(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-28
(45)【発行日】2025-02-05
(54)【発明の名称】ポリビニルピロリドン-ヨウ素複合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08F 8/18 20060101AFI20250129BHJP
C08F 26/10 20060101ALI20250129BHJP
A61K 31/79 20060101ALN20250129BHJP
【FI】
C08F8/18
C08F26/10
A61K31/79
(21)【出願番号】P 2022111563
(22)【出願日】2022-07-12
【審査請求日】2024-03-12
(73)【特許権者】
【識別番号】392000888
【氏名又は名称】株式会社合同資源
(74)【代理人】
【識別番号】100179969
【氏名又は名称】駒井 慎二
(72)【発明者】
【氏名】石井 利光
(72)【発明者】
【氏名】池 祥雅
(72)【発明者】
【氏名】田上 紘一
【審査官】中川 裕文
(56)【参考文献】
【文献】特開昭50-035318(JP,A)
【文献】特開昭51-082717(JP,A)
【文献】特開昭51-082718(JP,A)
【文献】特開昭51-046393(JP,A)
【文献】米国特許第03028300(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 6/00-24/00
A61K 31/79
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルピロリドンとヨウ素を固相状態で混合し、次いでヨウ化水素を添加して反応さ
せ、前記ヨウ素及び前記ヨウ化水素の使用質量比が、ヨウ素換算で、ヨウ素:ヨウ化水素=50:50から90:10の範囲である、ポリビニルピロリドン-ヨウ素複合体の製造方法。
【請求項2】
前記ヨウ化水素を添加後に100℃以下で熱処理を行う、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記ヨウ素及び前記ヨウ化水素の全ヨウ素量の前記ポリビニルピロリドンに対する質量比が、前記ポリビニルピロリドンの乾燥質量に対して18質量%以上である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
さらに、ヨウ素塩の共存下で反応を行う、請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
前記ヨウ素、前記ヨウ化水素及び前記ヨウ素塩の全ヨウ素量の前記ポリビニルピロリドンに対する質量比が、前記ポリビニルピロリドンの乾燥質量に対して18質量%超である、請求項
4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記ポリビニルピロリドンの含水量が4~6質量%である、請求項1~
5のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリビニルピロリドン-ヨウ素複合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリビニルピロリドン-ヨウ素複合体(以下、「PVP-I」とも記す。)は、ポビドンヨードとも称され、ポリビニルピロリドン(以下、「PVP」とも記す。)とヨウ素とが結合したヨウ素複合体である。PVP-Iは褐色粉末状製品として市販され、水やエタノール等に溶解し、その水溶液は殺菌剤又は消毒剤として広く用いられている。
PVP-Iの殺菌又は消毒作用は、PVP内に取り込まれて複合体を形成しているヨウ素(I2)が徐々に遊離し、その酸化作用によって、微生物表面の膜タンパク質を構成するアミノ酸の酸化等で膜機能が阻害されることで発揮されると考えられる。
【0003】
PVP-Iの従来の製造方法として、以下が提案されている。
(1)PVPの水溶液にヨウ化水素ガス又はアルカリ金属ヨウ素塩を添加し、この溶液を乾燥して得られた粉末状PVP-ヨウ化物混合物を、ヨウ素と反応させる方法(特許文献1)。
(2)無水有機溶媒中で特定開始剤の存在下に重合して得た粉末状PVPを粉末状ヨウ素と室温で混合する方法(特許文献2)。
(3)PVP及びヨウ素を、ギ酸、シュウ酸又は炭酸、ギ酸又はシュウ酸のアンモニウム塩の存在下で、水溶液中で反応させる方法(特許文献3)。
(4)粉末状のPVPをヨウ素と混合後、熱処理を行う方法(特許文献4)。
(5)水素添加されたPVPをヨウ素と固相で反応させる方法(特許文献5)。
(6)特定含水率のPVPを用いて、ヨウ素と共に加熱する方法(特許文献6)。
(7)乾燥PVP粉末と、ヨウ素粉末と、ヨウ化水素ガス又はアルカリ金属ヨウ素塩から選択されるヨウ化物とを、特定量比で、室温で24時間混合する方法(特許文献7)。
(8)粉末状PVPとヨウ素とを、ギ酸、シュウ酸又は炭酸、ギ酸又はシュウ酸のアンモニウム塩又はアミドの存在下、70~100℃で固相で反応させる方法(特許文献8)。
(9)粉末状PVPをHClガスと接触させて(PVP)2HCl錯体を形成し、次いでヨウ素と反応させて水溶性のPVP/HCl/I2錯体を得る方法(特許文献9)。
(10)特定濃度のPVP水溶液とヨウ素を混合し、ギ酸、シュウ酸、それらのエステル、塩又はアミドから選択される還元剤の存在下、50~110℃で30分~15時間加熱する方法(特許文献10)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開昭50-035318号公報
【文献】特開昭51-046393号公報
【文献】特開昭56-065006号公報
【文献】独国特許第1037075号公報
【文献】特開昭56-061405号公報
【文献】米国特許第2900305号公報
【文献】米国特許第3028300号公報
【文献】特開昭54-143495号公報
【文献】特表平5-502660号公報
【文献】特表2003-509347号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の方法では、ヨウ化物(I-)としてヨウ化水素ガスを添加すると、水溶液中で強酸であるヨウ化水素酸となるため、乾燥工程において強い腐食性が問題となる。また、ヨウ化物(I-)としてヨウ化ナトリウムのようなアルカリ金属ヨウ素塩を添加する場合、製品としてのPVP-I中の灰分量が増加する問題がある。
特許文献2の方法は安定性に優れたPVP-Iの製造に適するとされるが、90~95℃で10時間以上の加熱(熱処理)が必要である。特許文献3の方法も7~32時間と長時間の反応を要する。特許文献4の方法も90~100℃で18~64時間の熱処理を、特許文献5の方法も室温で5時間、その後90℃で20時間の加熱を要し、特許文献6の方法も95℃で22時間の加熱を要している。このように長時間の加熱や含水率が高いPVPを用いると、生成物が塊状となったり、PVPに焦げ付きが発生しやすく、作業性や品質の面で問題がある。
特許文献7の方法では、加熱処理が省略されているものの、強いヨウ素臭のある不純物が生成し、生成物中の灰分量も問題となる。
特許文献8の方法は熱処理時間を短縮できるが、得られたPVP-Iを水溶液とすると、短時間でヨードを遊離してしまい、保存期間が制限される。
特許文献9の方法で得られる生成物の分配係数は20未満と低く、保存安定性に問題がある。
特許文献10の方法では、生成物中の灰分量が問題となるほか、粉末状又は顆粒状PVP-Iを取得する場合に水を除去する必要がある。
【0006】
一方、PVP-Iは、一般に有効ヨウ素、すなわちチオ硫酸ナトリウムで滴定し得る活性ヨウ素及びヨウ化物を含有する褐色粉末として市販されており、その品質評価の指標として、第18改正日本薬局方、及び特許文献7等に開示される「分配係数(DC:distribution coefficient)」や、「ヨウ素損失」等がある。
「分配係数」は、PVP-Iの水溶液をへプタンで抽出してそのヨウ素(I2)抽出量から算出するものである。かかる分配係数が200以上であると、PVP表面に単純に付着したヨウ素量が少なく、PVP内にヨウ素が多く取り込まれ複合体を形成していることを意味する。
「ヨウ素損失」は、加速安定性試験とも称され、PVP-Iの水溶液の、室温における有効ヨウ素量と、所定温度で所定時間加温した後の水溶液中における有効ヨウ素量とを測定し、その差を評価する。すなわちPVP-Iの水溶液中での安定性の指標であり、差が6%以下であれば、水溶液中にPVPから遊離ヨウ素として放出(遊離)される時間が遅く、PVP-Iとしての安定性が良好であることを意味する。
特許文献1~10の方法では、上述した問題点に加え、得られるPVP-Iが、前記した品質評価の指標に関する全項目を満たすのが困難という問題点がある。
【0007】
本発明者らは、品質評価の指標の全項目を満たすPVP-Iを簡便に製造する方法について検討した。その結果、固相状態でPVPとヨウ素とを予め混合し、次いでこの混合物にヨウ素供給源としてヨウ化水素を添加し、固相にて好適には加熱下に混合することで、日本薬局方に加え、分配係数やヨウ素損失等の品質評価指標を満たす、高品質かつ安定なPVP-Iを製造できることを見出し、本発明を完成した。
本発明の目的は、各国薬局方の規格値の全項目を満足し、高品質で安定なポリビニルピロリドン-ヨウ素複合体水溶液(ポビドンヨード製剤)を得ることができる、ポリビニルピロリドン-ヨウ素複合体の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、下記の態様を有する。
[1] ポリビニルピロリドンとヨウ素を固相状態で混合し、次いでヨウ化水素を添加して反応させる、ポリビニルピロリドン-ヨウ素複合体の製造方法。
[2] 前記ヨウ化水素を添加後に100℃以下で熱処理を行う、[1]に記載の製造方法。
[3] 前記ヨウ素及び前記ヨウ化水素の全ヨウ素量の前記ポリビニルピロリドンに対する質量比が、前記ポリビニルピロリドンの乾燥質量に対して18質量%以上である、[1]又は[2]に記載の製造方法。
[4] 前記ヨウ素及び前記ヨウ化水素の使用質量比が、ヨウ素換算で、ヨウ素:ヨウ化水素=50:50から90:10の範囲である、[1]~[3]のいずれかに記載の製造方法。
[5] さらに、ヨウ素塩の共存下で反応を行う、[1]~[4]のいずれかに記載の製造方法。
[6] 前記ヨウ素、前記ヨウ化水素及び前記ヨウ素塩の全ヨウ素量の前記ポリビニルピロリドンに対する質量比が、前記ポリビニルピロリドンの乾燥質量に対して18質量%超である、[5]に記載の製造方法。
[7] 前記ポリビニルピロリドンの含水量が4~6質量%である、[1]~[6]のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、各国薬局方の規格値の全項目を満足し、高品質で安定なポリビニルピロリドン-ヨウ素複合体の製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のポリビニルピロリドン-ヨウ素複合体(PVP-I)の製造方法は、ポリビニルピロリドン(PVP)とヨウ素(I2)を固相状態で混合し、次いでヨウ化水素を添加して反応させることが特徴である。
【0011】
本発明の製造方法において、PVPは、公知の方法で得られたものを使用できる。例えば、水、イソプロパノール又はトルエン等の溶媒中で、過酸化水素、ペルオキソ二硫酸ナトリウム、ジアルキルペルオキシド等の過酸化物やアゾイソブチロニトリル等のアゾ化合物等のラジカル重合開始剤の存在下で重合したPVPを使用できる。
また、重合後に水素又は錯体水素化物により水素化処理したPVP、特表2003-509347号公報に開示される末端変性されたPVP、特開昭51-142094号公報等に開示される(メタ)アクリル酸誘導体等が共重合されたPVP等を、本発明の製造方法に用いてもよい。
【0012】
本発明の製造方法に用いるPVPは、溶状、重金属、アルデヒド、N-ビニルピロリドンモノマー、過酸化物、ヒドラジン、ギ酸、ピロリドン、強熱残分等の各不純物含有量が、第十八改正日本薬局方における「ポビドン」(1-ビニル-2-ピロリドン重合物=PVP)の規格値をクリアしているものを用いることが好ましい。なお、かかる規格値は、その大部分が日本薬局方、欧州薬局方(The European Pharmacopoeia)及び米国薬局方(The United States Pharmacopeia)の「三薬局方」での調和合意に基づき規定されている。
【0013】
PVPのK値は10~100の範囲で適宜選択できるが、20~50が好ましく、25~35が好ましく、25~33がより好ましい。K値が前記した範囲であればPVPとして取り扱いやすく、またPVP-Iにおけるヨウ素の安定性が保たれる傾向となる。ここでK値とは、H.Fikentscher,Cellulose-Chemie,13,38-64及び71-74(1932)により提案された、重合度を表す定数であり、水溶液中にて測定される。
【0014】
PVPは、取扱いの容易さ、及び本製造方法の実施中に、PVPが水分により凝集した塊状物の生成を抑制する観点から、その含水量が4~6質量%の範囲であるのが好ましい。なお、PVPの含水量は必要に応じ、室温(30℃)~90℃の範囲の温度雰囲気で、好適には撹拌しながら大気圧下又は減圧条件下で乾燥することで前記した範囲に調整可能である。
【0015】
PVP及びヨウ素の固相状態での混合は、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下で行うのが好ましい。また、混合は、好適には10℃~35℃の範囲で行うのが好ましい。混合時間は、PVPとヨウ素とが充分に混合されれば特に制限はない。
【0016】
混合の手段は、PVPと固体状のヨウ素とが十分に撹拌され混合でき、また好適には混合器内の温度制御が可能である限り特に制限はない。PVPとヨウ素という比重の異なる両者の混合効率をより高めること、及び付着箇所を減らし取出し収量を高める観点から、例えば撹拌翼を有しない、コニカルドライヤー等の混合装置が好ましい。
【0017】
PVPとヨウ素を固相状態で混合して調製した混合物に、次いでヨウ化水素を添加する。ヨウ化水素は、前記混合物を調製した混合容器に導入するのが好ましい。
【0018】
ヨウ化水素の導入量は、前記混合物の調製に用いたPVPの乾燥PVP換算質量に対する、ヨウ素とヨウ化水素中のヨウ素合計量(全ヨウ素量)として、18質量%以上であるのが好ましく、20質量%超であるのがより好ましく、21質量%以上であるのがさらに好ましい。かかる全ヨウ素量は、乾燥PVPに対し25質量%以下であるのが好ましい。
また、ヨウ素供給源としてのヨウ素及びヨウ化水素の使用質量比が、ヨウ素換算で、ヨウ素:ヨウ化水素=50:50から90:10の範囲となるようにヨウ化水素を添加するのが好ましく、60:40から80:20の範囲がより好ましい。
全ヨウ素量、及び前記使用質量比が前記した範囲内であると、得られるPVP-Iが日本薬局方等の各国薬局方の定める品質基準を満足しやすく、かつ後述する分配係数、ヨウ素損失等の評価値を目標水準に到達させやすい。
【0019】
PVP及びヨウ素を固相状態で、好適には室温で予め混合させる際に、さらにヨウ素塩を添加してもよい。かかるヨウ素塩としては、例えばヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化マグネシウム、ヨウ化バリウム等の無機ヨウ素塩:ヨウ化アンモニウム、ヨウ化テトラアルキルアンモニウム等の有機ヨウ素塩が挙げられる。
中でも、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化アンモニウムが好ましい。これらのヨウ素塩は1種類を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。2種以上を併用する場合、ヨウ素塩としての使用量比には特に制限はない。
【0020】
PVPとヨウ素を混合させる際にさらにヨウ素塩を添加する場合、乾燥PVPに対する、ヨウ素とヨウ化水素とヨウ素塩中のヨウ素合計量(全ヨウ素量)が18質量%以上であるのが好ましく、20質量%超であるのがより好ましく、21質量%以上であるのがさらに好ましい。かかる全ヨウ素量は、乾燥PVPに対し25質量%以下であるのが、得られるPVP-Iが、日本薬局方等の各国薬局方の定める品質基準を満足できる観点から好ましい。
また、ヨウ素供給源としての、ヨウ素、ヨウ化水素及びヨウ素塩の使用質量比が、ヨウ素換算で、ヨウ素:[ヨウ化水素とヨウ素塩]=50:50から90:10の範囲となるようにヨウ素塩を添加するのが好ましく、60:40から80:20の範囲がより好ましい。また、この場合において、ヨウ化水素とヨウ素塩の使用質量比は、ヨウ素換算で、ヨウ化水素:ヨウ素塩=10:90から90:10の範囲であるのが好ましく、15:85から85:15の範囲がより好ましい。各使用質量比が前記した範囲内であると、得られるPVP-Iが日本薬局方等の各国薬局方の定める品質基準を満足しやすく、かつ後述する分配係数、ヨウ素損失等の評価値を目標水準に到達させやすい。
【0021】
本発明の製造方法は、好適には、混合装置にPVP及びヨウ素、必要に応じてさらにヨウ素塩をまず投入し、室温(30℃程度)で予め混合する。次いで、装置内にヨウ化水素をガスとして導入して混合して行うことで実施できる。
PVPとヨウ素の混合物にヨウ化水素を添加後、さらに昇温して加熱条件下で混合を行い、熱処理するのが、反応を円滑にかつ速やかに進行させ、安定なPVP-Iを生産性良く得られる観点から好ましい。
昇温温度の上限に厳密な意味での制限はないが、PVPそれ自体、及び得られるPVP-Iの熱安定性の観点から、通常、100℃以下で設定するのが好ましく、95℃以下を設定温度として昇温するのがより好ましい。
【0022】
昇温は、ヨウ化水素を導入後に、設定温度まで一段階で昇温しても、段階的に昇温してもよい。昇温速度には特に制限はない。熱処理の時間にも厳密な意味での制限はないが、PVP自体及び得られるPVP-Iの熱安定性、並びに反応を円滑に完結させる観点からは、通常、設定温度に昇温後、10時間以内であるのが好ましく、6時間以内がより好ましい。
より具体的には、PVP及びヨウ素、必要に応じてさらにヨウ素塩を含有する前記混合物にヨウ化水素を導入後、例えば50℃で2時間、次いで70℃で2時間、さらに90℃で5時間、のように段階的に昇温しながら混合して熱処理を行うことができる。あるいは、PVPとヨウ素の混合物にヨウ化水素を添加後、例えば90℃まで一段階で昇温して混合して熱処理を行なってもよい。
なお、前記混合物へのヨウ化水素ガスの導入は、調製した混合物にヨウ化水素を導入せず設定温度までいったん昇温し、冷却後に行ってもよい。
【0023】
熱処理終了後、自然冷却又は冷媒等により混合装置を室温(30℃付近)まで冷却し、PVP-Iを褐色粉末として取り出す。
【0024】
本発明の製造方法で得られるPVP-Iは、有効ヨウ素量が好ましくは10.0%~12.0%の範囲であり、ヨウ化物イオンに対する有効ヨウ素の比(有効ヨウ素/ヨウ化物イオン)が1.8~2.4の範囲にある。また、分配係数は好ましくは200以上、より好ましくは200~250の範囲であり、ヨウ素損失が好ましくは6.3以下、より好ましくは4.0~6.3の範囲である。
なお、有効ヨウ素量、有効ヨウ素/ヨウ化物イオン、分配係数、ヨウ素損失の評価方法については、実施例にて後述する通りである。
【実施例】
【0025】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例等により限定されない。得られた生成物の分析は以下のようにして行った。
【0026】
[有効ヨウ素量、ヨウ化物イオン量]
第十八改正日本薬局方の一般試験法「2.物理的試験法 2.50 滴定終点検出法」に従い、「ポビドンヨード」の項に記載の要領で定量した。
【0027】
[分配係数]
各実施例及び比較例で得られた生成物を用いて、有効ヨウ素濃度が約1%となるように試料を調製し、0.1mol/Lのチオ硫酸ナトリウム水溶液で滴定して、分配試験に付す前の有効ヨウ素量を求めた。
この試料1mLを精秤して三角フラスコに分取し、次いでヘプタン25mLをホールピペットで計り入れて、25℃で1時間激しく振り混ぜた。静置後、ヘプタン相を採取して石英セルに入れ、520nmでの吸光度を測定した。ヘプタンのみの520nmの吸光度をブランク値として、ヘプタン相のヨウ素量を算出した。かかる値より、水相のヨウ素量を算出し、ヘプタン相と水相の各ヨウ素量より、分配係数を算出した。
【0028】
[ヨウ素損失]
各実施例及び比較例で得られた生成物を用いて、有効ヨウ素濃度が約1%となるように試料を調製し、その10mLを精秤して(ML:g)、0.1mol/Lのチオ硫酸ナトリウム水溶液で滴定した(滴定量:L(mL))。
調製した試料100mLを回転子を入れたナスフラスコに分取して栓をし、80℃で15時間加温した。25℃まで冷却後、試料から10mLを精秤(MM:g)して、0.02mol/Lのチオ硫酸ナトリウム水溶液で滴定した(滴定量:M(mL))。
以上の値を用いて、ヨウ素損失(%)を下式にて算出した。
ヨウ素損失(%)=100×(ML/L)×[(L/ML)-(M/MM)]
【0029】
<実施例1>
含水率4.0%のPVP118.5g(乾燥PVP換算量113.8g)とヨウ素17.1gとを容量500mLのナス型フラスコに入れ、ロータリーエバポレーターにて、30℃でナス型フラスコを回転させて内容物を混合した。
次いで、ナス型フラスコ内にヨウ化水素7.3gを5分かけて導入した。ここで、乾燥PVP質量に対する、ヨウ素及びヨウ化水素中のヨウ素合計量(全ヨウ素量)は21.4質量%であり、ヨウ素とヨウ化水素のヨウ素換算での使用質量比は70:30であった。
ヨウ化水素導入後の内容物を30℃で2時間、次に50℃に昇温して2時間、さらに70℃に昇温して2時間、そして90℃に昇温して5時間、いずれもロータリーエバポレーターにてナス型フラスコを回転させて混合した。内容物を30℃に冷却して、141.7gのPVP-Iを褐色粉末状生成物として得た(取り出し収量99.1%)。
【0030】
<実施例2>
含水率4.9%のPVP118.5g(乾燥PVP換算量112.7g)と、ヨウ素17.0gと、ヨウ化アンモニウム2.76gとを容量500mLのナス型フラスコに入れ、ロータリーエバポレーターにて、30℃でナス型フラスコを回転させて内容物を混合した。
次いで、ナス型フラスコ内にヨウ化水素4.85gを5分かけて導入した。ここで、乾燥PVP質量に対する、ヨウ素とヨウ化水素とヨウ化アンモニウム中のヨウ素合計量(全ヨウ素量)は21.5質量%であり、ヨウ素とヨウ化水素とヨウ化アンモニウムのヨウ素換算での使用質量比は70:20:10であった。
ヨウ化水素導入後の内容物を30℃で2時間、次に50℃に昇温して2時間、さらに70℃に昇温して2時間、そして90℃に昇温して5時間、いずれもロータリーエバポレーターにてナス型フラスコを回転させて混合した。内容物を30℃に冷却して、123.9gのPVP-Iを褐色粉末状生成物として得た(取り出し収量87%)。
【0031】
<実施例3>
含水率4.9%のPVP118.5g(乾燥PVP換算量112.7g)と、ヨウ素17.0gと、ヨウ化アンモニウム5.5gとを容量500mLのナス型フラスコに入れ、ロータリーエバポレーターにて、30℃でナス型フラスコを回転させて内容物を混合した。次いで、ナス型フラスコ内にヨウ化水素2.4gを導入した。ここで、乾燥PVP質量に対する、ヨウ素とヨウ化水素とヨウ化アンモニウム中のヨウ素合計量(全ヨウ素量)は21.5質量%であり、ヨウ素とヨウ化水素とヨウ化アンモニウムのヨウ素換算での使用質量比は70:10:20であった。
ヨウ化水素導入後の内容物を50℃に昇温して4時間、さらに70℃に昇温して4時間、そして90℃に昇温して10時間、いずれもロータリーエバポレーターにてナス型フラスコを回転させて混合した。内容物を30℃に冷却して、139.4gのPVP-Iを褐色粉末状生成物として得た(取り出し収量97.2%)。
【0032】
<実施例4>
含水率5.0%のPVP118.5g(乾燥PVP換算量112.6g)とヨウ素15.8gとを容量500mLのナス型フラスコに入れ、ロータリーエバポレーターにて、30℃でナス型フラスコを回転させて内容物を混合した。
次いで、ナス型フラスコ内にヨウ化水素6.8gを5分かけて導入した。ここで、乾燥PVP質量に対する、ヨウ素及びヨウ化水素中のヨウ素合計量(全ヨウ素量)は20.0質量%であり、ヨウ素とヨウ化水素のヨウ素換算での使用質量比は70:30であった。
ヨウ化水素導入後の内容物を30℃で2時間、次に50℃に昇温して2時間、さらに70℃に昇温して2時間、そして90℃に昇温して5時間、いずれもロータリーエバポレーターにてナス型フラスコを回転させて混合した。内容物を30℃に冷却して、123.3gのPVP-Iを褐色粉末状生成物として得た(取り出し収量87.5%)。
【0033】
<実施例5>
含水率5.0%のPVP118.5g(乾燥PVP換算量112.6g)とヨウ素14.6gとを容量500mLのナス型フラスコに入れ、ロータリーエバポレーターにて、30℃でナス型フラスコを回転させて内容物を混合した。
次いで、ナス型フラスコ内にヨウ化水素6.3gを5分かけて導入した。ここで、乾燥PVP質量に対する、ヨウ素及びヨウ化水素中のヨウ素合計量(全ヨウ素量)は18.5質量%であり、ヨウ素とヨウ化水素のヨウ素換算での使用質量比は70:30であった。
ヨウ化水素導入後の内容物を30℃で2時間、次に50℃に昇温して2時間、さらに70℃に昇温して2時間、そして90℃に昇温して5時間、いずれもロータリーエバポレーターにてナス型フラスコを回転させて混合した。内容物を30℃に冷却して、133.76gのPVP-Iを褐色粉末状生成物として得た(取り出し収量96.0%)。
【0034】
<実施例6>
含水率5.0%のPVP118.5g(乾燥PVP換算量112.6g)とヨウ素16.9gとを容量500mLのナス型フラスコに入れ、ロータリーエバポレーターにて、30℃でナス型フラスコを回転させて内容物を混合した。
次いで、ナス型フラスコ内にヨウ化水素7.3gを5分かけて導入した。ここで、乾燥PVP質量に対する、ヨウ素及びヨウ化水素中のヨウ素合計量(全ヨウ素量)は21.4質量%であり、ヨウ素とヨウ化水素のヨウ素換算での使用質量比は70:30であった。
ヨウ化水素導入後の内容物を30℃から6時間30分かけて90℃に昇温し、90℃で5時間、ロータリーエバポレーターにてナス型フラスコを回転させて混合した。内容物を30℃に冷却して、128.7gのPVP-Iを褐色粉末状生成物として得た(取り出し収量90.2%)。
【0035】
<比較例1>
含水率4.8%のPVP118.5g(乾燥PVP換算量112.8g)とヨウ素24.25gとを容量500mLのナス型フラスコに入れ、ロータリーエバポレーターにて、30℃でナス型フラスコを回転させて内容物を混合した。ここで、乾燥PVP質量に対するヨウ素量は21.5質量%であった。次いで、50℃に昇温して2時間、さらに70℃に昇温して2時間、そして90℃に昇温して5時間、いずれもロータリーエバポレーターにてナス型フラスコを回転させて混合した。内容物を30℃に冷却して、130.6gのPVP-Iを褐色粉末状生成物として得た(取り出し収量91.5%)。
【0036】
<比較例2>
含水率4.5%のPVP118.5g(乾燥PVP換算量113.2g)とヨウ素23.20gとを容量500mLのナス型フラスコに入れ、ロータリーエバポレーターにて、30℃でナス型フラスコを回転させて内容物を混合した。
次いで、ナス型フラスコ内にヨウ化水素1.13gを5分かけて導入した。ここで、乾燥PVP質量に対する、ヨウ素及びヨウ化水素中のヨウ素合計量(全ヨウ素量)は21.5質量%であり、ヨウ素とヨウ化水素のヨウ素換算での使用質量比は95:5であった。
ヨウ化水素導入後の内容物を30℃で2時間、次に50℃に昇温して2時間、さらに70℃に昇温して2時間、そして90℃に昇温して5時間、いずれもロータリーエバポレーターにてナス型フラスコを回転させて混合した。内容物を30℃に冷却して、134.4gのPVP-Iを褐色粉末状生成物として得た(取り出し収量94.1%)。
【0037】
実施例1~6、及び比較例1~2で得られたPVP-Iのそれぞれにつき、有効ヨウ素量(質量%)、有効ヨウ素/ヨウ化物イオンの比、分配係数、及びヨウ素損失を上記した評価方法で求めた。結果を表1にまとめて示す。
【0038】
【0039】
実施例1~6で得られたPVP-Iは、有効ヨウ素量及び有効ヨウ素/ヨウ化物イオンの値が日本薬局方の基準を満たし、分配係数が好ましくは200以上、ヨウ素損失が好ましくは5.2%以下であって品質に優れ、保存安定性にも優れる。また、本法によれば、ヨウ素の供給源として、ヨウ化水素の供給に先立ってPVPとヨウ素塩を共存させても、品質に優れるPVP-Iを得ることができる。
【0040】
<実施例7>
含水率5.8%のPVP36.0kg(乾燥PVP換算量33.9kg)とヨウ素5.0kgとを容量150Lのコニカル乾燥機に入れ、回転数を12回/分として、30℃で17時間内容物を混合した。
次いで、コニカル乾燥機内にヨウ化水素ガス2.14kgを3時間かけて導入した。ここで、乾燥PVP質量に対する、ヨウ素及びヨウ化水素中のヨウ素合計量(全ヨウ素量)は21.0質量%であり、ヨウ素とヨウ化水素のヨウ素換算での使用質量比は70:30であった。
ヨウ化水素導入後の内容物を、コニカル乾燥機の回転数を12回/分として、30℃で2時間混合し、次に50℃に昇温して2時間混合し、さらに70℃に昇温して2時間、そして90℃に昇温して5時間混合した。内容物を30℃に冷却して、42.2kgのPVP-Iを褐色粉末状生成物として得た(取り出し収量99.5%)。
得られたPVP-Iの有効ヨウ素量は11.3質量%、有効ヨウ素/ヨウ化物イオンの比は2.0、分配係数は230以上、ヨウ素損失は5.5%以下であった。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明の製造方法で得られるポリビニルピロリドン-ヨウ素複合体は、ポリビニルピロリドン-ヨウ素複合体水溶液(ポビドンヨード製剤)の原体として、殺菌剤や消毒剤等の用途に有用である。