(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-28
(45)【発行日】2025-02-05
(54)【発明の名称】液体肥料及びその施肥方法
(51)【国際特許分類】
C05C 9/00 20060101AFI20250129BHJP
C05G 5/23 20200101ALI20250129BHJP
A01C 21/00 20060101ALI20250129BHJP
A01C 23/00 20060101ALI20250129BHJP
A01M 7/00 20060101ALI20250129BHJP
【FI】
C05C9/00 Z
C05G5/23
A01C21/00 Z
A01C23/00 C
A01M7/00 C
(21)【出願番号】P 2020217465
(22)【出願日】2020-12-25
【審査請求日】2023-08-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000240950
【氏名又は名称】片倉コープアグリ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000005854
【氏名又は名称】丸紅株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高須 栄一
(72)【発明者】
【氏名】大井 泰輔
(72)【発明者】
【氏名】菅原 英之
(72)【発明者】
【氏名】米山 昌美
【審査官】岡田 三恵
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-511416(JP,A)
【文献】特表2018-516246(JP,A)
【文献】特開昭55-071689(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0134738(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C05C 9/00
C05G 5/23
A01C 21/00
A01C 23/00
A01M 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高濃度の窒素源からなる液体窒素肥料の施用により生じる葉焼けの抑制方法であって、 施肥対象植物に前記液体窒素肥料を葉面散布する散布工程
を含み、
前記液体窒素肥料は、施用時の窒素含有量が5~15%w/wであり、かつ総窒素量におけるメチレン尿素及び/又はポリメチレン尿素の比率が20%~80%である
前記抑制方法。
【請求項2】
前記ポリメチレン尿素の分子量が200~400である、請求項1に記載の抑制方法。
【請求項3】
前記葉面散布が前記
施肥対象植物の上方からの空中散布である、請求項1又は2に記載の抑制方法。
【請求項4】
前記葉面散布が散布用装置を用いる、請求項1~3のいずれか一項に記載の抑制方法。
【請求項5】
前記散布工程で農薬を同時散布する、請求項1~4のいずれか一項に記載の抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高濃度の窒素を含有する液体肥料及びその液体肥料を高濃度窒素状態で施肥する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、日本国内においても生産性の向上を目的とした圃場整備や集約による農地の大区画化が進行している。大区画圃場の代表的な土地利用型作物にはダイズやコムギ等が挙げられるが、これらの作物は開花期以降の窒素量がその後の収量、品質の向上に大きく影響することが知られている(非特許文献1、2)。それ故に、開花期の追肥は栽培上不可欠な作業である。
【0003】
ところが、国内における農業従事者は近年高齢化が進んでおり、従来の背負式動力散布機や手押し式散布機による大区画圃場での追肥作業は、作業時間の増大のみならず、農業従事者に著しい労働負担を強いるという問題が発生している。
【0004】
そこで、最近では農作業の省力化やコストダウンを目的として、大区画圃場等の広大な農地での施肥、農薬散布、及び播種に、ラジコンヘリコプターや農業用ドローン等の無人航空機を導入する方法が注目されはじめ、一部では既に実用化が進んでいる。
【0005】
無人航空機を用いた追肥を行う場合、高所からの空中散布によって施肥される。その際、肥料は風等の影響で広範囲に拡散されてしまうことから、効率的な施肥を達成するためには高濃度で散布することが望ましい。しかし、高濃度の肥料が作物の葉に付着すると、浸透圧の関係から肥料成分、特に窒素による濃度障害を原因とした葉焼け(いわゆる肥料焼け)を生じてしまう(非特許文献3)。肥料焼けは、作物生産量の低下、植物の枯死、及び美観減退による商品価値の低下の原因となる。
【0006】
そこで、空中散布の場合には、通常、施肥時の窒素が肥料焼けを生じないように所定濃度に希釈した液体肥料が使用される。ところが、希釈によって一フライトでの散布面積あたりの窒素濃度は必然的に低くなってしまう。無人航空機には、大量の液体肥料を搭載することができない。したがって、追肥効果を得ることのできる一定量の窒素を施肥するためには、同一区画に複数回フライトさせて散布しなければならない。これでは無人航空機散布の本来のメリットである作業省力化やコストダウン等を享受することができない。しかし、単回あたりの散布で施肥される窒素量と肥料焼けの発生はトレードオフの関係にあり、その問題解決策はこれまで困難を極めていた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】桑原真人、昭和60年(1985年)、農業総覧、農業技術大系、作物編、追録第7号:技+143~147.
【文献】島崎由美、2015年、農業総覧、農業技術大系、作物編、追録第37号(4):技+174の74~174の82
【文献】John Sawyer, 2010, Nutrient Deficiencies and Application Injuries in Field Crops, Extension and Outreach publications, Iowa State University, IPM42.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、施肥時に高濃度窒素含有量を有しながら、植物に付着した場合にも肥料焼けを生じない液体肥料を開発し、提供することである。
【0009】
本発明は、肥料焼けを生じさせることなく、高濃度の窒素を含有する液体肥料を施肥する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前述課題を解決するため、本発明者らは種々の検討を行った結果、メチレン尿素及び/又はポリメチレン尿素を総窒素量に対して特定比率で包含する液体肥料であれば、施肥時に従来の液体肥料の窒素含有量と比較して10~460倍の窒素含有量であっても、空中散布した場合に肥料焼けを生じないことを見出した。本発明は、当該新規知見に基づくものであって、以下を提供する。
(1)施肥時の窒素含有量が5~15%w/wであり、かつ総窒素量におけるメチレン尿素及び/又はポリメチレン尿素の比率が20%~80%である液体肥料。
(2)前記ポリメチレン尿素の分子量が200~400である、(1)に記載の液体肥料。
(3)葉面散布用である、(1)又は(2)に記載の液体肥料。
(4)窒素の施肥方法であって、
施肥対象植物に(1)~(3)のいずれかに記載の液体肥料を葉面散布する散布工程を含む、前記施肥方法。
(5)前記葉面散布が前記施肥対象植物の上方からの空中散布である、(4)に記載の施肥方法。
(6)前記葉面散布が散布用装置を用いる、(4)又は(5)に記載の施肥方法。
(7)前記散布工程で農薬を同時散布する、(4)~(6)のいずれかに記載の施肥方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の液体肥料によれば、施肥時に高濃度の窒素を含有していても葉面散布等で施肥した植物に肥料焼けを生じさせない。それにより単回あたり高い濃度での窒素供給が可能となることから、単位面積当たりの施肥回数を削減できる。
【0012】
本発明の窒素施肥方法によれば、高濃度窒素含有量で、肥料焼けを生じることなく液体肥料の散布が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1-1】表1に記載のNo.1~6の液肥をダイズに葉面散布したときの肥料焼けの状態を示す図である。「0日」は散布当日の、また「8日」は散布後8日目の、葉面散布した葉の状態である。図中、矢頭は肥料焼けによる白化部を示す。
【
図1-2】表1に記載のNo.7~11の液肥をダイズに葉面散布したときの肥料焼けの影響を示す図である。「0日」は散布当日の、また「8日」は散布後8日目の、葉面散布した葉の状態である。図中、矢頭は肥料焼けによる白化部を、また白矢印は肥料焼けによる枯死部を示す。
【
図2】尿素(左)と本発明の液体肥料(右)の葉面散布8日後のダイズの生育状況を示す図である。左右で対応する株に施肥した液肥の窒素含有量は同一であり、写真上方程、窒素含有量が高い。
【発明を実施するための形態】
【0014】
1.液体肥料
1-1.概要
本発明の第1の態様は液体肥料である。本発明の液体肥料は、施肥時の液体肥料中の窒素含有量、及びその液体肥料の総窒素量における窒素含有物質の成分比率が特定されていることを特徴とする。
【0015】
本発明の液体肥料によれば、高濃度窒素含有量であるにもかかわらず、葉面散布等の施肥による肥料焼けを生じない。それ故に空中散布等において単回あたり高濃度での窒素供給が可能となる。その結果、作業量や作業時間が短縮され、農作業の省力化、及び効率化に繋がり得る。
【0016】
1-2.用語の定義
本明細書で使用する用語について、以下で定義する。
本明細書において「肥料」とは、植物の生育に必要な栄養素の全部又は一部を含み、人工的に供給される栄養源をいう。「栄養素」とは、その物質の欠乏により植物が生長又は生殖に何らかの異常をもたらし、その症状の回復が他の物質の供給では補償できない物質をいう。通常は植物の必須元素を意味する。一般的な植物の栄養素としては、17種の必須元素、すなわち、水素(H)、酸素(O)、炭素(C)、窒素(N)、リン(P)、カリウム(K)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、硫黄(S)、鉄(Fe)、マンガン(Mg)、亜鉛(Zn)、ホウ素(B)、モリブデン(Mo)、銅(Cu)、塩素(Cl)、及びニッケル(Ni)が挙げられる。また、それらの元素を含む化合物(例えば、尿素、アンモニウム塩、(過)リン酸塩)も本明細書においては栄養素に含まれる。通常、肥料は複数種の栄養素を包含するが、単一種の栄養素を包含するものであってもよい。複数種の肥料を包含する場合、その組み合わせや比率は特に限定はしない。ただし、本明細書の肥料は、窒素源を包含するものとする。「窒素源」とは、窒素元素を含有する化合物であり、窒素の供給源となる肥料成分をいう。
【0017】
本明細書において「液体肥料」(本明細書では、しばしば「液肥」と略称する)とは、液状形態の肥料をいう。その比重は0.7~1.5、0.75~1.45、0.8~1.4、0.85~1.35、又は0.9~1.3の範囲であればよい。通常は、肥料、本明細書では特に窒素源を包含する水溶液が該当する。液体肥料の粘度は、散布可能な程度の粘度で、かつ施肥対象植物の茎葉部への付着性、及び拡展性があれば特に限定はしないが、通常は20℃で0.8~100mPa・s、1.0~80mPa・s、2.0~70mPa・s、3.0~60mPa・s、4.0~50mPa・s、又は5.0~40mPa・sの範囲であればよい。
【0018】
本明細書において「施肥」とは、植物に対して肥料等を投与することをいう。また、本明細書において「施肥時」とは、施肥を行う時点をいう。
【0019】
本明細書において「施肥対象植物」とは、本発明の液体肥料の施肥対象となる植物をいう。植物の種類は限定しない。被子植物又は裸子植物のいずれであってもよく、また被子植物は、双子葉植物及び単子葉植物のいずれも包含する。さらに、草本植物又は木本植物を問わない。好ましくは、農業上重要な植物な農作物、又は園芸上重要な園芸植物である。例えば、穀類、花卉、野菜、果物等の作物植物が挙げられる。具体的には、単子葉植物であれば、イネ科(Poaceae)に属する種(例えば、イネ、コムギ、オオムギ、ライムギ、トウモロコシ、サトウキビ、アワ、キビ、ヒエ、ソルガム、コウリャン、シバ)、バショウ科(Musaceae)に属する種(例えば、バナナ、バショウ)、ユリ科(Liliaceae)に属する種(例えば、ネギ、タマネギ、ニラ、チューリップ、ヒアシンス、ムスカリ、ユリ)、ヒガンバナ科(Amaryllidaceae)に属する種(例えば、ニンニク)、及びアナナス科(Bromeliaceae)に属する種(例えば、パイナップル)が該当する。また、双子葉植物であれば、マメ科(Fabaceae)に属する種(例えば、ダイズ、ピーナッツ、エンドウ、インゲンマメ、アズキ、ソラマメ、スイートピー)、アブラナ科(Brassicaceae)に属する種(例えば、キャベツ、ダイコン、ハクサイ、アブラナ)、ナス科(Solanaceae)に属する種(例えば、トマト、ナス、ジャガイモ、タバコ、ピーマン、トウガラシ、ペチュニア)、ウリ科(Cucurbitaceae)植物に属する種(例えば、カボチャ、スイカ、メロン、キュウリ)、ヒルガオ科(Convolvulaceae)に属する種(例えば、サツマイモ)、バラ科(Rosaceae)に属する種(例えば、イチゴ、バラ、リンゴ、ナシ、モモ、ビワ、アーモンド、スモモ、ウメ、サクラ)、ミカン科(Rutaceae)に属する種(例えば、ミカン、オレンジ、グレープフルーツ、レモン、ユズ)、ブドウ科(Vitaceae)に属する種(例えば、ブドウ)、キク科(Asteraceae)に属する種(例えば、レタス、キク、ダリア、マーガレット、ヒマワリ)、ツバキ科(Theaceae)に属する種(例えば、サザンカ、チャノキ)が該当する。
【0020】
本明細書において「濃度障害を原因とした葉焼け」とは、高濃度の肥料、本明細書では特に高濃度の窒素が施肥対象植物の茎葉部に付着した場合に、浸透圧濃度差により肥料が付着した葉面等から水分流出を生じ、その結果、葉の一部又は全部が萎れ、若しくは枯死する現象をいう。「肥料焼け」とも呼ばれ、本明細書でもしばしばその呼称を用いる。
【0021】
1-3.構成
本発明の液体肥料は、窒素源を栄養素として包含する液体窒素肥料である。
本発明の液体肥料における、施肥時の窒素含有量は、総重量に対して5~15%w/w、6~15%w/w、7~15%w/w、8~15%w/w、9~15%w/w、又は10~15%w/wである。施肥時であるため、それ以外の場合、例えば、市販時又は保管時は、前記含有量以上であってもよい。この場合、施肥時には前記窒素含有量の範囲になるように水等で希釈して使用する。
【0022】
本発明の液体肥料は、その有効成分となる必須の窒素源として、メチレン尿素及び/又はポリメチレン尿素を包含する。それ以外の窒素源としては、限定はしないが、必要に応じて、例えば、硝酸カリウム、硝酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、尿素、モノメチロールウエア(NH2CONHCH2OH)、及びビウレット((CONH2)2NH)等を適宜含むことができる。
【0023】
メチレン尿素(NH2CONHCH2NHCONH2)(MW:132)は、緩効性窒素肥料であり、ポリメチレン尿素(H[-NHCONHCH2]nNHCONH2)はその鎖状重合体である。いずれもホルムアルデヒドと尿素の縮合により合成されることから、ウレアホルムとも呼ばれる。重合度により、メチレンジウレア(M2U:メチレン尿素[C3H8N4O2]に相当)、ジメチレントリウレア(2M3U:n=2のポリメチレン尿素[C5H12N6O3]に相当)(MW:204)、トリメチレンテトラウレア(3M4U:n=3のポリメチレン尿素[C7H16N8O4]に相当)(MW:276)、及びテトラメチレンペンタウレア(4M5U:n=4のポリメチレン尿素[C9H20N10O5]に相当)(MW:348)等が知られている。本発明の液体肥料におけるポリメチレン尿素の重合度は、特に限定はしないが、高重合度になると粘度が高くなり、散布等による施肥が困難になるため低重合度が好ましい。例えば、限定はしないが、前記化学式においてn=2~4の重合度、すなわち2M3U(MW:204)、3M4U(MW:276)、及び4M5U(MW:348)であればよい。
【0024】
本発明の液体肥料に包含されるポリメチレン尿素の分子量は、ポリメチレン尿素が単一化合物ではなく、メチレン尿素をモノマーとする鎖状重合化合物であることから一定ではない。したがって、ポリメチレン尿素の分子量は限定しない。ただし、前述の理由から本願発明の液体肥料では、n=2~4の低重合度ポリメチレン尿素が好ましいことから、ポリメチレン尿素の分子量は200~400の範囲にあればよい。様々な重合度のポリメチレン尿素を包含する場合であれば、分子量200~400の範囲にピークが出るように、全ポリメチレン尿素における低重合度ポリメチレン尿素の比率が高くなるようにすればよい。
【0025】
本発明において、高濃度窒素含有量の液体肥料は、その高い窒素濃度で施用される。従来の常識を覆して、その状態で施用しても、施肥対象植物に肥料焼けを生じさせないのは本発明の液体肥料が総窒素量に対して所定の比率でメチレン尿素及び/又はポリメチレン尿素を含むためである。したがって、本発明の液体肥料における総窒素量に対するメチレン尿素及び/又はポリメチレン尿素の比率は、本発明の効果を奏する上で重要である。その値は、20%~80%、30%~75%、40%~70%、50%~65%、又は55%~60%の範囲にあればよい。また、本発明の液体肥料におけるメチレン尿素とポリメチレン尿素の含有比率は、肥料焼けに対する抑制効果に明確な差異がないことから、特に限定しない。また、同様に、ポリメチレン尿素についても、重合度による肥料焼けに対する抑制効果に明確な差異がないことから本発明の液体肥料におけるポリメチレン尿素の重合比率も特に限定はしない。好ましくは、前述の理由からn=2~4の低重合度ポリメチレン尿素の比率が高ければ良い。
【0026】
本発明の液体肥料は、前記窒素源の他にも他の栄養素を含むことができる。他の栄養素は特に限定しない。例えば、水素、酸素、及び炭素の他、前述のカリウム、リン、マグネシウム、カルシウム、硫黄、鉄、マンガン、亜鉛、ホウ素、モリブデン、銅、塩素、及びニッケル等を含むことができる。
【0027】
本発明の液体肥料は、農業上許容可能な溶媒の他、必要に応じて農業上許容可能な他の作用を有する成分をさらに含むことができる。
【0028】
「農業上許容可能な溶媒」とは、植物に施用しても、植物体及び/又は土壌や水質等の環境に有害な影響がないか又は非常に小さい溶媒をいう。限定はしないが、本発明の液体肥料における溶媒は、水(純水、蒸留水、水溶液を含む)が好ましい。
【0029】
また、前記農業上許容可能な他の作用を有する成分としては、例えば、農業上で使用される殺虫剤若しくは殺菌剤等の農薬、又は成長強化剤等が該当する。
【0030】
本発明の液体肥料の施用方法は、特に限定しない。例えば、根部からの吸収を目的とした土中や水田等の水上添加による施用も可能である。ただし、本発明の液体肥料は、液状形態であることから茎葉部等への散布(噴霧を含む)、塗布、又は浸漬による施用が可能である。特に本発明の液体肥料の有効成分である窒素源は茎葉部から吸収され得ることや、本発明の目的を鑑みた場合、散布用途での使用が好ましい。例えば、航空機(農業用ドローン、及びラジコンヘリコプター等を含む)、スプリンクラー、又は大型作業機械(ブームスプレイヤ、及び動力散布機等を含む)を用いて施肥対象植物の上方から空中散布し、液体肥料を施肥対象植物の茎葉部に直接散布する葉面散布用としての用途が挙げられる。
【0031】
2.窒素施肥方法
2-1.概要
本発明の第2の態様は、窒素の施肥方法である。本発明の方法では、第1態様に記載の液体肥料を高濃度窒素状態で施肥する。本発明の施肥方法によれば、高濃度の窒素を植物体、特に茎葉部に直接施肥しても、肥料焼けを起こすことがない。それ故に、一度の施用で高濃度の窒素含有液肥を施肥することができる。それによって、無人航空機による効率的な窒素追肥が可能になり、広大な農地への窒素の施肥における農作業省力化、コストダウンにつながり得る。また、農薬との混用も容易になるため追肥同時防除も可能になり、農作物の生産性向上に寄与することができる。
【0032】
2-2.方法
2-2-1.散布工程
本発明の窒素施肥方法は、散布工程を必須の工程として含む。
「散布工程」とは、施肥対象植物に第1態様に記載の液体肥料を葉面散布する工程である。本工程により、第1態様に記載の液体肥料の利点を生かし、かつ農作業省力化やコストダウンを目的とした、広大な農地への無人航空機等を用いた施肥方法における従来の問題点を解決し得る。
【0033】
「葉面散布」とは、液体肥料を施肥対象植物の葉面に付着させる施肥方法である。葉面に付着した液体肥料は、その葉面から吸収され植物に利用される。本発明では、特に液体肥料中の主要な有効成分である窒素源がその対象となる。
【0034】
葉面散布の方法は、液体肥料が葉面に直接接触するように散布できる方法であれば、当該分野で公知の方法を用いればよく、特に限定はしない、例えば、噴霧器等を用いて手動で施肥対象植物の葉面に直接噴霧してもよいし、刷毛等で葉面に液体肥料を塗布する方法であってもよい。しかし、本発明の解決課題を鑑みれば、通常は液体肥料を施肥対象植物の上方から空中散布する方法が好ましい。
【0035】
液体肥料の空中散布方法は、当該分野で公知の方法を用いればよく、限定はしない。例えば、散布用装置を用いて散布すればよい。散布用装置の具体例として、液体肥料を自動で散布可能なブームスプレイヤ、又は動力散布機等、農業用ドローンやラジコンヘリコプター等の無人航空機等が挙げられる。
【0036】
本工程の特徴は、施肥時、すなわち散布時における液体肥料中の窒素含有量が液肥総重量に対して5~15%w/wを有する点である。一般に、空中散布では肥料焼けを回避するために液肥における窒素含有量は通常0.03~0.1%w/wの範囲になるように希釈して使用される。したがって、本発明の液体肥料は、従来の液体肥料における窒素濃度と比較して、約50~460倍の高濃度で施用する。
【0037】
なお、本発明において、第1態様に記載の液体肥料は、葉面吸収にとどまらず、通常の根部をはじめ、植物全体から吸収され得る。したがって、施肥対象植物を栽培する土壌、又は水田等であれば液中に散布、又は添加することもできる。
【0038】
2-2-2.施肥量
本発明の窒素施肥方法における液体肥料の施肥量は、特に限定はしない。施肥対象植物の種類、施肥目的及び/又は農園地の単位面積あたりに必要とされる窒素量に基づき適宜適切な施肥量を算出すればよい。
【0039】
施肥時の第1態様に記載の液体肥料中に含まれる窒素含有量は、前述のように従来の葉面散布用液体肥料の施肥時における窒素含有量の約50~460倍である。このような従来の葉面散布における液体肥料の常識から完全に逸脱した極めて高濃度窒素含有量を有する液体肥料を施肥しても、本発明の窒素施肥方法であれば肥料焼けの問題を回避することができる。単回あたりの窒素施肥量を増加できるため、施肥回数を減ずることで、農作業の省力化やコストを低減することが可能となる。また、従来の施肥方法と比較して、施用回数あたりの窒素含有量が増加させることができる。それにより、より少ない労力で従来と同等以上の施肥量が施用可能となることから、農作物の単位面積当たりの収量を増加することもできる。
【0040】
2-2-3.適用場所
本発明の窒素施肥方法を適用する場所は、特に限定はしない。葉面散布が可能で、かつ追肥等の施肥を必要とする場所に適用すればよい。大区画圃場、水田、果樹園、園地、及びゴルフ場等の広大な農園地での適用は、本発明の方法の利点を活かすことができるため特に好ましい。以下で、適用場所の好適な例とその利点について説明をする。
【0041】
(1)大区画圃場での適用
土地利用型作物(小麦、大豆)は、開花期及び肥大期の窒素の追肥により、収穫される種子のタンパク質含有量が増加する。本発明の窒素施肥方法を使用することで、大区画圃場であっても、従来方法と比較してより少ない作業量で十分量の窒素を施肥可能となり、また施用量削減効果も得られる。その結果、高等級の小麦や大麦を収穫できるようになる他、可販収量を向上することが可能となる。さらに、農薬との同時施用による作業簡略化を図ることも可能となる。
【0042】
(2)果樹園地での適用
果樹園では日照量が多いほど収量が多く、また糖度の高い高品質な果実を収穫することができる。そのため、例えば、柑橘圃場は、日照条件の良い南側傾斜地に多い。このような急傾斜地での作業負担は著しく大きいため、無人航空機等を用いた空中散布による本方法の適用は、作業省力化や軽労化の点で極めて好適である。
【0043】
(3)茶畑での適用
茶栽培では、一番茶の品質及び収量の向上のため春肥(芽出し肥)の施肥が必要とされる。また、天候不順による生育不良対策として、適宜施肥による窒素含量増加により品質を向上することができる。一方で、一般に茶は広大な丘陵地で栽培されることからブームスプレイヤやスプリンクラー等を用いた空中散布による本方法の適用は、農作業省力化や軽労化の点で極めて好適である。また、茶の栽培では、追肥時期と防除時期が重なり、作業負担が増加していたが、本発明の方法を適用することで農薬との同時散布が可能となり、作業簡略化及び労力軽減効果を得ることができる。
【0044】
(4)水田での適用
水稲栽培における高温での栄養凋落対策を目的とした追肥において、広大な湿地である水田での無人航空機等を用いた空中散布による本方法の適用は、作業省力化や軽労化の点で極めて好適である。
【0045】
(5)ゴルフ場や園地での適用
ゴルフ場や公園等に敷設された芝は成長促進のための春肥や冬季前の耐寒性強化のための秋肥の施肥が必要とされる。自然の景観を残すため丘陵地等をそのまま利用し、圃場整備がなされず、樹木が点在する広大な敷地における施肥は、作業負担が大きいことから無人航空機等を用いた空中散布による本方法の適用は、作業省力化や軽労化の点で極めて好適である。
【0046】
2-3.効果
高濃度窒素含有量で、肥料焼けを生じることなく液体肥料の散布が可能なため、単位面積当たりの施肥回数を削減することができる。また、無人航空機による効率的な窒素追肥が可能になり、広大な農地への窒素の施肥における作業省力化による労力軽減効果を得ることができ、またコストダウンにもつながり得る。
【実施例】
【0047】
<実験例1:基礎溶液の成分分析>
(目的)
本発明の第1態様に記載の液体肥料に用いる基礎液肥の成分分析を行う。
(方法)
本発明の液体肥料の調製には、メチレン尿素及びポリメチレン尿素を主成分として含む市販の窒素液肥CoRoN(登録商標)(Helena Agri Enterprises LLC)の原液を基礎液肥として用いた。CoRoNは、比重約1.28、pH10、粘度38mPa・sの液状窒素肥料で、主として葉面散布用として使用される。このCoRoN原液中の形態別窒素含有量及び総窒素量における各形態の含有比率について以下の方法で分析した。
・総窒素量の定量:硫酸法を用いて定量した。
・尿素態窒素の定量:CoRoNを85%(v/v)アセトニトリル溶媒を用いて、HPLCで分画し、UV検出器により検出波長195nmにてアンモニア態窒素の検出・定量を行った。なお、CoRoNのようなメチレン尿素、ポリメチレン尿素共存下の尿素は、ウレアーゼ活性阻害によって、アンモニア態窒素検出法による定量ができないため、当該方法で定量した。
・アンモニア態窒素の定量:CoRoNをインドフェノール法により分析し、定量した。
・硝酸態窒素の定量:硝酸イオンメーター(堀場製作所:B743)を用いて、CoRoNを測定範囲62~6200ppm(mg/L)にて分析し、硝酸態窒素の定量を行った。
・メチレン尿素/ポリメチレン尿素態窒素の定量:総窒素量から尿素態窒素、アンモニア態窒素、及び硝酸態窒素の合計値を減じた値をメチレン尿素態/ポリメチレン尿素態の窒素量とした。
【0048】
(結果)
CoRoN原液は、以下の表1に示す各種形態別窒素を包含する。
【0049】
【0050】
CoRoN原液の総重量当たりの窒素含有量は約28%w/wであり、またその総窒素量の約75%がメチレン尿素/ポリメチレン尿素態窒素であることが明らかとなった。
【0051】
なお、CoRoNは濃縮状態で市販されており、施肥時には所定の倍率となるように水で希釈して使用することが使用説明書に記載されている。推奨希釈倍率は米国では50倍、日本国内では100~800倍である。したがって、施肥時における希釈後の液肥中の窒素含有量は、本来は0.035~0.56%w/wの範囲である。
【0052】
<実験例2:高濃度窒素を含有する液体肥料の調製>
(目的)
実施例1及び2で使用する本発明の液体肥料を調製する。
(方法)
表1で示した通り、CoRoN原液中の窒素含有量は約28%w/w、総窒素量におけるメチレン尿素及び/又はポリメチレン尿素の比率は約75%である。ここで、総窒素量あたりに占めるメチレン尿素及び/又はポリメチレン尿素の比率と肥料焼け抑制作用について検証するため、様々な比率の溶液を調製した。具体的には、前記CoRoN原液に尿素を適量混合して窒素含有量28%w/wを維持した状態で、総窒素量あたりに占めるメチレン尿素及び/又はポリメチレン尿素の比率が約20%、約10%、及び約5%となるように調製した。さらに、原液を含め、それぞれを水で2倍、及び5倍に希釈して、窒素含有量を14%w/w及び5.6%w/wに調製した。また、陽性対照用として尿素を窒素源とする液体肥料も調製した。陰性対照用には、溶媒として用いた水を用いた。
【0053】
(結果)
具体的な希釈倍率とその希釈液における窒素含有量(%w/w)、及び総窒素量(TN)におけるメチレン尿素(MU)及び/又はポリメチレン尿素(PMU)の比率を表2に示す。
【表2】
【0054】
<実施例1:各液肥のダイズに対する葉面散布試験>
(目的)
実験例2で調製した各液肥の葉面散布による肥料焼けの影響について、ダイズを用いて検証する。
(方法)
実験例2で調製した各液肥(表2:No.1~11)を、播種3ヶ月後のダイズ(品種:ふくゆたか)の葉1枚(3小葉からなる羽状複葉)にスプレーで1回(約0.8g)葉面散布した。なお、散布液量はドリフトを想定し、多量散布で液が滴る程度とし、展着剤は不使用とした。
散布0日、及び8日後に葉面散布した葉の肥料焼けの状態について、葉の白化状態に基づき、以下の判定基準で5段階にて評価した。
・ -:正常
・ ±:僅かに褐変
・ +:一部褐変
・ ++:褐変
・+++:著しく褐変
(結果)
表3及び
図1(1-1~1-2)に結果を示す。
【0055】
【0056】
表中、各No.は、表2に示すNo.の液肥に対応する。
空中散布での肥料焼けを回避するために使用される液肥中の窒素含有量は、通常0.03~0.1%w/wの範囲とされる。またCoRoNの推奨希釈倍率で希釈した後の液肥中の窒素含有量は0.035~0.56%w/wであることから、No.1~8の液肥は、その10~460倍に及ぶ極めて高濃度な窒素濃度である。このような高濃度窒素の液肥を葉面散布した場合、通常は、陽性対照であるNo.9及び10のように、散布後8日目には肥料焼けの症状を呈する。この肥料焼けはその後、回復することなく、葉の褐変等の重症化又は枯死へと進行する。
【0057】
ところが、メチレン尿素及びポリメチレン尿素の総窒素量に対する比率が20%以上であれば、No.1~4に示すように、散布8日後も葉面散布による肥料焼けは全く生じなかった。また、No.1及び2で示すように、メチレン尿素及びポリメチレン尿素の比率が75%もの高い割合であっても肥料焼けの抑制効果は保持されており、また他の問題も生じなかった。
【0058】
以上の結果から、約5~15%w/wの非常に高濃度な窒素含有量を有する液体肥料であっても、メチレン尿素及びポリメチレン尿素の比率が前記液肥における総窒素量の20~80%であれば、肥料焼けが生じないことが示された。
【0059】
また、
図2は、尿素と本発明の液肥の葉面散布8日後のダイズの生育状況を示す図である。両者の窒素含有量は左右で同一量であるが、メチレン尿素及びポリメチレン尿素を含有する本発明の液肥の方が、肥料焼けを生じないだけでなく、生育も旺盛になることが示された。
【0060】
<実施例2:各液肥のコムギに対する葉面散布試験>
(目的)
葉面散布による肥料焼けの影響について、単子葉植物であるコムギを用いて、実施例1と同様の検証を行う。
(方法)
実験例2で調製した液肥のうち、14%w/wの高い窒素含有量を含む液肥(表2: No.1, 3, 5, 7)を、播種2週間後のコムギ(品種:せときらら)のポット株に植物体上方からスプレーで2回(約0.8g/回)葉面散布した。
散布0日及び9日後の葉における肥料焼けの状態について評価した。肥料焼けの判定基準は、実施例1に準じた。
(結果)
表4に結果を示す。
【0061】
【0062】
単子葉植物のコムギも、ダイズと同様に14%w/wの非常に高い窒素含有量であっても、MU/PMU比率を20%以上にすることで、肥料焼けを抑制できることが示された。したがって、本願発明の液体肥料の効果は、双子葉植物のみならず、単子葉植物にも有効であることが立証され、植物に広く適用できることが示された。