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特許7627991リサイクリング増進のための分解系促進剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-30
(45)【発行日】2025-02-07
(54)【発明の名称】リサイクリング増進のための分解系促進剤
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/17 20160101AFI20250131BHJP
   A61K 38/01 20060101ALI20250131BHJP
   A61K 35/60 20060101ALI20250131BHJP
   A61P 3/00 20060101ALI20250131BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20250131BHJP
【FI】
A23L33/17
A61K38/01
A61K35/60
A61P3/00
A61P43/00 105
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2024541104
(86)(22)【出願日】2024-01-16
(86)【国際出願番号】 JP2024000989
【審査請求日】2024-07-08
(31)【優先権主張番号】P 2023172240
(32)【優先日】2023-10-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】500492750
【氏名又は名称】フォーデイズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】弁理士法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】須藤 慶太
(72)【発明者】
【氏名】藤田 美華
【審査官】戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-040766(JP,A)
【文献】特開2003-325149(JP,A)
【文献】特開2004-091398(JP,A)
【文献】特開2021-172640(JP,A)
【文献】特開2023-086330(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 33/00-33/29
A61K 35/00-35/768
A61K 38/00-38/58
A61K 48/00
FSTA/CAplus/AGRICOLA/BIOSIS/
MEDLINE/EMBASE(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Google
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
魚類の白子を酵素処理することにより得られる分子量250乃至15,000の水溶性核タンパク質を含有する、リサイクリング増進のための分解系促進剤。
【請求項2】
前記分解系がプロテアソーム分解系である、請求項1記載の分解系促進剤。
【請求項3】
前記分解系が、オートファジー分解系である、請求項1記載の分解系促進剤。
【請求項4】
前記分解系が、アポトーシスである、請求項1記載の分解系促進剤。
【請求項5】
請求項1記載の分解系促進剤を含む、リサイクリング増進のための分解系促進用健康食品。
【請求項6】
請求項に記載の分解系促進剤を含む、リサイクリング増進のためのプロテアソーム分解系促進用健康食品。
【請求項7】
請求項に記載の分解系促進剤を含む、リサイクリング増進のためのオートファジー分解系促進用健康食品。
【請求項8】
請求項に記載の分解系促進剤を含む、リサイクリング増進のためのアポトーシス促進用健康食品。
【請求項9】
前記健康食品が、錠剤、ドリンク剤、カプセル剤、顆粒剤、粉剤、丸剤又はゼリー剤の形態を有する、請求項に記載の健康食品。
【請求項10】
前記健康食品が、錠剤、ドリンク剤、カプセル剤、顆粒剤、粉剤、丸剤又はゼリー剤の形態を有する、請求項に記載の健康食品。
【請求項11】
前記健康食品が、錠剤、ドリンク剤、カプセル剤、顆粒剤、粉剤、丸剤又はゼリー剤の形態を有する、請求項に記載の健康食品。
【請求項12】
前記健康食品が、錠剤、ドリンク剤、カプセル剤、顆粒剤、粉剤、丸剤又はゼリー剤の形態を有する、請求項に記載の健康食品。
【請求項13】
魚類の白子を酵素処理することにより得られる分子量250乃至15,000の水溶性核タンパク質を含有する、プロテアソーム関連遺伝子の応答増加剤。
【請求項14】
魚類の白子を酵素処理することにより得られる分子量250乃至15,000の水溶性核タンパク質を含有する、オートファジー関連遺伝子の応答増加剤。
【請求項15】
魚類の白子を酵素処理することにより得られる分子量250乃至15,000の水溶性核タンパク質を含有する、アポトーシス関連遺伝子の応答増加剤。
【請求項16】
魚類の白子を酵素処理することにより得られる分子量250乃至15,000の水溶性核タンパク質を含有する、細胞、細胞小器官又はタンパク質のリサイクリング増進剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は細胞等のリサイクリング増進に係る分解系に関し、詳細には、プロテアソーム、オートファジー、アポトーシスといった分解系を促進して、細胞や細胞小器官等のリサイクリングを増進させる、分解系促進剤に関する。
本発明はまた、前記分解系促進剤を経口摂取することによる、各種分解系関連遺伝子(プロテアソーム関連遺伝子、オートファジー関連遺伝子、アポトーシス関連遺伝子)の応答を増加する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、健康に対する世間一般の関心の高まりを反映して、デオキシリボ核酸(DNA)、リボ核酸(RNA)、これら核酸とタンパク質との複合体である核タンパク質(核タンパク、サケ白子抽出物とも称する)を原料又は有効成分として用いた健康食品が提供されている。例えば核タンパク質は、免疫調節作用、抗酸化作用、血管拡張作用などを有することが知られている。また低分子化した水溶性核酸、又は該水溶性核酸及びアミノ酸を含有するがん細胞増殖抑制物質の提案がある(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-152144号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これまで、核酸(DNA、RNA)や核タンパク質の摂取により、抗酸化作用をはじめとする種々の作用や効果が発現したことが紹介されている。
しかし、これらの摂取が、老化した細胞や細胞内の酸化した不要なタンパク質や不良ミトコンドリアなどの分解に影響を与え、それにより、細胞自体や細胞小器官等のリサイクリングに影響を与えたとする報告は今までになされていない。
さて、細胞におけるリサイクリングのための分解系として、細胞内の不要になったタンパク質や、障害を受けたタンパク質を選択的に分解するユビキチン・プロテアソーム系と、同様に傷ついたり、機能不全となった細胞内の小器官の自己分解に関与する小胞オートファゴソームに関連するオートファジーが存在する。また、特に損傷したミトコンドリアを選択的に除去することをマイトファジーと呼ぶ。オートファジーは分解するターゲットが「非選択的」であるのに対し、前述のユビキチン・プロテアソーム系は、おもに分解するタンパク質をユビキチンタンパク質で目印をつけることで、選択的に分解を行う。最近の研究では、これらの現象が老化や疾患に関わることが報告されている。例えば、ショウジョウバエでは、オートファジー系遺伝子に変異が入ると平均寿命の減少が認められ、逆に過剰発現すると平均寿命が増すという報告がある。また、オートファジーとアルツハイマー型認知症、パーキンソン病のような神経変性疾患との関係性が認められており、オートファジー不全によって、β-アミロイドやα-シヌクレインのようなアミロイドタンパク質の蓄積が起こると報告されている。
ただし、これらユビキチン・プロテアソーム系やオートファジーが抗酸化に関連するという報告はこれまでになされていない。
【0005】
本発明は、細胞等のリサイクリング増進に係る新たな製剤及び細胞等のリサイクリング増進に係る各種関連遺伝子の応答を増加する方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は水溶性核タンパク質を含有するリサイクリング増進のための分解系促進剤に関し、特に、魚類の白子を酵素処理することにより得られる分子量250乃至15,000に低分子化された核タンパク質を含む、分解系促進剤に関する。そして特に、プロテアソーム分解系、オートファジー分解系、又はアポトーシスを対象とする分解系促進剤に関する。
また本発明は前記分解系促進剤を含む健康食品に関し、例えば錠剤、ドリンク剤、カプセル剤、顆粒剤、粉剤、丸剤又はゼリー剤の形態を有する健康食品に関する。
さらに本発明は、前記分解系促進剤を経口摂取することによる、プロテアソーム関連遺伝子の応答を増加する方法、オートファジー関連遺伝子の応答を増加する方法、またはアポトーシス関連遺伝子の応答を増加する方法に関し、前記分解系促進剤を経口摂取することによる、細胞、細胞小器官又はタンパク質のリサイクリング増進方法にも関する。
【0007】
そして本発明は、水溶性核タンパク質を含有する、プロテアソーム関連遺伝子の応答増加剤、オートファジー関連遺伝子の応答増加剤、アポトーシス関連遺伝子の応答増加剤、さらには細胞、細胞小器官又はタンパク質のリサイクリング増進剤も対象とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の水溶性核タンパク質、特に魚類の白子を酵素処理することによる低分子化された核タンパク質を含む分解系促進剤は、これを経口摂取することにより、プロテアソーム活性化、オートファジー活性化、そしてアポトーシス活性化を促して、酸化タンパク質や、不良ミトコンドリア等の細胞小器官の分解・除去、さらには細胞死そのものを促進させ、これら細胞等のリサイクリング増進作用を得られるという効果を奏する。さらにリサイクリング増進作用が進むことで、抗酸化や、疾患予防など健康維持に寄与すると期待される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、水溶性核タンパク質(サケ白子抽出物)を含む試験錠剤を被験者に8週間摂取させた試験錠剤群と、該抽出部を含まないプラセボ錠剤を被験者に8週間摂取させたプラセボ錠剤群において、摂取前後の被験者の血液にて実施したd-ROMsテストの結果を示した図である(A)d-ROMsの推移(測定値)、B)d-ROMsの変化量(摂取前を基準とした変化量))。
図2図2は、水溶性核タンパク質(サケ白子抽出物)8週間摂取後のヒト被験者における、ヒト血液から抽出したTotal RNAを用いたマイクロアレイによる網羅的遺伝子発現解析の結果を示す図である。
図3図3は、酵母(Saccharomyces cerevisiae BY4741株(MATa; his3D1; leu2D0; met15D0; ura3D0))をSD完全液体培地で増菌させた培養液に水溶性核タンパク質(サケ白子抽出物)を1%量となるように添加した試験群と、酵母(Saccharomyces cerevisiae(BY4741株)をSD完全液体培地で増菌させた培養液のみの対照群における、24時間処理後の培養液を適宜希釈し、4mM過酸化水素を添加したYPD平板培地に播種、30℃ 72時間培養後の過酸化水素下で生存した酵母を示す図である。
図4図4は、酵母(Saccharomyces cerevisiae(BY4741株))をSD完全液体培地で増菌させた培養液に水溶性核タンパク質(サケ白子抽出物)を1%量となるように添加した試験群と、酵母(Saccharomyces cerevisiae(BY4741株)をSD完全液体培地で増菌させた培養液のみの対照群における、24時間処理後の培養液を適宜希釈し、4mM過酸化水素を添加したYPD平板培地と過酸化水素未添加のYPD平板培地にそれぞれ播種、30℃72時間培養後の過酸化水素添加有無での生存数(コロニー数)をカウントし、求めた生存率を示す図である。
図5図5は、水溶性核タンパク質(サケ白子抽出物)を酵母(Saccharomyces cerevisiae((BY4741株))に添加後24時間経過後における、酵母から抽出したTotal RNAのマイクロアレイによる網羅的遺伝子発現解析の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の分解系促進剤は水溶性核タンパク質を含有する。本発明者らは、該水溶性核タンパク質によって、細胞内成分及び細胞そのものの分解系であるプロテアソーム、オートファジー及びアポトーシスを活性化させること、すなわち、酸化タンパク質、カルボニル化タンパク質、不良ミトコンドリア、傷害リソソーム等の不良タンパク質や不良な細胞小器官の分解・除去、さらには細胞死そのものを促進させる働きを有することを新たに確認した。そのため、本発明の上記分解系促進剤は、これを体内に経口摂取することにより、上記不良タンパク質や不良な細胞・細胞小器官等を除去し、これら細胞等をリサイクリングに寄与することが期待できる。
以下、本発明について詳細に説明する。
【0011】
本発明の分解系促進剤において、対象とする分解系は、プロテアソーム分解系、オートファジー分解系、またアポトーシスである。これらは謂わば分解系のスケールの違いとも言え、プロテアソームは不良タンパク質の選択的な分解、オートファジーは細胞質内の不良タンパク質や不良な細胞内小器官の分解、アポトーシスは細胞そのものの分解(細胞死)にそれぞれ関連する。これら不良細胞等の分解を促し、新たな細胞等にリサイクルし易い形態にすることで、細胞等のリサイクリング増進につながり得る。さらに前述したようにプロテアソーム系やオートファジーは老化や様々な疾患に関与し、これら分解系の変異や減少は寿命減少等の望ましくない現象につながることから、核酸(DNA、RNA)や核タンパク質の摂取によりオートファジー及びプロテアソーム系が促進されることは、単に核酸の摂取による抗酸化効果の向上以外に、抗老化や、健康維持が期待出来ると考える。
【0012】
本発明の分解系促進剤、そして後述するプロテアソーム関連遺伝子の応答増加剤、オートファジー関連遺伝子の応答増加剤、アポトーシス関連遺伝子の応答増加剤、さらには細胞、細胞小器官又はタンパク質のリサイクリング増進剤に使用する水溶性核タンパク質は、生物細胞より核酸を抽出し、酵素処理により低分子化した水溶性核タンパク質を挙げることができる。すなわち本明細書において水溶性核タンパク質とは、低分子化された魚類の白子の抽出物と言い換えることができる。上記水溶性核タンパク質の一例として、魚類の白子を酵素処理等により低分子化して、水溶性とした水溶性核タンパク質(例えばサケ白子抽出物)が挙げられる。
なお本明細書において水溶性とは、水に0.1質量%以上の濃度で溶解し得る性質をいう。
【0013】
上記魚類としては、サケ、マス、ニシン等が挙げられる。これらの中でも、核酸を多く含むものの、従来、資源として有効に利用されず、多くが廃棄されていたサケの白子を好適に用いることができる。
【0014】
魚類の白子の酵素処理は、例えば、魚類の白子を粉砕して得られる懸濁液を、プロテアーゼで処理し、次いで、ヌクレアーゼで処理する方法等が挙げられる。
通常、白子からDNA等を抽出すると、分子量が1,000,000以上となるため、これを酵素処理によって低分子化する。好ましい水溶性核タンパク質としては、分子量が250~100,000の、例えば分子量250~20,000、分子量250~15,000、分子量500~13,200、あるいは分子量250~10,000、分子量250~6,600のヌクレオシド/ヌクレオチド/オリゴヌクレオチド/ポリヌクレオチド(以下、低分子化物とも称する)を好ましくは20質量%以上、より好ましくは、30質量%以上含むものが挙げられる。
更に好ましくは、本発明に係る水溶性核タンパク質(例えばサケ白子抽出物)は、分子量500~15,000の低分子化物を2%質量以上、分子量250~6,600の低分子化物を18%質量以上含むものとすることができる。
【0015】
前記プロテアーゼとしては、セリンプロテアーゼ、システインプロテアーゼ、メタロプロテアーゼ、アスパラギン酸プロテアーゼなどを挙げることができる。魚類の白子にはプロタミン以外にもタンパク質が含まれるので、特に基質特異性の低いものが好ましい。良好なプロテアーゼとしては、ノボザイムズジャパン株式会社製のプロテアーゼを挙げることができる。前記プロテアーゼを用いた加水分解処理は、プロテアーゼの活性化と失活を踏まえ、温度:30~60℃の範囲、例えば40~50℃の範囲にて、pH:6~7範囲にて行うことができる。
上記ヌクレアーゼは、デオキシリボ核酸(DNA)の3,5'-ホスホジエステル結合を加水分解し、オリゴ体重合の5'-ヌクレオチドを生成するものである。該ヌクレアーゼの性質について特に制限はないが、ある程度の熱安定性を備えることが好ましい。このようなヌクレアーゼは、例えば天野エンザイム株式会社、シグマ社等から市販品を入手可能である。前記ヌクレアーゼを用いた加水分解処理は、ヌクレアーゼの活性化と失活を考慮し、例えば温度:60~75℃の範囲にて、pH:5~6範囲にて行うことができる。
具体的な酵素処理の手順は、まず白子(例えばサケ白子)に対してプロテアーゼ処理を行い、該白子に含まれるタンパク質等を加水分解する。加水分解終了後、ヌクレアーゼ処理を行うことにより核酸を低分子化すればよい。
【0016】
本発明はまた、前記分解系促進剤を含む健康食品も対象とする。
本発明の健康食品は、有効成分として前記分解系促進剤、例えば魚類の白子を酵素処理することにより得られる分子量250乃至15,000、また例えば分子量250乃至10,000程度の低分子化物である水溶性核タンパク質を含有し、後述の各種製品形態にあわせてその他の配合成分を含むものである。健康食品中の前記リサイクリング剤の含有量は、後述する臨床的投与量を参考に、適宜調整可能である。
【0017】
本発明の健康食品には、公知の甘味料、酸味料、ビタミン等の各種成分と混合してユーザーの嗜好に合う製品とすることができる。またその製品形態としては、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、粉剤、丸剤、シロップ剤、液剤、乳剤、懸濁液剤等の製剤形態、またドリンク剤、ゼリー剤、ヨーグルト等の乳製品、調味料、加工食品、デザート類、菓子等の形態で提供することが可能である。
【0018】
例えば前記経口投与用の錠剤、カプセル剤、顆粒剤、粉剤、丸剤等は、慣用手段によって製剤化され得、またこれらは賦形剤、例えば白糖、乳糖、ブドウ糖、でんぷん、マンニット;結合剤、例えばヒドロキシプロピルセルロース、シロップ、アラビアゴム、ゼラチン、ソルビット、トラガント、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン;崩壊剤、例えばでんぷん、カルボキシメチルセルロース又はそのカルシウム塩、微結晶セルロース、ポリエチレングリコール;滑沢剤、例えばタルク、ステアリン酸マグネシウム又はカルシウム、シリカ;潤滑剤、例えばラウリル酸ナトリウム、グリセロール等を使用して調製される。
また前記シロップ剤、液剤、乳剤、懸濁液剤等についても慣用手段によって製剤化され得、有効成分である前記分解系促進剤の溶剤、例えば水、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ポリエチレングリコール;界面活性剤、例えばソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、水素添加ヒマシ油のポリオキシエチレンエーテル、レシチン;懸濁剤、例えばカルボキシメチルナトリウム塩、メチルセルロース等のセルロース誘導体、トラガント、アラビアゴム等の天然ゴム類;保存剤、例えばパラオキシ安息香酸のエステル、塩化ベンザルコニウム、ソルビン酸塩等を使用して調製される。
さらに、前記ドリンク剤やゼリー剤をはじめ、乳製品、調味料、加工食品、デザート類、菓子等には、それらの構成原料の他、オリゴRNA、亜鉛、コラーゲン、コンドロイチン、ヒアルロン酸、ビタミン類(ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12等のビタミンB群、ビタミンC等)、グルタチオン(グルタチオン含有酵母抽出物、還元型グルタチオン、酸化型グルタチオン等)を含んでいてよい。
より具体的には、例えばドリンク用途などでは、ただし本用途に限定されないが、豚コラーゲンペプチド、希少糖含有シロップ、RNA含有食用酵母抽出物、亜鉛含有食用酵母、コンドロイチン含有鮫軟骨抽出物、ヒアルロン酸含有鶏冠抽出物/酸味料、ビタミンC、アルギニン、炭酸マグネシウム、ナイアシン、ビタミンB6、ビタミンB2、ビタミンB1、葉酸、ビタミンB12、アンセリン含有魚肉抽出物、シトルリン、サケ卵巣膜抽出物、豚プラセンタエキスなども配合可能である。また例えば錠剤用途などでは、ただし本用途に限定されないが、ビール酵母、イチョウ葉エキス、S-アリルシステイン含有ニンニクエキスなども配合可能である。さらに例えばゼリー剤用途などでは、ただし本用途に限定されないが、フィッシュコラーゲンペプチドなども配合可能である。
【0019】
また本発明の健康食品は、有効成分である前記分解系促進剤に加えて、他の医薬的に又は獣医薬的に活性な化合物等を含んでいてもよい。
【0020】
本発明の前記分解系促進剤等の臨床的投与量は、年令、体重、患者の感受性、症状の程度等により異なるが、通常効果的な投与量の目安は、成人1日あたり例えば水溶性核タンパク質(サケ白子抽出物)の量として、100mg~500mg程度とすることができる。しかし必要により上記の範囲外の量を用いることもできる。
なお上記効果的な投与量の目安は、本発明の健康食品にも適用される。健康食品の場合、例えば1日当たりの前記投与量の目安を参考とし、また1日当たりの健康食品自体の摂取量に基づいて、健康食品中における分解系促進剤の配合量を適宜調整できる。
【0021】
本発明の分解系促進剤は、上述した上記分解系に関連する応答遺伝子を増加させて、これら分解系を促進させる。
すなわち、本発明は、前記分解促進剤を経口摂取することによる、プロテアソーム関連遺伝子の応答を増加する方法、オートファジー関連遺伝子の応答を増加する方法、アポトーシス関連遺伝子の応答を増加する方法も対象とする。そして細胞等の分解によって、ひいてはリサイクリングも増進させることから、本発明は細胞、細胞小器官又はタンパク質のリサイクリング増進方法も対象とする。これら遺伝子の応答を増加する方法や、リサイクリング増進方法において、上記分解促進剤と同様の臨床的投与量(目安量)等をそのまま好ましく適用可能である。
【0022】
また前述したように、本発明は水溶性核タンパク質(例えばサケ白子抽出物)を含有するプロテアソーム関連遺伝子の応答増加剤、オートファジー関連遺伝子の応答増加剤、アポトーシス関連遺伝子の応答増加剤、細胞又は細胞小器官のリサイクリング増進剤を対象とし、さらに細胞、細胞小器官又はタンパク質のリサイクリング増進剤も対象とする。
これら応答増加剤、リサイクリング増進剤は、前述したように水溶性核タンパク質(例えばサケ白子抽出物)を含有するものであり、前述分解促進剤に使用する水溶性核タンパク質(例えばサケ白子抽出物)を好適に用いることができる。
またこれら応答増加剤やリサイクリング増加剤は、これらを含む健康食品の形態とするおともできる。当該健康食品は、前述の分解促進剤を含む健康食品に挙げた態様、成分等を好ましく用いることができる。
【実施例
【0023】
<水溶性核タンパク質(サケ白子抽出物)>
プロテアーゼ、ヌクレアーゼ等の加水分解酵素を使用してサケ白子から得られた水溶性核タンパク質(サケ白子抽出物)は、核酸を20~30質量%(分子量範囲250乃至15,000の水溶性核酸)及びアミノ酸を50質量%(アルギニン15質量%を含む)を含有していた。
【0024】
<試験錠剤の製造>
表1に従い、上記製造例で得られた水溶性核タンパク質(サケ白子抽出物)を含む試験錠剤(錠剤A)と、該抽出物を含まないプラセボ錠剤(錠剤B)を製造した。
【0025】
【表1】
【0026】
<試験例(1):酸化ストレスマーカーの変化>
40歳以上60歳未満の健常者(男性、投薬治療なし、基礎疾患等なし)41名を対象とし、二重盲検無作為化プラセボ対象試験を実施した。
被験者を試験錠剤群(錠剤A、20名)とプラセボ錠剤群(錠剤B、21名)の2群に区分し、各試験群において錠剤A又は錠剤Bを8週間摂取させた。なお試験錠剤群は、水溶性核タンパク質(サケ白子抽出物)が1日あたりの摂取量が360mg(1日6錠)となるように錠剤Aの数量を調製して投与し、プラセボ錠剤群は錠剤Aの数量と同量の錠剤B(1日6錠)を投与した。
摂取前後(0週、8週)の被験者の血液を採取し、血液中のフリーラジカルによる代謝物であるヒドロペルオキシドを計測することにより生体内の酸化ストレス度の状態を総合的に評価する、d-ROMs(Reactive Oxygen Metabolites-derived compounds)テストを実施した。
また、採取した血液からTotal RNAを抽出し、遺伝子発現解析に供した。
【0027】
得られた結果を図1[d-ROMsテストの結果(図1(A)測定値、(B)摂取前を基準とした変化量)]にそれぞれ示す。
図1に示すように、水溶性核タンパク質(サケ白子抽出物)を含む錠剤Aを8週間摂取した試験錠剤群は、プラセボ錠剤群と比べてd-ROMsの測定値及び変化量の有意な低下(酸化ストレスマーカーの軽減)がみられた。
【0028】
<試験例(2):遺伝子発現解析>
試験例(1)同様、試験錠剤群(錠剤A、20名)とプラセボ錠剤群(錠剤B、21名)の2群の被験者に対して各錠剤を8週間摂取させ、その後、被験者から採取した血液よりTotal RNAを抽出し、網羅的遺伝子発現解析を行った。
なお、網羅的遺伝子発現解析条件は以下の通りである:
<マイクロアレイによる網羅的遺伝子発現解析>
使用マイクロアレイ:Thermofisher社製Applied Biosystems(登録商標)Clariom S Array,Human
1.Agilent2100 Bioanalyzer(Agilent Technologies)を使用してTotal RNAのクオリティチェック(RNA分解度評価)を行った。
2.RNA濃度100ng/μl以上、RNA量300ng以上A260/280比1.8-2.1、RIN値7.0以上のサンプルを試験に供した。
3.GeneChip WT Plus Reagent Kit を使用してcRNA合成を行った。100ngのTotal RNAを鋳型として、逆転写反応により1st CycleのFirst-Strand cDNAを合成し、さらにSecond-Strand cDNAの合成を行った。続いて、in vitro transcription反応によりcRNAの合成を行った。精製後、分光光度計にてcRNAの収量を測定した。
4.GeneChip WT Plus Reagent Kitを使用して、cRNAからのSingle-Strand cDNAの合成を行った。1st cRNAから逆転写反応により2nd CycleのSingle-Strand cDNAを合成した。合成後のSingle-Stranded DNAは精製後、分光光度計にて収量を測定した。
5.GeneChip WT Terminal Labeling Kit(Thermo Fisher Scientific)を使用して、Single-Stranded DNAのFragmentationとLabelingを行った。5.5μgのssDNAを、uracil DNA glycosylase (UDG)とapurinic/apyrimidinic endonuclease 1 (APE1)を用いて断片化を行った。次に、断片化されたssDNAを、terminal deoxynucleotidyl transferase(TdT)とGeneChip DNA Labeling Reagentを使用して、ビオチン標識を行った。
6.GeneChip Hybridization, Wash, and Stain Kit(Thermo Fisher Scientific)を使用して、Clariom S Array, Humanへのハイブリダイゼーションを行った。断片化・ラベル化されたssDNAをハイブリダイゼーションバッファーに加え、Clariom S Array, Human上で17時間ハイブリダイズし、洗浄・染色後、スキャナーで蛍光を読み取り、GCC(GeneChip Command Console Software)でCELファイルの作成、Expression ConsoleTM SoftwareでCHPファイルを作成した。
7.Transcriptome Analysis Console (Thermo Fisher Scientific)を用いて、転写産物の変化率を1.3以上で評価し、パスウェイ解析を行った。
各種分解系(プロテアソーム、オートファジー、アポトーシス)に関連する遺伝子発現解析結果を表2に示す。また、プロテアソーム分解系とオートファジーにおける網羅的遺伝子発現解析の結果を図2に示す。
【0029】
【表2】
【0030】
表2に示すように、水溶性核タンパク質(サケ白子抽出物)を含む錠剤Aを8週間摂取した試験錠剤群は、プラセボ錠剤群と比べて、各種分解系の関連遺伝子発現を有意に増加させたことが確認された。
【0031】
<試験例(3)酵母を用いた酸化ストレス耐性評価>
酵母(Saccharomyces cerevisiae)は、BY4741株の-80℃ストックを平板で分離し、独立コロニーを2-3個釣菌し、SD完全培地にて18時間振盪培養(160rpm 30℃)をおこない、増菌したものを使用した。
新しいSD完全液体培地に、1/10量の酵母培養液と、上記水溶性核タンパク質(サケ白子抽出物)を培地に対して1%となるように添加した試験群、及び上記酵母を添加したSD完全液体培地のみ(水溶性核タンパク質(サケ白子抽出物))の対照群を準備し、それぞれ24時間培養をおこなった。24時間培養した酵母培養液を滅菌蒸留水にて2回洗浄し、水溶性核タンパク質(サケ白子抽出物)を培地中から取り除いたものをサンプルとし、過酸化水素を4mMとなるように添加したYPD平板培地に酵母培養液を独立コロニーが得られるように適宜希釈後播種し、30℃にて72時間培養を行ったのち、過酸化水素存在下で生存した酵母のコロニー数をカウントした。72時間培養後の試験群及び対照群の外観を図3に示す。
図3に示すように、水溶性核タンパク質(サケ白子抽出物)未添加の対照群に比べ、水溶性核タンパク質(サケ白子抽出物)添加の試験群において、より多くのコロニーが確認された。
【0032】
また上記の過酸化水素添加系と同様に、但し過酸化水素を添加しない(過酸化水素未添加)系[酵母+水溶性核タンパク質(サケ白子抽出物)群、酵母のみ(水溶性核タンパク質(サケ白子抽出物)未添加)群]について、同様に30℃にて72時間培養を行った。
各培地の生育コロニー数をカウントし、水溶性核タンパク質(サケ白子抽出物)添加/未添加別に、過酸化水素添加培地のコロニー数を、過酸化水素未添加培地のコロニー数で除して、酵母生存率(%)を算出した。得られた結果を図4に示す。
図4に示すように、水溶性核タンパク質(サケ白子抽出物)を添加した酵母の生存率は、水溶性核タンパク質(サケ白子抽出物)未添加の酵母の生存率と比べ有意に高い結果となった。
【0033】
<試験例(4)酵母を用いたマイクロアレイによる網羅的遺伝子発現解析>
酵母(Saccharomyces cerevisiae(BY4741株(MATa;his3D1;leu2D0;met15D0;ura3D0))に対して上記水溶性核タンパク質(サケ白子抽出物)を1%添加し、24時間経過後の酵母から抽出したTotal RNAを用いたマイクロアレイによる網羅的遺伝子発現解析を行った。
使用マイクロアレイ:ThermoFisher社 Genechip Yeast Genome 2.0 Array
1.Agilent2200 TapeStaionを使用してTotal RNAのクオリティチェック(濃度測定)を行った。
2.各250ngのTotal RNAを用いてGeneChip(登録商標)3' IVT PLIS Kitを用いてラベリング反応を行いハイブリダイゼーションした。
3.Expression ConsoleTMを用いてRMAアルゴリズムによる数値化を行い、数値化後のシグナル値をquantile法により正規化した。
4.Transcriptome Analysis Console (Thermo Fisher Scientific)を用いて、転写産物の変化率を1.3以上で評価し、パスウェイ解析を行った。
各種分解系(プロテアソーム、オートファジー)に関連する遺伝子発現解析結果を表3、並びに、図5に示す。
【0034】
【表3】
【0035】
表3に示すように、酵母に水溶性核タンパク質(サケ白子抽出物)を添加し24時間経過した群は、プラセボ(未添加)の群と比べて、各種分解系の関連遺伝子発現を有意に増加させたことが確認された。
【0036】
以上、水溶性核タンパク質(サケ白子抽出物))が酸化ストレスマーカーの軽減に寄与し、またプロテアソーム、オートファジー、アポトーシスといった細胞等の分解系に関連する遺伝子の発現量をヒト及び酵母の双方において増加させたとの結果は、核タンパク質が、不良・障害を受けたタンパク質、ミトコンドリア等の細胞小器官、そして細胞そのものの分解等の促進に寄与し得ること、そして分解されたこれら細胞等をリサイクルして新たな細胞等を生成するリサイクリングに関与する可能性、さらにはそれにより酸化ストレスの減少・抑制及び健康増進に寄与し得る可能性を新たに示すものである。
【要約】
【課題】細胞等のリサイクリング増進に係る新たな製剤及び細胞等のリサイクリング増進に係る各種関連遺伝子応答を増加する方法を提供する。
【解決手段】水溶性核タンパク質、特に魚類の白子を酵素処理することにより得られる分子量250乃至15,000の低分子化物である水溶性核タンパク質を含有するリサイクリング増進のための分解系促進剤、該分解系促進剤を含有する健康食品、並びに該分解系促進剤を経口摂取することによる、各種分解系関連遺伝子の応答を増加する方法及び細胞等のリサイクリング増進方法。
【選択図】なし
図1
図2
図3
図4
図5