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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-29
(45)【発行日】2025-02-06
(54)【発明の名称】転写フィルム
(51)【国際特許分類】
   B32B 7/06 20190101AFI20250130BHJP
   B32B 9/00 20060101ALI20250130BHJP
【FI】
B32B7/06
B32B9/00 A
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2023509337
(86)(22)【出願日】2022-03-25
(86)【国際出願番号】 JP2022014494
(87)【国際公開番号】W WO2022203056
(87)【国際公開日】2022-09-29
【審査請求日】2024-08-29
(31)【優先権主張番号】P 2021054219
(32)【優先日】2021-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002897
【氏名又は名称】大日本印刷株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000156042
【氏名又は名称】株式会社麗光
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(72)【発明者】
【氏名】高橋 正泰
(72)【発明者】
【氏名】西平 賢哉
(72)【発明者】
【氏名】田澤 秀胤
(72)【発明者】
【氏名】柴田 貴史
(72)【発明者】
【氏名】松本 千紗代
(72)【発明者】
【氏名】幾原 志郎
(72)【発明者】
【氏名】近藤 亨
(72)【発明者】
【氏名】福本 勝
【審査官】斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-096968(JP,A)
【文献】特開2005-178829(JP,A)
【文献】特開2003-231395(JP,A)
【文献】特開2015-066697(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00 - 43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持基材と、
ヒートシール層と、
無機蒸着膜と
を厚さ方向にこの順に備える転写フィルムであって、
前記無機蒸着膜と前記ヒートシール層とが接しているか、又は、
前記転写フィルムが、前記無機蒸着膜と前記ヒートシール層との間にアンカーコート層をさらに備え、前記無機蒸着膜と前記アンカーコート層とが接している、
転写フィルム。
【請求項2】
前記無機蒸着膜が、前記ヒートシール層の一方側の面に、直接、蒸着形成されてなる、請求項1に記載の転写フィルム。
【請求項3】
前記無機蒸着膜が、前記アンカーコート層の一方側の面に、直接、蒸着形成されてなる、請求項1に記載の転写フィルム。
【請求項4】
前記無機蒸着膜上に保護層をさらに備える、請求項1~3のいずれか一項に記載の転写フィルム。
【請求項5】
前記無機蒸着膜が、アルミニウム、酸化アルミニウム及び酸化ケイ素から選ばれる少なくとも1種を含有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の転写フィルム。
【請求項6】
前記ヒートシール層のナノインデンテーション法によるインデンテーション硬さが0.15GPa以下であり、複合弾性率が2.0GPa以下である、請求項1~5のいずれか一項に記載の転写フィルム。
【請求項7】
前記アンカーコート層の、サーマルプローブを用いた局所熱分析で測定される転移点が、90℃以上140℃以下である、請求項1~6のいずれか一項に記載の転写フィルム。
【請求項8】
飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)を用いて、前記転写フィルムをエッチングしながら測定される、アンカーコート層におけるNO イオンの規格化強度が、3.0以上4.2以下である、請求項1~7のいずれか一項に記載の転写フィルム。
[前記規格化強度は、TOF-SIMSによるNO イオンの検出強度をCNイオンの検出強度により除して100000倍することにより規格化を行い、NO イオンの規格化後の検出強度の平均値の常用対数値を意味する。]
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、転写フィルム及びバリア性積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、マイクロプラスチックによる環境問題が大きく取り上げられている。紙を用いた製品においても、環境負荷を低減するために、製品をできるだけ紙のみで構成することによってリサイクル性を向上することが求められている。
【0003】
従来、水分又は酸素による内容物(例えば食品、医療品、化成品及び化粧品)の品質低下を抑制する包装材料として、ガスバリア性の高い包装材料が用いられている。ここで、使用済みの包装材料のリサイクル使用又は焼却処理を考慮した、紙基材を備える包装材料が注目されている。しかしながら、紙基材は、一般的にガスバリア性が不充分である。したがって、紙基材を備える包装材料のガスバリア性を高めるために、樹脂を紙基材にコーティングしたり、無機蒸着膜を有する樹脂フィルムを紙基材に積層したりすることが検討されている。
【0004】
特許文献1には、多糖類と珪素化合物との重縮合物からなる目止め層を表面に有する紙またはパルプモールドからなる基材に、プラズマ重合によるガスバリア性の薄膜層を積層した積層体が開示されている。特許文献1では、ガスバリア性の薄膜層を形成する際のプラズマ重合装置内に、紙又はパルプモールドからなる基材を配置することから、紙又はパルプモールドから発生する紙粉又はパルプ粉によって、プラズマ重合装置内をプラズマ重合に適合した気圧まで減圧することが阻害されやすい。したがって、安定したガスバリア性を有する薄膜層の形成が困難であり、目止め層と薄膜層との密着性が不充分になり易く、ガスバリア性が不安定になり易い。特許文献1はガスバリア性の薄膜層の形成について化学気相成長法に関するが、物理気相成長法においても同様の問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第4622201号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
紙基材に限らず、直接蒸着することが困難な基材を備え、層間密着性に優れたバリア性積層体の提供が望まれている。また、包装材料は、当該包装材料を封止するために、通常、ヒートシール層を備える。したがって、包装材料用途に好適に使用される、バリア紙等のバリア性積層体は、ヒートシール層を備えることが好ましい。
【0007】
本開示は、基材と、無機蒸着膜と、ヒートシール層とを備えるバリア性積層体であって、層間密着性に優れ層間剥離が抑制されたバリア性積層体を提供することを一つの課題とする。本開示は、このようなバリア性積層体の製造に好適に用いることができる転写フィルムを提供することを一つの課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の転写フィルムは、支持基材と、ヒートシール層と、無機蒸着膜とを厚さ方向にこの順に備え、無機蒸着膜とヒートシール層とが接しているか、又は、転写フィルムが、無機蒸着膜とヒートシール層との間にアンカーコート層をさらに備え、無機蒸着膜とアンカーコート層とが接している。
【0009】
本開示のバリア性積層体は、一態様において、基材と、接着剤層と、無機蒸着膜と、ヒートシール層とを厚さ方向にこの順に備え、無機蒸着膜とヒートシール層とが接しているか、又は、バリア性積層体が、無機蒸着膜とヒートシール層との間にアンカーコート層をさらに備え、無機蒸着膜とアンカーコート層とが接している。
【0010】
本開示のバリア性積層体は、一態様において、基材と、接着剤層と、無機蒸着膜と、ヒートシール層とを厚さ方向にこの順に備え、無機蒸着膜とヒートシール層との間に剥離層を備えない。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、基材と、無機蒸着膜と、ヒートシール層とを備えるバリア性積層体であって、層間密着性に優れ層間剥離が抑制されたバリア性積層体を提供できる。本開示によれば、このようなバリア性積層体の製造に好適に用いることができる転写フィルムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本開示の転写フィルムの層構成の一例を示す断面図である。
図2】本開示の転写フィルムの層構成の一例を示す断面図である。
図3】本開示のバリア性積層体の層構成の一例を示す断面図である。
図4】本開示のバリア性積層体の層構成の一例を示す断面図である。
図5】本開示のバリア紙の製造方法の一例を示す工程図である。
図6】規格化前のTOF-SIMS測定のグラフの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示の実施形態を、図面等を参照しながら説明する。本開示は多くの異なる形態で実施でき、以下に例示する実施形態の記載内容に限定して解釈されない。
【0014】
図面は、説明をより明確にするため、実際の形態に比べ、各部の幅、厚さ、角度及び形状等について模式的に表される場合がある。しかしながら、図面は、あくまで一例であって、本開示の解釈を限定しない。本明細書と各図において、既出の図に関して説明したものと同様の要素には、同一の符号を付して、詳細な説明を適宜省略することがある。説明の便宜上、上又は下等という語句を用いて説明することがあるが、上下方向が逆転してもよい。左右方向についても同様である。
【0015】
以下の記載において、各成分(例えば、添加剤、各種樹脂等の樹脂成分、着色剤及び硬化剤)は、それぞれ1種又は2種以上用いることができる。
【0016】
[転写フィルム]
本開示の転写フィルムは、支持基材と、ヒートシール層と、無機蒸着膜とを厚さ方向にこの順に備える。転写フィルムは、ヒートシール層と無機蒸着膜との間にアンカーコート層をさらに備えてもよい。ヒートシール層、必要に応じてアンカーコート層及び無機蒸着膜は、転写層を構成する。転写フィルム及び転写層は、一実施形態において、保護層等の機能性層をさらに備えてもよい。
【0017】
すなわち、本開示の転写フィルムは、支持基材と、該支持基材上に設けられた転写層とを備え、該転写層が、ヒートシール層及び無機蒸着膜を厚さ方向にこの順に備える。該転写層は、一実施形態において、ヒートシール層と無機蒸着膜との間にアンカーコート層をさらに備えてもよい。ヒートシール層は、支持基材と接しており、支持基材から剥離可能に設けられている。
【0018】
ここで、上記転写層において、無機蒸着膜とヒートシール層(又はアンカーコート層を設ける場合はアンカーコート層)とが接しているか、あるいは、上記転写層は、無機蒸着膜とヒートシール層との間に剥離層を備えない。
【0019】
転写フィルムは、一実施形態において、無機蒸着膜上に保護層を備える。
転写フィルムは、一実施形態において、無機蒸着膜が酸化アルミニウム及び酸化ケイ素等の金属酸化物により構成される場合は、無機蒸着膜上にバリアコート層を備える。
【0020】
転写用基材としての支持基材、したがって転写フィルムは、枚葉フィルムでもよく、ロール状に巻回された連続フィルムでもよい。
【0021】
図1に、本開示の転写フィルムの一実施形態を示す。図1の転写フィルム2は、支持基材50と、ヒートシール層40と、無機蒸着膜30とを厚さ方向にこの順に備える。
【0022】
図2に、本開示の転写フィルムの他の実施形態を示す。図2の転写フィルム2は、支持基材50と、ヒートシール層40と、アンカーコート層32と、無機蒸着膜30とを厚さ方向にこの順に備える。
【0023】
<支持基材>
本開示の転写フィルムは、転写用基材としての支持基材を備える。
支持基材としては、樹脂により構成されるフィルム(以下「樹脂フィルム」ともいう)が好ましい。上記樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)及びポリブチレンテレフタレート(PBT)等のポリエステル;各種ナイロン、特にナイロンMXD6等の芳香族ポリアミド等のポリアミド;エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-ビニルアルコール共重合体及びポリビニルアルコール等のビニル樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン及び環状ポリオレフィン等のポリオレフィン;スチレン単独重合体、アクリロニトリル-スチレン共重合体(AS樹脂)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)等のスチレン系樹脂;(メタ)アクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリイミド、ジアリールフタレート樹脂、シリコーン系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリウレタン、セルロース系樹脂、並びにフッ素系樹脂が挙げられる。
【0024】
樹脂フィルムは、1層で構成されていてもよく、同一の又は異なる組成の2層以上の多層で構成されていてもよい。樹脂フィルムは、未延伸フィルムでもよく、一軸延伸フィルム及び二軸延伸フィルム等の延伸フィルムでもよい。
【0025】
支持基材の厚さは、好ましくは5μm以上、より好ましくは8μm以上、さらに好ましくは10μm以上であり、好ましくは200μm以下、より好ましくは100μm以下、さらに好ましくは80μm以下である。
【0026】
支持基材は、当該基材上にヒートシール層を形成でき、かつ、剥離工程においてヒートシール層から当該基材を容易に剥離できる性質を有することが好ましい。このような観点から、樹脂フィルムの中でも、ポリエステルフィルム及びポリアミドフィルムが好ましく、ポリエステルフィルムがより好ましく、ポリエチレンテレフタレートフィルムがさらに好ましい。
【0027】
支持基材は、無機蒸着膜の形成工程に耐えられる、機械的、物理的及び化学的に優れる性質を有し、特に強度及び耐熱性を有することが好ましい。ポリエチレンテレフタレートフィルムは、このような観点からも好ましい。
【0028】
樹脂フィルムは、ヒートシール層と接する面に公知の易接着処理が施されていないことが好ましく、また、ヒートシール層と接する面上に公知の易接着層を備えないことが好ましい。このような構成により、例えば、剥離工程における支持基材とヒートシール層との剥離性を向上できる。
【0029】
<ヒートシール層>
本開示の転写フィルムは、ヒートシール層を備える。ヒートシール層は、例えばバリア紙等のバリア性積層体を包装材料として用いる場合には、ヒートシール性シーラント層として機能する。また、ヒートシール層は、後述する転写法によりバリア紙等のバリア性積層体を製造する場合には、支持基材からの剥離層としても機能する。
【0030】
ヒートシール層とは、ヒートシール性を有する層であり、具体的には、加熱圧着することにより接着対象に接着できる層、又は加熱圧着することにより該層同士で融着して接着できる層である。なお、本開示の転写フィルムを、ヒートシールを行わない用途へ用いることも何ら妨げられない。
【0031】
本開示の転写フィルムにおいて、ヒートシール層は支持基材に接していることが好ましい。このような構成により、ヒートシール層から支持基材を容易に剥離することができる。例えば、剥離後の支持基材上にヒートシール層が残存しにくいことから、支持基材をリサイクル又はリユースすることが容易である。
【0032】
支持基材から剥離可能なヒートシール層は、例えば、熱可塑性樹脂を用いて形成できる。熱可塑性樹脂としては、例えば、オレフィン系重合体及び(メタ)アクリル樹脂が挙げられる。これらの中でも、オレフィン系重合体が好ましい。
【0033】
ヒートシール層は、一実施形態において、オレフィン系重合体を含有する。このような構成とすることにより、例えば、ヒートシール性及び剥離性に優れたヒートシール層が得られ、また、充分な剛性、強度及び耐熱性を有し、かつリサイクル性に優れた、包装材料用のバリア性積層体が得られる。
【0034】
オレフィン系重合体としては、例えば、エチレン系重合体及びプロピレン系重合体が挙げられる。これらの中でも、ヒートシール性及び剥離性のバランスの観点から、エチレン系重合体が好ましい。
【0035】
エチレン系重合体としては、例えば、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン及び超低密度ポリエチレンが挙げられ、ヒートシール性という観点から、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン及び超低密度ポリエチレンが好ましい。環境負荷低減という観点から、バイオマス由来のポリエチレン及び/又はリサイクルされたポリエチレンを用いてもよい。
【0036】
高密度ポリエチレンの密度は、好ましくは0.945g/cmを超える。高密度ポリエチレンの密度の上限は、例えば0.965g/cmである。中密度ポリエチレンの密度は、好ましくは0.925g/cmを超えて0.945g/cm以下である。低密度ポリエチレンの密度は、好ましくは0.900g/cmを超えて0.925g/cm以下である。直鎖状低密度ポリエチレンの密度は、好ましくは0.900g/cmを超えて0.925g/cm以下である。超低密度ポリエチレンの密度は、好ましくは0.900g/cm以下である。超低密度ポリエチレンの密度の下限は、例えば0.860g/cmである。ポリエチレンの密度は、JIS K7112(1999)に準拠して測定する。
【0037】
エチレン系重合体としては、例えば、エチレン-ビニルアルコール共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、変性エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-無水マレイン酸共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、及びエチレン-(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体(例えばエチレン-エチルアクリレート共重合体)等のエチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体を挙げることもできる。
【0038】
プロピレン系重合体としては、例えば、プロピレンホモポリマー、プロピレンランダムコポリマー及びプロピレンブロックコポリマーが挙げられる。プロピレンホモポリマーとは、プロピレンのみの重合体である。プロピレンランダムコポリマーとは、プロピレンとプロピレン以外のエチレン性不飽和モノマー(例えばエチレン、1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン等のα-オレフィン)とのランダム共重合体である。プロピレンブロックコポリマーとは、プロピレンからなる重合体ブロックと、プロピレン以外のエチレン性不飽和モノマー(例えばエチレン、1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン等のα-オレフィン)からなる重合体ブロックとを有する共重合体である。環境負荷低減という観点から、バイオマス由来のポリプロピレン及び/又はリサイクルされたポリプロピレンを用いてもよい。プロピレン系重合体としては、プロピレン-無水マレイン酸共重合体も挙げられる。
【0039】
本開示のバリア性積層体は、後述するように、転写法により製造することが好ましい。転写法においては、支持基材上にヒートシール層を形成し、さらにヒートシール層上に無機蒸着膜を形成した後、ヒートシール層及び無機蒸着膜を紙基材等の基材上に転写する。したがって、支持基材上に塗膜を形成できる塗工液であって、かつ支持基材からの優れた剥離性とともにヒートシール性を有する塗膜を形成できる塗工液を用いて、ヒートシール層を形成することが好ましい。
【0040】
このようなヒートシール層は、オレフィン系重合体のアイオノマーを含有するヒートシール層用塗工液を用いて形成することが好ましい。アイオノマーとは、金属イオンによる凝集力を利用して、重合体を凝集体とした合成樹脂の総称である。
【0041】
上記金属イオンとしては、例えば、アルカリ金属イオン及びアルカリ土類金属イオン等が挙げられ、具体的には、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム及び亜鉛が挙げられる。
【0042】
オレフィン系重合体のアイオノマーとしては、例えば、オレフィン-不飽和カルボン酸共重合体の金属塩、オレフィン-(メタ)アクリル系共重合体の金属塩、オレフィン-ウレタン系共重合体の金属塩、及びオレフィン-フッ素系高分子共重合体の金属塩が挙げられる。
【0043】
上記オレフィンとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、1-エイコセン、3-メチル-1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン及び6-メチル-1-ヘプテン等の、炭素数2以上20以下のα-オレフィンが挙げられる。これらの中でも、エチレン及びプロピレンが好ましく、エチレンがより好ましい。
【0044】
上記不飽和カルボン酸としては、例えば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、β-カルボキシエチル(メタ)アクリレート等の不飽和モノカルボン酸;並びにマレイン酸、イタコン酸、フマル酸及びシトラコン酸等の不飽和ジカルボン酸が挙げられる。
【0045】
上記アイオノマーの中でも、エチレン系重合体のアイオノマーが好ましく、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体の金属塩、エチレン-(メタ)アクリル系共重合体の金属塩、エチレン-ウレタン系共重合体の金属塩、及びエチレン-フッ素系高分子共重合体の金属塩がより好ましく、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体の金属塩がさらに好ましい。
【0046】
ヒートシール層におけるオレフィン系重合体の含有量は、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上である。これにより、バリア性積層体のヒートシール性をより向上できる。
【0047】
ヒートシール層は、上記熱可塑性樹脂とともに、ゴム系材料を含有してもよい。ゴム系材料としては、例えば、熱可塑性ゴム、天然ゴム、ブチルゴム、ニトリルゴム及びクロロプレンゴムが挙げられる。ゴム系材料は、例えば、上記熱可塑性樹脂と混合して用いることができる。
【0048】
ヒートシール層は、通常、延伸されていない層である。例えば、オレフィン系重合体を含有するヒートシール層用塗工液を支持基材上に塗布及び乾燥するか、オレフィン系重合体を含有する樹脂組成物を支持基材上に溶融押出しすることにより、ヒートシール層を形成できる。上述した理由により、ヒートシール層は、オレフィン系重合体を含有する塗工液を用いて形成されたキャストコート層であることが好ましい。
【0049】
ヒートシール層用塗工液の溶剤としては、例えば、水;メタノール、エタノール、2-プロパノール及び1-ブタノール等のアルコール溶剤;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン及びシクロヘキサノン等のケトン溶剤;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート及びプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のグリコール溶剤;酢酸メチル、酢酸エチル及び酢酸ブチル等のエステル溶剤;n-ヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン及びキシレン等の炭化水素溶剤;塩化メチレン及びクロロホルム等のハロゲン化炭化水素溶剤;ジオキソラン及びテトラヒドロフラン等のエーテル溶剤;アセトニトリル及びN,N-ジメチルホルムアミド等の含窒素溶剤;並びにジメチルスルホキシド等の含硫黄溶剤が挙げられる。
【0050】
ヒートシール層用塗工液の調製には、オレフィン系重合体のアイオノマーのエマルションを用いることが好ましく、自己乳化型エマルションを用いることがより好ましく、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体の金属塩の自己乳化型エマルションを用いることがさらに好ましい。このような塗工液は、例えば、支持基材上に塗膜を良好に形成でき、しかも、支持基材からの優れた剥離性を有する塗膜を形成できるとともに、当該塗膜はヒートシール性にも優れる。
【0051】
上記エマルションとして、水系アイオノマーエマルションを用いることが好ましい。このようなエマルションは、塗工量を比較的低くコントロールすることが可能であり、またVOC排出が無いことから環境負荷の小さい包装材料を得ることができる。
【0052】
ヒートシール層用塗工液は、添加剤を含有してもよい。添加剤としては、例えば、粘度調整剤、消泡剤、界面活性剤、レベリング剤、滑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、充填剤、補強剤、帯電防止剤、顔料及び染料が挙げられる。
【0053】
ヒートシール層の厚さは、好ましくは1μm以上、より好ましくは3μm以上であり、好ましくは25μm以下、より好ましくは15μm以下である。ヒートシール層の厚さは、一実施形態において、5μm以上25μm以下である。ヒートシール層の厚さは、ヒートシール層の強度及び転写フィルムの加工適性や、本開示のバリア性積層体を用いて製造される包装材料内に充填される内容物の質量に応じて、適宜変更することが好ましい。
【0054】
ヒートシール層のインデンテーション硬さは、好ましくは0.15GPa以下、より好ましくは0.10GPa以下、さらに好ましくは0.08GPa以下であり、下限値は例えば0.01GPaでもよく、0.02GPaでもよい。インデンテーション硬さが0.15GPa以下であると、例えば、バリア性積層体の耐屈曲性及びガスバリア性をさらに向上できる傾向にある。
【0055】
ヒートシール層の複合弾性率は、好ましくは2.0GPa以下、より好ましくは1.5GPa以下、さらに好ましくは1.0GPa以下であり、下限値は例えば0.1GPaでもよく、0.2GPaでもよい。複合弾性率が2.0GPa以下であると、例えば、バリア性積層体の耐屈曲性及びガスバリア性をさらに向上できる傾向にある。
【0056】
本開示において、ヒートシール層のインデンテーション硬さ及び複合弾性率は、例えば、ヒートシール層に含まれる成分を適切に選択することにより調整できる。
【0057】
本開示において、ヒートシール層のインデンテーション硬さ及び複合弾性率は、ナノインデンテーション法により測定される。具体的には、ナノインデンターを用いて、転写フィルムのヒートシール層の断面を測定面として、インデンテーション硬さ及び複合弾性率を測定する。上記断面は、転写フィルムの主面に対して垂直となる厚さ方向に切断して得られる。圧子を押し込む箇所は、ヒートシール層の断面が露出した部分のうち、ヒートシール層の厚さ方向における中央部付近とする。測定条件は、以下の通りである。ナノインデンターの圧子としては、Berkovich圧子(三角錐圧子)を用いる。10秒間かけて、ヒートシール層の断面から押込み深さ100nmまで圧子をヒートシール層に押し込み、その状態で5秒間保持し、続いて10秒間かけて除荷し、最大荷重Pmax、最大深さ時の接触投影面積A及び荷重-変位曲線を得る。得られた荷重-変位曲線から、Pmax/Aの式によりインデンテーション硬さを、下記式(1)により複合弾性率を算出する。
【0058】
【数1】
式(1)中、Aは接触投影面積であり、Sは接触剛性であり、Eはヒートシール層の複合弾性率である。
【0059】
測定は室温(23℃)環境下にて実施する。測定は同一断面において10箇所以上で実施し、インデンテーション硬さ及び複合弾性率は、それぞれ、再現良く測定された10箇所の値の算術平均値として記載する。測定条件の詳細は、実施例欄に記載する。
【0060】
<アンカーコート層>
本開示の転写フィルムは、ヒートシール層と無機蒸着膜との間に、アンカーコート層をさらに備えてもよい。アンカーコート層を設けることにより、ヒートシール層と無機蒸着膜との密着性を高めることができ、これらの層間での剥離の発生を抑制できる。アンカーコート層は、例えば、その一方の面で無機蒸着膜と接しており、その他方の面でヒートシール層と接している。
【0061】
アンカーコート層は、一実施形態において、樹脂成分を含有する。樹脂成分としては、例えば、ポリオレフィン(例えばポリエチレン及びポリプロピレン)、ビニル樹脂、スチレン系樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ポリエステル、ポリウレタン及びポリアミド等の熱可塑性樹脂;フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、アルキド樹脂、熱硬化性(メタ)アクリル樹脂、不飽和ポリエステル及び熱硬化性ポリウレタン等の熱硬化性樹脂の硬化物が挙げられる。熱硬化性樹脂を用いる場合は、アミン化合物、フェノール化合物、イソシアネート化合物及びカルボン酸化合物等の硬化剤を併用することが好ましい。樹脂成分としては、例えば、密着性という観点から、ポリエステルが好ましい。
【0062】
ポリエステルとしては、例えば、多価カルボン酸、そのエステル及びその酸無水物等の酸成分と多価アルコールとの重縮合によって合成される重合物、ラクトン開環重合物、ポリヒドロキシカルボン酸重合物、ウレア変性ポリエステル、並びにウレタン変性ポリエステルが挙げられる。ウレタン変性ポリエステルとは、ウレタン結合を有するポリエステルである。
【0063】
ウレタン変性ポリエステルは、例えば、2以上のポリエステルが多価イソシアネートに由来する構成単位により結合されている樹脂である。このような樹脂は、例えば、ポリエステルの末端水酸基と多価イソシアネートのイソシアネート基とを反応させることにより得ることができる。
【0064】
ウレタン変性ポリエステルのガラス転移温度(Tg)は、50℃以上でもよく、60℃以上でもよく、70℃以上でもよく、120℃以下でもよく、110℃以下でもよいでもよい。Tgは、JIS K7121に準拠した示差走査熱量測定(DSC)により得られる中間点ガラス転移温度である。
【0065】
ウレタン変性ポリエステルの水酸基価は、例えば、1mgKOH/g以上でもよく、3mgKOH/g以上でもよく、5mgKOH/g以上でもよく、90mgKOH/g以下でもよく、70mgKOH/g以下でもよい。水酸基価は、試料1gをアセチル化させたとき、水酸基と結合した酢酸を中和するのに必要とする水酸化カリウムのmg数で表される。水酸基価は、JIS K0070-1992に準拠して求める。
【0066】
ウレタン変性ポリエステルの数平均分子量(Mn)は、500以上でもよく、1,000以上でもよく、50,000以下でもよく、30,000以下でもよく、10,000以下でもよい。Mnは、JIS K7252-1に準拠し、ポリスチレンを標準物質としてゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定される。
【0067】
ウレタン変性ポリエステルは、例えば、ポリエステルポリオールと多価イソシアネートとを反応させることにより得られる。ウレタン変性ポリエステルは、例えば、ポリエステルポリオールと多価イソシアネートとをイソシアネート基に対して水酸基過剰の比率で反応させることにより得られ、1分子中に2個以上の水酸基を有することが好ましい。ポリエステルポリオールと多価イソシアネートとの反応には、通常のウレタン化反応の反応条件を広く適用できる。
【0068】
ポリエステルポリオールは、多価カルボン酸、そのエステル及びその酸無水物等の酸成分と多価アルコールとをエステル化反応させることにより得られる、1分子中に2個以上の水酸基を有する樹脂である。ポリエステルポリオールは、カプロラクトンの開環反応によって得られるポリエステルでもよい。
【0069】
多価カルボン酸としては、例えば、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸及びドデカンジカルボン酸等の脂肪族多価カルボン酸;フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸及びピロメリット酸等の芳香族多価カルボン酸;並びにブタントリカルボン酸、トリカルバリル酸及びクエン酸等の脂肪族多価カルボン酸が挙げられる。
【0070】
多価アルコールとしては、例えば、1分子中に2個以上の水酸基を有する化合物が挙げられ、脂肪族グリコール等の2価のアルコール及び3価以上の多価アルコールが挙げられる。2価のアルコールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,5-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール及び2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールが挙げられる。3価以上の多価アルコールとしては、例えば、脂肪族グリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン及びペンタエリスリトールが挙げられる。
【0071】
多価イソシアネートとしては、例えば、1分子中に2個以上のイソシアネート基を有する化合物が挙げられ、具体的には、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート及びトリメチレンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート;イソホロンジイソシアネート、メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)及びシクロヘキサンジイソシアネート等の脂環族ジイソシアネート;並びにキシリレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート及びビフェニレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネートが挙げられる。
【0072】
ウレタン変性ポリエステルは、多価カルボン酸、そのエステル及びその酸無水物等の酸成分と、多価アルコールと、多価イソシアネートと、を同時に反応させることにより得ることもできる。
【0073】
アンカーコート層は、一実施形態において、樹脂成分として、反応性官能基を有する樹脂と硬化剤とから形成される硬化樹脂を含有してもよい。反応性官能基としては、例えば、水酸基、カルボキシ基及びアミノ基が挙げられる。反応性官能基を有する樹脂としては、例えば、ウレタン変性ポリエステルが挙げられる。
【0074】
硬化剤としては、例えば、芳香族イソシアネート化合物及び脂肪族イソシアネート化合物などのイソシアネート化合物が挙げられる。硬化剤としては、具体的には、トリレンジイソシアネート(TDI系イソシアネート)及びキシリレンジイソシアネート(XDI系イソシアネート)などの芳香族イソシアネート化合物;ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI系イソシアネート)及びイソホロンジイソシアネート(IPDI系イソシアネート)などの脂肪族イソシアネート化合物;これらのイソシアネート化合物の変性物、及び多官能化したダイマー体、アダクト体、アロファネート体、トリマー体、カルボジイミドアダクト体、ビウレット体、また、それらの重合物、及び多価アルコールを付加した重合物が挙げられる。硬化剤としては、ヒートシール層と無機蒸着膜との密着力という観点から、芳香族イソシアネート化合物が好ましく、キシリレンジイソシアネート(XDI)がより好ましい。
【0075】
硬化剤の使用量は、上記反応性官能基を有する樹脂100質量部に対して、10質量部以上でもよく、20質量部以上でもよく、200質量部以下でもよく、150質量部以下でもよい。これにより、例えば、ヒートシール層と無機蒸着膜との密着力をより向上できる。
【0076】
アンカーコート層における樹脂成分の含有量は、30質量%以上でもよく、50質量%以上でもよく、60質量%以上でもよく、80質量%以上でもよく、90質量%以上でもよく、95質量%以上でもよい。樹脂成分には、上述した硬化樹脂も包含される。
【0077】
アンカーコート層は、添加剤を含有してもよい。添加剤としては、例えば、滑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、充填剤、補強剤、帯電防止剤、顔料、染料及びシランカップリング剤が挙げられる。
【0078】
アンカーコート層は、グルコース環を有する化合物をさらに含有してもよい。グルコース環を有する化合物としては、例えば、セルロース及びプルランなどの多糖類並びにその誘導体が挙げられる。誘導体としては、例えば、メチル化物、ニトロ化物、アセチル化物、カルボキシメチル化物及びシアノエチル化物が挙げられる。誘導体としては、具体的には、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテート及びメチルセルロース;並びにニトロセルロース等のニトロ基及びグルコース環を有する化合物が挙げられる。
【0079】
アンカーコート層にグルコース環を有する化合物を添加することにより、例えば、上記密着性をより向上できる。また、アンカーコート層にグルコース環を有する化合物を添加することにより、アンカーコート層の耐熱性を向上でき、アンカーコート層上に無機蒸着膜を形成するときの熱によるアンカーコート層の劣化を抑制でき、したがって形成された無機蒸着膜が所望のガスバリア性を容易に発揮できる。
【0080】
アンカーコート層におけるグルコース環を有する化合物の含有量は、上記樹脂成分100質量部に対して、5質量部以上でもよく、10質量部以上でもよく、20質量部以上でもよく、200質量部以下でもよく、100質量部以下でもよい。グルコース環を有する化合物の含有量が20質量部以上100質量部以下であると、例えば、密着性及びガスバリア性をより向上できる。
【0081】
アンカーコート層における、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)を用いて測定されるNO イオンの規格化強度は、一実施形態において、0.5以上でもよく、1.0以上でもよく、2.0以上でもよいが、好ましくは3.0以上、より好ましくは3.2以上、さらに好ましくは3.5以上である。アンカーコート層におけるNO イオンの規格化強度は、一実施形態において、5.0以下でもよく、4.5以下でもよく、好ましくは4.2以下、より好ましくは4.0以下である。NO イオンの規格化強度が3.0以上であると、ガスバリア性及びアンカーコート層の外観がより優れる傾向にある。NO イオンの規格化強度が4.2以下であると、ガスバリア性およびアンカーコート層と無機蒸着膜との密着性がより優れる傾向にある。
【0082】
NO イオンの規格化強度は、以下のようにして算出される。NO イオン(質量数45.992)の検出強度をCNイオン(質量数26.002)の検出強度により除して、100000倍することにより、規格化を行う。アンカーコート層の厚さ方向における中央部の領域におけるNO イオンの規格化後の検出強度の平均値の常用対数値を、アンカーコート層におけるNO イオンの規格化強度とする。ここで、アンカーコート層の中央部の領域とは、アンカーコート層の中央付近であって、アンカーコート層の厚さに対して50%の厚さの領域を意味する。
【0083】
NO イオンの規格化強度 = log10{(NO イオンの検出強度/CNイオンの検出強度)×100000}
【0084】
各イオンの強度は、以下の様にして測定される。飛行時間型二次イオン質量分析計(ION TOF社製、TOF.SIMS5)を用いて、転写フィルムの外側から、Cs(セシウム)イオン銃により一定の速度でソフトエッチングを繰り返して、各層でのイオンを検出する。具体的な測定条件は、実施例欄に記載する。
【0085】
アンカーコート層の厚さは、以下の様にして測定する。
TOF-SIMS測定で得られた上記規格化前のグラフにおいて、無機蒸着膜由来のイオンの強度が無機蒸着膜由来のイオンの最大強度の50%になる位置を、無機蒸着膜とアンカーコート層との界面とする。無機蒸着膜由来のイオンは、例えばシリカ蒸着膜である場合は、SiO(質量数59.96)である。
TOF-SIMS測定で得られた上記規格化前のグラフにおいて、CNイオンの強度がCNイオンの最大強度の50%になる位置を、アンカーコート層とヒートシール層との界面とする。
上記2つの界面間の厚さ方向の距離を、アンカーコート層の厚さとする。
【0086】
アンカーコート層の転移点は、一実施形態において、70℃以上140℃以下でもよい。転移点は、好ましくは90℃以上、より好ましくは95℃以上、さらに好ましくは100℃以上、特に好ましくは105℃以上である。転移点は、例えば135℃以下でもよく、130℃以下でもよく、125℃以下でもよく、120℃以下でもよい。転移点が90℃以上であると、ガスバリア性がより優れる傾向にある。転移点が125℃以下であると、ガスバリア性がより優れる傾向にある。
【0087】
アンカーコート層の転移点は、サーマルプローブを用いた局所熱分析で測定される値である。サーマルプローブを用いた局所熱分析では、アンカーコート層の断面にサーマルプローブを接触させた状態で、温度を上昇させながらサーマルプローブの加熱前からのアンカーコート層断面の法線方向の変位を計測し、熱膨張曲線を得る。
【0088】
上記断面は、転写フィルムの主面に対して垂直となる厚さ方向に切断して得られる。サーマルプローブが接触する箇所は、アンカーコート層の断面が露出した部分のうち、アンカーコート層の厚さ方向における中央部付近とする。測定は同一断面において5箇所以上で実施し、転移点は再現良く測定された5箇所の値の算術平均値として記載する。
【0089】
局所熱分析では、加熱によりアンカーコート層に含まれる樹脂が膨張することで、サーマルプローブが押し上げられる。アンカーコート層の樹脂の構造転移等により、熱膨張曲線の傾き(変位/温度)が変化する。アンカーコート層の樹脂の構造転移のうち、特に膨張から軟化へと転じる場合は、サーマルプローブの先端が樹脂内に入り込むため、サーマルプローブが下降する。サーマルプローブの変位が上昇から下降に転じる点が、熱膨張曲線のピークに相当し、軟化点と呼ばれる。熱膨張曲線のピークの温度を読み取ることで、アンカーコート層の転移点が得られる。
【0090】
熱膨張曲線の傾き(変位/温度)変化に伴い、熱膨張曲線に「肩ピーク」が得られる場合がある。「肩ピーク」は、明瞭な凸形状でないが、熱膨張曲線の傾き(変位/温度)が変化し、熱膨張曲線の傾きが0近くまで小さくなった点と定義する。熱膨張曲線の傾きが変化する前後の温度帯で、熱膨張曲線の接線を引き、交点の温度を算出することで、変曲点が得られる。この変曲点の温度を「肩ピーク」の温度とする。
【0091】
熱膨張曲線のピークが得られた場合は、熱膨張曲線のピークの温度を転移点とする。ただし、熱膨張曲線のピークが得られず「肩ピーク」が得られた場合、又はピークが得られる温度より低温側で「肩ピーク」が見られた場合は、「肩ピーク」の温度を転移点とする。測定開始後、最も低温に表れた転移点を、アンカーコート層の転移点と定義する。
測定条件の詳細は、実施例欄に記載する。
【0092】
アンカーコート層の厚さは、好ましくは0.01μm以上、より好ましくは0.05μm以上、さらに好ましくは0.1μm以上であり、好ましくは10μm以下、より好ましくは5μm以下、さらに好ましくは3μm以下である。厚さが下限値以上であれば、例えば、ヒートシール層と無機蒸着膜との間の充分な密着強度が得られる。厚さが上限値以下であれば、例えば、アンカーコート層をヒートシール層上に良好に形成できる。
【0093】
<無機蒸着膜>
本開示の転写フィルムは、無機蒸着膜を備える。無機蒸着膜は、ヒートシール層の一方側の面に、又はアンカーコート層を設ける場合はアンカーコート層の一方側の面に、直接、蒸着形成された層であることが好ましい。
【0094】
無機蒸着膜は、酸素ガス及び水蒸気等のガスの透過を抑制する層である。したがって、例えば、本開示の転写フィルムから転写層を被転写体に転写して得られるガスバリア性積層体は、ガスバリア性に優れる。無機蒸着膜が不透明な層である場合は、当該無機蒸着膜は、太陽光等に対する遮光性を有し、内容物に対する保香性を有することもできる。
【0095】
無機蒸着膜は、金属により構成される金属蒸着膜でもよく、無機化合物により構成される蒸着膜でもよい。
【0096】
金属蒸着膜を構成する金属としては、例えば、アルミニウム、クロム、スズ、ニッケル、銅、銀、金及びプラチナが挙げられる。これらの中でも、アルミニウムが好ましい。すなわち、アルミニウム蒸着膜が好ましい。
【0097】
上記蒸着膜を構成する無機化合物としては、例えば、金属酸化物、金属窒化物及び金属炭化物、酸化インジウム錫(ITO)及びSiO等の複合的な無機化合物が挙げられる。これらの中でも、金属酸化物が好ましい。
【0098】
無機化合物を構成する金属元素としては、例えば、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、カリウム(K)、スズ(Sn)、ナトリウム(Na)、ホウ素(B)、チタン(Ti)、鉛(Pb)、ジルコニウム(Zr)、イットリウム(Y)、亜鉛(Zn)、バナジウム(V)、バリウム(Ba)及びクロム(Cr)が挙げられる。
【0099】
無機化合物の平均組成は、例えば、AlO、SiO、SiO等のように、MO又はMOで表される。式中、Mは上述した金属元素を表し、x及びyの値は、金属元素によってそれぞれ範囲が異なる。
【0100】
金属酸化物の場合、xは、アルミニウムでは0を超えて1.5以下、ケイ素では0を超えて2以下、マグネシウムでは0を超えて1以下、カルシウムでは0を超えて1以下、カリウムでは0を超えて0.5以下、スズでは0を超えて2以下、ナトリウムでは0を超えて0.5以下、ホウ素では0を超えて1.5以下、チタンでは0を超えて2以下、鉛では0を超えて1以下、ジルコニウムでは0を超えて2以下、イットリウムでは0を超えて1.5以下の範囲の値をとることができる。
【0101】
MOにおいて、xの範囲の上限は、完全に酸化した場合の値である。酸化アルミニウムではxが0.5以上1.5以下の範囲が好ましく、酸化ケイ素ではxが1.0以上2.0以下の範囲が好ましい。
【0102】
金属酸化物の中でも、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化マグシウム、酸化カルシウム、酸化ホウ素、酸化チタン、酸化ジルコニウム及び酸化バリウムが好ましく、酸化アルミニウム及び酸化ケイ素がより好ましい。
【0103】
無機蒸着膜は、金属又は無機化合物の1種で形成されていてもよく、金属又は無機化合物の2種以上を組み合わせて形成されていてもよい。無機蒸着膜は、1層で構成されていてもよく、同一の又は異なる組成の2層以上の多層で構成されていてもよい。
【0104】
無機蒸着膜が多層の場合、それぞれの層が高いガスバリア性を有するように蒸着できることから、単層のそれよりも更に高いガスバリア性を得ることができる。無機蒸着膜が多層の場合、それぞれの層の組成を異なるものとすれば、無機蒸着膜が異なる不連続層であることから、酸素ガス及び水蒸気等の透過をより効率的に抑制できる。
【0105】
無機蒸着膜の厚さは、好ましくは3nm以上、より好ましくは4nm以上、さらに好ましくは5nm以上であり、好ましくは300nm以下、より好ましくは250nm以下、さらに好ましくは200nm以下、特に好ましくは80nm以下又は60nm以下である。厚さが下限値以上であれば、例えば、充分な酸素バリア性及び水蒸気バリア性が得られる。厚さが上限値以下であれば、例えば、無機蒸着膜におけるクラックの発生を抑制できる。
【0106】
一実施形態において、酸化アルミニウムにより構成される無機蒸着膜の厚さは、好ましくは3nm以上、より好ましくは5nm以上であり、好ましくは100nm以下、より好ましくは50nm以下である。一実施形態において、酸化ケイ素により構成される無機蒸着膜の厚さは、好ましくは3nm以上、より好ましくは10nm以上であり、好ましくは300nm以下、より好ましくは50nm以下である。酸化ケイ素により構成される無機蒸着膜の厚さは、好ましくは20nm以上40nm以下である。
【0107】
無機蒸着膜には、表面処理が施されていてもよい。これにより、無機蒸着膜と、隣接する層(例えば接着剤層)との密着性を向上できる。表面処理の方法としては、例えば、コロナ放電処理、オゾン処理、プラズマ処理、グロー放電処理及びサンドブラスト処理等の物理的表面処理;並びに化学薬品を用いた酸化処理等の化学的表面処理が挙げられる。
【0108】
<保護層>
本開示の転写フィルムは、無機蒸着膜におけるヒートシール層側の面とは反対側の面上に、保護層をさらに備えてもよい。これにより、例えば、無機蒸着膜の傷付きを抑制できる。
【0109】
保護層は、一実施形態において、樹脂成分を含有する。
樹脂成分としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、塩化ビニル系樹脂、ポリエステル、(メタ)アクリル樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂及びエポキシ樹脂が挙げられる。樹脂成分としては、例えば、ウレタン樹脂が好ましい。
【0110】
保護層における樹脂成分の含有量は、50質量%以上でもよく、75質量%以上でもよく、95質量%以下でもよく、90質量%以下でもよい。
【0111】
保護層は、添加剤を含有してもよい。添加剤としては、例えば、硬化剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、着色剤、熱安定剤及びシランカップリング剤が挙げられる。シランカップリング剤としては、例えば、ビニル系、エポキシ系、スチリル系、メタクリル系、アクリル系、アミノ系、イソシアヌレート系、ウレイド系、メルカプト系、スルフィド系又はイソシアネート系のシランカップリング剤が挙げられる。
【0112】
保護層の厚さは、好ましくは0.01μm以上、より好ましくは0.05μm以上、さらに好ましくは0.1μm以上であり、好ましくは5μm以下、より好ましくは3μm以下、さらに好ましくは1μm以下である。
【0113】
例えば、無機蒸着膜が酸化アルミニウム及び酸化ケイ素等の金属酸化物により構成される場合は、本開示の転写フィルムは、無機蒸着膜上に保護層としてバリアコート層を備えてもよい。これにより、例えば、バリア性積層体のガスバリア性をより向上できる。
【0114】
一実施形態において、バリアコート層は、ガスバリア性樹脂を含有する。ガスバリア性樹脂としては、例えば、エチレン-ビニルアルコール共重合体、ポリビニルアルコール、ポリ(メタ)アクリロニトリル;ナイロン6、ナイロン6,6及びポリメタキシリレンアジパミド(MXD6)等のポリアミド;ポリエステル;ポリウレタン;並びに(メタ)アクリル樹脂が挙げられる。
【0115】
バリアコート層におけるガスバリア性樹脂の含有量は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは50質量%以上、さらに好ましくは75質量%以上であり、好ましくは95質量%以下、より好ましくは90質量%以下である。含有量が下限値以上であれば、例えば、バリア性積層体のガスバリア性をより向上できる。
【0116】
バリアコート層は、上記添加剤を含有できる。
【0117】
バリアコート層の厚さは、好ましくは0.01μm以上、より好ましくは0.1μm以上であり、好ましくは10μm以下、より好ましくは5μm以下である。厚さが下限値以上であれば、例えば、バリア性積層体のガスバリア性をより向上できる。厚さが上限値以下であれば、例えば、バリア性積層体の加工適性を向上できる。
【0118】
他の実施形態において、バリアコート層は、金属アルコキシドと水溶性高分子とを含有する組成物を、ゾルゲル法触媒、水及び有機溶剤等の存在下で、ゾルゲル法によって重縮合処理して形成されたガスバリア性塗布膜である。このようなバリアコート層を無機蒸着膜上に設けることにより、ガスバリア性を向上できる。
【0119】
一実施形態において、金属アルコキシドは、下記一般式で表される。
M(OR
【0120】
式中、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数1以上8以下の有機基であり、Mは金属原子であり、nは0以上の整数であり、mは1以上の整数であり、n+mはMの原子価を表す。
【0121】
及びRで表される有機基としては、例えば、炭素数1以上8以下のアルキル基が挙げられ、具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基及びイソブチル基が挙げられる。金属原子Mとしては、例えば、ケイ素、ジルコニウム、チタン及びアルミニウムが挙げられる。
【0122】
上記一般式を満たす金属アルコキシドとしては、例えば、テトラメトキシシラン(Si(OCH)、テトラエトキシシラン(Si(OC)、テトラプロポキシシラン(Si(OC)及びテトラブトキシシラン(Si(OC)が挙げられる。
【0123】
上記金属アルコキシドと共に、シランカップリング剤を用いることが好ましい。シランカップリング剤としては、既知の有機反応性基含有オルガノアルコキシシランを用いることができ、エポキシ基を有するオルガノアルコキシシランが好ましい。エポキシ基を有するオルガノアルコキシシランとしては、例えば、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン及びβ-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランが挙げられる。シランカップリング剤は、金属アルコキシド100質量部に対して、1質量部以上20質量部以下で用いることが好ましい。
【0124】
水溶性高分子としては、ポリビニルアルコール及びエチレン-ビニルアルコール共重合体が好ましい。酸素バリア性、水蒸気バリア性、耐水性及び耐候性等の所望の物性に応じて、ポリビニルアルコール及びエチレン-ビニルアルコール共重合体のいずれか一方を用いてもよく、両者を併用してもよく、また、ポリビニルアルコールを用いて得られるガスバリア性塗布膜及びエチレン-ビニルアルコール共重合体を用いて得られるガスバリア性塗布膜を積層してもよい。
【0125】
上記組成物における水溶性高分子の含有量は、金属アルコキシド100質量部に対して、好ましくは5質量部以上500質量部以下である。含有量が下限値以上であれば、例えば、バリア性積層体のガスバリア性をより向上できる。含有量が上限値以下であれば、例えば、上記組成物の製膜性をより向上できる。
【0126】
ゾルゲル法触媒としては、酸又はアミン系化合物が好ましい。
アミン系化合物としては、水に実質的に不溶であり、且つ有機溶剤に可溶な第3級アミンが好ましく、例えば、N,N-ジメチルベンジルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン及びトリペンチルアミンが挙げられる。これらの中でも、N,N-ジメチルベンジルアミンが好ましい。
【0127】
アミン系化合物の使用量は、金属アルコキシド100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.03質量部以上であり、好ましくは1.0質量部以下、より好ましくは0.3質量部以下である。使用量が下限値以上であれば、例えば、その触媒効果を向上できる。使用量が上限値以下であれば、例えば、ガスバリア性塗布膜の厚さを均一にできる。
【0128】
酸は、ゾルゲル法触媒、主として金属アルコキシド及びシランカップリング剤等の加水分解のための触媒として好適に用いられる。酸としては、例えば、硫酸、塩酸及び硝酸等の鉱酸、並びに酢酸及び酒石酸等の有機酸が挙げられる。
【0129】
酸の使用量は、金属アルコキシド及びシランカップリング剤のアルコキシド分(例えばシリケート部分)の総量1モルに対して、好ましくは0.001モル以上0.05モル以下である。酸の使用量が下限値以上であれば、例えば、その触媒効果を向上できる。酸の使用量が上限値以下であれば、例えば、ガスバリア性塗布膜の厚さを均一にできる。
【0130】
上記組成物は、アルコキシドの総量1モルに対して、好ましくは0.1モル以上、より好ましくは0.8モル以上、好ましくは100モル以下、より好ましくは2モル以下の量の水を含んでなることが好ましい。水の含有量が下限値以上であれば、例えば、バリア性積層体のガスバリア性をより向上できる。水の含有量が上限値以下であれば、例えば、加水分解反応を速やかに行うことができる。
【0131】
上記組成物は、有機溶剤を含有してもよい。有機溶剤としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール及びn-ブタノール等のアルコール溶剤が挙げられる。
【0132】
ガスバリア性塗布膜の厚さは、好ましくは0.01μm以上、より好ましくは0.1μm以上であり、好ましくは100μm以下、より好ましくは50μm以下である。これにより、バリア性積層体のガスバリア性をより向上できる。厚さが下限値以上であれば、例えば、バリア性積層体のガスバリア性をより向上でき、また、無機蒸着膜におけるクラックの発生を抑制できる。厚さが上限値以下であれば、例えば、モノマテリアル包装容器の作製に好適に使用可能なバリア性積層体とすることができる。
【0133】
<接着剤層>
本開示の転写フィルムは、無機蒸着膜におけるヒートシール層側の面とは反対側の面上に、接着剤層を備えてもよい。接着剤層は、後述する転写法においては、被転写体(例えば、紙基材を備える紙部材)と、支持基材、ヒートシール層及び無機蒸着膜を備える転写フィルムとを貼り合わせるための層である。転写フィルムは接着剤層を備えなくともよく、例えば被転写体上に接着剤層を設けてもよい。
【0134】
接着剤層は、一実施形態において、無機蒸着膜と接する層である。この実施形態においては、接着剤層は、無機蒸着膜を保護する。例えば、転写フィルムに屈曲負荷が掛かった場合に、接着剤層は、無機蒸着膜におけるクラックの発生を抑制し、屈曲負荷後に無機蒸着膜に微小なクラックが生じ始めた場合においても、ガスバリア性の低下を抑制する。
接着剤層の詳細は後述するとおりであり、本欄での説明は省略する。
【0135】
<転写フィルムの層構成>
本開示の転写フィルムの層構成について、以下に数例を挙げる。
・無機蒸着膜/HS層/支持基材
・無機蒸着膜/AC層/HS層/支持基材
・保護層/無機蒸着膜/HS層/支持基材
・保護層/無機蒸着膜/AC層/HS層/支持基材
・保護層/保護層/無機蒸着膜/HS層/支持基材
・保護層/保護層/無機蒸着膜/AC層/HS層/支持基材
【0136】
「HS層」はヒートシール層を意味し、「AC層」はアンカーコート層を意味し、「/」は層間を意味する。
【0137】
[転写フィルムの製造方法]
本開示の転写フィルムの製造方法は、支持基材上にヒートシール層を形成する工程(以下「ヒートシール層形成工程」ともいう)と、ヒートシール層上にアンカーコート層を必要に応じて形成する工程(以下「アンカーコート層形成工程」ともいう)と、ヒートシール層又はアンカーコート層上に無機蒸着膜を形成する工程(以下「蒸着膜形成工程」ともいう)とを含んでいてもよい。上記製造方法は、無機蒸着膜上に保護層を形成する工程(以下「保護層形成工程」ともいう)を含んでいてもよい。
【0138】
<ヒートシール層形成工程>
ヒートシール層は、例えば、支持基材の一方の面に、ヒートシール層用塗工液を塗布し、乾燥することにより形成できる。ヒートシール層は、支持基材における易接着処理が施されていない面、又は易接着層が形成されていない面上に設けることが好ましい。
【0139】
ヒートシール層用塗工液としては、支持基材上に塗膜を形成できる塗工液であって、かつ支持基材からの優れた剥離性とともにヒートシール性を有する塗膜を形成できる塗工液が好ましい。ヒートシール層用塗工液の詳細は、上述したとおりである。
【0140】
一実施形態において、支持基材上にヒートシール層用塗工液を塗布し、乾燥する。ヒートシール層用塗工液の塗布方法としては、例えば、グラビアコート法、リバースコート法、エアーナイフコート法、コンマコート法、ダイコート法、ブレードコート法、ロールコート法、バーコート法、カーテンコート法、スプレーコート法、リップコート法及びディッピング法等の公知の塗布方法が挙げられる。
【0141】
塗布されたヒートシール層用塗工液の乾燥方法としては、例えば、熱風乾燥、熱ロール乾燥及び赤外線照射等の熱を印加する方法が挙げられる。乾燥温度は、好ましくは50℃以上150℃以下である。
【0142】
<アンカーコート層形成工程>
ヒートシール層上にアンカーコート層を設けることにより、無機蒸着膜の密着性を向上でき、また蒸着面を平滑化できる。アンカーコート層は、必要なガスバリア性の程度や、必要な層間強度によっては、設けなくともよい。
【0143】
アンカーコート剤は、例えば、上述した樹脂成分又はその前駆体樹脂(例えば熱硬化性樹脂)と、必要に応じて硬化剤と、必要に応じて添加剤と、溶剤とを混合することにより調製できる。これらの成分の詳細は、上述したとおりであり、また、溶剤としては、ヒートシール層用塗工液の溶剤と同様の溶剤が挙げられる。
【0144】
アンカーコート層は、例えば、ヒートシール層上にアンカーコート剤を塗布し、乾燥することにより形成できる。アンカーコート剤の塗布方法としては、上述した公知の塗布方法が挙げられる。塗布されたアンカーコート剤の乾燥方法としては、例えば、熱風乾燥、熱ロール乾燥及び赤外線照射等の熱を印加する方法が挙げられる。乾燥温度は、好ましくは50℃以上150℃以下である。
【0145】
<蒸着膜形成工程>
無機蒸着膜は、ヒートシール層又はアンカーコート層の一方側の面に、直接、蒸着形成された層であることが好ましい。無機蒸着膜の形成方法としては、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法及びクラスターイオンビーム法等の物理気相成長法(Physical Vapor Deposition法、PVD法);並びにプラズマ化学気相成長法、熱化学気相成長法及び光化学気相成長法等の化学気相成長法(Chemical Vapor Deposition法、CVD法)が挙げられる。無機蒸着膜は、物理気相成長法及び化学気相成長法の両者を併用して形成される、異種の層を2層以上備える複合膜でもよい。加熱手段としては、例えば、抵抗加熱手段、誘導加熱手段及び電子線加熱手段が挙げられる。
【0146】
蒸着チャンバーのガス圧力としては、10-8mbar以上10-2mbar以下が好ましい。無機化合物により構成される無機蒸着膜を形成する場合は、反応ガスとして、例えば、酸素ガス、窒素ガス又は炭酸ガス等を導入する。金属酸化物により構成される無機蒸着膜を形成する場合は、上記ガス圧力としては、酸素ガス導入後において、10-6mbar以上10-1mbar以下が好ましい。
【0147】
反応ガスの導入量は、蒸着機の大きさ等によって異なる。導入される酸素ガス等の反応ガスには、キャリヤーガスとしてアルゴンガス、ヘリウムガス及び窒素ガス等の不活性ガスを支障のない範囲で用いてもよい。
【0148】
ロール状の転写用基材を用いる場合であって、連続的に無機蒸着膜を形成する場合は、ヒートシール層及び必要に応じてアンカーコート層が形成された転写用基材の搬送速度は、例えば、10m/min以上800m/min以下である。
【0149】
無機蒸着膜の形成時には、Arガス、O又はN等を用いた前処理により、無機蒸着膜が蒸着形成される層の表面を清浄化して、当該層の表面に極性基又はフリーラジカル等を発生させることによって、無機蒸着膜と当該層との密着性を高くすることができる。
【0150】
一実施形態において、PVD法では、例えば、巻取り式蒸着機を用い、巻出しロールから繰り出した基体を蒸着チャンバー内に入れ、ここで、坩堝で熱せられた蒸着源を蒸発させ、必要により、酸素ガス吹出し口より酸素ガス等を噴出させながら、冷却したコーティングドラム上の基体上に無機蒸着膜を形成し、次いで該基体を巻取りロールに巻き取る。
【0151】
一実施形態において、PE-CVD法では、例えば、蒸着チャンバー内に例えばモノマーガスとしての有機ケイ素化合物、酸素ガス及び不活性ガス等を含む混合ガスを導入し、プラズマを発生させることにより、基体上に酸化ケイ素等により構成される無機蒸着膜を形成する。
【0152】
上記基体は、転写用基材と、ヒートシール層と、必要に応じてアンカーコート層とを備える。このようにして、転写用基材と、ヒートシール層と、必要に応じてアンカーコート層と、無機蒸着膜とを厚さ方向にこの順に備える転写フィルムが得られる。
【0153】
<保護層形成工程>
保護層は、例えば、無機蒸着膜上に保護層用塗工液を塗布し、乾燥することにより形成できる。保護層用塗工液の塗布方法としては、上述した公知の塗布方法が挙げられる。塗布された保護層用塗工液の乾燥方法としては、例えば、熱風乾燥、熱ロール乾燥及び赤外線照射等の熱を印加する方法が挙げられる。乾燥温度は、好ましくは50℃以上150℃以下である。
【0154】
保護層用塗工液は、例えば、上述した樹脂成分と、必要に応じて硬化剤と、必要に応じて添加剤と、溶剤とを混合することにより調製できる。これらの成分の詳細は、上述したとおりであり、また、溶剤としては、ヒートシール層用塗工液の溶剤と同様の溶剤が挙げられる。
【0155】
保護層としてのバリアコート層は、例えば、ガスバリア性樹脂等の材料を水又は適当な有機溶剤に溶解又は分散させ、得られた塗布液を無機蒸着膜上に塗布及び乾燥することにより形成できる。バリアコート層は、例えば、市販のバリアコート剤を塗布及び乾燥することによっても形成できる。
【0156】
バリアコート層は、一実施形態において、上述したガスバリア性塗布膜である。ガスバリア性塗布膜は、例えば、金属アルコキシドと水溶性高分子とを含有する上記組成物を、従来公知の塗布方法により塗布し、該組成物をゾルゲル法により重縮合処理することにより形成できる。
【0157】
以下、ガスバリア性塗布膜の形成方法の一実施形態について説明する。
まず、金属アルコキシド、水溶性高分子、ゾルゲル法触媒、水、有機溶剤及び必要に応じてシランカップリング剤等を混合し、組成物を調製する。該組成物中では次第に重縮合反応が進行する。
【0158】
次いで、無機蒸着膜上に、従来公知の塗布方法により、上記組成物を塗布及び乾燥する。この乾燥により、金属アルコキシド及び水溶性高分子(上記組成物がシランカップリング剤を含有する場合は、シランカップリング剤も)の重縮合反応がさらに進行し、複合ポリマーの層が形成される。
【0159】
最後に、上記組成物を好ましくは20℃以上250℃以下、より好ましくは50℃以上220℃以下の温度で、好ましくは1秒以上10分以下で加熱する。これにより、ガスバリア性塗布膜を形成できる。
【0160】
[バリア性積層体]
本開示のバリア性積層体は、一実施形態において、紙基材等の基材と、接着剤層と、無機蒸着膜と、ヒートシール層とを厚さ方向にこの順に備える。本開示のバリア性積層体は、一実施形態において、無機蒸着膜とヒートシール層との間に、アンカーコート層をさらに備える。ここで、無機蒸着膜とヒートシール層又はアンカーコート層(アンカーコート層を設ける場合)とが接している。
【0161】
本開示のバリア性積層体は、一実施形態において、紙基材等の基材と、接着剤層と、無機蒸着膜と、ヒートシール層とを厚さ方向にこの順に備える。本開示のバリア性積層体は、一実施形態において、無機蒸着膜とヒートシール層との間に、アンカーコート層をさらに備える。この実施形態のバリア性積層体は、無機蒸着膜とヒートシール層との間に剥離層を備えない。
【0162】
図3に、本開示のバリア性積層体の一実施形態を示す。図3のバリア性積層体1は、基材10と、接着剤層20と、無機蒸着膜30と、ヒートシール層40とを厚さ方向にこの順に備える。
【0163】
図4に、本開示のバリア性積層体の他の実施形態を示す。図4のバリア性積層体1は、印刷層12と、基材10と、接着剤層20と、無機蒸着膜30と、アンカーコート層32と、ヒートシール層40とを厚さ方向にこの順に備える。
【0164】
本開示のバリア性積層体は、ヒートシール層と無機蒸着膜との間に剥離層を備えないことから、これらの層間の密着強度が高い。したがって、本開示のバリア性積層体は、その製造過程及び使用中における層間剥離の発生が抑制されている。
【0165】
剥離層とは、通常、転写用支持体と転写層とを備える従来の転写フィルムにおいて、転写用支持体からの転写層の剥離性を向上させるために、転写層における転写用支持体側の表層として設けられる層である。すなわち、上記転写層は、転写用支持体側の表層として、剥離層を備える。
【0166】
剥離層とは、通常、剥離剤を含有する層である。剥離剤としては、例えば、シリコーンワックス等のワックス類、シリコーンオイル、シリコーン樹脂、フッ素樹脂及びリン酸エステルが挙げられる。剥離層は、一実施形態において、樹脂成分を含有する。樹脂成分としては、例えば、ポリオレフィン、ビニル樹脂、スチレン系樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ポリエステル、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド及びセルロース系樹脂が挙げられる。
【0167】
<基材>
本開示のバリア性積層体は、基材を備える。
【0168】
基材としては、例えば、紙基材、及び支持基材として上述した樹脂フィルムが挙げられる。これらの中でも、紙基材が好ましい。基材として紙基材を備えるバリア性積層体を、「バリア紙」ともいう。
【0169】
紙基材としては、例えば、クラフト紙、純白ロール紙、上質紙、中質紙、グラシン紙、ケント紙、加工原紙、板紙及び合成紙等の紙材が挙げられる。紙基材としては、例えば、クレーコート紙、微塗工印刷用紙、塗工印刷用紙(例えばコート紙、キャストコート紙及びアート紙)、樹脂コート紙、剥離原紙及び両面コート剥離原紙等の、紙材の片面又は両面上に目止め層又は樹脂層が形成された紙基材を用いてもよい。
【0170】
紙基材は、添加剤を含有してもよい。添加剤としては、例えば、サイズ剤、滑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、帯電防止剤、蛍光増白剤、蛍光消色剤、充填剤、補強剤、顔料及び染料が挙げられる。添加剤は、他の性能に悪影響を与えない範囲で目的に応じて、任意の量で添加できる。
【0171】
基材の接着剤層側の表面に、コロナ放電処理、オゾン処理、プラズマ処理、グロー放電処理及びサンドブラスト処理等の物理的表面処理;並びに化学薬品を用いた酸化処理等の化学的表面処理を予め施しておくこともできる。
【0172】
紙基材は、一実施形態において、上述した紙材と、紙材の接着剤層側の面上に形成された目止め層又は樹脂層とを備える。目止め層は、接着剤層を構成する接着剤が紙材中に浸透することを抑制し、接着剤層の接着力を安定させる機能を有する。
【0173】
目止め層又は樹脂層は、一実施形態において、樹脂成分を含有する。樹脂成分としては、例えば、ポリエチレン及びポリプロピレン等のポリオレフィン、塩化ビニル系樹脂及び酢酸ビニル系樹脂等のビニル樹脂、スチレン-ブタジエン共重合体等のスチレン系樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン、並びにセルロース系樹脂などの熱可塑性樹脂;並びに熱硬化性樹脂の硬化物が挙げられる。
【0174】
目止め層又は樹脂層は、一実施形態において、添加剤を含有する。添加剤としては、例えば、滑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、帯電防止剤、蛍光増白剤、蛍光消色剤、充填剤、補強剤、顔料及び染料が挙げられる。目止め層又は樹脂層は、好ましくは充填剤を含有する。充填剤としては、例えば、クレー、シリカ、炭酸カルシウム、酸化チタン及び酸化亜鉛が挙げられる。
【0175】
目止め層又は樹脂層は、例えば、塗布法又は押出コート法によって形成できる。目止め層又は樹脂層の厚さは、例えば、0.1μm以上30μm以下である。
【0176】
なお、一般的に、紙材の表面はポーラスで凹凸があるため、紙材上に無機蒸着膜を直接形成する際には、紙材表面に厚さ20μm以上の目止め層を形成しておくことが好ましい場合がある。しかしながら、本開示においては、後述する転写法によりバリア紙を製造できることから、紙材上に無機蒸着膜を直接形成する必要はない。したがって、紙材表面にこのような厚い目止めコート層を形成しなくともよい。
【0177】
また、一般的に、紙材を蒸着装置内に配置して減圧状態で無機蒸着膜を形成する際には、紙材から発生する紙粉によって、蒸着装置内を蒸着に適合した気圧まで減圧することが阻害されることがある。このような場合には、安定した無機蒸着膜の形成が困難であることから、形成された無機蒸着膜と紙材との密着性が不充分になり易く、ガスバリア性が不安定になることがある。しかしながら、本開示においては、後述する転写法によりバリア紙を製造できることから、紙材を蒸着装置内に配置して、紙材上に無機蒸着膜を直接形成する必要はない。したがって、上述した問題を回避できる。
【0178】
このように本開示では、紙基材として、紙材からなり、樹脂成分やクレー材等が含浸されていない基材を用いることができる。また本開示では、紙基材として、紙材からなり、目止め層、樹脂層及びクレーコート層をいずれも備えない基材を用いることができる。
【0179】
紙基材等の基材は、1層で構成されていてもよく、同一の又は異なる基材からなる2層以上の多層で構成されていてもよい。基材間は、従来公知の接着剤層を介して、任意の積層手段によって積層できる。
【0180】
紙基材等の基材の厚さは、好ましくは10μm以上、より好ましくは30μm以上、さらに好ましくは40μm以上であり、好ましくは1,500μm以下、より好ましくは500μm以下、さらに好ましくは300μm以下である。紙基材の坪量は、好ましくは30g/m以上、より好ましくは50g/m以上であり、好ましくは600g/m以下、より好ましくは450g/m以下である。基材が多層で構成されている場合は、基材の厚さは、多層の基材の合計の厚さを意味する。坪量についても同様である。
【0181】
このような厚さ及び/又は坪量であれば、例えば、バリア性積層体に適切な強度及び剛性を付与できる。厚さ及び/又は坪量が下限値以上であれば、例えば、バリア性積層体の製造時にカール及び波打ちの発生を抑制できる。厚さ及び/又は坪量が上限値以下であれば、強度及び剛性が適切な範囲となり、作業効率の低下を抑制できる。
【0182】
<印刷層>
本開示のバリア性積層体は、一実施形態において、紙基材等の基材上に印刷層を備える。本開示のバリア性積層体は、基材の接着剤層側とは反対側の面上、及び/又は基材の接着剤層側の面上に印刷層を備えることができ、基材の接着剤層側とは反対側の面上に印刷層を備えることが好ましい。
【0183】
印刷層は、例えば、画像を含む。画像としては、例えば、文字、図形、記号、絵柄、模様及びこれらの組合せが挙げられる。印刷層は、例えば、包装材料における内容物の表示、賞味期間の表示、製造者及び販売者の表示、装飾、並びに美感の付与のために設けられる。
【0184】
印刷層は、一実施形態において、それぞれ着色剤を含有する、熱可塑性樹脂組成物、熱硬化性樹脂組成物及びエネルギー線硬化性樹脂組成物等の印刷層用組成物を用いて形成される。具体的には、印刷層は、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂の硬化物又はエネルギー線硬化性樹脂の硬化物と、着色剤とを含有する。
【0185】
熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂及び着色剤を含有する。
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリオレフィン、ビニル樹脂、スチレン系樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ポリエステル、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、セルロース系樹脂、石油樹脂及びフッ素樹脂が挙げられる。
【0186】
熱可塑性樹脂組成物は、添加剤を含有できる。添加剤としては、例えば、滑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、帯電防止剤、蛍光増白剤、蛍光消色剤、充填剤、補強剤、顔料及び染料が挙げられる。
【0187】
熱硬化性樹脂組成物は、熱硬化性樹脂及び着色剤、必要に応じて硬化剤を含有し、加熱により硬化する組成物である。熱硬化性樹脂組成物は、一実施形態において、いわゆる熱硬化型インキである。
【0188】
熱硬化性樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル、熱硬化性ポリウレタン、シリコーン樹脂及び(メタ)アクリル系熱硬化性樹脂が挙げられる。硬化剤としては、例えば、エポキシ系硬化剤及びイソシアネート系硬化剤が挙げられる。
熱硬化性樹脂組成物は、上記添加剤を含有できる。
【0189】
エネルギー線硬化性樹脂組成物は、エネルギー線硬化性官能基を有する化合物(以下「エネルギー線硬化性化合物」ともいう)及び着色剤を含有し、エネルギー線照射により硬化する組成物である。エネルギー線硬化性樹脂組成物は、一実施形態において、いわゆる紫外線硬化型インキであり、好ましくは(メタ)アクリル系紫外線硬化型インキである。
【0190】
エネルギー線としては、例えば、紫外線、赤外線、X線及びγ線等の電磁波;並びに電子線、プロトン線及び中性子線等の荷電粒子線が挙げられる。これらの中でも、硬化速度、照射源の入手のし易さ及び価格という観点から、紫外線が好ましい。
【0191】
エネルギー線硬化性官能基としては、例えば、(メタ)アクリロイル基、ビニル基及びアリル基等のエチレン性不飽和基;並びにエポキシ基及びオキセタニル基が挙げられる。エネルギー線硬化性化合物としては、例えば、エチレン性不飽和基を有する化合物が挙げられ、エチレン性不飽和基を2つ以上有する化合物が好ましく、多官能性(メタ)アクリレート化合物がより好ましい。多官能性(メタ)アクリレート化合物としては、モノマー及びオリゴマーのいずれも用いることができる。
【0192】
エネルギー線硬化性化合物が紫外線硬化性化合物である場合、エネルギー線硬化性組成物(紫外線硬化性樹脂組成物)は、光重合開始剤及び光重合促進剤から選ばれる少なくとも1種を含有することが好ましい。
エネルギー線硬化性樹脂組成物は、上記添加剤を含有できる。
【0193】
着色剤としては、例えば、顔料及び染料が挙げられる。顔料としては、具体的には、酸化チタン、亜鉛華、カーボンブラック、酸化鉄、鉄黄、群青、メタリック顔料、パール顔料及び蛍光顔料が挙げられる。印刷層は、高い金属光沢感を有する高輝度層でもよい。
【0194】
印刷層用組成物は、塗布性等を向上させるという観点から、有機溶剤及び/又は水を含有できる。有機溶剤としては、例えば、トルエン及びキシレン等の炭化水素溶剤;アセトン及びメチルエチルケトン等のケトン溶剤;酢酸エチル、セロソルブアセテート及びブチルセロソルブアセテート等のエステル溶剤;プロパノール等のアルコール溶剤が挙げられる。
【0195】
例えば、印刷層用組成物を、紙基材等の基材上に塗布及び乾燥し、続いて、熱硬化性樹脂組成物の場合は硬化に必要な温度で加熱し、エネルギー線硬化性樹脂組成物の場合はエネルギー線を照射することにより、印刷層を形成できる。印刷層用組成物が有機溶剤及び/又は水を含有しない場合は、乾燥は不要である。
【0196】
印刷層の形成方法としては、例えば、活版印刷、フレキソ印刷、グラビア印刷、オフセット印刷、スクリーン印刷、インクジェット印刷及び熱転写印刷が挙げられる。印刷層は、基材の全面に設けてもよく、一部に設けてもよい。
【0197】
一実施形態において、印刷層は、昇華性染料を含む。この実施形態の印刷層は、例えば、熱転写シートを用いた昇華転写印刷により形成できる。
【0198】
印刷層の厚さは、好ましくは0.01μm以上、より好ましくは0.5μm以上、さらに好ましくは1μm以上であり、好ましくは30μm以下、より好ましくは10μm以下、さらに好ましくは5μm以下である。
【0199】
<接着剤層>
本開示のバリア性積層体は、基材と無機蒸着膜との間に、接着剤層を備える。接着剤層は、後述する転写法においては、紙基材を備える紙部材などの被転写体と、支持基材、ヒートシール層及び無機蒸着膜を備える転写フィルムとを貼り合わせるための層である。
【0200】
接着剤層は、一実施形態において、無機蒸着膜と接する層である。この実施形態においては、接着剤層は、無機蒸着膜を保護する。例えば、バリア性積層体に屈曲負荷が掛かった場合に、接着剤層は、無機蒸着膜におけるクラックの発生を抑制し、屈曲負荷後に無機蒸着膜に微小なクラックが生じ始めた場合においても、ガスバリア性の低下を抑制する。
【0201】
接着剤層の厚さは、好ましくは0.5μm以上、より好ましくは1μm以上であり、好ましくは20μm以下、より好ましくは10μm以下である。接着剤層の坪量は、好ましくは1g/m以上、より好ましくは2g/m以上であり、好ましくは20g/m以下、より好ましくは10g/m以下である。
【0202】
接着剤層は、従来公知の接着剤を用いて形成できる。接着剤は、1液硬化型若しくは2液硬化型、又は非硬化型のいずれの接着剤でもよい。接着剤は、無溶剤型の接着剤でもよく、溶剤型の接着剤でもよい。接着剤層は、例えば、ノンソルベント接着剤を用いたノンソルベントラミネート法により形成してもよく、ドライラミネート接着剤を用いたドライラミネート法により形成してもよい。接着剤層が形成される層上にアンカーコート層を先に形成しておいてから、接着剤層を形成してもよい。
【0203】
アンカーコート層は、例えば、イソシアネート系(ウレタン系)、ポリエチレンイミン系、ポリブタジエン系若しくは有機チタン系等のアンカーコート剤;又は(メタ)アクリル樹脂系、ポリウレタン系、ポリエステル系、エポキシ系、ポリ酢酸ビニル系、ポリ塩化ビニル系若しくはセルロース樹脂系のアンカーコート剤を用いて形成できる。
【0204】
接着剤としては、例えば、2液硬化型ウレタン系接着剤、ポリエステル系ポリウレタン接着剤、ポリエーテル系ポリウレタン接着剤、(メタ)アクリル系接着剤、ポリエステル系接着剤、ポリエーテル系接着剤、ポリアミド系接着剤、エポキシ系接着剤、ゴム系接着剤、ポリオレフィン系接着剤、酸変性ポリオレフィン系接着剤、ポリ酢酸ビニル系接着剤及びポリ塩化ビニル系接着剤が挙げられる。酸変性ポリオレフィン系樹脂は、ポリオレフィン系樹脂を、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸及びイタコン酸等の不飽和カルボン酸又はその無水物を使用して、グラフト重合又は共重合によって酸変性して得られる樹脂である。
【0205】
紙基材等の被転写体と無機蒸着膜との間の接着剤層を形成するための接着剤としては、ウレタン系樹脂組成物が好ましい。これにより、例えば、ガスバリア性接着剤層を形成できる。すなわち、接着剤層は、ウレタン系樹脂組成物を用いて形成された層であることが好ましい。ウレタン系樹脂組成物は、1分子内にヒドロキシ基を2個以上有するポリオールと、1分子内にイソシアネート基を2個以上有するイソシアネート化合物とを含有することが好ましい。ウレタン系樹脂組成物は、リン酸化合物をさらに含有してもよく、無機化合物をさらに含有してもよい。
ウレタン系樹脂組成物は、無溶剤型でもよく、溶剤型でもよい。
【0206】
上記接着剤の市販品としては、例えば、ロックペイント(株)製の、ドライラミネート接着剤(主剤RU-40/硬化剤H-1、及び主剤RU-77T/硬化剤H-7)が挙げられる。
【0207】
接着剤層及びウレタン系樹脂組成物は、添加剤を含有してもよい。添加剤としては、例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、帯電防止剤、蛍光増白剤、蛍光消色剤、充填剤、補強剤、アンチブロッキング剤、難燃化剤、架橋剤、顔料及び染料が挙げられる。
【0208】
接着剤層は、一実施形態において、好ましくは-30℃以上、より好ましくは0℃以上、さらに好ましくは25℃以上であり、好ましくは80℃以下、より好ましくは70℃以下、さらに好ましくは70℃以下の範囲にガラス転移温度(Tg)を有する。Tgが上限値以下であれば、室温付近での柔軟性に優れ、接着剤層に隣接する層への密着力に優れる傾向にある。Tgが下限値以上であれば、凝集力、よって密着力に優れる傾向にある。
【0209】
接着剤層は、例えば、ダイレクトグラビアロールコート法、グラビアロールコート法、キスコート法、リバースロールコート法、フォンテン法及びトランスファーロールコート法等の方法により、例えば基材及び/又は無機蒸着膜上に接着剤を塗布及び任意に乾燥することにより形成できる。
【0210】
≪1分子内にヒドロキシ基を2個以上有するポリオール≫
上記1分子内にヒドロキシ基を2個以上有するポリオールとしては、例えば、1分子内にヒドロキシ基を2個以上有し、主骨格としてポリエステル構造部、ポリエステルポリウレタン構造部、ポリエーテル構造部及びポリエーテルポリウレタン構造部から選ばれる少なくとも1種を有するポリオールが挙げられ、1分子内にヒドロキシ基を2個以上有し、主骨格としてポリエステル構造部及びポリエステルポリウレタン構造部から選ばれる少なくとも1種を有するポリオールが好ましく、1分子内にヒドロキシ基を2個以上有し、主骨格としてポリエステル構造部を有するポリオールがより好ましい。ポリエステル構造部は、例えば、多価カルボン酸類と多価ヒドロキシ化合物とを重縮合反応させて得ることができる。
【0211】
多価カルボン酸類とは、多価カルボン酸、並びにその無水物及びエステル形成性誘導体をいう。多価カルボン酸としては、例えば、脂肪族多価カルボン酸及び芳香族多価カルボン酸が挙げられる。
【0212】
脂肪族多価カルボン酸としては、例えば、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸及び1,4-シクロヘキサンジカルボン酸が挙げられる。
【0213】
芳香族多価カルボン酸としては、例えば、o-フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、1,2-ナフタレンジカルボン酸、1,8-ナフタレンジカルボン酸、2,3-ナフタレンジカルボン酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、2,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、ナフタル酸、ビフェニルジカルボン酸及び1,2-ビス(フェノキシ)エタン-p,p’-ジカルボン酸等のジカルボン酸;並びにトリメリット酸及びピロメリット酸等の三価以上のカルボン酸が挙げられる。これらの中でも、o-芳香族ジカルボン酸が好ましい。o-芳香族ジカルボン酸としては、例えば、o-フタル酸、1,2-ナフタレンジカルボン酸、1,8-ナフタレンジカルボン酸及び2,3-ナフタレンジカルボン酸が挙げられる。
【0214】
多価ヒドロキシ化合物としては、例えば、
エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノール、1,5-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、メチルペンタンジオール、ジメチルブタンジオール、ブチルエチルプロパンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール及びトリプロピレングリコール等の脂肪族ジオールなどの脂肪族多価アルコール;
ヒドロキノン、レゾルシノール、カテコール、ナフタレンジオール、ビフェノール、ビスフェノールA、ヒスフェノールF及びテトラメチルビフェノール、並びにこれらのアルキレンオキシド付加物等の芳香族多価フェノール;並びに
上記芳香族多価フェノールの水添化脂環族化合物;
が挙げられる。
【0215】
ポリエステル構造部又はポリエステルポリウレタン構造部を構成する多価カルボン酸類由来の構造部は、o-芳香族ジカルボン酸類由来の構造部を有することが好ましい。ポリエステル構造部又はポリエステルポリウレタン構造部を構成する多価カルボン酸類由来の構造部の70質量%以上100質量%以下が、o-芳香族ジカルボン酸類由来の構造部であることが好ましい。o-芳香族ジカルボン酸類とは、o-芳香族ジカルボン酸、並びにその無水物及びエステル形成性誘導体をいう。
【0216】
≪1分子内にイソシアネート基を2個以上有するイソシアネート化合物≫
上記1分子内にイソシアネート基を2個以上有するイソシアネート化合物は、1分子内にイソシアネート基を2個以上有していれば、芳香族化合物又は脂肪族化合物のいずれでもよく、低分子化合物又は高分子化合物のいずれでもよい。例えば、イソシアネート基を2個有するジイソシアネート化合物、及びイソシアネート基を3個以上有するポリイソシアネート化合物が挙げられる。公知のイソシアネートブロック化剤を用いて公知慣用の適宜の方法により付加反応させて得られたブロック化イソシアネート化合物も挙げられる。
【0217】
上記イソシアネート化合物としては、主骨格に芳香族環を有する化合物が好ましく、主骨格に芳香族環を含むポリウレタン構造部を有する化合物がより好ましい。
【0218】
接着性の観点から、ポリイソシアネート化合物が好ましく、ガスバリア性の観点から、芳香族環を有するポリイソシアネート化合物がより好ましい。メタキシレン骨格を含むイソシアネート化合物は、ウレタン基の水素結合だけでなく芳香環同士のπ-πスタッキングによってガスバリア性を向上できることが期待されることからより好ましい。
【0219】
上記イソシアネート化合物としては、具体的には、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トルエンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、水素化ジフェニルメタンジイソシアネート、メタキシリレンジイソシアネート、水素化キシリレンジイソシアネート及びイソホロンジイソシアネートが挙げられる。また、これらのイソシアネート化合物の3量体も挙げられる。また、これらのイソシアネート化合物の過剰量と、活性水素含有低分子化合物又は活性水素含有高分子化合物とを反応させて得られる、アダクト体、ビュレット体又はアロファネート体も挙げられる。
【0220】
活性水素含有低分子化合物としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、メタキシリレンアルコール、1,3-ビスヒドロキシエチルベンゼン、1,4-ビスヒドロキシエチルベンゼン、トリメチロールプロパン、グリセロール、ペンタエリスリトール、エリスリトール、ソルビトール、エチレンジアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン及びメタキシリレンジアミン、並びにこれらのアルキレンオキシド付加物が挙げられる。活性水素含有高分子化合物としては、例えば、ポリエステル、ポリエーテルポリオール及びポリアミドが挙げられる。
【0221】
<無機蒸着膜>
本開示のバリア性積層体は、無機蒸着膜を備える。無機蒸着膜は、ヒートシール層の一方側の面に、又はアンカーコート層を設ける場合はアンカーコート層の一方側の面に、直接、蒸着形成された層であることが好ましい。無機蒸着膜の詳細は上述したとおりであり、本欄での説明は省略する。
【0222】
<保護層>
本開示のバリア性積層体は、無機蒸着膜におけるヒートシール層側の面とは反対側の面上に、保護層を備えてもよい。これにより、例えば、無機蒸着膜の傷付きを抑制できる。保護層の詳細は上述したとおりであり、本欄での説明は省略する。
【0223】
<アンカーコート層>
本開示のバリア性積層体は、ヒートシール層と無機蒸着膜との間に、アンカーコート層をさらに備えてもよい。アンカーコート層を設けることにより、ヒートシール層と無機蒸着膜との密着性を高めることができ、これらの層間での剥離の発生を抑制できる。アンカーコート層は、例えば、その一方の面で無機蒸着膜と接しており、その他方の面でヒートシール層と接している。アンカーコート層の詳細は上述したとおりであり、本欄での説明は省略する。
【0224】
<ヒートシール層>
本開示のバリア性積層体は、一方側の表層として、ヒートシール層を備える。ヒートシール層は、一実施形態において、ヒートシール層として機能する。ヒートシール層は、例えばバリア性積層体を包装材料として用いる場合には、ヒートシール性シーラント層として機能する。また、ヒートシール層は、後述する転写法によりバリア性積層体を製造する場合には、支持基材からの剥離層としても機能する。ヒートシール層の詳細は上述したとおりであり、本欄での説明は省略する。
【0225】
<機能性層>
本開示のバリア性積層体は、上述した層の他に、機能性層を備えてもよい。機能性層は、バリア性積層体に、例えば、遮光性、機械的強度、耐変形性、耐衝撃性、耐ピンホール性、耐熱性、密封性、品質保全性、作業性及び衛生性等の機能を付与する層である。
【0226】
機能性層は、一実施形態において、樹脂成分を含有する。樹脂成分としては、例えば、ポリオレフィン、ビニル樹脂、スチレン系樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ポリエステル、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、フッ素系樹脂、セルロース系樹脂及びアイオノマー樹脂が挙げられる。
【0227】
機能性層は、その機能に応じた上記添加剤を含有できる。
機能性層の厚さは、例えば、1μm以上300μm以下である。
【0228】
<バリア紙の層構成、用途>
本開示のバリア紙の層構成について、以下に数例を挙げる。
・紙基材/接着剤層/無機蒸着膜/HS層
・紙基材/接着剤層/無機蒸着膜/AC層/HS層
・紙基材/接着剤層/保護層/無機蒸着膜/HS層
・紙基材/接着剤層/保護層/無機蒸着膜/AC層/HS層
・印刷層/紙基材/接着剤層/無機蒸着膜/HS層
・印刷層/紙基材/接着剤層/無機蒸着膜/AC層/HS層
・印刷層/紙基材/接着剤層/保護層/無機蒸着膜/HS層
・印刷層/紙基材/接着剤層/保護層/無機蒸着膜/AC層/HS層
・紙基材/接着剤層/保護層/保護層/無機蒸着膜/HS層
・紙基材/接着剤層/保護層/保護層/無機蒸着膜/AC層/HS層
・印刷層/紙基材/接着剤層/保護層/保護層/無機蒸着膜/HS層
・印刷層/紙基材/接着剤層/保護層/保護層/無機蒸着膜/AC層
/HS層
【0229】
「HS層」はヒートシール層を意味し、「AC層」はアンカーコート層を意味し、「/」は層間を意味する。
紙基材は、紙材/目止め層(又は樹脂層)でもよい。この場合は、例えば、上記層構成における「紙基材/接着剤層」の部分が、「紙材/目止め層(又は樹脂層)/接着剤層」となる。紙基材にかえて、樹脂フィルムを用いてもよく、直接蒸着することが困難な基材(例えば、木材など)を用いてもよい。
【0230】
ガスバリア性プラスチックフィルムと比べて、本開示のバリア紙は、紙基材を備えることから、紙材の含有率が高く、プラスチックの含有率が低いことによって、プラスチックごみの削減に寄与でき、また、リサイクルや生分解が容易になり、焼却炉を傷めず、焼却残差を少なくすることができる。
【0231】
本開示のバリア紙等のバリア性積層体の酸素透過度は、10cc/m/24hr/atm以下が好ましく、5cc/m/24hr/atm以下がより好ましく、3cc/m/24hr/atm以下がさらに好ましく、1.5cc/m/24hr/atm以下が特に好ましい。酸素透過度の下限値は、例えば0.01cc/m/24hr/atmでもよい。酸素透過度は、23℃及び90%RHの条件下、JIS K7126に準拠して測定される。
【0232】
本開示のバリア紙等のバリア性積層体の水蒸気透過度は、20g/m/24hr以下が好ましく、10g/m/24hr以下がより好ましく、5g/m/24hr以下がさらに好ましく、1.5g/m/24hr以下が特に好ましい。水蒸気透過度の下限値は、例えば0.01g/m/24hrでもよい。水蒸気透過度は、40℃及び90%RHの条件下、JIS K7129に準拠して測定される。
【0233】
本開示のバリア性積層体は、包装袋などの包装材料用途に好適に使用できる。上述したように本開示のバリア性積層体は層間密着性に優れ層間剥離が抑制されているので、当該バリア性積層体を備える包装材料は、その使用時等においていわゆるデラミネーションの発生が抑制されている。
【0234】
本開示の包装材料は、本開示のバリア性積層体を備える。本開示の包装材料は、必要に応じて、上記バリア性積層体とともに、種々の機能を有する層をさらに備えていてもよい。
【0235】
例えば、上記バリア性積層体を、紙基材等の基材が外側、ヒートシール層が内側に位置するように二つ折にして重ね合わせて、その端部等をヒートシールすることにより、包装材料を製造できる。また、複数の上記バリア性積層体をヒートシール層が対向するように重ね合わせて、その端部等をヒートシールすることにより、包装材料を製造できる。包装材料の全部が上記バリア性積層体で構成されていてもよく、包装材料の一部が上記バリア性積層体で構成されていてもよい。
【0236】
包装材料におけるヒートシールの形態としては、例えば、側面シール型、二方シール型、三方シール型、四方シール型、封筒貼りシール型、合掌貼りシール型(ピローシール型)、ひだ付シール型、平底シール型、角底シール型、及びガゼット型が挙げられる。また、自立性包装用袋(スタンドパウチ)も可能である。ヒートシールの方法としては、例えば、バーシール、回転ロールシール、ベルトシール、インパルスシール、高周波シール、及び超音波シールが挙げられる。
【0237】
包装材料内に充填される内容物としては、例えば、液体、粉体及びゲル体が挙げられ、食品でもよく、非食品でもよい。包装材料内に内容物を充填した後、包装材料の開口をヒートシールすることにより、包装体が得られる。
【0238】
内容物としては、具体的には、コーヒー豆、茶葉;チーズ、スナック類、米菓、生・半生菓子、ナッツ、野菜、果物、魚・肉製品、練り製品、干物、薫製、佃煮、生米、米飯類、餅、幼児食品、ジャム、マヨネーズ、ケチャップ、食用油、ドレッシング、ソース類、スパイス類、乳製品及びペットフード等の食品;ビール、ワイン、フルーツジュース、緑茶及びコーヒー等の飲料;医薬品;化粧品、シャンプー、リンス及び洗剤;並びに金属部品及び電子部品が挙げられる。
【0239】
[バリア性積層体の製造方法]
本開示のバリア性積層体は、例えば以下に記載の転写法により得られる。
上記転写法によるバリア性積層体の製造方法は、
紙基材を備える紙部材などの被転写体と、本開示の転写フィルムと、を準備する工程(以下「準備工程」ともいう)と、
被転写体と転写フィルムとを、転写フィルムの支持基材が外側、無機蒸着膜が内側(被転写体側)を向くようにして、接着剤層を介して貼り合わせて、中間積層体を得る工程(以下「貼付工程」ともいう)と、
中間積層体のヒートシール層から、上記支持基材を剥離する工程(以下「剥離工程」ともいう)と
を備える。
【0240】
図5は、本開示のバリア性積層体の製造方法の一例を示す工程図である。
【0241】
上述した貼付工程及び剥離工程により、紙部材などの被転写体上に、無機蒸着膜とヒートシール層とを厚さ方向にこの順に備える転写層を転写できる。転写法によって紙基材上に転写された無機蒸着膜の方が、紙基材に直接蒸着形成された無機蒸着膜よりも、汚染が少なく、無機蒸着膜と接着剤層との密着性が高く、均質で安定し、ガスバリア性に優れる。
【0242】
本開示の製造方法により、紙基材を用いながら、樹脂基材を用いた場合と同様に基材上に無機蒸着膜を設けることができ、これにより、優れたガスバリア性を有し、かつ環境に優しいバリア紙を得ることができる。
【0243】
また、例えば、紙基材上に無機蒸着膜を形成し、さらにヒートシール層用塗工液を無機蒸着膜上に塗布してヒートシール層を形成する方法では、当該ヒートシール層形成時に、テンションや乾燥等による無機蒸着膜のクラック又は熱ダメージによって、無機蒸着膜のガスバリア性が低下する可能性がある。本開示の製造方法では、このような低下を回避できる。また、ヒートシール層は、貼付工程における貼付時、及び剥離工程における支持基材の剥離時における、無機蒸着膜の劣化を抑制できる。
【0244】
本開示の製造方法ではこのように無機蒸着膜の劣化を抑制でき、したがって例えばバリア性積層体を包装材料として使用する場合に、曲げ、折れ及びヒートシールダメージによる劣化の度合いを低減できる。
【0245】
なお、本開示のバリア紙とは層構成が異なるバリア紙(以下「参考バリア紙」ともいう)ではあるが、紙基材/接着剤層/無機蒸着膜/剥離層/必要に応じてプライマー層/ヒートシール層という層構成を有する参考バリア紙も考えられる。
【0246】
参考バリア紙の製造方法としては、例えば、紙基材と、転写用基材、剥離層及び無機蒸着膜を備える転写フィルムとを、接着剤層を介して貼り合わせて、紙基材/接着剤層/無機蒸着膜/剥離層/転写用基材という層構成を有する積層体(1)を形成し、積層体(1)から転写用基材を剥離して、紙基材/接着剤層/無機蒸着膜/剥離層という層構成を有する積層体(2)を形成し、積層体(2)の剥離層上に、必要に応じてプライマー層と、ヒートシール層とを形成して、上記参考バリア紙を得る方法が挙げられる。以下、この製造方法を「参考転写法」ともいう。
【0247】
参考転写法は、転写法によって紙基材上に転写された無機蒸着膜の方が、紙基材に直接蒸着形成された無機蒸着膜よりも、汚染が少なく、無機蒸着膜と接着剤層との密着性が高く、均質で安定し、ガスバリア性に優れるという利点を有する。
【0248】
しかしながら、参考バリア紙は、ヒートシール層と無機蒸着膜との間に剥離層を備えることから、これらの層間の密着強度が充分ではない場合がある。また、参考転写法では、転写用基材を剥離した後に、例えば包装材料を作製する際に必要なヒートシール層(ヒートシール性シーラント層)を剥離層上に別途形成する必要があることから、製造工程数が多くなる。
【0249】
これに対して、本開示のバリア紙は、ヒートシール層と無機蒸着膜との間に剥離層を備えないことから、これらの層間の密着強度が充分高い。また、本開示の製造方法では、上記ヒートシール層が支持基材からの剥離層を兼ねており、支持基材を剥離した後に、ヒートシール層(ヒートシール性シーラント層)を別途形成する必要がないことから、製造工程数を減らすことができる。
【0250】
また、本開示の製造方法では、一実施形態において、ヒートシール層及び無機蒸着膜を、薄膜の支持基材上に予め形成する。転写フィルムの製造においては、紙基材よりも広幅・長尺での加工が可能であるため、バリア紙の単位面積当たりのコストを低減できる。
【0251】
このように、参考バリア紙及び参考転写法は、いずれも優れた利点を有するが、本開示のバリア紙及びその製造方法は、上述した点においてさらに優れており、有利な効果を奏するといえる。
【0252】
<準備工程>
準備工程では、紙部材などの被転写体と、転写フィルムとを準備する。
【0253】
被転写体としては、例えば、紙部材が挙げられる。
紙部材は、紙基材を備える。紙部材は、枚葉シートでもよく、ロール状に巻回された連続シートでもよい。
【0254】
紙部材は、紙基材のみを備えていてもよく、紙基材と、紙基材上に設けられた印刷層とを備えていてもよい。紙部材は、紙基材の接着剤層が設けられる面とは反対側の面上に印刷層を備えることが好ましい。準備工程において、紙基材上に印刷層を形成して紙部材を作製してもよく、予め紙基材上に印刷層が設けられた紙部材を使用してもよい。貼付工程と剥離工程との間、又は剥離工程の後に印刷層を形成してもよいが、ガスバリア性の低下を抑制するという観点から、貼付工程前に印刷層を形成することが好ましい。
【0255】
紙基材は、紙材のみを備えていてもよく、紙材と、紙材上に形成された目止め層又は樹脂層とを備えていてもよい。紙材上に目止め層又は樹脂層が設けられた紙基材を用いることにより、接着剤が紙材中に浸透することを抑制し、接着剤層の接着力を安定させることができる。準備工程において、紙材上に目止め層又は樹脂層を形成して紙基材を作製してもよく、コート紙等の、予め紙材上に目止め層又は樹脂層が設けられた紙基材を使用してもよい。
【0256】
紙基材には、接着剤層が設けられる面とは反対側の面に、上述した印刷層の形成のほかに、例えば、箔押し加工、エンボス加工及び賦形処理などの加飾を行ってもよい。このようにして得られた紙部材を用いてもよい。貼付工程と剥離工程との間、又は剥離工程の後に加飾を行ってもよいが、ガスバリア性の低下を抑制するという観点から、貼付工程前に加飾を行うことが好ましい。
各要素の詳細は上述したとおりであり、ここでは記載を省略する。
【0257】
被転写体として、支持基材として上述した樹脂フィルムを用いてもよい。その他、直接蒸着することが困難な基材(例えば、木材など)を用いてもよい。
【0258】
準備工程では、あらかじめ作製された本開示の転写フィルムを準備する。
【0259】
<貼付工程>
貼付工程では、紙部材などの被転写体と、転写フィルムとを、転写フィルムの支持基材が外側、無機蒸着膜が内側(被転写体側)を向くようにして、接着剤層を介して貼り合わせて、中間積層体を得る(図5(A)及び(B)参照)。一実施形態において、紙基材と無機蒸着膜との間に接着剤層を設けることにより、紙基材の表面が粗い場合であっても、無機蒸着膜を安定して貼り合わせることができる。
【0260】
貼付工程では、接着剤層は、被転写体と転写フィルムとのどちらに形成してもよく、両方に形成してもよく、被転写体と転写フィルムとの間に接着剤を供給して、接着剤層の形成と、被転写体及び転写フィルムの接着とを同時に行ってもよい。
【0261】
貼付工程では、一実施形態において、被転写体上に接着剤層を形成し、当該接着剤層に転写フィルムを貼り合わせる。一実施形態において、紙部材における目止め層又は樹脂層上に接着剤層を形成することが好ましい。
【0262】
貼付工程では、一実施形態において、転写フィルム上に接着剤層を形成し、当該接着剤層に被転写体を貼り合わせる。接着剤層は、転写フィルムにおける支持基材とは反対側の面上に形成する。一実施形態において、転写フィルムにおける無機蒸着膜上に接着剤層を形成することが好ましい。
【0263】
貼付工程では、一実施形態において、被転写体上に接着剤層を形成し、転写フィルム上に接着剤層を形成し、被転写体と転写フィルムとを両者の接着剤層が接するように貼り合わせる。
【0264】
具体的な接着剤層の形成方法としては、例えば、液状接着剤組成物の塗布によって塗布層を形成する方法、ドライラミネート接着剤を用いたドライラミネート法、及びノンソルベント接着剤を用いたノンソルベントラミネート法が挙げられる。
【0265】
接着剤層の形成に先んじて、アンカーコート層を形成しておいてから、接着剤層を形成して、接着剤層の密着性を向上させてもよい。アンカーコート剤は、塗布及び乾燥によって形成することが好ましい。
【0266】
貼付工程は、接着剤の種類及び特性、接着剤層の形成方法に応じて、一般的な公知の装置、温度及び圧力によって行うことができる。例えば、ドライラミネート法によって接着剤層を形成する場合には、一実施形態において、被転写体及び/又は転写フィルム上にドライラミネート接着剤を塗布及び乾燥して接着剤層を形成し、被転写体と転写フィルムとを接着剤層を介して重ね合わせ、次いで加圧して、中間積層体を得る。必要に応じて加熱してもよい。
【0267】
貼付工程での中間積層体の加圧方法及び圧力は、無機蒸着膜を極力損傷させないように選択、設定することが好ましい。加圧時の圧力は、0.1MPa以上10MPa以下が好ましい。例えば、接着剤層を加熱によって軟化させてから貼り合わせてもよい。接着剤の組成によっては、貼り合わせ後に加熱によって接着剤層を硬化させてもよい。
【0268】
<剥離工程>
剥離工程では、中間積層体のヒートシール層から、支持基材を剥離する(図5(C)参照)。例えば、被転写体と転写フィルムとの間の接着剤層による充分な接着強度が発現した後、中間積層体から、支持基材を剥離する。剥離は、接着剤層の種類及び特性、接着剤層の形成方法に応じて、公知の装置及び温度によって行うことができる。
【0269】
一実施形態において、被転写体と転写フィルムとを接着剤層を介して貼り合わせながら、転写フィルムの支持基材を剥離してもよい。
このようにして、本開示のバリア紙等のバリア性積層体が得られる。
【0270】
例えば、中間積層体がロール状に巻回された連続シートである場合には、離型ロールを用いて、中間積層体のヒートシール層から支持基材を連続的に剥離して、バリア性積層体及び支持基材それぞれを巻き取ってもよい。
【0271】
本開示は、例えば以下の[1]~[19]に関する。
[1]支持基材と、ヒートシール層と、無機蒸着膜とを厚さ方向にこの順に備える転写フィルムであって、前記無機蒸着膜と前記ヒートシール層とが接しているか、又は、前記転写フィルムが、前記無機蒸着膜と前記ヒートシール層との間にアンカーコート層をさらに備え、前記無機蒸着膜と前記アンカーコート層とが接している、転写フィルム。
[2]前記無機蒸着膜が、前記ヒートシール層の一方側の面に、直接、蒸着形成されてなる、前記[1]に記載の転写フィルム。
[3]前記無機蒸着膜が、前記アンカーコート層の一方側の面に、直接、蒸着形成されてなる、前記[1]に記載の転写フィルム。
[4]前記無機蒸着膜上に保護層をさらに備える、前記[1]~[3]のいずれか一項に記載の転写フィルム。
[5]前記無機蒸着膜が、アルミニウム、酸化アルミニウム及び酸化ケイ素から選ばれる少なくとも1種を含有する、前記[1]~[4]のいずれか一項に記載の転写フィルム。
[6]前記ヒートシール層のナノインデンテーション法によるインデンテーション硬さが0.15GPa以下であり、複合弾性率が2.0GPa以下である、前記[1]~[5]のいずれか一項に記載の転写フィルム。
[7]前記アンカーコート層の、サーマルプローブを用いた局所熱分析で測定される転移点が、90℃以上140℃以下である、前記[1]~[6]のいずれか一項に記載の転写フィルム。
[8]飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)を用いて、前記転写フィルムをエッチングしながら測定される、アンカーコート層におけるNO イオンの規格化強度が、3.0以上4.2以下である、前記[1]~[7]のいずれか一項に記載の転写フィルム。
[前記規格化強度は、TOF-SIMSによるNO イオンの検出強度をCNイオンの検出強度により除して100000倍することにより規格化を行い、NO イオンの規格化後の検出強度の平均値の常用対数値を意味する。]
[9]基材と、接着剤層と、無機蒸着膜と、ヒートシール層とを厚さ方向にこの順に備えるバリア性積層体であって、前記無機蒸着膜と前記ヒートシール層とが接しているか、又は、前記バリア性積層体が、前記無機蒸着膜と前記ヒートシール層との間にアンカーコート層をさらに備え、前記無機蒸着膜と前記アンカーコート層とが接している、バリア性積層体。
[10]前記無機蒸着膜が、前記ヒートシール層の一方側の面に、直接、蒸着形成されてなる、前記[9]に記載のバリア性積層体。
[11]前記無機蒸着膜が、前記アンカーコート層の一方側の面に、直接、蒸着形成されてなる、前記[9]に記載のバリア性積層体。
[12]基材と、接着剤層と、無機蒸着膜と、ヒートシール層とを厚さ方向にこの順に備えるバリア性積層体であって、前記無機蒸着膜と前記ヒートシール層との間に剥離層を備えない、バリア性積層体。
[13]前記無機蒸着膜と前記ヒートシール層との間に、アンカーコート層をさらに備える、前記[12]に記載のバリア性積層体。
[14]前記無機蒸着膜が、アルミニウム、酸化アルミニウム及び酸化ケイ素から選ばれる少なくとも1種を含有する、前記[9]~[13]のいずれか一項に記載のバリア性積層体。
[15]前記基材が紙基材である、前記[9]~[14]のいずれか一項に記載のバリア性積層体。
[16]前記紙基材が、紙材と、前記紙材の前記接着剤層側の面上に形成された目止め層又は樹脂層とを備える、前記[15]に記載のバリア性積層体。
[17]紙基材と、接着剤層と、無機蒸着膜と、ヒートシール層とを厚さ方向にこの順に備えるバリア性積層体であって、前記無機蒸着膜と前記ヒートシール層とが接しているか、又は、前記バリア性積層体が、前記無機蒸着膜と前記ヒートシール層との間にアンカーコート層をさらに備え、前記無機蒸着膜と前記アンカーコート層とが接しており、前記紙基材が、紙材からなり、目止め層、樹脂層及びクレーコート層をいずれも備えない、バリア性積層体。
[18]前記基材の前記接着剤層側とは反対側の面上に、印刷層をさらに備える、前記[9]~[17]のいずれか一項に記載のバリア性積層体。
[19]前記接着剤層の厚さが、0.5μm以上20μm以下である、前記[9]~[18]のいずれか一項に記載のバリア性積層体。
【実施例
【0272】
以下の実施例に基づき本開示の転写フィルム及びバリア性積層体等をより詳細に説明するが、本開示の転写フィルム及びバリア性積層体はこれら実施例のみに限定されない。
【0273】
実施例で用いた主な製品は下記の通りである。
[紙基材]
・紙基材A:大王製紙(株)製、リュウオウコート、枚葉シート、
坪量55g/m、片面コート品。
・紙基材B:大王製紙(株)製、リュウオウコート、枚葉シート、
坪量80g/m、片面コート品。
・紙基材C:大王製紙(株)製、ナゴヤ晒竜王、枚葉シート、
坪量50g/m、片艶品。
【0274】
[接着剤]
・接着剤A:ロックペイント(株)製、ドライラミネート用接着剤、
RU-40/H-1=15/2質量比、
使用時は、ドライラミネート法により接着。
・接着剤B:ロックペイント(株)製、ドライラミネート用接着剤、
RU-77T/H-7=10/1質量比、
使用時は、ドライラミネート法により接着。
【0275】
[実施例]
[実施例1A:転写フィルムAの作製]
PETフィルム(東洋紡(株)製、厚さ12μm、片面コロナ処理品)の非コロナ処理面に、下記組成を有するヒートシール層用塗工液をグラビアコート法により塗布し乾燥して、厚さ5μmのヒートシール層を形成した。主剤としてポリエステル(東洋紡(株)製、商品名:バイロン(登録商標)UR1700)と、硬化剤としてXDI系イソシアネート(三井化学(株)製、商品名:タケネートD110N)と、添加剤としてニトロセルロースとを、主剤:硬化剤:ニトロセルロース(固形分質量比率)=1:1:1で混合して、アンカーコート剤を調製した。ヒートシール層上に、アンカーコート剤をグラビアコート法により塗布し乾燥して、厚さ500nmのアンカーコート層を形成した。アンカーコート層上に、物理気相成長法によって、無機蒸着膜として厚さ45nmのアルミニウム蒸着膜を形成した。アルミニウム蒸着膜上に、ウレタン樹脂及びシランカップリング剤を含有する保護層用塗工液をグラビアコート法により塗布し乾燥して、厚さ750nmの保護層を形成した。このようにして、PETフィルム/ヒートシール層/アンカーコート層/アルミニウム蒸着膜/保護層という層構成を有する転写フィルムAを得た。
【0276】
(ヒートシール層用塗工液)
・ケミパール(登録商標)S120
(三井化学(株)、水系アイオノマーエマルション、組成:エチレン-メタクリル酸共重合体の金属塩、自己乳化型エマルション)
【0277】
[実施例1B:転写フィルムBの作製]
無機蒸着膜として厚さ20nmの酸化アルミニウム蒸着膜を形成したこと以外は、転写フィルムAの作製と同様にして、PETフィルム/ヒートシール層/アンカーコート層/酸化アルミニウム蒸着膜/保護層という層構成を有する転写フィルムBを得た。
【0278】
[実施例1C:転写フィルムCの作製]
無機蒸着膜として物理気相成長法によって厚さ35nmの酸化ケイ素蒸着膜を形成したこと以外は、転写フィルムAの作製と同様にして、PETフィルム/ヒートシール層/アンカーコート層/酸化ケイ素蒸着膜/保護層という層構成を有する転写フィルムCを得た。
【0279】
[実施例1]
紙基材A(A4サイズ)のコート面に、接着剤Aを、乾燥後の坪量が3.0g/mになるように塗布及び乾燥して、接着剤A層を形成した。
【0280】
紙基材Aの接着剤A層面と、転写フィルムA(A4サイズ)の保護層面とを対向させて、両者を貼り合わせて、0.5MPaで加圧して、次いで40℃で3日間エージングを行った。このようにして、紙基材A[紙材/コート層]/接着剤A層/保護層/アルミニウム蒸着膜/アンカーコート層/ヒートシール層/PETフィルムという層構成を有する中間積層体を得た。
上記中間積層体中のPETフィルムを剥離して、バリア紙を得た。
【0281】
[実施例2~6]
表1の記載に従って、紙基材の種類、接着剤の種類、及び転写フィルムを変更したこと以外は実施例1と同様の手順にて、バリア紙を得た。
【0282】
[参考例]
[参考例1A:参考転写フィルムAの作製]
PETフィルム(東洋紡(株)製、厚さ12μm、片面コロナ処理品)のコロナ処理面に、剥離剤希釈液(昭和インク(株)製の剥離剤k-45-3:酢酸エチル=1:1質量比混合品)を、乾燥後の坪量が1.0g/mになるようにバーコート法によって塗布し、80℃のオーブンで1分間乾燥させて剥離層を形成して、PETフィルムと剥離層とを備える剥離基材を得た。剥離層上に、物理気相成長法によって、無機蒸着膜として厚さ45nmのアルミニウム蒸着膜を形成した。アルミニウム蒸着膜上に、ウレタン樹脂及びシランカップリング剤を含有する保護層用塗工液をグラビアコート法により塗布し乾燥して、厚さ750nmの保護層を形成した。このようにして、PETフィルム/剥離層/アルミニウム蒸着膜/保護層という層構成を有する参考転写フィルムAを得た。
【0283】
[参考例1B:参考転写フィルムBの作製]
無機蒸着膜として厚さ20nmの酸化アルミニウム蒸着膜を形成したこと以外は、参考転写フィルムAの作製と同様にして、PETフィルム/剥離層/酸化アルミニウム蒸着膜/保護層という層構成を有する参考転写フィルムBを得た。
【0284】
[参考例1C:参考転写フィルムCの作製]
無機蒸着膜として物理気相成長法によって厚さ35nmの酸化ケイ素蒸着膜を形成したこと以外は、参考転写フィルムAの作製と同様にして、PETフィルム/剥離層/酸化ケイ素蒸着膜/保護層という層構成を有する参考転写フィルムCを得た。
【0285】
[参考例1]
紙基材A(A4サイズ)のコート面に、接着剤Aを、乾燥後の坪量が3.0g/mになるように塗布及び乾燥して、接着剤A層を形成した。紙基材Aの接着剤A層面と、参考転写フィルムA(A4サイズ)の保護層面とを対向させて、両者を貼り合わせて、0.5MPaで加圧して、次いで40℃で3日間エージングを行った。このようにして、紙基材A[紙材/コート層]/接着剤A層/保護層/アルミニウム蒸着膜/剥離層/PETフィルムという層構成を有する積層体を得た。
【0286】
上記積層体中のPETフィルムを剥離し、剥離層上にプライマー層用塗工液を塗布及び乾燥してプライマー層を形成した。プライマー層上に、上記組成を有するヒートシール層用塗工液を塗布及び乾燥して、厚さ5μmのヒートシール層を形成した。
以上のようにして、参考バリア紙を得た。
【0287】
[参考例2~6]
表2の記載に従って、紙基材の種類、接着剤の種類、及び参考転写フィルムを変更したこと以外は参考例1と同様の手順にて、参考バリア紙を得た。
【0288】
[評価1]
<密着性>
厚さ70μmの無延伸ポリプロピレンフィルムに2液硬化型ポリウレタン系接着剤を塗工し、乾燥処理した後、厚さ15μmの延伸ナイロンフィルムをドライラミネートして、積層フィルムを得た。バリア紙又は参考バリア紙のヒートシール層側に2液硬化型ポリウレタン系接着剤を塗工し、乾燥処理した後、上記積層フィルムをドライラミネートして、積層複合フィルムを得た。
【0289】
上記積層複合フィルムを48時間エージング処理した後、15mm巾の短冊状にカットして、試験片を得た。試験片について、引張試験機(株式会社オリエンテック製[機種名:テンシロン万能材料試験機])を用いて、JIS K6854-2に準拠し、密着強度(剥離力)を測定した。
【0290】
測定は、測定のために事前に剥離したポリプロピレンフィルム側と(参考)バリア紙側とをそれぞれ測定器のつかみ具で把持し、ポリプロピレンフィルムと(参考)バリア紙とがまだ積層されている部分の面方向に対して直交する方向において互いに逆向きに(180°剥離:T字剥離法)、50mm/minの速度で引っ張り、安定領域における引張応力の平均値を測定し、密着強度(N/15mm)を得た。以下の評価基準に従い、(参考)バリア紙を評価した。
【0291】
<評価基準>
・AA:密着強度が高く、包装材料等の実際の用途へ良好に適用できる。
・BB:密着強度は中程度であるが、
包装材料等の実際の用途への適用は問題ない。
・CC:密着強度が非常に低く、
包装材料等の実際の用途への適用は困難である。
【0292】
【表1】
【0293】
【表2】
【0294】
実施例で得られたバリア紙は、無機蒸着膜とヒートシール層との間に剥離層を備えないことから、無機蒸着膜とヒートシール層との間に剥離層を備える参考バリア紙と比べて、より良好な層間密着性を示した。
【0295】
[試験例1A]
実施例1Aと同様の手順にて、PETフィルム/ヒートシール層/アンカーコート層/アルミニウム蒸着膜(厚さ40nm)/保護層という層構成を有する転写フィルムを得た。この転写フィルムを用いて、実施例1と類似の手順にて、ヒートシール層/アンカーコート層/アルミニウム蒸着膜(厚さ40nm)/保護層/接着剤層/紙(一般紙)という層構成を有するバリア紙を得た。
【0296】
[試験例2A]
ケミパール(登録商標)S120を用いてヒートシール層を形成することにかえてポリエステル系剥離剤を用いて剥離層を形成したこと以外は試験例1Aと同様の手順にて、PETフィルム/ポリエステル系剥離層/アンカーコート層/アルミニウム蒸着膜(厚さ40nm)/保護層という層構成を有する参考転写フィルム、及びポリエステル系剥離層/アンカーコート層/アルミニウム蒸着膜(厚さ40nm)/保護層/接着剤層/紙(一般紙)という層構成を有する参考バリア紙を得た。
【0297】
[試験例3A]
ケミパール(登録商標)S120を用いてヒートシール層を形成することにかえてポリカーボネート系剥離剤を用いて剥離層を形成したこと以外は試験例1Aと同様の手順にて、PETフィルム/ポリカーボネート系剥離層/アンカーコート層/アルミニウム蒸着膜(厚さ40nm)/保護層という層構成を有する参考転写フィルム、及びポリカーボネート系剥離層/アンカーコート層/アルミニウム蒸着膜(厚さ40nm)/保護層/接着剤層/紙(一般紙)という層構成を有する参考バリア紙を得た。
【0298】
[評価2]
<インデンテーション硬さ及び複合弾性率の測定>
試験例1Aの転写フィルム及び試験例2A~3Aの参考転写フィルムについて、ナノインデンテーション法に基づき、ナノインデンター(ブルカー社製の「TI950 TriboIndenter」)を用いて、ヒートシール層又は剥離層の断面を測定面として、インデンテーション硬さ(HIT)及び複合弾性率(E)をそれぞれ求めた。ナノインデンターの圧子としては、Berkovich圧子(三角錐圧子;Berkovich_TI0039)を用いて測定した。測定は同一断面において10箇所以上で実施し、インデンテーション硬さHIT及び複合弾性率Eは、それぞれ、再現良く測定された10箇所の値の算術平均値として記載した。
【0299】
測定条件は、押込み深さ制御方式(押込み深さ100nm一定、負荷10秒/保持5秒/除荷10秒)を採用し、具体的には以下のとおりである。10秒間かけて、ヒートシール層又は剥離層の断面から押込み深さ100nmまで圧子をヒートシール層又は剥離層に押し込み、その状態で5秒間保持した。続いて10秒間かけて除荷した。これにより、最大荷重Pmax、最大深さ時の接触投影面積A及び荷重-変位曲線を得ることができ、得られた荷重-変位曲線から、インデンテーション硬さ及び複合弾性率の値を算出した。測定は室温(23℃)環境下にて実施した。圧子を押し込む箇所は、ヒートシール層又は剥離層の断面が露出した部分のうち、ヒートシール層又は剥離層の厚さ方向における中央部付近とした。上記断面は、(参考)転写フィルムの主面に対して垂直となる厚さ方向に切断して得られる。断面作製は、(参考)転写フィルムを包埋樹脂によって包埋したブロックを作製し、市販の回転式ミクロトームを用いて室温(23℃)環境下にて、該ブロックを切断することにより実施した。仕上げはダイヤモンドナイフにて実施した。各層の厚さも、上記断面を観察することにより測定できる。
【0300】
<ガスバリア性評価>
試験例1Aのバリア紙又は試験例2A~3Aの参考バリア紙を切り出して、試験片を得た。この試験片を用いて、酸素透過度(cc/m/24hr/atm)及び水蒸気透過度(g/m/24hr)を、以下の方法により測定した。また、(参考)バリア紙を4つ折りにした後に元に戻した試験片についても、これらの物性を測定した。
【0301】
酸素透過度測定装置(MOCON社製、OX-TRAN2/20)を用いて、試験片の紙基材側が酸素供給側になるようにセットして、JIS K7126に準拠して、23℃及び90%RH環境下における酸素透過度(OTR;単位:cc/m/24hr/atm)を測定した。OTRが1.5以下である場合をAA、OTRが1.5超3.0以下である場合をBB、OTRが3.0超である場合をCCと評価した。
【0302】
水蒸気透過度測定装置(MOCON社製、PERMATRAN-w 3/33)を用いて、試験片の紙基材側が水蒸気供給側になるようにセットして、JIS K7129に準拠して、40℃及び90%RH環境下における水蒸気透過度(WVTR;単位:g/m/24hr)を測定した。WVTRが1.5以下である場合をAA、WVTRが1.5超5.0以下である場合をBB、WVTRが5.0超である場合をCCと評価した。
【0303】
【表3】
【0304】
[試験例1B]
実施例1Cと同様の手順にて、PETフィルム/ヒートシール層/アンカーコート層/酸化ケイ素蒸着膜/保護層という層構成を有する転写フィルムを得た。ただし、アンカーコート剤において、主剤及び硬化剤の合計量100質量部に対して、ニトロセルロースの含有量を0質量部に変更した。
【0305】
[試験例2B~4B]
アンカーコート剤において、主剤及び硬化剤の合計量100質量部に対して、ニトロセルロースの含有量を5質量部(試験例2B)、50質量部(試験例3B)及び200質量部(試験例4B)に変更したこと以外は試験例1Bと同様の手順にて、転写フィルムを得た。
【0306】
[評価3]
<転移点の測定>
上記<インデンテーション硬さ及び複合弾性率の測定>と同様にして、転写フィルムを包埋樹脂によって包埋したブロックを作製し、市販の回転式ミクロトームを用いて室温(23℃)環境下にて、該ブロックを切断することにより、転写フィルムの断面を作製した。仕上げはダイヤモンドナイフにて実施した。
【0307】
測定装置としてANASYS INSTRUMENT社製nanoTA、サーマルプローブとしてANASYS INSTRUMENTS社製PR-EX-AN2-300-5を用いた。
【0308】
測定前に、以下のキャリブレーションを行った。
標準試料として、BRUKER社製nanoTA Calibration Samplesを準備した。標準試料の台には、軟化点が公知であるポリカプロラクトン(軟化点:55℃)、ポリエチレン(軟化点:116℃)、ポリエチレンテレフタレート(軟化点:235℃)が載っている。各標準試料の表面にサーマルプローブを接触させながら加熱した。加熱中に、サーマルプローブ直下の熱膨張を計測し、Voltage(電位)に対するDeflection(変位)を表すグラフを取得した。装置で設定する測定条件は以下の通りとした。
測定開始温度:0.1V
測定終了温度:10V
昇温速度:0.2V/sec
【0309】
各標準試料の軟化点を用い、電位に対するサーマルプローブの変位を表すグラフを温度に対する変位のグラフに変換した。以上のようにして、キャリブレーションを行った。
【0310】
キャリブレーション後、アンカーコート層の転移点を測定した。転移点の測定箇所は、アンカーコート層の断面が露出した部分のうち、アンカーコート層の厚さ方向における中央部付近とした。測定は同一断面において5箇所以上で実施し、転移点は再現良く測定された5箇所の値の算術平均値として記載した。
【0311】
測定は、アンカーコート層の断面にサーマルプローブを接触させ、サーマルプローブを接触させた状態で、下記条件で加熱し、温度に対するサーマルプローブの変位を表すグラフ(熱膨張曲線)を取得した。
測定開始温度:40℃
測定終了温度:350℃
昇温速度:5℃/sec
【0312】
得られた熱膨張曲線において、最も低温側に現れた転移点を取得した。
熱膨張曲線のピークが得られた場合は、熱膨張曲線のピークの温度を転移点とした。熱膨張曲線の最高変位から、連続的な変位の下降が0.2V以上計測された熱膨張曲線は、ピークが得られたとみなした。
【0313】
ただし、熱膨張曲線のピークが得られず「肩ピーク」が得られた場合、又はピークが得られる温度より低温側で「肩ピーク」が見られた場合は、「肩ピーク」の温度を転移点とした。「肩ピーク」は、明瞭な凸形状でないが、熱膨張曲線の傾き(変位/温度)が変化し、熱膨張曲線の傾きが0近くまで小さくなった点と定義する。具体的に、熱膨張曲線の傾きが変化するより低温側の接線における傾きの絶対値(=傾き)と、熱膨張曲線の傾きが変化するより高温側の接線における傾きの絶対値(=傾き)が、(傾き)>{(傾き)×5}の関係を満たし、かつ(傾き)≦0.02V/℃のとき、熱膨張曲線に「肩ピーク」を有するとみなした。接線は、熱膨張曲線が比較的安定した直線に近い部分で引いた。「肩ピーク」を有するとみなした熱膨張曲線は、熱膨張曲線の傾きが変化する前後で引かれた接線の交点の温度を転移点とした。
【0314】
<TOF-SIMS測定>
アンカーコート層におけるNO イオンの規格化強度を、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)を用いて測定した。具体的には、飛行時間型二次イオン質量分析計(ION TOF社製、TOF.SIMS5)を用いて、転写フィルムの保護層表面からPETフィルム側へ、Cs(セシウム)イオン銃により一定の速度でソフトエッチングを繰り返しながら、各層における各種イオンの質量分析を行った。アンカーコート層では、樹脂成分由来のCNイオン(質量数26.002)、及びニトロセルロース由来のNO イオン(質量数45.992)の質量分析を行った。
【0315】
具体的なTOF-SIMSの測定条件は以下のとおりである。
・一次イオン種類:Bi ++(0.2pA、100μs)
・測定面積 :150×150μm
・エッチング銃の種類:Cs(1keV、60nA)
・エッチング面積:600×600μm
・エッチングレート:10sec/Cycle
・真空引き時間:1×10-6mbar以下で15時間以上
・TOF-SIMS測定は、真空引き開始後、30時間以内に行った。
【0316】
図6に、CNイオンの検出強度による上記規格化前のTOF-SIMS測定の一例を示す。図6では、簡単のため、CNイオン、NO イオン及びSiOの検出強度のみ示す。グラフの縦軸の単位(intensity)は、検出されたイオンの強度を示し、横軸の単位(s)は、エッチング時間を示す。
【0317】
<ガスバリア性評価>
試験例1B~4Bの転写フィルムを用いて、実施例1と類似の手順にて、ヒートシール層/アンカーコート層/酸化ケイ素蒸着膜/保護層/接着剤層/紙(一般紙)という層構成を有するバリア紙を得た。バリア紙を切り出して、試験片を得た。この試験片を用いて、酸素透過度(cc/m/24hr/atm)及び水蒸気透過度(g/m/24hr)を上記方法と同様に測定した。
【0318】
OTRが1.5以下である場合をAA、OTRが1.5超3.0以下である場合をBB、OTRが3.0超である場合をCCと評価した。
WVTRが0.6以下である場合をSSS、WVTRが0.6超1.0以下である場合をSS、WVTRが1.0超である場合をSと評価した。
【0319】
<外観評価>
アンカーコート層形成時における外観を目視で評価した。
・AA:良好
・BB:部分的にブロッキング痕あり
・CC:部分的に膜剥がれあり
【0320】
【表4】
【0321】
試験例1B、2B及び4Bのバリア紙は、実使用上問題ないWVTR及びOTRを有していた。試験例3Bのバリア紙は、試験例1B、2B及び4Bのバリア紙と比較して、WVTR及びOTRがさらに優れていた。試験例1B、2B及び4Bにおけるアンカーコート層は、実使用上問題ない外観を有していた。試験例3Bにおけるアンカーコート層は、試験例1B、2B及び4Bにおけるアンカーコート層と比較して、外観がさらに優れていた。
【0322】
当業者であれば理解するように、本開示の転写フィルム及びバリア性積層体等は上記実施例の記載によって限定されず、上記実施例及び明細書は本開示の原理を説明するためのものにすぎず、本開示の主旨及び範囲から逸脱しない限り、様々な改変又は改善を行うことができ、これら改変又は改善はいずれも保護請求している本開示の範囲内に含まれる。さらに本開示が保護請求している範囲は、請求の範囲の記載のみならずその均等物を含む。
【符号の説明】
【0323】
1・・・バリア性積層体
2・・・転写フィルム
10・・・基材
12・・・印刷層
20・・・接着剤層
30・・・無機蒸着膜
32・・・アンカーコート層
40・・・ヒートシール層
50・・・支持基材(転写用基材)
図1
図2
図3
図4
図5
図6