(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-30
(45)【発行日】2025-02-07
(54)【発明の名称】平面アンテナ
(51)【国際特許分類】
H01Q 13/08 20060101AFI20250131BHJP
H01Q 21/24 20060101ALI20250131BHJP
【FI】
H01Q13/08
H01Q21/24
(21)【出願番号】P 2020185027
(22)【出願日】2020-11-05
【審査請求日】2023-10-11
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、支出負担行為担当官、総務省大臣官房会計課企画官、研究テーマ「ミリ波帯におけるロボット等のワイヤフリー化に向けた無線制御技術の研究開発」に関する委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】393031586
【氏名又は名称】株式会社国際電気通信基礎技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100115749
【氏名又は名称】谷川 英和
(74)【代理人】
【識別番号】100121223
【氏名又は名称】森本 悟道
(73)【特許権者】
【識別番号】503027931
【氏名又は名称】学校法人同志社
(74)【代理人】
【識別番号】100115749
【氏名又は名称】谷川 英和
(72)【発明者】
【氏名】清水 聡
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 和司
(72)【発明者】
【氏名】芹澤 和伸
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 義規
(72)【発明者】
【氏名】大平 昌敬
【審査官】白井 亮
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-166117(JP,A)
【文献】特開2005-347961(JP,A)
【文献】特開平03-196705(JP,A)
【文献】特開平04-252522(JP,A)
【文献】特開平10-294616(JP,A)
【文献】特開2013-085058(JP,A)
【文献】特開2005-045447(JP,A)
【文献】国際公開第2011/004656(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01Q 13/08
H01Q 21/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1面及び第2面を有する誘電体基板と、
前記第1面に配置されたマイクロストリップラインによって構成された2個以上の共振器を有する共振部と、
前記第1面に配置され、前記共振部に接続された1個以上の放射素子を有するアンテナ部と、
前記第2面に形成されたグラウンド層と、を備え、
前記アンテナ部は
、共振方向
が直交する同形状の2個の放射素子を有して
おり、
前記2個の放射素子と前記共振部の最後段の共振器との接続位置は、当該最後段の共振器の共振方向において対称となる位置である、平面アンテナ。
【請求項2】
前記最後段の共振器の両端は、前記グラウンド層に短絡している、請求項1記載の平面アンテナ。
【請求項3】
前記グラウンド層は、平面視において前記放射素子に相当する箇所の少なくとも一部に開口を有する、請求項1
または請求項
2記載の平面アンテナ。
【請求項4】
前記共振部は、2個以上の半波長共振器を有する、請求項1から請求項
3のいずれか記載の平面アンテナ。
【請求項5】
前記放射素子の共振方向における一端側は前記グラウンド層に短絡している、請求項1から請求項
4のいずれか記載の平面アンテナ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1以上の放射素子を有する平面アンテナに関する。
【背景技術】
【0002】
ハーネスの無線化(ワイヤレスハーネス)は、ロボットアームをはじめとするメカトロ機器内部において可動部での有線配線の線噛み問題等を根本的に解決する方法として期待されている(例えば、非特許文献1参照)。特に、周波数資源の有効活用の観点からミリ波を利用したワイヤレスハーネスについては、ロボットアーム等の機器への適用が有望視されている。そのような無線化においては、無線モジュールとの一体化や低コスト化の観点から、平面アンテナを用いることが望まれている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】伴弘司、北沢祥一、小林聖、「省資源・省エネに有用なワイヤレスハーネス技術」、信学通ソマガジン、No.25、pp.25-32、2013年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ロボットアーム等のように、向きの変わる機器に実装される平面アンテナの指向性が狭い場合には、ロボットアーム等の機器が向きを変えることにより放射方向が変化し、伝送品質に影響を与えることがある。そのような伝送品質への影響を低減するために、向きの変わる機器に実装される平面アンテナは、その機器の向きによらずに送受信できる放射特性が求められる。すなわち、平面アンテナの放射方向は広いことが好ましい。
【0005】
また、平面アンテナとして一般的なマイクロストリップアンテナは、比帯域幅が数%以下と狭帯域であるという問題があった。なお、マイクロストリップアンテナのような平面アンテナの周波数帯域幅を広げるための方法として、誘電体基板の厚みを厚くする方法やアンテナの幅(共振モードの電流方向とは直交する方向の長さ)を増やす方法がある。つまり、アンテナの放射Q値を下げる方法である。しかしながら、誘電体基板の厚みが制限されるミリ波帯等の高周波数帯では、自ずと放射Q値の下限が制限されるため、例えば60GHz帯の免許不要の広い周波数帯に対応した広帯域特性を平面アンテナ単体で実現するのは困難である。
【0006】
本発明は、上記事情に応じてなされたものであり、より広い放射特性と、より広い帯域特性とを有する平面アンテナを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の一態様による平面アンテナは、第1面及び第2面を有する誘電体基板と、第1面に配置されたマイクロストリップラインによって構成された2個以上の共振器を有する共振部と、第1面に配置され、共振部に接続された1個以上の放射素子を有するアンテナ部と、第2面に形成されたグラウンド層と、を備え、アンテナ部は、2以上の共振方向を有している、ものである。
【0008】
このような構成により、2以上の異なる共振方向を有することによって、放射方向を広げることができる。したがって、例えば、平面アンテナがロボットアームなどの向きの変わる機器に実装されたとしても、信号を適切に送受信することができるようになる。また、放射素子の前段に2個以上の共振器を備えることによって、広帯域化を実現することもできるようになる。
【0009】
また、本発明の一態様による平面アンテナでは、アンテナ部は、共振方向が異なる2個以上の放射素子を有していてもよい。
【0010】
このような構成により、共振方向が異なる2個以上の放射素子を用いることによって、放射方向を広げることができる。
【0011】
また、本発明の一態様による平面アンテナでは、アンテナ部は、共振方向が直交する2個の放射素子を有していてもよい。
【0012】
このような構成により、複数の直交偏波を放射することができるようになり、放射方向を広げることができる。
【0013】
また、本発明の一態様による平面アンテナでは、アンテナ部は、共振方向が直交する二重共振モードの放射素子を有しており、グラウンド層は、平面視において放射素子に相当する箇所の少なくとも一部に開口を有してもよい。
【0014】
このような構成により、1個の放射素子により、2つの異なる共振方向を実現することができる。また、開口の大きさにより、各共振方向に対応する放射Q値を変更することもできるようになる。
【0015】
また、本発明の一態様による平面アンテナでは、グラウンド層は、平面視において放射素子に相当する箇所の少なくとも一部に開口を有してもよい。
【0016】
このような構成により、グラウンド層側からも、電波の送受信を行うことができるようになる。
【0017】
また、本発明の一態様による平面アンテナでは、共振部は、2個以上の半波長共振器を有してもよい。
【0018】
このような構成により、例えば、共振部を、並列に配置された2個の両端短絡半波長共振器によって構成することができる。
【0019】
また、本発明の一態様による平面アンテナでは、放射素子の共振方向における一端側はグラウンド層に短絡していてもよい。
【0020】
このような構成により、誘電体基板に垂直な方向の成分の利得を増やすことができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の一態様による平面アンテナによれば、放射方向を広げることができると共に、より広い帯域特性を実現することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の実施の形態による平面アンテナの構成を示す平面図
【
図2】同実施の形態による平面アンテナの結合トポロジーを示す図
【
図3A】同実施の形態における一方の放射素子の放射パターンの一例を示す図
【
図3B】同実施の形態における一方の放射素子の放射パターンの一例を示す図
【
図4A】同実施の形態における2個の放射素子の放射パターンの一例を示す図
【
図4B】同実施の形態における2個の放射素子の放射パターンの一例を示す図
【
図5】同実施の形態における平面アンテナの周波数特性の一例を示す図
【
図6】同実施の形態による平面アンテナの構成の他の一例を示す平面図
【
図7】同実施の形態におけるグラウンド層の他の一例を示す図
【
図8A】同実施の形態による平面アンテナの構成の他の一例を示す平面図
【
図8B】同実施の形態による平面アンテナの構成の他の一例を示す平面図
【
図9A】同実施の形態による平面アンテナの構成の他の一例を示す平面図
【
図9B】同実施の形態による平面アンテナの構成の他の一例を示す平面図
【
図10A】同実施の形態による平面アンテナの構成の他の一例を示す平面図
【
図10B】同実施の形態による平面アンテナの構成の他の一例を示す平面図
【
図11A】同実施の形態による平面アンテナの構成の他の一例を示す平面図
【
図11B】同実施の形態による平面アンテナの構成の他の一例を示す平面図
【
図12】同実施の形態による平面アンテナの構成の他の一例を示す平面図
【
図13】同実施の形態による平面アンテナの構成の他の一例を示す平面図
【
図14】同実施の形態による平面アンテナの実装されたロボットアームを示す図
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明による平面アンテナについて、実施の形態を用いて説明する。なお、以下の実施の形態において、同じ符号を付した構成要素は同一または相当するものであり、再度の説明を省略することがある。本実施の形態による平面アンテナは、2以上の異なる共振方向を有する1以上の放射素子と、その1以上の放射素子の前段の2個以上の共振器とを有するものである。
【0024】
図1は、本実施の形態による平面アンテナ1の構成を示す平面図である。本実施の形態による平面アンテナ1は、誘電体基板3と、共振部5と、アンテナ部7と、グラウンド層9とを備える。この平面アンテナ1は、マイクロストリップアンテナである。平面アンテナ1が送受信する電波の周波数は特に限定されるものではないが、例えば、1GHzから300GHzの範囲の周波数であってもよく、ミリ波帯(30~300GHz)の周波数であってもよい。
【0025】
誘電体基板3は、平板状の基板であり、
図1で示される面である第1面と、その第1面と反対側の面である第2面とを有する。なお、第1面を正面、第2面を背面と呼ぶこともある。
【0026】
共振部5は、誘電体基板3の第1面に配置されたマイクロストリップラインによって構成された2個以上の共振器を有する。
図1では、共振部5が2個の共振器51,53を有しており、その共振器51,53が、共振方向が平行になるように並列に配置された直線状の半波長共振器である場合について示している。それ以外の共振器については後述する。共振器51,53の両端は、ビア50によってグラウンド層9に短絡している。したがって、共振器51,53は、両端短絡マイクロストリップ半波長共振器である。前段側の共振器51は、マイクロストリップラインによって構成された入力線11に接続されている。また、共振器51,53は、マイクロストリップラインによって構成された接続線51aによって接続されている。
【0027】
アンテナ部7は、誘電体基板3の第1面に配置され、共振部5に接続された1個以上の放射素子を備える。アンテナ部7は通常、共振部5の最後段の共振器53に接続される。また、アンテナ部7は、2以上の異なる共振方向を有しているものとする。すなわち、アンテナ部7が有する1個または2個以上の放射素子によって、2以上の異なる共振方向が実現されるものとする。共振方向とは、共振モードの電流方向のことである。2つの異なる共振方向は直交していてもよく、またはそうでなくてもよい。アンテナ部7が2個以上の放射素子を有する場合には、少なくとも2個の放射素子の共振方向は異なっているものとする。本実施の形態では、アンテナ部7が有する放射素子が単一共振モードである場合について主に説明し、二重共振モードである場合については後述する。なお、放射素子の形状は、例えば、矩形状であってもよく、正方形状であってもよく、楕円形状であってもよく、円形状であってもよい。本実施の形態では、放射素子が矩形状である場合について主に説明する。
図1では、アンテナ部7が2個の矩形状の放射素子71,73を有する場合について示している。それ以外の放射素子については後述する。なお、放射素子71,73は、同形状であり、実線の両矢印で示される共振方向が直交するように配置されている。したがって、平面アンテナ1では複数の直交偏波を送受信することができる。放射素子71,73は、それぞれマイクロストリップラインによって構成された接続線71a,73aによって共振器53に接続されている。また、アンテナ部7が有する2個以上の放射素子から放射される電波の偏波方向が直交している場合には、2個以上の放射素子が同位相で励振されなくてもよいが、2個以上の放射素子の偏波方向が直交していない場合には、2個以上の放射素子が同位相で励振されることが好適である。
【0028】
グラウンド層9は、誘電体基板3の第2面に形成されているグラウンド導体である。なお、誘電体基板3の第2面の全体にグラウンド層9が形成されていてもよく、グラウンド層9の一部に開口が設けられていてもよい。
図1の平面アンテナ1では、誘電体基板3の第2面の全体に図示しないグラウンド層9が形成されているものとする。なお、開口を有するグラウンド層9については後述する。
【0029】
図2は、
図1で示される平面アンテナ1の結合トポロジーを示す図である。
図2において、各ノードが共振器または放射素子を示しており、各リンクが結合を示している。
図2において、ノード1,2がそれぞれ共振器51,53に相当し、2個のノード3が放射素子71,73に相当している。
【0030】
図1で示される矩形状の放射素子71,73において、共振方向の長さ(実線の両矢印で示される長さ)で共振周波数f
03を調整でき、共振方向に直交する方向の長さ(破線の両矢印で示される長さである。以下、この方向の長さを「幅」と呼ぶこともある。)で放射素子71,73の放射Q値Q
rを調整できる。2個の放射素子71,73は、共振器53と2箇所で結合している。放射素子71,73と、共振器53との接続位置によって結合係数k
23を調整できる。なお、共振器53の共振方向(
図1における左右方向)における放射素子71の接続位置の共振器53の一端からの距離と、放射素子73の接続位置の共振器53の他端からの距離とを同じにすることによって、すなわち、放射素子71,73の接続位置が、共振器53の共振方向において対称となるようにすることによって、2個の放射素子71,73の結合係数k
23を同じにすることができる。
【0031】
両端をグラウンド層9に短絡した共振器53の電界分布は、共振器53の中心について偶対称となるため、2個の放射素子71,73は同位相で励振される。また、上記のように2個の放射素子71,73の結合係数k23を同じにすれば、2個の放射素子71,73は同振幅で励振される。
【0032】
共振器51,53の間は、半波長よりも短い接続線51aによって接続されることによって結合しており、接続線51aの長さ、及び接続線51aの接続位置によって結合係数k12を調整できる。共振器51,53の共振周波数f01、f02は、それぞれの線路長を変えることによって調整できる。さらに、入力線11と共振器51との結合を表す外部Q値Qeは、共振器51に対する入力線11の接続位置で調整できる。
【0033】
図3A,
図3Bで示されるように、
図1の右側の放射素子71によって主にx成分の偏波が平面アンテナ1の正面方向(すなわち、+z方向)に放射され、さらにz成分の偏波が
図1の±x方向に放射される。それに対して、
図1の左側の放射素子73によって主にy成分の偏波が平面アンテナ1の正面方向に放射され、さらにz成分の偏波が
図1の±y方向に放射される。よって、2個の放射素子71,73のz成分の偏波は直交していないため、同位相で励振される。このように、2個の放射素子71,73を用いると、
図4A,
図4Bで示されるように、同時にx成分とy成分の偏波が平面アンテナ1の正面方向に放射され、z成分の偏波がxy平面の水平方向(実際にはグラウンド層9の影響で打ち上げ角が生じる)に放射される。
【0034】
したがって、放射素子71,73の共振周波数、放射Q値、共振器51,53の共振周波数、外部Q値、及び各結合係数を適切に設計すれば、所定の周波数帯域幅でリターンロスを抑えながら、直交3偏波の放射が可能となる。すなわち、放射方向を広げることができるようになる。
【0035】
次に、放射素子71,73の共振周波数と、放射Q値、共振器51,53の共振周波数、外部Q値、各結合係数を決める具体的な方法について説明する。
図2の結合トポロジーの原型低域通過フィルタの周波数領域における規格化結合行列[M]は、次式で示される。なお、この規格化結合行列は、中心周波数や帯域幅にはよらない規格化結合係数で構成される行列である。
【数1】
【0036】
なお、
図2の結合トポロジーにおいて、伝達関数、及び共振器の個数を決めることによって規格化結合行列の各行列要素の値は決定される。共振器の個数とは、共振部5に含まれる共振器だけでなく、アンテナ部7に含まれる放射素子も共振器と考えた場合の個数である。また、
図2では、2個の放射素子71,73は対称であるため、1個の放射素子のみについて考える。したがって、
図2の例では、共振器の個数は3個となり、上記の規格化結合行列[M]となる。以下の説明では、伝達関数が所定の通過域のリプル幅を有するチェビシェフ関数であり、共振器の個数が3個である場合について説明する。
【0037】
原型低域通過フィルタの規格化結合行列の各行列要素と、帯域通過フィルタの結合行列の各行列要素との関係を用いることによって、共振部5及びアンテナ部7を有する帯域通過フィルタの結合係数や共振周波数、入力側及び出力側の外部Q値を求めることができる。以下、そのことについて説明する。ここで、帯域通過フィルタの中心周波数をf
0、周波数帯域幅をΔfとすると、共振器51,53間の結合係数k
i,i+1(ここでは、i=1)は次式で表される。なお、中心周波数f
0は、設計者が所望の値に決めることができる。一方、周波数帯域幅Δfは、後述するように、放射素子71の放射Q値によって決まる。また、結合係数等の添え字におけるコンマ(,)は、2個の添え字を区別し易くするために便宜上、付けたものである。
【数2】
【0038】
また、共振器53と放射素子71(または放射素子73)との間の結合係数k
i,i+1(ここでは、i=2)は、放射素子71,73に対して電力を2分配するため、次式のように係数「1/√2」を掛けることになる。なお、放射素子71,73ごとに共振器53との結合係数が異なる場合であっても、それに応じた係数を掛けることによって、共振器の個数が3個であるとして結合係数等を求めることができる。
【数3】
【0039】
また、放射素子71(または放射素子73)の放射Q値Q
rは、規格化結合行列の要素M
N,L(Nは共振器の個数であり、ここではN=3)を用いて、次式のように示される。
【数4】
【0040】
したがって、規格化結合行列の要素MN,Lが決まれば、実現できる周波数帯域幅Δfの上限は、物理的に実現可能な放射素子71(または放射素子73)の放射Q値Qrによって決まることになる。放射Q値Qrは、誘電体基板3の厚みに応じて下限が決まるからである。なお、上限までの範囲内の所望の周波数帯域幅Δfとなるように、放射Q値Qrを決定してもよい。
【0041】
同様に、外部Q値Q
eは、規格化結合行列の要素M
S1を用いて次式のように表される。
【数5】
【0042】
放射素子71(または放射素子73)と、共振器51,53との共振周波数f
0iは、規格化結合行列の対角要素M
ii(ここでは、i=1,2,3)を用いて次式の方程式を解くことによって求められる。
【数6】
【0043】
このようにして、規格化結合行列の各要素に応じて、各結合係数、各共振周波数、放射Q値、外部Q値が決まることになる。そして、その決定された結合係数等に応じて、入力線11の接続位置、共振器51,53の長さ、接続線51aの位置及び長さ、接続線71a、73aの接続位置、放射素子71,73の幅及び共振方向の長さが決まることになる。したがって、その決まった内容に応じた平面アンテナ1を構成することによって、所望の中心周波数f0、周波数帯域幅Δfの帯域特性を有すると共に、直交3偏波を放射することができる、リターンロスを抑えた平面アンテナ1を実現することができるようになる。
【0044】
図5は、そのようにして設計された平面アンテナ1の正面での3成分のトータルの利得と、反射係数S
11との周波数に応じた変化を示す図である。
図5で示されるように、平面アンテナ1は、帯域通過フィルタとしての周波数選択特性を有している。また、所定の周波数帯域内で、周波数依存性の低い平坦な利得特性も実現できている。なお、周波数帯域幅は、帯域通過フィルタと同様に、放射素子を含む複数の共振器間の結合度によって広げることができる。そのため、結合が強いほど周波数帯域幅は広くなる。したがって、放射素子単体のみを有する平面アンテナよりも、本実施の形態による平面アンテナ1の方が、より広い周波数帯幅で良好なインピーダンス整合を実現することができることになる。
【0045】
なお、共振器間での飛び越し結合(すなわち、非隣接共振器による結合)を用いた場合には、阻止域に伝送零点(減衰極)を生成することができ、より急峻な周波数選択特性を得ることができるようになる。
【0046】
上記説明では、
図1で示される3個の共振器を有する帯域通過フィルタの各結合係数、各共振周波数、放射Q値、外部Q値を、原型低域通過フィルタの規格化結合行列の各行列要素の値を用いて算出する場合について説明したが、他の構成の帯域通過フィルタについても、同様に各結合係数、各共振周波数、放射Q値、外部Q値を、原型低域通過フィルタの規格化結合行列の各行列要素の値を用いて算出できることは明らかである。したがって、
図1以外の構成の平面アンテナ1についても、共振部5が有する共振器、及びアンテナ部7が有する放射素子を帯域通過フィルタとみなして、同様にして、リターンロスを抑えた平面アンテナ1を実現できることは言うまでもない。
【0047】
以上のように、本実施の形態による平面アンテナ1によれば、放射素子71,73を有するアンテナ部7と、その前段に配置された2個の共振器51,53を有する共振部5とを有することによって、放射方向を広げることができると共に、より広い周波数帯域を実現することができるようになる。また、所定の周波数帯域内で、良好なインピーダンス整合特性を実現することができ、平坦な利得特性を得ることもできる。また、共振器51,53の接続に接続線51aを用いていることによって、狭ギャップ構造のように、わずかな製作誤差が特性に大きく影響するようなこともない。さらに、共振器51,53において両端短絡構造を採用していることによって、共振器51,53の端部におけるエッチング精度による共振周波数のずれも最小限に抑えることができる。
【0048】
次に、本実施の形態による平面アンテナ1の変形例について説明する。
[一端が短絡した放射素子]
図6で示されるように、放射素子71,73は、共振方向における一端側がグラウンド層9に短絡したものであってもよい。
図6では、矩形状の放射素子71,73における共振方向に直交する方向の辺のうち、電力供給側の一辺が、ビア50によってグラウンド層9に接続されている。その結果、アンテナ部7は、2個の板状逆Fアンテナを有しているものとなる。この場合には、放射素子71,73は、それぞれ1/4波長共振アンテナとして動作することになる。したがって、放射素子71,73の上面のパッチ部分からの放射だけでなく、グラウンド層9に対して垂直な導通ビア50からの放射が発生する。これによって、z成分の利得を増やすことができる。また、
図1の平面アンテナ1では、z成分の利得の角度特性においてx軸またはy軸方向が他の方向に比べてやや利得が高くなるが、
図6の平面アンテナ1では、水平方向の角度によるz成分の利得の偏差を減少させることもできる。ただし、それによってx成分、y成分の利得の減少や、放射パターンの単向性がやや犠牲になる。
【0049】
[開口を有するグラウンド層]
図1及び
図6で示される平面アンテナ1では、誘電体基板3の背面(すなわち第2面)の全面にグラウンド層9が形成されている場合について説明したが、そうでなくてもよい。x成分、y成分の偏波を、平面アンテナ1の背面側にも放射させる場合には、
図7に示すように、グラウンド層9は、放射素子71,73の背面側の少なくとも一部に開口9a,9bを有していてもよい。すなわち、グラウンド層9は、平面視(すなわち、誘電体基板3の法線方向から見た場合)において、放射素子71,73に相当する箇所の少なくとも一部に開口9a,9bを有していてもよい。なお、
図7は、第2面側から見た平面アンテナ1を示す図である。このように、平面アンテナ1が、グラウンド層9に開口9a,9bを有するマイクロストリップアンテナとなることによって、放射素子71,73の幅だけでなく、開口9a,9bの大きさによっても放射Q値を調整できるようになる。
【0050】
[複数の線路での結合]
平面アンテナ1の共振器51,53は、
図8Aで示されるように、複数の線路で結合されてもよい。
図8Aで示される平面アンテナ1の入力線11は、共振器51との接続側において2個の線路11a,11bに分岐している。そして、その2個の線路11a,11bによって共振器51に結合している。また、共振器51,53間も、2個の接続線51a,51bによって結合されている。
図8Aで示される平面アンテナ1は、左右対称の構造となっている。この場合にも、上記した
図1の平面アンテナ1と同様にして、規格化結合行列の各行列要素の値から、各結合係数や各共振周波数等を求めることができ、それに応じて平面アンテナ1を設計することによって、放射方向を広げることができると共に、より広い帯域特性を実現することができるようになる。後述する他の平面アンテナ1についても同様である。
【0051】
[ギャップでの結合]
平面アンテナ1の共振器51,53は、
図9Aで示されるように、ギャップで結合されてもよい。
図9Aで示される平面アンテナ1の入力線11は、共振器51側に、共振器51と平行に設けられた線路11cを有している。そして、線路11cと共振器51とは、両者間のギャップによって結合しており、また、共振器51,53も、両者間のギャップによって結合している。このように、接続線を介さないでギャップによって結合が行われてもよい。この
図9Aで示される平面アンテナ1も、左右対称の構造である。
【0052】
[両端開放マイクロストリップ半波長共振器を有する共振部]
平面アンテナ1の共振部5が有する共振器61,63は、
図10Aで示されるように、マイクロストリップラインで構成された、両端開放半波長共振器であってもよい。
図10Aで示される共振部5では、共振器61,63はギャップで結合されており、また、入力線11と共振器61もギャップで結合されている。この場合には、共振器61,63は、グラウンド層9と接続されなくてよいため、平面アンテナ1の製造がより容易になる。
図10Aでは、放射素子71,73の各接続線71a,73aは共振器63の同じ位置に接続されているため、放射素子71,73はそれぞれ同位相、同振幅で励振されることになる。
【0053】
[マイクロストリップ1/4波長共振器を有する共振部]
平面アンテナ1の共振部5が有する共振器81,83は、
図11Aで示されるように、マイクロストリップラインで構成された、1/4波長共振器であってもよい。この場合には、共振器81,83は、それぞれ一端側が短絡している。すなわち、共振器81,83の一端側は、それぞれビア50によってグラウンド層9に接続されている。
図11Aで示される共振部5では、共振器81,83はギャップで結合されており、また、入力線11と共振器81もギャップで結合されている。この場合には、共振器81,83の共振方向の長さを短くすることができ、
図10Aで示される平面アンテナ1よりも、より小型化することができる。
図11Aでも、
図10Aと同様に、放射素子71,73はそれぞれ同位相、同振幅で励振されることになる。
【0054】
[2個を超える放射素子を有するアンテナ部]
平面アンテナ1のアンテナ部7は、
図12で示されるように、4個の放射素子75a,75b,77a,77bを有してもよい。
図12では、放射素子75a,75bの共振方向は同じであり、放射素子77a,77bの共振方向は同じであり、放射素子75a,75bの共振方向と、放射素子77a,77bの共振方向とは直交している。したがって、
図12で示される平面アンテナ1は、実質的に
図8Aで示される平面アンテナ1と同様のものとなるが、1個の共振方向の放射に2個の放射素子が用いられるため、各共振方向についてアレイアンテナが構成されていると考えることもできる。なお、4個の放射素子75a,75b,77a,77bへの給電は、逆相給電にならないことが好適である。
図12では、アンテナ部7の有する放射素子の個数が4個である場合について示しているが、アンテナ部7は、3個の放射素子を有していてもよく、または、5個以上の放射素子を有していてもよい。また、アンテナ部7が有する少なくとも2個の放射素子は、例えば、共振方向が直交していてもよい。また、アンテナ部7は、共振方向が直交しない2個以上の放射素子を有していてもよい。なお、アンテナ部7が、偏波方向が直交しない2個以上の放射素子を有する場合には、各放射素子は同位相で励振されることが好適である。
【0055】
[1個の放射素子を有するアンテナ部]
平面アンテナ1のアンテナ部7は、
図13で示されるように、1個の放射素子79を有してもよい。その放射素子79は、両矢印で示される共振方向が直交する二重共振モードの放射素子、すなわち正方形状の放射素子である。放射素子79は、マイクロストリップラインによって構成された接続線79a,79bによって共振器53に接続されている。この場合には、放射素子79の大きさ(一辺の長さ)は、放射素子79の共振周波数によって決まるため、放射素子79の大きさによって放射Q値を変更することができなくなる。そのため、
図13で示される平面アンテナ1のグラウンド層9は、平面視において放射素子79に相当する箇所の少なくとも一部に開口を有しているものとする。そして、その開口の大きさによって、放射Q値を調整するものとする。なお、
図13では、放射素子79が正方形状である場合について示しているが、放射素子79は、例えば円形状であってもよい。
【0056】
[3個以上の共振器を有する共振部]
平面アンテナ1の共振部5は、3個以上の共振器を有していてもよい。共振部5は、例えば、
図8B、
図9Bで示されるように、共振器51,53,55を有していてもよく、
図10Bで示されるように、共振器61,63,65を有していてもよく、
図11Bで示されるように、共振器81,83,85を有していてもよい。
図8Bでは、共振器51,55は、2個の接続線55a,55bによって接続されており、
図9Bでは、共振器51,55は、ギャップで結合されており、また、入力線11の線路11cと共振器55もギャップで結合されている。
図10Bでは、共振器61,65はギャップで結合されており、また、入力線11と共振器65もギャップで結合されている。
図11Bで示される共振部5では、共振器81,85はギャップで結合されており、また、入力線11と共振器85もギャップで結合されている。それらの例では、共振部5が3個の共振器を有する場合について示しているが、共振部5は、4個以上の共振器を有していてもよいことは言うまでもない。このように、共振部5が有する共振器の個数が増えることによって、損失は増えることになる。すなわち、平面アンテナ1の利得は減少する。一方、より急峻な周波数選択特性を得ることができるようになる。
【0057】
[ギャップの結合と線路での結合との混合]
図8A、
図8Bでは、複数の共振器が線路で結合される場合について説明し、
図9A、
図9Bでは、複数の共振器がギャップで結合される場合について説明したが、共振部5が有する複数の共振器のうち、ある共振器間は線路で結合され、別の共振器間はギャップで結合されてもい。例えば、共振部5が、
図8B、
図9Bと同様に、並列に配置された3個の共振器55,51,53を有する場合に、共振器55,51間は線路で結合され、共振器51,53間はギャップで結合されてもよい。
【0058】
[ロボットアームに実装された平面アンテナ]
図14は、平面アンテナ1をロボットアーム100に実装した例を示す図である。
図14で示されるように、ロボットアーム100の各アーム、及び先端部に複数の平面アンテナ1が配置されている。そして、ロボットアーム100を制御する信号は、台座部分の基地局のアンテナ101から送信される。基地局からの信号は、各平面アンテナ1で受信され、モータやアクチュエータ等の制御が行われることになる。また、ロボットアーム100内のセンサ情報(例えば、エンコーダの値など)は、ロボットアーム100の平面アンテナ1から基地局のアンテナ101に送信される。この場合には、ロボットアーム100が動作することに応じて平面アンテナ1の位置関係は変化するが、本実施の形態による平面アンテナ1のように、より広い放射方向を有していることによって、常に安定した無線通信を行うことができるようになる。
【0059】
[放射素子の形状]
本実施の形態では、アンテナ部7が有する1個以上の放射素子が矩形状である場合について主に説明したが、上記したように、放射素子は矩形状以外の形状、例えば、円形状や楕円形状であってもよい。したがって、上記したアンテナ部7において、例えば、矩形状の放射素子に代えて、楕円形状の放射素子を用いてもよい。
【0060】
また、本発明は、以上の実施の形態に限定されることなく、種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0061】
以上より、本発明の一態様による平面アンテナによれば、放射方向を広げることができると共に、より広い帯域特性を実現することができるという効果が得られ、例えば、ロボットアーム等に実装される平面アンテナとして有用である。
【符号の説明】
【0062】
1 平面アンテナ
3 誘電体基板
5 共振部
7 アンテナ部
9 グラウンド層
11 入力線
50 ビア
51、53、55、61、63,65、81、83、85 共振器
71、73、75a、75b、77a、77b、79 放射素子