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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-30
(45)【発行日】2025-02-07
(54)【発明の名称】睡眠改善装置及び睡眠改善方法
(51)【国際特許分類】
   G16H 20/00 20180101AFI20250131BHJP
   G16H 50/30 20180101ALI20250131BHJP
   A61B 5/0245 20060101ALI20250131BHJP
   A61B 5/16 20060101ALI20250131BHJP
   A61M 21/02 20060101ALI20250131BHJP
【FI】
G16H20/00
G16H50/30
A61B5/0245 A
A61B5/0245 100C
A61B5/16 130
A61M21/02 A
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020161474
(22)【出願日】2020-09-25
(65)【公開番号】P2022054332
(43)【公開日】2022-04-06
【審査請求日】2023-09-21
(73)【特許権者】
【識別番号】508131381
【氏名又は名称】株式会社スリープシステム研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100126398
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 典子
(72)【発明者】
【氏名】根本 新
【審査官】鹿谷 真紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-083564(JP,A)
【文献】国際公開第2019/012742(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/221750(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/246234(WO,A1)
【文献】特開2012-065853(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G16H 10/00-80/00
A61B 5/0245
A61B 5/16
A61M 21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
睡眠状態を改善するための利用者に合った生活改善による睡眠改善案を提供することによって睡眠状態の改善に寄与する睡眠改善装置において、
前記利用者の心拍信号を測定する心拍信号測定手段と、
前記心拍信号測定手段によって測定された前記心拍信号に基づいて、前記利用者の自律神経成分のうち、少なくとも0.003~0.04Hzの極低周波数成分(VLF)のエネルギ値を算出する自律神経成分算出手段と、
前記利用者の生体信号を検出する生体信号検出手段と、
前記生体信号検出手段によって検出された前記生体信号に基づいて、睡眠中の前記利用者の各睡眠段階を判定し、各睡眠段階の時間を求める睡眠段階判定手段と、
前記睡眠段階判定手段によって判定された各睡眠段階の時間に基づいてモデル構築用睡眠評価指標を算出する睡眠評価指標算出手段と、
前記睡眠評価指標算出手段によって算出された前記モデル構築用睡眠評価指標と、前記自律神経成分算出手段によって算出された少なくとも入床前の前記極低周波数成分(VLF)のエネルギ値とに基づいて、前記利用者に固有の睡眠評価予測モデル式を構築する睡眠評価予測モデル式構築手段と、
前記睡眠評価予測モデル式構築手段によって構築された前記睡眠評価予測モデル式と、その後に前記自律神経成分算出手段によって算出された少なくとも前記極低周波数成分(VLF)のエネルギ値とに基づいて、そのときの予測睡眠評価指標を算出し、算出した前記予測睡眠評価指標に基づいて、少なくとも前記極低周波数成分(VLF)のエネルギ値を一定値以上にするような前記生活改善による睡眠改善案を提案する睡眠改善案提案手段とを備えること
を特徴とする睡眠改善装置。
【請求項2】
睡眠状態を改善するための利用者に合った生活改善による睡眠改善案を提供することによって睡眠状態の改善に寄与する睡眠改善方法において、
所定の心拍信号測定手段によって前記利用者の心拍信号を測定する心拍信号測定工程と、
信号処理を行うプロセッサが、前記心拍信号測定工程にて測定された前記心拍信号に基づいて、前記利用者の自律神経成分のうち、少なくとも0.003~0.04Hzの極低周波数成分(VLF)のエネルギ値を算出する自律神経成分算出工程と、
所定の生体信号検出手段によって前記利用者の生体信号を検出する生体信号検出工程と、
前記プロセッサが、前記生体信号検出工程にて検出された前記生体信号に基づいて、睡眠中の前記利用者の各睡眠段階を判定し、各睡眠段階の時間を求める睡眠段階判定工程と、
前記プロセッサが、前記睡眠段階判定工程にて判定された各睡眠段階の時間に基づいてモデル構築用睡眠評価指標を算出する睡眠評価指標算出工程と、
前記プロセッサが、前記睡眠評価指標算出工程にて算出された前記モデル構築用睡眠評価指標と、前記自律神経成分算出工程にて算出された少なくとも入床前の前記極低周波数成分(VLF)のエネルギ値とに基づいて、前記利用者に固有の睡眠評価予測モデル式を構築する睡眠評価予測モデル式構築工程と、
前記プロセッサが、前記睡眠評価予測モデル式構築工程にて構築された前記睡眠評価予測モデル式と、その後に前記自律神経成分算出工程にて算出された少なくとも前記極低周波数成分(VLF)のエネルギ値とに基づいて、そのときの予測睡眠評価指標を算出し、算出した前記予測睡眠評価指標に基づいて、少なくとも前記極低周波数成分(VLF)のエネルギ値を一定値以上にするような前記生活改善による睡眠改善案を提案する睡眠改善案提案工程とを備えること
を特徴とする睡眠改善方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、睡眠状態を改善するための利用者に合った生活改善による睡眠改善案を提供することによって睡眠状態の改善に寄与する睡眠改善装置及び睡眠改善方法に関する。
【背景技術】
【0002】
睡眠は健康のバロメータであるといわれ、快適な睡眠をして気分のよい目覚めができれば、目覚めた際に颯爽とした気分となり健康を実感することは、日常において多く経験する。一方、不眠症や不眠傾向にある場合や、深夜労働等のために昼夜の生活が逆転した睡眠を強いられる場合等においては、その目覚めの後の気分は芳しくないことが多い。すなわち、意識的であるか無意識的であるかにかかわらず、睡眠の状態がその後の覚醒時の気分や行動に影響を及ぼし、ひいては覚醒後の昼間の活動の質を定めることになる。このように、睡眠は、人間の身体活動及び心的活動に重要な影響を及ぼす要素であり、良好な睡眠をとることができれば身体的及び心的に健康的な日常活動が保証されるといってよい。
【0003】
睡眠は、昼間の生活状況の反映であると言われているが、身体的疲労や心理的緊張は、個人による特性が異なるため、睡眠評価を予測することは困難であると考えられてきた。そのため、不眠症に対する医師による治療は、睡眠誘導剤投与によるものが主であり、例えば特許文献1のように各種睡眠誘導剤に関する技術が提案されている。また、快適な睡眠を確保することを目的として、睡眠時の環境温度を制御することが試みられている。このような試みを具現化した技術としては、例えば特許文献2乃至特許文献4に記載されているように、生体信号に基づいて睡眠深度や睡眠状態を判定し、判定した睡眠深度や睡眠状態に応じて睡眠環境温度を制御するものが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-044006号公報
【文献】特開2008-119454号公報
【文献】特開2009-247846号公報
【文献】特開2006-198023号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、長期の睡眠導入剤の投与は、認知症の促進等の悪影響を及ぼすことが問題になっている。したがって、本来であれば、生活改善を行うことによって不眠を解消することが望ましく、生活習慣病と同様に、身体の活動量を上げ、身体の機能改善を図ることによって解決することが正攻法と考える。
【0006】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、簡便且つ低コストの構成のもとに、睡眠状態を改善するための個人に合った指標を提供し、この指標に基づいて睡眠状態の改善に寄与することができる睡眠改善装置及び睡眠改善方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した目的を達成する本発明にかかる睡眠改善装置は、睡眠状態を改善するための利用者に合った生活改善による睡眠改善案を提供することによって睡眠状態の改善に寄与する睡眠改善装置において、利用者の心拍信号を測定する心拍信号測定手段と、心拍信号測定手段によって測定された心拍信号に基づいて、利用者の自律神経成分のうち、少なくとも0.003~0.04Hzの極低周波数成分(VLF)のエネルギ値を算出する自律神経成分算出手段と、利用者の生体信号を検出する生体信号検出手段と、生体信号検出手段によって検出された生体信号に基づいて、睡眠中の利用者の各睡眠段階を判定し、各睡眠段階の時間を求める睡眠段階判定手段と、睡眠段階判定手段によって判定された各睡眠段階の時間に基づいてモデル構築用睡眠評価指標を算出する睡眠評価指標算出手段と、睡眠評価指標算出手段によって算出されたモデル構築用睡眠評価指標と、自律神経成分算出手段によって算出された少なくとも入床前の極低周波数成分(VLF)のエネルギ値とに基づいて、利用者に固有の睡眠評価予測モデル式を構築する睡眠評価予測モデル式構築手段と、睡眠評価予測モデル式構築手段によって構築された睡眠評価予測モデル式と、その後に自律神経成分算出手段によって算出された少なくとも極低周波数成分(VLF)のエネルギ値とに基づいて、そのときの予測睡眠評価指標を算出し、算出した予測睡眠評価指標に基づいて、少なくとも極低周波数成分(VLF)のエネルギ値を一定値以上にするような生活改善による睡眠改善案を提案する睡眠改善案提案手段とを備えることを特徴としている。
【0008】
また、上述した目的を達成する本発明にかかる睡眠改善方法は、睡眠状態を改善するための利用者に合った生活改善による睡眠改善案を提供することによって睡眠状態の改善に寄与する睡眠改善方法において、所定の心拍信号測定手段によって利用者の心拍信号を測定する心拍信号測定工程と、信号処理を行うプロセッサが、心拍信号測定工程にて測定された心拍信号に基づいて、利用者の自律神経成分のうち、少なくとも0.003~0.04Hzの極低周波数成分(VLF)のエネルギ値を算出する自律神経成分算出工程と、所定の生体信号検出手段によって利用者の生体信号を検出する生体信号検出工程と、プロセッサが、生体信号検出工程にて検出された生体信号に基づいて、睡眠中の利用者の各睡眠段階を判定し、各睡眠段階の時間を求める睡眠段階判定工程と、プロセッサが、睡眠段階判定工程にて判定された各睡眠段階の時間に基づいてモデル構築用睡眠評価指標を算出する睡眠評価指標算出工程と、プロセッサが、睡眠評価指標算出工程にて算出されたモデル構築用睡眠評価指標と、自律神経成分算出工程にて算出された少なくとも入床前の極低周波数成分(VLF)のエネルギ値とに基づいて、利用者に固有の睡眠評価予測モデル式を構築する睡眠評価予測モデル式構築工程と、プロセッサが、睡眠評価予測モデル式構築工程にて構築された睡眠評価予測モデル式と、その後に自律神経成分算出工程にて算出された少なくとも極低周波数成分(VLF)のエネルギ値とに基づいて、そのときの予測睡眠評価指標を算出し、算出した予測睡眠評価指標に基づいて、少なくとも極低周波数成分(VLF)のエネルギ値を一定値以上にするような生活改善による睡眠改善案を提案する睡眠改善案提案工程とを備えることを特徴としている。
【0009】
このような本発明にかかる睡眠改善装置及び睡眠改善方法は、睡眠段階の時間に基づくモデル構築用睡眠評価指標と、自律神経成分のうちの極低周波数成分(VLF)とに基づいて、利用者に固有の睡眠評価予測モデル式を構築し、この睡眠評価予測モデル式に基づいて、そのときの予測睡眠評価指標を算出し、算出した予測睡眠評価指標に基づいて、少なくとも極低周波数成分(VLF)のエネルギ値を一定値以上にするような生活改善による睡眠改善案を提案する。
【発明の効果】
【0010】
本発明においては、簡便且つ低コストの構成のもとに、睡眠状態を改善するための個人に合った生活改善による睡眠改善案を提供することができ、この睡眠改善案に基づいて睡眠状態の改善に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施の形態として示す睡眠改善装置の構成を示す図である。
図2】本発明の実施の形態として示す睡眠改善装置の構成を示す図であり、図1において矢視方向からみたときの一部断面図である。
図3】入床前の心拍信号から求めた自律神経成分の測定結果と入床後の睡眠評価指標とを比較した例を示す図である。
図4図4に示す例における自律神経成分と睡眠評価指標との相互相関係数を示す図である。
図5】他の生体信号検出部の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を適用した具体的な実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0013】
この実施の形態は、利用者の生体信号に基づいて、睡眠状態を改善するための利用者個人に合った生活改善による睡眠改善案を提供する睡眠改善装置である。
【0014】
図1に、本発明の実施の形態として示す睡眠改善装置の処理をブロックとして表した構成を示し、図2に、図1において矢視方向からみたときの一部断面図を示している。すなわち、睡眠改善装置は、寝台21上に横臥している利用者の生体信号を検出する生体信号検出部1と、この生体信号検出部1によって検出された生体信号を増幅する信号増幅部2と、この信号増幅部2によって増幅された生体信号に対してフィルタリング処理を施すフィルタ部3と、このフィルタ部3を通過した生体信号に基づいて睡眠段階を判定する睡眠段階判定部4と、この睡眠段階判定部4によって判定された各睡眠段階の時間に基づいて後述するモデル構築用睡眠評価指標を算出する睡眠評価指標算出部5と、この睡眠評価指標算出部によって算出されたモデル構築用睡眠評価指標に基づいて利用者に固有の睡眠評価予測モデル式を構築する睡眠評価予測モデル式構築部6と、この睡眠評価予測モデル式構築部6によって構築された睡眠評価予測モデル式に基づいて生活改善による睡眠改善案を提案する睡眠改善案提案部7とを備える。また、睡眠改善装置は、利用者の心拍信号を測定する心拍測定部11と、この心拍測定部11によって測定された心拍信号に基づいて自律神経成分を算出する自律神経成分算出部12とを備える。なお、これら各部のうち、少なくとも、睡眠段階判定部4、睡眠評価指標算出部5、睡眠評価予測モデル式構築部6及び睡眠改善案提案部7並びに自律神経成分測定部12は、例えば、信号処理を行うコンピュータにおけるCPU(Central Processing Unit)やメモリ等のハードウェアを用いて実行可能なプログラムとして実装したり、コンピュータに装着可能な拡張ボードに搭載されたDSP(Digital Processing Unit)等の専用プロセッサを用いて実装したりすることができる。また、睡眠改善装置は、生体信号検出部1、信号増幅部2及びフィルタ部3を1つの寝台タイプの装置として構成し、この寝台タイプの装置から測定したデータをクラウドサーバに送信することにより、クラウドサーバによって睡眠段階判定部4、睡眠評価指標算出部5、睡眠評価予測モデル式構築部6及び睡眠改善案提案部7の処理を行うようにしてもよい。
【0015】
生体信号検出部1は、利用者の微細な生体信号を検出する無侵襲且つ無拘束センサである。具体的には、生体信号検出部1は、圧力検出チューブ1aと、この圧力検出チューブ1aの内部に収容されている空気の微小な圧力変動を検出するセンサである微差圧センサ1bとから構成され、無侵襲且つ無拘束な生体信号の検出手段を構成している。
【0016】
圧力検出チューブ1aとしては、生体信号の圧力変動範囲に対応して内部の圧力が変動するように適度な弾力を有するものを使用する。また、圧力検出チューブ1aとしては、圧力変化を適切な応答速度で微差圧センサ1bに伝達するために、チューブの中空部の容積を適切に選択する必要がある。圧力検出チューブ1aが適度な弾性と中空部容積とを同時に満足できない場合には、圧力検出チューブ1aの中空部に適切な太さの芯線をチューブ長さ全体にわたって装填し、中空部の容積を適切にとることができる。
【0017】
このような圧力検出チューブ1aは、寝台21上に敷設された硬質シート22上に配置される。睡眠段階判定装置においては、硬質シート22上に弾性を有するクッションシート23が敷設されており、圧力検出チューブ1aの上に利用者が横臥することになる。なお、圧力検出チューブ1aは、クッションシート23等に組み込んだ構成とすることにより、圧力検出チューブ1aの位置を安定させる構造としてもよい。
【0018】
微差圧センサ1bは、微小な圧力の変動を検出するセンサである。本実施の形態においては、微差圧センサ1bとして、低周波用のコンデンサマイクロフォンタイプのものを使用するが、これに限定されるものではなく、適切な分解能とダイナミックレンジとを有するものであればよい。本実施の形態において使用した低周波用のコンデンサマイクロフォンは、一般の音響用マイクロフォンが低周波領域に対して配慮されていないのに引き替え、受圧面の後方にチャンバーを設けることによって低周波領域の特性を大幅に向上させたものであり、圧力検出チューブ1a内の微小圧力変動を検出するのに好適なものである。また、このコンデンサマイクロフォンは、微小な差圧を計測するのに優れており、0.2Paの分解能と約50Paのダイナミックレンジとを有し、通常使用されるセラミックを利用した微差圧センサと比較して数倍の性能を持つものであり、生体信号が体表面に通して圧力検出チューブ1aに加えた微小な圧力を検出するのに好適なものであり、微小な体動を高感度に検出することができる。
【0019】
本実施の形態においては、一方が利用者の胸部の部位の生体信号を検出し、他方が利用者の臀部の部位を検出するように、2組の圧力検出チューブ1aが設けられており、利用者の就寝の姿勢にかかわらず生体信号を検出するように構成されている。なお、睡眠改善装置においては、胸部の部位又は臀部の部位の一方のみに圧力検出チューブ1aを配置する構成としてもよい。このような生体信号検出部1によって検出された生体信号は、信号増幅部2に供給される。睡眠改善装置は、このような無侵襲且つ無拘束で生体信号を検出する構成とすることにより、日常生活において容易に使用することができ、特に高齢者の使用に極めて好適である。
【0020】
信号増幅部2は、後の処理工程で処理できるように生体信号検出部1によって検出された信号を増幅し、さらに、明らかに異常なレベルの信号を除去する等して適切な信号整形処理を行う。この信号増幅部2によって増幅された生体信号は、フィルタ部3に供給される。
【0021】
フィルタ部3は、信号増幅部2によって増幅された生体信号から不要な信号をバンドパスフィルタ等によって除去することにより、心拍信号を抽出する。すなわち、生体信号検出部1によって検出された生体信号は、人体から発する様々な振動が混ざり合った信号であり、その中に心拍信号の他、寝返り等による体動信号等の様々な信号が含まれている。このうち、心拍信号は、心臓のポンプ機能に基づく圧力の変化(すなわち血圧)が振動となって生体信号に含まれるものである。睡眠改善装置においては、これをフィルタ部3によって抽出することにより、心拍信号として認識する。このフィルタ部3を通過した心拍信号は、睡眠段階判定部4に供給される。なお、心拍信号のサンプル周期は、4ミリ秒としている。
【0022】
睡眠段階判定部4は、いわゆる睡眠ポリソムノグラフ(PSG)による国際睡眠深度判定基準による睡眠段階(覚醒、レム睡眠、浅い睡眠、深い睡眠)を判定する。具体的には、睡眠段階判定部4は、例えば本出願人による特開2016-022276号公報、特開2016-202463号公報、特開2018-029772号公報等に記載された手法を採用し、睡眠中の利用者の睡眠段階、すなわち、覚醒段階、レム睡眠段階、浅い睡眠段階及び深い睡眠段階の種別を判定する。睡眠段階判定部4は、判定した各睡眠段階の時間を求め、その時間に関する情報を睡眠評価指標算出部5に供給する。
【0023】
睡眠評価指標算出部5は、後述する利用者に固有の睡眠評価予測モデル式を構築するために、睡眠段階判定部4によって判定された各睡眠段階の時間情報に基づいて、モデル構築用睡眠評価指標を算出する。睡眠評価指標算出部5は、算出したモデル構築用睡眠評価指標を睡眠評価予測モデル式構築部6に供給する。
【0024】
睡眠評価予測モデル式構築部6は、自律神経成分算出部12によって算出された自律神経成分、特に0.003~0.04Hzの極低周波数成分(VLF)のエネルギ値に基づいて、利用者に固有の睡眠評価予測モデル式を構築する。この内容については後述する。
【0025】
睡眠改善案提案部7は、自律神経成分算出部12によって算出された自律神経成分、特に0.003~0.04Hzの極低周波数成分(VLF)のエネルギ値と、睡眠評価予測モデル式構築部6によって構築された睡眠評価予測モデル式とに基づいて、睡眠状態を改善するための利用者に合った生活改善による睡眠改善案を出力する。具体的には、睡眠改善案提案部7は、極低周波数成分(VLF)のエネルギ値を一定値以上にするように昼間の生活スタイルを改善させることによって良好な睡眠が得られる睡眠改善案を提示する。なお、極低周波数成分(VLF)のエネルギ値は、感情的になったり、ストレスがかかったりすることによって極端に低下することから、心理的側面及び身体的側面を含め、いわゆるVAS法等を用いて記録された利用者の日常生活の記録に基づいて、極低周波数成分(VLF)に影響を与えた現象を考慮し、極低周波数成分(VLF)のエネルギ値を一定値以上にするような生活スタイルを睡眠改善案として提案する。睡眠改善案提案部7は、睡眠改善案を出力し、図示しない表示装置に表示させたり、印刷装置によって印刷させたり、記憶装置にデータとして記憶させたりする。
【0026】
心拍測定部11は、昼間(起床時)、特に入床前の心拍を測定するものであり、例えば、指先にセンサを挿入する既存の心拍測定器や、腕時計タイプ等のウェアラブルタイプのセンサを用いて利用者の心拍信号(脈波)を測定する。心拍測定部11は、測定した心拍信号を自律神経成分算出部12に供給する。
【0027】
自律神経成分算出部12は、心拍測定部11によって測定された心拍信号に基づいて、自律神経成分を算出する。なお、心拍測定部11及び自律神経成分算出部12は、通常は、寝台タイプの装置とは別個の装置として構成され、取り扱いの便宜の観点から、特にウェアラブルタイプのセンサとするのが望ましい。このようなウェアラブルタイプのセンサは、例えばブルートゥース(登録商標)等の無線通信を介して、心拍信号又はそれから求めた自律神経成分の情報を外部に送信することができる。より具体的には、ウェアラブルタイプのセンサは、心拍信号又はそれから求めた自律神経成分の情報を、無線通信を介して、睡眠評価予測モデル式構築部6や睡眠改善提案部7を構成するクラウドサーバ等に送信することができる。また、ウェアラブルタイプのセンサは、心拍信号又はそれから求めた自律神経成分の情報を、利用者が所持する携帯端末に送信し、この携帯端末からクラウドサーバ等に送信するようにしてもよい。自律神経成分算出部12は、自律神経成分として、交感成分(LF)、副交感成分(HF)、0.003~0.04Hzの極低周波数成分(VLF)のエネルギ値、及びこれらの合計である自律神経成分トータルパワー(TP)を算出することができるが、少なくとも極低周波数成分(VLF)のエネルギ値を算出できればよい。この自律神経成分算出部12によって算出された自律神経成分は、睡眠評価予測モデル式構築部6及び睡眠改善提案部7に供給される。
【0028】
このような睡眠改善装置は、以下の原理に基づいて睡眠評価指標を算出する。
【0029】
睡眠改善装置は、利用者の昼間の生活状況と睡眠評価指標の実績データとに基づいて利用者に固有の睡眠評価予測モデル式を構築し、昼間の生活スタイルを改善させることによって良好な睡眠が得られる睡眠改善案を提示する。
【0030】
現状の睡眠評価は、いわゆる睡眠ポリソムノグラフ(PSG)による国際睡眠深度判定基準による睡眠段階(覚醒、レム睡眠、浅い睡眠、深い睡眠)の時間の割合に基づいて行われている。具体的には、重み係数α=20、β=8、γ=1とした場合、睡眠評価指標は、睡眠評価指標=20×深い睡眠時間+6×浅い睡眠時間+レム睡眠時間として求められる。睡眠改善装置においては、無侵襲且つ無拘束で生体信号を検出して睡眠段階判定部4によって各睡眠段階の時間を求め、睡眠評価指標算出部5によってモデル構築用睡眠評価指標を算出する。
【0031】
つぎに、睡眠改善装置においては、睡眠評価予測モデル式構築部6により、利用者の定量化された昼間の活動量を用いて、利用者に固有の睡眠評価予測モデル式を構築する。具体的には、上述したように、睡眠評価予測モデル式構築部6は、自律神経成分算出部12によって定量化された自律神経成分を用いる。このような自律神経成分の定量化を行うのは、以下のような仮説に基づくものである。
【0032】
睡眠評価指標は、昼間の肉体的疲労度、精神的疲労度及び前日の睡眠の状況と比例関係にあることが推測できる。また、睡眠評価指標と利用者の睡眠良否の感覚指標VAS(日常生活の記録)との間にも関連があることが推測できる。特に、持続的な活動量が大きいと、上述した自律神経成分トータルパワー(TP)及び極低周波数成分(VLF)(0.003~0.04Hz、5分から25秒)のエネルギ値は大きくなり、睡眠評価指標が大きくなり、これは、良く睡眠できることを示す。持続的な活動量は、運動の内容や方法によって変化するため、極低周波数成分(VLF)は、利用者個人に合った運動内容を見つけることによって改善指標になる可能性がある。
【0033】
また、自律神経の障害が生じると、自律神経のバランスは交感神経優位へと偏位し、特に高齢者では心血管系の変性が促進されることが知られている。心拍変動の低下は、交感神経緊張の亢進と副交感神経緊張の減少によると思われる。これは、心不全、冠動脈疾患、急性心筋梗塞による死亡率と関連がある。全心拍変動の評価は、心拍の周期変動の周波数成分のパワースペクトル解析によって自律神経成分を求めることによって行うことができる。自律神経の障害は、主に運動によって改善される。糖尿病等は、血管に影響する典型的例である。このような自律神経は、睡眠状態にも影響し、自律神経の障害が生じると、自律神経のバランスは交感神経優位へと偏位し、緊張成分が多くなり、睡眠が困難になる。これは、高齢者によく見られる現象である。
【0034】
さらに、極低周波数成分(VLF)には、血管運動活動、レニン・アンジオテンシン系(ホルモン系)、及び体温調節が反映される。ここで、深い睡眠になると、体温が下がる。極低周波数成分(VLF)のエネルギ値が小さいと、体温調節が機能せず、睡眠不良の原因になることが推測できる。また、交感成分(LF)について、この中間周波数成分(0.05~0.20Hz)は、圧受容体系を反映した緊張成分である。さらに、副交感成分(HF)について、この高周波数成分(0.20~0.35Hz)は、呼吸変動を反映した弛緩成分である。したがって、副交感成分(HF)が優位なほど、すなわち、副交感成分(HF)/交感成分(LF)が大きいほど、一般的には身体が弛緩して良く睡眠できる。さらにまた、自律神経成分トータルパワー(TP)は、極低周波数成分(VLF)+交感成分(LF)+副交感成分(HF)のエネルギ値であり、これが大きいほど、耐ストレス性が大きいことを示す。したがって、自律神経成分トータルパワー(TP)が大きいほど、良く睡眠できる。
【0035】
したがって、良好な睡眠は、入床前の極低周波数成分(VLF)のエネルギ値及び自律神経成分トータルパワー(TP)が大きい場合であり、日常生活において、これらの値を一定値以上に大きくするような運動や生活内容を見つけることが、睡眠を改善することにつながるといえる。
【0036】
これらの仮説を検証するために、図3に、ある被験者について、入床前の心拍信号から求めた自律神経成分の測定結果と入床後の睡眠評価指標とを比較した例を示す。測定は、図1に示した睡眠改善装置によって行い、この自律神経成分と睡眠評価指標との相互相関係数を求めると、図4に示すようになった。すなわち、自律神経成分のうち、特に極低周波数成分(VLF)のエネルギ値が睡眠評価指標との相関が高いことがわかる。この相関関係から、当該被験者の睡眠評価予測モデル式を構築すると、y=0.0204x+27.2となった。ここで、yは、睡眠評価指標であり、xは、入床前の極低周波数成分(VLF)のエネルギ値(mS)である。なお、この睡眠評価予測モデル式は、利用者によって異なることはいうまでもない。
【0037】
睡眠改善装置においては、このような検証結果に基づいて、睡眠評価予測モデル式を構築してモデル構築用睡眠評価指標を導出し、求めたモデル構築用睡眠評価指標に基づいて、睡眠評価予測モデル式を構築する。
【0038】
具体的には、睡眠改善装置においては、自律神経成分算出部12によって利用者の入床前の自律神経成分を算出する処理を、例えば10日間にわたって行う。このとき、極低周波数成分(VLF)のエネルギ値が大きいときの運動内容などの日常生活はどのようなものであるかを別途記録しておく。例えば、運動内容としては、個人によって異なるが、ストレッチ等で血管を刺激する運動やランニング等が挙げられる。また、睡眠改善装置においては、睡眠評価指標算出部5によって各睡眠段階の時間に基づくモデル構築用睡眠評価指標を算出する処理を、同様に例えば10日間にわたって行う。そして、睡眠改善装置においては、得られたデータに基づいて、睡眠評価予測モデル式構築部6によって睡眠評価予測モデル式を構築する。
【0039】
なお、睡眠評価予測モデル式を、利用者の身体的不具合や寝室等の環境条件に依存しない理想的な予測モデル式とするために、以下のような現象が起こった日は、予測モデル式の構築のための測定を行わないことが望ましい。すなわち、睡眠改善装置においては、1)夜間に突発的に足が痙攣した場合や腹痛が発生した場合等の身体的不具合が起きた場合、2)利用者にとって寝具が不適切で身体が冷える場合や周囲の騒音等で眠れない場合等の睡眠環境が悪化した場合、3)眠くないのにだらだらと在床している場合、4)極低周波数成分(VLF)のエネルギ値の測定後に、他者との口論を行った場合のように感情的に高揚した場合(この場合、極低周波数成分(VLF)は極端に低下する)には、測定対象から除外するのが望ましい。
【0040】
睡眠改善装置においては、このようにして睡眠評価予測モデル式を構築すると、例えばその後の夕方と入床前等の2回、自律神経成分算出部12を用いて極低周波数成分(VLF)のエネルギ値を測定して求め、睡眠改善案提案部7によって睡眠評価予測モデル式に極低周波数成分(VLF)のエネルギ値をあてはめることにより、そのときの予測睡眠評価指標を算出する。そして、睡眠改善装置においては、算出された予測睡眠評価指標に基づいて、睡眠改善案提案部7による睡眠改善案の提案を行う。例えば、睡眠改善案提案部7は、利用者が良く眠れる一定値以上の睡眠評価指標を事前に把握しておき、睡眠評価予測モデル式から求めた極低周波数成分(VLF)のエネルギ値に基づく予測睡眠評価指標が事前に把握した睡眠評価指標と一定値以上の差である場合には、この極低周波数成分(VLF)のエネルギ値を一定値以上に大きくするような所定の運動、入浴や心理的改善の瞑想等を推奨する提案を行う。利用者は、この提案に基づいて、夕方に極低周波数成分(VLF)のエネルギ値を測定した場合にはその日の入床までに運動、入浴や心理的改善の瞑想等を行うことにより、極低周波数成分(VLF)の約10-30%程度というかなりの改善が可能であり、その日に良好な睡眠が得られる可能性がある。さらに、その日の生活状況を反省して翌日に運動や心理的改善の瞑想を行う等して、睡眠改善を図ることができる。なお、睡眠評価予測モデル式を構築した後は、睡眠評価指標算出部5によりモデル構築用睡眠評価指標を算出する必要はなくなるが日々記録しておき、睡眠改善案提案部7による予測睡眠指標評価と比較する等、参考情報として利用することが望ましい。
【0041】
睡眠改善装置においては、このような処理を行うことにより、夕方と入床前に睡眠の良否を利用者が把握可能となり、その日の睡眠の改善と、その日の生活内容を反省することを促すことができる。特に、極低周波数成分(VLF)のエネルギ値をいかに大きくできるか、心理的側面を含めた生活状況の改善案等をみつけることにより、睡眠状態の改善を行うことができる。これにより、利用者自身が生活状況(心理的及び身体的)を見つめなおす目標値を設定することができるようになり、生活改善に意欲を出させることができる。この手法は、糖尿病等の生活習慣病のリハビリにおける運動療法の指標にもなり得る。
【0042】
なお、本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではない。
【0043】
例えば、生体信号検出部1としては、上述した中空チューブを用いる代わりに、図6に示すようなエアマット式の検出手段を用いてもよい。すなわち、図6に示す生体信号検出部30は、内部に空気を封入したエアマット30aの一端にエアチューブ30bが接続され、さらに、このエアチューブ30bに微差圧センサ30cが接続されて構成される。なお、微差圧センサ30cは、中空チューブを用いた生体信号検出部1の場合において説明したものと同様のものを用いることができる。
【0044】
また、寝台タイプの装置、独立した心拍測定部11及び自律神経成分算出部12、及びクラウドサーバによる構成について説明したが、本発明は、このような装置構成態様に限らず、各部の機能を発揮する構成であれば、様々な態様をとることができる。
【0045】
このように、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0046】
1,30 生体信号検出部
1a 圧力検出チューブ
1b,30c 微差圧センサ
2 信号増幅部
3 フィルタ部
4 睡眠段階判定部
5 睡眠評価指標算出部
6 睡眠評価予測モデル式構築部
7 睡眠改善案提案部
11 心拍測定部
12 自律神経成分算出部
21 寝台
22 硬質シート
23 クッションシート
30a エアマット
30b エアチューブ
図1
図2
図3
図4
図5