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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-28
(45)【発行日】2025-02-05
(54)【発明の名称】フェライト系ステンレス鋼
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20250129BHJP
   C22C 38/26 20060101ALI20250129BHJP
   C22C 38/28 20060101ALI20250129BHJP
【FI】
C22C38/00 302Z
C22C38/26
C22C38/28
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2024546024
(86)(22)【出願日】2024-03-27
(86)【国際出願番号】 JP2024012410
【審査請求日】2024-08-01
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000139023
【氏名又は名称】株式会社リケン
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100213997
【弁理士】
【氏名又は名称】金澤 佑太
(72)【発明者】
【氏名】稲積 透
(72)【発明者】
【氏名】倉富 俊行
【審査官】山本 佳
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-228008(JP,A)
【文献】特開2004-270026(JP,A)
【文献】特開2006-063380(JP,A)
【文献】特開平08-155304(JP,A)
【文献】特開昭63-266044(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第113337783(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00 - 38/60
B01J 21/00 - 38/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
Cr:14%以上27%以下、
Al:7%以上13.5%以下、
S:0.0015%以下、
C:0.05%以下、
N:0.2%以下、
O:0.15%以下、及び
Nb:0.1%以上1.0%以下
を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、
Al及びCrの含有割合が、下記式(1)、(2)、及び(5):
2Al+Cr≦41 ・・・(1)
Al+Cr≧23 ・・・(2)
Cr/Al≦3.2 ・・・(5)
の関係を満たす成分組成を有する、フェライト系ステンレス鋼。
【請求項2】
質量%で、
Cr:14%以上27%以下、
Al:7%以上13.5%以下、
S:0.0015%以下、
C:0.05%以下、
N:0.2%以下、
O:0.15%以下、及び
Nb:0.1%以上1.0%以下
を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、
Al及びCrの含有割合が、下記式(1)及び(2):
2Al+Cr≦41 ・・・(1)
Al+Cr≧23 ・・・(2)
の関係を満たす成分組成を有し、
前記成分組成が、更に、Zr及びHfの少なくとも一方を含有し、
Zr及びHfの含有割合が、下記式(3):
0.01≦Zr+Hf≦1.0 ・・・(3)
の関係を満たし、
ワイヤ形状又はストリップ形状である、フェライト系ステンレス鋼。
【請求項3】
前記成分組成が、更に、質量%で、
Ti:0.05%以上1.0%以下
を含有し、
Al+Cr≧26である、請求項1に記載のフェライト系ステンレス鋼。
【請求項4】
前記成分組成が、更に、質量%で、
Ti:0.05%以上1.0%以下
を含有し、
Al+Cr≧26である、請求項2に記載のフェライト系ステンレス鋼。
【請求項5】
質量%で、
Cr:14%以上27%以下、
Al:7%以上13.5%以下、
S:0.0015%以下、
C:0.05%以下、
N:0.2%以下、
O:0.15%以下、及び
Nb:0.1%以上1.0%以下
を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、
Al及びCrの含有割合が、下記式(1)及び(2):
2Al+Cr≦41 ・・・(1)
Al+Cr≧23 ・・・(2)
の関係を満たす成分組成を有し、
前記成分組成が、更に、質量%で、
REM:0.01%以下
を含有し、
Al、Cr、S、及びREMの含有割合が、下記式(4):
-1.0≦(S-REM/5)×(2Al+Cr)≦1.3 ・・・(4)
の関係を満たす、フェライト系ステンレス鋼。
【請求項6】
前記成分組成が、更に、Zr及びHfの少なくとも一方を含有し、
Zr及びHfの含有割合が、下記式(3):
0.01≦Zr+Hf≦1.0 ・・・(3)
の関係を満たす、請求項5に記載のフェライト系ステンレス鋼。
【請求項7】
Al及びCrの含有割合が、下記式(5):
Cr/Al≦3.2 ・・・(5)
の関係を満たす、請求項2に記載のフェライト系ステンレス鋼。
【請求項8】
室温下での引張試験における絞り値が、40%以上である、請求項1~7の何れかに記載のフェライト系ステンレス鋼。
【請求項9】
前記成分組成が、更に、質量%で、
REM:0.01%以下
を含有し、
Al、Cr、S、及びREMの含有割合が、下記式(4):
-1.0≦(S-REM/5)×(2Al+Cr)≦1.3 ・・・(4)
の関係を満たす、請求項3に記載のフェライト系ステンレス鋼。
【請求項10】
質量%で、
Cr:14%以上27%以下、
Al:7%以上13.5%以下、
S:0.0015%以下、
C:0.05%以下、
N:0.2%以下、
O:0.15%以下、及び
Nb:0.1%以上1.0%以下
Ti:0.05%以上1.0%以下
を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、
Al及びCrの含有割合が、下記式(1)及び(2):
2Al+Cr≦41 ・・・(1)
Al+Cr≧26 ・・・(2)
の関係を満たす成分組成を有し、
前記成分組成が、更に、Zr及びHfの少なくとも一方を含有し、
Zr及びHfの含有割合が、下記式(3):
0.01≦Zr+Hf≦1.0 ・・・(3)
の関係を満たし、
前記成分組成が、更に、質量%で、
REM:0.01%以下
を含有し、
Al、Cr、S、及びREMの含有割合が、下記式(4):
-1.0≦(S-REM/5)×(2Al+Cr) ≦1.3 ・・・(4)
の関係を満たし、
ワイヤ形状、ストリップ形状、チューブ形状又は板形状である、フェライト系ステンレス鋼。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェライト系ステンレス鋼に関する。
【背景技術】
【0002】
フェライト系ステンレス鋼は、主要な化学成分がFe及びCrであるCr系ステンレス鋼の一種である。近年では、比較的高温域での使用を可能とし、且つ、加工性を向上する観点から、Cr系ステンレス鋼にAlが添加されたFe-Cr-Al系の合金が提案されており、Fe-Cr-Al系の合金は様々な分野で使用されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、燃焼部材に使用される合金として、所定量のCr及びAlを含有し、残部がFeからなる耐腐食性の合金が開示されている。
また、例えば、特許文献2には、ヒーター材、高温用部材として好適な材料に用いられる合金として、所定量のCr、Al、酸素、窒素を含有し、残部が不可避的不純物及びFeからなるFe-Cr-Al系粉末合金が開示されている。
更に、例えば、特許文献3には、自動車等の内燃機関の排ガス浄化用触媒担体に用いられる合金として、所定量のCr、Al、Y、Zr、及びHf、並びに不可避的不純物としてのC、N、S、Si、Mn、Ti、Nb、Ta、V、Ce、及びYを除く希土類元素を含有し、残部がFeからなり、且つ、Zr、Hf、Ti、Nb、Ta、V、Al及びYの含有量が所定の関係を満足するFe-Cr-Al系合金が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開昭48-3927号公報
【文献】特開平5-98401号公報
【文献】特開2002-105606号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のFe-Cr-Al系の合金等のフェライト系ステンレス鋼については、高温下における耐酸化性、及び所定の形状への加工性に関して更なる改善の余地があった。
【0006】
そこで、本発明は、耐酸化性及び加工性に優れる、フェライト系ステンレス鋼を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の要旨構成は以下の通りである。
【0008】
[1]質量%で、
Cr:14%以上27%以下、
Al:7%以上13.5%以下、
S:0.0015%以下、
C:0.05%以下、
N:0.2%以下、
O:0.15%以下、及び
Nb:0.1%以上1.0%以下
を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、
Al及びCrの含有割合が、下記式(1)及び(2):
2Al+Cr≦41 ・・・(1)
Al+Cr≧23 ・・・(2)
の関係を満たす成分組成を有する、フェライト系ステンレス鋼。
【0009】
[2]前記成分組成が、更に、Zr及びHfの少なくとも一方を含有し、
Zr及びHfの含有割合が、下記式(3):
0.01≦Zr+Hf≦1.0 ・・・(3)
の関係を満たす、[1]に記載のフェライト系ステンレス鋼。
【0010】
[3]前記成分組成が、更に、質量%で、
Ti:0.05%以上1.0%以下
を含有する、[1]又は[2]に記載のフェライト系ステンレス鋼。
【0011】
[4]前記成分組成が、更に、質量%で、
REM:0.01%以下
を含有し、
Al、Cr、S、及びREMの含有割合が、下記式(4):
-1.0≦(S-REM/5)×(2Al+Cr)≦1.3 ・・・(4)
の関係を満たす、[1]~[3]の何れかに記載のフェライト系ステンレス鋼。
【0012】
[5]Al及びCrの含有割合が、下記式(5):
Cr/Al≦3.2 ・・・(5)
の関係を満たす、[1]~[4]の何れかに記載のフェライト系ステンレス鋼。
【0013】
[6]室温下での引張試験における絞り値が、40%以上である、[1]~[5]の何れかに記載のフェライト系ステンレス鋼。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、耐酸化性及び加工性に優れる、フェライト系ステンレス鋼を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を具体的に説明する。
【0016】
(成分組成)
まず、本発明のフェライト系ステンレス鋼の成分組成について説明する。なお、成分組成における元素の含有割合の単位は何れも「質量%」であり、以下、特に断らない限り、単に「%」で示す。
【0017】
Cr:14%以上27%以下
Crは、耐酸化性の確保に有効な元素である。Crの含有割合が14%未満では、高温下において十分な耐酸化性が得られない。一方、Crの含有割合が27%超では、加工性が著しく低下する。そのため、Crの含有割合は14%以上27%以下とする。Crの含有割合は、16%以上であることが好ましく、18%以上であることがより好ましい。また、Crの含有割合は、27%以下であることが好ましく、25%以下であることがより好ましい。
【0018】
Al:7%以上13.5%以下
Alは、耐酸化性の確保に有効な元素である。Alの含有割合が7%未満では、高温下において十分な耐酸化性が得られない。一方、Alの含有割合が13.5%超では、加工性が著しく低下する。そのため、Alの含有割合は7%以上13.5%以下とする。Alの含有割合は、8%以上であることが好ましい。また、Alの含有割合は、13%以下であることが好ましく、11%以下であることがより好ましく、10%以下であることが更に好ましい。
【0019】
2Al+Cr≦41 ・・・(1)
本発明のフェライト系ステンレス鋼は、上記式(1)の関係を満たす。
2Al+Cr(Alの含有割合の2倍値とCrの含有割合の和)が41以下であれば、フェライト系ステンレス鋼が優れた加工性を発揮可能となる。2Al+Crは、40以下であることが好ましい。
なお、式(1)中のAl及びCrは、各元素の含有割合(質量%)を示す。
【0020】
Al+Cr≧23 ・・・(2)
本発明のフェライト系ステンレス鋼は、上記式(2)の関係を満たす。Al+Cr(Alの含有割合とCrの含有割合の和)が23以上であれば、フェライト系ステンレス鋼が優れた耐酸化性を発揮可能となる。Al+Crは、26以上であることが好ましく、27以上であることがより好ましく、30以上であることが更に好ましい。
なお、式(2)中のAl及びCrは、各元素の含有割合(質量%)を示す。
【0021】
Cr/Al≦3.2 ・・・(5)
本発明のフェライト系ステンレス鋼は、上記式(5)の関係を満たすことが好ましい。Cr/Al(Alの含有割合に対するCrの含有割合の比)が3.2以下であれば、フェライト系ステンレス鋼の加工性を向上できる。Cr/Alは、3.0以下であることがより好ましい。
なお、式(5)中のAl及びCrは、各元素の含有割合(質量%)を示す。
【0022】
S:0.0015%以下
Sは、鋼に不可避的に含まれる元素である。Sの含有割合が0.0015%超では、高温下において異常酸化を引き起こし、耐酸化性が著しく低下する。そのため、Sの含有割合は0.0015%以下とする。Sの含有割合は、0.001%以下であることが好ましい。なお、Sの含有割合の下限は特に限定されないが、例えば、0.0001%以上でもよく、0.0005%以上でもよい。
【0023】
C:0.05%以下
Cの含有割合が0.05%超では、加工性の低下が顕著となることに加え、粒界にCr炭化物が析出して、高温下における耐酸化性が低下する。そのため、Cの含有割合は0.05%以下とする。Cの含有割合は、0.04%以下であることが好ましい。
一方、Cの含有割合は、加工性及び強度の観点から、0.01%以上であること好ましく、0.02%以上であることがより好ましく、0.03%以上であることが更に好ましい。
【0024】
N:0.2%以下
Nの含有割合が0.2%超では、加工性が著しく低下する。そのため、Nの含有割合は0.2%以下とする。なお、Nの含有割合の下限は特に限定されないが、例えば、0.0005%以上でもよく、0.001%以上でもよい。
【0025】
O:0.15%以下
Oが存在すると、Al等の酸化物を形成し、靭性が低下する。そのため、Oの含有割合は0.1%以下とする。Oの含有割合は、0.1%以下であることが好ましく、0.08%以下であることがより好ましい。なお、Oの含有割合の下限は特に限定されないが、例えば、0.001%以上でもよく、0.01%以上でもよい。
【0026】
Nb:0.1%以上1.0%以下
Nbの含有割合が0.1%未満であると、加工性が著しく低下する。一方、Nbの含有割合が1.0%超であると、素材が硬化して加工性が悪化する。そのため、Nbの含有割合は0.1%以上1.0%以下とする。Nbの含有割合は、0.15%以上であることが好ましい。また、Nbの含有割合は、0.75%以下であることが好ましく、0.5%以下であることがより好ましい。
【0027】
以上、本発明のフェライト系ステンレス鋼における基本成分(必須成分)について説明した。本発明における成分組成のうち、上記以外の成分(残部)はFeおよび不可避的不純物である。
【0028】
本発明のフェライト系ステンレス鋼は、更に、Zr、Hf、Ti、REMを、任意に以下の割合で含有することができる。なお、本発明のフェライト系ステンレス鋼は、これらの成分を1種含有しても、2種以上含有してもよい。
【0029】
Zr:0.01%以上1.0%以下
Zrは、耐酸化性を高める上で有効になり得る元素であり、また、フェライト系ステンレス鋼の表面に形成され得る酸化膜等の不働態膜の剥離耐性が向上するため、必要に応じて添加され得る。Zrの含有割合は、0.01%以上であることが好ましい。
一方、Zrが増えすぎると、耐酸化性が低下し得る。そのため、Zrの含有割合は、1.0%以下であることが好ましく、0.8%以下であることがより好ましく、0.6%以下であることが更に好ましい。
【0030】
Hf:0.01%以上1.0%以下
Hfは、耐酸化性を高める上で有効になり得る元素であり、また、フェライト系ステンレス鋼の表面に形成され得る酸化膜等の不働態膜の剥離耐性が向上するため、必要に応じて添加され得る。Hfの含有割合は、0.01%以上であることが好ましい。
一方、Hfが増えすぎると、耐酸化性が低下し得る。そのため、Hfの含有割合は、1.0%以下であることが好ましく、0.8%以下であることがより好ましく、0.6%以下であることが更に好ましい。
【0031】
0.01≦Zr+Hf≦1.0 ・・・(3)
本発明のフェライト系ステンレス鋼は、上記式(3)を満たすことが好ましい。Zr+Hf(Zrの含有割合とHfの含有割合の和)が0.01以上1.0以下であれば、フェライト系ステンレス鋼の耐酸化性を向上できる。Zr+Hfは、0.8%以下であることが好ましく、0.6%以下であることがより好ましい。
なお、式(3)中のZr及びHfは、各元素の含有割合(質量%)を示す。
【0032】
Ti:0.05%以上1.0%以下
Tiは、耐酸化性を高める上で有効になり得る元素であり、また、フェライト系ステンレス鋼の表面に形成され得る酸化膜の剥離耐性が向上するため、必要に応じて添加され得る。Tiの含有割合は、0.05%以上であることが好ましく、0.2%以上であることがより好ましく、0.3%以上であることが更に好ましい。
一方、Tiが増えすぎると、耐酸化性が低下し得る。そのため、Tiの含有割合は、1.0%以下であることが好ましく、0.8%以下であることがより好ましく、0.6%以下であることが更に好ましい。
【0033】
REM:0.01%以下
REM(希土類金属)は、耐酸化性を高める上で有効になり得る元素であるが、REMの含有割合が0.01%超では、高温下において異常酸化を引き起こし、耐酸化性が著しく低下する。そのため、REMの含有割合は、0.01%以下であることが好ましく、0.008%以下であることがより好ましく、0.006%以下であることが更に好ましい。なお、REMの含有割合の下限は特に限定されないが、例えば、0.0005%以上でもよく、0.001%以上でもよい。
本明細書において、REMは、Sc及びYと、原子番号57のLa(ランタン)から原子番号71のLu(ルテチウム)までの15元素との総称であり、ここでいうREMの含有割合は、これらの元素の含有割合の合計である。
【0034】
-1.0≦(S-REM/5)×(2Al+Cr)≦1.3 ・・・(4)
本発明のフェライト系ステンレス鋼は、上記式(4)を満たすことが好ましい。(S-REM/5)×(2Al+Cr)が-1.0以上1.3以下であれば、フェライト系ステンレス鋼中においてREMがSの偏析を効果的に抑制し、その結果、後述するフェライト系ステンレス鋼の絞り値が向上し、加工性を向上できる。上記式(4)の値は、-0.5以上であることが好ましく、-0.2以上であることがより好ましい。また、上記式(4)の値は、1.0以下であることが好ましく、0.5以下であることがより好ましく、0.2以下であることが更に好ましい。
なお、式(4)中のAl、Cr、S、及びREMは、各元素の含有割合(質量%)を示す。
【0035】
(性状)
本発明のフェライト系ステンレス鋼は、室温(20℃)下での引張試験における絞り値が、40%以上であることが好ましい。40%以上の絞り値を有するフェライト系ステンレス鋼は、特に加工性に優れるため、ワイヤ形状やストリップ形状への加工が容易であり、これらの形状を有する発熱体に好適に使用できる。フェライト系ステンレス鋼の絞り値は、50%以上であることがより好ましく、55%以上であることが更に好ましく、58%以上であることが更により好ましい。
なお、本発明において、フェライト系ステンレス鋼の絞り値は、JIS Z2241に則ったフェライト系ステンレス鋼の引張試験において、引張試験前の丸棒の断面積に対する引張試験における丸棒の断面積の最大変化量を百分率で示したもの(断面積の最大変化量/引張試験前の丸棒の断面積×100[%])を意味し、実施例に記載の方法に従って測定できる。
【0036】
本発明のフェライト系ステンレス鋼の形状としては、特に限定されるものではないが、例えば、ワイヤ形状、ストリップ形状、チューブ形状等が挙げられる。本発明のフェライト系ステンレス鋼は加工性に優れるため、例えば、ワイヤ形状への加工が容易である。なお、ワイヤ形状の外径(φ)は、特に限定されないが、例えば、0.1mm以上15.0mmでもよい。
【0037】
(用途)
本発明のフェライト系ステンレス鋼の用途としては、特に限定されるものではないが、発熱体、高温用構造体、自動車用触媒担体等が挙げられる。本発明のフェライト系ステンレス鋼は耐酸化性に優れるため、発熱体に好適に用いることができる。
【0038】
(製造方法)
本発明のフェライト系ステンレス鋼は、特に限定されず、鋳造法やアトマイズ法で製造された金属粉末を熱間等方圧加圧法(HIP)や熱間押出方によって合金を製造する方法等の従来公知の方法で製造できる。
【実施例
【0039】
以下、本発明を実施例に従って説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0040】
<フェライト系ステンレス鋼の製造>
表1に示した成分組成(残部はFe及び不可避的不純物)となるように材料を調整して、鋳造法によりフェライト系ステンレス鋼を製造した。また、各成分の含有割合の関係式の算出結果を表1に示す。
【0041】
<フェライト系ステンレス鋼の絞り値>
室温(20℃)下で引張試験を行うことにより、フェライト系ステンレス鋼の絞り値を測定した。
具体的には、まず、JIS Z2241に則り、室温(20℃)にてφ6mmの丸棒を用いて引張試験を行い、丸棒を破断させた。そして、引張試験における丸棒の断面積の最大変化量(「引張試験前の丸棒の断面積」-「破断時における丸棒の最小の断面積」)を算出し、引張試験前の丸棒の断面積に対する断面積の最大変化量を百分率で示したもの(断面積の最大変化量/引張試験前の丸棒の断面積×100[%])を絞り値とした。
【0042】
<加工性評価>
得られたフェライト系ステンレス鋼について、φ0.5mmのワイヤにするために伸線加工を行い、フェライト系ステンレス鋼の加工性を評価した。伸線加工ができたものは「Good」、伸線加工ができなかったものは「No good」として結果を表1に示す。
【0043】
<耐酸化試験>
得られたフェライト系ステンレス鋼から10mm×20mm×5mm(縦×横×厚み)の板片を切り出し、電気炉(大気下)内で所定温度に加熱した。500時間毎に板片の表面を観察し、異常酸化が生じた時間(h)を試験結果とした。なお、1150℃は30000時間、1200℃は20000時間、1300℃は10000時間を試験時間の上限とした。結果を表1に示す。
【0044】
【表1】
【0045】
表1からも明らかなように、実施例のフェライト系ステンレス鋼は、耐酸化性及び加工性に優れることが分かる。
【0046】
一方、比較例1は、フェライト系ステンレス鋼の「Al+Cr」の値が23未満であるため、耐酸化性が劣っている。
また、比較例2及び3は、フェライト系ステンレス鋼のAlの含有割合が7%未満であるため、耐酸化性が劣っている。
また、比較例4は、フェライト系ステンレス鋼のREMの含有割合が0.01%超であるため、耐酸化性が劣っている。
また、比較例5は、フェライト系ステンレス鋼のSの含有割合が0.0015%超であるため、耐酸化性が劣っている。
また、比較例6は、フェライト系ステンレス鋼の「Zr+Hf」の値が1.0%超であるため、耐酸化性が劣っている。
また、比較例7は、フェライト系ステンレス鋼のTiの含有割合が1.0%超であるため、耐酸化性が劣っている。
また、比較例8及び9は、フェライト系ステンレス鋼の「2Al+Cr」の値が41超であるため、加工性が劣っている。
また、比較例10は、フェライト系ステンレス鋼が所定の割合のNbを含有しないため、加工性が劣っている。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明によれば、耐酸化性及び加工性に優れる、フェライト系ステンレス鋼を提供できる。
【要約】
本発明の目的は、耐酸化性及び加工性に優れる、フェライト系ステンレス鋼の提供である。本発明は、質量%で、所定量のCr、Al、S、C、N、O、及びNbを含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、Al及びCrの含有割合が、下記式(1)及び(2):
2Al+Cr≦41 ・・・(1)
Al+Cr≧23 ・・・(2)
の関係を満たす成分組成を有する、フェライト系ステンレス鋼である。