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特許7627449セラミド合成酵素遺伝子発現促進剤、肌質改善剤、肌質改善用機能食品及び化粧料並びにジペプチドの使用方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-29
(45)【発行日】2025-02-06
(54)【発明の名称】セラミド合成酵素遺伝子発現促進剤、肌質改善剤、肌質改善用機能食品及び化粧料並びにジペプチドの使用方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/18 20160101AFI20250130BHJP
   A61K 38/05 20060101ALI20250130BHJP
   A61K 8/64 20060101ALI20250130BHJP
   A61P 17/16 20060101ALI20250130BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20250130BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20250130BHJP
   C07K 5/062 20060101ALN20250130BHJP
【FI】
A23L33/18 ZNA
A61K38/05
A61K8/64
A61P17/16
A61P43/00 111
A61Q19/00
C07K5/062
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021017246
(22)【出願日】2021-02-05
(65)【公開番号】P2022120386
(43)【公開日】2022-08-18
【審査請求日】2023-07-25
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(73)【特許権者】
【識別番号】594185352
【氏名又は名称】佳秀工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080160
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 憲一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100149205
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 泰央
(72)【発明者】
【氏名】清水 邦義
(72)【発明者】
【氏名】寺本 充寛
【審査官】戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-522043(JP,A)
【文献】国際公開第2011/126163(WO,A1)
【文献】Nutrients,2020年,vol.12, no.6 (1671),pp.1-12
【文献】Biomol. Ther.,2017年,vol.25, no.5,pp.528-534
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 33/00-33/29
A61K 38/00-38/58
FSTA/REGISTRY/CAplus/AGRICOLA/
BIOSIS/MEDLINE/EMBASE(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Google
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Gly-Ileで表されるジペプチドをセラミド合成酵素3(CERS3)遺伝子及び/又はセラミド合成酵素4(CERS4)遺伝子の発現促進機能惹起のための主要成分として含有するセラミド合成酵素遺伝子発現促進剤。
【請求項2】
Ile-Glyで表されるジペプチドをセラミド合成酵素3(CERS3)遺伝子の発現促進機能惹起のための主要成分として含有するセラミド合成酵素遺伝子発現促進剤。
【請求項3】
Gly-Ile及び/又はIle-Glyで表されるジペプチドを肌水分量の向上、経皮水分蒸散量の変化量の抑制、肌の総弾力(R2)の向上、正味弾性(R5)の向上、戻り率(R7)の向上から選ばれる少なくともいずれか1つの機能惹起のための主要成分として含有する肌質改善剤(ただし、紅斑反応抑制効果又は美白効果を発揮するものを除く。)。
【請求項4】
Gly-Ile及び/又はIle-Glyで表されるジペプチドを肌水分量の向上、経皮水分蒸散量の変化量の抑制、肌の総弾力(R2)の向上、正味弾性(R5)の向上、戻り率(R7)の向上から選ばれる少なくともいずれか1つの機能惹起のための関与成分として含有する肌質改善用機能食品(ただし、紅斑反応抑制効果又は美白効果を発揮するものを除く。)。
【請求項5】
Gly-Ile及び/又はIle-Glyで表されるジペプチドを肌水分量の向上、経皮水分蒸散量の変化量の抑制、肌の総弾力(R2)の向上、正味弾性(R5)の向上、戻り率(R7)の向上から選ばれる少なくともいずれか1つの機能惹起のための有効成分として含有する化粧料(ただし、紅斑反応抑制効果又は美白効果を発揮するものを除く。)。
【請求項6】
Gly-Ileで表されるジペプチドのセラミド合成酵素遺伝子発現促進剤の製造におけるセラミド合成酵素3(CERS3)遺伝子及び/又はセラミド合成酵素4(CERS4)遺伝子の発現促進機能惹起のための主要成分としての使用。
【請求項7】
Ile-Glyで表されるジペプチドのセラミド合成酵素遺伝子発現促進剤の製造におけるセラミド合成酵素3(CERS3)遺伝子の発現促進機能惹起のための主要成分としての使用。
【請求項8】
Gly-Ile及び/又はIle-Glyで表されるジペプチドの機能食品(ただし、紅斑反応抑制効果又は美白効果を発揮するものを除く。)の製造における肌水分量の向上、経皮水分蒸散量の変化量の抑制、肌の総弾力(R2)の向上、正味弾性(R5)の向上、戻り率(R7)の向上から選ばれる少なくともいずれか1つを目的とした関与成分としての使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミド合成酵素遺伝子発現促進剤、肌質改善剤、肌質改善用機能食品及び化粧料並びにジペプチドの使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
美しく健康的な肌は、その人の外観的な魅力を引き出す重要な要素の一つである。それ故、従来より肌の手入れは男女問わず行われている。
【0003】
特に、若々しい肌を保つためには、張りや十分な潤いが大切である。従って、肌の保湿を担う成分は重要であり、このような保湿成分としては例えばセラミドが挙げられる。
【0004】
セラミドは、細胞内にて生合成されるスフィンゴ脂質の一種であり、ヒトの皮膚の表皮層の表面を形成する角質層の主成分である。またセラミドは、過度な水分の蒸散を抑制すると共に、微生物に対するバリアとしての役割も有しており、肌を瑞々しく若々しい状態とするためには、肌のセラミド量を適切な量に保つ必要がある。
【0005】
しかし、セラミドは加齢と共に失われがちである。
【0006】
そこで、皮膚の表皮細胞におけるセラミドの生合成を促進すべく、ニコチン酸及び/又はニコチンアミドを含む菌培養物を有効成分としたセラミド合成促進剤が提案されている。
【0007】
そして、このようなセラミド合成促進剤によれば、皮膚表層内部で表皮細胞自身のセラミド合成を活発化させ皮膚バリア機能を改善することにより荒れ肌の改善および各種皮膚疾患の改善が期待できるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平10-259135号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記従来のニコチン酸やニコチンアミドを含む菌培養物を有効成分としたセラミド合成促進剤は、外用剤として提案されているものであり、経口摂取した際の効果については明らかにされていない。
【0010】
また、セラミドの生合成を促進するにあたり、機能惹起のための主要成分として更なるバリエーションを提供することは、使用者の選択肢を広げる点で望ましいと言える。
【0011】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであって、機能惹起のための主要成分として所定のジペプチドが採用され、セラミド合成酵素遺伝子の発現量を増大させることが可能なセラミド合成酵素遺伝子発現促進剤を提供する。
【0012】
また本発明では、同じくセラミド合成酵素遺伝子発現促進機能を有する所定のジペプチドを含有させた肌質改善剤や肌質改善用機能食品、化粧料、更には同ジペプチドの使用方法についても提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記従来の課題を解決するために、本発明に係るセラミド合成酵素遺伝子発現促進剤では、Gly-Ileで表されるジペプチドをセラミド合成酵素3(CERS3)遺伝子及び/又はセラミド合成酵素4(CERS4)遺伝子の発現促進機能惹起のための主要成分として含有することとした。
【0014】
また本発明に係るセラミド合成酵素遺伝子発現促進剤では、Ile-Glyで表されるジペプチドをセラミド合成酵素3(CERS3)遺伝子の発現促進機能惹起のための主要成分として含有することにも特徴を有する。
【0015】
また本発明に係る肌質改善剤や肌質改善用機能食品、化粧料(ただし、紅斑反応抑制効果又は美白効果を発揮するものを除く。)では、Gly-Ile及び/又はIle-Glyで表されるジペプチドを肌水分量の向上、経皮水分蒸散量の変化量の抑制、肌の総弾力(R2)の向上、正味弾性(R5)の向上、戻り率(R7)の向上から選ばれる少なくともいずれか1つの機能惹起のための主要成分として含有することとした。
【0016】
また本発明では、セラミド合成酵素遺伝子発現促進剤の製造におけるセラミド合成酵素3(CERS3)遺伝子及び/又はセラミド合成酵素4(CERS4)遺伝子の発現促進機能惹起のための主要成分として、Gly-Ileで表されるジペプチドを使用することとした。
また本発明では、セラミド合成酵素遺伝子発現促進剤の製造におけるセラミド合成酵素3(CERS3)遺伝子の発現促進機能惹起のための主要成分として、Ile-Glyで表されるジペプチドを使用することとした。
また本発明では、機能食品(ただし、紅斑反応抑制効果又は美白効果を発揮するものを除く。)の製造における肌水分量の向上、経皮水分蒸散量の変化量の抑制、肌の総弾力(R2)の向上、正味弾性(R5)の向上、戻り率(R7)の向上から選ばれる少なくともいずれか1つを目的とした関与成分として、Gly-Ile及び/又はIle-Glyで表されるジペプチドを使用することとした。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係るセラミド合成酵素遺伝子発現促進剤によれば、Gly-Ileで表されるジペプチドをセラミド合成酵素3(CERS3)遺伝子及び/又はセラミド合成酵素4(CERS4)遺伝子の発現促進機能惹起のための主要成分として含有することとした。また、本発明に係るセラミド合成酵素遺伝子発現促進剤によれば、Ile-Glyで表されるジペプチドをセラミド合成酵素3(CERS3)遺伝子の発現促進機能惹起のための主要成分として含有することとしたため、機能惹起のための主要成分として所定のジペプチドが採用され、セラミド合成酵素遺伝子の発現量を増大させることが可能なセラミド合成酵素遺伝子発現促進剤を提供することができる。
【0018】
また、前記セラミド合成酵素遺伝子は、セラミド合成酵素3(CERS3)遺伝子であることとすれば、主に皮膚やケラチノサイトにて多く発現するセラミド合成酵素3を標的とすることができ、より効率的なセラミド合成酵素遺伝子発現促進剤とすることができる。
【0019】
また、本発明に係る肌質改善剤や肌質改善用機能食品、化粧料(ただし、紅斑反応抑制効果又は美白効果を発揮するものを除く。)では、Gly-Ile及び/又はIle-Glyで表されるジペプチドを肌水分量の向上、経皮水分蒸散量の変化量の抑制、肌の総弾力(R2)の向上、正味弾性(R5)の向上、戻り率(R7)の向上から選ばれる少なくともいずれか1つの機能惹起のための主要成分として含有することとしたため、セラミド合成酵素遺伝子の発現量を増大させることが可能な肌質改善剤や肌質改善用機能食品、化粧料とすることができる。
【0020】
また、本発明では、セラミド合成酵素遺伝子発現促進剤の製造におけるセラミド合成酵素3(CERS3)遺伝子及び/又はセラミド合成酵素4(CERS4)遺伝子の発現促進機能惹起のための主要成分として、Gly-Ileで表されるジペプチドを使用することとした。また本発明では、セラミド合成酵素遺伝子発現促進剤の製造におけるセラミド合成酵素3(CERS3)遺伝子の発現促進機能惹起のための主要成分として、Ile-Glyで表されるジペプチドを使用することとした。また本発明では、機能食品(ただし、紅斑反応抑制効果又は美白効果を発揮するものを除く。)の製造における肌水分量の向上、経皮水分蒸散量の変化量の抑制、肌の総弾力(R2)の向上、正味弾性(R5)の向上、戻り率(R7)の向上から選ばれる少なくともいずれか1つを目的とした関与成分として、Gly-Ile及び/又はIle-Glyで表されるジペプチドを使用することとした。このため、Gly-IleやIle-Glyで表されるジペプチドによるセラミド合成酵素遺伝子の発現量の増大に由来した効果を享受することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】各ジペプチドの添加によるHaCaT細胞の細胞生存率を示す説明図である。
図2】各ジペプチドの添加によるHaCaT細胞のセラミド合成酵素遺伝子の発現変化を示す説明図である。
図3】ジペプチドの少量添加によるHaCaT細胞のセラミド合成酵素遺伝子の発現変化を示す説明図である。
図4】試験食品を摂取させた際の水分量に関する試験結果を示す説明図である。
図5】試験食品を摂取させた際の経皮水分蒸散量に関する試験結果を示す説明図である。
図6】試験食品を摂取させた際の肌の総弾力R2に関する試験結果を示す説明図である。
図7】試験食品を摂取させた際の肌の粘弾性(R5(正味弾性))に関する試験結果を示す説明図である。
図8】試験食品を摂取させた際の肌の回復力R7に関する試験結果を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は、機能惹起のための主要成分として所定のジペプチドが採用され、セラミド合成酵素遺伝子の発現量を増大させることが可能なセラミド合成酵素遺伝子発現促進剤を提供するものである。
【0023】
本実施形態に係るセラミド合成酵素遺伝子発現促進剤の用途は特に限定されるものではなく、食品や化粧料に肌質改善の機能を付与すべく添加原料として使用したり、肌質改善のための外用剤として使用するのは勿論のこと、例えば試験研究用試薬としても使用することができる。
【0024】
本実施形態に係るセラミド合成酵素遺伝子発現促進剤の特徴として、同促進剤は、Gly-Ile(グリシン-イソロイシン)及び/又はIle-Gly(イソロイシン-グリシン)で表されるジペプチドを機能惹起のための主要成分として含有している。
【0025】
Gly-IleやIle-Glyは、グリシンとイソロイシンとがペプチド結合したジペプチドである。Gly-IleやIle-Glyの由来は特に限定されるものではなく、所定の素材や食材の乾燥物や抽出物であったり、所定のタンパク質の消化物由来であったり、ペプチド合成によるものなど、その由来が目的に反しないものであればいずれであっても良い。なお、本明細書では特に断りのない場合、アミノ酸配列は左側をN末端として記載している。
【0026】
実験結果を参照しつつ追って説明するが、本発明者らの鋭意研究により、Gly-IleやIle-Glyはセラミド合成酵素遺伝子の発現を促進することが明らかになっており、皮膚中のセラミド量を維持したり増加させる効果が期待できる。
【0027】
なお、肌に好影響を及ぼすとされているジペプチドとしてGly-LeuやLeu-Glyが知られているが、本願にて提案するジペプチドはこれら物質とは構造的に全く異なる物質であり、また、Gly-LeuやLeu-Glyと比較してより高度なセラミド合成酵素遺伝子発現促進効果を有することは、後述する試験結果から明らかである。
【0028】
また本願では、肌質改善剤についても提供する。本実施形態に係る肌質改善剤は、Gly-Ile及び/又はIle-Glyで表されるジペプチドを機能惹起のための主要成分として含有する点で特徴的である。本願において肌質改善剤は、経口的に摂取されても良いし、また、皮膚外用剤として使用されても良い。皮膚外用剤は、医薬品や医薬部外品、化粧品(薬用化粧品も含む)を意味するのは勿論のこと、これらの枠にとらわれず、皮膚に対して外用する剤であればこの概念に含まれる。
【0029】
また本願では、この皮膚外用剤の一態様でもある化粧料についても提供する。すなわち、本実施形態に係る化粧料は、Gly-Ile及び/又はIle-Glyで表されるジペプチドを有効成分として含有する点で特徴的である。
【0030】
本願において化粧料は、いわゆるメーキャップ化粧品の他、基礎化粧品やヘアトニック、香水、歯磨き、シャンプー、リンス、身体の洗浄等に用いられる石鹸や洗浄料、入浴剤などのトイレタリー製品も含むものであり、また、予防効果等を謳う、薬用化粧品も含まれる。
【0031】
また、メーキャップ化粧品としては、ファンデーションや眉墨(アイブロー)、マスカラ、アイシャドー、アイライン、口紅、グロス、頬紅(チーク)、白粉、マニキュアなどが挙げられ、基礎化粧品としては、例えば化粧水や乳液、洗顔料、クレンジング、美容液、クリームなどが挙げられる。なお、上述した皮膚外用剤や化粧料等についての説明は、本発明の理解に供すべくこれらに相当する物品等の一例を列挙したものであり、各語句の解釈はこれら列挙された物品等に限定されるものではない。ただし、本出願人が本願を権利化するにあたり、本発明をこれら物品等に限定することを妨げない。
【0032】
また本願では、Gly-Ile及び/又はIle-Glyで表されるジペプチドのセラミド合成酵素遺伝子発現促進剤における機能惹起のための主要成分としての使用方法についても提供する。セラミド合成酵素遺伝子発現促進効果を有する成分はこれまでに幾つか提案されているが、これまでGly-Ile及び/又はIle-Glyで表されるジペプチドを機能惹起のための主要成分として含有するセラミド合成酵素遺伝子発現促進剤は提案されていない。
【0033】
また、使用者に対し、セラミド合成酵素遺伝子発現促進作用乃至効果を惹起しうる新たな成分を提案することは、選択肢を増やす上で有意義である。
【0034】
また本願では、Gly-Ile及び/又はIle-Glyで表されるジペプチドの機能食品における肌質改善を目的とした関与成分としての使用方法についても提供する。経口摂取により肌質改善を図る成分は幾つか提案されているが、これまでGly-Ile及び/又はIle-Glyで表されるジペプチドを肌質改善を目的とした関与成分として含有する機能食品は提案されていない。
【0035】
また本願では、肌質改善用機能食品についても提供するものであり、特に、経口摂取により優れた皮膚の保湿効果を発揮できる肌質改善用機能食品を提供するものである。
【0036】
機能食品は、医薬品成分を含まない健康の保持増進に寄与するとされる食品全般を包含する概念であり、例えば、栄養補助食品や健康補助食品、栄養調性食品のほか、所謂サプリメントなどの一般食品であったり、特定保健用食品や栄養機能食品、機能性表示食品の如き保健機能食品も含まれる。
【0037】
また、サプリメント様とした場合には、その剤形は特に限定されるものではなく、錠剤、カプセル剤、細粒剤、丸剤、トローチ剤、液剤、ゼリー様など、あらゆる剤形を選択することができる。
【0038】
なお、上述した外用剤や化粧料、機能食品についての説明は、本発明の理解に供すべくこれらに相当する物品等の一例を列挙したものであり、各語句の解釈はこれら列挙された物品等に限定されるものではない。ただし、本出願人が本願を権利化するにあたり、本発明をこれら物品等に限定することを妨げない。
【0039】
本実施形態に係るセラミド合成酵素遺伝子発現促進剤や肌質改善剤、肌質改善用機能食品、化粧料等に含有させる機能惹起のための成分としてのGly-Ile及び/又はIle-Glyの濃度は前記機能を惹起可能な濃度であれば特に限定されるものではない。敢えて一例を挙げるならば、肌質改善用機能食品に含まれるGly-IleやIle-Glyの濃度としては、例えば一日あたり20~600μgのGly-Ile又はIle-Glyを摂取できる量としたり、Gly-IleとIle-Glyの合計の量として一日あたり20~600μg摂取できる量とすることができる。付言すれば、一日あたり1粒を目安に摂取する肌質改善用機能食品であれば、1粒に含まれるGly-Ile及び/又はIle-Glyの量を20~600μgとしたり、一日あたり2粒が目安であれば1粒あたり10~300μgとするように、1粒や1カプセル、一包など摂取単位量に含まれるGly-Ile及び/又はIle-Glyの量を適宜調整することも可能である。
【0040】
また、化粧料としては、0.03~200μg/gのGly-Ile又はIle-Glyを含ませたり、Gly-IleとIle-Glyの合計の濃度を0.03~200μg/gとすることができる。セラミド合成酵素遺伝子発現促進剤や肌質改善剤におけるGly-IleやIle-Glyの濃度は、それぞれ実験等での使用に適した濃度としたり、食品や化粧料の製造のための原料として適した濃度とすることができる。
【0041】
また、本実施形態に係るセラミド合成酵素遺伝子発現促進剤や肌質改善剤、肌質改善用機能食品、化粧料等には、機能惹起のための成分としてのGly-Ile及び/又はIle-Glyの他に、剤形や食品形態等に応じた賦形剤や添加剤、補助成分などを含むこともできる。
【0042】
賦形剤としては、例えば、剤形が固形剤の場合には、乳糖や結晶セルロース、デンプンなどとすることができる。
【0043】
また添加剤としては、例えば、安定剤、界面活性剤、可溶化剤、可塑剤、甘味剤、抗酸化剤、着香剤、着色剤、保存剤、無機充填剤等を挙げることができる。
【0044】
以下、本実施形態に係るセラミド合成酵素遺伝子発現促進剤、肌質改善剤、肌質改善用機能食品及び化粧料並びにジペプチドの使用方法に関し、実験過程や結果を参照しながら更に説明する。
【0045】
〔1.セラミド合成酵素遺伝子の発現試験〕
皮膚は表皮および真皮により構成され、表皮は基底層、有棘層、顆粒層および角層に分類される。皮膚の最外層に位置する角層細胞間において、セラミドなどの脂質により構成されるラメラ構造は、体内の水分保持や細菌およびウイルスの侵入を防ぐ物理的なバリアとしての役割を担う。
【0046】
本検討では、セラミド合成酵素遺伝子の発現量の変化を検討することで、Gly-IleやIle-Gly(以下、本願ジペプチドともいう。)の表皮細胞の改善効果を評価した。また、比較対照として、Gly-LeuやLeu-Gly(以下、比較ジペプチドともいう。)を用い、本願ジペプチドとの違いについても検討した。
【0047】
ヒト表皮角化細胞(HaCaT細胞)は、Dulbecco's Modified Eagle Medium (DMEM)(高グルコース)(含1%ペニシリン-ストレプトマイシンおよび10%ウシ胎児血清(FBS))を用いて、コンフルエントになるまでφ10cmディッシュにて前培養した。
【0048】
その後、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄し、培地に再懸濁後、24穴プレートに1.0×105cells/wellの濃度で播種しCO2インキュベーター(37℃,5%CO2)でオーバーナイト培養した。
【0049】
HaCaT細胞播種から24時間後、所定終濃度となる量のGly-Ile、Ile-Gly、Gly-Leu、Leu-Glyの何れかを含む無血清のDMEM(高グルコース)(含1%ペニシリン-ストレプトマイシン)を各ウェル1mLずつ加え、CO2インキュベーター(37℃,5%CO2)で48時間培養した。
【0050】
次に、リアルタイムPCRによる遺伝子の転写発現量の変化について試験を行った。まず、各ジペプチドを添加して48時間が経過した後のHaCaT細胞を回収し、RNeasy Mini kit(Qiagen)を用いてtotal RNAを抽出した。
【0051】
次に、ReverTra Ace qPCR RT Master Mix with gDNA Remover(TOYOBO)にて、抽出したtotal RNAからcDNAを合成した。合成したcDNAを鋳型としてAriaMX(Agilent)装置でリアルタイムPCRを行った。リアルタイムPCR反応には、THUNDERBIRD SYBR qPCR Mix(TOYOBO)を用いた。
【0052】
また、リアルタイムPCR反応には、セラミド合成酵素遺伝子CERS2用プライマーとして5’-CCGATTACCTGCTGGAGTCAG-3’(配列番号1)および5’-GGCGAAGACGATGAAGATGTTG-3’(配列番号2)を、セラミド合成酵素遺伝子CERS3用プライマーとして5’-ACATTCCACAAGGCAACCATTG-3’(配列番号3)および5’-CTCTTGATTCCGCCGACTCC-3’(配列番号4)を、セラミド合成酵素遺伝子CERS4用プライマーとして5’-GGAGGCCTGTAAGATGGTCA-3’(配列番号5)および5’-GAGGACCAGTCGGGTGTAGA-3’(配列番号6)を、内部標準β-アクチン用プライマーとして5’-GGGTCAGAAGGACTCCTATG-3’(配列番号7)および5’-GTAACAATGCCATGTTCAAT-3’(配列番号8)を使用した。リアルタイムPCR反応条件として、95℃、60秒の初期変性後、95℃、15秒での変性、60℃、60秒のアニーリング/伸長という2ステップのPCR反応を40サイクル行った。
【0053】
本願ジペプチドであるIle-GlyやGly-Ile、比較ジペプチドであるLeu-GlyやGly-Leuをヒト表皮角化細胞株の1つであるHaCaT細胞に添加し、セラミド合成酵素遺伝子の発現変化を検討した。図1に、各ジペプチドの添加によるHaCaT細胞の細胞生存率を示す。
【0054】
図1に示すように本願ジペプチドや比較用ジペプチドを添加すると、コントロールと比較してヒト角化細胞HaCaTの細胞生存率が上昇する傾向が認められた。特に、本願ジペプチドを添加した場合は、0.1μg/mL、10μg/mL、200μg/mLのいずれの濃度においてもコントロールに対する細胞生存率の上昇が確認された。また、Gly-Leu 10μg/mL、Ile-Gly 0.1および10μg/mL、Gly-Ile 200μg/mLでは、コントロールと比較して有意に細胞生存率が上昇することが確認できた。これらのことから、本願ジペプチドであるIle-GlyやGly-Ileには角化細胞賦活化作用が期待できることが示唆された。
【0055】
図2には、本願ジペプチドであるIle-GlyやGly-Ile、比較ジペプチドであるLeu-GlyやGly-Leuを添加しHaCaT細胞のセラミド合成酵素遺伝子の発現変化を示している。図2(a)はセラミド合成酵素CERS2遺伝子の発現量のコントロールに対する相対値を示し、同様に図2(b)はセラミド合成酵素CERS3遺伝子、図2(c)はセラミド合成酵素CERS4遺伝子の発現量を相対値で示している。
【0056】
セラミド合成酵素CERS2遺伝子は、腎臓、肝臓および腸など多くの細胞組織で大量に発現していることが報告されている。また、セラミド合成酵素CERS3遺伝子は、主に皮膚、ケラチノサイトで発現している。さらに、セラミド合成酵素CERS4遺伝子は、皮膚に限らず白血球、心臓および肝臓でも発現していることが知られている。
【0057】
本検討では、各ジペプチドをHaCaT細胞へ添加後、リアルタイムPCRを用いてセラミド合成酵素CERS2、CERS3およびCERS4遺伝子の発現解析をした。その結果、図2(a)に示す通り、CERS2遺伝子の発現は、コントロールと比較していずれの濃度でも有意な増加は確認出来なかった。
【0058】
これに対し、セラミド合成酵素CERS3遺伝子は、図2(b)に示すように、本願ジペプチドであるIle-GlyやGly-Ileの添加により、コントロールと比較していずれの濃度においても発現量の上昇が確認された。
【0059】
特に、Gly-Ileの添加は、濃度に依存した発現量の有意な増加が認められ、200μg/mLの濃度ではコントロールに比して発現量が3倍にも増加している点は極めて興味深い。
【0060】
また、Ile-Glyの添加は、CERS3遺伝子の発現量の増加をもたらし、また、0.1μg/mLの濃度での使用では有意差が認められるのであるが、濃度上昇に伴い発現量が低下している点で特徴的である。
【0061】
なお、比較ジペプチドであるLeu-GlyやGly-Leuの添加によってもコントロールと比較して最大で約1.6倍の発現量の上昇が確認された。但し、本願ジペプチドほどの顕著な発現量の増加は見られなかった。
【0062】
また、データは割愛するが、発明者らが行った研究の経験上、0.03μg/g程度の濃度でのIle-GlyやGly-Ileの添加であっても、CERS3遺伝子の発現量がコントロールに比して有意に増加することが明らかとなっている。
【0063】
セラミド合成酵素CERS4遺伝子は、図2(c)に示すように、Gly-Ile添加で発現量の顕著な上昇が確認された。
【0064】
これらの結果から、本願ジペプチドには細胞賦活化作用が期待でき、セラミド合成酵素CERS3およびCERS4遺伝子の発現を亢進する作用を有することが示唆された。この作用は、特に本願ジペプチドの中でもGly-Ileで高いことも示唆された。このように、本願ジペプチドは、セラミド合成酵素遺伝子の発現促進効果が認められ、皮膚のバリア機能に重要な役割を果たすセラミド合成促進効果が期待できる。
【0065】
また、Gly-Ile及び/又はIle-Glyで表されるジペプチドは、肌質改善剤における機能惹起のための主要成分であったり、機能食品における肌質改善のための関与成分であったり、化粧料における肌質改善のための有効成分として利用可能であることが示された。
【0066】
〔2.セラミド合成酵素遺伝子の発現試験(低用量)〕
次に、本願ジペプチドであるGly-IleやIle-Glyによるセラミド合成酵素遺伝子の発現について、上述した濃度よりも低い濃度での発現誘導が可能であるかについて、同様の手法により確認を行った。
【0067】
本検討では、少なくとも0.00038μg/mLのGly-Ileと、少なくとも0.00097μg/mLのIle-Glyとを含有する、両ジペプチドの合計濃度が0.00135μg/mLのサンプル溶液S1と、少なくとも0.00076μg/mLのGly-Ileと、少なくとも0.00195μg/mLのIle-Glyとを含有する、両ジペプチドの合計濃度が0.00271μg/mLのサンプル溶液S2(サンプル溶液S1の2倍濃度溶液)と、少なくとも0.00152μg/mLのGly-Ileと、少なくとも0.0039μg/mLのIle-Glyとを含有する、両ジペプチドの合計濃度が0.00542μg/mLのサンプル溶液S3(サンプル溶液S2の2倍濃度溶液)とを被験液とし、HaCaT細胞播種から24時間後、上記何れかの被験液を構成する終濃の無血清のDMEM(高グルコース)(含1%ペニシリン-ストレプトマイシン)を各ウェル1mLずつ加え、CO2インキュベーター(37℃,5%CO2)で48時間培養した。
【0068】
まず図3(a)に、各サンプル溶液S1~S3の添加によるHaCaT細胞の細胞生存率を示す。図3(a)に示すように、各サンプル溶液S1~S3は、コントロールとの比較において、特に有意な差は確認されなかった。
【0069】
図3(b)には、各サンプル溶液S1~S3を添加した後のHaCaT細胞のセラミド合成酵素遺伝子の発現変化を示している。図3(b)に示すように、CERS2遺伝子の発現は、コントロールと比較していずれの濃度でも有意な差は確認出来なかった。一方、皮膚での発現が報告されているCERS3遺伝子やCERS4遺伝子は、コントロールと比較して約2~4倍程度に発現上昇していた。また、CERS3遺伝子は、CERS4遺伝子と比較すると、より顕著な発現の上昇が見られた。
【0070】
以上の結果から、本願ジペプチドであるGly-IleやIle-Glyには細胞毒性は認められず、セラミド合成酵素CERS3およびCERS4遺伝子の発現を冗進する作用を有することが示唆された。したがって、本願ジペプチドであるGly-IleやIle-Glyは、両ジペプチドの合計濃度が0.00135μg/mL以上において、皮膚のバリア機能に重要な役割を果たすセラミド合成促進効果が期待出来る。付言すれば、好ましくは例えば、少なくとも0.00038μg/mLのGly-Ileと、少なくとも0.00097μg/mLのIle-Glyとを含有する、両ジペプチドの合計濃度が0.03μg/mLとすることで、より堅実に効果を発揮させることができる。
【0071】
〔3.機能食品の製造〕
次に、Gly-Ile及びIle-Glyで表されるジペプチドを肌質改善のための機能惹起成分、例えば機能性食品の場合における関与成分として含有させた機能食品の製造を行った。
【0072】
試験に供するための機能食品の剤形は、ハードカプセルとした。具体的には、200mgの粉末デキストリンを基材とし、ペプチド合成により得たGly-Ile及び/又はIle-Glyを添加し混合を行い、得られた混合粉体をゼラチンを皮膜原料としたカプセルのボディに充填しキャップを施しハードカプセル状の機能食品Aを得た。
【0073】
〔4.機能食品中のGly-Ile及びIle-Glyの測定〕
次に、得られた機能食品Aの錠剤1粒中に含まれる本願ジペプチドの含有量を測定した。
【0074】
(4-1.2種のジペプチドの回収試験)
まず、今回実施する試験方法が機能食品AのGly-IleやIle-Glyの含量を測定する上で妥当であるかを検討すべく、機能食品Aを模して調製したサンプル食品中に予め添加した既知量のGly-Ile及びIle-Glyの回収率を確認する試験を行った。
【0075】
混合粉体を含まないカプセル1粒に、2種類のペプチド標準品(Gly-Ile, Ile-Gly)混合溶液(500μg/mL)をそれぞれ20, 50, 100, 150μL(測定溶液中の終濃度:20, 50, 100, 150ng/mL)を加えた。その後、超純水を10mL加え、40分間、超音波抽出(38kHz、200W)を行った。なお、抽出操作中には抽出溶媒が均一分散するよう3~4回激しく振動させた。抽出後、遠心分離(3500rpm、10min)を行い、上清を25mLのメスフラスコに入れた。残渣に更に8mL、5mL超純水で上記と同様に2回超音波抽出、遠心分離を行った。3回の抽出液を合わせ、超純水で定容し、抽出溶液とした(n=3)。上記抽出溶液100μLに、内部標準溶液(2μg/mL)を20μL添加し、更に380μLのアセトニトリルを加え、撹拌し、遠心分離(3500rpm、10min)後、上清を0.20μm PTFE膜にてろ過した。ろ液は超純水で4倍希釈し、LC-MS分析に供した。添加した標準品の回収率の計算式を式1に示し、分析条件は表1に示す。
【数1】
【表1】
【0076】
LC-MS分析の結果、混合粉体を含まない硬カプセル(カプセルボディ及びキャップ)からは、2種類のジペプチドは検出されなかった。従って、カプセルには2種のジペプチドは含まれていないことが確認できた。
【0077】
次に、サンプル溶液の前処理方法や定量分析値の真度を検証するため、カプセルに2種類の既知量のジペプチドを標準品として添加したサンプル食品について分析を行い、添加回収率を算出した。表2に添加回収率を示す。
【表2】
【0078】
表2からも分かるように、標準品添加のサンプル食品は、いずれの添加量においても、2種のペプチドの平均回収率は97.8%~104.2%の範囲内であった。従って本実験の前処理方法および定量分析方法は妥当であると考えられる。
【0079】
(4-2.機能食品Aに含まれる2種のジペプチドの定量分析)
次に、機能食品Aに含まれる2種のジペプチドの定量分析を行った。1粒の機能食品Aに対して超純水を10mL加え、40分間、超音波抽出(38kHz、200W)を行った。なお、抽出操作中には抽出溶媒が均一分散するよう3~4回激しく振動させた。
【0080】
抽出操作後、遠心分離(3500rpm、10min)を行い、上清を25mLのメスフラスコに入れた。残渣に更に8mL、5mL超純水で上記と同様に超音波抽出、遠心分離を2回行った。計3回の抽出液を合わせ、超純水でで定容し、抽出溶液とした(n=3)。
【0081】
上記抽出溶液100μLに、内部標準溶液(2μg/mL)を20μL添加し、更に380μLのアセトニトリルを加え、撹拌し、遠心分離(3500rpm、10min)後、上清を0.20μm PTFE膜にてろ過した。ろ液は超純水で4倍希釈し、LC-MS分析に供した。分析条件は表1に示した通りである。
【0082】
まず、標準品を用いた分析結果によりGly-IleおよびIle-Glyの溶出時間を確認した。また、表3に示すように、2種類のジペプチド標準品は5ng/mLから200ng/mLの検量線範囲において、良好な直線性を示した(R2=0.999)。
【表3】
【0083】
さらに、検量線を用いた機能食品Aのジペプチド含量を表4に示す。1粒の機能食品AにはGly-Ileが26.25±0.38μg、Ile-Glyが22.57±0.48μg含まれていることが確認された。
【表4】
【0084】
〔5.摂取試験〕
次に、前述の〔3.機能食品の製造〕にて得られたカプセル状の機能食品Aについて、健常成人の肌質の改善効果の検証を行った。
【0085】
40~50歳の健康な一般女性20名を対象とし、試験品群10名、プラセボ群10名の2群に分けて試験を行った。摂取量は試験品群(機能食品A)、プラセボ群(プラセボ食品)のいずれも1日2錠とした。なお、プラセボ食品にはGly-Ile及びIle-Glyは含まれていない。摂取期間はいずれも4週間とした。
【0086】
また、摂取期間経過後に肌質の測定を行った。具体的には、肌の水分量、水分蒸散量、粘弾性について測定を行った。なお、測定部位は左腕とした。
【0087】
測定は、Cutometer DUAL MPA580(Courage + Khazaka electronic GmbH)を用い、水分、粘弾性は各5回ずつ測定し、最低値と最高値を除いた3回の平均を測定値とした。また、粘弾性の分析にはR2(総弾力)、R5(正味弾性)、R7(回復力)を使用した。
【0088】
標準誤差を算出し、事前測定と事後測定の比較(群内比較)及び群間比較のため、それぞれ対応あるt検定、対応のないt検定を行った。有意水準を5%とし、5%未満を有意差あり(p<0.05:**)、10%未満を有意傾向あり(p<0.1:*)と判断した。
【0089】
本試験に組み入れた20名中、事後測定に参加できなかった1名を除外した19名を解析対象者とした。具体的には、プラセボ群は女性10名で平均年齢は44.7歳、試験品群は女性9名で平均年齢は45.0歳であった。
【0090】
図4は、水分量に関する試験結果を示している。水分量は角質層に含まれる水分量であり、肌の潤いの指標として参照される値である。図4(a)は、試験食品又はプラセボ食品の摂取前後における水分量測定値の変化を示しており、図4(b)はプラセボ群と試験品群の水分量の変化量をそれぞれ示している。
【0091】
図4(a)及び図4(b)からも分かるように、試験品群には、摂取後の水分量の有意(p<0.05)な上昇が認められ、肌の乾燥しがちな季節環境においても、肌水分量が向上したことが確認された。
【0092】
また図示は割愛するが、同様の水分量測定を被験者の頬を対象に行ったところ、プラセボ群では、摂取前後で頬の水分量に有意な変化は認められなかったが、試験品群では有意な上昇が認められた(p<0.05)。
【0093】
図5は、経皮水分蒸散量に関する試験結果を示している。経皮水分蒸散量は、皮膚の表面から蒸発する水分量であり、バリア機能の指標となる値である。図5(a)は、試験食品又はプラセボ食品の摂取前後における経皮水分蒸散量の変化を示しており、図5(b)はプラセボ群と試験品群の経皮水分蒸散量の変化量をそれぞれ示している。
【0094】
図5(a)から分かるように、プラセボ群の経皮水分蒸散量は摂取後に有意に上昇したのに対し、試験品群では有意な変化は認められず、試験品の摂取により肌バリア機能が維持されていることが示された。また、図5(b)からも分かるように、
試験品の摂取は、プラセボ品を摂取した場合に比して、経皮水分蒸散量の変化量を有意に抑制することが示された(p<0.05)。
【0095】
図6は、肌の総弾力(R2)に関する試験結果を示している。総弾力は、皮膚の全体の弾力を表す指標である。皮膚弾力性は、真皮層の繊維質や保水成分により維持されている。図6(a)は、試験食品又はプラセボ食品の摂取前後における総弾力の変化を示しており、図6(b)はプラセボ群と試験品群の総弾力の変化量をそれぞれ示している。
【0096】
図6(a)及び図6(b)からも分かるように、総弾力を示すR2では、プラセボ群において減少傾向を示し、また、時間と群の二要因の有意な交互作用が認められ、プラセボ群と試験品群の変化量には有意な群間差が示された。このことより、Gly-Ile及びIle-Glyは、肌の総弾力(R2)に関し、真皮層の機能を活性化させ、肌のハリや弾力性を維持する効果があるといえる
【0097】
図7は、肌の粘弾性(R5(正味弾性))に関する試験結果を示している。粘弾性は、皮膚のハリや弾力性の指標となる値である。図7(a)は、試験食品又はプラセボ食品の摂取前後における粘弾性の変化を示しており、図7(b)はプラセボ群と試験品群の粘弾性の変化量をそれぞれ示している。
【0098】
図7(a)及び図7(b)からも分かるように、試験品群では正味弾力性を示すR5が摂取前と比較して有意(p<0.05)に上昇し、試験品の摂取は肌の弾力性を向上させることが示された。また、時間と群の二要因の有意傾向の交互作用が認められ、変化量においても有意傾向の群間差が示された。
【0099】
図8は、肌の回復力R7(戻り率)に関する試験結果を示している。回復力は、吸引時の皮膚の伸びた長さに対する瞬間的な収縮率を表す値であり、肌のハリやたるみと高い相関を示す。図8(a)は、試験食品又はプラセボ食品の摂取前後における回復力の変化を示しており、図8(b)はプラセボ群と試験品群の回復力の変化量をそれぞれ示している。
【0100】
図8(a)及び図8(b)からも分かるように、試験品群では回復力R7が摂取前と比較して有意(p<0.05)に上昇し、試験品の摂取は肌の回復力を向上させることが示された。また、回復力R7においても時間と群の二要因の有意な交互作用が認められ、変化量においても有意傾向の群間差が示された。
【0101】
これら各摂取試験の結果を踏まえると、Gly-Ile及びIle-Glyで表されるジペプチドを肌質改善のための機能惹起成分、例えば機能性食品の場合における関与成分として含有させた機能食品は、肌水分の保持や肌水分の蒸散抑制、肌のハリや粘弾性の維持・向上に寄与し、肌質を改善できることが示された。
【0102】
上述してきたように、本実施形態に係るセラミド合成酵素遺伝子発現促進剤によれば、Gly-Ile及び/又はIle-Glyで表されるジペプチドを機能惹起のための主要成分として含有することとしたため、機能惹起のための主要成分として所定のジペプチドが採用され、セラミド合成酵素遺伝子の発現量を増大させることが可能なセラミド合成酵素遺伝子発現促進剤を提供することができる。
【0103】
また、本実施形態に係る肌質改善剤や肌質改善用機能食品、化粧料では、Gly-Ile及び/又はIle-Glyで表されるジペプチドを機能惹起のための主要成分として含有することとしたため、セラミド合成酵素遺伝子の発現量を増大させ、肌質改善を図ることが可能な肌質改善剤や肌質改善用機能食品、化粧料とすることができる。
【0104】
最後に、上述した各実施の形態の説明は本発明の一例であり、本発明は上述の実施の形態に限定されることはない。このため、上述した各実施の形態以外であっても、本発明に係る技術的思想を逸脱しない範囲であれば、設計等に応じて種々の変更が可能であることは勿論である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【配列表】
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