(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-29
(45)【発行日】2025-02-06
(54)【発明の名称】人工芝構造体とその敷設方法、これを使用したグラウンド
(51)【国際特許分類】
E01C 13/08 20060101AFI20250130BHJP
【FI】
E01C13/08
(21)【出願番号】P 2024002922
(22)【出願日】2024-01-12
【審査請求日】2024-10-07
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】595015177
【氏名又は名称】MCCスポーツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000707
【氏名又は名称】弁理士法人市澤・川田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】橋川 輝一
(72)【発明者】
【氏名】中西 保彦
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 晋
(72)【発明者】
【氏名】石黒 俊哉
【審査官】松本 泰典
(56)【参考文献】
【文献】特開2023-109709(JP,A)
【文献】国際公開第2022/136633(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0279125(US,A1)
【文献】特開2019-090222(JP,A)
【文献】特開2003-034906(JP,A)
【文献】特開2010-159620(JP,A)
【文献】特表2021-533285(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01C 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
人工芝のパイル間に充填材が充填された人工芝構造体において、
前記充填材は木質材料を含有し、
この木質材料は木質ペレットを水に浸漬し解したものであり且つ全乾燥状態の嵩比重が0.2g/cm
3
以上であることを特徴とする人工芝構造体。
【請求項2】
木質ペレットはホワイトペレット又は全木ペレットであることを特徴とする請求項1に記載の人工芝構造体。
【請求項3】
前記木質材料の気孔率が80%以下である請求項1又は2に記載の人工芝構造体。
【請求項4】
前記木質材料の細孔容積が4.0cm
3/g以下である請求項1又は2に記載の人工芝構造体。
【請求項5】
前記木質材料の平均細孔径が1.0μm以下である請求項1又は2に記載の人工芝構造体。
【請求項6】
前記人工芝のパイルが捲縮パイルである請求項1又は2に記載の人工芝構造体。
【請求項7】
前記充填材が充填された部分である充填材層が少なくとも2層からなり、
充填材層の最上層の充填材が木質材料を含有し、
それよりも下層の充填材は珪砂を含有する請求項1又は2に記載の人工芝構造体。
【請求項8】
前記充填材が充填された部分である充填材層は、珪砂と木質材料を含有した充填材が混合して形成されてなる請求項1又は2に記載の人工芝構造体。
【請求項9】
前記人工芝が緩衝材層の上に設けられた請求項1又は2に記載の人工芝構造体。
【請求項10】
請求項1又は2に記載の人工芝構造体の敷設方法であって、
人工芝を敷設する工程と、
前記人工芝上に木質ペレットを散布する木質ペレット散布工程と、
散布した木質ペレットを人工芝のパイル間に埋没させる木質ペレット埋没工程と、
埋没させた木質ペレットに散水して水を吸水させる散水工程と、
前記水を吸水させた木質ペレットを解す木質ペレット解し工程と、
を有する人工芝構造体の敷設方法。
【請求項11】
請求項1又は2に記載の人工芝構造体の敷設方法であって、
人工芝を敷設する工程と、
木質ペレットを水に浸漬して水を吸水させる工程と、
前記水を吸水した木質ペレットを解す工程と、
解した木質ペレットを人工芝のパイル間に充填する工程と、
を有する人工芝構造体の敷設方法。
【請求項12】
請求項1又は2に記載の人工芝構造体を使用して構成された球技用グラウンド。
【請求項13】
請求項1又は2に記載の人工芝構造体を使用して構成されたティーグラウンド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サッカーや野球などの球技場やスポーツ競技場、その他の施設のグラウンドに敷設して運動競技に適したフィールドを構成する人工芝構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
人工芝を敷き詰めたグラウンドは、天然芝のフィールドよりも施工及びメンテナンス性が容易で、天候に関わらず使用が可能なことから、フットサル場や野球場の外野フィールドなど各種の球技フィールドに取り入れられている。
【0003】
人工芝の球技フィールドは、その上で運動競技をする競技者が走ったり転んだり或いはスライディングしたりしたときに、競技者にかかる衝撃を弱めたり摩擦抵抗を低減させたりするために、人工芝のパイル内に弾性材からなる粒状の充填材や珪砂など充填して構成されている。
現状、人工芝のパイル内に充填する充填材として、廃タイヤなどの廃ゴム製品の粉砕物や、SBR(スチレンブタジエンゴム)、EPDM(エチレンプロピレンジエンゴム)製のゴムチップが広く用いられている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近時、海洋プラスチック問題やマイクロプラスチック問題がクローズアップされ、環境保護の観点から様々な事業分野でプラスチック製品の使用を控え、これに代わる自然素材の製品の使用が検討されている。人工芝においては、前記ゴム製の充填材を自然素材の充填材に切り替えることが検討されており、例えばヤシ殻やヤシ繊維、コルクなどの樹木を裁断し樹皮の組織を剥離して形成された材料を混合して前記充填材に使用することが試みられている。
【0006】
しかしながら、前記樹木からなる充填材は人工芝にクッション性を付与することができるものの、降雨量が多くて人工芝内に水が滞留したときに、充填材が人工芝のパイルの隙間から浮いて人工芝が敷かれたフィールドの外側に流出してしまうことがあった。
【0007】
充填材が流出すると人工芝はクッション性がなくなって、その上で競技する競技者のパフォーマンスを低下させるととともに怪我を誘発しやすくなる。また、フィールドの外側に流出した充填材は施設の排水流路を詰まらせる要因となり、競技場のトラックやコート上に流れ着くと競技の邪魔になることから、流出した充填材を直ちに回収する必要がある。人工芝の充填材に自然素材のものを使用することの検討はされてはいるものの、前記ゴム製の充填材に代わる適当な代替品は使用されていないのが実状である。
【0008】
本発明は従来の技術が有するこのような問題に鑑み、自然素材からなり、水に浮きにくい充填材を使用して人工芝構造体を構成することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、本発明は以下の態様を含む。
〔1〕 人工芝のパイル間に充填材が充填された人工芝構造体において、
前記充填材は木質材料を含有し、
前記木質材料の全乾燥状態の嵩比重が0.2g/cm3以上であることを特徴とする人工芝構造体。
〔2〕 前記木質材料の気孔率が80%以下である前記〔1〕に記載の人工芝構造体。
〔3〕 前記木質材料の細孔容積が4.0cm3/g以下である前記〔1〕又は〔2〕に記載の人工芝構造体。
〔4〕 前記木質材料の平均細孔径が1.0μm以下である前記〔1〕から〔3〕の何れかに記載の人工芝構造体。
〔5〕 前記木質材料が木質ペレットを水に浸漬し解したものである前記〔1〕から〔4〕の何れかに記載の人工芝構造体。
〔6〕 前記人工芝のパイルが捲縮パイルである前記〔1〕から〔5〕の何れかに記載の人工芝構造体。
〔7〕 前記充填材が充填された部分である充填材層が少なくとも2層からなり、
充填材層の最上層の充填材が木質材料を含有し、
それよりも下層の充填材は珪砂を含有する前記〔1〕から〔6〕の何れかに記載の人工芝構造体。
〔8〕 前記充填材が充填された部分である充填材層は、珪砂と木質材料を含有した充填材が混合して形成されてなる前記〔1〕から〔6〕の何れかに記載の人工芝構造体。
〔9〕 前記人工芝が緩衝材層の上に設けられた前記〔1〕から〔8〕の何れかに記載の人工芝構造体。
〔10〕 人工芝を敷設する工程と、
前記人工芝上に木質ペレットを散布する木質ペレット散布工程と、
散布した木質ペレットを人工芝のパイル間に埋没させる木質ペレット埋没工程と、
埋没させた木質ペレットに散水して水を吸水させる散水工程と、
前記水を吸水させた木質ペレットを解す木質ペレット解し工程と、
を有する人工芝構造体の敷設方法。
〔11〕 人工芝を敷設する工程と、
木質ペレットを水に浸漬して水を吸水させる工程と、
前記水を吸水した木質ペレットを解す工程と、
解した木質ペレットを人工芝のパイル間に充填する工程と、
を有する人工芝構造体の敷設方法。
〔12〕 前記〔1〕から〔9〕の何れかに記載の人工芝構造体を使用して構成された球技用グラウンド。
〔13〕 前記〔1〕から〔9〕の何れかに記載の人工芝構造体を使用して構成されたティーグラウンド。
【0010】
前述のとおり、木材やその樹皮を細かく裁断した木材チップは、これを充填材として用いれば人工芝に適度なクッション性を付与できるが水に浮いて流出しやすいという問題がある。
一般的に樹種によらず空隙を除いた木材の真比重は約1.5であることが知られている。この比重の木材が水に浮くのは、木材内の仮道管に溜まった気泡による浮力が働くことに加え、木材中に含まれるは疎水性物質であるリグニンが水の吸収を妨げるように作用しているからだと推察される。
【0011】
浮力が働かないようにするには、木材の中に空気が溜らないように木材を圧縮してその繊維を潰し、空気が木材中に保持されにくく加工することが挙げられ、また、嵩比重が1.0より小さくても親水性を備えれば、水を吸水することで浮力がなくなるようにすることができる。後述の実施例で示すように、木材チップを圧縮してその嵩比重を増すことで木材チップの吸水性が増し、木材チップを水中に沈殿させることができることを確認した。これは木材チップを圧縮加工する過程で、前記木材中のリグニンが圧縮時に接着剤として作用して消費されて減少し、これにより木材チップの親水性が増したことに加え、木材内部をつぶすことで気孔率が小さくなり、細孔径が小さくなることによる毛管現象の効果によるものと推察される。
【0012】
前記のとおり本発明の人工芝構造体は、人工芝のパイル間に充填材が充填されており、この充填材は圧縮加工がされた木質材料を含有し、木質材料の全乾燥状態の嵩比重が0.2g/cm3以上であることを特徴とする。
充填材は自然素材からなる木質材料、例えば木材やその樹皮を細かく裁断した木材チップからなり、これを圧縮加工して木材チップの繊維を潰すことで、圧縮した状態から解いて展開した木材チップはその嵩比重が圧縮前のものよりも増し、且つ吸水性が高まるため、降雨により人工芝に水が滞留しても浮き上がらずに水中に沈殿して人工芝内に留まり、人工芝が敷かれたフィールドの外側に流出することはなく、また、従来利用されている自然素材の充填材と同等のクッション性を発揮することができる。前記充填材は、木質材料の他に、珪砂など粒状物やその他の材料が含まれていてもよい。
また、前記木質材料からなる充填材は、その表面が茶色や暖色系、或いは白色系であり、黒色のゴムチップよりも熱を吸収しにくく、晴天時の人工芝の表面温度の上昇を抑制し、また、多孔質なため水を含みやすいことから、人工芝に散水して充填材を吸水せしめて水を貯えさせることで、日中の人工芝の表面温度の上昇を抑制することも可能である。
【0013】
前記構成の人工芝構造体は、充填材を構成する木質材料の気孔率が80%以下であることが好ましい。気孔率が80%以下の木質材料であれば、材料内に空気が保持されにくくなり、水に浮きにくくすることができる。
【0014】
木質材料の細孔容積が4.0cm3/g以下であることが好ましい。細孔容積が4.0cm3/g以下の木質材料であれば、材料中の仮道管が十分に潰れて空気が保持されにくくなり、水に浮きにくくすることができる。
【0015】
また、木質材料の平均細孔径が1.0μm以下であることが好ましい。平均細孔径が1.0μm以下の木質材料であれば、前記と同様に材料内に空気が保持されにくくなることに加えて、細孔径が小さいことで毛管現象の効果により材料内部に水を浸透させやすくなって吸水性が増し、水に浮きにくくすることができる。
【0016】
前記構成の人工芝構造体において、充填材を構成する木質材料が木質ペレットを水に浸漬し解したものを使用することができる。
木材チップを乾燥させ破砕し、その後、粒状の塊に圧縮成型した木質ペレとは、前記のとおり木材チップの繊維が潰された態様のものであり、これに水を浸漬させるとその体積は2倍から5倍近くに膨張する。この膨張した状態から解して広げることで、圧縮前よりも嵩比重が増した木材チップを得ることができ、これを充填材として利用することができる。
木質ペレットは、ホワイトペレットや全木ペレットなどいずれのものも前記木質材料として用いることができる。
【0017】
前記構成の人工芝構造体において、人工芝のパイルは捲縮パイルを用いることができる。捲縮させたパイルであっても天然芝のような風合いを醸し出すことができ、パイルに適度な柔軟性が付与されて人工芝表面のクッション性を良好にすることができる。
また、人工芝のパイルの中に充填材を充填した態様では、捲縮パイルは縮れたパイルによって充填材が覆われるので、直毛パイルと比較して降雨時に雨滴によって叩き出される充填材が少なくなり、さらに、捲縮パイルによって充填材が押さえつけられるので、強風のときや人工芝上で球技をしたときのボールのバウンドによる衝撃を受けたときでも充填材が飛散しにくくなり、降雨量が多いときの充填材の流出を抑制することができる。
また、捲縮パイルの採用は、充填材に日射が直接届きづらくなって、充填材の温度上昇が抑えられ、芝表面が光を分散させ照り返しを低減することで、プレイヤーや観戦者の目に優しいという効果もある。
捲縮パイルは、グリーンやダークグリーンのポリエチレン製の捲縮加工モノフィラメントなどの適宜な素材・仕様のものを用いることができ、パイルを捲縮させる加工方法も、座屈加工や仮撚加工、ニット・デニット加工などの適宜な方法を採用することができる。
【0018】
前記構成の人工芝構造体において、人工芝のパイル中に充填材が充填された部分である充填材層を形成し、この充填材層が少なくとも2層からなり、 充填材層の最上層の充填材が前記木質材料を含有し、それよりも下層の充填材は珪砂を含有するように設けることができる。
前記充填材層に含まれる珪砂は、ある程度の重量があるため、これを下層に配することで人工芝の捲れなどの移動を防ぎ、また、人工芝基布への熱を遮断するとともに、無機質なので虫などが湧きにくくすることができる。その上層に木質材料を含む充填材を配することで上層が緩衝層となって人工芝にクッション性が付与されて、人工芝上で競技をする者にかかる膝や腰など体への負担を軽減せしめ、擦過傷を防いで競技者のパフォーマンスを向上させることができる。上層に木質材料を含む充填材を配することで、人工芝の外観と性能が向上し、人工芝を保護し耐久性を上げることができる。後述のように、木質ペレットからなる充填材は、保湿性能があって暑さ対策(気化熱の発生)に有効であり、前記競技者や人工芝上で遊戯をしたり野外活動をしたりする大人や子供に快適な活動環境を提供することができる。
前記人工芝のパイル中に形成される充填材層は、3層以上で構成されていてもよい。この場合、最上層の充填材は、前記木質材料を含有する充填材を配することが好ましい。また、珪砂と前記木質材料を含有する充填材を混合し、この混合した充填材層を前記人工芝のパイル中に1層又は多層に積層して形成してもよい。
人工芝のパイルの長さやパイル中に形成する充填材層の厚さは、人工芝のフィールドを使用して行われる球技の種類やその球技で規定されている人工芝の構成基準、その他人工芝の使用用途などに応じて適宜に設定することができる。
【0019】
また、前記構成の人工芝構造体において、人工芝を緩衝材層の上に設けた構造とすることができる。
これによれば、フィールドの基礎の上に弾性材料からなる緩衝材を敷設して緩衝材層を設け、その上に人工芝のパイルが植設された基布を敷き詰め、前記パイル中に木質材料を含む充填材を充填することで人工芝のフィールドを形成することができる。緩衝材を形成する弾性材料やその厚みなどを適宜に選択することで人工芝表面のクッション性を適宜に設定することができ、人工芝構造体を使用して構成される球技用グラウンドであればその球技の規則に規定された仕様、例えばサッカー場であればJFAやFIFAの基準に対応したものとすることができる。人工芝の使用用途に応じて、緩衝材層を設けずに人工芝が構成されていてもよい。
【0020】
また、前記構成の人工芝構造体の敷設は、その一態様の方法として、人工芝を敷設する工程と、人工芝上に木質ペレットを散布する木質ペレット散布工程と、散布した木質ペレットを人工芝のパイル間に埋没させる木質ペレット埋没工程と、埋没させた木質ペレットに散水して水を吸水させる散水工程と、前記水を吸水させた木質ペレットを解す木質ペレット解し工程との各工程をとおして行うことができる。
前記人工芝構造体の敷設方法は、先ず、前記のようにフィールドの基礎の上に緩衝材を敷設して緩衝材層を形成し、この緩衝材層の上に人工芝のパイルが植設された基布を敷き詰めて人工芝の敷設を行う。人工芝の使用用途に応じて、基礎の上直に人工芝のパイルが植設された基布を敷き詰めて人工芝の敷設がされてもよい。
次いで、人工芝の上面に均等に木質ペットを散布してパイル間に埋没させる。木質ペットの散布は、例えば人工芝に砂を撒くときに使用するトップドレッサーを用いて行うことができる。木質ペレットを散布する前に人工芝に適宜な量の珪砂を撒くことは必要に応じて行われる。
木質ペットをパイル間に埋没させたならば、人工芝の表面に水を放水して木質ペットに十分な量の水を吸水させる。
木質ペットが水の浸漬により膨張したならば、これを解して広げ、人工芝のパイルに絡ませて人工芝内に没入させる。膨張した木質ペットを解す操作は、例えばパイルを立たせるときに使用するターフチューナーを用いて行うことができる。
そして、必要に応じて充填材の掘り起こし、レベルの調整などをして人工芝構造体の敷設が完了する。
【0021】
また、人工芝構造体を敷設する他の態様として、人工芝を敷設する工程と、木質ペレットを水に浸漬して水を吸水させる工程と、前記水を吸水した木質ペレットを解す工程と、解した木質ペレットを人工芝のパイル間に充填する工程との各工程を有する方法により行うことができる。
前記構成の人工芝構造体を敷設する方法は、上記の態様のものには限定されず、人工芝を敷設する場所や環境、敷設面積などに応じて適宜な方法により敷設することができる。敷設した人工芝の保守の方法も適宜な方法を採用可能である。
【0022】
前記構成の人口芝構造体は、野球やサッカー、フットサル、ラグビー、テニス、ホッケーなど、様々な球技用グラウンドに適用して人工芝のフィールドを構成することが可能である。その他、ゴルフのティーグラウンドや教育施設やリクレーション施設のグラウンド(庭)やグラススキー場などにも適用可能である。なお、本明細書ではグラウンドやフィールド、コート、ピッチの各名称は人工芝を敷設する場所として同じ意味で用いる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の人工芝構造体の一実施形態の一部を破断した外観図である。
【
図2】(A)から(E)は各々実施例1、実施例2、比較例1、比較例2及び比較例3の充填材の流出評価の試験結果を示した図である。
【
図3】実施例と比較例の充填材の乾燥状態の温度抑制効果を確認する試験結果を示したグラフであある。
【
図4】実施例と比較例の充填材の湿潤状態の温度抑制効果を確認する試験結果を示したグラフであある。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明をその好適な実施形態に基づいて詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施形態のものに限定されない。実施形態は例示であり、本発明の主旨を損なわない範囲で適宜に変更して実施可能である。
【0025】
図1は本発明の一実施形態の人工芝構造体を示している。
図示した人工芝構造体1は、フィールドの基礎(図示せず)の上に弾性材料からなる緩衝材2を敷設し、この緩衝材2の上に人工芝のパイル4が植設された基布3を敷き詰め、前記パイル4内に木質材料からなる充填材5を充填して構成されている。
【0026】
前記木質材料からなる充填材5は、木材チップにその繊維を潰すために圧縮加工を施し、その後圧縮状態から展開することで嵩比重を増したものであり、全乾燥状態の嵩比重が0.2g/cm3以上のものが用いられる。
【0027】
充填材5を構成する木質材料として木質ペレットを用いることができ、その場合、前記人工芝構造体1の敷設は一例として以下のようにして行うことができる。
すなわち、先ず、前記フィールドの基礎上に緩衝材2を敷設し、その上にパイル4が植設された基布3を敷き詰めて人工芝を敷設した後、人工芝のパイル4上に木質ペレットを散布してこれをパイル4間に埋没させ、次いで、埋没させた木質ペレットに散水して水を吸収させて木質ペレットを膨張させ、その後、膨張した木質ペレットを解して展開し、これをパイル4に絡ませて人工芝全体のレベルを調整するなどの工程を経て人工芝構造体1を敷設することができる。
【0028】
本形態の人工芝構造体1によれば、充填材3が圧縮加工された木材チップからなるものであって、その全乾燥状態の嵩比重が0.2g/cm3以上のものであるので、圧縮前の木材チップよりも嵩比重が増し、且つ吸水性が高まるため、降雨により人工芝に水が滞留しても浮き上がらずに水中に沈殿して人工芝内に留まり、人工芝が敷かれたフィールドの外側に流出することはなく、また、従来利用されている自然素材の充填材と同等のクッション性を発揮することが可能である。
木質材料からなる充填材5は、その表面が茶色や暖色系などの色合いのため日差しの照射による熱を吸収しにくく、晴天時の人工芝の表面温度の上昇を抑制することが可能である。また、前記充填材5は、多孔質なため水を含みやすく、人工芝に散水して充填材5に水を貯えさせることで、日中の人工芝の表面温度の上昇を抑制することも可能である。
【実施例】
【0029】
人工芝構造体1を構成する木質材料からなる充填材5について、自然素材からなる材料別に以下のとおり評価を行った。
【0030】
(実施例1)
充填材を構成する木質材料として、木質ペレットであるホワイトペレット(ソローのペレット;株式会社カタログハウス製)を用いた。
ホワイトペレット8gを容器に入れ、その中に全体が浸るように水を注入した。水を注入してから2分経過後、ホワイトペレットは水を吸水して注水前よりも体積が約4.6倍膨張した。吸水飽和時の重量は34gであった。
この膨張したホワイトペレットを乾燥させ、これを充填材として用いる場合の評価を行った。
【0031】
(実施例2)
充填材を構成する木質材料として、木質ペレットである全木ペレット(ピュア1号;上伊那森林組合製)を用いた。
全木ペレット6gを容器に入れ、その中に全体が浸るように水を注入した。水を注入してから4分経過後、ホワイトペレットは水を吸水して注水前よりも体積が約2.6倍膨張した。吸水飽和時の重量は26gであった。
この膨張した全木ペレットを乾燥させ、これを充填材として用いる場合の評価を行った。
【0032】
(比較例1)
木質材料として、杉おが粉(杉生おが粉;竹島屋材木店製)を充填材として用いる場合の評価を行った。
【0033】
(比較例2)
木質材料として、天然やしやココナッツからなる天然充填材(株式会社RISECORPORATION製)を充填材として用いる場合の評価を行った。
【0034】
(比較例3)
木質材料として、木質ペレットに加工される前のホワイトペレットの原料(株式会社カタログハウス製)を充填材として用いる場合の評価を行った。
【0035】
〔嵩比重の測定〕
各実施例と比較例の充填材の全乾状態(恒温器に入れて103±2℃で4時間乾燥)と気乾状態の傘密度を測定した。結果を表1に示す。
【0036】
〔材料内部の空隙の測定〕
実施例1と比較例1、2の充填材について、自動水銀ポロシメータ細孔分布測定装置(AutoporeIV9520;島津サイエンス東日本株式会社製)を用いて、平均細孔径、細孔容積、気孔率をそれぞれ測定した。結果を表1に示す。
【0037】
〔輝度の測定〕
実施例1,2と比較例2,3の充填材について、色彩輝度計(CS―160;コニカミノルタ株式会社製)用いて、輝度を測定した。測定は室内同一環境下において測定対象物をファインダーで捉えて行い、表示された輝度の数値を記録した。結果を表1に示す。
【0038】
〔流出評価〕
各実施例と比較例の充填材の流出評価を行った。
評価は、ビーカーに50mLの充填材を入れ、その中に水を100mL入れ、充填材が水に浮かぶかどうかを確認した。各実施例と比較例の充填材のビーカーに水を入れた後の様子を
図2に示す。
同図に示されるように、実施例1と実施例2の充填材は、ともに大半がビーカーの底に沈んだままだった。その結果を表1には「〇」で付してある。
一方、比較例1の充填材と比較例3の原料は大半が浮き、比較例2の充填材は略全てが浮いた。その結果を表1には「×」で付してある。
【0039】
〔温度抑制効果1〕
実施例1、2と比較例2の充填材について、ソーラーパワーメーター(SPM-SD;株式会社佐藤商事製)と、サーモグラフィカメラ(E6-XT;フリアーシステムズ社製)を用いて、乾燥した充填材の温度抑制効果を確認した。
確認は、乾燥状態の充填材を140cm
3の容器内に一杯に敷き詰め、夏季の晴天下でサーモグラフィカメラによる充填材の表面温度の測定とソーラーパワーメーターによる日射強度の測定を同時に実施して行った。
結果を
図3に示す。同図中のグラフにおいて、横軸は日射強度、縦軸は充填材の表面温度を示している。また、日射強度715W/m
2での充填材表面の到達温度を表1に示す。
【0040】
〔温度抑制効果2〕
実施例1、2と比較例2の充填材について、前記のサーモグラフィカメラと電子天秤(FX-500i;株式会社エー・アンド・デイ製)を用いて、湿潤した充填材の温度抑制効果を確認した。
確認は、乾燥状態の充填材を140cm
3の容器内に一杯に敷き詰め、この容器内に降水量6mmに相当する水を注いだ後、夏季の晴天下での容器内の充填材の重量とサーモグラフィカメラによる充填材の表面温度の経時変化を測定して行った。
結果を
図4に示す。同図中のグラフにおいて、横軸は測定した時刻、縦軸は充填材の当初の湿潤状態(100%)からの重量の変化の割合と充填材の表面温度を示している。また、充填材表面の最高到達温度を表1に示す。
【0041】
【0042】
流出評価の試験結果から明らかなように、自然素材の充填材のうち、実施例1、2は水に浮かず、比較例1から3の充填材と材料は水に浮くことが確認された。
比較例2の充填材は一般的な自然素材の充填材であり、人工芝に水が溜ったときに人工芝ピッチの外側に流出してしまうという問題を抱えているものである。実施例1と実施例2の充填材はその殆どが水に浮かず、水中に沈殿したままであり、比較例2の充填材のような流出の虞はない。
実施例1、2の充填材はともに木質ペレットからなり、木材チップをペレットに圧縮する過程で木材の繊維が潰れて嵩比重が増し、且つ内部に空気が保持されにくくなったものであり、このことは、圧縮されていない自然素材の充填材である比較例2のものと両実施例のものとの平均細孔径、細孔容積、気孔率の比較からも明らかである。実施例1、2の充填材の各値は、比較例2の充填材の各値よりも極めて小さく、充填材に空気が保持されにくくなっていることの証左であるといえる。また、実施例1、2の充填材の嵩比重が1.0よりも小さいのに水に浮かないのは、前記木材チップをペレットに圧縮することで木材チップが変質して親水性が向上することに加え、木材内部をつぶすことで気孔率が下がり、細孔径を小さくすることによる毛管現象の効果により水を吸収することで浮力が働かず、水没した状態が維持されるようになったと推察される。
【0043】
前記実施例と比較例の充填材の輝度(cd/m
2)は、実施例1が157.1、実施例2が121.0、比較例1が118.3、比較例2が30.5、比較例3が169.5であり、両実施例の充填材の方が比較例2の充填材よりも輝度が大きい分、日射を受けたときの熱吸収度合いが小さく、人工芝表面の日中の温度上昇を抑制する効果があると考えられる。
また、前記温度抑制効果1では、乾燥した充填材の日射を受けたときの温表面温度の上昇度合いを確認した。日射強度が715(W/m
2)のときの充填材の表面温度(℃)は実施例1が64、実施例2が70、比較例2が77であり、
図3に示されるように、各充填材は何れも自然素材の充填材であるため日射強度に対する温度上昇率に差はみられなかった。一般的な自然素材の充填材である比較例2よりも、実施例1と実施例2の充填材の方が、日射強度が大きくなっても温度の上昇が小さく抑えられることが確認された。
さらに、前記温度抑制効果2では、湿潤した充填材の日射を受けたときの温表面温度の上昇度合いを確認した。
図4に示されるように、100%濡れた充填材が日射を受けて湿潤率が小さくなる割合は、実施例1と実施例2、比較例2の充填材で大きな差はなかった。どの充填材の表面温度(℃)も日射量が最大となる午後2時頃に付近で最高となるが、比較例2の充填材は55に到達したのに対し、実施例1と実施例2の充填材はともに46であり、10℃近くの温度差となることが確認された。実施例1と実施例2の充填材を利用した人工芝では、日中の人工芝表面の温度上昇を抑制するのには、予め人工芝表面に散水して、充填材に水を含ませておくことが有効であると考えられる。
【0044】
以上の評価結果から、実施例1と実施例2の充填材は、水に浮きにくく、これを人工芝のパイルに含ませて人工芝のフィールドを構成すれば、降雨により人工芝に水が滞留しても浮き上がらずに人工芝内に留まり、フィールドの外側に流出することを防ぐことが可能であり、また、日射を受けたときの温度抑制効果を有するので日中の人工芝の表面温度の上昇を抑制することも可能であり、従来の人工芝で使われていた一般的な自然素材の充填材に代わる充填材として極めて有用であるといえる。
【0045】
前記説明し図示した人工芝構造体の構成及び形態は一例であり、本発明は説明し図示した構成や形態のものに限定されず、他の適宜な構成や形態のものとすることが可能である。
【符号の説明】
【0046】
1 人工芝構造体、2 緩衝材、3 基布、4 パイル、5 充填材
【要約】
【課題】自然素材からなり、水に浮きにくい充填材を使用して人工芝構造体を構成する。
【解決手段】人工芝のパイル4間に充填材5が充填された人工芝構造体1にであって、前記充填材5は木質材料を含有し、この木質材料の全乾燥状態の嵩比重が0.2g/cm
3以上であることを特徴とする。嵩比重の数値が前記設定の木質材料は材料自体を一旦圧縮加工することにより形成され、圧縮により木質材料内の気孔率を下げ、空気層を減らすことで水に浮きにくくなる。
【選択図】
図1