(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-28
(45)【発行日】2025-02-05
(54)【発明の名称】ベアリングコンポーネントの複数の特徴部分を同時に加熱するためのスプリットマルチコイル電気誘導加熱処理システム
(51)【国際特許分類】
H05B 6/10 20060101AFI20250129BHJP
H05B 6/36 20060101ALI20250129BHJP
C21D 9/00 20060101ALI20250129BHJP
【FI】
H05B6/10 331
H05B6/36 F
C21D9/00 A
(21)【出願番号】P 2022547789
(86)(22)【出願日】2021-02-03
(86)【国際出願番号】 US2021016326
(87)【国際公開番号】W WO2021158604
(87)【国際公開日】2021-08-12
【審査請求日】2023-11-17
(32)【優先日】2020-02-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】501395742
【氏名又は名称】インダクトヒート インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】バレリー・アイ・ルードネフ
(72)【発明者】
【氏名】ゲイリー・エイ・ドイオン
(72)【発明者】
【氏名】グレンビル・コリン・デスミエル
(72)【発明者】
【氏名】ロバート・ジェイ・マデイラ
(72)【発明者】
【氏名】ティモシー・ジェラード・ブジー
【審査官】河野 俊二
(56)【参考文献】
【文献】特表2003-522395(JP,A)
【文献】特開2005-235637(JP,A)
【文献】特開2017-008397(JP,A)
【文献】特表2012-515430(JP,A)
【文献】実公昭47-006420(JP,Y1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0179609(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2018-0134052(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 6/10
H05B 6/36
C21D 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベアリングコンポーネント上の複数のベアリング特徴部分を同時に加熱するためのスプリットインダクタアセンブリを有する、スプリットマルチコイル電気誘導加熱システムであって、前記スプリットインダクタアセンブリは、前記ベアリングコンポーネントの加熱位置から分離可能なマスターインダクタアセンブリ及びパッシブインダクタアセンブリを含み、前記スプリットマルチコイル電気誘導加熱システムは、
前記マスターインダクタアセンブリに配置された、以下を含むマスターインダクタ回路:
少なくとも1つの第1ベアリング特徴部分を加熱するためのマスター加熱インダクタ、
マスター磁束カプラー、
前記マスターインダクタ回路の電源端子、及び
前記マスターインダクタ回路の電源端子を前記マスター加熱インダクタに接続するマスターインダクタ回路導体ネットワークであって、前記マスターインダクタ回路導体ネットワークに対して、前記マスター磁束カプラーが
近接して配置さ
れ、エアギャップ又は誘電体材料ギャップによって物理的に分離されるマスターインダクタ回路導体ネットワーク;及び
前記パッシブインダクタアセンブリに配置された、以下を含むパッシブインダクタ回路:
少なくとも1つの第2ベアリング特徴部分を加熱するためのパッシブ加熱インダクタ、
パッシブ磁束カプラー、及び
前記パッシブ加熱インダクタと閉直列電気回路を形成する、パッシブインダクタ回路導体ネットワーク
を含み、
前記パッシブ磁束カプラーは、前記パッシブインダクタ回路導体ネットワークに
近接して配置され、物理的に分離されており、前記パッシブ磁束カプラーは、前記マスター磁束カプラーに
近接して配置され、エアギャップ又は誘電体材料ギャップによって物理的に分離されており、これにより、前記マスターインダクタ回路及び前記パッシブインダクタ回路が、前記少なくとも1つの第1ベアリング特徴部分及び前記少なくとも1つの第2ベアリング特徴部分を誘導加熱のために前記ベアリングコンポーネントの加熱位置にあり、前記マスターインダクタ回路の電源端子にマスター回路の交流電流が印加されるとき、前記マスターインダクタ回路の磁場が、前記マスター磁束カプラーと磁気的に結合されている前記パッシブ磁束カプラーを介して、前記パッシブインダクタ回路と結合し、前記パッシブインダクタ回路導体ネットワークに、パッシブ回路の交流電流を生成する、スプリットマルチコイル電気誘導加熱システム。
【請求項2】
前記マスター加熱インダクタはシングルターンソレノイドコイルを含み、前記パッシブ加熱インダクタはシングルターンソレノイドコイルを含む、請求項1に記載のスプリットマルチコイル電気誘導加熱システム。
【請求項3】
前記少なくとも1つの第1ベアリング特徴部分及び前記少なくとも1つの第2ベアリング特徴部分は、前記ベアリングコンポーネントの内部ベアリング特徴部分を誘導的に加熱するために、前記マスター加熱インダクタ又は前記パッシブ加熱インダクタの外部の周りに少なくとも部分的に配置される、請求項1に記載のスプリットマルチコイル電気誘導加熱システム。
【請求項4】
前記少なくとも1つの第1ベアリング特徴部分及び前記少なくとも1つの第2ベアリング特徴部分は、前記ベアリングコンポーネントの外部ベアリング特徴部分を誘導的に加熱するために、前記マスター加熱インダクタ又は前記パッシブ加熱インダクタの内部の周りに少なくとも部分的に配置される、請求項1に記載のスプリットマルチコイル電気誘導加熱システム。
【請求項5】
前記マスター加熱インダクタと前記パッシブ加熱インダクタは、逆瞬時電流が流れるように構成された、請求項1に記載のスプリットマルチコイル電気誘導加熱システム。
【請求項6】
更に、以下のいずれかに構成された、スプリットインダクタアセンブリ位置決め装置を含む、請求項1に記載のスプリットマルチコイル電気誘導加熱システム:
(a)前記少なくとも1つの第1ベアリング特徴部分を前記マスター加熱インダクタを使用した誘導加熱のために配置し、前記少なくとも1つの第2ベアリング特徴部分を前記パッシブ加熱インダクタを使用した誘導加熱のために配置して、前記少なくとも1つの第1ベアリング特徴部分及び前記少なくとも1つの第2ベアリング特徴部分を同時に加熱するとき、前記マスターインダクタアセンブリの前記マスター加熱インダクタを、前記パッシブインダクタアセンブリの前記パッシブ加熱インダクタと長手方向に位置合わせし、前記パッシブ磁束カプラーを、前記マスター磁束カプラーに
近接して、物理的に分離するように配置すること;
(b)前記ベアリングコンポーネントを前記ベアリングコンポーネントの加熱位置に配置して、前記少なくとも1つの第1ベアリング特徴部分及び前記少なくとも1つの第2ベアリング特徴部分を誘導加熱するために、又は、前記ベアリングコンポーネントの加熱位置において、前記少なくとも1つの第1ベアリング特徴部分及び前記少なくとも1つの第2ベアリング特徴部分を誘導加熱した後、前記ベアリングコンポーネントを取り外すために、前記マスターインダクタアセンブリの前記マスター加熱インダクタを、前記パッシブインダクタアセンブリの前記パッシブ加熱インダクタから長手方向に分離すること。
【請求項7】
更に、誘導加熱した後、前記少なくとも1つの第1ベアリング特徴部分及び前記少なくとも1つの第2ベアリング特徴部分のオーステナイト化された領域を焼入れするための焼入れシステムを含み、前記焼入れシステムは、前記ベアリングコンポーネントの加熱位置で、前記ベアリングコンポーネントの加熱位置から遠隔焼入れステーションへの移行中、又は遠隔焼入れステーションでの焼入れのいずれか又は組み合わせのための焼入れ剤塗布装置を含む、請求項1に記載のスプリットマルチコイル電気誘導加熱システム。
【請求項8】
更に、第2のベアリングコンポーネント上の少なくとも1つの第1ベアリング特徴部分及び少なくとも1つの第2ベアリン
グ特徴部分をそれぞれ加熱するように構成された、前記マスター加熱インダクタと電気的に直列接続された第2のマスター加熱インダクタ及び前記パッシブ加熱インダクタと電気的に直列接続された第2のパッシブ加熱インダクタを含む、請求項1に記載のスプリットマルチコイル電気誘導加熱システム。
【請求項9】
前記マスターインダクタアセンブリ及び前記パッシブインダクタアセンブリは、ベアリングワークピース加熱ステーションに
近接して配置されるように構成され、前記スプリットマルチコイル電気誘導加熱システムは更に、
以下を含む回転テーブル:
前記ベアリングコンポーネントと前記第2のベアリングコンポーネントを前記回転テーブルにロードし、及び前記ベアリングコンポーネントと前記第2のベアリングコンポーネントを前記回転テーブルからアンロードするための、ベアリングワークピース回転テーブル加熱前ロードと加熱後アンロードステーション、
前記マスターインダクタアセンブリ及び前記パッシブインダクタアセンブリに前記ベアリングコンポーネント及び前記第2のベアリングコンポーネントをロードして誘導加熱し、及び誘導加熱後、前記マスターインダクタアセンブリ及び前記パッシブインダクタアセンブリから前記ベアリングコンポーネント及び前記第2のベアリングコンポーネントをアンロードするための、前記ベアリングワークピース加熱ステーション、
誘導加熱後、前記ベアリングコンポーネント及び前記第2のベアリングコンポーネントを焼入れするためのベアリングワークピース焼入れステーション、及び
前記ベアリングコンポーネント及び前記第2のベアリングコンポーネントを、前記ベアリングワークピース回転テーブル加熱前ロードと加熱後アンロードステーション、前記ベアリングワークピース加熱ステーション、前記ベアリングワークピース焼入れステーション及び前記ベアリングワークピース回転テーブル加熱前ロードと加熱後アンロードステーションから移動するためのロータリーアクチュエータ
を含む、請求項8に記載のスプリットマルチコイル電気誘導加熱システム。
【請求項10】
ベアリングコンポーネント上の複数のベアリング特徴部分を同時に加熱するためのスプリットインダクタアセンブリを含む、スプリットマルチコイル電気誘導加熱システムであって、前記スプリットインダクタアセンブリは、前記ベアリングコンポーネントの加熱位置から分離可能なマスターインダクタアセンブリ及びパッシブインダクタアセンブリを含み、前記スプリットマルチコイル電気誘導加熱システムは、
前記マスターインダクタアセンブリに配置された、以下を含むマスターインダクタ回路:
第1ベアリング特徴部分を加熱するためのマスター加熱インダクタであって、垂直方向のマンドレルの中心長手方向軸を有する垂直方向のマンドレルの外周の周りの第1のマンドレル端部に配置されたシングルターンのマスターソレノイドコイルを含む、マスター加熱インダクタ、
マスター磁束カプラー、
前記マスターインダクタ回路の電源端子、及び
前記マスターインダクタ回路の電源端子を前記マスター加熱インダクタに接続するマスターインダクタ回路導体ネットワークであって、前記マスター磁束カプラーが、前記マスターインダクタ回路導体ネットワークに
近接して配置され、物理的に分離される、マスターインダクタ回路導体ネットワーク;及び
前記パッシブインダクタアセンブリに配置された、以下を含むパッシブインダクタ回路:
第2ベアリング特徴部分を加熱するためのパッシブ加熱インダクタであって、垂直方向の支持構造の中心長手方向軸を有する垂直方向の支持構造の外側支持構造の周囲の第1の支持構造の端部に配置されたシングルターンのパッシブソレノイドコイルを含む、パッシブ加熱インダクタ、
パッシブ磁束カプラー、及び
前記パッシブ加熱インダクタと閉直列電気回路を形成する、パッシブインダクタ回路導体ネットワーク
を含み、
前記パッシブ磁束カプラーは、前記パッシブインダクタ回路導体ネットワークに
近接して配置され、エアギャップ又は誘電体材料ギャップによって物理的に分離されており、前記パッシブ磁束カプラーは、前記マスター磁束カプラーに
近接して配置され、物理的に分離されており、これにより、前記マスターインダクタ回路及び前記パッシブインダクタ回路が、前記第1ベアリング特徴部分及び第2ベアリング特徴部分を誘導加熱のためにベアリングコンポーネントの加熱位置にあり、前記マスターインダクタ回路の電源端子にマスター回路の交流電流が印加されるとき、前記マスターインダクタ回路の磁場が、前記マスター磁束カプラーと磁気的に結合されている前記パッシブ磁束カプラーを介して、前記パッシブインダクタ回路と結合し、前記パッシブインダクタ回路導体ネットワークに、パッシブ回路の交流電流を生成する、スプリットマルチコイル電気誘導加熱システム。
【請求項11】
前記少なくとも1つの第1ベアリング特徴部分又は前記少なくとも1つの第2ベアリング特徴部分は、前記ベアリングコンポーネントの内部ベアリング特徴部分を誘導加熱するために、前記マスター加熱インダクタ及び前記パッシブ加熱インダクタの外部の周りに少なくとも部分的に配置される、請求項10に記載のスプリットマルチコイル電気誘導加熱システム。
【請求項12】
更に、前記垂直方向のマンドレル上の前記シングルターンのマスターソレノイドコイルの上又は下に配置された、少なくとも1つのマスターインダクタ磁束コンセントレータを含む、請求項10に記載のスプリットマルチコイル電気誘導加熱システム。
【請求項13】
更に、前記垂直方向の支持構造上の前記シングルターンのパッシブソレノイドコイルの上又は下に配置された、少なくとも1つのパッシブインダクタ磁束コンセントレータを含む、請求項11に記載のスプリットマルチコイル電気誘導加熱システム。
【請求項14】
前記垂直方向のマンドレルは、前記垂直方向のマンドレルの内部プレナムから前記第1ベアリング特徴部分及び前記第2ベアリング特徴部分に焼入れ剤を供給するための複数の焼入れ剤開口部を有する、請求項10に記載のスプリットマルチコイル電気誘導加熱システム。
【請求項15】
更に、以下のいずれかに構成された、スプリットインダクタアセンブリ位置決め装置を含む、請求項10に記載のスプリットマルチコイル電気誘導加熱システム:
(a)前記第1ベアリング特徴部分を前記マスター加熱インダクタを使用した誘導加熱のために配置し、前記第2ベアリング特徴部分を前記パッシブ加熱インダクタを使用した誘導加熱のために配置して、前記第1ベアリング特徴部分及び前記第2ベアリング特徴部分を同時に加熱するとき、前記マスターインダクタアセンブリの前記マスター加熱インダクタを、前記パッシブインダクタアセンブリの前記パッシブ加熱インダクタと長手方向に位置合わせし、前記パッシブ磁束カプラーを、前記マスター磁束カプラーに
近接して、物理的に分離するように配置すること;
(b)前記ベアリングコンポーネントを前記ベアリングコンポーネントの加熱位置に配置して、前記少なくとも1つの第1ベアリング特徴部分及び前記少なくとも1つの第2ベアリング特徴部分を誘導加熱するために、又は、前記少なくとも1つの第1ベアリング特徴部分及び前記少なくとも1つの第2ベアリング特徴部分を誘導加熱した後、前記ベアリングコンポーネントを取り外すために、前記スプリットインダクタアセンブリのマスター加熱インダクタを前記スプリットインダクタアセンブリの前記パッシブ加熱インダクタから長手方向に分離すること。
【請求項16】
ベアリングコンポーネントの複数のベアリング特徴部分を同時に熱処理する方法であって、
マスターインダクタアセンブリ及びパッシブインダクタアセンブリから、スプリットインダクタアセンブリを組み立てること、
ここで、前記マスターインダクタアセンブリにはマスターインダクタ回路が配置され、前記マスターインダクタ回路は、
前記ベアリングコンポーネントの少なくとも1つの第1ベアリング特徴部分を加熱するためのマスター加熱インダクタ、
マスター磁束カプラー、
前記マスターインダクタ回路の電源端子、及び
前記マスターインダクタ回路の電源端子を前記マスター加熱インダクタに接続するマスターインダクタ回路導体ネットワークであって、前記マスターインダクタ回路導体ネットワークに対して、前記マスター磁束カプラーが
近接して配置され
、エアギャップ又は誘電体材料ギャップによって物理的に分離される、マスターインダクタ回路導体ネットワーク
を含み、
前記パッシブインダクタアセンブリには、パッシブインダクタ回路が配置され、前記パッシブインダクタ回路は、
前記ベアリングコンポーネントの少なくとも1つの第2ベアリング特徴部分を加熱するためのパッシブ加熱インダクタ、
パッシブ磁束カプラー、及び
前記パッシブ加熱インダクタと閉直列電気回路を形成する、パッシブインダクタ回路導体ネットワークであって、前記パッシブ磁束カプラーは、前記パッシブインダクタ回路導体ネットワークに
近接して配置され、エアギャップ又は誘電体材料ギャップによって物理的に分離されており、前記パッシブ磁束カプラーは、前記マスター磁束カプラーに
近接して配置され、物理的に分離されている、パッシブインダクタ回路導体ネットワーク
を含み;
前記マスター加熱インダクタを使用した前記少なくとも1つの第1ベアリング特徴部分の誘導加熱、及び前記パッシブ加熱インダクタを使用した前記少なくとも1つの第2ベアリング特徴部分の誘導加熱のため、前記マスター加熱インダクタ及び前記パッシブ加熱インダクタ内に配置された前記ベアリングコンポーネントの長手方向内軸を使用して前記ベアリングコンポーネントを配置すること;
前記マスターインダクタ回路の電源端子にマスター交流電流を印加して、これにより、前記マスターインダクタ回路及び前記パッシブインダクタ回路が組み立てられた位置にあるとき、マスターインダクタ回路の磁界が、前記パッシブ磁束カプラーを介してパッシブインダクタ回路と結合し、前記パッシブインダクタ回路導体ネットワークにパッシブ回路の交流電流を生成し、前記少なくとも1つの第1ベアリング特徴部分及び前記少なくとも1つの第2ベアリング特徴部分を誘導加熱すること
を含む、方法。
【請求項17】
更に、前記ベアリングコンポーネントの外側の長手方向の表面を、前記マスター加熱インダクタ又は前記パッシブ加熱インダクタ内に少なくとも部分的に配置し、前記ベアリングコンポーネントの外部ベアリング特徴部分を加熱することを含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
更に、前記ベアリングコンポーネントの内部の長手方向の表面を、前記マスター加熱インダクタ又は前記パッシブ加熱インダクタ内に少なくとも部分的に配置し、前記ベアリングコンポーネントの内部ベアリング特徴部分を加熱することを含む、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
更に、前記ベアリングコンポーネントの誘導加熱後、ベアリングコンポーネントを組み立て位置から取り外すため、前記マスターインダクタアセンブリ及び前記パッシブインダクタアセンブリを前記ベアリングコンポーネントの対向する長手方向端部方向に分離すること、及び、組み立て位置での位置決めのため、ベアリングコンポーネントの対向する長手方向端部方向でマスターインダクタアセンブリとパッシブインダクタアセンブリを結合することを含む、請求項16に記載の方法。
【請求項20】
更に、前記ベアリングコンポーネントが前記スプリットインダクタアセンブリの組み立て位置に配置されている時、遠隔焼入れステーションで、又は、前記スプリットインダクタアセンブリの組み立て位置からの移動と前記遠隔焼入れステーションの組み合わせのいずれか又は組み合わせにおいて、前記少なくとも1つの第1ベアリング特徴部分及び前記少なくとも1つの第2ベアリング特徴部分のオーステナイト化された領域を焼入れすることを含む、請求項16に記載の方法。
【請求項21】
ベアリングコンポーネント上のベアリング特徴部分を同時に加熱するためのスプリットインダクタアセンブリを有し、前記スプリットインダクタアセンブリがベアリングコンポーネントの加熱位置から分離可能なマスターインダクタアセンブリ及びパッシブインダクタアセンブリを備えるスプリットマルチコイル電気誘導加熱システムであって、
前記マスターインダクタアセンブリに配置された、以下を含むマスターインダクタ回路:
前記ベアリング特徴部分を部分的に加熱するためのマスター加熱インダクタ、
マスター磁束カプラー、
前記マスターインダクタ回路の電源端子、及び
前記マスターインダクタ回路の電源端子を前記マスター加熱インダクタに接続するマスターインダクタ回路導体ネットワークであって、前記マスター磁束カプラーは、前記マスターインダクタ回路導体ネットワークに
近接して配置され、エアギャップ又は誘電体材料ギャップによって物理的に分離されたマスターインダクタ回路導体ネットワーク;及び
前記パッシブインダクタアセンブリに配置された、以下を含むパッシブインダクタ回路:
前記ベアリング特徴部分を部分的に加熱するためのパッシブ加熱インダクタ、
パッシブ磁束カプラー、及び
前記パッシブ加熱インダクタと閉直列電気回路を形成する、パッシブインダクタ回路導体ネットワーク
を含み、
前記パッシブ磁束カプラーは、前記パッシブインダクタ回路導体ネットワークに
近接して配置され、物理的に分離されており、前記パッシブ磁束カプラーは、前記マスター磁束カプラーに
近接して配置され、エアギャップ又は誘電体材料ギャップによって物理的に分離されており、これにより、前記マスターインダクタ回路及び前記パッシブインダクタ回路が、前記ベアリング特徴部分を誘導加熱のために前記ベアリングコンポーネントの加熱位置にあり、前記マスターインダクタ回路の電源端子にマスター回路の交流電流が印加されるとき、前記マスターインダクタ回路の磁場が、前記マスター磁束カプラーと磁気的に結合されている前記パッシブ磁束カプラーを介して、前記パッシブインダクタ回路と結合し、前記パッシブインダクタ回路導体ネットワークに、パッシブ回路の交流電流を生成する、スプリットマルチコイル電気誘導加熱システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この出願は、2020年2月5日に出願された米国仮出願第62/970,237号明細書の利益を主張し、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、全般的に、ベアリングレース及びレースウェイなどのベアリング特徴部分を備えたベアリングコンポーネントの電気誘導加熱処理に関し、特に、ベアリングレース及びレースウェイの選択された特徴部分が冶金学的硬化を必要とするような熱処理に関する。
【背景技術】
【0003】
本発明は、例えば、パワートレイン、駆動列、及びホイールのコンポーネントで使用される、内側又は外側のベアリングレース、ならびにレースウェイ又は他のベアリング特徴部分の電気誘導加熱処理に関する。ベアリングは、コンポーネントが相互に移動できるようにする重要な機械要素である。特定の用途に応じて、ベアリングレースの設計にはさまざまなバリエーションがあり、多くの設計が標準化されている。これには、ラジアルボールベアリングとローラーベアリング、スラストボールベアリングとローラーベアリングが含まれるが、これらに限定されない。単列及び複数列のベアリング、ならびに単方向及び双方向のベアリング設計もある。設計の詳細にかかわらず、ベアリングの寿命全体にわたって耐摩耗性と強度を保証し、そして他の機械的特性を保証するために、ベアリング接触の作業面を処理する必要がある。電気誘導硬化は、このような熱処理の最も一般的な方法の1つである。
【0004】
図1(a)は、自動車産業で一般的に使用されるベアリングコンポーネント100の構成された内側ベアリングレースの1つのタイプを断面斜視図で示している。鍛造ベアリングレースの大部分の製造には、さまざまな鋼種が使用されている。頻度の低い用途では、粉末冶金材料と鋳鉄も使用される。ベアリングレースは、3Dプリントプロセスなどの積層造形技術によっても製造できる。
【0005】
図1(b)及び
図1(c)は、ベアリングコンポーネント100の構成された内部ベアリングレースの誘導表面硬度パターンの2つの代替例を平面立面断面図で示している。
図1(b)は、2つの円周方向の冶金学的に硬化されたゾーン101及び102(黒一色又はクロスハッチングで陰影が付けられた領域)を含む、中断されたベアリングレース硬度パターンを示す。これらは、
図1(a)及び
図1(b)にも示すように、硬化していない円周領域103によって垂直に分離されている。硬化ゾーン101及び102は、転動体(例えば、ボール又はローラー)がそれぞれ内側ベアリングレース101a及び102aに接触する、ベアリング特徴部分又は領域である。特定の用途に応じて、ゾーン101及び102の形状は同一であっても異なっていてもよい。
図1(b)に示される硬度パターンは、領域を硬化させることなく必要とされるベアリング接触面(接触摩耗が発生しない領域103など)の必要な機械的特性を提供するため、最も一般的なパターンである。ベアリングの特徴部分又は領域101及び102のみを硬化させることは、熱処理後に必要な工学的特性及び最小化された歪み特性を提供するのに役立つだけでなく、熱処理に必要な電気エネルギーの量を減らす。
【0006】
図1(c)は、いくつかの特定の用途で使用される代替タイプの硬度パターン104(黒一色又は断面で陰影が付けられた領域)を示している。このタイプの硬さパターンでは、内部ベアリング接触面(ベアリング特徴部分又は領域101a及び102a)が高周波焼入れされることに加えて、内側ベアリング接触面を分離する領域103も高周波焼入れされる。パターン104は通常、少なくとも2つの望ましくないワークピース及びプロセス要因に関連している:3つの領域すべて、つまり領域101、102、及び103を硬化するために必要とされる、過度の歪み特性とかなり増加した電気エネルギーである。これらは、
図1(c)に示される硬度パターンとは対照的に、
図1(b)に示される硬度パターンが最も人気のあるパターンである理由のいくつかである。
【0007】
ベアリングレースを誘導加熱処理するために、いくつかのプロセスでは、誘導加熱コイルが加熱位置に移動する(方法A)。しかし、他のプロセスでは、誘導加熱コイルは静的であり、ベアリングレース(すなわち、ベアリングコンポーネント(ワークピース)の熱処理されるベアリング特徴部分又は領域)が加熱位置に移動される(方法B)。本明細書に開示される本発明は、方法A又は方法Bのいずれか、又は誘導加熱コイル及びベアリングレースが互いに対して移動する方法A及びBの組み合わせのいずれかの熱処理装置及びプロセスで利用することができる。
【0008】
従来のシングルターン又はマルチターンソレノイド型のコイル(例えば、先行技術の従来の2ターンコイル)は、ベアリングレースの表面を熱処理するために一般的に使用される。誘導コイルは、レースの外面を熱処理するために、ベアリングレースの外側(ベアリングレースを取り囲む構成)に配置される。誘導コイルは、ベアリングレースの内側に配置され、ベアリングの内側(内部)の表面を熱処理する。便宜のため、本発明は、ベアリングレース及びレースウェイなどの内部ベアリング特徴部分の高周波焼入れ(熱処理)について本明細書に一般的に記載されているが、ベアリングコンポーネントの外部ベアリング特徴部分又は表面の熱処理にも適用できる。例えば、
図1(d)及び
図1(e)は、外面(外部)100’aを硬化させる必要がある、典型的に構成されたベアリングレースコンポーネント100’の代表的な斜視図を示している。
図1(f)、
図1(g)、
図1(h)及び
図1(i)は、高周波焼入れを必要としない内面領域401と、高周波焼入れが必要な外面(外部)402を含むベアリング特徴部分又は領域を含む、ベアリングコンポーネント400の構成された外側ベアリングレースの平面断面を示す。特定の用途に応じて、
図1(h)に示される(クロスハッチング領域405内の)外面(外部)402の全領域は、誘導表面硬化を必要とし得る。あるいは、選択的ベアリング特徴部分又は領域(クロスハッチングで網掛けされた各選択的領域)、例えば、
図1(f)に示される選択的領域403、
図1(g)に示される選択領域404又は
図1(h)に示される前述の選択領域405、及び
図1(i)の選択領域406は、誘導表面硬化を必要とし得る。
図1(i)に示される硬度パターンは、中断された硬度パターンの例を表す。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
内部円筒形誘導コイルの有効性は、ベアリングの外面(又は外径)を加熱するために使用される同様のコイルと比較して、コイルとワークピース(硬化するベアリング特徴部分)の磁的フィールド結合ギャップに大きく依存する。内部コイルの電気効率は、界磁結合ギャップの増加とともに急速に低下する。したがって、加熱の電気効率を高め、エネルギー消費を最小限に抑えるために、コイルとワークピースのフィールド結合ギャップをできるだけ小さく保つことが不可欠である。
【0010】
内面(内部)を加熱するソレノイド型のインダクタが、ベアリングの外面(外部)を加熱するために使用される同様のインダクタ(コイル又は誘導コイルとも呼ばれる)ほど効率的でない理由は、電磁リング効果に関連している。電磁リング効果によって、コイル電流は、例えば、Handbook of Induction Heating (second edition; CRC Press; Boca Raton, FL, United States)の3.1.5節に更に説明されるように、低インピーダンス経路を表すソレノイド型のコイルの内径に集中する。内径(内部)の表面を加熱する場合、コイルの内径は、加熱された内径の表面から最も遠い領域になる。その結果、コイルと加熱されたワークピース(すなわち、加熱されるベアリング特徴部分)の間の電磁結合は、ワークピースの内径(内部)と誘導コイルの外径の間の実際のエアギャップよりも大きくなる。これにより、コイルとワークピースのフィールド結合が不十分になり(空間的近接性とも呼ばれる)、コイル効率が著しく低下する。
【0011】
内部インダクタの内部に磁束コンセントレータを設置することは、コイルの電気効率を高め、コイル電流を減らすために、特に小から中程度の直径の内面を加熱するためにしばしば要求される。磁束コンセントレータは、電磁リング効果よりもコイル電流分布に実質的に強い影響を与える電磁スロット効果を作成し、コイル電流をコイル外側領域に向かってシフトさせて、加熱されたワークピースの表面に近づける。これにより、加熱が必要な(ベアリングコンポーネント)ワークピースの内面での磁場強度と熱強度が増加する。
【0012】
誘導加熱処理後の歪みを最小限に抑え、ベアリングレースの長持ちする耐用年数のための熱処理特性を達成するために、熱処理プロセスが十分な最小硬度層深度を達成しながら、以下を避けることが重要である:(1)過度に深い局所的な硬度層深度をもたらすこと;(2)オーステナイト化中の温度が高すぎること;及び(3)各ベアリング接触面内の不均衡に異なる硬度層深度(例えば、
図1(b)の構成された内側ベアリングレースのゾーン101a及び102a)。これらの熱処理特性は、ベアリング接触面領域101a及び102aのそれぞれ内で可能な限り均一に近い硬度パターンを得ることがしばしば非常に望ましい理由のいくつかである。
【0013】
いくつかの要因により、ベアリングの特徴部分又は領域101a及び102aにおいて十分に均一な硬度パターンを得ることが困難になっている。第1の要因は、(ベアリングコンポーネント)ワークピースの形状(例えば、
図1(a)~
図1(c))の複雑さに関連している。電磁エッジ効果により磁場を引き付ける傾向があるコーナー領域は、より深い硬度層深度を生成する場合がある。それに加えて、表面領域101a及び102aを含むベアリング特徴部分の近くに、ワークピース(すなわち、ベアリングコンポーネント)を形成するかなり異なる質量の金属が存在する。これは、隣接する領域(軸方向及び半径方向)のかなり異なる「コールドシンク」効果を生成し、対応して、誘導表面硬化内側ベアリングレース(領域101a及び102a)中に温度偏差をもたらす。
【0014】
第2の要因は、硬度パターンのような輪郭を得るために従来のシングルターン又はマルチターンソレノイド型のコイル(例えば、先行技術の従来の2ターンコイル)を使用することの難しさに関連している。ソレノイドスタイルの硬化コイルをベアリングレースの内側の加熱位置に配置して、ベアリング特徴部分又は領域101及び102においてその内側面を硬化させるために(例えば、
図1(b)に示される)、ロード(加熱位置へ)及びアンロード(ソレノイド式高周波焼入れコイルのベアリングレースの加熱位置から)中に最小直径領域(
図1(b)の領域103)を通過するのに十分なクリアランスが必要である。これにより、電流が流れるコイル領域と内側ベアリングレースの領域との間に可変の電磁結合(空間的近接性)が生じ、不均一な硬度パターンを生成する。
【0015】
図2(a)及び
図2(b)は、内側ベアリングレースの断面図を用いた可変電磁結合の現象の例を示している。これらの図に示されている例では、円形断面(及びコイルターン301と302)と中空の内部水冷通路を備えた銅管が誘導コイルの製造に使用されている。他の実施形態では、誘導コイルは、代替的に以下により形成することができる:(1)固体銅ブロックを機械加工するコンピューター数値制御(CNC);(2)適切な銅部品を一緒にろう付けすること;又は(3)内側ベアリングレース領域115a及び106a(
図2(a))及び内側ベアリングレース領域125a及び126a(
図2(b))の形状に対応するためのコイルターンのプロファイルされた加熱面を形成するダイ。従来の磁束コンセントレータ203及び204を使用して、
図2(a)の内側ベアリングレース(領域115及び106)を加熱するための銅管から形成された2ターンコイルの各コイルターン301及び302によって、加熱効率を改善し、生成された磁場を集中させ、及び代替形状の
図2(b)の内側ベアリングレース(領域125及び126)を加熱することができる。磁束コンセントレータは通常、標準のラミネーションパック、純粋なフェライト、あるいはプレス及び/又は焼結磁性粒子を含む従来の鉄ベース又はフェライトベースの粉末材料から製造される。
【0016】
図2(a)に示されるように、従来技術のソレノイドスタイルの2ターンインダクタ銅管のコイルターン301及び302は、ベアリングコンポーネント100y上の構成された内側ベアリングレースの表面(領域115a及び106a)を含む対応するベアリング特徴部分を加熱するようにそれぞれ配置される。構成された内側ベアリングレースコンポーネント100yの長手方向対称軸50は、銅管のソレノイド型2ターンコイルの長手方向対称軸と一致する。
図2(a)の例では、クロスハッチング硬化領域106とチュービング302との間の上部半径方向クリアランス107は、円周方向に同じである(すなわち、
図2(a)に示す平面断面図の左右の断面側面の半径方向クリアランス107を比較する場合)。十分な半径方向のクリアランス107は、加熱位置の内外へのワークピース(構成された内側ベアリングレース)の安全な移動を可能にし、ここで、ワークピースは、2ターンコイルが加熱位置に上げられている(及び/又は内側ベアリングレースが下げられている)間、
図2(a)又は
図2(b)の加熱位置に示されている。
【0017】
ベアリングレースは、ラジアル円周方向の加熱温度分布を均一にするために、加熱及び焼入れサイクル中に、適切な先行技術の回転装置(未図示)を用いてその長手方向対称軸を中心に回転(すなわち回旋)することができる。誘導加熱によるオーステナイト化段階の完了時に、例えば当技術分野で知られているスプレー焼入れ装置を用いて、その場で(加熱位置で)焼入れを実行して、オーステナイト化領域を焼入れし、必要なマルテンサイト構造を形成することができる。他のプロセスでは、焼入れは、別の焼入れ位置で(例えば、加熱されたワークピース(ベアリングコンポーネント)が加熱位置の上下の位置に移動された状態で)、場外(すなわち、加熱位置の外)で行うことができる。焼入れプロセスステップは、当技術分野で知られている焼入れ装置を使用して達成することができる。
【0018】
図2(a)から分かるように、コイルの通電面と下部内側ベアリングレース表面のさまざまな領域との間の空間的近接性(電磁結合)の違いにより、電磁近接性効果の適用が異なり、かなりの不均一な加熱分布が生じる。焼入れすると、これにより、領域115及び125に対応する不均一な硬化パターンが生成される。一部の用途では、不均一な硬化パターンが、硬度層深度が徐々に減少することで現れる。他の用途では、領域の硬度パターンが徐々に変化する代わりに、より深い又はより浅い硬度層深度の組み合わせを示す波状の硬度パターン領域がある。例えば、領域115及び125は、
図2(a)(及び
図2(c)の拡大部分図)の局所領域115x及び115y、並びに
図2(b)(及び
図2(d)の拡大部分図)の局所領域125x及び125yでより深い硬度層深度を示す。逆に、領域115及び125は、
図2(a)(及び
図2(c)の拡大部分図)の局所領域115z、及び
図2(b)(及び
図2(d)の拡大部分図)の局所領域125zにおいて、より浅い硬度層深度を示す。十分な熱源を生成することが困難な内側ベアリングレースの領域で必要最小限の硬度層深度を保証する試みは、必然的に、隣接する局所ベアリングレース領域を大幅に過熱する必要性と関連し得る。これは、硬化したままの領域の冶金学的特性とベアリングレースの工学的特性に悪影響を及ぼす。したがって、過熱は避ける必要がある。しかしながら、従来の設計の電気コイルは、必然的に、不均一な硬度パターンの形成及び過度の局所的な発熱と関連し得る。
【0019】
図3(a)~
図3(c)及び
図4は、内側ベアリングレースを誘導加熱処理するために使用することができる誘導コイルの代替の先行技術の構成の概略図である。
図3(a)は、従来技術の従来のソレノイド型インダクタ(
図2(a)及び
図2(b)に示され、前述の配置と同様)の(加熱位置への)ロード及びアンロード(加熱位置からの)配置のワークピース(構成された内側ベアリングレース)の概略上面図を示す。
図3(a)及び
図3(b)において、破線の円は、内側ベアリングレース11aの内側円周方向境界を図式的に表し、実線の円は、
図3(c)の断面図に示されるように、内側ベアリングレースの内側円周方向境界に面するコイル22の通電面を表す。
【0020】
加熱位置へのワークピースのロード動作中、構成された内側ベアリングレース11aの回転長手方向対称軸11a’は、ソレノイド型誘導コイル22の長手方向対称軸22aと一致し、構成された内側ベアリングレース11aと誘導コイル22との間に円周方向に均一なギャップ23(
図3(a))を形成する。熱処理プロセスの加熱プロセスステップを開始する前に、ワークピース又は誘導コイル、あるいはワークピースと誘導コイルの両方が半径方向(長手方向対称軸の内側ベアリングレースと誘導コイルに垂直)に移動し、その結果、
図3(b)に示すように、内側ベアリングレースと誘導コイルの間のギャップ24が右側に小さくなり、反対側の左側にギャップ25が大きくなる。この移動の結果として、内側ベアリングレースとコイルとの間の改善された電磁結合は、均一なギャップ23を有するのと比較して、より小さなギャップ24で提供され、集中加熱は、このより小さなギャップの周りのベアリングレース領域で起こる。そうでなければ、電磁的近接性が低いため、これらのベアリングレース領域での発熱が不足する。しかしながら、この移動の際に、反対側は拡大されたギャップ25を示すであろう。したがって、この方法では、ギャップ24はギャップ25よりも小さく、これは、ベアリングレースの反対側の水平領域のより大きなギャップ25で不十分な電磁結合を生成することを代償として、
図3(c)に示されるようにベアリングレース領域内でより均一な硬化パターンを生成するのに役立つ。構成された内側ベアリングレースは、従来の回転装置を用いた熱処理プロセスの加熱プロセスステップ中に回転され(すなわち、回転装置で回旋され)、円周方向の温度分布領域11aa及び11bbを均一にする。熱処理プロセスのオーステナイト化ステップが完了すると、焼入れ(従来の焼入れ装置を使用)を適所に(すなわち、加熱位置で)適用して、オーステナイト化領域を焼入れし、必要なマルテンサイト構造を形成することができる。他の熱処理プロセスでは、焼入れは場所を変えて(すなわち、加熱されたワークピースを加熱位置から移動させて)、専用の焼入れ場所で行うことができる。例えば、加熱位置の下に配置され、加熱されたワークピースをタンク内に降ろすことのできる焼入れタンク、又は、加熱されたワークピースを移動できる加熱位置のすぐ近くに配置されたスプレー焼入れ装置、例えば、適切な電気機械式移送装置である。
【0021】
残念なことに、
図3(a)、
図3(b)及び
図3(c)に示される加熱方法及び装置には欠点がないわけではない。1つの欠点は、少なくともコンポーネントの垂直方向の動き(例えば、加熱位置へのワークピースのロード中及び加熱位置からのアンロード中)及び半径方向の動き(垂直方向の動きに垂直)を有する必要性に関連している。したがって、垂直移動及び半径方向移動のための補助電気機械式移送装置が必要であり、その結果、熱処理システムに追加のコスト及び複雑さが生じる。また、ギャップ24が小さい一方の側での空間的近接性の改善(及び結果として生じる電磁結合の改善)は、ギャップ25が大きい反対側の電磁結合の劣化と関連し、これは、熱処理プロセスの感度を悪化させ(硬度パターンの偏差が生じる可能性がある)、ワークピースの加熱の電気効率を低下させる。
【0022】
図4は、代替の従来技術の誘導コイル(インダクタ)の概略図である。
図4では、円弧状のインダクタ40(当技術分野ではヘアピンインダクタとしても知られている)が、クロスハッチングで示されている3つの相互接続されたセグメントに示されている。インダクタ40は、加熱セグメント41、戻り電流セグメント43、及び相互接続セグメント42を含む。磁束コンセントレータ44(点描の陰影で示されている)は、加熱セグメント41と戻り電流セグメント43との間に配置されている。3つのインダクタセグメントはすべて電気的に直列に配置され、交流電源(図の交流電源)に接続されている。磁束コンセントレータ44は、加熱セグメント41と戻り電流セグメント43との間の電磁デカップリングを提供し、内側ベアリングレースが加熱位置にあるとき、加熱セグメント41を流れる電流の最大密度を、加熱する必要のある構成された内側ベアリングレース領域(未図示)に面する加熱セグメントの外面41aに向かってシフトする。
図4に示されるヘアピンインダクタ40の設計は、インダクタとワークピースの内側ベアリングレースとの間の電磁結合を改善し、いくつかの用途では、必要な硬度パターンを達成することを単純化する。ワークピース(すなわち、内側ベアリングレースのベアリング特徴部分を備えたベアリングコンポーネント)は、加熱プロセスステップと焼入れプロセスステップの間に回転し、内側ベアリングレースの円周方向の温度分布を均一にする。
【0023】
弧状インダクタ40は、一定のプロセスの柔軟性を提供する。しかしながら、例えば、
図3(a)から
図3(c)に示されている以前の設計の既知の欠点がないわけではない。これには、エネルギー効率が低いこと、及び、
図1(b)に示される構成された内側ベアリングレースコンポーネント100の内側ベアリングレースの領域103などの複雑な形状を妨げることなく、加熱プロセスステップ中にコイルとベアリングレースの位置を十分に近づけるために、誘導加熱装置が2つの動き(垂直方向の動きと半径方向の動き)を提供できる必要があることが含まれる。更に、2つのコイルセグメント41と43の間磁束コンセントレータ44(
図4)が挿入(サンドイッチ)され、反対方向に流れる電流を運ぶことは、磁気的に飽和して過熱する傾向がある電気負荷として機能する可能性があり、誘導加熱システムの全体的な信頼性が低下する。
【0024】
従来技術を考慮して、本発明の1つの目的は、誘導加熱アプリケーションで冶金学的硬化のための加熱位置にあるとき、誘導加熱コイルとベアリングレースウェイ表面領域などのベアリングコンポーネントのベアリング特徴部分との間に、より近い電磁結合ギャップを提供し、従来技術よりも高いエネルギー効率と優れた硬度パターン制御が実現する電気誘導加熱システム及び方法を提供することである。
【0025】
本発明の別の目的は、熱処理プロセス中にベアリングレースに亀裂が入る可能性を低減した、冶金学的に健全な微細構造を生成するため、内側及び外側のベアリングレースを含むベアリングの特徴部分において、輪郭のような硬化パターンを有し、サイズと形状の歪みを最小限に抑え、オーステナイト化プロセスステップ中の最高温度とピーク温度を低減する電気誘導加熱システム及び方法を提供することである。
【0026】
本発明の別の目的は、複数のベアリング特徴部分及びベアリングコンポーネントの異なる形状が、複数のベアリング特徴部分及び/又は複数のベアリングコンポーネントの効率的な同時熱処理のための単一の誘導コイルに隣接する複数のベアリング特徴部分の配置に対応していない場合、ベアリングコンポーネント上の複数のベアリング特徴部分の同時熱処理を提供する電気誘導加熱システム及び方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0027】
一態様では、本発明は、交流電源に接続されたマスターインダクタ回路とパッシブインダクタ回路の組み合わせを備えた、ベアリングワークピースの1つ又は複数の選択されたベアリング特徴部分、例えば、内側又は外側ベアリングレースの1つ又は複数の領域を冶金学的に硬化させるための電気誘導加熱処理装置及び方法である。ここで、マスター回路とパッシブ回路の組み合わせは、物理的及び電気的接続なしに互いに電磁的に結合され、選択されたベアリング特徴部分が配置される、相補的なマスターインダクタコイルとパッシブインダクタコイルの少なくとも1つのペアを形成し、これにより、選択されたベアリング特徴部分は、この相補的なコイルペアによって生成された磁束場と結合して、選択されたベアリング特徴部分をオーステナイト化するために誘導的に加熱し、続いて焼入れにより、オーステナイト化された選択された特徴部分の冶金学的特性を変換する。
【0028】
別の態様では、本発明は、ベアリングワークピースの電気誘導加熱処理装置及び方法を含む。ここで、ベアリングワークピースは、冶金熱処理用の少なくとも2つのベアリング特徴部分(本発明のいくつかの実施形態では、熱処理されていないベアリング特徴部分によって互いに分離されている)を有する。本発明のいくつかの実施形態では、単一のベアリング特徴部分を備えたベアリングワークピースは、冶金学的に熱処理され、例えば、単一の連続ベアリング特徴部分を備えた
図1(c)のベアリングワークピースである。装置及び方法は、マスターインダクタ回路及びパッシブインダクタ回路を含み、マスターインダクタ回路及びパッシブインダクタ回路は互いに物理的に分離されており、それらの間に物理的な電気的接続はない。マスターインダクタ回路には、電源から少なくとも1つのマスター加熱インダクタ(ベアリングワークピースの焼入れ前の第1ベアリング特徴部分の誘導加熱用に構成される)及びマスター回路電磁カプラーを有するマスターインダクタ回路導体ネットワークへのマスター回路交流電流が供給される。パッシブインダクタ回路は、少なくとも1つのパッシブ加熱インダクタ(ベアリングワークピースの焼入れ前の第2ベアリング特徴部分の誘導加熱用に構成される)及びパッシブ回路電磁カプラーを有するパッシブインダクタ回路導体ネットワークを含む。マスターインダクタ回路とパッシブインダクタ回路は、ワークピースの加熱位置に移動して互いに隣接する。マスターインダクタ回路とパッシブインダクタ回路がワークピースの加熱位置にある本発明の1つのプロセス用途では、少なくとも1つのマスター加熱インダクタ及び少なくとも1つのパッシブ加熱インダクタは、それぞれ、マスター回路電磁カプラーとパッシブ回路電磁カプラーの間のマスター回路交流の磁束結合によって引き起こされる、マスター回路交流のマスター回路フローによる第1ベアリング特徴部分とパッシブ回路電流フローによる第2ベアリング特徴部分の同時誘導加熱のために構成される。
【0029】
少なくとも1つの第1ベアリング特徴部分及び少なくとも1つの第2ベアリング特徴部分の誘導加熱の完了に続いて、ベアリングワークピースは、特定の用途によって必要とされるように焼入れされる(例えば、少なくとも1つのマスター加熱インダクタ、少なくとも1つのパッシブ加熱インダクタ、少なくとも1つのマスター及びパッシブ加熱インダクタと統合された焼入れ装置を備えたワークピース加熱位置において、又は、ワークピースの加熱位置から離れた1つ又は複数の焼入れ装置の位置に配置された焼入れ装置において)。
【0030】
本発明の上記及び他の態様は、本明細書及び添付の特許請求の範囲に記載されている。
【0031】
以下に簡単に要約される添付の図面は、本発明の例示的な理解のために提供されており、本明細書及び添付の特許請求の範囲に更に記載されているように本発明を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1(a)】
図1(a)は、1つのタイプのベアリング特徴部分、すなわち、自動車のパワートレインやドライブトレインのヘビーデューティーベアリング、及びその他のヘビーデューティー用途で一般的に使用されている、ベアリングワークピース100として説明されるベアリングコンポーネント内の構成された内部ベアリングレースの側面斜視断面図である。
【
図1(b)】
図1(b)は、
図1(a)のベアリングワークピース100内に構成された内部ベアリングレースの立面断面図であり、長手方向(長手方向軸Lに沿って)において、円周方向に硬化されていない縦方向領域103によって分離された2つの円周方向に硬化された縦方向ゾーン(又は領域)101及び102を含む、中断された硬度パターンを示している。
【
図1(c)】
図1(c)は、ベアリングワークピース100内の構成された内側ベアリングレースの立面断面図であり、
図1(b)の長手方向に中断された硬度パターンの代替として、円周方向に中断されていない長手方向硬度104を示している。
図1(c)では、ベアリング特徴部分、すなわち構成された内側ベアリングレースゾーン101及び102(すなわち、ベアリングローラー接触面)は、内側ベアリングレースゾーン間の円周方向長手方向領域103とともに高周波焼入れされている。
【
図1(d)】
図1(d)及び
図1(e)は、ベアリングワークピース100’内に構成された外側ベアリングレースの斜視図である。
【
図1(e)】
図1(d)及び
図1(e)は、ベアリングワークピース100’内に構成された外側ベアリングレースの斜視図である。
【
図1(f)】
図1(f)、
図1(g)、
図1(h)及び
図1(i)は、ベアリングコンポーネント400の構成された外側ベアリングレースの断面図であり、代替用途で必要となり得る代替電気誘導硬化プロセスで形成できる、4つの代替硬度パターン(ゾーン又は領域)403、404、405及び406を示している(ハッチングで示す)。
【
図1(g)】
図1(f)、
図1(g)、
図1(h)及び
図1(i)は、ベアリングコンポーネント400の構成された外側ベアリングレースの断面図であり、代替用途で必要となり得る代替電気誘導硬化プロセスで形成できる、4つの代替硬度パターン(ゾーン又は領域)403、404、405及び406を示している(ハッチングで示す)。
【
図1(h)】
図1(f)、
図1(g)、
図1(h)及び
図1(i)は、ベアリングコンポーネント400の構成された外側ベアリングレースの断面図であり、代替用途で必要となり得る代替電気誘導硬化プロセスで形成できる、4つの代替硬度パターン(ゾーン又は領域)403、404、405及び406を示している(ハッチングで示す)。
【
図1(i)】
図1(f)、
図1(g)、
図1(h)及び
図1(i)は、ベアリングコンポーネント400の構成された外側ベアリングレースの断面図であり、代替用途で必要となり得る代替電気誘導硬化プロセスで形成できる、4つの代替硬度パターン(ゾーン又は領域)403、404、405及び406を示している(ハッチングで示す)。
【
図1(j)】
図1(j)は、自動車のパワートレイン及びドライブトレイン用のヘビーデューティーベアリング、及び他のヘビーデューティー用途で一般的に使用される、同一の形状と均一な(非常に望ましい)硬度パターン101”及び102”のベアリングレースゾーンを示す、ベアリングワークピース100”の構成された内側ベアリングレースの側面斜視断面図である。
【
図1(k)】
図1(k)は、
図1(j)に示される構成された内側ベアリングレースの断面立面図であり、非硬化ゾーン(又は領域)103”によって分離された2つの硬化ゾーン101”及び102”を含む、中断された硬度パターンを示す。
【
図2(a)】
図2(a)は、コイルターン301と302を備えたソレノイドスタイルの2ターン電気加熱インダクタ及び関連する磁束コンセントレータ203と204を含む従来の誘導加熱装置を使用した、加熱位置での様々な硬度パターン(クロスハッチングされたゾーン106及び115)を示す、構成された内側ベアリングレースの断面図である。
図2(a)では、コイルターン301は加熱用の領域106を囲み、コイルターン302は加熱用の領域115を囲んでいる。各コイルターンは、適切に接続された電源からコイルに供給される交流電流と直列又は並列に一緒に接続することができ、瞬時電流はコイルターンで同じ方向又は逆方向に流れる。
【
図2(b)】
図2(b)は、コイルターン301と302を備えたソレノイドスタイルの2ターン電気加熱インダクタ及び関連する磁束コンセントレータ203と204を含む従来の誘導加熱装置を使用した、構成された内側ベアリングレースの断面図であり、加熱位置にある
図2(a)のものとは異なる内側ベアリングレースの形状及び硬度パターン(クロスハッチングされたゾーン125及び126を含む)を示している。各コイルターンは、適切に接続された電源から供給される交流電流と直列又は並列に一緒に接続することができ、交流電流はコイルターン内で同じ方向又は逆方向に流れる。
【
図2(c)】
図2(c)及び
図2(d)は、それぞれ
図2(a)及び
図2(b)に示される選択された硬度パターンの拡大図である。
【
図2(d)】
図2(c)及び
図2(d)は、それぞれ
図2(a)及び
図2(b)に示される選択された硬度パターンの拡大図である。
【
図3(a)】
図3(a)及び
図3(b)は、インダクタとベアリングワークピースの内側ベアリングレース11aとの間の均一及び不均一な円周方向クリアランス距離を概略的に示す、内側ベアリングレースを熱処理するための誘導加熱プロセスの概略図である(加熱されている内部レースの破線の円形境界によって概略的に表されている)。
図3(a)は、インダクタと加熱される内側ベアリングレースとの間の均一な円周方向クリアランス距離23で、インダクタ22内にベアリングワークピースの内側ベアリングレース11aをロードするプロセスステップ中の「ワークピースからコイルへの」相互位置決めの例を示す。
図3(b)は、不均一な円周方向電磁結合距離24及び25でインダクタ22内のベアリングワークピースの内側ベアリングレース11aを加熱するプロセスステップ中の「ワークピースからコイルへの」相互位置決めの例を示す。
図3(c)は、従来のワークピース回転装置(未図示)を用いた誘導加熱中に軸50の周りで十分に速いワークピース回転(すなわち回旋)を仮定して、結果として生じる円周方向に均一な硬度パターン11aa及び11bbを示す。
【
図3(b)】
図3(a)及び
図3(b)は、インダクタとベアリングワークピースの内側ベアリングレース11aとの間の均一及び不均一な円周方向クリアランス距離を概略的に示す、内側ベアリングレースを熱処理するための誘導加熱プロセスの概略図である(加熱されている内部レースの破線の円形境界によって概略的に表されている)。
図3(a)は、インダクタと加熱される内側ベアリングレースとの間の均一な円周方向クリアランス距離23で、インダクタ22内にベアリングワークピースの内側ベアリングレース11aをロードするプロセスステップ中の「ワークピースからコイルへの」相互位置決めの例を示す。
図3(b)は、不均一な円周方向電磁結合距離24及び25でインダクタ22内のベアリングワークピースの内側ベアリングレース11aを加熱するプロセスステップ中の「ワークピースからコイルへの」相互位置決めの例を示す。
図3(c)は、従来のワークピース回転装置(未図示)を用いた誘導加熱中に軸50の周りで十分に速いワークピース回転(すなわち回旋)を仮定して、結果として生じる円周方向に均一な硬度パターン11aa及び11bbを示す。
【
図3(c)】
図3(a)及び
図3(b)は、インダクタとベアリングワークピースの内側ベアリングレース11aとの間の均一及び不均一な円周方向クリアランス距離を概略的に示す、内側ベアリングレースを熱処理するための誘導加熱プロセスの概略図である(加熱されている内部レースの破線の円形境界によって概略的に表されている)。
図3(a)は、インダクタと加熱される内側ベアリングレースとの間の均一な円周方向クリアランス距離23で、インダクタ22内にベアリングワークピースの内側ベアリングレース11aをロードするプロセスステップ中の「ワークピースからコイルへの」相互位置決めの例を示す。
図3(b)は、不均一な円周方向電磁結合距離24及び25でインダクタ22内のベアリングワークピースの内側ベアリングレース11aを加熱するプロセスステップ中の「ワークピースからコイルへの」相互位置決めの例を示す。
図3(c)は、従来のワークピース回転装置(未図示)を用いた誘導加熱中に軸50の周りで十分に速いワークピース回転(すなわち回旋)を仮定して、結果として生じる円周方向に均一な硬度パターン11aa及び11bbを示す。
【
図4】
図4は、構成された内側ベアリングレースを熱処理するために使用することができる従来技術の弧状インダクタ40(ヘアピンインダクタとしても知られている)の概略図である。
【
図5(a)】
図5(a)~
図5(d)は、マスターインダクタ回路(
図5(a))及びパッシブインダクタ回路(
図5(b))を示す本発明の電気誘導加熱システムの一実施形態を概略的に示す。
図5(c)及び
図5(d)は、ワークピース(ベアリングコンポーネント)の加熱位置にあるマスターインダクタ回路及びパッシブインダクタ回路の代替的な斜視図である。わかりやすくするために、内側ベアリングレース(ベアリングの特徴部分)と焼入れ装置は示していない。矢印は、加熱システムの相対的な瞬時電流の方向を示す。
図5(c)は、この配置が、マスターインダクタ210内の瞬時電流の流れとは反対の方向に向けられたパッシブインダクタ220内の瞬時電流の流れの方向を生成することを示している。電流のこの向きは、通常、
図1(b)に示される中断された硬度パターンを得るために好ましい。
【
図5(b)】
図5(a)~
図5(d)は、マスターインダクタ回路(
図5(a))及びパッシブインダクタ回路(
図5(b))を示す本発明の電気誘導加熱システムの一実施形態を概略的に示す。
図5(c)及び
図5(d)は、ワークピース(ベアリングコンポーネント)の加熱位置にあるマスターインダクタ回路及びパッシブインダクタ回路の代替的な斜視図である。わかりやすくするために、内側ベアリングレース(ベアリングの特徴部分)と焼入れ装置は示していない。矢印は、加熱システムの相対的な瞬時電流の方向を示す。
図5(c)は、この配置が、マスターインダクタ210内の瞬時電流の流れとは反対の方向に向けられたパッシブインダクタ220内の瞬時電流の流れの方向を生成することを示している。電流のこの向きは、通常、
図1(b)に示される中断された硬度パターンを得るために好ましい。
【
図5(c)】
図5(a)~
図5(d)は、マスターインダクタ回路(
図5(a))及びパッシブインダクタ回路(
図5(b))を示す本発明の電気誘導加熱システムの一実施形態を概略的に示す。
図5(c)及び
図5(d)は、ワークピース(ベアリングコンポーネント)の加熱位置にあるマスターインダクタ回路及びパッシブインダクタ回路の代替的な斜視図である。わかりやすくするために、内側ベアリングレース(ベアリングの特徴部分)と焼入れ装置は示していない。矢印は、加熱システムの相対的な瞬時電流の方向を示す。
図5(c)は、この配置が、マスターインダクタ210内の瞬時電流の流れとは反対の方向に向けられたパッシブインダクタ220内の瞬時電流の流れの方向を生成することを示している。電流のこの向きは、通常、
図1(b)に示される中断された硬度パターンを得るために好ましい。
【
図5(d)】
図5(a)~
図5(d)は、マスターインダクタ回路(
図5(a))及びパッシブインダクタ回路(
図5(b))を示す本発明の電気誘導加熱システムの一実施形態を概略的に示す。
図5(c)及び
図5(d)は、ワークピース(ベアリングコンポーネント)の加熱位置にあるマスターインダクタ回路及びパッシブインダクタ回路の代替的な斜視図である。わかりやすくするために、内側ベアリングレース(ベアリングの特徴部分)と焼入れ装置は示していない。矢印は、加熱システムの相対的な瞬時電流の方向を示す。
図5(c)は、この配置が、マスターインダクタ210内の瞬時電流の流れとは反対の方向に向けられたパッシブインダクタ220内の瞬時電流の流れの方向を生成することを示している。電流のこの向きは、通常、
図1(b)に示される中断された硬度パターンを得るために好ましい。
【
図5(e)】
図5(e)は、
図5(a)に示されるマスターインダクタ回路と共に利用されて、パッシブインダクタ220’に瞬時電流の方向(マスターインダクタ回路のアクティブコイル210(
図5(c))を流れる瞬時電流と同じ方向)を生成することができる代替的なパッシブインダクタ回路の概略図である。電流のこの向きは、通常、
図1(c)に示される途切れのない硬度パターンを得るために望ましい。
【
図5(f)】
図5(f)及び
図5(g)は、本発明の一実施形態において、
図5(a)のマスターインダクタ回路が
図5(b)のパッシブインダクタ回路と組み合わされたときにパッシブインダクタコイルで達成される代替の瞬時交流電流方向を示す(本発明の別の実施形態において、
図5(a)のマスターインダクタ回路が
図5(e)のパッシブインダクタ回路と組み合わされる場合と比較される)。
【
図5(g)】
図5(f)及び
図5(g)は、本発明の一実施形態において、
図5(a)のマスターインダクタ回路が
図5(b)のパッシブインダクタ回路と組み合わされたときにパッシブインダクタコイルで達成される代替の瞬時交流電流方向を示す(本発明の別の実施形態において、
図5(a)のマスターインダクタ回路が
図5(e)のパッシブインダクタ回路と組み合わされる場合と比較される)。
【
図6(a)】
図6(a)は、マスターインダクタ回路がパッシブインダクタ回路から分離されている場合(例えば、熱処理されるベアリングワークピースが、それぞれマスター及びパッシブインダクタ回路内のマスター及びパッシブ回路インダクタの相補的なペア内の加熱位置にロードされているか、又は加熱位置からアンロードされている場合)の、マスターインダクタ回路のマスター電磁結合領域230及びパッシブインダクタ回路のパッシブ電磁結合領域240を示している。マスター電磁結合領域及びパッシブ電磁結合領域は、あるいは、それぞれ、マスター磁束カプラー及びパッシブ磁束カプラーと呼ばれる。
【
図6(b)】
図6(b)は、マスターインダクタ回路がワークピースの加熱位置にもたらされたときの、マスターインダクタ回路のマスター電磁結合領域230及びパッシブインダクタ回路のパッシブ電磁結合領域240を示している。ここで、アクティブ及びパッシブの電磁結合領域は、ギャップ205によって分離されて、アクティブインダクタ回路をパッシブインダクタ回路から電気的に分離し、一方、マスターインダクタ回路に交流が供給されると、マスターインダクタ回路とパッシブインダクタ回路が電磁的に結合される。ワークピース(ベアリングコンポーネント)の加熱位置では、マスター磁束カプラーはパッシブ磁束カプラーに隣接して配置され、パッシブ磁束カプラーから物理的に分離される(
図6(b)の例ではギャップ205によって)。
【
図7(a)】
図7(a)及び
図7(b)は、マスター及びパッシブ電気バスネットワークの形態及び構成の代替的な実施形態を断面図で示している。
図7(a)は、銅管を含む各バスネットワークを示し、
図7(b)は、ワークピースの加熱位置にあるときの、対応するギャップ205a(
図7(a))及び205b(
図7(b))によって分離されたマスター及びパッシブ電磁結合領域内に挟まれた長方形の銅棒を示す。ギャップは、エアギャップ又は誘電体材料で満たされ得る。
図7(b)に示される配置は、アクティブ回路とパッシブ回路との間のより良好な電磁結合のために、
図7(a)に示される配置と比較して典型的に好ましい。マスター電気導体ネットワーク及びパッシブ電気導体ネットワークは、あるいは、それぞれ、マスターインダクタ回路バスネットワーク及びパッシブインダクタ回路導体ネットワークと呼ばれる。
【
図7(b)】
図7(a)及び
図7(b)は、マスター及びパッシブ電気バスネットワークの形態及び構成の代替的な実施形態を断面図で示している。
図7(a)は、銅管を含む各バスネットワークを示し、
図7(b)は、ワークピースの加熱位置にあるときの、対応するギャップ205a(
図7(a))及び205b(
図7(b))によって分離されたマスター及びパッシブ電磁結合領域内に挟まれた長方形の銅棒を示す。ギャップは、エアギャップ又は誘電体材料で満たされ得る。
図7(b)に示される配置は、アクティブ回路とパッシブ回路との間のより良好な電磁結合のために、
図7(a)に示される配置と比較して典型的に好ましい。マスター電気導体ネットワーク及びパッシブ電気導体ネットワークは、あるいは、それぞれ、マスターインダクタ回路バスネットワーク及びパッシブインダクタ回路導体ネットワークと呼ばれる。
【
図8(a)】
図8(a)~
図8(d)は、誘導加熱装置が、ベアリング特徴部分の加熱が完了した後、装置の熱中(加熱)位置にベアリング特徴部分を備えたままである場合、焼入れプロセスステップが実行される、内側又は外側レースなどのベアリングコンポーネントのベアリング特徴部分を誘導加熱処理するための本発明の方法の一実施形態を概略的に示す。
【
図8(b)】
図8(a)~
図8(d)は、誘導加熱装置が、ベアリング特徴部分の加熱が完了した後、装置の熱中(加熱)位置にベアリング特徴部分を備えたままである場合、焼入れプロセスステップが実行される、内側又は外側レースなどのベアリングコンポーネントのベアリング特徴部分を誘導加熱処理するための本発明の方法の一実施形態を概略的に示す。
【
図8(c)】
図8(a)~
図8(d)は、誘導加熱装置が、ベアリング特徴部分の加熱が完了した後、装置の熱中(加熱)位置にベアリング特徴部分を備えたままである場合、焼入れプロセスステップが実行される、内側又は外側レースなどのベアリングコンポーネントのベアリング特徴部分を誘導加熱処理するための本発明の方法の一実施形態を概略的に示す。
【
図8(d)】
図8(a)~
図8(d)は、誘導加熱装置が、ベアリング特徴部分の加熱が完了した後、装置の熱中(加熱)位置にベアリング特徴部分を備えたままである場合、焼入れプロセスステップが実行される、内側又は外側レースなどのベアリングコンポーネントのベアリング特徴部分を誘導加熱処理するための本発明の方法の一実施形態を概略的に示す。
【
図9】
図9(a)~
図9(d)は、内側又は外側レースなどのベアリングコンポーネントのベアリング特徴部分を誘導加熱処理するための本発明の方法の別の実施形態を概略的に示している。ここで、焼入れプロセスステップは、少なくともベアリング特徴部分を備えたパッシブインダクタ回路のパッシブインダクタコイルを焼入れ剤タンク内に沈めることによって実行される。この実施形態では、パッシブインダクタコイル回路の対応するセクションは、焼入れプロセスステップ中に熱処理されたベアリング特徴部分を所定の位置に保持するための支持体(ネスト)として使用される。
【
図10】
図10(a)から
図10(d)は、内側ベアリングレース又は外側ベアリングレースなどのベアリングワークピース上のベアリング特徴部分を誘導加熱処理するための本発明の方法の別の実施形態を概略的に示す。ここで、焼入れプロセスステップは、ベアリングワークピースのベアリング特徴部分が組み立てられた(加熱)位置にある装置で誘導加熱された後、ベアリングワークピースが誘導加熱装置内に留まるときに開始し(
図10(b))、加熱されたベアリング機能を備えたベアリングワークピースが、パッシブインダクタ回路内のパッシブ加熱インダクタコイル220とともに焼入れタンク(
図10(c))に移動する間、焼入れプロセスが継続し(
図10(c))。そこで焼入れプロセスが完了する。
【
図11】
図11(a)及び
図11(b)は、内側又は外側のベアリングレースなどのベアリングコンポーネントのベアリング特徴部分を誘導加熱処理するための本発明の方法の別の実施形態を概略的に示す。ここで、少なくとも2つの別々のベアリングコンポーネント(ワークピース)のベアリング特徴部分が同時に加熱され、同時加熱が完了した後、後続の焼入れプロセスステップと組み合わされる。
【
図12】
図12(a)は、2つの別個のベアリングコンポーネント(ワークピース)を同時に加熱し、
図11(a)及び
図11(b)に示される方法で使用することができる本発明の誘導加熱装置を示す。
図12(b)は、
図12(a)に示される誘導加熱装置の一端を拡大して詳細に部分的に示す。
【
図13】
図13は、誘導加熱装置が垂直方向の回転テーブルに隣接して配置されている本発明の一実施形態である。回転テーブルには複数の別個のワークピースをロードできる(例えば、事前に加熱した後;熱処理場所に回転し、ベアリング特徴部分の熱処理のために誘導加熱装置にロードされた後、焼き入れ場所に回転した後)。
【
図14(a)】
図14(a)は、
図16(a)及び
図16(b)のベアリングコンポーネント(ワークピース)の加熱位置に示される、構成された誘導熱処理装置800の構成されたパッシブインダクタアセンブリ800bの斜視図である。
【
図14(b)】
図14(b)は、
図14(a)に示されるパッシブインダクタアセンブリの上面平面図である。
【
図14(c)】
図14(c)は、
図14(a)に示されるパッシブインダクタアセンブリの側面断面図である。
【
図15(a)】
図15(a)は、
図16(a)及び
図16(b)のベアリングコンポーネント(ワークピース)の加熱位置に示される、誘導熱処理装置800の構成されたマスターインダクタアセンブリ800aの斜視図である。
【
図15(b)】
図15(b)は、
図15(a)に示されるマスターインダクタアセンブリの上面平面図である。
【
図15(c)】
図15(c)は、
図15(a)に示されるマスターインダクタアセンブリの側面断面図である。
【
図16(a)】
図16(a)及び
図16(b)は、内側ベアリングレースなどのワークベアリング特徴部分の電気誘導加熱用にワークピース加熱位置に構成された、パッシブインダクタアセンブリ800b(
図14(a))及びマスターインダクタアセンブリ800a(
図15(a))を備えた電気誘導熱処理装置800の一例の代替斜視図である。
【
図16(b)】
図16(a)及び
図16(b)は、内側ベアリングレースなどのワークベアリング特徴部分の電気誘導加熱用にワークピース加熱位置に構成された、パッシブインダクタアセンブリ800b(
図14(a))及びマスターインダクタアセンブリ800a(
図15(a))を備えた電気誘導熱処理装置800の一例の代替斜視図である。
【
図17】
図17(a)は、単一の電源からの別々のフェーズロック出力によって電力を供給される2つの別々のマスターインダクタ回路で構成された、ベアリングコンポーネントの1つ又は複数の特徴部分を同時に加熱するための代替的なスプリットマルチコイル電気誘導熱処理システムを概略的に示している。
図17(b)と
図17(c)は、それぞれ同相と逆相の両方の出力電流を示している。
【
図18】
図18は、トランスの一次側に給電する単一の出力を備えた単一の電源から電力を供給される2つの別個のマスターインダクタ回路で構成され、それぞれが別個のマスターインダクタ回路に給電する2つの二次出力を備える、ベアリングコンポーネントの1つ又は複数の特徴部分を同時に加熱するための代替的なスプリットマルチコイル電気誘導熱処理システムを概略的に示している。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明のいくつかの実施形態では、マスター加熱インダクタ及びパッシブ加熱インダクタは、マスター回路交流電流及びパッシブ回路の交流電流の逆瞬時電流が流れるように構成される。
【0034】
図面(同様の数字が同様の要素を示す)を参照すると、
図5(a)~
図5(d)には、例えば転動体、ベアリング、レースウェイ、又はリングを利用するヘビーデューティー用途(パワートレイン用途、ドライブライン用途、及びベアリングコンポーネントの構造が複雑なホイールアセンブリを含む)で使用されるベアリングコンポーネントの内側ベアリングレース、外側ベアリングレース又はその他のベアリング特徴部分を誘導熱処理するために組み立てることができるマスターインダクタ回路200a及びパッシブインダクタ回路200bを有する本発明の一実施形態が概略的に示されている。ベアリングコンポーネントは、あるいは、本明細書ではベアリングワークピースとして説明されている。
【0035】
マスターインダクタ回路及びパッシブインダクタ回路は、
図5(c)又は
図5(d)に示されるように、組み立てられたベアリングワークピース電気誘導熱処理装置200を形成する。ここで、マスターインダクタアセンブリのマスターインダクタ回路とパッシブインダクタアセンブリのパッシブ回路が、例えば
図5(c)又は
図5(d)に示すベアリングコンポーネントの加熱位置にあるとき、選択的なベアリング特徴部分は、2つ以上の異なるベアリング特徴部分のそれぞれについてマスターインダクタ回路とパッシブインダクタ回路で別々に構成されたマスター加熱インダクタとパッシブ加熱インダクタで同時に熱処理することができる。したがって、装置200は、ベアリングコンポーネント上の複数のベアリング特徴部分を同時に加熱するためのスプリットインダクタアセンブリを備えたスプリットマルチコイル(マスター加熱インダクタ及びパッシブ加熱インダクタ)として説明することもできる。ここで、スプリットインダクタアセンブリは、マスターインダクタアセンブリのマスターインダクタ回路とパッシブインダクタアセンブリのパッシブインダクタ回路によって形成される。
【0036】
本発明の例示された実施形態では、マスターインダクタ回路200aは、以下から形成されるマスター加熱インダクタ210を含む:ベアリングコンポーネントで同時に熱処理すべき第1ベアリング特徴部分の誘導加熱用に構成された第1のシングルターン誘導コイル;マスター磁束カプラーを形成する1つ又は複数のマスター回路磁束結合領域230;及びマスターインダクタ回路の電源端子6a及び6b。これらのすべてのマスター回路コンポーネントは、マスターインダクタ回路導体ネットワーク201によって電気的に相互接続されて、マスターインダクタ回路からエアギャップ又は誘電体材料のギャップで分離されて物理的に接続されていないマスター磁束カプラーを除き、直列マスター回路を形成し、マスター回路コンポーネントのすべてのコンポーネントは、物理的及び電気的に直列に接続されている。マスター磁束カプラーは、マスターインダクタ回路に交流が流れるときにマスターインダクタ回路からの磁束を結合するために、マスターインダクタ回路導体ネットワーク201に隣接して物理的に分離して配置されている。マスターインダクタ回路の電源端子6a及び6bは、マスターインダクタ回路200aを適切な交流電源(図面ではAC電源と指定されている)に接続する。交流電源は、ベアリング特徴部分の選択的熱処理のための当技術分野で知られている中周波数又は高周波電源から特定の用途のために選択することができ、また、高周波焼入れ装置が設置されている商用電源からの入力電力を供給することができる。指定された硬度層深度、熱処理されるベアリング特徴部分の形状、ベアリングワークピースを形成する加熱された金属材料の質量と生産率(熱処理されるベアリング特徴部分ごとのサイクルタイム)の必要に応じて、電源の標準定格は30kW~500kWの範囲で、動作周波数は1kHz~180kHzである。選択された電源の単相2導体出力は、電源装置の構成と電源装置の負荷マッチング機能に依存して、マスターインダクタ回路の電源端子6a及び6bに、直接に、電源バスネットワーク経由して、又は負荷整合トランスを介して接続される。
【0037】
図5(b)~
図5(d)に示される本発明の実施形態では、パッシブインダクタ回路200bは、以下から形成されるパッシブ加熱インダクタ220を含む:ベアリングコンポーネントで同時に熱処理される第2ベアリング特徴部分の誘導加熱用に構成された第2のシングルターン誘導コイル;及びパッシブ磁束カプラーを形成する1つ又は複数のパッシブ回路磁束結合領域240。パッシブ加熱インダクタ220は、パッシブインダクタ回路導体ネットワーク202と物理的及び電気的に閉ループの直列パッシブインダクタ回路を形成する。装置200が
図5(c)又は
図5(d)のように加熱又は組み立てられた位置にあるとき、パッシブ磁束カプラーは、パッシブ回路導体ネットワーク202及びマスターインダクタ回路導体ネットワーク201に隣接して配置され、エアギャップ又は誘電体材料のギャップによって物理的に分離され、これにより、マスターインダクタ回路にマスター交流電流が流れると、パッシブインダクタ回路にパッシブ交流電流が誘導される。
【0038】
図では、マスター及びパッシブ加熱インダクタはシングルターンソレノイドコイルとして構成されているが、インダクタの他の構成は、例えば、内側又は外側のベアリング特徴部分が熱処理されるかどうかなど、マスター加熱インダクタ又はパッシブ加熱インダクタによって加熱されるベアリング特徴部分の特定の構成の必要に応じて、本発明の他の例で利用することができる。
【0039】
本発明の他の例では、アクティブ加熱インダクタ又はパッシブ加熱インダクタは、マルチターンコイルなどの異なる構成のものであり得る。更に、本発明の他の例では、2つ以上のベアリング特徴部分がマスター加熱インダクタ又はパッシブ加熱インダクタによって加熱され得、その結果、複数の2つ以上のベアリング特徴部分が同時に加熱され得る。
【0040】
マスター磁束カプラーを形成する1つ以上のマスター回路磁束結合領域230と、パッシブ磁束カプラーを形成する1つ以上のパッシブ回路磁束結合領域240は、代替的に、以下から形成することができる:標準のラミネーションパック;純粋なフェライト;又は、当技術分野で知られているように、プレス及び焼結された磁性粒子を含む磁性複合材料を含む、従来の鉄又はフェライトベースの粉末材料。
【0041】
本発明の一実施形態では、マスターインダクタ回路200a及びパッシブインダクタ回路200bは、装置による熱処理のためにベアリングワークピースをロードする熱処理プロセスステップにおいて、ベアリングワークピース(例えば、熱処理を必要とする内側ベアリングレースなどの選択された複数のベアリング特徴部分を備えた
図1(b)のベアリングワークピース100)の対向する長手方向側端部から選択的に一緒にされる(電気誘導加熱処理装置を加熱位置に組み立てることとも呼ばれる)。装置を加熱位置に組み立てるこのプロセスステップは、
図5(c)に示され、軸L-Lは、
図1(b)の例示的なベアリングワークピース100の中央内部長手方向軸L-Lを表す。これは、わかりやすくするために、マスター加熱インダクタ210及びパッシブ加熱インダクタ220内には示されていない。ここで、マスター加熱インダクタは、運動方向矢印MCで示されるように、ベアリングワークピースの上部長手方向側端部L-Lの上から下がり、パッシブ加熱インダクタは、運動方向矢印PCによって示されるように、ベアリングワークピースの下部長手方向側端部を越えて下から上る。
図12(a)及び
図12(b)を参照すると、ベアリングワークピース100は、マスター加熱インダクタ210a”及びパッシブ加熱インダクタ220b”内の加熱装置245の加熱位置に配置されて示されている。ベアリングワークピースの対向する長手方向側端部からの加熱位置への装置のアセンブリのこの構成は、マスター回路インダクタ又はパッシブ回路インダクタの形状がそれぞれ、パッシブ回路インダクタによって加熱されるベアリングワークピースの特徴部分、又はアクティブ回路インダクタによって加熱されるベアリングワークピースの特徴部分との物理的干渉をもたらす可能性を排除する。同様に、マスターインダクタ回路200a及びパッシブインダクタ回路200bが熱処理装置から熱処理後にベアリングワークピースをアンロード(取り外す)する熱処理プロセスステップは、マスターインダクタ回路とパッシブインダクタ回路を、
図5(c)のマスター加熱インダクタのアンロード運動矢印MOの方向及び
図5(c)のパッシブ加熱インダクタのアンロード運動矢印POの方向によって示されるように、ベアリングワークピースの対向する長手方向の側端部を介してそれぞれから分離することによって実現される。マスター加熱インダクタ210を備えたマスターインダクタ回路及びパッシブ加熱インダクタ220を備えたパッシブインダクタ回路を、ベアリングワークピースL-Lの対向する長手方向側端部から一緒にしたり分離したりするプロセスステップは、ベアリングワーク100が装置内の熱処理のためにロードされるとき、それぞれマスター加熱インダクタ及びパッシブ加熱インダクタによって熱処理される、マスター加熱インダクタ210及びパッシブ加熱インダクタ220のベアリング特徴部分(例えば、
図1(b)のベアリングレース領域101及び102)への近接(通常、0.5mm~6mm)を可能にし、この例では、ワークピースのロード及びアンロードのプロセスステップ中に、
図2(a)に示される十分に大きなラジアルクリアランス107を有する必要がないため、
図1(b)に示される熱処理領域101と102との間のベアリングワークピースのより小さな直径の中間レース領域103は、マスター加熱インダクタ(コイル)とパッシブ加熱インダクタ(コイル)をワークピースのロード(加熱)位置に一緒にすることを妨害(干渉)しない。
【0042】
本発明のいくつかの実施形態では、スプリットマルチコイル電気誘導加熱システムは、矢印で示されているモーションのリニアアクチュエータを表すことのできる、
図5(c)の矢印で示されているマスター及びパッシブ磁束カプラーの動きに沿って、マスターインダクタ回路とパッシブインダクタ回路を組み立て(加熱)位置に一緒にし、マスターインダクタ回路とパッシブインダクタ回路を組み立て(加熱)位置から分離するように構成される、スプリットインダクタアセンブリ位置決め装置を含む。組み立てられた(加熱)位置では、第1ベアリング特徴部分及び第2のベアリング特徴部分を同時に加熱するため、第1ベアリング特徴部分がマスター加熱インダクタを使用した誘導加熱用に配置され、第2のベアリング特徴部分がパッシブ加熱インダクタを使用した誘導加熱用に配置されているとき、マスターインダクタアセンブリのマスター加熱インダクタは、パッシブインダクタアセンブリのパッシブ加熱インダクタと長手方向に位置合わせされており、パッシブ磁束カプラーの位置は、マスター磁束カプラーに隣接しており、物理的に分離されている。非加熱位置では、マスターインダクタアセンブリのマスター加熱インダクタは、第1ベアリング特徴部分及び第2のベアリング特徴部分を誘導加熱するためにベアリングコンポーネントをベアリングコンポーネントの加熱位置に配置する目的で、又は、ベアリングコンポーネントの加熱位置での第1ベアリング特徴部分及び第2のベアリング特徴部分の誘導加熱後のベアリングコンポーネントを取り外す目的で、パッシブインダクタアセンブリのパッシブ加熱インダクタから分離されている。
【0043】
図5(c)及び
図5(d)は、ロードされたベアリングワークピースがマスター回路インダクタ及びパッシブ回路インダクタ内に配置された状態でベアリングワークピースの加熱位置に一緒にされた後のマスターインダクタ回路200a及びパッシブインダクタ回路200bの斜視図を示す。組み立てられたマスター加熱インダクタとパッシブ加熱インダクタ回路を明確にするために、ベアリングワークピースは(オプションのポストヒーティング焼入れ装置とともに)これらの図には示されていない。
【0044】
図5(a)~
図5(d)に示される本発明の実施形態では、マスターインダクタ回路導体ネットワーク201及びパッシブインダクタ回路導体ネットワーク202は、U字型マスター回路磁束結合領域230とパッシブ回路磁束結合領域240との間にそれぞれ配置された銅管バスとして示される。
【0045】
マスターインダクタ回路200aのコンポーネントとパッシブインダクタ回路200bのコンポーネントとが、例えば、
図5(c)又は
図5(d)に示されるように、ワークピースの加熱位置にあるとき、及びマスター及びパッシブ加熱インダクタに隣接して配置されたベアリングワークピースのベアリング特徴部分を加熱するために、1つ又は複数の熱処理プロセスステップが実行されているとき、それらの間に物理的接触又は電気回路接触はない。マスターインダクタ回路磁束結合領域230は隣接して配置されているが、
図5(c)又は
図5(d)の断面の詳細によって示されるように、マスターインダクタ回路の導体ネットワーク内の交流電流によって確立された磁束をパッシブインダクタ回路に転送するため、分離距離205によってパッシブインダクタ回路磁束結合領域240から物理的に離れている。
【0046】
図16(a)及び
図16(b)は、別の斜視図で、
図5(c)及び
図5(d)に示されるものと類似する組み立てられた誘導加熱処理装置200を利用する本発明の構成された誘導加熱処理装置800の一実施形態を示す。構成された誘導加熱処理装置800は、ベアリングコンポーネント(ワークピース)の加熱位置で
図16(a)及び
図16(b)に示され、例示的なベアリングワークピース900が、ベアリングワークピース上の2つのベアリング特徴部分を同時に加熱するために装置にロードされる。この非限定的な例では、ベアリングコンポーネントは、熱処理されずに中央ベアリングワークピース特徴部分によって軸方向に分離された、熱処理を必要とする上部内側ベアリングレース(マスター加熱インダクタによって加熱される第1ワークピースベアリング特徴部分とも呼ばれる)と、同時熱処理を必要とする下部内側ベアリングレース(パッシブ加熱インダクタによって加熱される第2ワークピースベアリング特徴部分とも呼ばれる)を有する。
図16(a)及び
図16(b)では、ワークピースが装置800のベアリングコンポーネントの加熱位置にロードされているため、ベアリングワークピース900の内部が見えないが、例えば、
図1(a)及び
図1(b)のベアリングワークピース100の内部と同様であり得る(上部内側ベアリングレースは内側ベアリングレース101aであり、下部内側ベアリングレースは102aであり、非加熱中央ベアリングワークピースの特徴部分は
図1(a)及び
図1(b)の領域103である)。構成された誘導加熱処理装置800は、構成されたマスターインダクタアセンブリ又はセクション800a、及び構成されたパッシブインダクタアセンブリ又はセクション800bを備える。
【0047】
図14(a)から
図14(c)は、例えば、ベアリングワークピースの非加熱位置で、構成されたアクティブインダクタアセンブリ800bから分離されたときの、構成されたパッシブインダクタアセンブリ800bの様々な図である。
図15(a)から
図15(c)は、例えば、ベアリングワークピースの非加熱位置で、構成されたパッシブインダクタアセンブリ800bから分離されたときの、構成されたマスターインダクタアセンブリ800aの様々な図である。本発明のこの例では、向きの説明の便宜上構成されたパッシブインダクタアセンブリ800bは、あるいは、下部インダクタアセンブリと呼ばれ、構成されたマスターインダクタアセンブリ800aは、あるいは、上部インダクタアセンブリと呼ばれるが、誘導加熱処理装置800を形成するパッシブインダクタアセンブリ及びマスターインダクタアセンブリの向きを制限するものではない。
【0048】
構成されたマスターインダクタ回路800aは、この非限定的な例では、マンドレル420aの下端の周り及びその近くに取り付けられた、第1のシングルターン誘導コイルから形成されたマスター加熱インダクタ710と、マスター回路磁束カプラーを形成するマスター回路磁束結合領域730a及び730bと、電気絶縁材料7によって分離されたマスターインダクタ回路の電源端子6a及び6bを含み、これらのコンポーネントはすべて、マスターインダクタ回路導体ネットワーク701に関連付けられている。マスターインダクタ回路の電源端子6a及び6bは、マスターインダクタ回路800aを適切な交流電源(図面ではAC電源と指定されている)に接続する。マスター加熱インダクタは、熱処理される第1ワークピースベアリング特徴部分の誘導加熱用に構成されている。本発明のいくつかの実施形態では、マンドレル420aは、以下で更に説明されるように、焼入れマンドレルと呼ばれる。
【0049】
構成されたマスターインダクタ回路800aは、更に、リング形状であり、焼入れマンドレル420aの周りのマスター加熱インダクタ710の上に配置されている任意選択の上部マスター磁束コンセントレータ203a、及び誘導加熱磁束を、マスター加熱インダクタ710によって加熱されている第1ベアリングワークピース特徴部分に向けるための、マスター加熱インダクタの下に配置された任意選択の下部マスター磁束コンセントレータ204aを含む。
【0050】
構成されたマスターインダクタ回路800aは更に、供給冷却管425a及び戻り冷却管425bによって提供され、マスターインダクタ回路導体ネットワーク701内の中空内部貫通通路内を循環するマスターインダクタ回路冷却媒体を備える、補助マスターインダクタ回路強制液体冷却媒体システムのコンポーネントを含む。
【0051】
この非限定的な例では、構成されたマスターインダクタ回路800aは、任意選択の統合された焼入れ装置、すなわち、図示されていない焼入れ通路(焼入れマンドレルの上端近くの焼入れ供給ポート421a及び421bを介して供給される焼入れ剤を用いて、ワークピース加熱位置にあるベアリングワークピースの熱処理された特徴部分に焼入れ剤を供給するもの)を備えた焼入れマンドレル420aを含む。
【0052】
構成されたマスターインダクタ回路800aは、構成されたマスターインダクタ回路の特定の配置に必要とされ得る1つ又は複数のマスターインダクタ回路支持構造を更に備える。図示される例では、構成された誘導熱処理装置800は、焼入れマンドレル420aを所定の位置に保持する支持クランプブロック420b、サポートライザー420c、及び調整可能なサポートブリッジ420dを含むが、これらに限定されない。
【0053】
構成されたパッシブインダクタ回路800bは、この非限定的な例では、第2のシングルターン誘導コイルから形成され、支持柱410a(垂直方向の支持構造とも呼ばれる)の上端の周り及びその近くに取り付けられたパッシブ加熱インダクタ720と、パッシブ回路磁束結合器を形成するパッシブ回路磁束結合領域740a及び740bを含み、これらのコンポーネントはすべて、パッシブインダクタ回路導体ネットワーク702(パッシブインダクタバスネットワークとも呼ばれ、電気的に閉ループのパッシブバスネットワークを形成する)に関連付けられている。パッシブ加熱インダクタは、熱処理される第2ワークピースベアリング特徴部分の誘導加熱用に構成されている。
【0054】
構成されたパッシブインダクタ回路800bは、更に、リング形状であり、支持柱410aの周りのパッシブ加熱インダクタ720の上に配置されている任意選択の上部パッシブ磁束コンセントレータ203b、及び誘導加熱磁束を、パッシブ加熱インダクタ720によって加熱されているベアリングワークピース特徴部分に向けるための、マスター加熱インダクタの下に配置された任意選択の下部パッシブ磁束コンセントレータ204bを含む。
【0055】
本発明の例示された実施形態における構成されたパッシブインダクタ回路800bは更に、供給冷却管406a及び戻り冷却管406bによって提供され、パッシブインダクタ回路導体ネットワーク702内の中空内部貫通通路内を循環するパッシブインダクタ回路冷却媒体を備える、補助パッシブインダクタ回路強制液体冷却媒体システムのコンポーネントを含む。
【0056】
構成されたパッシブインダクタ回路800bは、構成されたパッシブインダクタ回路の特定の配置に必要とされ得る1つ又は複数のパッシブインダクタ回路支持構造を更に備える。図示される例では、構成された誘導熱処理装置800は、支柱410a(垂直方向の支持構造とも呼ばれる)、パッシブ回路インダクタ取り付けベース410b、パッシブ回路サポートクレードル410cを含むが、これらに限定されない。
【0057】
構成されたマスターインダクタ回路800a及びパッシブインダクタ回路800bは、装置による熱処理のためにベアリングワークピースをロードする熱処理プロセスステップにおいて、熱処理を必要とする内部ベアリングレースの選択された複数の特徴部分を備えたベアリングワークピース(例えば、ベアリングワークピース900)の対向する長手方向の側端部から一緒にすることができる(電気誘導加熱処理装置の組み立てとも呼ばれる)。ベアリングワークピースの対向する端部から装置を組み立てることで、マスター回路インダクタ又はパッシブ回路インダクタの形状がそれぞれ、パッシブ回路インダクタによって加熱されるベアリングワークピースの特徴部分、又はアクティブ回路インダクタによって加熱されるベアリングワークピースの特徴部分との物理的干渉をもたらす可能性を排除する。同様に、熱処理装置からの熱処理後にベアリングワークピースをアンロード(取り外す)する熱処理プロセスステップは、構成されたマスターインダクタ回路及び構成されたパッシブインダクタ回路を、ベアリングワークピースの対向する長手方向側端部を介してそれぞれから分離することによって達成される。本発明のいくつかの実施形態において(例えば、
図9(a)~
図9(d)及び
図10(a)~
図10(d)に示されるように)、構成されたパッシブインダクタ回路800bは、構成されたマスターインダクタ回路800aから分離されているが、ベアリングワークピースからは分離されておらず(
図9(c)及び
図10(c))、ベアリングワークピースは、当技術分野で誘電体ネストとして知られている構造の、パッシブインダクタからの誘電絶縁を備えたパッシブインダクタに着座する。焼入れサイクルの完了後にのみ、ベアリングワークピースは、構成されたパッシブインダクタ回路800bから最終的に取り外される。マスターインダクタ回路とパッシブインダクタ回路をまとめて、ベアリングワークピースの反対側の長手方向側端から分離するプロセスステップは、構成されたマスター加熱インダクタ及び構成されたパッシブ加熱インダクタによってそれぞれ熱処理されるベアリング特徴部分への、マスター加熱インダクタ710及びパッシブ加熱インダクタ720の近接配置を可能にする。
図5(a)~
図5(d)に示される本発明の実施形態では、マスターインダクタ回路導体ネットワーク201及びパッシブインダクタ回路導体ネットワーク202は、U字型マスター回路磁束結合領域230とパッシブ回路磁束結合領域240との間に配置されている銅管バスとして示されている。
【0058】
構成されたマスターインダクタ回路800aのコンポーネントと構成されたパッシブインダクタ回路800bのコンポーネントは、それらが、例えば、
図16(a)又は
図16(b)に示されるようにワークピースの加熱位置にあるとき、及び1つ又は複数の熱処理プロセスステップが実行されているとき、それらの間に物理的接触又は電気回路接触はない。構成されたマスターインダクタ回路磁束結合領域730a及び730bは隣接して配置されているが、マスターインダクタ回路導体ネットワーク701内の交流電流によって確立された磁束をパッシブインダクタ回路導体ネットワーク702に転送するために、
図16(a)及び
図16(b)に示されるような分離距離705によって、構成されたパッシブインダクタ回路磁束結合領域740a(図面図では隠されている)及び740bから物理的に離れている。本発明のいくつかの実施形態では、電気絶縁体は、磁束結合領域730aと730bとの間、及び/又は磁束結合領域740a(図面図に隠されている)と740bとの間、及び/又はマスターインダクタ701とパッシブインダクタ702ネットワークとの間に配置される。
【0059】
本発明のベアリングワークピース電気誘導加熱装置、例えば、構成されたマスターインダクタ回路、構成されたパッシブインダクタ回路、又は構成されたマスターインダクタ回路とパッシブインダクタ回路の両方を互いに離れる方向に移動することによって、構成された誘導熱処理装置800は、
図16(a)又は
図16(b)に示されるように、ワークピース加熱位置の間で移動することができ、これにより、それらは互いに分離され、ロードされたベアリングワークピース(例えば、
図16(a)又は
図16(b)のベアリングワークピース900)から分離される。非限定的な例として、
図16(a)又は
図16(b)に示されているワークピースの加熱位置からベアリングワークピースをロード又はアンロードする(図示されていない適切なワークピース電気機械輸送装置を使用して)ための構成されたマスターインダクタ回路とパッシブインダクタ回路の間の分離動作は、特定の用途に必要とされる方向移動用に構成された1つ又は複数の適切な電気機械式リニア又は回転アクチュエータを使用して達成することができる。
【0060】
図14(a)から
図16(b)に示される電気誘導熱処理装置800を用いて、選択されたベアリングワークピースの特徴部分の加熱サイクル及び適切なオーステナイト化が完了した後、熱処理されたワークピースベアリング特徴部分の焼入れは、加熱装置に統合された、又は本明細書に記載されるように、若しくは他の方法で当技術分野で知られているように加熱装置から離れた場所に配置された焼入れ装置を用いて達成され得る。
【0061】
図7(a)及び
図7(b)は、断面図において、ある用途で代替的に使用される場合の、
図6(b)に示されるマスター及びパッシブ回路磁束結合領域230及び240(磁束コンセントレータ)を示す。ここで、(1)マスター及びパッシブインダクタバスネットワークは、
図7(a)の電磁結合領域230a及び240aの間に挿入された(「サンドイッチ」とも呼ばれる)導電性チューブ201a及び202a(銅組成物など)から形成されるか;又は(2)マスター及びパッシブインダクタバスネットワークは、
図7(b)の電磁結合領域230bと240bとの間のエアギャップ又は誘電体材料のギャップに挿入された(「サンドイッチ」とも呼ばれる)、導電性の長方形のバー201b及び202b(銅のバスバーなど)又は長方形のチューブ(図示せず)から形成される。
図7(b)に示す長方形の銅バスの使用が最も一般的に使用される。
【0062】
図7(a)の例示的な熱中位置間隔エアギャップ205a及び
図7(b)の205bは、マスターインダクタ回路200aの要素とパッシブ回路200bの要素との間の電気アーク又は短絡を防ぐのに十分な大きさである。空気は好ましい誘電体材料ではないが、本発明の代替的な実施形態では、エアギャップは十分な誘電体として機能することができ、又は、熱中位置間隔ギャップ205a又は205bは、導電体を電気的に絶縁するために当技術分野で知られている従来の誘電体材料で満たされ得る。そのような従来の誘電体材料には、誘電体テープ、セラミックコーティング、又は当技術分野で知られている他の電気的絶縁材料が含まれる。
【0063】
図7(a)の間隔エアギャップ205a及び
図7(b)の間隔エアギャップ205bは、マスターインダクタ回路200aとパッシブインダクタ回路200bとの間の電磁結合に悪影響を与えるほど大きくてはならない。典型的に、限定ではないが、間隔エアギャップ205a及び205b(
図7(b))のサイズは、周波数、電流の大きさ、及び作業環境の状態(湿度、湿気、導電性のほこりの存在など)に依存して、0.5mm~6mmの範囲内である。
【0064】
磁束カップリングの適切な形状の選択とそれらを所定の位置に保持する方法、及び間隔エアギャップ205の適切なサイズの選択を含む、特定の用途のためのマスター及びパッシブ回路磁束結合領域230及び240の製造特徴については、米国特許第6,274,857号及び米国特許第6,859,125号が参照される。
【0065】
本発明のプロセスの一実施形態では、
図5(a)及び
図5(b)に示すように、誘導加熱される1つ又は複数の特徴をワークピースにロードし、本発明の装置のマスター誘導コイルとパッシブ誘導コイルの両方を加熱位置に配置した後、回路電源端子6a及び6bに接続された交流電源が通電され、マスターインダクタ回路に交流電流が流れ始める。マスター回路及びパッシブ回路の磁束結合領域230及び240は、トランスコアの巻線間の効果と同様に、通電されたマスターインダクタ回路と電気的に短絡されたパッシブインダクタ回路との間に電磁結合を提供する。マスター回路インダクタを流れる交流電流は、電力トランスの一次巻線と二次巻線に電流が流れるのと同様のマスター回路とパッシブ回路の磁束結合領域によって、閉ループパッシブ回路内を流れる電流を即座に(実際には)生成する。
【0066】
パッシブインダクタ回路200bに誘導される瞬時交流電流は、例えば
図5(c)の矢印によって示されるように、マスターインダクタ回路に流れるソース電流の方向とは反対の方向に向けられる。しかしながら、代替的な回路接続によっては、マスター回路200aのマスター誘導コイル210及びパッシブインダクタ回路200bのパッシブ誘導コイル220に流れる交流電流は、反対方向又は同じ方向に向けることができる。例えば、
図5(a)から
図5(c)に示されるマスター及びパッシブ回路接続は、パッシブインダクタ回路のパッシブ誘導コイル220に交流電流(これは、マスター回路のマスター誘導コイル210を流れるコイル電流とは反対方向に瞬時に向けられる)を生成する。この反対方向の電流配向は、例えば、
図1(b)、
図1(j)及び
図1(k)に示される硬度パターン(これは、例えば自動車用途で使用される大部分の内側ベアリングレースで最も一般的に望ましい硬度パターンである)を得るのに有益である。対照的に、望ましい硬度パターンが、例えば
図1(c)に示されているものである場合、パッシブインダクタ回路の回路配置を変更して、パッシブ誘導コイル220に流れる瞬時コイル電流を、接続された電源によって提供され、マスター誘導コイル210に流れるマスターインダクタ回路電流と同じ方向に向けることが有益である。そのような接続の1つの可能な例が
図5(e)に示されている。
図5(f)及び
図5(g)は、パッシブインダクタ回路のパッシブ誘導コイルに流れる代替の瞬時電流を示している。
図5(f)は、
図5(b)及び
図5(c)に示される電気回路用のパッシブ誘導コイル220を備えたパッシブインダクタ回路200bの交流電流の瞬間的な方向を示している。
図5(g)は、
図5(e)に示されるパッシブ誘導コイル220’を備えたパッシブインダクタ回路200b’の交流電流の瞬間的な方向を示している。
図5(f)及び
図5(g)に示されるパッシブ回路202に流れる電流の同じ瞬間的な方向を有することにかかわらず、パッシブ誘導コイル220’(
図5(g))を流れる電流は、パッシブコイル220(
図5(f))を流れる電流とは反対の方向に向けられている。
【0067】
本発明の誘導加熱処理装置の実施形態の典型的な設計用途において、マスターインダクタ回路200aとパッシブインダクタ回路200bとの間の十分な電磁結合で、交流電流電源から電源端子接続6a及び6bに供給されるマスターインダクタ回路200aのマスター誘導コイル210に流れる電流と、パッシブインダクタ回路200bのパッシブ誘導コイル220に誘導される電流との差は、10%未満であり得る。そして、この差は、アクティブ誘導コイル210及びパッシブ誘導コイル220のコイル加熱面の形状をプロファイリングすることによって(例えば、銅の形状をプロファイリングすることによって)更に補正することができる。本発明のいくつかの実施形態では、マスター誘導コイルとワークピースのギャップよりも0.25mm~2mm小さいパッシブ誘導コイルとワークピースのギャップを提供すれば、マスター誘導コイル210とパッシブ誘導コイル220に流れる電流の大きさの違いを補正するのに十分である。本発明の他の実施形態では、ベアリングレース領域の低質量領域が、パッシブインダクタ回路に配置されたパッシブ誘導コイルによって加熱されるように、ベアリングレースを熱中位置に戦略的に配置することが有益である。例えば、
図2(a)の領域115は、
図2(a)の領域106と比較して、熱処理する必要のある金属の質量が小さい。したがって、加熱位置では、より小さな質量領域115を加熱するために、パッシブインダクタ回路(より低い電流の大きさ)のパッシブ誘導コイル220を配置すること、及びより大きな質量領域106を加熱するために、アクティブインダクタ回路(より高い電流の大きさ)のマスター誘導コイル210を配置することは有益である。
【0068】
図2(a)に示される例示的な場合において、単なる例示であるが、水冷された丸い銅管がコイル製造のために使用される。他の場合では、コイルは代わりに以下によって形成することができる:固体銅ブロックのCNC加工、適切な銅部品のろう付け、又は、内側のベアリングレース115の形状に対応するためにコイルターンのプロファイルされた加熱面を形成するダイ、又は、コイルは3Dプリントとして積層造形技術を使用して製造できる。
【0069】
従来の磁束コンセントレータ203及び204は、加熱効率を改善し、内側ベアリングレースを加熱するための2ターンコイルの各ターン301及び302によって生成される磁場を集中させるために適用することができる。磁束コンセントレータは通常、標準のラミネーションパック、純粋なフェライト、あるいは、プレス及び/又は焼結磁性粒子を含む従来の鉄ベース又はフェライトベースの粉末材料(磁性複合材料など)から製造される。
【0070】
図5(a)から
図5(d)に示される本発明のコイル構成は、ロード及びアンロード中に、より小さな直径の領域103(例えば、
図1(b)に示される)の障害物に関連する制限なしに、可能な限り最小の誘導コイルとワークピース間のギャップを有することを可能にする。本発明は、既知の先行技術と比較して、誘導コイルとワークピース表面との間に実質的により近い結合ギャップを提供し、その結果、高いエネルギー効率、より優れた硬度パターン制御をもたらし、また、最小のサイズと形状の歪みで輪郭のような硬化パターン、オーステナイト化中の最高温度とピーク温度の低下、及び冶金学的に健全な微細構造の製造を得ることができ、熱処理及び操作中にベアリングレースが割れる可能性が低くなる。
【0071】
特定の用途に必要とされるように、本発明の誘導加熱処理装置及び方法は、代替的に、垂直又は水平方向に配置される。装置及び方法の垂直配置の用途では、パッシブ回路200b(誘導コイル220を含む)を、熱処理されるベアリングレースが配置される支持台座(例えば、ワークピース静止構造(ネスト))と組み合わせて提供することができる。この垂直配置では、
図8~
図10に示されるように、台座上に載っているベアリングレースを加熱位置に上昇させ(持ち上げて)、熱処理サイクルの間加熱位置に保持することができる。
【0072】
本発明の1つの可能な設計によれば、マスター回路200a(
図5(a))の誘導コイルは、台座上(又は誘導コイル220を含むパッシブ回路200bの一部である休止ネスト上)に配置された後、静止状態に保たれ、ベアリングレース100(
図1(a))は加熱位置に出入りする。受動回路200bは閉ループ電気システムを表すので、加熱位置に自由に出入りすることができ、高電流を運ぶ電力接続ケーブルは受動回路200bと共に移動する必要がない。ワークピースを加熱位置に出し入れするためのメカニズムは、油圧式、空気圧式、又は電気式にすることができる。
【0073】
本発明の別の設計概念によれば、マスター回路200aの誘導コイル210は、加熱位置の内外に移動可能であるが、ベアリングレース100は軸方向に移動しない。
【0074】
ベアリングレース表面の硬度パターンの仕様と形状の重要性によっては、標準的な手段を使用して、加熱サイクル中にベアリングレースを回転(回転)させることができる。小サイズ及び中サイズのワークピースのための当技術分野で知られている従来のリフト回転構成は、低コストの機械選択肢を提供することができる。シリンダーがワークピースベアリングレースを作業位置に持ち上げ、電気モーターが部品の回転を開始する。選択肢として、調整可能なハードストップを部品の位置決めに使用できる。この場合、保持チャック又はクランプブロックは、加熱中にベアリングレースを回転させながら、回転中に台座に静的に置く必要なしに、ベアリングレースを加熱位置に保持することができる。
【0075】
本発明の他の実施形態では、ワークピースベアリングレース100は、本明細書に開示されるように、加熱中に静止状態に保たれる。
【0076】
従来の設計のシングルターンコイルには、磁場の歪みが避けられない領域があり、そこで熱強度がいくらか低下する。この領域は、電源から電流を伝送する銅バスが誘導コイルに接続されている領域(いわゆる分極コイル電源リードの領域)に関連付けられている。その熱強度の低下の原因となる物理現象は、電磁界フリンジ効果(フィッシュテール効果とも呼ばれる)と呼ばれ、例えば文献Induction Heating Handbookで説明されている。加熱中のワークピースの回転は、スプリット領域の熱不足を(実際には)解消するのに役立つ。ワークピースベアリングレースが静的に(回転せずに)加熱されている場合でも、そこでの熱強度の偏差を最小限に抑えることができる。業界は、適切なコイル銅プロファイリングを介してシングルターンコイルを使用する静的誘導加熱用途でのフィールドフリンジ効果を効果的に制御及び補償するためのさまざまな標準手段を開発した。シングルターンコイルのスプリット領域での改善された電磁結合(近接効果)は、磁場フリンジを補償し、加熱されたワークピースを回転させる必要をなくす。コイルのスプリット領域の近くでの電界強度補償のこれらの技術は、米国特許第6,274,857号を含む多くの出版物に開示されており、本発明において、ベアリングレース100が回転せずに静的に加熱される場合に使用することができる。
【0077】
加熱サイクルと適切なオーステナイト化が完了した後、ベアリングレースは、選択した液体焼入れ剤に適した、又は十分な鋼の硬化性の場合に適した従来の焼入れ技術を適用して、強制空気焼入れやガス焼入れなどの液体焼入れ媒体に代替的な焼入れ媒体を適用することによって、現場又は現場外で焼入れすることができる。
【0078】
図8(a)から
図8(d)は、ベアリングレース熱処理のための本発明の方法の一実施形態を概略的に示している。図示の方法で利用される電気誘導加熱装置は、例えば、マスターインダクタ回路200a(
図5(a))及びパッシブインダクタ回路200b(
図5(b))から形成される。
図8(a)で加熱装置が分離した状態(レースロード位置)で、(ベアリングレースが内側又は外側レースであるかに応じて)マスターインダクタ回路200aのマスターインダクタコイル210の内側又は外側のいずれかに未熱処理ベアリングレースを配置する、ロード及びアンロードの取り付け台座又は固定具(図示せず)上に、熱処理されるベアリングレースをロードした後、パッシブインダクタ回路200b全体(パッシブコイル220、パッシブ回路磁気カプラー240及びパッシブバスネットワーク202を含む)は、
図8(b)に示されるレース加熱位置まで上昇する。レース加熱位置では、マスター回路及びパッシブ回路電磁カプラー230及び240は、互いに近接して配置され、銅導電体から形成されたマスターバスネットワーク201b及びパッシブバスネットワーク202b(
図5(a)~
図5(c)を参照)の対応するセグメントを取り囲み、交流電源への接続を介してマスターインダクタ回路200aに電力が供給される(交流電源へ)とき、電磁リンク250を作成する(
図8(b)に破線の楕円形領域として示されている)。
図8(b)に示されるプロセスステップにおいて、コイル210及び220は、それらのそれぞれの加熱位置に配置されて、所望のベアリングレース領域(例えば、加熱されるベアリングレースが
図1(b)に示されるベアリングレース100である場合、
図1(b)のベアリングレース領域101及び102)の熱サイクルを開始する。加熱サイクルが完了すると、マスターインダクタ回路200aから電力が除去され、マスター及びパッシブインダクタ回路がオフになり、その時点で、スプレー焼入れサイクルは、
図8(c)に示されるように、加熱装置にロードされたベアリングレース領域の焼入れのために、即座に又は短い時間遅延(ソーク時間とも呼ばれる)後に開始し、ここで、従来のスプレー焼入れ装置71(例えば、スプレー焼入れブロック又は液体焼入れ剤噴霧器)を利用することができる。ベアリングレースの形状の詳細と必要な硬度パターンによっては、短い焼入れ時間遅延が適切な熱プロファイルの取得に役立ち得る。焼入れ遅延は通常5秒を超えない。スプレー焼入れサイクルが完了すると、熱処理されたベアリングレース(図示せず)及びパッシブインダクタ回路200b全体が、
図8(d)に示されるように、ベアリングレースのアンロード位置まで下げられ、そこで台座からの熱処理されたベアリングレースのアンロードが行われる。連続シーケンシャルベアリングレース熱処理プロセスでは、後続の未熱処理ベアリングレースが台座にロードされ、
図8(a)~
図8(d)に記載されている上記の誘導熱処理プロセスが繰り返される。
【0079】
図9(a)~
図9(d)は、
図8(a)~
図8(d)に記載された方法のいくつかのプロセスステップと同様の本発明のベアリングレース熱処理の方法の別の実施形態を図式的に示している。
図9(a)~
図9(d)の方法では、最初の2つのプロセスステップは、ベアリングレース加熱装置の下の焼入れタンク70の配置を除いて、
図8(a)及び
図8(b)に示される方法ステップについて前述した通りである。加熱サイクルが完了すると、マスターインダクタ回路200aから電力が除去され、マスター及びパッシブインダクタ回路がオフになり、その時点で、加熱とオーステナイト化されたベアリングレース領域を備えたベアリングレース及びパッシブインダクタ回路200b全体は、ベアリングレースの加熱位置から、流体焼入れ剤70aの表面レベルより下に、焼入れタンク70に移され、そこで焼入れサイクルは
図9(c)に示すように始まる。好ましくは、限定的ではないが、流体焼入れ剤は、焼入れタンク内で(例えば、攪拌によって)攪拌されて、焼入れの均一性及び他の好ましい冷却特性を改善する。焼入れサイクルが完了すると、焼入れされた熱処理されたベアリングレース100(図示せず)は、その取り付け台座又は固定具によってパッシブインダクタコイルからアンロードするための位置まで上昇し、取り付け台座又は固定具からアンロードされる。連続シーケンシャルベアリングレース熱処理プロセスでは、後続の未熱処理ベアリングレースが取り付け台座にロードされ、
図9(a)~
図9(d)に記載されている上記の誘導熱処理プロセスが繰り返される。
【0080】
ベアリングレースの形成に使用できる鋼の中には、冶金学的硬化性が低いため、
図9(a)~
図9(d)に関連して上記の方法に示されるようにベアリングレースの焼入れタンクへの輸送中に発生する間に発生する焼入れの遅延に敏感なものがある。加熱及びオーステナイト化された後のそのような鋼の温度は、潜在的に必要最小限の温度レベルを下回る可能性があり、焼入れを遅らせると冶金学的に望ましくない構造が形成される可能性がある。
図10(a)~
図10(d)は、ベアリングレース熱処理のための本発明の方法の別の実施形態を概略的に示している。
図10(a)~
図10(d)に示される熱処理方法は、
図9(a)~
図9(d)に示される方法の修正である。
図9(a)、
図9(b)及び
図9(d)で示されるプロセスステップは、
図10(a)、
図10(b)及び
図10(d)で示されるプロセスステップで同様に実行される。
図10(c)で示されるプロセスステップは、スプレー焼入れブロック72が、パッシブインダクタコイル220に対して固定されている加熱とオーステナイト化されたベアリングレースを焼入れする(焼入れスプレー矢印によって示される)という点で、
図9(c)のプロセスステップから変更されており、固定された加熱とオーステナイト化されたベアリングレースを備えたパッシブインダクタ回路200b全体が、焼入れタンク70内の流体焼入れ70aに下げられて、焼入れプロセスを完了する。
図10(a)~
図10(d)に示される方法は、熱処理されたベアリングレースの冶金学的特性のために、オーステナイト化後の即時及び/又は中断のない焼入れが必要とされる場合に特に有用である。
【0081】
電気誘導熱処理プロセスの一般的な業界慣行に基づくと、ワークピースの焼入れプロセスステップに必要な時間は、典型的には、加熱とオーステナイト化プロセスステップの時間と比較して2~4倍長くなる。その結果、熱処理されたベアリングレースの熱処理生産率と電源の利用率は、
図8(a)~
図8(d)、
図9(a)~
図9(d)、
図10(a)~
図10(d)に開示された方法のいずれかを用いた、特定の用途で望まれるよりも低くなり得る。
【0082】
図11(a)及び
図11(b)は、電源の使用率を改善してベアリングレースの熱処理生産率を上げる代替的な方法の1つとして、ベアリングレース熱処理のための本発明の方法の別の実施形態を概略的に示している。図示の方法で利用される電気加熱装置は、例えば、複数のマスターインダクタコイル210a”及び210b”を備えたマスターインダクタ回路200a”と、複数のパッシブインダクタコイル220a”及び220b”を備えたパッシブインダクタ回路200b”から形成され、
図12(a)のベアリングレース加熱位置に示される電気誘導加熱装置245を形成する。
図12(a)の加熱装置245は、熱処理されたベアリングレースの生産を増加させ、加えられた電力利用を高めるための本発明の一つの方法を示している。
図11(a)及び
図11(b)に示される方法では、2つのベアリングレース(2つのマスター及びパッシブ誘導コイルペアのそれぞれに1つ)を同時に熱処理でき、次に、当技術分野で知られている適切なスプレー焼入れ装置(
図11(a)又は
図11(b)の装置73など)を使用して、又は代替的な焼入れプロセスステップ(例えば、限定的ではないが、
図8(a)~
図8(d)、
図9(a)~
図9(d)、
図10(a)~
図10(d)の方法に開示されるもの)で同時に焼入れすることができる。
【0083】
図12(a)は、マスター回路及びパッシブ回路で複数の誘導コイル(すなわち、マスターインダクタ回路の2つのコイル210a”と210b”、及びパッシブインダクタ回路の2つのコイル220a”と220b”)を使用しながら2つのベアリングワークピースのレースを同時に加熱するための、加熱位置での本発明の電気誘導加熱装置の代替的な配置を示している。
図12(a)では、便宜上、1つのベアリングワークピースのみが示されている。
図12(b)は、
図12(a)の加熱装置の左端の拡大図である。
【0084】
図11(a)から
図11(b)に示すように、マスターインダクタ回路200a”の複数のコイル210a”及び220b”が電気的に直列に接続されている。本発明の電気加熱装置の代替的な配置では、マスターインダクタ回路200a”の複数のコイル210a”及び220b”を電気的に並列に又はその組み合わせで接続することができる。同様に、受動回路200b”内の複数のコイル220a”及び220b”もまた、電気的に並列に接続することができ、又は直列/並列接続の組み合わせを有することができる。
【0085】
回転テーブルを使用して生産速度を上げることができ、加熱位置の外の複数の場所で焼入れを行うことができる。このタイプのシステムは、コンポーネントが同じワークピース上に配置された異なる領域を硬化する必要がある場合にも使用できる。回転テーブルは、水平、垂直、又は角度を付けて配置できる。
【0086】
図13は、2つのワークピースベアリングを同時に熱処理するための3つのステーションを有する垂直方向の回転テーブル330を含む本発明の誘導加熱システムの一例を示す。矢印で示されるようにテーブルを反時計回りに回転させると、熱処理される2つのワークピースベアリング100xがテーブルステーション333で回転テーブルにロードされ、これは加熱前ロードと加熱後アンロードステーションと呼ばれ得る。2つのワークピースベアリング100yは、テーブルステーション331(ベアリングワークピース加熱ステーション)に隣接する本発明のデュアルワークピース加熱装置(例えば、
図12(a)に示される加熱装置245)にロードされ、そこでは、ベアリングレースは装置245にロードされ、誘導加熱され、オーステナイト化され、装置245からアンロードされる。2つの加熱とオーステナイト化されたワークピースベアリング100zは、焼入れテーブルステーション332にあり、そこでそれらは、焼入れタンク70内の焼入れ剤70a(図では点刻された焼入れ剤表面積として示される)で焼入れされる。回転テーブルは、テーブルステーション331からテーブルステーション332、テーブルステーション333まで、一度に2つのワークピースベアリングをガイドする。本発明のいくつかの実施形態では、補助スプレー焼入れ装置(図には示されていない)が、ヒートテーブルステーション331と焼入れテーブルステーション332との間に設置され、これら2つのステーション間の輸送中にワークピースのオーステナイト化されたベアリングレース特徴部分を焼入れする。補助的なスプレー焼入れ装置は、静止又は攪拌された液体焼入れ剤を提供するために、
図10(c)のスプレー焼入れブロック72と同様であり得る。本発明の他の実施形態では、加熱又は焼入れ、あるいは加熱及び焼入れのための複数のテーブルステーションが提供される。本発明の他の実施形態では、回転テーブルは、水平に向けられているか、又は水平又は垂直から斜めの角度に向けられている。ベアリングレースの特徴は、回転テーブルの加熱装置内で静止している間に加熱するか、又は当技術分野で知られているように、回転アクチュエータなどの従来の回転装置によって回転させることができる。本発明の他の実施形態では、シャトル装置を使用して、回転テーブルの機能を実行して、ワークピースベアリングを異なるプロセス位置間で輸送する(例えば、加熱から焼入れ、ロード及びアンロード位置に)。
【0087】
図17(a)は、ベアリングコンポーネント上の複数のベアリング特徴部分と、少なくとも2つの位相ロック出力161及び162を含む交流(AC)電源160aを同時に加熱するためのスプリットインダクタアセンブリを有する分割マルチコイル電気誘導加熱システムを含む、本発明の別の態様を図式的に示している。半導体技術に基づいて製造された電気デバイス(例えば、サイリスタベース又はトランジスタベースのAC電源)を含むがこれらに限定されない、当技術分野で知られている任意のAC電源は、それらは少なくとも2つの位相ロック出力161及び162を有するものであれば、AC電源160aとしての使用に適している。
【0088】
スプリットインダクタアセンブリは、ベアリングコンポーネントの加熱位置で分離可能な2つのマスターインダクタアセンブリで構成されている。第1のマスターインダクタ回路導体ネットワーク6a及び6bは、AC電源160aの第1の位相ロック出力161を第1のマスター加熱インダクタ210に接続する(
図17(a)に示されるように)。第2のマスターインダクタ回路導体ネットワーク6c及び6dは、AC電源160aの第2の位相ロック出力162を第2のマスター加熱インダクタ220に接続する。
【0089】
AC電源160aの出力のフェーズロック機能によって、第1のマスター加熱インダクタ210における瞬時インダクタ電流の流れ及び第2のマスター加熱インダクタ220における瞬時電流の流れは、
図17(b)の電流波形によって示されるように、反対方向に向けることができ、又は、第1のマスター加熱インダクタ210における瞬時インダクタ電流の流れ及び第2のマスター加熱インダクタ220における瞬時電流の流れは、
図17(c)の電流波形によって示されるように、同じ方向に向けることができる。したがって、ベアリング特徴部分の硬度パターン要件(例えば、
図1(b)に示されている中断されたベアリングレース硬度パターン又は
図1(c)に示されている中断のないベアリングレース硬度パターン)に応じて、本発明の代替的な実施形態によるAC電源の出力のこの位相ロック機能は、第1のマスター加熱インダクタ210及び第2のマスター加熱インダクタ220における瞬時電流の望ましい方向を提供する(
図5(c)、
図5(f)又は
図5(g)に示されているものと同様)。
【0090】
AC電源160aの少なくとも2つの位相ロック出力161及び162のそれぞれによって供給される電力、及び(したがって、加熱インダクタ210及び220のそれぞれに供給される電力)は、独立して制御される。これにより、
図1(b)に示すように、加熱された金属の質量の可能な差異を補正できる(転動体(ボールやローラーなど)がそれぞれ内側ベアリングレース101aと102aに接触する、ベアリング特徴部分又は領域のゾーン101と102を比較して)。
【0091】
複数の出力161及び162の位相ロック機能を備えた単一のAC電源160aを使用するための代替アプローチとして、上記の明細書の教示から利益を受ける当業者は、上記の単一のAC電源160aを使用する代わりに、出力電力の位相ロック機能を備えた2つの異なるAC電源を使用することができる。この修正は、本発明の範囲から逸脱するものではない。
【0092】
マスターパッシブ設計コンセプト(例えば、
図5(c)又は
図12(a))は、従来のそれほど複雑でないAC電源160を必要とするため、より複雑なAC電源160aと比較して、より費用効果の高いアプローチであるが、特定の条件下では、少なくとも2つの位相ロック出力161及び162を含むAC電源160aの使用は、特定のプロセスの利点を示すことが有益かつ好ましい場合がある。これらの条件には、より高い周波数(例えば、70kHz~600kHzの範囲の周波数)の用途が含まれるが、これらに限定されない。代わりに、又はこれらの条件に加えて、同時に加熱する必要のある金属の質量に大きな違いがある用途が含まれる(上記の質量の違いは、硬化が必要なベアリング特徴部分の形状の対応する違いに関連している場合がある(
図1(b)に示すように、転動体はそれぞれ内側ベアリングレース101a及び102aに接触する、ベアリング特徴部分又は領域のゾーン101と102を比較する)。代わりに、又はこれらの条件に加えて、ベアリングコンポーネントが、同時に熱処理する必要があり、実質的に異なる形状を有する3つ以上のベアリング特徴部分で構成される用途が含まれる。代わりに、又はこれらの条件に加えて、ベアリングコンポーネントが、中断された硬度パターンと中断のない硬度パターンの組み合わせを示す、複数のベアリング特徴部分で構成される用途が含まれる。これらは、複数のマスターインダクタ(例えば、FIG17(a)など)を備えた誘導加熱システムの使用が好ましい可能性のあるいくつかの例示的なケースにすぎない。
【0093】
図18は、少なくとも2つの二次巻線222b及び222cを有する出力トランス222の一次巻線222aに接続された単一の出力を有する従来のAC電源160を含み、ベアリングコンポーネント上の複数のベアリング特徴部分を同時に加熱するためのスプリットインダクタアセンブリを有する分割マルチコイル電気誘導加熱システムを含む、本発明の別の態様を図式的に示している。二次巻線222b及び222cは、出力トランス222の対応する出力161aと162a、及び対応するマスターインダクタ回路導体ネットワーク6a~6bと6c~6dを介して、2つの対応するマスターインダクタ210及び220に接続される。
【0094】
第1のマスターインダクタ回路導体ネットワーク6a及び6bは、トランス122の第1の出力161a及び第1のマスター加熱インダクタ210を接続する。第2のマスターインダクタ回路導体ネットワーク6c及び6dは、トランス122の第2の出力162a及び第2のマスター加熱インダクタ220を接続する(
図18を参照)。
【0095】
2つのマスターインダクタ回路導体ネットワーク6a~6b及び6c~6dのそれぞれは、当技術分野で知られており、業界で一般的に使用されているサイリスタベース又はサイリスタベースのACレギュレータなどの標準的な電力制御デバイス(
図18には表示されていない)で構成され得、加熱インダクタ210及び220のそれぞれに独立して供給される電力の調整を可能にする。
【0096】
トランス222の二次巻線222bと222cの相対的な構成を相互に変更することによって、加熱インダクタ210及び220に流れる瞬時電流を、互いに同じ方向又は反対方向に向けることが可能である(必要な硬度パターンを得るために望ましいものであれば)。中断された硬度パターンが必要な用途では(例えば、
図1(b)に示すように)、加熱インダクタ210及び220に流れる瞬時電流が反対方向に向けられるように、トランス222の二次巻線222b及び222cを構成することが有利である。対照的に、中断のない硬度パターンが必要な場合(例えば、
図1(c)に示すように)、加熱インダクタ210及び220に流れる瞬時電流が同じ方向に向けられるように、トランス222の二次巻線222b及び222cを構成することが有利である。
【0097】
マスターパッシブ設計コンセプト(例えば、
図5(c)及び
図12(a))は、より費用効果が高く、比較的単純な設計であるため、特定の構成の少なくとも2つの2次巻線を持つトランス222を使用する必要はないが、特定の条件下では、
図18に示される回路の使用は、特定のプロセスの利点を示す場合がある。これらの条件には、低周波数及び中周波数(500Hz~6kHzの範囲など)の用途が含まれるが、これらに限定されない。代わりに、又はこれらの条件に加えて、かなり深い硬度層深度が必要な用途が含まれる(例えば深さ3mm~9mmの硬度層深度)。これらの条件に代えて又は加えて、同時に加熱する必要のある多量の金属の実質的な相違を提示する用途を含む(これは、
図1(b)に示すように、転動体はそれぞれ内側ベアリングレース101a及び102aに接触する、ベアリング特徴部分又は領域のゾーン101と102など、硬化が必要なベアリング特徴部分の形状の対応する違いに関連している)。これらは、
図18に示されている誘導加熱システムの使用が有益であり得るいくつかの例示的なケースにすぎない。
【0098】
本発明の上記の実施形態では、シングルターンインダクタが利用される。本発明の代替の実施形態では、2つ以上のターン誘導コイルが利用される(例えば、特定の用途に応じて、マルチターンアクティブコイル及びマルチターンパッシブコイルもまた、シングルターンインダクタスタイルの代わりに使用され得る)。
【0099】
本発明の上記の実施形態では、コイル銅丸管がマスターコイル及びパッシブコイルに利用されている。本発明の代替の実施形態では、他のコイル構成が、プロファイルされたコイル銅を含む特定の用途で使用される。
【0100】
特定の幾何学的形状の上記で特定された磁束コンセントレータ、例えば、U字型又はリング形状の磁束補償器は、特定の用途に必要に応じて、代替的な幾何学的形状であり得、又は他の形状の磁束コンセントレータから組み立てられ得る。
【0101】
オーステナイト化のために薄肉ベアリング部品の内面(内側レース)を加熱する場合、熱サイクル全体又は熱サイクルの一部で外面のスプレー焼入れを行うことができる。これは、薄肉ベアリング部品を熱処理する際の硬化又は過度の硬化深さによる防止(必要な場合)に役立つ。同様に、外面(外側レース)を加熱する際の硬化又は過度の硬化防止のために(必要な場合)、内面にスプレー焼入れを適用することができる。
【0102】
誘導加熱処理装置及び方法の代替の実施形態は、熱処理されるベアリングレース表面又はレース領域が内部ベアリングレース以外である用途(例として、限定的ではないが、例えば、
図1(d)及び
図1(e)のベアリングレースに示されている外側ベアリングレース及びボールレースウェイ100’)に適用される。本発明の他の実施形態、例えば、アウターベアリングレースでは、相補的なマスターインダクタコイル及びパッシブインダクタコイルは、加熱位置でアウターベアリングの周囲に外部に配置されるように構成することができる。
【0103】
本発明は、好ましい例及び実施形態に関して説明されてきた。明示的に述べられたものを除いて、同等物、代替物、及び修正が可能であり、本発明の範囲内である。本明細書の教示の利益を有する当業者は、本発明の範囲から逸脱することなく、それに修正を加えることができる。