(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-30
(45)【発行日】2025-02-07
(54)【発明の名称】リチウム二次電池正極活物質用前駆体及びリチウム二次電池正極活物質の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20250131BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20250131BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
(21)【出願番号】P 2021170550
(22)【出願日】2021-10-18
(62)【分割の表示】P 2020111817の分割
【原出願日】2020-06-29
【審査請求日】2023-05-01
(73)【特許権者】
【識別番号】592197418
【氏名又は名称】株式会社田中化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100196058
【氏名又は名称】佐藤 彰雄
(74)【代理人】
【識別番号】100153763
【氏名又は名称】加藤 広之
(74)【代理人】
【識別番号】100214215
【氏名又は名称】▲高▼梨 航
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(72)【発明者】
【氏名】黒田 友也
(72)【発明者】
【氏名】出蔵 恵二
【審査官】式部 玲
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-092070(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108751265(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザー回折式粒度分布測定によって得られる体積基準の累積粒度分布曲線において、小粒子側からの累積体積割合が50%となる粒子径(μm)であるD
50
が、4.5μm以上であるリチウム二次電池正極活物質用前駆体の製造方法であって、
少なくともニッケル原子を含む金属含有水溶液とアルカリ性水溶液とを、反応槽に供給して水酸化物含有スラリーを得るスラリー調製工程と、前記水酸化物含有スラリーを、液体サイクロン式分級装置を用いて分級する分級工程と、を備え、
前記液体サイクロン式分級装置のテーパー部のテーパー角θが10°以上60°以下である、リチウム二次電池正極活物質用前駆体の製造方法。
【請求項2】
前記液体サイクロン式分級装置のスラリー送液流速が、0.6m/秒以上1.5m/秒以下である、請求項1に記載のリチウム二次電池正極活物質用前駆体の製造方法。
【請求項3】
前記液体サイクロン式分級装置によって分級された水酸化物含有スラリーを反応槽内に戻す還流工程をさらに備える、請求項1又は2に記載のリチウム二次電池正極活物質用前駆体の製造方法。
【請求項4】
下記組成式(A)で表されるリチウム二次電池正極活物質用前駆体を製造する方法である、請求項1又は2に記載のリチウム二次電池正極活物質用前駆体の製造方法。
Ni
1-x-yCo
xM
yO
z(OH)
2-α ・・・組成式(A)
(組成式(A)中、0≦x≦0.45、0≦y≦0.45、0≦z≦3、-0.5≦α≦2であり、M はMg、Ca、Sr、Ba、Zn、B、Al、Mn、Ga、Ti、Zr、Ge、Fe、Cu、Cr、V、W、Mo、Sc、Y、Nb、La、Ta、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、In、及びSnからなる群より選ばれる1種以上の金属元素である。)
【請求項5】
請求項1又は2に記載のリチウム二次電池正極活物質用前駆体の製造方法によって得られるリチウム二次電池正極活物質用前駆体と、リチウム化合物とを混合し、得られた混合物を焼成する工程を含む、リチウム二次電池正極活物質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池正極活物質用前駆体及びリチウム二次電池正極活物質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池正極活物質用前駆体は、リチウム二次電池に使用される正極活物質の原料となる。
リチウム二次電池正極活物質の製造方法の一例としては、リチウム以外の金属元素を含む前駆体を製造し、得られた前駆体とリチウム化合物とを混合して焼成する方法があげられる。リチウム以外の金属元素は例えば、ニッケル、コバルト、マンガン、アルミニウム等である。
【0003】
リチウム二次電池は、既に携帯電話用途やノートパソコン用途などの小型電源だけでなく、自動車用途や電力貯蔵用途などの中型又は大型電源においても、実用化が進んでいる。
【0004】
リチウム二次電池の電池特性を向上させるため、リチウム二次電池正極活物質の粒度分布を制御する方法が検討されている。例えば、粒度分布が狭い粒子によって構成される正極活物質を用いると、サイクル特性等の電池特性に優れるリチウム二次電池を提供できることが知られている。
【0005】
このような技術として、特許文献1には、粒度分布の広がりを示す指標である〔(d90-d10)/平均粒径〕が0.60以下である非水系電解質二次電池用正極活物質が記載されている。特許文献1には、このような非水系電解質二次電池用正極活物質を用いた二次電池は、高容量で熱的安全性が高く、高出力であることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、リチウム二次電池正極活物質と電解液が接触すると、電解液が分解してガスが発生することがある。発生したガスは電池の膨れの原因となり、電池の寿命を短くする要因となる。電池膨れを抑制し、従来の電池よりもより長寿命の電池を製造する観点から、リチウム二次電池正極活物質とその原料である前駆体には改良の余地があった。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、電池膨れを抑制し、より長寿命の電池を製造できるリチウム二次電池正極活物質用前駆体、およびリチウム二次電池正極活物質の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は下記の[1]~[4]を包含する。
[1]少なくともニッケル原子を含むリチウム二次電池正極活物質用前駆体であって、レーザー回折式粒度分布測定によって得られる体積基準の累積粒度分布曲線において、小粒子側からの累積体積割合が10%となる粒子径(μm)をD10、30%となる粒子径(μm)をD30、50%となる粒子径(μm)をD50、70%となる粒子径(μm)をD70、90%となる粒子径(μm)をD90としたときに、前記D10、前記D30、前記D50、前記D70、及び前記D90が下記要件(1)~(3)を満たす、リチウム二次電池正極活物質用前駆体。
(1)(D50-D10)/D30≦0.6
(2)(D90-D50)/D70≦0.6
(3)0.90≦[(D50-D10)/D30]/[(D90-D50)/D70]≦1.10
[2]下記組成式(A)で表される、[1]に記載のリチウム二次電池正極活物質用前駆体。
Ni1-x-yCoxMyOz(OH)2-α ・・・組成式(A)
(組成式(A)中、0≦x≦0.45、0≦y≦0.45、0≦z≦3、-0.5≦α≦2であり、MはMg、Ca、Sr、Ba、Zn、B、Al、Mn、Ga、Ti、Zr、Ge、Fe、Cu、Cr、V、W、Mo、Sc、Y、Nb、La、Ta、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、In、及びSnからなる群より選ばれる1種以上の金属元素である。)
[3]前記D50の値は10μm未満である、[1]又は[2]に記載のリチウム二次電池正極活物質用前駆体。
[4][1]~[3]のいずれか1つに記載のリチウム二次電池正極活物質用前駆体とリチウム化合物とを混合し、得られた混合物を焼成する工程を含む、リチウム二次電池正極活物質の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、電池膨れを抑制し、従来の電池よりもより長寿命の電池を製造できるリチウム二次電池正極活物質用前駆体、およびリチウム二次電池正極活物質の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1A】リチウム二次電池の一例を示す概略構成図である。
【
図1B】リチウム二次電池の一例を示す概略構成図である。
【
図2A】本発明の前駆体を用いて製造したリチウム二次電池正極活物質の電極内の状態を説明する模式図である。
【
図2B】本発明ではない前駆体を用いて製造したリチウム二次電池正極活物質の電極内の状態を説明する模式図である。
【
図4】
図4は、全固体リチウムイオン二次電池が備える積層体を示す模式図である。
【
図5】
図5は、全固体リチウムイオン二次電池の全体構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<リチウム二次電池正極活物質用前駆体>
本実施形態は、少なくともニッケル原子を含むリチウム二次電池正極活物質用前駆体である。以下、「リチウム二次電池正極活物質用前駆体」を「前駆体」と記載する場合があり、「リチウム二次電池正極活物質」を「正極活物質」と記載する場合がある。
本実施形態の前駆体を、リチウム化合物と混合して焼成することにより、リチウム二次電池正極活物質を製造することができる。
【0013】
本実施形態の一つの態様において、前駆体は一次粒子と一次粒子の凝集体である二次粒子と、から構成される。
本実施形態の一つの態様において、前駆体は粉末である。
【0014】
本実施形態の前駆体は、レーザー回折式粒度分布測定によって得られる体積基準の累積粒度分布曲線において、小粒子側からの累積体積割合が10%となる粒子径(μm)をD10、30%となる粒子径(μm)をD30、50%となる粒子径(μm)をD50、70%となる粒子径(μm)をD70、90%となる粒子径(μm)をD90としたときに、前記D10、前記D30、前記D50、前記D70、及び前記D90が、下記要件(1)~(3)を満たす。
(1)(D50-D10)/D30≦0.6
(2)(D90-D50)/D70≦0.6
(3)0.90≦[(D50-D10)/D30]/[(D90-D50)/D70]≦1.10
【0015】
前駆体の累積体積粒度分布は、レーザー回折散乱法によって測定される。
測定方法としては、例えば、まず、分散剤を添加し、そこに粉末状の前駆体を分散媒に投入し撹拌することで、前駆体の分散液を得る。次にレーザー回折式粒度分布測定装置を用いて、粒度分布を測定し、体積基準の累積粒度分布曲線を得る。
【0016】
分散媒としては、例えばイオン交換水が使用できる。また、分散剤としては、例えば、20質量%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液が使用できる。
レーザー回折式粒度分布測定装置としては、例えば、株式会社堀場製作所製LA950が使用できる。
測定の際の透過率が85±3%となる態様で粉末状の前駆体を投入することが好ましい。
【0017】
上述の方法により得られた体積基準の累積粒度分布曲線において、小粒子側からの累積体積割合が10%となる粒子径(μm)をD10、30%となる粒子径(μm)をD30、50%となる粒子径(μm)をD50、70%となる粒子径(μm)をD70、90%となる粒子径(μm)をD90とする。なお、本明細書において、「粒子径」とは、二次粒子径を指す。
【0018】
本実施形態においてD10、D30、及びD50は、下記の要件(1)を満たす。
(1)(D50-D10)/D30≦0.6
D10、D30、及びD50が要件(1)を満たすと、前駆体に含まれる粒子径がD50よりも小さい複数の粒子において、複数の粒子間の粒子径のばらつきが小さいことを意味する。
【0019】
(D50-D10)/D30の値は、0.55以下が好ましく、0.5以下がより好ましく、0.48以下がさらに好ましい。
(D50-D10)/D30の値の下限値は、例えば0.1以上、0.2以上、0.3以上が挙げられる。
(D50-D10)/D30の値の上限値及び下限値は、任意に組み合わせることができる。
組み合わせの例としては、(D50-D10)/D30が、0.1以上0.55以下、0.2以上0.5以下、0.3以上0.48以下が挙げられる。
【0020】
本実施形態においてD50、D70、及びD90は、下記の要件(2)を満たす。
(2)(D90-D50)/D70≦0.6
D50、D70、及びD90が要件(2)を満たすと、前駆体に含まれる粒子径がD50よりも大きい複数の粒子において、複数の粒子間の粒子径のばらつきが小さいことを意味する。
【0021】
(D90-D50)/D70の値は、0.55以下が好ましく、0.5以下がより好ましく、0.48以下がさらに好ましい。
(D90-D50)/D70の値の下限値は、例えば0.1以上、0.2以上、0.3以上が挙げられる。
(D90-D50)/D70の値の上限値及び下限値は、任意に組み合わせることができる。
組み合わせの例としては、(D90-D50)/D70は0.1以上0.55以下、0.2以上0.5以下、0.3以上0.48以下が挙げられる。
【0022】
要件(1)及び(2)を満たす前駆体は、ピークの幅が狭い粒度分布であることを意味する。
【0023】
本実施形態の前駆体は、下記要件(3)を満たす。
(3)0.90≦[(D50-D10)/D30]/[(D90-D50)/D70]≦1.10
【0024】
要件(3)は、下記要件(3)-1、(3)-2又は(3)-3であることが好ましい。
(3)-1 0.95≦[(D50-D10)/D30]/[(D90-D50)/D70]≦1.09
(3)-2 0.96≦[(D50-D10)/D30]/[(D90-D50)/D70]≦1.08
(3)-3 0.97≦[(D50-D10)/D30]/[(D90-D50)/D70]≦1.07
【0025】
要件(1)~(3)を満たす本実施形態の前駆体を原料に用いて製造したリチウム二次電池正極活物質を用いると、正極活物質の粒子の充填密度がより均一な電極を製造することができる。このことについて、
図2A及び
図2Bを参照して説明する。
図2Aは、本実施形態の前駆体を原料に用いて製造した正極活物質50から得られる電極の内部の状態を説明する模式図である。領域S1及び領域S2において、一定体積の範囲に存在する正極活物質50の量は同様である。すなわち、電極内における一定体積中に存在する正極活物質50の存在量が均一である。
一方、
図2Bは、本発明ではない前駆体を原料に用いて製造した正極活物質51から得られる電極の内部の状態を説明する模式図である。領域S3及び領域S4において、一定体積の範囲に存在する正極活物質51の量のばらつきが大きくなる。すなわち、電極内における一定体積中に存在する正極活物質50の存在量が不均一である。
【0026】
図2Aのように、電極内における一定体積中に存在する正極活物質の存在量が均一である場合、得られる電極は、電池を充電又は放電した際に電極内にかかる電圧が均一になりやすい。このような電極は局所的に強い電圧がかかりにくく、電解液の分解に起因するガスが発生しにくい。このため電池膨れを抑制でき、長寿命の電池を得ることができる。
【0027】
一方、
図2Bのように、電極内における一定体積中に存在する正極活物質の存在量が不均一である場合、得られる電極は、電池を充電又は放電した際に電極内にかかる電圧がばらつきやすい。このような電極では局所的に強い電圧がかかりやすく、電解液の分解に起因するガスが発生しやすい。
【0028】
・組成式(A)
本実施形態の前駆体は、下記組成式(A)で表されることが好ましい。下記組成式(A)で表される化合物は、酸化物又は水酸化物であることが好ましい。
Ni1-x-yCoxMyOz(OH)2-α ・・・組成式(A)
(組成式(A)中、0≦x≦0.45、0≦y≦0.45、0≦z≦3、-0.5≦α≦2であり、MはMg、Ca、Sr、Ba、Zn、B、Al、Mn、Ga、Ti、Zr、Ge、Fe、Cu、Cr、V、W、Mo、Sc、Y、Nb、La、Ta、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、In、及びSnからなる群より選ばれる1種以上の金属元素である。)
【0029】
・・x
xは、0.01以上が好ましく、0.02以上がより好ましく、0.03以上がさらに好ましい。
またxは、0.44以下が好ましく、0.42以下がより好ましく、0.40以下がさらに好ましい。
xの上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。
組み合わせの例としては、0.01≦x≦0.44が好ましく、0.02≦x≦0.42がより好ましく、0.03≦x≦0.40がさらに好ましい。
【0030】
・・y
yは、0.01以上が好ましく、0.02以上がより好ましく、0.03以上がさらに好ましい。
またyは、0.44以下が好ましく、0.42以下がより好ましく、0.40以下がさらに好ましい。
yの上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。
組み合わせの例としては、0.01≦y≦0.44が好ましく、0.02≦y≦0.42がより好ましく、0.03≦y≦0.40がさらに好ましい。
【0031】
・・z
zは、0.1以上が好ましく、0.2以上がより好ましく、0.3以上がさらに好ましい。
またzは、2.9以下が好ましく、2.8以下がより好ましく、2.7以下がさらに好ましい。
zの上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。
組み合わせの例としては、0.1≦z≦2.9が好ましく、0.2≦z≦2.8がより好ましく、0.3≦z≦2.7がさらに好ましい。
【0032】
・・α
αは、-0.45以上が好ましく、-0.4以上がより好ましく、-0.35以上がさらに好ましい。
またαは、1.8以下が好ましく、1.6以下がより好ましく、1.4以下がさらに好ましい。
αの上限値及び下限値は任意に組みわせることができる。
組み合わせの例としては、-0.45≦α≦1.8が好ましく、-0.4≦α≦1.6がより好ましく、-0.35≦α≦1.4がさらに好ましい。
【0033】
・・x+y
x+yは、0を超えることが好ましく、0.05以上0.70以下がより好ましく、0.10以上0.50以下がさらに好ましい。
【0034】
・・M
組成式(A)中、MはZr、Al、及びMnからなる群より選ばれる1種以上の金属元素が好ましい。
【0035】
前駆体の組成分析は、前駆体の粉末を塩酸に溶解させた後、ICP発光分光分析装置を用いて測定できる。
ICP発光分光分析装置としては、例えば、株式会社パーキンエルマー製、Optima7300が使用できる。
【0036】
本実施形態の前駆体は、D50の値が10μm未満であることが好ましく、9μm以下がより好ましく、8μm以下がさらに好ましい。D50の値は1μmを超えることが好ましく、2μm以上がより好ましく、3μm以上がさらに好ましい。前駆体のD50が上記上限値未満であると、後の焼成工程においてリチウム化合物と前駆体とが均一に反応し、前駆体の粒度分布と同じ正極活物質が得られやすい。このような正極活物質を用いると、より電池膨れを抑制したリチウム二次電池が得られやすい。
D50の値の上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。
組み合わせの例としては、D50は、1μmを超え10μm未満、2μm以上9μm以下、3μm以上8μm以下が挙げられる。
【0037】
<リチウム二次電池正極活物質用前駆体の製造方法>
本実施形態のリチウム二次電池正極活物質用前駆体を製造する方法について説明する。
前駆体を製造する工程は、少なくともニッケル原子を含む金属含有水溶液とアルカリ性水溶液とを、反応槽に供給して水酸化物含有スラリーを得るスラリー調製工程と、前記水酸化物含有スラリーを、液体サイクロン式分級装置を用いて分級する分級工程と、を備える。
【0038】
前駆体を製造する方法は、スラリー調製工程、分級工程、及び任意の還流工程をこの順で備えることが好ましい。以下、各工程について説明する。
【0039】
[スラリー調製工程]
スラリー調製工程は、少なくともニッケル原子を含む金属含有水溶液とアルカリ性水溶液とを、反応槽に供給して水酸化物含有スラリーを得る工程である。
本工程では、少なくともニッケル原子を含む金属含有水溶液と、アルカリ性水溶液とを、攪拌しながらそれぞれ連続的に反応槽に供給して反応させ、水酸化物含有スラリーを得る。
このとき、アンモニウムイオン供給体を含む水溶液を供給してもよい。
【0040】
以下、水酸化物含有スラリーとして、ニッケル原子、コバルト原子、及びアルミニウム原子を含む金属複合水酸化物(ニッケルコバルトアルミニウム金属複合水酸化物と称することがある。)を含有するスラリーを例に、本工程について説明する。
【0041】
まず共沈殿法、特に特開2002-201028号公報に記載された連続式共沈殿法により、ニッケル塩溶液、コバルト塩溶液、アルミニウム塩溶液、及び錯化剤を反応させ、Ni1-x-yCoxAly(OH)2で表される金属複合水酸化物を製造する。
【0042】
上記ニッケル塩溶液の溶質であるニッケル塩としては、特に限定されないが、例えば硫酸ニッケル、硝酸ニッケル、塩化ニッケル及び酢酸ニッケルのうちの何れか1種又は2種以上を使用することができる。
【0043】
上記コバルト塩溶液の溶質であるコバルト塩としては、例えば硫酸コバルト、硝酸コバルト、塩化コバルト、及び酢酸コバルトのうちの何れか1種又は2種以上を使用することができる。
【0044】
上記アルミニウム塩溶液の溶質であるアルミニウム塩としては、例えば硫酸アルミニウムやアルミン酸ソーダ等が使用できる。
【0045】
なお、水酸化物含有スラリーとして、マンガンを含む金属複合水酸化物を含有するスラリーを製造する場合、マンガン塩溶液を用いる。この場合には、マンガン塩溶液の溶質であるマンガン塩としては、例えば硫酸マンガン、硝酸マンガン、塩化マンガン、及び酢酸マンガンのうちの何れか1種又は2種以上を使用することができる。
【0046】
以上の金属塩は、上記Ni1-x-yCoxAly(OH)2の組成比に対応する割合で用いる。すなわち、各金属塩は、ニッケル塩溶液の溶質におけるニッケル原子、コバルト塩溶液の溶質におけるコバルト原子、アルミニウム塩溶液の溶質におけるアルミニウム原子のモル比が、Ni1-x-yCoxAly(OH)2の組成比に対応して1-x-y:x:yとなる量を用いる。
【0047】
また、ニッケル塩溶液、コバルト塩溶液、及びアルミニウム塩溶液の溶媒は、水であることが好ましい。
【0048】
錯化剤は、水溶液中で、ニッケルイオン、コバルトイオン、及びアルミニウムイオンと錯体を形成可能な化合物である。錯化剤は、例えば、アンモニウムイオン供給体、ヒドラジン、エチレンジアミン四酢酸、ニトリロ三酢酸、ウラシル二酢酸、及びグリシンが挙げられる。
アンモニウムイオン供給体としては、例えば水酸化アンモニウム、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、炭酸アンモニウム、弗化アンモニウム等のアンモニウム塩が使用できる。
【0049】
スラリー調整工程において、錯化剤は、用いられてもよく、用いられなくてもよい。本実施形態において、錯化剤が用いられる場合、ニッケル塩溶液、コバルト塩溶液、及びアルミニウム塩溶液及び錯化剤を含む混合液に含まれる錯化剤の量は、例えば金属塩のモル数の合計に対するモル比が0より大きく2.0以下である。
【0050】
共沈殿法に際しては、ニッケル塩溶液、マンガン塩溶液、コバルト塩溶液、アルミニウム塩溶液及び錯化剤を含む混合液のpH値を調整するため、混合液のpHがアルカリ性から中性になる前に、混合液にアルカリ性水溶液を添加する。アルカリ性水溶液は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが使用できる。
なお、本明細書におけるpHの値は、混合液の温度が40℃の時に測定された値であると定義する。混合液のpHは、反応槽からサンプリングした混合液の温度が、40℃になったときに測定する。
サンプリングした混合液の温度が40℃よりも低い場合には、混合液を加熱して40℃になったときにpHを測定する。
サンプリングした混合液の温度が40℃よりも高い場合には、混合液を冷却して40℃になったときにpHを測定する。
【0051】
反応に際しては、反応槽の温度を、例えば20℃以上80℃以下、好ましくは30℃以上70℃以下の範囲内で制御する。
【0052】
また、反応に際しては、反応槽内のpH値を、例えばpH9以上pH13以下、好ましくはpH11以上pH13以下の範囲内で制御する。
【0053】
反応槽内の物質は、適宜撹拌して混合する。
連続式共沈殿法で用いる反応槽は、形成された金属複合水酸化物を分離するために、オーバーフローさせるタイプの反応槽を用いることができる。
【0054】
反応槽内は不活性雰囲気であってもよい。不活性雰囲気であると、ニッケルよりも酸化されやすい元素が凝集してしまうことを抑制し、均一な金属複合水酸化物を得ることができる。
【0055】
また、反応槽内は酸素含有雰囲気または酸化剤存在下であってもよい。
適度な量の酸素原子を有する酸素含有雰囲気であれば、反応槽内の不活性雰囲気を保つことができる。なお、反応槽内の雰囲気制御をガス種で行う場合、所定のガス種を反応槽内に通気するか、反応液を直接バブリングすればよい。
【0056】
酸化剤として、過酸化水素などの過酸化物、過マンガン酸塩などの過酸化物塩、過塩素酸塩、次亜塩素酸塩、硝酸、ハロゲン又はオゾンなどを使用できる。
【0057】
また、反応槽内の均一性を高めつつ、前駆体の結晶成長を促進するため、反応槽中に設置した撹拌翼により溶液を撹拌することが好ましい。攪拌翼の回転速度を調整することにより、前駆体の物性を制御することが出来る。攪拌速度反応槽のサイズにも依存するが、一例をあげると、攪拌翼の回転速度は300rpm以上2000rpm以下であることが好ましい。
【0058】
上述の工程により、水酸化物含有スラリーとして、ニッケルコバルトアルミニウム金属複合水酸化物を含むスラリーが得られる。
【0059】
[分級工程]
本工程においては、上記スラリー調製工程で得られる水酸化物含有スラリーを、液体サイクロン式分級装置を用いて分級する。
【0060】
水酸化物含有スラリーは、連続的に反応槽から抜き出されてスラリー貯槽に貯められ、液体サイクロン式分級装置によって分級される。具体的には、
図3の液体サイクロン式分級装置40において、符号Yに示す方向から送液された水酸化物含有スラリーに含まれる粒子のうち、目的の粒子径を有する粒子を含む水酸化物含有スラリーAは、テーパー部42を通って、液体サイクロン式分級装置40の下部より排出される。
水酸化物含有スラリーA以外の粒子を含む水酸化物含有スラリーBは、符号Xに示す方向に沿って、液体サイクロン式分級装置40の上部より排出される。液体サイクロン式分級装置により、水酸化物含有スラリーAは回収され、水酸化物含有スラリーBは後の還流工程にて連続的に反応槽に還流される。
【0061】
図3に液体サイクロン式分級装置40の模式図を示す。液体サイクロン式分級装置40は、円筒部41と、テーパー部42とを備える。
まず、
図3の符号Yに示す方向から水酸化物含有スラリーが送液され、液体サイクロン式分級装置に水酸化物含有スラリーが導入される。その後、水酸化物含有スラリーは回転運動を起こして遠心力が働き、水酸化物含有スラリーに含まれる粒子の粒子径に応じて粒子が分級される。
【0062】
遠心力により、粒子径が小さい粒子は渦の中心部に集まり、中心部に発生する上昇流(
図3中、破線に示す矢印)に乗って符号Xに示す方向に排出される。
粒子径が大きい粒子は渦の外側に集まり、外壁部に発生する下降流(
図3中、実線に示す矢印)に乗って符号Zに示す方向に排出される。
【0063】
本実施形態において、液体サイクロン式分級装置40のテーパー部42のテーパー角θは、10°以上60°以下が好ましい。
【0064】
テーパー部42のテーパー角θが上記下限値以上である場合、水酸化物含有スラリーに含まれる粒子に対して十分な遠心力が加わり、分級効率が上がりやすく、上記要件(1)~(3)を満たす前駆体が得られやすい。具体的には、液体サイクロン式分級装置のテーパー角θを大きくすると、(D50-D10)/D30の値は小さくなりやすく、(D90-D50)/D70の値は小さくなりやすく、[(D50-D10)/D30]/[(D50-D10)/D30]の値は1に近くなりやすくなる。
テーパー部42のテーパー角θが上記上限値以下である場合、テーパー部42からの排出量を高いまま維持できる。このため、液体サイクロン式分級装置40内に打ち込まれた水酸化物含有スラリーに含まれる粒子数が増大しにくく、高い分級効率を維持したまま、生産効率を上げることができる。
【0065】
液体サイクロン式分級装置のスラリー送液流速は、0.6m/秒以上1.5m/秒以下とすることが好ましい。スラリー送液流速とは、符号Yに示す方向から送液する際の流速の実測値を指す。
【0066】
液体サイクロン式分級装置のスラリー送液流速が上記下限値以上の場合、水酸化物含有スラリーに含まれる粒子に対して十分な遠心力が加わり、分級効率が上がりやすく、上記要件(1)~(3)を満たす前駆体が得られやすい。具体的には、液体サイクロン式分級装置のスラリー送液流速を大きくすると、(D50-D10)/D30の値は小さくなりやすく、(D90-D50)/D70の値は小さくなりやすく、[(D50-D10)/D30]/[(D50-D10)/D30]の値は1に近くなりやすくなる。また、テーパー部42から粒子が多く排出され、前駆体の生産効率を上げることができる。
液体サイクロン式分級装置のスラリー送液流速が上記上限値以下の場合、水酸化物含有スラリーに含まれる粒子に過剰に強い遠心力が加わりにくく、目的としない小さい粒子径の粒子がテーパー部42から排出されにくくなるため、分級効率が上がりやすく、上記要件(1)~(3)を満たす前駆体が得られやすい。
【0067】
分級工程を実施し、さらにテーパー角θと、スラリー送液流速を上記の範囲とすることにより、前述の要件(1)~(3)を満たす前駆体を得ることができる。
【0068】
[還流工程]
還流工程は、分級工程において、液体サイクロン式分級装置によって分級された水酸化物含有スラリーBを反応槽内に戻す(還流する)工程である。還流方法は、特に限定されることなく公知の手段を用いることができる。たとえば、分級後の水酸化物含有スラリーBをそのまま反応槽に戻す場合にはポンプにより反応槽へ戻せばよい。
分級工程、還流工程及び反応槽内での粒子成長を繰り返すことにより、水酸化物含有スラリーBに含まれる粒子を、目的の粒子径に達するまで成長させ続けることができ、上記要件(1)~(3)を満たす前駆体が得られやすくなる。
【0069】
なお、還流速度、すなわち、水酸化物含有スラリーBを反応槽に戻す速度は、金属含有水溶液やアンモニウムイオン供給体を含む水溶液などの供給速度に応じて調整すればよい。
【0070】
[脱水工程]
以上の反応後、得られた水酸化物含有スラリーを洗浄した後、乾燥し、前駆体としてのニッケルコバルトアルミニウム金属複合水酸化物が得られる。
【0071】
前駆体を単離する際には、水酸化物含有スラリーを遠心分離や吸引ろ過などで脱水する方法が好ましい。
【0072】
脱水により得られた前駆体は、水またはアルカリが含まれる洗浄液で洗浄することが好ましい。本実施形態においては、アルカリが含まれる洗浄液で洗浄することが好ましく、水酸化ナトリウム溶液で洗浄することがより好ましい。
【0073】
[乾燥工程]
上記脱水工程によって得られた前駆体は、大気雰囲気下105℃以上200℃以下の条件で1時間以上20時間以下、乾燥させる。
【0074】
なお、上記の例では、前駆体として金属複合水酸化物を製造しているが、金属複合酸化物を調製してもよい。
【0075】
[任意の加熱工程]
前駆体として金属複合酸化物を製造する場合には、得られた金属複合水酸化物を、酸素含有雰囲気下、300℃以上900℃以下の温度範囲で加熱する工程を有することが好ましい。本実施形態においては、1時間以上20時間以下加熱することが好ましい。
【0076】
加熱温度は350℃以上800℃以下が好ましく、400℃以上700℃以下がより好ましい。加熱温度が上記下限値以上であると、得られる前駆体中に残り得る金属複合水酸化物の量を少なくすることができる。加熱温度が上記上限値以下であると、前駆体の粒子同士の焼結を抑制し、粒度分布が要件(3)を満たす前駆体を得ることができる。
【0077】
<リチウム二次電池正極活物質の製造方法>
本実施形態の正極活物質の製造方法は、前記<リチウム二次電池正極活物質用前駆体の製造方法>によって得られた前駆体と、リチウム化合物と混合し、混合物を得る混合工程と、得られた混合物を焼成する焼成工程とを有する。
【0078】
[混合工程]
本工程では、前駆体と、リチウム化合物とを混合し、混合物を得る。
【0079】
・リチウム化合物
本実施形態に用いるリチウム化合物は、炭酸リチウム、硝酸リチウム、酢酸リチウム、水酸化リチウム、酸化リチウム、塩化リチウム、フッ化リチウムのうち何れか一つ、又は、二つ以上を混合して使用することができる。これらの中では、水酸化リチウム及び炭酸リチウムのいずれか一方又は両方が好ましい。
【0080】
本実施形態の前駆体と、リチウム化合物との混合方法について説明する。
前駆体と、リチウム化合物とを、最終目的物の組成比を勘案して混合する。例えば、ニッケルコバルトアルミニウム金属複合水酸化物を用いる場合、リチウム化合物と当該金属複合水酸化物は、LiNi1-x-yCoxAlyO2で表されるリチウム-ニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物の組成比に対応する割合で用いられる。また、リチウムが過剰(含有モル比が1超)なリチウム金属複合酸化物を製造する場合には、リチウム化合物に含まれるリチウムと、金属複合水酸化物に含まれる金属元素とのモル比が1を超える比率となる割合で混合する。
【0081】
[焼成工程]
ニッケルコバルトアルミニウム金属複合水酸化物とリチウム化合物との混合物を焼成することによって、リチウム-ニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物が得られる。なお、焼成には、所望の組成に応じて乾燥空気、酸素雰囲気、不活性雰囲気等が用いられ、必要ならば複数の加熱工程が実施される。
【0082】
本実施形態においては、不活性溶融剤の存在下で混合物の焼成を行ってもよい。不活性溶融剤の存在下で焼成を行うことにより、混合物の反応を促進させることができる。不活性溶融剤は、焼成後の正極活物質に残留していてもよいし、焼成後に水やアルコールで洗浄すること等により除去されていてもよい。本実施形態においては、焼成後の正極活物質は水やアルコールを用いて洗浄することが好ましい。
【0083】
焼成における保持温度を調整することにより、得られる正極活物質の粒子径を制御できる。
【0084】
焼成工程は、1回のみの焼成であってもよく、複数回の焼成段階を有していてもよい。
複数回の焼成段階を有する場合、最も高い温度で焼成する工程を本焼成と記載する。本焼成の前には、本焼成よりも低い温度で焼成する仮焼成を行ってもよい。また、本焼成の後には本焼成よりも低い温度で焼成する後焼成を行ってもよい。
【0085】
本焼成の焼成温度(最高保持温度)は、正極活物質の粒子の成長を促進させる観点から、600℃以上が好ましく、700℃以上がより好ましく、800℃以上が特に好ましい。また、正極活物質の粒子にクラックが形成されることを防止し、正極活物質の粒子の強度を維持する観点から、1200℃以下が好ましく、1100℃以下がより好ましく、1000℃以下が特に好ましい。
【0086】
本焼成の最高保持温度の上限値及び下限値は任意に組みわせることができる。
組み合わせの例としては、600℃以上1200℃以下、700℃以上1100℃以下、800℃以上1000℃以下が挙げられる。
【0087】
仮焼成又は後焼成の焼成温度は、本焼成の焼成温度よりも低ければよく、例えば350℃以上700℃以下の範囲が挙げられる。
【0088】
焼成における保持温度は、用いる遷移金属元素の種類、沈殿剤、不活性溶融剤の種類、量に応じて適宜調整すればよい。
【0089】
本実施形態においては、保持温度の設定は、後述する不活性溶融剤の融点を考慮すればよく、[不活性溶融剤の融点-200℃]以上[不活性溶融剤の融点+200℃]以下の範囲で行うことが好ましい。
【0090】
また、前記保持温度で保持する時間は、0.1時間以上20時間以下が挙げられ、0.5時間以上10時間以下が好ましい。前記保持温度までの昇温速度は、通常50℃/時間以上400℃/時間以下であり、前記保持温度から室温までの降温速度は、通常10℃/時間以上400℃/時間以下である。また、焼成の雰囲気としては、大気、酸素、窒素、アルゴン又はこれらの混合ガスを用いることができる。
【0091】
焼成工程後、適宜粉砕および篩別され、正極活物質が得られる。
【0092】
本実施形態に使用することができる不活性溶融剤は、焼成の際に混合物と反応し難いものであれば特に限定されない。本実施形態においては、Na、K、Rb、Cs、Ca、Mg、Sr及びBaからなる群より選ばれる1種以上の元素(以下、「A」と称する。)のフッ化物、Aの塩化物、Aの炭酸塩、Aの硫酸塩、Aの硝酸塩、Aのリン酸塩、Aの水酸化物、Aのモリブデン酸塩及びAのタングステン酸塩からなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。
【0093】
Aのフッ化物としては、NaF(融点:993℃)、KF(融点:858℃)、RbF(融点:795℃)、CsF(融点:682℃)、CaF2(融点:1402℃)、MgF2(融点:1263℃)、SrF2(融点:1473℃)及びBaF2(融点:1355℃)を挙げることができる。
【0094】
Aの塩化物としては、NaCl(融点:801℃)、KCl(融点:770℃)、RbCl(融点:718℃)、CsCl(融点:645℃)、CaCl2(融点:782℃)、MgCl2(融点:714℃)、SrCl2(融点:857℃)及びBaCl2(融点:963℃)を挙げることができる。
【0095】
Aの炭酸塩としては、Na2CO3(融点:854℃)、K2CO3(融点:899℃)、Rb2CO3(融点:837℃)、Cs2CO3(融点:793℃)、CaCO3(融点:825℃)、MgCO3(融点:990℃)、SrCO3(融点:1497℃)及びBaCO3(融点:1380℃)を挙げることができる。
【0096】
Aの硫酸塩としては、Na2SO4(融点:884℃)、K2SO4(融点:1069℃)、Rb2SO4(融点:1066℃)、Cs2SO4(融点:1005℃)、CaSO4(融点:1460℃)、MgSO4(融点:1137℃)、SrSO4(融点:1605℃)及びBaSO4(融点:1580℃)を挙げることができる。
【0097】
Aの硝酸塩としては、NaNO3(融点:310℃)、KNO3(融点:337℃)、RbNO3(融点:316℃)、CsNO3(融点:417℃)、Ca(NO3)2(融点:561℃)、Mg(NO3)2、Sr(NO3)2(融点:645℃)及びBa(NO3)2(融点:596℃)を挙げることができる。
【0098】
Aのリン酸塩としては、Na3PO4、K3PO4(融点:1340℃)、Rb3PO4、Cs3PO4、Ca3(PO4)2、Mg3(PO4)2(融点:1184℃)、Sr3(PO4)2(融点:1727℃)及びBa3(PO4)2(融点:1767℃)を挙げることができる。
【0099】
Aの水酸化物としては、NaOH(融点:318℃)、KOH(融点:360℃)、RbOH(融点:301℃)、CsOH(融点:272℃)、Ca(OH)2(融点:408℃)、Mg(OH)2(融点:350℃)、Sr(OH)2(融点:375℃)及びBa(OH)2(融点:853℃)を挙げることができる。
【0100】
Aのモリブデン酸塩としては、Na2MoO4(融点:698℃)、K2MoO4(融点:919℃)、Rb2MoO4(融点:958℃)、Cs2MoO4(融点:956℃)、CaMoO4(融点:1520℃)、MgMoO4(融点:1060℃)、SrMoO4(融点:1040℃)及びBaMoO4(融点:1460℃)を挙げることができる。
【0101】
Aのタングステン酸塩としては、Na2WO4(融点:687℃)、K2WO4、Rb2WO4、Cs2WO4、CaWO4、MgWO4、SrWO4及びBaWO4を挙げることができる。
【0102】
本実施形態においては、これらの不活性溶融剤を2種以上用いることもできる。2種以上用いる場合は、不活性溶融剤全体の融点が下がることもある。
【0103】
また、これらの不活性溶融剤の中でも、より結晶性が高い正極活物質を得るための不活性溶融剤としては、Aの炭酸塩、Aの硫酸塩及びAの塩化物からなる群から選ばれる1種以上の塩が好ましい。
【0104】
また、Aは、ナトリウム(Na)及びカリウム(K)のいずれか一方又は両方であることが好ましい。
【0105】
すなわち、上記の不活性溶融剤の中で、とりわけ好ましい不活性溶融剤は、NaCl、KCl、Na2CO3,K2CO3、Na2SO4、及びK2SO4からなる群より選ばれる1種以上が好ましく、K2SO4及びNa2SO4のいずれか一方又は両方を用いることがより好ましい。
【0106】
本実施形態において、焼成時の不活性溶融剤の存在量は適宜選択すればよい。一例を挙げると、焼成時の不活性溶融剤の存在量はリチウム化合物100質量部に対して0.1質量部以上であることが好ましく、1質量部以上であることがより好ましい。また、正極活物質の粒子の成長を促進させる必要がある場合、上記に挙げた不活性溶融剤以外の不活性溶融剤を併せて用いてもよい。この場合に用いる不活性溶融剤としては、NH4Cl、NH4Fなどのアンモニウム塩等を挙げることができる。
【0107】
<リチウム二次電池正極活物質>
本実施形態の正極活物質は、前述した本実施形態の前駆体を原料に用いて、前記<リチウム二次電池正極活物質の製造方法>により得られる。本実施形態の正極活物質を用いると、より電池膨れを抑制したリチウム二次電池が得られやすい。
【0108】
また、本実施形態の正極活物質は、D50の値が10μm未満となりやすい。
【0109】
<リチウム二次電池>
次いで、リチウム二次電池の構成を説明しながら、上述の方法によって製造されるリチウム二次電池正極活物質を用いた正極、およびこの正極を有するリチウム二次電池について説明する。
【0110】
本実施形態の正極製造時に用いるリチウム二次電池正極活物質は、前記本実施形態のリチウム二次電池正極活物質からなることが好ましいが、本発明の効果を損なわない範囲で前記本実施形態のリチウム二次電池用正極活物質とは異なる正極活物質を含有していてもよい。
【0111】
本実施形態のリチウム二次電池の一例は、正極および負極、正極と負極との間に挟持されるセパレータ、正極と負極との間に配置される電解液を有する。
【0112】
図1A、
図1Bは、本実施形態のリチウム二次電池の一例を示す模式図である。本実施形態の円筒型のリチウム二次電池10は、次のようにして製造する。
【0113】
まず、
図1Aに示すように、帯状を呈する一対のセパレータ1、一端に正極リード21を有する帯状の正極2、および一端に負極リード31を有する帯状の負極3を、セパレータ1、正極2、セパレータ1、負極3の順に積層し、巻回することで、電極群4とする。
【0114】
次いで、
図1Bに示すように、電池缶5に電極群4および不図示のインシュレーターを収容した後、缶底を封止し、電極群4に電解液6を含浸させ、正極2と負極3との間に電解質を配置する。さらに、電池缶5の上部をトップインシュレーター7および封口体8で封止することで、リチウム二次電池10を製造することができる。
【0115】
電極群4の形状としては、例えば、電極群4を巻回の軸に対して垂直方向に切断したときの断面形状が、円、楕円、長方形、角を丸めた長方形となるような柱状の形状を挙げることができる。
【0116】
また、このような電極群4を有するリチウム二次電池の形状としては、国際電気標準会議(IEC)が定めた電池に対する規格であるIEC60086、又はJIS C 8500で定められる形状を採用することができる。例えば、円筒型、角型などの形状を挙げることができる。
【0117】
さらに、リチウム二次電池は、上記巻回型の構成に限らず、正極、セパレータ、負極、セパレータの積層構造を繰り返し重ねた積層型の構成であってもよい。積層型のリチウム二次電池としては、いわゆるコイン型電池、ボタン型電池、ペーパー型(又はシート型)電池を例示することができる。
【0118】
以下、各構成について順に説明する。
(正極)
本実施形態の正極は、まず正極活物質、導電材およびバインダーを含む正極合剤を調製し、正極合剤を正極集電体に担持させることで製造することができる。
【0119】
(導電材)
本実施形態の正極が有する導電材としては、炭素材料を用いることができる。炭素材料として黒鉛粉末、カーボンブラック(例えばアセチレンブラック)、繊維状炭素材料などを挙げることができる。カーボンブラックは、微粒で表面積が大きいため、少量を正極合剤中に添加することで、正極内部の導電性を高め、充放電効率および出力特性を向上させることができるが、多く入れすぎるとバインダーによる正極合剤と正極集電体との結着力、および正極合剤内部の結着力がいずれも低下し、かえって内部抵抗を増加させる原因となる。
【0120】
正極合剤中の導電材の割合は、正極活物質100質量部に対して5質量部以上20質量部以下であると好ましい。導電材として黒鉛化炭素繊維、カーボンナノチューブなどの繊維状炭素材料を用いる場合には、この割合を下げることも可能である。
【0121】
(バインダー)
本実施形態の正極が有するバインダーとしては、熱可塑性樹脂を用いることができる。
この熱可塑性樹脂としては、ポリフッ化ビニリデン(以下、PVdFということがある。
)、ポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEということがある。)、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン・フッ化ビニリデン系共重合体、六フッ化プロピレン・フッ化ビニリデン系共重合体、四フッ化エチレン・パーフルオロビニルエーテル系共重合体などのフッ素樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂;を挙げることができる。
【0122】
これらの熱可塑性樹脂は、2種以上を混合して用いてもよい。バインダーとしてフッ素樹脂およびポリオレフィン樹脂を用い、正極合剤全体に対するフッ素樹脂の割合を1質量%以上10質量%以下、ポリオレフィン樹脂の割合を0.1質量%以上2質量%以下とすることによって、正極集電体との密着力および正極合剤内部の結合力がいずれも高い正極合剤を得ることができる。
【0123】
(正極集電体)
本実施形態の正極が有する正極集電体としては、Al、Ni、ステンレスなどの金属材料を形成材料とする帯状の部材を用いることができる。なかでも、加工しやすく、安価であるという点でAlを形成材料とし、薄膜状に加工したものが好ましい。
【0124】
正極集電体に正極合剤を担持させる方法としては、正極合剤を正極集電体上で加圧成型する方法が挙げられる。また、有機溶媒を用いて正極合剤をペースト化し、得られる正極合剤のペーストを正極集電体の少なくとも一面側に塗布して乾燥させ、プレスし固着することで、正極集電体に正極合剤を担持させてもよい。
【0125】
正極合剤をペースト化する場合、用いることができる有機溶媒としては、N,N-ジメチルアミノプロピルアミン、ジエチレントリアミンなどのアミン系溶媒;テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒;メチルエチルケトンなどのケトン系溶媒;酢酸メチルなどのエステル系溶媒;ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン(以下、NMPということがある。)などのアミド系溶媒;が挙げられる。
【0126】
正極合剤のペーストを正極集電体へ塗布する方法としては、例えば、スリットダイ塗工法、スクリーン塗工法、カーテン塗工法、ナイフ塗工法、グラビア塗工法および静電スプレー法が挙げられる。
【0127】
以上に挙げられた方法により、正極を製造することができる。
(負極)
本実施形態のリチウム二次電池が有する負極は、正極よりも低い電位でリチウムイオンのドープかつ脱ドープが可能であればよく、負極活物質を含む負極合剤が負極集電体に担持されてなる電極、および負極活物質単独からなる電極を挙げることができる。
【0128】
(負極活物質)
負極が有する負極活物質としては、炭素材料、カルコゲン化合物(酸化物、硫化物など)、窒化物、金属又は合金で、正極よりも低い電位でリチウムイオンのドープかつ脱ドープが可能な材料が挙げられる。
【0129】
負極活物質として使用可能な炭素材料としては、天然黒鉛、人造黒鉛などの黒鉛、コークス類、カーボンブラック、熱分解炭素類、炭素繊維および有機高分子化合物焼成体を挙げることができる。
【0130】
負極活物質として使用可能な酸化物としては、SiO2、SiOなど式SiOx(ここで、xは正の実数)で表されるケイ素の酸化物;TiO2、TiOなど式TiOx(ここで、xは正の実数)で表されるチタンの酸化物;V2O5、VO2など式VOx(ここで、xは正の実数)で表されるバナジウムの酸化物;Fe3O4、Fe2O3、FeOなど式FeOx(ここで、xは正の実数)で表される鉄の酸化物;SnO2、SnOなど式SnOx(ここで、xは正の実数)で表されるスズの酸化物;WO3、WO2など一般式WOx(ここで、xは正の実数)で表されるタングステンの酸化物;Li4Ti5O12、LiVO2などのリチウムとチタン又はバナジウムとを含有する複合金属酸化物;を挙げることができる。
【0131】
負極活物質として使用可能な硫化物としては、Ti2S3、TiS2、TiSなど式TiSx(ここで、xは正の実数)で表されるチタンの硫化物;V3S4、VS2、VSなど式VSx(ここで、xは正の実数)で表されるバナジウムの硫化物;Fe3S4、FeS2、FeSなど式FeSx(ここで、xは正の実数)で表される鉄の硫化物;Mo2S3、MoS2など式MoSx(ここで、xは正の実数)で表されるモリブデンの硫化物;SnS2、SnSなど式SnSx(ここで、xは正の実数)で表されるスズの硫化物;WS2など式WSx(ここで、xは正の実数)で表されるタングステンの硫化物;Sb2S3など式SbSx(ここで、xは正の実数)で表されるアンチモンの硫化物;Se5S3、SeS2、SeSなど式SeSx(ここで、xは正の実数)で表されるセレンの硫化物;を挙げることができる。
【0132】
負極活物質として使用可能な窒化物としては、Li3N、Li3-xAxN(ここで、AはNiおよびCoのいずれか一方又は両方であり、0<x<3である。)などのリチウム含有窒化物を挙げることができる。
【0133】
これらの炭素材料、酸化物、硫化物、窒化物は、1種のみ用いてもよく2種以上を併用して用いてもよい。また、これらの炭素材料、酸化物、硫化物、窒化物は、結晶質又は非晶質のいずれでもよい。
【0134】
また、負極活物質として使用可能な金属としては、リチウム金属、シリコン金属およびスズ金属などを挙げることができる。
【0135】
負極活物質として使用可能な合金としては、Li-Al、Li-Ni、Li-Si、Li-Sn、Li-Sn-Niなどのリチウム合金;Si-Znなどのシリコン合金;Sn-Mn、Sn-Co、Sn-Ni、Sn-Cu、Sn-Laなどのスズ合金;Cu2Sb、La3Ni2Sn7などの合金;を挙げることもできる。
【0136】
これらの金属や合金は、例えば箔状に加工された後、主に単独で電極として用いられる。
【0137】
上記負極活物質の中では、充電時に未充電状態から満充電状態にかけて負極の電位がほとんど変化しない(電位平坦性がよい)、平均放電電位が低い、繰り返し充放電させたときの容量維持率が高い(サイクル特性がよい)などの理由から、天然黒鉛、人造黒鉛などの黒鉛を主成分とする炭素材料が好ましく用いられる。炭素材料の形状としては、例えば天然黒鉛のような薄片状、メソカーボンマイクロビーズのような球状、黒鉛化炭素繊維のような繊維状、又は微粉末の凝集体などのいずれでもよい。
【0138】
前記の負極合剤は、必要に応じて、バインダーを含有してもよい。バインダーとしては、熱可塑性樹脂を挙げることができ、具体的には、PVdF、熱可塑性ポリイミド、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレンおよびポリプロピレンを挙げることができる。
【0139】
(負極集電体)
負極が有する負極集電体としては、Cu、Ni、ステンレスなどの金属材料を形成材料とする帯状の部材を挙げることができる。なかでも、リチウムと合金を作り難く、加工しやすいという点で、Cuを形成材料とし、薄膜状に加工したものが好ましい。
【0140】
このような負極集電体に負極合剤を担持させる方法としては、正極の場合と同様に、加圧成型による方法、溶媒などを用いてペースト化し負極集電体上に塗布、乾燥後プレスし圧着する方法が挙げられる。
【0141】
(セパレータ)
本実施形態のリチウム二次電池が有するセパレータとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂、フッ素樹脂、含窒素芳香族重合体などの材質からなる、多孔質膜、不織布、織布などの形態を有する材料を用いることができる。また、これらの材質を2種以上用いてセパレータを形成してもよいし、これらの材料を積層してセパレータを形成してもよい。
【0142】
本実施形態において、セパレータは、電池使用時(充放電時)に電解質を良好に透過させるため、JIS P 8117で定められるガーレー法による透気抵抗度が、50秒/100cc以上、300秒/100cc以下であることが好ましく、50秒/100cc以上、200秒/100cc以下であることがより好ましい。
【0143】
また、セパレータの空孔率は、好ましくは30体積%以上80体積%以下、より好ましくは40体積%以上70体積%以下である。セパレータは空孔率の異なるセパレータを積層したものであってもよい。
【0144】
(電解液)
本実施形態のリチウム二次電池が有する電解液は、電解質および有機溶媒を含有する。
【0145】
電解液に含まれる電解質としては、LiClO4、LiPF6、LiAsF6、LiSbF6、LiBF4、LiCF3SO3、LiN(SO2CF3)2、LiN(SO2C2F5)2、LiN(SO2CF3)(COCF3)、Li(C4F9SO3)、LiC(SO2CF3)3、Li2B10Cl10、LiBOB(ここで、BOBは、bis(oxalato)borateのことである。)、LiFSI(ここで、FSIはbis(fluorosulfonyl)imideのことである)、低級脂肪族カルボン酸リチウム塩、LiAlCl4などのリチウム塩が挙げられ、これらの2種以上の混合物を使用してもよい。なかでも電解質としては、フッ素を含むLiPF6、LiAsF6、LiSbF6、LiBF4、LiCF3SO3、LiN(SO2CF3)2およびLiC(SO2CF3)3からなる群から選ばれる少なくとも1種を含むものを用いることが好ましい。
【0146】
また前記電解液に含まれる有機溶媒としては、例えばプロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、4-トリフルオロメチル-1,3-ジオキソラン-2-オン、1,2-ジ(メトキシカルボニルオキシ)エタンなどのカーボネート類;1,2-ジメトキシエタン、1,3-ジメトキシプロパン、ペンタフルオロプロピルメチルエーテル、2,2,3,3-テトラフルオロプロピルジフルオロメチルエーテル、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフランなどのエーテル類;ギ酸メチル、酢酸メチル、γ-ブチロラクトンなどのエステル類;アセトニトリル、ブチロニトリルなどのニトリル類;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミドなどのアミド類;3-メチル-2-オキサゾリドンなどのカーバメート類;スルホラン、ジメチルスルホキシド、1,3-プロパンサルトンなどの含硫黄化合物、又はこれらの有機溶媒にさらにフルオロ基を導入したもの(有機溶媒が有する水素原子のうち1以上をフッ素原子で置換したもの)を用いることができる。
【0147】
有機溶媒としては、これらのうちの2種以上を混合して用いることが好ましい。中でもカーボネート類を含む混合溶媒が好ましく、環状カーボネートと非環状カーボネートとの混合溶媒および環状カーボネートとエーテル類との混合溶媒がさらに好ましい。環状カーボネートと非環状カーボネートとの混合溶媒としては、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネートおよびエチルメチルカーボネートを含む混合溶媒が好ましい。このような混合溶媒を用いた電解液は、動作温度範囲が広く、高い電流レートにおける充放電を行っても劣化し難く、長時間使用しても劣化し難く、かつ負極の活物質として天然黒鉛、人造黒鉛などの黒鉛材料を用いた場合でも難分解性であるという多くの特長を有する。
【0148】
また、電解液としては、得られるリチウム二次電池の安全性が高まるため、LiPF6などのフッ素を含むリチウム塩およびフッ素置換基を有する有機溶媒を含む電解液を用いることが好ましい。ペンタフルオロプロピルメチルエーテル、2,2,3,3-テトラフルオロプロピルジフルオロメチルエーテルなどのフッ素置換基を有するエーテル類とジメチルカーボネートとを含む混合溶媒は、高い電流レートにおける充放電を行っても容量維持率が高いため、さらに好ましい。
【0149】
また、以上のような構成の正極は、上述した構成のリチウム二次電池正極活物質を有するため、リチウム二次電池の電池膨れ量を抑制できる。
【0150】
<全固体リチウムイオン二次電池>
次いで、全固体リチウムイオン二次電池の構成を説明しながら、本実施形態によって製造されるリチウム二次電池正極活物質を用いた正極、及びこの正極を有する全固体リチウムイオン二次電池について説明する。
【0151】
図4、5は、全固体リチウムイオン二次電池の一例を示す模式図である。
図4は、全固体リチウムイオン二次電池が備える積層体を示す模式図である。
図5は、全固体リチウムイオン二次電池の全体構成を示す模式図である。
【0152】
全固体リチウムイオン二次電池1000は、正極110と、負極120と、固体電解質層130とを有する積層体100と、積層体100を収容する外装体200と、を有する。
各部材を構成する材料については、後述する。
【0153】
積層体100は、正極集電体112に接続される外部端子113と、負極集電体122に接続される外部端子123と、を有していてもよい。
【0154】
積層体100において、正極110と負極120とは、互いに短絡しないように固体電解質層130を挟持している。その他、全固体リチウムイオン二次電池1000は、正極110と負極120との間に、従来の液系リチウムイオン二次電池で用いられるようなセパレータを有し、正極110と負極120との短絡を防止していてもよい。
【0155】
全固体リチウムイオン二次電池1000は、積層体100と外装体200とを絶縁する不図示のインシュレーターや、外装体200の開口部200aを封止する不図示の封止体を有する。
【0156】
外装体200は、アルミニウム、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼などの耐食性の高い金属材料を成形した容器を用いることができる。また、少なくとも一方の面に耐食加工を施したラミネートフィルムを袋状に加工した容器を用いることもできる。
【0157】
全固体リチウムイオン二次電池1000の形状としては、例えば、コイン型、ボタン型、ペーパー型(又はシート型)、円筒型、角型などの形状を挙げることができる。
【0158】
全固体リチウムイオン二次電池1000は、積層体100を1つ有することとして図示しているが、これに限らない。全固体リチウムイオン二次電池1000は、積層体100を単位セルとし、外装体200の内部に複数の単位セル(積層体100)を封じた構成であってもよい。
【0159】
以下、各構成について順に説明する。
【0160】
(正極)
正極110は、正極活物質層111と正極集電体112とを有している。
【0161】
正極活物質層111は、上述した本発明の一態様であるリチウム二次電池正極活物質を含む。また、正極活物質層111は、固体電解質(第2の固体電解質)、導電材、バインダーを含むこととしてもよい。
【0162】
正極活物質層111に含まれる正極活物質は、正極活物質層111に含まれる第2の固体電解質と接触している。詳しくは、正極活物質層111は、リチウム金属複合酸化物の結晶を含む複数の粒子(正極活物質)と、複数の粒子(正極活物質)の間に充填され粒子(正極活物質)と接触する固体電解質とを含む。
【0163】
(固体電解質)
正極活物質層111が有してもよい固体電解質としては、リチウムイオン伝導性を有し、公知の全固体電池に用いられる固体電解質を採用することができる。このような固体電解質としては、無機電解質、有機電解質を挙げることができる。無機電解質としては、酸化物系固体電解質、硫化物系固体電解質、水素化物系固体電解質を挙げることができる。
有機電解質としては、ポリマー系固体電解質を挙げることができる。
【0164】
本実施形態においては、酸化物系固体電解質、又は硫化物系固体電解質を用いることが好ましく、酸化物系固体電解質を用いることがより好ましい。
【0165】
(酸化物系固体電解質)
酸化物系固体電解質としては、例えば、ペロブスカイト型酸化物、NASICON型酸化物、LISICON型酸化物、ガーネット型酸化物などが挙げられる。
【0166】
ペロブスカイト型酸化物としては、LiaLa1-aTiO3(0<a<1)などのLi-La-Ti系酸化物、LibLa1-bTaO3(0<b<1)などのLi-La-Ta系酸化物、LicLa1-cNbO3(0<c<1)などのLi-La-Nb系酸化物などが挙げられる。
【0167】
NASICON型酸化物としては、Li1+dAldTi2-d(PO4)3(0≦d≦1)などが挙げられる。NASICON型酸化物は、LimM1
nM2
oPpOqで表される酸化物である。
式中、M1は、B、Al、Ga、In、C、Si、Ge、Sn、Sb及びSeからなる群から選ばれる1種以上の元素である。
式中、M2は、Ti、Zr、Ge、In、Ga、Sn及びAlからなる群から選ばれる1種以上の元素である。
式中、m、n、o、p及びqは、任意の正数である。
【0168】
LISICON型酸化物としては、Li4M3O4-Li3M4O4で表される酸化物などが挙げられる。
式中、M3は、Si、Ge、及びTiからなる群から選ばれる1種以上の元素である。
式中、M4は、P、As及びVからなる群から選ばれる1種以上の元素である。
【0169】
ガーネット型酸化物としては、Li7La3Zr2O12(LLZ)などのLi-La-Zr系酸化物などが挙げられる。
【0170】
酸化物系固体電解質は、結晶性材料であってもよく、非晶質(アモルファス)材料であってもよい。非晶質(アモルファス)固体電解質として、例えばLi3BO3、Li2B4O7、LiBO2などのLi-B-O化合物が挙げられる。酸化物系固体電解質は、非晶質材料が含まれることが好ましい。
【0171】
(硫化物系固体電解質)
硫化物系固体電解質としては、Li2S-P2S5系化合物、Li2S-SiS2系化合物、Li2S-GeS2系化合物、Li2S-B2S3系化合物、Li2S-P2S3系化合物、LiI-Si2S-P2S5、LiI-Li2S-P2O5、LiI-Li3PO4-P2S5、Li10GeP2S12などを挙げることができる。
【0172】
なお、本明細書において、硫化物系固体電解質を指す「系化合物」という表現は、「系化合物」の前に記載した「Li2S」「P2S5」などの原料を主として含む固体電解質の総称として用いる。例えば、Li2S-P2S5系化合物には、Li2SとP2S5とを含み、さらに他の原料を含む固体電解質が含まれる。また、Li2S-P2S5系化合物には、Li2SとP2S5との混合比を異ならせた固体電解質も含まれる。
【0173】
Li2S-P2S5系化合物としては、Li2S-P2S5、Li2S-P2S5-LiI、Li2S-P2S5-LiCl、Li2S-P2S5-LiBr、Li2S-P2S5-Li2O、Li2S-P2S5-Li2O-LiI、Li2S-P2S5-ZmSn(m、nは正の数。Zは、Ge、Zn又はGa)などを挙げることができる。
【0174】
Li2S-SiS2系化合物としては、Li2S-SiS2、Li2S-SiS2-LiI、Li2S-SiS2-LiBr、Li2S-SiS2-LiCl、Li2S-SiS2-B2S3-LiI、Li2S-SiS2-P2S5-LiI、Li2S-SiS2-Li3PO4、Li2S-SiS2-Li2SO4、Li2S-SiS2-LixMOy(x、yは正の数。Mは、P、Si、Ge、B、Al、Ga又はIn)などを挙げることができる。
【0175】
Li2S-GeS2系化合物としては、Li2S-GeS2、Li2S-GeS2-P2S5などを挙げることができる。
【0176】
硫化物系固体電解質は、結晶性材料であってもよく、非晶質(アモルファス)材料であってもよい。硫化物系固体電解質は、非晶質材料が含まれることが好ましい。
【0177】
(水素化物系固体電解質)
水素化物系固体電解質材料としては、LiBH4、LiBH4-3KI、LiBH4-PI2、LiBH4-P2S5、LiBH4-LiNH2、3LiBH4-LiI、LiNH2、Li2AlH6、Li(NH2)2I、Li2NH、LiGd(BH4)3Cl、Li2(BH4)(NH2)、Li3(NH2)I、Li4(BH4)(NH2)3などを挙げることができる。
【0178】
ポリマー系固体電解質として、例えばポリエチレンオキサイド系の高分子化合物、ポリオルガノシロキサン鎖及びポリオキシアルキレン鎖からなる群から選ばれる1種以上を含む高分子化合物などの有機系高分子電解質を挙げることができる。
【0179】
固体電解質は、発明の効果を損なわない範囲において、2種以上を併用することができる。
【0180】
(導電材)
正極活物質層111が有してもよい導電材としては、炭素材料や金属化合物を用いることができる。炭素材料として黒鉛粉末、カーボンブラック(例えばアセチレンブラック)、繊維状炭素材料などを挙げることができる。カーボンブラックは、微粒で表面積が大きいため、適切な量を正極活物質層111に添加することにより正極110の内部の導電性を高め、充放電効率及び出力特性を向上させることができる。一方、カーボンブラックの添加量が多すぎると、正極活物質層111と正極集電体112との結着力、及び正極活物質層111内部の結着力がいずれも低下し、かえって内部抵抗を増加させる原因となる。
金属化合物としては電気導電性を有する金属、金属合金や金属酸化物が挙げられる。
【0181】
正極活物質層111中の導電材の割合は、炭素材料の場合は正極活物質100質量部に対して5質量部以上20質量部以下であると好ましい。導電材として黒鉛化炭素繊維、カーボンナノチューブなどの繊維状炭素材料を用いる場合には、この割合を下げることも可能である。
【0182】
(バインダー)
正極活物質層111がバインダーを有する場合、バインダーとしては、熱可塑性樹脂を用いることができる。この熱可塑性樹脂としては、ポリイミド系樹脂、ポリフッ化ビニリデン(以下、PVdFということがある。)、ポリテトラフルオロエチレン、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン・フッ化ビニリデン系共重合体、六フッ化プロピレン・フッ化ビニリデン系共重合体、四フッ化エチレン・パーフルオロビニルエーテル系共重合体などのフッ素樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂;を挙げることができる。
以下、ポリフッ化ビニリデンのことを、PVdFと称することがある。また、ポリテトラフルオロエチレンのことを、PTFEと称することがある。
【0183】
これらの熱可塑性樹脂は、2種以上を混合して用いてもよい。バインダーとしてフッ素樹脂及びポリオレフィン樹脂を用い、正極活物質層111全体に対するフッ素樹脂の割合を1質量%以上10質量%以下、ポリオレフィン樹脂の割合を0.1質量%以上2質量%以下とすることによって、正極活物質層111と正極集電体112との密着力、及び正極活物質層111内部の結合力がいずれも高い正極活物質層111となる。
【0184】
正極活物質層111は、予め正極活物質を含むシート状の成型体として加工し、本発明における「電極」として使用してもよい。また、以下の説明において、このようなシート状の成型体を「正極活物質シート」と称することがある。正極活物質シートに集電体を積層した積層体を、電極としてもよい。
【0185】
正極活物質シートは、上述の固体電解質、導電材及びバインダーからなる群から選ばれるいずれか1つ以上を含むこととしてもよい。
【0186】
正極活物質シートは、例えば、正極活物質と、焼結助剤と、上述の導電材と、上述のバインダーと、可塑剤と、溶媒とを混合してスラリーを調製し、得られたスラリーをキャリアフィルム上に塗布して乾燥させることで得られる。
【0187】
焼結助剤としては、例えばLi3BO3やAl2O3を用いることができる。
【0188】
可塑剤としては、例えばフタル酸ジオクチルを用いることができる。
【0189】
溶媒としては、例えばアセトン、エタノール、N-メチル-2-ピロリドンを用いることができる。
【0190】
スラリーの調製時において、混合はボールミルを用いることができる。得られた混合物には、混合時に混入した気泡が含まれることが多いため、減圧して脱泡するとよい。脱泡すると、一部の溶媒が揮発し濃縮することで、スラリーが高粘度化する。
【0191】
スラリーの塗布は、公知のドクターブレードを用いて行うことができる。
【0192】
キャリアフィルムとしては、PETフィルムを用いることができる。
【0193】
乾燥後に得られる正極活物質シートは、キャリアフィルムから剥離され、適宜打ち抜き加工により必要な形状に加工されて用いられる。また、正極活物質シートは、適宜厚み方向に一軸プレスしてもよい。
【0194】
(正極集電体)
正極110が有する正極集電体112としては、Al、Ni、ステンレス、Auなどの金属材料を形成材料とするシート状の部材を用いることができる。なかでも、加工しやすく、安価であるという点でAlを形成材料とし、薄膜状に加工したものが好ましい。
【0195】
正極集電体112に正極活物質層111を担持させる方法としては、正極集電体112上で正極活物質層111を加圧成型する方法が挙げられる。加圧成型には、冷間プレスや熱間プレスを用いることができる。
【0196】
また、有機溶媒を用いて正極活物質、固体電解質、導電材、バインダーの混合物をペースト化して正極合剤とし、得られる正極合剤を正極集電体112の少なくとも一面側に塗布して乾燥させ、プレスし固着することで、正極集電体112に正極活物質層111を担持させてもよい。
【0197】
また、有機溶媒を用いて正極活物質、固体電解質、導電材の混合物をペースト化して正極合剤とし、得られる正極合剤を正極集電体112の少なくとも一面側に塗布して乾燥させ、焼結することで、正極集電体112に正極活物質層111を担持させてもよい。
【0198】
正極合剤に用いることができる有機溶媒としては、N,N-ジメチルアミノプロピルアミン、ジエチレントリアミンなどのアミン系溶媒;テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒;メチルエチルケトンなどのケトン系溶媒;酢酸メチルなどのエステル系溶媒;ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドンなどのアミド系溶媒;が挙げられる。以下、N-メチル-2-ピロリドンのことを、NMPということがある。
【0199】
正極合剤を正極集電体112へ塗布する方法としては、例えば、スリットダイ塗工法、スクリーン塗工法、カーテン塗工法、ナイフ塗工法、グラビア塗工法及び静電スプレー法が挙げられる。
【0200】
以上に挙げられた方法により、正極110を製造することができる。
【0201】
(負極)
負極120は、負極活物質層121と負極集電体122とを有している。負極活物質層121は、負極活物質を含む。また、負極活物質層121は、固体電解質、導電材を含むこととしてもよい。固体電解質、導電材、バインダーは、上述したものを用いることができる。
【0202】
(負極活物質)
負極活物質層121が有する負極活物質としては、炭素材料、カルコゲン化合物(酸化物、硫化物など)、窒化物、金属又は合金で、正極110よりも低い電位でリチウムイオンのドープかつ脱ドープが可能な材料が挙げられる。
【0203】
負極活物質として使用可能な炭素材料としては、天然黒鉛、人造黒鉛などの黒鉛、コークス類、カーボンブラック、熱分解炭素類、炭素繊維及び有機高分子化合物焼成体を挙げることができる。
【0204】
負極活物質として使用可能な酸化物としては、SiO2、SiOなど式SiOx(ここで、xは正の実数)で表されるケイ素の酸化物;TiO2、TiOなど式TiOx(ここで、xは正の実数)で表されるチタンの酸化物;V2O5、VO2など式VOx(ここで、xは正の実数)で表されるバナジウムの酸化物;Fe3O4、Fe2O3、FeOなど式FeOx(ここで、xは正の実数)で表される鉄の酸化物;SnO2、SnOなど式SnOx(ここで、xは正の実数)で表されるスズの酸化物;WO3、WO2など一般式WOx(ここで、xは正の実数)で表されるタングステンの酸化物;Li4Ti5O12、LiVO2などのリチウムとチタン又はバナジウムとを含有する金属複合酸化物;を挙げることができる。
【0205】
負極活物質として使用可能な硫化物としては、Ti2S3、TiS2、TiSなど式TiSx(ここで、xは正の実数)で表されるチタンの硫化物;V3S4、VS2、VSなど式VSx(ここで、xは正の実数)で表されるバナジウムの硫化物;Fe3S4、FeS2、FeSなど式FeSx(ここで、xは正の実数)で表される鉄の硫化物;Mo2S3、MoS2など式MoSx(ここで、xは正の実数)で表されるモリブデンの硫化物;SnS2、SnSなど式SnSx(ここで、xは正の実数)で表されるスズの硫化物;WS2など式WSx(ここで、xは正の実数)で表されるタングステンの硫化物;Sb2S3など式SbSx(ここで、xは正の実数)で表されるアンチモンの硫化物;Se5S3、SeS2、SeSなど式SeSx(ここで、xは正の実数)で表されるセレンの硫化物;を挙げることができる。
【0206】
負極活物質として使用可能な窒化物としては、Li3N、Li3-xAxN(ここで、AはNi及びCoのいずれか一方又は両方であり、0<x<3である。)などのリチウム含有窒化物を挙げることができる。
【0207】
これらの炭素材料、酸化物、硫化物、窒化物は、1種のみ用いてもよく2種以上を併用して用いてもよい。また、これらの炭素材料、酸化物、硫化物、窒化物は、結晶質又は非晶質のいずれでもよい。
【0208】
また、負極活物質として使用可能な金属としては、リチウム金属、シリコン金属及びスズ金属などを挙げることができる。
【0209】
負極活物質として使用可能な合金としては、Li-Al、Li-Ni、Li-Si、Li-Sn、Li-Sn-Niなどのリチウム合金;Si-Znなどのシリコン合金;Sn-Mn、Sn-Co、Sn-Ni、Sn-Cu、Sn-Laなどのスズ合金;Cu2Sb、La3Ni2Sn7などの合金;を挙げることもできる。
【0210】
これらの金属や合金は、例えば箔状に加工された後、主に単独で電極として用いられる。
【0211】
上記負極活物質の中では、充電時に未充電状態から満充電状態にかけて負極120の電位がほとんど変化しない(電位平坦性がよい)、平均放電電位が低い、繰り返し充放電させたときの容量維持率が高い(サイクル特性がよい)などの理由から、天然黒鉛、人造黒鉛などの黒鉛を主成分とする炭素材料が好ましく用いられる。炭素材料の形状としては、例えば天然黒鉛のような薄片状、メソカーボンマイクロビーズのような球状、黒鉛化炭素繊維のような繊維状、又は微粉末の凝集体などのいずれでもよい。
【0212】
また、上記負極活物質の中では、熱的安定性が高い、Li金属によるデンドライト(樹枝状晶)が生成しがたいなどの理由から、酸化物が好ましく用いられる。酸化物の形状としては、繊維状、又は微粉末の凝集体などが好ましく用いられる。
【0213】
(負極集電体)
負極120が有する負極集電体122としては、Cu、Ni、ステンレスなどの金属材料を形成材料とする帯状の部材を挙げることができる。なかでも、リチウムと合金を作り難く、加工しやすいという点で、Cuを形成材料とし、薄膜状に加工したものが好ましい。
【0214】
負極集電体122に負極活物質層121を担持させる方法としては、正極110の場合と同様に、加圧成型による方法、負極活物質を含むペースト状の負極合剤を負極集電体122上に塗布、乾燥後プレスし圧着する方法、負極活物質を含むペースト状の負極合剤を負極集電体122上に塗布、乾燥後、焼結する方法が挙げられる。
【0215】
(固体電解質層)
固体電解質層130は、上述の固体電解質(第1の固体電解質)を有している。正極活物質層111に固体電解質が含まれる場合、固体電解質層130を構成する固体電解質(第1の固体電解質)と、正極活物質層111に含まれる固体電解質(第2の固体電解質)とが同じ物質であってもよい。固体電解質層130は、リチウムイオンを伝達する媒質として機能するとともに、正極110と負極120とを分け短絡を防止するセパレータとしても機能する。
【0216】
固体電解質層130は、上述の正極110が有する正極活物質層111の表面に、無機物の固体電解質をスパッタリング法により堆積させることで形成することができる。
【0217】
また、固体電解質層130は、上述の正極110が有する正極活物質層111の表面に、固体電解質を含むペースト状の合剤を塗布し、乾燥させることで形成することができる。乾燥後、プレス成型し、さらに冷間等方圧加圧法(CIP)により加圧して固体電解質層130を形成してもよい。
【0218】
さらに、固体電解質層130は、固体電解質を予めペレット状に形成し、固体電解質のペレットと、上述の正極活物質シートとを重ねて積層方向に一軸プレスすることで形成することができる。正極活物質シートは、正極活物質層111になる。
【0219】
得られた正極活物質層111と固体電解質層130との積層体に対し、さらに正極活物質層111に正極集電体112を配置する。積層方向に一軸プレスして、さらに焼結することで、固体電解質層130と正極110とを形成することができる。
【0220】
このような正極110は、固体電解質層130と接触している。固体電解質層130は、第1の固体電解質を有する。
【0221】
正極110は、固体電解質層130に接する正極活物質層111と、正極活物質層111が積層された正極集電体112と、を有する。正極活物質層111は、リチウム金属複合酸化物の結晶を含む複数の粒子(すなわち、本発明の一態様である正極活物質)と、複数の粒子の間に充填され粒子と接触する固体電解質(第2の固体電解質)とを含む。
【0222】
正極活物質層111に含まれる固体電解質及び粒子は、それぞれ固体電解質層130に接触している。すなわち、正極活物質層111に含まれる粒子は、正極活物質層111に含まれる固体電解質及び固体電解質層130に接触している。
【0223】
なお、正極活物質層111に含まれる粒子(正極活物質)の全てが正極活物質層111に含まれる固体電解質及び固体電解質層130に接触している必要は無い。
【0224】
正極活物質層111に含まれる正極活物質は、正極活物質層111に含まれる固体電解質と接触することで、正極活物質層111に含まれる固体電解質と導通する。また、正極活物質層111に含まれる正極活物質は、固体電解質層130と接触することで、固体電解質層130と導通する。さらに、正極活物質層111に含まれる固体電解質は、固体電解質層130と接触することで、固体電解質層130と導通する。
【0225】
これらにより、正極活物質層111に含まれる正極活物質は、直接又は間接的に固体電解質層130と導通する。
【0226】
積層体100は、上述のように正極110上に設けられた固体電解質層130に対し、公知の方法を用いて、固体電解質層130の表面に負極電解質層121が接する態様で負極120を積層させることで製造することができる。これにより、固体電解質層130は、負極活物質層121と接触し、導通する。
【0227】
上述のように、得られた全固体リチウムイオン二次電池100は、正極110と負極120とが短絡しないように、固体電解質層130を正極110と負極120とを接触させて提供される。提供された全固体リチウムイオン電池100は、外部電源に接続し、正極110に負の電位、負極120に正の電位を印加することで充電される。
【0228】
さらに、充電された前記全固体リチウムイオン二次電池100は、正極110及び負極120に放電回路を接続し、放電回路に通電させることで放電する。
【0229】
以上のような構成の正極活物質によれば、正極において固体電解質との間でリチウムイオンの授受をスムーズに行うことができ、電池性能を向上させることができる。
【0230】
以上のような構成の電極によれば、上述の正極活物質を有するため、全固体リチウムイオン電池の電池性能を向上させることができる。
【実施例】
【0231】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。
【0232】
<組成分析>
後述の方法で製造されるリチウム二次電池正極活物質用前駆体の組成分析は、得られたリチウム二次電池正極活物質用前駆体の粉末を塩酸に溶解させた後、ICP発光分光分析装置(株式会社パーキンエルマー製、Optima7300)を用いて行った。
【0233】
<粒度分布の測定>
前駆体の累積体積粒度分布は、レーザー回折散乱法によって測定した。粒度分布測定装置は株式会社堀場製作所製LA-950を用い、測定条件は下記表1に示した条件に沿って測定した。
【0234】
そして、得られた累積粒度分布曲線において、小粒子側からの累積体積割合が10%となる粒子径(μm)をD10、30%となる粒子径(μm)をD30、50%となる粒子径(μm)をD50、70%となる粒子径(μm)をD70、90%となる粒子径(μm)をD90としたときに、前記D10、前記D30、前記D50、前記D70、及び前記D90の値を用いて、(D50-D10)/D30、(D90-D50)/D70、及び[(D50-D10)/D30]/[(D90-D50)/D70]の値を算出した。
【0235】
【0236】
<正極の作製>
後述する製造方法で得られるリチウム二次電池正極活物質と導電材(アセチレンブラック)とバインダー(PVdF)とを、リチウム二次電池正極活物質:導電材:バインダー=92:5:3(質量比)の組成となる割合で加えて混練することにより、ペースト状の正極合剤を調製した。正極合剤の調製時には、N-メチル-2-ピロリドンを有機溶媒として用いた。
【0237】
得られた正極合剤を、集電体となる厚さ40μmのAl箔に塗布して150℃で8時間真空乾燥を行い、正極を得た。
【0238】
<負極の作製>
次に、負極活物質として人造黒鉛(日立化成株式会社製MAGD)と、バインダーとしてCMC(第一工業薬製株式会社製)とSBR(日本エイアンドエル株式会社製)とを、負極活物質:CMC:SBR=98:1:1(質量比)の組成となる割合で加えて混練することにより、ペースト状の負極合剤を調製した。負極合剤の調製時には、溶媒としてイオン交換水を用いた。
【0239】
得られた負極合剤を、集電体となる厚さ12μmのCu箔に塗布して60℃で8時間真空乾燥を行い、負極を得た。
【0240】
<リチウム二次電池(ラミネートセル)の作製>
<正極の作製>で作製した正極を、アルミ箔面を下に向けてアルミラミネートフィルムに置き、その上に積層フィルムセパレータ(ポリエチレン製多孔質フィルム(厚み27μm))を置いた。次に、積層フィルムセパレータの上側に<負極の作製>で作製した負極を銅箔面を上にして置き、その上にアルミラミネートフィルムを置いた。さらに、電解液の注入部分を残してヒートシールした。その後、露点温度マイナス50℃以下の乾燥雰囲気のドライベンチ内に移し、真空注液機を用いて、電解液を1mL注入した。電解液は、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとエチルメチルカーボネートの16:10:74(体積比)混合液にビニレンカーボネートを1体積%加え、そこにLiPF6を1.3mol/lとなる割合で溶解したものを用いた。
最後に、電解液注液部分をヒートシールし、ラミネートセルを作製した。
【0241】
[電池膨れ量の測定]
電池膨れ量は以下の方法で測定した。
まず、上記のように作製したラミネートセルのフォーメーション後、0.2CAの電流値で2.5Vまで放電を実施したラミネートセルの体積をアルキメデス法で測定し、保存前の体積を測定した。
その後、4.3Vまで充電し、60℃の恒温槽で7日間保存した。
保存後、0.2CAの電流値で2.5Vまで放電を実施したラミネートセルの体積をアルキメデス法で測定し、保存後の体積を測定した。
保存前後の体積差(cm3)を、ラミネートセル中に存在する正極材量(g)で除し、正極材当たりの電池膨れ量(cm3/g)とした。
【0242】
アルキメデス法は、自動比重計を用いて、ラミネートセルの空中重量と水中重量の差からラミネートセル全体の実体積を測定する方法である。
ラミネートセルのフォーメーションは、以下条件で実施した。
フォーメーション条件:試験温度25℃で0.1CAでSOC10%まで充電し、試験温度60℃で10時間放置し、その後、試験温度25℃で、0.1CAで4.3VまでCC-CV充電で電流が0.05CAになるまで充電を行った。さらに、0.2CAで2.5Vまで放電した後、0.2CAでの充放電を2サイクル実施した。
【0243】
(実施例1)
・スラリー調整工程
220φプロペラタイプの攪拌羽根を備えた攪拌機とオーバーフローパイプを備えた500L円筒形反応槽に水を入れ、次いでpHが12.4(溶液の温度が40℃のときの測定値)となるまで32質量%水酸化ナトリウム溶液を加え、ヒーターで温度を40℃に保持した。次いで、反応槽内に窒素ガスを5L/分の流量で連続的に吹き込み反応槽内の雰囲気を不活性雰囲気とした。
【0244】
硫酸ニッケル水溶液と硫酸コバルト水溶液とを、ニッケル原子とコバルト原子との原子比が92.8:7.2となる割合で混合して、混合原料液を調製し、混合原料液を一定速度にて反応槽に連続供給した。錯化剤として0.76mol/L硫酸アンモニウム溶液を用いて、アンモニア濃度が0.23mol/Lになる割合で、一定速度にて反応槽に連続供給した。次いで、54質量%の硫酸アルミニウム水溶液を、ニッケル原子とコバルト原子とアルミニウム原子との原子比が90:7:3となる割合で流量を調整して加えた。さらに、反応槽内の溶液のpHを12.4(溶液の温度が40℃のときの測定値)に維持するために、32質量%水酸化ナトリウムを断続的に加えた。
【0245】
上記反応によって得られたニッケルコバルトアルミニウム金属複合水酸化物含有スラリーをオーバーフローパイプによりスラリー貯槽に貯めた。
【0246】
・分級工程
次いで、スラリー貯槽に貯められたニッケルコバルトアルミニウム金属複合水酸化物含有スラリーを、
図3に示すテーパー角θを16°にした湿式分級機液体サイクロン(村田工業株式会社製、T-10B-1型)内に、スラリー送液流速0.84m/秒で導入した。
【0247】
湿式分級機液体サイクロンの下部から排出されたニッケルコバルトアルミニウム金属複合水酸化物含有スラリーを分級して回収した。
【0248】
・還流工程
また、湿式分級機液体サイクロンの上部から排出されたニッケルコバルトアルミニウム金属複合水酸化物含有スラリーを反応槽に還流する作業を繰り返した。スラリー貯槽にあるニッケルコバルトアルミニウム金属複合水酸化物含有スラリーは、適宜脱水しながら反応槽に還流した。
【0249】
得られたニッケルコバルトアルミニウム金属複合水酸化物を洗浄して脱水した後、105℃で20時間で乾燥および篩別し、粒度分布測定と組成分析を行った。得られたニッケルコバルトアルミニウム金属複合水酸化物の組成式は、Ni90.2Co7.0Al2.8(OH)2.1であった。
【0250】
上記ニッケルコバルトアルミニウム金属複合水酸化物と水酸化リチウム粉末とをモル比でLi/(Ni+Co+Al)=1.15となる割合で秤量して混合し、混合物を得た。
その後、得られた混合物を、酸素雰囲気下、760℃で5時間焼成した後、洗浄して脱水・乾燥することでリチウム二次電池正極活物質を得た。得られたリチウム二次電池正極活物質を用いてラミネートセルを作製し、電池膨れ量の測定の測定を行った。これらの結果を表2に示す。
【0251】
(実施例2)
・スラリー調整工程
220φプロペラタイプの攪拌羽根を備えた攪拌機とオーバーフローパイプを備えた500L円筒形反応槽に水を入れ、次いでpHが11.0(溶液の温度が40℃のときの測定値)となるまで32質量%水酸化ナトリウム溶液を加え、ヒーターで温度を60℃に保持した。次いで、反応槽内に窒素ガスを5L/分の流量で連続的に吹き込み反応槽内の雰囲気を不活性雰囲気とした。
【0252】
硫酸ニッケル水溶液と硫酸コバルト水溶液と硫酸マンガン水溶液とを、ニッケル原子とコバルト原子とマンガン原子の原子比が88:9:3となる割合で混合して、混合原料液を調製し、混合原料液を一定速度にて反応槽に連続供給した。錯化剤として0.76mol/Lの硫酸アンモニウム溶液を用いて、アンモニア濃度が0.07mol/Lとなる割合で、一定速度にて反応槽に連続供給した。さらに、反応槽内の溶液のpHを11.0(溶液の温度が40℃のときの測定値)に維持するために、32質量%の水酸化ナトリウムを断続的に加えた。
【0253】
上記反応によって得られたニッケルコバルトマンガン金属複合水酸化物含有スラリーを、オーバーフローパイプよりスラリー貯槽に貯めた。
【0254】
・分級工程
次いで、スラリー貯槽に貯められたニッケルコバルトマンガン金属複合水酸化物含有スラリーを、湿式分級機液体サイクロン(村田工業株式会社製、T-10B-1型、テーパー角θ:16°)内に、液体サイクロン送液流速0.47m/秒で導入した。
【0255】
湿式分級機液体サイクロンの下部から排出されたニッケルコバルトマンガン金属複合水酸化物含有スラリーを分級して回収した。
【0256】
・還流工程
また、湿式分級機液体サイクロンの上部から排出されたニッケルコバルトマンガン金属複合水酸化物含有スラリーを反応槽に還流する作業を繰り返した。スラリー貯槽にあるニッケルコバルトマンガン金属複合水酸化物含有スラリーは、適宜脱水しながら反応槽に還流した。
【0257】
得られたニッケルコバルトマンガン金属複合水酸化物を洗浄して脱水した後、105℃で20時間で乾燥および篩別し、粒度分布測定と組成分析を行った。得られたニッケルコバルトマンガン金属複合水酸化物の組成式は、Ni88.3Co8.9Mn2.8(OH)2.0であった。
【0258】
上記ニッケルコバルトマンガン金属複合水酸化物を用いた以外は実施例1と同様にして得られたリチウム二次電正極活物質を用いてラミネートセルを作製し、電池膨れ量の測定を行った。これらの結果を表2に示す。
【0259】
(比較例1)
・スラリー調整工程
220φプロペラタイプの攪拌羽根を備えた攪拌機とオーバーフローパイプを備えた500L円筒形反応槽に水を入れ、次いでpHが12.0(溶液の温度が40℃のときの測定値)となるまで32質量%水酸化ナトリウム溶液を加え、ヒーターで温度を40℃に保持した。次いで、反応槽内に窒素ガスを5L/分の流量で連続的に吹き込み反応槽内の雰囲気を不活性雰囲気とした。
【0260】
硫酸ニッケル水溶液と硫酸コバルト水溶液とを、ニッケル原子とコバルト原子との原子比が92.8:7.2となる割合に混合して、混合原料液を調製し、混合原料液を一定速度にて反応槽に連続供給した。錯化剤として0.76mol/Lの硫酸アンモニウム溶液を用いて、アンモニア濃度が0.23mol/Lになる割合で、一定速度にて反応槽に連続供給した。10.8質量%の硫酸アルミニウム水溶液を、ニッケル原子とコバルト原子とアルミニウム原子との原子比が90:7:3となる割合で流量を調整して加えた。さらに、反応槽内の溶液のpHを12.0(溶液の温度が40℃のときの測定値)に維持するために32質量%の水酸化ナトリウムを断続的に加えた。
【0261】
得られたニッケルコバルトアルミニウム金属複合水酸化物を洗浄して脱水した後、105℃で20時間で乾燥および篩別し、粒度分布測定と組成分析を行った。得られたニッケルコバルトアルミニウム金属複合水酸化物の組成式は、Ni90.1Co6.8Al3.1(OH)2.1であった。
【0262】
上記ニッケルコバルトアルミニウム金属複合水酸化物を用いた以外は実施例1と同様にして得られたリチウム二次電池正極活物質を用いてラミネートセルを作製し、電池膨れ量の測定を行った。これらの結果を表2に示す。
【0263】
(比較例2)
上記湿式分級機液体サイクロンのテーパー角を9°とし、送液流速を0.59m/秒に変更した以外は実施例1と同様にしてニッケルコバルトアルミニウム金属複合水酸化物を製造した。
【0264】
得られたニッケルコバルトアルミニウム金属複合水酸化物に対して、粒度分布測定と組成分析を行った。得られたニッケルコバルトアルミニウム金属複合水酸化物の組成式は、Ni90.0Co7.0Al3.0(OH)2.1であった。
【0265】
上記ニッケルコバルトアルミニウム金属複合水酸化物を用いた以外は実施例1と同様にして得られたリチウム二次電池正極活物質を用いてラミネートセルを作製し、電池膨れ量の測定を行った。これらの結果を表2に示す。
【0266】
(比較例3)
・スラリー調整工程
220φプロペラタイプの攪拌羽根を備えた攪拌機とオーバーフローパイプを備えた500L円筒形反応槽に水を入れ、次いでpHが12.6(溶液の温度が40℃のときの測定値)となるまで32質量%水酸化ナトリウム溶液を加え、ヒーターで温度を60℃に保持した。次いで、反応槽内に窒素ガスを5L/分の流量で連続的に吹き込み反応槽内の雰囲気を不活性雰囲気とした。
【0267】
硫酸ニッケル水溶液と硫酸コバルト水溶液と硫酸マンガン水溶液とを、ニッケル原子とコバルト原子とマンガン原子の原子比が88:8:4となる割合に混合して、混合原料液を調製し、混合原料液を一定速度にて反応槽に連続供給した。錯化剤として0.76mol/Lの硫酸アンモニウム溶液を用いて、アンモニア濃度が0.23mol/Lとなる割合で、一定速度にて反応槽に連続供給した。さらに、反応槽内の溶液のpHを12.6(溶液の温度が40℃のときの測定値)に維持するために32質量%の水酸化ナトリウムを断続的に加えた。
【0268】
得られたニッケルコバルトマンガン金属複合水酸化物を洗浄して脱水した後、105℃で20時間で乾燥および篩別し、粒度分布測定と組成分析を行った。得られたニッケルコバルトマンガン金属複合水酸化物の組成式は、Ni88.1Co9.0Mn2.9(OH)2.0であった。
【0269】
上記ニッケルコバルトマンガン金属複合水酸化物を用いた以外は実施例1と同様にして得られたリチウム二次電池正極活物質を用いてラミネートセルを作製し、電池膨れ量の測定を行った。これらの結果を表2に示す。
【0270】
【0271】
表2に示すように、本実施形態の前駆体を用いて製造したリチウム二次電池正極活物質を含む正極を使用した実施例の電池は、比較例のものよりも電池膨れ量が抑制されていた。このため、本発明を適用した前駆体を用いて製造した正極活物質を使用する場合、より長寿命の電池が製造できることが確認された。
【符号の説明】
【0272】
1…セパレータ、2…正極、3…負極、4…電極群、5…電池缶、6…電解液、7…トップインシュレーター、8…封口体、10…リチウム二次電池、21…正極リード、31…負極リード、100…積層体、110…正極、111…正極活物質層、112…正極集電体、113…外部端子、120…負極、121…負極電解質層、122…負極集電体、123…外部端子、130…固体電解質層、200…外装体、200a…開口部、1000…全固体リチウムイオン二次電池