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特許7627525リチウムイオン二次電池の正極の処理方法
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  • 特許-リチウムイオン二次電池の正極の処理方法 図1
  • 特許-リチウムイオン二次電池の正極の処理方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-29
(45)【発行日】2025-02-06
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池の正極の処理方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/54 20060101AFI20250130BHJP
   C22B 7/00 20060101ALI20250130BHJP
   C22B 23/02 20060101ALI20250130BHJP
   C22B 26/12 20060101ALI20250130BHJP
【FI】
H01M10/54
C22B7/00 C
C22B23/02
C22B26/12
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2024108435
(22)【出願日】2024-07-04
【審査請求日】2024-07-18
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000231372
【氏名又は名称】日本重化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002675
【氏名又は名称】弁理士法人ドライト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 洋路
(72)【発明者】
【氏名】岡本 貴博
(72)【発明者】
【氏名】加藤 藍
【審査官】新田 亮
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-097076(JP,A)
【文献】特開2018-120716(JP,A)
【文献】特開2023-150694(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/54
C22B 7/00
C22B 23/02
C22B 26/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウムを含む箔と、ニッケル及び/又はコバルトとリチウムとを含む金属複合酸化物としての活物質とを有する正極を備えるリチウムイオン二次電池の正極の処理方法であって、
前記正極を450℃未満の温度で水素還元又は炭素還元する還元工程で、前記箔と、金属としてのニッケル及び/又は金属としてのコバルトと、リチウムとを分離して得るリチウムイオン二次電池の正極の処理方法。
【請求項2】
前記正極を水素還元又は炭素還元する温度が200℃超である請求項1に記載のリチウムイオン二次電池の正極の処理方法。
【請求項3】
水素還元又は炭素還元された前記正極を処理液で洗浄することで、前記箔を固体として分離し、前記金属としてのニッケル及び/又は金属としてのコバルトを固体として分離し、前記リチウムを前記処理液に溶解したリチウム溶解液として分離する請求項1又は2に記載のリチウムイオン二次電池の正極の処理方法。
【請求項4】
前記処理液は、水、過酸化水素水、又はアルコールである請求項3に記載のリチウムイオン二次電池の正極の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池の正極の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、ハイブリッド自動車や電気自動車に搭載される蓄電池として用いられており、近年、急激に需要が高まっている。リチウムイオン二次電池の需要増加に伴い、使用済みリチウムイオン二次電池、不良品リチウムイオン二次電池、リチウムイオン二次電池の製造工程で生じる工程屑の量も増加傾向にある。リチウムイオン二次電池の正極(正極板とも言う)には、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、リチウム(Li)等の有価物が含まれており、資源の有効利用のために、ニッケル、コバルト、リチウム等の有価物を回収する方法が開発されている。
【0003】
特許文献1には、廃リチウムイオン二次電池から回収した正極を熱処理し、粉砕処理することで、アルミニウム(Al)を含む箔としての集電体とニッケル、コバルト及びマンガン(Mn)を含むリチウム金属酸化物としての活物質とを分離し、活物質を400~700℃で水素還元し、水洗処理することで、ニッケル、コバルト及びマンガンを含む金属材料とリチウムとを分離して回収する方法が開示されている。
【0004】
特許文献2には、廃リチウムイオン二次電池から回収した正極を切断し、アルカリ溶液中に浸漬撹拌することで、アルミニウム箔としての集電体とニッケル、コバルト、マンガン、リチウムを含む活物質とを分離して回収する方法が開示されている。
【0005】
特許文献3には、廃リチウムイオン二次電池の正極のコバルト酸リチウムを400℃以上で水素還元し、水で浸出することで、リチウムとコバルトとを分離して回収する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特表2021-521580号公報
【文献】特開2011-154833号公報
【文献】特開2004-011010号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載された方法では、アルミニウム箔と活物質との分離が不十分であり、粉砕された活物質にアルミニウム箔片が混入して活物質の回収率が悪化するので、アルミニウム箔片を除去する工程が必要であり、工数が増加するという問題がある。
【0008】
特許文献2に記載された方法では、活物質からニッケル、コバルト及びマンガンを含む金属材料とリチウムとを分離する工程が必要であり、工数が増加するという問題がある。集電体に含まれるアルミニウムと活物質に含まれるリチウムとがアルカリ溶液に溶出するので、アルカリ溶液に溶出したリチウムを回収する場合には、アルカリ溶液からアルミニウムを除去する工程が必要であった。
【0009】
特許文献3に記載された方法では、正極を集電体と活物質としてのコバルト酸リチウムとに分離する工程が必要であった。
【0010】
そこで本発明は、ニッケル及び/又はコバルトを含む金属材料とリチウムとを効率良く回収することができるリチウムイオン二次電池の正極の処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係るリチウムイオン二次電池の正極の処理方法は、アルミニウムを含む箔と、ニッケル及び/又はコバルトとリチウムとを含む金属複合酸化物としての活物質とを有する正極を備えるリチウムイオン二次電池の正極の処理方法であって、前記正極を450℃未満の温度で水素還元又は炭素還元することで、前記箔と、ニッケル及び/又はコバルトを含む金属材料と、リチウムとを分離して得る。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、箔と、ニッケル及び/又はコバルトを含む金属材料と、リチウムとを一の工程で分離して得ることができるので、ニッケル及び/又はコバルトを含む金属材料とリチウムとを効率良く回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本実施形態に係るリチウムイオン二次電池の正極の処理方法を説明するフローチャートである。
図2】洗浄後の実施例1~4の正極に含まれるAl箔と比較例1の正極に含まれるAl箔との外観を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
1.実施形態
以下、図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0015】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池の正極の処理方法は、正極からニッケル(Ni)及び/又はコバルト(Co)を含む金属材料とリチウム(Li)とを回収する方法である。まず、リチウムイオン二次電池の構成について説明する。
【0016】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池の正極の処理方法に使用されるリチウムイオン二次電池は、電気自動車やハイブリッド自動車等の自動車の電源として利用された使用済みのリチウムイオン二次電池である。リチウムイオン二次電池は、使用済みのものに限られず、製造後に不良が確認された未使用のリチウムイオン二次電池でも良い。本実施形態に係るリチウムイオン二次電池の正極の処理方法において処理対象となる正極は、使用済みのリチウムイオン二次電池から取り出した正極、未使用のリチウムイオン二次電池から取り出した正極、リチウムイオン二次電池の製造工程における工程屑(例えば電極体の不良品等)から取り出した正極、正極の製造工程における工程屑等でも良い。正極は、使用済み又は未使用のリチウムイオン二次電池から取り出した圧縮された正極(圧縮正極板とも言う)に限られず、製造工程で生じる工程屑等の圧縮されていない正極でも良い。
【0017】
リチウムイオン二次電池は、セル容器に、電極体と電解液とを備える。セル容器は、例えばアルミニウム合金製である。
【0018】
電極体は、セパレータを介して捲回された正極と負極とを含む。電極体は、捲回型である場合に限られず、正極、負極、及びセパレータを積層した積層型でも良い。
【0019】
正極は、正極集電体及び正極活物質層を有する。正極集電体はアルミニウムを含む箔(以下、Al箔とも言う)である。正極活物質層は、正極活物質、バインダー、及び導電材を含む。
【0020】
正極活物質としては、ニッケル及び/又はコバルトとリチウムとを含有する任意の金属複合酸化物を用いることができる。例えば、正極活物質は、リチウムニッケル複合酸化物、リチウムコバルト複合酸化物、リチウムニッケルコバルト複合酸化物、リチウムニッケルマンガン複合酸化物、リチウムコバルトマンガン複合酸化物、リチウムニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物等から選択することができる。本実施形態においては、正極活物質は、リチウムニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物である。
【0021】
負極は、負極集電体及び負極活物質層を有する。例えば、負極集電体は銅(Cu)箔であり、負極活物質は黒鉛である。
【0022】
電解液は、溶媒と、リチウム塩(電解質)とを含む。溶媒としては、カーボネート類、例えば、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ブチレンカーボネート(BC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)等が用いられる。これらの溶媒は、1種類単独又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0023】
電解質としては、フッ素化合物を含むもの、例えば、LiPF(ヘキサフルオロリン酸リチウム)、LiBF(テトラフルオロホウ酸リチウム)、LiTFSA(リチウムトリフルオロメタンスルホニルアミド)、LiTFSI(リチウムビス(トリフルオロメタン)スルホンイミド)等が用いられる。
【0024】
上記ではセパレータ及び電解液を用いた構成について説明したが、これに限定されず、セパレータ及び電解液に代えて、固体電解質を用いた構成でも良い。
【0025】
次に、リチウムイオン二次電池の正極の処理方法について説明する。リチウムイオン二次電池の正極の処理方法は、アルミニウムを含む箔(Al箔)とニッケル及び/又はコバルトとリチウムとを含む金属複合酸化物としての活物質とを有する正極を備えるリチウムイオン二次電池の正極の処理方法であって、正極を450℃未満の温度で水素還元又は炭素還元することで、Al箔と、ニッケル及び/又はコバルトを含む金属材料と、リチウムとを分離して得る。
【0026】
図1は、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池の正極の処理方法を説明するフローチャートである。図1に示すように、リチウムイオン二次電池の正極の処理方法は、準備工程S10と、還元工程S11と、洗浄工程S12と、回収工程S13とを有する。各工程について、以下に詳細な説明を行う。
【0027】
[準備工程]
準備工程S10では、リチウムイオン二次電池の正極の処理方法に使用される正極を準備する。本実施形態では、使用済みのリチウムイオン二次電池のセル容器を開封し、セル容器から取り出した捲回型の電極体を巻き戻すことにより、シート状の正極を準備する。準備した正極は、次工程である還元工程S11に供される。なお、準備工程S10では、リチウムイオン二次電池を放電させる放電工程、放電させたリチウムイオン二次電池のセル容器内を洗浄液で洗浄するセル内洗浄工程、シュレッダー等を用いてシート状の正極を裁断する裁断工程等を行っても良い。準備工程S10で準備する正極は、使用済みのリチウムイオン二次電池から取り出した正極に限られず、未使用のリチウムイオン二次電池から取り出した正極、リチウムイオン二次電池の製造工程における工程屑から取り出した正極、正極の製造工程における工程屑でも良い。
【0028】
[還元工程]
還元工程S11では、正極を450℃未満の温度で水素還元又は炭素還元する還元処理を行う。還元処理により、ニッケル及び/又はコバルトとリチウムとを含む金属複合酸化物が還元されてAl箔から剥離し易い状態となる。正極を還元する温度が高すぎると、Al箔が脆化し、活物質が剥離できなくなる。Al箔の脆化は、Al箔に含まれるアルミニウムが正極活物質と反応してアルミン酸リチウムが生成することによると考えられる。正極を還元する温度は、好ましくは400℃以下、さらに好ましくは350℃以下である。
【0029】
正極を還元する温度は200℃超であることが好ましい。正極を還元する温度が低すぎると、金属複合酸化物の還元が進まず、ニッケル及び/又はコバルトを含む金属材料を得ることができなくなり、また、Al箔と活物質とが分離できなくなる。正極を還元する温度は、好ましくは250℃以上、さらに好ましくは300℃以上である。
【0030】
水素還元には、水素を含有するガスが用いられる。水素を含有するガスとしては、水素ガス、アンモニアガス、これらと不活性ガス(窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス等)との混合ガスが挙げられる。
【0031】
炭素還元には、炭素を含有するガスが用いられる。炭素を含有するガスとしては、一酸化炭素ガス、メタンガス等の炭化水素ガス、これらと不活性ガスとの混合ガスが挙げられる。
【0032】
炭素還元は、金属複合酸化物に炭素を含む還元剤を添加し、不活性ガス雰囲気中で450℃未満の温度で還元しても良い。
【0033】
[洗浄工程]
洗浄工程S12では、還元工程S11で還元された正極を処理液で洗浄する洗浄処理を行う。処理液は、正極に含有されるリチウムが溶解し、アルミニウム、ニッケル及び/又はコバルトが溶解しない液体が用いられる。このような処理液を用いることにより、還元された正極からリチウムを選択的に溶解することができる。処理液は、水、過酸化水素水、又はアルコールである。水は、純水、超純水を含む。アルコールは、水溶性アルコールであり、例えば、エタノール、メタノール等が用いられる。
【0034】
洗浄処理は、例えば、還元工程S11で還元された正極を処理液に浸漬することで行われる。洗浄処理を行うことにより、Al箔が処理液中に箔の状態で存在し、ニッケル及び/又はコバルトを含む金属材料が処理液中に粉末の状態で沈殿し、リチウムが処理液に溶解する。Al箔を固体として分離し、ニッケル及び/又はコバルトを含む金属材料を固体として分離し、リチウムを処理液に溶解したリチウム溶解液として分離することができる。
【0035】
[回収工程]
回収工程S13では、Al箔と、ニッケル及び/又はコバルトを含む金属材料と、リチウム溶解液とを分離して回収する。例えば、リチウム溶解液中のAl箔は、網で掬って回収することができる。Al箔を除去した後、ニッケル及び/又はコバルトを含む金属材料が沈殿しているリチウム溶解液を、濾紙等の濾材を用いて濾過することにより、ニッケル及び/又はコバルトを含む金属材料を残渣として回収することができる。リチウム溶解液のリチウム分は、炭酸ガスを用いて炭酸リチウムとして回収することができる。リチウム溶解液のリチウム分は、リチウム溶解液を蒸発させ晶析させて水酸化リチウムとして回収しても良い。
【0036】
2.作用及び効果
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池の正極の処理方法では、正極を450℃未満の温度で水素還元又は炭素還元することで、Al箔の脆化が抑制され、ニッケル及び/又はコバルトとリチウムとを含む金属複合酸化物としての活物質をAl箔から剥離することができる。Al箔と、ニッケル及び/又はコバルトを含む金属材料と、リチウムとを一の工程で分離して得ることができ、工数を削減できるので、ニッケル及び/又はコバルトを含む金属材料とリチウムとを効率良く回収することができる。
【0037】
正極を還元する温度が200℃超であることで、ニッケル及び/又はコバルトとリチウムとを含む金属複合酸化物としての活物質の還元が進み、Al箔から活物質を剥離するとともに、ニッケル及び/又はコバルトを含む金属材料を効率良く回収することができる。
【0038】
還元された正極を処理液で洗浄することで、Al箔を固体として分離し、ニッケル及び/又はコバルトを含む金属材料を固体として分離し、リチウムを処理液に溶解したリチウム溶解液として分離することができ、工数を削減することができる。
【0039】
3.実施例
以下に、本発明の効果を確認するために行った実験について説明する。
【0040】
リチウムイオン二次電池の製造工程で生じた工程屑の正極を準備した(準備工程S10)。準備した正極の正極活物質は、リチウムニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物である。正極におけるAl箔の質量は、7質量%である。
【0041】
次に、正極を反応器に入れ、水素還元処理を行った(還元工程S11)。水素還元処理は、反応器内に100%の水素ガスを充填し、反応器内を400℃、350℃、300℃、250℃の温度まで昇温し、当該温度を3時間保持した。温度保持中に、反応器内を真空引きし、反応器内に100%の水素ガスを再度充填した。このような水素還元処理を行って得られた正極を実施例1~4とした。水素還元温度を200℃に変えたこと以外は実施例1と同様に水素還元処理を行って得られた正極を比較例1とした。水素還元処理後に反応器内の温度を降温させ、反応器内から実施例1~4の正極、比較例1の正極を取り出した。
【0042】
次に、実施例1~4の正極と比較例1の正極とを処理液で洗浄する洗浄処理を行った(洗浄工程S12)。洗浄処理は、実施例1~4の正極と比較例1の正極とを処理液に浸漬することで行った。処理液には水を用いた。処理液中では、洗浄後の実施例1~4の正極に含まれるAl箔と比較例1の正極に含まれるAl箔とが、箔としての形を維持していた。図2は、洗浄後の実施例1~4の正極に含まれるAl箔と比較例1の正極に含まれるAl箔との外観を示す写真である。図2において、Al箔の黒色の部分は、Al箔から剥離されなかった活物質である。水素還元温度が200℃である比較例1では、全体的に黒色であり、活物質がAl箔から剥離されていないことが確認できる。水素還元温度が400℃、350℃である実施例1、2では、黒色の部分が観察され、Al箔に活物質が残っていることが分かる。水素還元温度が300℃、250℃である実施例3、4では、黒色の部分は少なく、Al箔から活物質がほぼ剥離されたことが確認できる。
【0043】
準備工程S10で準備した正極の質量に対する、洗浄後の実施例1~4の正極と比較例1の正極の質量の割合(正極質量割合と言う)を求めた。求めた正極質量割合を表1に示す。準備工程S10で準備した正極におけるAl箔の質量は7質量%であるので、洗浄後に活物質が全て剥離されている場合に、正極質量割合は7質量%となり、活物質が剥離されていない場合に、正極質量割合は100%となる。
【0044】
【表1】
【0045】
表1より、実施例1~4では、正極質量割合が100%よりも小さくなっており、Al箔から活物質が剥離したことが確認できた。実施例1~4を比べると、水素還元温度が300℃、250℃である実施例3、4は、正極質量割合がほぼ7質量%であり、ほぼ全ての活物質が剥離したことが確認できた。水素還元温度が400℃、350℃である実施例1、2は、実施例3、4に対して正極質量割合が大きく、Al箔から剥離しなかった活物質が残っていることが分かる。また、水素還元温度が高いほど正極質量割合が増加する傾向が確認できた。比較例1では、正極質量割合は100%に近く、Al箔から活物質がほとんど剥離しなかったことが確認できた。
【0046】
次に、実施例1~3について、洗浄後に得られたリチウム溶解液を濾過することにより、リチウム溶解液と、残渣としてのニッケル及びコバルトを含む金属材料とを分離して回収した(回収工程S13)。
【0047】
回収したリチウム溶解液について、リチウム、ニッケル、コバルト、アルミニウムの濃度をICP-AES(Inductively Coupled Plasma Atomic Emission Spectrometry)装置(SIIナノテクノロジー株式会社製、SPS3500DD)を用いて測定した。測定した結果を表2に示す。
【0048】
【表2】
【0049】
表2より、実施例1~3は、活物質のニッケル及びコバルトが処理液としての水にほとんど溶解していないことが確認できた。Al箔のアルミニウムは、やや溶解しているが、リチウムの溶解量に比べると非常に少ない。水素還元温度が低いほど、リチウムの溶解量が増加する傾向が確認できた。
【0050】
回収した残渣について、リチウム、ニッケル、コバルトの各金属の回収率を求めた。各金属の回収率は、残渣中の各金属の質量を、水素還元処理前の正極に含まれる各金属の質量で除して求めた。残渣中の各金属の質量と水素還元処理前の正極に含まれる各金属の質量は、ICP-AES装置(SIIナノテクノロジー株式会社製、SPS3500DD)を用いて測定した。求めた回収率を表3に示す。
【0051】
【表3】
【0052】
表3より、実施例1~3は、ニッケルの回収率が50%より高い値となっており、水素還元処理前の正極に含まれるニッケルの多くが金属として回収されたことが確認できた。特に水素還元温度が300℃である実施例3では、ニッケルの回収率が96.1%と100%に近い値となっており、水素還元処理前の正極に含まれるニッケルがほとんど回収されたことが確認できた。水素還元温度が低いほど、ニッケルの回収率が増加する傾向が確認できた。コバルトもニッケルと同様に、水素還元温度が低いほど、コバルトの回収率が増加する傾向が確認できた。水素還元温度が300℃である実施例3では、コバルトの回収率が96.7%と100%に近い値となっており、水素還元処理前の正極に含まれるコバルトがほとんど回収されたことが確認できた。水素還元温度が400℃である実施例1でも、コバルトの回収率がほぼ50%と高い値となっており、水素還元処理前の正極に含まれるコバルトの多くが回収されたことが確認できた。残渣中にはリチウムが含まれているが、ニッケル及びコバルトに比べると非常に少ない。
【0053】
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨の範囲内で適宜変更することが可能である。
【符号の説明】
【0054】
S10 準備工程
S11 還元工程
S12 洗浄工程
S13 回収工程
【要約】
【課題】ニッケル及び/又はコバルトを含む金属材料とリチウムとを効率良く回収することができるリチウムイオン二次電池の正極の処理方法を提供する。
【解決手段】リチウムイオン二次電池の正極の処理方法は、アルミニウムを含む箔と、ニッケル及び/又はコバルトとリチウムとを含む金属複合酸化物としての活物質とを有する正極を備えるリチウムイオン二次電池の正極の処理方法であって、正極を450℃未満の温度で水素還元又は炭素還元することで、箔と、ニッケル及び/又はコバルトを含む金属材料と、リチウムとを分離して得る。
【選択図】図1

図1
図2