(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-28
(45)【発行日】2025-02-05
(54)【発明の名称】PERC型太陽電池セルの裏面反射層形成用ペースト組成物
(51)【国際特許分類】
H10F 10/14 20250101AFI20250129BHJP
C03C 8/16 20060101ALI20250129BHJP
H10F 77/20 20250101ALI20250129BHJP
【FI】
H10F10/14
C03C8/16
H10F77/20 140
(21)【出願番号】P 2020202279
(22)【出願日】2020-12-04
【審査請求日】2023-09-04
(73)【特許権者】
【識別番号】399054321
【氏名又は名称】東洋アルミニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ダムリン マルワン
(72)【発明者】
【氏名】辻 孝輔
(72)【発明者】
【氏名】黒木 崇志
【審査官】桂城 厚
(56)【参考文献】
【文献】独国特許出願公開第102019114498(DE,A1)
【文献】特開2012-140479(JP,A)
【文献】特開2012-101955(JP,A)
【文献】国際公開第2019/230469(WO,A1)
【文献】特開2013-004905(JP,A)
【文献】特開2008-189532(JP,A)
【文献】特開2001-031446(JP,A)
【文献】中国実用新案第211654848(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10F 10/00-99/00
C03C 8/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
PERC型太陽電池セルのシリコン半導体基板と裏面電極層との間に裏面反射層を形成するための焼成型ペースト組成物であって、
平均粒子径が0.5μm以上
3.1μm以下の白色顔料と、白色及び/又は無色透明のガラス粉末とを含有し、前記白色顔料と前記ガラス粉末との合計質量が60質量%以上
75質量%以下の範囲であり、且つ前記白色顔料と前記ガラス粉末との質量比が95:5~80:20の範囲である、
ことを特徴とする、裏面反射層形成用ペースト組成物。
【請求項2】
前記白色顔料は、酸化アルミニウム粒子、酸化チタン粒子、酸化マグネシウム粒子、酸化セレン粒子、酸化亜鉛粒子、硫酸バリウム粒子、硫酸カルシウム粒子、炭酸カルシウム粒子、及び炭酸バリウム粒子からなる群から選択された少なくとも一種である、請求項1に記載の裏面反射層形成用ペースト組成物。
【請求項3】
前記ガラス粉末は、鉛(Pb)、ビスマス(Bi)、バナジウム(V)、ホウ素(B)、シリコン(Si)、スズ(Sn)、リン(P)、及び亜鉛(Zn)からなる群から選択された少なくとも一種を含有する、請求項1又は2に記載の裏面反射層形成用ペースト組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PERC型太陽電池セルの裏面反射層形成用ペースト組成物に関し、詳細には結晶系PERC型太陽電池セルのシリコン半導体基板と裏面電極層との間に可視光及び赤外光を反射する裏面反射層を形成するための焼成型ペースト組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
結晶系太陽電池セルの変換効率(発電効率)、信頼性等を向上させるために種々の研究が実施されている。その中でもシリコン半導体基板の裏面に窒化ケイ素、酸化ケイ素、酸化アルミニウム等からなるパッシベーション膜を備えるPERC(Passivated emitter and rear cell)型太陽電池セルが高変換効率の点で有力と考えられている。
【0003】
太陽電池セルにおいて、入射光の裏面反射率を増大させるために、下記の通りさまざまな構造及び反射層が考案されている。
【0004】
例えば、特許文献1は太陽電池を開示しており、シリコン単結晶基板の裏面に形成される窒化シリコン膜の厚さを特定範囲に限定することが記載されている。特許文献2は太陽電池の裏面反射層形成用ポリイミド樹脂組成物及びそれを用いた太陽電池の裏面反射層形成方法を開示しており、BSFタイプセルの裏面反射層形成用ポリイミド樹脂組成物として有機溶媒と、該有機溶媒に溶解されたポリイミド樹脂と、該有機溶媒に分散された光反射性粒子(特に白色顔料粒子)とを含む樹脂組成物を用いることが記載されている。また、特許文献3は反射膜形成用組成物及びこの組成物を用いた反射性基板を開示しており、反射膜形成用組成物として白色顔料、ガラス、及び樹脂を含む組成物(焼成型ペースト)であって、ガラスがホウケイ酸亜鉛ガラスを含む組成物を用いることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2008-172279号公報
【文献】特開2012-69592号公報
【文献】特開2012-140479号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1及び特許文献3に記載された技術では、赤外光(1000~1200nm)の反射率が低く、十分な変換効率の向上は達成されていない。また、特許文献2に記載された技術では、そもそもBSFタイプセルはパッシベーション膜を備えるPERC型セルに比べて著しく変換効率が劣るものであり、そのままPERC型セルに流用してもパッシベーション膜との十分な密着性が得られず、パッシベーション膜と白色顔料粒子(例えばTiO2)又はTiO2と電極間で界面凝集剥離を起こすおそれがある。
【0007】
よって、本発明は、PERC型太陽電池セルのシリコン半導体基板と裏面電極層との間に可視光だけでなく赤外光(1000~1200nm)も反射でき、且つ隣接層(パッシベーション膜及び裏面電極層)との密着性にも優れた裏面反射層を形成することができる焼成型ペースト組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、特定組成からなる焼成型ペースト組成物を用いて裏面反射層を形成する場合には上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、下記のPERC型太陽電池セルの裏面反射層形成用ペースト組成物に関する。
1.PERC型太陽電池セルのシリコン半導体基板と裏面電極層との間に裏面反射層を形成するための焼成型ペースト組成物であって、
平均粒子径が0.5μm以上3.1μm以下の白色顔料と、白色及び/又は無色透明のガラス粉末とを含有し、前記白色顔料と前記ガラス粉末との合計質量が60質量%以上75質量%以下の範囲であり、且つ前記白色顔料と前記ガラス粉末との質量比が95:5~80:20の範囲である、
ことを特徴とする、裏面反射層形成用ペースト組成物。
2.前記白色顔料は、酸化アルミニウム粒子、酸化チタン粒子、酸化マグネシウム粒子、酸化セレン粒子、酸化亜鉛粒子、硫酸バリウム粒子、硫酸カルシウム粒子、炭酸カルシウム粒子、及び炭酸バリウム粒子からなる群から選択された少なくとも一種である、上記項1に記載の裏面反射層形成用ペースト組成物。
3.前記ガラス粉末は、鉛(Pb)、ビスマス(Bi)、バナジウム(V)、ホウ素(B)、シリコン(Si)、スズ(Sn)、リン(P)、及び亜鉛(Zn)からなる群から選択された少なくとも一種を含有する、上記項1又は2に記載の裏面反射層形成用ペースト組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明のPERC型太陽電池セルの裏面反射層形成用ペースト組成物によれば、当該ペースト組成物を塗布及び焼成することにより、シリコン半導体基板と裏面電極層との間に可視光だけでなく赤外光(1000~1200nm)も反射でき、且つ隣接層(パッシベーション膜及び裏面電極層)との密着性にも優れた裏面反射層を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】PERC型太陽電池セルの断面構造を模式的に示す図であり、(A)は裏面反射層を有さない従来品のPERC型太陽電池セルの一例であり、(B)は裏面反射層を有する本発明のPERC型太陽電池セルの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明のPERC型太陽電池セルの裏面反射層形成用ペースト組成物について詳細に説明する。なお、本明細書において、「~」で示される範囲は、特に説明する場合を除き「以上、以下」を意味する。また、位置関係についてPERC型太陽電池セルの受光面(側)を「おもて面(側)」又は「上面(側)」と称し、受光面とは逆面(側)を「裏面(側)」又は「下面(側)」と称する。
【0013】
最初に、PERC型太陽電池セルの構造の一例を説明する。
【0014】
1.PERC型太陽電池セル
図1(A)は、PERC型太陽電池セルの一般的な断面構造の模式図である。PERC型太陽電池セルは、シリコン半導体基板1、n型不純物層2、反射防止膜(パッシベーション膜)3、グリッド電極4、裏面電極層5、合金層6、p+層7を構成要素として備えることができる。裏面電極層5と合金層6とを合わせて裏面電極8と称する。
【0015】
なお、本発明のPERC型太陽電池セルの一例を示す
図1(B)は、
図1(A)において、シリコン半導体基板の裏面のパッシベーション膜3と裏面電極層5との間に裏面反射層9が焼成により形成されていることを特徴とする。
【0016】
これにより、本発明の裏面反射層形成用ペースト組成物により形成された裏面反射層を備える本発明のPERC型太陽電池セルは、入射光のうち可視光だけでなく赤外光(1000~1200nm)も反射でき、従来品よりも高い変換効率を達成することができる。また、本発明のPERC型太陽電池セルは、裏面反射層とその隣接層(パッシベーション膜及び裏面電極層)との密着性にも優れる。
【0017】
シリコン半導体基板1は特に限定されず、例えば、厚みが180~250μmのp型シリコン基板が用いられる。
【0018】
n型不純物層2は、シリコン半導体基板1の受光面側に設けられる。n型不純物層2の厚みは、例えば、0.3~0.6μmである。
【0019】
反射防止膜3及びグリッド電極4は、n型不純物層2の表面に設けられる。反射防止膜3は、例えば、窒化シリコン膜で形成されパッシベーション膜とも称される。反射防止膜3は、いわゆるパッシベーション膜として作用することで、シリコン半導体基板1の表面での電子の再結合を抑制でき、結果として、発生したキャリアの再結合率を減らすことを可能にする。これにより、PERC型太陽電池セルの変換効率が高められる。
【0020】
反射防止膜(パッシベーション膜)3は、シリコン半導体基板1の裏面側、つまり、前記受光面と逆側の面にも設けられる。また、この裏面側の反射防止膜(パッシベーション膜)3を貫通し、かつ、シリコン半導体基板1の裏面の一部を削るように形成されたコンタクト孔(開口部)が、シリコン半導体基板1の裏面側に形成されている。コンタクト孔の形成方法は限定的ではないが、レーザー照射などを用いて開口部を設けるいわゆるLCO(Laser contact opening)の方法が一般的である。
【0021】
裏面電極層5は、前記コンタクト孔を通じてシリコン半導体基板1に接触するように形成されている。裏面電極層5は、一般にアルミニウム粉末(アルミニウム合金粉末を含んでもよい)などの導電性粉末を含有するペースト組成物によって形成される部材であり、所定のパターン形状に形成される。
図1(A)、(B)に示すように、裏面電極層5は、PERC型太陽電池セルの裏面全体を覆うように形成されていてもよいし、コンタクト孔及びその近傍を覆うように形成されていてもよい。裏面電極層5の主成分は一般にアルミニウムであるので、裏面電極層5は一般にアルミニウム電極層である。
【0022】
裏面電極層5は、例えば、アルミニウムペースト組成物を所定のパターン形状に塗布し、焼成することで形成される。塗布方法は特に限定されず、例えば、スクリーン印刷等の公知の方法が挙げられる。アルミニウムペースト組成物を塗布し、必要に応じて乾燥させた後、例えば、アルミニウムの融点(約660℃)を超える温度にて短時間焼成することで裏面電極層5が形成される。本発明の裏面反射層形成用ペースト組成物を適用する際は、シリコン半導体基板の裏面のパッシベーション膜の裏面に本発明の裏面反射層形成用ペースト組成物を塗布し、次いでコンタクト孔を形成した後、アルミニウムペースト組成物を塗布し、更にこれらを焼成すればよい。
【0023】
本発明では、焼成温度はアルミニウムの融点(約660℃)を超える温度であればよいが、750~950℃程度が好ましく、780~900℃程度がより好ましい。焼成時間は所望の裏面反射層9と裏面電極層5とが形成される範囲で焼成温度に応じて適宜設定することができる。
【0024】
このように焼成すると、アルミニウムペースト組成物に含まれるアルミニウムが、シリコン半導体基板1の内部に拡散する。これにより、裏面電極層5とシリコン半導体基板1との間に、アルミニウム-シリコン(Al-Si)合金層(合金層6)が形成され、これと同時に、アルミニウム原子の拡散によって、不純物層としてのp+層7が形成される。また、焼成により裏面反射層9が形成される。
【0025】
p+層7は、電子の再結合を防止し、生成キャリアの収集効率を向上させる効果、いわゆる、BSF(Back Surface Field)効果をもたらすことができる。
【0026】
2.本発明の裏面反射層形成用ペースト組成物
本発明の裏面反射層形成用ペースト組成物(「本発明のペースト組成物」ともいう)は、PERC型太陽電池セルのシリコン半導体基板と裏面電極層との間に裏面反射層を形成するための焼成型ペースト組成物であって、
平均粒子径が0.5μm以上3.5μm以下の白色顔料と、白色及び/又は無色透明のガラス粉末とを含有し、前記白色顔料と前記ガラス粉末との合計質量が60質量%以上80質量%以下の範囲であり、且つ前記白色顔料と前記ガラス粉末との質量比が98:2~60:40の範囲であることを特徴とする。
【0027】
本発明のペースト組成物によれば、当該ペースト組成物を塗布及び焼成することにより、シリコン半導体基板と裏面電極層との間に可視光だけでなく赤外光(1000~1200nm)も反射でき、且つ隣接層(パッシベーション膜及び裏面電極層)との密着性にも優れた裏面反射層を形成することができる。
【0028】
本発明のペースト組成物は、構成成分として前記白色顔料と、前記ガラス粉末と、後述する有機ビヒクルとを少なくとも含有する。以下、本発明のペースト組成物の構成成分について説明する。
【0029】
(白色顔料)
本発明における白色顔料としては、平均粒子径が0.5μm以上3.5μm以下のものを用いる。平均粒子径が上記範囲であることにより可視光だけでなく赤外光についても高い反射性を発揮することができる。これにより、シリコン半導体基板を透過した入射光を効率的に反射してPERC型太陽電池セルの変換効率を高めることができる。
【0030】
なお、上記平均粒子径は、数平均粒子径を指す。本発明のペースト組成物中の白色顔料(無機粒子)は、凝集が完全にほぐれた1次粒子の状態にあるものと複数個の1次粒子が凝集した2次粒子にあるものが存在する。ここで、ペースト組成物中の無機粒子の粒子径とは、凝集していない1次粒子はその粒子の粒子径であり、1次粒子が凝集したものはその凝集体の粒子径である。ペースト組成物中の無機粒子の平均粒子径を測定する方法としては、SEM(走査型電子顕微鏡)により直接粒子を観察し、粒子径の数平均を計算する方法が挙げられる。
【0031】
白色顔料としては、具体的に酸化アルミニウム粒子、酸化チタン粒子、酸化マグネシウム粒子、酸化セレン粒子、酸化亜鉛粒子、硫酸バリウム粒子、硫酸カルシウム粒子、炭酸カルシウム粒子、及び炭酸バリウム粒子からなる群から選択された少なくとも一種が挙げられる。これらの中でも、屈折率などの光学特性、熱膨張率、耐環境性等の点からは酸化アルミニウム及び酸化チタン(特に二酸化チタン)の少なくとも一種が好ましい。なお、白色顔料は無機粒子であるが、当業者の認識上も明らかな通り、白色顔料と後述するガラス粉末とは成分的にも概念的にも区別されている。
【0032】
白色顔料の形状は特に限定されず、球状、楕円状、鱗片状、不定形状等の中から適宜に使用することができる。
【0033】
(ガラス粉末)
本発明におけるガラス粉末は、白色及び/又は無色透明のガラス粉末である。本発明のペースト組成物において、ガラス粉末は白色顔料どうしやシリコン半導体基板と白色顔料、更には白色顔料と裏面電極層との密着性を付与する。
【0034】
上記ガラス粉末は、鉛(Pb)、ビスマス(Bi)、バナジウム(V)、ホウ素(B)、シリコン(Si)、スズ(Sn)、リン(P)、及び亜鉛(Zn)からなる群から選択された少なくとも一種を含有することが好ましい。具体的には、鉛を含むガラス粉末、又はビスマス系、バナジウム系、スズ-リン系、ホウケイ酸亜鉛系、アルカリホウケイ酸系等の無鉛のガラス粉末を用いることができる。特に人体への影響を考慮すると、無鉛のガラス粉末を用いることが望ましい。
【0035】
上記ガラス粉末の軟化点は650℃以下であることが好ましい。また、ガラス粉末を構成するガラス粒子の体積平均粒子径D50は、1~3μmであることが好ましい。
【0036】
本発明のペースト組成物では、前記白色顔料と前記ガラス粉末との質量比は98:2~60:40の範囲であり、その中でも95:5~80:20の範囲が好ましい。かかる範囲であることにより、可視光及び赤外光の反射率を高く確保しながら裏面反射層と隣接層(パッシベーション膜及び裏面電極層)との優れた密着性が得られる。
【0037】
(有機ビヒクル)
本発明のペースト組成物は、バインダーとして有機ビヒクルを更に含有する。有機ビヒクルとしては、溶剤に各種添加剤及び/又は樹脂を溶解した材料を使用できる。又は溶剤を含まず、樹脂そのものを有機ビヒクルとして使用してもよい。
【0038】
上記溶剤としては、公知の種類が使用可能であり、具体的には、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、及びジプロピレングリコールモノメチルエーテルからなる群から選択される少なくとも一種が挙げられる。
【0039】
各種添加剤としては、例えば酸化防止剤、腐食抑制剤、消泡剤、増粘剤、タックファイヤー、カップリング剤、静電付与剤、重合禁止剤、チキソトロピー剤、沈降防止剤等の一種以上が挙げられる。具体的には、ポリエチレングリコールエステル化合物、ポリエチレングリコールエーテル化合物、ポリオキシエチレンソルビタンエステル化合物、ソルビタンアルキルエステル化合物、脂肪族多価カルボン酸化合物、燐酸エステル化合物、ポリエステル酸のアマイドアミン塩、酸化ポリエチレン系化合物、脂肪酸アマイドワックス等を使用することができる。
【0040】
上記樹脂としては公知の種類が使用可能であり、例えばエチルセルロース、ニトロセルロース、ポリビニールブチラール、フェノール樹脂、メラニン樹脂、ユリア樹脂、キシレン樹脂、アルキッド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂、フラン樹脂、ウレタン樹脂、イソシアネート化合物、シアネート化合物等の熱硬化性樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ABS樹脂、ポリメタクリル酸メチル、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンオキサイド、ポリスルフォン、ポリイミド、ポリエーテルスルフォン、ポリアリレート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリ4フッ化エチレン、シリコン樹脂等から選択される一種又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0041】
有機ビヒクルに含まれる樹脂、溶剤、各種添加剤の割合は任意に調整することができ、例えば、公知の有機ビヒクルと同様の成分比とすることができる。
【0042】
本発明のペースト組成物は、前記白色顔料と前記ガラス粉末との合計質量が60質量%以上80質量%以下の範囲であり、75質量%以上80質量%以下の範囲が好ましい。かかる範囲内であることにより、可視光及び赤外光の反射率を高く確保しながら裏面反射層と隣接層(パッシベーション膜及び裏面電極層)との優れた密着性が得られる。
【実施例】
【0043】
以下に実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明する。但し、本発明は実施例に限定されない。なお、実施例1、2、5及び6はいずれも参考例である。
【0044】
実施例1
代表的な白色顔料である平均粒子径0.5μmの球状酸化アルミニウム粉末36質量部と、B2O3-Bi2O3-SrO-BaO-Sb2O3=40/40/10/5/5(mol%)で示される白色ホウ酸系ガラス粉末24質量部と、エチルセルロースをブチルジグリコールに溶解した樹脂溶液40質量部とを既知の分散装置(ディスパー)を用いて混合することにより裏面反射層形成用ペースト組成物を調製した。
【0045】
評価用のPERC型太陽電池セルを以下の手順で作製した。まず、
図1に示すような、上面パッシベーション膜と裏面パッシベーション膜(窒化ケイ素膜)とを備える、厚みが180μmのパッシベーション膜付きのシリコン半導体基板を準備した。シリコン半導体基板は抵抗値3Ω・cmであり、公知の裏面パッシベーション型単結晶である。
【0046】
次に、シリコン半導体基板の裏面に、スクリーン印刷機により0.5~0.6g/セルとなるように裏面反射層形成用ペースト組成物を全面印刷し100℃で10分乾燥した。
【0047】
次に、レーザー発振器として波長が532nmのYAGレーザーを用いて、幅50μm、深さがシリコン半導体基板に対して1μmのコンタクト孔を乾燥後の裏面反射層形成用ペースト組成物の塗膜を貫通してシリコン半導体基板の裏面に形成した。
【0048】
次に、裏面全体(コンタクト孔が形成されている側の面)を覆うように、公知のアルミニウムペーストを、スクリーン印刷機により1.0~1.1g/セルとなるように印刷し、乾燥した。次いで受光面に公知の技術で作製したAgペーストを印刷した。
【0049】
次いで、800℃に設定した赤外ベルト炉を用いて焼成した。この焼成により、裏面電極層を形成し、また、焼成の際にアルミニウムがシリコン半導体基板の内部に拡散することにより、裏面電極層とシリコン半導体基板との間にAl-Si合金層が形成されると同時にアルミニウム原子の拡散による不純物層としてp+層(BSF層)が形成された。これにより、評価用のPERC型太陽電池セルを作製した。
【0050】
得られた太陽電池セルの評価においては、Jscが37.95mA/cm2以上であるものは裏面反射層による可視光及び赤外光の反射率向上が得られており、積分球分光光度計を用いて波長1000~1200nmの赤外光を受光面側から入射させて反射率を測定した結果は50%以上であった。
【0051】
密着性の評価については、シリコン半導体基板に形成された裏面電極層の表面にメンディングテープ(12mm幅、3M社製)を長さ3cm程度貼り付けた後、シリコン半導体基板に対し45度の角度で勢いよくテープを剥がし、アルミニウムが付着した部分の合計面積と、貼り付けた元のメンディングテープ面積の割合を、二値化処理可能な解析ソフトを用いて算出することで評価を行った。密着性の評価は、全て同一人物が同一の姿勢、角度、力、及び一定の速度で行った。メンディングテープにアルミニウムの付着が全くないものをA(良好)、少しでも付着していたものをB(不良)と評価した。
【0052】
総合評価については、Jscが37.95mA/cm2以上(すなわち、裏面反射層による可視光及び赤外光の反射率向上が得られている)及び密着性の評価がA(良好)を満たすものをA(良好)と評価し、いずれかを満たさないものはB(不良)と評価した。
【0053】
各実施例の詳細を表1に示す。
【0054】
実施例2
平均粒子径0.8μmの球状酸化アルミニウム粉末42質量部と、白色ホウ酸系ガラス粉末18質量部を用いた以外は実施例1と同様にして裏面反射層形成用ペースト組成物を調製し、評価を行った。
【0055】
実施例3
平均粒子径1.0μmの棒状酸化アルミニウム粉末48質量部と、白色ホウ酸系ガラス粉末12質量部を用いた以外は実施例1と同様にして裏面反射層形成用ペースト組成物を調製し、評価を行った。
【0056】
実施例4
平均粒子径2.0μmの球状酸化アルミニウム粉末48質量部と、白色ホウ酸系ガラス粉末12質量部を用いた以外は実施例1と同様にして裏面反射層形成用ペースト組成物を調製し、評価を行った。
【0057】
実施例5
平均粒子径0.5μmの球状二酸化チタン粉末42質量部と、白色ホウ酸系ガラス粉末28質量部と、樹脂溶液30質量部を用いた以外は実施例1と同様にして裏面反射層形成用ペースト組成物を調製し、評価を行った。
【0058】
実施例6
平均粒子径1.0μmの球状二酸化チタン粉末49質量部と、白色ホウ酸系ガラス粉末21質量部を用いた以外は実施例5と同様にして裏面反射層形成用ペースト組成物を調製し、評価を行った。
【0059】
実施例7
平均粒子径2.2μmの球状二酸化チタン粉末56質量部と、白色ホウ酸系ガラス粉末14質量部を用いた以外は実施例5と同様にして裏面反射層形成用ペースト組成物を調製し、評価を行った。
【0060】
実施例8
平均粒子径3.1μmの球状二酸化チタン粉末56質量部と、白色ホウ酸系ガラス粉末14質量部を用いた以外は実施例5と同様にして裏面反射層形成用ペースト組成物を調製し、評価を行った。
【0061】
比較例1
平均粒子径0.02μmの球状二酸化チタン粉末36質量部と、白色ホウ酸系ガラス粉末24質量部を用いた以外は実施例1と同様にして裏面反射層形成用ペースト組成物を調製し、評価を行った。
【0062】
各比較例の詳細を表2に示す。
【0063】
比較例2
平均粒子径0.3μmの球状二酸化チタン粉末36質量部と、白色ホウ酸系ガラス粉末24質量部を用いた以外は実施例1と同様にして裏面反射層形成用ペースト組成物を調製し、評価を行った。
【0064】
比較例3
平均粒子径0.5μmの球状二酸化チタン粉末35質量部と、白色ホウ酸系ガラス粉末24質量部と、樹脂溶液41質量部を用いた以外は実施例1と同様にして裏面反射層形成用ペースト組成物を調製し、評価を行った。
【0065】
比較例4
平均粒子径0.5μmの球状二酸化チタン粉末33質量部と、白色ホウ酸系ガラス粉末22質量部と、樹脂溶液45質量部を用いた以外は実施例1と同様にして裏面反射層形成用ペースト組成物を調製し、評価を行った。
【0066】
比較例5
平均粒子径1.0μmの球状二酸化チタン粉末30質量部と、白色ホウ酸系ガラス粉末30質量部と、樹脂溶液50質量部を用いた以外は実施例1と同様にして裏面反射層形成用ペースト組成物を調製し、評価を行った。
【0067】
比較例6
平均粒子径1.0μmの球状二酸化チタン粉末59質量部と、白色ホウ酸系ガラス粉末1質量部と、樹脂溶液40質量部を用いた以外は実施例1と同様にして裏面反射層形成用ペースト組成物を調製し、評価を行った。
【0068】
比較例7
平均粒子径3.6μmの球状二酸化チタン粉末56質量部と、白色ホウ酸系ガラス粉末14質量部と、樹脂溶液30質量部を用いた以外は実施例1と同様にして裏面反射層形成用ペースト組成物を調製し、評価を行った。
【0069】
比較例8
平均粒子径1.0μmの球状二酸化チタン粉末48質量部と、黒色バナジウムガラス粉末12質量部と、樹脂溶液40質量部を用いた以外は実施例1と同様にして裏面反射層形成用ペースト組成物を調製し、評価を行った。
【0070】
比較例9
裏面反射層を形成しなかった以外は実施例1と同様にして評価を行った。
【0071】
比較例10
特許文献2に記載された技術と同様に、評価用基板としてパッシベーション膜を含まないBSFタイプのシリコン単結晶基板の裏面に公知のアルミニウムペーストを印刷し、シリコン単結晶基板の上面に公知の銀ペーストを印刷し、焼成した後、裏面のアルミニウム焼結層及びAl-Si合金層を塩酸エッチングにより除去してBSF層が剥き出しに形成された太陽電池シリコン基板を用意した。
【0072】
平均粒子径0.3μmの球状二酸化チタン粉末40質量部と、28%ポリイミド樹脂溶液357質量部とを用いて、実施例1と同様にして裏面反射層形成用ペースト組成物を調製し、上記太陽電池シリコン基板の裏面に所定パターンにて塗付、250℃で30分乾燥し、最後にアルミニウム蒸着により裏面電極を形成し、評価を行った。
【0073】
比較例11
比較例10で作製した裏面反射層形成用ペースト組成物を実施例1の評価用のPERC型太陽電池セルに適用し、評価を行った。
【0074】
【0075】
【0076】
表1に示す通り、本発明の裏面反射層形成用ペースト組成物を用いてPERC型太陽電池セルのシリコン半導体基板と裏面電極層との間に裏面反射層を形成することにより、可視光だけでなく1000~1200nmの赤外光においても高い反射率が得られ、且つ隣接層(パッシベーション膜及び裏面電極層)との密着性が良好であることが分かる。
【符号の説明】
【0077】
1.シリコン半導体基板
2.n型不純物層
3.反射防止膜(パッシベーション膜)
4.グリッド電極
5.裏面電極層
6.合金層
7.p+層
8.裏面電極
9.裏面反射層