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▶ アムジエン・インコーポレーテツドの特許一覧

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-29
(45)【発行日】2025-02-06
(54)【発明の名称】求核芳香族置換によるジオールの不斉化
(51)【国際特許分類】
   C07C 201/12 20060101AFI20250130BHJP
   C07C 205/59 20060101ALI20250130BHJP
   C07D 267/12 20060101ALI20250130BHJP
   C07D 513/10 20060101ALI20250130BHJP
   C07D 519/00 20060101ALI20250130BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20250130BHJP
【FI】
C07C201/12
C07C205/59
C07D267/12
C07D513/10
C07D519/00 301
C07B61/00 300
【請求項の数】 53
(21)【出願番号】P 2023513981
(86)(22)【出願日】2021-09-01
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-21
(86)【国際出願番号】 US2021048588
(87)【国際公開番号】W WO2022051317
(87)【国際公開日】2022-03-10
【審査請求日】2023-05-08
(31)【優先権主張番号】63/074,241
(32)【優先日】2020-09-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500049716
【氏名又は名称】アムジエン・インコーポレーテツド
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ビーバー,マシュー・ジー
(72)【発明者】
【氏名】デニス,ジョーセフ
(72)【発明者】
【氏名】ドーナン,ピーター・ケイ
(72)【発明者】
【氏名】メンネン,スティーブン
(72)【発明者】
【氏名】テッドロウ,ジェイソン・エス
(72)【発明者】
【氏名】ランギル,ニール・フレッド
(72)【発明者】
【氏名】コーエン,キャロリン
(72)【発明者】
【氏名】ローテリー,アンドレアス・レネ
【審査官】神谷 昌克
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/147802(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/056089(WO,A1)
【文献】特表2015-521987(JP,A)
【文献】特表2005-527617(JP,A)
【文献】国際公開第2020/103815(WO,A1)
【文献】特表2017-525730(JP,A)
【文献】特開2018-199667(JP,A)
【文献】特表2015-516389(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
C07D
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化合物Y
【化1】
又はその塩を合成する方法であって、
化合物(I)、化合物(II)、不斉触媒、及び塩基を二相性溶媒系に混和して化合物Yを形成することを含
前記化合物(I)、及び化合物(II)は、下式:
【化2】
(式中、
は、CO1~6アルキル、COH、CON(C1~6アルキル)、COAr、COBn、又はCNであり;
Lgは脱離基であり;
Arは、C6~22アリール、又はO、N、及びSから選択される1~3個の環ヘテロ原子を含む5~12員ヘテロアリールである)
の化合物であり、
前記不斉触媒は、
【化3】
(式中、
各R は、独立して、C 1~22 アルキル、C 5~8 シクロアルキル、若しくはAr であるか、又は
各R は、結合している原子と一緒に、5~8員シクロアルキルを形成し;
各R は、独立して、C 1~22 アルキル、C 5~8 シクロアルキル、Bn、若しくはAr であるか、又は
2つのR は、結合している窒素と一緒に、N、O及びSから選択された追加の0~1個の環ヘテロ原子を含む5~25員複素環を形成し;
Xは、OH、NR C(O)R 、C(O)N(R 、N(R 、C 1~6 ハロアルキル、SH、SC 1~6 アルキル、NHSO Ar 、NHSO 1~6 アルキル、NHSOC 1~6 アルキル、若しくはNHSOAr であり;
各R は、独立して、H、C 1~12 アルキル、又はAr であり;
Zは対イオンである)
の構造を有する、方法。
【請求項2】
化合物Yが化合物Y1
【化4】
で示される立体化学を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
化合物Yが化合物Y2
【化5】
で示される立体化学を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
は、CO1~6アルキル、CO Bn、又はCO Phである、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
は、-COMe、-COEt、-COiPr、-COnPr、-COtBu、-COnBu、又は-COsecBuである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
は-COMeである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
はCNである、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
は-COHである、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
Lgはハロ又はスルホニルである、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
Lgは、F、Cl、Br、I、メシル、トシル、ノシル、又はトリフリルである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
LgはFである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記不斉触媒は、
【化6】
の構造を有する、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記不斉触媒は、
【化7】
の構造を有する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
各Rは、独立して、Me、Et、iPr、sBu、tBu、フェニル、トリル、
【化8】
から選択されるか、又は各Rは、結合している原子と一緒に、シクロヘキシル又はシクロペンチルを形成する、請求項13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
Xは、OH、
【化9】
、-NHSOMe、-NHSOトリル、-NHSO(ニトロフェニル)、
【化10】
、-CFH、-SH、-NH、-NHMe、-NHPh、
【化11】
である、請求項14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記不斉触媒は、-NMe、-NMeBn、-NMeBn、-NBn
【化12】
からなる群から選択される-N(R を含む、請求項15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記不斉触媒は、
【化13】
(式中、各Arは、独立して、C6~22アリール、又はN、O及びSから選択された1~3個の環ヘテロ原子を含む5~12員ヘテロアリールから選択され、Zは、対イオンである)の構造を有する、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
少なくとも1つのArは、フェニル又は置換フェニルである、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
各Arはフェニルである、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
各Arは、独立して、
【化14】
及びPhから選択される、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
前記不斉触媒は、
【化15】
(式中、Arは、C6~22アリール、又はO、N、及びSから選択される1~3個の環ヘテロ原子を含む5~12員ヘテロアリールから選択され、Zは対イオンである)の構造を有する、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
Arは、フェニル又は置換フェニルである、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
Arはフェニルである、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
Arは、
【化16】
及びPhから選択される、請求項22に記載の方法。
【請求項25】
前記不斉触媒は、
【化17】
からなる群から選択され、
Zは対イオンである、請求項1~11の何れか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記不斉触媒は、
【化18】
である、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
Zは、ハライド、トリフレート、メシレート、トシレート、又はノシレートである、請求項26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
Zはクロリド又はブロミドである、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記溶媒は無機塩基を含む、請求項1~28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
前記塩基は、CsCO、KCO、RbCO、NaCO、NaCO、LiCO、CaCO、MgCO、KPO、NaPO、LiPO、KHPO、NaHPO、LiHPO、NaHCO、LiHCO、又はKHCOを含む、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記塩基は、CsCOを含む、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記無機塩基は、化合物(I)の1.0モル当量を基準として、0.95~6モル当量で存在する、請求項2931のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
前記二相性溶媒系は非プロトン性有機溶媒及び水を含む、請求項1~32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
前記非プロトン性有機溶媒は、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン、トルエン、ベンゼン、シクロペンチルメチルエーテル、tert-ブチルメチルエーテル、2-メチルテトラヒドロフラン、アニソール、キシレン、ベンゾトリフルオリド、1,2-ジクロロエタン、メチルイソブチルケトン、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、又はこれらの組み合わせを含む、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記非プロトン性有機溶媒は、トルエンを含む、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記トルエンは、化合物(I)の重量を基準として、3L/kg~30L/kgの濃度で存在する、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記塩基を添加する前に、化合物(I)、化合物(II)及び前記触媒を前記非プロトン性有機溶媒中で混和することを含む、請求項3336のいずれか一項に記載の方法。
【請求項38】
前記混和は、-40℃~30℃の温度で行う、請求項1~37のいずれか一項に記載の方法。
【請求項39】
前記混和は、-15℃~-25℃の温度で行う、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記混和は、1時間~72時間にわたり行う、請求項1~39のいずれか一項に記載の方法。
【請求項41】
前記混和は、14時間~18時間にわたり行う、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
化合物(II)は、化合物(I)の1.0モル当量を基準として、0.9~2モル当量で存在する、請求項1~41のいずれか一項に記載の方法。
【請求項43】
化合物(II)は、化合物(I)の1.0モル当量を基準として、1.0モル当量で存在する、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
前記不斉触媒は、化合物(I)の1.0モル当量を基準として、0.005~1.50モル当量で存在する、請求項1~43のいずれか一項に記載の方法。
【請求項45】
前記不斉触媒は、化合物(I)の1.0モル当量を基準として、0.25モル当量で存在する、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
化合物Yは、30%以上のエナンチオマー過剰率で生成される、請求項1~45のいずれか一項に記載の方法。
【請求項47】
化合物Yは、40%以上のエナンチオマー過剰率で生成される、請求項46に記載の方法。
【請求項48】
化合物Yは、50%以上のエナンチオマー過剰率で生成される、請求項47に記載の方法。
【請求項49】
化合物Yから化合物A3
【化19】
又はその塩若しくは溶媒和物を合成することをさらに含む、請求項1~48のいずれか一項に記載の方法。
【請求項50】
前記化合物A3又はその塩若しくは溶媒和物は、構造A3A
【化20】
を有するか、又はその塩若しくは溶媒和物である、請求項49に記載の方法。
【請求項51】
前記化合物A3又はその塩若しくは溶媒和物は、構造A3B
【化21】
を有するか、又はその塩若しくは溶媒和物である、請求項49に記載の方法。
【請求項52】
化合物Yから化合物A1
【化22】
又はその塩若しくは溶媒和物を合成することをさらに含む、請求項1~51のいずれか一項に記載の方法。
【請求項53】
化合物Yから化合物A2
【化23】
又はその塩若しくは溶媒和物を合成することをさらに含む、請求項1~51のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2020年9月3日に出願された米国仮特許出願第63/074,241号明細書の利益を主張するものであり、あたかも本明細書に完全に記載されているかのように、あらゆる目的のためにその全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示は、(1S,3’R,6’R,7’S,8’E,11’S,12’R)-6-クロロ-7’-メトキシ-11’,12’-ジメチル-3,4-ジヒドロ-2H,15’H-スピロ[ナフタレン-1,22’[20]オキサ[13]チア[1,14]ジアザテトラシクロ[14.7.2.03,6.019,24]ペンタコサ[8,16,18,24]テトラエン]-15’-オン13’,13’-ジオキシド(化合物A1;AMG 176)、その塩又は溶媒和物を調製するのに、そして(1S,3’R,6’R,7’R,8’E,11’S,12’R)-6-クロロ-7’-メトキシ-11’,12’-ジメチル-7’-((9aR)-オクタヒドロ-2H-ピリド[1,2-a]ピラジン-2-イルメチル)-3,4-ジヒドロ-2H,15’H-スピロ[ナフタレン-1,22’-[20]オキサ[13]チア[1,14]ジアザテトラシクロ[14.7.2.03,6.019,24]ペンタコサ[8,16,18,24]テトラエン]-15’-オン13’,13’-ジオキシド(化合物A2;AMG 397)、その塩又は溶媒和物を調製するのに有用な中間体を合成するための方法に関する。これらの化合物は、骨髄細胞白血病1タンパク質(Mcl-1)の阻害剤である。
【背景技術】
【0003】
化合物(1S,3’R,6’R,7’S,8’E,11’S,12’R)-6-クロロ-7’-メトキシ-11’,12’-ジメチル-3,4-ジヒドロ-2H,15’H-スピロ[ナフタレン-1,22’[20]オキサ[13]チア[1,14]ジアザテトラシクロ[14.7.2.03,6.019,24]ペンタコサ[8,16,18,24]テトラエン]-15’-オン13’,13’-ジオキシド(化合物A1)は、骨髄細胞白血病1(Mcl-1)の阻害剤として有用である:
【化1】
【0004】
化合物(1S,3’R,6’R,7’R,8’E,11’S,12’R)-6-クロロ-7’-メトキシ-11’,12’-ジメチル-7’-((9aR)-オクタヒドロ-2H-ピリド[1,2-a]ピラジン-2-イルメチル)-3,4-ジヒドロ-2H,15’H-スピロ[ナフタレン-1,22’-[20]オキサ[13]チア[1,14]ジアザテトラシクロ[14.7.2.03,6.019,24]ペンタコサ[8,16,18,24]テトラエン]-15’-オン13’,13’-ジオキシド(化合物A2)は、骨髄細胞白血病1(Mcl-1)の阻害剤として有用である:
【化2】
【0005】
ヒト癌の1つの一般的な特性は、Mcl-1の過剰発現である。Mcl-1が過剰発現すると、癌細胞がプログラム細胞死(アポトーシス)を受けることが回避され、広範な遺伝子損傷があるにもかかわらず細胞が生存することが可能となる。
【0006】
Mcl-1は、タンパクのBcl-2ファミリーのメンバーである。Bcl-2ファミリーは、プロアポトーシスメンバー(BAX及びBAKなど)を含み、これらは、活性化すると、ミトコンドリア外膜中にホモオリゴマーを形成し、これは、アポトーシス誘発の一段階であるポア形成及びミトコンドリア内容物の放出をもたらす。Bcl-2ファミリーの抗アポトーシスメンバー(Bcl-2、Bcl-XL及びMcl-1など)は、BAX及びBAKの活性を遮断する。他のタンパク質(BID、BIM、BIK及びBADなど)は、更なる調節的機能を示す。研究から、Mcl-1阻害剤が癌の処置に有用であり得ることが示されている。Mcl-1は、多くの癌において過剰発現される。
【0007】
その全体が参照により本明細書に組み込まれる米国特許第9,562,061号明細書は、Mcl-1阻害剤としての化合物A1を開示し、その調製方法を提供している。しかしながら、化合物A1のコストの低下及び製造タイムラインの減少をもたらす合成方法の向上が、特に化合物A1を商業的に製造するのに、所望されている。
【0008】
全体が参照により本明細書に組み込まれる米国特許第10,300,075号明細書は、Mcl-1阻害剤としての化合物A2を開示し、その調製方法を提供している。しかしながら、化合物A2のコストの低下及び製造タイムラインの減少をもたらす合成方法の向上が、特に化合物A2を商業的に製造するために所望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】米国特許第9,562,061号明細書
【文献】米国特許第10,300,075号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
本明細書では、化合物Y:
【化3】
又はその塩を合成する方法であって、
化合物(I)、化合物(II)
【化4】
(式中、Rは、CO1~6アルキル、COH、CON(C1~6アルキル)、COAr、COBn、又はCNであり、Lgは脱離基であり、ArはC~C22アリール、又はO、N及びSから選択される1~3環ヘテロ原子を含む5~12員ヘテロアリールである)、触媒、及び塩基を二相性溶媒系に混和して化合物Yを形成することを含む、方法が提供される。様々な実施形態では、化合物Yは、化合物Y1
【化5】
で示す立体化学を有し得る。様々な実施形態では、化合物Yは、化合物Y2
【化6】
に示す立体化学を有し得る。
【0011】
様々な実施形態では、化合物Yを使用して、化合物A3
【化7】
又はその塩若しくは溶媒和物を合成する。様々な実施形態では、化合物Y1を使用して、化合物A3A
【化8】
又はその塩若しくは溶媒和物を合成する。様々な実施形態では、化合物Yを使用して、化合物A3B
【化9】
又はその塩若しくは溶媒和物を合成する。
【0012】
様々な実施形態では、化合物Y1を使用して、化合物A1
【化10】
又はその塩若しくは溶媒和物を合成する。
【0013】
様々な実施形態では、化合物Y1を使用して、化合物A2
【化11】
又はその塩若しくは溶媒和物を合成する。
【0014】
更なる態様及び利点は、以下の詳細な説明の検討から当業者に明らかであろう。本開示が例示的であり、本明細書に記載される具体的な実施形態に本発明を限定することを意図しないという理解の下で、本明細書の以下の説明は、具体的な実施形態を含む。
【発明を実施するための形態】
【0015】
Mcl-1阻害剤及び対応するMcl-1阻害剤中間体を合成するための方法が、本明細書で提供される。具体的には、(1S,3’R,6’R,7’S,8’E,11’S,12’R)-6-クロロ-7’-メトキシ-11’,12’-ジメチル-3,4-ジヒドロ-2H,15’H-スピロ[ナフタレン-1,22’[20]オキサ[13]チア[1,14]ジアザテトラシクロ[14.7.2.03,6.019,24]ペンタコサ[8,16,18,24]テトラエン]-15’-オン 13’,13’-ジオキシド(化合物A1)、又はその塩若しくは溶媒和物を合成するための方法、及び(1S,3’R,6’R,7’R,8’E,11’S,12’R)-6-クロロ-7’-メトキシ-11’,12’-ジメチル-7’-((9aR)-オクタヒドロ-2H-ピリド[1,2-a]ピラジン-2-イルメチル)-3,4-ジヒドロ-2H,15’H-スピロ[ナフタレン-1,22’-[20]オキサ[13]チア[1,14]ジアザテトラシクロ[14.7.2.03,6.019,24]ペンタコサ[8,16,18,24]テトラエン]-15’-オン13’,13’-ジオキシド(化合物A2)、又はその塩若しくは溶媒和物を合成するための方法で使用し得る中間体が提供される:
【化12】
【0016】
その全体が参照により本明細書に組み込まれる米国特許第9,562,061号明細書は、Mcl-1阻害剤としての化合物A1又はその塩若しくは溶媒和物を開示し、その調製するための方法を提供している。また、米国特許第9,562,061号明細書には、化合物A3A:
【化13】
の合成に使用される、下に示されるMcl-1阻害剤中間体を合成するための方法も開示している。
【0017】
その全体が参照により本明細書に組み込まれる米国特許第10,300,075号明細書は、Mcl-1阻害剤としての化合物A2又はその塩若しくは溶媒和物を開示し、その調製するための方法を提供している。米国特許第10,300,075号明細書からの化合物A1の塩及び溶媒和物の開示は、その全体が参考として組み込まれる。また、この特許には、化合物A3Aの合成に使用される、上記に示されるような大環状Mcl-1阻害剤中間体を合成するための方法が開示されている。
【0018】
特に、’061号特許には、下記のスキーム1に示される化合物A3を合成するための方法が、例えば、’061号特許の55~63行目に記載されている。
【0019】
スキーム1-化合物A3Aの先行合成
【化14】
上記に示す方法には、いくつかの問題点がある。スキーム1の方法は、ジオール出発材料から化合物A3Aに到達するために、少なくとも7つの化学的ステップを必要とする。さらに、ステップのうちの1つは、カスタム製造が必要な触媒を使用する(’061特許において「Kang触媒」と呼ばれる)。上記方法は、方法に含まれる化学的ステップの数が多いため、かなりのコスト及び長い製造タイムラインも有する。最後に、上記方法は、2-ナフトエート及びジメチルアセタール保護基を使用するため、原子効率的でない。
【0020】
有利なことに、本明細書に開示される方法は、より少ないステップの使用及びKang触媒の同時供給を管理する必要性の回避により、化合物A3Aのコスト及び製造タイムラインを著しく低減する。さらに、本明細書に開示される方法は、部分的には溶媒及び試薬の使用量が減少するため、また部分的には、アリール基がこの方法のエナンチオ選択的ステップで直接導入されるため、より環境に優しい製造方法である。
【0021】
化合物Yの合成
本明細書では、化合物Y
【化15】
又はその塩を合成する方法であって、化合物(I)、化合物(II)
【化16】
(式中Rは、CO1~6アルキル、COH、CON(C1~6アルキル)、COAr、COBn、又はCNであり、Lgは脱離基であり、Arは、C6~22アリール、又はO、N及びSから選ばれる1~3環ヘテロ原子を含む5~12員ヘテロアリールから選択される)、触媒及び塩基を二相性溶媒系に混和して化合物Yを形成することを含む、方法である。種々の実施形態では、化合物Yは化合物Y1
【化17】
で示す立体化学を有し得る。いくつかの実施形態では、化合物Yは、化合物Y2
【化18】
に示す立体化学を有し得る。いくつかの実施形態では、本方法は、塩基を添加する前に、化合物(I)、化合物(II)及び触媒を非プロトン性有機溶媒中で混和することを含み得る。
【0022】
本明細書で使用する場合、用語「アルキル」は、1~22個の炭素原子、例えば、1~20個の炭素原子、又は1~10個の炭素原子、又は1~4個の炭素原子を含む直鎖及び分枝飽和炭化水素基を指す。用語Cは、アルキル基が「n」個の炭素原子を有することを意味する。例えば、Cアルキルは、4個の炭素原子を有するアルキル基を指す。C1~22アルキル及びC~C22アルキルとは、範囲全体(すなわち、1~22個の炭素原子)、及び全てのサブグループ(例えば、1~6、2~20、1~10、3~15、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22個の炭素原子)を包含するいくつかの炭素原子を有するアルキル基を指す。アルキル基の非限定的な例として、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、sec-ブチル(2-メチルプロピル)、t-ブチル(1,1-ジメチルエチル)、3,3-ジメチルペンチル、及び2-エチルヘキシルが挙げられる。特に断りのない限り、アルキル基は非置換アルキル基又は置換アルキル基であり得る。アルキル上の特定の置換は、用語に含めることによって示すことができ、例えば、「ハロアルキル」は、1つ以上(例えば、1~10)のハロで置換されたアルキル基を示し;又は「ヒドロキシアルキル」は、1つ以上(例えば、1~10)のヒドロキシで置換されたアルキル基を示す。
【0023】
本明細書で使用する場合、用語「シクロアルキル」は、5~8個の炭素原子(例えば、5、6、7、又は8個の炭素原子)を含む脂肪族環状炭化水素基を意味する。用語Cは、シクロアルキル基が「n」個の炭素原子を有することを意味する。例えば、Cシクロアルキルは、環内に5個の炭素原子を有するシクロアルキル基を意味する。C5~8アルキル及びC~Cシクロアルキルは、範囲全体(すなわち、5~8個の炭素原子)、及び全てのサブグループ(例えば、5~6、6~8、7~8、5~7、5、6、7、及び8個の炭素原子)を包含するいくつかの炭素原子を有するシクロアルキル基を指す。シクロアルキル基の非限定的な例としては、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、及びシクロオクチルが挙げられる。別途指示されない限り、シクロアルキル基は、非置換シクロアルキル基又は置換シクロアルキル基であり得る。本明細書に記載のシクロアルキル基は、別のシクロアルキル基、ヘテロシクロアルキル基、アリール基及び/又はヘテロアリール基に分離又は縮合され得る。シクロアルキル基は、置換されていても、置換されていなくてもよい。
【0024】
本明細書で使用する場合、用語「ヘテロシクロアルキル」は、環が酸素、窒素及び硫黄から独立して選択される1~3個のヘテロ原子を含むことを除いて、シクロアルキルと同様に定義される。特に、用語「ヘテロシクロアルキル」は、合計3~8個の原子を含む環を意味し、それらのうちの1、2、3、又は3個の原子は、酸素、窒素及び硫黄からなる群から独立して選択されるヘテロ原子であり、環内の残りの原子は炭素原子である。ヘテロシクロアルキル基の非限定的な例としては、ピペリジン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、ジヒドロフラン、モルホリンなどが挙げられる。ヘテロシクロアルキル基は、例えば、独立してアルキル、アルケニル、OH、C(O)NH、NH、オキソ(=O)、アリール、ハロアルキル、ハロ、及びOHから選択される1~3個の基で任意に置換された飽和又は部分不飽和環系であり得る。ヘテロシクロアルキル基は、任意に、アルキル、ヒドロキシアルキル、アルキレン-アリール、及びアルキレン-ヘテロアリールでさらにN置換され得る。本明細書に記載のヘテロシクロアルキル基は、別のヘテロシクロアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、及び/又はヘテロアリール基に分離又は縮合することができる。ヘテロシクロアルキル基が別のヘテロシクロアルキル基に縮合する場合、ヘテロシクロアルキル基の各々は、合計3~8個の環原子、及び1~3個のヘテロ原子を含み得る。いくつかの実施形態では、本明細書に記載のヘテロシクロアルキル基は、1つの酸素環原子(例えば、オキシラニル、オキセタニル、テトラヒドロフラニル、及びテトラヒドロピラニル)を含む。
【0025】
本明細書で使用する場合、用語「アリール」は、6~22個の環炭素原子を有する、単環式又は多環式(例えば、縮合二環式及び縮合三環式)の炭素環式芳香環系を意味する。アリール基の例としては、フェニル、ナフチル、テトラヒドロナフチル、フェナントレニル、ビフェニレニル、インダニル、インデニル、アントラセニル、及びフルオレニルが挙げられるが、これらに限定されない。別途指示されない限り、アリール基は、非置換アリール基又は置換アリール基であり得る。
【0026】
「Bn」は、ベンジル基、CHフェニルを意味し、場合によっては、フェニルは置換されていてもよい。
【0027】
本明細書で使用される場合、「ヘテロアリール」という用語は、合計5~12個の環原子を有する環式芳香環(例えば、合計5~6個の環原子を有する単環式芳香環)であって、芳香環中に、窒素、酸素、及び硫黄から選択される1~3個のヘテロ原子を含む環式芳香環を指す。別途指示されない限り、ヘテロアリール基は、非置換であり得るか、又は1つ若しくは複数(具体的には1~4個)の置換基であって、例えば、ハロ、アルキル、アルケニル、OCF、NO、CN、NC、OH、アルコキシ、アミノ、COH、COアルキル、アリール、及びヘテロアリールから選択される置換基で置換され得る。場合によっては、このヘテロアリール基は、アルキル基及びアルコキシ基のうちの1つ又は複数で置換されている。ヘテロアリール基を、単離し得るか(例えばピリジル)、又は別のヘテロアリール基(例えばプリニル)、シクロアルキル基(例えばテトラヒドロキノリニル)、ヘテロシクロアルキル基(例えばジヒドロナフチリジニル)、並びに/又はアリール基(例えばベンゾチアゾリル及びキノリル)に融合させ得る。ヘテロアリール基の例として下記が挙げられるが、これらに限定されない:チエニル、フリル、ピリジル、ピロリル、オキサゾリル、キノリル、チオフェニル、イソキノリル、インドリル、トリアジニル、トリアゾリル、イソチアゾリル、イソキサゾリル、イミダゾリル、ベンゾチアゾリル、ピラジニル、ピリミジニル、チアゾリル、及びチアジアゾリル。ヘテロアリール基が別のヘテロアリール基に融合している場合には、各環は、その芳香環中に、合計5又は6個の環原子と、1~3個のヘテロ原子とを含み得る。別途指示されない限り、ヘテロアリール基は置換されていなくても、置換されていてもよい。
【0028】
本明細書で使用する場合、用語「複素環」は、ヘテロアリール又はヘテロシクロアルキルのいずれかを意味する。
【0029】
一般に、Rは、CO1~6アルキル、COH、CON(C1~6アルキル)、COAr、COBn、又はCNを含み得る。いくつかの実施形態では、Rは、CO1~6アルキル、COH、又はCOArを含み得る。いくつかの実施形態では、RはCOHである。いくつかの実施形態では、RはCO1~6アルキルである。いくつかの実施形態では、RはCOArである。いくつかの実施形態では、Rは、COMe、COEt、COiPr、COnPr、COtBu、COnBu、COsecBu、COBn、又はCOPhである。いくつかの実施形態では、Rは、COMe、COEt、COiPr、又はCOtBuである。いくつかの実施形態では、RはCOMeである。いくつかの実施形態では、RはCOPhである。いくつかの実施形態では、RはCOBnである。いくつかの実施形態では、COBnは、COCH(p-OMeC)である。いくつかの実施形態では、RはCNである。
【0030】
一般に、Lgは、脱離基である。本明細書で使用される脱離基は、求核芳香族置換時に求核剤によって置換され得る任意の適切な原子又は官能基を意味する。好適な脱離基の非限定的な例として、ハロゲン化物(例えば、F、Cl、Br、若しくはI)、又はスルホニルが挙げられる。いくつかのの実施形態では、脱離基は、Fである。
【0031】
いくつかの実施形態では、Lgは、スルホニル脱離基である。本明細書で使用される場合、用語「スルホニル脱離基」は、-SOR’によって表される脱離基を意味し、ここで、R’は、アルキル、アリール、ハロアルキル、ヘテロアリールなどであり得る。いくつかの実施形態では、スルホニル脱離基は、メシル(SOMe)、トシル(SOトリル)、ノシル(SO-ニトロフェニル)、及びトリフリル(SOCF)からなる群から選択される。いくつかの実施形態では、スルホニル脱離基は、メシルを含む。
【0032】
一般に、化合物(II)は、化合物(I)の1.0モル当量を基準として、0.9~2モル当量で存在する。いくつかの実施形態では、化合物(II)は、化合物(I)の1.0モル当量を基準として、1~2モル当量、1~1.5モル当量、又は1~1.2モル当量で存在する。いくつかの実施形態では、化合物(II)は、化合物(I)の1.0モル当量を基準として、1モル当量で存在する。
【0033】
一般に、触媒は、例えば、活性化エネルギーを低減することによって、速度を上昇させることによって、収率を増加することによって、純度プロファイルを増加することによって、生成物のエナンチオマー純度を増加することによって、必要な反応温度を低下させることによって、又は常にそうではないが準化学量論的な量(substoichiometric quantity)で使用され得る化合物(Y)の形成を容易にする任意の他の方法によって、化合物(I)及び(II)のカップリングを補助する任意の部分であり得る。いくつかの実施態様では、触媒は、不斉触媒である。いくつかの実施形態では、不斉触媒は、以下の構造を有し得る。
【化19】
(式中、各Rは、独立して、C1~22アルキル、C5~8シクロアルキル、若しくはArであり、又は各Rは、結合している原子と一緒に、5~8員シクロアルキルを形成し;各Rは、独立して、C1~22アルキル、C5~8シクロアルキル、Bn、若しくはArであり、又は2つのRは、結合している窒素と一緒に、N、O及びSから選択された追加の0~1個の環ヘテロ原子を含む5~25員複素環を形成し;Xは、OH、NRC(O)R、C(O)N(R、N(R、C1~6ハロアルキル、SH、SC1~6アルキル、NHSOAr、NHSO1~6アルキル、NHSOC1~6アルキル、若しくはNHSOArであり;各Rは、独立して、H、C1~12アルキル、若しくはArであり;Zは対イオンである。)いくつかの実施形態では、不斉触媒は、以下の構造を有し得る。
【化20】
いくつかの実施形態では、不斉触媒は、以下の構造を有し得る。
【化21】
いくつかの実施形態では、不斉触媒は、以下の構造を有し得る。
【化22】
【0034】
一般に、各Rは、独立して、C~C22 アルキル、C~Cシクロアルキル若しくはArであるか、又は2つのRは、結合している原子と一緒に、5~8員シクロアルキルを形成する。いくつかの実施形態では、少なくとも1つのRはC~C22アルキルである。いくつかの実施形態では、少なくとも1つのRは、C~Cシクロアルキルである。いくつかの実施形態では、少なくとも1つのRは、Arである。いくつかの実施形態では、2つのRは、結合している原子と一緒に、5~8員シクロアルキルを形成する。いくつかの実施形態では、各Rは、独立して、Me、Et、iPr、sBu、tBu、フェニル、トリル、
【化23】
から選択されるか、又は各Rは、結合している原子と一緒に、シクロヘキシル又はシクロペンチルを形成する。
【0035】
一般に、Xは、OH、NRC(O)R、C(O)N(R、N(R、C1~6ハロアルキル、SH、SC1~6アルキル、NHSOAr、NHSO1~6アルキル、NHSOC1~6アルキル、又はNHSOArである。いくつかの実施形態では、Xは、OH
【化24】
、-NH-SOMe、-NH-SO(トリル)、-NH-SO(ニトロフェニル)、
【化25】
、-CFH、-SH、-NH、-NHMe、-NHPh、
【化26】
であり得る。いくつかの実施形態では、XはOHである。いくつかの実施形態では、XはSHである。いくつかの実施形態では、Xは、NHSO(C1~6アルキル)である。いくつかの実施形態では、Xは、NHSOArである。いくつかの実施形態では、Xは、NHSO(C1~6アルキル)である。いくつかの実施形態では、Xは、NHSOArである。いくつかの実施形態では、Xは、NRC(O)R、C(O)N(R、又はN(Rであり、少なくとも1つのRは、Hである。いくつかの実施形態では、Xは、NRC(O)R、C(O)N(R、又はN(Rであり、少なくとも1つのRは、C1~6アルキルである。いくつかの実施形態では、Xは、NRC(O)R、C(O)N(R、又はN(Rであり、少なくとも1つのRは、Arである。
【0036】
一般に、各Rは、独立して、C~C22アルキル、C~Cシクロアルキル、若しくはArであるか、又は2つのRは、結合している窒素と一緒に、N、O及びSから選択された追加の0~1個の環ヘテロ原子を含む5~25員複素環を形成する。いくつかの実施形態では、少なくとも1つのRは、C~C22アルキルである。いくつかの実施形態では、少なくとも2つのRは、C~C22アルキルである。いくつかの実施形態では、少なくとも2つのRは、Arである。いくつかの実施形態では、2つのRは、結合している窒素と一緒に、N、O及びSから選択された追加の0~1個の環ヘテロ原子を含む5~25員複素環を形成する。いくつかの実施形態では、少なくとも1つのRは、C12アルキルである。いくつかの実施形態では、不斉触媒は、-NMe 、-NMeBn、-NMeBn 、-NBn
【化27】
からなる群から選択される-N(R を含み得る。いくつかの実施形態では、-N(R は、
【化28】
である。
【0037】
いくつかの実施形態では、不斉触媒は、以下の構造を有し得る。
【化29】
(式中、各Arは、独立して、C6~22アリール、又はN、O及びSから選択された1~3個の環ヘテロ原子を含む5~12員ヘテロアリールから選択され、Zは、対イオンである。)いくつかの実施形態では、少なくとも1つのArは、フェニル又は置換フェニルである。いくつかの実施形態では、少なくとも1つのArは、フェニルである。いくつかの実施形態では、各Arはフェニルである。いくつかの実施形態では、少なくとも1つのArは、置換フェニルである。いくつかの実施形態では、各Arは、置換フェニルである。いくつかの実施形態では、置換フェニルは、独立して、C1~4アルキル、CF、Cl、Br、F、及びOC1~4アルキルから選択される1つ又は2つの置換基を含み得る。いくつかの実施形態では、少なくとも1つのArは、アントラセニルである。いくつかの実施形態では、各Arは、独立して、
【化30】
及びPhから選択される。
【0038】
いくつかの実施形態では、不斉触媒は、以下の構造を有し得る。
【化31】
(式中、Arは、C6~22アリール、又はO、N、及びSから選択される1~3個の環ヘテロ原子を含む5~12員ヘテロアリールから選択され、Zは対イオンである。)いくつかの実施形態では、Arは、フェニル又は置換フェニルである。いくつかの実施形態では、Arは、フェニルである。いくつかの実施形態では、置換フェニルは、独立して、C1~4アルキル、CF、Cl、Br、F、及びOC1~4アルキルから選択される1つ又は2つの置換基を含み得る。いくつかの実施形態では、Arは、アントラセニルである。いくつかの実施形態では、各Arは、
【化32】
及びPhから選択される。
【0039】
一般に、Zは対イオンである。いくつかの実施形態では、Zは、ハライド、トリフレート、メシレート、トシレート、又はノシレートである。いくつかの実施形態では、ZはF、Cl、Br、又はIである。いくつかの実施形態では、ZはBrである。
【0040】
いくつかの実施形態では、開示された方法で使用される不斉触媒は、以下からなる群から選択することができる。
【化33】
いくつかの実施形態では、不斉触媒は、
【化34】
である。本明細書に示す実施形態のいくつかの具体例では、Zはブロミド又はクロリドである。いくつかの実施形態では、Zはクロリドである。いくつかの実施形態では、Zはブロミドである。
【0041】
一般に、不斉触媒は、化合物(I)の1.0モル当量を基準として、0.005~1.50モル当量で存在する。いくつかの実施形態では、不斉触媒は、0.005~1モル当量、0.05~0.5モル当量、又は0.05~0.25モル当量で存在する。例えば、不斉触媒は、化合物(I)の1.0モル当量を基準として、0.005、0.01、0.05、0.1、0.15、0.2、0.25、0.5、0.75、1、1.25、又は1.5モル当量で存在する。いくつかの実施形態では、不斉触媒は、化合物(I)の1.0モル当量を基準として、0.25モル当量で存在する。
【0042】
一般に、塩基は無機塩基を含み得る。企図される無機塩基としては、CsCO、KCO、RbCO,NaCO、NaCO、LiCO、CaCO、MgCO、KPO、NaPO、LiPO、KHPO、NaHPO、LiHPO、NaHCO、LiHCO、及びKHCOが挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、塩基は、CsCOを含む。いくつかの実施形態では、無機塩基は、化合物(I)の1.0モル当量を基準として、0.95~6モル当量で存在する。いくつかの実施形態では、無機塩基は、化合物(I)の1.0モル当量を基準として、1~5モル当量、1~4モル当量、1~3モル当量、1~2モル当量、又は1.5モル当量で存在し得る。例えば、無機塩基は、化合物(I)の1.0モル当量を基準として、0.95、1、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、2、3、4、5、又は6モル当量で存在し得る。
【0043】
一般に、溶媒系は二相性である。いくつかの実施形態では、二相性溶媒系は、非プロトン性有機溶媒及び水を含み得る。企図される非プロトン性有機溶媒としては、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン、トルエン、ベンゼン、シクロペンチルメチルエーテル、tert-ブチルメチルエーテル、2-メチルテトラヒドロフラン、アニソール、キシレン、ベンゾトリフルオリド、1,2-ジクロロエタン、メチルイソブチルケトン、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、又はこれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、非プロトン性有機溶媒はトルエンを含み得る。いくつかの実施形態では、非プロトン性有機溶媒は、化合物(I)の重量を基準として3L/kg~30L/kgの濃度で存在する。例えば、非プロトン性有機溶媒は、3L/kg、4L/kg、5L/kg、6L/kg、7L/kg、8L/kg、9L/kg、10L/kg、15L/kg、20L/kg、25L/kg、又は30L/kgの濃度で存在する。いくつかの実施形態では、トルエンは、化合物(I)の重量を基準として、3L/kg~30L/kgの濃度で存在する。
【0044】
一般に、本明細書に開示される方法は、-40℃~30℃の温度で混和することを含み得る。いくつかの実施形態では、混和は、-30℃~30℃、-20℃~20℃、-20℃~10℃、又は-20℃~5℃の温度で行う。例えば、混和は、-40℃、-30℃、-20℃、-15℃、-10℃、-5℃、0℃、5℃、10℃、20℃、又は30℃の温度で行う。
【0045】
一般に、本明細書に開示される方法は、1時間~72時間の混和を含み得る。いくつかの実施形態では、混和は、1時間~48時間、1時間~24時間、1時間~20時間、10時間~20時間、又は14時間~18時間行われる。例えば、混和は、1時間、2時間、3時間、4時間、5時間、10時間、12時間、14時間、16時間、18時間、20時間、24時間、36時間、48時間、又は72時間行ってもよい。
【0046】
一般に、本明細書に開示される方法は、高いエナンチオマー過剰率(例えば、30%以上)で化合物Yを生成することができる。いくつかの実施形態では、化合物Yは、30%以上のエナンチオマー過剰率で生成される。いくつかの実施形態では、化合物Yは、40%以上のエナンチオマー過剰率で生成される。いくつかの実施形態では、化合物Yは、50%以上のエナンチオマー過剰率で生成される。いくつかの実施形態では、化合物Yは、60%以上のエナンチオマー過剰率で生成される。
【0047】
化合物A3Aの合成
スキーム2に示されるように、本明細書に開示される方法によって調製される化合物Yを使用して、化合物A3A又はその塩を合成することができる。化合物Yは、様々な異なる方法を用いて、化合物A3Aを合成するために使用することができる。場合によっては、RがCOMe又はCNである場合の化合物Yは、例えば、加水分解反応、酸化、水素添加を経て化合物A3Aを形成し、その後、化合物A3Aの塩を結晶化させることができる。場合によっては、RがCOMe又はCNである場合の化合物Yは、例えば、酸化、加水分解反応、水素添加を経て化合物A3Aを形成し、次いで化合物A3Aの塩を結晶化させることができる。場合によっては、RがCOMe又はCNである場合の化合物Yは、例えば、水素添加、酸化/還元アミノ化を通じてアルコール上のアニリンのレドックスニュートラル(水素借用)な環化を経て、化合物A3Aを形成し、その後、化合物A3Aの塩を結晶化させることができる。場合によっては、RがCOHである場合の化合物Yは、例えば、酸化、水素添加を経て化合物A3Aを形成し、その後、化合物A3Aの塩を結晶化させることができる。
【0048】
スキーム2-化合物A3Aの合成のための一般的方法
【化35】
本明細書で開示されている方法により調製された化合物Y1を使用して、化合物A1及びA2を合成し得る。スキーム2に示されるように、化合物Y1を使用して、化合物A3A並びにその塩及びその溶媒和物を合成することができる。スキーム3に示されるように、化合物Y1を使用して、化合物A3Aを介して、化合物A1を合成することができる。スキーム4に示されるように、化合物A1を使用して、スキーム4に示す化合物A2を合成することができる。化合物Yは、A3を調製するために使用されてもよく、A3Aのエナンチオマーを調製するためにさらに使用されてもよく、触媒の選択及び条件は、化合物Y1のエナンチオマーを生成するために使用されてもよいことが認識されよう。
【0049】
スキーム3-化合物A3から化合物A1への変換
【化36】
上記に示され、米国特許第9,562,061号明細書に記載されるように、化合物A3Aを用いて化合物A1並びにその塩及び溶媒和物を合成してもよい。本明細書に記載されているように、化合物Y1を使用して、化合物A1を調製することができる。
【0050】
スキーム4-化合物A1から化合物A2への変換
【化37】
上記に示され、米国特許第10,300,075号明細書に記載されるように、化合物Cを用いて化合物A2並びにその塩及び溶媒和物を合成することができる。米国特許第10,300,075号明細書に開示されるように、化合物Cを酸化して環状エノンIを提供することができる。続いて、米国特許第10,300,075号明細書に開示される手順を使用して、エノンIをエポキシドJに転化することができる。続いて、エポキシドJを二環式化合物Kと反応させ、ヒドロキシ化合物Lを提供することができる。最終的に、化合物Lをメチル化することによって、米国特許第10,300,075号明細書に開示されるような化合物A2が提供される。
【0051】
本開示がその詳細な説明と併せて読まれる一方、前述の説明及び以下の実施例は、例示的なものであり、本開示の範囲を限定することを意図するものではなく、本開示の範囲は、添付の特許請求の範囲によって定義されることを理解されたい。他の態様、利点、及び変更形態は、以下の特許請求の範囲内である。
【実施例
【0052】
以下の実施例は、例示のために提供され、本発明の範囲を限定することは意図されない。
【0053】
実施例1:化合物Yを形成するためのSNAr反応
【化38】
【0054】
化合物Y2の合成
メチル(R)-4-((6-クロロ-1-(ヒドロキシメチル)-1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン-1-イル)メトキシ)-3-ニトロベンゾエート(化合物Y2、式中、RはCOMeである):EasyMax反応容器(ガラス製、100mL)に、[6-クロロ-1-(ヒドロキシメチル)テトラリン-1-イル]メタノール(THN-DIOL、3.00g、13.2mmol,1.0当量)、メチル4-フルオロ-3-ニトロベンゾエート(2.64g、13.2mmol、1.0当量、ここで、LgはFであり、Rはメチルである)及び(1R,2S)-N-エチル-1-ヒドロキシ-N,N-ジメチル-1-フェニルプロパン-2-アミニウムブロミド(11、1.43g、3.31mmol、0.25当量)を順次投入した。容器をEasyMax Advanced Synthesis Workstationに入れ、オーバーヘッド撹拌機、窒素(N2)入口ライン、温度プローブ、及び混合を助けるためのバッフルを備えた6ポート反応器ヘッドで密閉した。反応器にトルエン(82.5mL、27.5容積、THN-DIOLに対して0.15M)を入れ、残りのポートはゴム隔膜で封止した。反応混合物を撹拌し(オーバーヘッド、800rpm)、これによりオフホワイト色のわずかに不均一な溶液(微粒子状)を得た。反応混合物を、内部温度が-17.0℃に達するまで冷却した(ジャケットの温度は-20.0℃であった)。この時、炭酸セシウム水溶液(4.54mL、13.2mmol、1.0当量、50wt%の水溶液)を、隔壁を介してシリンジにより反応混合物に添加した(滴下、2分)。塩基を添加すると、反応混合物は淡黄色に変化した。この溶液を16時間撹拌した(ジャケットの温度は-20.0℃であった)。この後、撹拌を止め、混合物を温め(5℃)、黄色の反応混合物を分液漏斗(250mL)に移した。この溶液のアリコートをLC分析用に取り出した。水(30mL、10容積)を分離漏斗に加え、混合物を穏やかに振とうし、通気させた。二相性混合物を沈降させ(10分間)、相を分離した。両相のLC分析後、有機層をロータリーエバポレータで濃縮し、濃い黄色の油状物を得た。この粗反応混合物をシリカゲル上で自動カラムクロマトグラフィー(Biotage、340gカラム、ヘプタン勾配中の5~40%EtOAc、16カラム容量)で精製し、RがCOMeである化合物Y2をわずかに黄色のガラス状固体(0.930g、収率17.3%、54%ee)として得た。
【0055】
H NMR(500MHz,CDCl3)δ(ppm)=8.53(d,J=2.1Hz,1H),8.18(dd,J=2.2,8.7Hz,1H),7.51(d,J=8.3Hz,1H),7.16-7.10(m,3H),4.34-4.21(m,2H),4.01-3.96(m,1H),3.94(s,3H),3.90-3.82(m,1H),2.79(s,2H),2.38(br s,1H),2.03-1.92(m,2H),1.91-1.74(m,2H).13C NMR(126MHz,CDCl3)δ(ppm)=164.9,155.5,140.4,138.9,135.6,135.5,132.7,129.3,129.1,127.5,126.3,122.8,114.1,74.5,67.6,52.5,30.2.
【0056】
上記では化合物Y1は合成されなかったが、この化学反応は、この触媒を用いた不斉求核芳香族置換の進行を証明することが意図されていた。理論に束縛されることを意図しないが、不斉触媒11のエナンチオマーの使用は、化合物Y1を生成することができると考えられる。
【化39】
【0057】
Y1の合成
メチル(S)-4-((6-クロロ-1-(ヒドロキシメチル)-1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン-1-イル)メトキシ)-3-ニトロベンゾエート(化合物Y1、ここでRはCOMeである):バイアルに、N-[4-(トリフルオロメチル)ベンジル]シンコニウムブロミド(0.10当量、6.7mg)、[6-クロロ-1-(ヒドロキシメチル)テトラリン-1-イル]メタノール(THN-DIOL,1.0当量、23mg)、メチル4-フルオロ-3-ニトロベンゾエート(1.0当量、20mg、LgはFであり、Rはメチルである)及びCHCl(167μL)を投入した。バイアルを+1℃に冷却し、炭酸セシウム(50wt%溶液、1当量)を投入した。バイアルを16時間振とうし、1N HCl(50μL)でクエンチした。HPLC分析は、表題化合物(Y1)が32%の変換率、32%eeで形成されることを示した。
【0058】
実施例2-化合物Y、例えば、Y1の加水分解及び酸化
加水分解反応
【化40】
(S)-4-((6-クロロ-1-(ヒドロキシメチル)-1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン-1-イル)メトキシ)-3-ニトロ安息香酸(化合物Y1、ここでRはCOHである)100mL EasyMax反応器に、固形化合物Y1(ここではRはCOMeである)(2.00g、4.93mmol,1.0当量)及びTHF(20.0mL、10V)を投入した。反応器は、オーバーヘッド撹拌機、N入口、及び温度プローブを備えた6ポート反応器ヘッドで密閉した。水酸化ナトリウムの5N水溶液(4.93mL、24.6mmol、5.0当量)をシリンジにより徐々に加え、内部反応温度を22~25℃の間で維持した。反応混合物を22℃で23時間撹拌し、この時、6N HCl水溶液(5mL)を用いてpHをpH1に調節した。反応混合物を分液漏斗に移し、層を分離した。水層を2-MeTHF(15mL)で抽出し、続いて合わせた有機抽出物をHO(20mL)で洗浄し、MgSO上で乾燥させ、濾過し、真空中で濃縮した。残渣を少量のDCMに取り込み、濃縮して過剰な2-MeTHFを除去した。RがCOHである粗化合物Y1を白色固体として得た(1.72g、87%w/w、96%収率)。
【0059】
H NMR(500MHz,DMSO-d):δ 13.28(br s,1H),8.38(d,J=2.2Hz,1H),8.18(dd,J=2.2,8.8Hz,1H),7.62(d,J=8.4Hz,1H),7.51(d,J=9.0Hz,1H),7.20-7.19(m,1H),7.17(d,J=8.5Hz,1H),4.94(br s,1H),4.35(dd,J=9.5,27.5Hz,2H),3.67-3.64(m,2H),2.76(t,J=6.2Hz,2H),1.96-1.73(m,4H);13C NMR(126MHz,DMSO-d):δ 166.3,155.8,141.6,139.6,137.7,136.2,131.6,130.7,129.2,127.1,126.2,123.7,116.1,74.9,66.4,30.7,28.5,19.3.
【0060】
酸化反応
【化41】
(R)-4-((6-クロロ-1-ホルミル-1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン-1-イル)メトキシ)-3-ニトロ安息香酸:オーバーヘッド撹拌機、温度プローブ、及びN入口を備えた100mL EasyMax反応器に、化合物Y1(ここでRはCOHである)(1.85g、4.72mmol、1.00当量)及びDCM(9.25mL、5.0V)を投入した。このスラリーにN,N-ジイソプロピルエチルアミン(3.05mL、23.6mmol、5.0当量)を添加した。得られた透明な黄色溶液を0℃に冷却した。ジメチルスルホキシド(DMSO)(5.55mL、3.0V)をシリンジにより徐々に加え、続いてSO-ピリジン(1.88g、11.8mmol、2.50当量)を3回に分けて加えた。添加後、反応物を1時間かけて20℃に温め、20℃で2時間撹拌した。次に、反応物を0℃に冷却し、NaHSOの10%水溶液(15mL)の添加によりpH3まで酸性化した。混合物を分液漏斗に移し、層を分離した。水層をDCM(15mL)で抽出し、続いて合わせた有機抽出物をブラインで洗浄し、MgSO上で乾燥させ、濾過し、真空中で濃縮した。粗残渣を2.5Vの酢酸に取り込み、1.5VのHOを滴下して加えた。得られたスラリーを1時間エージングさせた後、濾過し、追加のHOで洗浄した。淡褐色の固形物が得られ、これは過剰なジイソプロピルエチルアミンで汚染されていた。固形物をHO(5mL)で再スラリー化し、2.5時間エージングさせ、濾過して追加のHOで洗浄した。RがCOHである化合物Y1を白色粉末として得た(1.18g、90.5%w/w、67%収率)。
【0061】
H NMR(500MHz,DMSO-d):δ 9.63(s,1H),8.30(d,J=2.1Hz,1H),8.12(dd,J=2.2,8.8Hz,1H),7.50(d,J=9.0Hz,1H),7.30(d,J=8.4Hz,1H),7.28-7.24(m,J=2.1Hz,1H),7.24-7.20(m,1H),4.73(d,J=9.6Hz,1H),4.44(d,J=9.6Hz,1H),2.74(t,J=6.2Hz,2H),2.16(ddd,J=3.2,9.2,13.1Hz,1H),1.96(ddd,J=3.0,8.4,13.8Hz,1H),1.86-1.77(m,1H),1.77-1.68(m,1H);13C NMR(126MHz,DMSO-d):δ 201.8,166.2,155.1,142.2,139.6,136.1,133.1,131.5,130.9,130.2,127.1,126.9,124.3,116.4,73.2,53.8,29.9,26.4,18.9.