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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-29
(45)【発行日】2025-02-06
(54)【発明の名称】ホイール式車両の走行装置
(51)【国際特許分類】
   B60K 7/00 20060101AFI20250130BHJP
   B60B 35/14 20060101ALI20250130BHJP
   B60B 35/16 20060101ALI20250130BHJP
   F16D 1/02 20060101ALI20250130BHJP
【FI】
B60K7/00
B60B35/14 V
B60B35/16 B
F16D1/02 110
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2024512269
(86)(22)【出願日】2023-03-23
(86)【国際出願番号】 JP2023011515
(87)【国際公開番号】W WO2023190036
(87)【国際公開日】2023-10-05
【審査請求日】2024-03-04
(31)【優先権主張番号】P 2022054915
(32)【優先日】2022-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002457
【氏名又は名称】弁理士法人広和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩淵 雄太郎
(72)【発明者】
【氏名】萩原 信一郎
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 貴宏
(72)【発明者】
【氏名】近藤 彰紀
(72)【発明者】
【氏名】川田 理央
(72)【発明者】
【氏名】宮原 瑶子
【審査官】上谷 公治
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-002419(JP,A)
【文献】特開平04-298647(JP,A)
【文献】特開2007-002919(JP,A)
【文献】実開昭52-168143(JP,U)
【文献】実開昭55-181025(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 7/00
B60B 35/14
B60B 35/16
F16D 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホイール式車両の車体に設けられ、車輪が取付けられる車輪取付筒を回転可能に支持する筒状のスピンドルと、
前記スピンドルに取付けられた電動モータと、
前記電動モータから突出し前記電動モータの回転を出力するモータ軸と、
前記スピンドルの内周側を軸方向に伸長して設けられ前記モータ軸の回転が伝達される回転軸と、
前記回転軸の回転を減速して前記車輪取付筒に伝達する減速機構と、
前記減速機構に潤滑油を供給するための潤滑油循環回路と、
前記モータ軸と前記回転軸との間を結合するカップリングとを備えてなるホイール式車両の走行装置において、
前記潤滑油循環回路から前記減速機構に供給される潤滑油の一部を分流させて、前記カップリングの内部を通って前記モータ軸と前記カップリングとの結合部に供給する結合部潤滑回路を有し
前記モータ軸は、外周に設けられたモータ軸スプライン部を有し、
前記回転軸は、外周に設けられた回転軸スプライン部を有し、
前記カップリングは、軸方向の一側に配置され前記モータ軸スプライン部にスプライン結合されるモータ軸側穴スプライン部と、軸方向の他側に配置され前記回転軸スプライン部にスプライン結合される回転軸側穴スプライン部とを有し、
前記結合部潤滑回路は、前記カップリングの軸方向の中間部に設けられ、前記カップリングの外周から前記モータ軸側穴スプライン部と前記回転軸側穴スプライン部とに潤滑油を供給する潤滑油通路を有し、
前記モータ軸の突出端には、前記カップリングを前記モータ軸に対して位置決めする位置決め部材が着脱可能に設けられ、
前記位置決め部材には、前記モータ軸側穴スプライン部の歯先円に嵌合することにより前記カップリングを前記モータ軸の径方向に位置決めする嵌合部と、前記潤滑油通路に供給された潤滑油を前記モータ軸側穴スプライン部および前記回転軸側穴スプライン部に導く前記結合部潤滑回路をなす油路部とが設けられていることを特徴とするホイール式車両の走行装置。
【請求項2】
前記電動モータには、前記カップリングの外周面に摺動可能に嵌合する嵌合部が形成された円筒状のカップリングハウジングが設けられ、
前記結合部潤滑回路は、前記カップリングハウジングに設けられ、一端が前記潤滑油循環回路に接続され、かつ他端が前記カップリングの前記潤滑油通路に連通する供給油路と、前記供給油路を通じて前記モータ軸側穴スプライン部と前記回転軸側穴スプライン部とに供給された潤滑油を前記カップリングハウジングの外部に排出する排出油路と、を有することを特徴とする請求項に記載のホイール式車両の走行装置。
【請求項3】
前記モータ軸スプライン部の歯先と前記モータ軸側穴スプライン部の歯底との間には、前記潤滑油通路に供給された潤滑油を前記モータ軸スプライン部と前記モータ軸側穴スプライン部とのスプライン結合部に供給する前記結合部潤滑回路をなす隙間が形成され、
前記モータ軸側穴スプライン部の内周側には、前記モータ軸の突出端と前記位置決め部材との間に挟込まれることにより前記モータ軸に対して前記カップリングを軸方向に位置決めする穴用止め輪が設けられ、
前記穴用止め輪の外径寸法は、前記モータ軸スプライン部の歯先円径よりも小さく設定されていることを特徴とする請求項に記載のホイール式車両の走行装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、例えばダンプトラック等の車輪を有するホイール式車両に好適に用いられる走行装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ホイール式車両、例えばダンプトラックに設けられる走行装置は、車体に設けられ、車輪が取付けられるリムを回転可能に支持する筒状のスピンドルと、前記スピンドルに取付けられた電動モータと、前記電動モータの回転を出力するモータ軸と、前記スピンドルの内周側を軸方向に伸長して設けられ前記モータ軸の回転が伝達される回転軸と、前記回転軸の回転を減速して前記リムに伝達する減速機構と、前記モータ軸と前記回転軸との間を結合するカップリングとを備えている。
【0003】
回転軸の軸方向の長さ寸法は大きく、ダンプトラックは車重が大きいため、回転軸は、モータ軸の回転を減速機構に伝達するときに撓みによる芯ずれを生じる。このような回転軸の芯ずれを許容するため、回転軸とモータ軸との間にはカップリングが設けられ、回転軸とカップリングとの間、およびモータ軸とカップリングとの間は、それぞれスプライン結合されている。
【0004】
スプライン結合によって結合された2つの軸のスプライン結合部は、通常、潤滑剤によって潤滑されている。例えば特許文献1には、モータ回転軸と減速機入力軸とがスプライン結合によって結合され、このスプライン結合部に充填された潤滑剤を、Oリング等のシール材によって封止する走行装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-97771号公報
【発明の概要】
【0006】
しかし、特許文献1による走行装置は、モータ回転軸と減速機入力軸とのスプライン結合部に充填された潤滑剤をシール材を用いて封止しているため、潤滑剤が劣化して潤滑性能が低下するという問題がある。また、スプライン結合部に残留した摩耗粉によって摩耗が促進されるのを抑えるため、潤滑剤を定期的に交換する作業(給脂作業)が必要になるという問題がある。
【0007】
一方、2つの軸の結合にキーを用いることにより、結合部への潤滑を不要とすることが考えられる。しかし、キーを用いて2つの軸を結合する場合には、キーの嵌め合いによって精度を確保するため、スプライン結合に比較して、2つの軸を分解、組立てするときの作業性が悪く、かつ結合される2つの軸の軸径(直径)が大きくなるという問題がある。
【0008】
本発明の目的は、モータ軸とカップリングとの結合部を適正に潤滑することができるようにしたホイール式車両の走行装置を提供することにある。
【0009】
本発明は、ホイール式車両の車体に設けられ、車輪が取付けられる車輪取付筒を回転可能に支持する筒状のスピンドルと、前記スピンドルに取付けられた電動モータと、前記電動モータから突出し前記電動モータの回転を出力するモータ軸と、前記スピンドルの内周側を軸方向に伸長して設けられ前記モータ軸の回転が伝達される回転軸と、前記回転軸の回転を減速して前記車輪取付筒に伝達する減速機構と、前記減速機構に潤滑油を供給するための潤滑油循環回路と、前記モータ軸と前記回転軸との間を結合するカップリングとを備えてなるホイール式車両の走行装置において、前記潤滑油循環回路から前記減速機構に供給される潤滑油の一部を分流させて、前記カップリングの内部を通って前記モータ軸と前記カップリングとの結合部に供給する結合部潤滑回路を有し、前記モータ軸は、外周に設けられたモータ軸スプライン部を有し、前記回転軸は、外周に設けられた回転軸スプライン部を有し、前記カップリングは、軸方向の一側に配置され前記モータ軸スプライン部にスプライン結合されるモータ軸側穴スプライン部と、軸方向の他側に配置され前記回転軸スプライン部にスプライン結合される回転軸側穴スプライン部とを有し、前記結合部潤滑回路は、前記カップリングの軸方向の中間部に設けられ、前記カップリングの外周から前記モータ軸側穴スプライン部と前記回転軸側穴スプライン部とに潤滑油を供給する潤滑油通路を有し、前記モータ軸の突出端には、前記カップリングを前記モータ軸に対して位置決めする位置決め部材が着脱可能に設けられ、前記位置決め部材には、前記モータ軸側穴スプライン部の歯先円に嵌合することにより前記カップリングを前記モータ軸の径方向に位置決めする嵌合部と、前記潤滑油通路に供給された潤滑油を前記モータ軸側穴スプライン部および前記回転軸側穴スプライン部に導く前記結合部潤滑回路をなす油路部とが設けられていることを特徴としている。
【0010】
本発明によれば、潤滑油循環回路を流れる潤滑油の一部を、結合部潤滑回路を通じてモータ軸とカップリングとの結合部に供給することができ、モータ軸とカップリングとを適正に潤滑することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態による走行装置が適用されたダンプトラックを示す左側面図である。
図2】ダンプトラックを後方からみた背面図である。
図3】後輪側の走行装置を図1中の矢示III-III方向から見た断面図である。
図4図3中のモータ軸、回転軸、カップリング、カップリングハウジング等を示す拡大図である。
図5】カップリング、潤滑油通路、カップリングハウジング、供給油路、排出油路等の要部を示す要部拡大図である。
図6】カップリングを単体で示す断面図である。
図7】モータ軸とカップリングとのスプライン結合部を図5の矢示VII-VII方向から見た断面図である。
図8】モータ軸、回転軸、カップリング、カップリングハウジング、ストッパ等を分解した状態で示す分解図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態によるホイール式車両の走行装置を、後輪駆動式のダンプトラックに適用した場合を例に挙げ、添付図面に従って詳細に説明する。
【0013】
図1において、ダンプトラック1は、頑丈なフレーム構造をなす車体2と、車体2上に起伏可能に搭載されたベッセル(荷台)3と、車体2の前部に設けられたキャブ5と、車輪としての左右の前輪6および左右の後輪7と、を含んで構成されている。
【0014】
ベッセル3は、例えば砕石物等の重量物を積載する大型の容器として形成され、ベッセル3の後側底部は、車体2の後端側に連結ピン4等を介して起伏(傾転)可能に連結されている。ベッセル3の前側上部には、キャブ5を上側から覆う庇部3Aが一体に設けられている。キャブ5は、庇部3Aの下側に位置して車体2の前部に設けられている。キャブ5は運転室を形成し、キャブ5の内部には、運転席、操舵用のハンドル、複数の操作レバー(いずれも図示せず)等が設けられている。
【0015】
左右の前輪6は、車体2の前部側に回転可能に設けられている(左前輪のみ図示)。左右の前輪6は、運転者によって操舵される操舵輪を構成している。左右の後輪7は、車体2の後部側に回転可能に設けられている。左右の後輪7は、ダンプトラック1の駆動輪を構成し、図3に示す走行装置11により車輪取付筒17と一体に回転駆動される。後輪7は、複輪式タイヤからなる2列のタイヤ7Aと、タイヤ7Aの径方向内側に配設されるリム7Bとを含んで構成されている。
【0016】
エンジン8は、キャブ5の下側に位置して車体2内に設けられている。エンジン8は、例えばディーゼルエンジン等により構成され、車体2に搭載された後述する電動モータ13、油圧ポンプ(図示せず)等を回転駆動する。油圧ポンプから吐出された圧油は、ホイストシリンダ9、パワーステアリング用の操舵シリンダ(図示せず)等に供給される。
【0017】
ホイストシリンダ9は、車体2とベッセル3との間に設けられている。ホイストシリンダ9は、前輪6と後輪7との間に位置して車体2の左,右両側に配設され、油圧ポンプからの圧油が給排されることにより上,下方向に伸縮し、連結ピン4を中心にしてベッセル3を起伏(傾転)させる。
【0018】
後輪側のアクスルハウジング10は、車体2の後部側に設けられている。アクスルハウジング10は、左右方向に延びる中空な円筒体からなり、左右の後輪側サスペンション10Aを介して車体2の後部側に取付けられている。アクスルハウジング10の左右両側には、左右の後輪7を駆動する走行装置11がそれぞれ設けられている。
【0019】
走行装置11は、アクスルハウジング10の左右両側にそれぞれ設けられている。図3に示すように、走行装置11は、スピンドル12と、電動モータ13と、回転軸15と、車輪取付筒17と、減速機構21と、カップリング38と、カップリングハウジング46と、潤滑油循環回路50と、を含んで構成されている。走行装置11は、回転軸15の回転を減速機構21によって減速し、駆動輪となる左右の後輪7を大きな回転トルクをもって回転駆動する。
【0020】
スピンドル12は、アクスルハウジング10の左右両側に取付けられている。スピンドル12は、軸方向(左右方向)に延びる段付き円筒状に形成され、テーパ部12Aと、中間円筒部12Bと、小径円筒部12Cとを有している。テーパ部12Aは、スピンドル12の軸方向一側(アクスルハウジング10側)から軸方向他側に向けて徐々に縮径するテーパ形状をなし、アクスルハウジング10の端部に複数のボルト12Dを用いて取付けられている。中間円筒部12Bは、テーパ部12Aの縮径側に一体形成され軸方向に延びている。小径円筒部12Cは、中間円筒部12Bよりも小さい外径寸法を有し、中間円筒部12Bの先端側に一体形成されている。
【0021】
テーパ部12Aの軸方向一側には、径方向内側に突出する複数のモータ取付座12Eが設けられ、モータ取付座12Eには、電動モータ13が取付けられている。テーパ部12Aの外周側には、径方向外側に突出する環状のフランジ部12Fが設けられ、フランジ部12Fには、後述の湿式ブレーキ35が取付けられている。
【0022】
一方、小径円筒部12Cの先端は開口端となり、その内周側には後述する2段目のキャリア33の筒状突出部33Aがスプライン結合されている。小径円筒部12Cの軸方向の中間部の内周側には、径方向内側に突出する環状の内側突部12Gが一体に形成され、内側突部12Gには、後述する軸受16が取付けられている。さらに、小径円筒部12Cの下部側には、上下方向(小径円筒部12Cの径方向)に貫通する径方向穴12Hが穿設され、この径方向穴12H内には、後述する吸込管51の先端51Aが挿通されている。
【0023】
走行用の電動モータ13は、アクスルハウジング10およびスピンドル12のテーパ部12A内に配置されている。電動モータ13の外周側には複数の取付フランジ13Aが設けられ、取付フランジ13Aは、スピンドル12(テーパ部12A)のモータ取付座12Eにボルト等を用いて取付けられている。
【0024】
モータ軸14は、電動モータ13から突出している。電動モータ13は、車体2に搭載された発電機(図示せず)からの電力が供給されることによりモータ軸14を回転駆動し、このモータ軸14の回転を回転軸15に伝達する。図5および図8に示すように、モータ軸14の外周面には、スプライン溝が設けられたモータ軸スプライン部14Aが形成され、モータ軸スプライン部14Aは、後述するカップリング38のモータ軸側穴スプライン部39に噛合している。モータ軸14の突出端14Bには有底のストッパ取付穴14Cが設けられ、ストッパ取付穴14Cの底部の中心には、ボルト穴(雌ねじ穴)14Dが形成されている。
【0025】
回転軸15は、スピンドル12の内周側を軸方向に伸長して設けられている。回転軸15は、1本の長尺な棒状体を用いて形成されている。回転軸15の一端側(電動モータ13側)の外周面には、回転軸スプライン部15Aが形成され、回転軸スプライン部15Aは、後述するカップリング38の回転軸側穴スプライン部40に噛合している。このように、回転軸15は、電動モータ13のモータ軸14にカップリング38を介して結合され、電動モータ13によって回転駆動される。回転軸15の他端側は、スピンドル12の小径円筒部12Cの開口端から突出し、回転軸15の他端(突出端)には、後述の太陽歯車23が取付けられている。回転軸15の軸方向の中間部は、スピンドル12の内側突部12Gに取付けられた軸受16により、回転可能に支持されている。
【0026】
車輪取付筒17は、スピンドル12を構成する小径円筒部12Cの外周側に、2個のころ軸受18を介して回転可能に設けられている。車輪取付筒17は、2個のころ軸受18に支持され、小径円筒部12Cの外周側を軸方向に延びる中空円筒部17Aと、中空円筒部17Aの先端から軸方向に突出しスピンドル12から離れる方向に延びる延長円筒部17Bとを有している。車輪取付筒17の外周側には、後輪7を構成する円筒状のリム7Bが着脱可能に取付けられ、後輪7は車輪取付筒17と一体に回転する。車輪取付筒17の延長円筒部17Bの端部には、後述の内歯車32と外側ドラム19とが長尺ボルト20を用いて一体的に固定されている。外側ドラム19は円筒体からなり、軸方向の一側に設けられたフランジ部19Aが、内歯車32を介して車輪取付筒17に固定されている。外側ドラム19の軸方向の他側は、開口端となっている。
【0027】
減速機構21は、回転軸15と車輪取付筒17との間に設けられている。減速機構21は、1段目の遊星歯車減速機構22と2段目の遊星歯車減速機構29とにより構成され、回転軸15の回転を2段減速して車輪取付筒17に伝達する。
【0028】
1段目の遊星歯車減速機構22は、太陽歯車23と、複数の遊星歯車24と、キャリア26とを含んで構成されている。太陽歯車23は、スピンドル12(小径円筒部12C)から突出した回転軸15の先端にスプライン結合されている。複数の遊星歯車24は、太陽歯車23とリング状の内歯車25とに噛合し、太陽歯車23の周囲を自転しつつ公転する。キャリア26は、車輪取付筒17に一体化された外側ドラム19の開口端にボルト等を介して固定され、支持ピン27を介して遊星歯車24を回転可能に支持している。
【0029】
ここで、内歯車25はリングギヤを用いて形成され、太陽歯車23および複数の遊星歯車24を径方向外側から取囲んでいる。内歯車25は、外側ドラム19の内周面との間に径方向の隙間を介して相対回転可能に配置されている。内歯車25の回転は、カップリング28を介して2段目の遊星歯車減速機構29に伝達される。
【0030】
カップリング28は、1段目の遊星歯車減速機構22と2段目の遊星歯車減速機構29との間に設けられている。カップリング28は、中心部にボス28Aを有する円板状に形成されている。カップリング28の外周側は、1段目の内歯車25にスプライン結合され、カップリング28のボス28Aの内周側は、後述する2段目の太陽歯車30にスプライン結合されている。カップリング28は、1段目の内歯車25の回転を2段目の太陽歯車30に伝達し、太陽歯車30を1段目の内歯車25と一体に回転させる。
【0031】
1段目の遊星歯車減速機構22は、電動モータ13によって回転軸15と一体に太陽歯車23が回転することにより、太陽歯車23の回転を、複数の遊星歯車24の自転運動と公転運動とに変換する。遊星歯車24の自転運動は、内歯車25に減速した回転として伝えられ、内歯車25の回転は、カップリング28を介して2段目の遊星歯車減速機構29に伝達される。一方、遊星歯車24の公転運動は、キャリア26の回転となって外側ドラム19を介して車輪取付筒17に伝達される。このとき、車輪取付筒17は、2段目の内歯車32と一体に回転するため、遊星歯車24の公転は、車輪取付筒17に同期した回転に抑えられる。
【0032】
2段目の遊星歯車減速機構29は、円筒状の太陽歯車30と、複数の遊星歯車31と、キャリア33とを含んで構成されている。太陽歯車30は、カップリング28のボス28Aの内周側にスプライン結合され、カップリング28と一体に回転する。複数の遊星歯車31は、太陽歯車30とリング状の内歯車32とに噛合し、太陽歯車30の周囲を自転しつつ公転する。キャリア33は、支持ピン34を介して遊星歯車31を回転可能に支持している。キャリア33の中心部には円筒状の筒状突出部33Aが設けられ、筒状突出部33Aの外周側は、小径円筒部12Cの内周側にスプライン結合されている。ここで、2段目の内歯車32は、太陽歯車30、複数の遊星歯車31等を径方向外側から取囲むリングギヤを用いて形成されている。内歯車32は、車輪取付筒17の延長円筒部17Bと外側ドラム19との間に長尺ボルト20を用いて一体的に固定されている。
【0033】
2段目の遊星歯車減速機構29は、キャリア33の筒状突出部33Aがスピンドル12の小径円筒部12Cにスプライン結合されることにより、遊星歯車31の公転(キャリア33の回転)が拘束される。従って、2段目の遊星歯車減速機構29は、太陽歯車30がカップリング28と一体に回転することにより、太陽歯車30の回転を遊星歯車31の自転に変換し、この遊星歯車31の自転を2段目の内歯車32に伝達する。これにより、内歯車32が減速して回転し、内歯車32が固定された車輪取付筒17に対し、1段目の遊星歯車減速機構22と2段目の遊星歯車減速機構29とで2段階で減速された大出力の回転トルクが伝達される。
【0034】
ここで、車輪取付筒17の内部には潤滑油Lが貯留され、潤滑油Lの液面は、例えばスピンドル12を構成する小径円筒部12Cの最下部よりも低い位置にある。従って、ころ軸受18の下側部位は潤滑油Lに浸漬され、遊星歯車減速機構22,29の一部は、常に潤滑油Lによって潤滑される。また、遊星歯車減速機構22,29によって跳ね上げられた潤滑油Lは、ミスト状となってスピンドル12内に飛散し、回転軸15を支持する軸受16にも供給される。これにより、走行装置11の作動時において、潤滑油Lの攪拌による抵抗を小さくしてエネルギロスを抑えることができ、かつ走行装置11の発熱を抑えることができる。
【0035】
湿式ブレーキ35は、スピンドル12のフランジ部12Fに取付けられている。湿式ブレーキ35は、湿式多版型の油圧ブレーキにより構成され、車輪取付筒17に取付けられたブレーキハブ36に対して制動力を付与する。これにより、車輪取付筒17の回転、即ち、後輪7の回転に制動力が付与される。
【0036】
隔壁37は、スピンドル12内に設けられている。隔壁37は、環状の板体により形成され、隔壁37の外周側は、スピンドル12のテーパ部12Aと中間円筒部12Bとの境界部にボルト等を用いて取付けられている。隔壁37は、スピンドル12内を、電動モータ13を収容するモータ収容空間部37Aと、車輪取付筒17の内部に連通する筒状空間部37Bとに仕切っている。
【0037】
カップリング38は、環状の隔壁37の中心部に配置され、電動モータ13のモータ軸14と回転軸15との間を結合している。図5ないし図8に示すように、カップリング38は、全体として円筒状に形成され、カップリング38の軸方向の一側(モータ軸14側)の内周面には、スプライン溝が設けられたモータ軸側穴スプライン部39が形成されている。モータ軸側穴スプライン部39は、モータ軸14のモータ軸スプライン部14Aにスプライン結合される。図7に示すように、モータ軸側穴スプライン部39の歯底円径D1は、モータ軸スプライン部14Aの歯先円径D2よりも大きく設定されている(D1>D2)。従って、モータ軸側穴スプライン部39を構成する複数の歯の歯底と、モータ軸スプライン部14Aを構成する複数の歯の歯先との間には、隙間38Aが形成されている。隙間38Aは、モータ軸スプライン部14Aとモータ軸側穴スプライン部39とが噛合するスプライン結合部39Aの長さ方向の全域に亘って形成されている。
【0038】
カップリング38の軸方向の他側(回転軸15側)の内周面には、スプライン溝が設けられた回転軸側穴スプライン部40が形成されている。回転軸側穴スプライン部40は、回転軸15の回転軸スプライン部15Aにスプライン結合される。回転軸側穴スプライン部40の歯底円径は、回転軸スプライン部15Aの歯先円径よりも大きく設定されている。従って、回転軸側穴スプライン部40を構成する複数の歯の歯底と、回転軸スプライン部15Aを構成する複数の歯の歯先との間には、隙間(図示せず)が形成されている。この隙間は、回転軸スプライン部15Aと回転軸側穴スプライン部40とが噛合するスプライン結合部40Aの長さ方向の全域に亘って形成されている。
【0039】
カップリング38の軸方向の中間部の内周面には、モータ軸側穴スプライン部39と回転軸側穴スプライン部40との間に位置してストッパ嵌合部41が形成されている。ストッパ嵌合部41のうちモータ軸側穴スプライン部39に隣接する部位は、ストッパ嵌合部41よりも大きな内径寸法を有する環状油路41Aとなり、この環状油路41Aには、後述する潤滑油通路43が開口している。
【0040】
カップリング38の軸方向の一側の端面には、スリーブ嵌合部38Bが設けられている。スリーブ嵌合部38Bには、後述のスリーブ45が嵌合している。モータ軸側穴スプライン部39が形成されたカップリング38の内周面には、全周に亘って環状溝38Cが形成されている。環状溝38Cには、C字型の穴用止め輪42が取付けられている。図7に示すように、環状溝38Cに取付けられた穴用止め輪42の外径寸法は、モータ軸側穴スプライン部39にスプライン結合されたモータ軸スプライン部14Aの歯先円径D2よりも小さく設定されている。従って、モータ軸側穴スプライン部39の歯底と、モータ軸スプライン部14Aの歯先との間に形成された隙間38Aが、穴用止め輪42によって塞がれることはない。
【0041】
潤滑油通路43は、カップリング38の軸方向の中間部に設けられている。潤滑油通路43は、カップリング38の外周面からストッパ嵌合部41の環状油路41Aに貫通する径方向孔として形成されている。潤滑油通路43は、結合部潤滑回路58の一部を構成している。結合部潤滑回路58は、潤滑油循環回路50を流れる潤滑油Lの一部を、モータ軸側穴スプライン部39とモータ軸スプライン部14Aとのスプライン結合部39A、および回転軸側穴スプライン部40と回転軸スプライン部15Aとのスプライン結合部40Aに供給する。
【0042】
即ち、後述する潤滑油循環回路50は、減速機構21に潤滑油を供給する循環路からなる本回路と、当該本回路に接続された結合部潤滑回路58とを有している。結合部潤滑回路58は、潤滑油循環回路50の本回路を通じて減速機構21へと流れる潤滑油の一部を分流させて、カップリング38の内部を通ってモータ軸14とカップリング38との連結部(スプライン結合部39A)、および回転軸15とカップリング38との連結部(スプライン結合部40A)とに供給する。潤滑油通路43は、吸込管51、潤滑油ポンプ52、吐出管54、分岐継手53、カップリング潤滑管56、カップリング38の供給油路47、ストッパ油路部44G、ざぐり穴44F、環状油路41A、隙間38A、排出油路48等と共に結合部潤滑回路58を構成している。
【0043】
位置決め部材としてのストッパ44は、モータ軸14の突出端14B側にストッパボルト44Aを用いて着脱可能に取付けられている。図8に示すように、ストッパ44は、全体として段付き円筒状に形成され、モータ軸14のストッパ取付穴14Cに嵌合する小径嵌合部44Bと、大径嵌合部44Cとを有している。大径嵌合部44Cは、小径嵌合部44Bよりも大きな外径寸法を有し、カップリング38のモータ軸側穴スプライン部39の歯先円に嵌合する。ストッパ44は、モータ軸側穴スプライン部39の歯先円に大径嵌合部44Cが嵌合することにより、モータ軸14に対してカップリング38を径方向に位置決めしている。小径嵌合部44Bと大径嵌合部44Cとの境界部は、環状段部44Dとなり、環状段部44Dは、モータ軸14の突出端14Bと軸方向で対面する。
【0044】
小径嵌合部44Bの中心部には、軸方向に貫通するボルト挿通孔44Eが形成されている。大径嵌合部44Cには、ボルト挿通孔44Eと同心上に有底のざぐり穴44Fが形成されている。ストッパ44は、小径嵌合部44Bをモータ軸14のストッパ取付穴14Cに嵌合させると共に、環状段部44Dとモータ軸14の突出端14Bとの間に穴用止め輪42を挟込む。この状態で、ボルト挿通孔44Eに挿通したストッパボルト44Aをモータ軸14のボルト穴14Dに螺着することにより、ストッパ44がモータ軸14に取付けられ、ストッパボルト44Aの頭部は、ざぐり穴44F内に収容される。
【0045】
また、ストッパ44には、大径嵌合部44Cの外周面からざぐり穴44Fに貫通する複数のストッパ油路部44Gが形成されている。カップリング38のモータ軸側穴スプライン部39を、モータ軸14のモータ軸スプライン部14Aにスプライン結合した状態で、複数のストッパ油路部44Gは、ストッパ嵌合部41の環状油路41Aを介してカップリング38の潤滑油通路43に連通する。従って、ざぐり穴44Fとストッパ油路部44Gとは、ストッパ44の油路を構成している。これにより、カップリング38の潤滑油通路43に供給された潤滑油Lは、カップリング38の環状油路41A、ストッパ44のざぐり穴44Fおよびストッパ油路部44Gを通じて、モータ軸側穴スプライン部39とモータ軸スプライン部14Aとのスプライン結合部39A、および回転軸側穴スプライン部40と回転軸スプライン部15Aとのスプライン結合部40Aに分配される。
【0046】
スリーブ45は、カップリング38の軸方向の一側とモータ軸14との間に設けられている。スリーブ45は、小径筒部45Aと大径筒部45Bとを有する段付き円筒状に形成されている。スリーブ45の内周側はモータ軸14に嵌合し、小径筒部45Aの外周側は、カップリング38のスリーブ嵌合部38Bに嵌合している。スリーブ45は、カップリング38の軸方向の一側を、モータ軸14に対して径方向に位置決めしている。
【0047】
カップリングハウジング46は、カップリング38の外周側を取囲むように電動モータ13に取付けられている。カップリングハウジング46は、カップリング38の外周側を取囲む円筒部46Aと、円筒部46Aの軸方向の一側(電動モータ13側)から拡径したフランジ部46Bとを有し、フランジ部46Bは、ボルト46Cを用いて電動モータ13に取付けられている。一方、円筒部46Aの軸方向の他側にはカップリング嵌合部46Dが設けられ、カップリング嵌合部46Dの内周面は、カップリング38の外周面に摺動可能に嵌合し、カップリング38の芯ずれを抑えている。また、カップリング嵌合部46Dの内周面には、全周に亘って環状溝46Eが形成されている。
【0048】
カップリングハウジング46の円筒部46Aには、カップリング38の上側に位置する供給油路47と、カップリング38の下側に位置する排出油路48とが形成されている。供給油路47の一端47Aは、円筒部46Aの外周面に開口し、潤滑油循環回路50を構成する後述のカップリング潤滑管56に接続されている。一方、供給油路47の他端47Bは、カップリング嵌合部46Dの内周面に形成された環状溝46Eに接続され、環状溝46Eを介してカップリング38の潤滑油通路43に連通している。また、カップリング嵌合部46Dの内周面には、軸方向において環状溝46Eを挟む2個のシールリング49が設けられている。これら2個のシールリング49は、内周縁がカップリング38の外周面に摺接することにより、潤滑油をシールしている。
【0049】
次に、カップリング38を用いてモータ軸14と回転軸15とを結合するときの作業手順について、図8を参照して説明する。
【0050】
まず、モータ軸14にスリーブ45の内周を嵌合させると共に、カップリングハウジング46のフランジ部46Bを、ボルト46Cを用いて電動モータ13に取付ける。一方、カップリング38に設けられたストッパ嵌合部41の内周面に、ストッパ44の大径嵌合部44Cを嵌合させる。そして、カップリング38の環状溝38Cに穴用止め輪42を取付け、この穴用止め輪42をストッパ44の環状段部44Dに当接させることにより、ストッパ44をカップリング38の軸方向に位置決めする。
【0051】
次に、モータ軸14のモータ軸スプライン部14Aにカップリング38のモータ軸側穴スプライン部39をスプライン結合させる。この状態で、穴用止め輪42がモータ軸14の突出端14Bに当接し、カップリング38のスリーブ嵌合部38Bが、スリーブ45の小径筒部45Aに嵌合するまで、カップリング38を差込む。このようにして、穴用止め輪42がモータ軸14の突出端14Bに当接した状態で、ストッパボルト44Aを、カップリング38の内周側からストッパ44のボルト挿通孔44Eに挿通し、モータ軸14のボルト穴14Dに螺着する。
【0052】
このように、カップリング38のスリーブ嵌合部38Bが、スリーブ45の小径筒部45Aに嵌合し、カップリング38に設けられたモータ軸側穴スプライン部39の歯先円が、ストッパ44の大径嵌合部44Cに嵌合する。これにより、カップリング38は、モータ軸14に対して径方向に位置決め(芯出し)される。また、カップリング38の環状溝38Cに取付けられた穴用止め輪42が、モータ軸14の突出端14Bとストッパ44の環状段部44Dに当接する。これにより、カップリング38は、モータ軸14に対して軸方向に位置決めされる。
【0053】
そして、モータ軸14に取付けられたカップリング38の回転軸側穴スプライン部40に、回転軸15の回転軸スプライン部15Aをスプライン結合し、回転軸15を軸方向に差込む。これにより、図5に示すように、カップリング38を用いてモータ軸14と回転軸15とを結合することができる。
【0054】
この状態で、カップリング38の潤滑油通路43は、カップリングハウジング46の環状溝46Eに開口し、ストッパ44のストッパ油路部44Gは、カップリング38に設けられたストッパ嵌合部41の環状油路41Aに開口する。また、図7に示すように、カップリング38に形成されたモータ軸側穴スプライン部39の歯底とモータ軸スプライン部14Aの歯先との間には、隙間38Aが形成される。同様に、カップリング38に形成された回転軸側穴スプライン部40の歯底と回転軸スプライン部15Aの歯先との間にも、隙間(図示せず)が形成される。この場合、穴用止め輪42の外径寸法は、モータ軸スプライン部14Aの歯先円径D2よりも小さく設定されている。このため、モータ軸側穴スプライン部39の歯底とモータ軸スプライン部14Aの歯先との間に形成された隙間38Aが、穴用止め輪42によって塞がれることはない。
【0055】
潤滑油循環回路50は、スピンドル12およびアクスルハウジング10の内部に設けられている。潤滑油循環回路50の本回路は、吸込管51、潤滑油ポンプ52、吐出管54、供給管55等により構成され、減速機構21、ころ軸受18、軸受16等に対し、車輪取付筒17の内部に貯留された潤滑油Lを繰り返して供給する。また、潤滑油循環回路50には、結合部潤滑回路58が接続されている。結合部潤滑回路58は、潤滑油循環回路50から減速機構21に供給される潤滑油の一部を分流させて、カップリング38の内部を通ってモータ軸14とカップリング38との結合部(スプライン結合部39A)、および回転軸15とカップリング38との結合部(スプライン結合部40A)とに供給する。本実施形態においては、潤滑油循環回路50を流れる潤滑油Lの一部は、結合部潤滑回路58を構成するカップリング潤滑管56、カップリングハウジング46の供給油路47、カップリング38の潤滑油通路43等を通じて、モータ軸側穴スプライン部39とモータ軸スプライン部14Aとのスプライン結合部39A、および回転軸側穴スプライン部40と回転軸スプライン部15Aとのスプライン結合部40Aに供給される。
【0056】
吸込管51は、スピンドル12およびアクスルハウジング10内に設けられている。吸込管51の長さ方向一側は、アクスルハウジング10内を軸方向に延び、潤滑油ポンプ52の吸込口に接続されている。吸込管51の長さ方向他側は、回転軸15の下側に位置してスピンドル12内を軸方向に延びている。吸込管51の先端51Aは、スピンドル12の内側突部12Gの近傍からL字状に屈曲して下向きに延び、スピンドル12の径方向穴12H内に挿通されている。これにより、吸込管51の先端51Aは、車輪取付筒17内の潤滑油Lに浸漬され、潤滑油ポンプ52は、吸込管51を通じて潤滑油Lを吸上げる。
【0057】
分岐継手53は、スピンドル12に設けられた複数のモータ取付座12Eのうちの1個に設けられている。分岐継手53は、例えば1個の流入口と、流量が異なる2個の流出口(いずれも図示せず)とを有している。吐出管54は、潤滑油ポンプ52の吐出口と分岐継手53の流入口との間を接続している。潤滑油ポンプ52から吐出した潤滑油Lは、吐出管54を通じて分岐継手53に流入し、分岐継手53の2個の流出口に接続された供給管55およびカップリング潤滑管56によって2つの経路に分流される。即ち、分岐継手53は、潤滑油ポンプ52から吐出した潤滑油Lを供給管55とカップリング潤滑管56とに分流させる分流部を構成している。また、吐出管54の途中にはオイルクーラ57が設けられている。
【0058】
供給管55は、スピンドル12内に設けられている。供給管55の長さ方向一側は、分岐継手53の2個の流出口のうち流量が大きな流出口に接続されている。供給管55の長さ方向他側は、回転軸15の上側に位置してスピンドル12内を軸方向に延びている。供給管55の先端55Aは、スピンドル12の内側突部12Gの近傍からS字状に屈曲し、回転軸15に沿って2段目のキャリア33の筒状突出部33A内へと延びている。これにより、潤滑油ポンプ52から吐出した潤滑油Lの多くは、オイルクーラ57により冷却された状態で、供給管55の先端55Aを通じて回転軸15に供給され、回転軸15を冷却すると共に、回転軸15から飛散して軸受16等を潤滑する。
【0059】
カップリング潤滑管56は、供給管55と共にスピンドル12内に設けられている。カップリング潤滑管56の一端は、分岐継手53の2個の流出口のうち流量が小さな流出口に接続されている。カップリング潤滑管56の他端56Aは、カップリングハウジング46に形成された供給油路47の一端47Aに接続されている。これにより、潤滑油ポンプ52から吐出した潤滑油Lの一部は、結合部潤滑回路58を構成するカップリング潤滑管56からカップリングハウジング46の供給油路47を通じてカップリング38の潤滑油通路43に導入される。
【0060】
潤滑油通路43に導入された潤滑油Lは、図5中の矢示F1で示す経路と、矢示F2で示す経路とに分かれる。矢示F1の経路を流れる潤滑油Lは、潤滑油通路43からストッパ嵌合部41の環状油路41Aを通じて、モータ軸側穴スプライン部39に供給される。この場合、モータ軸側穴スプライン部39の歯底とモータ軸スプライン部14Aの歯先との間には、隙間38Aが形成されている。これにより、潤滑油Lは、隙間38Aを通じてモータ軸側穴スプライン部39の軸方向に流れ、モータ軸側穴スプライン部39とモータ軸スプライン部14Aとのスプライン結合部39Aを潤滑する。
【0061】
一方、矢示F2の経路を流れる潤滑油Lは、潤滑油通路43からストッパ44のストッパ油路部44G、ざぐり穴44Fを通じて、回転軸側穴スプライン部40に供給される。この場合、回転軸側穴スプライン部40の歯底と回転軸スプライン部15Aの歯先との間には、隙間(図示せず)が形成されている。これにより、潤滑油Lは、前記隙間を通じて回転軸側穴スプライン部40の軸方向に流れ、回転軸側穴スプライン部40と回転軸スプライン部15Aとのスプライン結合部40Aを潤滑する。
【0062】
本実施形態によるダンプトラック1の走行装置11は、上述の如き構成を有するもので、次に、その作動について説明する。
【0063】
ダンプトラック1のキャブ5に乗り込んだ運転者が、エンジン8を起動すると、油圧ポンプが回転駆動されると共に発電機(いずれも図示せず)により発電が行われる。ダンプトラック1の走行駆動時には、発電機から電動モータ13に電力が供給され、電動モータ13が作動して回転軸15が回転する。
【0064】
回転軸15の回転は、減速機構21を構成する1段目の遊星歯車減速機構22と2段目の遊星歯車減速機構29とで2段減速されて車輪取付筒17に伝達され、車輪取付筒17は、大きな回転トルクをもって回転する。この結果、駆動輪となる左右の後輪7は、車輪取付筒17と一体に回転し、ダンプトラック1を走行駆動することができる。
【0065】
走行装置11の作動時においては、車輪取付筒17内に貯溜された潤滑油Lが、遊星歯車減速機構22,29を構成する遊星歯車24,31等によって掻き上げられ、歯車間の噛合部、ころ軸受18、軸受16等に供給される。そして、潤滑油Lは順次下方へと滴下し、車輪取付筒17の下部側へと集められる。
【0066】
車輪取付筒17の下部側に集められた潤滑油Lは、潤滑油ポンプ52により吸込管51の先端51Aから吸上げられ、吐出管54に吐出される。吐出管54に吐出された潤滑油Lは、オイルクーラ57で冷却された後、分岐継手53に流入する。分岐継手53に流入した潤滑油Lの多くは供給管55に導かれ、供給管55の先端55Aを通じて回転軸15に供給される。これにより、潤滑油Lによって回転軸15を冷却することができると共に、回転軸15から飛散した潤滑油Lによって軸受16等を潤滑することができる。
【0067】
分岐継手53からカップリング潤滑管56に導かれた潤滑油Lは、カップリングハウジング46の供給油路47を通じてカップリング38の潤滑油通路43に導入される。潤滑油通路43に導入された潤滑油Lは、図5中の矢示F1で示す経路と、矢示F2で示す経路とに分流される。
【0068】
矢示F1の経路を流れる潤滑油Lは、潤滑油通路43からストッパ嵌合部41の環状油路41Aを通じて、モータ軸側穴スプライン部39に供給される。この場合、モータ軸側穴スプライン部39の歯底とモータ軸スプライン部14Aの歯先との間には、隙間38Aが形成されている。これにより、潤滑油Lは、隙間38Aを通じてモータ軸側穴スプライン部39の軸方向に流れ、モータ軸側穴スプライン部39とモータ軸スプライン部14Aとのスプライン結合部39Aを、潤滑油Lによって潤滑することができる。そして、モータ軸側穴スプライン部39とモータ軸スプライン部14Aとのスプライン結合部39Aに供給された潤滑油Lの残余分は、カップリング38(スリーブ嵌合部38B)とスリーブ45との嵌合部からカップリングハウジング46内に流下し、排出油路48を通じてカップリングハウジング46の外部(スピンドル12内)に排出される。これにより、潤滑油Lが電動モータ13側に漏れるのを防止し、電動モータ13を保護することができる。
【0069】
一方、矢示F2の経路を流れる潤滑油Lは、潤滑油通路43からストッパ44のストッパ油路部44G、ざぐり穴44Fを通じて、回転軸側穴スプライン部40に供給される。この場合、回転軸側穴スプライン部40の歯底と回転軸スプライン部15Aの歯先との間には、隙間(図示せず)が形成されている。これにより、潤滑油Lは、前記隙間を通じて回転軸側穴スプライン部40の軸方向に流れ、回転軸側穴スプライン部40と回転軸スプライン部15Aとのスプライン結合部40Aを、潤滑油Lによって潤滑することができる。そして、回転軸側穴スプライン部40と回転軸スプライン部15Aとのスプライン結合部40Aに供給された潤滑油Lの残余分は、回転軸スプライン部15Aから回転軸15の外周面に排出され、回転軸15の回転によりミスト状となってスピンドル12内に飛散し、回転軸15を支持する軸受16を潤滑する。
【0070】
このように、本実施形態による走行装置11は、潤滑油循環回路50内を循環する潤滑油Lの一部を、カップリング38の潤滑油通路43に供給する結合部潤滑回路58を有している。本実施形態においては、結合部潤滑回路58は、分岐継手53、カップリング潤滑管56、カップリングハウジング46の供給油路47、カップリング38の潤滑油通路43、カップリング38とストッパ44との間の環状油路41A、ストッパ44のストッパ油路部44Gおよびざぐり穴44F、モータ軸スプライン部14Aとモータ軸側穴スプライン部39との間の隙間38A、回転軸スプライン部15Aと回転軸側穴スプライン部40との間の隙間、カップリングハウジング46の排出油路48等を含んで構成されている。これにより、カップリング38のモータ軸側穴スプライン部39とモータ軸スプライン部14Aとのスプライン結合部39A、および回転軸側穴スプライン部40と回転軸スプライン部15Aとのスプライン結合部40Aを、潤滑油Lによって常に適正に潤滑することができる。
【0071】
しかも、潤滑油循環回路50を循環する潤滑油Lの一部を用いることにより、カップリング38とモータ軸14とのスプライン結合部39A、あるいはカップリング38と回転軸15とのスプライン結合部40Aから摩耗粉が生じたとしても、この摩耗粉を潤滑油Lの流れによって前記スプライン結合部39A,40Aから排出することができる。この結果、カップリング38とモータ軸14とのスプライン結合部39A、およびカップリング38と回転軸15とのスプライン結合部40Aの耐久性を高め、モータ軸14から回転軸15に対する高精度な動力伝達を長期に亘って維持することができる。
【0072】
さらに、走行装置11は、カップリング38を回転可能に保持するカップリングハウジング46を備え、モータ軸14、回転軸15、カップリング38、カップリングハウジング46等は、スピンドル12の内周側に分解、組立て可能に設けられている。この結果、モータ軸14、回転軸15、カップリング38等に対するメンテナンスを行うときの作業性を高めることができ、かつ走行装置11全体を小型化することができる。
【0073】
かくして、実施形態では、ホイール式車両の車体2に設けられ、車輪7が取付けられる車輪取付筒17を回転可能に支持する筒状のスピンドル12と、スピンドル12に取付けられた電動モータ13と、電動モータ13から突出し電動モータ13の回転を出力するモータ軸14と、スピンドル12の内周側を軸方向に伸長して設けられモータ軸14の回転が伝達される回転軸15と、回転軸15の回転を減速して車輪取付筒17に伝達する減速機構21と、減速機構21に潤滑油Lを供給するための潤滑油循環回路50と、モータ軸14と回転軸15との間を結合するカップリング38とを備えてなる走行装置11において、潤滑油循環回路50から減速機構21に供給される潤滑油Lの一部を分流させて、カップリング38の内部を通ってモータ軸14とカップリング38との結合部(スプライン結合部39A)に供給する結合部潤滑回路58を有している。
【0074】
この構成によれば、潤滑油循環回路50を流れる潤滑油Lの一部は、結合部潤滑回路58により、カップリング38の潤滑油通路43を通じて、カップリング38とモータ軸14とのスプライン結合部39Aに供給される。これにより、カップリング38とモータ軸14とのスプライン結合部39Aを、潤滑油Lによって常に適正に潤滑することができ、モータ軸14の回転を精度良くカップリング38に伝達することができる。
【0075】
実施形態では、モータ軸14は、外周に設けられたモータ軸スプライン部14Aを有し、回転軸15は、外周に設けられた回転軸スプライン部15Aを有し、カップリング38は、軸方向の一側に配置されモータ軸スプライン部14Aにスプライン結合されるモータ軸側穴スプライン部39と、軸方向の他側に配置され回転軸スプライン部15Aにスプライン結合される回転軸側穴スプライン部40とを有し、結合部潤滑回路58は、カップリング38の軸方向の中間部に設けられ、カップリング38の外周からモータ軸側穴スプライン部39と回転軸側穴スプライン部40とに潤滑油Lを供給する潤滑油通路43を有している。
【0076】
この構成によれば、潤滑油Lを、潤滑油通路43を通じて、モータ軸スプライン部14Aとモータ軸側穴スプライン部39とのスプライン結合部39Aに供給すると共に、回転軸スプライン部15Aと回転軸側穴スプライン部40とのスプライン結合部40Aに供給することができる。この結果、モータ軸14および回転軸15とカップリング38とのスプライン結合部39A,40Aを、潤滑油Lによって常に適正に潤滑することができ、モータ軸14から回転軸15への高精度な動力伝達を長期に亘って維持することができる。
【0077】
実施形態では、電動モータ13には、カップリング38の外周面に摺動可能に嵌合するカップリング嵌合部46Dが形成された円筒状のカップリングハウジング46が設けられ、結合部潤滑回路58は、カップリングハウジング46に設けられ、一端47Aが潤滑油循環回路50に接続され、かつ他端47Bがカップリング38の潤滑油通路43に連通する供給油路47と、供給油路47を通じてモータ軸側穴スプライン部39と回転軸側穴スプライン部40とに供給された潤滑油Lをカップリングハウジング46の外部に排出する排出油路48とを有している。
【0078】
この構成によれば、カップリング38の外周面が、カップリングハウジング46のカップリング嵌合部46Dに嵌合することにより、カップリング38の芯ずれを抑え、モータ軸14に対する回転軸15の芯ずれを抑えることができる。また、潤滑油循環回路50を循環する潤滑油Lの一部を、結合部潤滑回路58によってカップリングハウジング46の供給油路47からカップリング38の潤滑油通路43に導き、確実にモータ軸14および回転軸15とカップリング38とのスプライン結合部39A,40Aに供給することができる。これにより、これらスプライン結合部39A,40Aを、潤滑油循環回路50を循環する潤滑油Lを用いて適正に潤滑することができる。さらに、モータ軸14および回転軸15とカップリング38とのスプライン結合部39A,40Aに供給された潤滑油Lの余剰分を、排出油路48を通じてカップリングハウジング46の外部に排出することができる。これにより、余剰の潤滑油Lが電動モータ13側に漏れるのを防止し、電動モータ13を保護することができる。
【0079】
実施形態では、モータ軸14の突出端14Bには、カップリング38をモータ軸14に対して位置決めするストッパ44が着脱可能に設けられ、ストッパ44には、モータ軸側穴スプライン部39の歯先円に嵌合することによりカップリング38をモータ軸14の径方向に位置決めする大径嵌合部44Cと、潤滑油通路43に供給された潤滑油Lをモータ軸側穴スプライン部39および回転軸側穴スプライン部40に導く結合部潤滑回路58をなす油路部(ざぐり穴44Fおよびストッパ油路部44G)とが設けられている。この構成によれば、カップリング38を介してモータ軸14と回転軸15とを結合した状態で、カップリング38の潤滑油通路43に供給された潤滑油Lを、ざぐり穴44Fおよびストッパ油路部44Gを通じてモータ軸側穴スプライン部39とモータ軸スプライン部14Aとのスプライン結合部39A、および回転軸側穴スプライン部40と回転軸スプライン部15Aとのスプライン結合部40Aに分配することができる。
【0080】
実施形態では、モータ軸スプライン部14Aの歯先とモータ軸側穴スプライン部39の歯底との間には、潤滑油通路43に供給された潤滑油Lをモータ軸スプライン部14Aとモータ軸側穴スプライン部39とのスプライン結合部39Aに供給する結合部潤滑回路58をなす隙間38Aが形成され、モータ軸側穴スプライン部39の内周側には、モータ軸14の突出端14Bとストッパ44との間に挟込まれることによりモータ軸14に対してカップリング38を軸方向に位置決めする穴用止め輪42が設けられ、穴用止め輪42の外径寸法は、モータ軸スプライン部14Aの歯先円径よりも小さく設定されている。この構成によれば、穴用止め輪42によってカップリング38をモータ軸14に対して軸方向に位置決めした状態で、モータ軸側穴スプライン部39の歯底とモータ軸スプライン部14Aの歯先との間に形成された隙間38Aが、穴用止め輪42によって塞がれることがない。これにより、潤滑油通路43に供給された潤滑油Lを、モータ軸スプライン部14Aとモータ軸側穴スプライン部39とのスプライン結合部39Aに適正に供給することができる。
【0081】
なお、実施形態では、カップリング38をモータ軸14に対して軸方向に位置決めするために穴用止め輪42を用いた場合を例示している。しかし、本発明はこれに限らず、例えばカップリング38の外周側から挿通したボルトをモータ軸14に螺着することにより、カップリング38をモータ軸14にボルト締めする構成としてもよい。
【0082】
また、実施形態では、ストッパ44の大径嵌合部44Cを、モータ軸側穴スプライン部39の歯先円に嵌合させることにより、カップリング38をモータ軸14の径方向に位置決めする構成を例示している。しかし、本発明はこれに限らず、例えばカップリング38に設けたストッパ嵌合部41を、ストッパ44の大径嵌合部44Cに嵌合させることにより、カップリング38を径方向に位置決めする構成としてもよい。
【0083】
さらに、実施形態では、後輪駆動式のダンプトラック1を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限るものではなく、例えば前輪駆動式または前,後輪を共に駆動する4輪駆動式のダンプトラックに適用してもよい。
【符号の説明】
【0084】
1 ダンプトラック
2 車体
7 後輪(車輪)
11 走行装置
12 スピンドル
13 電動モータ
14 モータ軸
14A モータ軸スプライン部
14B 突出端
15 回転軸
15A 回転軸スプライン部
17 車輪取付筒
21 減速機構
38 カップリング
38A 隙間
39 モータ軸側穴スプライン部
39A,40A スプライン結合部(結合部)
40 回転軸側穴スプライン部
42 穴用止め輪
43 潤滑油通路
44 ストッパ(位置決め部材)
44C 大径嵌合部(嵌合部)
44F ざぐり穴(油路部)
44G ストッパ油路部(油路部)
46 カップリングハウジング
46D カップリング嵌合部(嵌合部)
47 供給油路
47A 一端
47B 他端
48 排出油路
50 潤滑油循環回路
58 結合部潤滑回路
図1
図2
図3
図4
図5
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図8