(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-29
(45)【発行日】2025-02-06
(54)【発明の名称】ダイナミックダンパー
(51)【国際特許分類】
F16F 15/12 20060101AFI20250130BHJP
F16F 15/126 20060101ALI20250130BHJP
【FI】
F16F15/12 L
F16F15/126 B
(21)【出願番号】P 2022565333
(86)(22)【出願日】2021-11-22
(86)【国際出願番号】 JP2021042835
(87)【国際公開番号】W WO2022113947
(87)【国際公開日】2022-06-02
【審査請求日】2023-05-16
(31)【優先権主張番号】P 2020194077
(32)【優先日】2020-11-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【氏名又は名称】右田 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100160864
【氏名又は名称】高橋 政治
(74)【代理人】
【識別番号】100158698
【氏名又は名称】水野 基樹
(72)【発明者】
【氏名】村田 耀亮
【審査官】鵜飼 博人
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-139450(JP,A)
【文献】特開2011-137506(JP,A)
【文献】特開2014-231848(JP,A)
【文献】実開昭55-109145(JP,U)
【文献】特開2018-204712(JP,A)
【文献】特開2010-216578(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/12
F16F 15/126
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空回転軸の内周側に取り付けられるダイナミックダンパーであって、
外径側に配置され、前記中空回転軸の内周面に密着する円筒状の外周側ゴム部と、
前記外周側ゴム部の内周側に配置される円筒状のスリーブと、
前記中空回転軸の中心軸を含む位置に配置される円筒状または円柱状のインナーウエイトと、
前記スリーブと前記インナーウエイトとの間に設けられ、前記インナーウエイトを支持するマウントゴムと、
を有し、
前記外周側ゴム部
は円筒状であり、その外周面における前記中心軸方向の中心部に、全周にわたって外周溝が形成されており、
前記スリーブの前記中心軸と平行方向の長さは、前記外周側ゴム部における内周面の前記中心軸と平行方向の長さと一致しており、前記スリーブの外周面と前記外周側ゴム部の内周面とが全面において接着されていて、
前記中空回転軸の内周面に取り付けられて前記外周側ゴム部が径方向に圧縮されると、前記外周側ゴム部の外周面における前記外周溝によって前記中心軸方向に隔てられた2つの部分が、前記中心軸方向において互いに離れる方向に移動することで、前記外周側ゴム部の2つの側面における外周面側が内周面側よりも前記中心軸方向の外側に位置することになり、前記外周側ゴム部の2つの前記側面が前記外周面側から前記内周面側へ向かって徐々に内径が小さくなるテーパ形状を備えるように構成されている、ダイナミックダンパー(ただし、前記インナーウエイトの重心位置は前記スリーブの重心位置に対して前記スリーブの前記中心軸方向の一方側にオフセットされ、前記マウントゴムは外面から内面に向けて前記スリーブの径方向に対して前記スリーブの前記中心軸方向の一方側に傾斜して延在しているものを除く)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はダイナミックダンパーに関する。具体的には、例えば自動車のプロペラシャフト等の中空回転軸の内周面に取り付けられて、この中空回転軸に発生する振動や騒音を抑制するダイナミックダンパーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車のFR車または4WD車に使用される動力伝達系の一部を構成するプロペラシャフト内には、曲げ共振を低減するためのダイナミックダンパーが圧入されている。
【0003】
従来のダイナミックダンパーについて、図を用いて説明する。
図3(a)は従来のダイナミックダンパーの側面図(概略図)であり、
図3(b)は
図3(a)における中心軸ωを通るB-B´線にてこれを切断した場合の断面図(概略図)である。
【0004】
図3に示すように、ダイナミックダンパー101は、外径側に配置され、中空回転軸の内周面に密着する外周側ゴム部102と、その内周面に着いている金属製のスリーブ103と、中空回転軸の中心軸付近に配置される金属製のインナーウエイト104と、スリーブ103とインナーウエイト104との間に設けられ、これらを連結するマウントゴム105とを有する。
マウントゴム105には、通常、軸方向に貫通する複数のスリット105bが設けられ、複数の連結部105aによってスリーブ103とインナーウエイト104とを連結している。インナーウエイト104はマウントゴム105の連結部105aによって支持されている。
【0005】
ダイナミックダンパー101がプロペラシャフト等の中空回転軸内に圧入固定されると、所定の振動周波数域においてダイナミックダンパー101は副振動系として入力振動と逆位相で共振する動的吸振作用を奏し、プロペラシャフト等の中空回転軸において発生し得る振動および騒音を抑制する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のような従来のダイナミックダンパー101をプロペラシャフト等の中空回転軸内に圧入固定すると、外周側ゴム部102が径方向に圧縮される。ここで中空回転軸の内径は一定ではないため、外周側ゴム部102における各部の圧縮率は完全に均一にはなり難かった。仮に外周側ゴム部102における各部の圧縮率が大きく異なる場合、ダイナミックダンパーの振動特性等が設計値と一致しなくなる恐れもある。したがって、この圧縮率は外周側ゴム部102における各部において、より均一に近いことが好ましい。
また、中空回転軸内へ圧入して外周側ゴム部102が径方向に圧縮されると、その内側に存在するスリーブ103およびマウントゴム105にも、ある程度の負荷がかかり得る。この負荷が大きすぎると、ダイナミックダンパーの振動特性等が設計値と一致しなくなる恐れもある。したがって、その負荷の程度はより少ないことが好ましい。
【0007】
また、中空回転軸内を洗浄する場合があるが、中空回転軸内へ流し込んだ洗浄水が、洗浄後には中空回転軸内に残存していないことが好ましい。
【0008】
本発明は上記のような課題を解決することを目的とする。すなわち、本発明は、中空回転軸内に設置したときに、外周側ゴム部における各部の圧縮率が均一になりやすく、スリーブおよびマウントゴムへの負荷が小さくなり、さらに中空回転軸内へ洗浄液を流し込んで洗浄したときに、その後、洗浄液が残存し難いダイナミックダンパーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために本発明者は鋭意検討し、本発明のダイナミックダンパーを完成させた。
本発明のダイナミックダンパーは、中空回転軸の内周側に取り付けられるダイナミックダンパーであって、
外径側に配置され、前記中空回転軸の内周面に密着する円筒状の外周側ゴム部と、
前記外周側ゴム部の内周側に配置される円筒状のスリーブと、
前記中空回転軸の中心軸を含む位置に配置される円筒状または円柱状のインナーウエイトと、
前記スリーブと前記インナーウエイトとの間に設けられ、前記インナーウエイトを支持するマウントゴムと、
を有し、
前記外周側ゴム部の外周面における前記中心軸方向の中心部に、全周にわたって外周溝が形成されており、
前記中空回転軸の内周面に取り付けられて前記外周側ゴム部が径方向に圧縮されると、前記外周側ゴム部の外周面における前記外周溝によって前記中心軸方向に隔てられた2つの部分が、前記中心軸方向において互いに離れる方向に移動することで、前記外周側ゴム部の2つの側面における外周面側が内周面側よりも前記中心軸方向の外側に位置することになり、前記外周側ゴム部の2つの前記側面が前記外周面側から前記内周面側へ向かって徐々に内径が小さくなるテーパ形状を備えるように構成されている、ダイナミックダンパーである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、中空回転軸内に設置したときに、外周側ゴム部における各部の圧縮率が均一になりやすく、スリーブおよびマウントゴムへの負荷が小さくなり、さらに中空回転軸内へ洗浄液を流し込んで洗浄したときに、その後、洗浄液が残存し難いダイナミックダンパーを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1(a)は本発明のダイナミックダンパーの側面図(概略図)であり、
図1(b)は
図1(a)におけるA-A´線断面図(概略図)である。
【
図2】
図1に示した本発明のダイナミックダンパーを中空回転軸内に取り付けた場合を示す概略断面図である。
【
図3】
図3(a)は従来のダイナミックダンパーの側面図であり、
図3(b)は
図3(a)におけるB-B´線断面図(概略図)である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のダイナミックダンパーについて説明する。
本発明のダイナミックダンパーは、中空回転軸の内周側に取り付けられて、この中空回転軸に発生する振動や騒音を抑制するダイナミックダンパーである。
中空回転軸として主に自動車のプロペラシャフトが挙げられる。
【0013】
本発明のダイナミックダンパーの好適態様について、図を用いて説明する。
図1(a)は好適態様の本発明のダイナミックダンパーの側面図(概略図)であり、
図1(b)は
図1(a)における中心軸ωを通るA-A´線にてこれを切断した場合の断面図(概略図)である。
以下に図を用いて説明する本発明のダイナミックダンパーは好適態様であって、本発明のダイナミックダンパーはこれらに限定されない。
【0014】
図1に示すように、本発明のダイナミックダンパー1は、外周側ゴム部3と、スリーブ5と、インナーウエイト7と、マウントゴム9と、を有する。
【0015】
<外周側ゴム部>
本発明のダイナミックダンパー1において外周側ゴム部3は最も外周側に配置される。そして、外周側ゴム部3の外周面が中空回転軸の内周面に密着する。
【0016】
外周側ゴム部3は円筒状であり、その中心軸は、原則、本発明のダイナミックダンパー1の中心軸ωと一致する。
そして、
図1(b)に示すように、外周側ゴム部3の外周面における、中心軸ωと平行方向の中心部に、全周にわたって溝が形成されている。この溝を、本発明では外周溝3aともいう。この外周溝3aによって、外周面は中心軸ωと平行方向において2つの部分31、33に隔てられている。
外周溝3aの役割や作用等については、後に詳細に説明する。
【0017】
外周側ゴム部3の形状は上記通り円筒状であり外周溝3aを有するが、その他の形状については特に限定されない。例えば従来公知のものと同様であってよい。例えば本発明のダイナミックダンパーを中空回転軸の内周側へ圧入しやすいように、外周側ゴム部3の外周面と側面との境界である角が削られ、丸みを持つものとなっていることが好ましい。
【0018】
外周側ゴム部3の大きさや材質は特に限定されず、例えば従来公知のものと同様であってよい。外周側ゴム部3の材質として、例えば天然ゴム(NR)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)が挙げられる。
【0019】
<スリーブ>
本発明のダイナミックダンパー1においてスリーブ5は外周側ゴム部3の内周側に配置される。スリーブ5と外周側ゴム部3との間に別のものが存在してもよいが、スリーブ5の外周面が外周側ゴム部3の内周面に着いていることが好ましく、スリーブ5の外周面と外周側ゴム部3の内周面とが接着されていることがより好ましく、加硫接着されていることがさらに好ましい。スリーブ5の外周面と外周側ゴム部3の内周面とは接着されていると、本発明のダイナミックダンパー1を中空回転軸の内周面に取り付けたときに、外周側ゴム部3が意図する形状に変形され、その形状に維持されやすいからである。これについては、後に詳細に説明する。
【0020】
スリーブ5は円筒状であり、その中心軸ωと平行方向の長さは、外周側ゴム部3における内周面の中心軸ωと平行方向の長さと一致することが好ましい。
【0021】
スリーブ5の大きさや材質は特に限定されず、例えば従来公知のものと同様であってよい。スリーブ5は変形し難い材料からなることが好ましく、具体的には、例えば金属製であることが好ましい。
【0022】
<インナーウエイト>
本発明のダイナミックダンパー1においてインナーウエイト7は、中空回転軸の中心軸ωを含む位置に配置される。すなわち、中空回転軸の中心軸ωがインナーウエイト7を通過する。
また、インナーウエイト7の円筒状または円柱状であって、その中心軸は、原則、中空回転軸の中心軸ωと一致する。
【0023】
インナーウエイト7の大きさや材質は特に限定されず、所望の共振周波数特性を得ることができるものであればよい。インナーウエイト7は、例えば金属製であることが好ましい。
【0024】
<マウントゴム>
本発明のダイナミックダンパー1においてマウントゴム9は、スリーブ5とインナーウエイト7との間に設けられる。そして、マウントゴム9はインナーウエイト7を支持する。
スリーブ5とインナーウエイト7との間に別のものが存在していてもよいが、それが存在しておらずスリーブ5とインナーウエイト7とをマウントゴム9が連結していることが好ましい。マウントゴム9は、スリーブ5およびインナーウエイト7に接着されていることがより好ましく、加硫接着されていることがさらに好ましい。
【0025】
マウントゴム9には、軸方向に貫通する複数のスリット9bが設けられ、複数の連結部9aによって、スリーブ5とインナーウエイト7とを連結していることが好ましい。インナーウエイト7はマウントゴム9における連結部9aによって支持され、中心軸ω付近に保持される。
【0026】
マウントゴム9の形状、大きさ、材質等は特に限定されず、例えば従来公知のものと同様であってよい。マウントゴム9の材質として、例えば天然ゴム(NR)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)が挙げられる。
【0027】
<作用>
このような本発明のダイナミックダンパー1は、前述のように、外周側ゴム部3の外周面における中心軸ω方向の中心部に、全周にわたって外周溝3aが形成されている。
ここで中心部とは中心を含む位置を意味しているものとする。したがって、外周溝3aは外周側ゴム部3の外周面における中心軸ω方向における中心を含んでいる。
また、外周側ゴム部3の外周面における外周溝3aによって、外周面は中心軸ωと平行方向において2つの部分31、33に分けられている。
【0028】
本発明のダイナミックダンパー1を中空回転軸の内周面に取り付けると、
図2に示す状態となる。
図2は本発明のダイナミックダンパー1を中空回転軸の内周面に取り付けた状態を示す断面図(中心軸ωを含む面で切断した断面図)である。
【0029】
図2に示すように、中空回転軸10の内周面10aに本発明のダイナミックダンパー1における外周ゴム部3の外周面を密着させ、これを取り付けると、外周側ゴム部3が径方向(中心軸ωに垂直方向)に圧縮される。このときに外周側ゴム部3の外周面における2つの部分31、33が、外周溝3aを中心として中心軸ωに平行方向において互いに離れる方向に移動する。
そうすると、外周側ゴム部3の一方の側面35において外周面側35aが内周面側35bよりも中心軸ωに平行方向において外側に位置することになる。他方の側面37においても同様に、外周面側37aが内周面側37bよりも中心軸ωに平行方向において外側に位置することになる。その結果、外周側ゴム部3の2つの側面35、37が外周面側35a、37aから内周面側35b、37bへ向かって徐々に内径が小さくなるテーパ形状を備えるようになる。
【0030】
本発明のダイナミックダンパーは
図1に示すような外周溝3を有するため、中空回転軸の内周側に設置したとき、外周側ゴム部3が、その側面が
図2に示すテーパ形状を備えることとなるように変形する。そのため、外周側ゴム部3における各部の圧縮率は一定になりやすく、また、スリーブ5およびマウントゴム9に負荷がかかり難い。
【0031】
また、本発明のダイナミックダンパーを中空回転軸の内周側に設置したときに、
図2に示すように外周側ゴム部3における2つの側面35、37がテーパ形状を備えるようになるため、中空回転軸内へ洗浄液を流し込んで洗浄したときに、洗浄液が残存し難い。特に、中空回転軸の内周面と外周側ゴム部3の外周面との境界であって、外周側ゴム部3の側面35、37の外周面側35a、37aの部位に洗浄液が残存しやすいが、外周側ゴム部3の2つの側面35、37が上記のようなテーパ形状であるため、この部位に洗浄液が残存し難い。
【0032】
なお、本発明のダイナミックダンパーにおいて外周溝の形、大きさ、深さ等は、本発明のダイナミックダンパーを中空回転軸の内周面に取り付けて前記外周側ゴム部が径方向に圧縮された場合に、外周側ゴム部3の外周面における外周溝3aによって中心軸ω方向に隔てられた2つの部分31、33が、中心軸ω方向において互いに離れる方向に移動することで、外周側ゴム部3の2つの側面35、37における外周面側35a、37aが内周面側35b、37bよりも中心軸ω方向の外側に位置することになり、外周側ゴム部3の2つの側面35、37が外周面側35a、37aから内周面側35b、37bへ向かって徐々に内径が小さくなるテーパ形状を備えることになるものであればよい。
【符号の説明】
【0033】
1 本発明のダイナミックダンパー
3 外周側ゴム部
3a 外周溝
31、33 外周側ゴム部の部分
35、37 外周側ゴム部の側面
35a、37a 外周側ゴム部の側面の外周面側
35b、37b 外周側ゴム部の側面の内周面側
5 スリーブ
7 インナーウエイト
9 マウントゴム
9a 連結部
9b スリット
10 中空回転軸
10a 中空回転軸の内周面
101 従来のダイナミックダンパー
102 外周側ゴム部
103 スリーブ
104 インナーウエイト
105 マウントゴム
105a 連結部
105b スリット
ω 中心軸
【0034】
この出願は、2020年11月24日に出願された日本出願特願2020-194077を基礎とする優先権を主張し、その開示のすべてをここに取り込む。