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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-28
(45)【発行日】2025-02-05
(54)【発明の名称】直接遷移型半導体ソーラ装置の改善
(51)【国際特許分類】
   H10F 10/18 20250101AFI20250129BHJP
   H10F 10/19 20250101ALI20250129BHJP
【FI】
H01L31/06 350
H01L31/06 600
【請求項の数】 21
(21)【出願番号】P 2022520593
(86)(22)【出願日】2020-07-13
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-07
(86)【国際出願番号】 US2020041755
(87)【国際公開番号】W WO2021066920
(87)【国際公開日】2021-04-08
【審査請求日】2023-06-30
(31)【優先権主張番号】62/909,424
(32)【優先日】2019-10-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】516129600
【氏名又は名称】コロンバス・フォトヴォルテイクス・リミテッド・ライアビリティ・カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【氏名又は名称】池本 理絵
(74)【代理人】
【氏名又は名称】有原 幸一
(72)【発明者】
【氏名】ファーガソン,イアン
(72)【発明者】
【氏名】ラーナー,コーリー,イー.
(72)【発明者】
【氏名】ヂォウ,チュアンルゥ
【審査官】丸橋 凌
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-535944(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2008-0010126(KR,A)
【文献】特開昭61-216466(JP,A)
【文献】特開2020-053679(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0307956(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 31/00-31/20
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)前面と後面とを有する直接遷移型半導体から形成された半導体素子と、
(b)前記前面の第1の部分に直接接触している透明なバイアス物質と、ここで、該バイアス物質は、前記半導体素子に第1の空乏領域をもたらすように前記半導体素子の標準フェルミ準位とは異なる標準フェルミ準位を有し、
(c)前記前面の前記第1の部分とは別個の第2の部分に直接接触しているコレクタと、ここで、前記前面の前記第2の部分が前記前面の前記第1の部分よりも小さく、前記コレクタは、前記半導体素子に第2の空乏領域をもたらすように前記半導体素子の標準フェルミ準位とは異なる標準フェルミ準位を有し、前記コレクタは、前記バイアス物質と直接導電接触していないが該バイアス物質に近接しており、前記バイアス物質は、前記半導体素子を介する以外では前記コレクタに導電接続されず、前記前面において前記第1の空乏領域と前記第2の空乏領域との間に延在している連続した少数キャリアチャネルが存在し、
(d)前記空乏領域から離隔した場所で前記半導体素子に接触している電極と
を備える光電池セル。
【請求項2】
前記半導体素子は、前記前面から前記電極まで延在する第1の領域を有し、前記第1の領域は、完全にp型であるか又は完全にn型である、請求項1に記載の光電池セル。
【請求項3】
前記第1の空乏領域のビルトイン電圧の大きさは、前記第2の空乏領域のビルトイン電圧の大きさよりも大きい、請求項2に記載の光電池セル。
【請求項4】
前記第1の領域はn型であり、前記コレクタは、前記バイアス物質よりも低い仕事関数を有する、請求項3に記載の光電池セル。
【請求項5】
前記半導体素子は、ガリウムヒ素及びアルミニウムガリウムヒ素からなる群から選択され、前記バイアス物質は銀であり、前記コレクタは金である、請求項3に記載の光電池セル。
【請求項6】
前記半導体素子は、III-V族半導体及びII-VI族半導体からなる群から選択されている、請求項1に記載の光電池セル。
【請求項7】
前記電極は、前記半導体素子の前記後面の少なくとも一部の上に重なるとともに接触している、請求項2に記載の光電池セル。
【請求項8】
前記コレクタは、前記半導体素子の前記前面に互いに離隔した複数のコレクタ素子を含み、該コレクタ素子は、互いに導電接続されており、前記バイアス物質は、前記コレクタ素子の間に延在している、請求項1に記載の光電池セル。
【請求項9】
各前記コレクタ素子は不透明である、請求項に記載の光電池セル。
【請求項10】
前記電極は、前記半導体素子とオーミック接触している、請求項1に記載の光電池セル。
【請求項11】
前記バイアス物質は、前記セルの外部のいかなる素子とも直接導電接続する端子を有していない、請求項1に記載の光電池セル。
【請求項12】
前記バイアス物質は金属又は半導体であり、前記バイアス物質と前記コレクタとの間に間隙がある、請求項1に記載の光電池セル。
【請求項13】
前記第1の空乏領域と前記第2の空乏領域とは、前記連続した少数キャリアチャネルを形成するように互いに統合している、請求項12に記載の光電池セル。
【請求項14】
前記間隙内に配置された固定電荷を有する誘電体を更に備え、該誘電体は追加の空乏領域を形成し、該追加の空乏領域は、前記連続した少数キャリアチャネルを形成するように前記第1の空乏領域及び前記第2の空乏領域と統合している、請求項12に記載の光電池セル。
【請求項15】
前記バイアス物質は固定電荷を有する誘電体である、請求項1に記載の光電池セル。
【請求項16】
請求項1~15のいずれか一項に記載の光電池セルと、該光電池セルの前記コレクタと前記電極との間に電気的に接続された負荷とを含み、前記バイアス物質が、前記半導体素子と前記負荷との間に導電接続されていない、回路。
【請求項17】
請求項1~15のいずれか一項に記載の光電池セルと、該光電池セルの前記コレクタと前記電極との間に電気的に接続された負荷を含む回路要素とを含み、前記バイアス物質が、前記セルの前記半導体素子以外、前記回路要素のいずれにも直接導電接続されていない、回路。
【請求項18】
請求項1~15のいずれか一項に記載の第1の光電池セルと、該第1の光電池セルの前記直接遷移型半導体のバンドギャップよりも狭いバンドギャップを有する半導体素子を含む第2の光電池セルとを含み、前記第2の光電池セルの前記半導体素子は、前記第1の光電池セルの前記後面の後方に配置されている、マルチセル構造体。
【請求項19】
前記第1の光電池セルの前記第1の空乏領域は、前記直接遷移型半導体の吸収領域の厚さよりも大きい厚さを有する、請求項18に記載のマルチセル構造体。
【請求項20】
前記第1の光電池セルの前記第1の空乏領域は、前記直接遷移型半導体の前記吸収領域の厚さの2倍未満の厚さを有し、前記第1の光電池セルの前記半導体素子は、前記第1の空乏領域の厚さの2倍未満の厚さを有する、請求項19に記載のマルチセル構造体。
【請求項21】
請求項1~15のいずれか一項に記載の光電池セルに、前記セルの前記コレクタと電極との間に負荷が接続されている状態で光を印加することと、前記セルによって発生する電気エネルギーを前記負荷に拡散させることとを含み、前記光を印加するステップ及び前記拡散させるステップの間、前記連続した少数キャリアチャネルが維持される、光発電方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光電池セル、すなわち、光を電気エネルギーに変換することができる半導体デバイスに関する。
【0002】
[関連出願の相互参照]
本願は、2019年10月2日に出願された米国仮特許出願第62/909,424号の利益を主張し、その開示内容は引用することにより本明細書の一部をなすものとする。
【0003】
「HIGH BAND GAP SOLAR CELLS WITHOUT SEMICONDUCTOR JUNCTIONS」と題する、それぞれ2019年6月10日に出願された米国特許出願第16/436,004号、2014年11月3日に出願された同第14/531,037号、同第10/355,157号、及び2013年11月4日に出願された米国仮特許出願第第61/899,400号の開示は、引用することにより本明細書の一部をなすものとする。
【背景技術】
【0004】
半導体は、「価電子帯」及び「伝導帯」と称されるエネルギー準位を有する。電気は、伝導帯の電子と価電子帯の正に帯電した空孔すなわち「正孔」とが移動することにより伝導される。「n型」半導体では、正孔よりも伝導帯電子の方が多く、そのため、伝導帯電子は「多数キャリア」と称される。対照的に、「p型」半導体では、電子よりも正孔の方が多く、したがって、正孔が多数キャリアである。価電子帯と伝導帯とのエネルギーの差は、半導体のバンドギャップと称される。多くの半導体は、少量の異なるドーパントを添加することにより、n型又はp型のいずれとしても作製することができる。
【0005】
光電池セルの1つの形態はpn接合セルである。こうしたセルは、n型半導体の層とp型半導体の層とを、互いに接触した状態で組み込んでいる。これらの層は、協働してpn接合部を画定する。電極は、接合部の両側で半導体と接触するように設けられる。フェルミ準位は、準位が電子で満たされている確率が50%であるようなエネルギー準位である。p型材料及びn型材料は、互いに隔離されている場合、異なるフェルミ準位を有する。本開示では、別の素子と接触することによって影響を受けない材料のフェルミ準位を指すために、「標準フェルミ準位」という用語を用いる。pn接合セルでは、フェルミ準位は、n型半導体からp型半導体内への電子の拡散により互いに平衡状態となる。これにより、接合部に近いn型半導体の一部が正に帯電し、接合部に近いp型半導体の一部が負に帯電する。これらの部分は、「空間電荷領域」を構成し、接合部の付近に電界を形成する。光が半導体材料に突き当たると、入ってくる光子の吸収により、電子は半導体材料の価電子帯から伝導帯に移動し、したがって、電荷キャリア対、すなわち価電子帯の正孔及び伝導帯の電子の数が増加する。
【0006】
空間電荷領域の電界により、pn接合部を横切る電荷キャリアが加速され、追加の電子がn型材料内に且つ追加の正孔がp型材料内に駆動される。正孔及び電子は、反対方向に移動する。電子は、n型材料と接触している第1の電極に進み、正孔は、p型材料と接触している第2の電極の方に進む。これにより、電極間に電位差が生じ、したがって、それらの電極において有用で利用可能な電気エネルギーが生じる。外部回路により両電極に抵抗器等の負荷が接続されている場合、電流はその負荷を通って流れる。
【0007】
pn接合セルは、シリコンから容易に形成することができ、シリコンpn接合セルは、今日、屋根置き発電システム及び電力会社による発電システムにおける等、光エネルギーを電気に変換するために広く使用されている。しかしながら、シリコンは、約1.1eV(電子ボルト)のバンドギャップを有する。半導体のバンドギャップよりも大きいか又はそれに等しいエネルギーを有する光の光子は、吸収され、一方で、半導体のバンドギャップよりも小さいエネルギーを有する光子は、半導体を通過する。しかしながら、バンドギャップよりも大きいエネルギーを有する光子が吸収されるとき、余分なエネルギーは役に立たず、無駄になる。シリコンの1.1eVバンドギャップは、スペクトルの近赤外光部分の光に対応する。日射における可視光及び紫外線の全てが、シリコンのバンドギャップよりも大きいエネルギーを有する光子から構成されている。したがって、AMI1.5標準スペクトルによって表される、地表面において典型的な日射に曝されたシリコン光電池の理論上の最大エネルギー変換効率は、約30%である。
【0008】
例えば、約1.8電子ボルト以上のような広いバンドギャップを有する材料から、光電池セルを形成することが望ましい。広バンドギャップ材料は、スペクトルの可視光部分及び紫外線部分の光をより効率的に吸収することができる。広バンドギャップ材料から形成されたセルは、シリコン等の狭バンドギャップ材料から形成されたセルとともに使用することができる。こうした構造では、広バンドギャップセルは、狭バンドギャップセルの前面に配置される。長波長光は、広バンドギャップセルによって吸収されず、狭バンドギャップセルまで進み、そこで吸収される。例えば、1.8eVバンドギャップを有する半導体から形成されたフロントセルと、シリコンから形成されたリアセルとを有する構造体は、典型的な日射に対して42%の理論上の最大効率を有する。
【0009】
しかしながら、p型材料として多くの広バンドギャップ半導体を形成することは困難である。したがって、広バンドギャップpn接合セルは、光発電システムで実用化するには高価すぎ、又は欠陥が多すぎる。
【0010】
別のタイプの光電池セルは、「ショットキーセル」として知られる。ショットキーセルでは、金属元素が、「ショットキー接触」と称する半導体との界面を形成する。金属元素は、セルの電極のうちの一方としての役割も果たし、他方の電極は、ショットキーコンタクトから離れた半導体に接続される。半導体は、通常、完全にn型又は完全にp型であり、最も一般的には完全にn型である。金属元素は、金属が半導体の標準フェルミ準位とは異なる標準フェルミ準位を有するように選択される。半導体がn型である場合、金属の標準フェルミ準位は、半導体の標準フェルミ準位よりも低い。金属及び半導体のフェルミ準位は、伝導帯の電子が界面に隣接する半導体から金属に移動することにより平衡状態になる。これにより、界面に隣接する「空乏領域」の半導体は部分的に又は全体的に電子が欠乏し、したがって正に帯電し、金属元素は負に帯電する。空乏領域の両端の電位差は、「ビルトイン電圧」と称される。金属が半導体に直接当接しており、界面において表面状態が形成されない理想的な場合では、ビルトイン電圧は、半導体の標準フェルミ準位と金属の標準フェルミ準位との差に等しい。動作時、光の吸収によって半導体内に形成された追加の少数キャリア(n型半導体では正孔)は、空乏領域の電界によって界面に向かって加速され、一方で、多数キャリアは他方の電極に向かう。
【0011】
しかしながら、ショットキーセルには著しい欠点がある。電極に接続された外部負荷に電力を供給するようにセルを動作させるとき、負荷の両端に、電流に対抗する電圧が現れる。この負荷電圧は、ショットキー接触の金属元素を含む電極に印加される。負荷電圧は、発電に必要な方向とは反対方向にキャリアを駆動する。さらに、負荷電圧は、ビルトイン電圧を低下させ、空乏領域の厚さを低減させる。更に後述するように、空乏領域の厚さの低減は、半導体が直接遷移型半導体(direct semiconductor)である場合に特に顕著である。本開示で言及する直接遷移型半導体では、光子は、別の粒子若しくは波との相互作用又は別の粒子若しくは波の生成を必要としない、価電子帯から伝導帯への電子の遷移によって吸収される。こうした直接遷移プロセスは、通常、光子及び電子に加えて、「フォノン」、すなわち半導体材料内の振動波を含む相互作用を伴う、間接遷移プロセスと対比されるべきである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
直接遷移型半導体は、光を効率的に吸収する。しかしながら、直接遷移型半導体では、間接遷移型半導体よりも、電子が伝導帯から価電子帯に降下する場合に発生するキャリア再結合がはるかに急速に発生する。キャリア対が空間電荷領域内の光子の吸収によって形成される場合、キャリアは、電界の影響を受けて互いに迅速に分離される。しかしながら、キャリア対が空間電荷領域の外側で光子の吸収によって生成される場合、キャリア対は、電極に決して到達することなく再結合し、キャリア対の形成によって捕捉されたエネルギーの全てが失われることになる。したがって、負荷電圧によって、空間電荷領域の厚さが、吸収が発生する領域の厚さよりも小さく低減した場合、セルの効率が低下する。大部分の広バンドギャップ半導体は、直接遷移型半導体である。したがって、広バンドギャップ半導体を使用するショットキーセルは、満足のいく解決法を提供していない。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の1つの態様は、光電池セルを提供する。本発明のこの態様によるセルは、望ましくは、直接遷移型半導体から形成された半導体素子を含む。本発明のこの態様によるセルは、望ましくは、半導体の前面の第1の部分の上に重なる透明なバイアス物質(agent)も含み、バイアス物質は、半導体素子に第1の空乏領域をもたらす。セルは、望ましくは、前面の第1の部分とは別個の第2の部分に直接接触しているコレクタを更に備え、前面の第2の部分は前面の第1の部分よりも小さく、コレクタは、半導体素子に第2の空乏領域をもたらすように半導体素子の標準フェルミ準位とは異なる標準フェルミ準位を有する。例えば、バイアス物質は、半導体素子の標準フェルミ準位とは異なる標準フェルミ準位を有する金属又は半導体であってもよく、コレクタは、バイアス物質と直接導電接触していないがバイアス物質に近接している。セルは、最も望ましくは、前面において第1の空乏領域と第2の空乏領域との間に延在している連続した少数キャリアチャネルを有する。更に後述するように、少数キャリアチャネルは、少なくとも部分的に多数キャリアが欠乏している、半導体の領域である。少数キャリアチャネルは、完全に第1の空乏領域及び第2の空乏領域によって構成することができ、これらの領域は互いに重なっている。代替的に、半導体の多数キャリアと同じ極性を有する固定電荷を有する誘電体材料が、バイアス物質とコレクタとの間の間隙において半導体素子の前面の上に配置されて、第1の空乏領域及び第2の空乏領域と統合して連続した少数キャリアチャネルを形成する、第3の空乏領域を提供してもよい。更なる代替例では、バイアス物質は、半導体の多数キャリアと同じ極性を有する固定電荷を有する誘電体材料であってもよい。この場合、バイアス物質及びコレクタは、互いに連続しているか又は近接していてもよく、連続した少数キャリアチャネルは、第1の空乏領域及び第2の空乏領域の統合によって形成されてもよい。セルは、望ましくは、空乏領域から離隔した場所で半導体素子と接触している電極を更に含む。
【0014】
半導体素子は、望ましくは、コレクタ及びバイアス物質から電極まで延在する部分を含み、この部分は、完全にp型であるか又は完全にn型である。例えば、半導体素子全体が、完全にp型半導体から又は完全にn型半導体から形成されてもよい。
【0015】
最も好ましくは、第1の空乏領域のビルトイン電圧は、第2の空乏領域のビルトイン電圧よりも高い。更に後述するように、ビルトイン電圧の差により横方向に電位勾配が提供され、それにより、少数キャリアは第1の空乏領域から第2の空乏領域に少数キャリアチャネルを通して駆動され、したがって、少数キャリアはコレクタに向かって横方向に駆動される。
【0016】
本発明の更なる態様は、更に後述するように、光電池セルを含む回路、光起電力変換方法及びタンデムセル構造体を含む。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】外部回路に接続された本発明の1つの実施形態によるセルの概略平面図である。
図2】外部回路素子とともにセルを示す、図1の線2-2に沿った概略断面図である。
図3図2に示す領域の拡大断片図である。
図4図2と同様であるが、本発明の別の実施形態によるセルを示す図である。
図5図4に示す領域の拡大断片図である。
図6図2と同様であるが、本発明の更に別の実施形態によるセルを示す図である。
図7】本発明の更に別の実施形態によるセルの素子を示す概略平面図である。
図8】本発明の更に別の実施形態によるセルの素子を示す概略平面図である。
図9】本発明の更に別の実施形態によるマルチセル構造を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1図3に、本発明の1つの実施形態によるセルを示す。セルは、図1において可視である前面22と、前面22から厚さ方向(図2における垂直方向)に離隔した後面24(図2)とを有する、半導体素子20を含む。本実施形態において、半導体素子全体が、単一の型の半導体の直接遷移型半導体、この場合はn型の直接遷移型半導体から形成されている。本開示では、半導体の型に対する言及は、半導体が外部要素又は外部磁界の影響を受けてないときに、その半導体がn型であるか又はp型であるかを述べるものと理解されるべきである。半導体素子22は、その前面に凹部を有し、1つ以上の電極26が、その凹部内で半導体素子と接触している。単一の電極のみを示すが、電極は、任意選択的に互いに導電接続されてもよい複数の素子として形成されてもよい。望ましくは、電極26は、半導体とオーミック接触する。
【0019】
半導体素子の前面22の上に、バイアス物質28が重なっている。バイアス物質28は、望ましくは、本明細書において前面の「第1の部分」と称する、第1の面の大部分を覆う。バイアス物質は、金属又は半導体であってもよい。この例では、バイアス物質28は、半導体によって吸収される波長の光に対して透明であるように十分に薄いが、後述するように空乏領域を形成するのに十分な厚さを有する層として、適用される。バイアス物質は、金属である場合、典型的には10nm未満の厚さであり、最も典型的には5nm~10nmの厚さである。本開示で用いられる場合の「透明な」という用語は、対象の波長の光の実質的な部分が透過するような素子を指す。完全な透明度、すなわち100%の透過率は必要ではない。図2及び図3では、例示を明確にするために、バイアス物質28の厚さを大きく誇張している。図示する実施形態において、バイアス物質は、半導体の前面と直接接触しており、バイアス物質と半導体との間に介在する材料はない。他の実施形態において、バイアス物質と半導体前面との間に誘電体の薄い層が設けられていてもよく、ただし、その誘電体の層は、電子がトンネリングにより層を貫通するのを可能にするのに十分薄いことを条件とする。
【0020】
更に後述するように、セルを組み込んだ回路において、バイアス物質28は、半導体以外の回路のいかなる素子にも直接導電接続されない。特に、バイアス物質は、半導体素子と回路内の負荷との間に導電接続されない。したがって、バイアス物質は、セルの電極として作用せず、動作中にセルによって発生する光電流を搬送しない。好ましくは、バイアス物質は、外部回路素子への導電接続に適合した端子を有していない。セルの前面の上に誘電体不動態化層(図示せず)が設けられる場合、この不動態化層は、望ましくは、バイアス物質の全体を覆い、それにより、バイアス物質は、いかなる外部回路素子への接続のためにも物理的にアクセス不能となる。
【0021】
本実施形態において、半導体素子20はn型であり、バイアス物質28は、半導体の標準フェルミ準位EFSよりも低い標準フェルミ電位EFMを有する。言い換えれば、通常の状態においてバイアス物質の仕事関数Φmは、半導体の仕事関数よりも大きい。材料の仕事関数は、電子を材料のフェルミ準位から真空に移動させるために必要なエネルギーである。金属の仕事関数は、その金属の「電子親和力」とも称される。
【0022】
バイアス物質28は、前面に隣接する半導体に第1の空乏領域30をもたらす。この空乏領域は、バイアス物質によって覆われた前面の第1の領域の後方に延在する。図3に概略的に示すように、第1の空乏領域は、半導体の前面に平行な方向において、バイアス物質の縁部を越えて横方向にも延在している。第1の空乏領域の形成のメカニズムは、ショットキー接触の形成のメカニズムと同様である。電子は半導体とバイアス物質との間で移動することができるため、バイアス物質及び半導体のそれらの間の界面におけるフェルミ準位は、両方の準位が同じである平衡状態にならなければならない。こうなるために、半導体からバイアス物質に電子が移動する。これにより、前面22に隣接する領域を通して半導体は電子が欠乏し、したがって正に帯電し、バイアス物質は負に帯電する。バイアス物質が金属である場合、バイアス物質における電荷は、半導体の前面に当接する「デルタ電荷領域」(図示せず)と称する典型的には数オングストローム厚さである、極めて薄い領域に集中する。前面に隣接する半導体の伝導帯における電子は、バイアス物質の上の負電荷によって反発される。前面からの距離が漸進的に増大すると、この反発は、バイアス物質と電子との間に介在する正に帯電した半導体の量が漸進的に大きくなることによって低減する。言い換えれば、半導体の第1の空乏領域30内に電界が存在する。
【0023】
空乏領域内の半導体の伝導帯における電子は、電界によって与えられる追加のポテンシャルエネルギーを有し、したがって、空乏領域の外側の伝導帯における電子よりも高いエネルギー準位にある。これを、図3において、伝導帯のエネルギー準位を示す曲線32で表す。半導体とバイアス物質との界面では、伝導帯における電子のエネルギー準位ECは、バイアス物質の影響を受けていない半導体に対する標準値ECNである。空乏領域の外側の半導体の領域では、伝導帯における電子のエネルギー準位は、より正側の値EC30である。エネルギー準位ECは、界面からの距離が増大するに従って漸進的に低下し、空乏領域の境界でEC30に達する。距離に応じた低下率は、空乏領域30における半導体内の電界の強度を表し、この値は、空乏領域の境界でゼロに達する。バンドギャップは固定量であるため、価電子帯のエネルギー準位は、曲線32と同一の曲線(図示せず)に従うが、より低いエネルギー準位である。一般に、空乏空間内のエネルギー準位のゆがみを述べるために、「バンド曲がり」という用語が用いられる。この空乏領域は、「空間電荷領域」又は「空乏ゾーン」とも称される。
【0024】
これらの曲線における曲がりの大きさは、EC30とECNとの差に等しく、第1の空乏領域30のビルトイン電圧VBI30と称される。トンネリング誘電体層が介在することなくバイアス物質が半導体と直接接触し、界面における表面状態が障壁高さに影響を与えない、「理想的な」場合では、ビルトイン電圧VBI30は、半導体20とバイアス物質28との標準フェルミ準位差に等しい。空乏領域の寸法は、半導体のキャリア濃度とともに、ビルトイン電圧及び半導体の誘電率によって決まり、当業者であれば容易に計算可能である。
【0025】
セルは、導電性コレクタ40を更に含む。コレクタ40は、半導体の前面22の第2の部分において半導体と直接接触している。前面の第2の部分は、バイアス物質28によって覆われた第1の部分とは別個である。しかしながら、半導体の前面22においてバイアス物質28とコレクタ40との間に小さい間隙距離DG(図3)があるように、2つの表面部分は互いに近接している。本実施形態において、コレクタ40は、バイアス物質の開口部42に配置されているが、この構成は必須ではない。コレクタ40は、好ましくは不透明である。コレクタ40は、半導体との界面に配置された金属を含み、この金属は、半導体の標準フェルミ準位とは異なるフェルミ準位を有し、半導体とのショットキー接触を形成している。図示する実施形態において、コレクタ40は、単一の金属の単体の塊であるが、コレクタは、異なる金属の複数の層を含んでもよい。コレクタ40は、外部回路に接続する端子としての役割を果たすように適合している。
【0026】
コレクタ40は、半導体に第2の空乏領域44を形成している。この空乏領域は、コレクタによって覆われた前面の第2の領域の後方に延在している。図3に概略的に示すように、第2の空乏領域は、半導体の前面に平行な方向において、コレクタ40を越えて横方向にも延在している。本実施形態において、コレクタ40を越えた第2の空乏領域44の横方向の広がりと、バイアス物質30を越えた第1の空乏領域30の横方向の広がりとの和は、間隙距離DGよりも大きく、そのため、第1の空乏領域と第2の空乏領域とは互いに統合している。統合された空乏領域は、第1の空乏領域と第2の空乏領域との間に延在する連続した少数キャリアチャネルを形成している。
【0027】
曲線45は、第2の空乏領域44における伝導帯のエネルギー準位を概略的に示す。望ましくは、第2の空乏領域44のビルトイン電圧VBI44は、第1の空乏領域30のビルトイン電圧VBI30よりも低い。したがって、半導体の前面22に隣接して、バイアス物質28とコレクタ40との間の間隙を横切って、横方向に向けられた電界成分が存在する。この横方向に向けられた電界成分は、少数キャリア(n型半導体では正孔)を、第1の空乏領域30から第2の空乏領域44までコレクタ40に向かって横方向に加速する傾向がある。横方向に向けられた電界成分は、コレクタから離れるように、反対の横方向に多数キャリア(電子)を向ける。
【0028】
上述したようなセルは、開回路、暗状態にある。使用時、セルは、スイッチ54と直列の負荷52等、外部回路要素50に接続されて、負荷50及びセルを含む回路を形成する。回路が作動状態にあるとき、スイッチ54が閉じた状態で、負荷は、コレクタ40と電極26との間に導電接続される。光が、バイアス物質を通過して半導体本体内に入る。光は、半導体によって吸収される際、電子を価電子帯から伝導帯に押し進め、したがって、第1の空乏領域30内に追加のキャリア、すなわち電子及び正孔が生成される。第1の空乏領域内の厚さ方向における電界成分は、追加のキャリアを反対方向に駆動する。少数キャリア(正孔)は、半導体の前面に向かって駆動され、一方、多数キャリア(伝導帯電子)は、前面から離れて、空乏領域30の外側の半導体のバルク内に駆動される。同時に、正孔は、横方向に向けられた電界により、第2の空乏領域44及びコレクタ40に向かって横方向に推進される。さらに、コレクタ40は不透明であるため、第2の空乏領域44には光が非常にわずかにしか又は全く届かない。したがって、本質的に、第2の空乏領域44には追加のキャリアが生成されない。第2の空乏領域における正孔の濃度は、第1の空乏領域30における正孔の濃度よりもはるかに低くなる。第1の空乏領域と第2の空乏領域との間の正孔濃度の勾配により、第1の空乏領域に形成された正孔の第2空乏領域内への拡散電流とコレクタに向かう拡散電流とが生成される。
【0029】
空乏領域は、低濃度の多数キャリア(電子)を有するため、電子-正孔の再結合が制限される。連続した少数キャリアチャネルにより、第1の空乏領域30に形成された少数キャリアが、高濃度の多数キャリアを有する半導体の領域を通過することなく、第2の空乏領域44まで進むことができることが保証される。さらに、少数キャリア(正孔)は電界及び濃度勾配によって駆動されるため、少数キャリアがこのコレクタに達するために必要な時間が最短となり、したがって、再結合損失が更に制限される。多数キャリア(電子)は、半導体のバルク内に入り、電極26に拡散する。少数キャリアがコレクタ40に流れ、多数キャリアが電極26に流れることにより、セル内に所望の光電流が構成される。
【0030】
空乏領域の外側の半導体内には、本質的に電界は存在しない。したがって、空乏領域30及び44の外側の半導体素子20のバルク領域にキャリア対が形成される場合、キャリアは、拡散のみによって移動する。直接遷移型半導体のキャリア再結合時間が非常に短いため、且つ、バルク領域が高濃度の多数キャリアを有するため、空乏領域の外側の光の吸収によって発生する少数キャリアの本質的に全てが、再結合によって失われる。最も好ましくは、バイアス物質28を通過する光の大部分が、第1の空乏領域30内で吸収される。言い換えれば、第1の空乏領域の厚さは、最も好ましくは、半導体の吸収領域の厚さよりも大きく、より好ましくは、吸収領域の厚さの少なくとも約2倍である。半導体の前面22からの深さXにおける光強度IXは、以下の式によって与えられる。
IX=I0e-αX
式中、I0は、前面22における光の強度であり、αは、半導体に突き当たる光に対する半導体の吸収係数である。本開示において別段の指定がない限り、αの値は、半導体のバンドギャップよりも大きいエネルギーを有する日射の部分に対する平均値として解釈されるべきである。
【0031】
本開示で用いる場合の吸収領域の厚さtAは、α-1に等しい深さxに等しいものと解釈される。この深さでは、IX/I0は、e-1又は約0.37に等しい。言い換えれば、tAは、入ってくる光子の約63%が吸収された深さxである。tAの2倍に等しい深さxでは、IX/I0は約0.14であり、そのため、入ってくる光子の86%が吸収されている。単に例として、酸化亜鉛半導体では、tAは、およそ100ナノメートルである。
【0032】
スイッチ54が閉じられ、セルが照明されると、電流は、コレクタ40から外部回路50の負荷52を通り電極26に入る。言い換えれば、電子は、電極26からコレクタ40に流れる。負荷52の両端の電圧は、コレクタ40と電極26との間の外部バイアス電圧として現れる。負荷によって印加されるこの外部バイアスは、コレクタと半導体との間のショットキー接触によって印加される第2の空乏領域内の電界を打ち消す。これにより、曲線45’(図3)によって概略的に示すように、事実上、ビルトイン電圧が低下するとともに第2の空乏領域44の寸法が低減する。望ましくは、負荷がかかっているときの第2の空乏領域の寸法の低減にも関わらず、第1の空乏領域との幾分かの重なりが依然として存在し、そのため、負荷状態において連続した少数キャリアチャネルはそのままである。しかしながら、バイアス物質28が、半導体を介する以外にコレクタ40に導電接続されていないため、負荷電圧によって印加される外部バイアスは、バイアス物質に直接印加されず、そのため、ビルトイン電圧と第1の空乏領域30の寸法とは、実質的に影響を受けないままである。
【0033】
さらに、外部バイアス電圧は、半導体のバルク領域からの幾分かの多数キャリアが、空乏領域内の電界に抗してセルの前面に向かって移動するため、光電流と反対の電流を発生させる傾向がある。この逆電流により、セル内で流れる光電流が低減する。しかしながら、外部バイアス電圧は、バイアス物質28ではなくコレクタ40に印加されるため、この効果は、主に、コレクタ40と位置合せされた半導体本体の領域で発生する。これらの領域は、セルの比較的小さい部分を構成する。さらに、横方向に向けられた電界が多数キャリアを第2の空乏領域から上述した第1の空乏領域に向かって駆動する作用により、逆電流が低減する。さらに、本実施形態におけるコレクタ40は不透明であるため、半導体のこれらの領域は実質的に照明されない。コレクタに位置合せされた半導体の領域にキャリアがほとんど又は全く形成されず、したがって、これらの領域は低いキャリア濃度を有する。したがって、透明なコレクタを有する同等のセルにおける場合よりも、逆電流が小さくなる。
【0034】
本明細書で考察するセルは、コレクタとバイアス物質とが互いに直接導電接続されないという点で、「隔離された収集及びバイアスシステム(isolated collection and biasing system)」セル、すなわち「ICBS」セルと称される。上述したように、コレクタとバイアス物質との唯一の接続は、半導体を介する。ICBSセルでは、第1の空乏領域の深さは、動作中に負荷によって印加されるバイアス電圧に実質的に影響を受けない。さらに、負荷によって誘導される逆電流は、他の点では同等のショットキーセルにおける逆電流よりも小さい。さらに、バイアス物質及びコレクタが別個であることにより、これらの素子において異なる材料を使用することができ、そのため、各素子の材料を、半導体とのその特定の機能に最適化することができる。これらの利点について、以下、実施例1によって更に説明する。
【0035】
実施例1
【0036】
概して、図1図3を参照して上述した実施形態による多数のICBSセルを、n型ガリウムヒ素半導体と、金から形成された不透明なコレクタと、銀から形成されたバイアス物質とを使用して形成した。様々なICBSセルのコレクタは、異なる形状であった。各ICBSセルは、コレクタとバイアス物質との間に約100nmの間隙を有しており、そのため、コレクタとバイアス物質とは、互いに直接導電接続されていなかったが、上述したように、第1の空乏領域と第2の空乏領域との間に連続した少数キャリアチャネルが延在していた。ICBSセルを試験した。ICBSセルから、各セルのコレクタとバイアス物質との間に金属シャントを接続し、コレクタ及びバイアス物質が複合ショットキー接触を形成するようにすることにより、ショットキーセルを形成した。シャントは、半導体に接触していなかった。したがって、ショットキーセルは、シャントの存在を除き、ICBSセルと同一であった。ICBSセル及びショットキーセルの性能を、同じ照明及び測定機器を使用して測定した。その結果を以下の表に示す。
【0037】
【表1】
【0038】
表において、RSは直列抵抗であり、Rshはシャント抵抗であり、ΦBは障壁高さであり、J0は逆飽和電流であり、VOCは開放電圧であり、JSCは短絡電流であり、FFはフィルファクタである。フィルファクタは、開放電圧及び短絡電流の積に対する得られる最大電力の比である。表における各値は、「セル構造」列にラベル付けされたICBSセルに対する平均又はショットキーセルに対する平均である。
【0039】
ICBSセルは、ショットキーセルよりも高いVOC、高いJSC及び高いFFを有し、したがって、ICBSセルは、ショットキーセルよりも実質的に多くの電力を発生させた。
【0040】
本発明の更なる実施形態によるセル(図4及び図5)は、図1図3を参照して上述したように、半導体素子120、電極126、バイアス物質128及びコレクタ140を組み込んでいる。ここでもまた、バイアス物質128は、第1の空乏領域130を形成し、コレクタ140は、第2の空乏領域144を形成している。図4及び図5のセルにおいて、バイアス物質128とコレクタとの間の間隙に、固定電荷を有する誘電体147が設けられている。誘電体147の電荷は、半導体における多数キャリアに反発するようなものである。例えば、半導体素子がn型である場合、半導体に隣接する誘電体における固定電荷は負である。したがって、帯電した誘電体は、間隙と位置合せされた半導体の小さい領域に更なる空乏領域160を誘導する。この追加の空乏領域は、第1の空乏領域130及び第2の空乏領域144と重なり、それにより、バイアス物質128とコレクタ140との間の間隙距離DGが、第1の空乏領域130が第2の空乏領域と重ならないようなものである場合であっても、第1の空乏領域及び第2の空乏領域を含む連続した少数キャリアチャネルが存在する。言い換えれば、バイアス物質128とコレクタ140との間の間隙距離DGは、バイアス物質128を越える第1の空乏領域の横方向の広がりとコレクタ140を越える第2の空乏144領域の横方向の広がりとの和よりも大きくてもよい。間隙距離DGが比較的大きくてもよいため、コレクタ及びバイアス物質を形成するために使用されるプロセスにおいて要求される精度を低下させることができる。さらに、厳しい負荷条件下で、連続した少数キャリアチャネルを維持することができる。
【0041】
誘電体147は、図4に最もよく見えるように、バイアス物質128を覆うパッシベーション層としての役割を果たしてもよい。追加の空乏領域160を誘導する誘電体における電荷は、誘電体と半導体との界面における表面電荷として形成されてもよい。更なる変形形態において、誘電体は、エレクトレット、すなわち、分離された固定の正電荷及び負電荷を有する有機誘電体等の誘電体であってもよい。半導体素子がn型である場合、負電荷は半導体に隣接して配置され、正電荷は半導体から離れて配置される。
【0042】
本発明の更なる実施形態によるセル(図6)は、上述した対応する素子と同様の半導体素子220、電極226及びコレクタ240を含む。図6のセルにおいて、バイアス物質は、内部に固定電荷を有する誘電体である。本実施形態で使用される誘電体は、図4及び図5を参照して上述した誘電体と同様であってもよい。この場合、誘電体は、少数キャリアの反発によって第1の空乏領域230を誘導する。バイアス物質が誘電体であるため、バイアス物質230は、コレクタとの導電接続を確立することなくコレクタ240に接触してもよい。言い換えれば、バイアス物質によって占有された半導体前面の第1の領域は、コレクタによって占有された半導体前面の第2の領域と連続していてもよい。バイアス物質はコレクタに近接して又は連続して形成することができるため、コレクタとバイアス物質との間の間隙距離は、小さいか又は存在しなくてもよい。これにより、第1の空乏領域及び第2の空乏領域を含む連続した少数キャリアチャネルの形成及び維持が容易になる。本実施形態によるセルは、誘電体バイアス物質を形成して、コレクタが堆積されるべき1つ以上の空間を残し、次いで、これらの1つ以上の空間にコレクタを堆積させて、空間を完全に充填することにより、作製することができる。こうしたプロセスでは、コレクタ堆積プロセスの正確な制御は不要である。
【0043】
本明細書で考察する実施形態のうちのいずれにおいても、コレクタは、セルの前面の上に分散された複数の素子を含む構成で形成されてもよい。例えば、図7のセルは、複数の別個のコレクタ素子341として形成されたコレクタを含み、各コレクタ素子341は、バイアス物質328の開口部を通して半導体素子の前面と接触している。コレクタ素子341は、ワイヤ又はトレース301等の導体によって互いに導電接続されている。更なる変形(図8)では、コレクタ素子441は、バイアス物質428に形成されたスロット内に延在する長尺状ストリップを含み、コレクタ素子は、互いに導電接続されている。多素子コレクタを使用するこれらの実施形態及び他の実施形態において、コレクタとバイアス素子との間に導電接続を形成することなく、バイアス物質によって形成された第1の空乏領域とコレクタによって形成された第2の空乏領域との間に連続した少数キャリアチャネルを維持するために必要な上述した条件は、コレクタとバイアス物質との素子の間の各境界に沿って提供される。コレクタは、単一の素子を含むか複数の素子を含むかに関わらず、望ましくは、半導体素子の前面のわずかな部分のみを占有する。望ましくは、バイアス物質は、前面の少なくとも約75%を占有する。コレクタによって覆われる第2の領域の面積に対するバイアス物質によって覆われる第1の領域の面積の比は、望ましくは、少なくとも約5:1、より望ましくは約7:1、又はそれより大きい。図7及び図8の実施形態は、多数キャリアを受け取るために電極26に類似する電極(図示せず)を含み、これらの実施形態における電極は、例えばセルの後面のように、半導体の任意の面に配置されてもよい。
【0044】
図1図6の実施形態において、電極は、半導体素子の前面の凹部に配置されているが、これは単に例示であり、半導体素子の前面は平面であって、電極は、前面のバイアス物質又はコレクタによって占有されていない部分、半導体素子の後面、又はバイアス物質、コレクタ及び空乏領域から離れた他の任意の場所に配置されてもよい。
【0045】
上述した実施形態において、半導体素子全体は、完全にn型半導体から形成されている。好適な直接遷移型半導体がp型として利用可能である場合、素子全体は、p型半導体から形成することができる。こうした実施形態におけるコレクタ及びバイアス素子は、空乏領域を形成する半導体よりも高いフェルミ準位(低い仕事関数)を有する。固定電荷を有する誘電体を使用して空乏領域が形成される場合、誘電体は正電荷を有する。
【0046】
上述した実施形態において、半導体素子全体は、完全に1つの型の半導体で形成されている。しかしながら、半導体素子は、セルを形成する領域の外側に反対の型の領域を含んでもよい。
【0047】
上述したセルは、効果的な光起電力変換を提供することができ、広バンドギャップ半導体を含む容易に入手可能な直接遷移型半導体を使用して作製することができる。好適な半導体には、III-V族半導体及びII-VI族半導体が含まれる。III-V族半導体の例は、ガリウム、インジウム及びアルミニウムからなる群から選択された1つ以上の元素と、窒素、リン、ヒ素及びアンチモンからなる群から選択された1つ以上の元素とを含むものである。II-VI族半導体の例は、カドミウム、亜鉛、水銀及びコバルトからなる群から選択された金属と、酸素、硫黄、セレン及びテルルからなる群から選択された1つ以上の元素とを含むものである。バンドギャップを調整するために、遷移金属元素及び希土類元素等の他の元素を、III-V族半導体及びII-VI族半導体と合金することができる。したがって、本開示で用いる場合の「III-V族半導体」及び「II-VI族半導体」という用語は、別段の指定がない限り、合金元素を含むか又は含まないこうした半導体を指す。
【0048】
上述したセルは、様々な目的に使用することができる。しかしながら、太陽光発電等の用途では、マルチセル構造体において上述したセルのうちの任意のものを使用することができ、マルチセル構造体は、異なるバンドギャップを有する2つ以上のセルを組み込み、それらセルは、バンドギャップが最も広いセルが構造体の前面にあり、バンドギャップが最も狭いセルが後面にあるように、バンドギャップの降順に配置されている。バンドギャップが最も広いセルは、1つ以上のよりバンドギャップの狭いセルの前面に配置される。セルは、別個に形成して、その後、互いに取り付けることができる。他の配置では、バンドギャップの広い方の半導体が、格子整合層等の要素が介在してもしなくても、バンドギャップの低い方の半導体の上で成長する。マルチセル構造体の1つの例を図9に示す。この構造体は、直接遷移型半導体素子520と、バイアス物質528と、半導体素子の前面522に配置されたコレクタ540とを有する、上述したセルと同様の第1のセル501を含む。ここでもまた、上述したように、バイアス物質は、第1の空乏領域530と、第2の空乏領域(図示せず)を形成するコレクタ540とを形成している。ここでもまた、第1の空乏領域及び第2の空乏領域を含む連続した少数キャリアチャネルが存在する。広バンドギャップ半導体と接触して電極526が設けられている。この構造体は、第1のセル501の半導体素子520の後面524の後方に配置された半導体素子505を有する第2のセル503を更に含む。第2のセルの半導体素子505は、第1のセルの半導体素子520よりも狭いバンドギャップを有する。第2のセル、すなわちセル503は、半導体505と接触する電極507及び509を含む。例えば、セル503は、従来のシリコンショットキーセル又は従来のシリコンpn接合セルであってもよい。2つのセル構造体において、第2の、バンドギャップが狭い方のセルの半導体素子がシリコンから形成される場合、第1の、バンドギャップが広い方のセルは、望ましくは、1.4eV以上、より望ましくは1.6eV以上、最も望ましくは1.8eV以上のバンドギャップを有する。
【0049】
広バンドギャップセル501が、例えば、半導体520の吸収領域の厚さの少なくとも2倍のような、厚さ吸収領域の厚さよりも実質的に厚い、第1の空乏領域530を有する場合、半導体520のバンドギャップよりも大きいエネルギーを有する短波長光子の本質的に全てが、第1の空乏領域内で吸収され、有用な電気エネルギーに変換される。この場合、広バンドギャップ半導体素子520の厚さ(前面522から後面524まで)は、効率を損なうことなく、第1の空乏領域の厚さよりもはるかに大きくすることができる。しかしながら、第1の空乏領域の厚さが吸収領域の厚さの約2倍未満である場合、短波長光子のかなりの部分が、第1の空乏領域内で吸収されないことになる。この場合、広バンドギャップ半導体素子520の厚さは、望ましくは、第1の空乏領域530の厚さの2倍未満、より望ましくは第1の空乏領域の厚さの1.5倍未満、最も望ましくは第1の空乏領域の厚さに等しい。これにより、第1の空乏領域の外側の広バンドギャップ半導体520における短波長光子の吸収が最小限になり、それにより、第1の空乏領域530に吸収されなかった短波長光子は、狭バンドギャップセル503に入ることができ、そこで、これらの光子のエネルギーの少なくとも一部が有用な電気エネルギーに変換されることになる。
【0050】
本発明は、本明細書において特定の実施形態を参照して記載してきたが、これらの実施形態は単に本発明の原理及び応用を例示するものであることを理解されたい。したがって、例示の実施形態に対して数多くの変更を行うことができることと、添付の特許請求の範囲によって規定される本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく他の構成を考案することができることとを理解されたい。
図1
図2
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図6
図7
図8
図9