IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三井化学株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-培養部材およびその用途 図1
  • 特許-培養部材およびその用途 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-29
(45)【発行日】2025-02-06
(54)【発明の名称】培養部材およびその用途
(51)【国際特許分類】
   C12M 3/00 20060101AFI20250130BHJP
   C12N 5/071 20100101ALI20250130BHJP
【FI】
C12M3/00 A
C12N5/071
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020213855
(22)【出願日】2020-12-23
(65)【公開番号】P2022099831
(43)【公開日】2022-07-05
【審査請求日】2023-10-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】江刺家 勝弘
(72)【発明者】
【氏名】宮廻 寛
(72)【発明者】
【氏名】河関 孝志
(72)【発明者】
【氏名】高村 一夫
【審査官】太田 雄三
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-029092(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0037353(US,A1)
【文献】特開2018-183062(JP,A)
【文献】特開2016-136871(JP,A)
【文献】特開2018-183058(JP,A)
【文献】特開2018-166477(JP,A)
【文献】特開2016-182091(JP,A)
【文献】特開平11-137241(JP,A)
【文献】特開2001-190267(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0038221(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00-3/00
C12N 5/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも底面の一部または全部が、下記培養部材で形成された、少なくとも1つのウェルを有する培養容器;
細胞、組織、または器官をその培養面上で培養する培養部材であり、前記培養部材は樹脂を含み、前記培養面は少なくとも1つの細孔を有し、
前記細孔の平均孔径が、0.1~100μmであり、
前記細孔の総開口面積比率(開口面積の1ウェル当たりの合計/培養部材の培養面の1ウェル当たりの総表面積×100(%))が、0.000001~0.3%である、
培養部材。
【請求項2】
前記培養部材の厚さが20μm~400μmである、請求項1に記載の培養容器。
【請求項3】
前記樹脂が、熱可塑性樹脂である、請求項1又は2に記載の培養容器
【請求項4】
前記樹脂が、ポリスチレン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、および4-メチル-1-ペンテン重合体から選ばれる少なくとも1つである、請求項1~3のいずれか1項に記載の培養容器
【請求項5】
前記細孔の単位面積当たりの個数が、0.01~250個/cm2である、請求項1~4のいずれか1項に記載の培養容器
【請求項6】
前記培養部材の培養面に、天然高分子材料、合成高分子材料、および無機材料からなる群から選ばれる少なくとも1つの材料のコーティング層を有する、請求項1~5のいずれか1項に記載の培養容器
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の培養容器の培養面に、細胞、組織または器官を接触させる工程;および
前記培養面に接触した細胞、組織または器官に酸素を供給する工程;を含む細胞、組織、または器官の培養方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、培養部材およびその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞、組織、器官は、生育に適した条件下でなければ培養できないため、適切な栄養を含む培地と共にディッシュやプレート、フラスコ等の培養容器に入れ、さらに培養容器は温度・湿度・ガス濃度を所定の水準に保つことができるインキュベーター内に静置することが必要である。
【0003】
さらに、上記の培養を効率的に実現するためには、充分かつ適正な酸素供給が行われなければならない。
細胞への酸素供給および培地のpH調整用の二酸化炭素供給のためには、培養容器内への酸素および二酸化炭素等のガスの供給が必要であるので、ガス透過性が低いガラスやポリスチレン等の材料からなる培養容器は、キャップおよび蓋等、培養容器上部に開口部を設けて、インキュベーター内から容器内部へのガス供給を確保している。しかし、培養細胞は通常、培養容器底面に接着している場合、もしくは、底面近傍に浮遊している場合が多く、上面は培地で覆われているので、培地中の酸素拡散速度が律速になり、特に底部の培養細胞への酸素供給は充分でなく、細胞の増殖及び成長が妨げられるという問題が古くから知られている。また、in vivoにより近い状態にしようと、細胞密度を上げて細胞培養を行うと、培養細胞への酸素供給は充分でなく、細胞の増殖及び成長が妨げられるという問題も知られている。
【0004】
細胞への酸素供給を促進するために、培養装置内の酸素分圧を高める等の手段があるが、酸素分圧をコントロールするための専用の培養装置が必要であり、一般的に大気下で培養するための培養装置と比較してコストが高い。また、酸素分圧をコントロールするために使用する酸素ボンベは支燃性ガスであるため、酸化発熱、燃焼、爆発の危険性があり、不燃性ガスである窒素ボンベや炭酸ガスボンベと比較して、酸素ボンベの取り扱いには充分注意する必要がある。
簡便かつ実用的な酸素供給改善方法として、ポリジメチルシロキサン(PDMS)(非特許文献1)、ポリブタジエン(特許文献1)のような高酸素透過度の材料を培養面に使う方法が知られている。しかし、このような高酸素透過度の材料は、強度が弱くて破けやすい場合があり、また、培地を入れた際に撓みを生じやすく、形状が不安定となる場合がある。培養器具に撓みが生じると、容器の変形、または変形に伴う衝撃によって、培養器具内壁に付着していた細胞が剥離する、撓んだ場所に培養中の細胞が集まるなど、効率的に細胞を培養できない。また、培養器具に使う材料によっては、薬剤の収着が起こりやすいため、創薬スクリーニング用途や診断用途での使用が限定されてしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】実開平1-112697号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】酒井康行、“肝培養における酸素供給の改善”、[online]、肝細胞研究会、[平成31年4月9日検索]、インターネット<http://hepato.umin.jp/kouryu/kouryu28.html>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、優れた形状安定性、酸素供給性を有し、細胞の機能を保持したまま高密度での培養が可能である培養部材および培養器具を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した。その結果、以下の構成を有する培養部材などにより上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。本発明は、例えば以下の〔1〕~〔11〕である。
〔1〕 細胞、組織、または器官をその培養面上で培養する培養部材であり、前記培養部材は樹脂を含み、前記培養面は少なくとも1つの細孔を有する、培養部材。
〔2〕 前記樹脂が、熱可塑性樹脂である、〔1〕に記載の培養部材。
〔3〕 前記樹脂が、ポリスチレン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、および4-メチル―1-ペンテン重合体から選ばれる少なくとも1つである、〔1〕または〔2〕に記載の培養部材。
〔4〕 前記細孔の平均孔径が、0.1~100μmである、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の培養部材。
〔5〕 前記細孔の単位面積当たりの個数が、0.01~250個/cm2である、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の培養部材。
〔6〕 前記培養部材の形状がフィルム状またはシート状である、〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の培養部材。
〔7〕 少なくとも培養面が、〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の培養部材で形成された、培養器具。
〔8〕 少なくとも一つのウェルを有する、〔7〕に記載の培養器具。
〔9〕 前記培養部材の培養面に、天然高分子材料、合成高分子材料、および無機材料からなる群から選ばれる少なくとも1つの材料のコーティング層を有する、〔7〕または〔8〕に記載の培養器具。
〔10〕 〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の培養部材の培養面に、細胞、組織または器官を接触させる工程;および
前記培養面に接触した細胞、組織または器官に酸素を供給する工程;を含む細胞、組織、または器官の培養方法。
〔11〕 前記樹脂が熱可塑性樹脂であり、前記細孔の平均孔径が0.1~100μmであり、前記細孔の単位面積当たりの個数が、0.01~250個/cm2である、〔10〕に記載の培養方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、優れた形状安定性、酸素供給性を有し、細胞の機能を保持したまま高密度での培養が可能である培養部材および培養器具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1Aは、24ウェルプレートのウェルの配置例を示す図である。図1Bは、実施例1~4および9~14での、24ウェルプレートの各ウェルにおける細孔の配置を示す図である。図1Cは、実施例5での、24ウェルプレートの各ウェルにおける細孔の配置を示す図である。図1Dは、実施例6での、24ウェルプレートの各ウェルにおける細孔の配置を示す図である。図1Eは、実施例7での、24ウェルプレートの各ウェルにおける細孔の配置を示す図である。図1Fは、実施例8での、24ウェルプレートの各ウェルにおける細孔の配置を示す図である。
図2図2は、実施例1~3および比較例4、5において、細胞播種1日後に細胞を顕微鏡で観察した画像である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
数値範囲に関する「A~B」との記載は、特に断りがなければ、A以上B以下であることを表す。例えば、「1~5%」との記載は、1%以上5%以下を意味する。
【0012】
[培養部材]
本発明に係る(で得られる)培養部材は、その培養面で細胞、組織または器官(以下、細胞等ともいう)を培養する部材であり、前記培養部材は樹脂を含み、前記培養面は少なくとも1つの細孔を有することに特徴がある。
ここで、培養部材とは、細胞等を培養するために用いられる培養器具の少なくとも一部を構成する部材を意味する。培養部材が前記培養器具の一部である場合、少なくとも細胞等を培養する培養面が、本発明の培養部材により構成される。ここで培養面とは、細胞等を培養する際に、培地が形成される面、細胞等が播種される面、または培地が形成されかつ細胞等が播種される面を意味する。すなわち、培養面とは、培地形成予定面および細胞等播種予定面を包含する概念である。
【0013】
本発明の培養部材の形態は特に制限はなく、例えば、フィルム状、シート状であってもよい。前記培養部材が、フィルム状やシート状である場合には、フィルム状またはシート状の培養部材の少なくとも一面を培養面とした、培養器具として好適に用いることができる。
【0014】
本発明の培養部材は、培養面に、細胞等の足場となるための天然高分子材料、合成高分子材料、または無機材料がコーティングされていないものを意味する。
【0015】
本発明の培養部材の厚さは、特に制限されない。また、本発明の培養部材の厚さは、特に制限されないが、20~500μmが好ましく、25~400μmがより好ましく、50~200μmが特に好ましい。
【0016】
培養部材の厚さが前記範囲内であると、細孔を穿孔しやすく、強度に優れる傾向にあり、また酸素供給性に優れる傾向にある。
【0017】
本発明の培養部材を容器底面に配置してディッシュ(シャーレとも称す)、フラスコ、インサートまたはプレート等の培養器具を作製する際の培養部材の厚みは特に限定されないが、好ましくは20μm~400μm、より好ましくは20μm~300μm、さらに好ましくは20μm~200μmの厚みである。培養器具の形態に応じて適時選ばれるが、上記上下限の範囲に調整することで細胞が増殖する上で必要な適度な培地中の酸素濃度が得られやすく、充分な強度を持つ、好適な培養器具を作製しやすくなる。
【0018】
本発明の培養部材は、スフェロイドの作成や細胞の足場機能向上のため、表面に細孔以外の微細加工が行われていてもよい。微細加工を施す方法として、切削加工、光リソグラフィ法、電子線直接描画法、粒子線ビーム加工法、走査プローブ加工法等、微粒子の自己組織化、またはこれらの手法によって形成されたマスタからのナノインプリント法、キャスト法、射出成形法に代表される成形加工法、めっき法等から適切に選択することができる。微細加工の形状は特に限定されるものではないが、溝の部分から山の部分までの高さが20nmから500μmであると好ましい。また、表面に微細加工がなされていない場合に比べ培養部材の最薄部の厚みを20μm迄薄くすることが可能である。
【0019】
微細加工を行った培養部材は、マイクロ流路デバイス(マイクロ流路チップとも言う)として用いてもよい。マイクロ流路デバイスは、培養部材表面に微細加工を施して微小流路や反応容器を作成し、バイオ研究や化学工学へ応用するためのデバイスの総称である。例えば、microTAS(micro Total Analysis Systems)やLab on a Chipなどと呼ばれる装置が挙げられ、次世代の培養装置としての適用が進められている。本発明の一態様として、本発明の培養部材を含むマイクロ流路デバイスが挙げられる。
【0020】
本発明の培養部材は、表面改質処理を行ってもよい。表面改質処理に用いる方法は特に限定されないが、例えばコロナ処理、プラズマ処理、オゾン処理、紫外線処理等の親水化処理、化学蒸着、エッチング、または、ヒドロキシル基、アミノ基、スルホン基、チオール基、カルボキシル基等の特定の官能基付加、シランカップリング等の特定の官能基による処理、酸化剤等による表面粗化等が挙げられる。これらの表面改質処理は、単独で行ってもよいし、2種以上を組み合わせて行ってもよい。なお、表面改質処理を行う場合には、少なくとも培養面に行うことが好ましい。
【0021】
表面改質処理の中でも前記培養部材表面の濡れ性を上げ、効率的に細胞を培養できるようにするため、コロナ処理、プラズマ処理、オゾン処理、紫外線処理等の親水化処理が好ましい。培養部材表面を親水化処理することで、例えば、培養部材と細胞との密着性が良くなり、培養部材表面で細胞が均一に増殖できる。また、培養部材表面を親水化処理することで、培養器具の培養面上に天然高分子材料、合成高分子材料、または無機材料をコーティングしやすくなる。特に、培養部材表面に均一にコラーゲンを積載し、密着させやすくなり、また、コラーゲン積載処理後においても、生理食塩水による洗浄や、細胞培養の環境においてコラーゲンが剥がれず、安定な初期状態を保って細胞培養に用いることができる。プラズマ処理を行う場合には、同伴させるガスとして、窒素、水素、ヘリウム、酸素、アルゴンなどが用いられ、好ましくは、窒素、ヘリウム、アルゴンから選択される少なくとも一種のガスが選ばれる。
【0022】
本発明の培養部材の製造方法は、特に制限されず、製造に用いる機器も制限されない。例えば、樹脂を含む成分を含むフィルムまたはシートを形成し、必要に応じてそのフィルムまたはシートを成形して所望の形状とした成形品とし、このフィルム、シートまたは成形品に上述したように細孔を形成して培養部材を作製することができる。培養部材となるフィルム、シートまたはその他の成形品は、押出成形、溶液キャスト成形、射出成形、ブロー成形等の方法により、直接成形することによっても得られる。
【0023】
前記フィルムまたはシートを形成する方法としては、具体的には、例えば、通常のインフレーション法、T-ダイ押出法などが採用される。製造は通常加温して行う。T-ダイ押出法を採用する場合、押出温度は樹脂の種類によって異なるが、100℃~400℃が好ましく、150℃~300℃が特に好ましい。また、ロール温度は20℃~100℃が好ましく、30℃~90℃が特に好ましい。
【0024】
また、前記フィルムまたはシートは樹脂を溶剤に溶解し樹脂や金属上に流し、レベリングしながらゆっくりと乾かしフィルム化(シート化)する溶液キャスト法で製造してもよい。用いられる溶剤は特に制限ないが、シクロヘキサン、ヘキサン、デカン、トルエンなどの炭化水素溶剤を用いてもよい。また、溶剤は、樹脂の溶解性や乾燥効率を考慮して2種類以上を混合してもよい。テーブルコート、スピンコート、ディップコート、ダイコート、スプレーコート、バーコート、ロールコート、カーテンフローコートなどの方法でポリマー溶液を塗布し、乾燥、剥離することでフィルムまたはシートに加工することができる。
【0025】
本発明の培養部材は、細胞培養部材であることが好ましく、肝細胞培養部材であるとより好ましい。
【0026】
〈樹脂〉
本発明の培養部材を形成する材料は、樹脂を含んでいればよく、樹脂のみからなっていてもよく、樹脂を含む組成物からなっていてもよい。
前記培養部材の材料として用いられる樹脂は、細胞等に対し毒性の低いものであることが望ましく、かかる材料としては、天然樹脂でも合成樹脂でも用いることができる。成形加工性、耐薬品性の観点から、これらの中でも、合成樹脂が好ましい。また、合成樹脂は、熱可塑性樹脂でも熱硬化性樹脂でもよいが、成形が容易であることから、熱可塑性樹脂が好ましい。
【0027】
前記培養部材の材料として用いられる樹脂は、形状安定性、薬剤収着性、自家蛍光、透明性、酸素透過性などの観点から、適切な材料を選択できる。このような観点から、培養材料を選択することにより、効率的に細胞を培養でき、創薬スクリーニング用途や診断用途で使用が可能であり、また細胞の観察も行いやすい培養部材が得られる。
【0028】
〈熱可塑性樹脂〉
培養部材の材料として用い得る熱可塑性樹脂としては特に限定されないが、例えば、ポリオレフィン系樹脂;ポリメタクリル酸メチル樹脂等のポリメタクリル系樹脂;ポリアクリル酸メチル樹脂等のポリアクリル系樹脂;ポリスチレン系樹脂;ポリビニルアセタール樹脂;ポリビニルブチラール樹脂;ポリビニルホルマール樹脂;ポリメチルペンテン樹脂;ポリカーボネート樹脂;ポリエーテルエーテルケトン樹脂;ポリエーテルケトン樹脂等のポリエーテル系樹脂;ポリエステル系樹脂;ナイロン-6、ナイロン-66、ポリメタキシレンアジパミド等のポリアミド系樹脂;ポリアミドイミド樹脂;ポリイミド樹脂;ポリエーテルイミド樹脂;スチレン系エラストマー;ポリオレフィン系エラストマー;ポリウレタン系エラストマー;ポリエステル系エラストマー;ポリアミド系エラストマー;ノルボルネン樹脂;ポリテトラフルオロエチレン樹脂;エチレンテトラフルオロエチレンコポリマー;ポリフッ化ビニリデン樹脂;ポリフッ化ビニル樹脂;熱可塑性ポリイミド樹脂;ポリ塩化ビニリデン樹脂;ポリ塩化ビニル樹脂;ポリ酢酸ビニル樹脂;ポリサルホン樹脂;ポリフェニレンオキシド樹脂やポリフェニレンスルフィド樹脂等のポリフェニレン系樹脂;ポリスルホン樹脂;ポリ乳酸樹脂;ポリエーテルスルホン樹脂;ポリアクリロニトリル樹脂、スチレン-アクリロニトリル共重合体樹脂等が挙げられる。
【0029】
ポリオレフィン系樹脂としては、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテン等のα-オレフィンの単独重合体または共重合体;高圧法低密度ポリエチレン;線状低密度ポリエチレン(LLDPE);高密度ポリエチレン;ポリプロピレン;プロピレンと炭素数が2以上10以下のα-オレフィンとのランダム共重合体;エチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA);アイオノマー樹脂等が挙げられる。
これらの中でも、成形加工性、透明性、機械的特性、通気性、軽量性、薬剤低収着性、のバランスに優れる点から、4-メチル-1-ペンテン重合体(4-メチル-1-ペンテンの単独重合体および共重合体)が好ましい。なお、本発明において、4-メチル-1-ペンテン単独重合体、および4-メチル-1-ペンテンと他のモノマーとの共重合体を総称して「4-メチル-1-ペンテン重合体」とも称する。
【0030】
ポリスチレン系樹脂としては、例えば、スチレン系単量体(例えば、スチレン、メチルスチレン、エチルスチレン、イソプロピルスチレン、ジメチルスチレン、パラメチルスチレン、クロロスチレン、ブロモスチレン、ビニルトルエン、ビニルキシレン)の単独重合体;スチレン系単量体と、スチレン系単量体と共重合可能な単量体との共重合体(以下、「変性ポリスチレン」とも称する)が挙げられる。
スチレン系単量体と共重合可能な単量体としては、例えば、ビニル単量体(例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリル酸、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、無水マレイン酸、ブタジエン)が挙げられる。
変性ポリスチレンとしては、例えば、アクリロニトリル-スチレン共重合体(AS)、メタクリル酸メチル-スチレン共重合体、アクリロニトリルーメタクリル酸メチル-スチレン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS)、アクリロニトリル-アクリルゴム-スチレン共重合体(AAS)、アクリロニトリル-エチレンプロピレンジエンゴム-スチレン共重合体(AES)が挙げられる。
これらの中でも、成形加工性、透明性、機械的特性、通気性、軽量性、薬剤低収着性、のバランスに優れる点から、スチレンの単独重合体が好ましい。
【0031】
ポリエステル系樹脂としては、例えば、イソフタル酸、フタル酸、テレフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸などのジカルボン酸やオキシカルボン酸(例:p-オキシ安息香酸)と、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ジエチレングリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコールなどの脂肪族グリコールとを重縮合させて得られる樹脂等が挙げられる。前記ジカルボン酸、オキシカルボン酸および脂肪族グリコールはそれぞれ、1種または2種以上を用いることができる。
前記ポリエステル系樹脂の代表的な例としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン-2,6-ナフタレンジカルボキシレート(PEN)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)が挙げられる。また、該樹脂は、ホモポリマーの他に、30モル%以下の第三成分を含有するコポリマーであってもよい。
これらの中でも、成形加工性、透明性、機械的特性、通気性、軽量性、薬剤低収着性、のバランスに優れる点から、ポリエチレンテレフタレートが好ましい。
【0032】
これらの中でも、成形加工性、透明性、機械的特性、通気性、軽量性、薬剤低収着性のバランスに優れる点から、ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、およびポリエステル系樹脂が好ましく、4-メチル-1-ペンテン重合体(4-メチル-1-ペンテンの単独重合体および共重合体)、ポリスチレン系樹脂ならびにポリエチレンテレフタレートがより好ましい。
【0033】
前記樹脂は1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
熱可塑性樹脂の全光線透過率は、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%である。該全光線透過率は、具体的には以下の方法で測定できる。
熱可塑性樹脂で構成される2mm厚の射出試験片を使用して、JISK7361に準拠して、(株)村上色彩技術研究所製のヘイズ・透過率計HM-150(D65光源)を用い、全透過光量を測定し、下記式にて全光線透過率を求める。
全光線透過率(%)=100×(全透過光量)/(入射光量)
全光線透過率が前記範囲内にあると、熱可塑性樹脂は透明性に優れる傾向にあるため、好ましい。
【0035】
〈4-メチル-1-ペンテン重合体〉
以下、培養部材の材料の好適な一例である、4-メチル‐1-ペンテン重合体についてさらに詳細に説明する。
4-メチル-1-ペンテン重合体の一例である、4-メチル-1-ペンテンと、他のモノマーとの共重合体としては、ランダム共重合体、交互共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体のいずれであってもよい。4-メチル-1-ペンテンと、他のモノマーとの共重合体としては、4-メチル-1-ペンテンと、エチレンおよび炭素数3~20のα-オレフィン(4-メチル-1-ペンテンを除く)から選ばれる少なくとも1種のオレフィンとの共重合体が、強度が高く、部材として用いても破れにくく割れにくく、撓みも少ないため好ましい。
【0036】
4-メチル-1-ペンテン重合体としては、4-メチル-1-ペンテン単独重合体並びに、4-メチル-1-ペンテンと、エチレンおよび炭素数3~20のα-オレフィン(4-メチル-1-ペンテンを除く)から選ばれる少なくとも1種のオレフィンとの共重合体から選択される少なくとも1種の重合体であることが好ましく、4-メチル-1-ペンテンと、エチレンおよび炭素数3~20のα-オレフィン(4-メチル-1-ペンテンを除く)から選ばれる少なくとも1種のオレフィンとの共重合体であることがより好ましい。
【0037】
前記オレフィンとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-デセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-ヘプタデセン、1-オクタデセン、1-エイコセンが挙げられる。前記オレフィンは、培養部材に必要な物性に応じて適宜選択することができる。例えば、前記オレフィンとしては、適度な酸素透過度と、優れた剛性という観点からは、炭素数8~18のα-オレフィンが好ましく、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-ヘプタデセンおよび1-オクタデセンから選ばれる少なくとも1種がより好ましい。オレフィンの炭素数が上記範囲にあると、重合体の加工性がより良好になり、クラックや端部の割れによる培養部材の外観不良が生じにくくなる傾向にある。また、培養部材の不良品発生率が低くなる。
【0038】
前記オレフィンは、1種または2種以上を用いることができる。材料の強度の観点から、炭素数は2以上が好ましく、更に好ましくは炭素数10以上が更に好ましい。異なる2種以上のα-オレフィンを組み合わせる場合には、1-テトラデセンおよび1-ヘキサデセンから選ばれる少なくとも1種と、1-ヘプタデセンおよび1-オクタデセンから選ばれる少なくとも1種とを組み合わせるのが特に好ましい。
【0039】
前記4-メチル-1-ペンテン重合体における4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位の含有量は、好ましくは60~100モル%、より好ましくは80~98モル%である。
また、4-メチル-1-ペンテン重合体が、4-メチル-1-ペンテンと、エチレンおよび炭素数3~20のα-オレフィン(4-メチル-1-ペンテンを除く)から選ばれる少なくとも1種のオレフィンとの共重合体である場合は、その共重合体におけるエチレンおよび炭素数3~20のα-オレフィン(4-メチル-1-ペンテンを除く)から選ばれる少なくとも1種のオレフィンから導かれる構成単位の含有量は、好ましくは0~40モル%、より好ましくは2~20モル%である。なお、これら構成単位の含有量は、4-メチル-1-ペンテン重合体中の全繰返し構成単位量を100モル%とする。構成単位の含有量が上記範囲内にあると、加工性に優れ均質な培養面が得られ、またフィルムの靭性と強度のバランスが良いため、撓みも少なくなる。
【0040】
前記4-メチル-1-ペンテン重合体は、本発明の効果を損なわない範囲で、4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位および前記エチレンおよび炭素数3~20のα-オレフィンから導かれる構成単位以外の構成単位(以下「その他の構成単位」ともいう)を有してもよい。その他の構成単位の含有量は、例えば0~10.0モル%である。前記4-メチル-1-ペンテン重合体がその他の構成単位を有する場合、その他の構成単位は、1種でも2種以上であってもよい。
【0041】
その他の構成単位を導くモノマーとしては、例えば、環状オレフィン、芳香族ビニル化合物、共役ジエン、非共役ポリエン、官能ビニル化合物、水酸基含有オレフィン、ハロゲン化オレフィンが挙げられる。環状オレフィン、芳香族ビニル化合物、共役ジエン、非共役ポリエン、官能ビニル化合物、水酸基含有オレフィンおよびハロゲン化オレフィンとしては、例えば、特開2013-169685号公報の段落[0035]~[0041]に記載の化合物を用いることができる。
【0042】
前記4-メチル-1-ペンテン重合体は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0043】
4-メチル-1-ペンテン重合体としては市販品を使用することもできる。具体的には、三井化学(株)製のTPX MX001、MX002、MX004、MX0020、MX021、MX321、RT18、RT31またはDX845いずれも商標)などが挙げられる。また、その他のメーカー製でも上記の要件を満たす4-メチル-1-ペンテン重合体であれば、好ましく使用できる。これらの市販品は1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合せて使用することもできる。
【0044】
4-メチル-1-ペンテン重合体は、通常、融点200℃~240℃であり耐熱性が高い。また加水分解を起こさず、耐水性、耐沸水性、耐スチーム性が優れているため、4-メチル-1-ペンテン重合体を含む培養器具等の培養部材は高圧蒸気滅菌処理が可能である。4-メチル-1-ペンテン重合体は、また可視光線透過率が高く(通常90%以上)、自家蛍光を発しない特徴を有するので、4-メチル-1-ペンテン重合体を含む培養器具は培養細胞の観察がしやすい。さらに、ほとんどの薬品に優れた耐薬品性を示し、薬剤を収着しにくいため、創薬スクリーニング用途や診断用途にも好適に用いられる。4-メチル-1-ペンテン重合体は、ヒートシールが可能であり、自材同士の熱融着のみならず他の材料との熱接着も容易である。また、熱成形が可能であるため、任意の形状の培養器具に成形することが容易であり、例えばインプリント法やインサート法を用いた成形も容易である。
【0045】
4-メチル-1-ペンテン重合体の、標準ポリスチレンを基準物質としたゲルパーミュエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される、重量平均分子量(Mw)は、好ましくは10000~2000000、より好ましくは20000~1000000、さらに好ましくは30000~500000である。ここで、GPC測定の際の試料濃度は、例えば1.0~5.0mg/mlとすることができる。また、4-メチル-1-ペンテン重合体の分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは1.0~30、より好ましくは1.1~25、さらに好ましくは1.1~20である。GPCで用いられる溶剤は、オルトジクロロベンゼンが好ましく用いられる。また、測定条件の一例としては、後述する実施例に示した条件が挙げられるが、該測定条件に限定されるものではない。
【0046】
重量平均分子量(Mw)を上記上限以下とすることにより、後述する樹脂の成形法において、溶融成形で作製したフィルムは、ゲル等の不具合の発生を抑制しやすく、表面が均一な製膜をしやすくなる。また、溶液キャスト法で作製する際は溶剤への溶解性をより良好にし、フィルムのゲル等の不具合を抑制しやすく、表面均一な製膜がしやすくなる。
【0047】
また、重量平均分子量(Mw)を上記下限以上とすることにより、培養部材は強度が十分となる傾向にある。さらに、分子量分布を上記の範囲内とすることで、作製した培養部材表面のベタツキを抑えやすく、培養部材の靭性も充分となる傾向にあり、成形時の曲げや裁断時のクラックの発生などを抑制しやすくなる。
【0048】
前記4-メチル-1-ペンテン重合体の重量平均分子量(Mw)および分子量分布(Mw/Mn)は、4-メチル-1-ペンテン重合体として、2種以上を用いた場合には、各樹脂それぞれの、MwおよびMw/Mnが、上記範囲にあればよい。
【0049】
4-メチル-1-ペンテン-1重合体は以上のような優れた特性を有しているので、少なくとも培養面が本発明の培養部材で形成された培養器具は、培養に悪い影響を与えることも無く、また安定性、光透過性、成形加工性が良好で、滅菌処理を行うことができるので、培養部材の材料として非常に優れている。
【0050】
〈4-メチル-1-ペンテン重合体の製造方法〉
前記4-メチル-1-ペンテン重合体を製造する方法は、4-メチル-1-ペンテン、オレフィン、その他のモノマーを重合させられれば、いずれの方法であってもよい。また、分子量や分子量分布を制御するために連鎖移動剤、例えば水素を共存させてもよい。製造に用いる機器も制限されない。重合法は公知の方法でもよく、気相法、スラリー法、溶液法、バルク法であってもよい。好ましくはスラリー法、溶液法である。また、重合法は単段重合法、または二段等の多段重合法で、分子量の異なる複数の重合体を重合系中にブレンドする方法であってもよい。単段、多段重合法の何れであっても、連鎖移動剤として水素を用いる場合には、一括投入しても、分割投入、例えば重合初期、中期、終期に投入してもよい。重合は常温で行ってもよく、必要に応じて加温してもよいが、重合の効率の観点から、20℃~80℃で行うことが好ましく、40℃~60℃で行うことが特に好ましい。製造に用いる触媒も制限されないが、重合の効率の観点から、例えば国際公開公報2006/054613に記載される固体状チタン触媒成分(I)を用いることが好ましい。
【0051】
〈ポリスチレン系樹脂の製造方法〉
ポリスチレン系樹脂は、例えば、以下に示す重合方法により製造することができる。
ポリスチレン系樹脂の重合方法としては、例えば、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法等、公知のスチレン重合方法が挙げられる。これらの重合法は、バッチ重合法であっても連続重合法であってもよく、生産性の点から連続重合法であることが好ましい。
かかる重合法の具体例としては、例えば、スチレン系単量体、必要に応じて重合溶媒、重合開始剤、及び連鎖移動剤等を添加及び混合して、単量体類を含む原料溶液を調製する。単独或いは直列及び/又は並列に配列された2個以上の反応器と、未反応単量体等の揮発性成分を除去する脱揮工程のための脱揮装置とを備えた設備に、上記原料溶液を連続的に送入し、段階的に重合を進行させる方法が挙げられる。
【0052】
反応器としては、例えば、完全混合型反応器、層流型反応器、重合を進行させながら一部の重合液を抜き出すループ型反応器等が挙げられる。これら反応器の配列の順序に特に制限は無い。
【0053】
ポリスチレン系樹脂を重合する際には、重合反応の制御の観点から、必要に応じて重合溶媒、有機過酸化物等の重合開始剤、及び連鎖移動剤を使用することができる。
重合溶媒は、一般的に重合速度や分子量等を調整するために用いられる。重合溶媒としては、特に制限はないが、例えばベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、及びキシレン等のアルキルベンゼン類、アセトン及びメチルエチルケトン等のケトン類、並びにヘキサン及びシクロヘキサン等の脂肪族炭化水素等が挙げられる。
重合溶媒の使用量は、特に限定されるものではないが、ゲル化の制御、生産性の向上、分子量の増大等の観点から、通常、重合反応器内の重合溶液全体100質量%に対して1~50質量%であることが好ましく、3~20質量%であることがより好ましい。
【0054】
ポリスチレン系樹脂を得るために重合原料を重合させる際には、重合原料組成物中に、重合開始剤及び連鎖移動剤を含有させることができる。
重合開始剤としては、特に制限はないが、有機過酸化物、例えば、2,2-ビス(t-ブチルペルオキシ)ブタン、1,1-ビス(t-ブチルペルオキシ)シクロヘキサン、及びn-ブチル-4,4ービス(t-ブチルペルオキシ)バレレート等のペルオキシケタール類、ジ-t-ブチルペルオキシド、t-ブチルクミルペルオキシド、及びジクミルペルオキシド等のジアルキルペルオキシド類、アセチルペルオキシド、及びイソブチリルペルオキシド等のジアシルペルオキシド類、ジイソプロピルペルオキシジカーボネート等のペルオキシジカーボネート類、t-ブチルペルオキシアセテート等のペルオキシエステル類、アセチルアセトンペルオキシド等のケトンペルオキシド類、並びにt-ブチルヒドロペルオキシド等のヒドロペルオキシド類等を挙げることができる。
重合開始剤は、スチレン系単量体に対して0.005~0.08質量%使用することが好ましい。
連鎖移動剤としては、特に制限はないが、例えば、α-メチルスチレンダイマー、n-ドデシルメルカプタン、t-ドデシルメルカプタン、及びn-オクチルメルカプタン等を挙げることができる。
連鎖移動剤は、スチレン系単量体に対して0.01~0.50質量%使用することが好ましい。
【0055】
脱揮装置としては、例えば、フラッシュドラム、二軸脱揮器、薄膜蒸発器、押出機等の通常の脱揮装置を用いることができ、一般的には加熱器付きの真空脱揮槽や脱揮押出機等が用いられる。脱揮装置の配列としては、例えば、加熱器付きの真空脱揮槽を1段のみ使用したもの、加熱器付きの真空脱揮槽を直列に2段接続したもの、及び加熱器付きの真空脱揮槽と脱揮押出機とを直列に接続したもの等が挙げられる。揮発成分を極力低減するためには、加熱器付きの真空脱揮槽を直列に2段接続したもの、又は加熱器付きの真空脱揮槽と脱揮押出機とを直列に接続したものが好ましい。
【0056】
脱揮工程の条件は特に制限されず、例えば、ポリスチレン系樹脂の重合を塊状重合で行う場合は、最終的に未反応のスチレン系単量体が、ポリスチレン系樹脂中に好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下になるまで重合を進めることができる。脱揮処理により、未反応物(スチレン系単量体)及び/又は溶媒等の揮発分を除去することができる。
【0057】
脱揮処理の温度は、通常、190~280℃程度である。脱揮処理の圧力は、好ましくは0.1~50kPa、より好ましくは0.13~13kPa、更に好ましくは0.13~7kPa、特に好ましくは0.13~1.3kPaである。脱揮方法としては、例えば加熱下で減圧して脱揮する方法や、揮発成分を除去するよう設計された押出機等を通して脱揮することが望ましい。
【0058】
〈ポリエチレンテレフタレート〉
ポリエチレンテレフタレート(PET)は、テレフタル酸およびそのエステル形成性誘導体から選ばれる少なくとも1つと、エチレングリコールおよびそのエステル形成性誘導体から選ばれる少なくとも1つとを重縮合することによって得られる重合体である。テレフタル酸のエステル形成性誘導体としては、例えば、テレフタル酸ジメチルなどのテレフタル酸のアルキルエステルなどが挙げられる。エチレングリコールのエステル形成性誘導体としては、例えば、エチレングリコール脂肪酸エステルなどの脂肪酸エステルなどが挙げられる。
【0059】
ポリエチレンテレフタレートは、特性を損なわない範囲であれば、テレフタル酸およびそのエステル形成性誘導体から選ばれる少なくとも1つとともに、他のジカルボン酸およびそのエステル形成性誘導体から選ばれる少なくとも1つを共重合したものであってもよいし、エチレングリコールおよびそのエステル形成性誘導体から選ばれる少なくとも1つとともに、他のジオールおよびそのエステル形成性誘導体から選ばれる少なくとも1つを共重合したものであってもよい。共重合成分として用いられるジカルボン酸およびそのエステル形成性誘導体としては、例えば、イソフタル酸、アジピン酸、シュウ酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸やこれらのアルキルエステルなどが挙げられる。また、共重合成分として用いられるジオールおよびそのエステル形成性誘導体としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、デカメチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、シクロヘキサンジオール、分子量400~6000のポリエチレングリコールやポリ1,3-プロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどの長鎖グリコールやこれらの脂肪酸エステルなどが挙げられる。これらの共重合成分は1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの共重合成分は、ポリエチレンテレフタレートを形成する原料の20質量%以下が好ましい。
【0060】
〈ポリエチレンテレフタレートの製造方法〉
ポリエチレンテレフタレートは、公知の重縮合法や開環重合法などにより製造することができる。バッチ重合法および連続重合法のいずれを適用してもよいが、カルボキシル末端基量を少なくすることができ、流動性向上効果がより大きくなるという点で、連続重合法が好ましい。また、エステル交換反応および直接重合反応のいずれを適用してもよいが、コストの点で、直接重合反応が好ましい。エステル化反応、エステル交換反応および/または重縮合反応を効率よく進めるために、これらの反応時に触媒を添加することが好ましい。触媒の具体例としては、チタン酸のメチルエステル、テトラ-n-プロピルエステル、テトラ-n-ブチルエステル、テトライソプロピルエステル、テトライソブチルエステル、テトラ-tert-ブチルエステル、シクロヘキシルエステル、フェニルエステル、ベンジルエステル、トリルエステル、あるいはこれらの混合エステルなどの有機チタン化合物、ジブチルスズオキシド、メチルフェニルスズオキシド、テトラエチルスズ、ヘキサエチルジスズオキシド、シクロヘキサヘキシルジスズオキシド、ジドデシルスズオキシド、トリエチルスズハイドロオキシド、トリフェニルスズハイドロオキシド、トリイソブチルスズアセテート、ジブチルスズジアセテート、ジフェニルスズジラウレート、モノブチルスズトリクロライド、ジブチルスズジクロライド、トリブチルスズクロライド、ジブチルスズサルファイドおよびブチルヒドロキシスズオキシド、メチルスタンノン酸、エチルスタンノン酸、ブチルスタンノン酸などのアルキルスタンノン酸などのスズ化合物、ジルコニウムテトラ-n-ブトキシドなどのジルコニウム化合物、三酸化アンチモン、酢酸アンチモンなどのアンチモン化合物などが挙げられる。前記触媒は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも有機チタン化合物およびスズ化合物が好ましく、チタン酸のテトラ-n-ブチルエステルがより好ましい。触媒の添加量は、ポリエチレンテレフタレート100質量部に対して0.01~0.2質量部が一般的である。
【0061】
ポリエチレンテレフタレートの種類は、本発明で得られる効果を阻害しなければ特に制限されないが、機械強度や成形性の観点から、結晶性ポリエチレンテレフタレート(C-PET)が好ましい。
【0062】
フィルム状のポリエチレンテレフタレートを培養部材として用いる場合、フィルム状のポリエチレンテレフタレートは、延伸しても、していなくても良い。フィルム状のポリエチレンテレフタレートは、延伸すると結晶配向されるので、機械特性の観点から好ましい。延伸方法は二軸延伸が好ましい。
【0063】
なお、培養部材が樹脂を含む組成物から形成される場合には、培養部材100質量%中に、樹脂が、好ましくは90質量%以上100質量%未満であり、より好ましくは95質量%以上100質量%未満であり、特に好ましくは99質量%以上100質量%未満である。樹脂以外の成分を多量に含むと、酸素透過度の低下のみならず、透明性の低下や強度の低下を招く。
【0064】
本発明の培養部材を形成する材料は、樹脂以外の成分が含まれていてもよい。樹脂以外の成分としては、耐熱安定化剤、耐光安定化剤、加工助剤、可塑剤、酸化防止剤、滑剤、消泡剤、アンチブロック剤、着色剤、改質剤、抗菌剤、抗黴剤、防曇剤などの添加剤が挙げられる。
【0065】
〈細孔〉
本発明の培養部材は、その培養面に少なくとも1つの細孔を有する。ここで、培養部材における細孔とは、その培養部材中に含まれる微細な空孔であって、培養部材を貫通したものを意味し、培養部材表面加工で生じる凹凸とは異なる。
【0066】
細孔の開口形状は特に制限されず、円形状、楕円形状、正方形状、長方形状、六角形状、雲形、十字状などのいかなる形状であってもよい。加工性の観点から、これらの中でも、円形状、楕円形状であることが好ましい。本発明の培養部材が細孔を複数有する場合、複数の細孔の開口形状は、実質的に同じであってもよいし、異なってもよいが、実質的に同じであることが好ましい。
【0067】
細孔の数は特に制限されないが、細孔の孔密度(単位面積当たりの個数)は、0.01~250個/cm2であることが好ましく、0.1~230個/cm2であることがより好ましく、0.3~200個/cm2であることがさらに好ましい。細孔の孔密度が前記範囲内にあると、酸素供給性に優れつつ、細胞の代謝活性が高い傾向にある。
【0068】
細孔の平均孔径は特に制限されないが、0.1~100μmであることが好ましく、1~90μmであることがより好ましく、3~85μmであることがさらに好ましい。細孔の平均孔径が前記範囲内にあると、培地が漏れにくく、酸素供給性に優れつつ、細胞の代謝活性が高くなる傾向にある。
【0069】
平均孔径の測定方法は特に制限されず、公知の方法を用いることができる。平均孔径の測定方法としては、例えば、ガス吸着法、水銀圧入法、バブルポイント法等により平均孔径を求める方法、マイクロスコープ、電子顕微鏡等により細孔を観察して孔径を測定し、その平均値を平均孔径とする方法、穿孔に用いる器具、例えば針、レーザービームの直径を平均孔径として推定する方法等が挙げられる。観察により孔径を測定する場合および穿孔に用いる器具の直径を平均孔径として推定する場合において、孔径とは、細孔の開口形状に対する最大内接円の直径を指し、例えば、細孔の開口形状が実質的に円形状である場合はその円の直径を指し、実質的に楕円形状である場合はその楕円の短径を指し、実質的に正方形状である場合はその正方形の辺の長さを指し、実質的に長方形状である場合はその長方形の短辺の長さを指すものである。簡便であることから、穿孔に用いる器具、例えば針、レーザービームの直径を平均孔径として推定する方法が好ましい。
【0070】
本発明の培養部材は、好ましくは平均孔径0.1~100μmの細孔を0.01~250個/cm2の孔密度で有し、より好ましくは平均孔径1~90μmの細孔を0.1~230個/cm2の孔密度で有し、さらに好ましくは平均孔径3~85μm細孔を0.3~200個/cm2の孔密度で有する。細孔の平均孔径および孔密度が前記範囲内にあると、酸素供給性に優れ、細胞の代謝活性が高い。
【0071】
細孔の開口面積は、好ましくは0.005~8000μm2、より好ましくは0.1~7000μm2、さらに好ましくは5~6000μm2である。細孔の開口面積が前記範囲内にあると、培地が漏れにくく、酸素供給性に優れつつ、細胞の代謝活性が高くなる傾向にある。
【0072】
細孔の総開口面積比率(開口面積の1ウェル当たりの合計/培養部材の培養面の1ウェル当たりの総表面積×100(%))は、好ましくは0.000001~0.3%、より好ましくは0.000005~0.1%、さらに好ましくは0.00001~0.08%である。細孔の総開口面積比率が前記範囲内にあると、培地が漏れにくく、酸素供給性に優れつつ、細胞の代謝活性が高くなる傾向にある。
【0073】
本発明の培養部材が細孔を複数有する場合、複数の細孔の孔径は、実質的に同じであってもよいし、ばらつきがあってもよいが、均一性が高いことが好ましい。孔径の均一性の指標として、変動係数を用いることができる。孔径の変動係数(標準偏差÷平均値×100(%))は、30%以下であることが好ましく、孔径の変動係数が20%以下であることがより好ましい。このように孔径の均一性が高いと、培地が漏れにくく、酸素供給性に優れつつ、細胞の代謝活性が高くなる傾向にある。
【0074】
本発明の培養部材が細孔を複数有する場合、細孔の配置は特に制限されず、一定のパターンで配置してもよいし、ランダムに配置してもよい。一定のパターンで配置する例としては、60°千鳥、45°千鳥、並列、ヘリンボーン等が挙げられ、中心を共有する大きさの異なる複数の多角形または円を描き、それらの辺または円周上に等間隔に細孔を配列してもよい。培地が漏れにくく、酸素供給性に優れつつ、細胞の代謝活性が高くなる傾向にあることから、一定のパターンで配置することが好ましい。
【0075】
複数の細孔間の間隔は特に制限されないが、細孔の平均孔径よりも大きいことが好ましく、一定間隔であることがより好ましい。同一ウェル内の複数の細孔間の間隔は、200μm~8mmであることが好ましく、300μm~7mmであることがより好ましく、400μm~6mmであることがさらに好ましい。複数の細孔間の間隔が前記範囲内にあると、培地が漏れにくく、酸素供給性に優れつつ、細胞の代謝活性が高くなる傾向にある。
【0076】
複数の細孔同士は、培養部材内部において連通していてもよい。
【0077】
細孔の穿孔方法は、特に制限されず、公知の方法を用いることができる。細孔の穿孔方法としては、例えば、マイクロシリンジの様な非常に細い針を熱してフィルムに突き刺して溶解して開ける方法、レーザーを用いる方法などが挙げられる。
【0078】
レーザーには、炭酸ガスレーザー、YAGレーザー、半導体レーザー、アルゴンレーザー等の各種レーザーがあり、穿孔することができれば特に制限されない。中でも、孔径の小さい細孔の穿孔が可能であることから、波長領域100~1100nmのYAGレーザーを用いることが好ましく、可視光が透過してしまう透明材料でも吸収があり、穿孔が可能であることから、波長領域100~400mの紫外線YAGレーザーがより好ましく、波長領域260~270nmの深紫外線YAGレーザーがさらに好ましい。波長領域260~270nmの深紫外線YAGレーザーを用いる場合の出力は、10~200mWが好ましい。出力範囲が、前記範囲内であると、作業性が良く、また、過剰な照射を避けつつも、所望の径の穿孔を達成できる。
【0079】
また、レーザー光線の走査速度は、1~100mm/sが好ましい。レーザー光線の移動速度が前記範囲内にあると、作業性が良く、また、過剰な照射を避けつつも、所望の径の穿孔を達成できる。
【0080】
細孔の穿孔は、樹脂を含む成分から成形体を得た後に、または樹脂を含む成分からの成形体の作製と同時に行ってもよい。細孔を穿孔した成形体を培養部材としてそのまま用いてもよいし、その成形体を延伸してから用いてもよい。好ましくは、樹脂を含む成分からフィルムまたはシートを成形し、そのフィルムまたはシートに細孔を穿孔した後、その穿孔済みフィルムまたはシートを成形して所望の形状を有する培養部材にする。あるいは、好ましくは、樹脂を含む成分から成形して所望の形状を有する成形体を作製した後に、細孔を穿孔する。
【0081】
細孔の穿孔を、樹脂を含む成分からの成形体の作製と同時に行う方法としては、例えば、樹脂の有機溶媒溶液を基板上にキャストし、該有機溶媒を蒸散させるとともに該キャスト液表面で結露を起こさせ、該結露により生じた微小水滴を蒸発させることにより細孔を有する培養部材を得る方法、および、メルトブローン法により、溶融した熱可塑性樹脂を紡糸口金から加熱ガスとともに吐出し、前記加熱ガスにより前記熱可塑性樹脂を延伸して、繊維状樹脂とし、細孔を有する培養部材を得る方法が挙げられる。
【0082】
<細胞、組織、または器官>
本発明における細胞は、特に限定されず、動物細胞の場合には浮遊性細胞であってもよく、接着性細胞であってもよく、例えば、線維芽細胞、間葉系幹細胞、造血幹細胞、神経幹細胞、神経細胞、角膜上皮細胞、口腔粘膜上細胞、網膜色素上細胞、歯根膜幹細胞、筋繊維芽細胞、心筋細胞、肝細胞、脾内分泌細胞、皮膚角化細胞、皮膚繊維芽細胞、皮下脂肪由来前駆細胞、腎臓細胞、底部毛根鞘細胞、鼻粘膜上皮細胞、血管内皮前駆細胞、血管内皮細胞、血管平滑筋細胞、骨芽細胞、軟骨細胞、骨格筋細胞、不死化細胞、がん細胞、角化細胞、胚性幹細胞(ES細胞)、EBV形質転換B細胞、人工多能性幹細胞(iPS細胞)などが例示される。初代培養細胞あるいは株化継代された細胞のいずれであってもよい。皮膚、腎臓、肝臓、脳、神経組織、心筋組織、骨格筋組織、がん幹細胞などは酸素要求性が高く、それらを構成する細胞もまた、酸素要求性の高い細胞であることから、本発明における細胞は皮膚、腎臓、肝臓、脳、神経組織、心筋組織、または骨格筋組織を構成する細胞、もしくはがん幹細胞であることが好ましい。細胞、組織、または器官としては、肝細胞、腎細胞、心筋細胞、神経細胞、またはがん幹細胞であることが好ましく、肝細胞であることがより好ましい。
【0083】
本発明における組織とは、類似の細胞が集って同じような働きをするものの意味である。前記組織は、特に限定されず、例えば、上皮組織、結合組織、筋組織、神経組織等が挙げられる。酸素要求性が高いことから、前記組織は、肝小葉、心筋組織、神経組織、または骨格筋組織であることが好ましく、肝小葉がさらに好ましい。
【0084】
本発明における器官とは、前記組織が集って目的をもった共同の仕事をするものの意味である。前記器官は、特に限定されず、例えば肺、心臓、肝臓、腎臓、脾臓、膵臓、胆嚢、食道、胃、皮膚、脳などである。酸素要求性が高いことから、前記器官は、皮膚、腎臓、肝臓、脳であることが好ましく、肝臓がさらに好ましい。
【0085】
培養器具の培養面での培養に適することから、細胞等は細胞であることが好ましい。本発明において、細胞等は、好気性であると好ましく、嫌気性のものを含まないことがより好ましい。細胞等の由来は、特に限定されず、動物、植物、菌、原生生物、細菌などあらゆる生物であってよいが、動物、または植物が好ましく、動物がさらに好ましく、特に哺乳動物が好ましい。本発明における培養器具は、酸素供給性が好適であり、細胞接着性も保持しているので、細胞等は付着性のものであることが好ましく、付着性細胞であるとさらに好ましい。
【0086】
<肝細胞>
本発明における肝細胞は、肝実質細胞(Hepatocyte)を始め、肝臓中の細胞であればいかなる細胞であってもよく、具体的には血管内皮細胞、血管平滑筋細胞、脂肪細胞、血球細胞、肝単核細胞、肝マクロファージ(クッパー細胞を含む)、肝星状細胞、肝内胆管上皮細胞、胚嚢線維芽細胞等を含む。前記肝細胞は、例えば20%以上、30%以上、40%以上または50%以上の肝実質細胞が含まれる細胞集団である。
【0087】
前記肝細胞は、初代培養細胞でも、株化継代細胞でもよいが、肝細胞としては初代培養細胞を用いるのが好ましい。株化継代細胞の種類は特に制限されないが、例えば、SSP-25、RBE、HepG2、TGBC50TKB、HuH-6、HuH-7、ETK-1、Het-1A、PLC/PRF/5、Hep3B、SK-HEP-1、C3A、THLE-2、THLE-3、HepG2/2.2.1、SNU-398、SNU-449、SNU-182、SNU-475、SNU-387、SNU-423、FL62891、DMS153等が挙げられる。
【0088】
前記肝細胞の由来は、いずれの哺乳動物であってもよいが、特に、ヒト、ウシ、イヌ、ネコ、ブタ、ミニブタ、ウサギ、ハムスター、ラット、またはマウスの細胞が好ましく、ヒト、ラット、マウス、またはウシの細胞がより好ましい。
【0089】
前記肝細胞は、肝細胞以外の他の細胞種が含まれる細胞集団であってもよく、例えば20%以上、30%以上、40%以上または50%以上の肝細胞が含まれる細胞集団である。
【0090】
〈培養〉
本発明において、培養とは、細胞等を増殖、維持させることだけでなく、細胞等の播種、継代、分化誘導、自己組織化誘導等のプロセスも含む広い意味で用いる。培養に用いる培地等は制限されず、細胞等の特性に応じた培地を選択すればよい。
【0091】
〈細胞の培養〉
細胞の培養は、2次元(細胞が自発的に重層化する場合を含む)培養でも、3次元培養でもよい。本発明の培養部材は、酸素供給性が培養に好適であるため、2次元培養だけでなく、立体的に細胞が積み重なっている3次元培養においても、細胞に充分に酸素を供給することができ、細胞が増殖、分化し、さらに細胞の高度な自己組織化現象も起きやすい。
【0092】
3次元培養とは、意図的に細胞を立体的に培養することであり、足場材の中で細胞を培養するScaffold型と、塊(スフェロイド)として浮遊状態で細胞を培養するScaffold-free型のどちらであってもよいが、Scaffold型が好ましい。Scaffold型の場合、細胞を効率よく培養できることから足場材としては、MatrigelTM、コラーゲンゲル、ラミニン、アルギン酸ヒドロゲル、ビトリゲルが好ましい。
【0093】
培養に用いる培地等は制限されないが、細胞を効率的に培養するため、細胞は、血清(例えば、ウシ胎児血清)の存在下で培養することが好ましい。
【0094】
本発明の培養部材を培養に用いる際、言い換えると、本発明の培養器具を用いて、培養を行う際の、細胞培養密度としては、好ましくは0.1×105cells/cm2~10.0×105cells/cm2であり、より好ましくは0.5×105cells/cm2~5.0×105cells/cm2であり、さらに好ましくは1.0×105cells/cm2~4.0×105cells/cm2である。
上記の範囲であると、細胞培養密度が上記範囲外の場合と比べて、薬物代謝活性がより亢進されるため好ましい。
本発明の培養部材は、酸素供給性に優れるため、細胞培養密度が高い場合であっても、好適に培養することができる。一般に、生体の細胞密度は、2.5×105cells/cm2程度だといわれているが、本発明の培養部材は、生体と同程度の細胞培養密度で、培養を行うことが可能であるため、in vitroにて、in vivoにより近い状態で培養を行うことができるため好ましい。
【0095】
〈培養器具〉
本発明において、培養器具とは、細胞等の培養に用いる器具全てを意味する。前記培養器具は、少なくともその一部が前記培養部材から構成される。前記培養器具は、その全部が前記培養部材から構成されてもよいし、その一部のみが前記培養部材から構成されてもよい。前記培養器具の一部のみが前記培養部材から構成される場合、少なくも細胞等を培養する培養面が、本発明の培養部材により構成される。
【0096】
前記培養器具は通常、インキュベーター、大量培養装置、または灌流培養装置などの装置内で用いる。
【0097】
前記培養器具としては、公知の各種の培養器具を用いることができ、形状や大きさは特に制限されない。前記培養器具としては、例えば、ディッシュ、フラスコ、プレート、ボトル、バッグ、チューブ等の培養容器の他、インサート、カップ、中敷き、スライド等が挙げられ、好ましくは培養容器である。
【0098】
前記培養器具は、少なくとも1つのウェルを有する培養器具であることが好ましく、少なくとも1つのウェルを有する培養容器であることがより好ましく、少なくとも1つのウェルを有するプレートであることがさらに好ましく、6ウェル、12ウェル、24ウェル、48ウェル、96ウェル、384ウェル、1536ウェル等のウェルを有するプレートであることがさらに好ましい。一般にウェルのようなくぼみ形状を底面に有する培養器具は、底面の複雑な形状を安定させるために底面を厚くする必要があり、細胞等への酸素供給が充分に行われ難い。本発明の培養部材を用いると、1ウェル、6ウェル、12ウェル、24ウェル、48ウェル、96ウェル、384ウェル、1536ウェル等のウェルを有するプレートであっても、形状が安定しており、細胞等への酸素供給も充分である。
【0099】
前記培養器具は、培地を保持あるいは貯留するため、底面を培養面とする器具であることが好ましい。前記培養器具が、ディッシュ、フラスコ、インサート、またはプレートの場合、底面が培養面であるので、本発明の培養部材は、これらの底面、側面、上面のうち、少なくとも底面の一部または全部を構成することが好ましい。少なくとも底面(培養面)が本発明の培養部材で構成されていると、前記培養部材を介して培地中に酸素をより効率的に供給でき、培地中にある細胞等をより効率的に増殖させることができる。また、細胞の機能を保持したまま、より高密度で培養することができる。
【0100】
前記培養器具の底面の形状は特に制限されず、平底、丸底(U底)、平底(F底)、円錐底(V底)、平底+カーブエッジ等が挙げられる。丸底(U底)、平底(F底)、円錐底(V底)、平底+カーブエッジ等に加工する場合には、一般の射出成形やプレス成形で一度に加工してもよいし、フィルムまたはシートを作成しておき、真空成形や圧空成形などで2次加工を行い作成することも可能である。底面の形状は培養の目的に応じて選択されるが、細胞等を2次元培養する際には、平底であることが通常は望ましく、3次元培養する際には丸底(U底)または円錐底(V底)であることが通常は望ましい。
【0101】
培養器具の前記培養部材以外の部分は、前記培養部材以外の材料で構成してもよい。前記培養部材以外の材料は特に制限されず、公知の材料を用いることができる。かかる材料としては、例えば、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、熱硬化性樹脂、環状オレフィンポリマー、環状オレフィンコポリマー、ガラス等が挙げられる。
【0102】
前記培養器具は、その培養面上に天然高分子材料、合成高分子材料、または無機材料をコーティングされた培養器具であってもよい。
【0103】
前記コーティングされた培養器具は、例えば、培養器具を天然高分子材料、合成高分子材料、または無機材料で公知の方法によりコーティングすることにより得てもよいし、既にコーティングされた前記培養部材を培養器具の少なくとも培養面に用いることにより得てもよい。
【0104】
前記コーティングされた培養器具は、細胞等の接着性、増殖性がより優れる。これは、培養面にコーティングされている天然高分子材料、合成高分子材料、または無機材料が、細胞等の足場となるためと考えられる。したがって、付着性の細胞等を培養する際には、培養部材、または培養器具に天然高分子材料、合成高分子材料、または無機材料をコーティングし、培養器具として用いることが好ましい一形態である。
【0105】
前記天然高分子材料、合成高分子材料、または無機材料は特に制限されないが、天然高分子材料として、コラーゲン、ゼラチン、アルギン酸、ヒアルロン酸やコンドロイチン硫酸等のグリコサミノグリカン、フィブロネクチン、ラミニン、フィブリノーゲン、オステオポンチン、テネイシン、ビトロネクチン、トロンボスボジン、アガロース、エラスチン、ケラチン、キトサン、フィブリン、フィブロイン、糖類、合成高分子材料として、ポリグルコース酸、ポリ乳酸、ポリエチレングリコール、ポリカプロラクトン、合成ペプチド類、合成タンパク質類、合成高分子材料としてポリエチレングリコール、ポリヒドロキシエチルメタクリラート、ポリエチレンイミン、無機材料として、β-リン酸三カルシウム、炭酸カルシウムなどが挙げられる。
【0106】
また、前記天然高分子材料、合成高分子材料、または無機材料としては、従来の細胞外マトリックス成分等のハイドロゲルをガラス化した後に再水和して得られるビトリゲルなども挙げられる。例えば、細胞外マトリックス成分の一つであるコラーゲンから作製された高密度のコラーゲン繊維網で構成されるコラーゲンビトリゲルも挙げられる。
【0107】
細胞の接着性や細胞の増殖性を向上させる、細胞の機能をより長期に維持させる、などの観点から、コラーゲン、ゼラチン、ラミニン、ポリリジン等のタンパク質、またはペプチドによるコーティングが好ましく、コラーゲンまたはポリリジンによるコーティング処理がより好ましい。これらのコーティングは、1種単独でもよいし、2種以上を組み合わせて行ってもよい。
【0108】
本発明の培養器具は、コンタミネーション防止のために、消毒・滅菌処理を施してもよい。消毒・滅菌処理の方法としては、特に制限されず、流通蒸気法、煮沸法、間歇法、紫外線法等の物理的消毒法、オゾン等の気体、エタノール等の消毒薬を用いる化学的消毒法;高圧蒸気法、乾熱法等の加熱滅菌法;ガンマ線法、高周波法等の照射滅菌法;酸化エチレンガス法、過酸化水素ガスプラズマ法等のガス滅菌法等が挙げられる。中でも操作が簡便で、充分に滅菌が行えることから、エタノール消毒法、高圧蒸気滅菌法、ガンマ線滅菌法、または酸化エチレンガス滅菌法が好ましい。これらの消毒・滅菌処理は、1種単独で行ってもよいし、2種以上を組み合わせて行ってもよい。
【0109】
本発明の培養器具の製造方法は、特に制限されず、培養器具の全部が前記培養部材から構成される場合には、培養部材の製造方法と同様の方法で製造することができる。培養器具の一部が前記培養部材で形成される場合には、培養部材と、その他の部材とを、適宜接合することにより培養器具を得ることができる。接合する方法としては特に制限はなく、培養部材と、その他の部材とを一体で形成してもよく、接着剤や粘着剤を介して密着させてもよい。
【0110】
本発明の培養器具は、細胞培養器具であることが好ましく、肝細胞培養器具であるとより好ましい。
【0111】
〈培養方法〉
本発明の細胞等の培養方法は、細胞、組織、または器官をその培養面上で培養する培養部材であり、前記培養部材は樹脂を含み、前記培養面は少なくとも1つの細孔を有する、培養部材の培養面に、細胞、組織または器官を接触させる工程;および
前記培養面に接触した細胞、組織または器官に酸素を供給する工程;を含む細胞、組織、または器官の培養方法である。
培養部材の培養面に、細胞等を接触させる方法は、培養部材の培養面に細胞等を接触させることができれば特に制限されず、例えば、培養部材または培養器具の培養面に細胞等を播種することが挙げられる。
培養面に接触した細胞等に酸素を供給する方法は、培養面に接触した細胞等に酸素を供給できれば特に制限されず、例えば、培養部材または培養器具を入れた培養インキュベーターに酸素を供給し、培養部材を介して細胞等に酸素を供給することが挙げられる。
前記樹脂は、熱可塑性樹脂であり、前記細孔の平均孔径が0.1~100μmであり、前記細孔の単位面積当たりの個数が、0.01~250個/cm2であることが好ましい。
前記細胞等の培養方法は、細胞の培養方法であることが好ましく、肝細胞の培養方法であるとさらに好ましい。
【実施例
【0112】
次に本発明について実施例を示してさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
なお、実施例におけるコラーゲンコート溶液の調整方法、細胞種と培地の調製方法、酸素透過度の測定方法、撓みの有無の評価方法、細胞接着性の評価方法、培地中の酸素濃度の測定方法、代謝活性値の測定方法を以下に記載した。
【0113】
[コラーゲンコート溶液の調整]
0.1Mの塩酸溶液(容量分析用、富士フイルム和光純薬)を注射用水(日本薬局方、大塚製薬)で100倍希釈し、0.001Mの塩酸溶液を調製してろ過滅菌をした。3mg/mLのコラーゲン溶液(セルマトリックスTypeI-P、ブタ腱由来、新田ゼラチン)を0.001Mの塩酸溶液で6倍希釈し、0.5mg/mLのコラーゲン溶液を調製した。
【0114】
[細胞種と培地の調製]
ラット初代凍結肝細胞を含む細胞懸濁液を入れた遠沈管(50ml)に培地を加えた。培地は、ウシ胎児血清(Fetal Bovine Serum、FBS、富士フイルム和光純薬)を1.5mL、注射用水(扶桑薬品工業)で3.0g/mLに希釈したL-プロリン(培養用、富士フイルム和光純薬)溶液を0.15mL、エタノール(分子生物学用、富士フィルム和光純薬)で1×10-3Mに希釈したデキサメタゾン(生化学用、富士フイルム和光純薬)溶液を1.5μL、エタノールで36mMに希釈したハイドロコルチゾン(培養用、富士フイルム和光純薬)溶液を21μL、注射用水で1.0mg/mLに希釈したBSA溶液を用いて、さらに20μg/mLに希釈した上皮成長因子(Epidermal growth factor、EGF、細胞生物学用、富士フイルム和光純薬)溶液を15μL、インスリン溶液(10mg/mL in HEPESS、SIGMA)を8.7μL、ペニシリン-ストレプトマイシン溶液(5000units/mLペニシリン、5000μg/mLストレプトマイシン含有、培養用、富士フイルム和光純薬)を0.3mL、D-MEM培地(4500mg/mL D-グルコース、584mg/mL L-グルタミン、15mg/mLフェノールレッド、110mg/mLピルビン酸ナトリウム、3700mg/mL炭酸水素ナトリウム含有、培養用、富士フイルム和光純薬)を13mL加えて調整した。細胞密度の調整は、ラット初代凍結肝細胞を含む細胞懸濁液の細胞数を調整する方法で実施し、特に断りのない限りは4.0×105cells/cm2の細胞密度で、実施例9および比較例1、3、5では1.0×105cells/cm2の細胞密度で培養した。
【0115】
[酸素透過度の測定]
東洋精機製作所製差圧式ガス透過率測定装置MT-C3を用いて温度23℃、湿度0%RHの環境下にて、細孔を穿孔する前のフィルムの酸素透過度を測定した。測定部径は70mm(透過面積は38.46cm2)とした。予めサンプルにアルミニウムマスクを施し、実透過面積を5.0cm2とした。
【0116】
[撓みの有無]
細胞播種の1日後、インキュベーターから培養容器を取り出して、4個の培養容器のそれぞれについて容器底面を横方向から覗き込み、培養環境におけるフィルムの垂れ下がりの有無を観察した。4つの培養容器全てにおいて、容器作製時と比べて変化が無く、フィルムの垂れ下がりは見られない場合を「撓みなし」とし、4つのうち少なくとも1つの培養容器において、培養容器作製時と比べて変化があり、フィルムの垂れ下がりが見られる場合を「撓みあり」と評価した。
【0117】
[細胞接着性の評価]
細胞播種の1日後、4個の培養容器のそれぞれについて代表的な3ウェルを顕微鏡観察し、細胞が接着しながら増殖している様子を観察した。4つの培養容器全てにおいて、細胞が培養面全体に均一に接着、増殖し、形態を維持している場合を〇とし、4つのうち少なくとも1つの培養容器において、細胞が培養面全体に均一に接着していない、増殖していない、または形態を維持していない場合を×と評価した。
【0118】
[培地中の酸素濃度の測定]
細胞播種の1日後、培養容器の培地を除去した後、新たに培地を0.5mL添加し、蛍光式の酸素センサー(FireSting酸素モニター、株式会社ビー・エー・エス社製)を用いて培地中の酸素分圧(hPa)を測定した。測定は、加湿インキュベーター中で実施し、センサーをジャッキで培養容器底面から80μmの高さに設置し、1時間測定した。測定開始から1時間後の培地中の酸素分圧(hPa)を、1013hPa(大気1気圧)で除して100をかけた値(%)を算出し、培地中の酸素濃度とした。代表的な3ウェルで測定し、平均値を算出した。
【0119】
[代謝活性値の測定]
細胞播種24時間後の培養容器中の培地を除去した後、培地で希釈したLuciferin-CEEを添加して、さらに3時間培養した。培養後の細胞をLuciferin-CEEを含む培地を同伴して96ウェルプレートに移した後、Luciferin Detection RegentとReconstitution Bufferの混合液を添加して、室温で遮光して1時間反応させた。1時間後、ルミノメーターで発光量(Relative Light Unit、RLU)を測定した。代表的な3ウェルで測定し、平均値を算出した。
【0120】
蛋白量は、培地で希釈したLuciferin-CEE溶液を除去後、PBS(-)を培地200μL添加した後、セルスクレーパーを用いてエッペンチューブに細胞を回収し、遠心した(4℃、22000×g、10分間)。その後、上澄みを除去し、0.1M水酸化ナトリウム溶液を100μL添加した後、PierceTMBCA Protein Assay Kit(Thermo Fisher Scientific社製)を使用して蛋白量を測定した。波長450nmの吸光度をプレートリーダー(SPECTRA max PLUS384、Molecular Devices社製)で測定した。
【0121】
ルミノメーターで得られたLuciferin-CEE溶液の代謝活性量(pmol/L)をP450-GloTM CYP1A1 Assay kit(Promega社製)を使用して測定し、吸光度から得られたタンパク量およびLuciferin-CEE溶液の反応時間で除することにより、代謝活性値(pmol/min/mg protein)を算出した。
【0122】
[実施例1]
12cm×8cmサイズの長方形にカットした、厚さ50μmのポリスチレン(以下、PSと記載する)単独重合体の未延伸フィルム(大倉工業株式会社製、商品名:セロマーS-2、酸素透過度3310cm3/(m2×24h×atm))に、UVレーザー加工機(タカノ株式会社製)を用いて、波長266nm、出力50mW、走査速度10mm/sec.、ビーム径5μmの条件にてレーザー加工を実施し、PSフィルムに直径5μmの細孔を24個形成した。細孔の配置については後述する。
デジタルマイクロスコープ(株式会社キーエンス製、VHX-1000)を使用し、穿孔済みフィルムを上方から撮影し、撮影された画像に基づき、孔径を計測した。24個の細孔の孔径の個々の測定値は示さないが、孔径のばらつきは10%以内であった。
穿孔済みフィルムを常圧プラズマ表面処理装置(積水化学工業株式会社製)を用いて、チャンバー内を窒素の気流で満たしプラズマ処理した(処理速度2m/min、出力4.5kW、2往復)。その後、各ウェルの底面が開口しているPS製24ウェル培養プレート枠の底面に、プラズマ処理した穿孔済みフィルムを医療用粘着剤(スリーエム社製)を介して密着させた。1ウェル(直径16mmの円形状、面積約2cm2)当たり、1個の細孔を形成し、細孔密度が0.5個/cm2の24ウェル細胞培養容器を作成した。細孔は、24ウェル培養プレート枠に穿孔済みフィルムを接着させた際に、各ウェルで図1Bに示す通りに配置されるようにあらかじめ設計しておき、穿孔した。具体的には、円形状のウェル底面の内側に沿う円の中心に細孔を1つ配置した。
細胞培養容器を耐ガンマ線袋に梱包して10kGyのガンマ線を照射し滅菌してから培養容器の培養面に、0.5mg/mLのコラーゲン溶液を0.5mL添加した後、余分なコラーゲン溶液を除去した。室温で30~60分間静置した後、ダルベッコPBS(-)で洗浄して、一晩、室温で乾燥させた。同法で作製したコラーゲンコート済みの細胞培養容器を培養容器1とし、同じものを5個作成した。
【0123】
次いで、ラット初代凍結肝細胞を含む培地(0.5mL)を5個の培養容器1の培養面それぞれにマイクロピペットで播種し、ポリスチレン製の蓋を被せ、インキュベーターに持ち込んで、37℃、5%CO2下培養を開始した。4個の培養容器で撓みの有無と、細胞接着性を評価した。その後、4個の培養容器1のうち1個を用いて培地中の酸素濃度を測定した。残り3個では代謝活性を測定した。結果を表1に示す。代謝活性値は、3個の容器の結果を平均値として表1に示した。さらに、残り1個の容器は、7日間培養後に細胞接着性を評価した。結果を表1に示す。図2に細胞播種1日後の細胞を位相差顕微鏡で観察した結果を示す。
【0124】
[実施例2]
レーザー加工条件を出力100mW、ビーム径20μmに変更した以外は実施例1と同様な方法で細胞培養容器を作成し、孔径が20μm、孔密度は0.5個/cm2の24ウェル細胞培養容器を作成し、評価を実施した。結果を表1に示す。
【0125】
[実施例3]
レーザー加工条件をビーム径40μmに変更した以外は実施例2と同様な方法で細胞培養容器を作成し、孔径が40μm、孔密度は0.5個/cm2の24ウェル細胞培養容器を作成し、評価を実施した。結果を表1に示す。
【0126】
[実施例4]
レーザー加工条件をビーム径80μmに変更した以外は実施例2と同様な方法で細胞培養容器を作成し、孔径が80μm、孔密度は0.5個/cm2の24ウェル細胞培養容器を作成し、評価を実施した。結果を表1に示す。
【0127】
[実施例5]
PSフィルムに20μm孔を120個形成したこと以外は実施例2と同様な方法で細胞培養容器を作成し、評価を実施した。1ウェル(直径16mmの円形状、面積約2cm2)当たり、5つの細孔(孔径20μm)を形成し、細孔密度が2.5個/cm2の24ウェル細胞培養容器を作成した。細孔は、24ウェル培養プレート枠に穿孔済みフィルムを接着させた際に、各ウェルで図1Cに示す通りに配置されるようにあらかじめ設計しておき、穿孔した。具体的には、円形状のウェル底面の内側に沿う円の中心に細孔を1個、該円の同心円(半径5mm)と、該円の直交する2本の対角線とが交わる位置に細孔を4個配置した。結果を表1に示す。
【0128】
[実施例6]
PSフィルムに20μm孔を480個形成したこと以外は実施例2と同様な方法で細胞培養容器を作成し、評価を実施した。1ウェル(直径16mmの円形状、面積約2cm2)当たり、20個の細孔(孔径20μm)を形成し、細孔密度が10個/cm2の24ウェル細胞培養容器を作成した。細孔は、24ウェル培養プレート枠に穿孔済みフィルムを接着させた際に、各ウェルで図1Dに示す通りに配置されるようにあらかじめ設計しておき、穿孔した。具体的には、円形状のウェル底面の内側に沿う円の、半径1.6mm、3.2mm、4.8mmの同心円上に4個、半径6.4mmの同心円上に8個、それぞれ均等に細孔を配置した。結果を表1に示す。
【0129】
[実施例7]
PSフィルムに20μm孔を2400個形成したこと以外は実施例2と同様な方法で細胞培養容器を作成し、評価を実施した。1ウェル(直径16mmの円形状、面積約2cm2)当たり、100個の細孔(孔径20μm)を形成し、細孔密度が50個/cm2の24ウェル細胞培養容器を作成した。細孔は、24ウェル培養プレート枠に穿孔済みフィルムを接着させた際に、各ウェルで図1Eに示す通りに配置されるようにあらかじめ設計しておき、穿孔した。具体的には、円形状のウェル底面の内側に沿う円の、半径0.8mmの同心円上に4個、半径1.6mm、3.2mmの同心円上に16個、半径4.8mm、6.4mmの同心円上に32個、それぞれ均等に細孔を配置した。結果を表1に示す。
【0130】
[実施例8]
PSフィルムに20μm孔を9600個形成したこと以外は実施例2と同様な方法で細胞培養容器を作成し、評価を実施した。1ウェル(直径16mmの円形状、面積約2cm2)当たり、400個の細孔(孔径20μm)を形成し、細孔密度が200個/cm2の24ウェル細胞培養容器を作成した。細孔は、24ウェル培養プレート枠に穿孔済みフィルムを接着させた際に、各ウェルで図1Fに示す通りに配置されるようにあらかじめ設計しておき、穿孔した。具体的には、円形状のウェル底面の内側に沿う円の、半径0.8mm、1.6mm、2.1mm、2.7mmの同心円上に8個、半径3.2mm、3.7mm、4.3mmの同心円上に16個、半径4.8mm、5.3mmの同心円上に32個、半径5.9mm、6.4mm、6.9mm、7.5mmの同心円上に64個、均等に細孔を配置した。結果を表1に示す。
【0131】
[実施例9]
細胞播種濃度を1.0×105cells/cm2に変更したこと以外は実施例2と同様な方法で評価を実施した。結果を表1に示す。
【0132】
[実施例10]
コラーゲン処理を実施しなかったこと以外は実施例3と同様な方法で細胞培養容器を作成し、評価を実施した。結果を表1に示す。
【0133】
[実施例11]
PSフィルムの代わりに厚み50μmのTPXフィルム(以下、PMPと記載する。三井化学東セロ株式会社製、商品名:オピュランX-88B、酸素透過度38240cm3/(m2×24h×atm))を用いたこと以外は実施例2と同様な方法で細胞培養容器を作成し、孔径が20μm、孔密度は0.5個/cm2の24ウェル細胞培養容器を作成し、評価を実施した。結果を表1に示す。
【0134】
[実施例12]
レーザー加工条件をビーム径40μmに変更した以外は実施例11と同様な方法で細胞培養容器を作成し、孔径が40μm、孔密度は0.5個/cm2の24ウェル細胞培養容器を作成し、評価を実施した。結果を表1に示す。
【0135】
[実施例13]
PSフィルムの代わりに厚み50μmの二軸配向ポリエチレンテレフタレートフィルム(以下、PETと記載する。東レ株式会社製、商品名:ルミラー#50-T60、酸素透過度30cm3/(m2×24h×atm))を用いたこと以外は実施例2と同様な方法で細胞培養容器を作成し、孔径が20μm、孔密度は0.5個/cm2の24ウェル細胞培養容器を作成し、評価を実施した。結果を表1に示す。
【0136】
[実施例14]
レーザー加工条件をビーム径40μmに変更した以外は実施例13と同様な方法で細胞培養容器を作成し、孔径が40μm、孔密度は0.5個/cm2の24ウェル細胞培養容器を作成し、評価を実施した。結果を表1に示す。
【0137】
[比較例1]
レーザー加工条件を出力150mW、ビーム径120μmに変更し、コラーゲンコートを実施しなかったこと以外は実施例1と同様な方法で細胞培養容器を作成し、孔径が120μm、孔密度は0.5個/cm2の24ウェル細胞培養容器を作成し、培養評価を実施した。結果を表2に示す。
【0138】
[比較例2]
レーザー加工による細孔を形成していないPSフィルムを用いたこと以外、実施例1と同様な方法で細胞培養容器を作成し、評価を実施した。結果を表2に示す。
【0139】
[比較例3]
細胞播種濃度を1.0×105cells/cm2に変更したこと以外は比較例2と同様な方法で評価を実施した。結果を表2に示す。
【0140】
[比較例4]
底面のPSの厚みが1000μmである市販の24ウェルPS培養容器(コーニング社製、酸素透過度200cm3/(m2×24h×atm))を使用した以外は比較例2と同様な方法で細胞培養容器を作成し、評価を実施した。結果を表2に示す。
【0141】
[比較例5]
細胞播種濃度を1.0×105cells/cm2に変更したこと以外は比較例4と同様な方法で評価を実施した。結果を表2に示す。
【0142】
[比較例6]
レーザー加工による孔を形成していないTPXフィルムを用いたこと以外、実施例11と同様な方法で細胞培養容器を作成し、評価を実施した。結果を表2に示す。
【0143】
[比較例7]
レーザー加工による孔を形成していないPETフィルムを用いたこと以外、実施例13と同様な方法で細胞培養容器を作成し、評価を実施した。結果を表2に示す。
【0144】
【表1】
【0145】
【表2】
【0146】
表1より、本発明の培養部材を培養容器底部に配置した培養容器を用いたラット初代凍結肝細胞の培養では、最長7日間の長期培養が可能であることが示された。また、この培養容器は、底面の撓みは無く、形状安定性に優れ、培地成分の液漏れも無かった。さらに細胞は培養面全体に均一に接着、増殖し、形態を維持しており、この培養容器は細胞接着性に優れていることが示された。
【0147】
本発明の培養部材を用いたラット初代凍結肝細胞の培養の効果をより詳細に見ると、培養1日後の培地中酸素濃度が高く、培養部材を介して効果的に酸素が供給されていた。また、肝細胞の機能として薬剤の代謝活性を評価した代謝活性値が高く、細胞の機能は正常に維持されていることが明らかになった。さらに、4×105cells/cm2の高密度培養でも細胞機能を正常に維持させることができることが示された。
【0148】
さらに、実施例1~9より、孔径および孔密度を上げることで培養容器底面からの酸素供給能が向上し、飽和酸素濃度が向上し、また、代謝活性値も向上することが示された。
【0149】
一方、比較例1では、孔径が120μmであったため、細孔からの液漏れが生じて、培養評価ができなかった。比較例2~5では、細孔を形成していないポリスチレン容器を用いたため、飽和酸素濃度が低下し、また代謝活性値も低下し、細胞は正常な機能を発現できないことが示された。特に、4×105cells/cm2の高密度培養(比較例2、比較例4)では、さらに代謝活性値が低下し、正常な機能を発現できないことが示された。細孔を形成していないポリエチレンテレフタレート容器を用いた比較例6では、飽和酸素濃度が低下し、また代謝活性値も低下し、細胞は正常な機能を発現できないことが示された。
【0150】
実施例1~9および比較例2ならびに実施例13、14および比較例6より、培養容器底面に細孔を有する培養部材を用いることで酸素供給能が向上し、飽和酸素濃度が向上し、さらには代謝活性値が向上することが示された。
【0151】
実施例10より、本発明の培養容器は、コラーゲンコートを実施していない場合でも、4×105cells/cm2の高密度培養において、高い飽和酸素濃度および代謝活性値を示すことが明らかになった。
【0152】
以上の結果から、本発明の培養部材は、優れた形状安定性、酸素供給性に加え、細胞接着性が良好で、高密度でも細胞等の機能を保持したまま細胞等の培養が可能であることが明らかになった。
図1
図2