(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-29
(45)【発行日】2025-02-06
(54)【発明の名称】三量体を形成するインフルエンザウイルス表面タンパク質由来組換え赤血球凝集素タンパク質およびその用途
(51)【国際特許分類】
C12N 15/74 20060101AFI20250130BHJP
C12N 15/44 20060101ALI20250130BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20250130BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20250130BHJP
C12P 21/02 20060101ALI20250130BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20250130BHJP
C07K 14/47 20060101ALI20250130BHJP
C07K 14/11 20060101ALI20250130BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20250130BHJP
A01H 1/00 20060101ALI20250130BHJP
A01H 5/00 20180101ALI20250130BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20250130BHJP
A61K 39/145 20060101ALI20250130BHJP
A61P 31/16 20060101ALI20250130BHJP
【FI】
C12N15/74 100Z
C12N15/44 ZNA
C12N15/12
C12N15/62 Z
C12P21/02 C
C07K19/00
C07K14/47
C07K14/11
C12N1/21
A01H1/00 A
A01H5/00 A
A61P37/04
A61K39/145
A61P31/16
(21)【出願番号】P 2022562078
(86)(22)【出願日】2021-04-22
(86)【国際出願番号】 KR2021005119
(87)【国際公開番号】W WO2021215855
(87)【国際公開日】2021-10-28
【審査請求日】2022-10-11
(31)【優先権主張番号】10-2020-0048979
(32)【優先日】2020-04-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2020-0170828
(32)【優先日】2020-12-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】520355529
【氏名又は名称】ポステック・リサーチ・アンド・ビジネス・ディヴェロップメント・ファウンデイション
【氏名又は名称原語表記】POSTECH RESEARCH AND BUSINESS DEVELOPMENT FOUNDATION
【住所又は居所原語表記】(JIGOK‐DONG), 77, CHEONGAM‐RO,NAM‐GU, POHANG‐SI, GYEONGSANBUK‐DO 37673,REPUBLIC OF KOREA
(73)【特許権者】
【識別番号】519142114
【氏名又は名称】バイオアプリケーションズ インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】BIOAPPLICATIONS INC.
(73)【特許権者】
【識別番号】506415241
【氏名又は名称】インダストリー-アカデミック コーオペレーション ファンデーション キョンサン ナショナル ユニバーシティ
【氏名又は名称原語表記】INDUSTRY-ACADEMIC COOPERATION FOUNDATION GYEONGSANG NATIONAL UNIVERSITY
【住所又は居所原語表記】900,Gajwa-dong, Jinju-si, Gyeongsangnam-do 660-701, Republic of Korea
(73)【特許権者】
【識別番号】514217783
【氏名又は名称】コングク・ユニバーシティ・インダストリアル・コーペレイション・コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【氏名又は名称】廣田 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】ファン,イン ファン
(72)【発明者】
【氏名】リ,ジュン ホ
(72)【発明者】
【氏名】ディアオ,ハイピン
(72)【発明者】
【氏名】ソン,シジェン
(72)【発明者】
【氏名】キム,ウェ ヨン
(72)【発明者】
【氏名】キム,ミン ガブ
(72)【発明者】
【氏名】リュ,ギョン リョル
(72)【発明者】
【氏名】シン,ギョン イム
(72)【発明者】
【氏名】ソン,チャン ソン
(72)【発明者】
【氏名】リ,ジ ホ
(72)【発明者】
【氏名】キム,トク ファン
【審査官】白井 美香保
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-513934(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0004547(US,A1)
【文献】特表2011-509661(JP,A)
【文献】特表2011-527180(JP,A)
【文献】Human Vaccine & Immunotherapeutics,2013年,Vol.9, No.3,p.553-560
【文献】Biotechnol. Prog.,2016年,Vol.33, No.1,p.154-162
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i) インフルエンザ
AウイルスH5N6又はH9N2由来の
ヘマグルチニン(HA)において、膜貫通タンパク質部分
及び小胞体(ER)標的化先導配列をコードするタンパク質部分が欠如したタンパク質をコードする遺伝子;
(ii)
マウスコロニン1の三量体モチーフ部位のタンパク質をコードする遺伝子
であって、ここで、前記マウスコロニン1は配列番号19で表されるアミノ酸配列を含む;及び、
(iii) 配列番号14のアミノ酸配列からなるLysMドメインのタンパク質をコードする遺伝子
を含む、三量体を形成するインフルエンザウイルス由来の組換えHAタンパク質を生産するための組換えベクター。
【請求項2】
前記インフルエンザウイルス由来のHAで膜貫通タンパク質部分
及びER標的化先導配列をコードするタンパク質部分が欠如したタンパク質は、配列番号2のアミノ酸配列または配列番号18のアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の組換えベクター。
【請求項3】
前記インフルエンザウイルス由来のHAで膜貫通タンパク質部分
及びER標的化先導配列をコードするタンパク質部分が欠如したタンパク質をコードする遺伝子は、配列番号1の塩基配列又は配列番号17の塩基配列を含む、請求項1に記載の組換えベクター。
【請求項4】
前記
マウスコロニン1の三量体モチーフ部位のタンパク質は、配列番号4のアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の組換えベクター。
【請求項5】
前記
マウスコロニン1の三量体モチーフ部位のタンパク質をコードする遺伝子は、配列番号3の塩基配列を含む、請求項1に記載の組換えベクター。
【請求項6】
前記LysMドメインのタンパク質をコードする遺伝子は、配列番号13の塩基配列を含む、請求項1に記載の組換えベクター。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項の組換えベクターで形質転換された形質転換体。
【請求項8】
(a) 請求項1に
記載の組換えベクターを製造する段階;
(b) 前記組換えベクターを
アグロバクテリウムに導入して形質転換体を製造する段階;
(c) 前記形質転換体を培養する段階;
(d) 前記形質転換体を培養した培養物を
タバコに浸潤させる段階;および
(e) 前記
タバコを粉砕して三量体を形成するインフルエンザウイルス由来の組換えHA(ヘマグルチニン)タンパク質を得る段階;
を含む、
タバコ植物から三量体を形成するインフルエンザウイルス由来の組換えHAタンパク質を生産する方法。
【請求項9】
請求項8に記載の生産方法で生産された三量体を形成するインフルエンザウイルス由来の組換えHAタンパク質。
【請求項10】
請求項9に記載の三量体を形成するインフルエンザウイルス由来の組換えHAタンパク質でコーティングされたラクトコッカス死菌体を含む、免疫原性が増加した、インフルエンザウイルス感染症の予防用または治療用のワクチン組成物。
【請求項11】
前記三量体を形成するインフルエンザウイルス由来の組換えHAタンパク質は、
膜貫通タンパク質部分及び小胞体(ER)標的化先導配列をコードするタンパク質部分が欠如したインフルエンザAウイルスH5N6由来組換えHAタンパク質及びH9N2由来組換えHAタンパク質を含む、請求項10に記載のワクチン組成物。
【請求項12】
コレラ毒素Bサブユニットをさらに含む、請求項10又は11に記載のワクチン組成物。
【請求項13】
前記ワクチン組成物は、注射剤形態である、請求項10又は11に記載のワクチン組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三量体を形成するインフルエンザウイルス表面タンパク質由来組換え赤血球凝集素(ヘマグルチニン, HA)タンパク質およびその用途に関するもので、具体的には、三量体を形成するインフルエンザウイルス表面タンパク質由来のHAタンパク質を生産するための組換えベクター、上記組換えベクターで形質転換された形質転換体、上記組換えベクターを用いた、三量体を形成するインフルエンザウイルス表面タンパク質由来のHAタンパク質の生産方法、上記の方法で生産された三量体を形成するインフルエンザウイルス表面タンパク質由来のHAタンパク質およびそのインフルエンザウイルス感染症の予防、改善または治療用途に関するものである。
【背景技術】
【0002】
最近、植物から組換えタンパク質を低コストで生産できる可能性が提案され、様々な試みが進められている。特に、多様な医療用タンパク質の生産の可能性などを確認する研究が進められている。植物から組換えタンパク質を生産する場合、様々なメリットがあるが、その一つは大腸菌など微生物に存在する内毒素のように毒素がほとんど存在しないということと人体に感染しうる病原体がないということである。またプリオンのような有害なタンパク質もないことが知られており、動物細胞や微生物に比べて安全な組換えタンパク質を生産できる。製造単価においても動物細胞よりは非常に安価であり、植物の栽培方法によって大規模な生産においては大腸菌などの微生物よりも経済的である。このような可能性を実現するためには、いくつかの必須技術の開発が必要である。その中で最も重要な技術は、植物における遺伝子の高発現を誘導するための発現ベクターの開発である。植物では、様々な方法を通じて遺伝子の発現を誘導することができる。組換え遺伝子を植物体のゲノムに導入させる方法、葉緑体のゲノムに 導入させる方法、アグロバクテリウムを用いて一過性のある遺伝子を発現させる方法など様々な方法が可能である。細胞核ゲノムや葉緑体ゲノムに組換え遺伝子を融合させる方法は、基本的に形質転換体を確保する過程を通じて植物からタンパク質を生産することになる。一方、アグロバクテリウムを植物組織に浸透させ、遺伝子の一過性発現を誘導してタンパク質を生産する場合、形質転換体の製造過程が含まれないためタンパク質の生産期間が短く、概ね形質転換体によるタンパク質の生産に比べてタンパク質の生産水準が著しく高いメリットがある。また、植物の持つ異なる遺伝子の発現抑制機構を、遺伝子沈黙抑制因子を共同浸透させて抑制することができるため、タンパク質の発現水準をさらに高く誘導することができる。しかし、一過性発現をしようとするたびに目的遺伝子を含むバイナリーベクターを導入したアグロバクテリウムの培養と、p38遺伝子沈黙抑制因子を発現するバイナリーベクターを導入したアグロバクテリウムの培養を別々に作り、これを適切な割合で混ぜて共同浸透させる過程を遂行しなければならない短所がある。特に、二種類のアグロバクテリウムを培養する場合、時間や経済的な面で限界がある。
【0003】
インフルエンザウイルスは、オルトミクソウイルス科に属するRNAウイルスで、呼吸器に炎症を誘発し、感染者の咳や唾液により空気中に直接伝わったり、インフルエンザ患者の接触物などにより間接的にも他人に感染しうる感染力の強いウイルスである。潜伏期は、24~30時間程度であり、ウイルスの血清型は、A型、B型およびC型に区分される。そのうちB型とC型は、人のみ感染が確認されており、A型は人、馬、豚、その他哺乳類、そして多様な種類の家禽と野生鳥類から感染が確認されている。したがって、このような強力な伝染力を持つインフルエンザウイルスの感染を予防するためにワクチンの開発が必要である。
【0004】
ワクチンとしての組換えタンパク質の抗原は、生産および活用において安全性に優れているが、生きているウイルスを基盤としたワクチンに比べると免疫原性が低く、概ね生産単価が高いのがデメリットである。したがって、この安全性に優れた組換えタンパク質を用いてワクチンとして効能を高めるためには、多様な免疫反応を誘導することができ、高い免疫反応を誘導することができる組換えタンパク質ワクチンの伝達技術を開発することが必須である。また、一種類の抗原だけでなく、複数種類の抗原を同時に伝達することができれば、これはさらに効果的なワクチンになるだろう。実際に最近の傾向は、複数の種類の抗原を一つの注射剤として開発することである。抗原の免疫原性を高めるために最も効果的に活用される方法が強力な補助剤を使うことである。補助剤の効能が高ければ、少量の抗原でも効果的に免疫反応を誘導することができ、これによりワクチンの価格を下げることができるため、強力な補助剤の開発がタンパク質基盤のワクチン開発において非常に重要である。また、補助剤の種類によって異なる免疫反応を誘導できるため、抗原の種類によって適切な補助剤の使用が非常に重要である。現在、水酸化アルミニウムなどの注射用補助剤が開発され人体に使用されており、経口ワクチン用にコレラ毒素Bサブユニット(CTB)などが活用されている。家畜などの動物用としては、より多くの種類の補助剤が開発され活用されている。実験用としては、マウスに完全フロイントアジュバント(フロイント完全補助剤)が多く活用されている。しかし、これらがどのように人間と家畜および実験動物において抗原の免疫原性を高めるのか、まだ明確に知られていない。
【0005】
多様な種類の補助剤が開発されており、ワクチンの伝達方法も多様であるため、このような多様な伝達方法によって異なる種類の補助剤が必要である。最近、バクテリアを経口用ワクチン伝達体および補助剤として活用する研究が多く行われている。特に、ラクトコッカスの場合、アメリカ食品医薬品局(FDA)で「一般的に安全と認められる(GRAS)状態」を確保したバクテリアで人体に安全と考えられ、これを経口補助剤および抗原伝達剤として開発している。バクテリアは、それ自体が非常に抗原性が高いため、バクテリアが伝達する抗原に対して非常に高い免疫反応を示すものと報告された。
【0006】
ヘマグルチニン(HA)の全長タンパク質は、膜貫通ドメインを持つ膜結合形態で、細胞から高い水準で生産することは難しい。一方、HAの膜貫通ドメインを除き、エクトドメインだけを発現すれば、これは細胞に可溶性形態で作られ、高い効率で生産できる。しかし、HAのエクトドメインだけを可溶性形態で製造すれば、元の全長HAがインフルエンザウイルスの表面に存在するときに持つ三量体形態がよく作られない。ワクチンの目的で使用するために、HAのエクトドメインの組換えタンパク質を植物から発現および生産する際に三量体を形成するよう誘導する技術を開発しようとした。また、このように生産されたタンパク質をペプチドグリカンに結合する能力を持たせ、ラクトコッカスまたはキトサン粒子などの表面に結合できる遺伝子を結合し、様々な方法で抗原を伝達できるようにHAエクトドメイン組換えタンパク質を考案した。このように製造されたHAの組換え遺伝子を植物から高発現させるバイナリーベクターを構築した。上記植物から高発現したHA組換えタンパク質をインフルエンザウイルスに感染したマウスに処理した結果、治療効果が確認され、さらに、上記HA組換えタンパク質抗原および免疫反応を大きく高めるとされるCTBをGRAS状態のラクトコッカスを加熱し、トリクロロ酢酸を処理してバクテリアの水溶性タンパク質と核酸を除去した後、上記ラクトコッカス死菌体にコーティングして注射用ワクチンでインフルエンザウイルス感染マウスに処理した結果、治療効果が上昇することを確認した。さらに、水溶性H5N6のHA三量体またはラクトコッカス死菌体の表面にコーティングされたH5N6のHA三量体を注射用ワクチンでインフルエンザウイルス感染鶏に処理した結果、高い免疫効果を確認した。CTB、可溶性H5N6のHA三量体、可溶性H9N2のHA三量体をそれぞれラクトコッカス死菌体にコーティングした後、これを混合して免疫組成物を製造し、血球凝集を分析した結果、CTBを含む群が血球凝集が増加し、CTBが免疫原性を増加させることを確認した。H5N6のHA三量体をコーティングしたラクトコッカスとH9N2のHA三量体をコーティングしたラクトコッカスを1:1の割合で混ぜてワクチン組成物を製造した後、これを用いてマウスに免疫注射した結果、免疫原性が増加することを確認した。H5N6のHA三量体とH9N2のHA三量体を1:1で混ぜた後、これをラクトコッカスにコーティングし、これをワクチン組成物として製造してマウスに免疫注射した結果、免疫原性が増加することを確認した。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の問題を解決するために案出されたもので、本発明の目的は、(i) インフルエンザウイルス由来のHA(ヘマグルチニン)において膜貫通タンパク質部分が欠如したタンパク質をコードする遺伝子;および(ii) コロニン1の三量体モチーフ部位のタンパク質をコードする遺伝子を含む三量体を形成するインフルエンザウイルス由来の組換えHAタンパク質を生産するための組換えベクターを提供することである。
【0008】
本発明の別の目的は、前述の組換えベクターにLysMドメインのタンパク質をコードする遺伝子が追加挿入された三量体を形成するインフルエンザウイルス由来の組換えHAタンパク質を生産するための組換えベクターを提供することである。
【0009】
本発明のもう一つの目的は、次の段階を含む植物において三量体を形成するインフルエンザウイルス由来の組換えHAタンパク質を生産する方法を提供することである:
(a) 前述の組換えベクターを製造する段階;
(b) 上記組換えベクターを細胞に導入して形質転換体を製造する段階;
(c) 上記形質転換体を培養する段階;および
(d) 上記形質転換体を培養した培養物を植物に浸潤させる段階;および
(e) 上記植物を粉砕して三量体を形成するインフルエンザウイルス由来の組換えHAタンパク質を修得する段階。
【0010】
本発明の別の目的は、前述の方法で生産された三量体を形成するインフルエンザウイルス由来の組換えHAタンパク質を提供することである。
【0011】
本発明のもう一つの目的は、前述の三量体を形成するインフルエンザウイルス由来の組換えHAタンパク質を含む免疫原性が増加したインフルエンザウイルス感染症の予防または治療用ワクチン組成物を提供することである。
【0012】
本発明の別の目的は、前述の三量体を形成するインフルエンザウイルス由来の組換えHAタンパク質がコードされたバクテリアまたはキトサンを含む免疫原性が増加したインフルエンザウイルス感染症の予防または治療用ワクチン組成物を提供することである。
【0013】
本発明のもう一つの目的は、前述のワクチン組成物にコレラ毒素Bサブユニットが追加で含まれており、免疫原性が増加したインフルエンザウイルス感染症の予防または治療用ワクチン組成物を提供することである。
【0014】
本発明の別の目的は、前述の三量体を形成する、互いに異なる2種以上のインフルエンザウイルス由来の組換えHAタンパク質を含む免疫原性が増加した互いに異なる遺伝型インフルエンザウイルス感染症の予防または治療用ワクチン組成物を提供することである。
【0015】
本発明のもう一つの目的は、前述の多様な形態のワクチン組成物をこれを必要とする個体に投与することを含む、インフルエンザウイルス感染症の予防または治療方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上述の課題を解決するために、本発明は、(i) インフルエンザウイルス由来のHAで膜貫通タンパク質部分が欠如したタンパク質をコードする遺伝子;および(ii) コロニン1の三量体モチーフ部位のタンパク質をコードする遺伝子を含む三量体を形成するインフルエンザウイルス由来の組換えHA(ヘマグルチニン)タンパク質を生産するための組換えベクターを提供する。
本発明の望ましい一実施例によれば、上記インフルエンザウイルスは、インフルエンザAウイルスH5N6、H7N9およびH9N2からなる群から選択されるいずれか一つ以上であり得る。
本発明の望ましい別の一実施例によれば、上記インフルエンザウイルス由来のHAにおいて、膜貫通タンパク質部分が欠如したタンパク質は配列番号2のアミノ酸配列または配列番号18のアミノ酸配列を含めることができる。
【0017】
本発明の望ましいもう一つの一実施例によれば、上記インフルエンザウイルス由来のHAにおいて、膜貫通タンパク質部分が欠如したタンパク質をコードする遺伝子は、配列番号1の塩基配列または配列番号17の塩基配列を含めることができる。
本発明の望ましい別の一実施例によれば、上記コロニン1の三量体モチーフ部位のタンパク質は、配列番号4のアミノ酸配列を含めることができる。
本発明の望ましいもう一つの一実施例によれば、上記コロニン1の三量体モチーフ部位のタンパク質をコードする遺伝子は、配列番号3の塩基配列を含めることができる。
本発明の望ましい別の一実施例によれば、前述の組換えベクターにLysMドメインのタンパク質をコードする遺伝子が追加挿入されることがある。
本発明の望ましいもう一つの一実施例によれば、上記LysMドメインのタンパク質は、配列番号14のアミノ酸配列を含めることができる。
本発明の望ましい別の一実施例によれば、上記LysMドメインのタンパク質をコードする遺伝子は、配列番号13の塩基配列を含めることができる。
【0018】
本発明の望ましいもう一つの一実施例によれば、上記組換えベクターは、カリフラワーモザイクウイルスから由来した35Sプロモーター、カリフラワーモザイクウイルスから由来した19S RNAプロモーター、Macプロモーター、植物のアクチンタンパク質プロモーターおよびユビキチンタンパク質プロモーターからなる群から選択されるいずれかのプロモーターを追加して含めることができる。
【0019】
また、本発明は、前述の組換えベクターで形質転換された形質転換体を提供する。
本発明の望ましい一実施例によれば、上記形質転換体は、原核生物または真核生物であり得る。
さらに、本発明は、次の段階を含む植物において、三量体を形成するインフルエンザウイルス由来の組換えHAタンパク質を生産する方法およびこれから生産された三量体を形成するインフルエンザウイルス由来の組換えHAタンパク質を提供する。
ひいては、本発明は、前述の三量体を形成するインフルエンザウイルス由来の組換えHAタンパク質を含む、免疫原性が増加したインフルエンザウイルス感染症の予防または治療用ワクチン組成物を提供する。
【0020】
本発明の望ましい一実施例によれば、上記三量体を形成するインフルエンザウイルス由来の組換えHAタンパク質は、細胞壁にペプチドグリカンを含むバクテリアまたはキトサンの表面にコーティングされることがある。
本発明の望ましい別の一実施例によれば、上記細胞壁にペプチドグリカンを含むバクテリアは、一般的に安全と認められる(GRAS)状態のバクテリアであり得る。
本発明の望ましいもう一つの一実施例によれば、上記ワクチン組成物は、コレラ毒素Bサブユニットを追加して含めることができる。
【0021】
本発明の望ましい別の一実施例によれば、上記ワクチン組成物は、注射剤形態であり得る。
さらに、本発明は、前述の三量体を形成する、異なる2種以上のインフルエンザウイルス由来の組換えHAタンパク質を含む、免疫原性が増加した異なる遺伝型のインフルエンザウイルス感染症の予防または治療用ワクチン組成物を提供する。
【0022】
本発明の望ましい一実施例によれば、上記三量体を形成する、異なる2種以上のインフルエンザウイルス由来の組換えHAタンパク質は、H5N6、H7N9およびH9N2からなる群から選択されるいずれかのインフルエンザウイルス由来のHAタンパク質であり得る。
本発明の望ましい別の一実施例によれば、上記三量体を形成する、異なる2種以上のインフルエンザウイルス由来の組換えHAタンパク質は、細胞壁にペプチドグリカンを含むバクテリアまたはキトサンの表面にコーティングされることがある。
本発明の望ましいもう一つの一実施例によれば、上記細胞壁にペプチドグリカンを含むバクテリアは、一般的に安全と認められる(GRAS)状態のバクテリアであり得る。
【0023】
本発明の望ましい別の一実施例によれば、上記三量体を形成する、異なる2種以上のインフルエンザウイルス由来の組換えHAタンパク質は、次の(i)ないし(iii)のいずれかの方法で細胞壁にペプチドグリカンを含むバクテリアまたはキトサンの表面にコーティングされることがある:
(i) 上記三量体を形成する、異なる2種以上のインフルエンザウイルス由来の組換えHAタンパク質を混合した後、細胞壁にペプチドグリカンを含むバクテリアまたはキトサンの表面にコーティングしたり、
(ii) 上記三量体を形成する、異なる2種以上のインフルエンザウイルス由来の組換えHAタンパク質をそれぞれ細胞壁にペプチドグリカンを含むバクテリアまたはキトサンの表面にコーティングして混合したり;または
(iii) 上記(i)および(ii)の2つの方法で異なる2種以上のインフルエンザウイルス由来の組換えHAタンパク質を細胞壁にペプチドグリカンを含むバクテリアまたはキトサンの表面にコーティングする。
【0024】
本発明の望ましいもう一つの一実施例によれば、上記ワクチン組成物は、コレラ毒素Bサブユニットを追加して含めることができる。
さらに、本発明は、前述の多様な形態のワクチン組成物をこれを必要とする個体に投与することを含む、インフルエンザウイルス感染症の予防または治療方法を提供する。
【発明の効果】
【0025】
本発明の三量体を形成するインフルエンザウイルス由来の組換えHAタンパク質は、高病原性インフルエンザAウイルスH5N6由来HAで膜貫通タンパク質が欠如したエクトドメイン部分のタンパク質、マウスコロニンAの三量体モチーフおよびラクトコッカスラクチスのLysMペプチドグリカン-結合ドメイン-を含むタンパク質の細胞壁結合ドメインであるLysMドメインを含み、植物から大量に製造することができ、三量体を形成して免疫性が増加し、ラクトコッカスなどのバクテリアやキトサンの粒子に結合またはコーティングされ、高課程に抗原を伝達することができる。上記植物から高発現したHA組換えタンパク質をインフルエンザウイルスに感染したマウスに処理した結果、治療効果が現れ、また、上記HA組換えタンパク質抗原および免疫反応を大きく高めるとされるコレラ毒素Bサブユニットを、GRAS状態のラクトコッカスを加熱およびトリクロロ酢酸で処理し、バクテリアの水溶性タンパク質と核酸を除去して製造された死菌体にコーティングして注射用ワクチンでインフルエンザウイルス感染マウスに処理した結果、優れた治療効果を示した。さらに、本発明による可可溶性H5N6のHA三量体、可溶性H9N2のHA三量体またはこれらをラクトコッカス死菌体の表面にコーティングし、注射用ワクチンでインフルエンザウイルス感染鶏に処理した結果、高い免疫効果を示した。CTB(コレラ毒素Bサブユニット)、水溶性H5N6のHA三量体および水溶性H9N2のHA三量体をそれぞれラクトコッカス死菌体にコーティングした後、これを混合して製造された免疫組成物を用いて血球凝集を分析した結果、CTBを含むグループの血球凝集が増加し、CTBが免疫原性を増進させる効果があることを確認した。H5N6のHA三量体をコーティングしたラクトコッカス死菌体とH9N2のHA三量体をコーティングしたラクトコッカス死菌体を1:1の割合で混合して製造されたワクチン組成物を用いてマウスに免疫注射した結果、免疫原性が増加する効果を示した。H5N6のHA三量体とH9N2のHA三量体1:1で混合した後、これをラクトコッカス死菌体にコーティングして製造されたワクチン組成物もマウスで免疫注射した結果、同様に免疫原性が増加する効果を示した。これにより、異なる複数の種類の抗原をラクトコッカス死菌体にそれぞれコーティングした後に混合したり、異なる複数の種類の抗原を同時に混合した後にラクトコッカス死菌体にコーティングしたり、または上記2つの方法を一緒に使用することで、多重の抗原を同時に伝達して免疫原性を効果的に増進させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】
図1aおよび
図1bは、本発明による三量体を形成するインフルエンザウイルス由来の組換えHAタンパク質を生産するために使用した組換えベクターの構成を模式図で示したものである。
【
図2】
図2aは、ニコチアナベンタミアナで発現させたタンパク質をSDS/PAGEで分離した後、抗His抗体を用いてウェスタンブロット分析を行った結果を示したものである。
図2bは、ニコチアナベンタミアナで発現させたタンパク質をSDS/PAGEで分離した後、クマシーブリリアントブルーに染色した結果を示したものである。
【
図3】
図3aおよび
図3bはゲルろ過カラムクロマトグラフィーを用いてmH5N6とtH5N6がそれぞれ単量体および三量体を形成することを確認した結果を示したもので、具体的に、
図3aはゲルろ過カラムクロマトグラフィーによって分画(切片)した結果を示したものであり、
図3bは各ピークにあたる分画をSDS/PAGEで展開した後、抗His抗体を用いてウェスタンブロット分析を行った結果を示したものである。
図3cおよび
図3dは、ゲルろ過カラムクロマトグラフィーを用いて、mH9N2とtH9N2がそれぞれ単量体および三量体を形成することを確認した結果を示したもので、具体的に、
図3cはゲルろ過カラムクロマトグラフィーによって分画(切片)した結果を示したものであり、
図3dは各ピークにあたる分画をSDS/PAGEで展開した後、抗His抗体を利用してウェスタンブロット分析を行った結果を示したものである。
【
図4】
図4aおよび
図4bは、LysMのラクトコッカスラクチスへの結合において、mCor1による三量体の効果を確認したもので、具体的に
図4aはGFP-LysMとGFP-mCor-LysMをそれぞれラクトコッカスに結合させた後、これをSDS/PAGEで展開しウェスタンブロット分析およびクマシーブリリアントブルーに染色した結果を示したものであり、
図4bは蛍光顕微鏡の下でGFP-LysMおよびGFP-mCor-LysMがそれぞれTCAを処理したラクトコッカスに結合する程度を観察した結果を示したものである。
【
図5】
図5は、ニコチアナベンタミアナの葉細胞で製造されたH5N6のHAの単量体(mH5N6)と三量体(tH5N6)をTCAを処理したラクトコッカスに結合させた後、これをSDS/PAGEで展開してクマシーブリリアントブルーに染色した結果を示したものである。
【
図6】
図6aは、可溶性tHAおよびラクトコッカスの表面にコーティングされたtHAに対するマウスの免疫原性反応を確認するための投与スケジュールを示したものである。
図6bは、可溶性tHAおよびラクトコッカスの表面にコーティングされたtHAに対するマウスの免疫原性反応をELISAで測定した結果を示したものである。
【
図7】
図7aおよび
図7bは、可溶性tHAおよびラクトコッカスの表面にコーティングされたtHAが血球凝集を阻害する程度を分析した結果を示したものである。
【
図8】
図8aは、鶏を対象にPBS、ラクトコッカス菌体、可溶性H5N6のHA三量体、ラクトコッカスの表面にコーティングされたH5N6のHA三量体を抗原として抗体誘導実験を行った結果を示したものである。
図8bは、鶏を対象にPBS、ラクトコッカス菌体、可溶性H9N2のHA三量体、ラクトコッカスの表面にコーティングされたH5N6のHA三量体を抗原として抗体誘導実験を行った結果を示したものである。
【
図9】
図9は、CTB(コレラ毒素Bサブユニット)、可溶性H5N6のHA三量体、可溶性H9N2のHA三量体をそれぞれコーティングしたラクトコッカスを混合して免疫原性を確認した結果を示したものである。
【
図10】
図10は、H5N6のHA三量体をコーティングしたラクトコッカスとH9N2のHA三量体をコーティングしたラクトコッカスを1:1の割合で混合して製造されたワクチン組成物を用いてマウスに免疫注射した後、2種類の抗原に対して強力な免疫原性を確認した結果を示したものである。
【
図11】
図11は、H5N6のHA三量体とH9N2のHA三量体を1:1で混合した後、これをラクトコッカスにコーティングして製造されたワクチン組成物をマウスに免疫注射した後、2種類の抗原に対して強力な免疫原性を確認した結果を示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明を詳細に説明する。
上述のように、インフルエンザウイルス由来のHA(ヘマグルチニン)の全長タンパク質は、膜貫通領域を有する膜結合形態で、細胞から高い水準で生産することが難しいという限界がある。このため、生産水準を高めるために、HAの膜貫通領域を除いてエクトドメインのみを発現させ、細胞で可溶性形態にすると、高い効率で生産できるというメリットがある。しかし、HAのエクトドメインのみを可溶性の形態で製造する場合、元の全長HAがインフルエンザウイルスの表面に存在するときに有する三量体形態がよく作られないという限界がある。このため、本発明者らは、免疫原性が増加したワクチンとして使用する目的でHAのエクトドメインの組換えタンパク質を植物から発現および生産する際、三量体を形成するよう誘導する技術を開発しようとした。また、このように生産されたタンパク質がペプチドグリカンに結合する能力を持つように、ラクトコッカスまたはキトサン粒子などの表面に結合できる遺伝子と結合して様々な方法で抗原を伝達できるHAエクトドメイン組換えタンパク質を開発しようとした。これにより、大量生産できるインフルエンザウイルス由来HAの膜貫通領域を除いたエクトドメインのみを発現するHA、三量体構造を形成するマウスコロニンAの三量体モチーフおよびラクトコッカスまたはキトサン粒子などの表面に結合して効果的に抗原を伝達するラクトコッカスラクチスのLysMペプチドグリカン結合ドメインを含むタンパク質をデザインし、一つのベクターに発現させることにより、三量体を形成するインフルエンザウイルス由来の組換えHAタンパク質および上記タンパク質を植物から大量発現できるバイナリーベクターを構築した。
【0028】
したがって、本発明の第一の側面は、(i) インフルエンザウイルス由来のHA(ヘマグルチニン)において、膜貫通タンパク質部分が欠如したタンパク質をコードする遺伝子;および(ii) コロニン1の三量体モチーフ部位のタンパク質をコードする遺伝子を含む、三量体を形成するインフルエンザウイルス由来の組換えHA(ヘマグルチニン)タンパク質を生産するための組換えベクターに関するものである。
【0029】
本発明の組換えベクターにおいて、上記インフルエンザウイルスは、ヒト、イヌ、豚、馬、家禽類、野生鳥類、オットセイなどに感染する様々な種類のインフルエンザウイルスを制限なく含み、従来知られているインフルエンザウイルスA型、B型、C型、イサウイルスまたはトゴトウイルスを含めることができる。
【0030】
インフルエンザウイルスA型は、季節性インフルエンザや汎流行性インフルエンザ伝染病の原因である。野生の水生鳥類は、非常に多様なインフルエンザAの天然宿主である。時々、ウイルスは、別の種に伝染し、家禽類で破壊的な集団発病を誘発したり、ヒトインフルエンザの汎流行を引き起こすことがある。A型ウイルスは、3つのインフルエンザタイプの中で最も致命的なヒト病原菌で、最も深刻な疾患を誘発する。インフルエンザAウイルスは、このようなウイルスに対する抗体反応を基盤に、異なる血清型に細分化される。ヒトから確認された血清型は(告知されたヒト汎流行病死亡者数の順に)、次のとおり:H1N1(1918年スペインインフルエンザの原因)、H2N2(1957年アジアインフルエンザの原因)、H3N2(1968年香港インフルエンザの原因)、H5N1(2007-2008年インフルエンザシーズンの汎流行病の脅威)、H7N7(潜在的な汎流行病の脅威)、H1N2(ヒトおよび豚における風土病)、H9N2、H7N2、H7N3およびH10N7。
【0031】
インフルエンザウイルスB型は、季節インフルエンザの原因であり、一種類のインフルエンザBウイルスを持つ。インフルエンザBは、ほとんど独占的にヒトに感染し、インフルエンザAよりは稀である。インフルエンザウイルスB型の感染に敏感なことが公示された唯一の動物はオットセイである。このような類型のインフルエンザは、A型より2倍から3倍遅い速度で変異するため、遺伝的に多様ではなく、たった一つのインフルエンザB血清型を持つ。このような抗原多様性の不足の結果として、インフルエンザBに対するある程度の免疫力は通常幼い年齢で獲得されるが、インフルエンザBは持続的な免疫が不可能なほど十分変異する。
インフルエンザウイルスC型は、ヒトや豚に感染し、深刻な病気や局所伝染病を誘発することもあるが、他の類型より稀で、通常、児童から軽い疾患を誘発するものと考えられる。
【0032】
本発明においてインフルエンザAウイルスは、例えば、H5N6、H7N9およびH9N2からなる群から選択されるいずれかであり得るが、これに限らない。
【0033】
本発明の具体的な一実施例では、インフルエンザAウイルスH5N6およびH9N2由来のHAタンパク質を用いて三量体を形成する組換えHAタンパク質を製造した。具体的には、HAの生産性を高めるために、H5N6またはH9N2のHAから膜貫通領域を除き、エクトドメインのみをコードするアミノ酸配列、すなわちH5N6のHA(ゲンバンク:AJD09950.1)の17番目ないし531番目の位置のアミノ酸残基を含むアミノ酸配列およびH9N2のHA(ゲンバンク:AFM47147.1)の19番目ないし524番目の位置のアミノ酸残基を含むアミノ酸配列を含むアミノ酸配列をそれぞれ選択して使用した。本発明に伴う組換えベクターは、三量体を形成する組換えHAタンパク質を製造するために、H5N6のHA(ゲンバンク:AJD09950.1)の17番目から531番目の位置までのアミノ酸残基からなる領域の多様なアミノ酸配列を選択して使用することができ、同様にH9N2のHA(ゲンバンク:AFM47147.1)の19番目から524番目の位置までのアミノ酸残基からなる領域の多様なアミノ酸配列を選択して使用することができる。
【0034】
本発明の組換えベクターにおいて、上記インフルエンザウイルス由来のHA(ヘマグルチニン)において膜通過タンパク質部分が欠如したタンパク質は、配列番号2のアミノ酸配列または配列番号18のアミノ酸配列を含めることができるが、これに限らない。
【0035】
上記インフルエンザウイルス由来のHAにおいて、膜貫通タンパク質部分が欠如したタンパク質をコードする遺伝子は、配列番号1の塩基配列または配列番号17の塩基配列を含めることができ、具体的には、上記遺伝子は配列番号1の塩基配列または配列番号17の塩基配列とそれぞれ70%以上、より望ましくは80%以上、さらに望ましくは90%以上、最も望ましくは95%以上の配列相同性を有する塩基配列を含めることができる。
【0036】
ポリヌクレオチドに対する「配列相同性の%」は、二つの最適に配列された配列と比較領域を比較することによって確認され、比較領域におけるポリヌクレオチド配列の一部は、二つの配列の最適配列に対する参考配列(追加または削除を含まない)に比べて追加または削除(すなわち、ギャップ)を含めることができる。
【0037】
本発明の組換えベクターにおいて、上記コロニン1はマウス由来のコロニン1(mCor 1) (ゲンバンク:EDL17419.1)であり得、その三量体モチーフ部位のタンパク質は配列番号4のアミノ酸配列を含めることができる。本発明の組換えベクターにおいて、上記コロニン1(mCor 1)はインフルエンザウイルス由来HAのエクトドメインのC末端につながり、HAのエクトドメインだけを発現させても三量体を形成できるようにする。
【0038】
上記コロニン1(mCor 1)の三量体モチーフ部位のタンパク質をコードする遺伝子は、配列番号3の塩基配列を含めることができ、具体的に上記遺伝子は配列番号3の塩基配列と70%以上、より望ましくは80%以上、さらに望ましくは90%以上、最も望ましくは95%以上の配列相同性を有する塩基配列を含めることができる。
【0039】
本発明の組換えベクターは、LysMドメインのタンパク質をコードする遺伝子を追加して含めることができる。
本発明の組換えベクターにおいて、上記LysMドメインのタンパク質は配列番号14のアミノ酸配列を含めることができ、上記LysMドメインのタンパク質をコードする遺伝子は配列番号13の塩基配列を含めることができ、具体的に上記遺伝子は配列番号13の塩基配列とそれぞれ70%以上、より望ましくは80%以上、さらに望ましくは90%以上、最も望ましくは95%以上の配列相同性を有する塩基配列を含めることができる。
【0040】
本発明によるインフルエンザウイルス由来のHAにおいて膜貫通タンパク質部分が欠如したタンパク質およびコロニン1(mCor 1)の三量体モチーフ部位のタンパク質を含む組換えHAタンパク質に多様な免疫効果を促進し、抗原の効果的な伝達のために、ラクトコッカスのようなバクテリアやキトサン粒子に結合できる、ラクトコッカスラクチスのLysMペプチドグリカン-結合ドメインを含むタンパク質の細胞壁結合ドメインであるLysMドメイン(ゲンバンク:WP_011834353)の220番目から320番目までのアミノ酸残基(計101個のアミノ酸残基)を6個のアミノ酸残基を有するリンカーを用いてコロニン1(mCor1)の三量体モチーフのC末端に融合した。続いて、組換えタンパク質の分離精製のために6つのHis残基を有するHisタグを融合し、ER蓄積のためにHDELモチーフを融合して構造体tHAを完成させた(
図1a)。対照群としてmCor1の三量体モチーフのない構造体mHAを構築して比較した(
図1b)。
【0041】
このように構築されたHAの組換え遺伝子を植物体発現ベクターであるpTEX1に導入し、植物発現ベクター(それぞれpTEX-tHAおよびpTEX-mHA)を製造した。その後製造された発現ベクターをアグロバクテリウムに導入した後、植物体に浸潤させて一過性発現を誘導した。発現した組換えHAタンパク質は、Hisタグを用いたNi2+-NTA親和カラムで分離するか、LysMドメインを用いてラクトコッカスとの結合を通じて分離することができる。
【0042】
これらの遺伝子を導入したニコチアナベンタミアナの葉抽出物におけるタンパク質の発現を確認するために、抗His抗体を用いてウェスタンブロット分析を行った。
図2aに示すようにHA-LysM-His-HDELは、約80kDaの位置でタンパク質が確認された。これは、計算上のタンパク質の位置より大きいもので、HAタンパク質のN-グリコシル化(N-糖化)のためと考えられる。また、tHAは、mHAより若干大きいものを
図2bで確認できる。
【0043】
続いて、上記タンパク質の三量体の形成を確認するために、単量体形態であるmHAと三量体形態であるtHAを混合してゲルろ過を行った。その結果、
図3aで確認されるように二つのピークが現れ、これら各ピークに該当する分画(切片)を抗His抗体を用いてウェスタンブロットを行った結果、
図3bに示すように、三量体に該当するピークのタンパク質はtHAと確認され、単量体に該当するピークではmHAタンパク質が確認された。
【0044】
本発明の具体的な一実施例では、上記組換えタンパク質のLysMのラクトコッカスへの結合を確認するために、対照群タンパク質としてGFPを用いてHisタグされたGFP-mCor1-LysM(GFP-mCor1-LysM)構造体とHisタグされたGFP-LysM(GFP-LysM)構造体を製造し、これを大腸菌の発現ベクターであるpRSET-Aに導入し、大腸菌で発現できる発現ベクターを構築した。上記タンパク質GFP-mCor1-LysMとGFP-LysMを大腸菌で発現させ、分離および精製してラクトコッカスに結合する程度を蛍光顕微鏡下で観察した。その結果、
図4に示すようにGFP-mCor1-LysMがGFP-LysMよりGFP発現が高いことが確認された。
【0045】
本発明の具体的な他の一実施例では、LysMによるHAのラクトコッカス表面結合において、mCor1による三量体化効果を確認した。このために、単量体形態のmHA(mH5N6)と三量体形態のtHA(tH5N6)を発現するニコチアナベンタミアナの葉組織を粉砕して総抽出物を修得し、これをTCAで処理したラクトコッカスと混合して結合を誘導した後、これからラクトコッカスをペレット化して回収した後、SDS/PAGEで展開し、クマシーブリリアントブルーに染色した。その結果、
図5で確認されるようにtHA(tH5N6)は三量体構造のHAを形成する反面、mHA(mH5N6)は三量体構造のHAを形成せず、三量体構造を形成したtHA(tH5N6)はHAの量が増加するに伴い、ラクトコッカスに結合する量が増加した反面、mHAはラクトコッカスにほとんど結合しなかった。
【0046】
本発明の組換えベクターはカリフラワーモザイクウイルスから由来した35Sプロモーター、カリフラワーモザイクウイルスから由来した19S RNAプロモーター、Macプロモーター、植物のエクチンタンパク質プロモーターおよびユビキチンタンパク質プロモーターからなる群から選択されるいずれかのプロモーターを追加して含めることができ、望ましくはMacプロモーターを含めることができ、より望ましくはMacTプロモーターを含めることができるが、これに限定されない。
【0047】
上記MacTプロモーターは、Macプロモーター塩基配列の3’末端塩基であるAをTに置き換えたプロモーターであり得、上記MacTプロモーターは配列番号15の塩基配列を含めることができ、具体的に上記遺伝子は配列番号15の塩基配列と70%以上、より望ましくは80%以上、さらに望ましくは90%以上、最も望ましくは95%以上の配列相同性を有する塩基配列を含めることができる。
【0048】
本発明の組換えベクターは、RD29B-t終結部位を追加して含めることができ、上記RD29B-t終結部位の遺伝子は配列番号16の塩基配列を含めることができ、具体的に上記遺伝子は配列番号16の塩基配列と70%以上、より望ましくは80%以上、さらに望ましくは90%以上、最も望ましくは95%以上の配列相同性を有する塩基配列を含めることができる。
【0049】
本発明の組換えベクターにおいて、組換えタンパク質をコードする遺伝子のNおよびC末端にそれぞれBiP(シャペロン結合タンパク質)のシグナル配列と小胞体保留シグナル(ER保留配列)であるHDELを挿入することにより、ER(小胞体)に高濃度に蓄積を誘導する効果がある。したがって、本発明の組換えベクターは、BiPをコードする遺伝子および/またはHDEL(His-Asp-Glu-Leu)ペプチドをコードする遺伝子を追加して含めることができ、上記BiPをコードする遺伝子は配列番号9の塩基配列を含めることができ、HDEL(His-Asp-Glu-Leu)は配列番号10の塩基配列を含めることができる。
【0050】
本発明において用語「組換え」とは、細胞が異種の核酸を複製し、または上記核酸を発現し、もしくはペプチド、異種のペプチドまたは異種の核酸によって暗号化されたタンパク質を発現する細胞を指すものである。組換え細胞は、上記細胞の天然形態では発見されない遺伝子または遺伝子の切片をセンスまたはアンチセンス形態のどちらかで発現し得る。また、組換え細胞は、天然状態の細胞から発見される遺伝子を発現し得る。しかし、上記遺伝子は、変形したもので、人為的な手段によって細胞内に再導入されたものである。
【0051】
用語「組換え発現ベクター」とは、細菌プラスミド、ファージ、酵母プラスミド、植物細胞ウイルス、哺乳動物細胞ウイルスまたは他のベクターを意味する。概ね、任意のプラスミドおよびベクターは、宿主内で複製および安定化させることができれば使用できる。上記発現ベクターの重要な特性は、複製原点、プロモーター、マーカー遺伝子および翻訳制御要素を有することである。上記組換え発現ベクターおよび適当な転写/翻訳制御シグナルを含む発現ベクターは、当業者に周知された方法により構築され得る。上記方法は、試験管内組換えDNA技術、DNA合成技術および生体内組換え技術などを含む。
【0052】
本発明の組換えベクターの望ましい例は、適当な宿主に存在するとき、それ自体の一部、いわゆるT領域を植物細胞に転移させることができるTiプラスミドベクターである。他のタイプのTiプラスミドベクターは現在、植物細胞、または雑種DNAを植物のゲノム内に適当に挿入させる新しい植物が生産され得る原形質体で、雑種DNA配列を転移させるのに利用されている。Tiプラスミドベクターの特に望ましい形態は、EP 0 120 516 B1号および米国特許第4,940,838号に請求されたようないわゆるバイナリーベクターである。本発明においてデザインされた三量体を形成するインフルエンザウイルス由来の組換えHAタンパク質をコードする構造体を植物宿主に導入するのに利用できる他の適合するベクターは、二本鎖植物ウイルス(例えば、CaMV)および一本鎖ウイルス、ジェミニウイルスなどに由来し得るようなウイルスベクター、例えば不完全性植物ウイルスベクターから選択され得る。そのようなベクターの使用は、特に植物宿主を適当に形質転換することが困難なときに有利である。
【0053】
本発明の第二の側面は、前述の組換えベクターで形質転換された形質転換体に関するものである。
本発明の形質転換体は、原核生物または真核生物であり得、その例として酵母(サッカロマイセス・セレビシエ)、大腸菌などのカビ、昆虫細胞、ヒト細胞(例えば、CHO細胞株(チャイニーズハムスターの卵巣)、W138、BHK、COS-7、293、HepG2、3T3、RINおよびMDCK細胞株)および植物細胞などが利用され得、望ましくはアグロバクテリウムになり得る。昆虫細胞、ヒト細胞などの場合、三量体を形成する組換えHAタンパク質をコードする遺伝子を各種類の細胞の発現に必要な発現ベクターを用いて発現することができる。
【0054】
本発明の組換えベクターを宿主細胞内に運搬する方法は、宿主細胞が原核細胞である場合、CaCl2法、ハナハン法および電気穿孔法などにより実施されることができる。また、宿主細胞が真核細胞である場合、微細注入法、リン酸カルシウム共沈殿法、電気穿孔法、リポソーム媒介形質感染法、DEAE-デキストラン法、および遺伝子バームバードメントなどによりベクターを宿主細胞内に注入することができる。
【0055】
本発明の第三の側面は、次の段階を含む、植物において三量体を形成するインフルエンザウイルス由来の組換えHAタンパク質を生産する方法に関するものである:
(a) 前述の組換えベクターを製造する段階;
(b) 上記組換えベクターを細胞に導入して形質転換体を製造する段階;
(c) 上記形質転換体を培養する段階;
(d) 上記形質転換体を培養した培養物を植物に浸潤させる段階;および
(e) 上記植物を粉砕して三量体を形成するインフルエンザウイルス由来の組換えHA(ヘマグルチニン)タンパク質を修得する段階。
本発明の三量体を形成するインフルエンザウイルス由来の組換えHAタンパク質を生産する方法において、上記(a)および(b)は前述のとおり同じであるでため、その記載を省略する。
本発明の三量体を形成するインフルエンザウイルス由来の組換えHAタンパク質を生産する方法において、上記(c)段階は、本発明の三量体を形成するインフルエンザウイルス由来の組換えHAタンパク質を生産するために、当業界に告知された任意の方法を適切に選択して利用することができる。
本発明の三量体を形成するインフルエンザウイルス由来の組換えHAタンパク質を生産する方法において、上記(d)段階は、例えば、化学セル法、真空または注射器浸潤法を用いて形質転換体を培養した培養物を植物に浸潤させる方式で行うことができ、望ましくは注射器湿潤法で湿潤させることができるが、これに限られるわけではない。
【0056】
本発明の三量体を形成するインフルエンザウイルス由来の組換えHAタンパク質を生産する方法において、上記(d)段階の植物は、稲、小麦、麦、トウモロコシ、豆、ジャガイモ、小麦、小豆、エンバク、モロコシを含む食糧作物類;シロイヌナズナ、白菜、大根、唐辛子、イチゴ、トマト、スイカ、キュウリ、キャベツ、マクワウリ、カボチャ、ネギ、タマネギ、ニンジンを含む野菜作物類;高麗人参、タバコ、綿花、ゴマ、サトウキビ、テンサイ、エゴマ、ピーナッツ、アブラナを含む特用作物類;リンゴ、ナシ、ナツメ、桃、ブドウ、みかん、柿、スモモ、アンズ、バナナを含む果樹類;バラ、カーネーション、菊、ユリ、チューリップを含む花卉類から選択され得る。
【0057】
本発明の第四の側面は、前述の生産方法で生産された三量体を形成するインフルエンザウイルス由来の組換えHAタンパク質およびこれを含む免疫原性が増加したインフルエンザウイルス感染症の予防、改善または治療用ワクチン組成物に関するものである。
【0058】
本発明のワクチン組成物において、上記三量体を形成するインフルエンザウイルス由来の組換えHAタンパク質は、細胞壁にペプチドグリカンを含むバクテリアまたはキトサンの表面にコーティングされ得る。上記細胞壁にペプチドグリカンを含むバクテリアは、一般的に安全と認められる(GRAS)状態のバクテリアであり得る。例えば、ラクトコッカス、ラクトバチルス、ストレプトコッカスなどがあるが、これに限らない。
本発明の具体的な一実施例では、ラクトコッカスラクチスの表面に一つまたは異なる2種以上の組換えHAタンパク質を様々な方法でコーティングすることで抗原を効果的に伝えようとした。
【0059】
このために、本発明の三量体を形成する、異なる2つ以上の種類のインフルエンザウイルス由来の組換えHAタンパク質は、次の(i)ないし(iii)のいずれかの方法で細胞壁にペプチドグリカンを含むバクテリアまたはキトサンの表面にコーティングされ得る:
(i) 上記三量体を形成する、異なる2つ以上の種類のインフルエンザウイルス由来の組換えHAタンパク質を混合した後、細胞壁にペプチドグリカンを含むバクテリアまたはキトサンの表面にコーティングしたり、
(ii) 上記三量体を形成する、異なる2つ以上の種類のインフルエンザウイルス由来の組換えHAタンパク質をそれぞれ細胞壁にペプチドグリカンを含むバクテリアまたはキトサンの表面にコーティングして混合したり;または
(iii) 上記(i)および(ii)の2つの方法で異なる2つ以上の種類のインフルエンザウイルス由来の組換えHAタンパク質を細胞壁にペプチドグリカンを含むバクテリアまたはキトサンの表面にコーティングする。
例えば、本発明のワクチン組成物は三量体を形成する、異なる2種以上のインフルエンザウイルス由来の組換えHAタンパク質をラクトコッカスにそれぞれ個別にコーティングした後、それぞれ異なるHA組換えタンパク質がコーティングされたラクトコッカスを同じ割合で混合したり(例えば、2種の異なるHA組換えタンパク質がコーティングされたラクトコッカスを混合する場合、1:1で混合されることがあるる)、任意の適切な割合で混合して一つの単一ワクチン組成物として製造することができる。また、異なる2種以上のインフルエンザウイルス由来の組換えHAタンパク質を同じ割合または任意の適切な割合で混合した後、ラクトコッカスの表面にコーティングして一つの単一ワクチン組成物として製造できる。これにより、2種以上の抗原を同時に効果的に伝達できる単一ワクチン組成物を製造することが可能である。また、異なる2種以上のインフルエンザウイルス由来の組換えHAタンパク質をコーティングしたラクトコッカス死菌体に、さらに異なる2種以上のインフルエンザウイルス由来の組換えHAタンパク質をコーティングしたラクトコッカス死菌体を追加混合し、多重の抗原を伝達するワクチン組成物を製造することができる。
【0060】
したがって、本発明のワクチン組成物に含まれる異なる2種以上のインフルエンザウイルス由来の組換えHAタンパク質は、従来知られているインフルエンザウイルスA型、B型、C型、イサウイルスおよびトゴトウイルスからなる群から選択される1種または2種以上から由来するものであり得る。上記インフルエンザAウイルスは、例えば、H5N6、H7N9およびH9N2からなる群から選択されるいずれか一つ以上または二つ以上であり得るが、これに限らない。
【0061】
本発明のワクチン組成物は、コレラ毒素Bサブユニットを追加して含めることができる。これにより、本発明の組換えHAタンパク質の免疫原性を増加させ、より効果的に免疫反応を誘導することができる。
本発明のワクチン組成物は、注射剤形態であり得るが、これに限らない。
【0062】
本発明のワクチン組成物において、インフルエンザウイルス感染症は、インフルエンザウイルスA型、B型またはC型感染による急性呼吸器疾患またはこれによる臨床症状および合併症を含む。インフルエンザウイルス感染による急性呼吸器疾患による臨床症状は、例えば、高熱(約38~40℃)、乾いた咳、喉の痛みなどの呼吸器症状および頭痛、筋肉痛、疲労感、衰弱感、食欲不振といった全身症状がある。最もよくある合併症は、2次呼吸器疾患で、副鼻腔炎および中耳炎などの上部呼吸器感染症であり、その他にも脳炎、脊髄炎、ギラン・バレー症候群などの神経系合併症、横断性脊髄炎、心筋炎、筋炎および気胸などがある。
本発明における用語「予防」、「改善」および/または「治療」は、疾病または病症の発症を抑制または遅延させるすべての行為、疾病または病症状態を好転または利するように変更するすべての行為、および疾病または病症の進行を遅延、中断または逆転させるすべての行為を意味する。
【0063】
本発明のワクチン組成物は、抗原、薬剤学的許容可能な担体、適切な補助剤、その他通常の物質で構成され得、免疫学的効果量で投与する。本発明における用語、「免疫学的効果量」とは、免疫反応を誘導できる程度の十分な量であるが、副作用や深刻または過度な免疫反応を起こさない程度の量を意味し、正確な投与濃度は投与される特定の免疫原によって異なり、免疫反応の発生を検査するために当業者が公知の方法を用いて決定することができる。また、投与形態および経路、受容者の年齢、健康および体重、症状の特性および程度、現在の治療法の種類および治療回数によって変化することがある。
【0064】
担体は、当分野における公知のもので、安定化剤、希釈剤、緩衝液を含めることができる。適切な安定化剤はソルビトール、ラクトース、マンニトール、デンプン、糖、デキストランおよびブドウ糖などの炭水化物;アルブミンまたはカゼインなどのタンパク質などを含めることができる。適切な希釈剤には、塩、ハンクス平衡塩、点滴液などを含む。適切な緩衝液には、アルカリ金属リン酸塩、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ土類金属炭酸塩などを含む。また、本発明のワクチン組成物は、追加で溶媒、アジュバント(補助剤)および賦形剤からなる群から選択された1種以上をさらに含めることができる。上記溶媒には、生理食塩水または蒸留水があり、免疫増強剤にはフロイント不完全または完全アジュバント、水酸化アルミニウムゲルと植物性および鉱物性オイルなどがあり、賦形剤にはリン酸アルミニウム、水酸化アルミニウムまたは硫酸アルミニウムカリウムがあるが、これに限られるものではなく、当該分野の通常の知識を持つ者が技術者によく知られたワクチンの製造に使用される物質をさらに含めることができる。
【0065】
本発明のワクチン組成物は、公知の投与経路を通じて投与される。このような方法には、経口、経皮、筋肉、腹膜、静脈、皮下、鼻腔経路を利用できるが、これに限らず、活性物質が標的細胞に移動できる任意の装置によって投与され得る。
【0066】
本発明のワクチン組成物は、体液性または選択的に細胞-媒介性免疫反応および/または上記2つの免疫反応の組み合わせを誘導することができる。
本発明の第五の側面は、前述の様々な形態のワクチン組成物を必要とする個体に投与する段階を含むインフルエンザウイルス感染症の予防、改善または治療方法に関するものである。
【0067】
本発明のインフルエンザウイルス感染症の予防、改善または治療方法において、「個体」とは、インフルエンザウイルスに既に感染しているか、感染しうるヒトを含むすべての動物を意味する。例えば、ヒト、犬、猫、豚、馬、鶏、アヒル、ガチョウ、七面鳥、オットセイなどを含むが、これに限らない。本発明のワクチン組成物を必要とする個体に投与することにより、インフルエンザウイルスA型、B型またはC型感染による急性呼吸器疾患またはこれによる臨床症状および合併症を効果的に予防または治療することができる。例えば、本発明のワクチン組成物で多様なインフルエンザウイルス亜型または変異型インフルエンザウイルスに感染したヒトを治療することができる。また、本発明の組成物で多様なインフルエンザウイルス亜型または変異型の鳥インフルエンザに感染した鶏または豚を治療することができる。本発明の組成物は、従来のインフルエンザウイルス感染症治療剤および/またはコレラ毒素Bサブユニットと併用投与することができる。
【0068】
用語「併用投与」は、本発明のワクチン組成物が従来のインフルエンザウイルス感染症治療剤および/またはコレラ毒素Bサブユニットと共にこれを必要とする個体に投与されることを意味する。それぞれの成分が一緒に投与されるということは、望む効果を得るために、各成分を同時に、別にまたは順次投与されることを意味する。
【0069】
本発明のインフルエンザウイルス感染症の予防、改善または治療方法において、上記ワクチン組成物は、経口、非経口、吸入スプレーにより、局所的に、直腸、鼻腔、頬側、膣または移植された貯蔵所を通じて投与され得る。本出願書に使用された用語「非経口」は、非制限的に、皮下、静脈内、筋肉内、関節内、滑液内、胸骨内、脊髄腔内、肝臓内、病変内および頭蓋内注射が含まれる。特に、上記組成物は、経口、腹腔内または静脈内に投与され得る。
【0070】
本発明のインフルエンザウイルス感染症の予防、改善または治療方法において、上記ワクチン組成物の投与は2回以上実施することが望ましい。例えば、1次予防接種後に追加接種を1-10週間隔で1-4回程度実施することができるが、これは当該動物の種類によって当業者が適切に変形して実施することができる。
【0071】
本発明の第六の側面は、インフルエンザウイルス感染症の予防、改善または治療のための薬剤の製造時、本発明の三量体を形成するインフルエンザウイルス由来の組換えHAタンパク質の用途に関するものである。
【0072】
以下、本発明の理解を助けるために望ましい実施例を示す。しかし、下記の実施例は、本発明をより容易に理解するために提供されるものであり、下記の実施例により本発明の内容が限られるわけではない。
【実施例1】
【0073】
三量体を形成するインフルエンザウイルス表面タンパク質由来血球凝集素(HA)組換え遺伝子の設計
H5N6またはH9N2のHAをERルーメンに可溶性形態で発現させるために、膜貫通ドメインとER標的化先導配列がないH5N6のHA(ゲンバンク:AJD09950.1)のアミノ酸位置17-531)およびH9N2のHA(ゲンバンク:AFM47147.1)のアミノ酸位置19-524)を確保した。上記HAの5’末端にシロイヌナズナタンパク質であるBiPから確保したER標的化シグナルを融合してER標的化するようにした。また、ラクトコッカスラクチスのAcmAからラクトコッカス結合ドメインであるLysMの3反復配列のうち、1番目の反復配列をHAのC末端にリンカーを用いて融合させた。そして、Hisx6タグおよびER保留モチーフであるHDELをHAの精製およびERでの高蓄積のために、LysMのC末端に順次融合してmHAを構築した(
図1a)。このように作られたHA組換えタンパク質の三量体の形成を誘導するために、追加的にマウスmコロニン1というタンパク質から同種の三量体の形成を誘導するモチーフをHAとLysMの間に添加してtHAを構築した(
図1b)。発現のためにmacTを使用し、Rd29bの末端をターミネーターとして使用した。これらは、高い転写効率を示すことが確認された。実験に使用される塩基配列は、下記表1のとおりである。
【0074】
【実施例2】
【0075】
三量体を形成するインフルエンザウイルス表面タンパク質由来血球凝集素(HA)組換え遺伝子の発現および確認
mHAとtHAを真空浸潤法を用いて4-5週齢のタバコ植物ニコチアナベンタミアナ植物の葉から一過性発現を通じて発現を誘導した。 浸潤した葉を浸潤後3日、5日および7日(dpi)にそれぞれ収穫し、液体窒素で完全に粉砕し、3容積の緩衝液に溶解させた。浸潤した葉抽出物からの総可溶性タンパク質をSDS-PAGEで展開した後、ウェスタンブロット分析を行った。
図2aで確認されるようにHA組換えタンパク質は、抗His抗体によって予測された大きさに相応する位置であるおおよそ85kDa(mH5N6)および90kDa(tH5N6)の地点に鮮明にバンドを示した。また、
図2bで確認されるように、同じメンブレンをクマシーブリリアントブルー(CBB)に染色してバンドを確認した際も同様に観察された。これらの組換えタンパク質の発現水準をバンド強度から判断すると、浸潤した葉から100μg/g生重量程度と推定された。
【実施例3】
【0076】
三量体を形成するインフルエンザウイルス表面タンパク質由来血球凝集素(HA)組換え遺伝子の三量体構造形成を確認
ウイルス表面上のHAタンパク質は、同種の三量体として存在し、高い安定性および免疫原性を示す。一方、組換えHAは、発現システムによって凝集体または単量体として発現する傾向がある。ウイルスの表面に存在するようにHAの三量体を模倣するために、コイルドコイル(coiled coil)構造をなし、同種の三量体を形成するモチーフであるマウスコロニン1-1A(mCor1、ゲンバンク:EDL17419.1 32個のアミノ酸)を
図1bのようにHAのC末端に添加した。これら遺伝子をニコチアナベンタミアナに導入して発現を誘導し、それぞれ5dpi葉組織からの総可溶性タンパク質を確保し、Ni
2+-NTA親和性カラムクロマトグラフィーで精製した。分離精製されたmHAとtHAをBSA標準曲線に基づいて定量化した。mCor1によってHAが三量体を形成するか確認するために、約10μgのmHAおよび10μgのtHAにPBSを追加して全体の容積が1mLになるよう混合し、これをサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)で分析した。
図3aおよび
図3cで確認されるように、mHAおよびtHA混合物は、280nm吸収スペクトルにおいて2つのピークを示した。これら2つのピークを含む分画を抗His抗体を用いてウェスタンブロッティングで分析し、その結果をそれぞれ
図3bおよび
図3dに示した。
図3aおよび
図3cのSEC分析結果と
図3bおよび
図3dのウェスタンブロッティングの結果に示されたように、mCor1を含むtHA(すなわち、tH5N6およびtH9N2)は、mCor1がないmHA(すなわち、mH5N6およびmH9N2)より前に溶出した。これによりmCor1がHAの三量体の形成を誘導することが確認できた。
【実施例4】
【0077】
三量体を形成するインフルエンザウイルス表面タンパク質由来血球凝集素(HA)組換え遺伝子のペプチドグリカンの結合能力を確認
ラクトコッカスラクチスのファージであるMG1363の主要自己分解酵素であるAcmAは、C末端にLysMと呼ばれるドメインが第三反復で現れ、このLysMの第三反復部分がラクトコッカスの細胞壁成分であるペプチドグリカンに結合する能力を持っている。ペプチドグリカンに対する最適な活性化のためには、3つの反復が必要である。しかし、3つの反復区間を含む場合、ドメインの長さが長すぎるため、1つのLysMだけをGFPのC末端に融合して確認した。その結果、
図4aおよび4bで確認されるように、GFP-LysMはラクトコッカスによく結合しなかった。ここにHAの三量体を形成するために使用したマウスコロニン1A(mCor-1A)の三量体形成モチーフを追加してGFP-mCOr1-LysMを構築し、HAにおける三量体のような三量体を形成するよう誘導した後、ラクトコッカスに結合するか確認した。その結果、
図4aおよび4bに示すように、GFP-LysMに比べて著しく増加したGFPシグナルをラクトコッカスで確認することができた。これにより、mCor1Aの三量体形成モチーフがGFPの三量体の形成を誘導し、このように形成されたGFP三量体は、LysMモチーフ3つを持つことになるため、これによりGFPがラクトコッカスによく結合すると解釈できた。このような結果は、tHAがラクトコッカスによく結合することを提示するものと判断される。
【実施例5】
【0078】
三量体を形成するインフルエンザウイルス表面タンパク質由来血球凝集素(HA)組換え遺伝子の最大結合量を確認
HAの組換えタンパク質であるmHAとtHA共にニコチアナベンタミアナで高く発現した。浸潤した葉を液体窒素で完全に粉砕し、0.5%トリトンX-100、1 mM EDTAおよび25%グリセロールを含有する10倍容積PBSバッファーに溶解させた。葉から総可溶性タンパク質を確保し、葉の200mgから2gに該当する総可溶性タンパク質の量を37℃で1時間TCA前処理したラクトコッカスラクチス(L. lactics)と共にインキュベーションした後、PBS緩衝液で3回洗浄した。それぞれの試料からラクトコッカスを沈殿し、これをSDSバッファーに入れて加熱した後、多様な量のBSAと共にSDS-PAGEで展開した後、クマシーブリリアントブルーに染色してHAを確認した。その結果、
図5で確認されるように、三量体モチーフであるmCor1を持つtHAは、HAの量が増加するにつれラクトコッカスラクチスに結合する量が増加した反面、mHAはラクトコッカスにほとんど結合しなかった。三量体であるtHAの最大結合量は、約1.7μg/1 mlのラクトコッカスラクチス(OD = 1)と推定された(
図5)。
【実施例6】
【0079】
ラクトコッカス死菌体の製造および三量体を形成するインフルエンザウイルス表面タンパク質由来血球凝集素(HA)組換えタンパク質を上記死菌体にコーティングする方法
ラクトコッカス(韓国微生物保存センター; KCCM No. 43146)をOD600から1.0まで培養した後、培養液を遠心分離で細胞をペレット化して回収した後、これを同じ容積の10%トリクロロ酢酸(TCA)で再懸濁して100℃で10分間処理した。TCAを除去するために、細胞を遠心分離でペレット化した後、これをPBSで3回洗浄し、ペレットを再懸濁してラクトコッカス死菌体を製造した。緩衝液(PBS pH = 7.5、1 mM EDTA、Triton X-100、カクテルおよび25%グリセロール)を用いて作った総可溶性タンパク質抽出液の多様な量を添加し、1時間37℃で培養した。12,000rpmで5分間遠心分離してラクトコッカス死菌体をペレット化し、これをタンパク質抽出液用PBS緩衝液で3回洗浄した。
【実施例7】
【0080】
マウスを用いた三量体を形成する抗原の免疫原性を確認
実施例2および実施例6において、それぞれ製造された組換えtH5N6、ラクトコッカス死菌体にコーティングしたtH5N6、tH9N2およびラクトコッカス死菌体にコーティングしたtH9N2ワクチンを6週齢C57BL/6マウス雌(オリエントバイオ、韓国)に2週間隔で2回にわたって腹腔内注射をした。対照群としては、PBSとラクトコッカス死菌体を投与した。下記表2のような組成でアジュバントを混合、または混合せず、上記組換えワクチンを添加して試験ワクチンを製造した。
【0081】
【表2】
上記投与された試験ワクチンによって誘導された体液性免疫反応を分析するために、免疫前である0週目の2次ワクチン投与後、2週目である4週目にマウスの血清に分離して抗原特異的な抗体の形成をELISA法で分析して抗体価を決めた。全体のIgG抗体価は、次の方法で確認した。
【0082】
具体的には、精製された上記組換え抗原を96ウェルマイクロプレートに50ng/ウェルの濃度でコーティングした後、非特異的結合を防ぐために、3%のスキムミルクを含むPBSTバッファー(NaCl 137mM, KCl 2.7mM, Na2HPO4 10mM, KH2PO4 1.8mM, Tween 20 1%)200μlを添加して2時間反応させた。上記マイクロプレートを洗浄し、各ウェルに順次3%スキムミルクを含むPBST溶液で希釈した血清を入れ、室温で1時間マイクロプレートシェーカーの上で反応させた。続いて、200μl PBSTバッファーで3回洗浄した後、2次抗体として抗マウスIgGHRP(西洋ワサビペルオキシダーゼ、KPL、米国、Bethyl.)を入れ、2時間同じ条件で反応させた。上記反応させたマイクロプレートを洗浄し、発色試薬TMB(3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン)とフェロキシダーゼ基質(KPL、米国)を添加し、10分間常温で反応させた後、0.18M H
2SO
4静止溶液を用いて発色反応を止め、ELISAリーダーを用いて450nmでODを測定した。抗体価は、陰性対照群OD値の2倍にあたるOD値を示す抗体希釈倍数の逆数に定義した。その結果、
図6bで確認されるように、補助剤なしでラクトコッカスの表面にコーティングされたtHAがアジュバントを含むものと同じ抗体誘導効果を示した。これによってラクトコッカスにコーティングされた抗原は、アジュバントなしで強力に免疫を誘導することができ、ラクトコッカス死菌体は腹腔内および筋肉内投与において強力な補助剤になることを暗示し、これは予防接種の費用効率性が適用され得る。
【実施例8】
【0083】
インフルエンザウイルス表面タンパク質由来血球凝集素(HA)組換えタンパク質がラクトコッカスの表面にコーティングされた形態と水溶性三量体の血球凝集における阻害程度の比較分析
PBSを対照群として使用し、tH9N2(H9N2のHA三量体)、tH5N6(H5N6のHA三量体)、ラクトコッカス死菌体、Lact.-tH9N2(ラクトコッカスの表面にコーティングされたH9N2のHA三量体)、Lact.-tH5N6(ラクトコッカスの表面にコーティングされたH5N6のHA三量体)を2の倍数で希釈された抗原を用いて血球凝集抑制実験を行い、血球凝集を分析した。U底マイクロプレートに最初から最後のウェル前まで希釈バッファー25μlを添加した。前処理された試料を最初のウェルに希釈バッファーを25μl添加した後、最後のウェル前まで25μlずつ2倍希釈した。このとき試料の非特異反応を確認するために、最後のウェルに前処理された試料25μlを添加した。8 HAユニット(Unit) に希釈されたそれぞれの抗原を最初から最後のウェル前まで25μlずつ添加し、密封して室温で45分間培養した。1%鶏の血球25μlを各ウェルに添加し、室温で1時間反応させた後に判読した。
図7aおよび7bで確認されるように、血球凝集抑制実験においても抗原がコーティングされたラクトコッカス、すなわちラクトコッカスの表面にH9N2のHA三量体がコーティングされたLact.-tH9N2とH5N6のHA三量体がコーティングされたLact.-tH5N6がはるかに活性が高かった。
【実施例9】
【0084】
家禽類を対象としたラクトコッカスの表面にコーティングされた三量体の抗原性を確認
6週齢の鶏(ナムドクSPF、大韓民国)をグループ当たり5羽ずつに分け、PBS、ラクトコッカス死菌体、可溶性H5N6のHA三量体およびラクトコッカスの表面にコーティングされたH5N6のHA三量体をそれぞれ抗原として1回の筋肉注射で投与した後、抗体の生成を確認した。
同様に、H9N2のHAを抗原として利用し、上記と同様の方法で鶏の筋肉に注射した後、抗体の生成を確認した。本実施例において使用したワクチンの組成は、下記表3のとおりである。このとき、対照群にH9N2ウイルス1x107 EID50を注射して抗体の生成を確認した。
【0085】
【表3】
上記投与された試験ワクチンによって誘導された体液性免疫反応を分析するために、免疫2週目、3週目、4週目にそれぞれ鶏の血清を分離した後、抗原特異的な抗体の形成をELISA法で分析して抗体価を決定した。全体のIgG抗体価は、次の方法で確認した。
【0086】
具体的には、精製された上記組換え抗原を96ウェルマイクロプレートに100ng/ウェルの濃度でコーティングした後、非特異的結合を防ぐために、1%のウシ血清アルブミンを添加して1時間反応させた。上記マイクロプレートを洗浄し、各ウェルに順次希釈された血清を入れ、37℃で2時間反応させ、2次抗体として抗マウスIgGHRP(西洋ワサビペルオキシダーゼ、KPL、米国)を入れ、1時間同じ条件で反応させた。上記反応させたマイクロプレートを洗浄し、発色試薬TMB(3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン)とフェロキシダーゼ基質(KPL、米国)を添加し、10分間常温で反応させた後、静止溶液を用いて発色反応を止め、ELISAリーダーを用いて450nmでODを測定した。抗体価は、陰性対照群OD値の2倍にあたるOD値を示す抗体希釈倍数の逆数と定義した。
図8aおよび8bで確認されるように、鶏においても、ラクトコッカスの表面にコーティングした抗原が可溶性形態で注射したものよりはるかに強力な免疫反応を誘導した。特に、ラクトコッカスの表面にコーティングされたH9N2のHA三量体2μgがH9N2ウイルス1x10
7 EID50を注射したものよりはるかに強力な免疫効果を有することを確認した。
【実施例10】
【0087】
CTB(コレラ毒素Bサブユニット)、可溶性H5N6のHA三量体および可溶性H9N2のHA三量体をそれぞれ死菌体ラクトコッカスにコーティングした後に免疫の誘導を確認
CTB(コレラ毒素Bサブユニット)、可溶性H5N6のHA三量体、可溶性H9N2のHA三量体をそれぞれ死菌体ラクトコッカスにコーティングした後、これをマウス(系統名:BALB/c;動物規格:5週齢、雌、20g;動物購入先:セムタコ、大韓民国;使用個体数:3匹/グループ)抗原腹腔注射により免疫原性を確認した。CTB(1μg)がコーティングされたiLactを対照群とし、iLact-tH5N6 (0.1 μg) + iLact-tH9N2 (0.1 μg)、iLact-tH5N6 (0.5 μg) + iLact-tH9N2 (0.5 μg)、CTB (1μg) + iLact-tH5N6 (0.1 μg) + iLact-tH9N2 (0.1 μg)、またはCTB (1μg) + iLact-tH5N6 (0.5 μg) + iLact-tH9N2 (0.5 μg) をワクチン組成物として製造し、2週間隔で2回腹腔注射した後、2週間後に血液を採取して血液に存在する抗体をELISAによって確認した。その際、ELISAプレートにH5N6とH9N2抗原をそれぞれ20ngずつコーティングした。その結果、
図9に示すようにCTBをtHA抗原と同時に腹腔注射したとき、HAの免疫原性を増進させる効果を示すことを確認した。
【実施例11】
【0088】
ラクトコッカスにH5N6のHAとH9N2のHAを個別にそれぞれコーティングしてラクトコッカスを混合した後、免疫誘導能力を確認
ラクトコッカスの表面にそれぞれ異なる2種類のHAをコーティングした後、これらを混ぜてマウスに注射したとき、それぞれの抗原に対する免疫原性の効能を確認した。このために、H5N6のtHA 0.1μg、0.5μgまたは1.0μgをラクトコッカスの表面にコーティングしてiLact-tHA
H5N6を準備し、同様にH9N2のtHA 0.1μg、0.5μgまたは1.0μgをラクトコッカスの表面にコーティングしてiLact-tHA
H9N2を準備した後、濃度別に1:1で混合したワクチン組成物(iLact-tHA
H5N6 + iLact-tHA
H9N2)を製造した。製造された組成物をマウスに2週間隔で腹腔注射して免疫反応を誘導し、2回目の注射をした後、2週間後に血液を採取して抗体の量を測定した。ELISAプレートにtHA
H5N6およびtHA
H9N2の2種類の抗原を50ngコーティングした後、それぞれの抗原に結合する抗体の量を[実施例7]に記載されたものと同じ方法で測定した。その結果、
図10に示すように、両抗原に対して強力な免疫原性を確認した。
【実施例12】
【0089】
ラクトコッカスにH5N6のHAとH9N2のHAの2種類を同時にコーティングした後、これによる免疫誘導能力を確認
それぞれ0.1μg、0.5μgまたは1.0μg濃度を有する2種類の抗原H5N6のtHA(tHA
H5N6)とH9N2のtHA(tHA
H9N2)を1:1で混合してラクトコッカスの表面にコーティングした後[iLact(tHA
H5N6 + tHA
H9N2)]、これをマウスに2週間隔で腹腔注射し、2回目の免疫注射をした後、2週間後に血液を採取して抗体の形成をELISAを通じて確認した。ELISAには、使用した抗原を50ngコーティングした後、血液を適切な割合で希釈し、血液に存在する抗体の量を[実施例7]に記載されたものと同じ方法で測定した。
図11に示すように、本実施例の方法で製造されたワクチン組成物は、2つの抗原両方に対して強力な免疫反応を誘導することを確認した。したがって、ラクトコッカスが2種類の抗原(tHA
H5N6およびtHA
H9N2)を同時に伝達できることを確認した。
【配列表】