(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-29
(45)【発行日】2025-02-06
(54)【発明の名称】オセルタミビルを含む錠剤及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/215 20060101AFI20250130BHJP
A61K 47/14 20170101ALI20250130BHJP
A61K 9/20 20060101ALI20250130BHJP
A61P 31/12 20060101ALI20250130BHJP
【FI】
A61K31/215
A61K47/14
A61K9/20
A61P31/12
(21)【出願番号】P 2020217343
(22)【出願日】2020-12-25
【審査請求日】2023-12-22
(73)【特許権者】
【識別番号】591040753
【氏名又は名称】東和薬品株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100159385
【氏名又は名称】甲斐 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100163407
【氏名又は名称】金子 裕輔
(74)【代理人】
【識別番号】100166936
【氏名又は名称】稲本 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100174883
【氏名又は名称】冨田 雅己
(74)【代理人】
【識別番号】100213849
【氏名又は名称】澄川 広司
(72)【発明者】
【氏名】千々石 雅志
(72)【発明者】
【氏名】岩本 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】三宅 克紀
【審査官】田澤 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/003091(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0120802(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0196462(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第104367558(CN,A)
【文献】特表2009-537548(JP,A)
【文献】特開2018-184382(JP,A)
【文献】Arshiya Farheen et al.,"Formulation and Evaluation of Oseltamivir Phosphate Immediate Release Tablets by Using Compression Coating Technique",International Journal of Pharmacy and Pharmaceutical Research,2017年,Vol.10, No.4,p.248-264
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-33/44
47/00-47/69
9/00-9/72
A61P 1/00-43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効成分としてオセルタミビル又はその薬学的に許容される塩もしくはそれらの溶媒和物を錠剤の全質量の60質量%以上90質量%以下で含む錠剤の製造において、滑沢剤としてフマル酸ステアリルナトリウムを用いることにより、圧縮成型におけるバインディングの発生を抑制する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オセルタミビル又はその薬学的に許容される塩もしくはそれらの溶媒和物を有効成分とする錠剤及びその製造方法に関する。本発明は、圧縮成型におけるバインディングの発生を抑制する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
オセルタミビルは、下記の式(I)で示される化合物であり、その化学名は、(-)-(3R, 4R, 5S)-4-アセトアミド-5-アミノ-3-(1-エチルプロポキシ)シクロヘキセ-1-エン-1-カルボン酸エチルエステルである。オセルタミビルは、ヒトA型及びB型インフルエンザウイルスのノイラミニダーゼを選択的に阻害し、新しく形成されたウイルスの感染細胞からの遊離を阻害することにより、ウイルスの増殖を抑制する。現在市販されているオセルタミビル製剤はカプセル剤であり、オセルタミビルの錠剤は市販されていないが、オセルタミビル含有錠剤について記載された文献はいくつか存在する。例えば、特許文献1には、オセルタミビルとデンプンとを含むペレットと、ステアリン酸マグネシウムを含む錠剤用添加物とを混合し、得られた混合粉末を圧縮成型して、オセルタミビルを含む口腔内崩壊錠を製造したことが記載されている。
【0003】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】米国特許出願公開2016/0120802号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の口腔内崩壊錠は、1錠当たりのオセルタミビルの含有量が10質量%程度であり、オセルタミビルの含有量が少ない。そこで、本発明者らは、一般的な錠剤用添加物を用いて、1錠当たりのオセルタミビルの含有量を増やした錠剤の製造を試みたが、圧縮成型時に打錠障害の一種であるバインディングの発生を認めた。本発明は、バインディングの発生が抑制される組成を有するオセルタミビル含有錠剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、滑沢剤としてフマル酸ステアリルナトリウムを用いて錠剤を製造することにより、圧縮成形時のバインディングの発生を抑制できることを見出して、本発明を完成した。よって、本発明は、滑沢剤としてフマル酸ステアリルナトリウムと、有効成分としてオセルタミビル又はその薬学的に許容される塩もしくはそれらの溶媒和物とを含み、有効成分の含有量が、錠剤の全重量の60質量%以上90質量%以下である錠剤を提供する。
【0007】
本発明は、有効成分としてオセルタミビル又はその薬学的に許容される塩もしくはそれらの溶媒和物を錠剤の全質量の60質量%以上90質量%以下で含む錠剤の製造方法であり、有効成分を含む造粒物を得る工程と、造粒物と、滑沢剤としてフマル酸ステアリルナトリウムとを混合して、打錠用混合物を得る工程と、打錠用混合物を圧縮成型して錠剤を得る工程とを含む、錠剤の製造方法を提供する。
【0008】
本発明は、有効成分としてオセルタミビル又はその薬学的に許容される塩もしくはそれらの溶媒和物を錠剤の全質量の60質量%以上90質量%以下で含む錠剤の製造において、滑沢剤としてフマル酸ステアリルナトリウムを用いることにより、圧縮成型におけるバインディングの発生を抑制する方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、バインディングの発生が抑制された、有効成分としてオセルタミビル又はその薬学的に許容される塩もしくはそれらの溶媒和物を含む錠剤とその製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1A】滑沢剤としてフマル酸ステアリルナトリウムを用いた錠剤の側面を示す写真である。
【
図1B】滑沢剤としてフマル酸ステアリルナトリウムを用いた錠剤の側面を示す写真である。
【
図2A】滑沢剤としてステアリン酸マグネシウム(一般)を用いた錠剤の側面を示す写真である。
【
図2B】滑沢剤としてステアリン酸マグネシウム(一般)を用いた錠剤の側面を示す写真である。
【
図3A】滑沢剤としてステアリン酸マグネシウム(軽質)を用いた錠剤の側面を示す写真である。
【
図3B】滑沢剤としてステアリン酸マグネシウム(軽質)を用いた錠剤の側面を示す写真である。
【
図4A】滑沢剤としてステアリン酸カルシウムを用いた錠剤の側面を示す写真である。
【
図4B】滑沢剤としてステアリン酸カルシウムを用いた錠剤の側面を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本実施形態の錠剤は、有効成分として、オセルタミビル又はその薬学的に許容される塩もしくはそれらの溶媒和物を含む。オセルタミビル又はその薬学的に許容される塩とは、上記の式(I)で表される化合物と有機又は無機の酸とから形成される、ヒトを含む哺乳動物への投与が許容される塩をいう。そのような薬学的に許容される塩としては、例えばリン酸塩、塩酸塩、硫酸塩、酢酸塩などが挙げられる。それらの中でも、オセルタミビルリン酸塩が好ましい。
【0012】
オセルタミビルの薬学的に許容される溶媒和物とは、上記の式(I)で表される化合物又はその薬学的に許容される塩と、ヒトを含む哺乳動物への投与が許容される溶媒とから形成される固体分子をいう。そのような溶媒としては、例えば水、酢酸、エタノールなどが挙げられる。
【0013】
以下、「オセルタミビル」との用語は、特に言及しない限り、上記の式(I)で示される化合物、その薬学的に許容される塩及びそれらの溶媒和物を包含する。オセルタミビルの形状は、特に限定されず、例えば粉末、結晶などのいずれの形状であってもよい。
オセルタミビルの粒子径は特に限定されないが、例えば、オセルタミビルの粉末の粒子径(D50)が5μm以上120μm以下であることが好ましく、15μm以上110μm以下であることがより好ましい。本明細書では、このD50は、レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置を用いて測定される体積基準粒子径分布に基づく。レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置としては、例えば、マイクロトラック・ベル株式会社の「エアロトラックLDSA-SPR」、Malvern Panalytical社の「Mastersizer 3000」などが挙げられる。
【0014】
本実施形態では、錠剤中のオセルタミビルの含有量は、錠剤の全質量の60質量%以上90質量%以下である。錠剤中のオセルタミビルの含有量の下限は、例えば60質量%、65質量%、70質量%である。錠剤中のオセルタミビルの含有量の上限は、例えば90質量%、85質量%、80質量%である。
【0015】
本実施形態の錠剤は、滑沢剤としてフマル酸ステアリルナトリウムを含む。本実施形態では、滑沢剤としてフマル酸ステアリルナトリウムを用いて錠剤を製造することにより、錠剤製造時のバインディングの発生を抑制することができる。バインディングとは、錠剤を打錠する際に、錠剤の側面に傷が生じる現象のことを指す。
【0016】
用いるフマル酸ステアリルナトリウムの粒子径は特に限定されないが、例えば、フマル酸ステアリルナトリウムの粉末の粒子径(D50)は、0.3μm以上10μm以下であることが好ましく、0.5μm以上7μm以下であることがより好ましく、1μm以上4μm以下であることがより好ましい。
錠剤中のフマル酸ステアリルナトリウムの含有量は、錠剤の全質量の0.9質量%以上2.0質量%以下であることが好ましい。錠剤中のフマル酸ステアリルナトリウムの含有量の上限は、例えば2.0質量%、1,9質量%、1.8質量%、1.7質量%、1.6質量%である。錠剤中のフマル酸ステアリルナトリウムの含有量の下限は、例えば0.9質量%、1.0質量%、1.1質量%、1.2質量%、1.3質量%である。
【0017】
本実施形態の錠剤において、オセルタミビルに対するフマル酸ステアリルナトリウムの質量比は、例えば0.010以上0.030以下である。錠剤におけるオセルタミビルに対するフマル酸ステアリルナトリウムの質量比の下限としては、例えば0.010、0.011、0.012、0.013、0.014、0.015である。錠剤におけるオセルタミビルに対するフマル酸ステアリルナトリウムの質量比の上限としては、例えば0.030、0.029、0.028、0.027、0.026、0.025、0.024、0.023、0.022、0.021、0.020である。
【0018】
好ましい実施形態では、錠剤は、フマル酸ステアリルナトリウム以外の滑沢剤を実質的に含まない。ここで、「実質的に含まない」とは、錠剤においてフマル酸ステアリルナトリウム以外の滑沢剤は、含まれるとしても少量であり、フマル酸ステアリルナトリウム以外の滑沢剤を積極的に添加しないことをいう。フマル酸ステアリルナトリウム以外の滑沢剤が少量含まれる場合としては、例えば、不純物として微量に混入する場合、何らかの化学反応や含有成分の分解などにより微量に生成する場合などが挙げられる。
【0019】
別の実施形態では、錠剤は、必要に応じて、フマル酸ステアリルナトリウム以外の薬学的に許容される滑沢剤をさらに含んでもよい。そのような滑沢剤としては、例えばタルク、軽質無水ケイ酸、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウムなどが挙げられる。フマル酸ステアリルナトリウム以外の滑沢剤は一種でもよいし、二種以上を組み合わせてもよい。この実施形態では、錠剤中のフマル酸ステアリルナトリウムの含有量及びオセルタミビルに対するフマル酸ステアリルナトリウムの質量比は、上記のとおりである。フマル酸ステアリルナトリウムを含む全ての滑沢剤の含有量の上限は、例えば2.0質量%以下であることが好ましい。また、錠剤におけるオセルタミビルに対するフマル酸ステアリルナトリウムを含む全ての滑沢剤の質量比の上限は、例えば0.030以下であることが好ましい。
【0020】
本実施形態では、錠剤は、錠剤用添加物をさらに含んでもよい。錠剤用添加物とは、医薬品添加物のうち、錠剤の製造に用いられる薬学的に許容される添加物をいう。そのような錠剤用添加物としては、薬学的に許容される賦形剤、崩壊剤、結合剤、甘味剤、着色剤などから適宜選択できる。
【0021】
薬学的に許容される賦形剤としては、例えば、デンプン類、セルロース類、糖類、糖アルコール類などが挙げられる。デンプン類としては、部分アルファー化デンプン、トウモロコシデンプンなどが挙げられる。セルロース類としては、結晶セルロース、カルメロース、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、クロスカルメロースナトリウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースなどが挙げられる。糖類としては、乳糖(乳糖水和物ともいう)、白糖などが挙げられる。糖アルコール類としては、D-ソルビトール、D-マンニトールなどが挙げられる。賦形剤は、一種でもよいし、二種以上を組み合わせてもよい。
【0022】
薬学的に許容される結合剤としては、例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒプロメロース、エチルセルロース、ポリビニルピロリドンなどが挙げられる。それらの中でも、ヒドロキシプロピルセルロースを用いることが好ましい。結合剤は一種でもよいし、二種以上を組み合わせてもよい。
結合剤としてヒドロキシプロピルセルロースを用いた際の、ヒドロキシプロピルセルロースの粘度は、特に限定されないが、2 mPa・s以上10 mPa・s以下となることが好ましい。ここで、本明細書におけるヒドロキシプロピルセルロースの粘度とは、日本薬局方に記載の粘度測定法に基づいてヒドロキシプロピルセルロースの20℃、2質量%の水溶液の粘度を測定した値を指す。ヒドロキシプロピルセルロースとしては、例えば、粘度が2 mPa・s以上2.9 mPa・s以下となるものを用いてもよいし、3 mPa・s以上5.9 mPa・s以下となるものを用いてもよいし、6 mPa・s以上10 mPa・s以下となるものを用いてもよい。
【0023】
薬学的に許容される甘味剤としては、例えば、アセスルファムカリウム、スクラロース、アスパルテーム、サッカリンナトリウムなどが挙げられる。甘味剤は一種でもよいし、二種以上を組み合わせてもよい。
【0024】
薬学的に許容される着色剤としては、例えば、三二酸化鉄、黄色三二酸化鉄などが挙げられる。着色剤は一種でもよいし、二種以上を組み合わせてもよい。
【0025】
薬学的に許容される崩壊剤としては、クロスポビドン、カルメロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、トウモロコシデンプンなどが挙げられる。崩壊剤は一種でもよいし、二種以上を組み合わせてもよい。
【0026】
錠剤は、必要に応じて、さらにコーティングされていてもよい。コーティングは、公知のコーティング方法を用いることができる。例えば、パンコーティング法、流動層コーティング法などを用いることができる。錠剤をコーティングすることで、オセルタミビルが有する苦みを抑制することができる。コーティング剤としては、例えば、ヒプロメロース、エチルセルロース、タルク、酸化チタン、珪酸、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン、アミノアルキルメタクリレートコポリマー、ポリビニルアルコール、ポリビニルアルコールジエチルアミノアセテート、ポリビニルアルコールアセテートフタレート、セルロースアセテートフタレート、ヒプロメロースフタレート、メタクリル酸共重合体、メタクリル酸メチルとメタクリル酸ブチル、メタクリル酸ジメチルアミノエチルの共重合体などが挙げられる。コーティング剤は、一種でもよいし、二種以上を組み合わせてもよい。
コーティング剤としてヒプロメロースを用いた際の、ヒプロメロースの粘度は、特に限定されないが、3 mPa・s以上10 mPa・s以下となることが好ましい。ここで、本明細書におけるヒプロメロースの粘度とは、日本薬局方に記載の粘度測定法に基づいてヒプロメロースの20℃、2質量%の水溶液の粘度を測定した値を指す。ヒプロメロースとしては、例えば、粘度が4.8 mPa・s以上7.2 mPa・s以下となるものを用いてもよい。
【0027】
錠剤は、必要に応じて、PTP包装、ビン充填、アルミ包装などにより包装されていてもよい。
PTP包装の素材としては、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニリデン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリスチレン又はポリカーボネートなどの樹脂や、アルミニウムなどの金属が挙げられる。これらの素材は、一種類で用いても、複数種類を組み合わせて用いてもよい。組み合わせの例としては、例えば、ポリ塩化ビニルとポリ塩化ビニリデンとを積層することや、ポリ塩化ビニルとポリクロロトリフルオロエチレンとを積層することなどが挙げられる。上記の樹脂を公知の方法で成形した樹脂シートの、成形したポケットに錠剤を入れ、アルミニウム箔を用いて蓋をすることで、包装することができる。
錠剤が収容されたPTP包装は、更にアルミピローによって包装されていてもよい。このアルミピローには、更に乾燥剤が収容されていてもよい。乾燥剤としては、例えば、塩化カルシウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、シリカゲル又はゼオライトなどが挙げられる。
【0028】
本発明の一実施形態は、有効成分としてオセルタミビルを、錠剤の全質量の60質量%以上90質量%以下で含む錠剤の製造方法である。この製造方法について、以下に説明する。
【0029】
まず、オセルタミビルと、滑沢剤を除く錠剤用添加物とを混合して、造粒用混合物を得る。オセルタミビルと滑沢剤を除く錠剤用添加物との混合は、当該技術分野で公知の方法で行うことができる。混合を用手法で行う場合は、例えば、オセルタミビルと賦形剤とを適当な袋に入れて撹拌する袋混合を行ってもよい。混合を機械で行う場合は、当該技術分野で公知の混合機を用いてもよい。混合機は、回転型混合機及び固定型混合機のいずれであってもよい。回転型混合機は、容器自体を回転させることで、該容器に収容した粉体を混合する機械である。固定型混合機は、容器内に備えられた撹拌羽根、スクリューなどを回転させることで、該容器に収容した粉体を混合する機械である。混合機としては、例えばV型混合機、二重円錐型混合機、リボン型混合機、円錐スクリュー型混合機などが挙げられる。あるいは、撹拌造粒機のような、後述の造粒工程も行える装置に導入して混合してもよい。混合するオセルタミビルや錠剤用添加物の量は、用いる混合機に応じて適宜設定することができる。
【0030】
錠剤用添加物は、上述の物から適宜選択することができる。錠剤用添加物のうち、賦形剤及び/又は結合剤を用いることが好ましく、賦形剤としてD-マンニトールを、結合剤としてヒドロキシプロピルセルロースを用いることが好ましい。
オセルタミビル及び/又は錠剤用添加物は、混合前に衝撃式粉砕機などに供されて予め粉砕されていてもよい。衝撃式粉砕機としては、特に限定されず、当該技術分野において公知の装置を用いることができる。そのような装置としては、例えばピンミルやハンマーミルなどが挙げられる。
【0031】
次に、造粒用混合物を造粒機に入れて造粒し、有効成分としてオセルタミビルを含む造粒物を得る。造粒機としては、オセルタミビルの物性に影響を与えなければ特に限定されない。造粒機としては、例えば、撹拌造粒機、流動層造粒機、乾式造粒機などを用いることができる。また、装置が乾燥機能を有していてもよい。造粒用混合物や造粒物は、特定の網目を有する篩に供して分級してもよい。篩に通すことによって、造粒用混合物や造粒物の粒子径を適切な大きさに調整することができる。
得られた造粒物の水分値は特に限定されないが、3質量%以下であることが好ましく、2.5質量%以下であることがより好ましく、2質量%以下であることがより好ましく、1.5質量%以下であることがより好ましく、1.0質量%以下であることがより好ましい。なお、本明細書における水分値とは、乾燥減量試験法に基づいて測定した値である。なお、本発明における水分値とは、乾燥減量試験法に基づいて測定した値である。
【0032】
得られた造粒物と、滑沢剤としてフマル酸ステアリルナトリウムとを混合して、打錠用混合物を得る。造粒物とフマル酸ステアリルナトリウムとの混合には、上述の混合機を用いることができる。混合する造粒物やフマル酸ステアリルナトリウムの量は、用いる混合機に応じて適宜設定することができる。
【0033】
得られた打錠用混合物を打錠機によって圧縮成型することにより、錠剤(素錠)を得ることができる。「素錠」とは、コーティング処理を行っていない錠剤のことを指す。圧縮成型に用いる打錠機は公知のものを用いることができる。公知の打錠機としては、例えば、ロータリー式打錠機を用いることができる。
【0034】
得られた錠剤は、必要に応じて、さらにコーティングされていてもよい。コーティング方法としては、公知のコーティング方法を用いることができる。例えば、パンコーティング法、流動層コーティング法などを用いることができる。用いるコーティング剤は、上述のものから適宜選択することができる。コーティング剤は、適宜調製してフィルムコーティング液とすることができる。フィルムコーティング液は、例えば、ヒプメロース、ヒドロキシプロピルセルロース、タルク及び酸化チタンを精製水に分散してフィルムコーティング液とすることができる。
【0035】
製造される錠剤の質量は特に限定されないが、錠剤が、式(I)で表される化合物として少なくとも75mg含むことができる質量が好ましい。錠剤の質量は、例えば、1錠剤あたり50 mg以上500 mg以下であり、100 mg以上400 mg以下であることが好ましく、100mg以上300mg以下であることがより好ましく、100mg以上200mg以下であることがより好ましい。
【0036】
滑沢剤としてフマル酸ステアリルナトリウムを用いて錠剤を製造することにより、硬度に優れた錠剤が得られる。錠剤の硬度は、高いほど製造時の欠けを防ぐことができるため好ましい。錠剤の硬度は75N以上あることが好ましく、80N以上あることがより好ましく、85N以上あることがより好ましく、90N以上あることがより好ましい。
【0037】
錠剤を製造する際の打錠圧力は、特に限定されず、錠剤の組成や重量などに応じて適宜設定し得る。打錠圧力は、例えば、3kN以上12kN以下になるように設定でき、4kN以上10kN以下であることが好ましい。
【0038】
得られた錠剤の水分値は特に限定されず、錠剤の管理条件によっても変動するが、3質量%以下であることが好ましく、2.5質量%以下であることがより好ましく、2質量%以下であることがより好ましく、1.5質量%以下であることがより好ましく、1.0質量%以下であることがより好ましく、0.8質量%以下であることがより好ましい。
【0039】
本発明の一実施形態は、圧縮成型におけるバインディングの発生を抑制する方法である。滑沢剤としてフマル酸ステアリルナトリウムを用いて、有効成分としてオセルタミビルを錠剤の全質量の60質量%以上90質量%以下で含む錠剤を製造することで、圧縮成型におけるバインディングの発生を抑制することができる。この方法における錠剤の製造の詳細については、上述の本実施形態の錠剤の製造方法について述べたことと同じである。
【実施例】
【0040】
以下、実施例及び比較例によって本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらによりなんら制限されるものではない。
【0041】
(滑沢剤による錠剤の物性についての検討)
ここでは、オセルタミビルと、滑沢剤としてフマル酸ステアリルナトリウムとを用いて錠剤を製造する場合(実施例1及び2)と、滑沢剤としてフマル酸ステアリルナトリウムの代わりにステアリン酸マグネシウムを用いて錠剤を製造した場合(比較例1~4)と、滑沢剤としてフマル酸ステアリルナトリウムの代わりにステアリン酸カルシウムを用いて錠剤を製造した場合(比較例5及び6)のバインディング及び製造された錠剤の物性について検討した。
【0042】
・ オセルタミビルを有効成分として含む造粒物の調製
オセルタミビルリン酸塩を衝撃粉砕機へ投入し、オセルタミビルリン酸塩を粉砕した。このオセルタミビルリン酸塩粉砕物の粒子径(D50)をMastersizer 3000によって測定すると、D50は22μmであった。このオセルタミビルリン酸塩粉砕物と、D-マンニトールとを撹拌造粒機に投入し、混合した。混合後、精製水をスプレーして造粒した。この造粒末を乾燥、整粒して、オセルタミビルを有効成分として含む造粒物を得た。この造粒物の水分値は0.06質量%であった。
【0043】
・ 実施例1及び実施例2の錠剤の製造
以下の表1に、実施例1及び実施例2の錠剤の処方(1錠剤あたりの成分量)を示す。この錠剤を、次のようにして製造した。
上記造粒物の調製にて作製した造粒物とフマル酸ステアリルナトリウムとを袋混合して、打錠用混合物を得た。得られた打錠用混合物を、ロータリー式打錠機を用い、打錠圧7 kNで打錠し、実施例1及び実施例2の錠剤を得た。この得られた錠剤を観察し、バインディングが発生しているか確認した。
【0044】
得られた錠剤の錠厚、硬度及び崩壊時間を測定した。錠厚は、製造した錠剤の上面の隆起の頂点から下面の隆起の頂点までの長さを指し、ダイヤルシックネスゲージ(TECLOCK社)を用いて測定した。硬度の測定は、錠剤硬度計(ERWAKA社)を用いて測定した。崩壊時間は日本薬局方の崩壊試験法に準じて測定した。
【0045】
・ 比較例の錠剤の製造
以下の表1に、比較例1~6の錠剤の処方(1錠剤あたりの成分量)を示す。各錠剤は、式(I)で表されるオセルタミビルとして75mg含んでいる。比較例1及び比較例2は、滑沢剤としてフマル酸ステアリルナトリウムのかわりにステアリン酸マグネシウム(一般:太平化学産業(株))を、比較例3及び比較例4は、滑沢剤としてフマル酸ステアリルナトリウムのかわりにステアリン酸マグネシウム(軽質:太平化学産業(株))を、比較例5及び比較例6は、滑沢剤としてフマル酸ステアリルナトリウムの代わりにステアリン酸カルシウムを用いたこと以外は実施例1及び実施例2と同様にして錠剤を製造した。比較例で用いている二種のステアリン酸マグネシウムは、粒子径が異なり、軽質のステアリン酸マグネシウムの方が、一般のステアリン酸マグネシウムよりも粒子径が小さい。得られた各錠剤の錠厚、硬度及び崩壊時間を実施例1及び実施例2と同様に測定した。
【0046】
実施例及び比較例の各錠剤の測定結果を以下の表2に示した。また、各錠剤を観察した例を
図1A~
図4Bに示した。
図1Aが実施例1、
図1Bが実施例2、
図2Aが比較例1、
図2Bが比較例2、
図3Aが比較例3、
図3Bが比較例4、
図4Aが比較例5、
図4Bが比較例6の錠剤を示す。表2中のバインディングの欄の〇は、測定した錠剤中にバインディングの発生がほとんどないことを、×は測定した錠剤中にバインディングが頻繁に発生したことを示している。各錠剤の錠厚は全て3.3mmであった。
【0047】
【0048】
【0049】
表2の結果より、滑沢剤としてフマル酸ステアリルナトリウムを用いて製造した錠剤はバインディングの発生がほとんどないことが示され、滑沢剤としてフマル酸ステアリルナトリウムを用いることでバインディングの発生を低減することが示された。また、滑沢剤としてステアリン酸マグネシウムを用いると硬度が低下するのに対し、滑沢剤としてフマル酸ステアリルナトリウムを用いて製造した錠剤は高い硬度を有していることも示され、滑沢剤としてフマル酸ステアリルナトリウムを用いて製造した錠剤は、錠剤として優れた物性を有していることが示された。
【0050】
(処方例)
錠剤の処方例及び製造した錠剤の物性を、以下の表3及び4に示す。造粒・打錠については、例えば上記造粒物の調製及び錠剤の製造と同様にして行う、又は以下のようにして製造することができる。
【0051】
1) オセルタミビルリン酸塩を衝撃式粉砕機へ投入して粉砕し、オセルタミビルリン酸塩の粉砕物を得る(下記処方例1のオセルタミビルリン酸塩の粉砕物のD50は22μmである。なお、オセルタミビルリン酸塩は粉砕せずに使用してもよい。下記処方例2~4では未粉砕のオセルタミビルリン酸塩を用いており、D50は90μmである)。
2) 1)の粉砕物(又は未粉砕のオセルタミビルリン酸塩)、D-マンニトール及びヒドロキシプロピルセルロースを撹拌造粒機に投入し、混合した。混合後、精製水をスプレーして有効成分としてオセルタミビルリン酸塩を含む造粒末を得る。
3) 2)の造粒末を乾燥、整粒して、有効成分としてオセルタミビルリン酸塩を含む造粒物を得る。
4) 3)の造粒物とフマル酸ステアリルナトリウムとを拡散式混合機を用いて混合(造粒物とフマル酸ステアリルナトリウムとを混合する前に、造粒物にヒドロキシプロピルセルロースを加えて混合してもよい)して有効成分としてオセルタミビルリン酸塩を含む打錠用混合物を得る。
5) 4)の打錠用混合物を、ロータリー式打錠機を用いて打錠し、有効成分としてオセルタミビルリン酸塩を含む錠剤(素錠)を得る。
【0052】
錠径は錠厚と同様にダイヤルシックネスゲージを用いて測定した。フィルムコーティングは、例えば、以下の手順によって行うことができる。
【0053】
1) ヒプロメロース及びヒドロキシプロピルセルロースを精製水に溶解する。この溶解液にタルクを投入して分散させて、分散液Iを得る。
2) 酸化チタンを精製水に分散させて、分散液IIを得る。
3) 分散液I及び分散液IIを混和して、フィルムコーティング液を得る。
4) 有効成分としてオセルタミビルを含む錠剤(錠剤はコーティング前に恒温恒湿機に入れ、調湿してもよい)をコーティングパン機に入れ、フィルムコーティング液でコーティングした後乾燥してフィルムコーティング錠を得る。
【0054】
【0055】