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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-29
(45)【発行日】2025-02-06
(54)【発明の名称】ハブリッドフルオロポリマー電解質膜
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/056 20100101AFI20250130BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20250130BHJP
   H01M 50/426 20210101ALI20250130BHJP
   H01M 50/446 20210101ALI20250130BHJP
【FI】
H01M10/056
H01M10/052
H01M50/426
H01M50/446
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2022516438
(86)(22)【出願日】2020-07-28
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-22
(86)【国際出願番号】 EP2020071265
(87)【国際公開番号】W WO2021052663
(87)【国際公開日】2021-03-25
【審査請求日】2023-06-28
(31)【優先権主張番号】19197491.4
(32)【優先日】2019-09-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】524170522
【氏名又は名称】サイエンスコ エスアー
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】バスクル, ドミニク
(72)【発明者】
【氏名】ミュラー, ギヨーム
(72)【発明者】
【氏名】マズジ, メヌアル
【審査官】山下 裕久
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-521481(JP,A)
【文献】特表2017-525085(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第109326822(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0197375(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05-0587
H01M 50/40-497
H01M 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気化学デバイス用のフルオロポリマーハイブリッド有機/無機複合材料を含むフルオロポリマー電解質膜を製造するための方法であって、
a)i)少なくとも1種のフルオロポリマーをii)少なくとも1種の液体媒体中に溶解させる工程であって、i)少なくとも1種のフルオロポリマーが、
- 少なくとも1種のエチレン性不飽和フッ素化モノマーに由来する少なくとも1種の第1の繰り返し単位と、
- 少なくとも1つのヒドロキシル基を有する少なくとも1種のエチレン性不飽和モノマーに由来する少なくとも1種の第2の繰り返し単位と、
を含む工程;
b)i)少なくとも1種のフルオロポリマーの前記ヒドロキシル基の少なくとも一部を、iii)式(I)の少なくとも1種の金属化合物
4-mAY (I)
(式中、mは1~3の整数であり、AはSi、Ti、及びZrからなる基から選択される金属であり、Yは加水分解性基であり、Xは少なくとも1つのイソシアネート(-N=C=O)官能基を含む炭化水素基である)
と反応させ、それによって式-O-C(O)-NH-Z-AY3-mの末端基(式中、m、Y、A、及びXは上で定義したものと同じ意味を有し、Zは炭化水素基であり、任意選択的に少なくとも1つの-N=C=O官能基を含む)を含む少なくとも1つのペンダント側鎖を有する少なくとも1種の水素化モノマーを含む少なくとも1種のグラフト化フルオロポリマーを含む組成物を得る工程;
c)式-O-C(O)-NH-Z-AY3-mの末端基をiv)式(II)の少なくとも1種の金属化合物
X’4-m’A’Y’m’ (II)
(式中、m’は、1~4の整数であり、A’は、Si、Ti、及びZrからなる群から選択される金属であり、Y’は、-N=C=O基とは異なる少なくとも1つの官能基を任意選択的に含む加水分解性基であり、X’は炭化水素基である)
と反応させ、それによって少なくとも1種のフルオロポリマーハイブリッド有機/無機複合材料を含む組成物を得る工程;
d)工程c)からの前記組成物をポリマー電解質膜へと加工する工程;
を含み、液体媒体の乾燥工程が存在しないことを特徴とし、前記ii)少なくとも1種の液体媒体が、
- 脂肪族、脂環式、又は芳香族エーテルオキシド;
- グリコールエーテル;
- グリコールエーテルエステル;
- アルコール;
- メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン;
- 直鎖又は環状エステル;
- 直鎖若しくは環状アミド;
- ジメチルスルホキシド;
- 有機カーボネート化合物;及び
- スルホン化合物
からなる群から選択される少なくとも1種の有機溶媒と任意選択的に少なくとも1種のイオン液体とを含む、方法。
【請求項2】
前記フルオロポリマー電解質膜が金属塩を含まない、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記工程c)が50℃~100℃、好ましくは70℃~90℃の温度で行われる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
記ii)少なくとも1種の液体媒体が、少なくとも1種のイオン液体を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記少なくとも1種の第1の繰り返し単位が、フッ化ビニリデン(VDF)、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、テトラフルオロエチレン(TFE)、トリフルオロエチレン、及びそれらの組み合わせに由来する、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記少なくとも1種の第2の繰り返し単位が、少なくとも1つのヒドロキシル基を有する(メタ)アクリル酸エステルに由来する、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
ヒドロキシル基を有する前記(メタ)アクリル酸エステルが、2-ヒドロキシエチルアクリレート(HEA)、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシメチルアクリレート、2-ヒドロキシメチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、2-ヒドロキシブチルアクリレート、2-ヒドロキシブチルメタクリレート、4-ヒドロキシブチルアクリレート、4-ヒドロキシブチルメタクリレート、6-ヒドロキシヘキシルアクリレート、6-ヒドロキシヘキシルメタクリレート、8-ヒドロキシオクチルアクリレート、8-ヒドロキシオクチルメタクリレート、2-ヒドロキシエチレングリコールアクリレート、2-ヒドロキシエチレングリコールメタクリレート、2-ヒドロキシプロピレングリコールアクリレート、2-ヒドロキシプロピレングリコールメタクリレート及びこれらの混合物を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
iii)式(I)の少なくとも1種の金属化合物内のXが、互いに同じであるか異なり、各存在において、少なくとも1個の-N=C=O官能基を含む直鎖又は分岐のC1~12炭化水素基であり、Yは、互いに同じであるか異なり、各存在においてORであり、Rは直鎖又は分岐のC~Cアルキル基であり、好ましくはメチル基又はエチル基である、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記iii)式(I)の少なくとも1種の金属化合物が、トリメトキシシリルメチルイソシアネート、トリエトキシシリルメチルイソシアネート、トリメトキシシリルエチルイソシアネート、トリエトキシシリルエチルイソシアネート、トリメトキシシリルプロピルイソシアネート、トリエトキシシリルプロピルイソシアネート、トリメトキシシリルブチルイソシアネート、トリエトキシシリルブチルイソシアネート、トリメトキシシリルペンチルイソシアネート、トリエトキシシリルペンチルイソシアネート、トリメトキシシリルヘキシルイソシアネート、トリエトキシシリルヘキシルイソシアネート、及びこれらの混合物からなる群から選択される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記iv)式(II)の少なくとも1種の金属化合物が、トリメトキシシラン、トリエトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン(TEOS)、テトラメチルチタネート、テトラエチルチタネート、テトラ-n-プロピルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラ-n-ブチルチタネート、テトラ-イソブチルチタネート、テトラ-tert-ブチルチタネート、テトラ-n-ペンチルチタネート、テトラ-n-ヘキシルチタネート、テトライソオクチルチタネート、テトラ-n-ラウリルチタネート、テトラエチルジルコネート、テトラ-n-プロピルジルコネート、テトライソプロピルジルコネート、テトラ-n-ブチルジルコネート、テトラ-sec-ブチルジルコネート、テトラ-tert-ブチルジルコネート、テトラ-n-ペンチルジルコネート、テトラ-tert-ペンチルジルコネート、テトラ-tert-ヘキシルジルコネート、テトラ-n-ヘプチルジルコネート、テトラ-n-オクチルジルコネート、テトラ-n-ステアリルジルコネート、及びこれらの混合物を含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
電気化学デバイスにおける、特に二次電池における、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法によって得られるポリマー電解質膜の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2019年9月16日出願の欧州特許出願第19197491.4号に基づく優先権を主張するものであり、この出願の全内容は、あらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、電気化学セル用のフルオロポリマーハイブリッド有機/無機複合材料を含むフルオロポリマー電解質膜を製造するための方法、この方法によって得られるポリマー電解質膜、及び正極と負極との間にポリマー電解質膜を含む電気化学セルに関する。本発明は、電気化学デバイス、特に二次電池における、本発明による方法によって得られるポリマー電解質膜の使用にも関する。
【背景技術】
【0003】
ナノスケール又は分子レベルの無機材料が有機ポリマー中に分散している、ハイブリッド有機/無機ポリマー複合材料は、それらが持つ独特の特性のため、科学的、技術的、さらには工業的に大きな関心を集めている。
【0004】
有機化合物と無機化合物とのハイブリッド化は、とりわけ、機械的特性が向上したポリマー構造を創成するための発展的な方法である。この点において、金属アルコキシドを使用するゾル-ゲルプロセスが、ハイブリッド有機/無機ポリマー複合材料を合成する上で最も有用且つ重要なアプローチであることはよく知られている。特に、予め形成された有機ポリマーの存在下で金属アルコキシドの加水分解及び縮合を適切に制御すると、元の有機及び無機化合物と比較して改善された特性を有するハイブリッド有機/無機ポリマー複合材料を得ることができる。有機化合物としてのポリマーは、無機材料、すなわち、通常は脆い金属アルコキシドの強靭性及び加工性を高めることができ、無機ネットワークは、得られるハイブリッド有機/無機ポリマー複合材料の耐引掻き性、機械的特性、及び表面特性を高めることができる。
【0005】
フルオロポリマーから、特にフッ化ビニリデンポリマーから出発するゾルゲル手法により製造されるハイブリッドは、当技術分野において公知である。
【0006】
例えば、国際公開第2011/121078号パンフレットには、フルオロポリマーのヒドロキシル基の少なくとも一部が、溶液中で又は溶融状態で、式X4-mAY(Xは炭化水素基であり、Yは加水分解性基であり、AはSi、Ti、Zrから選択される金属であり、mは1~4の整数である)の金属化合物の加水分解性基の少なくとも一部と反応する、フルオロポリマーハイブリッド有機/無機複合体の製造方法が開示されている。フルオロポリマーを溶解するために使用される溶媒の選択は、フルオロポリマーと式X4-mAYの金属化合物の両方を効率的に溶媒和し、且つフルオロポリマーのヒドロキシル基と金属化合物の加水分解性基との間の反応を妨げない限り、決定的に重要であるわけではない。しかしながら、膜を製造するには、乾燥によって溶媒を蒸発させる必要がある。この特許文献は、エチレンカーボネートとプロピレンカーボネートとの混合物及びLiPFを含む電解質溶液の膨潤が、前記ハイブリッド有機/無機複合材料で作られたフィルムの中で起こることにも言及している。さらに、フィルムがキャストされると、膨潤が続き、その結果最終的にフィルムに相互浸透する液体電解質の最終量が少なくなり、それに応じてイオン伝導率が低下する可能性がある。
【0007】
そのような欠点に対峙するために、国際公開第2013/160240号パンフレットには、傑出したイオン伝導性を有していながらも液体媒体を安定に含んで保持する自立フルオロポリマーフィルムを提供するための、液体媒体の存在下でのフルオロポリマーハイブリッド有機/無機複合材料の製造が開示されている。ハイブリッド有機/無機複合材料が、電気化学デバイスにおけるポリマー電解質セパレータとしての使用のためである場合、それは、フルオロポリマー、式X4-mAYの金属化合物、イオン液体、溶媒、及び1つの電解質塩を含む混合物を加水分解する及び/又は重縮合することを含む方法によって得られ得る。結果として生じた液体混合物は、次いでキャスティングによってフィルムへ加工される。
【0008】
しかしながら、国際公開第2013/160240号パンフレットに記載されている方法では、アセトン、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMA)などの処理溶媒を使用する必要があり、これらは全て膜を製造するために処理の最後に乾燥/加熱によって蒸発させる必要があるため、工業生産プロセスでは望ましくない。
【0009】
国際公開第2015/169834号パンフレットにも、並外れた架橋密度特性、優れたイオン伝導特性、及びポリマー電解質膜内への電解質保持の増加を備えたフルオロポリマーハイブリッド有機/無機複合体を製造する方法が記載されている。しかしながら、この方法も、ポリマー溶液を調製するために処理溶媒を必要とし、そのため膜を得るために処理溶媒の蒸発の工程を必要とする。
【0010】
方法で使用される処理溶媒を除去するための追加の工程を有することの不都合、並びに処理性及び工業化の観点からの欠点に加えて、そのような処理溶媒、特にアセトンは、欧州連合(EU)に1994年に承認されたATEX指令94/9/ECの下にある。ATEX指令は、潜在的に爆発性雰囲気である危険な領域内での使用を目的とした製品の技術的及び法的要件を定めている。ATEX指令の名前は、94/9/EC指令のフランス語のタイトル、つまり「(Appareils destines a etre utilises en) Atmospheres Explosibles」に由来する。2003年7月の時点では、EU内でATEXタイプの承認を受けた製品を使用することが義務付けられており、そのためATEX指令で規制されている危険な環境で市場に出されたり使用されたりする製品は、その中に規定されている基準を満たす必要がある。基準は危険領域の分類に応じて異なる。したがって、爆発性雰囲気を生じさせることができると考えられているアセトンを含む特定の溶媒は、電池分野のメーカーにとってしばしば懸念される。
【0011】
したがって、この分野では、処理溶媒を使用せずにフルオロポリマーハイブリッド有機/無機複合材料を製造する方法が求められている。
【0012】
この分野からのこの要求に応えるために、複数の解決手段が検討されてきた。1つは、溶解性の特徴、グラフト率、及び膜の形成に影響を与え得るその他のパラメータを失うことなしにより優れたATEX特性を備えた代替溶媒を見つけることである。別のアプローチは、ポリマー溶液を製造する際に処理溶媒を必要としない代替プロセスを見出すことである。
【発明の概要】
【0013】
したがって、本発明は、電気化学デバイス用のフルオロポリマーハイブリッド有機/無機複合材料を含むフルオロポリマー電解質膜を製造するための方法であって、
a)i)少なくとも1種のフルオロポリマーをii)少なくとも1種の液体媒体中に溶解させる工程であって、i)少なくとも1種のフルオロポリマーが、
- 少なくとも1種のエチレン性不飽和フッ素化モノマーに由来する少なくとも1種の第1の繰り返し単位と、
- 少なくとも1つのヒドロキシル基を有する少なくとも1種のエチレン性不飽和モノマーに由来する少なくとも1種の第2の繰り返し単位と、
を含む工程;
b)i)少なくとも1種のフルオロポリマーのヒドロキシル基の少なくとも一部を、iii)式(I)の少なくとも1種の金属化合物
4-mAY(I)
(式中、mは1~3の整数であり、AはSi、Ti、及びZrからなる基から選択される金属であり、Yは加水分解性基であり、Xは少なくとも1つのイソシアネート(-N=C=O)官能基を含む炭化水素基である)
と反応させ、それによって式-O-C(O)-NH-Z-AY3-mの末端基(式中、m、Y、A、及びXは上で定義したものと同じ意味を有し、Zは炭化水素基であり、任意選択的に少なくとも1つの-N=C=O官能基を含む)を含む少なくとも1つのペンダント側鎖を有する少なくとも1種の水素化モノマーを含む少なくとも1種のグラフト化フルオロポリマーを含む組成物を得る工程;
c)式-O-C(O)-NH-Z-AY3-mの末端基をiv)式(II)の少なくとも1種の金属化合物
X’4-m’A’Y’m’ (II)
(式中、m’は、1~4の整数であり、A’は、Si、Ti、及びZrからなる群から選択される金属であり、Y’は、-N=C=O基とは異なる少なくとも1つの官能基を任意選択的に含む加水分解性基であり、X’は炭化水素基である)
と反応させ、それによって少なくとも1種のフルオロポリマーハイブリッド有機/無機複合材料を含む組成物を得る工程;
d)工程c)からの組成物をポリマー電解質膜へと加工する工程;
を含み、乾燥工程が存在しないことを特徴とする方法に関する。
【0014】
本発明の第2の目的は、上で定義した通りに得ることができるポリマー電解質膜である。
【0015】
本発明の第3の目的は、正極と負極との間に上で定義したポリマー電解質膜を含む電気化学デバイスである。
【0016】
本発明のさらなる目的は、電気化学デバイス、特に二次電池における、上で定義したポリマー電解質膜の使用である。
【0017】
出願人は、今回、驚くべきことに、フルオロポリマーを溶解するための処理溶媒を使用せずに、フルオロポリマーハイブリッド有機/無機複合材料を含むフルオロポリマー電解質膜を製造することが可能であり、前記溶媒のその後の回収及び廃棄を回避するという追加の利点を有することを発見した。
【0018】
特に、出願人は、少なくとも1種の有機溶媒を含む液体媒体がフルオロポリマーを溶解するように処理溶媒を置き換えることができることを発見した。したがって、処理溶媒を蒸発させるための乾燥工程は、フルオロポリマー電解質膜を製造するためには必要とされず、さらに、ATEX規制に関する複数の懸念がなくなった。
【0019】
本発明によるフルオロポリマー電解質膜は、それが金属塩、例えばリチウム塩を含まないことを特徴とする。国際公開第2017/216184号パンフレットに開示されているように、そのような特徴は、電気化学デバイス内の正極と負極のいずれかから電解質膜に向かう金属塩の移動特性を使用することによって補完することができ、その結果、優れた電気化学的性能を確保することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本明細書の全体にわたり、文脈が他に必要としない限り、「備える(comprise)」又は「含む(include)」という語又は変形形態、例えば「備える(comprises)」、「備えている(comprising)」、「含む(includes)」、「含んでいる(including)」は、記載された要素若しくは方法の工程又は要素若しくは方法の工程の群を包含するが、任意の他の要素若しくは方法の工程又は要素若しくは方法の工程の群を排除するものではないことを意味すると理解される。好ましい実施形態によれば、「備える(comprise)」及び「含む(include)」という単語、及びそれらの変形形態は、「のみからなる(consist exclusively of)」を意味する。
【0021】
本明細書において使用される単数形「a」、「an」、及び「the」は、文脈がそうでないと明確に示さない限り、複数形の態様を含む。用語「及び/又は」は、「及び」、「又は」の意味及びまた、この用語に関連する要素の他の可能な組み合わせも全て包含する。
【0022】
用語「~と~との間」は、限界点を含むと理解されるべきである。
【0023】
本明細書で使用される「アルキル」基には、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシルなどの直鎖アルキル基;シクロプロピル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、及びシクロオクチルなどの環状アルキル基(又は「シクロアルキル」又は「脂環式」又は「炭素環式」基);イソプロピル、tert-ブチル、sec-ブチル、及びイソブチルなどの分岐鎖アルキル基;並びにアルキル置換シクロアルキル基及びシクロアルキル置換アルキル基などのアルキル置換アルキル基;を含む、1つ以上の炭素原子を有する飽和炭化水素が含まれる。
【0024】
用語「脂肪族基」は、1~18個の間の炭素原子を典型的に有する、直鎖又は分岐鎖を特徴とする有機部分が含まれる。複雑な構造においては、鎖は分岐、橋かけしていてもよく、又は架橋していてもよい。脂肪族基には、アルキル基、アルケニル基、及びアルキニル基が含まれる。
【0025】
本明細書で使用される有機基に関する専門用語「(Cn~Cm)」(式中、n及びmはそれぞれ整数である)は、この基が、基当たりn個の炭素原子からm個の炭素原子を含有してもよいことを示す。
【0026】
比、濃度、量及び他の数値データは、本明細書において範囲形式で示される場合がある。このような範囲形式は、単に便宜上及び簡潔さのために使用され、範囲の限界点として明示的に列挙される数値を包含するだけでなく、それぞれの数値及び部分範囲が明示的に列挙されるかのようにその範囲内に包含される全ての個々の数値又は部分範囲を包含するように柔軟に解釈されるものと理解すべきである。例えば、約120℃~約150℃の温度範囲は、約120℃~約150℃の明示的に列挙された限界点を包含するだけでなく、125℃~145℃、130℃~150℃等の部分範囲、並びに例えば122.2℃、140.6℃、及び141.3℃など、小数量などの明記した範囲内の個々の量をも包含するように解釈されるべきである。
【0027】
本発明による電気化学デバイス用のフルオロポリマーハイブリッド有機/無機複合材料を含むフルオロポリマー電解質膜を製造するための方法の構成要素を、以降で詳細に説明する。前述の概要及び以下の詳細な説明の両方は、例示的であり、特許請求される本発明の更なる説明を提供することを意図していることが理解されるべきである。したがって、本明細書に記載される様々な変更形態及び修正形態は、当業者に明らかであろう。さらに、明確且つ簡潔にするために、周知の機能及び構造の説明は、省略されている場合がある。
【0028】
本発明の第1の目的は、電気化学デバイス用のフルオロポリマーハイブリッド有機/無機複合材料を含むフルオロポリマー電解質膜を製造するための方法であって、
a)i)少なくとも1種のフルオロポリマーをii)少なくとも1種の液体媒体中に溶解させる工程であって、i)少なくとも1種のフルオロポリマーが、
- 少なくとも1種のエチレン性不飽和フッ素化モノマーに由来する少なくとも1種の第1の繰り返し単位と、
- 少なくとも1つのヒドロキシル基を有する少なくとも1種のエチレン性不飽和モノマーに由来する少なくとも1種の第2の繰り返し単位と、
を含む工程;
b)i)少なくとも1種のフルオロポリマーのヒドロキシル基の少なくとも一部を、iii)式(I)の少なくとも1種の金属化合物
4-mAY (I)
(式中、mは1~3の整数であり、AはSi、Ti、及びZrからなる基から選択される金属であり、Yは加水分解性基であり、Xは少なくとも1つのイソシアネート(-N=C=O)官能基を含む炭化水素基である)
と反応させ、それによって式-O-C(O)-NH-Z-AY3-mの末端基(式中、m、Y、A、及びXは上で定義したものと同じ意味を有し、Zは炭化水素基であり、任意選択的に少なくとも1つのN=C=O官能基を含む)を含む少なくとも1つのペンダント側鎖を有する少なくとも1種の水素化モノマーを含む少なくとも1種のグラフト化フルオロポリマーを含む組成物を得る工程;
c)式-O-C(O)-NH-Z-AY3-mの末端基をiv)式(II)の少なくとも1種の金属化合物
X’4-m’A’Y’m’ (II)
(式中、m’は、1~4の整数であり、A’は、Si、Ti、及びZrからなる群から選択される金属であり、Y’は、-N=C=O基とは異なる少なくとも1つの官能基を任意選択的に含む加水分解性基であり、X’は炭化水素基である)
と反応させ、それによって少なくとも1種のフルオロポリマーハイブリッド有機/無機複合材料を含む組成物を得る工程;
d)工程c)からの組成物をポリマー電解質膜へと加工する工程;
を含み、乾燥工程が存在しないことを特徴とする方法である。
【0029】
本発明によるフルオロポリマー電解質膜は、有利には、以下からなる群から選択される1つの鉱石金属塩などの(ただしこれらに限定されない)1種以上の金属塩を含まない:
- MeI、Me(PF、Me(BF、Me(ClO、Me(ビス(オキサラト)ボレート)(「Me(BOB)」)、MeCFSO、Me[N(CFSO、Me[N(CSO、RがC、C、又はCFOCFCFであるMe[N(CFSO)(RSO)]、Me(AsF、Me[C(CFSO、又はMe
(これらの中のMeは金属、好ましくは遷移金属、アルカリ金属又はアルカリ土類金属、より好ましくはLi、Na、K又はCs、さらにより好ましくはLiであり、nは前記金属の価数であり、典型的にはnは1又は2である);

【化1】
(式中、R’は、F、CF、CHF、CHF、CHF、C、C、C、C、C、C、C、C、C、C11、COCF、COCF、COCF及びCFOCFからなる群から選択される);並びに
- それらの組み合わせ。
【0030】
一実施形態では、工程c)は、室温で、又は100℃よりも低い温度に加熱した後に実施される。
【0031】
好ましい実施形態では、工程c)は、50~100℃、好ましくは70~90℃の温度で行われる。
【0032】
工程c)では、iv)上で定義した式(II)の少なくとも1種の金属化合物が、工程b)からの式-O-C(O)-NH-Z-AY3-mの末端基と加水分解及び/又は重縮合される。
【0033】
好ましい実施形態では、上で定義した工程c)における加水分解及び/又は重縮合は、少なくとも酸触媒の添加によって開始される。酸触媒の選択は、特に限定されない。酸触媒は、典型的には、有機酸及び無機酸からなる群から選択される。酸触媒は、好ましくは例えばクエン酸及びギ酸などの有機酸からなる群から選択される。好ましい実施形態では、酸触媒はギ酸である。
【0034】
本発明において、「膜」という用語は、それと接触する化学種の浸透を緩和する、個別の通常は薄い界面を示すことを意図している。この界面は、均質であっても、即ち、構造が完全に一様であってもよく(稠密な膜)、又はそれは、例えば、有限の寸法の空隙、細孔又は穴を含み、化学的に又は物理的に不均一であってもよい(多孔質膜)。
【0035】
本発明において、「フルオロポリマー」という用語は、少なくとも1つの水素原子がフッ素によって置き換えられた(コ)ポリマーを意味することが意図されている。1つ、2つ、3つ、又はそれ以上の数の水素原子がフッ素で置き換えられていてもよい。
【0036】
ポリフッ化ビニリデン(PVDF又はVDFポリマー)は、高いアノード安定性と高い誘電率のため、電池の構成要素において最も広く使用されているフルオロポリマーの1つであり、リチウムイオン電池のリチウム塩のイオン化に有利に働き、イオンの流れを可能にし、その結果電池の性能を改善する。
【0037】
一実施形態によれば、少なくとも1種のエチレン性不飽和フッ素化モノマーに由来する第1の繰り返し単位は、フッ化ビニリデン(VDF)、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、テトラフルオロエチレン(TFE)、トリフルオロエチレン、及びそれらの組み合わせである。
【0038】
一実施形態では、本発明のフルオロポリマーは、少なくとも1種のエチレン性不飽和フッ素化モノマーに由来する2種の第1の繰り返し単位を含む。特定の実施形態では、前記2種の第1の繰り返し単位はVDFとCTFEである。別の特定の実施形態では、前記2種の第1の繰り返し単位はVDFとTFEである。好ましい実施形態では、前記2種の第1の繰り返し単位はVDFとHFPである。
【0039】
一実施形態では、本発明による第1の繰り返し単位はVDF(コ)ポリマーである。
【0040】
本発明において、VDFポリマーは、本質的に繰り返し単位からなるポリマーを指し、前記繰り返し単位の85モル%超がVDF由来である。
【0041】
VDFポリマーは、好ましくは、
(a)少なくとも85モル%の、VDFに由来する繰り返し単位と、
(b)任意選択的に、0.1~15モル%、好ましくは0.1~12モル%、より好ましくは0.1~10モル%の、VDFと異なるフッ素化モノマーに由来する繰り返し単位と、
(c)任意選択的に、0.1~5モル%、好ましくは0.1~3モル%、より好ましくは0.1~1モル%の、1種以上の水素化コモノマーに由来する繰り返し単位と
を含み、
前述のモル%の全ては、VDFポリマーの繰り返し単位の総モルを基準とする。
【0042】
i)VDFと異なる第1の繰り返し単位として適切なフッ素化モノマーの非限定的な例としては、特に、以下のものが挙げられる:
- テトラフルオロエチレン及びヘキサフルオロプロピレン(HFP)などのC~Cパーフルオロオレフィン;
- フッ化ビニル、1,2-ジフルオロエチレン及びトリフルオロエチレンなどのC~C水素化フルオロオレフィン;
-式CH=CH-Rf0(式中、Rf0は、C~Cパーフルオロアルキルである)のパーフルオロアルキルエチレン、
- クロロ-及び/又はブロモ-及び/又はヨード-C~Cフルオロオレフィン、例えば、クロロトリフルオロエチレン;
- 式CF=CFORf1(式中、Rf1は、C~Cフルオロ-又はパーフルオロアルキル、例えばCF、C、Cである)の(パー)フルオロアルキルビニルエーテル;
- CF=CFOX(パー)フルオロ-オキシアルキルビニルエーテル(式中、Xは、C~C12アルキル基、C~C12オキシアルキル基又はパーフルオロ-2-プロポキシ-プロピル基などの1つ以上のエーテル基を有するC~C12(パー)フルオロオキシアルキル基である);
- 式CF=CFOCFORf2(式中、Rf2は、C~Cフルオロ-又はパーフルオロアルキル基、例えばCF、C、C又は-C-O-CFなど、1個以上のエーテル基を有するC~C(パー)フルオロオキシアルキル基である)の(パー)フルオロアルキルビニルエーテル;
- 式CF=CFOY(式中、Yは、C~C12アルキル基又は(パー)フルオロアルキル基、C~C12オキシアルキル基又は1個以上のエーテル基を有するC~C12(パー)フルオロオキシアルキル基であり、及びYは、その酸、酸ハライド又は塩の形態のカルボン酸又はスルホン酸基を含む)の官能性(パー)フルオロ-オキシアルキルビニルエーテル;
-フルオロジオキソール、好ましくはパーフルオロジオキソール。
【0043】
好ましい実施形態では、第1の繰り返し単位としての前記フッ素化モノマーは、有利には、フッ化ビニル、トリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、1,2-ジフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン(TFE)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、パーフルオロ(アルキル)ビニルエーテル(パーフルオロ(メチル)ビニルエーテル(PMVE)、パーフルオロ(エチル)ビニルエーテル(PEVE)及びパーフルオロ(プロピル)ビニルエーテル(PPVE)など)、パーフルオロ(1,3-ジオキソール)、パーフルオロ(2,2-ジメチル-1,3-ジオキソール)(PDD)からなる群から選択される。好ましくは、可能な追加のフッ素化モノマーは、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、トリフルオロエチレン(TrFE)及びテトラフルオロエチレン(TFE)からなる群から選択される。
【0044】
より好ましい実施形態において、フッ素化モノマーはヘキサフルオロプロピレン(HFP)である。
【0045】
別の実施形態では、本発明におけるフルオロポリマーの第1の繰り返し単位としてのVDF(コ)ポリマーの非限定的な例としては、VDFのホモポリマー、VDF/TFEコポリマー、VDF/TFE/HFPコポリマー、VDF/TFE/CTFEコポリマー、VDF/TFE/TrFEコポリマー、VDF/CTFEコポリマー、VDF/HFPコポリマー、VDF/TFE/HFP/CTFEコポリマー等をとりわけ挙げることができる。特に、VDF/HFPコポリマーは、イオン伝導性を向上させることができる電極との優れた適合性、低い転移温度、及び結晶性のため、大きな注目を集めてきた。
【0046】
前記水素化コモノマーは、特に限定されず、α-オレフィン、(メタ)アクリルモノマー、ビニルエーテルモノマー、及びスチレンモノマーを使用することができる。
【0047】
したがって、VDFポリマーは、より好ましくは、
(a)少なくとも85モル%のVDFに由来する繰り返し単位と;
(b)任意選択的に、0.1~15モル%、好ましくは0.1~12モル%、より好ましくは0.1~10モル%の、VDFと異なるフッ素化モノマー(前記フッ素化モノマーは、好ましくは、フッ化ビニル、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、ヘキサフルオロプロペン(HFP)、テトラフルオロエチレン(TFE)、ペルフルオロメチルビニルエーテル(MVE)、トリフルオロエチレン(TrFE)及びそれらからの混合物において選択される)と;
から本質的になるポリマーであり、
前述のモル%の全ては、VDFポリマーの繰り返し単位の総モル数を基準とする。
【0048】
これらの構成要素がVDFポリマーの挙動及び特性を実質的に改変することなく、前記繰り返し単位に加えて、欠陥、末端鎖、不純物、鎖の逆位又は分岐等がVDFポリマー中にさらに存在し得る。
【0049】
一実施形態によれば、第2の繰り返し単位は、ヒドロキシル基を有する(メタ)アクリル酸エステルに由来する。
【0050】
一実施形態によれば、ヒドロキシル基を有する(メタ)アクリル酸エステルには、2-ヒドロキシエチルアクリレート(HEA)、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシメチルアクリレート、2-ヒドロキシメチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、2-ヒドロキシブチルアクリレート、2-ヒドロキシブチルメタクリレート、4-ヒドロキシブチルアクリレート、4-ヒドロキシブチルメタクリレート、6-ヒドロキシヘキシルアクリレート、6-ヒドロキシヘキシルメタクリレート、8-ヒドロキシオクチルアクリレート、8-ヒドロキシオクチルメタクリレート、2-ヒドロキシエチレングリコールアクリレート、2-ヒドロキシエチレングリコールメタクリレート、2-ヒドロキシプロピレングリコールアクリレート、2-ヒドロキシプロピレングリコールメタクリレート、2,2,2-トリフルオロエチルアクリレート、及び2,2,2-トリフルオロエチルメタクリレートが含まれる。
【0051】
好ましい実施形態では、第2の繰り返し単位はHEAである。
【0052】
一実施形態では、フッ素化コポリマーは、0.1~20.0モル%、好ましくは0.1~15.0モル%、より好ましくは0.1~10.0モル%の、ヒドロキシル基を有する少なくとも1種のエチレン性不飽和モノマーに由来する第2の繰り返し単位を含む。
【0053】
好ましい実施形態では、フッ素化コポリマーは、
90.0モル%~99.9モル%の、少なくとも1種のエチレン性不飽和フッ素化モノマーに由来する第1の繰り返し単位と、
0.1~10.0モル%の、ヒドロキシル基を有する少なくとも1種のエチレン性不飽和モノマーに由来する第2の繰り返し単位と、を含む。
【0054】
好ましい実施形態では、フッ素化コポリマーは、
80.0モル%~99.8モル%のVDFと、0.1モル%~10.0モル%の少なくとも1種のエチレン性不飽和フッ素化モノマーに由来する第1の繰り返し単位としてのHEPと、
0.1~10.0モル%のヒドロキシル基を有する少なくとも1種のエチレン性不飽和モノマーに由来する第2の繰り返し単位としてのHEAと、を含む。
【0055】
液体媒体
本発明では、「液体媒体」という用語は、大気圧下で20℃で液体状態にある1種以上の物質を含む組成物を意味することが意図されている。
【0056】
液体媒体は、典型的には、少なくとも1種の有機溶媒と任意選択的に少なくとも1種のイオン液体とを含む。
【0057】
有機溶媒の選択は、それが本発明によるフルオロポリマーの可溶化に適しており、且つ爆発性雰囲気が、i)ガス、蒸気、ミスト、又は粉塵の形態の可燃性物質の;ii)空気を含む;iii)大気条件下の;iv)点火後燃焼が未燃混合気全体に広がる;混合物として定義されているATEX指令94/9/ECに規定されている爆発性雰囲気に該当しない限り、特に制限されない。
【0058】
適切な有機溶媒の非限定的な例としては、特に:
- 脂肪族、脂環式、又は芳香族エーテルオキシド、より具体的には、ジブチルオキシド、ジペンチルオキシド、ジイソペンチルオキシド、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテルベンジルオキシド;
- グリコールエーテル、例えばエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノベンジルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノ-n-ブチルエーテルなど;
- グリコールエーテルエステル、例えばエチレングリコールメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテートなど;
- アルコール、例えばジアセトンアルコールなど;
- ケトン、例えばメチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロンなど;
- 直鎖又は環状エステル、例えばn-ブチルアセテート、メチルアセトアセテート、ジメチルフタレート、γ-ブチロラクトンなど;
- 直鎖若しくは環状アミド、例えばN,N-ジエチルアセトアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、及びN-メチル-2-ピロリドンなど;
- ジメチルスルホキシド:
が挙げられる。
【0059】
一実施形態では、有機溶媒は少なくとも1種の有機カーボネート化合物を含む。
【0060】
本発明において、有機カーボネート化合物は、部分的又は完全にフッ素化されたカーボネート化合物であってよい。本発明による有機カーボネート化合物は、環状カーボネート又は非環状カーボネートのいずれであってもよい。
【0061】
有機カーボネート化合物の非限定的な例としては、特に、エチレンカーボネート(1,3-ジオキソラン-2-オン)、プロピレンカーボネート、4-メチレン-1,3-ジオキソラン-2-オン、4,5-ジメチレン-1,3-ジオキソラン-2-オン、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、メチルブチルカーボネート、エチルブチルカーボネート、プロピルブチルカーボネート、ジブチルカーボネート、ジ-tert-ブチルカーボネート、及びブチレンカーボネートが挙げられる。
【0062】
フッ素化カーボネート化合物は、モノフッ素化されていても、又はポリフッ素化されていてもよい。フッ素化カーボネート化合物の適切な例としては、限定するものではないが、一フッ素化エチレンカーボネート(4-フルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン)及び二フッ素化エチレンカーボネート、一フッ素化及び二フッ素化プロピレンカーボネート、一フッ素化及び二フッ素化ブチレンカーボネート、3,3,3-トリフルオロプロピレンカーボネート、フッ素化ジメチルカーボネート、フッ素化ジエチルカーボネート、フッ素化エチルメチルカーボネート、フッ素化ジプロピルカーボネート、フッ素化ジブチルカーボネート、フッ素化メチルプロピルカーボネート、及びフッ素化エチルプロピルカーボネートが挙げられる。
【0063】
好ましい実施形態では、有機カーボネート化合物は、エチレンカーボネートとプロピレンカーボネートとの混合物である。
【0064】
別の好ましい実施形態では、有機カーボネート化合物は、エチレンカーボネートと、プロピレンカーボネートと、4-フルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オンとの混合物である。
【0065】
別の実施形態では、有機溶媒は、少なくとも1種の有機カーボネート化合物及び少なくとも1種のスルホン化合物を含む。本発明によるスルホン化合物は、環状スルホン又は非環状スルホンのいずれであってよい。
【0066】
スルホン化合物の非限定的な例としては、特に、テトラメチレンスルホン(スルホラン)、ブタジエンスルホン(スルホレン)、ペンタメチレンスルホン、ヘキサメチレンスルホン、チアゾリジン1,1-ジオキシド、チオモルホリン1,1-ジオキシド、ジメチルスルホン、ジエチルスルホン、エチルメチルスルホン、及びそれらの混合物が挙げられる。
【0067】
好ましい実施形態では、有機溶媒は、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、4-フルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、及びスルホランの混合物である。
【0068】
イオン液体
本明細書で使用される「イオン液体」という用語は、正に帯電したカチオン及び負に帯電したアニオンを含み、大気圧において100℃以下の温度で液体状態である化合物を指す。水などの通常の液体は、主に電気的に中性の分子からできている一方、イオン液体は、主にイオンと短寿命のイオン対とからできている。本明細書で使用される「イオン液体」という用語は、溶媒を含まない化合物を示す。
【0069】
本明細書で使用される「カチオン性原子」という用語は、正電荷を帯びた少なくとも1つの非金属原子を指す。
【0070】
本明細書で使用される「オニウムカチオン」という用語は、その電荷の少なくとも一部がO、N、S又はPなどの少なくとも1つの非金属原子上に局在する、正に帯電したイオンを指す。
【0071】
本発明において、イオン液体は、An-l+ (n/l)
(式中、
- An-は、アニオンを表し;
- Ql+ (n/l)は、カチオンを表し;
- n及びlは、1~5で独立して選択され、それぞれアニオンAn-及びカチオンQl+ (n/l)の電荷を表す)
の一般式を有する。
【0072】
カチオンは、互いに独立して、金属カチオン及び有機カチオンから選択され得る。カチオンは、一価カチオン又は多価カチオンであり得る。
【0073】
金属カチオンとして、好ましくは、アルカリ金属カチオン、アルカリ土類金属カチオン及びd-ブロック元素のカチオンを挙げることができる。
【0074】
本発明において、Ql+ (n/l)は、オニウムカチオンを表し得る。オニウムカチオンは、3つ又は4つの炭化水素鎖を有するVB族及びVIB族の元素(元素周期表に従って古い欧州のIUPACシステムで定義された通り)によって形成されたカチオンである。VB族には、N、P、As、Sb及びBi原子が含まれる。VIB族には、O、S、Se、Te及びPo原子が含まれる。オニウムカチオンは、特に、N、P、O及びS、より好ましくはN及びPからなる群から選択される原子と、3つ又は4つの炭化水素鎖とによって形成されるカチオンであり得る。
【0075】
オニウムカチオンQl+ (n/l)は、
- ヘテロ環式オニウムカチオン;特に以下からなる群から選択されるもの:
【化2】
- 不飽和環状オニウムカチオン;特に以下からなる群から選択されるもの:
【化3】
- 飽和環状オニウムカチオン;特に以下からなる群から選択されるもの:
【化4】
;及び
- 非環状オニウムカチオン;特に一般式L-R’(式中、Lは、N、P、O及びS、より好ましくはN及びPからなる群から選択される原子を表し、sは、元素Lの価数に応じて2、3又は4から選択されるR’基の数を表し、各R’は、独立して、水素原子又はC~Cのアルキル基を表し、LとR’との間の結合は、単結合又は二重結合であり得る)のものから選択することができる。
【0076】
上の式において、各「R」の記号は、互いに独立して、水素原子又は有機基を表す。好ましくは、各記号「R」は、上の式において、互いに独立して、水素原子を表すか、又は任意選択的にハロゲン原子、アミノ基、イミノ基、アミド基、エーテル基、エステル基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、カルバモイル基、シアノ基、スルホン基若しくは亜硫酸基によって1回以上置換される飽和若しくは不飽和の、直鎖、分岐若しくは環状のC~C18炭化水素基を表すことができる。
【0077】
カチオンQl+ (n/l)は、より具体的には、アンモニウム、ホスホニウム、ピリジニウム、ピロリジニウム、ピラゾリニウム、イミダゾリウム、ヒ素、四級ホスホニウム、及び四級アンモニウムカチオンから選択することができる。
【0078】
四級ホスホニウム又は四級アンモニウムカチオンは、より好ましくは、テトラアルキルアンモニウム若しくはテトラアルキルホスホニウムカチオン、トリアルキルベンジルアンモニウム若しくはトリアルキルベンジルホスホニウムカチオン、又はテトラアリールアンモニウム若しくはテトラアリールホスホニウムカチオンから選択することができ、これらのアルキル基は、同じであるか又は異なり、4~12個の炭素原子、好ましくは4~6個の炭素原子を有する直鎖又は分岐のアルキル鎖を表し、これらのアリール基は、同じであるか又は異なり、フェニル基又はナフチル基を表す。
【0079】
特定の実施形態では、Ql+ (n/l)は、四級ホスホニウム又は四級アンモニウムカチオンを表す。
【0080】
好ましい一実施形態では、Ql+ (n/l)は、四級ホスホニウムカチオンを表す。四級ホスホニウムカチオンの非限定的な例には、トリヘキシル(テトラデシル)ホスホニウム及びテトラアルキルホスホニウムカチオン、特にテトラブチルホスホニウム(PBu)カチオンが含まれる。
【0081】
別の実施形態では、Ql+ (n/l)は、イミダゾリウムカチオンを表す。イミダゾリウムカチオンの非限定的な例には、1,3-ジメチルイミダゾリウム、1-(4-スルホブチル)-3-メチルイミダゾリウム、1-アリル-3H-イミダゾリウム、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウム、1-エチル-3-メチルイミダゾリウム、1-ヘキシル-3-メチルイミダゾリウム、1-オクチル-3-メチルイミダゾリウムが含まれる。
【0082】
別の実施形態では、Ql+ (n/l)は、特に、テトラエチルアンモニウム、テトラプロピルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム、トリメチルベンジルアンモニウム、メチルトリブチルアンモニウム、N,N-ジエチル-N-メチル-N-(2-メトキシエチル)アンモニウム、N,N-ジメチル-N-エチル-N-(3-メトキシプロピル)アンモニウム、N,N-ジメチル-N-エチル-N-ベンジルアンモニウム、N,N-ジメチル-N-エチル-N-フェニルエチルアンモニウム、N-トリブチル-N-メチルアンモニウム、N-トリメチル-N-ブチルアンモニウム、N-トリメチル-N-ヘキシルアンモニウム、N-トリメチル-N-プロピルアンモニウム、及びAliquat 336(メチルトリ(C~C10アルキル)アンモニウム化合物の混合物)からなる群から選択される四級アンモニウムカチオンを表す。
【0083】
一実施形態では、Ql+ (n/l)は、ピペリジニウムカチオン、特にN-ブチル-N-メチルピペリジニウム、N-プロピル-N-メチルピペリジニウムを表す。
【0084】
別の実施形態では、Ql+ (n/l)は、ピリジニウムカチオン、特にN-メチルピリジニウムを表す。
【0085】
より好ましい実施形態では、Ql+ (n/l)は、ピロリジニウムカチオンを表す。特定のピロリジニウムカチオンの中でも、以下のものを挙げることができる:C1~12アルキル-C1~12アルキル-ピロリジニウム、より好ましくはC1~4アルキル-C1~4アルキル-ピロリジニウム。ピロリジニウムカチオンの例としては、限定するものではないが、N,N-ジメチルピロリジニウム、N-エチル-N-メチルピロリジニウム、N-イソプロピル-N-メチルピロリジニウム、N-メチル-N-プロピルピロリジニウム、N-ブチル-N-メチルピロリジニウム、N-オクチル-N-メチルピロリジニウム、N-ベンジル-N-メチルピロリニウム、N-シクロヘキシルメチル-N-メチルピロリジニウム、N-[(2-ヒドロキシ)エチル]-N-メチルピロリジニウムが挙げられる。より好ましいものは、N-メチル-N-プロピルピロリジニウム(PYR13)及びN-ブチル-N-メチルピロリジニウム(PYR14)である。
【0086】
イオン液体のアニオンの非限定的な例は、ヨージド、ブロミド、クロリド、硫酸水素、ジシアンアミド、アセテート、ジエチルホスフェート、メチルホスフェート、フッ素化アニオン、例えばヘキサフルオロホスフェート(PF )及びテトラフルオロボレート(BF )、並びに以下の式:
【化5】
のオキサロボレートを含む。
【0087】
一実施形態では、An-は、フッ素化アニオンである。本発明に使用することができるフッ素化アニオンの中でも、フッ素化スルホンイミドアニオンが特に有利であり得る。この有機アニオンは、特に、以下の一般式:
(E-SO)N
(式中、
- Eは、フッ素原子、又はフルオロアルキル、パーフルオロアルキル、及びフルオロアルケニルから選択される好ましくは1~10個の炭素原子を有する基を表し、
- Rは、置換基を表す)
を有するアニオンから選択され得る。
【0088】
好ましくは、Eは、F又はCFを表し得る。
【0089】
第1の実施形態によれば、Rは、水素原子を表す。
【0090】
第2の実施形態によれば、Rは、好ましくは、1~10個の炭素原子を有し、任意選択的に1つ以上の不飽和を有することができ、及び任意選択的にハロゲン原子で1回以上置換され得る直鎖若しくは分岐の、環状若しくは非環状の炭化水素系基、ニトリル官能基又は任意選択的にハロゲン原子によって複数回のうち1回置換され得るアルキル基を表す。さらに、Rは、ニトリル基-CNを表し得る。
【0091】
第3の実施形態によれば、Rは、スルフィネート基を表す。特に、Rは、Eが上に定義された通りである基-SO-Eを表し得る。この場合、フッ素化アニオンは、対称、すなわちアニオンの2つのE基が同一であるようなものであってもよく、或いは非対称、すなわちアニオンの2つのE基が異なるようなものであってもよい。
【0092】
さらに、Rは、基-SO-R’を表し得、R’は、好ましくは、1~10個の炭素原子を有し、任意選択的に1つ以上の不飽和を有することができ、及び任意選択的にハロゲン原子で1回以上置換され得る直鎖若しくは分岐の、環状若しくは非環状の炭化水素系基、ニトリル官能基又は任意選択的にハロゲン原子によって複数回のうち1回置換されるアルキル基を表す。特に、R’は、ビニル又はアリル基を含み得る。さらに、Rは、基-SO-N-R’(R’は、上に定義された通りであるか、又は他にR’は、スルホネート官能基-SOを表す)を表し得る。
【0093】
環状の炭化水素系基は、好ましくは、シクロアルキル基又はアリール基を指すことができる。「シクロアルキル」は、3~8個の炭素原子を有する単環式炭化水素鎖を指す。シクロアルキル基の好ましい例は、シクロペンチル及びシクロヘキシルである。「アリール」は、6~20個の炭素原子を有する単環式又は多環式の芳香族炭化水素基を指す。アリール基の好ましい例は、フェニル及びナフチルである。基が多環式基である場合、環は、σ(シグマ)結合によって縮合又は結合され得る。
【0094】
第4の実施形態によれば、Rは、カルボニル基を表す。Rは、特に、式-CO-R’(R’は、上に定義された通りである)で表され得る。
【0095】
本発明で使用できる有機アニオンは、有利には、CFSOSOCF(ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオン、一般にTFSIとして示される)、FSOSOF(ビス(フルオロスルホニル)イミドアニオン、一般にFSIとして示される)、CFSOSOF及びCFSOSOSOCFからなる群から選択することができる。
【0096】
好ましい実施形態では、イオン液体は、
- 1つ又は複数のC~C30アルキル基を任意選択的に含むイミダゾリウム、ピリジニウム、ピロリジニウム及びピペリジニウムイオンからなる群から選択される、正に帯電したカチオンと、
- ハライド、フッ素化アニオン及びボレートからなる群から選択される、負に帯電したアニオンと、
を含有する。
【0097】
~C30アルキル基の非限定的な例としては、とりわけ、メチル、エチル、プロピル、イソ-プロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、t-ブチル、ペンチル、イソペンチル、2,2-ジメチル-プロピル、ヘキシル、2,3-ジメチル-2-ブチル、ヘプチル、2,2-ジメチル-3-ペンチル、2-メチル-2-ヘキシル、オクチル、4-メチル-3-ヘプチル、ノニル、デシル、ウンデシル及びドデシル基が挙げられる。
【0098】
本発明において、(iii)上で定義した式(I)の少なくとも1種の金属化合物内のXは、互いに同じであるか、又は異なり、各存在において、少なくとも1個の-N=C=O官能基を含む直鎖又は分岐のC~C12炭化水素基であり、Yは、互いに同じであるか、又は異なり、各存在においてORであり、Rは直鎖又は分岐のC~Cアルキル基であり、好ましくはメチル基又はエチル基である。
【0099】
(iii)上で定義した式(I)の少なくとも1種の金属化合物の非限定的な例としては、トリメトキシシリルメチルイソシアネート、トリエトキシシリルメチルイソシアネート、トリメトキシシリルエチルイソシアネート、トリエトキシシリルエチルイソシアネート、トリメトキシシリルプロピルイソシアネート、トリエトキシシリルプロピルイソシアネート、トリメトキシシリルブチルイソシアネート、トリエトキシシリルブチルイソシアネート、トリメトキシシリルペンチルイソシアネート、トリエトキシシリルペンチルイソシアネート、トリメトキシシリルヘキシルイソシアネート、及びトリエトキシシリルヘキシルイソシアネートが挙げられる。
【0100】
好ましい実施形態では、(iii)上で定義した式(I)の少なくとも1種の金属化合物は、トリエトキシシリルプロピルイソシアネートである。
【0101】
(iv)上で定義した式(II)の少なくとも1種の金属化合物の加水分解性基Y’の選択は、適切な条件下で本発明のフルオロポリマーハイブリッド有機/無機複合材料の形成を可能にすることを条件として、特に限定されない。加水分解性基Y’は典型的には、好ましくは塩素原子であるハロゲン原子、ヒドロカルボキシ基、アシルオキシ基及びヒドロキシル基からなる群から選択される。
【0102】
(iv)上で定義した式(II)の少なくとも1種の金属化合物が基X’上の-N=C=O官能基とは異なる少なくとも1つの官能基を含む場合、それは官能性化合物と表される。基X’のいずれも-N=C=O官能基とは異なる官能基を含まない場合、それは非官能性化合物と表される。
【0103】
1種以上の官能性化合物と1種以上の非官能性化合物との混合物を、(iv)上で定義した式(II)の少なくとも1種の金属化合物として本発明の方法で使用することができる。
【0104】
官能性化合物は、有利には、そのままのフルオロポリマー及びそのままの無機相に対して、グラフト化フルオロポリマーの化学的性質及び特性をさらに改変することができる。
【0105】
-N=C=O官能基とは異なる官能基の非限定的な例としては、とりわけ、エポキシ基、カルボン酸基(その酸、エステル、アミド、無水物、塩もしくはハライド形態での)、スルホン酸基(その酸、エステル、塩もしくはハライド形態での)、ヒドロキシル基、リン酸基(その酸、エステル、塩もしくはハライド形態での)、チオール基、アミン基、第四級アンモニウム基、エチレン系不飽和基(ビニル基のような)、シアノ基、尿素基、有機シラン基、芳香族基が挙げられる。
【0106】
官能性化合物の例は、とりわけ、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、式CH=CHSi(OCOCHのビニルトリスメトキシエトキシシラン、下記式:
【化6】
の2-(3,4-エポキシシクロヘキシルエチルトリメトキシシラン)、
下記式:
【化7】
のグリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、
下記式:
【化8】
のグリシドキシプロピルトリメトキシシラン、
下記式:
【化9】
のメタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、
下記式:
【化10】
のアミノエチルアミノプロピルメチルジメトキシシラン、
下記式:
NCNHCSi(OCH
のアミノエチルアミノプロピルトリメトキシシラン、
3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン、3-クロロイソブチルトリエトキシシラン、3-クロロプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、n-(3-アクリロキシ-2-ヒドロキシプロピル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、(3-アクリロキシプロピル)ジメチルメトキシシラン、(3-アクリロキシプロピル)メチルジクロロシラン、(3-アクリロキシプロピル)メチルジメトキシシラン、3-(n-アリルアミノ)プロピルトリメトキシシラン、2-(4-クロロスルホニルフェニル)エチルトリメトキシシラン、2-(4-クロロスルホニルフェニル)エチルトリクロロシラン、カルボキシエチルシラントリオール、及びそのナトリウム塩、下記式:
【化11】
のトリエトキシシリルプロピルマレアミド酸、
式HOSO-CHCHCH-Si(OH)の3-(トリヒドロキシシリル)-1-プロパン-スルホン酸、N-(トリメトキシシリルプロピル)エチレン-ジアミン三酢酸及びそのナトリウム塩、下記式:
【化12】
の3-(トリエトキシシリル)プロピルコハク酸無水物、式HC-C(O)NH-CHCHCH-Si(OCHのアセトアミドプロピルトリメトキシシラン、式Ti(L)(OR)(式中、Lは、アミン置換アルコキシ基、例えばOCHCHNHであり、Rはアルキル基であり、x及びyは、x+y=4であるような整数である)のアルカノールアミンチタネートである。
【0107】
非官能性化合物の例は、とりわけ、トリメトキシシラン、トリエトキシシラン、テトラメトキシシラン(TMOS)、テトラエトキシシラン(TEOS)、テトラメチルチタネート、テトラエチルチタネート、テトラ-n-プロピルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラ-n-ブチルチタネート、テトラ-イソブチルチタネート、テトラ-tert-ブチルチタネート、テトラ-n-ペンチルチタネート、テトラ-n-ヘキシルチタネート、テトライソオクチルチタネート、テトラ-n-ラウリルチタネート、テトラエチルジルコネート、テトラ-n-プロピルジルコネート、テトライソプロピルジルコネート、テトラ-n-ブチルジルコネート、テトラ-sec-ブチルジルコネート、テトラ-tert-ブチルジルコネート、テトラ-n-ペンチルジルコネート、テトラ-tert-ペンチルジルコネート、テトラ-tert-ヘキシルジルコネート、テトラ-n-ヘプチルジルコネート、テトラ-n-オクチルジルコネート、テトラ-n-ステアリルジルコネートである。
【0108】
好ましい実施形態では、(iv)式(II)の少なくとも1種の金属化合物はテトラエトキシシラン(TEOS)である。
【0109】
本発明による方法の工程c)に、少なくとも1種の酸触媒が添加されてもよい。
【0110】
酸触媒の選択は、特に限定されない。酸触媒は、典型的には、有機酸及び無機酸から、好ましくは有機酸からなる群から選択される。中でもギ酸が本発明による方法に使用することができる好ましい酸である。
【0111】
本発明の第2の目的は、本発明による方法によって得られるポリマー電解質膜である。
【0112】
本発明の第3の目的は、正極と負極との間に本発明による方法により得られるポリマー電解質膜を含む電気化学デバイスである。
【0113】
一実施形態では、正極と負極のうちの少なくとも1つは、金属塩、好ましくは遷移金属塩、アルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩、より好ましくはLi塩、Na塩、K塩、又はCs塩、さらに好ましくはLi塩を含む。
【0114】
本発明のさらに別の目的は、電気化学デバイス、特に二次電池における本発明による方法によって得られるポリマー電解質膜の使用である。
【0115】
参照により本明細書に組み込まれる任意の特許、特許出願及び刊行物の開示が用語を不明瞭にさせ得る程度まで本出願の記載と矛盾する場合、本記載が優先するものとする。
【0116】
本発明は、これから以下の実施例を参照してより詳細に説明されるが、その目的は、単に例証的なものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例
【0117】
原材料
フルオロポリマー:Solef(登録商標)VDF/HEA/HFPコポリマー、Solvay Specialty Polymers Italy S.p.Aから入手可能
TSPI:3-(トリエトキシシリル)プロピルイソシアネート
テトラエトキシシラン(TEOS):Aldrich Chemistryから液体として市販(純度>99%)
有機溶媒:
- エチレンカーボネート(EC)
- プロピレンカーボネート(PC)
- フルオロエチレンカーボネート(FEC)
- スルホラン(SL)
【0118】
実施例1(Ex.1)
フルオロポリマーを真空下80℃で一晩予備乾燥させた。フルオロポリマー(5.0g、使用した有機溶媒の総重量に対して10.0重量部)を、EC/PC(1:1w/w;45.0g)の混合物に溶解した。フルオロポリマーが完全に溶解した後、106mg(フルオロポリマーの総モルに対して1.1mol%)のTSPiを溶液に添加し、その後80℃で60分間混合のために撹拌した。5分間撹拌しながらこれにTEOS(1.6g)を添加した後、温度を80℃に維持しつつ同様に5分間撹拌しながら360mg(TEOSに対して1当量)のギ酸を添加した。TEOSの量は、TEOSがSiOへ全部変換されるとみなして、10%の重量比(mSiO2/mフルオロポリマー)から計算した。
【0119】
ギ酸を添加した後、得られた溶液を、テープキャスティング装置(Doctor Blade)を使用してHALAR(登録商標)9414フィルム基材上に一定の厚さで広げた。このようにして製造した膜を50℃で30分間放置し、ゾル-ゲル反応を進行させた。
【0120】
N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)はフルオロポリマーの優れた溶媒であるが、上で作製したハイブリッド有機/無機複合材料を含むフルオロポリマー電解質膜は、そのような溶媒に不溶性である。膜の架橋密度が高いほど、DMFへの膜の溶解性は低くなる。したがって、この特徴を使用することにより、ハイブリッド有機/無機複合材料が形成されたか否かをDMF中での溶解試験を用いて確認することができる。この目的で、膜を約5mLのDMFの中に室温で約1分間入れた。
【0121】
実施例2~5(Ex.2~5)
Ex2~5は、Ex1と同じ方法で調製したが、異なる部分は使用する有機溶媒の量と、F-ポリマーの量(Ex2についてのみ)だけである。例えば、Ex5では、代わりにEC/PC/FEC/SL(20:10:10:60w/w)の混合物を使用した。
【0122】
比較例1(Comp.Ex1)
フルオロポリマーを真空下80℃で一晩予備乾燥させた。フルオロポリマー(5.0g、使用した有機溶媒の総重量に対して10.0重量部)をアセトン(45.0g)に溶解した。フルオロポリマーが完全に溶解した後、室温で均質化した後に溶液は均質で透明であった。106mg(フルオロポリマーの総モルに対して1.1mol%)のTSPiを溶液に添加し、その後60℃で90分間混合のために撹拌した。次いで、EC/MC(50:50)の混合物に溶解した1MのLiPFを溶液に添加した。続いて、5分間撹拌しながらこれにTEOS(1.6g)を添加し、次いで温度を60℃に維持しつつ360mgのギ酸(TEOSに対して1当量)も5分間撹拌しながら添加し、Comp.Ex.1のポリマー電解質膜を製造した。アセトンを蒸発させるために追加の乾燥工程を実施した。
【0123】
しかしながら、このようにして製造した膜は、膜の総重量に対してその量が600ppm~0.65重量%まで変化する残留アセトンを依然として含んでいた。そのような残留アセトンは、最終的には電池サイクルの性能に悪影響を及ぼす。
【0124】
詳細な組成は以下の表1に記載した。
【0125】
【表1】
【0126】
*アセトンの残留量は、DB-WAX Ultra Inert Column[30m(長さ)*0.32mm(内径)*0.5μm(膜)]を備えたガスクロマトグラフ(Agilentシステム)を使用して、40℃から開始して最大160℃(8分で)又は240℃(15分で)まで、2分の休止時間の温度条件で、複数回測定した。
【0127】
全ての実験は、保護された環境(Nでフラッシュ)下で行った。