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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-29
(45)【発行日】2025-02-06
(54)【発明の名称】光学素子及び、光学素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/00 20060101AFI20250130BHJP
   B29C 45/00 20060101ALI20250130BHJP
   B29C 45/26 20060101ALI20250130BHJP
   G02B 3/00 20060101ALI20250130BHJP
   G02B 7/02 20210101ALI20250130BHJP
【FI】
G02B5/00 B
B29C45/00
B29C45/26
G02B3/00 A
G02B7/02 Z
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2021048750
(22)【出願日】2021-03-23
(65)【公開番号】P2022147492
(43)【公開日】2022-10-06
【審査請求日】2024-01-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】花戸 宏之
(72)【発明者】
【氏名】岩浜 隆裕
【審査官】沖村 美由
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-249808(JP,A)
【文献】特開2001-343506(JP,A)
【文献】特開2010-286741(JP,A)
【文献】特開昭63-153501(JP,A)
【文献】特開2001-330709(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0095193(US,A1)
【文献】特開2002-303703(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B3/00-3/14
G02B5/00-5/136
G02B7/02
B29C45/00;45/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
略平板状の基材部の少なくとも片面に配置された一以上の光学要素と、
前記基材部の前記一以上の光学要素が設けられた面における、前記光学要素の周囲に、該光学要素の外周の少なくとも一部に対して所定の隙間領域が生じるように設けられた遮光膜と、
前記隙間領域の少なくとも一部に設けられ、前記基材部における他の領域と比較して表面粗さが粗く、前記隙間領域に入射したノイズ光を散乱させる表面粗化部と、
を備える、光学素子。
【請求項2】
前記遮光膜は、前記光学要素の外周を、少なくともその一部に対して前記隙間領域を介して囲うように形成された開口部を有し、
前記隙間領域は、前記開口部の周縁と前記光学要素の外周とで挟まれた領域である、請求項1に記載の光学素子。
【請求項3】
前記表面粗化部は、前記基材部の前記一以上の光学要素が設けられた面における、前記遮光膜の下にも設けられた、請求項1または2に記載の光学素子。
【請求項4】
前記表面粗化部は、前記基材部の前記一以上の光学要素が設けられた面における、前記光学要素以外の略全面に設けられた、請求項1から3のいずれか一項に記載の、光学素子。
【請求項5】
前記隙間領域の径方向の幅は、0.1μm以上100μm以下である、請求項1から4のいずれか一項に記載の光学素子。
【請求項6】
略平板状の基材部と、該基材部の表面に配置された一以上の光学要素と、前記基材部の表面における前記光学要素を囲う領域に設けられ表面粗化され、入射したノイズ光を散乱させる表面粗化部とを、一体成型する成型工程と、
前記成型工程の後に、前記基材部の前記一以上の光学要素が設けられた面における前記光学要素の外周を、少なくともその一部に対して所定の隙間領域を介して囲うように、遮光膜を形成する遮光膜形成工程と、を有し、
前記表面粗化部は、少なくとも前記隙間領域の一部に設けられる、光学素子の製造方法
【請求項7】
略平板状の基材部と、該基材部の表面に配置された一以上の光学要素とを、一体成型する成型工程と、
前記基材部の表面における前記光学要素を囲う領域に、表面が粗化され、入射したノイズ光を散乱させる表面粗化部を形成する表面粗化工程と、
前記基材部の前記一以上の光学要素が設けられた面における前記光学要素の外周を、少なくともその一部に対して所定の隙間領域を介して囲うように、遮光膜を形成する遮光膜形成工程と、
を有し、
前記表面粗化部は、少なくとも前記隙間領域の一部に設けられる、光学素子の製造方法。
【請求項8】
前記成型工程において、前記表面粗化部は、予めブラスト工程によって表面粗化された金型を用いて成型される、請求項6に記載の光学素子の製造方法。
【請求項9】
前記表面粗化工程において、前記表面粗化部は、ブラスト工程によって形成される、請求項7に記載の光学素子の製造方法。
【請求項10】
前記遮光膜は、前記光学要素の外周を、少なくともその一部に対して前記隙間領域を介して囲うように形成された開口部を有し、
前記隙間領域は、前記開口部の周縁と前記光学要素の外周とで挟まれた領域である、請求項6から9のいずれか一項に記載の光学素子の製造方法。
【請求項11】
前記表面粗化部は、前記基材部の前記一以上の光学要素が設けられた面における、前記遮光膜の下にも設けられる、請求項6から10のいずれか一項に記載の光学素子の製造方法。
【請求項12】
前記表面粗化部は、前記基材部の前記一以上の光学要素が設けられた面における、前記光学要素以外の略全面に設けられる、請求項6から11のいずれか一項に記載の、光学素子の製造方法。
【請求項13】
前記隙間領域の径方向の幅は、0.1μm以上100μm以下である、請求項6から12のいずれか一項に記載の光学素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学素子及び、光学素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、スマートフォン等の携帯電子機器において、生体情報を利用した個人認証である指紋認証機能の必要性が増加している。特に、携帯電子機器の表示部の下に光学式指紋認証センサを配置することで、携帯電子機器の表示部に触れるだけで指紋認証を可能とした技術が公知である(例えば、特許文献1、2を参照。)。この光学式指紋認証センサにおいては、指先からの散乱光を表示部の下のマイクロレンズアレイ(光学素子)によって集光し、イメージセンサで検知することで、指紋パターンを取得することが行われる。
【0003】
そして、その際、マイクロレンズアレイを通過しイメージセンサに入射するノイズ光を低減し、画像検知の精度を高めるために、マイクロレンズアレイにおける各レンズ要素(光学要素)の周辺部には遮光膜を形成することが求められる。しかしながら、遮光膜の形成位置の精度が充分に高いとはいえないため、遮光膜がレンズ要素に掛からないよう、遮光膜の端部とレンズ要素の間の隙間を充分に広くする必要があり、当該隙間からノイズ光がマイクロレンズアレイに入射する等の不都合が生じていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2020-135540号公報
【文献】特開2017-196319号公報
【文献】特開昭61-109002号公報
【文献】特開2006-337895号公報
【文献】特許第4577584号公報
【文献】特許第5813325号公報
【文献】国際公開第2014/156915号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示の技術は、上記の事情に鑑みて発明されたもので、その目的は、光学要素と遮光膜との隙間から光学素子に入射する迷光を抑制し、光学素子の結像性能を向上させることが可能な技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するために、本開示に係る光学素子は、略平板状の基材部に配置された一以上の光学要素の周囲に、光学要素の外周の少なくとも一部に対して所定の隙間領域が生じるように設けられた遮光膜を設け、隙間領域の少なくとも一部には、基材部における他の領域と比較して表面粗さが粗い表面粗化部を備えるように構成した。
【0007】
より詳しくは、本開示に係る光学素子は、略平板状の基材部の少なくとも片面に配置された一以上の光学要素と、前記基材部の前記一以上の光学要素が設けられた面における、前記光学要素の周囲に、該光学要素の外周の少なくとも一部に対して所定の隙間領域が生じるように設けられた遮光膜と、前記隙間領域の少なくとも一部に設けられ、前記基材部における他の領域と比較して表面粗さが粗い表面粗化部と、を備える。
【0008】
ここで、前記遮光膜は、前記光学要素の外周を、少なくともその一部に対して前記隙間
領域を介して囲うように形成された開口部を有し、前記隙間領域は、前記開口部の周縁と前記光学要素の外周とで挟まれた領域であってもよい。
【0009】
また、前記表面粗化部は、前記基材部の前記一以上の光学要素が設けられた面における、前記遮光膜の下にも設けられてもよい。
【0010】
また、前記表面粗化部は、前記基材部の前記一以上の光学要素が設けられた面における、前記光学要素以外の略全面に設けられてもよい。
【0011】
また、前記隙間領域の径方向の幅は、0.1μm以上100μm以下であってもよい。
【0012】
また、本開示に係る光学素子の製造方法は、略平板状の基材部と、該基材部の表面に配置された一以上の光学要素と、前記光学要素を囲う領域に設けられ表面粗化された表面粗化部とを一体成型し、その後に、前記光学要素の外周を、少なくともその一部に対して所定の隙間領域を介して囲うように、遮光膜を形成し、前記表面粗化部は少なくとも前記隙間領域の一部に設けられるよう構成した。
【0013】
より詳しくは、本開示に係る光学素子の製造方法は、略平板状の基材部と、該基材部の表面に配置された一以上の光学要素と、前記基材部の表面における前記光学要素を囲う領域に設けられ表面粗化された表面粗化部とを、一体成型する成型工程と、前記成型工程の後に、前記基材部の前記一以上の光学要素が設けられた面における、前記光学要素の外周を、少なくともその一部に対して所定の隙間領域を介して囲うように、遮光膜を形成する遮光膜形成工程と、を有し、前記表面粗化部は、少なくとも前記隙間領域の一部に設けられる。
【0014】
ここで、光学素子の製造方法においては、略平板状の基材部と、該基材部の表面に配置された一以上の光学要素とを、一体成型する成型工程と、前記基材部の表面における前記光学要素を囲う領域に、表面が粗化された表面粗化部を形成する表面粗化工程と、前記基材部の前記一以上の光学要素が設けられた面における、前記光学要素の外周を、少なくともその一部に対して所定の隙間領域を介して囲うように、遮光膜を形成する遮光膜形成工程と、を有し、前記表面粗化部は、少なくとも前記隙間領域の一部に設けられるようにしてもよい。
【0015】
また、前記成型工程において、前記表面粗化部は、予めブラスト工程によって表面粗化された金型を用いて成型されるようにしてもよい。
【0016】
また、前記表面粗化工程において、前記表面粗化部は、ブラスト工程によって形成されるようにしてもよい。
【0017】
また、前記遮光膜は、前記光学要素の外周を、少なくともその一部に対して前記隙間領域を介して囲うように形成された開口部を有し、前記隙間領域は、前記開口部の周縁と前記光学要素の外周とで挟まれた領域であるようにしてもよい。
【0018】
また、前記表面粗化部は、前記基材部の前記一以上の光学要素が設けられた面における、前記遮光膜の下にも設けられるようにしてもよい。
【0019】
また、前記表面粗化部は、前記基材部の前記一以上の光学要素が設けられた面における、前記光学要素以外の略全面に設けられるようにしてもよい。
【0020】
また、前記隙間領域の径方向の幅は、0.1μm以上100μm以下であってもよい。
【0021】
なお、本開示においては、可能な限り、上記の課題を解決するための手段を組み合わせて使用することができる。
【発明の効果】
【0022】
本開示によれば、光学要素と遮光膜との隙間から光学素子に入射する迷光を抑制し、光学素子の結像性能を向上させることが可能な技術を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は、マイクロレンズアレイの概略図である。
図2図2は、マイクロレンズアレイの製造方法を示すフローチャートである。
図3図3は、マイクロレンズアレイの変形例の概略図である。
図4図4は、光学モジュールの使用用途の例としての指紋認証装置の概略図である。
図5図5は、マイクロレンズアレイの概略図である。
図6図6は、従来のマイクロレンズアレイとフォトマスクの概略図である。
図7図7は、従来のマイクロレンズアレイの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、図面を参照して本開示の実施形態に係るマイクロレンズアレイ及び、マイクロレンズアレイの製造方法について説明する。なお、実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は、一例であって、本開示の主旨から逸脱しない範囲内で、適宜、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。本開示は、実施形態によって限定されることはなく、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【0025】
図4には、本実施形態に係るマイクロレンズアレイの使用用途の一例としての、指紋認証装置100の説明図を示す。指紋認証装置100は、スマートフォン等の携帯電子機器において、使用者が撮像対象Sとしての指先をディスプレイ上に置くことにより、指紋を認証し、本人確認を可能とする装置である。
【0026】
アンダーディスプレイ型の指紋認証装置100は、携帯電子機器のディスプレイにおけるカバーガラス101と、例えば、カバーガラス101の下層に配置されたOLED(Organic Light Emitting Diode)102とを備える。このOLED102は、発光素子(不図示)を含み、発光機能を有している。そして、OLED102の下部に配置されたマイクロレンズアレイ103と、マイクロレンズアレイ103により集光された光を検知して、指紋の画像を撮像するイメージセンサ104とを備える。
【0027】
マイクロレンズアレイ103は、光学要素としての複数のレンズ要素1030aを有する。レンズ要素1030aは、略平板状の基材部103b上に一次元的または二次元的に配列されている。レンズ要素1030aの配置数および配列位置は特に限定されず、撮像対象Sの大きさや、イメージセンサ104の大きさに応じて決定される。
【0028】
各レンズ要素1030aは、例えばOLED102から発光し撮像対象Sで散乱された光をイメージセンサ104上に集光する。イメージセンサ104は、複数の撮像素子が一次元または二次元的に配列された撮像面を有し、集光された光を電気信号に変換して撮像画像を生成する。また、イメージセンサ104は、生成した撮像画像を情報処理装置(不図示)へと出力する。イメージセンサ104としては、例えば、フォトダイオードの他、CCD、CMOS、有機EL、TFT等を用いてもよい。指紋認証装置100にマイクロレンズアレイ103を含む光学系を使用することにより、装置をより小型化することが可
能となる。
【0029】
図5には、従来のマイクロレンズアレイ103の一例の概略図を示す。図5(a)はマイクロレンズアレイ103の正面図及び、レンズ要素が配列されるレンズ領域103aの拡大図、図5(b)はマイクロレンズアレイ103の側面図を示す。マイクロレンズアレイ103は、略平板状の基材部103bの例えば片面に、直径が10μm~100μm程度の微小なレンズ要素1030aが配列されたレンズ領域103aを有する光学素子である。レンズ領域103aは基材部103bの両面に形成されてもよいし、基材部103bのいずれの位置に形成されてもよい。
【0030】
マイクロレンズアレイ103は、レンズ領域103aを構成する各々のレンズ要素1030aの形状(球面、非球面、シリンドリカル、六方等)、レンズ要素1030aの大きさ、レンズ要素1030aの配置、レンズ要素1030a間のピッチ等によって、その機能や精度が変化する。マイクロレンズアレイ103におけるレンズ要素1030aは本開示の光学要素に相当する。マイクロレンズアレイ103の材質としては、ポリカーボネート、PMMA、シクロオレフィン共重合等の樹脂材料を挙げることができるが、材料の種類について特に制限されるものではない。
【0031】
また、マイクロレンズアレイ103におけるレンズ領域103aのレンズ要素1030aの周囲には、遮光膜1030bが設けられている。この遮光膜1030bは、指紋認証装置100で考えると、撮像対象Sである指先で散乱しマイクロレンズアレイ103におけるレンズ要素1030a以外の部分に入射する光を遮断して、イメージセンサ104に到達する光におけるノイズ成分(ノイズ光ともいう)を除去している。これにより、イメージセンサ104により生成される撮像画像のS/N比を向上させ、画像品質を向上させることが可能となる。
【0032】
図6には、マイクロレンズアレイ103のレンズ領域103aの詳細な断面と、製造工程を説明するための図を示す。マイクロレンズアレイ103における遮光膜1030bは、レンズ要素1030a以外の基材部103bの表面に、例えばフォトリソグラフィー技術により、遮光性のフォトレジスト膜が形成されることで設けられる。
【0033】
より具体的には、基材部103bにおいてレンズ要素1030aが形成された面に、液状のフォトレジスト材を塗布し、例えばレンズ要素1030a以外の部分にフォトマスク200を被せた状態で露光する。そして、フォトレジスト材のうち露光された部分をエッチング処理によって除去することで、基材部103bにおけるレンズ要素1030a以外の部分にフォトレジスト材による遮光膜1030bを形成する。
【0034】
遮光膜1030bは、レンズ要素1030aの外周を周囲から囲うように形成された開口部1030cを有する。そして、好ましくは、その開口部1030cの周縁部1030dと、レンズ要素1030aの外周とが正確に一致することが望ましい。しかしながら、その場合、遮光膜1030bを形成する際のマイクロレンズアレイ103と、フォトマスク200の位置ずれによって、図7(a)に示すように、遮光膜1030bの一部がレンズ要素1030a上に乗り上げた形となり、レンズ要素1030aによる集光性能が低下する等の不都合が生じ得た。
【0035】
それに対し、従来は、遮光膜1030bにおける開口部1030cの大きさをレンズ要素1030aの外周より大きく設定し、マイクロレンズアレイ103とフォトマスク200の位置ずれが生じたとしても、遮光膜1030bがレンズ要素1030aに乗り上げないようにしていた。しかしながら、その結果、図7(b)に示すように、遮光膜1030bの開口部1030cの周縁部1030dと、レンズ要素1030aの外周との間の隙間
から、撮像対象Sからの散乱光が入射してイメージセンサ104に照射されることで、イメージセンサ104におけるS/N比が低下し撮像性能が低下する場合があった。
【0036】
次に、図1には、本実施形態におけるマイクロレンズアレイ1の断面図と、レンズ要素1a近傍の平面図を示す。図1(a)は、マイクロレンズアレイ1の断面図、図1(b)は、レンズ要素1a近傍の平面図である。本実施形態においては、上述のような不都合に対し、少なくとも、遮光膜2の開口部2aの周縁部2bと、レンズ要素1aの外周1dで挟まれる領域である隙間領域(図1(b)におけるハッチング領域)に対して、ブラスト技術により表面粗化を行うことで、表面粗化部としての表面粗化領域1cを形成することとした。なお、図1(b)では、隙間領域がレンズ要素1aの外周1dの全周に対して生じることとなっているが、マイクロレンズアレイ1と遮光膜2の位置関係によっては、遮光膜2の開口部2aの周縁部2bと、レンズ要素1aの外周1dとの間に偏心が生じる。そして、その際には、遮光膜2の開口部2aの周縁部2bと、レンズ要素1aの外周1dとが接したり重なったりすることも考えられる。そのような場合には、本実施形態における隙間領域はレンズ要素1aの外周1dの一部に対して生じることとなる。
【0037】
より詳細には、予め、マイクロレンズアレイ1を樹脂成型する金型において、上型におけるレンズ要素1a相当部分をマスクで覆った上で、研削材を含むエアーを衝突させるブラスト技術によって表面を粗化する。そして、マイクロレンズアレイ1の製造工程においては、樹脂成型によって基材部1b、レンズ要素1a、表面粗化領域1cを同時に一体成型で形成する。
【0038】
その後、先述したフォトリソグラフィー技術によって遮光膜2を形成する。ここにおいて、レンズ要素1aの外周1dとは、レンズ表面と基材部1bの表面との交線として定義してもよいし、レンズ要素1aにおいてレンズとして機能する有効径の円周部として定義してもよい。また、隙間領域の径方向の幅(すなわち、遮光膜2の開口部2aの周縁部2bと、レンズ要素1aの外周1dの距離)は、0.1μm以上100μm以下としてもよい。より好ましくは、0.5μm以上50μm以下としてもよい。さらに好ましくは、1μm以上30μm以下としてもよい。
【0039】
また、表面粗化領域1cとして表面粗化される領域は、遮光膜2の開口部2aの周縁部2bと、レンズ要素1aの外周1dで挟まれる領域である隙間領域の全域が望ましいが、隙間領域の一部の領域に対して表面粗化領域1cを形成しても構わない。また、併せて、遮光膜2の下側に表面粗化領域1cを形成しても構わない。基材部1bのレンズ要素1aが設けられる面における、レンズ要素1aの表面以外の全面に表面粗化領域1cを形成しても構わない。また、表面粗化領域1cは、基材部1bにおける他の領域と比較して表面粗さが粗い領域と定義されるが、基材部1cにおける他の領域とは、表面粗化領域1cが基材部1bのレンズ要素1aが設けられる面における、レンズ要素1aの表面以外の全面に形成されている場合には、基材部1cにおける反対側の面、あるいは側面であってもよい。
【0040】
図2(a)には、上記のように、予め樹脂成型の金型における表面粗化領域1c相当部分の表面を粗化しておく場合の、マイクロレンズアレイの製造工程のフローを示す。本フローが開始されると、先ず、S01において金型によって、樹脂成型でレンズ要素1a、基材部1bと、表面粗化領域1cとが一体で形成される。その際、金型における表面粗化領域1c相当部分の表面は予めブラスト技術によって粗化されている。S01の工程は本実施形態において成型工程に相当する。金型における表面粗化領域1c相当部分の表面を予めブラスト技術によって粗化する工程は本実施形態においてブラスト工程に相当する。
【0041】
次に、S02において、フォトリソグラフィー技術によって遮光膜2が形成される。そ
の際、遮光膜2の開口部2aの周縁部2bは、レンズ要素1aの外周1dに対して充分な隙間を有し、S02において、マイクロレンズアレイ1とフォトマスク200の位置がずれたとしても、遮光膜2がレンズ要素1aの表面に乗り上げることはない。また、レンズ要素1aの外周1dと遮光膜2の開口部2aの周縁部2bとの間の隙間領域には、表面粗化領域1cが形成されているため、隙間領域に入射したノイズ光が散乱されずに直接、イメージセンサ104上に照射されることを抑制できる。その結果、イメージセンサ104のノイズ光によるS/N比の低下と、画像品質の低下を抑制でき、指紋認証の精度を高めることができる。S02の工程は本実施形態において遮光膜形成工程に相当する。
【0042】
なお、マイクロレンズアレイ1の製造方法においては、樹脂成型工程において基材部1b、レンズ要素1aを同時に一体成型で形成し、その後、マイクロレンズアレイ1におけるレンズ要素1a以外の部分をブラスト技術によって表面粗化してもよい。この工程は本実施形態におけるブラスト工程に相当する。
【0043】
図2(b)には、上記のように、マイクロレンズアレイ1の樹脂成型の後に、ブラスト技術によって表面粗化領域1cを形成する場合の、マイクロレンズアレイ1の製造方法のフローについて示す。本フローが開始されると、先ず、S11において金型による樹脂成型で、レンズ要素1aと基材部1bとが一体で形成される。S11の工程は本実施形態において成型工程に相当する。その後、S12において、マイクロレンズアレイ1における表面粗化領域1cの表面がブラスト技術によって粗化される。S12の工程は本実施形態においてブラスト工程に相当する。
【0044】
次に、S13において、フォトリソグラフィー技術によってマイクロレンズアレイ1上に遮光膜2が形成される。S13の工程は本実施形態において遮光膜形成工程に相当する。この場合にも、遮光膜2の開口部2aの周縁部2bと、レンズ要素1aの外周1dとの間に充分に広い隙間領域が確保され、遮光膜2の形成時に、マイクロレンズアレイ1とフォトマスク200の位置がずれたとしても、レンズ要素1aの表面に乗り上げることはない。また、レンズ要素1aの外周1dと遮光膜2の開口部2aの周縁部2bとの間の隙間領域には、表面粗化領域1cが形成されているので、隙間領域に入射したノイズ光が散乱されずに直接、イメージセンサ104上に照射されることが抑制される。
【0045】
<変形例>
図3には、本実施形態の変形例について示す。本変形例に係るマイクロレンズアレイ10は、基材部10bの上面にレンズ要素1a、表面粗化領域1cと遮光膜2が形成されていることは、図1に示した実施形態と同様である。本変形例では、基材部10bの下面にもレンズ要素10aと表面粗化領域10cが形成されている。下面には特に遮光膜2は形成されていない。これはノイズ光がマイクロレンズアレイ10の上側からのみ入射される虞があるからである。
【0046】
この例においても、レンズ要素1aの外周1dと遮光膜2の開口部2aの周縁部2bとの間の隙間領域には、表面粗化領域1cが形成され、隙間領域に入射したノイズ光が散乱されずに直接、イメージセンサ104上に照射されることが抑制される。また、マイクロレンズアレイ10の下面にも表面粗化領域10cが形成されているため、マイクロレンズアレイ10における内部反射を抑制できる。その結果、マイクロレンズアレイ10内におけるノイズ光に起因するフレアやゴーストの発生を抑制することが可能である。
【0047】
なお、本実施形態において説明したマイクロレンズアレイ1、10と同等の機能を有するマイクロレンズアレイを、指紋認証以外の画像撮影用、セキュリティ機器における顔認証用、車両やロボットにおける空間認証用の光学系として使用しても構わない。また、本実施形態においては、マイクロレンズアレイ1、10の材質は樹脂材料であることを前提
として説明したが、マイクロレンズアレイ1、10の材質はこれに限られない。ガラス等の他の材質であっても構わない。例えば、ガラス材料に樹脂のレンズアレイが貼付された構造など、樹脂材料とガラス材料の組み合わせであっても構わない。また、マイクロレンズアレイの製造方法については、樹脂成型の代わりにガラス成型が採用されても構わない。
【0048】
また、上記の実施形態においては、光学素子が光学要素としてレンズ要素を有するマイクロレンズアレイである例について説明したが、本開示の技術は、マイクロレンズアレイの他の光学素子に適用されても構わない。例えば光学要素として回折格子要素、プリズム要素、ミラー要素などを含む光学素子に適用することが可能である。また、上記の実施形態においては、表面粗化の方法としてブラスト技術を用いた例について説明したが、表面粗化の方法はこれに限られない。金型の金属表面またはマイクロレンズアレイの樹脂表面を、化学的、熱的あるいはレーザー等の光学的手法によって変質させ、表面を粗化する方法を用いてもよい。
【符号の説明】
【0049】
1、10・・・マイクロレンズアレイ
1a、10a・・・レンズ要素
1b、10b・・・基材部
1c、10c・・・表面粗化領域
1d・・・レンズ要素の外周
2・・・遮光膜
2a・・・遮光膜の開口部
2b・・・開口部の周縁部
100・・・指紋認証装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7