(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-29
(45)【発行日】2025-02-06
(54)【発明の名称】がん検出方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/497 20060101AFI20250130BHJP
G01N 33/00 20060101ALI20250130BHJP
G01N 33/493 20060101ALI20250130BHJP
C12Q 1/06 20060101ALI20250130BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20250130BHJP
C12M 1/34 20060101ALI20250130BHJP
【FI】
G01N33/497 D
G01N33/00 C
G01N33/493 A
C12Q1/06
C12N1/19
C12M1/34 B
(21)【出願番号】P 2023547360
(86)(22)【出願日】2022-02-01
(86)【国際出願番号】 IB2022050852
(87)【国際公開番号】W WO2022167924
(87)【国際公開日】2022-08-11
【審査請求日】2023-10-02
(31)【優先権主張番号】102021000002294
(32)【優先日】2021-02-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(73)【特許権者】
【識別番号】523294308
【氏名又は名称】ディスラプティブ テクノロジカル アドバンシス イン ライフ サイエンス エッセ.エッレ.エッレ. - ソシエタ’ ベネフィット、イン フォルマ アブレヴィアータ、ディ - テールズ エッセ.エッレ.エッレ.エッセビ
(73)【特許権者】
【識別番号】522037470
【氏名又は名称】フォンダツィオーネ インスチトゥート イタリアーノ ディ テクノロジア
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】フォッリ、ヴィオラ
(72)【発明者】
【氏名】ランザ、エンリコ
(72)【発明者】
【氏名】リコ、ヴィンチェンツォ
【審査官】北条 弥作子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/088039(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第108424951(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0034691(US,A1)
【文献】国際公開第2009/039284(WO,A1)
【文献】特表2021-500543(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48~33/98
C12Q 1/00~ 3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
女性においてがんを診断するための指標を提供するためのインビトロ方法であって、前記女性の尿試料の匂いに対する自由生活性土壌線虫の反応を検出することを特徴とし、前記尿試料は、最後の月経周期の少なくとも2日後、同じ月経周期の5日後までに採取される、方法。
【請求項2】
前記反応が走化性反応である、請求項1に記載のインビトロ方法。
【請求項3】
前記尿試料が1:10に希釈される、請求項2に記載のインビトロ方法。
【請求項4】
前記自由生活性土壌線虫が前記尿の前記匂いに対して正の走化性応答を示すか否かを検出する、請求項1~3のいずれか一項に記載のインビトロ方法。
【請求項5】
前記反応がAWC
ONニューロンの反応である、請求項1~4のいずれか一項に記載のインビトロ方法。
【請求項6】
前記尿試料が1:100~1:100000に希釈される、請求項5に記載のインビトロ方法。
【請求項7】
前記自由生活性土壌線虫が前記尿試料の前記匂いに対してAWC
ONニューロンの活性化を示すか否かを検出する、請求項5または6のいずれか一項に記載のインビトロ方法。
【請求項8】
対象においてがんを診断するための指標を提供するためのマイクロ流体アッセイであって、化学物質を適時に制御された様式で充填することができるマイクロ流体パルスアリーナチップに自由生活性土壌線虫をロードする工程であって、前記線虫は、前記AWC
ONニューロンがカルシウムインジケータを発現するトランスジェニック線虫である、工程、
前記線虫を前記対象により得られた尿試料と接触させる工程であって、前記対象は、女性であり、前記尿試料は、最後の月経周期の少なくとも2日後、同じ月経周期の5日後までに採取される、工程、
前記接触が前記線虫のAWC
ONニューロンを活性化するか否かを評価する工程、
ニューロン活性化指数NAIを計算する工程であって、
NAI=2(AR-0.5)
ここで、AR=Nact/Ntotであり、
N
actは、前記AWC
ONニューロンの前記活性化に応答する線虫の数であり、N
totは、同じ化学刺激に対して試験された生存線虫の数である、工程
を含み、
NAI指数が>0であるか否かかおよび/または前記AR値が>0.5であるか否かを決定する、マイクロ流体アッセイ。
【請求項9】
前記対象により得られた尿試料との前記接触させることが、前記アッセイの開始時の最初の期間にわたって、および前記アッセイの終了時の最後の期間にわたって前記アリーナを嗅覚中性溶液で充填し、前記最初および最後の期間の間の中間期間にわたって前記アリーナを前記対象の尿試料で充填することによって行われ、先行する充填は後続するものの導入時に前記アリーナから除去され、
前記接触が前記線虫の前記AWC
ONニューロンを活性化するか否かの前記評価が、前記最後の期間中および前記中間期間中に前記AWC
ONニューロンの応答を測定し、前記中間期間中の前記測定の平均値I
on、前記最後の期間中の前記測定の平均値I
off
、および前記最後の期間中の標準偏差σ
onを計算することによって行われ;
前記AWC
ONニューロンが、
I
off-I
on>3σ
onであるか否かを決定する、
請求項8に記載のマイクロ流体アッセイ。
【請求項10】
前記最初の期間が8~12秒であり、前記中間期間が10~20秒であり、前記最後の期間が少なくとも30秒である、
請求項9に記載のマイクロ流体アッセイ。
【請求項11】
前記I
onが、約10秒間および前記尿試料の導入から少なくとも2秒間後に測定される、請求項10に記載のマイクロ流体アッセイ。
【請求項12】
前記I
offが、約10秒間および嗅覚中性溶液の導入から少なくとも2秒間後に測定される、請求項10または11に記載のマイクロ流体アッセイ。
【請求項13】
前記カルシウムインジケータがGCaMP3(環状に並べられた緑色蛍光タンパク質-カルモジュリン-M13ペプチドバージョン3)である、請求項8~12のいずれか一項に記載のマイクロ流体アッセイ。
【請求項14】
前記尿試料が10
-2、10
-3、10
-4または10
-5での希釈物である、請求項8~13のいずれか一項に記載のマイクロ流体アッセイ。
【請求項15】
前記自由生活性土壌線虫がC.エレガンス(C.elegans)である、請求項1~7のいずれか一項に記載のインビトロ方法または請求項8~14のいずれか一項に記載のマイクロ流体アッセイ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、線虫または線虫のGPCR受容体を使用したがん検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
嗅覚は、多くの動物が環境変化に適応する主要な機構の1つである。すべての動物においてGタンパク質共役受容体(GPCR)ファミリーに属する嗅覚受容体は、広範囲の揮発性または可溶性分子を高精度でそれらに直接結合することによって区別する際に重要な役割を果たす。化学的感受性は、特に、聴覚および視覚のような長距離の知覚機構を欠く生物において存在する。線虫カエノラブディティスエレガンス(Caenorhabditis elegans)のゲノムは、利用可能な化学感覚ニューロンの数が極めて少ないにもかかわらず、哺乳動物と同様の数の臭気物質を検出できるようになるために、化学感覚受容体をコードする顕著な数の遺伝子を保有する。
【0003】
がんの早期検出のための安価で非侵襲的な診断戦略の発見は、緊急の優先事項である。
【0004】
がんは、生物のメタボロームを大きく変化させる疾患であり、生物流体中にそれ自体の特徴的な老廃物を潜在的に導入する。がん組織は揮発性化合物を滲出することが報告されており、イヌおよびマウスの並外れた匂いの感知を利用して、以前の研究は、生体液中のまだ知られていないがん特異的臭気物質の存在を実証することを可能にした。動物は、嗅覚知覚を通じて多種多様な揮発性分子を臭気として知覚する。周囲の世界の任意の化学的変化に対して順応して応答する能力は、ほとんどの動物種の生命および健康にとって極めて重要である。実際、臭気は、動物を環境追跡者として機能させて、営巣のために食物および水源の位置を突き止め、同種(フェロモン)を他の種の個体(アレロケミカル)と識別する。異なる化合物または同じ化合物の異なる比率により、そのような行動を調節し得る特定の臭気フィンガープリントを確定する。
【0005】
臭気感知は、Gタンパク質共役受容体(GPCR)として公知の、タンパク質の大きなファミリーによって媒介される。これらは、それらのリガンドに結合するとGタンパク質を活性化し、次いで細胞内シグナル伝達カスケードを開始する7回膜貫通ドメインタンパク質である。GPCRは、主に嗅覚ニューロン(ORN)の繊毛で発現される。現在のところ、いくつかの例外はあるが、哺乳動物では、各嗅覚感覚ニューロンが固有に1種類の嗅覚受容体を発現することが広く受け入れられている。別個の嗅覚細胞上のGPCRの分別は、機能的に同一のニューロンからのシグナルが嗅球に取り込まれたときに臭気の識別を確実にする。対照的に、C.エレガンス(C.elegans)では、各嗅覚ニューロンはその膜上に複数のタイプのGPCRを提示する。興味深いことに、嗅覚受容体をコードする多数の遺伝子(味覚受容体を含め1,000を超える)にもかかわらず、線虫は比較的少数である32の化学感覚ニューロンを保有し、そのうち3つは揮発性分子を感知することに特化されている。したがって、C.エレガンス(C.elegans)の各嗅覚ニューロンは、哺乳動物のものと比較して、広範囲の臭気物質を検出する可能性がある。結果として、臭気物質-受容体ペアの組み合わせの複雑さは、線虫において非常に高い。さらに、同じGPCRが異なる細胞上で発現され得、同じ臭気物質が、機能的に異なるニューロン上の異なるGPCRに結合し得得、その濃度に応じて、反対の行動アウトカムを誘発し得る。臭気に対するC.エレガンス(C.elegans)の行動応答は走化性として公知である。正の走化性は、ワームが臭気によって誘引され、したがってそれに向かって移動する場合に観察され、負の走化性は、ワームが臭気を回避し、したがってそれから離れる場合に観察される。
【0006】
現在まで、C.エレガンス(C.elegans)で報告された行動嗅覚アッセイの大部分は、単一物質用に設計されており、アルコール、ケトン、アルデヒド、エステル、アミン、スルフヒドリル、有機酸、芳香族および複素環式化合物を含む多種多様な揮発性または可溶性分子に対する応答が評価されている(Bargmannら「Odorant-selective genes and neurons mediate olfaction in C.elegans」Cell、第74巻、1993年8月13日、515-527頁)。誘引を媒介する物質の多くは、線虫の食物源である細菌の天然代謝産物である。しかしながら、C.エレガンス(C.elegans)が曝露される環境刺激は、ほとんどが競合的な応答を伴う化合物の複雑な混合物である。混合物の誘引および反発成分の異なる比率は、臭気の感知に関与するニューロンアーキテクチャを非対称に活性化し得る。結果として、2つの臭気の間のC.エレガンス(C.elegans)の選好性は、第3のものの存在下で反転し得る(Iwanir,S.ら、Irrational behavior in c.elegans arises from asymmetric modulatory effects within single sensory neurons.Nat.communications 10、3202(2019);Cohen,D.ら、Bounded rationality in c.elegans is explained by circuit-specific normalization in chemosensory pathways.Nat.communications 10、1-12(2019)。
【0007】
これは、C.エレガンス(C.elegans)の嗅覚的意思決定機構における化学的バックグラウンドの重要性を強調している。
【0008】
最近、C.エレガンス(C.elegans)は、がんの尿試料に対して誘引的な走化性を示すが、これは、非常に正確な様式で対照試料によって忌避される(Hirotsu,T.ら、A highly accurate inclusive cancer screening test using Caenorhabditis elegans scent detection.PLoS One 10、e0118699(2015);WO2015/088039)ことが実証された。嗅覚ニューロンの消失およびGタンパク質α変異体に関する研究は、線虫の応答が揮発性化合物によって誘発されることを示唆している。尿は、特に、化学的および物理的特徴(すなわち、分子量、極性、疎水性)が異なる多数の揮発性化合物を含む複雑な生物流体である。食物、夾雑物、薬物、内因性および細菌性副生成物の代謝分解のシグネチャを含む尿のボラチロームは、個体の健康状態に厳密に関連する。ボラチロームにおける濃度の変化は、がんの生物流体のGC/MSのスペクトルにおいて見出されているが、現在まで、これらの方法による特異的がんバイオマーカーの同定は、以下の2つの主な理由により難しいと思われる:マイクロモル濃度範囲までの感度、およびがん特異的ではない可能性がある濃度が変わる多様な代謝産物。この多数の分子において、C.エレガンス(C.elegans)嗅覚系の高い感度および特異性は、がんの本質的な代謝シグネチャの同定を導き得る。
【0009】
C.エレガンス(C.elegans)が、がんに罹患した人々からのがん細胞分泌物、組織および尿試料(10-1で希釈)に対して正の走化性を、対照群からの試料に対して負の走化性を示すという事実は、Hirotsuの研究(Hirotsuら、2015およびWO2015/088039)によって既に報告されており、Hirotsuらはまた、この動物の行動を利用して健康な人々およびがん有する人々の間を識別するという考えも導入した。引用された研究はまた、嗅覚ニューロンが行動応答の駆動において主な役割を果たすという証拠を与える。さらなる研究(Ueda,Yujiら、「Application of C.elegans cancer screening test for the detection of pancreatic tumour in genetically engineered mice.」 Oncotarget 10.52(2019):5412)は、マウスの膵臓がんを特異的に標的とする以前の知識を利用する。
【0010】
概して、Hirotsuは、がんを検出するために、尿試料を用いてC.エレガンス(C.elegans)の小さな集団に対して走化性アッセイを行うことが可能であることを示唆している。正の走化性指数はがんに関連付けられる一方、負のものは健康な状態に関連付けられる。報告された感度は95.8%であり、特異度は95.0%である。陽性群の尿試料(合計n=24)を、異なる病期(UICC基準によるI~IV)の異なる種類のがん(結腸、直腸、胃、膵臓、食道、乳房および前立腺)を有する人々から採取した。
【0011】
しかしながら、Hirotsu 2015およびWO2015/088039の両方は、異なる生物学的がんおよび非がん試料に対するC.エレガンス(C.elegans)の応答が試料およびその希釈に基づいて変動することを示しており、Hirotsu 2015の
図S1ならびにWO2015/088039の
図17および
図18に見られ得るように、研究ががん患者(またはがん細胞)に由来する試料を非がん患者(または非がん細胞)に由来する試料と識別することができないいくつかの場合があることを実証している。さらに、場合によっては嗅覚ニューロンが「高」応答でがんの匂いに対して応答することを開示しているが、文献は、AWCニューロンのみががんおよび非がんの間をおそらく識別することができる応答を提供するようであるが、試験された試料ががんに関連するか否かの判定は、ニューロンの「高」応答の解釈に委ねられることを示している。
【0012】
したがって、臭気物質に対するC.エレガンス(C.elegans)の走化性またはニューロン応答の使用は、がん検出のための興味深い基礎であるように思われるが、Hirotsu 2015の教示ならびにWO2015/088039にはいくつかの落とし穴があり、著者らによって主張されているような任意のがんおよび任意の試料または任意のニューロンを用いた信頼できるがん検出を可能にせず、文献は、すべての未解決の問題をどのように解決するか、および信頼できるがん検出のためにC.エレガンス(C.elegans)をどのように効果的に使用するかについての教示を提供していない。
【発明の概要】
【0013】
本発明者らは、健康な人々から採取された尿試料に対してHirotsuら2015と同じ行動試験を行い、矛盾する結果を見出した(
図1Bおよび
図1Fを参照):いくつかの対照試料は負の走化性指数をもたらすが、他のものは正のものをもたらす;同じ試料に対する複数の走化性アッセイは、正の指数ならびに負のものをもたらし得る。
図1(B)は、同じ対照試料に対する走化性アッセイが正ならびに負の結果をもたらし得ることを示し、
図1(F)は、いくつかの対照試料が正の走化性指数をもたらすが、他のものが負のものをもたらすことを示す。しかしながら、Hirotsuの報告によると、それらはすべて負の結果をもたらすはずである。したがって、Hirotsuによって記載されたプロトコルは不完全であり、再現性がほとんどない。
【0014】
AWCニューロンに対するカルシウムイメージングに関する結果を報告するにあたり、論文は、ニューロン応答を測定し、陽性または対照試料を伴う走化性アッセイ中でC.エレガンス(C.elegans)によって示される識別的選好性にそれを関連付けるための統計的に有意な方法を提供していない。
【0015】
カルシウムイメージングを行うことにより、Hirotsuの研究は、尿中のがんを検出するために、がんを有する人々から採取された尿に対するニューロン応答を使用することができることを示している。この種の分析には限られた数の試料(胃がん患者からの2つの陽性試料および2つの対照試料)が含まれ、乳がんを有する女性から採取された試料は含まれなかった。尿試料を10-1の希釈で、10秒のC.エレガンス(C.elegans)への曝露時間窓の間投与した。これらの条件では、AWCニューロンは、陽性試料および対照試料の除去時にも活性化するが、その活性化の強度は後者の場合に有意に低い。AWCニューロンは、誘引剤の除去時に活性化し、誘引の媒介に寄与し得ると報告されている。対照試料の除去に対する応答におけるその活性化は強度が低いが、他の態様では陽性試料の除去に対する応答における活性化と差がなく、したがって、走化性中に観察されるC.エレガンス(C.elegans)の選好的行動を説明することができない。
【0016】
したがって、AWCニューロンに対するカルシウムイメージング試験におけるHirotsuの実験条件は、2セットの試料に対する走化性アッセイで示されたC.エレガンス(C.elegans)の識別能力を完全に説明することができない。彼の結果によれば、正確な走化性識別に対する主な寄与因子は未同定のままである。
【0017】
本発明者らは、驚くべきことに、がんを有する女性から採取された尿試料に対するC.エレガンス(C.elegans)の誘引行動および健康な対象からのそれの回避が女性ホルモン周期によって強く影響を受けることを見出し、C.エレガンス(C.elegans)を用いた尿に対する走化性試験により、健康な対照に由来する尿試料からがんに罹患した女性に由来するそれの検出を確実に可能にすることができる窓を特定し、試験において、試験対象がホルモン周期を変化させる薬物を服用してはならないという要件も導入した。
【0018】
図1Cおよび
図1Dは、6人の対照対象から1ヶ月にわたって採取した尿試料に対して得られた走化性指数を示し、走化性指数がホルモン周期によって影響を受けることを実証している。特に、エストラジオールおよびプロゲステロンのピークの間、指数は正になる。
【0019】
さらに、本発明者らは、がん代謝産物に関与する受容体を同定し、限定された数の代謝産物の特異的変化がC.エレガンス(C.elegans)の非常に正確ながん識別行動に十分であることを示した。本発明者らはまた、本明細書で「ニューロン活性化指数」またはNAIと定義される新しい測定を明らかにし、これにより、C.エレガンス(C.elegans)のAWCニューロンに対するカルシウムイメージング試験で陽性および陰性試料について得られた応答間の差を統計的に有意な様式で定量することが可能になる。
【0020】
本発明の目的は:
-女性においてがんを検出するためのインビトロ方法であって、前記女性の尿試料の匂いに対する自由生活性土壌線虫の反応を指標として使用してがんを検出することを特徴とし、尿は、最後の月経周期の少なくとも2日後、同じ月経周期の5日後までに採取される、方法;
-対象においてがんを検出するためのマイクロ流体アッセイであって、化学物質を適時に制御された様式で充填することができるマイクロ流体パルスアリーナチップに自由生活性土壌線虫をロードする工程(前記線虫は、AWCONニューロンがカルシウムインジケータを発現するトランスジェニック線虫である)、
前記線虫を前記対象により得られた尿試料と接触させる工程;
前記接触が前記線虫のAWCONニューロンを活性化するか否かを評価する工程;
ニューロン活性化指数NAIを計算する工程であって、
NAI=2(AR-0.5)
ここで、AR=Nact/Ntotであり、
Nactは、AWCONニューロンの活性化に応答する線虫の数であり、Ntotは、同じ化学刺激に対して試験された生存線虫の数である、工程
を含み、
NAI指数>0が得られる場合および/またはAR値が>0.5である場合、対象はがんを有すると判定され、NAI指数<0が得られる場合および/またはAR値が<0.5である場合、対象はがんを有しないと判定される、マイクロ流体アッセイ。
-C.エレガンス(C.elegans)のAWAおよびAWC GPCR受容体の活性化が、対象に由来する生体液試料との接触時に分析されるがんを検出する方法であって、分析される受容体が、Sra-13;Str-2;Odr-10;Sra-17およびStr-130を含み、少なくともSra-13;Str-2;Odr-10;Sra-17およびStr-130が活性化される場合、前記対象はがんを有すると判定される、方法:
-ニューロン活性化指数NAIを計算するための装置であって、
-マイクロ流体パルスアリーナチップ用のハウジングであって、チップが、Ntot数の自由生活性土壌線虫および対象により得られた尿試料を受け入れるように適合されている、ハウジング;
-AWCONニューロンの活性化に応答する線虫の数Nactを測定するためのデバイス;および
-前記ニューロン活性化指数NAIをNAI=2(AR-0.5)として計算するようにプログラムされた処理ユニット
(ここで、AR=Nact/Ntotである)
を備える、装置。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1A】健康な対象およびがん患者からの尿試料に対するC.エレガンス(C.elegans)走化性アッセイ。集団走化性アッセイプレート設計。直径10cmのペトリ皿を使用して、走化性アッセイを行った。プレートを4つの四分円、2つの臭気物質領域(+)および2つの対照領域(-)に分割した。10
-1で希釈したがんまたは対照尿試料のいずれか1マイクロリットルを臭気物質領域(+)に置いた。線虫をプレートの中央に置き、60分後、走化性指数(CI)を、CI=(臭気物質領域のワームの数(+)-対照領域のワームの数(-))をワームの総数で割ったものとして計算した。
【
図1B】健康な対象およびがん患者からの尿試料に対するC.エレガンス(C.elegans)走化性アッセイ。C.エレガンス(C.elegans)の走化性指数は、女性ホルモンによって影響を受ける。月の異なる日に6人の健康な女性(hd)から採取された尿に対する走化性アッセイは、走化性指数において変動を示し、女性ホルモンによる影響を示唆した。エラーバーは、3つの独立した実験のSEMを示す。
【
図1C】健康な対象およびがん患者からの尿試料に対するC.エレガンス(C.elegans)走化性アッセイ。健康なドナーから採取された尿に対するC.エレガンス(C.elegans)の応答は、月経周期の律動性によって影響を受ける。走化性アッセイを、6人の健康なドナー(hd)から採取された尿を使用して、期間終了の2日後から開始して次の期間まで、週に3回行った。データは、CIと黄体形成ホルモン、卵胞刺激ホルモンおよび排卵前のエストラジオール放出と、黄体期中のプロゲステロンのピークとの間に正の相関関係を示した(Draper,C.ら、Menstrual cycle rhythmicity:metabolic patterns in healthy women.Sci.reports 8、14568(2018))。さらに、女性の2つの群間に曲線の形状の違いが認められた。排卵前曲線は、第2群(
図1D)よりも第1群(
図1C)の方が狭く、それはより大きかった。エラーバーは、3つの独立した実験のSEMを示す。灰色の曲線は、月経周期中のホルモン放出の揺らぎを示す(Draper,C.ら、Menstrual cycle rhythmicity:metabolic patterns in healthy women.Sci.reports 8、14568(2018)から改変された参照グラフ)。
【
図1D】健康な対象およびがん患者からの尿試料に対するC.エレガンス(C.elegans)走化性アッセイ。健康なドナーから採取された尿に対するC.エレガンス(C.elegans)の応答は、月経周期の律動性によって影響を受ける。走化性アッセイを、6人の健康なドナー(hd)から採取された尿を使用して、期間終了の2日後から開始して次の期間まで、週に3回行った。データは、CIと黄体形成ホルモン、卵胞刺激ホルモンおよび排卵前のエストラジオール放出と、黄体期中のプロゲステロンのピークとの間に正の相関関係を示した(Draper,C.ら、Menstrual cycle rhythmicity:metabolic patterns in healthy women.Sci.reports 8、14568(2018))。さらに、女性の2つの群間に曲線の形状の違いが認められた。排卵前曲線は、第2群(
図1D)よりも第1群(
図1C)の方が狭く、それはより大きかった。エラーバーは、3つの独立した実験のSEMを示す。灰色の曲線は、月経周期中のホルモン放出の揺らぎを示す(Draper,C.ら、Menstrual cycle rhythmicity:metabolic patterns in healthy women.Sci.reports 8、14568(2018)から改変された参照グラフ)。
【
図1E】健康な対象およびがん患者からの尿試料に対するC.エレガンス(C.elegans)走化性アッセイ。対応する標準偏差と共に報告された、対照(青色棒)および陽性群(赤色棒)の各試料に対して得られた走化性指数(CI)値の棒グラフ。
【
図1F】いくつかの対照試料は正の走化性指数をもたらすが、他のものは負のものをもたらす。
【
図2A】AWCは、がん尿試料に対して誘引を媒介する主要な嗅覚ニューロンである。頭部に位置する嫌悪応答(ASHおよびAWB)および誘引(AWC)を媒介する化学感覚ニューロン。すべてのニューロンは、鼻の先端まで延びる突起を示す。
【
図2B】AWCは、がん尿試料に対して誘引を媒介する主要な嗅覚ニューロンである。嗅覚感覚ニューロン、下流の介在ニューロンおよび運動ニューロン。
【
図2C】AWCは、がん尿試料に対して誘引を媒介する主要な嗅覚ニューロンである。対照試料(反発性)、がん尿試料(誘引性)およびSBasal(中性)に対して応答する(上から下へ)ASH、AWBおよびAWCニューロンからの標準偏差(N=6)に従って正規化した平均カルシウムイメージングトレース。刺激時間は灰色で陰影を付けている。ASHニューロンは、刺激依存的な活性を示すが、フロースイッチに関連する圧力変化に対して応答する。AWBニューロンからのトレースは、測定された走化性指数を説明するために、十分に信頼できるとは思われない。AWC
ONニューロンは信頼できる応答を示し、CIとの比較のための最良の候補となる。
【
図2D】AWCは、がん尿試料に対して誘引を媒介する主要な嗅覚ニューロンである。AWCニューロンはがん代謝産物を感知する。集団(上)および単一動物(下)の走化性アッセイは、AWCが遺伝的に除去されたワームががん代謝産物を感知することができないことを示した。棒グラフは、3つの有益ながん試料(bc16、bc19、およびbc39)に対する応答の走化性指数または走化性スコアを示す。集団アッセイで報告されたエラーバーは、3つの独立した実験のSEMを示す(
*p<0.05;
**p<0.002、スチューデントのt検定)。単一動物の走化性アッセイのエラーバーは、いくつかの試験動物(bc16:N2=25、PY7502=28;bc19:N2=28、PY7502=29;bc39:N2=31、PY7502=27)のSEMを示す(
*p<0.05、マン・ウィニー検定)。
【
図2E】AWCは、がん尿試料に対して誘引を媒介する主要な嗅覚ニューロンである。上のグラフは、濃度が上昇する(10
-5~10
-2)溶液に対して、がん対象の尿試料(y軸)または対照試料の除去に対する応答のAWC
ONニューロンの活性化率を報告する。下のグラフは、各濃度に対して得られたコントラストを示す。10
-2の濃度は、最高の活性化率(83.33%)および対照および陽性試料の間の適度に良好なコントラストをもたらす。
【
図2F】1:10の希釈物が、BC尿試料および対照の間を識別するための最良の濃度であることが見出された。いくつかの濃度の尿を集団走化性アッセイによって試験した。BC試料(bc)に対する最大の誘引、ならびに対照(hd)に対するより大きな回避は、1:10の希釈物でピークに達した。エラーバーは、3つの独立した実験のSEMを示す。
【
図2G】AWCにおける対照試料に対する選好性反転は、曝露時間に依存する。刺激時間の長さの関数として同じ対照試料について得られたAWC活性化率および対応するNAI(それぞれ上のグラフおよび下のグラフ)。NAIは、40秒またはそれより長い時間にわたって提示された刺激が、試験された線虫の過半数において誘引的な応答をどれだけ誘発するかを強調しているが、より短い時間窓は、収集されたAWCトレースの大部分から応答を関連付けられない。
【
図3A】化学的刺激時の神経活動の広視野イメージング。スケッチは、電気弁を介した同時の化学的刺激用の実験設定、ならびにGCaMPの470nm青色励起(青色線)およびその発光(緑色線)、ならびに透過画像のための660nm光(赤色線)による神経応答の記録を示す。
【
図3B】化学的刺激時の神経活動の広視野イメージング。2つの異なる条件(緩衝液または臭気充填)におけるパルスアリーナの幾何学的形状を示す上面図。
【
図3C】化学的刺激時の神経活動の広視野イメージング。ヒートマップおよび個々のトレースは、12匹の動物にわたりピーク正規化された神経応答(F/F0)およびAWC
ONニューロンに対して記録された健康なドナーからの時間を表す(写真は、静止AWC
ONニューロン(上)および化学的に刺激されたもの(下)を用いた頭部の広視野4X蛍光画像のクロップを示す)。ボックスプロットは、対応する集団の平均ピークF/F0を示す。中央の印は中央値を示し、ボックスはそれぞれ25および75パーセンタイルを示す。ひげは、外れ値と見なされない最も極端なデータ点まで延び、外れ値は「+」記号を使用して個別にプロットされている。
【
図3D】化学的刺激時の神経活動の広視野イメージング。ヒートマップおよび個々のトレースは、12匹の動物にわたりピーク正規化された神経応答(F/F0)およびAWC
ONニューロンに対して記録されたがん対象からの時間を表す(写真は、静止AWC
ONニューロン(上)および化学的に刺激されたもの(下)を用いた頭部の広視野4X蛍光画像のクロップを示す)。ボックスプロットは、対応する集団の平均ピークF/F0を示す。中央の印は中央値を示し、ボックスはそれぞれ25および75パーセンタイルを示す。ひげは、外れ値と見なされない最も極端なデータ点まで延び、外れ値は「+」記号を使用して個別にプロットされている。
【
図4】後処理プロセスのパイプライン。一連のフレーム(1)から開始して、ヘッドが選択され、 AWC
ON同定(2-3)のためにセグメント化される。取得中に線虫が静止している場合、動きチェックに回され、トレースが評価される(4~6)。取得で利用可能なすべての生きたトレースを考慮してNAIを計算する(7)。各実験では、約4つの陽性試料および4つの対照試料を試験した(8)。異なる実験日間の平均化(9)により、最終的に各試料の平均NAIおよび標準偏差(10)を得る。さらなる詳細は、方法のセクションに報告されている。
【
図5A】変数の二項分布を仮定して計算された、対応する標準偏差と共に報告された対照(青色棒)および陽性群(赤色棒)の各サンプルに対して得られたNAIおよびCI値の棒グラフ。両方の指数は明確な傾向(がん試料に対する正の値、対照群に対する負の値)を示すが、精度およびNAIに関連するコントラストは、CIと比較した場合に明らかに高い。
【
図5B】散布図は、PCA分析の最初の2つの主成分を示す。テキストボックスは分析のアウトカムを報告し、これは、NAIが2つの群の点間の分離の大部分に寄与することを示す。
【
図5C】CI(左のグラフ)、NAI(中央のグラフ)および主成分分析の第1の成分(右のグラフ)について得られたROC曲線。グラフから、カルシウムイメージング測定が陽性群および対照群の間のより良好な識別をもたらすことは明らかである。PCAの第1の成分は、NAIの識別力を向上させるが、NAIとあまり異ならない。
【
図5D】対照群および患者の両方に対して測定されたCI、NAIおよびPC1(上から下)の分布(各行に対してそれぞれ左および右のグラフ)。
【
図5E】srsx-5およびstr-199遺伝子に欠失を有する変異動物は、対照ワームとして振る舞う。SRSX-5およびSTR-199受容体を欠く動物は、健康な個体(hd)から採取された尿試料を用いて試験した場合にも対照動物(N2)として振る舞う。エラーバーは、3つの独立した実験のSEMを表す。
【
図6】示された遺伝子についてノックアウトされた動物の走化性指数。そのCIがN2のそれに対して有意に低い株は、乳がん代謝産物を感知するための強力な候補と考えられる。統計学的有意性は、対応のないスチューデントのT検定を使用して計算した。グラフは、2つの異なる尿試料を使用して行われたアッセイの平均として表されている。エラーバーはSEM(
*P<0.05、
**P<0.01)を表す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明者らは、Hirotsu,T.ら、PLoS One 10、e0118699(2015);WO2015/088039に開示されているもののような、がんを検出するためのアッセイが再現可能ではなかった、すなわち、様々な場合、特に乳がんの同定において信頼性が高く再現可能な結果を提供しなかったことを見出した。
【0023】
本発明者らは、試料が採取された女性ホルモン周期の瞬間に応じて、C.エレガンス(C.elegans)が、同じ女性個体から採取された試料に対して異なる様式で反応することを発見した。したがって、本発明者らは、C.エレガンス(C.elegans)または土壌自由生活性線虫の尿の匂いに対する反応が使用されるアッセイにおいて、女性におけるがんを検出するための女性ホルモン周期に関する時間窓を特定した。
【0024】
例のセクションでは、発明者らによって行われた研究が報告されている。研究は、具体的には、36個の陽性試料および36個の対照試料(年齢および群が一致)に対して、異なる病期(I~IV)および両方のタイプ(小葉および乳管)の乳がんを標的とした。同じセットの試料を走化性アッセイならびにカルシウムイメージング実験で試験した。
【0025】
走化性アッセイでは、本発明者らは、Hirotsuの結果を再現することを可能にする、そうでなければ再現不可能な、尿採取および試験のための新しいプロトコルを見出した。6人の女性から1ヶ月にわたって採取された尿試料を試験した。得られた走化性指数は、尿試料に対するC.エレガンス(C.elegans)の走化性行動が女性ホルモン周期によって影響を受けることを示唆した。特に、プロゲステロンおよびエストラジオールのピークは、対象の健康状態にかかわらず、常に誘引的な応答をもたらす。したがって、本発明者らは、走化性アッセイが再現可能な結果をもたらす時間窓を特定した。
【0026】
したがって、本発明は、
女性においてがんを検出するためのインビトロ方法であって、前記女性の尿試料の匂いに対する自由生活性土壌線虫の反応を指標として使用してがんを検出することを特徴とし、前記尿は、最後の月経周期の少なくとも2日後、同じ月経周期の5日後までに採取される、方法を提供する。
【0027】
線虫は非常に広い門であり、いくつかの本質的な共通の特徴を共有しているが、回虫は寄生性または非寄生性であり得、寄生性のものは昆虫、哺乳動物、魚、植物などに適応し、非寄生性(自由生活性)のものは土壌、水、例えば、海、湖、川、池などに適応することが当技術分野で公知である。線虫は匂いに給餌および生存を依存しているので、その匂いの感知は高度に発達し、特殊化されている。例えば、寄生性線虫は、土壌自由生活性のものと比較して非常に異なる様式で臭気に応答することが公知である。したがって、本発明のすべての実施形態(方法およびアッセイ)は、自由生活性土壌線虫などの、C.エレガンス(C.elegans)と同様の生活習慣を有する線虫に合理的に適用可能であると考えられる。特に、本発明の方法ならびにアッセイは、細菌フィーダーの自由生活性土壌線虫にさらに合理的に適用可能であると考えられる。本発明の好ましい実施形態では、自由生活性土壌線虫はC.エレガンス(C.elegans)である。
【0028】
本明細書によれば、線虫の尿の匂いに対する反応は、観察中の線虫の走化性反応、ニューロン反応または受容体反応であり得る。本発明のある実施形態では、反応は走化性反応である。
【0029】
好ましくは、試験される尿が女性から採取される本明細書の任意の実施形態に対して、前記試験される女性は、薬物がホルモン比率を変化させ、その結果、線虫の応答を変化させる可能性があるので、採取時に、ホルモン周期を変化させる前記薬物を服用したり、またはホルモン周期を変化させる薬物を最近服用したことがあってはならない。
【0030】
本発明によれば、試験された応答が線虫の走化性応答である場合、尿試料は好ましくは1:10に希釈される。
【0031】
以下の例のセクションおよび
図2Fに報告される結果は、実際に、走化性アッセイに使用される10
-1希釈の尿がより正確で信頼できる結果を提供することを示す。
【0032】
これまでに記載された実施形態のいずれかの本発明の方法によれば、上記で定義されたような自由生活性土壌線虫が、前記尿の匂いに対して正の走化性応答を示すか、または換言すれば、前記尿に誘引される場合、女性はがんを有すると判定される。
【0033】
本発明の別の実施形態によれば、上記で定義された土壌自由生活性線虫で実施されるインビトロ方法では、分析される反応はニューロン反応、特にAWCONニューロン反応である。
【0034】
例のセクションで提供される結果によれば、好ましい実施形態では、AWC
ONニューロン反応は、尿が1:100に希釈された尿試料を用いて試験される。
図2Eに要約された結果は、AWC
ONニューロン反応の分析が少なくとも10
-2、10
-3、10
-4、10
-5で信頼できる結果を提供できることを示しているが、10
-2の尿希釈で最良の応答が得られる。
【0035】
本発明者らは、線虫のニューロンの応答を極めて信頼性が高く正確な様式で試験することができる新しいアッセイを特定した。
【0036】
本発明者らは、化学物質を適時に制御された様式で充填することができるアリーナに複数の線虫を閉じ込めるためにマイクロ流体チップを使用して、マイクロ流体中でカルシウムイメージング実験を行った。カルシウムトレースを記録するために使用されるカメラの視野は、複数の頭部を含み、したがって複数のトレースを同時に記録することができる。
【0037】
これらの取得中、中性化学物質(sBasal)が実験の最初の10秒間および最後の少なくとも30秒間にわたってアリーナを満たした一方、尿試料はこれらの2つの時間窓の間でアリーナを満たした。各線虫に対して、試料除去の2秒後に開始する時間窓で約10秒間検出された平均蛍光シグナル強度<Ioff>、および試料除去の2秒前に終了する時間窓で約10秒間検出された平均シグナル強度<Ion>、ならびに同じ「オン」時間窓での標準偏差σonを測定した。本発明者らは、IoffおよびIonの間の差がσonの3倍、すなわち(Ioff-Ion)>3σonである場合、応答を試料除去時の活性化として分類できることを見出した。換言すれば、(Ioff-Ion)>3σonの場合、線虫によって感知される化学物質は誘引剤として知覚される。
【0038】
この設定で陽性および対照試料の2つの群を研究するために、本発明者らは、「ニューロン活性化指数」またはNAIとして本明細書で定義される新しい測定を特定し、陽性および陰性試料について得られた応答の間の差を統計的に有意な様式で定量化することを可能にした。
【0039】
NAIを構築するために、以下の工程に従った:
・前の段落に記載された規則に従って、統計的に有意な数の線虫の応答を分類する(Ioff-Ion>3σon)
・誘引と分類された応答の数N+、およびそれらの分類に関係なく応答の総数Ntotを計数する。
・以下の式AR=N+/Ntotを用いて活性化率ARを計算する
・以下の式:NAI=2AR-1を使用してNAIを計算する
【0040】
その定義から、NAIは、走化性指数CIと同様に、-1~+1の範囲であることになる。正のNAIは、試料除去時に活性化(誘引)が観察される過半数の応答に関連付けられるが、負のNAIは、線虫の過半数が応答しなかった、すなわち、カルシウムイメージングによって測定されたそれらの応答が以下の規則:(Ioff-Ion>3σon)を満たさなかった実験に関連付けられるものとする。活性化率を用いて同様の定量化が得られるが、この場合、ARは、CIおよびNAIとは異なり、0から1の範囲であり、0.5を超える値が誘引関連応答に関連付けられるものとなる。
【0041】
NAIおよびARにより、本発明者らは、カルシウムイメージング実験で使用される試料の最良の希釈値がどのようにして10
-2であるかを示すことができた(
図1Cおよび
図1Dを参照)。この値は、対照試料の除去後でさえAWCがわずかな活性化を示した、Hirotsuのカルシウムイメージング実験で使用されたものとは異なる。これは、臭気物質が空中浮遊化学物質として、または支持する寒天基質を介してC.エレガンス(C.elegans)によって検出される走化性アッセイにおいて使用される希釈と比較して、アッセイされる線虫と直接接触する液体培地を介して投与された場合、試料がより高い希釈値を有する必要があるという事実と一致する。
【0042】
NAIおよびARはまた、試料投与のための最良の刺激時間窓を定義することを可能にする(
図2Gを参照):本発明者らの実験から、40秒よりも長い範囲の刺激時間窓が対照試料においてさえ誘引様応答を誘発することが分かる。したがって、本発明者らは、20秒の時間窓を使用することを提案する。
【0043】
最後に、対象におけるがんの存在を尿試料から予測するために、本発明者らは、10
-1での試料希釈物を用いて走化性指数CIによって測定された行動応答が、尿試料の10
-2希釈物に対して20秒間曝露したAWCのカルシウムイメージングトレースおよびNAI定量に基づく評価と比較した場合、精度が低いことを示した(
図5Aを参照)。
【0044】
したがって、本発明者らは、C.エレガンス(C.elegans)の嗅覚を利用して尿試料中のがんトレースを検出するための、AWCニューロンを標的とするマイクロ流体チップに基づくカルシウムイメージング実験用の有効な刺激プロトコルを本明細書で提供する。
【0045】
AWCに対してカルシウムイメージングを行う主な利点は、結果の精度の向上および試験に関与する時間の減少である。これらの利点を得るためには、AWCニューロンにおいて特異的にカルシウムインジケータを発現するC.エレガンス(C.elegans)の株、および落射蛍光顕微鏡設定下でそれを検査することが必要である。試験される試料はまた、20秒の時間窓にわたって10-2の希釈値で投与される必要があり、結果はニューロン活性化指数NAIによって定量される必要がある。これは、ホルモン周期がC.エレガンス(C.elegans)のがんの識別能に干渉するという事実によって引き起こされる偽陽性を排除するための、新しい尿採取プロトコルの導入によってさらに改善される。
【0046】
したがって、本発明のさらなる目的は、対象においてがんを検出するためのマイクロ流体アッセイであって、化学物質を適時に制御された様式で充填することができるマイクロ流体パルスアリーナチップに自由生活性土壌線虫をロードする工程(前記線虫は、AWCONニューロンがカルシウムインジケータを発現するトランスジェニック線虫である)、
前記線虫を前記対象により得られた尿試料と接触させる工程、
前記接触が前記線虫のAWCONニューロンを活性化するか否かを評価する工程;
ニューロン活性化指数NAIを計算する工程であって、
NAI=2(AR-0.5)
ここで、AR=Nact/Ntotであり、
Nactは、AWCONニューロンの活性化に応答する線虫の数であり、Ntotは、同じ化学刺激に対して試験された生存線虫の数である、工程
を含み、
NAI指数>0が得られる場合および/またはAR値が>0.5である場合、対象はがんを有すると判定され、NAI指数<0が得られる場合および/またはAR値が<0.5である場合、対象はがんを有しないと判定される、マイクロ流体アッセイである。
【0047】
本発明のアッセイでは、適切な線虫は、C.エレガンス(C.elegans)またはC.エレガンス(C.elegans)と同様の寸法の、好ましくは細菌を食べる他の自由生活性土壌線虫などの、マイクロ流体システムに適した寸法の線虫である。
【0048】
適切なマイクロ流体アリーナは当業者に公知である。行動アリーナは、例として、AlbrechtおよびBargmann、Nature methods 2011、「High-content behavioral analysis of Caenorabditis elegans in precise spatiotemporal chemical environments」に記載されている。特に、アリーナは、「system design and overview」の第1段落に記載されており、論文の
図1に図示されている。アリーナに関する詳細は、同じ論文「microfluidic designs and optimization」の付記2にも提供されている。当業者は、AlbrecthおよびBargmann 2011によって記載されているものを小型化するマイクロ流体アリーナを容易に調製することができる。チップ上の他の適切なマイクロ流体行動アリーナは、当技術分野において、例として、Adriana San-Miguel and Hang Lu,Wormbook.org 2013「Microfluidics as a tool for C.elegans research」、3頁、
図2、ならびに4、13および14頁に詳細に記載されているマイクロ流体チップ(
図5)を開示しているEP3698133A1に記載されている。
【0049】
ワームロードディングチャネルおよび液体の流入および流出のためのチャネルを有する、いくつかのC.エレガンス(C.elegans)の刺激溶液に対する嗅覚応答を同時に分析するのに適した任意のマイクロ流体システム(本明細書では行動アリーナとも定義される)が、本発明のアッセイに適している。本発明によるシステムは、目的の溶液(試料、中性溶液、その他)を適時に正確な様式でC.エレガンス(C.elegans)に投与することを可能にする。行動アリーナは、例えばカメラなどの画像取得のためのデバイスの視野の下に、複数の線虫を閉じ込めるのに適したサイズである。閉じ込めは、バリアを介して容易に得ることができ、その互いの距離は、線虫が逃げるのを妨げるのには十分に小さいが、溶液が依然として流れ得るには十分に高い。線虫が閉じ込められた微小環境は、ピラーのフォレスト(好ましくは、一定の間隔および一貫した幾何学的形状を有する)を必要とする。チップを支えるピラーは、C.エレガンス(C.elegans)の乱されない遊泳を可能にする間隔で配置される必要がある。任意の落射蛍光顕微鏡を使用して、蛍光チャネルを介したニューロン活性および/または伝達チャネルを介した行動応答を記録し得る。
【0050】
本発明のアッセイによれば、
前記対象により得られた尿試料との前記接触させることは、アッセイの開始時の最初の期間にわたって、およびアッセイの終了時の最後の期間にわたって前記アリーナを嗅覚中性溶液で充填し、前記最初および最後の期間の間の中間期間にわたって前記アリーナを前記対象の尿試料で充填することによって行うことができ、先行する充填は後続するものの導入時にアリーナから除去され;
前記接触が前記線虫のAWCONニューロンを活性化するか否かの前記評価は、前記最後の期間中および前記中間期間中にAWCONニューロンの応答を測定し、前記中間期間中の前記測定の平均値Ion、前記最後の期間中の前記測定の平均値Ion、および前記最後の期間中の標準偏差σonを計算することによって行われ;
AWCONニューロンは、
Ioff-Ion>3σonの場合に活性化されている、および
Ioff-Ion<3σonの場合に活性化されていないと考えられる。
【0051】
本発明のある実施形態によれば、前記最初の期間は8~12秒(例えば10秒)であり、前記中間期間は10~20秒であり、前記最後の期間は少なくとも30秒である。
【0052】
最後の期間は、ニューロンをベースラインの蛍光に戻すために適用される。30より長い任意の時間が適切であるが、必要ではない。本発明者らは、ニューロンをベースラインの蛍光に戻すためには30秒で十分であることを検証した。上記の理由により、この期間の上限値は必要ない。実際には、手順を高速化するために、上限値は最大60秒、したがって30~60秒とすることができるが、原理上、上限値は数時間でもあり得る。
【0053】
本発明のある実施形態によれば、前記Ionは、約8~15秒間、例えば約10秒間の期間にわたって、好ましくは前記尿試料の導入から少なくとも2秒間後に測定される。
【0054】
さらなる実施形態によれば、前記Ioffは、約8~15秒間、例えば約10秒間の期間にわたって、好ましくは前記嗅覚中性溶液の導入から少なくとも2秒間後に測定される。
【0055】
さらなる実施形態によれば、前記Ioffは、約10秒間の期間、前記嗅覚中性溶液の導入から少なくとも2秒後に測定され、前記Ionは、約10秒間の期間、前記尿試料の導入から少なくとも2秒後に測定される。
【0056】
上述のように、前記尿試料は、例として、10-2、10-3、10-4または10-5希釈物であり得る。好ましい希釈は10-2である。
【0057】
上記および下記の例のセクションに開示される知見によれば、本発明のマイクロアレイアッセイにおいても、対象が女性である場合、好ましくは、前記尿試料は、最後の月経周期の少なくとも2日後、同じ月経周期の5日後までに採取される。
【0058】
上述のように、本発明のアッセイでは、アッセイされる線虫のAWCONニューロンがカルシウムインジケータを発現する。これは、目的のニューロン上にカルシウムインジケータを発現する遺伝子をコードするトランスジェニックワームを使用して行うことができる。
【0059】
カルシウムインジケータ遺伝子の例としては、イエローカメレオン(YC)遺伝子;例として、GCaMP3(環状に並べられた緑色蛍光タンパク質-カルモジュリン-M13ペプチドバージョン3)を発現する遺伝子などのGCaMP遺伝子が挙げられる。
【0060】
インジケータを目的のニューロン上の受容体にライゲーションするための方法は当技術分野で周知であり、例えば、プロモーターのすぐ下流でインジケータ遺伝子をライゲーションする方法、マイクロインジェクション法などであり、例として、「Molecular Cloning:A Laboratory Manual(第4版)」(Cold Spring Harbor Laboratory Press(2012))、または他の実験室マニュアルに記載されている。あるいは、公知の方法に従って、線虫の生殖腺にDNA溶液を注入することができる(Mello,C.C.,Kramer,J.M.,Stinchcomb,D.&Ambros,V.Efficient gene transfer in C.elegans:extrachromosomal maintenance and integration of transforming sequences.EMBO J 10,3959-3970(1991))。
【0061】
さらに、本発明者らは、例のセクションおよび
図6に開示されるように、がん試料に対する正の走化性応答に関与するGPCR C.エレガンス(C.elegans)受容体を同定した。
【0062】
実験のセクションで報告されているように、受容体AWAおよびAWC Sra-13;Str-2;Odr-10;Sra-17およびStr-130受容体は、C.エレガンス(C.elegans)で観察されるがん試料に対する正の走化性応答に関与するが、Srsx-5およびStr-199は関与しない。
【0063】
実際、Sra-13;Str-2;Odr-10;Sra-17およびStr-130受容体の各々の活性を欠損したC.エレガンス(C.elegans)変異体は、がん患者の尿で刺激した場合、野生型C.エレガンス(C.elegans)と比較して低い走化性応答(すなわち、より低い走化性指数)を示したが、Srsx-5およびStr-199の各々の活性を欠損したC.エレガンス(C.elegans)変異体に対する同じ刺激後、変異体および野生型の間に走化性応答の差は観察されなかった。
【0064】
したがって、本発明の目的はまた、対象におけるがん検出方法であって、
C.エレガンス(C.elegans)のAWAおよびAWC GPCR受容体を対象に由来する生体液試料を用いた臭気物質の刺激に供し、少なくともSra-13;Str-2;Odr-10;Sra-17およびStr-130の刺激を分析することを含み、ここで、
少なくともSra-13;Str-2;Odr-10;Sra-17およびStr-130が活性化されると、前記対象はがんを有すると判定される、方法である。
【0065】
さらに、方法は、Srsx-5および/またはStr-199受容体活性の分析も含み得る。
【0066】
したがって、本発明はまた、対象におけるがん検出方法であって、C.エレガンス(C.elegans)のAWAおよびAWC GPCR受容体を対象に由来する生体液試料を用いた臭気物質の刺激に供し、少なくともSra-13;Str-2;Odr-10;Sra-17およびStr-130の刺激を分析することを含み、
分析される受容体は、Srsx-5またはStr-199をさらに含み、少なくともSra-13;Str-2;Odr-10;Sra-17およびStr-130が活性化され、Srsx-5またはStr-199が活性化されていない場合、前記対象はがんを有すると判定される;または
分析される受容体は、Srsx-5およびStr-199をさらに含み、少なくともSra-13;Str-2;Odr-10;Sra-17およびStr-130が活性化され、Srsx-5およびStr-199が活性化されていない場合、前記対象はがんを有すると判定される、方法を包含する。
【0067】
本発明によれば、分析され得るさらなるGPCR受容体は、Srsx-3;Srsx-37;Srt-7;Srt-28;Srt-29;Srt-45;Srt-47;Srx-1;Srx-47;Srab-7;Srab-9;Srab-13;Srab-16;Srv-34;Str-261、Srd-17;Sre-4、Sri-14;Srj-21;Srj-22のうちの1つまたは複数である。ある実施形態では、GPCR受容体活性化の前記評価は、GPCR-Gαキメラを発現するようにサッカロミセスセレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)Gαサブユニットにカップリングされた前記AWCおよび/またはAWA GPCR受容体のうちの1つをコードするDNAをそれぞれ含むサッカロミセスセレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)株を使用して行うことができ、前記酵母株の各々は、GPCR-Gαキメラの活性化時に、フェロモン応答性蛍光転写レポーター遺伝子が活性化され、蛍光レポータータンパク質が酵母中で発現されるように、フェロモン応答性蛍光転写レポーター遺伝子も含む。
【0068】
適切なサッカロミセスセレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)株は、WO2014/169336に記載されているように、または任意の他の組換えDNA技術を用いて調製され得る。例として、ヒトGPCRの代わりにC.エレガンス(C.elegans)のGPCRを発現するために、KapolkaらによってPNAS 2020、第117巻、第23号、13117-13126頁「DCyFIR:a high-throughput CRISPR platform for multiplexed G protein-coupled receptor profiling and ligand discovery」に記載されているプロトコルを適合させることができる。この場合、GPCRは、酵母サッカロミセスセレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)ゲノムに直接CRISPR組み込まれ得る。この系では、酵母のGαの最後の5残基が、線虫のC末端の4つのGα(ODR3、GPA2、GPA3、GPA13)のうちの1つの最後の5残基で置き換えられたGαC末端キメラを使用して、線虫のGPCRは酵母のGαサブユニットにカップリングされ得る。各株は、フェロモン応答性蛍光転写レポーターも含む。このようにして得られる株は、がん患者の尿試料を用いて試験され得る。特定のがん代謝産物との相互作用によるGPCR-Gaペアの活性化は、蛍光遺伝子の転写をもたらす。
【0069】
したがって、本発明によれば、前記評価は、前記試料を、GPCR-Gαキメラを発現するようにサッカロミセスセレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)のGαサブユニットに連結された前記AWCおよび/またはAWA GPCR受容体のうちの1つをコードするDNAをそれぞれ含む異なるサッカロミセスセレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)株と接触させることによって行われ、前記酵母株の各々は、フェロモン応答性蛍光転写レポーター遺伝子も含み、前記GPCR受容体は少なくともSra-13;Str-2;Odr-10;Sra-17およびStr-130であり、少なくともSra-13-Gαを発現するサッカロミセスセレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)株;Str-2-Gαを発現するサッカロミセスセレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)株;Odr-10-Gαを発現するサッカロミセスセレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)株;Sra-17-Gαを発現するサッカロミセスセレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)株;ならびにStr-130-Gα Sra-13;Str-2;Odr-10;Sra-17およびStr-130を発現するサッカロミセスセレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)株において蛍光の発光が観察される場合、GPCR受容体は活性化されていると定義される。
【0070】
本発明によれば、使用され得るさらなるサッカロミセスセレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)株は、GPCR-Gαキメラを発現するようにサッカロミセスセレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)のGαサブユニットにカップリングされた前記AWCおよび/またはAWA GPCR受容体のうちの1つをコードするDNAをそれぞれ含む1つまたは複数の異なるサッカロミセスセレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)株であり、前記酵母株の各々は、フェロモン応答性蛍光転写レポーター遺伝子も含み、前記AWCおよび/またはAWA GPCR受容体はSrsx-3;Srsx-37;Srt-7;Srt-28;Srt-29;Srt-45;Srt-47;Srx-1;Srx-47;Srab-7;Srab-9;Srab-13;Srab-16;Srv-34;Str-261、Srd-17;Sre-4、Sri-14;Srj-21;Srj-22である。
【0071】
最後に、本発明はまた、ニューロン活性化指数NAIを計算するための装置であって、
-マイクロ流体パルスアリーナチップ用のハウジングであって、チップが、Ntot数の自由生活性土壌線虫および対象により得られた尿試料を受け入れるように適合されている、ハウジング;
-AWCONニューロンの活性化に応答する線虫の数Nactを測定するためのデバイス;および
-前記ニューロン活性化指数NAIをNAI=2(AR-0.5)として計算するようにプログラムされた処理ユニット
(ここで、AR=Nact/Ntotである)
を備える、装置を提供する。
【0072】
ニューロンの活性化に応答する線虫の数を測定するためのデバイスは、当技術分野で周知である。適切なデバイスは、例えば、C.エレガンス(C.elegans)のニューロン応答を自動的に検出するための装置を開示しているEP3698133A1に詳細に記載されている。デバイスは、文献の
図1から
図6に詳細に記載されている。EP3698133A1に記載されているデバイスは、初期線虫集団から成体段階の線虫を選択し、中間の線虫集団を得るように構成された機械的選択ユニット、中間の集団から成体段階の線虫の最終集団を選択し、卵を産生する成体段階の線虫から若年成体段階の線虫を選択して、臭気物質の刺激に対する最終集団の線虫の応答を検出するように構成された測定ユニットに送るように構成された線虫光学的選択ユニットを備え、機械的選択ユニットは、少なくとも3方向分岐を有する接続チャネルによって光学的選択ユニットに接続され、光学的選択ユニットは、ローディングマイクロチャネルによって測定ユニットに接続されている。選択ユニットは、好ましいが、適切なデバイスの必須の特徴ではない。適切なデバイスの一例が
図Aに開示されており、実験のセクション「microfluidic device design for neuronal imaging」に記載されている。
【0073】
以下に報告される研究は、Santa Lucia Foundation Ethics Boardによって承認された。試験登録前に、全参加者から書面でインフォームドコンセントを得た。
【0074】
例
乳がん対象の試料採取および臨床的特徴付け
本発明者らは、乳がんを有する女性からn=36の尿試料、ならびに性別および同年齢の健康なドナーからn=36の尿試料を採取した。両群とも25歳から88歳の間の範囲であった。がんの特徴を表1に報告する。簡潔には、症例の88.9%は、乳がんの最も一般的な形態である浸潤性乳管癌である。C.エレガンス(C.elegans)ががんを早期に検出する能力を試験するために、乳がん患者の過半数(66.7%)を疾患の初期段階で選択した。
【0075】
女性の尿試料に対する走化性は、ホルモン周期によって影響を受ける
C.エレガンス(C.elegans)が健康なドナーからの尿試料に対して回避を示すことを確認するために、健康な女性からの試料を使用して集団走化性アッセイを最初に行った(
図1、パネル(A))。10人の独立した女性からの試料に対して行われた第1のセットのアッセイは、議論の余地のある結果を示した(
図1F)。驚くべきことに、1ヶ月の期間にわたって異なる日に同じ個体から採取された独立した試料に対して行われた走化性アッセイでも反対のCI値が観察された(
図1、パネル(B))、ここで、採取日は各ドナーに対してランダムに選択された。これらのデータは、線虫の走化性応答の調節において、女性ホルモン周期の主要な役割を示唆した。この仮説を試験するために、6人の健康で受精能力があり、ピルを服用していない女性(そのうち3人は<30歳(第1群)、その他>40歳であった(第2群))から生物学的試料を週に3回採取した。試料採取は、月経周期の終了の2日後に開始し、次の開始時に終了した。動物の走化性応答と卵胞期および排卵周辺期の両方との間に正の相関が観察された(
図1、パネル(C)~(D))。エストラジオール放出のピークは前者の段階を特徴付ける一方、卵胞刺激(FSH)および黄体形成(LH)ホルモンのレベルは、後者の間に速やかに上昇する。同様に、正のCIは、プロゲステロンピークに関連するエストロゲン放出の第2波を特徴とする、黄体中期に測定された。興味深いことに、加齢に伴うホルモン放出の十分に確立された変化と一致して、排卵前ピークの形状は、第2群(高齢女性)と比較して第1群(若年女性)内でより狭かった。
【0076】
これらの所見は、対照尿試料に対するC.エレガンス(C.elegans)の回避行動が月経周期によってどのように強く影響を受けるかを実証している。このようなホルモン依存的行動は以前に報告されておらず、データの解釈を非常に複雑にしている。後続の分析では、偽陽性の結果を回避するために、2つの比較的狭くかつ特定の時間窓の間、すなわち、期間終了の数日後または卵胞期および黄体期の間に生殖可能な女性の試料を採取した。
【表1】
【0077】
C.エレガンス(C.elegans)は、乳がんを有する女性からの尿試料によって誘引されるが、対照試料は回避する
3つのコホートをこの試験に登録した:第1群は、表1に報告されるように、原発性乳がん(bc)と診断された38~92歳の36人の女性を含んだ;第2群は、36人の見かけ上健康で同年齢の女性(hd)によって構成された;第3の小規模コホートは、非定型乳管過形成(at)を有する5人の対象を含んだ。前述の考察に基づいて、受精能力のある女性からの試料を月経期の終了の2日後に採取した。
【0078】
C.エレガンス(C.elegans)の走化性行動に対するがん由来の生物学的試料の用量依存的効果を示す以前のデータと一致させて、本発明者らはいくつかの濃度の尿を試験し、乳がん試料に対する最大の誘引、ならびに対照に対するより大きな回避が、10
-1の希釈でピークに達したことを見出した(
図2F)。集団アッセイは、C.エレガンス(C.elegans)が、乳がんを有する女性から採取された試料に対して有意な選好性を示す一方、対照尿は回避応答を与える化学忌避剤として振る舞うことを示した(
*P<0.001;ANOVA、事後テューキーのHSD)(
図1Eおよび
図2F)。個体を「罹患」(すなわち、感度)または「非罹患」(すなわち、特異度)として分類する試験の能力は、それぞれ78%および95%であった。非定型乳管過形成試料に対して得られたCIはまた、この群の試料サイズがいかなる統計分析も可能にしないものであるけれども、平均して正であった。2人の喫煙者では、1週間の禁煙後にも分析を行ったが、全体的な応答に変化はなく、これは喫煙によって影響を受けないことを示している。これらのデータは、C.エレガンス(C.elegans)の雌雄同体が乳がん尿を検出し、それらを比較的高い特異度および感度で対照試料と識別することができることを示す以前の知見を裏付け、拡張する。
【0079】
AWCニューロンの活性の分析は、がんスクリーニングにおける精度を大きく改善する
走化性は、いくつかの化学感覚ニューロンからの上流シグナルの統合の下流での結果である。走化性アッセイの結果は、例えば、温度、湿度および/または機械的誘惑に由来し得る、任意の性質の干渉刺激の存在によって変化し得る。C.エレガンス(C.elegans)ががん代謝産物を知覚するか否か、およびどの精度で知覚するかを効果的に決定するために、カルシウムイメージングは、他のニューロンによって感知される同時のキューの存在に関係なく、リガンドによって活性化された上流の嗅覚ニューロンの活性を直接記録することを可能にするので、強力なツールであることが判明している。アブレーション、行動アッセイ、カルシウムイメージング、および電子顕微鏡写真によるC.エレガンス(C.elegans)の神経嗅覚回路の解剖図は、AWA、AWB、およびAWCと呼ばれる翼毛を有する嗅覚感覚ニューロンの3つの主要ペアの存在を示す。AWAおよびAWCは揮発性臭気物質に対する誘引を媒介するが、AWBは反発性化合物に対して主に応答する。2つのAWCニューロンは、構造的に類似しているが機能的に異なる:AWC
ONニューロンは、化学受容体コード遺伝子str-2を発現し、それを欠くAWC
OFFは、代わりに代替の化学受容体遺伝子srsx-3を発現する。結果として、AWC
ONニューロンは2-ブタノンおよびアセトンを感知する一方、AWC
OFFニューロンは2-3ペンタンジオンを感知する。この遺伝的および機能的非対称性は、C.エレガンス(C.elegans)の臭気識別において基本的であり、がん感知において極めて重要な役割を果たす可能性がある。AWC嗅覚ニューロンは、臭気除去によって活性化され、誘引剤の持続的存在下で阻害される。臭気物質への30分間の曝露後、適応が起こり、走化性応答が抑止される。別のニューロンの結果は、健康な対象から採取された尿試料に対する回避行動を媒介するための良好な候補である:ASH、嫌悪刺激に関連すると報告されているポリモーダルニューロン。これらのニューロンはすべて、線虫の頭部に位置する(
図2Aの3D再構成を参照)。嗅覚ニューロンは、刺激源に向かうまたは刺激源から離れる動きを開始する運動ニューロンに作用するいくつかの介在ニューロンにシナプス結合する(
図2、パネルB)。
【0080】
異なるタイプの固形腫瘍からの多様な生物学的試料に対して誘引を媒介する際のAWC
ONの主要な役割およびAWAのマイナーなものが近年示されている。どのニューロンが尿試料に対する走化性行動に関与するかをよりよく理解するために、がんおよび対照試料を用いた刺激に対する応答におけるAWA、AWB、AWCおよびASHの活性を記録した。これを行うために、目的のニューロン上にカルシウムインジケータ、具体的にはGCaMP3(環状に並べられた緑色蛍光タンパク質-カルモジュリン-M13ペプチドバージョン3)を発現するトランスジェニックワームを使用した。これらの動物を、野生型N2株との機能的同等性を実証するために、周知の誘引性臭気物質の選択されたパネルに対してチャレンジする(データは示さず)。次いで、強い負の走化性指数(ニューロンが嫌悪刺激を感知する場合)または強い正の走化性指数(ニューロンが誘引剤を感知する場合)のいずれかに関連付けられる化学物質に対する前述のニューロンの応答を試験した。走化性アッセイにおいて複数回陰性と試験された尿試料を、AWBおよびASHニューロンの応答を評価する間、強い反発の基準として使用した。アッセイにおいて複数回陽性と試験された尿試料を、AWCおよびAWAニューロンの誘引の基準として使用した。
図2のパネルCは、4つの候補ニューロンのうちの3つからの典型的な応答を示す。AWCニューロンと比較した場合、その役割が二次的であり、信頼性が低く、冗長であるAWAニューロンを除外した。さらに、AWAニューロンは、AWCと共通の2つの受容体を有するAWCニューロン上のもの(22)と比較すると、より少ない数(9)の化学受容体を発現する:これにより、それは、一連の化学物質に対してより少ない感受性になる。AWBニューロンからの応答は、誘引剤または忌避剤の添加または除去のいずれとも相関しないようであるが(実験中にカルシウム関連の動態を示すが)、ASHニューロンは誘引剤または忌避剤の除去/添加のいずれに対しても応答しない。AWC
ONニューロンは、代わりに、がん尿の添加中に強い過分極を示し、その除去時にステレオタイプな様式で強い脱分極を示すが、健康な対照試料ではサイレントであることが多い。乳がん代謝産物の認識におけるAWCの役割をさらに実証するために、両方のAWCニューロンを遺伝的に除去したPY7502株に対して走化性アッセイを行った。走化性応答は、アッセイプレート上の集団密度によって影響を受けることが公知であるので、AWC除去された動物の臭気選好性を、最も有益ながん尿試料のうちの3つ(すなわち、より高いCIに関連付けられるもの)を使用することによって、集団および単一ワームアッセイの両方で試験する。予想されるように、かつ以前の知見と一致して、得られたデータは、AWC除去された線虫ががん代謝産物を感知する能力が低下していることを示しており(
*P<0.05、マン・ホイットニー検定)、この行動を媒介する際のAWCアンフィドニューロンの必須の役割を示している(
図2、パネルD)。まとめると、これらの結果は、AWC
ONニューロンががんの生物流体に対する誘引を駆動する際に決定的な役割を果たすことを示唆している。しかしながら、このニューロンは誘引に関連付けられるため、線虫によって感知される反発を説明することができない。特定の化学物質を差し引いたときにAWC
ONニューロンの活性化を介して応答するC.エレガンス(C.elegans)の全体的な傾向を測定するために、ニューロン活性化指数(NAI)として示される新しい指数が本発明者らによって定義された:
NAI=2(Nact/Ntot-0.5)(1)
ここで、N
actは、AWC
ONニューロンの活性化に応答する線虫の数であり、N
totは、同じ化学刺激に対して試験された生存線虫の数である。この定義は、指数を強制的に-1~1の範囲にし、走化性指数との直接的な比較を可能にする(詳細については方法を参照)。
【0081】
線虫の感受性が最大化される尿希釈の最適範囲を定義するために、走化性アッセイにおいて高い正および負の指数の両方を誘発する、様々な濃度の試料サブセット(10
-1~10
-5、純粋な試料は、尿pHが線虫の選好性を干渉し得るので、廃棄される)を試験した。除去時の活性化率を最大化する値は10
-2(陽性試料に対して83.33%の活性化率)である。この値では、陽性および対照試料の活性化率の間のコントラストも、考慮された範囲に対して最良のものである(
図2、パネルE)。C.エレガンス(C.elegans)ががん尿試料を対照試料からどのように認識するかを決定するために、対照試料に対する刺激時間の長さの関数としてのAWCのニューロン活性化指数を調べた。AWC活性化率および対照試料に対する対応するNAIの測定を、刺激時間の長さの関数として記録した(
図2G)。NAI値は、より長い時間にわたって提示された刺激が試験された線虫の過半数において誘引的な応答をどのように誘発するかを強調するが、より短い時間窓は、収集されたAWCトレースの大部分からの応答がないことに関連付けられる。これは、AWCニューロンの活性化を誘発する代謝産物が、がん患者からの試料よりもむしろ対照試料中であまり濃縮されていないことを示唆している。カルシウムイメージングのハイスループット実験のために、複数の線虫からのニューロン活性を同時に記録した。(
図3(A~B))のパルスアリーナに基づく設計を用いた全液体環境を有するカスタム設計のマイクロ流体デバイスに線虫をロードした。結果を、乳がんを有する36人の女性および36人の健康な対象に対して取得した。各試料は、最低25匹のワームが臭気物質に曝露された、少なくとも2つの異なるセッションで試験されている。これは、最低50匹の線虫を検討して、各々の患者に対して報告されるNAIが得られることを意味する。
図3のパネル(C~D)は、両方の群の1つの試料に対して得られた典型的なトレースを示す。NAIを計算するために、AWC
ONニューロンにおける有意な活性化事象の体系的特定のための規則も定義された。これを行うために、ビデオから蛍光トレースを抽出し、それらを評価するカスタムスクリプトを用いた。
図4は、例示的な画像の後処理プロセスのパイプラインを示す。さらなる詳細は、方法の関連するセクションに報告されている。
【0082】
図5のパネルAは、各試料に対して得られたNAI(左)およびCI(右)を報告する棒グラフを示す。予想されるように、カルシウムイメージングにより得られたNAIには明らかな傾向がある:がん試料は正のNAIに関連付けられるが、健康な対象は負のNAIを有し、これは第1の群が第2の群とは対照的にAWC
ONニューロンの活性化を誘発し、これがニューロンにおいて化学的応答を同じ頻度で誘因しないことを意味する。さらに、測定されたNAIは、走化性アッセイで得られた結果、およびAWC
ONニューロンが化学的誘引を媒介し、正のCIに寄与するという仮定と一致する。両方の指数を考慮したPCA分析(パネルB)は、総分散の90.97%を説明する第1の成分を示す。さらに、NAIは、第1の成分の97.31%超に寄与し、識別器としてのその有意性を強調している。CI、NAIおよびPC1(パネルC、それぞれ上から下へ)の分布を見ると、2つの指数(PC1として)の線形結合の使用は、NAIの指数の0を中心とする値のみの除去に寄与する。これはおそらく、NAIがCIの忌避された線虫を説明する対応するN
-項を欠いているという事実に起因する。これは、誘引の検出をより敏感にする一方で、応答の欠如および反発の間を区別することができない。NAIを反発も考慮に入れた量と線形結合することにより、NAI分布に現れる0を中心とする値を、0に近いが正の値に移動させることができる。カルシウムイメージング実験に関連する精度(97.18%)は、走化性によって得られたもの(85.92%)よりも有意に高い。精度は、検査された症例の総数の中の真陽性および真陰性の割合として定義される。ROC曲線も同様に、NAI指数がCIよりも試料の2つの群間(パネルD)を識別するために、どれだけより良い記述子であるかを示している。さらに、NAI指数は、がん群の尿試料を健康なものと識別する際に、より高い精度を伴う。AWC
ONニューロンに対してのみ評価されるNAIの精度が走化性指数に関連付けられるものよりも高いという事実は、このニューロンが尿試料に対して誘引を媒介するのに主な役割を果たすという仮説を支持する。これが真であるためには、誘引を誘発する尿試料は、AWC上の受容体と相互作用することを可能にする濃度で化学物質を含有しなければならない。これは、その受容体ががん関連代謝産物の結合基質としての良好な候補であることを意味し、相互作用する代謝産物およびそれらの相対的存在量に対して物理化学的制約をもたらす。一方、AWC
ONニューロンに関連する高い精度はまた、健康な試料および陽性のものの間を識別するために化学的回避が必要でないことを証明している。しかしながら、C.エレガンス(C.elegans)は、単にそれらに対する誘引を示さないのではなく、陰性試料から遠ざかる。これは、測定された走化性指数に寄与し、相補的な様式で作用する、同時に起こる機構(まだ特定されていない)が存在することを示唆している。
【0083】
がん試料に対する誘引に関与するC.エレガンス(C.elegans)GPCRの同定。
AWAおよびAWCニューロンペアが揮発性臭気物質に対して正の走化性応答を媒介することは十分に確立されており、がん尿に対する優勢な応答は正の走化性であるので、本発明者らは、少なくとも1つのがん代謝産物の受容体がAWAおよび/またはAWCニューロンで発現されると仮定した。この仮説を試験し、がん尿代謝産物の感知に関与する推定GPCRを同定するために、Caenorhabditis Genetics Centerから入手可能なAWC/AWA-GPCR変異体の小規模パイロットスクリーニングを走化性アッセイによって行った(表2)。変異株を2つのがん尿試料に曝露した。両方の試料に対して野生型動物のCIと比較して有意に減少したCIを示すものは、推定上のがん感知GPCRと考えられるべきである。AWCニューロンで発現される個々のGPCRを欠失した変異株を観察した。5つの変異株を試験した。それらのうちの3つ、sra-13(zh13)、str-2(ok3148)およびstr-130(gk948599)は、N2と比較して有意に低いCIをもたらし、乳がん尿試料に対する応答におけるこれらの受容体の関与を示唆した(
図6)。これらの遺伝子の中で、str-2およびstr-130はAWCニューロンで排他的に発現される一方、sra-13はAWAおよびAWCニューロンの両方で発現される(表2)。変異株srsx-5(gk960578)およびstr-199(gk949542)は、野生型のものと同様のCIをもたらしたので、乳がん代謝産物の受容体の可能性として考慮されなかった(
図6)。元の変異誘発スクリーニング中に挿入されたオフターゲット変異の存在の可能性を排除するために、これらの2つの変異株も対照試料を用いて試験した。得られたデータは、これらのKOワームが対照動物として振る舞うことを実証し、SRSX-5およびSTR-199がBC臭気物質の感知に関与しないことを確認した(
図5E)。srt-26(gk947940)およびsri-14(ok2865)の2つの株は、前者については、WormBase release WS273に記載されているように、欠失領域が偽遺伝子を包含し、後者は、スラッシングアッセイ(詳細はセクションを参照)で運動障害を呈し、正常な運動性が行われる必要がある走化性アッセイの適切な遂行を妨げるため、試験することができなかった。元の変異誘発スクリーニング中に生じたオフターゲット効果を排除することはできないが、この知見は、運動を制御するニューロンにおけるsri-14遺伝子の予想外の発現を強調し得ることに注目する価値がある。第2の例では、尿試料に対する応答におけるAWAニューロンのより低い性能にもかかわらず、sra-13(zh13)変異体で観察された結果は、そのようなニューロンの推定上の寄与を示唆しており、したがって、AWA-GPCR欠失変異体のさらなる分析を含めた。本発明者らは、2つの市販の株、すなわちsra-17ve511[LoxP+myo-2::GFP+NeoR+LoxP)]およびodr-10(ky225)を試験した。興味深いことに、両方の株は、N2と比較してがんの尿に対して有意に減少したCIを示した(
図6)。この結果は、AWAニューロンのカルシウム応答がそれほど強力ではないにもかかわらず、そのようなニューロン上の受容体が乳がん代謝産物の認識において役割を有する可能性があり、C.エレガンス(C.elegans)の嗅覚系の根底にある複雑さを裏付けていることを示唆している。本明細書で分析された受容体をコードする遺伝子に関する主な情報を表2に要約する。
【表2】
【0084】
考察
がん特異的な臭気シグネチャを有する生物流体である尿に対して応答することによって、乳がんと診断された対象および健康な対照の間を効率的に識別するC.エレガンス(C.elegans)の能力が本明細書で報告されている。C.エレガンス(C.elegans)が尿中でがんの匂いを検出することを示す最も強い証拠は、走化性アッセイおよびカルシウムイメージング分析で観察される線虫の二成分行動にある。実際、本発明者らは、がん対象からの尿が誘引を誘導する一方で、回避が対照試料に対して観察されたことを離散精度(~97.18%)で測定した。本明細書のデータは、線虫の応答が女性ホルモン周期に依存することを示しており、以前に報告されていない現象である。これらの知見によれば、診断の状況という文脈において、偽陽性の結果を回避するために、受精能力のある女性からの尿試料の採取のための2つの好ましい特定の時間窓、すなわち、期間の終了の数日後または卵胞期および黄体期の間の時間窓が本明細書で特定された。遺伝的分析により、この行動に関与する感覚ニューロン、ならびにがん代謝産物の結合に関与する個々のGPCRを同定することが可能になった。AWCニューロンを欠く変異株(AWC破壊株)を用いた走化性アッセイは、がん尿試料に対する誘引におけるAWC嗅覚ニューロンの関与を暗示した。ceh-36の変異は第2の化学感覚ニューロンであるASEに影響を及ぼすが、ASEは水溶性代謝産物に対する味覚応答に関与するため、がん尿の感知におけるその寄与を確認できなかった。この種類の分子に対する応答を測定するために、異なる走化性アッセイプロトコルが必要とされる。実験を1時間の期間にわたって行ったが、これは、水溶性分子がプレート上に拡散し、ワームによって検出されるのに十分な時間ではない。1時間の長さの走化性アッセイは、揮発性成分が拡散し、感知されるのに十分である。これらの状況下で、本発明者らは、がん尿の感知におけるASEニューロンの役割を定義することができなかった。それにもかかわらず、ceh-36変異体は、がん尿および対照試料の間を識別するいくらかの能力を保持し、AWCががんの匂いを検出する唯一のニューロンではないことを示唆した。可能な寄与は、揮発性分子に対する誘引にも関与する別の嗅覚ニューロンAWAに由来する可能性がある。しかしながら、カルシウムイメージング分析は、尿試料に対する応答において、AWCに対してこのニューロンの低いロバスト性および正確性が低い活性を示した。この応答の分子的基礎をさらに調査するために、臭気感知に関与するGタンパク質共役受容体の役割を調べた。C.エレガンス(C.elegans)の感覚ニューロンは、1つのニューロンが1種類の受容体のみを発現する哺乳動物ニューロンとは対照的に、いくつかのGタンパク質共役受容体を発現する。AWCニューロンは、未知の機能を有する20を超える異なる種類のGタンパク質共役受容体を発現する。AWC特異的GPCRノックアウト変異体を使用する走化性アッセイは、これらのGPCRのうちの3つ、すなわちstr-2、str-130およびsra-13の関与を示し、がん関連分子の認識におけるこれらの受容体の役割を示唆した。AWAニューロンは、AWCで発現される嗅覚受容体のおよそ半分の量を発現する。これにより、結合候補分子の数が少なくなり、ニューロンが尿に対して応答する確率が低くなり得る。しかしながら、どちらもAWAで発現されるodr-10およびsra-17の欠失を有するワームは、がん尿に対する誘引に欠陥があり、AWA嗅覚ニューロンもがんの匂いの誘引に関与していることを暗示している。注目すべきことに、がん代謝産物に対する走化性の根底にある分子機構は、複数の分子によって発揮される可能性のある相乗効果のために、より複雑であると予測される。さらに、分析は、ノックアウト変異体がCaenorhabditis Genetics Center(CGC)で既に入手可能なGPCRに限定した。さらなる受容体の寄与を調査するために、今後の研究は、CRISPR-Cas9ゲノム編集を介してAWCおよび/またはAWA感覚ニューロンで発現されるGPCRをコードする遺伝子の新規ヌル変異体を生成することが対象となるであろう。尿回避行動の制御はまた、Gタンパク質シグナル伝達経路を必要とするはずである。しかしながら、揮発性分子に対する反発を媒介する主要なニューロンである、ASHおよびAWBニューロンは、対照の尿からの回避を誘導するようには見えない。実際、動物を対照試料に曝露した場合、それらのニューロン動態は信頼できない。対照試料からの回避応答は、いくつかの感覚ニューロンを含む複雑なニューロン相互作用の結果であり得、GPCRの可能性のある共発現およびヘテロ二量体化に関連する高度なシグナル伝達装置であり得、がん誘引行動に関してより状況依存的であり得る。化学受容体発現における生化学的複雑さは、C.エレガンス(C.elegans)神経系の神経解剖学的単純さおよびその低い可塑性を釣り合わせる進化的適応機構であり得る。結果として、この複雑さは、単一の嗅覚ニューロンの役割に取り組み、対応するニューロンの全体的な機能における受容体コンプレックスおよびそれらの機構を完全に同定することをより困難にする。それにもかかわらず、AWCニューロンの目覚ましい精度(~97.18%)は、がん尿ブレンドが、これらのニューロン上の嗅覚受容体に強く結合する特有の相対的存在量で存在するいくつかの成分/代謝産物を含むことを示唆している。結論として、本明細書に開示される結果は、C.エレガンス(C.elegans)が、乳がんを有する女性から採取された尿試料中のがん関連代謝産物を感知することができることを確認する。この能力はホルモン周期に強く依存し、本発明者らはスクリーニング有効性の時間窓を特定する。応答は腫瘍の病期と相関しているようには見えない:早期段階でも検出精度は高い。本発明者らは、嗅覚ニューロンに対するカルシウムイメージングが、時間がかからないことを除けば、走化性アッセイ(85.9%)に関してより信頼性の高い結果(97.18%の精度)をもたらすことを実証する。本発明者らは、カルシウムイメージングを通して、C.エレガンス(C.elegans)のがん識別行動の主な要因はAWCON化学感覚ニューロンであることを立証し、遺伝的スクリーニングによって関連GPCR受容体のセットを見出した。プロセスにおける複数のGPCRの関与は、複数の代謝産物がC.エレガンス(C.elegans)によって感知されることを示唆している。まとめると、本発明者らの結果は、尿試料中に存在するがんの代謝トレースを調べるために、C.エレガンス(C.elegans)化学感覚回路の驚くべき精度を利用した原理証明研究を提示する。このような研究は、生物流体の単純な採取に基づいて、高い信頼性で、
乳がんの迅速かつ費用効果の高い診断スクリーニング試験を設計するのに役立ち得る。
【0085】
方法
研究設計および試料採取
この研究は、Santa Lucia Foundation Ethics Boardによって承認された。試験登録前に、全参加者から書面でインフォームドコンセントを得た。中間尿試料を、ローマのM.G.Vannini病院での外科手術前に原発性乳がんと診断された対象(n=36)から採取した。すべての症例が組織学的所見と相関していた。対照(n=36)は、悪性腫瘍の申告歴のない健康な同年齢のボランティアであった。避妊薬を服用しているか、または制御されていない細菌、ウイルス、もしくは真菌感染症を有する女性と同様に、妊娠中の女性を試験登録から除外した。到着後、すべての尿試料を15分間4℃で遠心分離し、単回使用試料として0.2mlチューブに分注し、測定および分析まで-80℃で保存した。実験の当日に、尿試料をカルシウムイメージング用のS-Basalまたは走化性アッセイ用の水のいずれかに希釈した。1:100希釈物をカルシウムイメージング測定に使用する一方、1:10希釈物を臭気スクリーニング走化性アッセイに利用した。すべての希釈物を濾過した後、動物に提示した。
【0086】
ワーム培養および株
大腸菌(Escherichia coli)OP50を食物源として播種した線虫増殖培地(NGM)プレート上で、カエノラブディティスエレガンス(Caenorhabditis elegans)株を20℃で培養した(Brenner、1974)。この研究のために使用した野生型動物は、VC2123:sri-14(ok2865)、CX3410:odr-10(ky225)、AH159:sra-13(zh13)、RG3011:sra-17(ve511[LoxP+myo-2::GFP+NeoR+LoxP)]II、VC20435:srt-26(gk947940)、VC30151:srsx-5(gk960578)、VC10129:str-199(gk949542)、VC40389:str-130(gk948599)、RB2316:str-2(ok3148)を含むいくつかの欠失変異株と共にCaenorhabditis Genetics Center University of Minnesota、Minneapolis、MN、USAから入手したBristol N2株であった。AWCONニューロンにGCaMPを有する株は、PS6374:AWCON-GCaMP syEx1240[str-2::GCaMP3+pha-1];pha-1(e2123ts);him-5(e1490)であり、Dr Alon Zaslaver(The Hebrew University of Jerusalem、Jerusalem、Israelのご厚意により提供された。AWC破壊株:PY7502、oyIs85[ceh-36p::TU813
+ceh-36p::TU814+srtx-1p::GFP+unc-122p::DsRed])は、Dr Arantza Barrios(The University College London、London)のご厚意により提供された。
【0087】
行動アッセイ
走化性アッセイのために、10匹の成体雌雄同体を、OP50 大腸菌(E.coli)細菌を播種した新鮮なNGMプレート上にピックした。ワームを5時間放置して卵を産ませ、次いでプレートから取り出した。卵を20℃でインキュベートし、4日後に成体を試験のために使用した。走化性アッセイを、わずかな修正を加えて、以前に記載されたように(Bargmannら、1993)行った。簡潔には、11mlの改変NGM(2%寒天、5mM KPO4[pH6]、1mM CaCl2、1mM MgSO4)を含有する10cmペトリ皿を使用してアッセイプレートを調製した。成体ワームをS-basalで2回、蒸留水中で1回洗浄し、アッセイを開始する直前におよそ50~100匹のワームをプレートの中央に置いた。プレートを対照および臭気物質領域と称される4つの四分円に分割した(
図1A)。対照領域は1μlの中性緩衝液を含有した一方、
臭気物質領域は、milliQ水に1:10で希釈した1μlの対照またはがんの尿試料のいずれかを含んだ。ワームが領域に到達したら固定化するために、1マイクロリットルの1M NaN3を各スポットに適用した。60分後、動物を計数し、走化性指数(CI)を以下のように計算した:(臭気物質領域の動物の数)-(対照領域の動物の数)/試験した動物の総数。アッセイ再現性を確実にするために、別々の走化性プレート上、3連で走化性アッセイを行った。
【0088】
単一ワームの走化性アッセイ
単一動物の走化性アッセイを、いくつかの修正を加えて以前に記載されたように行った。アッセイプレートを、4mlの改変NGM(2%寒天、5mM KPO4[pH6]、1mM CaCl2、1mM MgSO4)を含有する5cmペトリ皿を使用して調製した。ワームのトレースを視覚化するために、寒天表面を2時間乾燥させた直後、換気フード内でプレートの蓋を開くことによって動物を置いた。動物を細菌を含まないNGMプレート上にアッセイ前の1時間にわたって置いた後、尿試料の供給源から2cm離れたアッセイプレートの中央に置いた。1つの寒天プラグをプレートの蓋上に置き、1μlの希釈した試料を、ワームの直後にプラグに添加した。20分後、ワームが残した軌跡を可視化し、走化性スコアを、動物が移動したセクターのスコアの合計として計算した。
【0089】
スラッシングアッセイ
運動行動を、野生型ワーム(N2、Bristol)およびsri-14
(ok2865)変異動物に対して行ったスラッシングアッセイによって評価した。アッセイは、1mlのM9緩衝液(6g/l Na2HPO4、3g/l KH2PO4、5g/l NaCl、0.12g/l MgSO4)で充填した35mmのOP50不含プレート上、20℃で行った。同期させた若齢成体を含むプレートから、1匹ずつ動物を食物を含まないNGM寒天プレートに2分間移して細菌を除去し、次いで、順化の1分後にアッセイした。スラッシュを20秒間計数し、3倍して1分当たりの推定値を得た。1回のスラッシュを
ミッドボディにおける曲げ方向の完全な変化として定義した。遺伝子型ごとに少なくとも10匹の動物をアッセイした。
【0090】
ニューロンイメージングのためのマイクロ流体デバイス設計。
カルシウムイメージング実験のために、設計時にいくつかの変形が導入されたパルスアリーナに基づく幾何学的形状を有するマイクロ流体デバイスを使用することによって臭気パルスを送達した:線虫のローディングを容易にするためのローディングチャネルの平滑化、非常に遅い流れの場合にもチップの流出側での線虫のパイルアップを回避するために、ピラーの層および流入/流出チャネルの間の自由空間の除去、CMOSカメラの倍率4倍で3.25×3.25mm2の視野内でおよそ20匹の動物からのニューロン蛍光シグナルを一度に記録できるようにするためのアリーナの全体寸法の小型化。XY顕微鏡ステージ上に置かれたチップは、チップの入口で液体を直接駆動するタイゴンチューブを介して2つの加圧ボトルに連結される。ボトルは、100mBarの圧力で固定されたガス調整可能レギュレータで制御されたガスラインによって供給される。圧力値は、アリーナにおける速い臭気の切り替え(2秒未満)および線虫に対する望ましくない強い機械的摂動の回避の間の正しい妥協点を確保するために検証される。臭気および緩衝液の間の流れの切り替えは、ソフトウェアによって直接制御される電動バルブによってゆっくりと(約2秒)作動し、従来のソレノイドバルブの急速な詰まりによって通常発生する、チューブ内を伝播する危険な衝撃波の発生を防止する。電動バルブに送信される電気コマンドは、チューブに過度の応力を加えることなく、それらをゆっくりと閉じることを可能にするPWMシグナルである。
【0091】
マイクロ流体デバイスの製造
マイクロ流体デバイスは、ソフトリソグラフィープロセス(Citazione witheside)を使用することによって調製される。SU-8(MicroChem 3000シリーズ)構造は、厚さ50ミクロンの単層マイクロ流体ネットワークを得るために、従来のフォトリソグラフィーによってガラス基板上に製造される。高解像度フォトマスクは、10000dpiより高い解像度を確保するために、レーザライタを用いてマイクロ流体ネットワーク上に直接印刷されている。次いで、1:10 PDMS(ポリジメチルシロキサンSilgard184)鋳型レプリカをキャスティングプロセス後に硬化させ、入口/出口用の穴を0.6mmパンチャーで作製し、続いて外部のタイゴン(Tygon)チューブと接続する。PDMS層は、空気プラズマ処理(HARRIK PLASMA)およびホットプレートによる熱回収を使用することによって顕微鏡ガラススライド上に結合される。本発明者らは、最初にCADソフトウェアを用いてマイクロ流体ネットワークを設計し、次いで高解像度ガラスフォトマスクのレーザー描画を生成する。
【0092】
カルシウムイメージングの実験設定
カスタム設計の倒立顕微鏡を使用して、カルシウムイメージングの記録を行った。高NA(4×/0.28N.A.)を有する低倍率対物レンズおよび大きなセンサ面積(13×13mm2)を有する高感度低ノイズCMOSカメラは、およそ3.25×3.25mm2の視野内でおよそ15~20匹の線虫からの蛍光シグナルを一度に収集することを可能にする。励起光は、ダイクロイックミラー(MD498、Thorlabs)を使用して、FITC励起フィルタ(MF475-35、CWL=475nm、BW=35nm、Thorlabs)およびコンデンサ(ACL2520U-A、Thorlabs)を備えた高出力LED(470nm-M470L2、Thorlabs、Newton、New Jersey)から試料上で反射された。0.28の開口数を有する20倍対物レンズ(XLFLUOR4X/340、Olympus、Tokyo、Japan)を使用して、通過帯域FITC/TRICフィルタ(59004x、Chroma、Bellows Falls、Vermont)を備えるダイクロイックミラーを介したデジタルCMOSカメラ(ORCA-Flash4.0 C11440、Hamamatsu、Hamamatsu City、Japan)によってシグナルを収集した。記録を開始する前に、伝送チャネル(高出力LED、M660L4、Thorlabsによる660nmでの照明)は、電動ステージ(MLS203-1、Thorlabs)を介してアリーナの可視化された領域を選択することを可能にした。光毒性を低減し、光退色を防止するために、励起LEDおよびカメラシャッタを同期させて、露光時間(100ms)の間のみアリーナが照明されるようにした。取得中、緩衝液は最初の10秒間および最後の30秒間流れ、尿試料はこれらの時間窓の間に20秒間流れる。LED、電気弁およびカメラを、National Instruments社のコントローラー(PCI-6221、National Instruments、Austin、Texas)を介してPC(Windows 10、64ビット、Microsoft、Redmond、Washington)に接続した。MATLAB(登録商標)(Mathworks、Natick、Massachusetts)の特注ソフトウェアを、同期照明、画像取得、流体送達制御およびデータ記録のために使用した。
【0093】
Ca
2+イメージングデータ分析
カルシウムイメージングデータ分析のすべての工程は、カスタムMATLAB(登録商標)スクリプトを介して行われる。取得された画像は、取得の前後に均等に記録された20個のバックグラウンドフレームにわたって平均化された平均バックグラウンドを差し引くことによって、およびノイズ低減のための平均化フィルタを適用することによって前処理される。特注のGUIは、化学刺激の除去の2秒後に取得されたフレームにおいて生存している線虫頭部を含むROIをユーザが選択することを可能にし、視覚的に活性なニューロンを有する確率がより高い。周囲の化学物質へのアクセスが制限されているように見える線虫は破棄される。各ROIにおいて、ユーザは、AWCニューロンの位置を選択する必要がある。この情報に基づいて、スクリプトは、事前に処理されたフレームで割り当てられたニューロン位置から30ピクセル以下離れていてもよい5×5ピクセル領域にわたって平均化された最大強度を探すことによって、ビデオ全体のニューロン位置を両方の時間方向に追跡する。フレームiで得られたシグナル強度I
iは、I
i=ΔF
i/F
0として計算され、ここで、ΔF
i=F
i-F
0である。F
iは、ニューロンを表すセグメント化されたオブジェクトの平均強度である。F
0は、ニューロンが静止している、刺激のない時間窓である、i=1、2、...10についてのF
iの平均として評価される蛍光のベースライン値である。ニューロンがフレームiからその次のフレーム(i+1)でROIにおける位置が変化する場合、2つのフレームのROI間の強度差ID
i,i+1の要素ごとの和は、静止映像と比較した場合にはるかに大きく変動し得る。したがって、生きたトレースは、前述の差が以下の条件:ID
i,i+1<
【数1】
を満たすものとして特定され、ここで
【数2】
およびσ
IDiは、i-20からi+20までの範囲で利用可能なフレームのすべてのIDにわたって計算された、それぞれ平均値および標準偏差である。これにより、評価がアーチファクトによって影響を受ける可能性がある移動ニューロンのシグナルを除外することができる。検出されたすべての生きたシグナルは、ユーザによって視覚的に検証される。
【0094】
Ca2+データの定量化
カルシウムイメージングトレースから化学刺激の除去時のAWCONニューロンの活性化率を定量化するために、本発明者らはニューロン活性化指数(NAI)を、NAI=2(Nact/Ntot-0.5)として定義し、ここで、Nactは、AWCONニューロンの活性化に応答する線虫の数であり、Ntotは、同じ化学刺激に対して試験された生存線虫の数である。1/2の減算は、0を中心とした対称性を強いるが、プレファクタ2は、|NAI|≦1を与え、量を範囲[-1,1]内に投影する。その定義から、NAI>0の場合、試験した線虫の過半数はAWCON活性化を経験したが、そのうちの少数では負の値が活性化に関連付けられることになる。AWCONニューロンにおける有意な活性化事象の系統的同定のために、カスタムMATLAB(登録商標)スクリプトは、各ニューロンに対してカルシウムイメージングシグナル強度Iを評価する。刺激後の10秒の長さの時間窓における平均シグナル強度Ioff、および刺激オン中の10秒の長さの時間窓における平均シグナル強度Ionの間の差が、刺激オン中の時間窓におけるシグナルの標準偏差σonよりも3倍大きい場合、応答は活性化に関連付けられる。そうでなければ、それは、
応答の欠如と関連付けられる。次いで、すべての関連付けが視覚的に検証される。