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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-29
(45)【発行日】2025-02-06
(54)【発明の名称】抵抗器及び抵抗器の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01C 7/00 20060101AFI20250130BHJP
   H01C 13/00 20060101ALI20250130BHJP
   H01C 1/02 20060101ALI20250130BHJP
   H01C 17/02 20060101ALI20250130BHJP
【FI】
H01C7/00 400
H01C13/00 J
H01C1/02 Z
H01C17/02
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021051902
(22)【出願日】2021-03-25
(65)【公開番号】P2022149653
(43)【公開日】2022-10-07
【審査請求日】2023-12-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000105350
【氏名又は名称】KOA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金子 玲那
(72)【発明者】
【氏名】野口 智史
(72)【発明者】
【氏名】酒井 洋一
(72)【発明者】
【氏名】山本 純平
(72)【発明者】
【氏名】井口 智生
【審査官】小南 奈都子
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-119561(JP,A)
【文献】特開2006-270078(JP,A)
【文献】特開2002-075714(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01C 7/00
H01C 13/00
H01C 1/02
H01C 17/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
抵抗体と、前記抵抗体に設けられた電極とを備えた抵抗器であって、
前記抵抗体は、上面、下面、両側面および両端面を備え、
前記抵抗体の下面は、前記抵抗器が実装される実装面と対向し、露出しており、且つ、前記抵抗体の下面の表面に酸化膜を有する、
抵抗器。
【請求項2】
請求項1に記載の抵抗器であって、
前記抵抗体は、抵抗体用の金属を含んで構成され、
前記電極は、前記抵抗体よりも比抵抗が低い金属を含んで構成される、
抵抗器。
【請求項3】
請求項2に記載の抵抗器であって、
前記抵抗体用の金属は、マンガンを含み、
前記抵抗体の前記表面には、マンガンの前記酸化膜が形成されている、
抵抗器。
【請求項4】
請求項2に記載の抵抗器であって、
前記酸化膜は、MnOまたはMn3O4を含む、
抵抗器。
【請求項5】
抵抗体と、前記抵抗体に設けられた電極とを備えた抵抗器において、前記抵抗体は、上面、下面、両側面および両端面を有し、前記抵抗体の下面は、前記抵抗器が実装される実装面と対向し、露出しており、且つ、前記抵抗体の下面の表面に酸化膜を有する抵抗器の製造方法であって、
少なくとも前記抵抗体に熱処理を施して当該抵抗体の表面に酸化膜を形成する形成工程を有する、
抵抗器の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の抵抗器の製造方法であって、
前記形成工程は、前記抵抗器に前記熱処理を施して前記抵抗体の前記表面に前記酸化膜を形成する、
抵抗器の製造方法。
【請求項7】
請求項5又は請求項6に記載の抵抗器の製造方法であって、
銅と、マンガンと、を含有する前記抵抗体に、酸素濃度が30ppm以下の雰囲気において、400℃以上800℃以下で、10分以上300分以下の前記熱処理を行う、
抵抗器の製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の抵抗器の製造方法であって、
前記酸素濃度は、5ppm以上30ppm以下である、
抵抗器の製造方法。
【請求項9】
請求項7又は請求項8に記載の抵抗器の製造方法であって、
前記熱処理は、前記酸素濃度が30ppm以下の窒素雰囲気で行われる、
抵抗器の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抵抗器及び抵抗器の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、電流検出用の抵抗器が開示されている。この抵抗器は、抵抗体の各端部に電極が接合されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2002-057009号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この抵抗器において、例えば実装の際に半田が電極を伝って抵抗体まで這い上がる等、半田やその他の異物が抵抗体に付着する虞がある。そのため、樹脂等の保護膜を形成して、半田やその他の異物の付着を防止している。
【0005】
そこで本発明は、樹脂の保護膜を使用せずに抵抗体を保護し、特性の変動を抑制可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の1つの態様の抵抗器は、抵抗体と、前記抵抗体に設けられた電極とを備えた抵抗器であって、前記抵抗体は、上面、下面、両側面および両端面を備え、前記抵抗体の下面は、前記抵抗器が実装される実装面と対向し、露出しており、且つ、前記抵抗体の下面の表面に酸化膜を有する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の1つの態様によれば、抵抗体は表面に酸化膜を有する。このため、例えば、半田が電極を伝って抵抗体に近づいたとしても、抵抗体への半田の付着が酸化膜によって抑制される。
【0008】
また、電極を伝った半田が抵抗体に達した場合であっても、半田と抵抗体との間には、酸化膜が介在する。これにより、半田と抵抗体との直接接触が抑制される。このため、抵抗体及び電極の接合位置を半田が超えて抵抗体に対して直接接触され得る場合と比較して、抵抗値の変動を抑制することが可能となる。
【0009】
このように、抵抗体は、表面の酸化膜によって保護される。これにより、抵抗特性を長期にわたって維持することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、第一実施形態の抵抗器の斜視図である。
図2図2は、第一実施形態の抵抗器の要部の断面図である。
図3図3は、第一実施形態の抵抗器の製造方法を示す説明図である。
図4図4は、第二実施形態の抵抗器の製造方法を示す説明図である。
図5図5は、第三実施形態の抵抗器の製造方法を示す説明図である。
図6図6は、第四実施形態の抵抗器の製造方法を示す説明図である。
図7図7は、第五実施形態の抵抗器の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(第一実施形態)
第一実施の抵抗器10について、図1及び図2を用いて詳細に説明する。図1は、第一実施形態の抵抗器10の斜視図である。図2は、第一実施形態の抵抗器10の要部の断面図である。
【0012】
抵抗器10は、抵抗体12と、抵抗体12の一端に設けられた第一電極14と、抵抗体12の他端に設けられた第二電極16とを備える。抵抗器10は、第一電極14と抵抗体12と第二電極16とが、この順に接合されている。
【0013】
抵抗器10は、図1には示されていない回路基板等に実装される。例えば、抵抗器10は、各電極14、16が回路基板の配線パターンに形成されたランドに半田で接続される。この抵抗器10は、一例として、電流検出用抵抗器(シャント抵抗器)として用いられる。
【0014】
なお、本実施形態において、第一電極14と第二電極16が並ぶ方向(抵抗器10の長手方向)を、X方向とし、第一電極14側を+X方向、第二電極16側を-X方向とする。また、抵抗器10の幅方向を、Y方向とし、図1の紙面手前側を+Y方向、図1の紙面奥側を-Y方向とする。さらに、抵抗器10の厚み方向を、Z方向として、回路基板に向かう方向を-Z方向、回路基板から離れる方向を+Z方向とする。X方向、Y方向、Z方向は互いに直交するものとする。
【0015】
また、抵抗器10の実装面とは、回路基板に抵抗器10を実装する場合に抵抗器10が回路基板に対向する面を意味し、第一電極14、抵抗体12、第二電極16の回路基板に対向する面を含む。
【0016】
抵抗体12は、直方体(又は立方体)形状に形成されている。抵抗体12は、表面に酸化膜18を有する。具体的に説明すると、図1及び図2に示すように、抵抗体12の上面12A、両側面12B、12C、及び下面12Dには、酸化膜18が形成されており、抵抗体12は、酸化膜18で覆われている。また、各電極14、16に接合される抵抗体12の端面12E、12Fは、酸化膜18を有しない。
【0017】
抵抗体12は、抵抗体用の金属を含んで構成される。抵抗体用の金属は、マンガン(Mn)を含む。抵抗体12を形成する抵抗体材料は、用途に合わせて定められ、低抵抗から高抵抗の材料が用いられる。
【0018】
本実施形態の抵抗体12は、大電流を精度よく検出する観点から、比抵抗が小さく、且つ抵抗温度係数(TCR)が小さい抵抗体材料であることが好ましい。
【0019】
[抵抗体材料]
抵抗体12を形成する抵抗体材料について具体的に説明する。抵抗体材料は、銅(Cu)とマンガン(Mn)とを含有する。抵抗体材料は、Cu-Mn系合金で構成される。
【0020】
この抵抗材料で形成される抵抗体12の表面は、改質されることによってマンガンの酸化膜18が形成される。酸化膜18は、MnO、Mn34などの酸化マンガンを含む。この抵抗体12は、各電極14、16と接合される接合面には酸化膜18を有しないことが好ましい。
【0021】
抵抗体材料は、抵抗体材料の全質量比でマンガンを6質量%以上35質量%以下含む。抵抗体材料の全質量比でマンガンの含有量が6質量%未満であると、マンガンの酸化膜18が形成されにくく、良好な厚さの酸化膜18が得られない可能性がある。
【0022】
また、マンガンの含有量が35質量%を超えると、得られる抵抗体材料の体積抵抗率が要求値よりも高くなる。また、抵抗体材料が硬くなり加工性が低下する。
【0023】
抵抗体材料には、銅とマンガン以外に、アルミニウム、錫、ニッケル、クロムなどが含まれていてもよい。
【0024】
抵抗体材料は、汎用性が高い上に、マンガン酸化膜が形成されやすいことが要求される。また、抵抗体材料は、体積抵抗率及び抵抗温度係数(TCR)を要求値に設計しやすいことが要求される。これらの要求を満足する抵抗材料としては、抵抗体材料の一例として、Cu-Mn-Sn系抵抗材料を用いることができる。
【0025】
抵抗体材料の表面に形成される酸化膜18の厚さは、70nm以上とすることができる。
【0026】
酸化膜18の厚さに特に制限はないが、酸化膜18の厚さが、70nm未満であると、抵抗体材料を用いて作製される抵抗体12の、使用による抵抗体表面の劣化に対して、所望とする耐性を確保することが難しくなる。
【0027】
また、酸化膜18の厚さに上限はないが、酸化膜18の厚さによっては、剥がれが生ずるおそれがある。このため、酸化膜18の厚さは、2000nmを超えないことが好ましい。
【0028】
また、酸化膜18を形成することによる抵抗材料の抵抗温度特性への影響を抑制する観点から、酸化膜18の厚さは、抵抗体材料全体の厚みに対して、1%以下の厚みとすることが好ましい。酸化膜18の厚さを薄くすることで、抵抗体材料の抵抗温度係数(TCR)を、例えば100ppm/℃以下のように低くすることができ、固定抵抗器としての特性を満足することができる。
【0029】
以上の抵抗体材料によれば、銅とマンガンとを含有する抵抗体材料の表面に、マンガンの酸化膜18が形成されていることによって、当該抵抗体材料の耐熱性を向上させることができる。これにより、抵抗体材料を用いた抵抗器10の使用可能温度の上限を高めることができる。ひいては、抵抗器10の定格電力を高めることができる。
【0030】
第一電極14は、図1に示したように、抵抗体12に接合された胴体部20と、胴体部20と一体に形成され回路基板側に延びる脚部22とを備える。また、第二電極16は、抵抗体12に接合された胴体部24と、胴体部24と一体に形成され回路基板側に延びる脚部26とを備える。
【0031】
第一電極14及び第二電極16は、抵抗体12よりも比抵抗が低い金属を含んで構成される。第一電極14及び第二電極16は、安定した検出精度を確保する観点から、電気伝導性及び熱伝導性の良好な導電性材料であることが好ましい。
【0032】
一例として、第一電極14及び第二電極16として、銅(Cu)、銅系合金等を使用することができる。銅の中では、無酸素銅(C1020)を使用することが好ましい。第一電極14と第二電極16とは、互いに同一のものを使用できる。
【0033】
第一電極14における胴体部20は、抵抗体12の+X方向の端面と略同形状の端面を有する。第一電極14における胴体部20の端面は、抵抗体12の+X方向の端面と突き合わされた状態で接合される。
【0034】
第二電極16における胴体部24は、抵抗体12の-X方向の端面と略同形状の端面を有する。第二電極16における胴体部24の端面は、抵抗体12の-X方向の端面と突き合わされた状態で接合される。
【0035】
第一電極14の脚部22は、抵抗器10の実装面、即ち胴体部20の回路基板側から-Z方向に向けて延出する。第一電極14の脚部22は、胴体部20よりもX方向の長さが短い。第一電極14の脚部22は、+X方向の側面が胴体部20の+X方向の側面と同一平面を形成する。
【0036】
第二電極16の脚部26は、抵抗器10の実装面、即ち胴体部24の回路基板側から-Z方向に向けて延出する。第二電極16の脚部26は、胴体部24よりもX方向の長さが短い。第二電極16の脚部26の-X方向の側面は、胴体部24の-X方向の側面と同一平面を形成する。
【0037】
抵抗体12と第一電極14との接合部、及び抵抗体12と第二電極16との接合部の各々は溶接などで接合され、また例えば、互いにクラッド接合(固相接合)にて接合されている。すなわち、接合面の各々は、抵抗体12と第一電極14の金属原子が互いに拡散した拡散接合面、抵抗体12と第二電極16の金属原子が互いに拡散した拡散接合面となっている。
【0038】
抵抗器10は、各脚部22、26が回路基板側に突出するように回路基板上に実装される。これにより、抵抗器10は、抵抗体12が回路基板から離間した状態で回路基板に実装される。
【0039】
第一電極14の胴体部20において-X方向側に突出した部分は突出部30であり、突出部30が抵抗体12に接合される。同様に、第二電極16の胴体部24において+X方向側に突出した部分は突出部32であり、突出部32が抵抗体12に接合される。
【0040】
抵抗器10のX方向の長さL(図1参照)を一定とするために、突出部30のX方向の長さ(胴体部20の長さL1、図1参照)、又は突出部32のX方向の長さ(胴体部24のX方向の長さL2、図1参照)を任意に調整する。この場合、抵抗体12のX方向の長さL0(図1参照)を、L0=L-(L1+L2)として調整することができる。
【0041】
したがって、抵抗器10の寸法Lを変更することなく、また各脚部22、26の形状を変更することなく、抵抗器10の抵抗値を任意に調整することができる。または、抵抗器10の寸法Lを変更することなく、各突出部30、32の突出量を大きくしても、両脚部22、26の距離を確保することができるため、ランド間の距離を確保しつつ、抵抗器10の設計自由度を高くすることができる。
【0042】
ここで、抵抗体12の長手方向(X方向)における抵抗体12の長さL0と、第一電極14のX方向の長さL1と、第二電極16のX方向の長さL2の比は、任意に設定することができる。ただし、抵抗温度係数(TCR)の増加を抑制しつつ、抵抗値を小さくする観点から、L1:L0:L2=1:2:1、若しくは1:2:1近傍であることが好ましい。
【0043】
更に、放熱性を高めるとともに、抵抗値を小さくする観点から、抵抗器10の長さL(=L1+L0+L2)に対する抵抗体12の長さL0の比率は、50%以下であることが好ましい。
【0044】
X方向における抵抗器10の長さLは、一例として、3.2mm以下になるように形成されている。また、抵抗器10の抵抗値は、一例として、2mΩ以下になるように調整されている。
【0045】
また、高密度回路基板に適合させる観点から、X方向における抵抗器10の長さLが、3.2mm以下、Y方向における抵抗器10の長さ(幅)Wが、1.6mm以下(製品規格3216サイズ)とすることができる。
【0046】
抵抗器10のサイズとしては、製品規格2012サイズ(L:2,0mm、W:1.2mm)、製品規格1608サイズ(L:1.6mm,W:0.8mm)、製品規格1005サイズ(L:1.0mm、W:0.5mm)にも適用可能である。これら小型サイズもしくはこれより小さなサイズにおいては、本実施形態の保護膜形成のメリットが大きいが、これより大きなサイズに本実施形態を適用してもよい。
【0047】
抵抗器10の長さLは、後述する製造方法における取り扱い性、例えば抵抗器10の基となる抵抗器母材の破断防止の観点から、上記の製品規格1005サイズ以上のサイズとすることができる。
【0048】
抵抗器10の抵抗値は、小型且つ低抵抗を実現する観点から上記のいずれのサイズにおいても、2mΩ以下となるように調整可能であり、一例として、0.5mΩ以下となるように調整可能である。ここでの低抵抗とは、一般的な抵抗器(例えば、特開2002-57009号公報のタイプの抵抗器)の寸法から想定される抵抗値よりも低い抵抗値を含む概念である。
【0049】
抵抗器10のY方向に延びる縁辺である角部分Pは、いずれも面取り形状を有している。角部分Pの曲率半径は、R=0.1mm以下であることが好ましい。
【0050】
[抵抗器の製造方法の説明]
図3は、第一実施形態の抵抗器10の製造方法を示す説明図である。
【0051】
この製造方法は、材料を準備する準備工程(a)と、材料を接合する接合工程(b)と、形状を加工する加工工程(c)とを備える。また、製造方法は、加工された中間材料を、個々の抵抗器10に切断して個片化する個片化工程(d)と、レーザを用いて抵抗器10の抵抗値を調整する調整工程(e)とを備える。
【0052】
材料を準備する準備工程(a)では、抵抗体12の母材となる抵抗体母材40と、第一電極14の母材である電極体母材42と、第二電極16の母材である電極体母材44とを準備する。抵抗体母材40と、各電極体母材42、44は平角状の長尺の線材である。
【0053】
抵抗器10のサイズ、抵抗値及び加工性の観点から、抵抗体母材40として、Cu-Mn系合金を使用し、各電極体母材42、44の材料として無酸素銅(C1020)を使用することが好ましい。
【0054】
材料を接合する接合工程(b)では、各電極体母材42、44間に抵抗体母材40を配置し、各母材40、42、44の並び方向に圧力を加えて接合して抵抗器母材46を形成する。
【0055】
すなわち、接合工程(b)では、いわゆる異種金属材料間におけるクラッド接合(固相接合)が行われる。クラッド接合された各電極体母材42、44と抵抗体母材40との接合面は、双方の金属原子が互いに拡散した拡散接合面となる。
【0056】
これにより、従来のような電子ビームによる溶接等を行うことなく、抵抗体母材40と各電極体母材42、44との接合面を互いに強固に接合することができる。また、抵抗体母材40と各電極体母材42,44との接合面において、良好な電気的特性が得られる。
【0057】
加工工程(c)では、クラッド接合によって得られた抵抗器母材46をダイス48の挿通穴50に挿入して通過させる。
【0058】
ダイス48の挿通穴50は、入口から出口へ向かうに従って小径となるテーパ状に形成されている。挿通穴50は、角部分が面取り形状に加工された矩形に形成されている。
【0059】
このような形状のダイス48に抵抗器母材46を通過させることにより、抵抗器母材46を全方向から圧縮変形させることができる。これにより抵抗器母材46の断面形状は、ダイス48の挿通穴50の断面形状に倣った形状となる。
【0060】
この加工工程(c)では、抵抗器母材46をダイス48に通過させる際、抵抗器母材46をつかみ具によって引き抜く、引き抜き工法が適用される。
【0061】
加工工程(c)では、挿通穴50のサイズを異ならせた複数のダイス48を用意して、これら複数のダイス48を段階的に通過させる引き抜き加工を施してもよい。
【0062】
ダイス48の挿通穴50の内面には、矩形の突出部(図示省略)が形成され、挿通穴50を挿通する抵抗器母材46には、突出部によって引き抜き方向に連続する矩形溝52が形成される。
【0063】
抵抗器母材46を個々に切断した状態で、この矩形溝52は、抵抗体12と第一電極14の胴体部20と脚部22、第二電極16の胴体部24と脚部26によって囲まれる凹部を構成する。
【0064】
個片化工程(d)では、設計されたY方向の長さWになるように、抵抗器母材46から抵抗器10を切り出す。
【0065】
また、個片化工程(d)では、抵抗器母材46において矩形溝52が形成された面52aから反対面52bに向けて切断することが好ましい。これにより、金属のバリ(Burr)は抵抗器10の上面から上方に向けて延びる形に形成され、各脚部22、26において-Z方向(図1参照)に延びるバリ(回路基板に向けて延びるバリ)が発生することはない。これにより、抵抗器10の回路基板への実装を確実に行うことができる。
【0066】
以上の工程を経ることにより、抵抗器母材46から個片の抵抗器10を得ることができる。更に、調整工程(e)では、レーザ照射によって抵抗体12のトリミングを行って抵抗器10の抵抗値を所望の抵抗値に設定する。
【0067】
そして、トリミングが行われた抵抗器10に対して熱処理を行い、抵抗体12の表面に酸化膜18を形成する。この熱処理は、抵抗体12の表面に酸化膜18を形成する形成工程を構成する。なお、上述の調整工程(e)は、熱処理の後に行ってもよい。熱処理によって抵抗値が変動することを考慮すると、熱処理工程後に抵抗値トリミングをするのが好適である。その場合、レーザ照射したトリミング個所はマンガンの酸化膜が形成され、好適である。以下、熱処理について、具体的に説明する。
【0068】
<熱処理(形成工程)>
本実施形態に係る抵抗器10の抵抗体12に酸化膜を形成する工程について説明する。
【0069】
この熱処理では、抵抗器10の抵抗体12に酸化膜18を形成したい。しかし、各電極14、16は酸化させたくない。このため、低酸素濃度状態で熱処理を行う。
【0070】
この工程では、銅とマンガンとを含有する抵抗体材料からなる抵抗体12を備えた抵抗器10を、低酸素雰囲気において、抵抗体材料を酸化可能な温度において、所定期間載置する熱処理を行うというものである。
【0071】
本実施形態において使用される電極材料及び抵抗体材料は、所定の酸素濃度条件では、電極材料の酸化反応よりも抵抗体材料の酸化反応が優先的に進行することがわかっている。
【0072】
本実施形態では、真空引き後、窒素置換雰囲気とすることにより、好ましい酸素濃度条件を得ることができる。
【0073】
真空は、通常の大気圧よりも低い大気圧の気体で満たされた状態であるため、酸素濃度を低くすることができる。また、反応系を窒素置換した場合、酸素を完全に排除して窒素に置換することは、通常、困難であるため、ある程度の酸素が残留する。
【0074】
本実施形態のように、銅とマンガンとを含有する抵抗体材料からなる抵抗体12を備えた抵抗器10の場合には、抵抗体材料を酸化させる観点から、反応系の酸素濃度が5ppm以上30ppm以下の、窒素雰囲気を適用することが好ましい。
【0075】
また、酸化膜の形成は、与えられた熱量に依存するものと考えられる。このため、所定の膜厚を得ようとした場合に、温度が低ければ、長時間が必要であり、温度が高まると短時間でよい。
【0076】
このことから、一例として、温度条件は、400℃以上800℃以下とすることができ、熱処理時間は、10分間以上300分間以下とすることができる。
【0077】
熱処理の温度条件が400℃未満であると、抵抗体材料を用いて作製される抵抗体の、使用による抵抗体表面の劣化に対して、所望とする耐性を確保し得る厚さのマンガンの酸化膜を形成するための時間が長大となる。
【0078】
また、熱処理の温度条件が800℃を超えると、酸化膜が厚く形成できるものの、抵抗体材料が柔らかくなることがあり、加工性が低下する。
【0079】
熱処理の時間条件は、温度に応じて、10分間以上300分間以下とすることができる。同じ温度であれば、熱処理の時間が短いと、抵抗体表面の劣化に対して所望とする耐性を確保し得るだけの膜厚を形成することができない。また、熱処理の時間が300分間を超えると、酸化膜が厚くなり過ぎて、抵抗温度係数(TCR)が要求値よりも高くなる。
【0080】
なお、温度が400℃以下の場合であっても酸化膜は成長するが、反応時間が増大するため、実用上、実施困難性が高まる。また、800℃以上の場合には、より短時間で所望とする膜厚が得られるが、抵抗体材料の変形が生じる場合がある。
【0081】
本実施形態で使用される「温度条件」及び「時間条件」の用語は、以下のように規定される。すなわち、「温度条件」とは、所定の昇温速度で昇温して到達した温度を示す。温度条件の「400℃以上800℃以下」は、この到達温度を示す。また、「時間条件」とは、到達温度を保持する時間を示す。熱処理の時間条件の「10分以上300分以下」は、この保持時間を示す。
【0082】
以上の熱処理を行うことにより、抵抗体12の表面に、厚さ寸法が、70nm以上のマンガンの酸化膜18を形成することができる。マンガンの酸化膜18により、抵抗体12の表面の劣化に対する耐性を向上させることができる。
【0083】
抵抗体12の表面劣化に対する耐性を向上させる方法として、例えば、銅及びマンガンのほかに、錫及び/又はアルミニウムなどを加えて熱処理を施す方法が提案されてきた。この提案では、抵抗体12の表面に、錫及び/又はアルミニウムの酸化膜を形成することができる。
【0084】
しかし、銅及びマンガンのほかに、錫及び/又はアルミニウムを含む合金からなる抵抗体12の場合、抵抗体12の内部において、錫及び/又はアルミニウムが斑を形成していることがある。この場合、これまでよりも一層高い要求温度下においては、抵抗値が不安定になったり、熱応力の違いなどから斑部分にクラックを生じたりすることがあった。
【0085】
これに対して、発明者らは、MnO、Mn34、MnO2、Mn23等の酸化膜に着目し、鋭意検討を重ねた結果、上述のマンガン酸化膜の中でも、特に、MnOやMn34が、抵抗体12の変色として現れる抵抗体12の劣化の防止に寄与していることを見出した。
【0086】
抵抗体12の表面に、抵抗体12の成分であるマンガンの酸化膜18を形成した。これにより、銅及びマンガンのほかに錫及び/又はアルミニウムなどの他の金属を添加した場合に比べて、抵抗体12の劣化による抵抗値の変動を抑制することができる。特に、抵抗体12の劣化防止には、マンガンの酸化膜18に、MnOやMn34が存在していることが重要であると考えられる。
【0087】
さらに、本実施形態に係る抵抗器10の製造方法によって得られる酸化膜18は、抵抗体材料を用いて形成される抵抗体12の表面の劣化に対する耐性を向上するだけではない。酸化膜18は、抵抗体12の曲げ或いは切断によっても剥離することがなく、安定的であるため、抵抗体12の塑性加工の自由度を高めることができるという利点も有する。
【0088】
<本実施形態の効果>
次に、本実施形態による作用効果について説明する。
【0089】
本実施形態の抵抗器10によれば、抵抗体12と、抵抗体12に設けられた各電極14、16とを備えた抵抗器10であって、抵抗体12は、表面に酸化膜18を有する。
【0090】
上記構成によれば、抵抗体12は表面に酸化膜18を有する。このため、半田が各電極14、16を伝って抵抗体12に近づいたとしても、抵抗体12への半田の付着が酸化膜18によって抑制される。
【0091】
これにより、抵抗体12の表面を樹脂などで覆うことなく、抵抗体12に半田が直接付着するという事態を抑制することができる。
【0092】
また、各電極14、16を伝った半田が抵抗体12に達した場合であっても、半田と抵抗体12との間には、酸化膜18が介在する。これにより、半田と抵抗体12との直接接続が抑制される。このため、抵抗体12及び各電極14、16の接合部位よりも抵抗体の中心側に半田が直接接続され得る場合と比較して、抵抗値の変動を抑制することが可能となる。
【0093】
そして、抵抗体12は、表面の酸化膜18によって保護される。これにより、抵抗体12は、特性変化が抑制されるので、抵抗特性を長期にわたって維持することが可能となる。
【0094】
したがって、樹脂の保護膜を使用せずに抵抗体12を保護し、特性の変動を抑制可能とすることができる。
【0095】
また、本実施形態の抵抗器10において、抵抗体12は、抵抗体用の金属を含んで構成され、各電極14、16は、抵抗体12よりも比抵抗が低い金属を含んで構成される。
【0096】
そして、本実施形態の抵抗器10において、抵抗体用の金属は、マンガンを含み、抵抗体12の表面には、マンガンの酸化膜18が形成されている。
【0097】
この構成によれば、抵抗体12を形成する抵抗体用の金属はマンガンを含む。このため、一例として、抵抗体12を熱処理することで、酸化膜18の形成が可能となる。また、抵抗体12の表面には、マンガンの酸化膜18が形成されている。このため、抵抗体12への半田の付着の抑制効果が高まる。
【0098】
また、本実施形態の抵抗器10において、酸化膜18は、MnOもしくはMn34を含む。
【0099】
この構成によれば、抵抗体12への半田の付着の抑制効果が高まる。
【0100】
また、本実施形態の抵抗器製造方法によれば、抵抗体12と、抵抗体12に設けられた各電極14、16とを備えた抵抗器10の製造方法であって、少なくとも抵抗体12に熱処理を施して抵抗体12の表面に酸化膜18を形成する形成工程(熱処理)を有する。
【0101】
この構成によれば、抵抗体12の表面に酸化膜18が形成された抵抗器10を提供することができる。そして、この抵抗器10では、半田が各電極14、16を伝って抵抗体12に近づいたとしても、抵抗体12への半田の付着が酸化膜18によって抑制される。
【0102】
また、各電極14、16を伝った半田が抵抗体12に達した場合であっても、半田と抵抗体12との間には、酸化膜18が介在する。これにより、半田と抵抗体12との直接接続が抑制される。このため、抵抗体12及び各電極14、16の接合位置よりも抵抗体12の中心側に半田が直接接続され得る場合と比較して、抵抗器10の抵抗値の変動を抑制することが可能となる。
【0103】
そして、抵抗体12は、表面の酸化膜18によって保護される。これにより、抵抗体12の特性変化が抑制されるので、抵抗体12の抵抗特性を長期にわたって維持することが可能となる。
【0104】
また、本実施形態の抵抗器10の製造方法によれば、形成工程(熱処理)は、抵抗器10に熱処理を施して抵抗体12の表面に酸化膜18を形成する。
【0105】
この構成によれば、酸化膜18が形成された抵抗体12に各電極14、16を接合して抵抗器10を製造する場合のように、抵抗体12の電極接合部に形成された酸化膜18を除去するといった作業が不要となる。これにより、製造工程を削減することができる。
【0106】
また、本実施形態の抵抗器10の製造方法によれば、銅と、マンガンと、を含有する抵抗体12に、酸素濃度が30ppm以下の雰囲気において、400℃以上800℃以下で、10分以上300分以下の熱処理を行う。
【0107】
これにより、抵抗体12の表面に酸化膜18を形成することができる。また、酸素濃度が30ppm以下の雰囲気で熱処理を行うため、抵抗器10を熱処理しても、各電極14、16の表面への酸化膜の形成が抑制される。
【0108】
また、本実施形態の抵抗器10の製造方法によれば、酸素濃度は、5ppm以上30ppm以下である。
【0109】
さらに、本実施形態の抵抗器10の製造方法によれば、熱処理は、酸素濃度が30ppm以下の窒素雰囲気で行われる。
【0110】
これにより、各電極14、16で形成され得る酸化膜の抑制効果がさらに高まる。
【0111】
(第二実施形態)
第二実施形態に係る抵抗器100について、図4を用いて説明する。なお、第一実施形態と同一又は同等部分に関しては、第一実施形態と同符号を付して説明を割愛し、第一実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0112】
図4は、第二実施形態の抵抗器100の製造方法を示す説明図である。第二実施形態に係る抵抗器100においては、外面全体に酸化膜18が形成された抵抗体材料を用いて抵抗器100を形成する点が第一実施形態と異なる。
【0113】
この製造方法は、酸化膜形成工程(a-2)と、酸化膜除去工程(b-2)と、接合工程(c-2)と、個片化工程(d-2)とを備える。なお、個片化工程(d-2)後に実施される抵抗値を調整する調整工程については説明を割愛する。
【0114】
酸化膜形成工程(a-2)では、抵抗体12の母材となる抵抗体母材102に熱処理を施して抵抗体母材102の表面に酸化膜18を形成する。抵抗体母材102の材質及び熱処理方法は、第一実施形態と同様とする。
【0115】
酸化膜除去工程(b-2)では、抵抗体母材102に両側面102E、102Fに形成された酸化膜18を除去する。酸化膜18の除去方法としては、一例として切削加工が挙げられる。
【0116】
接合工程(c-2)では、各電極母材104、106を酸化膜18が除去された抵抗体母材102の各側面102E、102F側に配置する。この状態で各母材102、104、106の並び方向に圧力を加えることで、各母材102、104、106を接合して抵抗器母材108を形成する。
【0117】
各母材102、104、106の接合は、いわゆる異種金属材料間におけるクラッド接合(固相接合)や、レーザ溶接、電子ビーム溶接等で行われる。なお、各電極母材104、106の材質は、第一実施形態と同様する。
【0118】
個片化工程(d-2)では、抵抗器母材108を切断して抵抗器100を形成する。切断方法は、第一実施形態と同様とする。
【0119】
本実施形態に係る抵抗器100においても、第一実施形態と同様の作用効果を奏することができる。
【0120】
(第三実施形態)
第三実施形態に係る抵抗器120について、図5を用いて説明する。なお、第一実施形態と同一又は同等部分に関しては、第一実施形態と同符号を付して説明を割愛し、第一実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0121】
図5は、第三実施形態の抵抗器120の製造方法を示す説明図である。第三実施形態に係る抵抗器120においては、個片化されるとともに表面に酸化膜18が形成された抵抗体12を用いて抵抗器120を形成する点が他と異なる。
【0122】
この製造方法は、酸化膜形成工程(a-3)と、酸化膜除去工程(b-3)と、接合工程(c-3)とを備える。なお、接合工程(c-3)後に実施される抵抗値を調整する調整工程については説明を割愛する。
【0123】
酸化膜形成工程(a-3)では、予め個片化された抵抗体12に熱処理を施して抵抗体12の外面全体に酸化膜18を形成する。抵抗体12の材質及び熱処理方法は、第一実施形態と同様とする。
【0124】
酸化膜除去工程(b-3)では、抵抗体12に両端面12E、12Fに形成された酸化膜18を除去する。酸化膜18の除去方法としては、一例として切削加工が挙げられる。
【0125】
接合工程(c-3)では、各電極14、16を、酸化膜18が除去された抵抗体12の各端面12E、12F側に配置する。この状態で第一電極14と抵抗体12とを接合するとともに、第二電極16と抵抗体12とを接合して抵抗器120を形成する。
【0126】
この接合方法としては、レーザ溶接や電子ビーム溶接等が挙げられる。なお、各電極14、16の材質は、第一実施形態と同様とする。
【0127】
本実施形態に係る抵抗器120においても、第一実施形態と同様の作用効果を奏することができる。
【0128】
(第四実施形態)
第四実施形態に係る抵抗器140について、図6を用いて説明する。なお、第一実施形態と同一又は同等部分に関しては、第一実施形態と同符号を付して説明を割愛し、第一実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0129】
図6は、第四実施形態の抵抗器140の製造方法を示す説明図である。第四実施形態に係る抵抗器140においては、抵抗体母材142に積層された電極母材144を切削することで、第一電極14及び第二電極16を形成する点が他と異なる。
【0130】
この製造方法は、板状の抵抗体母材142を準備する準備工程(a-4)と、抵抗体母材142に板状の電極母材144を接合する接合工程(b-4)と、電極母材144を切削する切削工程(c-4)とを備える。また、製造方法は、切削された抵抗器母材148を切断する切断工程(d-4)と、切断された抵抗器140の抵抗体12に酸化膜18を形成する酸化膜形成工程(e-4)とを備える。なお、酸化膜形成工程(e-4)後に実施される抵抗値を調整する調整工程については説明を割愛する。
【0131】
準備工程(a-4)では、板状(帯状)の抵抗体母材142を形成する。抵抗体母材142の材質は、第一実施形態と同様とする。
【0132】
接合工程(b-4)では、抵抗体母材142の上に板状の電極母材144を配置する。この状態で両母材142、144の積層方向に圧力を加えることで、両母材142、144を接合して接合母材146を形成する。
【0133】
両母材142、144の接合は、いわゆる異種金属材料間におけるクラッド接合(固相接合)で行われる。なお、電極母材144の材質は、第一実施形態と同様する。
【0134】
切削工程(c-4)では、電極母材144の中央部を切削して抵抗器母材148を形成する。抵抗器母材148には、切削箇所を境とする一方側に第一電極14が形成され、他方側に第二電極16が形成される。
【0135】
切断工程(d-4)では、抵抗器母材148を所定の長さに切断して抵抗器140を形成する。切断方法は、一例として、第二実施形態と同様とする。
【0136】
酸化膜形成工程(e-4)では、切断された抵抗器140を熱処理することで、抵抗体12の表面のみに酸化膜18を形成する。熱処理方法は、第一実施形態と同様とする。
【0137】
本実施形態に係る抵抗器140においても、第一実施形態と同様の作用効果を奏することができる。
【0138】
(第五実施形態)
第五実施形態に係る抵抗器160について、図7を用いて説明する。なお、第一実施形態と同一又は同等部分に関しては、第一実施形態と同符号を付して説明を割愛し、第一実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0139】
図7は、第五実施形態の抵抗器150の斜視図である。第五実施形態に係る抵抗器160においては、第一電極162と第二電極164との間に、複数の抵抗体166が離間して配置された点が他の実施形態と異なる。
【0140】
第一電極162及び第二電極164は、第一実施形態と同様の材質で形成されている。各電極162、164は、正方形の板状に形成されており、各電極162、164の中央部には円形の貫通穴168、170が形成されている。
【0141】
両電極162、164間には、複数の抵抗体166が設けられており、抵抗体166の数は、任意に設定可能である。各抵抗体166は、貫通穴168,170を中心とする同心円上に等間隔で配置されており、各抵抗体166は、各端部が対応する電極162、164に、一例として、溶接で接合されている。これにより、各抵抗体166は、並列接続される。
【0142】
各抵抗体166は、円柱状に形成されており、各抵抗体166の材質は、第一実施形態と同じ材質である。各抵抗体166の周面には、前述した熱処理によって酸化膜18が形成されている。
【0143】
なお、各電極162、164の形状は、この四角形に限定されず、三角形等の多角形にしたり、円形にしたりすることができる。また、貫通穴168、170の形状は、円形に限定されず、四角形等の多角形にしてもよい。
【0144】
本実施形態に係る抵抗器160においても、第一実施形態と同様の作用効果を奏することができる。なお、本実施形態では全ての抵抗体166の周面に酸化膜18が形成されているが、抵抗器の使用環境に合わせて一部の抵抗体166の周面にのみ酸化膜を形成してもよい。
【0145】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【実施例
【0146】
第一実施形態に係る抵抗器10に対して各条件で熱処理を行い、得られた抵抗器10の各電極14、16及び抵抗体12の表面の酸化膜の形成状態を評価した。
【0147】
抵抗器10の抵抗体12を構成する抵抗体材料として、Cu-Mn-Sn系抵抗材料を用いた。すなわち、抵抗体材料は、抵抗体材料の全質量比で、マンガンを、10~12質量%含み、ニッケルを、1~4質量%含み、銅を、84~89質量%含む。
【0148】
この抵抗器10を、酸素濃度が、30ppm以下の雰囲気において、200℃以上800℃以下の所定温度で、1時間(60分)以上5時間(300分)以下の所定時間保持して熱処理を行う。そして、熱処理が施された各抵抗器10において、各電極14、16及び抵抗体12の表面の状態を観測した。その結果を第1表に示す。
【0149】
なお、形成された酸化膜は、X線解析装置を用いて「Mn34」であるか「MnO」であるかを判定した。
【表1】
【0150】
表1に示したように、200℃で5時間保持する熱処理を施した抵抗器10では、抵抗体12及び各電極14、16に酸化膜18は形成されなかった。
【0151】
また、400℃で1時間保持する熱処理、400℃で3時間保持する熱処理、及び400℃で5時間保持する熱処理を施した抵抗器10は、いずれも抵抗体12にマンガンの酸化膜18(Mn34)の形成が確認された。一方、400℃で1時間保持する熱処理、400℃で3時間保持する熱処理、及び400℃で5時間保持する熱処理を施した抵抗器10の各電極14、16は、いずれも酸化膜の形成を確認することはできなかった。
【0152】
また、600℃で1時間保持する熱処理、600℃で3時間保持する熱処理、及び600℃で5時間保持する熱処理を施した抵抗器10は、いずれも抵抗体12にマンガンの酸化膜18(MnO)の形成が確認された。一方、600℃で1時間保持する熱処理、600℃で3時間保持する熱処理、及び600℃で5時間保持する熱処理を施した抵抗器10の各電極14、16は、いずれも酸化膜の形成を確認することはできなかった。
【0153】
また、800℃で1時間保持する熱処理、及び800℃で3時間保持する熱処理を施した抵抗器10は、いずれも抵抗体12にマンガンの酸化膜18(MnO)の形成が確認された。一方、800℃で1時間保持する熱処理、及び800℃で3時間保持する熱処理を施した抵抗器10の各電極14、16は、いずれも酸化膜の形成を確認することはできなかった。
【0154】
このような抵抗体12に酸化膜18を形成することで、抵抗体12が保護され、抵抗器10としての特性変化の抑制が期待される。
【0155】
そして、抵抗体12にマンガンの酸化膜18が形成された各抵抗器10を回路基板に実装し、各抵抗器10の各電極14、16を配線パターンのランドに半田付けするとともに、半田の抵抗体12への付着状態について目視で観測した。その結果、酸化膜18の形成状態によって効果が異なることが分かった。
【0156】
具体的に説明すると、600℃で5時間保持する熱処理(実験の為に作成した抵抗器)、及び800℃で1時間保持する熱処理を施した抵抗器10では、半田の抵抗体12への付着抑制効果が極めて良好であった。
【0157】
これは、形成される酸化膜18の膜厚に関係するものと考えられる。この結果から低めの温度で熱処理する場合には長時間の熱処理を行うことで、酸化膜18を目的の膜厚とする。
【0158】
また、高めの温度で熱処理する場合、目的の膜厚の酸化膜18を形成するまでの熱処理時間を短縮することが可能となる。一方、熱処理時間が長すぎると、各電極14、16での酸化膜18の形成が促進されるので、熱処理時間は、予め定めた時間内とすることが好ましい。
【符号の説明】
【0159】
10、100、120、140、150、160 抵抗器
12、166 抵抗体
14、162 第一電極
16、164 第二電極
18 酸化膜
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7