(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-29
(45)【発行日】2025-02-06
(54)【発明の名称】神経系退行性疾患診断用マーカーおよび治療用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/7088 20060101AFI20250130BHJP
A61K 38/02 20060101ALI20250130BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20250130BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20250130BHJP
A61P 25/02 20060101ALI20250130BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20250130BHJP
C12N 9/10 20060101ALI20250130BHJP
C12N 15/54 20060101ALI20250130BHJP
C12N 5/0793 20100101ALN20250130BHJP
C12N 5/10 20060101ALN20250130BHJP
【FI】
A61K31/7088 ZNA
A61K38/02
A61K48/00
A61P21/00
A61P25/02
A61P43/00 105
C12N9/10
C12N15/54
C12N5/0793
C12N5/10
(21)【出願番号】P 2023061939
(22)【出願日】2023-04-06
(62)【分割の表示】P 2021525188の分割
【原出願日】2018-11-13
【審査請求日】2023-04-17
(31)【優先権主張番号】10-2018-0137289
(32)【優先日】2018-11-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2018-0137404
(32)【優先日】2018-11-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】515059120
【氏名又は名称】スンチョニャン ユニヴァーシティ インダストリー アカデミー コーペレーション ファウンデーション
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】キム, ギ ヨン
(72)【発明者】
【氏名】チャ, ソン ジュ
【審査官】新留 素子
(56)【参考文献】
【文献】Oxidative Medicine and Cellular Longevity,2017年,Vol.2017,Article ID 5049532
【文献】Homo sapiens glutathione transferase omega (GSTO1) mRNA complete cds,Database: GenBank,[online],2000年08月07日,Accession number: AF212303.1,[retrieved on 2024.06.24], Retrieved from the Internet: <URL: https://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/AF212303>
【文献】Drosophila melanogaster glutathione S transferase O2 transcript variant A (GstO2),Database: NCBI Reference Sequence,[online],2018年05月31日,Accession number: NM_168277.2,[retrieved on 2024.06.24], Retrieved from the Internet: <URL: https://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/442631056?sat=46&satkey=145604130>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61P
C12N 15/54
C12N 9/10
C12N 5/10
C12N 5/0793
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
GSTO1(omega class glutathione transferase 1)またはGstO2(omega class glutathione transferase 2)遺伝子または前記遺伝子が暗号化するタンパク質を有効成分として含む、
筋萎縮性側索硬化症の予防または治療用薬学的組成物
であって、
前記GSTO1遺伝子は、配列番号2で表される塩基配列または配列番号2で表される塩基配列と90%以上の配列相同性を有する塩基配列からなり、
前記GstO2遺伝子は、配列番号4で表される塩基配列または配列番号4で表される塩基配列と90%以上の配列相同性を有する塩基配列からなる、治療用薬学的組成物。
【請求項2】
前記GSTO1遺伝子は、配列番号2で表される塩基配列からなることを特徴とする、請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項3】
前記GSTO1タンパク質は、配列番号3で表されるアミノ酸配列からなることを特徴とする、請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項4】
前記GstO2遺伝子は、配列番号4で表される塩基配列からなることを特徴とする、請求項1~3のいずれかに記載の薬学的組成物。
【請求項5】
前記GstO2タンパク質は、配列番号5で表されるアミノ酸配列からなることを特徴とする、請求項1~3のいずれかに記載の薬学的組成物。
【請求項6】
前記組成物は、FUSタンパク質のグルタチオニル化を抑制させることを特徴とする、請求項1~
5のいずれかに記載の薬学的組成物。
【請求項7】
前記FUSタンパク質のグルタチオニル化は、前記FUSのCys-447残基でグルタチオニル化したものであることを特徴とする、請求項
6に記載の薬学的組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、神経系退行性疾患診断用マーカーおよびその用途に関し、より具体的には、グルタチオニル化したFUSタンパク質を含む神経系退行性疾患診断用マーカー組成物、FUSタンパク質のグルタチオニル化水準を測定する製剤を含む神経系退行性疾患診断用組成物、該組成物を含む神経系退行性疾患診断用キットおよびこれを利用した神経系退行性疾患を診断するための情報提供方法に関する。
【0002】
また、本発明は、GstO2を含む神経系退行性疾患治療用組成物に関し、より具体的に、FUSタンパク質の脱グルタチオニル化を誘導するGstO2を有効成分として含む神経系退行性疾患予防または治療用組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
筋萎縮性側索硬化症(Amyotrophic lateral sclerosis,ALS)は、運動神経細胞の漸進的な退行を特徴とする致命的な成人発病性神経系退行性疾患である。筋萎縮性側索硬化症は、漸進的筋力弱化を招いて、結局、致命的な筋肉萎縮およびマヒにつながり、病気の発病後3年内~5年内に死亡する。筋萎縮性側索硬化症は、病因不明の散発性筋萎縮性側索硬化症と、superoxide dismutase1(SOD1)、transactive response DNA-binding protein-43(TDP-43)、Fused in sarcoma(FUS)またはTATAボックス結合タンパク質関連因子15(TATA-binding protein-associated factor15,TAF15)など病理学と直接的に関連したタンパク質の遺伝的欠陥による家族性筋萎縮性側索硬化症とに分類することができる。突然変異形態のTDP-43は、ニューロンで毒性を有し、前記タンパク質の細胞質で誤った局在化(mislocalization)は、筋萎縮性側索硬化症の発病と関連があることが明らかにされた。
【0004】
また、タンパク質凝集体は、年齢に関連した神経退行性疾患(neurodegenerative diseases,ND)、例えば、パーキンソン病(Parkinsons disease,PD)、アルツハイマー病(Alzheimers disease,AD)、ハンチントン病(Huntingtons disease,HD)および筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis,ALS、別名ルー・ゲーリック病)で特徴的に発見される。
【0005】
FUS(Fused in Sarcoma)は、RNAおよびDNA結合タンパク質であって、FUSタンパク質のN-末端は、転写活性と関連があり、C-末端は、タンパク質およびRNA結合に関与することが知られている。FUSタンパク質は、転写因子(transcription factor)であるAP2、GCF、Sp1に対する認識部位を含み、最近の研究で筋萎縮性側索硬化症患者や前頭側頭型認知症患者において多様な形態の突然変異FUSタンパク質が確認されたことがある。このような突然変異FUSタンパク質は、核内の本来位置から外れて核の外に出た後、ストレス顆粒(stress granule)に位置して凝集体を成すことが明らかにされた。
【0006】
なお、筋萎縮性側索硬化症患者の大部分からFUS突然変異が確認されており(非特許文献1)、FUSP525L突然変異は、細胞質で誤った局在化を示し、急性FUS誘発の筋萎縮性側索硬化症と関連があり(非特許文献2)、FUS野生型およびこれの変種であるFUSP525Lは、ショウジョウバエで荒い眼、運動性減少などの同じ表現型を示すことが知られている(非特許文献3;非特許文献4)。
【0007】
筋萎縮性側索硬化症は、磁気共鳴映像(MRI)や血液検査で診断が不可能で、患者の症状に基づく身体検査および経験の多い医療スタッフによる身体検査を通じて診断が可能である。MARCH5およびMFN2遺伝子の発現量またはタンパク質の活性を測定して筋萎縮性側索硬化症を診断する方法に関する研究は試みられたが(特許文献1)、未だFUSタンパク質およびFUSタンパク質の凝集体と関連した筋萎縮性側索硬化症診断用マーカーや診断用組成物に対する研究は不十分であるのが現状である。
【0008】
また、筋萎縮性側索硬化症患者や前頭側頭型認知症患者において発見されるこれらFUS突然変異タンパク質の異常な位置と凝集体蓄積に関連したメカニズム研究は、ほとんど知られておらず、これに基づく治療法も皆無である。上記のようにFUS凝集体形成およびこれの作用機序を確認して治療薬物を開発するために多様な研究が試みられたが(特許文献2)、未だ不十分であるのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】韓国登録特許第10-1674920号公報
【文献】韓国登録特許第10-1576602号公報
【非特許文献】
【0010】
【文献】Mackenzie et al.,2010
【文献】Sun et al.,2011
【文献】Chen et al.,2016
【文献】Jackel et al.,2015
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
これにより、本発明者らは、神経系退行性疾患診断用新規マーカーを探索していたところ、主に核内に位置すべきFUSタンパク質が細胞質でグルタチオニル化したFUSタンパク質凝集体の形態で位置することを知見し、グルタチオニル化したFUSタンパク質が神経系退行性疾患を診断できる新規マーカーになり得ることを確認して、本発明を完成した。
【0012】
また、本発明は、上記の問題点を解決するために案出されたものであって、本発明者らは、多様な研究を進めた結果、筋萎縮性側索硬化症誘発タンパク質と知られたFUSタンパク質のグルタチオニル化(glutathionylation)によるタンパク質凝集体の形成およびこれの脳神経細胞の細胞質沈着が筋萎縮性側索硬化症の発病原因であることを確認し、GSTO(omega class glutathione transferase)のFUSタンパク質のグルタチオニル化抑制活性を確認したところ、これに基づいて本発明を完成した。
【0013】
本発明は、グルタチオニル化したFUSタンパク質を含む、神経系退行性疾患診断用マーカー組成物を提供することを目的とする。
【0014】
また、本発明は、FUSタンパク質のグルタチオニル化水準を測定する製剤を含む、神経系退行性疾患診断用組成物および前記組成物を含む神経系退行性疾患診断用キットを提供することを目的とする。
【0015】
また、本発明は、被検者由来の生物学的試料でFUSタンパク質のグルタチオニル化水準を測定して正常ヒトと比較する段階を含む、神経系退行性疾患診断のための情報提供方法を提供することを他の目的とする。
【0016】
また、本発明のさらに他の目的は、GSTO1(omega class glutathione transferase 1)またはGstO2(omega class glutathione transferase 2)遺伝子または前記遺伝子が暗号化するタンパク質を有効成分として含む、神経系退行性疾患の予防または治療用薬学的組成物を提供することにある。
【0017】
しかしながら、本発明が達成しようとする技術的課題は、以上で言及した課題に制限されず、言及されていないさらに他の課題は、下記の記載から当業者に明確に理解され得る。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記のような目的を達成するために、本発明は、
グルタチオニル化したFUSタンパク質を含む、神経系退行性疾患診断用マーカー組成物を提供する。
【0019】
本発明の一具現例において、前記神経系退行性疾患は、筋萎縮性側索硬化症(Amyotrophic lateral sclerosis)でありうる。
【0020】
本発明の他の具現例において、前記FUSタンパク質は、Cys-447残基にグルタチオニル化したものでありうる。
【0021】
また、本発明は、FUSタンパク質のグルタチオニル化水準を測定する製剤を含む、神経系退行性疾患診断用組成物を提供する。
【0022】
本発明の一具現例において、前記FUSタンパク質は、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなり得る。
【0023】
本発明の一具現例において、前記神経系退行性疾患は、筋萎縮性側索硬化症でありうる。
【0024】
また、本発明は、前記組成物を含む、神経系退行性疾患診断用キットを提供する。
【0025】
また、本発明は、a)被検者由来の生物学的試料からFUSタンパク質のグルタチオニル化水準を測定する段階;およびb)前記水準を正常対照群試料の当該タンパク質のグルタチオニル化水準と比較する段階;を含む、神経系退行性疾患診断のための情報提供方法を提供する。
【0026】
また、本発明は、GSTO1(omega class glutathione transferase 1)またはGstO2(omega class glutathione transferase 2)遺伝子または前記遺伝子が暗号化するタンパク質を有効成分として含む、神経系退行性疾患の予防または治療用薬学的組成物を提供する。
【0027】
本発明の一具現例において、前記GSTO1遺伝子は、配列番号1で表される塩基配列からなり得る。
【0028】
本発明の他の具現例において、前記GSTO1タンパク質は、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなり得る。
【0029】
本発明のさらに他の具現例において、前記GstO2遺伝子は、配列番号3で表される塩基配列からなり得る。
【0030】
本発明のさらに他の具現例において、前記GstO2タンパク質は、配列番号4で表されるアミノ酸配列からなり得る。
【0031】
本発明のさらに他の具現例において、前記神経性退行性疾患は、筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis)でありうる。
【0032】
本発明のさらに他の具現例において、前記組成物は、FUSタンパク質のグルタチオニル化を抑制させることができる。
【0033】
本発明のさらに他の具現例において、前記FUSタンパク質のグルタチオニル化は、前記FUSのCys-447残基でグルタチオニル化したものであり得る。
【0034】
また、本発明は、前記組成物を個体に投与する段階を含む、神経系退行性疾患の予防または治療方法を提供する。
【0035】
また、本発明は、前記組成物の神経系退行性疾患の予防または治療用途を提供する。
【発明の効果】
【0036】
本発明者は、グルタチオニル化したFUSタンパク質が神経系退行性疾患診断マーカー(marker)としての機能を有することを明らかにしたところ、本発明による神経系退行性疾患診断用組成物は、神経系退行性疾患の早期診断に寄与する。
【0037】
また、本発明者は、筋萎縮性側索硬化症誘発タンパク質と知られたFUSのグルタチオニル化(glutathionylation)が細胞質内凝集および神経毒性を増加させる筋萎縮性側索硬化症の発病機序であることを明らかにし、これにより、本発明の神経系退行性疾患の予防または治療用組成物は、FUSタンパク質の脱グルタチオニル化(deglutathionylation)を誘導するGSTO1またはGstO2を含むことによって、脳細胞質の凝集および神経細胞毒性の抑制効果を確認したところ、神経系退行性疾患の予防、治療または改善用途に有用に利用され得るものと期待される。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1a】ヒトFUSタンパク質のグルタチオニル化の有無を確認するためのものであって、酸化形態グルタチオン(GSSG)の濃度に依存的にグルタチオニル化したヒトFUSタンパク質をSDS-PAGE(sodium dodecyl sulfate-polyacrylamide gel electrophoresis)で分離した結果を示したものである。
【
図1b】ヒトFUSタンパク質のグルタチオニル化を定量的に分析するためのものであって、前記分離したタンパク質を酸化形態グルタチオン(GSSG)の濃度を基準として定量分析した結果を示したものである。
【
図2a】ヒトFUSタンパク質の細胞内位置を確認するためのものであって、過発現したヒトFUSタンパク質凝集体がショウジョウバエ脳のニューロンの細胞質に位置することをイメージで示したものである。
【
図2b】FUSタンパク質のグルタチオニル化により生成された還元形態グルタチオン(GSH)がショウジョウバエ脳のニューロンの細胞質に位置することをイメージで示したものである。
【
図2c】ヒトFUSタンパク質凝集体と還元形態グルタチオン(GSH)の細胞内位置を確認するためのものであって、ヒトFUSタンパク質凝集体と還元形態グルタチオン(GSH)がショウジョウバエ脳のニューロンの細胞質に位置することをイメージで示したものである。
【
図3a】ヒト野生型FUSタンパク質凝集体の細胞内位置を確認するためのものであって、ヒト野生型FUSタンパク質凝集体がN2aの細胞質に位置することをイメージで示したものである。
【
図3b】ヒト野生型FUSタンパク質のグルタチオニル化により生成された還元形態グルタチオン(GSH)がN2aの細胞質に位置することをイメージで示したものである。
【
図3c】ヒト野生型FUSタンパク質凝集体と還元形態グルタチオン(GSH)の細胞内位置を確認するためのものであって、ヒト野生型FUSタンパク質凝集体と還元形態グルタチオン(GSH)がN2aの細胞質に位置することをイメージで示したものである。
【
図4a】ヒト突然変異FUS
P525Lタンパク質凝集体の細胞内位置を確認するためのものであって、ヒト突然変異FUS
P525Lタンパク質凝集体がN2aの細胞質に位置することをイメージで示したものである。
【
図4b】ヒト突然変異FUS
P525Lタンパク質のグルタチオニル化により生成された還元形態グルタチオン(GSH)がN2aの細胞質に位置することをイメージで示したものである。
【
図4c】ヒト突然変異FUS
P525Lタンパク質の凝集体と還元形態グルタチオン(GSH)の細胞内位置を確認するためのものであって、ヒト突然変異FUS
P525Lタンパク質の凝集体と還元形態グルタチオン(GSH)がN2aの細胞質に位置することをイメージで示したものである。
【
図5】FUSタンパク質のグルタチオニル化の具体的な位置を確認するためのものであって、MALDI-質量分析結果を示したものである。
【
図6】FUSタンパク質内RanBP2亜鉛-フィンガードメインのシステイン配列の種間保存の可否を確認するためのものであって、キイロショウジョウバエ(D.melanogaster)、アフリカツメガエル(X.laevis)、ゼブラフィッシュ(D.rerio)、ハツカネズミ(M.musculus)、ヒト(H.sapiens)のRanBP2亜鉛-フィンガードメインの配列を分析した結果を示したものである。
【
図7】FUSタンパク質の凝集体を形成するための実験を概略的に示したものである。
【
図8】グルタチオニル化したFUSタンパク質の凝集体とグルタチオニル化しないFUSタンパク質の溶解度を比較するためのものであって、前記タンパク質の溶解度をウェスタンブロット分析で比較して示したものである。
【
図9】FUSタンパク質のRanBP2亜鉛-フィンガードメインの3次元相同モデルとCys-447の相対的位置を示すものである。
【
図10a】GSSGの存在下にFUSタンパク質のグルタチオニル化の有無を確認した結果である。
【
図10b】グルタチオニル化したFUSタンパク質のショウジョウバエ脳のニューロンの細胞質に位置することを確認した結果を示したものである。
【
図10c】N2aの細胞質でFUSおよびヒト突然変異FUS
P525Lタンパク質の凝集体を確認した結果を示したものである。
【
図11a】GstO2によるFUS発現ハエの眼の表現型を確認した結果を示したものである。
【
図11b】GstO2によるFUS発現ハエの幼虫クローリング活動を確認した結果を示したものである。
【
図11c】GstO2によるFUS発現ハエのNMJ(neuromuscular junction)でシナプスボタン(synaptic bouton)の数を確認した結果である。
【
図11d】GstO2によるFUS発現ハエの寿命を確認した結果を示したものである。
【
図11e】GstO2-ノックダウンによるFUS発現ハエの寿命を確認した結果を示したものである。
【
図11f】GstO2によるFUS発現ハエのクライミング活性を確認した結果である。
【
図12a】GstO2によるFUS発現ハエのミトコンドリアのサイズを確認した結果を示したものである。
【
図12b】GstO2によるFUS発現ハエのミトコンドリア形態を確認した結果を示したものである。
【
図12c】GstO2によるFUS発現ハエのMarf発現を確認した結果を示したものである。
【
図12d】GstO2によるFUS発現ハエのミトコンドリア複合体含量を確認した結果を示したものである。
【
図12e】GstO2によるFUS発現ハエのBN-PAGE実行結果を示したものである。
【
図12f】GstO2によるFUS発現ハエのROS生産を確認した結果を示したものである。
【
図12g】GstO2によるFUS発現ハエのATP水準を確認した結果を示したものである。
【
図12h】GstO2によるFUS-発現ハエで細胞質内酸化したタンパク質量を測定した結果を示したものである。
【
図13a】GstO2によるFUS発現ハエの脳抽出物の免疫ブロッティング結果である。
【
図13b】GstO2-ノックダウンによるFUS発現ハエの脳抽出物の免疫ブロッティング結果である。
【
図13c】GstO2によるFUS発現ハエの核/細胞質画分分析結果を示したものである。
【
図13d】GstO2によるFUS発現ハエのFUS凝集体を確認するための溶解度分析結果を示したものである。
【
図13e】GSTO1またはGstO3のノックダウンによるFUS凝集体を確認するための溶解度分析結果を示したものである。
【
図13f】GstO2によるFUS発現ハエのミトコンドリアでのFUS水準を確認した結果を示したものである。
【
図14a】GstO2によるFUS発現ハエの神経細胞でFUSのグルタチオニル化調節を確認するための二重免疫蛍光分析結果を示したものである。
【
図14b】内因性GstO2によるグルタチオニル化を確認した結果を示したものである。
【
図15a】GstO2によるFUS
P525L発現ハエの幼虫クローリング活動を確認した結果を示したものである。
【
図15b】GstO2によるFUS
P525L発現ハエの脳抽出物の免疫ブロッティング結果を示したものである。
【
図15c】GstO2によるFUS
P525L発現ハエのFUS凝集体を確認するための溶解度分析結果を示したものである。
【
図16a】GstO2のヒト相同染色体であるGSTO1のFUS誘導神経毒性調節を確認するためにMyc-DDK-GSTO1融合タンパク質を発現する安定N2a細胞株のGSTO1発現を確認した結果を示したものである。
【
図16b】GstO2のヒト相同染色体であるGSTO1によるFUS凝集体を確認するための溶解度分析結果を示したものである。
【
図16c】GstO2のヒト相同染色体であるGSTO1による神経細胞死滅回復効果を確認した結果を示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0040】
本発明者らは、神経系退行性疾患と関連して多様な研究を進めた結果、筋萎縮性側索硬化症の誘発原因の一つと知られたFUSタンパク質がグルタチオニル化すると、FUSタンパク質凝集体が形成されることを知見し、これを研究して、筋萎縮性側索硬化症の診断用マーカーとして本発明を完成した。
【0041】
これにより、本発明は、グルタチオニル化したFUSタンパク質を含む神経系退行性疾患診断用マーカー組成物、FUSタンパク質のグルタチオニル化水準を測定する製剤を含む神経系退行性疾患診断用組成物、および該組成物を含む神経系退行性疾患診断用キットを提供する。
【0042】
本発明によるFUSタンパク質を暗号化する遺伝子は、配列番号1で表される塩基配列からなり得、または配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるものでありうる。この際、前記配列番号1で表される塩基配列と70%以上、好ましくは、80%以上、より好ましくは、90%以上、最も好ましくは、95%以上の配列相同性を有する塩基配列も含むことができる。
【0043】
本発明の対象疾患である「神経系退行性疾患(neurodegenerative diseases)」とは、神経系の一部分または様々な部分で神経細胞の死滅が進行される病気を総称する。神経細胞死滅の形態としては、細胞壊死(necrosis)または細胞死(apoptosis)がある。好ましくは、アルツハイマー病、軽度認知障害、脳卒中、血管性認知症、前頭側頭型認知症、レビー小体型認知症、クロイツフェルト・ヤコブ病、外傷性頭部損傷、梅毒、後天性免疫不全症候群、その他ウイルス感染、脳膿瘍、脳腫瘍、多発性硬化症、パーキンソン病、ハンチントン病、ピック病、筋萎縮性側索硬化症、てんかん、虚血および中風などを含むことができ、より好ましくは、筋萎縮性側索硬化症でありうるが、これに制限されるものではない。
【0044】
本発明において神経系退行性疾患の発病原因の一つと知られた「FUS(Fused in Sarcoma)タンパク質」とは、RNAおよびDNA結合タンパク質であって、FUSのN-末端は、転写活性と関連していて、C-末端は、タンパク質およびRNA結合に関与することが知られている。
【0045】
本発明において使用する用語「グルタチオニル化(Glutathionylation)」とは、システイン(cysteine)と還元形態グルタチオン(Glutathione,GSH)との間のジスルフィド結合(disulfide bond)が形成されることをいう。タンパク質のグルタチオニル化は、タンパク質の構造および機能の変化を誘発する。
【0046】
筋萎縮性側索硬化症誘発タンパク質と知られたFUSタンパク質のグルタチオニル化(glutathionylation)によるFUSタンパク質凝集体の形成および前記凝集体の細胞質への沈着が筋萎縮性側索硬化症の発病原因であることを前述したところ、本発明の一実施例では、抗-GSH抗体および抗-myc抗体を利用したウェスタンブロット分析実験を行って、体外(in vitro)で酸化形態グルタチオン(Glutathione disulfide,GSSH)の濃度に依存的にFUSタンパク質のグルタチオニル化が起こることを確認し(実施例2参照)、体内(in vivo)でFUSタンパク質のグルタチオニル化が起こるか否かを確認するための実験を行って、ニューロンの細胞質でグルタチオニル化したFUSタンパク質凝集体を確認した(実施例3参照)。
【0047】
本発明の他の一実施例では、Neuron2a(N2a)でヒトFUSタンパク質と突然変異FUSP525Lタンパク質を発現する実験を行って、ヒト野生型FUSタンパク質および突然変異FUSP525Lタンパク質のグルタチオニル化が哺乳類システムでも同一に起こることを確認した(実施例4参照)。
【0048】
本発明のさらに他の一実施例では、MALDI-質量分析およびRanBP2亜鉛-フィンガードメインの配列分析を行って、FUSタンパク質内RanBP2亜鉛-フィンガードメインのCys-447で酸化形態グルタチオン(Glutathione disulfide,GSSH)によるグルタチオニル化が起こることを確認した(実施例5参照)。
【0049】
本発明のさらに他の一実施例では、グルタチオニル化したFUSタンパク質の溶解度分析およびFUSタンパク質のRanBP2亜鉛-フィンガードメインの3次元相同モデル分析実験を行って、FUSタンパク質のグルタチオニル化が前記タンパク質の凝集体形成を誘導することを確認した(実施例6参照)。
【0050】
上記の結果は、FUSタンパク質内RanBP2亜鉛-フィンガードメインのCys-447にグルタチオニル化が起こり、グルタチオニル化したFUSタンパク質の凝集体が形成されることを示し、上記の凝集体は、可溶性が低くて、細胞質で沈着されることを
図2~
図4を通じて確認することができた。
【0051】
本発明において使用される用語「診断(diagnosis)」とは、広い意味では、患者の病の実態をすべての面にわたって判断することを意味する。判断の内容は、病名、病因、病型、軽重、病床の詳細な様態および合併症の有無などである。本発明において診断は、神経系退行性疾患の発病の有無および進行段階水準などを判断することである。
【0052】
本発明の他の様態として、被検者由来の生物学的試料からFUSタンパク質のグルタチオニル化水準を測定する段階および前記水準を正常対照群試料の当該タンパク質のグルタチオニル化水準と比較する段階を含む、神経系退行性疾患診断のための情報提供方法を提供する。
【0053】
本発明において使用される用語「神経系退行性疾患診断のための情報提供方法」とは、診断または予後予測のための予備的段階として神経系退行性疾患診断のために必要な客観的な基礎情報を提供することであり、医師の臨床学的判断または所見は除外される。前記被検者由来の生物学的試料は、これに制限されるものではないが、例えば、組織、細胞などでありうる。
【0054】
また、本発明者らは、神経系退行性疾患治療と関連して多様な研究を進めた結果、筋萎縮性側索硬化症誘発タンパク質と知られたFUSタンパク質のグルタチオニル化(glutathionylation)によるタンパク質凝集体の形成およびこれの脳神経細胞の細胞質沈着が筋萎縮性側索硬化症の発病原因であることを確認し、GSTO(omega class glutathione transferase)のFUSタンパク質のグルタチオニル化抑制活性を確認することによって、本発明を完成した。
【0055】
これにより、本発明は、GSTO1(omega class glutathione transferase 1)またはGstO2(omega class glutathione transferase 2)遺伝子または前記遺伝子が暗号化するタンパク質を有効成分として含む、神経系退行性疾患の予防または治療用薬学的組成物を提供する。
【0056】
本発明によるGSTO1(omega class glutathione transferase 1)遺伝子は、配列番号2で表される塩基配列(Human GSTO1 NCBI Accession:NM_004832.2)からなり得、または配列番号3で表されるアミノ酸配列(Human GSTO1 NCBI Accession:NP_004823.1)からなるものでありうる。この際、前記配列番号2で表される塩基配列と70%以上、好ましくは、80%以上、より好ましくは、90%以上、最も好ましくは、95%以上の配列相同性を有する塩基配列を含むことができる。
【0057】
また、本発明によるGstO2(omega class glutathione transferase 2)遺伝子は、配列番号4で表される塩基配列(Drosophila GstO2 NCBI Accession:NM_168277.2)からなり得、または配列番号5で表されるアミノ酸配列(Drosophila GstO2 NCBI Accession:NP_729388.1)からなるものでありうる。この際、前記配列番号4で表される塩基配列と70%以上、好ましくは、80%以上、より好ましくは、90%以上、最も好ましくは、95%以上の配列相同性を有する塩基配列を含むことができる。
【0058】
本発明において使用される用語「グルタチオニル化(glutathionylation)」は、システインと還元されたグルタチオン(GSH)との間のジスルフィド結合の結果であって、これによって、タンパク質構造および機能の変化をもたらすことができることが知られている。
【0059】
本発明では、前述したように、筋萎縮性側索硬化症誘発タンパク質と知られたFUSタンパク質のグルタチオニル化(glutathionylation)によるタンパク質凝集体の形成およびこれの脳神経細胞の細胞質沈着が筋萎縮性側索硬化症の発病原因であることを確認した。これにより、本発明の一実施例では、FUSをGSSGの存在下に培養した結果、GSHの含量が増加するにつれて、グルタチオニル化したFUS含量が増加することを確認しただけでなく、FUSのCys-447でグルタチオニル化することを確認し(実施例7参照)、FUSのグルタチオニル化によって、FUSの凝集体形成を具体的に確認した(実施例8参照)。
【0060】
本発明の他の一実施例では、グルタチオニル化したFUSによる病理を調節できるタンパク質として、GstOを同定し、GstO2のショウジョウバエでFUSの過発現による表現型欠損およびミトコンドリア分裂および機能障害に対する緩和効果を確認した(実施例9および10参照)。
【0061】
本発明のさらに他の一実施例では、GstO2によりショウジョウバエ神経細胞でのFUSの凝集体形成抑制効果を確認しただけでなく、GstO2によってショウジョウバエ神経細胞でFUSのグルタチオニル化を調節するかを具体的に確認し(実施例11および12参照)、また、FUS突然変異FUSP525Lの発現によるALS表現型を示すハエに対してもGstO2の過発現FUSと同じ効果を示すことを確認することができた(実施例13参照)。最終的に、本発明者は、FUS誘導神経細胞毒性に対するGstO2の回復効果が哺乳類システムにも適用されるかを確認するために、GstO2のヒト相同染色体であるGSTO1に対して神経細胞毒性抑制効果を確認した結果、ALSの哺乳類神経細胞モデルでもFUS不溶性およびFUS誘導細胞死を改善させる効果を具体的に確認した(実施例14参照)。
【0062】
上記経過は、GSTO1(omega class glutathione transferase 1)またはGstO2(omega class glutathione transferase 2)がFUSの脱グルタチオニル化を誘導して、FUS細胞質内凝集および神経毒性の抑制効果を示すところ、神経系退行性疾患の治療剤として有用に利用され得ることを示唆する。
【0063】
本発明による薬学的組成物は、GSTO1(omega class glutathione transferase 1)またはGstO2(omega class glutathione transferase 2)遺伝子または前記遺伝子が暗号化するタンパク質を有効成分として含み、また、薬学的に許容可能な担体を含むことができる。前記薬学的に許容可能な担体は、製剤時に通常的に利用されるものであって、食塩水、滅菌水、リンゲル液、緩衝食塩水、シクロデキストリン、デキストロース溶液、マルトデキストリン溶液、グリセロール、エタノール、リポソームなどを含むが、これに限定されず、必要に応じて抗酸化剤、緩衝液など他の通常の添加剤をさらに含むことができる。また、希釈剤、分散剤、界面活性剤、結合剤、潤滑剤などを付加的に添加して水溶液、懸濁液、乳濁液などのような注射用剤形、丸薬、カプセル、顆粒、または錠剤で製剤化することができる。適合した薬学的に許容される担体および製剤化に関しては、レミントンの文献に開示されている方法を利用して各成分によって好適に製剤化することができる。本発明の薬学的組成物は、剤形に特別な制限はないが、注射剤、吸入剤、皮膚外用剤、または経口摂取剤などで製剤化することができる。
【0064】
本発明の薬学的組成物は、目的とする方法によって経口投与したり非経口投与(例えば、静脈内、皮下、皮膚、鼻腔、気道に適用)することができ、投与量は、患者の状態および体重、病気の程度、薬物形態、投与経路および時間によって異なるが、当業者により適宜選択され得る。
【0065】
本発明による組成物は、薬学的に有効な量で投与する。本発明において、「薬学的に有効な量」は、医学的治療に適用可能な合理的なベネフィット/リスクの割合で疾患を治療するのに十分な量を意味し、有効用量水準は、患者の疾患の種類、重症度、薬物の活性、薬物に対する敏感度、投与時間、投与経路および排出比率、治療期間、同時使用される薬物を含む要素およびその他医学分野によく知られた要素によって決定され得る。本発明による組成物は、個別治療剤として投与したり、他の治療剤と併用して投与することができ、従来の治療剤とは順次にまたは同時に投与することができ、単一または多重投与することができる。上記した要素を全部考慮して副作用なしに最小限の量で最大効果を得ることができる量を投与することが重要であり、これは、当業者によって容易に決定され得る。
【0066】
具体的に、本発明による組成物の有効量は、患者の年齢、性別、体重によって変わり得るものであり、一般的には、体重1kg当たり0.001~150mg、好ましくは、0.01~100mgを毎日または隔日投与したり、1日に1~3回に分けて投与することができる。しかし、投与経路、神経系退行性疾患の重症度、性別、体重、年齢などによって増減することができるので、前記投与量がいかなる方法でも本発明の範囲を限定するものではない。
【0067】
なお、本発明の他の様態として、本発明は、前記薬学的組成物を個体に投与する段階を含む、神経系退行性疾患の予防、調節または治療方法を提供する。
【0068】
本発明において使用される用語「予防」とは、本発明による薬学的組成物の投与により神経系退行性疾患を抑制したり発病を遅延させるすべての行為を意味する。
【0069】
本発明において使用される 用語「治療」とは、本発明による薬学的組成物の投与により神経系退行性疾患に対する症状が好転したり有利に変更されるすべての行為を意味する。
【0070】
本発明において「個体」とは、病気の予防、調節または治療方法を必要とする対象を意味し、より具体的には、ヒトまたは非ヒトである霊長類、マウス(mouse)、ラット(rat)、犬、猫、馬および牛などの哺乳類を意味する。
【0071】
以下、本発明の理解を助けるために好ましい実施例を提示する。しかし、下記の実施例は、本発明をより容易に理解するために提供されるものに過ぎず、下記実施例により本発明の内容が限定されるものではない。
【0072】
[実施例]
実施例1.実験準備および実験方法
1-1.キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)準備
すべてのショウジョウバエのストック(stock)は、標準飼料条件(standard food condition)、常温条件(normal temperature)(25℃)および正常湿度条件(normal humidity condition)(60%)の下で保管し、ショウジョウバエの交配(crossing)は、標準手続きにより行い、すべての子孫は、25℃の条件で飼育した。
【0073】
1-2.細胞培養(cell culture)
マウス神経芽細胞腫(neuroblastoma)であるNeuro2a細胞は、10%ウシ胎児血清(fetal bovine serum;FBS)(gibco)およびペニシリン-ストレプトマイシン(50mg/ml)(gibco)溶液を含有するDMEM(Life Technologies)で37℃、5%CO2/95%airの条件で培養した。
【0074】
1-3.in vitroグルタチオニル化分析(in vitro glutathionylation assay)
HEK293(OriGene)細胞から精製されたmyc-タグヒトFUS(0.51μg)の組み換え全長(full-length)タンパク質を酸化形態グルタチオン(Glutathione disulfide,GSSG)の多様な濃度の存在下の50mM Tris-HCl(pH7.5)で25℃の温度条件で培養し、培養1時間後、サンプルをアイス(ice)上に載置し、3×非還元性LDSサンプル緩衝液(Invitrogen)を添加した。その後、前記サンプルを12%SDS-PAGEで分離してマウス抗-GSH(1:1,000;ViroGen Corp.)およびマウス抗-myc(1:1,000;Millipore)抗体を利用してウェスタンブロット分析を行った。
【0075】
1-4.形質転換ハエ
UAS-FUS、UAS-FUSP525L細胞株は、Nancy M.Bonini(University of Pennsylvania)から収得し、UAS-GstO2細胞株は、以前に記述されている文献(Kim et al.,2012;Kim and Yim、2013)によって収得した。また、UAS-GSTO1 RNAi(BL34727,v26711)、UAS-GstO2 RNAi(v109255)、およびUAS-GstO3 RNAi(v105274)細胞株は、Bloomington Drosophila stock centerおよびVienna Drosophila RNAi centerから収得し、UAS-mitoGFP細胞株は、H.J.Bellen(Baylor College of Medicine)から収得し、pan-neuronal driver、elav-Gal4、muscle-specific driver、mhc-Gal4、motor neuron-specific driverおよびD42-Gal4細胞株も、Bloomington Drosophila stock centerおよびVienna Drosophila RNAi centerから収得した。この際、遺伝的背景技術によってW1118ハエを対照群として使用した。
【0076】
1-5.形質感染(transfection)
N2a細胞を6ウェルプレートに分注し、各ウェルに4μgのpCMV6-FUS-GFP(green fluorescent protein、緑色蛍光タンパク質)が標識されたヒト野生型FUSおよびpCMV6-FUSP525L-GFPが標識された突然変異FUSP525LをLipofectamine 3000試薬(Invitrogen)を使用して製造社のマニュアルによって形質感染させた。この際、ブランクのpCMV6-AC-GFPプラスミドを陰性対照群として使用した。
【0077】
1-6.Stable細胞株生成
24-ウェルプレートのN2a細胞をLipofectamine 3000試薬(Invitrogen)を使用して1μgのヒトGSTO1 cDNAで形質感染させ、形質感染させた後、2日間G418(600μg/ml)の存在下に安定形質転換体を選別した。この際、安定形質転換体においてGSTO1タンパク質の過発現は、免疫ブロット分析を通じて確認した。
【0078】
1-7.全体脳免疫染色(brain immunostaining)
7日齢の雄ハエの成体脳を固定緩衝液(100mM PIPES、1mM EGTA、1% Triton X-100、2mM MgSO4、pH6.9)で4%ホルムアルデヒドで固定させた後、10mg/ml BSAを含有する洗浄バッファー液(50mM Tris-HCl、150mM NaCl、0.1% Triton X-100および0.5mg/ml BSA、pH6.8)で遮断させた後、遮断緩衝液で希釈した1次抗体と共に4℃で12時間の間培養し、この際、使用した抗体は、次の通りである:
ウサギ抗-FUS(1:100、Bethyl Laboratories)、マウス抗-FUS(1:50、Santa Cruz Biotechnology)、ウサギ抗-GstO2(1:20)、およびマウス抗-GSH。
【0079】
以後、サンプルをAlexa 488接合2次抗体(1:200、Invitrogen)、Cy3接合2次抗体(1:200、Jackson Immuno Research Laboratories)およびDAPI(1:500、Sigma-Aldrich)と共に培養した後、脳を洗浄緩衝液で10分ずつ3回洗浄し、SlowFadeTM Gold antifade reagent(Invitrogen)を処理して固定した。この際、すべてのイメージは、Carl Zeiss共焦点顕微鏡(LSM710)を通じて確保した。
【0080】
1-8.免疫組織化学(Immunohistochemistry)
細胞をリン酸緩衝食塩水(phosphate-buffered saline;PBS)で4%パラホルムアルデヒドで30分間固定させた後、0.3% Triton X-100(PBST)を含有するPBSで10分ずつ3回洗浄した。その後、細胞を遮断緩衝液(5%NGS(normal goat serum)を含有するPBST)と共に25℃で1時間の間培養した後、4℃で12時間の間遮断緩衝液で希釈した1次抗体と共に培養し、この際、使用された抗体は、次の通りである:
マウス抗-GSH(1:100;ViroGen Corp.)、ウサギ抗-FUS(1:100;Bethyl Laboratories)、マウス抗-GFP(1:200;Roche)およびウサギ抗-切断型カスパーゼ3(1:500、Cell Signaling)。
【0081】
1次抗体と共に培養した後、細胞をPBSTで10分ずつ3回洗浄した後、PBSTで1:2000で希釈した2次抗体と共に25℃で1時間の間培養を実施し、この際、使用された2次抗体は、次の通りである:
Alexa-594接合ヤギ抗-ウサギIgG、Alexa-488接合ヤギ抗-ウサギIgG、Alexa 594接合ヤギ抗-マウスIgMおよびAlexa-488接合ヤギ抗-マウスIgG(Jackson Immuno Research実験室)。
【0082】
以後、サンプルをLeica共焦点顕微鏡を利用して観察した。
【0083】
次に、ショウジョウバエ(Drosophila)でNMJ(neuromuscular junction)分析のために3期齢の幼虫(3rd instar larvae)を解剖した後、15分間PBSで4%ホルムアルデヒドで固定した。その後、サンプルを0.1% Triton X-100を含有するPBSで10分ずつ3回洗浄し、PBSTから5%BSAに遮断させた後、1次抗体と共に4℃で12時間の間培養した。この際、FITC-接合抗-HRP(Jackson Immuno Research Laboratories)を1:150で使用し、SlowFadeTM Gold antifade reagent(Invitrogen)を処理して固定し、すべてのイメージは、Leica TCS SP5 AOBS共焦点顕微鏡で獲得した。
【0084】
1-9.相同性モデリング(Homology modeling)
Molegro Molecular Viewer 2.5.0(Molegro ApS、オーフスC、デンマーク)を基盤としてI-TASSER serverを利用してタンパク質構造および機能予測のためのFUS ZnFドメイン(32アミノ酸残基、422-RAGDWKCPNPTCENMNFSWRNECNQCKAPKPD-453)の3D構造を予測して生成した。
【0085】
1-10.In vitroタンパク質凝集分析(In vitro protein aggregation assay)
in vitroグルタチオニル化後、サンプルを37℃で熱ブロックをさせた後、サンプルを4℃で30分間20,000×gの条件で遠心分離して上澄み液とペレット画分とに分けて、ペレットを50mM Tris-HCl(pH7.5)で10分ずつ5回洗浄した後、還元剤と共にLDSサンプル緩衝液(2%SDS)(Invitrogen)に溶解させた。両画分においてFUSは、ウサギ抗-FUS(1:1000;Bethyl Laboratories)抗体でウェスタンブロット分析により検出した。
【0086】
1-11.External eye microscopy
ショウジョウバエ成虫の眼イメージの場合、頭をスライドグラスに固定後、デジタルカメラでイメージを撮影し、この際、5日齢の雄ショウジョウバエを実験に使用した。なお、イメージ撮影は、Leica MZ10 F立体顕微鏡とLeica DFC450カメラシステムを使用して撮影した。
【0087】
1-12.運動性および寿命分析(Locomotive activity and lifespan assays)
幼虫クローリング(crawling)分析のために、3期齢の幼虫(3rd instar larvae)に残っている食べ滓などを除去するためにPBSを利用して洗浄し、きれいな濾過紙で乾燥させた後、2%ブドウ汁-寒天ペットリ皿に位置させ、幼虫は、90秒間クローリングするようにした。この際、幼虫のクローリング動作を定量化するために、イメージJソフトウェアを使用して幼虫を追跡し、距離を測定し、少なくとも10匹の幼虫に対する結果をそれぞれのトランスジェニックラインに対して平均化した。
【0088】
次に、クライミング(climbing)分析のために、各年齢グループの10匹の雄ショウジョウバエを二酸化炭素で麻酔させた後、カラムバイアル(column vial)に位置させた後、前記ショウジョウバエを空のバイアルに移して室温で1時間の間培養して環境に順応させ、10秒内にバイアルの頂部までクライミングしたショウジョウバエの数を計数した。この際、実験は、5分間隔で各トランスジェニックラインに対して独立して4回繰り返し、すべてのクライミング実験は、25℃で行った。
【0089】
最終的に、寿命分析のために、各遺伝子型(>150ショウジョウバエ)の雄ショウジョウバエ20匹をそれぞれ異なるバイアルに入れ、25℃を維持した後、翌日、すべてのグループを新しいバイアルに移した後、死んだショウジョウバエの数を記録した。
【0090】
1-13.免疫ブロット分析(Immunoblot analysis)
ウェスタンブロット分析のためのタンパク質抽出物は、LDSサンプルバッファー(Invitroge)で10匹の14日齢の雄ショウジョウバエの頭を均質化して製造し、総タンパク質抽出物を4%~12%勾配SDS-PAGEゲルを使用して分離し、PVDFメンブレン(Millipore)に移した後、メンブレンを4%脱脂粉乳または4%ウシ血清アルブミン(BSA)を含有するTris-緩衝食塩水(TBS)で1時間の間ブロッキングし、1次抗体と共に4℃で12時間の間培養した。
【0091】
この際、使用した1次抗体は、次の通りである:
ウサギ抗-FUS(1:1000、Bethyl Laboratories)、ウサギ抗-Drosophila Marf(1:1000、Leo Pallanck、ワシントン大学からのプレゼント)、マウス抗-Opa1(1:1000;マウス抗-UQCRC2(1:1000、Abcam)、マウス抗-ATP5A(1:10000、Abcam)、マウス抗-Drosophila GstO2(1:1000)、ウサギ抗-ラミンC(Developmental Studies Hybrodoma Bank、DSHB)、ウサギ抗-α-チューブリン(1:2000、Sigma)およびウサギ抗β-アクチン(1:4000、Cell Signaling)。
【0092】
ブロットを0.1% Tween-20(TBST)を含有するTBSで洗浄し、2次抗体と共に培養し、ヤギ抗-ウサギIgG HRP接合体およびヤギ抗-マウスIgG HRP接合体(1:2000、Millipore)を使用して1次抗体をHRP-接合2次抗体で検出した。この際、検出は、ECL-Plusキット(Amersham)を使用して行った。
【0093】
次に、タンパク質抽出物をprotease-phosphatase inhibitor cocktail (Roche)を含有するRIPA緩衝液(Cell signaling)で均質化させた後、還元剤と共にLDSサンプル緩衝液(Invitrogen)と混合した。以後、タンパク質サンプルを4%~12% Bis-Trisゲル(Novex)で分離して、PVDFメンブレン(Novex)に移した後、ウサギ抗-TurboGFP(1:2000、OriGene)、マウス抗-GSTO1(1:1000、Proteintech)、ウサギ抗-DDK(1:1000、OriGene)、ウサギ抗-α-チューブリン(1:2000、Sigma)1次抗体を使用してウェスタンブロット分析に使用した。
【0094】
1-14.ミトコンドリアイメージおよび形態
胸部の筋肉組織でミトコンドリアのイメージを確認するために、7日齢の成虫雄ショウジョウバエをPBSで解剖し、固定緩衝液(100mM PIPES、1mM EGTA、1% Triton X-100および2mM MgSO4、pH6.9)で3%ホルムアルデヒドで25分間固定させた後、洗浄緩衝液(50mM Tris-HCl、150mM NaCl、0.1% Triton X-100、および0.5mg/ml BSA、pH6.8)で洗浄した。以後、SlowFadeTM Gold antifade試薬(Invitrogen)で固定し、CarlZeiss共焦点顕微鏡(LSM710)で撮影してイメージを獲得した。
【0095】
次に、足の運動ニューロンでミトコンドリアのイメージを確認するために、7日齢の成虫雄ショウジョウバエをPBSで解剖し、前足を固定緩衝液(100mM PIPES、1mM EGTA、1% Triton X-100および2mM MgSO4、pH6.9)で4%ホルムアルデヒドで25分間固定させた後、PBSTで洗浄し、SlowFadeTM Gold antifade試薬(Invitrogen)で固定し、CarlZeiss共焦点顕微鏡(LSM710)で撮影してイメージを獲得した。
【0096】
1-15.BN-PAGE(Blue native polyacrylamide gel electrophoresis)
ミトコンドリアは、製造社のプロトコルによってmitochondrial isolation kit(Pierce)を使用して14日齢の雄成虫ショウジョウバエから分離した後、精製されたミトコンドリア抽出物を2% n-dodecyl-β-D-maltoside(DDM)、1% Digitoninおよびprotease inhibitor(Halt)を含有する60μLの1×Native PAGEサンプル緩衝液(Invitrogen)で再懸濁させた。次に、サンプルをアイス上で15分の間培養し、12,000×gで遠心分離した後、上澄み液でミトコンドリアタンパク質の濃度を測定し、前記上澄み液(20μg)を0.5% G-250サンプル添加剤と混合した後、4℃で3%~12% Native PAGE Bis-Tris gel(Invitrogen)を使用してBN-PAGE(Blue native polyacrylamide gel electrophoresis)を行った。この際、正極ランニング緩衝液(Anode running buffer)をゲル外部で使用して、負極ランニング緩衝液(cathode running buffer)をゲル内部で使用し、PAGE後、マウス抗-NDUFS3(1:5000、Abcam)、マウス抗-UQCRC2(1:1000、Abcam)、マウス抗-ATP5A(1:10000、Abcam)抗体でウェスタンブロット分析を行った。
【0097】
1-16.ミトコンドリアスーパーオキシド測定
ショウジョウバエでのミトコンドリアROS生成は、製造社のプロトコルによってミトコンドリア酸素自由ラジカル(oxygen free radical)表示器mitoSOX-Red(Invitrogen)を使用して測定した。より具体的に、11日齢のショウジョウバエの胸部から冷たいPBSで切開した筋肉組織をDMSO中5μM MitoSOX-Redと共に25℃で20分間培養した後、冷たいPBSで3回洗浄した後、筋肉組織サンプルを迅速にSlowFadeTM Gold antifade(Invitrogen)試薬で処理して固定させた後、Carl Zeiss共焦点顕微鏡(LSM710)で15分以内に観察し、この際、蛍光強度は、Image Jソフトウェアを使用して定量した。
【0098】
1-17.ATP分析(ATP assay)
28日齢のショウジョウバエの胸部をATPase酵素活性を阻害するために、100μlの抽出緩衝液(6M Guanidine-HCl、100mM Tris、4mM EDTA、pH7.8)で均質化させた後、抽出物を液体窒素で直ちに凍結させた後、加熱してATP生成酵素(ATP synthase)を変性させた。以後、サンプルを20,000×gで15分間遠心分離して上澄み液を新しいチューブに移した後、抽出緩衝液(1/100)で希釈した後、96-ウェルプレート各ウェルにサンプルを入れ、Enliten ATP分析キット(Promega)の発光溶液と混合させ、Glomax microplate reade(Promega)を使用して10秒間隔で発光を測定した。次に、上澄み液を抽出緩衝液(1/2)で希釈してBCAタンパク質分析キット(Pierce)を使用してタンパク質濃度を測定した。以後、総タンパク質濃度で割って標準と比較した相対的なATP水準を計算した。
【0099】
1-18.タンパク質酸化分析(Protein oxidation assay)
タンパク質酸化検出は、製造社のプロトコルによってOxyBlot protein oxidation detection kit(Millipore)を使用して検出した。具体的に、28日齢のショウジョウバエの胸部を6%SDSを含有する2%β-メルカプトエタノールを含有する溶解緩衝液で均質化させた後、均質液を20,000×gで30分間遠心分離してペレット破片は捨てた後、変性されたタンパク質を25℃でDNPH(2,4-dinitrophenylhydrazine)で誘導体化した後、中和溶液で利用して中和させた。以後、DNPHで標識されたタンパク質をSDS-PAGEに適用し、PVDFメンブレン(Millipore)に移した後、前記メンブレンを抗-DNP抗体(1:150、Millipore)で分析した後、ヤギ抗-ウサギIgG HRP接合2次抗体(1:300;Millipore)を使用して信号を検出し、この際、検出は、ECL-Plusキット(Amersham)を使用して行い、バンド密度は、Image Jソフトウェアを通じて測定した。
【0100】
1-19.核/細胞質画分分析(Nuclear/cytoplasmic fractionation assay)
雄ショウジョウバエの頭20個を製造社のプロトコルによってnuclear extract kit(Active Motif)試薬で溶解させた後、異なる細胞画分でのタンパク質抽出物は、SDSローディング緩衝液と混合させた後、加熱してウェスタンブロット分析のためにSDS-PAGEに適用させた。
【0101】
1-20.タンパク質溶解度分析(Protein solubility assay)
総タンパク質は、以前に記述された数種類を修正したプロトコル(Woo et al.,2017)を使用して溶解度によって画分させ、7日または14日齢のショウジョウバエの頭20個をSDS(50mM Tris-HCl、150mM NaCl、5mM EDTA、0.1% NP-40、および10% glycerol、pH7.5)なしに溶解緩衝液で均質化させた。以後、均質サンプルを100,000×g、4℃で30分間遠心分離して上澄み液を可溶性画分として収得した。また、残ったペレット(pellet)を2%SDSを含む50μl 2×緩衝液で追加で抽出して超音波処理後、95℃で10分間加熱した。前記過程での上澄み液は、不溶性画分として収得した。
【0102】
1-21.GSH/GSSG含量
酸化形態(グルタチオンスルフィド、GSSG)および還元形態のグルタチオン(GSH)の測定のための方法は、製造社のプロトコルによってグルタチオン分析キット(Cayman chemical)を利用して測定し、より具体的に、10日齢のショウジョウバエ頭10個の総グルタチオンを50mM MES緩衝液50μlで均質化させた後、サンプルを10,000×gで15分間遠心分離し、上澄み液を新しいチューブに移した。以後、サンプルに同じ量のMPA試薬を添加し、室温で5分間放置し、前記混合物を2,000×gで2分間遠心分離させた後、2.5μlのTEAM試薬を追加した即後に、サンプルをボルテキシングした。次に、サンプルを96ウェルプレートの各ウェルに入れ、MES緩衝液、補助因子混合物(Cofactor mixture)、酵素混合物(Enzyme mixture)およびDTNBの混合物を添加した。以後、Glomax microplate reader(Promega)を使用して405nm吸光度を測定し、2.5μlのTEAM試薬を添加した後、全体グルタチオン分析法と同じ方法を使用して酸化形態グルタチオン(GSSG)を測定した。また、2-ビニルピリジン(2-vinylpyridine)を追加で添加して、25℃で1時間の間培養を進めた後、全体グルタチオン分析法と同じ過程を進めて、上澄み液を抽出緩衝液(1/10)で希釈してBCAタンパク質分析キット(Pierce)を使用してタンパク質濃度を測定した。標準のレベルと比較した酸化形態グルタチオン(GSSG)および還元形態のグルタチオン(GSH)のレベルの計算値を得るために、全体タンパク質の濃度で割る。
【0103】
実施例2.FUSタンパク質の体外(in vitro)グルタチオニル化確認
本実施例では、体外(in vitro)でFUSタンパク質のグルタチオニル化が起こるか否かを確認するために、myc-標識されたヒトFUS組み換え全長(full-length)タンパク質に酸化形態グルタチオン(Glutathione disulfide,GSSH)を加えて培養した後、SDS-PAGE(sodium dodecyl sulfate-polyacrylamide gel electrophoresis)で分離してマウス抗-GSH抗体およびマウス抗-myc抗体を利用してウェスタンブロット分析を行った。
【0104】
その結果、
図1のaおよび
図1のbが示すように、酸化形態グルタチオン(Glutathione disulfide,GSSH)の濃度が増加するほど(0mM、0.25mM、0.05mM、1mM)、グルタチオニル化したFUSタンパク質が多量検出されることを確認した。上記の結果から推察するとき、体外(in vitro)で酸化形態グルタチオン(Glutathione disulfide,GSSH)の濃度に依存的にFUSタンパク質のグルタチオニル化が起こることを確認した。
【0105】
実施例3.FUSタンパク質の体内(in vivo)グルタチオニル化確認
本実施例では、体内(in vivo)でFUSタンパク質のグルタチオニル化が起こるか否かを確認するために、ニューロンで特異的に発現するヒトFUSタンパク質をelav-Gal4 driverを使用してショウジョウバエのニューロンで発現した。具体的に、pCMV6-FUS-GFPが標識されたヒト野生型FUSタンパク質をショウジョウバエに形質感染させる。DAPIで染色された部分は、核の位置を示す。
【0106】
その結果、ショウジョウバエ脳のニューロンでヒト野生型FUSタンパク質は、主に核に位置するが、
図2aの矢印が示すように、ヒト野生型FUSタンパク質が過発現した場合、ヒト野生型FUSタンパク質凝集体が細胞質で多量観察されることを確認した(緑色)。また、
図2bの矢印が示すように、還元形態グルタチオン(Glutathione,GSH)が細胞質で観察されることを確認した(赤色)。また、
図2aと
図2bを併合した
図2dの矢印が示すように、脳のニューロン細胞質のFUSタンパク質凝集体は、還元形態グルタチオン(Glutathione,GSH)と同じ位置で観察されることを確認した。上記の結果は、体内(in vivo)で酸化形態グルタチオン(Glutathione disulfide,GSSH)によりグルタチオニル化したヒト野生型FUSタンパク質と前記グルタチオニル化により生成された還元形態のグルタチオン(Glutathione,GSH)が細胞質で一緒に存在することを意味する。
【0107】
実施例4.哺乳類システムでFUSタンパク質の体外(in vitro)グルタチオニル化
本実施例では、ヒト野生型FUSタンパク質およびヒト突然変異FUSP525Lタンパク質のグルタチオニル化が哺乳類システムでも起こるか否かを確認するために、マウスの神経芽細胞腫(neuroblastoma)細胞株であるNeuron2a(N2a)でヒト野生型FUSタンパク質とヒト突然変異FUSP525Lタンパク質を発現(形質感染)した。DAPIで染色された部分は、核の位置を示す。
【0108】
その結果、
図3aの矢印が示すように、ヒト野生型FUSタンパク質凝集体が細胞質で多量観察されることを確認した(緑色)。また、
図3bの矢印が示すように、還元形態グルタチオン(Glutathione,GSH)が細胞質で観察されることを確認した(赤色)。
図3aと
図3bを併合した
図3dの矢印が示すように、還元形態グルタチオン(Glutathione,GSH)の陽性信号は、ヒト野生型FUSタンパク質凝集体が存在する細胞質で主に検出されることを確認した。また、
図4aの矢印が示すように、ヒト突然変異FUS
P525Lタンパク質凝集体が細胞質で多量観察されることを確認した(緑色)。また、
図4bの矢印が示すように還元形態グルタチオン(Glutathione,GSH)が細胞質で観察されることを確認した(赤色)。
図4aと
図4bを併合した
図4dの矢印が示すように還元形態グルタチオン(Glutathione,GSH)の陽性信号は、ヒト突然変異FUS
P525L凝集体が存在する細胞質で主に検出されることを確認した。上記の結果に鑑みると、ショウジョウバエ体内で起こるヒトFUSタンパク質のグルタチオニル化が哺乳類システムでも起こることを確認した。
【0109】
実施例5.FUSタンパク質のグルタチオニル化の位置確認
5-1.質量分析法を利用したFUSタンパク質のグルタチオニル化の位置確認
本実施例では、ヒトFUSタンパク質私のグルタチオニル化が起こる部位を確認するために、体外(in vitro)でmyc-標識されたヒトFUSタンパク質のグルタチオニル化を誘導し、グルタチオニル化したヒトFUSタンパク質をクマシー染色ゲル(coomassie stained gel)を使用して検出した。次に、前記ヒトFUSタンパク質バンドをゲルで切除し、トリプシンで分解した後、MALDI(Matrix Assisted Laser Desorption/Ionization,MALDI)-質量分析を行った。
【0110】
その結果、
図5に示すように、質量分析により305Daの質量差異を有するアミノ酸重合体(peptide)が検出された。これは、一つの還元形態グルタチオン(GSH moiety)に該当する質量であり、
図5のMALDI-質量分析グラフを総合してみるとき、
図6の矢印が示すように、RanBP2亜鉛-フィンガードメイン(zinc-finger domain)のCys-447部位でヒトFUSタンパク質のグルタチオニル化が起こることを確認した。
【0111】
5-2.種間FUSタンパク質内RanBP2亜鉛-フィンガードメイン配列の保存の可否の確認
FUSタンパク質のRanBP2亜鉛-フィンガードメインは、4個のシステインを含む。真核生物でRanBP2亜鉛-フィンガードメインの配列のうち前記システインの配列が保存されているかを確認するために、キイロショウジョウバエ(D.melanogaster)、アフリカツメガエル(X.laevis)、ゼブラフィッシュ(D.rerio)、ハツカネズミ(M.musculus)、ヒト(H.sapiens)のRanBP2亜鉛-フィンガードメインの配列を分析した。
【0112】
その結果、
図12に示すように、RanBP2亜鉛-フィンガードメインの前記4個のシステイン全部がキイロショウジョウバエ(D.melanogaster)、アフリカツメガエル(X.laevis)、ゼブラフィッシュ(D.rerio)、ハツカネズミ(M.musculus)、ヒト(H.sapiens)で保存されていることを確認した。
【0113】
実施例6.FUSタンパク質のグルタチオニル化による凝集体形成の確認
6-1.グルタチオニル化したFUSの溶解度分析
実施例1~3で確認したように、グルタチオニル化したヒトFUSタンパク質凝集体がショウジョウバエ脳ニューロンの細胞質で観察され、実施例5で確認したように、FUSタンパク質内RanBP2亜鉛-フィンガードメイン、Cys-447でグルタチオニル化が起こる。上記の実施例に基づいて、FUSタンパク質のグルタチオニル化がFUSタンパク質凝集体形成に影響を与えるか否かを確認するために、グルタチオニル化したFUSタンパク質の溶解度を測定する実験を行った。具体的に、
図7に示すように、HEK293細胞で精製したmyc-標識されたヒトFUSタンパク質に酸化形態グルタチオン(Glutathione disulfide,GSSH)を添加してヒトFUSタンパク質のグルタチオニル化を誘導した後、タンパク質毒性ストレスである熱-ストレス(heat-stress)に露出させた。グルタチオニル化したヒトFUSタンパク質の溶解度は、各サンプルの上澄み液(supernatant)およびペレット(pellet)の画分(fractions)で前記ヒトFUSタンパク質を定量化して、ウェスタンブロット分析を通じて異なる時点に測定した。
【0114】
その結果、
図8に示すように、酸化形態グルタチオン(Glutathione disulfide,GSSH)の添加がないヒトFUSタンパク質の可溶性画分は、高い水準の可溶性を37℃の条件で2時間の間維持することを確認した。
【0115】
また、酸化形態グルタチオン(Glutathione disulfide,GSSH)を添加して、グルタチオニル化したヒトFUSタンパク質の可溶性画分の可溶性を上記のような条件で測定した結果、可溶性の程度が90%の水準から20%の水準に急激に減少することを確認した。
【0116】
上記の結果および実施例5の結果を総合してFUSタンパク質のグルタチオニル化がFUSタンパク質凝集体の形成を誘導することを確認した。
【0117】
6-2.FUSのRanBP2亜鉛-フィンガードメインの3次元相同モデル分析
Cys-447残基の相対的位置の構造的根拠を獲得するために、I-TASSER serverを使用してヒトFUSタンパク質内RanBP2亜鉛-フィンガードメインの3次元相同モデルを生成し、前記RanBP2亜鉛-フィンガードメインモデルは、PDB(protein database bank)で構造相同性領域を有するタンパク質を探索するのに使用された。
【0118】
その結果、
図9に示すように、RanBP2亜鉛-フィンガードメイン内Cys-447残基が酸化的変形のために表面に露出していることを確認した。このようにエツクトェン3次元相同モデルの構造に基づいて、ヒトFUSタンパク質のグルタチオニル化においてCys-447の高い感受性(susceptibility)を提示し、RanBP2亜鉛-フィンガードメイン内で構造変化の可能性を証明した。
【0119】
実施例7.FUSのグルタチオニル化確認
グルタチオニル化は、システインと還元されたグルタチオン(GSH)との間のジスルフィド結合の結果であって、これによって、タンパク質構造および機能の変化をもたらすことができることが知られている。
【0120】
これにより、FUSのグルタチオニル化が起こるか否かを確認するために、in vitroグルタチオニル化分析を行った結果、
図10aに示されたように、野生FUSタンパク質は、多様な濃度の酸化型グルタチオン(GSSG)の存在下にグルタチオニル化することを確認し、また、FUSのグルタチオニル化を抗-GSHおよび抗-myc抗体でウェスタンブロット分析を行った結果、グルタチオニル化したFUSは、混合ジスルフィド(disulfide)結合を切断する2-メルカプトエタノール(2-mercaptoethanol)またはジチオトレイトール(dithiothreitol)のような還元剤を処理する場合、FUSに還元されることを確認した。すなわち、GSSGの濃度に依存的にFUSタンパク質のグルタチオニル化が起こることを確認することができた。
【0121】
また、in vivoでFUSのグルタチオニル化を確認するために、ニューロンで特異的に発現するヒトFUSをelav-Gal4 driverを使用してショウジョウバエのニューロンで発現した。
【0122】
その結果、
図10bの白色矢印に示されたように、FUSタンパク質は、主にニューロンの核に限定されたが、FUSが過発現したハエ頭脳のニューロンで細胞質のFUS凝集体が多く観察されたことを確認することができた。また、興味深くにも、細胞質および誤って局在した(mislocalized)FUSは、in vitro研究に示された結果と同様に、脳組織でGSHと共に共通配置されることを確認することができた。
【0123】
次に、FUSおよびこれの突然変異であるFUS
P252Lのグルタチオニル化が哺乳類システムでも上記のような結果を示すかを確認してみるために、マウス神経芽細胞腫(neuroblastoma)細胞株であるNeuron2a(N2a)でhuman FUSとFUS
P525Lを発現させてみた結果、
図10cに示されたように、GSH-陽性信号がFUSまたはFUS
P525L凝集体に限定されて示されることを確認できた。
【0124】
したがって、FUSとFUSP525Lがin vitroおよびin vivoの両方でグルタチオニル化することを確認することができた。
【0125】
最終的に、グルタチオニル化部位を同定するために、myc-タグヒトFUSをin vitroでグルタチオニル化を誘導し、クマシー染色ゲル(coomassie stained gel)を通じてバンドを検出した後、FUSタンパク質バンドをゲルから摘出し、トリプシン消化させた後、MALDI-質量分析法で分析を進めた。
【0126】
その結果、
図5に示されたように、一つのGSH moietyを示す305 Daの質量差異を有するペプチドが質量分析により検出された。FUSのRanBP2 zinc-finger(ZnF)ドメインは、4個のシステインを有していて、生体内酸化ストレスに敏感でありうる。
【0127】
また、真核生物のうちシステイン保存に対するFUS配列を調査し、4個のシステインが全部ハエからヒトまでよく保存されることを確認でき、このうち、RanBP2型ZnFドメイン、Cys-447(
図7、矢印)でグルタチオニル化する部位を確認した。
【0128】
したがって、ヒトFUSがCys-447残基で特異的にグルタチオニル化することを確認することができた。
【0129】
実施例8.FUSのグルタチオニル化による凝集体形成の確認
翻訳後変形(Post-translational modification)は、ALS(amyotrophic lateral sclerosis)を含む様々な神経退行性疾患で病因性タンパク質凝集に重要なメディエータとして知られてきた。本発明者らは、
図1bに示されたように、すでに細胞質または間違って配置されたFUSタンパク質は、ショウジョウバエ頭脳でGSHと共に共通配置されることを確認することができた。上記実験的背景は、FUSのZnFドメインでCys-477のグルタチオニル化がFUS凝集体の発生可能性を示す。したがって、細胞質内FUS凝集がFUSグルタチオニル化により調節され得ると予測した。
【0130】
これにより、Cys-477の残基でのFUSグルタチオニル化がFUSタンパク質の凝集を調節するか否かを確認するために、FUSに対する溶解度試験を行った。
【0131】
より具体的に、HEK293細胞で精製されたmyc-タグヒトFUSタンパク質をGSSGと共に添加して培養することによって、グルタチオニル化を誘導し、タンパク質毒性ストレスを与えるために熱衝撃に露出させた(
図7参照)。
【0132】
FUS溶解度は、ウェスタンブロット分析で各サンプルの上澄み液およびペレット画分でFUSタンパク質を異なる時点で定量化して評価した。
【0133】
その結果、
図8に示されたように、GSSG処理がないFUSタンパク質は、37℃で2時間の間高い可溶性で残ることができるが、GSSGを処理してグルタチオニル化を誘導した後、可溶性画分のFUSタンパク質は、2時間後からGSSGを処理しないFUSタンパク質と比較して溶解度が90%から20%に急激に減少することを確認することができた。
【0134】
これは、FUSのグルタチオニル化は、凝集体の形成を有意に誘導することを示すものであり、Cys-447残基のFUSグルタチオニル化がタンパク質凝集を誘導し、FUS凝集体形成の重要な決定因子として、システイングルタチオニル化を支持できる仮説を証明することができた。
【0135】
また、Cys-447残基の相対的位置に対する構造的根拠をさらに評価するために、I-TASSERサーバーを使用してヒトFUS ZnFドメインの3次元相同モデルを生成し、前記FUS ZnFドメインモデルは、PDB(protein database bank)で構造相同性領域を有するタンパク質を探索するのに使用された。
【0136】
その結果、
図9に示されたように、ZnFドメイン内のCys-447残基が酸化的変形のために表面に露出していることを確認でき、これは、グルタチオニル化に対するCys-447の高い感受性を立証することができることを提示し、ZnFドメイン内で構造変化の可能性を示した。
【0137】
実施例9.GstO2のFUSによる神経細胞毒性抑制効果の確認
グルタチオニル化したFUSによる病理を減らすために、グルタチオニル化過程を調節できる正確な分子メカニズムおよびタンパク質を確認しようとし、GSTO(omega class glutathione transferase)を潜在的な候補物質として選定した。
【0138】
ヒトGSTO1は、以前の報告によれば、脱グルタチオニル化酵素として作用することができることが知られており、また、本発明者らは、以前にヒトGSTO1のショウジョウバエ相同染色体であるGstO2がショウジョウバエPDモデル(Kim et al.,2012)でATP合成酵素β subunitのグルタチオニル化を調節することによって、神経毒性を抑制することを報告したことがある。
【0139】
上記背景知識を基に、本発明者らは、FUSにより誘発されたALS発病機序でグルタチオニル化の新しい役割と調節因子を確認するために、ショウジョウバエを遺伝ツールとして利用した。まず、GstO2の増加がショウジョウバエでヒトFUSの過発現による表現型を緩和させることができるか否かを確認しようとした。
【0140】
より具体的に、ショウジョウバエでGstO2およびFUS間の機能的関係を評価するために、GstO2の過発現および眼に特異的な(eye-specific)Gal4、GMR-Gal4により誘導されたFUSが発現した形質転換ショウジョウバエを生成した。
【0141】
なお、ショウジョウバエ遺伝接近法を使用した最近の研究によれば、成虫の眼でFUS発現は、荒い眼の表現型を示すことが知られているが、以前の報告と同様に、FUS発現が荒い眼の表現型を示し、ommatidial組織を破裂させることを確認した。
【0142】
しかし、FUSとGstO2の同時発現は、荒い眼の表現型を顕著に回復させることを確認でき、単独GstO2発現ハエで破裂した眼の変化も発見されなかった(
図11a)。上記結果は、GstO2がショウジョウバエでFUSと遺伝的に相互作用することを示す。
【0143】
次に、pan-neuronal Gal4、elav-Gla4を使用してFUS発現による運動性欠陥機序を確認するために、ニューロンでFUSを発現する幼虫の運動性を調査するlarval crawling実験を行った。
【0144】
その結果、
図11bに示されたように、ニューロンでFUSを発現するショウジョウバエは、対照群と比較して運動性が大きく減少することを確認できたが、GstO2と同時発現させた場合、幼虫のクローリング活動を向上させることを確認した。他方で、GstO2-ノックダウンFUSを発現する幼虫の場合には、クローリング活動を失うことを確認することができた。なお、単独GstO2の過発現またはノックダウンは、幼虫のクローリング活動に何の影響を及ぼさないことを確認することができた。
【0145】
上記結果から、本発明の発明者らは、幼虫の運動性欠陥がNMJ(neuron muscular junction)で欠陥から引き起こされるか否かを確認するために、NMJでシナプスボタン(synaptic bouton)の数を調査した。
【0146】
その結果、
図11cに示されたように、elav-Gal4の調節下にFUSを発現させたハエのNMJで総ボタン数が顕著に減少することを確認したが、この表現型は、GstO2の同時発現により顕著に回復され、ただし、GstO2自体だけでは、ボタン数の減少を抑制する効果はなかったが、GstO2-ノックダウンFUSを発現するハエは、NMJでボタン数が減少しないことを確認することができた。
【0147】
また、
図11dに示されたように、ニューロンでFUSの発現は、寿命を大きく短縮させるが、GstO2の同時発現により寿命を回復させることを確認することができた。しかし、
図11eに示されたように、FUSを発現するハエでGstO2-ノックダウンは、部分的に寿命を短縮させるだけでなく、GstO2 RNAiにより影響を受けなかった。
【0148】
なお、Negative geotaxis分析は、ALSを含む多様な神経退行性疾患研究で神経システムの機能障害を評価する分析であって、本発明によるショウジョウバエモデルシステムに適用した結果、
図11fに示されたように、以前の研究と一致するが如く、FUS-発現ハエは、年齢-マッチング対照群と比較して顕著に減少したクライミング活性を示すことを確認したが、ニューロンでGstO2の同時発現したFUS-発現ハエの場合には、クライミング欠損を顕著に抑制させることができることを確認した。この際、単独GstO2過発現は、クライミング能力に影響を及ぼさないことを確認することができた。
【0149】
したがって、上記データから、GstO2発現調節を通じてFUSで誘導された神経毒性を顕著に抑制または強化させることができることを確認することができた。
【0150】
実施例10.GstO2によるFUSで誘導されたミトコンドリア力学およびOXPHOS機能障害抑制の確認
異常なミトコンドリアがALSの動物モデルで一貫して観察されることが知られている(Dal Canto and Gurney、1994;Magrane et al.,2014)。また、運動ニューロンで突然変異FUSの過発現は、ミトコンドリアの分裂を起こし(Tradewell et al.,2012)、NSC34運動ニューロン細胞に野生型および突然変異形態のFUSの発現は、ミトコンドリアATP生産を減少させた(Stoica et al.,2016)。たとえ多様な以前の研究でミトコンドリア機能障害がALSの共通した特徴として残っているが、FUS誘導によるタンパク質病症でミトコンドリア力学およびOXPHOS(oxidative phosphorylation)システムの機能障害がALS発病機序に主要な原因であることは未だ立証されていない。これにより、本発明者らは、以前の研究でミトコンドリア分裂がFUS-発現ハエの筋肉または運動ニューロンで強化されることを確認し、ミトコンドリア融合タンパク質によるMarf不安定性によりミトコンドリア力学の不均衡を引き起こすことを確認した(Altanbyek et al.,2016)。
【0151】
前記研究結果を基に、GstO2発現がFUS発現ハエのミトコンドリア分裂を抑制するか否かを確認しようとし、このために、胸部の筋肉でFUSを発現するハエのGstO2の影響を特性化した。
【0152】
前記GstO2の影響を特性化するために、FUS発現ショウジョウバエラインを筋肉特異的Gal4、Mhc-Gal4と交差させた後、ミトコンドリアは、ミトコンドリア-標的GFP(mitoGFP)を発現させることによって視覚化した。
【0153】
その結果、
図12aに示されたように、FUS-発現ハエの場合、ミトコンドリアのサイズが対照群と比較してひどく小さく、断片的なミトコンドリアを確認でき、単独GstO2の過発現群は、ミトコンドリア形態の検出可能な変化を発見することはできなかった。しかし、FUS-発現ハエでGstO2を同時発現させた場合、ミトコンドリアのサイズが劇的に回復されることを確認することができた。
【0154】
次に、GstO2が運動ニューロンでミトコンドリアの形態を回復させるか否かを確認するために、mitoGFPと共に運動神経特異的Gal4、D42-Gal4を使用してGstO2を過発現させた。
【0155】
その結果、
図12bに示されたように、FUS-発現ハエの筋肉で分裂したミトコンドリアに対するGstO2の回復効果と一致するが如く、成虫ハエの足の運動ニューロンでFUSの発現は、ミトコンドリア分裂を増加させることを確認することができた。しかし、このような表現型も、GstO2の同時発現により抑制されることを確認することができた。
【0156】
また、ミトコンドリア分裂がミトコンドリア力学を調節するタンパク質の機能障害によるものであるかを調査した。本発明者らは、以前の研究でFUS-発現ハエで減少したMarf発現がミトコンドリアの過度な分裂を誘導することを確認したところ(Altanbyek et al.,2016)、Marf発現がGstO2により変化するか否かを評価した。
【0157】
その結果、
図12cに示されたように、GstO2と同時発現したFUSハエのMarf発現が豊富に増加することを確認できたが、Opa1水準は、そのまま残っていることを確認することができた。
【0158】
次に、FUS過発現でミトコンドリアの形態学的変化がOXPHOSシステムに影響を及ぼすかを確認するために、FUS-誘導ALSで不均衡なミトコンドリア力学の機能的関連性を評価した。より具体的に、FUS-発現ハエの様々な複合サブユニットの水準を分析して、間接的に測定されたETC(electron transport chain)でミトコンドリア複合体の含量を測定した。
【0159】
その結果、
図12dに示されたように、FUS-発現ハエは、複合体IサブユニットであるNDUFS3および複合体IIIサブユニットであるUQCRC2を顕著に減少させたが、複合体VであるATP5Aのα-サブユニットはほとんど変化しないことを確認することができた。なお、ショウジョウバエの複合体IIおよびIVサブユニットのうちいずれか一つと交差反応する抗体を探すことができなかったので、これらの含量を測定することができなかった。この際、FUSを利用したGstO2の過発現は、NUDFS3およびUQCRC2の濃度を対照群と類似の水準に回復させることを確認することができた。
【0160】
複合体アセンブリーをさらに研究するために、成虫ハエの胸部の組織から精製されたミトコンドリアに対するBN-PAGE(blue native gel electrophoresis)を行った。
【0161】
その結果、
図12eに示されたように、FUS発現ハエで複合体IおよびIIIサブユニットの発現減少効果と一致するように組み立て複合体IおよびIIIの水準は、FUS発現ハエでBN-PAGEで減少することを確認することができた。特に、FUS誘導複合体IおよびIIIの解体は、また、GstO2の過発現により緩和され得るが、複合体Vアセンブリーの状態は、すべての突然変異ラインでも変わらないことを確認した。
【0162】
次に、GstO2がミトコンドリア機能性を回復させることができるか否かを確認するために、mitoSOXを使用してFUS発現ハエで活性酸素種(ROS)のミトコンドリア生産を測定した。
【0163】
その結果、
図12fに示されたように、ROS生産がFUS-発現ハエで増加することを確認し、GstO2発現により回復することを確認することができた。
【0164】
また、ミトコンドリアは、ATPの形態で細胞エネルギーを生産するが、FUS-発現ハエでATP水準が対照群に比べて顕著に減少することを確認することができた(
図12g)。
【0165】
GstO2が細胞質内部酸化ストレスの増加を減少させることができるか否かを細胞質内酸化したタンパク質の量を測定した。
【0166】
その結果、
図12hに示されたように、酸化したタンパク質がFUS-発現ハエで増加することを観察し、GstO2発現により回復することを確認することができた。
【0167】
したがって、FUSにより誘導された細胞質内部酸化ストレスとミトコンドリア力学不均衡および機能障害をGstO2により顕著に予防できることを確認することができた。
【0168】
実施例11.GstO2によるショウジョウバエ神経細胞でFUSの凝集体形成抑制効果の確認
GstO2過発現がショウジョウバエでFUS発現により引き起こされたすべての欠陥表現型の抑制を確認する上記結果は、GstO2が神経細胞で病因因子であるFUSの減少を促進させることができることを示唆する。
【0169】
これにより、GstO2によるショウジョウバエ神経細胞でのFUSの凝集体形成抑制効果を確認するために、FUS-発現成虫ハエの脳抽出物の免疫ブロッティングを進めた結果、GstO2の同時発現は、FUS水準に影響を及ぼさないことを確認できたが(
図13a参照)、
図13bに示されたように、FUS-発現ハエでGstO2のノックダウンは、FUSタンパク質を増加させることを確認することができた。
【0170】
次に、GstO2の発現が脳組織でFUSのmislocalizationを抑制するか否かを確認するために、細胞質および核でFUS水準を測定するための核/細胞質画分分析を行った。
【0171】
その結果、
図13cに示されたように、GstO2-FUSの同時発現でFUSタンパク質水準が細胞質画分では減少したが、核画分では減少しないことを確認することができた。したがって、GstO2が細胞質でFUSタンパク質水準を減少させることによって、FUS毒性抑制子として作用する可能性があることを確認することができた。
【0172】
トランスジェニックハエでFUS凝集に対するGstO2の影響をさらに調べてみるために、多様な遺伝子型のハエ頭を収集し、変形された溶解緩衝液で溶解させた後、洗剤可溶性および不溶性画分に分離した。
【0173】
その結果、
図13dに示されたように、GstO2およびFUSを同時発現ハエは、可溶性画分でFUS量を有意的に増加させ、不溶性画分では、FUS量を減少させることを確認することができた。他方で、GstO2の神経細胞特異的ノックダウンは、可溶性画分から不溶性画分にFUS転換を誘導することを確認することができた。また、FUS-発現ハエと比較してGstO2同時発現ハエで不溶性/可溶性FUSの比率が>40%に減少したのに対し、GstO2ノックダウンFUS-発現ハエでは、不溶性/可溶性FUSの比率が大きく増加することを可溶性および不溶性FUSの定量化を通じて知ることができた。
【0174】
他方で、
図13eに示されたように、GSTO1またはGstO3のうちいずれか一つのノックダウンは、免疫ブロッティング(immunoblotting)によりFUS凝集を向上させるには十分でなかった。
【0175】
したがって、GstOファミリーのうちGstO2が細胞質でFUS凝集体形成を調節することによって、FUSで誘導されたALSで保護機能を有することを示す。
【0176】
細胞質で増加したFUS発現は、FUSとミトコンドリアの結合を促進し、ミトコンドリア機能障害を誘導することが知られているが(Deng et al.,2015)、GstO2がミトコンドリアのFUS水準を調節するかを確認するために、ハエ筋肉組織でFUSとGstO2を同時発現させた後、精製されたミトコンドリアからFUS水準をウェスタンブロッティングで調査した。
【0177】
その結果、
図13fに示されたように、ミトコンドリアFUS水準がGstO2同時発現ハエで顕著に減少することを確認することができた。
【0178】
実施例12.GstO2によるショウジョウバエ神経細胞でFUSのグルタチオニル化調節の確認
GstO2によるFUS-発現ハエの表現型の回復は、FUSのグルタチオニル化と関連することができ、これにより、本発明者らは、GstO2がショウジョウバエ脳でFUSグルタチオニル化および凝集を調節できるという仮説をたて、これを確認するために、次のような実験を行った。
【0179】
まず、FUS-発現成虫ハエ脳組織に対する二重免疫蛍光分析結果、
図5aに示されたように、FUS凝集体が細胞質でGSHと共に同時局所化されることを確認できたが、GstO2同時発現は、FUS凝集体形成の増加を抑制し、FUSのグルタチオンソンを減少させることを確認することができた。次に、RNAiを利用してGstO2が下向き調節された細胞質FUSのグルタチオニル化誘導凝集を分析した。その結果、GstO2ノックダウンは、細胞質FUS凝集体およびグルタチオン性を増加させることを確認することができた。
【0180】
上記からFUSのGstO2によるdeglutathionylationが神経細胞の細胞質でFUS凝集体形成を抑制し、FUSによる神経毒性を遅延させるのに有用に使用され得ることが予測される。
【0181】
次に、内因性(endogenous)GstO2が神経細胞でFUSと相互作用するか否かの確認を調査した。その結果、
図5bに示されたように、内因性GstO2局所化は、ショウジョウバエ神経細胞細胞質に分散しており、内因性GstO2は、FUS-発現ハエで細胞質FUS凝集体と同時位置していることを確認したところ、GstO2とFUSが相互作用していることを裏付け、GstO2がFUS誘導性ALSで役割を果たすことができることを類推することができた。
【0182】
実施例13.GstO2によるショウジョウバエでFUS
P525L
誘導神経毒性および不溶性抑制の確認
以前の研究によれば、ALS患者大部分からFUS突然変異が確認されており(Mackenzie et al.,2010)、FUSP525L変種は、細胞質mislocalizationを示し、急性FUS誘発-ALSと関連があり(Sun et al.,2011)、FUS野生型およびこれの変種であるFUSP525Lは、ショウジョウバエで荒い眼、運動性減少などの同じ表現型を示すことが知られている(Chen et al.,2016;Jackel et al.,2015)。
【0183】
本発明の一実施例の
図10cでのFUS
P525Lがneuro2aの細胞質でグルタチオニル化を確認した結果を基礎としてGstO2がショウジョウバエ脳でFUS
P525L発現による表現型に寄与できるものと予想し、下記のような実験を行った。
【0184】
より具体的に、GstO2発現がFUSP525L誘発運動欠損を抑制することができるか否かを確認するために、elav-Gal4を使用して神経細胞にFUSの突然変異形態であるFUSP525Lを発現させ、幼虫運動性の確認実験を行った。この際、FUSP525L突然変異は、野生型FUSより毒性を示さなかった。
【0185】
その結果、
図15aに示されたように、FUS発現ハエと類似に、幼虫のクローリング活性が約40%減少することを確認でき、GstO2の同時発現により、クローリングを反対に活性化させることを確認し、
図15bに示されたように、GstO2発現は、成虫ハエ脳の全体抽出物でFUS
P525L水準に影響を及ぼさなかった。
【0186】
次に、FUS
P525L溶解度に対するGstO2の影響を確認しようとした。その結果、
図15cに示されたように、FUS
P525L-単独発現ハエと比較してGstO2同時発現ハエでの不溶性/可溶性FUS
P525Lの比率が50%以上減少することを可溶性および不溶性FUS
P525Lの定量化を通じて立証した。
【0187】
総合的に、GstO2がタンパク質凝集体形成を通したFUSP525Lの毒性を調節することを確認することができた。
【0188】
実施例14.哺乳類でのFUS誘導神経毒性調節の確認
FUS誘導神経細胞毒性に対するGstO2の回復効果が哺乳類システムにも適用されるかを確認するために、GstO2のヒト相同染色体であるGSTO1に対するMyc-DDK-GSTO1融合タンパク質を発現する安定N2a細胞株を開発し(
図16a参照)、これを利用してGFP-タグFUSを前記GSTO1安定細胞株に形質感染させた後、FUSに対するGSTO1の影響を調査した。
【0189】
その結果、
図16bに示されたように、FUS-発現ハエと比較してGSTO1同時発現ハエで不溶性/可溶性FUSの比率が50%以上減少することを可溶性および不溶性FUS定量化を通じて確認した。
【0190】
次に、FUSの増加した発現が哺乳類神経細胞での細胞死滅を促進するという以前の研究結果(Deng et al.,2015)を基礎としてFUS-誘導細胞死に対するGSTO1の影響を調査するために、N2a細胞を抗-切断型カスパーゼ3抗体と共に染色を通じて確認した。
【0191】
その結果、
図16cに示されたように、切断型カスパーゼ3信号が対照群細胞と比較してFUS-GFPを発現するN2a細胞で有意に増加することを確認できたが、FUSがGSTO1と同時発現するとき、切断型カスパーゼ3信号が減少して神経細胞死滅表現型が回復することを確認した。
【0192】
したがって、GstO2のヒト相同染色体であるGSTO1の発現も、ALSの哺乳類神経細胞モデルでFUS不溶性およびFUS誘導細胞死を改善させることを確認することができた。
【0193】
前述した本発明の説明は、例示のためのものであり、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者は、本発明の技術的思想や必須の特徴を変更することなく、他の具体的な形態で容易に変形が可能であることを理解することができる。したがって、以上で記述した実施例は、すべての面において例示的なものであり、限定的でないものと理解しなければならない。
【産業上の利用可能性】
【0194】
本発明のグルタチオニル化したFUSタンパク質を含む、神経系退行性疾患診断用マーカー組成物を通じて筋萎縮性側索硬化症の早期診断が可能であり、GSTO遺伝子または前記遺伝子が暗号化するタンパク質を有効成分として含む、神経系退行性疾患の予防または治療用薬学的組成物を適用して筋萎縮性側索硬化症の治療に利用することができる。
【配列表】