交換に供された弱酸性陽イオン交換体に酸液を接触させて交換基にトラップされた前記陽イオンを遊離し除去する交換能回復処理工程と、
前記被処理溶液の陽イオンの交換に供した際に前記所定pH域よりも高く前記物質が前記目的物性を呈するpHの処理済溶液が得られる量の強酸と強塩基の中性塩溶液を前記交換能回復処理工程を経た弱酸性陽イオン交換体に接触させる中性塩溶液接触工程と、を有することを特徴とする再生処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、次亜塩素酸水溶液の調製方法及び弱酸性陽イオン交換体の再生処理方法に関する。より具体的には、弱酸性陽イオン交換体を使用して次亜塩素酸水溶液を調製する方法や、同様の用途に供される弱酸性陽イオン交換体の再生処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、次亜塩素酸が有する殺菌作用は、例えば水道水の殺菌や食品製造機器類の殺菌など多種多様な分野において広く利用されている。
【0003】
この次亜塩素酸の殺菌作用は、次亜塩素酸ナトリウム(NaClO)などの次亜塩素酸塩を水に溶かした際に生成する次亜塩素酸イオン(ClO-)であったり、酸の反応により次亜塩素酸イオン(ClO-)と水素イオン(H+)が結合して生成される分子状の次亜塩素酸(HClO)によって発揮される。
【0004】
次亜塩素酸を殺菌目的で使用する場合、非解離の分子状の次亜塩素酸、すなわちHClOの状態が最も殺菌効果が高いことが一般に知られている。また、次亜塩素酸塩を水やその他水性溶媒に溶かすことで調製される次亜塩素酸塩溶液は、その溶液のpHにより、殺菌効果が著しく変動することが知られている。
【0005】
次亜塩素酸は、アルカリ性のpHでは次亜塩素酸イオンとして存在し、殺菌効果は低い。一方、pHが3.5を下回るような強い酸性のpHでも、殺菌効果は低く、また塩素ガスが発生することとなる。
【0006】
次亜塩素酸は、pHがおよそ3.5~6.5のときに、非解離の分子状での存在率が高いものと考えられている。
【0007】
一方、次亜塩素酸ナトリウム水溶液は、アルカリ性を呈する溶液である。この次亜塩素酸ナトリウム水溶液は、例えば殺菌水として一般に使用される濃度である50~100ppmまで希釈しても、pHは、8.5~9.5程度までしか下がらない。次亜塩素酸を殺菌目的で使用する場合は、より高い殺菌効果を呈するpH、すなわちpHを下げるのが望ましい。
【0008】
次亜塩素酸ナトリウム水溶液のpHを下げる方法としては、例えば、電解法および二液法などが挙げられる。しかしながら電解法は、電解槽を備えた装置を必要とするためメンテナンス費用などが高価であり、また電極も使用に伴って劣化することから部品交換などのコストもかかる。また、電解法では、低濃度の次亜塩素酸しか製造することができないという問題も挙げられる。
【0009】
一方、二液法は、次亜塩素酸ナトリウム水溶液に塩酸などの酸液を混合することでpHを酸性側に調整する方法である。しかし、この二液法は、pHの調整に塩酸などの酸液を使用することから安全上の大きな問題がある。
【0010】
すなわち、酸液を次亜塩素酸ナトリウムと混合すると塩素ガスが発生し、作業を行う上で危険が伴うこととなる。
【0011】
この点、次亜塩素酸ナトリウム水溶液のpHを下げるために、酸液を使用せずイオン交換樹脂を使用して行う方法がこれまでに幾つか提案されている。
【0012】
中でも本発明者らは、塩素ガスが発生するpH以上で緩衝作用を持つ弱酸性イオン交換体を使用することにより、塩酸などの酸を使用せず、かつ塩素ガスを発生するような値までpHを低下させることなく、次亜塩素酸水溶液を製造する方法を見出し、過去に提案している。
【0013】
この方法は特に、次亜塩素酸塩溶液を、塩素ガスが発生するpHよりも高いpHで緩衝作用を持つ弱酸性イオン交換体で処理する工程を含むことで、塩素ガスを実質的に発生させずにpH3.5~7程度の弱酸性次亜塩素酸水溶液を極めて安全に得ることが可能である(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】特開2014-043392号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
ところで、弱酸性陽イオン交換樹脂は、カルボン酸基(-COOH)を交換基として持つ樹脂であり、酢酸等と同様に弱酸性を示す。このため、弱酸性陽イオン交換樹脂は、NaOHなどの塩基およびNaHCO3などの弱酸の塩を交換することができる。
【0016】
また、弱酸性陽イオン交換樹脂の交換基であるカルボン酸基(-COOH)は、酸性中では解離しない。したがって、弱酸性陽イオン交換樹脂は、理論上は強酸と強塩基の塩であるNaClおよびNa2SO4などの中性塩を分解することはできないが、NaOH等の塩基やNaHCO3のような弱酸の塩を交換することができる。
【0017】
また、イオン交換樹脂は、その交換基の酸性度に応じて、理論上pH約3.5~5以上においてイオン交換能を有する。このため、イオン交換樹脂は、イオン交換後の溶液が理論上このpH約3.5~5以下になることはない。
【0018】
しかし、今般本発明者らは、弱酸性陽イオン交換樹脂が、イオン交換の開始時にあたかも強酸性陽イオン交換樹脂のような性質を示す場合があることを見出した。
【0019】
具体的に説明すると、先述の如く本来であれば、理論上、次亜塩素酸ナトリウム溶液を弱酸性陽イオン交換樹脂で処理すると、pH約3.5~5以上の次亜塩素酸溶液が生成し、そのpHが3以下となることはあり得ない。
【0020】
しかし実際には、次亜塩素酸ナトリウム溶液を弱酸性陽イオン交換樹脂で処理すると、その反応の初期段階、特にイオン交換樹脂の再生直後であったり、又は、実質的に陽イオンの交換に供されていない新品の使い始めにおいて、次亜塩素酸ナトリウム溶液との反応によりpH2以下の処理済溶液が生成されることを見出した。なお以下の説明においてこの現象を反応初期pH低下現象と称する。
【0021】
このことは、次亜塩素酸溶液がpH2以下にまで低下して塩素ガスが発生するおそれがあることを意味しており、弱酸性陽イオン交換樹脂との反応の初期という限られた段階ではあるが、塩素ガスを実質的に発生させずにpH3.5~7程度の弱酸性次亜塩素酸水溶液を得ることができないため、これを解決する方法が求められていた。
【0022】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであって、再生直後や新品の弱酸性陽イオン交換樹脂であっても、塩素ガスを実質的に発生させずにpH3.5~7程度の弱酸性次亜塩素酸水溶液を得ることのできる次亜塩素酸水溶液の調製方法を提供する。
【0023】
また、次亜塩素酸やその塩に拘わらず、溶液中に含まれるある物質が有する物性が、弱酸性陽イオン交換体の反応初期pH低下現象によって失われてしまう場合において、前記物性を保持すべく当該現象を可及的抑制可能な弱酸性陽イオン交換体の再生処理方法があれば望ましい。
【0024】
そこで本発明では、弱酸性陽イオン交換体の反応初期pH低下現象を可及的抑制可能な弱酸性陽イオン交換体の再生処理方法についても提供する。
【課題を解決するための手段】
【0025】
上記従来の課題を解決するために、本発明に係る次亜塩素酸水溶液の調製方法では、(1)次亜塩素酸塩の水溶液を弱酸性陽イオン交換体に接触させて前記次亜塩素酸塩を構成する陽イオンと水素イオンとを交換し前記水溶液中の次亜塩素酸濃度を上昇させる次亜塩素酸水溶液の調製方法において、前記次亜塩素酸塩の水溶液と弱酸性陽イオン交換体との接触を行った際にpH3.5以上の前記次亜塩素酸水溶液が得られる量の強酸と強塩基の中性塩溶液を、再生された、又は実質的に陽イオンの交換に供されていない弱酸性陽イオン交換体に前記次亜塩素酸塩水溶液と弱酸性陽イオン交換体との接触に先立って接触させることとした。
【0026】
また、本発明に係る弱酸性陽イオン交換体の再生処理方法では、(2)後記被処理溶液よりも低い所定pH域にて目的物性を喪失する物質と陽イオンとを含む被処理溶液から前記陽イオンの除去を行う弱酸性陽イオン交換体の再生処理方法であって、陽イオンの交換に供された弱酸性陽イオン交換体に酸液を接触させて交換基にトラップされた前記陽イオンを遊離し除去する交換能回復処理工程と、前記被処理溶液の陽イオンの交換に供した際に前記所定pH域よりも高く前記物質が前記目的物性を呈するpHの処理済溶液が得られる量の強酸と強塩基の中性塩溶液を前記交換能回復処理工程を経た弱酸性陽イオン交換体に接触させる中性塩溶液接触工程と、を有することとした。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係る次亜塩素酸水溶液の調製方法によれば、次亜塩素酸塩の水溶液を弱酸性陽イオン交換体に接触させて前記次亜塩素酸塩を構成する陽イオンと水素イオンとを交換し前記水溶液中の次亜塩素酸濃度を上昇させる次亜塩素酸水溶液の調製方法において、前記次亜塩素酸塩の水溶液と弱酸性陽イオン交換体との接触を行った際にpH3.5以上の前記次亜塩素酸水溶液が得られる量の強酸と強塩基の中性塩溶液を、再生された、又は実質的に陽イオンの交換に供されていない弱酸性陽イオン交換体に前記次亜塩素酸塩水溶液と弱酸性陽イオン交換体との接触に先立って接触させることとしたため、再生直後や新品の弱酸性陽イオン交換樹脂であっても、塩素ガスを実質的に発生させずにpH3.5~7程度の弱酸性次亜塩素酸水溶液を得ることのできる次亜塩素酸水溶液の調製方法を提供することができる。
【0028】
また、本発明に係る弱酸性陽イオン交換体の再生処理方法によれば、後記被処理溶液よりも低い所定pH域にて目的物性を喪失する物質と陽イオンとを含む被処理溶液から前記陽イオンの除去を行う弱酸性陽イオン交換体の再生処理方法であって、陽イオンの交換に供された弱酸性陽イオン交換体に酸液を接触させて交換基にトラップされた前記陽イオンを遊離し除去する交換能回復処理工程と、前記被処理溶液の陽イオンの交換に供した際に前記所定pH域よりも高く前記物質が前記目的物性を呈するpHの処理済溶液が得られる量の強酸と強塩基の中性塩溶液を前記交換能回復処理工程を経た弱酸性陽イオン交換体に接触させる中性塩溶液接触工程と、を有することとしたため、弱酸性陽イオン交換体の反応初期pH低下現象を可及的抑制可能な弱酸性陽イオン交換体の再生処理方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】pH確認試験の結果を示す説明図である。
図2】pH確認試験の結果を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明は、次亜塩素酸塩の水溶液を弱酸性陽イオン交換体に接触させて前記次亜塩素酸塩を構成する陽イオンと水素イオンとを交換し前記水溶液中の次亜塩素酸濃度を上昇させる次亜塩素酸水溶液の調製方法において、再生直後や新品の弱酸性陽イオン交換樹脂であっても、塩素ガスを実質的に発生させずにpH3.5~7程度の弱酸性次亜塩素酸水溶液を得ることのできる次亜塩素酸水溶液の調製方法を提供するものである。
【0031】
次亜塩素酸塩の水溶液とは、当業者に一般的に認識されるとおり、次亜塩素酸ナトリウム(NaClO)、次亜塩素酸カリウム(KClO)および次亜塩素酸カルシウム(Ca(ClO)2)などの任意の次亜塩素酸の塩を水系溶媒中に含有させた溶液をいう。
【0032】
次亜塩素酸塩は、市販の材料および当業者に周知の方法によって製造された材料を使用することができる。また、溶液は、水や後述の任意の添加物など所定成分を含んだ水溶液をはじめ、その他任意の溶液中のものであることができる。また、緩衝液中の溶液であることもできる。さらに、次亜塩素酸塩溶液には、任意の添加物を含むことができる。たとえば、次亜塩素酸塩溶液には、炭酸水素ナトリウムおよび乳酸カルシウムなどの任意の弱酸塩を含むことができる。
【0033】
このような添加物を含むことにより、次亜塩素酸塩溶液をより殺菌活性の高いpHに調整することができる。
【0034】
次亜塩素酸塩は、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カリウムまたは次亜塩素酸カルシウムのいずれかであることができる。次亜塩素酸塩は、単一種であってもよく、複数種の混合物であってもよい。さらに、次亜塩素酸塩溶液は、単独で次亜塩素酸塩溶液を用いてもよいし、次亜塩素酸塩の種類、添加物の有無および種類、並びにこれらの濃度などが異なる次亜塩素酸塩溶液を混合してもよい。
【0035】
本発明の方法において、次亜塩素酸塩溶液は、任意の濃度の溶液を使用することができる。たとえば、市販されている12%次亜塩素酸ナトリウム溶液を希釈して、1~120000ppm以上の濃度、たとえば10、100、200、500、1000、10000および120000ppmで使用することができる。
【0036】
たとえば、次亜塩素酸塩溶液は、500ppm以上であることができる。本発明の方法によれば、10000ppmといった従来の方法では製造することができない濃度の次亜塩素酸を製造することができる。また、殺菌目的で実際に使用される濃度である50~1000ppmの濃度の次亜塩素酸を直接製造することもできる。
【0037】
また、次亜塩素酸塩溶液は、本発明の製造方法を実施する際に調製することもできる。
次亜塩素酸ナトリウムのように溶液として製造される塩だけでなく、固体の塩を使用することもできる。たとえば、次亜塩素酸カルシウムなどの固体を水に添加することにより、次亜塩素酸塩溶液を調製することができる。
【0038】
弱酸性陽イオン交換体は、理論上、約pH3.5以上、例えば4~7以上においてイオン交換することができる弱酸性陽イオン交換体を使用する。弱酸性陽イオン交換体は、たとえばカルボン酸基(-COOH)を交換基として持つイオン交換体とすることができる。
【0039】
また、弱酸性陽イオン交換体は、NaOHなどの塩基のイオン交換をすることができる。本発明の方法において、弱酸性陽イオン交換体は、当業者に公知の任意の弱酸性陽イオン交換体を使用することができる。
【0040】
弱酸性イオン交換体は、メタクリル酸系弱酸性陽イオン交換樹脂およびアクリル酸系弱酸性陽イオン交換樹脂などの弱酸性陽イオン交換樹脂であることができる。たとえば、アンバーライトIRC-76(オルガノ株式会社)およびアクリル系ダイヤイオン(登録商標)WK40L(三菱化学株式会社)などの当業者に公知の弱酸性陽イオン交換樹脂であることができる。また、弱酸性陽イオン交換樹脂の他にも、シリカゲル、セラミックおよび天然の鉱石など、イオン交換作用を有する任意の材料を弱酸性陽イオン交換体として使用することができる。
【0041】
また、弱酸性陽イオン交換体は、任意の量で使用することができる。本発明の方法は、弱酸性陽イオン交換体の量を調節することなく、過剰量を使用することができる。
【0042】
次亜塩素酸塩の水溶液と弱酸性陽イオン交換体との接触は、たとえば、弱酸性陽イオン交換体がカラム充填されている場合、次亜塩素酸塩の水溶液をカラムに通過させることにより接触させることができる。また、後述の弱酸性陽イオン交換体と中性塩溶液との接触と同様の方法によって接触させることも可能である。
【0043】
そして、次亜塩素酸塩の水溶液を弱酸性陽イオン交換体に接触させ、次亜塩素酸塩を構成する陽イオン、例えば次亜塩素酸塩として次亜塩素酸ナトリウムを採用した場合におけるナトリウムイオン(Na+)と水素イオンとを交換することで、その水溶液のpHに依存するが、水溶液中における次亜塩素酸の濃度が上昇することとなる。
【0044】
ここで本実施形態に係る次亜塩素酸水溶液の調製方法の特徴としては、前記次亜塩素酸塩の水溶液と弱酸性陽イオン交換体との接触を行った際にpH3.5以上の前記次亜塩素酸水溶液が得られる量の中性塩溶液を、再生された、又は実質的に陽イオンの交換に供されていない弱酸性陽イオン交換体に前記次亜塩素酸塩水溶液と弱酸性陽イオン交換体との接触に先立って接触させる点が挙げられる。
【0045】
ここで、中性塩溶液に含まれる中性塩は、強酸と強塩基の塩であって水溶性の塩である。このような中性塩は、たとえば食塩(NaCl)や硫酸ナトリウム(Na2SO4)、塩化カルシウム(CaCl2)などとすることができる。また中性塩は、複数の中性塩の混合物とすることもできる。中性塩溶液は、このような中性塩の水溶液として調製することが可能である。
【0046】
中性塩溶液を弱酸性陽イオン交換体と接触させる工程は、任意の方法で行うことができる。接触は、中性塩溶液が、弱酸性陽イオン交換体の交換基と中性塩溶液との物理的接触を可能にするような方法で、弱酸性陽イオン交換体に適用されることを意味する。
【0047】
従って、中性塩溶液を弱酸性陽イオン交換樹脂と接触させる工程は、たとえば、中性塩溶液を含む容器内に弱酸性陽イオン交換体を投入することによりバッチ法で処理しても良いし、弱酸性陽イオン交換体が充填されたカラムに中性塩溶液を通過することによって接触させることもできる。
【0048】
例えばカラムを用いた接触の場合、カラムの一方の端にポンプの流入口を接続し、カラムの他方の端にポンプの流出口を接続し、循環系に中性塩溶液を添加することによって中性塩溶液を弱酸性陽イオン交換体と接触させることができる。
【0049】
また、この中性塩溶液と弱酸性陽イオン交換体との接触は、たとえば弱酸性陽イオン交換体が充填されたカラムに中性塩溶液を通過させる場合、カラムを通過後の溶液のpHがpH5以上、pH4.5以上、pH4以上、pH3.5以上またはpH3以上となるまで中性塩溶液と接触させる。循環させる場合は、通過後の溶液のpHが低下しているため、通過後の溶液にNaOHなどの塩基を添加してpHを上昇させて再度中性塩溶液を生成させて再びカラムに循環させてもよい。
【0050】
またより好適な接触は、この中性塩溶液と弱酸性陽イオン交換体との接触工程を終え、その後次亜塩素酸塩の水溶液と弱酸性陽イオン交換体との接触を行った際に、得られる次亜塩素酸水溶液のpHが塩素ガスが発生するpHよりも高いpHとなるまで行われる。
【0051】
塩素ガスが発生するpHよりも高いpHとは、次亜塩素酸塩溶液のpHを低下させたときに、塩素ガスを実質的に発生しないpHの範囲である。また、本明細書において、弱酸性には、アルカリ性の次亜塩素酸塩溶液のpHを低下させたときに、塩素ガスを実質的に発生しないpHの範囲を含む。たとえば、弱酸性とは、弱酸性~中性の範囲、pHが約3.5~7.5の値の範囲、特に4.0~7.0の値の範囲であることをいう。
【0052】
塩素ガスを実質的に発生しないとは、生体にとって危険なレベルで塩素ガスを実質的に発生しないことや、次亜塩素酸塩溶液のpHを低下させたときに溶液から塩素の気泡が発生していることを実質的に確認することができないこと、または次亜塩素酸塩溶液のpHを低下させたときに塩素による漂白作用を実質的にないことをいい、目安の一つとしては、生成した次亜塩素酸水溶液をコップなどに入れ、直接においを嗅いだ場合であっても塩素独特の刺激臭が殆ど感じられない状態である。当該技術分野において、一般的にpH4.0であっても塩素ガスを実質的に発生せず、pH3.5程度までは塩素ガスをしないと考えられている。したがって、塩素ガスが発生するpHには、このようなpH未満のpHの範囲を含む。
【0053】
また、弱酸性陽イオン交換体に接触させる中性塩溶液は、その中性塩の濃度や塩の種類、接触の態様等によっても異なるが、得られる次亜塩素酸水溶液のpHが前述の塩素ガスが発生するpHよりも高いpHとなる量を接触させる。
【0054】
一例として接触は、弱酸性陽イオン交換体において、強酸性陽イオン交換樹脂のような性質をもつ一部の交換基のHと中性塩溶液の陽イオンを交換するために十分な量、時間および条件で行われる。適切な条件は、使用される弱酸性イオン交換体に依存し、当業者であれば容易に選択することができるであろう。
【0055】
たとえば、中性塩溶液を弱酸性陽イオン交換体と接触させる工程は、室温において実施することができる。また、中性塩溶液と弱酸性陽イオン交換体との接触は、たとえば10分以上、30分以上、1時間以上、2時間以上、3時間以上、5時間以上および24時間以上行われる。また、中性塩溶液の濃度は、たとえば1%以上、2%以上、3%以上、5%以上および10%以上であることができる。
【0056】
また、この中性塩溶液と接触させる弱酸性陽イオン交換体は、再生された、又は実質的に陽イオンの交換に供されていない弱酸性陽イオン交換体としている。
【0057】
イオン交換済みの弱酸性陽イオン交換体は、塩酸などの酸液で処理することによって再生することができる。たとえば、次亜塩素酸ナトリウムと接触させた弱酸性陽イオン交換体は、イオン交換されてR-COONa型を生成するが、塩酸によって交換基をR-COOH型に再生することができる。
【0058】
なお、弱酸性陽イオン交換体と次亜塩素酸ナトリウムを接触させることにより生成される塩酸を、イオン交換済みのR-COONa型の弱酸性陽イオン交換体と接触させることにより、塩酸のHを当該弱酸性陽イオン交換体に吸収させることもできる。
【0059】
また、弱酸性陽イオン交換体への中性塩溶液の接触は、次亜塩素酸塩水溶液と弱酸性陽イオン交換体との接触に先立って行われる。換言すれば、実質的な次亜塩素酸水の製造工程よりも前に予め弱酸性陽イオン交換体に前処理として施しておく。
【0060】
弱酸性陽イオン交換体に中性塩溶液を接触させる工程の後は、中性塩溶液および生成する強酸溶液を流すために、水などの溶液で洗浄することができる。たとえば、ポンプとカラムを接続して、食塩水を弱酸性陽イオン交換体が充填されたカラムにおいて循環させた後、水をカラムに流して残留する食塩水および生成する塩酸を押し出して洗浄することができる。
【0061】
このように処理された弱酸性陽イオン交換体は、たとえば弱酸性~中性の範囲、pHが約3.5~7.5の値の範囲、特に4.0~7.0の値の範囲でイオン交換能を持つ。
【0062】
したがって、弱酸性陽イオン交換樹脂で処理した後の溶液のpHは、弱酸性以上のpH、たとえばpH3.5以上となるため、塩素ガスを発生するおそれがなく、殺菌効果も高い。
【0063】
また、このような緩衝作用を持つイオン交換樹脂は、過剰な水素イオンを吸着する際に、吸着したナトリウムイオンやカルシウムイオンを放出しながら吸着するために、部分的にもpHが塩素ガスを発生するpH以下に下がることがない。そして、次亜塩素酸塩溶液と緩衝作用を持つイオン交換樹脂との反応において、pHを下げる効果は、このイオン交換樹脂が担っている。
【0064】
したがって、本発明に使用される弱酸性陽イオン交換樹脂は、次亜塩素酸塩溶液のpHを下げる際に、塩素ガスを発生するpH以下となる事が一時的にも部分的にもない。従来の次亜塩素酸の製造方法のように、塩酸など酸を使用して次亜塩素酸塩溶液のpHを下げる場合、塩素ガスを発生するpHの酸と次亜塩素酸塩溶液とを混合するため、混合過程において一時的または局所的に溶液のpHが塩素ガスを発生するpHにまで低下して塩素ガスを発生するものと考えられる。しかし、本発明のように弱酸性陽イオン交換樹脂を使用することにより、塩素ガスを発生することはない。
【0065】
また本願は、後記被処理溶液よりも低い所定pH域にて目的物性を喪失する物質と陽イオンとを含む被処理溶液から前記陽イオンの除去を行う弱酸性陽イオン交換体の再生処理方法であって、弱酸性陽イオン交換体の反応初期pH低下現象を可及的抑制可能な弱酸性陽イオン交換体の再生処理方法について提供するものでもある。なお、本実施形態に係る弱酸性陽イオン交換体の再生処理方法は、先述の次亜塩素酸水溶液の調製方法と概念が一部共通するものであり、重複する部分については説明を省略する場合がある。
【0066】
本実施形態に係る再生処理方法の特徴としては、陽イオンの交換に供された弱酸性陽イオン交換体に酸液を接触させて交換基にトラップされた前記陽イオンを遊離し除去する交換能回復処理工程と、前記被処理溶液の陽イオンの交換に供した際に前記所定pH域よりも高く前記物質が前記目的物性を呈するpHの処理済溶液が得られる量の強酸と強塩基の中性塩溶液を前記交換能回復処理工程を経た弱酸性陽イオン交換体に接触させる中性塩溶液接触工程と、を有する点が挙げられる。
【0067】
先に説明した次亜塩素酸水溶液の調製方法もであるが、特にこの弱酸性陽イオン交換体の再生処理方法に係る発明もまた、弱酸性陽イオン交換樹脂が、その反応の初期段階において、強酸性陽イオン交換樹脂のような性質をもつことを見いだし、このような性質をなくすための手段として、弱酸性陽イオン交換樹脂を強酸と強塩基の中性塩溶液で処理することによって弱酸性陽イオン交換樹脂が理論どおりの反応性を有するように調整できることを見いだしたことに基づく。
【0068】
すなわち出願人らは、R-COONa型のようにイオン交換された弱酸性陽イオン交換樹脂を、塩酸などの強酸によってR-COOH型に再生したものも、上記のように、その反応の初期段階において、強酸性陽イオン交換樹脂のような性質をもつことを見いだしており、本願発明の完成に至っている。
【0069】
中性塩は、理論上、強酸性陽イオン交換樹脂と接触させるとイオン交換されて酸を生じるが、弱酸性陽イオン交換樹脂と接触させてもイオン交換されることはない。しかし、本発明の方法では、弱酸性陽イオン交換樹脂と中性塩を接触させることにより、その反応の初期段階において、強酸性陽イオン交換樹脂のような性質をもつ部分と中性塩溶液の陽イオンとが交換される。弱酸性陽イオン交換樹脂は、複雑な立体構造を有する。このため、イオン交換基(-COOH)が局所的に高密度である箇所が存在すると考えられる。強酸性の性質は、このようにイオン交換基(-COOH)が高密度の箇所において生じると推測される。
【0070】
また、本発明の方法では、強酸性陽イオン交換樹脂のような性質をもつ部分と中性塩溶液の陽イオンとが交換された後は、理論どおり、弱酸性陽イオン交換樹脂と中性塩溶液の陽イオンとが交換されることはない。したがって、過剰量の中性塩溶液と弱酸性陽イオン交換樹脂を接触させても、弱酸性陽イオン交換樹脂の処理能力が減少することはない。
【0071】
本実施形態に係る弱酸性陽イオン交換体の再生処理方法は、所定の物質と陽イオンとを含む被処理溶液から陽イオンの除去を行う弱酸性陽イオン交換体に適用される再生処理方法である。
【0072】
ここで所定の物質は、この被処理溶液のpHよりも低い所定のpH域にて目的物性を喪失してしまうような物質である。このような物質の典型的な一例が先述の次亜塩素酸塩の水溶液を用いた次亜塩素酸水溶液の調製であり、この場合の所定の物質は次亜塩素酸や次亜塩素酸イオンであり、処理溶液のpHよりも低い所定のpH域、すなわち、pH3.5やpH3を下回るような低pH下において、次亜塩素酸が分解し目的物性としての次亜塩素酸に特徴的な強力な殺菌作用が失われてしまう。
【0073】
勿論、本実施形態に係る弱酸性陽イオン交換体の再生処理方法において物質は、次亜塩素酸等に限定されるものではなく、上述のケースの如く目的とする何らかの物性が失われてしまう状況に合致するような物質であれば適用可能である。
【0074】
交換能回復処理工程は、具体的には前述した弱酸性陽イオン交換体の再生処理と同様の手法によって実現することが可能である。
【0075】
中性塩溶液接触工程は、交換能回復処理工程を経た弱酸性陽イオン交換体に中性塩溶液を接触させる工程である。
【0076】
中性塩溶液は、先の説明と同様であり、所定pH域よりも高く前記物質が前記目的物性を呈するpHの処理済溶液が得られるよう、濃度、使用態様に応じた量が供される。
【0077】
所定pH域は、被処理溶液よりも低いpH域であって、所定の物質が目的物性を喪失するpH域である。中性塩溶液接触工程は、弱酸性陽イオン交換体のイオン交換するpH範囲が、先述した所定の物質が目的物性を呈することが可能で、所定pH域よりも高いpHになるまで調整を行う。
【0078】
なお、中性塩溶液接触工程の処理後の溶液は、イオン交換済みの弱酸性陽イオン交換体と接触させることとしてもよい。
【0079】
弱酸性陽イオン交換体と中性塩を接触させることにより、強酸性陽イオン交換樹脂のような性質をもつ部分と中性塩溶液の陽イオンとが交換され、強酸が生成する。たとえば、弱酸性陽イオン交換樹脂と食塩水を接触させると、強酸性陽イオン交換樹脂のような性質をもつ部分と食塩水のナトリウムイオンとが交換され、塩酸を生じる。生じた塩酸は、反応性が高く危険なため、適切に処理しなければならない。
【0080】
一方、イオン交換済みの弱酸性陽イオン交換体は、塩酸で処理することによって再生することができる。たとえば、次亜塩素酸ナトリウムと接触させた弱酸性陽イオン交換体は、イオン交換されてR-COONa型を生成するが、塩酸によってR-COOH型に再生することができる。
【0081】
したがって、弱酸性陽イオン交換体と次亜塩素酸ナトリウムを接触させることにより生成される塩酸を、イオン交換済みのR-COONa型の弱酸性陽イオン交換体と接触させることにより、塩酸のHを当該弱酸性陽イオン交換体に吸収させることができる。
【0082】
また、生成した強酸溶液をイオン交換済みの弱酸性陽イオン交換体と接触させると、単に強酸のHをイオン交換するだけでなく、他方ではイオン交換済みの弱酸性陽イオン交換体をR-COOH型に再生することにもなる。
【0083】
また先に、過剰量の弱酸性陽イオン交換樹脂を使用してもpHを一定に維持することが可能である旨述べたが、弱酸性陽イオン交換樹脂は、溶液中のカルシウムおよびマグネシウムなどのミネラル成分を吸着する性質も有するため、本実施形態に係る方法によって次亜塩素酸塩溶液のpHを低下させた後に、弱酸性陽イオン交換樹脂を除去せずに次亜塩素酸溶液中に残したままにすることで、装置内に発生するミネラル成分に由来する白化を防止することも可能である。
【0084】
一方、弱酸性陽イオン交換樹脂の各種イオンに対する吸着の強さは、一般に価数が高いイオン程選択性が大きくなるが、特にHイオンに対する選択性が非常に大きいのが特徴である。このため、Hイオンが他の陽イオンで交換された後、塩酸または硫酸水溶液などの薬剤を使用して容易にR-COOHの形に戻すことができる。このため、繰り返し使用する時の再生が容易であり、理論化学当量より僅かに多い程度の薬剤量で再生が可能となる。
【0085】
また、次亜塩素酸ナトリウムによる漂白力は、溶存塩素による塩素化反応によると考えられる。また、漂白力に寄与する要素は、溶存塩素>次亜塩素酸ナトリウム>次亜塩素酸の順序であると考えられる。本発明の方法によれば、溶存塩素を実質的に生成することなく次亜塩素酸を製造することができるため、漂白効果が少ない次亜塩素酸を得ることができる。また、上記の通り、溶存塩素が実質的に生成しないため、塩素化反応が生じない。
【0086】
溶存塩素が多い場合は、臭気も大変強いものとなるが、本発明の方法によれば、溶存塩素を実質的に生成することなく次亜塩素酸を製造することができるため、塩素による臭気も少ない。
【0087】
以下、本実施形態に係る次亜塩素酸水溶液の調製方法や弱酸性陽イオン交換体の再生処理方法に関し、試験結果等を参照しながら説明する。
【0088】
〔1.イオン交換ユニットの構築〕
所定の容器に弱酸性陽イオン交換樹脂を充填し、イオン交換ユニットの構築を行った。イオン交換ユニットは、容量を違えた大小2種を各4つ、計8つ作成した。
【0089】
容器には、イオン交換用ボンベを使用した。イオン交換用ボンベは、上部にネジ口開口を備えた有底筒状のボンベ本体と、入水口及び出水口を備え前記ネジ口開口に螺合させてボンベ内を密閉する蓋体とより構成された容器であり、入水口から被処理溶液を供給することで、ボンベ本体内に充填されたイオン交換樹脂と接触してイオン交換がなされ、処理済溶液が出水口より吐出するよう構成されている。
【0090】
また蓋体には、直管状の集水管が備えられている。この集水管は、螺合閉蓋した際に同蓋体からボンベ本体の底部近傍までボンベ内空の略中央に配される管であり、底部側端部には吐水と共にイオン交換樹脂が流出せぬようトラップが設けられ、蓋部側端部は前述の出水口に接続されている。従って、所定の供給圧で入水口からボンベ本体内空間の上部に至った被処理溶液は、イオン交換樹脂ベッドの上部より下方に向かって浸透し、イオン交換樹脂の間隙を縫って底部より集水管を通じて導出させることができるるため、イオン交換樹脂に十分に接触させた被処理溶液を処理済溶液として得ることが可能な構成となっている。
【0091】
弱酸性陽イオン交換樹脂は、三菱化学社製ダイアイオン弱酸性陽イオン交換樹脂アクリル系WK40Lを使用した。8本のイオン交換用ボンベに、水で膨潤させた弱酸性陽イオン交換樹脂をそれぞれ充填することでイオン交換ユニットを作成した。なお、作成したイオン交換ユニット8本のうち、4本は弱酸性陽イオン交換樹脂を10L充填したものとし、他の4本は弱酸性陽イオン交換樹脂を20L充填したものとした。
【0092】
〔2.再生されたイオン交換ユニットの作成〕
次に、新品の弱酸性陽イオン交換樹脂を使用したイオン交換ユニットとの比較を行うべく、再生された弱酸性陽イオン交換樹脂が充填されているイオン交換ユニットの作成を行った。
【0093】
まず、10L充填したイオン交換ユニット4本のうちの2本と、20L充填したイオン交換ユニット4本のうちの2本に対し、十分量の次亜塩素酸ナトリウム水溶液のイオン交換を行うことで、イオン交換能を一時的に低下させた。
【0094】
次に、イオン交換能が低下した4本のイオン交換ユニットに対し、所定濃度の塩酸を所定量供給通過させ、交換基にトラップされたナトリウムを遊離させて除去し交換能回復処理工程を行うことで、再生されたイオン交換ユニット(10Lのもの2本と、20Lのもの2本の計4本)の作成を行った。
【0095】
〔3.中性塩溶液接触処理〕
次に、中性塩溶液処理の有無による比較を行うべく、中性塩溶液処理に供されたイオン交換ユニットの作成を行った。
【0096】
具体的には、再生処理していない(新品の)弱酸性陽イオン交換樹脂が10L充填されたイオン交換ユニットと、再生処理に供された弱酸性陽イオン交換樹脂が10L充填されたイオン交換ユニットと、再生処理していない(新品の)弱酸性陽イオン交換樹脂が20L充填されたイオン交換ユニットと、再生処理に供された弱酸性陽イオン交換樹脂が20L充填されたイオン交換ユニットとの各1本づつ(計4本)に対し、それぞれ収容されている弱酸性陽イオン交換樹脂と略同量の10%塩化ナトリウム水溶液を通じることで中性塩溶液接触処理を行った。また、中性塩溶液接触処理後は、通水により塩化ナトリウムの除去を行った。
【0097】
そして、イオン交換ユニットに対するこれら一連の操作により、新品("N"ew)で中性塩溶液接触処理("S"alt)がされていない("n"ot applied)弱酸性陽イオン交換樹脂が10L充填されたイオン交換ユニット(以下、イオン交換ユニットNSn10Lともいう。)と、新品("N"ew)で中性塩溶液接触処理("S"alt)がされていない("n"ot applied)弱酸性陽イオン交換樹脂が20L充填されたイオン交換ユニット(以下、イオン交換ユニットNSn20Lともいう。)と、新品("N"ew)で中性塩溶液接触処理("S"alt)がされた("a"pplied)弱酸性陽イオン交換樹脂が10L充填されたイオン交換ユニット(以下、イオン交換ユニットNSa10Lともいう。)と、新品("N"ew)で中性塩溶液接触処理("S"alt)がされた("a"pplied)弱酸性陽イオン交換樹脂が20L充填されたイオン交換ユニット(以下、イオン交換ユニットNSa20Lともいう。)と、再生処理("R"egeneration)はなされたが中性塩溶液接触処理("S"alt)がされていない("n"ot applied)弱酸性陽イオン交換樹脂が10L充填されたイオン交換ユニット(以下、イオン交換ユニットRSn10Lともいう。)と、再生処理("R"egeneration)はなされたが中性塩溶液接触処理("S"alt)がされていない("n"ot applied)弱酸性陽イオン交換樹脂が20L充填されたイオン交換ユニット(以下、イオン交換ユニットRSn20Lともいう。)と、再生処理("R"egeneration)及び中性塩溶液接触処理("S"alt)がされた("a"pplied)弱酸性陽イオン交換樹脂が10L充填されたイオン交換ユニット(以下、イオン交換ユニットRSa10Lともいう。)と、再生処理("R"egeneration)及び中性塩溶液接触処理("S"alt)がされた("a"pplied)弱酸性陽イオン交換樹脂が20L充填されたイオン交換ユニット(以下、イオン交換ユニットRSa20Lともいう。)との8種類のイオン交換ユニットが次のpH確認試験に供すべく作成された。
【0098】
〔4.pH確認試験〕
次に、作成したイオン交換ユニットに次亜塩素酸塩水溶液を通じた際、pHがどのように変動するかについて確認試験を行った。
【0099】
具体的には、弱酸性陽イオン交換樹脂を10L充填したイオン交換ユニットNSn10L,NSa10L,RSn10L,RSa10Lに対しては200ppm次亜塩素酸ナトリウム水溶液を、20L充填したイオン交換ユニットNSn20L,NSa20L,RSn20L,RSa20Lに対しては250ppm次亜塩素酸ナトリウム水溶液を10L/minで流し、20L又は50L吐出毎に処理済溶液である次亜塩素酸水溶液のpHの測定を行った。
【0100】
(4-1.10L充填したイオン交換ユニット)
図1に、新品の弱酸性陽イオン交換樹脂が10L充填されたイオン交換ユニットであって、中性塩溶液接触工程を経ていないNSn10Lと、中性塩溶液接触工程を経たNSa10Lとを比較した結果を示す。
【0101】
図1に示すように、イオン交換ユニットNSn10Lは、吐出当初のpHが3.20と低く、40L吐出した時点でのpHは3.40であった。また、吐出当初の処理済溶液からは塩素による強い刺激臭が感じられ、40L吐出した時点の処理済溶液からも塩素による刺激臭が感じられた。
【0102】
その後、イオン交換ユニットNSn10Lからは、3.60(50L)、4.10(100L)、4.60(160L)、4.90(200L)の処理済溶液が吐出され、それぞれ塩素による刺激臭は感じられなくなった。また、その後440L吐出時点(pH5.10)までpHの大きな変動は見られず、塩素による刺激臭は感じられなかった。
【0103】
これに対し、中性塩溶液接触工程を経たイオン交換ユニットNSa10Lは、吐出当初よりpHが6.08であり、その後、5.92(50L)、5.93(100L)、5.92(160L)、5.91(200L)の処理済溶液が吐出された。また、いずれの処理済溶液からも塩素による刺激臭は感じられなかった。併せて、その後440L吐出時点(pH5.83)までpHの大きな変動は見られず、塩素による刺激臭も感じられなかった。また付言すれば、吐出された処理済溶液は、その吐出当初から440L吐出時点までpHの変動がpH6.08~5.83と極めて小さく、中性塩溶液接触工程を経ていない場合と比較して安定したpHで処理済溶液の生成が可能であることが示された。
【0104】
なお、図示は省略するが、このような傾向は、再生処理された弱酸性陽イオン交換樹脂が10L充填されたイオン交換ユニットであって、中性塩溶液接触工程を経ていないRSn10Lと、中性塩溶液接触工程を経たRSa10Lとの比較結果においても観察された。
【0105】
具体的には、イオン交換ユニットRSn10Lは、吐出当初のpHが3.10と低く、40L吐出した時点でのpHは3.43であった。また、吐出当初の処理済溶液からは塩素による強い刺激臭が感じられ、40L吐出した時点の処理済溶液からも塩素による刺激臭が感じられた。
【0106】
その後、イオン交換ユニットRSn10Lからは、3.50(50L)が吐出され、それ以降も凡そpH5に漸近する傾向でpH3.5以上の処理済溶液が吐出された。また、pHが3.50以上となってから以降は、塩素による刺激臭は感じられなかった。
【0107】
これに対し、中性塩溶液接触工程を経たイオン交換ユニットRSa10Lは、吐出当初よりpHが5.60であり、その後も概ね同程度のpHの処理済溶液が吐出された。また、いずれの処理済溶液からも塩素による刺激臭は感じられなかった。
【0108】
(4-2.20L充填したイオン交換ユニット)
次に、図2に、新品の弱酸性陽イオン交換樹脂が20L充填されたイオン交換ユニットであって、中性塩溶液接触工程を経ていないNSn20Lと、中性塩溶液接触工程を経たNSa20Lとを比較した結果を示す。
【0109】
図2に示すように、イオン交換ユニットNSn20Lは、吐出当初のpHが3.00と極めて低く、40L吐出した時点でのpHは3.10であった。このような低pHの傾向は、吐水量が100Lに達してもなお観察された(pH3.40)。なお、今後の研究による解明が待たれるところではあるが、この現象は、弱酸性陽イオン交換樹脂の充填により形成されたベッド中の強酸性陽イオン交換樹脂のような性質をもつ部分が充填量の少ないNSn10Lに比して増加し、pHの上昇が緩慢になったためであると考えられる。
【0110】
また、吐出当初の処理済溶液からは塩素による強い刺激臭が感じられ、100L吐出した時点の処理済溶液からも塩素による刺激臭が感じられた。
【0111】
その後、イオン交換ユニットNSn20Lからは、3.50(150L)、3.60(200L)、3.80(250L)、3.90(300L)の処理済溶液が吐出され、それぞれ塩素による刺激臭は感じられなくなった。また、図示は割愛するが、その後吐出量が400Lを超えても、塩素による刺激臭は感じられなかった。
【0112】
これに対し、中性塩溶液接触工程を経たイオン交換ユニットNSa20Lは、吐出当初よりpHが5.54であり、その後、5.45(50L)、5.38(100L)、5.42(150L)、5.40(200L)の処理済溶液が吐出された。また、いずれの処理済溶液からも塩素による刺激臭は感じられなかった。併せて、その後300L吐出時点(pH5.41)、更には400Lを超える吐出量(図示省略)に至るまでpHの大きな変動は見られず、塩素による刺激臭も感じられなかった。特筆すべきは、充填量の異なるイオン交換ユニットNSa10LとNSa20Lとを比較すると、吐出された処理済溶液は、充填量の多いNSa20Lの方がその吐出当初からのpH変動が極めて小さく安定しており、本発明の性質上好適となる傾向がある。これは、中性塩溶液による処理を行っていないNSn10LとNSn20Lとの関係においては、容量が大きくなるほど反応初期pH低下現象が顕著に長く続き不都合である点を踏まえると、極めて興味深い結果であると言える。
【0113】
また、図示は省略するが、このような傾向は、再生処理された弱酸性陽イオン交換樹脂が20L充填されたイオン交換ユニットであって、中性塩溶液接触工程を経ていないRSn20Lと、中性塩溶液接触工程を経たRSa20Lとの比較結果においても観察された。
【0114】
具体的には、イオン交換ユニットRSn20Lは、吐出当初のpHが3.10と低く、100L吐出した時点でのpHは3.45であった。また、吐出当初の処理済溶液からは塩素による強い刺激臭が感じられ、100L吐出した時点の処理済溶液からも塩素による刺激臭が感じられた。
【0115】
その後、イオン交換ユニットRSn20Lからは、3.50(150L)が吐出され、それ以降もpH4を超えるであろう傾きでpH3.5以上の処理済溶液が吐出された。また、pHが3.50以上となってから以降は、塩素による刺激臭は感じられなかった。
【0116】
これに対し、中性塩溶液接触工程を経たイオン交換ユニットRSa20Lは、吐出当初よりpHが5.60であり、その後も概ね同程度のpHの処理済溶液が吐出された。また、いずれの処理済溶液からも塩素による刺激臭は感じられなかった。
【0117】
これら試験の結果を踏まえると、本実施形態に係る次亜塩素酸水溶液の調製方法によれば、再生直後や新品の弱酸性陽イオン交換樹脂であっても、塩素ガスを実質的に発生させずにpH3.5~7程度の弱酸性次亜塩素酸水溶液を得ることが可能であることが示された。
【0118】
また、再生品であるイオン交換ユニットRSn10L、RSa10L、RSn20L、RSa20Lの結果を踏まえると、本実施形態に係る弱酸性陽イオン交換体の再生処理方法によれば、弱酸性陽イオン交換体の反応初期pH低下現象を可及的抑制可能であることが示された。
【0119】
また、上述してきた操作を行うことで、弱酸性陽イオン交換体のイオン交換するpH範囲を理論値どおりのpHに調整することもできる。
【0120】
すなわち本願は、弱酸性陽イオン交換樹脂が、理論上のイオン交換範囲以下、すなわちpH約3.5~7.0以下でイオン交換能を示さないようにするための手段が求められている背景に鑑みてなされた以下の発明も含むものと言える。
(a)弱酸性陽イオン交換体のイオン交換するpH範囲を調整する方法であって、前記弱酸性陽イオン交換体と中性塩溶液を接触させる工程を含む方法。
(b)前記中性塩処理工程の処理後の溶液を、イオン交換済みの弱酸性陽イオン交換体と接触させる工程をさらに含む(a)に記載の方法。
(c)前記中性塩溶液は食塩水である(a)に記載の方法。
(d)次亜塩素酸溶液の製造方法であって、前記弱酸性陽イオン交換体と中性塩溶液を接触させる工程と、前記弱酸性陽イオン交換体と次亜塩素酸塩溶液を接触させる工程とを含む方法。
【0121】
そして、これら発明によれば、弱酸性陽イオン交換体の反応pHを約pH3.5以上にすることができる。また、本発明によれば、弱酸性陽イオン交換体を使用して次亜塩素酸溶液を製造する際に、当該溶液のpHを、塩素が生じるpH以下(すなわち、pH3.5未満)に低下させることなく次亜塩素酸溶液を容易に調整することができる。
【0122】
最後に、上述した各実施の形態の説明は本発明の一例であり、本発明は上述の実施の形態に限定されることはない。このため、上述した各実施の形態以外であっても、本発明に係る技術的思想を逸脱しない範囲であれば、設計等に応じて種々の変更が可能であることは勿論である。
図1
図2