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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-29
(45)【発行日】2025-02-06
(54)【発明の名称】ころ軸受および針状ころ軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/48 20060101AFI20250130BHJP
   F16C 19/26 20060101ALI20250130BHJP
   F16C 19/44 20060101ALI20250130BHJP
【FI】
F16C33/48
F16C19/26
F16C19/44
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021135821
(22)【出願日】2021-08-23
(65)【公開番号】P2023030599
(43)【公開日】2023-03-08
【審査請求日】2024-07-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(72)【発明者】
【氏名】大村 佳子
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 秀司
【審査官】糟谷 瑛
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-249163(JP,A)
【文献】特開2007-270852(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 19/00-19/56
F16C 33/30-33/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向に離間した一対の環状部と、軸方向に延在して前記環状部同士を連結する複数の柱部とを有し、隣り合う柱部の間に形成されるポケットにころが保持される保持部材を有するころ軸受であって、
前記保持部材は、ポケット内部側が拡大するように、周方向に沿って対向する柱部対向面を傾斜面として、ころのピッチ円上でのころ充填率を93%以上100%未満とし、ピッチ円上での周方向に隣り合うころ間に形成される最後すきまの対応部位での、ころと保持部材の柱部との接触ピッチ円上の前記柱部の周方向長さをBとし、周方向に沿って隣り合うころ間寸法をAとし、前記最後すきまの寸法をrsとしたときに、A>(B+rs)とし、周方向に沿って隣り合うころが接触する部位での、接触ピッチ円上の前記柱部の周方向長さをDとし、周方向に沿って隣り合うころ間寸法をCとしたときに、C>Dとし、前記保持部材の前記環状部と前記柱部との間に形成される隅部がR形状の曲面部とされ、前記曲面部における、外径側に位置する部位のR形状を、中央部のR形状よりも大きく設定していることを特徴とするころ軸受。
【請求項2】
軸方向に離間した一対の環状部と、軸方向に延在して前記環状部同士を連結する複数の柱部とを有し、隣り合う柱部の間に形成されるポケットにころが保持される保持部材を有するころ軸受であって、
前記保持部材は、ポケット内部側が拡大するように、周方向に沿って対向する柱部対向面を傾斜面として、ころのピッチ円上でのころ充填率を93%以上100%未満とし、ピッチ円上での周方向に隣り合うころ間に形成される最後すきまの対応部位での、ころと保持部材の柱部との接触ピッチ円上の前記柱部の周方向長さをBとし、周方向に沿って隣り合うころ間寸法をAとし、前記最後すきまの寸法をrsとしたときに、A>(B+rs)とし、周方向に沿って隣り合うころが接触する部位での、接触ピッチ円上の前記柱部の周方向長さをDとし、周方向に沿って隣り合うころ間寸法をCとしたときに、C>Dとし、前記保持部材の前記環状部と前記柱部との間に形成される隅部がR形状の曲面部とされ、前記曲面部における、内径側に位置する部位のR形状を、中央部のR形状よりも大きく設定していることを特徴とするころ軸受。
【請求項3】
周方向に沿って隣り合うころ間のピッチ円外径側あるいは内径側の一方の空間面積に対して、前記一方の空間面積に対応する側における前記柱部の断面積が25%~50%であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のころ軸受。
【請求項4】
前記空間面積がピッチ円外径側であり、前記柱部がピッチ円外径側のみに形成されたことを特徴とする請求項3に記載のころ軸受
【請求項5】
前記柱部の径方向厚さが、ころ径の10%から30%であることを特徴とする請求項1~請求項4のいずれか1項に記載のころ軸受。
【請求項6】
外輪案内方式であることを特徴とする請求項1~請求項5のいずれか1項に記載のころ軸受。
【請求項7】
前記請求項1~請求項6のいずれか1項に記載のころ軸受のころに針状ころを用いたことを特徴とする針状ころ軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ころ軸受および針状ころに関する。
【背景技術】
【0002】
ころ軸受として、従来には、建設機械に備えられた油圧モータの回転を減速する等に用いられる大負荷容量のころ軸受がある(特許文献1)。すなわち、特許文献1に記載のころ軸受は、図14に示すように、周方向に沿って配設される複数個のころ1が、保持器2に互いに等間隔で保持されてなるものである。
【0003】
すなわち、保持器2は、図15に示すように、2つの円形フランジ3a、3bと、円形フランジ3a、3bを連結する複数の柱部4とを有し、隣り合う柱部の間に形成されるポケット5に針状ころ1が収容される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-46792号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ころPCD(ころピッチ円P)付近に柱部4が配設される場合、このころピッチ円P付近の柱部4の幅寸法を、周方向に沿って隣り合うころ間寸法より小さくする必要がある。これに対して、保持器柱部4を、ころPCD(ころピッチ円P)よりも外径側へ配設することにより、柱部4の幅寸法を大とでき、しかも、ころ本数を従来品より多くすることを可能としている。
【0006】
しかしながら、従来の保持器形状でころ本数を増加させて、基本動(静)定格荷重を向上させようとした場合、図16に示すように、必然的に柱部4の径方向、あるいは周方向の幅寸法が小さくなり、柱部4の強度低下を招くことになる。
【0007】
そこで、本発明は斯かる実情に鑑み、ころ本数の増加による基本動(静)定格荷重を向上させるため、保持部材の柱部断面形状を台形に近似した形状とし、隣り合うころ間の空間を有効活用する事で、柱部断面積を大きくし、強度の低下を抑制することが可能なころ軸受および針状ころ軸受を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のころ軸受は、軸方向に離間した一対の環状部と、軸方向に延在して前記環状部同士を連結する複数の柱部とを有し、隣り合う柱部の間に形成されるポケットに前記ころが保持される保持部材を有するころ軸受であって、前記保持部材は、ポケット内部側が拡大するように、周方向に沿って対向する柱部対向面を傾斜面として、ころのピッチ円上でのころ充填率を93%以上100%未満とし、ピッチ円上での周方向に隣り合うころ間に形成される最後すきまの対応部位での、ころと保持部材の柱部との接触ピッチ円上の前記柱部の周方向長さをBとし、周方向に沿って隣り合うころ間寸法をAとし、前記最後すきまの寸法をrsとしたときに、A>(B+rs)とし、周方向に沿って隣り合うころが接触する部位での、接触ピッチ円上の前記柱部の周方向長さをDとし、周方向に沿って隣り合うころ間寸法をCとしたときに、C>Dとしたものである。ここで、ころ充填率とは、ピッチ円上において、ころが占める割合であり、ころ充填率=(ころ本数×ころ径)/(円周率×ピッチ円直径)で表される。ここで、最後すきまとは、周方向に沿って隣り合うころを接触させるように組み込んだ場合に、最終的には、最後のころと、最初のころとの間に生じるすきまである。

【0009】
本発明のころ軸受では、ポケット内部側に拡大するように、周方向に沿って対向する柱部対向面を傾斜面とすることによって、ころピッチ円よりも外径側に配設したり、内径側に配設したりしても、柱部断面積を比較的大きく設定することができる。ところで、一般的に、ポケットすきまが最後すきまより大きくすれば、柱部の周方向幅寸法が小さくなって、柱部への荷重が軽減される仕様であっても、保持部材が荷重に耐えられなくなる可能性がある。しかしながら、A>(B+rs)及びC>Dとすることによって、周方向に隣り合うころ間に設けられる空間(ころピッチ円よりも外径側の空間やころピッチ円よりも内径側の空間)を有効に利用して、可能な限り柱部断面積を大きくすることができる。しかも、周方向に隣り合うころに接触する部分がある、いわゆる総ころ状態と同程度まで、ころを配設することが可能となる。
【0010】
周方向に沿って隣り合うころ間のピッチ円外径側あるいは内径側の一方の空間面積に対して、前記一方の空間面積に対応する側における前記柱部の断面積が25%~50%であのが好ましい。このように設定することによって、柱部の断面積を強度上安定し、また、柱部ところとの接触を有効に抑えることができる。すなわち、断面積が50%を超える場合はポケットすきま<最後すきまとなり、ころと柱部は強く干渉する。なお、ころ間空間面積には、ころピッチ円の外径側の場合と、ころピッチ円の内径側の場合とがある。
【0011】
また、前記空間面積がピッチ円外径側であり、前記柱部がピッチ円外径側のみに形成されたものであってもよい。柱部の板厚(柱部の径方向厚さ)を、ころ径の10%から30%とするのが好ましい。このように設定することによって、柱部として強度的に安定し、しかも、ころと保持部材の干渉を有効に防止できる。
【0012】
外輪案内方式で使用できる。ここで、外輪案内とは、保持部材を外輪に当接させることで保持部材の位置決めを行わせることをいい、外面が案内面となって、外輪内周に当接する。
【0013】
本発明の針状ころ軸受は、前記ころ軸受のころに針状ころを用いたものである。このため、本針状ころ軸受は、柱部断面積を比較的大きく設定することができ、しかも、柱部の板厚(柱部の径方向厚さ)を強度的に安定する厚さとすることができる保持部材を用いることになり、ころ本数の増加を図って、軸受として、基本動(静)定格荷重の向上を図ることができ、しかも、強度的に安定したものとなる。
【発明の効果】
【0014】
本発明は,ころ本数の増加を図ることが可能で、基本動(静)定格荷重を向上させることができ、しかも、柱部の強度の低下を招かない。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の保持部材の簡略斜視図である。
図2】最後すきまが設けられる部位での簡略図である。
図3】ころ同士が接触している部位での簡略図である。
図4】ころ同士が接触している部位での断面図である。
図5】周方向に沿って隣り合うころ間に生じるころ間空間部を示す簡略図である。
図6】ポケットのコーナ部の拡大平面図である。
図7】ポケットのコーナ部の拡大斜視図である。
図8】ポケットのコーナ部の簡略図である。
図9】本発明の保持部材の加工途中を示す要部斜視図である。
図10】保持部材の柱部の加工途中を示す要部拡大断面図である。
図11】保持部材の柱部の加工後を示す要部拡大断面図である。
図12】本発明の他の保持部材の最後すきまが設けられる部位での簡略図である。
図13】本発明の他の保持部材のころ同士が接触している部位での簡略図である。
図14】従来の針状ころ軸受の断面図である。
図15】従来の針状ころ軸受の保持器の断面図である。
図16】従来の針状ころ軸受の保持器の要部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下本発明の実施の形態を図1図13に基づいて説明する。図1は、本発明のころ軸受用の保持部材の要部拡大斜視図を示し、この保持部材10は、軸方向に離間した一対の環状部11,12と、軸方向に延在して環状部11,12同士を連結する複数の柱部13とを有し、隣り合う柱部13の間に形成されるポケット14にころ15(図2参照)が収容される。
【0017】
この場合、図2図4に示すように、ポケット内部側が拡大するように、すなわち、外径から内径側に拡大するように、周方向に沿って対向する柱部対向面を傾斜面16a、16bとしている。このため、柱部13の断面形状が台形に近似した形状となっている。また、保持部材10は、ころピッチ円P1よりも外径側に配置されている。
【0018】
ところで、本保持部材10は、プレス抜きで図9に示すように成形品Sを成形する。この場合、この成形品Sは、環状部構成部位11A,12Aと、環状部構成部位11A,12A同士を連結する複数の柱部構成部位13Aとを有し、隣り合う柱部構成部位13A,13Aの間に形成されるポケット構成部位14Aが形成されている。すなわち、柱部の周方向に沿って対向する柱部対向面が傾斜面16a、16bとなっておらず、図10に示すように、径方向に延びる端面17a、17bとなっている。
【0019】
このため、図11に示すように、各端面17a、17bを切削加工等で削って、傾斜面16a、16bに削り取ることになる。なお、図11において、2点鎖線で示す範囲は除去部21a,21bを示している。また、柱部13の傾斜面16a、16bをプレス押し(面押し)加工で形成してもよい。
【0020】
この傾斜面16a、16bの加工方法は、加工方法はプレスに限定することは無く、生産数や生産リードタイムによってブローチ加工、MCミーリング加工など切削加工でも良い。さらには強度上で成立すれば樹脂材による射出成形や粉末材料による焼結加工、サイズが比較的大きくなれば鋳造による加工でも良い。すなわち、保持部材10の材質として、保持器に従来から使用されて金属や合成樹脂であってもよく、成形方法として、用いる材質に応じて、射出成形、打ち抜き(プレス)、削り出し(もみ抜き)等で成形できる。
【0021】
ころピッチ円P1上での周方向に隣り合うころ間に形成される最後すきまGの対応部位での、ころと柱部13との接触ピッチ円P2上の柱部13の周方向長さをBとし、周方向に沿って隣り合うころ間寸法をAとし、最後すきまの寸法をrsとしたときに、A>(B+rs)とする。また、周方向に沿って隣り合うころ15が接触する部位での、接触ピッチ円P2上の柱部13の周方向長さをDとし、周方向に沿って隣り合うころ間寸法をCとしたときに、C>Dとする。ここで、最後すきまとは、周方向に沿って隣り合うころ15,15を接触させるように組み込んだ場合に、最終的には、最後のころ15と、最初のころ15との間に生じるすきまである。
【0022】
また、周方向に沿って隣り合うころ間の柱部13の断面積を、周方向に沿って隣り合うころ間の空間30の面積の25%~50%に設定する。ここで、空間30とは、図5のクロスハッチングで示す空間であり、この場合、周方向に沿って隣り合うころ間での、ころピッチ円外径側の範囲である。また、空間30面積に対応する柱部13もピッチ円外径側に備えられ、その断面積に対応する。柱部13をピッチ円内径側に備える場合は、空間30も内径側の範囲である。柱部13の径方向厚さが、ころ径の10%から30%とするのが好ましい。
【0023】
次に、図1に示す保持部材10に対して、柱部13の断面積が、周方向に沿って隣り合うころ間の空間30面積に占める好ましい割合に関し、隣り合うころ間の空間30の面積をHとし、柱部13の断面積をS1としたときに、S1/H(%)を、20%未満、20%、25%、30%、40%、50%、55%、55%を超えたものについて表1に記載した。
【表1】
【0024】
55%以上で、ころと柱部とが比較的強く干渉するおそれがある。この場合、表1で×と記載している。20%以下では、ころの保持性に劣るものとなるおそれがある。この場合、表1で×と記載している。このため、表1で〇と記載されている、周方向に沿って隣り合うころ間の柱部13の断面積を、周方向に沿って隣り合うころ間の空間面積の25%~50%に設定するのが好ましいといえる。
【0025】
次に図1に示す保持部材10に対して、保持部材10の厚さ(柱部の径方向厚さ)Tところ径(ころ直径)Dとの関係(T/D)の好ましい割合に関し、T/Dが、5%未満、5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、35%以上ものについて表2に記載した。
【表2】
【0026】
T/Dが35%以上となれば、ころ15と柱部13とが比較的強く干渉することになって、ころ数を減らすように設定したり、ころ間の隙間を大きく設定する必要があり、基本動(静)定格荷重を向上させることができないおそれがある。また、保持部材周方向の幅寸法を小さくする必要も出てくるため、柱部13の強度を十分保てなくなる可能性もある。この場合、表2の×で記載している。また、T/Dが5%以下となれば、柱部13の強度を十分保てなくなるおそれがある。この場合、表2の×と記載している、このため、表2の〇で記載しているように、柱部13の板厚(柱部の径方向厚さ)Tは、ころ径(ころ直径)D(図2参照)の10%から30%に設定するのが好ましいといえる。
【0027】
ところで、図6図7に示すように、環状部11(12)と柱部13との間の4つの隅部をR形状の曲面部22としている。この場合、図8に示すように、曲面部22における、
外径側に位置する部位のR形状を、中央部のR形状よりも大きく、内径側に位置する部位のR形状を、中央部のR形状よりも大きくしている。ここで、R形状が大きいとは、曲率半径が大きいことであり、結果的に環状部11(12)から柱部13に亘る曲面部22の距離が長くなる。すなわち、外径側に位置する部位(外径側部位22a)の曲率半径を、中央部(厚さ方向中央部22c)の曲率半径よりも大きく設定している。また、内径側に位置する部位(内径側部位22b)の曲率半径を中央部(厚さ方向中央部22c)の曲率半径よりも大きく設定している。この場合、外径側部位22aの曲率半径をR1とし、内径側部位22bの曲率半径をR2とし、厚さ方向中央部22cの曲率半径をR3としたときに、R1>R3、R2>R3となり、柱部13に荷重が負荷された状態で発生応力を小さくでき、保持部材10の強度の向上を図ることができる。また、例えば、R1≒R2とし、1.015<(R1≒R2)/R3<1.5程度とすることで、より柱部13に荷重が負荷された状態で発生応力を小さくでき、保持部材10の強度の向上を図ることができる。1.015<(R1≒R2)/R3<1.5は、柱14a、14b面の径方向中央部にころが接触する場合である。一方ころを柱14a、14bの内径寄り或いは外径寄りに設定する場合もあり、この場合、0.6<R1/R3<1.5、0.6<R2/R3<1.5程度とすることで、保持部材10の強度の向上を図ることができる。
【0028】
ところで、前記実施形態では、保持部材10を、ころピッチ円P1よりも外径側に配設していたが、図12及び図13に示すように、保持部材10をころピッチ円P1よりも内径側に配設したものであってもよい。この場合、ポケット14を内径側から外径側に拡大させて、ポケット内部側が拡大するように、周方向に沿って対向する柱部対向面を傾斜面16a、16bとして、柱部断面形状を台形に近似した形状とする。そして、ころピッチ円P1上での周方向に隣り合うころ間に形成される最後すきまGの対応部位での、ころと柱部13との接触ピッチ円P2上の柱部13の周方向長さをBとし、周方向に沿って隣り合うころ間寸法をAとし、最後すきまGのすきま寸法をrsとしたときに、A>(B+rs)とする。また、周方向に沿って隣り合うころ15が接触する部位での、接触ピッチ円P2上の柱部13の周方向長さをDとし、周方向に沿って隣り合うころ間寸法をCとしたときに、C>Dとする。
【0029】
また、周方向に沿って隣り合うころ間の柱部22の断面積を、周方向に沿って隣り合うころ間の空間30面積の25%~50%に設定する。ここで、空間30と、周方向に沿って隣り合うころ間での、ころピッチ円内径側の範囲である。柱部13の径方向厚さが、ころ径D1の10%から30%とするのが好ましい。
【0030】
本発明のころ軸受では、ポケット内部側が拡大するように、周方向に沿って対向する柱部対向面を傾斜面16a、16bとすることによって、ころピッチ円P1よりも外径側に配設したり、内径側に配設したりしても、柱部断面積を比較的大きく設定することができる。ところで、一般的に、ポケットすきまが最後すきまより大きくすれば、柱部の周方向幅寸法が小さくなって、柱部13への荷重が軽減される仕様であっても、保持部材が荷重に耐えられなくなる可能性がある。しかしながら、A>(B+rs)及びC>Dとすることによって、周方向に隣り合うころ間に設けられる空間(ころピッチ円P1よりも外径側の空間やころピッチ円P1よりも内径側の空間)を有効に利用して、可能な限り柱部断面積を大きくすることができる。しかも、周方向に隣り合うころ15,15に接触する部分がある、いわゆる総ころ状態と同程度まで、ころ15を配設することが可能となる。
【0031】
このため、本発明は、ころ本数の増加を図ることが可能で、基本動(静)定格荷重を向上させることができ、しかも、柱部の強度の低下を招かない。
【0032】
ところで、図2から図3等に示す軸受では、保持部材10をころピッチ円P1よりも外径側に配設されるので、ころ軸受として、外輪案内方式とすることができる。ここで、外輪案内とは、保持部材10を外輪に当接させることで保持部材10の位置決めを行わせることをいい、外面が案内面となって、外輪内周に当接する。
【0033】
また、図12及び13に示す軸受では、保持部材10をピッチ円よりも内径側に配設されるので、ころ軸受として、内輪案内方式とすることができる。ここで、内輪案内とは、保持部材10を内輪に当接させることで保持部材10の位置決めを行わせることをいい、内面が案内面となって、内輪外周に当接する。
【0034】
環状部11(12)と柱部13との隅部がアール形状の曲面部22とされているのが好ましい。このように設定することにより、加工時の柱部13に発生する応力を緩和することができる。
【0035】
曲面部22における、外径側に位置する部位のR形状を、中央部のR形状よりも大きく、内径側に位置する部位のR形状を、中央部のR形状よりも大きくしている。すなわち、外径側に位置する部位(外径側部位22a)の曲率半径を、中央部(厚さ方向中央部22c)の曲率半径よりも大きく設定している。また、内径側に位置する部位(内径側部位22b)の曲率半径を中央部(厚さ方向中央部22c)の曲率半径よりも大きく設定している。この場合、外径側部位22aの曲率半径をR1とし、内径側部位22bの曲率半径をR2とし、厚さ方向中央部22cの曲率半径をR3としたときに、R1>R3、R2>R3となっており、柱部13に荷重が負荷された状態で発生応力を小さくでき、保持部材10の強度の向上を図ることができる。また、例えば、R1≒R2とし、1.015<(R1≒R2)/R3<1.5程度とすることで、より柱部13に荷重が負荷された状態で発生応力を小さくでき、保持部材10の強度の向上を図ることができる。1.015<(R1≒R2)/R3<1.5は、柱14a、14b面の径方向中央部にころが接触する場合である。一方ころを柱14a、14bの内径寄り或いは外径寄りに設定する場合もあり、この場合、0.6<R1/R3<1.5、0.6<R2/R3<1.5程度とすることで、保持部材10の強度の向上を図ることができる。
【0036】
本発明の針状ころ軸受は、前記保持部材10を用いたものである。このため、本針状ころ軸受は、柱部断面積を比較的大きく設定することができ、しかも、柱部13の板厚(柱部の径方向厚さ)を強度的に安定する厚さとすることができる保持部材を用いることになり、ころ本数の増加を図って、軸受として、基本動(静)定格荷重の向上を図ることができ、しかも、強度的に安定したものとなる。
【0037】
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明は前記実施形態に限定されることなく種々の変形が可能であって、ころ軸受として、周方向に隣り合うころ同士が隙間をもって対向するものであっても、周方向に隣り合うころ同士に接触する部位を有すものであってもよい。ころ軸受として、針状ころ軸受に限るものではなく、円筒ころ軸受や円すいころ軸受等であってもよい。また、軸受として、単列タイプに限るものではなく、複列タイプであってもよい。ところで、本保持部材が用いられるころ軸受としては、例えば、一般産業機械で使用されるものであるが、特に、省スペースで高負荷容量が要求されるものに使用でき、たとえば、自動車機械部品やロボット機構部品などに使用できる。
【符号の説明】
【0038】
10 保持部材
11,12 環状部
13 柱部
14 ポケット
15 ころ
16a 傾斜面
16a 傾斜面
P1 ピッチ円
P2 接触ピッチ円
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16