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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-28
(45)【発行日】2025-02-05
(54)【発明の名称】製紙用フェルト
(51)【国際特許分類】
   D21F 7/08 20060101AFI20250129BHJP
   D03D 1/00 20060101ALI20250129BHJP
   D03D 3/04 20060101ALI20250129BHJP
【FI】
D21F7/08 Z
D03D1/00 D
D03D3/04
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021054087
(22)【出願日】2021-03-26
(65)【公開番号】P2022151155
(43)【公開日】2022-10-07
【審査請求日】2023-12-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000229852
【氏名又は名称】日本フエルト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094190
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 清路
(74)【代理人】
【氏名又は名称】平岩 康幸
(74)【代理人】
【識別番号】100151127
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 勝雅
(72)【発明者】
【氏名】植出 悠
【審査官】松本 泰典
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-248461(JP,A)
【文献】特開昭49-6037(JP,A)
【文献】特開2017-150101(JP,A)
【文献】特開2017-186705(JP,A)
【文献】特開2015-145550(JP,A)
【文献】特開2014-125712(JP,A)
【文献】特開平3-174085(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21F 7/08
D03D 1/00
D03D 3/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリウレタン樹脂が塗着された樹脂加工フェルト、前記ポリウレタン樹脂に対する重量比率(柔軟剤の目付量/ポリウレタン樹脂の目付量)が0.024~0.090の範囲で、柔軟剤が上乗せされていることを特徴とする製紙用フェルト。
【請求項2】
前記柔軟剤は、界面活性剤を含む請求項1に記載の製紙用フェルト。
【請求項3】
前記界面活性剤は、ノニオン系界面活性剤である請求項2に記載の製紙用フェルト。
【請求項4】
基布層と、前記基布層の製紙面側に配設された表バット層とを備え、
前記表バット層は、前記ポリウレタン樹脂が結着された繊維を含む表層部を備え、前記表層部に前記柔軟剤が付与されている請求項1乃至3のいずれか一項に記載の製紙用フェルト。
【請求項5】
前記製紙用フェルトは、樹脂の脱離に抗する性能を表す樹脂残存率が81.8%以上100%以下であり、かつ抄紙機への掛入性を表す緯曲げ変化率が100%以上110%以下である請求項1乃至4のいずれか一項に記載の製紙用フェルト。
【請求項6】
前記製紙用フェルトは、樹脂の脱離に抗する性能を表す樹脂残存率が84%以上100%以下であり、かつ抄紙機への掛入性を表す緯曲げ変化率が100%以上105%以下である請求項1乃至4のいずれか一項に記載の製紙用フェルト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抄紙機のプレスパートで使用される製紙用フェルトに関する。
【背景技術】
【0002】
製紙用フェルトは、抄紙機のプレスパートにおいて、一対のプレスロールの間で湿紙を加圧して搾水する際、湿紙とともにプレスロール間を通過させることで、湿紙を搾水し、その表面を平滑化するために使用される。
製紙用フェルトとしては、経糸と緯糸とを交差させて製織した織物や、織らずに糸を引き揃えて形成したノンウーブン、又は、穴開け加工や発泡により通気性を持たせた高分子フィルムやシート等を、単体もしくは組み合わせて基布とし、この基布の両面にバット繊維が積層されてなる製品が多用されている。
また、製紙用フェルトには、抄造される紙の品質向上、及び抄速の高速化による生産性の更なる向上への要請から、搾水性、表面の平滑性、耐脱毛性、耐防汚性等の諸特性について、より優れたものが要求されている。この要求を満たすため、近年においては、製紙用フェルトとして、樹脂加工を施されたものが多用されている。
樹脂加工は、例えば、製紙用フェルトに、水等に分散させた状態とした1種類以上の樹脂(主にポリウレタン樹脂)を、含浸等の方法で付与して行われる。そして、樹脂加工は、製紙用フェルトの搾水性、初期なじみ性、耐圧縮性等の諸特性を向上させるというメリットを有する。
但し、樹脂加工は、製紙用フェルトの曲げ剛性を高め、製紙用フェルトを硬くしてしまうため、抄紙機への掛け入れ性(以下、略して「掛入性」とも記載する)に難が生じやすい等のデメリットも有する。
このため、例えば、特許文献1には、樹脂加工後の製紙用フェルトに柔軟剤を付与する表面処理を施す方法が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-150101号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
製紙用フェルトは、柔軟剤を付与する表面処理を施すことにより、柔軟性が向上する、つまり柔らかくなるため、抄紙機への掛入性が向上し、柔軟剤の付与量が増すに従って更に柔らかくなるため、抄紙機への掛入性の更なる向上を図ることもできる。
しかし、製紙用フェルトは、柔軟剤の付与量が増すに従い、樹脂加工で付与された樹脂の耐久性が低下し、その樹脂が製紙用フェルト中から脱落しやすくなることで、樹脂加工によるメリットを得難くなるという問題が生じてしまう。
【0005】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、抄紙機への掛入性の向上を図りつつ、樹脂加工によるメリットを好適に享受することができる製紙用フェルトを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、抄紙機への掛入性の向上と樹脂の耐久性の向上の要求を満たすべく試験を繰り返し、樹脂(ポリウレタン樹脂)との重量比率が所定範囲となるように柔軟剤を付与することで、製紙用フェルトの曲げ剛性が低くなって掛入性が向上し、さらに樹脂加工によるメリットを好適に享受できることを見出した。
本発明は、以下のとおりである。
1.ポリウレタン樹脂が塗着されているとともに、柔軟剤が付与された製紙用フェルトであって、
前記ポリウレタン樹脂に対する前記柔軟剤の重量比率(柔軟剤の重量/ポリウレタン樹脂の重量)が0.024~0.090の範囲であることを特徴とする製紙用フェルト。
2.前記柔軟剤は、界面活性剤を含む請求項1に記載の製紙用フェルト。
3.前記界面活性剤は、ノニオン系界面活性剤である請求項2に記載の製紙用フェルト。
4.基布層と、前記基布層の製紙面側に配設された表バット層とを備え、
前記表バット層は、前記ポリウレタン樹脂が結着された繊維を含む表層部を備え、前記表層部に前記柔軟剤が付与されている請求項1乃至3のいずれか一項に記載の製紙用フェルト。
【発明の効果】
【0007】
本発明の製紙用フェルトによれば、抄紙機への掛入性の向上を図りつつ、樹脂加工によるメリットを好適に享受することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
本発明について、本発明による典型的な実施形態の非限定的な例を挙げ、言及された複数の図面を参照しつつ以下の詳細な記述にて更に説明するが、同様の参照符号は図面のいくつかの図を通して同様の部品を示す。
図1】本発明の製紙用フェルトの断面構造の他例を示す概略図である。
図2】緯曲げ剛性値の計測装置を示す説明図である。
図3】実施例で得られた製紙用フェルトの、ポリウレタン樹脂に対する柔軟剤の重量比率と、樹脂残存率及び緯曲げ変化率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
ここで示される事項は、例示的なもの及び本発明の実施形態を例示的に説明するためのものであり、本発明の原理と概念的な特徴とを最も有効に且つ難なく理解できる説明であると思われるものを提供する目的で述べたものである。この点で、本発明の根本的な理解のために必要である程度以上に本発明の構造的な詳細を示すことを意図してはおらず、図面と合わせた説明によって本発明の幾つかの形態が実際にどのように具現化されるかを当業者に明らかにするものである。
【0010】
〔1〕製紙用フェルト
本発明は、ポリウレタン樹脂が塗着されているとともに、柔軟剤が付与された製紙用フェルトであって、ポリウレタン樹脂に対する柔軟剤の重量比率(柔軟剤の重量/ポリウレタン樹脂の重量)が0.02~0.09の範囲である製紙用フェルトである。
また、本発明の製紙用フェルトにおいて、ポリウレタン樹脂に対する柔軟剤の前記重量比率は、更に、0.03~0.09の範囲とすることができる。
【0011】
本発明の製紙用フェルトは、例えば、図1に示す構成を有することができる。
即ち、製紙用フェルト1は、図1に示すように、基布層11と、基布層11の製紙面側(図1の上面側)に配設された表バット層13と、基布層11の走行面側(図1の下面側)に配設された裏バット層15と、を備えている。
表バット層13は、ポリウレタン樹脂19が結着された繊維を備えている。この表バット層13は、内側となる基布層11側を内層部13Aとし、外側となる製紙面側を表層部13Bとした場合、主として表層部13Bの内部に柔軟剤(図示略)が分散状態で付与されている。
製紙用フェルト1は、基布層11、表バット層13、裏バット層15等の各層が積層方向に交絡される等により、全体として一体化物とされている。
【0012】
なお、製紙用フェルト1は、例えば、裏バット層15を省略した構成とすることができる。
また、製紙用フェルト1の表バット層13は、例えば、内層部13Aと表層部13Bとの2層を有する等のように、複層構造とすることができる。
表バット層13を複層構造とする場合、内層部13Aと表層部13Bとの間には、追加のバット層を設けることもできる。
【0013】
(1)基布層
基布層は、製紙用フェルトに用いられている基布に由来するものとすることができ、通常、糸によって構成されたものを用いることができる。
糸の材料は、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612等のポリアミド樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂等の合成樹脂、綿、羊毛、絹等を例示することができる。
例示したもののうち、ポリアミド樹脂は、耐摩耗性、圧縮回復性、耐衝撃性等に優れた製紙用フェルトとすることができる観点から、基布層を構成する糸の材料として特に好ましい。
【0014】
糸の形態は、モノフィラメント、マルチフィラメント、スパンヤーンや、捲縮加工、嵩高加工等が施されたテクスチャードヤーン、バルキーヤーン、ストレッチヤーン等の加工糸、更には、これらの糸を撚り合わせてなる撚糸とすることができる。
糸の断面形状は、円形、略楕円形、多角形、略星型、略矩形等とすることができる。
尚、糸には、中空糸を用いることもできる。
【0015】
糸の直径は、特に限定されない。糸の形態がモノフィラメントの場合、その直径は、好ましくは0.10mm~0.60mm、より好ましくは0.20mm~0.50mmである。
また、糸の形態がマルチフィラメントの場合、このマルチフィラメントを構成するモノフィラメントの繊度として、通常、3dtex~1,000dtex、好ましくは5dtex~600dtexである。
糸の形態がマルチフィラメントの場合、マルチフィラメントのフィラメント数は、通常、2本~300本であり、好ましくは2本~100本である。
【0016】
基布層を構成する糸は、1種のみでもよく、2種以上でもよい。
基布層を構成する糸は、製紙用フェルトの強度、空隙率及び通気性や、圧力均一性等の特性に応じた適切な材質、形態、直径等を有するものとすることができる。
【0017】
基布層の構造は、特に限定されず、単層構造、多層構造のいずれでもよい。
多層構造の場合、経糸二重以上、緯糸二重以上を製織する等により形成された、少なくとも2層からなる多重織された基布からなるもの、互いに異なる複数種の基布が積層されてなるもの等とすることができる。
また、基布層の構造は、糸条を経方向、緯方向又は斜め方向に配列した構造を有するものとすることができる。
基布層は、高分子フィルム又はシートに穴開け加工、発泡加工等を施したものとすることもできる。
【0018】
基布層の厚さは、特に限定されず、好ましくは0.2mm~3.5mm、より好ましくは0.4mm~2.0mmとすることができる。
基布層の目付は、特に限定されず、好ましくは150g/m~1500g/m、より好ましくは250g/m~1200g/mとすることができる。
基布層の厚さ及び目付は、製紙用フェルトの強度、空隙率及び通気性や、基布マーク防止性等の特性に応じて適切に設定される。
なお、基布層の厚さ及び目付は、単層構造であればその単層の厚さ及び目付、多層構造であれば各層の厚さ及び目付の合計とする。
【0019】
(2)表バット層
表バット層は、繊維(以下、「表バット繊維」ともいう)によって構成された層であり、基布層の製紙面側に配設され、抄紙に際して、湿紙の表面平滑性を維持しつつ搬送する作用を有する。
表バット層の構造は、特に限定されず、単層構造、複層構造のいずれでもよい。
【0020】
表バット繊維の材料は、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612等のポリアミド樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂等の合成樹脂、綿、羊毛、絹等を例示することができる。
例示したもののうち、耐摩耗性、圧縮回復性、耐衝撃性、親水性、耐加水分解性、耐薬品性等の観点から、ポリアミド樹脂が、表バット繊維の材料として好ましい。
【0021】
表バット繊維の繊度は、通常、0.1dtex~100dtexである。
表バット層が複層構造の場合、表バット繊維の繊度は、例えば、図1に示した内層部13Aと表層部13Bとで、同じ繊度とすることができ、異なる繊度とすることもできる。
通常、内層部13Aに含まれる表バット繊維の繊度は、3dtex~150dtexとすることができ、表層部13Bに含まれる表バット繊維の繊度は、0.1dtex~100dtexとすることができる。
【0022】
表バット層の目付は、単層構造及び複層構造のいずれであっても、全体として、好ましくは100g/m~1,500g/m、より好ましくは300g/m~1,200g/m、更に好ましくは400g/m~1,000g/mである。
表バット繊維の繊度及び表バット層の目付は、製紙用フェルトの強度、空隙率及び通気性や、表バット層の表面性等の特性に応じて適切に設定される。
【0023】
(3)裏バット層
本発明の製紙用フェルトは、基布層11における表バット層13の反対面側である走行面側に、更に、裏バット層15を備えることができる(図1参照)。
裏バット層は、繊維(以下、「裏バット繊維」ともいう)によって構成された層であり、基布層を摩耗から保護することで、製紙用フェルトとしての耐久性を向上させる作用を有する。
【0024】
裏バット繊維の材料は、特に限定されず、表バット繊維と同様、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612等のポリアミド樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂等の合成樹脂、綿、羊毛、絹等とすることができる。
裏バット繊維の繊度は、通常、3dtex~150dtexである。
裏バット層の目付は、通常、50g/m~500g/mである。
【0025】
(4)ポリウレタン樹脂
本発明の製紙用フェルトは、ポリウレタン樹脂が塗着されている。
このポリウレタン樹脂は、製紙用フェルトの断面方向における通気性(搾水性)を適性範囲に制御し、表層部に適度な硬さを付与することで、製紙用フェルトの搾水性の向上、初期なじみ性の向上、耐圧縮性の向上等を目的として塗着される。つまり、製紙用フェルトは、繊維にポリウレタン樹脂を塗着する樹脂加工が施されることにより、搾水性の向上、初期なじみ性の向上、耐圧縮性の向上等のメリットを享受することができる。
具体例として、図1に示すように、製紙用フェルト1は、表バット層13の内層部13Aと表層部13Bに、ポリウレタン樹脂19が結着された繊維17を含んでいる。
【0026】
尚、繊維へのポリウレタン樹脂の結着の形態は、繊維にポリウレタン樹脂が付着する形態、繊維同士をポリウレタン樹脂が接合する形態の何れとすることもできる。
また、繊維同士をポリウレタン樹脂が接合する形態は、直交又は交差する方向に伸びる繊維同士を互いの交点でポリウレタン樹脂が結節する形態、複数の繊維同士の間に入り込んだポリウレタン樹脂がそれら繊維同士を接着する形態の何れとすることもできる。
【0027】
ポリウレタン樹脂が結着された繊維は、必ずしも、図1に例示されるように、表バット層13の内層部13Aと表層部13Bに含まれる形態に限定されない。
即ち、製紙用フェルト1にポリウレタン樹脂が塗着されている構成であれば、ポリウレタン樹脂が結着された繊維が、表バット層13の表層部13Bにのみ含まれる形態、又は、表バット層13と基布層11に含まれる形態とすることもできる。
【0028】
ポリウレタン樹脂は、ポリオール(水酸基)とイソシアネート系化合物(イソシアネート基)とを主原料に用いて合成されたものである。主原料に用いられるポリオールとイソシアネート系化合物の種類については、特に限定されない。
ポリオールとしては、ポリエステル系ポリオール、ポリエーテル系ポリオール、ポリカーボネート系ポリオール、ポリオレフィン系ポリオール等を例示することができ、何れを使用してもよい。イソシアネート系化合物としては、芳香族系イソシアネート化合物、脂肪族系イソシアネート化合物、脂環族系イソシアネート化合物を例示することができ、何れを使用してもよい。
ポリウレタン樹脂は、上述の主原料のみから合成された樹脂を用いることができ、あるいは、主原料に、触媒、架橋剤等の副原料や、着色剤、安定剤等の添加剤などを混合した混合物から合成された樹脂を用いることもできる。
【0029】
製紙用フェルトは、交絡される等によって一体化物とされた基布層、表バット層等を原反とし、この原反にポリウレタン樹脂を塗着させる樹脂加工を施して得られる。
以下、製紙用フェルトにおいて、基布層、表バット層等の一体化物から形成され、樹脂加工や柔軟加工が施されていないフェルト、換言するとポリウレタン樹脂が塗着されておらず、柔軟剤が付与されていないフェルトを「フェルト原反」と称する。
また、フェルト原反に樹脂加工のみを施して、柔軟加工が施されていないフェルトを「樹脂加工フェルト」と称する。
【0030】
樹脂加工に用いられるポリウレタン樹脂の種類は、特に限定されず、軟質ポリウレタンフォーム、硬質ポリウレタンフォーム等のフォーム状や、熱可塑性エラストマー、熱硬化性エラストマー、塗料等の非フォーム状の、何れも使用することができる。
樹脂加工に用いられるポリウレタン樹脂の状態は、特に限定されないが、通常、液状とされる。液状としたポリウレタン樹脂を得る方法は、特に限定されず、公知の方法を適用することができるが、特に、ポリウレタン樹脂を水に分散させて得られた水系ポリウレタンエマルジョン、水系ポリウレタンディスパージョン等は、フェルト原反に樹脂加工しやすいという利点を有する。
【0031】
(5)柔軟剤
本発明の製紙用フェルトは、樹脂加工フェルトに柔軟剤が付与されて得られる。
この柔軟剤は、製紙用フェルトの柔軟性を向上させることにより、製紙用フェルトの抄紙機への掛入性を好適にする目的で付与される。
【0032】
具体的には、図1に示した製紙用フェルト1において、柔軟剤は、特に図示されていないが、ポリウレタン樹脂19が結着された繊維を含む表層部13Bに付与されている。
この表層部13Bは、ポリウレタン樹脂19が塗着されていることによるメリットを享受しつつ、柔軟剤が付与されることによって、適度な柔軟性を付与される。
【0033】
尚、柔軟剤の付与の形態は、繊維にのみ柔軟剤が吸着又は付着する形態、ポリウレタン樹脂が結着された繊維の樹脂と繊維に柔軟剤が吸着又は付着する形態、繊維同士の隙間に柔軟剤が入り込んだ形態、の何れとすることもできる。
また、柔軟剤は、必ずしも、表バット層の表層部にのみ付与される形態に限定されず、製紙用フェルトに柔軟剤が付与されている構成であれば、柔軟剤が表バット層の表層部と内層部に付与される形態、又は、表バット層と基布層に付与される形態とすることもできる。
【0034】
柔軟剤は、通常、界面活性剤を含む柔軟剤を用いることができる。
即ち、界面活性剤は、親水基と親油基とを有しており、親油基を外側に向けた状態で、親水基を繊維に吸着させることにより、親油基が、所謂、潤滑油のように働き、繊維同士の摩擦抵抗を弱めてすべりをよくすることで、製紙用フェルトの柔軟性を向上させる。
界面活性剤は、特に限定されず、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤等のイオン系界面活性剤や、ノニオン系界面活性剤などから選択される1種又は2種以上を用いることができる。
これら界面活性剤の中でも、ノニオン系界面活性剤は、水溶液中でイオンに解離しない親水基(水酸基やエーテル結合)を有しており、電離しないため、水の硬度や電解質の影響を受けにくく、イオン系界面活性剤とも併用可能であることから、柔軟剤に含まれる界面活性剤として、好ましい。
【0035】
柔軟剤は、界面活性剤(好ましくはノニオン系界面活性剤)のみからなる柔軟剤であってもよく、あるいは、界面活性剤(好ましくはノニオン系界面活性剤)に添加剤が添加されてなる柔軟剤であってもよい。
添加剤は、特に限定されず、帯電防止剤、着色剤等といった公知の柔軟剤で使用されている添加剤を用いることができる。
【0036】
また、添加剤には、フェルト原反に用いられている繊維の材料と同系の樹脂を用いることができる。この同系の樹脂は、更に、親水基を付与されているものが好ましい。例えば、フェルト原反に用いられている繊維の材料がポリアミド樹脂である場合、添加剤には、親水基を付与されたポリアミド樹脂を用いることができる。
添加剤として同系の樹脂を用いる場合、その同系の樹脂は、フェルト原反に用いられている繊維との親和性が高いため、繊維の表面で被膜を形成することができる。
更に、同系の樹脂は、親水基を付与されている場合、フェルト原反に用いられている繊維の表面に界面活性剤を吸着させる仲立ちをすることができる。
このため、添加剤として、フェルト原反に用いられている繊維と同系の樹脂、特に親水基を付与された同系の樹脂を用いる場合、製紙用フェルトの柔軟性の向上を図ることができるとともに、親水性が高まり、繊維に水が浸透しやすくなることで、汚れが落ちやすくなり、製紙用フェルトの防汚性を高めることができる。
【0037】
(6)組成及び物性
[重量比率]
製紙用フェルトにおいて、ポリウレタン樹脂に対する柔軟剤の重量比率は、0.024~0.090の範囲である。この場合、製紙用フェルトは、抄紙機への掛入性の向上を図りつつ、ポリウレタン樹脂の耐久性の向上を図ることができる。
また、重量比率は、好ましくは0.035~0.080の範囲であり、より好ましくは0.050~0.070の範囲である。
重量比率は、製紙用フェルトに塗着されたポリウレタン樹脂の塗着量(目付量)をポリウレタン樹脂の重量Wp(g/m)とし、製紙用フェルトに付与された柔軟剤の付与量(目付量)を柔軟剤の重量Ws(g/m)として、重量比率=Ws/Wpの式で得られた値である。
【0038】
[樹脂塗着量]
ポリウレタン樹脂の塗着量(Wp)(以下、「樹脂塗着量(Wp)」と略す。)は、特に限定されず、製紙用フェルトに要求される搾水性、初期なじみ性、耐圧縮性等といった性能に応じて適宜設定される。
樹脂塗着量(Wp)は、製紙用フェルトに塗着されたポリウレタン樹脂の目付量(g/m)を測定して得られる。
具体的に、樹脂塗着量(Wp)は、好ましくは10g/m~100g/m、より好ましくは20g/m~90g/mとすることができる。
【0039】
[柔軟剤付与量]
柔軟剤の付与量(Ws)(以下、「柔軟剤付与量(Ws)」と略す。)は、特に限定されず、製紙用フェルトの抄紙機への掛入性、ポリウレタン樹脂の耐久性等といった性能に応じて適宜設定される。
柔軟剤付与量(Ws)は、製紙用フェルトに付与された柔軟剤の固形分の目付量(g/m)を測定して得られる。
具体的に、柔軟剤付与量(Ws)は、好ましくは2g/m~10g/m、より好ましくは2.5g/m~8.5g/m、さらに好ましくは3g/m~6.5g/mとすることができる。
【0040】
[樹脂残存率]
製紙用フェルトは、樹脂の脱離に抗する性能について、樹脂残存率(%)で表すことができる。
即ち、製紙用フェルトは、抄紙の際、その表面(表バット層)に、繰り返し圧縮、シャワー、サクション等による機械的外力を直接的に受ける。機械的外力を受けた製紙用フェルトは、製紙用フェルトに塗着された樹脂(本願ではポリウレタン樹脂)が経時劣化し、繊維から剥がれることで、樹脂の脱離を発生させて、樹脂加工によるメリットを享受できなくなる可能性がある。
つまり、製紙用フェルトは、抄紙機での使用に伴い、樹脂の脱離が発生しやすいものは樹脂加工によるメリットを十分に享受し難く、樹脂の脱離が発生し難いものは樹脂加工によるメリットを好適に享受できるものとなる。
【0041】
樹脂残存率(%)は、製紙用フェルトにおける樹脂の脱離に抗する性能、換言すると製紙用フェルトからの脱離に関する樹脂の耐久性を示す値である。具体的に、本願における樹脂残存率(%)は、製紙用フェルトに後述する耐久試験を実施して、製紙用フェルト中におけるポリウレタン樹脂の残存量を測定して求められた値である。
詳しくは、上述の樹脂塗着量(Wp)と、樹脂脱落量(WL1;g/m)とを用い、計算式:〔(Wp-WL1)/Wp〕×100から算出される値を、樹脂残存率(%)とする(樹脂残存率(%)=〔(Wp-WL1)/Wp〕×100)。
また、樹脂脱落量(WL1;g/m)は、製紙用フェルトについて、耐久試験前の重量(目付量;g/m)と、耐久試験後の重量(目付量;g/m)とを測定し、耐久試験前後の重量変化量として算出される(WL1=耐久試験後の重量-耐久試験前の重量)。
【0042】
樹脂残存率(%)は、特に限定されず、製紙用フェルトに要求される抄紙機への掛入性に応じ、樹脂加工によるメリットを好適に享受できように適宜設定される。
具体的に、樹脂残存率(%)の下限値は、好ましくは80%以上、より好ましくは82%以上、更に好ましくは84%以上とすることができる。通常、樹脂残存率(%)の上限値は、100%である。
【0043】
[緯曲げ変化率]
製紙用フェルトは、抄紙機への掛入性について、緯曲げ変化率(%)で表すことができる。
即ち、柔軟剤を付与された製紙用フェルトは、柔軟性が向上することに伴い、曲げ剛性値(g/cm)が低くなるように変化し、その曲げ剛性値(g/cm)の変化が大きい場合、柔軟性が大きく向上することで掛入性が高まり、その曲げ剛性値(g/cm)の変化が小さい場合、柔軟性が向上せずに掛入性が低くなる。
このため、柔軟剤を付与する前の製紙用フェルトの曲げ剛性値(g/cm)と、柔軟剤を付与した後の製紙用フェルトの曲げ剛性値(g/cm)と、の変化の割合、つまり曲げ変化率(%)により、曲げ変化率(%)が高い場合には掛入性が高いもの、曲げ変化率(%)が低い場合には掛入性が低いもの、として掛入性を表すことができる。
なお、上述の曲げ剛性値(g/cm)は、計測装置(図2参照)を使用し、製紙用フェルトの緯方向の曲げ剛性値(g/cm)、つまり緯曲げ剛性値(g/cm)を測定するものとする。
【0044】
ここで、緯曲げ剛性値(g/cm)の測定について詳述する。
図2に示すように、緯曲げ剛性値の計測装置は、曲げ剛性値を計測する荷重計21と、測定対象1(製紙用フェルト又はフェルト原反)を載せる台座22とを有している。荷重計21は、下方に配された製紙用フェルト1から加わる荷重を測定するものであり、具体的には、日本電産シンポ社製の「ハンドヘルド デジタルフォース・ゲージDFG-50R(商品名)」が使用されている。
【0045】
緯曲げ剛性値を測定される製紙用フェルト1は、経糸方向又は流れ方向を経方向(図中のMD方向)とし、その経方向と直交する方向を緯方向(図中のCMD方向)とし、表バット層が設けられた側の面を表面として、表面が内側となるように緯方向へ半分に折り曲げられる。
測定時には、荷重計21と台座22との間隔を3cmとし、それらの間に製紙用フェルト1を、緯方向へ半分に折り曲げられた状態で配置する。そして、台座22との間隔が1cmとなるまで荷重計21を下降させ、製紙用フェルト1に荷重計21を圧接させて、その際に荷重計21によって測定された荷重を、製紙用フェルト1の緯曲げ剛性値(g/cm)とする。
【0046】
緯曲げ変化率(%)は、測定されたフェルト原反の緯曲げ剛性値をF(g/cm)とし、測定された樹脂加工フェルト又は製紙用フェルトの緯曲げ剛性値をF(g/cm)として、緯曲げ変化率(%)=(F/F)×100の計算式で得られる。
緯曲げ変化率(%)は、特に限定されず、製紙用フェルトに施された樹脂加工によるメリットを享受可能な範囲で、抄紙機への掛入性が向上するように適宜設定される。
通常、緯曲げ変化率(%)の上限値は、好ましくは115%以下、より好ましくは110%以下、更に好ましくは105%以下とすることができる。
なお、緯曲げ変化率(%)は、100%未満の場合、樹脂加工されていないフェルト原反よりも緯曲げ剛性値が低くなるので、樹脂加工によるメリットを享受し難くなってしまう。
【0047】
〔2〕製紙用フェルトの製造方法
製紙用フェルトの製造方法は、フェルト原反にポリウレタン樹脂を塗着して樹脂加工フェルトを得る樹脂加工工程と、樹脂加工フェルトに柔軟剤を付与して製紙用フェルトを得る柔軟処理工程と、を備えている。
以下、各工程について説明する。
【0048】
(1)樹脂加工工程
樹脂加工工程は、フェルト原反にポリウレタン樹脂を塗着する樹脂加工を行い、樹脂加工フェルトを得る工程である。
具体的に、樹脂加工は、ポリウレタン樹脂を水に分散させて得られた分散液(以下、「水分散液」という)を、フェルト原反に塗布又は含浸し、乾燥させ、加熱し、フェルト原反の繊維にポリウレタン樹脂を結着させて実行される。
【0049】
フェルト原反は、基布層と、表バット層となる第1繊維層とを備えており、必要により、裏バット層となる第2繊維層を、第1繊維層の反対面側に備えてもよい。
フェルト原反は、基布層、第1繊維層等がニードリング等により、交絡された一体化物であることが好ましい。
【0050】
基布層は、上述した「〔1〕製紙用フェルト」における「(1)基布層」の説明が適用される。
第1繊維層は、単層型及び複層型のいずれでもよく、上述した「〔1〕製紙用フェルト」における「(2)表バット層」の説明が適用される。なお、第1繊維層は、単層型の場合の繊維の繊度、及び、複層型の場合の最表層を構成する繊維の繊度は、いずれも、水分散液を塗布した後の、ポリウレタン樹脂の粒子の保持性が向上することから、好ましくは0.1~100dtex、より好ましくは0.3~70dtex、更に好ましくは1~50dtex、特に好ましくは2~30dtexである。
フェルト原反が第2繊維層を備える場合、第2繊維層は、上述した「〔1〕製紙用フェルト」における「(3)裏バット層」の説明が適用される。
【0051】
水分散液の形態は、エマルジョン等とすることができるが、ポリウレタン樹脂を含む結着部(表層部13B)の厚さを制御しやすいことから、ポリウレタン樹脂が水に分散したディスパージョンであることが好ましい。
水分散液は、ポリウレタン樹脂のみからなるものであってよいし、更に、添加剤を含有するものであってもよい。
【0052】
樹脂加工工程において、水分散液をフェルト原反の表面に塗布する方法は、特に限定されず、スプレーコーティング、ロールコーティング等を適用することができる。
上記水分散液の塗布量は、水分散液の固形分濃度、粘度等により、適宜、選択され、特に限定されない。
【0053】
樹脂加工工程において、水分散液が塗布されたフェルト原反は、熱処理により乾燥され、水分散液の主たる媒体である水が除去されて、水分散液に含まれるポリウレタン樹脂が、第1繊維層の繊維に付着される。
熱処理における加熱温度は、好ましくは100℃~170℃、より好ましくは120℃~150℃とすることができる。
【0054】
(2)柔軟処理工程
柔軟処理工程は、樹脂加工フェルトに柔軟剤を付与し、製紙用フェルトを得る工程である。
具体的に、柔軟処理工程は、原液である柔軟剤を水で希釈して得られた柔軟剤溶液(以下、「処理液」という)を、樹脂加工フェルトに塗布又は含浸し、乾燥させて、樹脂加工フェルトに柔軟剤を付与して実行される。
【0055】
柔軟処理工程は、柔軟剤をそのまま使用することができるが、樹脂加工フェルトへの塗布又は含浸のしやすさの観点から、原液である柔軟剤を水で希釈して得られた処理液を使用することが好ましい。
処理液は、柔軟剤と水のみからなるものであってよいし、更に、添加剤を含有するものであってもよい。
処理液に含まれる柔軟剤の濃度は、特に限定されず、柔軟剤の粘度等に応じて適宜設定することができる。
【0056】
柔軟処理工程において、処理液を樹脂加工フェルトに塗布又は含浸する方法は、特に限定されず、スプレーコーティング、ロールコーティング等を適用することができる。
処理液の塗布量又は含浸量は、柔軟剤の濃度と重量比率に応じて、適宜、選択することができる。
【0057】
柔軟処理工程において、処理液が塗布又は含浸された樹脂加工フェルトは、乾燥されて、処理液に含まれる柔軟剤が繊維に吸着されて。製紙用フェルトとされる。
樹脂加工フェルトを乾燥する方法は、処理液の主たる媒体である水を除去するものであれば、特に限定されない。この乾燥において、乾燥温度、圧力等は、特に限定されない。
【実施例
【0058】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
〔フェルト原反の製造〕
モノフィラメントの撚糸(ナイロン6、繊維径;0.2mm)と、モノフィラメントの単糸(ナイロン6、繊維径;0.25mm)を用い、1重織組織で織り上げて得た織布(目付量;273g/m)を、第1基布層とした。
モノフィラメントの単糸(ナイロン6・10、繊維径;0.4mm)と、モノフィラメントの単糸(ナイロン6、繊維径;0.4mm)を用い、2重織組織で織り上げて得た織布(目付量;583g/m)を、第2基布層とした。
上述の第1基布層と、第2基布層とを厚さ方向に重ね合わせ、第1基布層側を製紙面側とし、第2基布層側を走行面側として、基布(基布層)を得た。
【0059】
上述の基布(基布層)の製紙面側において、内層部側にステープルファイバー(ナイロン66、平均繊度;51dtex)を目付量で570g/m、表層部側にステープルファイバー(ナイロン66、平均繊度;31dtex)を目付量で234g/m配置し、第1繊維層を形成した。
更に、上述の基布(基布層)の走行面側において、ステープルファイバー(ナイロン66、平均繊度;51dtex)を目付量で190g/m配置し、第2繊維層を形成した。
【0060】
上述の基布(基布層)、第1繊維層、及び第2繊維層を、ニードルパンチングにより、絡合して一体化させ、更にプレス加工を行い、基布層、表バット層、及び裏バット層が一体化されてなるフェルト原反を作製した。
得られたフェルト原反について、曲げ剛性試験を行ったところ、緯曲げ剛性値は、1362.3g/cmであった(表1の「フェルト原反」の項を参照)。
【0061】
〔樹脂加工工程〕
水性ポリウレタンディスパージョン溶液を、固形分濃度が8質量%となるように調整して、水分散液を得た。
上述のフェルト原反を仕上げ加工機へセットし、そのフェルト原反の製紙面側(表バット層側)に、水分散液を、散布量(目付量)が1000g/mとなるようにスプレーした。その後、フェルト原反を130℃で乾燥し、続いて150℃の熱風を吹き付けて加熱し、ポリウレタン樹脂を溶融させ、表バット層の表層部の繊維にポリウレタン樹脂が結着された樹脂加工フェルトを得た。
この樹脂加工フェルトは、ポリウレタン樹脂の樹脂塗着量(Wp)が80g/mであった(表1の「実験例0」の項を参照)。
【0062】
〔柔軟処理工程〕
ノニオン系界面活性剤(ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ製「イノベゾールNY-30」(商品名))を原液とし、原液濃度が5質量%となるように水で希釈し、調整して、処理液を得た。
上述の樹脂加工フェルト(実験例0)を仕上げ加工機へセットし、その樹脂加工フェルト(実験例0)の製紙面側(表バット層側)に、処理液を、所定の散布量となるように、スプレーした。
処理液の散布量は、柔軟剤付与量(目付量)が、表1に示した実験例1~8の値となるように、各実験例で適宜変更し、調整した。
その後、処理液をスプレーした樹脂加工フェルトを130℃で乾燥し、ポリウレタン樹脂が塗着され、柔軟剤が付与された製紙用フェルト(実験例1~8)を得た。
得られた製紙用フェルト(実験例1~8)について、樹脂塗着量(Wp)は80g/mであり、柔軟剤付与量(Ws)は、表1に示した値とした。
実験例1~8の製紙用フェルトについて、樹脂塗着量(Wp)と、柔軟剤付与量(Ws)とから、ポリウレタン樹脂に対する柔軟剤の重量比率(柔軟剤付与量(Ws)/樹脂塗着量(Wp))を算出し、表1に示す。
【0063】
〔耐久試験〕
樹脂加工フェルト(実験例0)及び製紙用フェルト(実験例1~8)について、それぞれ長さ;0.34m、幅;0.14mに切り出し、連結後の全長が5mとなるようにエンドレスベルト状に縫い合わせ、実験例0及び実験例1~8のテストサンプルを得た。これらのテストサンプルをプレスロール試験機に取り付けて、ポリウレタン樹脂の耐久性についての耐久試験を行った。
【0064】
プレスロール試験機は、耐久試験中、1周につき1回、トップロールとボトムロールの間でテストサンプルをプレス(圧縮)する構造である。
また、プレスロール試験機は、試験機に取り付けられた複数のロールにより、テストサンプルの表面が外側及び内側の両側に屈曲するように、テストサンプルを走行させる構造である。
さらに、プレスロール試験機は、高圧ニードル型摺動シャワーと、サクションボックスを有する構造である。
【0065】
耐久試験は、テストサンプルの走行速度を150m/min、プレス線圧を45kN/mとして、プレス回数が46,500回になるまでテストサンプルを走行させて行った。
また、耐久試験は、テストサンプルの製紙面側(製紙用フェルトの製紙面側)に高圧ニードル型シャワーを摺動させて、その製紙面側に水を吹きつけ、かつ、サクションボックスでテストサンプルの製紙面側から水分を吸引しながら、テストサンプルを走行させて行った。
【0066】
テストサンプルについて、耐久試験前の重量(目付量;g/m)と、耐久試験後の重量(目付量;g/m)とを測定し、耐久試験前後の重量差を樹脂脱落量(WL1;g/m)として算出した。
この樹脂脱落量(WL1;g/m)と、上述の樹脂塗着量(Wp;g/m)とから、耐久試験後のテストサンプルの樹脂残存量(Wp;g/m)を求め、樹脂塗着量(Wp;g/m)に対する樹脂残存量(Wp;g/m)の割合〔(Wp/Wp)×100〕から、樹脂残存率(%)を算出した。
実験例0及び実験例1~8のテストサンプルについて、樹脂脱落量(WL1;g/m)及び樹脂残存率(%)を、表1に示す。
【0067】
〔曲げ剛性試験〕
フェルト原反、樹脂加工フェルト(実験例0)、及び製紙用フェルト(実験例1~8)において、それぞれから3か所ずつ縦;10cm、横;10cmの大きさでテストサンプルを切り出し、フェルト原反、実験例0及び実験例1~8のテストサンプルを各3つずつ得た。
フェルト原反、実験例0及び実験例1~8の各3つのテストサンプルは、図2に示す計測装置を使用し、3つ全てについて緯曲げ剛性値(g/cm)を測定し、それらの平均値を求め、その平均値を、フェルト原反、実験例0及び実験例1~8の緯曲げ剛性値(g/cm)とした。
そして、フェルト原反、実験例0及び実験例1~8の緯曲げ剛性値(g/cm)に基づき、緯曲げ変化率(%)を求めた。この緯曲げ変化率(%)は、実験例0及び実験例1~8の緯曲げ剛性値(g/cm)をFとし、フェルト原反の緯曲げ剛性値(g/cm)をFとして、緯曲げ変化率(%)=(F/F)×100の計算式から算出した。
フェルト原反、実験例0及び実験例1~8のテストサンプルについて、緯曲げ剛性値(g/cm)及び緯曲げ変化率(%)を、表1に示す。
【0068】
【表1】
【0069】
〔結果・考察〕
図3は、実験例0(樹脂加工フェルト)と、実験例1~8(製紙用フェルト)とについて、表1に示した重量比率と、樹脂残存率(%)及び緯曲げ変化率(%)との関係を示すグラフである。
図3のグラフ及び表1に示されるように、緯曲げ剛性値(g/cm)について、柔軟剤を付与されていない実験例0は、実験例1~8よりも高く、その緯曲げ変化率(%)は129.4%であった。そして、柔軟剤を付与された実験例1~8は、重量比率が上昇する、つまり柔軟剤付与量(Ws)が増すに従い、緯曲げ変化率(%)が低くなった。
一方、樹脂残存率(%)について、柔軟剤を付与されていない実験例0の樹脂残存率は81.8%であったが、重量比率が0.019となるように柔軟剤を付与された実験例1は、樹脂残存率が88.4%となり、実験例0よりもよりも大きく上昇した。つまり、実験例1は、柔軟剤を付与されていない実験例0よりも、樹脂加工によるメリットを良好に享受できるものであった。
更に、樹脂残存率(%)は、実験例1に続き、実験例2、3、4もまた、88.0%、87.8%、84.6%と、実験例0の81.8%よりも高くなった。図3のグラフから、樹脂残存率(%)は、実験例1~3について、重量比率が0.019、0.040、0.060と増しても、極僅かしか減少しておらず、重量比率を0.080以上とした実験例4以降で大きく減少する傾向が見られた。
即ち、緯曲げ変化率(%)は、柔軟剤付与量(Ws)の増加に伴い、順当に低くなり、掛入性の向上を図ることができる。一方、樹脂残存率(%)は、樹脂塗着量に対する柔軟剤付与量である重量比率が一定の範囲の場合、柔軟剤が付与されていない樹脂加工フェルトよりも更に上昇したことから、樹脂加工によるメリットを良好に享受できることが示された。
【0070】
樹脂残存率(%)の向上を図る場合の重量比率の範囲について、考察する。
実験例1~8の製紙用フェルトについて、樹脂残存率(%)は実験例0の81.8%を基準値とし、緯曲げ変化率(%)は、フェルト原反が100%であるからこれより10%高い110%を基準値とする。なお、緯曲げ変化率(%)の110%という基準値は、柔軟剤を付与していない実験例0の129.4%よりも10%以上低い値である。
そして、樹脂残存率(%)が基準値である81.8%以上、かつ緯曲げ変化率(%)が基準値である110%以下のものは、樹脂加工によるメリットを好適に享受でき、かつ抄紙機への掛入性が向上しているものとして「Good」とし、それ以外のものは「NG」として、評価を行った。
その評価の結果を、表1に示す。
【0071】
実験例2~4は、評価が「Good」であり、樹脂残存率(%)が基準値である81.8%を超えているため、樹脂加工によるメリットを好適に享受することができ、緯曲げ変化率(%)が基準値である110%以下であるため、抄紙機への掛入性も良好であった。
実験例1は、樹脂残存率(%)が88.4%と、基準値である81.8%を超えており、樹脂加工によるメリットは享受できるものであった。しかし、緯曲げ変化率(%)が129.4%と、「Good」と判断する基準値の110%を超えており、抄紙機への掛入性について、僅かに難があった。
実験例5~8は、樹脂残存率(%)が基準値の81.8%未満であり、樹脂が脱落しやすいものであるから、樹脂加工によるメリットを得られないことが分かった。
【0072】
重量比率について、掛入性に難のない緯曲げ変化率(%)の上限を上述の基準値である110%以下とした場合、重量比率の値は、図3のグラフから0.024以上であった。
また、重量比率について、樹脂残存率(%)は、実験例0の81.8%を基準値とし、樹脂の耐久性の向上を図る観点で、樹脂残存率(%)の下限を81.8%以上とした場合、重量比率の値は、図3のグラフから0.090以下であった。
従って、本発明における重量比率は、抄紙機への掛入性の向上と、樹脂加工によるメリットを好適に享受する観点から、0.024~0.090の範囲であることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明の製紙用フェルトは、抄紙機のプレスパートで使用される製紙用プレスフェルトとして好適に用いられ、搾水性に優れ、板紙のように搾水量の多い紙の他、各種の紙の製造工程において利用することができる。
【符号の説明】
【0074】
1:製紙用フェルト、11:基布層、13:表バット層、13A:内層部、13B:表層部、15:裏バット層、17:表バット繊維、19:ポリウレタン樹脂。
図1
図2
図3