(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-28
(45)【発行日】2025-02-05
(54)【発明の名称】車両用発音器
(51)【国際特許分類】
H04R 1/00 20060101AFI20250129BHJP
H04R 1/22 20060101ALI20250129BHJP
H04R 1/02 20060101ALI20250129BHJP
【FI】
H04R1/00 311
H04R1/22 310
H04R1/02 104Z
(21)【出願番号】P 2022553972
(86)(22)【出願日】2021-09-27
(86)【国際出願番号】 JP2021035469
(87)【国際公開番号】W WO2022071253
(87)【国際公開日】2022-04-07
【審査請求日】2024-04-25
(31)【優先権主張番号】P 2020163761
(32)【優先日】2020-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000112565
【氏名又は名称】フォスター電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大関 脩也
【審査官】佐久 聖子
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-191382(JP,A)
【文献】実開昭62-32694(JP,U)
【文献】特開平11-155181(JP,A)
【文献】特開2020-096214(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 1/00- 1/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動板を振動させて音を発生させるスピーカと、
前記スピーカを収容して前記振動板に対して後方側に後室を形成すると共に、前記振動板に対して前方側に離間して開口部が貫通形成されたケース部と、
前記開口部に取り付けられて前記ケース部と共に前記振動板に対して前方側に前室を形成すると共に、前記前室の内外の気体の流路をなす複数のポートが形成されたプロテクタと、を有し、
前記複数のポートには、当該ポートの前方からの正面視で前記前室に対して当該ポートの流路と重なる領域を遮蔽する遮蔽部がそれぞれ形成され、前記複数のポートは互いに同一の共振周波数を有する、車両用発音器。
【請求項2】
前記複数のポートの形状は互いに同一又はプロテクタの中心を通る前後方向の仮想線に対して線対称である、請求項1記載の車両用発音器。
【請求項3】
前記ポートは、前記プロテクタにおいて前記振動板と対向配置される平板部と、前記平板部から前記振動板側に突出して前記流路の一部をなす内側リブ部と、前記平板部から前記振動板側と反対側に突出して前記流路の一部をなす外側構成部を含んで構成されている、請求項1又は請求項2に記載の車両用発音器。
【請求項4】
前記外側構成部は、L字状の屈曲壁部を備え、前記遮蔽部が前記屈曲壁部に形成されている、請求項3に記載の車両用発音器。
【請求項5】
前記ポートの両端開口部には、開口端からポート内方側へ向けてR状の面取り部が形成されている、請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の車両用発音器。
【請求項6】
前記ポートは、前記流路の一端と他端との間に少なくとも1つの屈曲部を備え、
前記ポートの流路内面における前記屈曲部のコーナ部の少なくとも1つには、R状の曲面部が形成されている、請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の車両用発音器。
【請求項7】
前記曲面部は、前記コーナ部のうち凹状のコーナ部にのみ形成されている、請求項6記載の車両用発音器。
【請求項8】
すべての前記ポートの両端開口部の向きは、前記振動板の放音方向に合わせられている、請求項1~請求項7のいずれか1項に記載の車両用発音器。
【請求項9】
前記ケース部は、前記プロテクタと共に前記前室を形成する第一ケース部と、前記第一ケース部と接合されて前記第一ケース部の一部と共に前記後室を形成する第二ケース部と、を備え、
前記スピーカを支持するフレーム部と前記第一ケース部とが一体に形成されてケース付きフレームとされている、請求項1~請求項8のいずれか1項に記載の車両用発音器。
【請求項10】
前記ケース付きフレームには、前記第一ケース部にコネクタ部が形成されると共に、前記コネクタ部において一端部が露出されかつ他端部が前記フレーム部から露出されて前記スピーカと接続される端子がインサート成形されている、請求項9記載の車両用発音器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用発音器に関する。
【背景技術】
【0002】
特開平9-327082号公報には、スピーカボックスの前面の開口部にグリル(プロテクタ)が装着された車載用のスピーカ装置が開示されている。簡単に説明すると、スピーカ装置のグリルは、略水平方向に延びるリブと、このリブに一体に形成された遮蔽部と、を備えている。この従来技術では、スピーカの振動板が直接被水することを抑えられるものの、グリルの放音孔の正面視での形状は例えば上下方向中央領域では上下両端側の領域よりも左右に長い構造となっており、複数の放音孔が互いに同一の共振周波数を有する構造にはなっていないので、音響性能を確保する点においては改善の余地がある。
【0003】
これに対して、特許第6337669号公報に開示される先行技術では、音通路の途中に共鳴周波数の異なる複数の共鳴室を設けることで、広い周波数帯域において大きな音圧を得ると共に、音通路を迷路構造にして、スピーカのダイヤフラム(振動板)が直接被水することを防止しようとしている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許第6337669号公報に開示された先行技術では、構造が複雑であり、装置の大型化に繋がる可能性がある。
【0005】
本開示は、上記事実を考慮して、スピーカの振動板が直接被水することを防止又は効果的に抑制しながら小型の構成で音響性能を確保することができる車両用発音器を得る。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の第1態様の車両用発音器は、振動板を振動させて音を発生させるスピーカと、前記スピーカを収容して前記振動板に対して後方側に後室を形成すると共に、前記振動板に対して前方側に離間して開口部が貫通形成されたケース部と、前記開口部に取り付けられて前記ケース部と共に前記振動板に対して前方側に前室を形成すると共に、前記前室の内外の気体の流路をなす複数のポートが形成されたプロテクタと、を有する。前記複数のポートには、当該ポートの前方からの正面視で前記前室内に対して当該ポートの流路と重なる領域を遮蔽する遮蔽部がそれぞれ形成され、前記複数のポートは互いに同一の共振周波数を有する。
【0007】
上記構成によれば、スピーカは振動板を振動させて音を発生させる。振動板に対して後方側には、ケース部によって後室が形成され、振動板に対して前方側には、ケース部及びプロテクタによって前室が形成されている。また、プロテクタには、振動板に対して前方側で前室の内外の気体の流路をなす複数のポートが形成されている。これにより、振動板の振動によって発生した音は、前室を通って更にポートを経て外部に伝わる。
【0008】
ここで、複数のポートには、当該ポートの前方からの正面視で前室に対して当該ポートの流路と重なる領域を遮蔽する遮蔽部がそれぞれ形成されている。このため、ポートの正面側から前室側へ向けて直進する水が前室内にダイレクトに浸入するのを遮蔽部によって防止又は効果的に抑制することができる。また、複数のポートは互いに同一の共振周波数を有する。これにより、ターゲットとする周波数帯域を特定して音響性能を調整することができるので、ターゲットとする周波数帯域の音圧レベルを確実に上昇させることができる。また、前記前室とポートを用いて音響性能を確保する構造であるため、車両用発音器の大型化を抑えることができる。
【0009】
本開示の第2態様の車両用発音器は、第1態様の構成において、前記複数のポートの形状は互いに同一又は前記プロテクタの中心を通る前後方向の仮想線に対して線対称である。
【0010】
上記構成によれば、複数のポートの形状が互いに同一または線対称であるので、設計がし易い。
【0011】
本開示の第3態様の車両用発音器は、第1態様又は第2態様の構成において、前記ポートは、前記プロテクタにおいて前記振動板と対向配置される平板部と、前記平板部から前記振動板側に突出して前記流路の一部をなす内側リブ部と、前記平板部から前記振動板側と反対側に突出して前記流路の一部をなす外側構成部と、を含んで構成されている。
【0012】
上記構成によれば、ポートは内側リブ部及び外側構成部を含んで構成されているので、ポートの外部への突出量が抑えられつつ、ポートの流路長が確保される。これにより、車両用発音器の大型化を一層抑えながら所望の音響性能を得ることができる。
【0013】
本開示の第4態様の車両用発音器は、第3態様の構成において、前記外側構成部は、L字状の屈曲壁部を備え、前記遮蔽部が前記屈曲壁部に形成されている。
【0014】
上記構成によれば、ポートの前方側である外側構成部の屈曲壁部に遮蔽部が形成されるので、ポートの正面側から前室側へ向けて直進する水が前室内にダイレクトに浸入するのをより効果的に抑制することができる。
【0015】
本開示の第5態様の車両用発音器は、第1態様~第4態様のいずれかに記載の構成において、前記ポートの両端開口部には、開口端からポート内方側へ向けてR状の面取り部が形成されている。
【0016】
上記構成によれば、気体がポートを流れる場合に、ポートの両端開口部付近での流速差の発生がR状の面取り部によって抑えられる。これにより、気体の流速差に起因したエアノイズの発生を抑えることができる。
【0017】
本開示の第6態様の車両用発音器は、第1態様~第5態様のいずれかに記載の構成において、前記ポートは、前記流路の一端と他端との間に少なくとも1つの屈曲部を備え、前記ポートの流路内面における前記屈曲部のコーナ部の少なくとも1つには、R状の曲面部が形成されている。
【0018】
上記構成によれば、気体がポートを流れる場合に、ポートの流路内面におけるコーナ部の少なくとも1つでは、R状の曲面部によって流速差の発生が抑えられる。これによっても、気体がポートを流れる場合、流速差に起因したエアノイズの発生を抑えることができる。
【0019】
本開示の第7態様の車両用発音器は、第6態様の構成において、前記曲面部は、前記コーナ部のうち凹状のコーナ部にのみ形成されている。
【0020】
上記構成によれば、ポートの前方側の開口部から凸状のコーナ部付近を通るように斜めに高圧水が入った場合、凸状のコーナ部に曲面部(面取りされた部分)がない分だけ高圧水の浸入を抑えやすい。
【0021】
本開示の第8態様の車両用発音器は、第1態様~第7態様のいずれかの構成において、すべての前記ポートの両端開口部の向きは、前記振動板の放音方向に合わせられている。
【0022】
上記構成によれば、指向性の高い周波数帯域の音圧レベルを上昇させることが可能となる。
【0023】
本開示の第9態様の車両用発音器は、第1態様第8態様のいずれかの構成において、前記ケース部は、前記プロテクタと共に前記前室を形成する第一ケース部と、前記第一ケース部と接合されて前記第一ケース部の一部と共に前記後室を形成する第二ケース部と、を備え、前記スピーカを支持するフレーム部と前記第一ケース部とが一体に形成されてケース付きフレームとされている。
【0024】
上記構成によれば、フレーム部と第一ケース部とが一体に形成されているので、フレーム部と第一ケース部との隙間から水が浸入するといった事態の発生を防ぐことができる。
【0025】
本開示の第10態様の車両用発音器は、第9態様の構成において、前記ケース付きフレームには、前記第一ケース部にコネクタ部が形成されると共に、前記コネクタ部において一端部が露出されかつ他端部が前記フレーム部から露出されて前記スピーカと接続される端子がインサート成形されている。
【0026】
上記構成によれば、端子がケース付きフレームにインサート成形されており、第一ケース部に形成されたコネクタ部において端子の一端部が露出されると共に端子の他端部がフレーム部から露出されてスピーカと接続される。これにより、配線用の孔が不要となるので、配線用の孔から水が浸入するといった事態の発生を防ぐことができる。
【発明の効果】
【0027】
以上説明したように、本開示の車両用発音器によれば、上記事実を考慮して、スピーカの振動板が直接被水することを防止又は効果的に抑制しながら小型の構成で音響性能を確保することができるという優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本開示の一実施形態に係る車両用発音器を示す斜視図である。
【
図2】
図1の2-2線に沿って切断した状態を示す斜視図である。
【
図3】
図1の車両用発音器のプロテクタの正面図である。
【
図4】
図2の車両用発音器のプロテクタの一部を拡大して示す断面図である。
【
図5】
図1の車両用発音器のケース付きフレームを示す斜視図である。
【
図6】
図1の車両用発音器及び対比例についての周波数-音圧レベル特性の曲線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本開示の一実施形態に係る車両用発音器について
図1~
図6を用いて説明する。なお、これらの図において適宜示される矢印FRはスピーカ20(
図2参照)が向く方向である前方向を示している。以下、単に前後の方向を用いて説明する場合は、特に断りのない限り、スピーカ20を基準にして見た場合の前後方向の前後を示すものとする。
【0030】
(実施形態の構成)
図1には、本開示の一実施形態に係る車両用発音器10が斜視図で示されている。また、
図2には、
図1の2-2線に沿って切断した状態の斜視図が示されている。最初に、車両用発音器10の概略構成について説明する。なお、車両用発音器10は、電動車両(例えば、電気自動車、ハイブリッド自動車等)における前後に取り付けられ、当該電動車両の低速走行時に、歩行者等に対して当該電動車両の接近を知らせる音を自動的に発生させる。
【0031】
図2に示されるように、車両用発音器10は、振動板22を振動させて音を発生させるスピーカ20を有すると共に、スピーカ20を収容するケース部30を有する。ケース部30は、振動板22に対して後方側に後室14を形成している。また、ケース部30には、振動板22に対して前方側に離間して開口部32Aが貫通形成されている。ケース部30の開口部32Aには、プロテクタ40が取り付けられている。プロテクタ40は、ケース部30の開口部32Aを覆うように配置され、ケース部30と共に振動板22に対して前方側に前室12を形成している。プロテクタ40には、振動板22と対向配置される平板部42が形成されると共に、前室12の内外の気体の流路Aをなす複数のポート50が形成されている。なお、ポート50は、放音孔として把握することができる要素である。
【0032】
次に、車両用発音器10の各構成部について具体的に説明する。
【0033】
スピーカ20の振動板22は、正面視で環状に形成され、前面側が凹状に湾曲されている。振動板22の材料には、例えば、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリイミド(PI)、ポリカーボネイト(PC)等の樹脂材料を適用できる他、例えば、アルミニウム合金等の金属材料、パルプ繊維等の抄紙材料を適用することもできる。振動板22の口径(外径)は、一例として、80mmとされる。振動板22の前面中央部側には、正面視で円形状のセンターキャップ21の外周部が全周に亘って接合されている。振動板22の外周部には、ゴム等の弾性材料で形成されたエッジ23が全周に亘って接合されている。エッジ23は、正面視で環状に形成され、全周に亘ってフレーム部24の棚状部24Aに接合されている。
【0034】
フレーム部24は、スピーカ20を支持する構成部とされる。このフレーム部24は、振動板22の後方側に配置される環状の底壁部24Bを備えると共に、底壁部24Bの外周部と棚状部24Aの内周部とを繋ぐ繋ぎ部24Cを備えている。また、繋ぎ部24Cは、底壁部24Bの外周部に段差部を介して接続される中間棚部24C1を有すると共に、中間棚部24C1の外周部と棚状部24Aの内周部とを繋ぐ連結壁部24C2を備えている。連結壁部24C2は、フレーム部24の周方向に間隔をあけて並ぶように設けられている(
図5参照)。
【0035】
フレーム部24の底壁部24Bの中央部には開口部が貫通形成され、その開口部内にボイスコイル25の電線コイル25B(図中では簡略化して図示)が配置されている。ボイスコイル25は、フィルムを円筒状にしたボビン25Aと、ボビン25Aの外周部に電線を巻いて形成された電線コイル25Bと、を備えている。ボビン25Aは、フレーム部24の底壁部24Bの開口部内を貫通するように延在され、その一端部はセンターキャップ21の近傍に配置されて振動板22の内周部と接続されている。
【0036】
フレーム部24の内側には、ボビン25Aの筒軸方向中間部の外周側にダンパ26が配置されている。ダンパ26は、正面視で環状に形成されると共に波紋状の波板部が形成された可撓性の薄板部材である。ダンパ26の内周部は、ボビン25Aの外周部に接合されている。ダンパ26の外周部は、フレーム部24の中間棚部24C1に接合されている。すなわち、ボイスコイル25は、振動板22及びエッジ23を介してフレーム部24に接続されると共に、ダンパ26を介してフレーム部24に接続されており、ボビン25Aの筒軸方向に沿って振動可能な状態で支持されている。
【0037】
ボビン25Aの内側には、センターキャップ21側とは反対側からヨーク27のポール部27Aが挿入されている。ヨーク27は、強磁性体で形成されている。また、ヨーク27は、ポール部27Aにおいてセンターキャップ21側とは反対側の端部から張り出したプレート部27Bを備えている。
【0038】
プレート部27Bとフレーム部24の底壁部24Bとの間には、マグネット28及び金属製のプレート29が配置されている。マグネット28は、環状に形成され、ヨーク27のポール部27Aの外周側に間隔を置いて隣接配置されると共にプレート部27B上に配置されている。プレート29は、強磁性体で環状に形成され、ボビン25Aの外周側に間隔を置いて隣接配置されると共にフレーム部24の底壁部24Bとマグネット28との間に配置されている。
【0039】
一方、スピーカ20を収容するケース部30は、プロテクタ40と共に前室12を形成する第一ケース部32を備えると共に、第一ケース部32と接合されて第一ケース部32の一部と共に後室14を形成する第二ケース部34を備えている。なお、第一ケース部32は、アッパーケース部と称される場合があり、第二ケース部34は、ロアケース部と称される場合がある。
【0040】
第二ケース部34は、底壁部34Aと、底壁部34Aの外周端部から立設された周壁部34Bと、を含んで構成されている。周壁部34Bにおける開放端側には鍔状に張り出した張出部34Cが形成されている。張出部34Cには通気孔34Hが貫通形成されている。通気孔34Hは、気圧コントロール用の素材(例えばゴアテックス(登録商標))によって塞がれる。気圧コントロール用の素材は、防水性及び通気性を有し、後室14の体積膨張を抑える。なお、後室14の体積膨張が抑えられることで、振動板22の破損が防止される。
【0041】
第二ケース部34の張出部34Cにおける張り出し方向の端部には、第一ケース部32の後側の端部32B(前述した開口部32Aとは反対側の端部)が差し込まれる溝状の被差込部34Dが全周に亘って形成されている。また、被差込部34Dの外側壁部の一部には係合突起34E(
図2の図中右側参照)が形成され、第一ケース部32の後側の部位には、係合突起34Eに係合する係合部32Cが形成されている。
【0042】
また、本実施形態では、前述したフレーム部24と第一ケース部32とが一体に形成されてケース付きフレーム38とされている。
図5には、ケース付きフレーム38の斜視図が示されている。
図5に示されるように、ケース付きフレーム38には、第一ケース部32の外周部にコネクタ部32Dが形成されると共に、フレーム部24の棚状部24Aの後面と連続する端子配設用壁部24Dが形成されている。そして、ケース付きフレーム38には、端子T1、T2がインサート成形されている。端子T1、T2の一端部T1A、T2Aはコネクタ部32Dにおいて露出される。端子T1、T2の他端部T1B、T2Bはフレーム部24の端子配設用壁部24Dから露出されてスピーカ20(
図2参照)と接続される。すなわち、端子T1、T2の他端部T1B、T2Bは、
図2に示されるスピーカ20のボイスコイル25の電線コイル25Bから延出された図示しない電線の一部と接続される。
【0043】
次に、プロテクタ40について説明する。
図3には、プロテクタ40の正面図が示され、
図4には、
図2に示されるプロテクタ40の一部が拡大断面図で示されている。
【0044】
図3に示されるように、プロテクタ40は、正面視で略円形状に形成されており、多数のリブが形成されている。プロテクタ40には一例として計10個のポート50が形成されている。これら10個のポート50の形状は互いに同一、又は
図4に示されるようにプロテクタ40の中心を通る前後方向の仮想線PLに対して対称であり、これら10個のポート50は互いに同一の共振周波数を有する。ポート50は、小石等の異物の侵入を防ぐ観点から細長い長孔状とされている。ポート50の具体的なサイズ(開口面積及び流路長)は、音圧レベルを上昇させたい周波数帯域(言い換えれば、ターゲットとする周波数帯域)に応じて、適宜設定される。なお、本実施形態では、一例として、ターゲットとする周波数帯域を300Hz~1kHzとしている。
【0045】
プロテクタ40の正面視で、各ポート50は、互いに同じ方向を長手方向として配置されている。以下の説明では、便宜上、ポート50の長手方向を第1の方向(図中では矢印X方向)とし、プロテクタ40の正面視でポート50の長手方向に直交する方向を第2の方向(図中ではY方向)として説明する。
【0046】
複数のポート50は、プロテクタ40における第1の方向(矢印X方向)の中央位置を示す第1の仮想中央線CL1に対して、対称となるように形成されている。また、複数のポート50は、プロテクタ40における第2の方向(矢印Y方向)の中央位置を示す第2の仮想中央線CL2に対して、対称となるように形成されている。プロテクタ40における第2の方向(矢印Y方向)の中間部には、第1の方向(矢印X方向)に直列的に二個のポート50が並ぶと共に、第2の方向(矢印Y方向)に並列的に四個のポート50が並んでいる。また、プロテクタ40における第2の方向(矢印Y方向)の両端部側の部位には、それぞれ一個のポート50が第1の方向(矢印X方向)の中央部に形成されている。
【0047】
すべてのポート50の
図4に示される両端開口部50A、50Bの向きは、振動板22(
図2参照)の放音方向(矢印FR方向と同じ方向)に合わせられている。
図4の部分拡大図に示されるように、ポート50の両端開口部50A、50Bには、開口端からポート内方側へ向けてR状の面取り部R1、R2が形成されている。
【0048】
ポート50は、プロテクタ40の平板部42を貫通して形成されており、平板部42に対して前室12側に形成される内側リブ部52と、平板部42を貫通する貫通部54と、平板部42に対して外部側に形成される外側構成部56と、を含んで構成されている。内側リブ部52、貫通部54、及び外側構成部56は、それぞれ流路Aの一部をなす。また、ポート50には、流路Aの一端と他端との間に少なくとも1つの屈曲部が形成されている。
【0049】
内側リブ部52は、平板部42からその面方向に直交する方向で振動板22(
図2参照)側に突出する矩形角筒状に形成されている。貫通部54は、内側リブ部52側の流路を延長するように形成されている。外側構成部56は、その流路がL字状となるように形成されている。具体的に説明すると、
図4の部分拡大図に示されるように、外側構成部56は、平板部42において内側リブ部52の一方の側壁部52Aと正面視で重なる部位から直立されてから貫通部54を覆うように逆L字状に曲げられた屈曲壁部56Aと、平板部42において内側リブ部52の他方の側壁部52Bに対して正面視で貫通部54側とは反対側の部位から直立された直立リブ部56Bと、を含んで構成されている。このように、屈曲壁部56AによりL字状の屈曲部を形成すると共に、この屈曲壁部56Aに対向して平板部42の一部58Bと直立リブ部56Bとで反転したL字状の屈曲部を形成している。
【0050】
図2及び
図3に示されるように、上記構成を備えた複数のポート50には、当該ポート50の正面視で前室12に対して当該ポート50の流路Aと重なる領域に形成され、ポート50を一部遮蔽する遮蔽部58A、58Bがそれぞれ形成されている。
図4に示されるように、本実施形態では、遮蔽部58A、58Bの第2の方向(矢印Y方向)の長さと、ポート50の両端開口部50A、50Bの各々の第2の方向(矢印Y方向)の長さとは、同等の長さに設定されている。また、平板部42からの直立リブ部56Bの突出量と、平板部42からの屈曲壁部56Aの突出量とは、同等の突出量に設定されている。
【0051】
また、
図4の部分拡大図に示されるように、ポート50の流路内面におけるコーナ部C1、C2、C3、C4(以下、「コーナ部C1~C4」と略す)のうち凹状のコーナ部C2、C4にのみR状の曲面部R3、R4が形成されている。なお、ポート50の流路内面におけるコーナ部C1~C4のうち凸状のコーナ部C1、C3は、直角の角部となっている。
【0052】
以上説明した本実施形態のポート50は、迷路構造として把握できる構造を備えるが、上下の金型で容易に成形できる形状に設定されている。
【0053】
(実施形態の作用・効果)
次に、上記実施形態の作用及び効果について説明する。
【0054】
図2に示されるスピーカ20は、電気信号が電線コイル25Bに印加されると、電磁誘導によってボビン25Aが振動板22を振動させて音を発生させる。振動板22に対して後方側には、ケース部30によって後室14が形成され、振動板22に対して前方側には、ケース部30及びプロテクタ40によって前室12が形成されている。また、プロテクタ40には、振動板22に対して前方側で前室12の内外の気体の流路Aをなす複数のポート50が形成されている。これにより、振動板22の振動によって発生した音は、前室12を通って更にポート50を経て外部に伝わる。
【0055】
ここで、
図2及び
図3に示されるように、複数のポート50には、当該ポート50の正面視で前室12に対して当該ポート50の流路Aと重なる領域を遮蔽する遮蔽部58A、58Bがそれぞれ形成されている。このため、ポート50の正面側から前室12側へ向けて直進する水が前室12内にダイレクトに浸入するのを遮蔽部58A、58Bによって防止又は効果的に抑制することができる。また、
図2に示されるように、ポート50は、遮蔽部58A、58Bを備えることでクランク状に曲げられた流路Aを形成しているので、仮に高圧水がポート50内に入ったとしても、その水は、ポート50内をジグザグ状に進み、その結果として水圧が減衰される。よって、高圧水がポート50内に入っても振動板22へのダメージを大幅に軽減することができる。
【0056】
また、複数のポート50は互いに同一の共振周波数を有している。これにより、ターゲットとする周波数帯域を特定して音響性能を調整することができるので、ターゲットとする周波数帯域の音圧レベルを確実に上昇させることができる。また、複数のポート50の形状が互いに同一であるので設計がし易い。さらに、前室12とポート50を用いて音響性能を確保する構造(ケルトン型のエンクロージャーの構造)であるため、車両用発音器10の大型化を抑えることができる。
【0057】
ここで、本実施形態の車両用発音器10の周波数-音圧レベル特性について
図6を用いて説明する。
図6には、本実施形態の車両用発音器10及び対比例についての周波数-音圧レベル特性の概略の曲線が示されている。対比例は、プロテクタ(40)を有さず前室(12)がない車両用発音器とされる。
図6において、実線の線図は本実施形態の車両用発音器10による結果を示し、二点鎖線の線図は対比例による結果を示す。
【0058】
図6に示されるように、対比例の場合には、所定の周波数帯域(300Hz~1kHz)の音圧レベルが十分には高められていない。これに対して、本実施形態の車両用発音器10の場合においては、2つのピークを有し、所定の周波数帯域(300Hz~1kHz)の音圧レベルが所望の音圧レベルRL付近まで上げられており、バンドパス周波数特性を示している。
【0059】
また、上記実施形態では、
図4に示されるように、ポート50は、プロテクタ40の平板部42から振動板22(
図2参照)側に突出して流路Aの一部をなす内側リブ部52を含んで構成されている。このため、ポート50の外部への突出量が抑えられつつ、ポート50の流路長が確保される。これにより、車両用発音器10の大型化を一層抑えながら所望の音響性能を得ることができる。
【0060】
また、上記実施形態では、ポート50の両端開口部50A、50Bには、開口端からポート50内方側へ向けてR状の面取り部R1、R2が形成され、ポート50の流路内面における所定のコーナ部C2、C4には、R状の曲面部R3、R4が形成されている。このため、気体がポート50を流れる場合に、ポート50の両端開口部50A、50B付近での流速差の発生がR状の面取り部R1、R2によって抑えられると共に、ポート50の流路内面における所定のコーナ部C2、C4では、R状の曲面部R3、R4によって流速差の発生が抑えられる。これにより、気体がポート50を流れる場合、流速差に起因したエアノイズの発生を抑えることができる。
【0061】
さらに、上述した曲面部R3、R4は、コーナ部C1~C4のうち凹状のコーナ部C2、C4にのみ形成されている。このため、ポート50の前方側の開口部50Bから凸状のコーナ部C1、C3付近を通るように斜めに高圧水が入った場合、凸状のコーナ部C1、C3に曲面部(面取りされた部分)がない分だけ高圧水の浸入を抑えやすい。
【0062】
また、上記実施形態では、すべてのポート50の両端開口部50A、50Bの向きは、振動板22(
図2参照)の放音方向(矢印FR方向と同じ方向)に合わせられている。このため、指向性の高い周波数帯域の音圧レベルを上昇させることが可能となる。
【0063】
以上説明したように、本実施形態の車両用発音器10によれば、スピーカ20の振動板22が直接被水することを防止又は効果的に抑制しながら小型の構成で音響性能を確保することができる。
【0064】
また、上記実施形態では、
図2に示されるように、フレーム部24と第一ケース部32とが一体に形成されているので、フレーム部24と第一ケース部32との隙間から水が浸入するといった事態の発生を防ぐことができる。
【0065】
さらに、上記実施形態では、
図5に示される端子T1、T2がケース付きフレーム38にインサート成形されており、第一ケース部32に形成されたコネクタ部32Dにおいて端子T1、T2の一端部T1A、T2Aが露出されると共に端子T1、T2の他端部T1B、T2Bがフレーム部24から露出されてスピーカ20(
図2参照)と接続される。これにより、配線用の孔が不要となるので、配線用の孔から水が浸入するといった事態の発生を防ぐことができる。また、配線作業をなくすことができる。
【0066】
(実施形態の補足説明)
なお、上記実施形態では、ターゲットとする周波数帯域を300Hz~1kHzとしているが、ターゲットとする周波数帯域は、国際基準(UN-R138)で定められた範囲(160Hz~5kHz)内で適宜設定し得る。ターゲットとする周波数帯域を300Hz~1kHzから変える場合には、例えば
図2等に示されるポート50等のサイズを変える。
【0067】
補足説明すると、ターゲットとする周波数帯域の上限周波数を上げる場合(例えば、300Hz~1100Hzにする場合)は、ポート50の開口面積を大きくするかポート50の流路Aの流路長を短くする。また、ターゲットとする周波数帯域の上限周波数を下げる場合(例えば、300Hz~900Hzにする場合)は、ポート50の開口面積を小さくするかポート50の流路Aの流路長を長くする。一方、ターゲットとする周波数帯域の下限周波数を下げる場合(例えば、200Hz~1kHzにする場合)は、
図2に示される後室14の容積を大きくする。また、ターゲットとする周波数帯域の下限周波数を上げる場合(例えば、400Hz~1kHzにする場合)は、後室14の容積を小さくする。
【0068】
また、上記実施形態では、ポート50の数が10個とされているが、ポートの数も適宜設定し得る。なお、ポートの数を増やした場合、増やした分だけ一個のポートを流れる空気の量が減るので、エアノイズを小さくすることができる。
【0069】
また、上記実施形態では、複数のポート50の形状が互いに実質同一となっているが、上記実施形態の変形例として、複数のポート(50)の形状が互いに同一とは言えないが、複数のポート(50)は互いに同一の共振周波数を有している、という構成でもよい。
【0070】
また、上記実施形態では、
図4等に示されるポート50は内側リブ部52を含んで構成されているが、上記実施形態の変形例として、ポートが内側リブ部(52)を有しない構成も採り得る。
【0071】
また、上記実施形態では、ポート50は外側構成部56に直立リブ部56Bを有するが、上記実施形態の変形例として、ポートが直立リブ部(56B)を有しない構成も採り得る。また、上記実施形態では、平板部42からの直立リブ部56Bの突出量が平板部42からの屈曲壁部56Aの突出量と一致しているが、上記実施形態の変形例として、平板部(42)からの直立リブ部(56B)の突出量が平板部(42)からの屈曲壁部(56A)の突出量と一致しないような構成も採り得る。
【0072】
また、上記実施形態では、ポート50の両端開口部50A、50BにR状の面取り部R1、R2が形成されているが、上記実施形態の変形例として、ポート(50)の両端開口部(50A、50B)のうちの一方又は両方にR状の面取り部(R1、R2)が形成されていない構成も採り得る。
【0073】
また、上記実施形態の変形例として、ポート(50)の流路内面におけるコーナ部(C1~C4)のうちいずれか1つのコーナ部にのみR状の曲面部が形成されている、という構成も採り得る。また、他の変形例として、ポート(50)の流路内面におけるコーナ部(C1~C4)のすべてにR状の曲面部が形成されている、という構成も採り得る。さらに、他の変形例として、ポート(50)の流路内面におけるコーナ部(C1~C4)のいずれにもR状の曲面部が形成されていない、という構成も採り得る。
【0074】
また、上記実施形態では、すべてのポート50の両端開口部50A、50Bの向きが振動板22(
図2参照)の放音方向に合わせられているが、例えば、一部のポート(50)の両端開口部(50A、50B)の向きが振動板(22)の放音方向に合わせられていないような構成も採り得る。
【0075】
また、上記実施形態では、
図5等に示されるように、フレーム部24と第一ケース部32とが一体に形成されているが、フレーム部(24)と第一ケース部(32)とが別体で形成されたうえで互いに接合されている、という構成も採り得る。
【0076】
また、上記実施形態では、ケース付きフレーム38に端子T1、T2がインサート成形されているが、ケース付きフレーム(38)に配線用の孔を貫通形成して端子を配置する、という構成も採り得る。
【0077】
なお、上記実施形態及び上述の複数の変形例は、適宜組み合わされて実施可能である。
【0078】
以上、本発明の一例について説明したが、本発明は、上記に限定されるものでなく、上記以外にも、その主旨を逸脱しない範囲内において種々変形して実施可能であることは勿論である。