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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-30
(45)【発行日】2025-02-07
(54)【発明の名称】乳成分含有飲料
(51)【国際特許分類】
   A23L 2/38 20210101AFI20250131BHJP
   A23L 2/52 20060101ALI20250131BHJP
   A23F 5/24 20060101ALN20250131BHJP
【FI】
A23L2/38 P
A23L2/52
A23F5/24
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2020160363
(22)【出願日】2020-09-25
(65)【公開番号】P2021052749
(43)【公開日】2021-04-08
【審査請求日】2023-09-22
(31)【優先権主張番号】P 2019177217
(32)【優先日】2019-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390010674
【氏名又は名称】理研ビタミン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100188499
【弁理士】
【氏名又は名称】勝又 政徳
(74)【代理人】
【識別番号】100127568
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 善典
(74)【代理人】
【識別番号】100171402
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 ▲茂▼
(74)【代理人】
【識別番号】100213779
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 有佳子
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】古瀬 憲
(72)【発明者】
【氏名】澤本 武
(72)【発明者】
【氏名】諸橋 香奈
【審査官】安田 周史
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-271278(JP,A)
【文献】特開2007-306865(JP,A)
【文献】特開2009-213366(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 2/38
A23L 2/52
A23F 5/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の成分(A)~(D):
(A)トリグリセリンモノパルミチン酸エステル又はショ糖パルミチン酸エステルである静菌性乳化剤、
(B)主構成脂肪酸がステアリン酸であり、且つポリグリセリンの平均重合度が3.5~4.8であるポリグリセリン脂肪酸エステル、
(C)グリセリンコハク酸脂肪酸エステル、
(D)グリセリンモノ脂肪酸エステル
を含有する乳成分含有飲料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳成分含有飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ミルクコーヒーやミルクティー等の多種多様な乳成分含有飲料が製品化されて市場に流通している。このような乳成分含有飲料は、耐熱性フラットサワー菌芽胞の発芽、増殖による品質劣化が生じる等の問題があるため、静菌性の効果があるポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル等の静菌性乳化剤が添加されている。
【0003】
また、乳成分含有飲料は、市場に流通する間、乳脂肪や乳蛋白質等の乳成分が分離、凝集する現象が発生し易いという問題もある。そこで、静菌性乳化剤を含有すると共に、乳成分の分離、凝集を抑制するための食品用乳化剤を含有する乳成分含有飲料に関する方法が提案されている。
【0004】
このような技術としては、例えば、重合度3のポリグリセリンモノパルミチン酸エステル、重合度5~10のポリグリセリン脂肪酸エステル及び有機酸モノグリセリドを含むことを特徴とする密封容器入り乳飲料用安定剤(特許文献1)、平均重合度が2~3のポリグリセリンと脂肪酸とのエステルであって、該エステル中のモノエステル含量が50質量%以上であるポリグリセリン脂肪酸エステル(a)、増粘安定剤(b)及び水(c)を含有し、前記(a)の含有量が向上剤100質量%中に10~40質量%であり、(b)の含有量が向上剤100質量%中に0.01~30質量%である食品の保存性向上剤が添加されていることを特徴とする食品(特許文献2)、構成脂肪酸がパルミチン酸70重量%以上、ステアリン酸30重量%未満であり且つモノエステル含有量が70重量%以上であるショ糖脂肪酸エステル(A)100重量部に対し、構成脂肪酸がステアリン酸60重量%以上であり且つモノエステル含有量が20ないし35重量%であるショ糖脂肪酸エステル(B)を50重量部から250重量部含有するミルクコーヒー用乳化剤組成物(特許文献3)等が開示されている。
【0005】
しかし、上記の方法をもってしても、乳成分含有飲料が温度変化の激しい環境に置かれると、乳成分の分離、凝集が見られる場合があった。このため、静菌性乳化剤を含有することを前提とし、温度変化の激しい環境下において乳成分の分離、凝集が抑制された乳成分含有飲料が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2007-306865号公報
【文献】特開2006-280386号公報
【文献】特開平07-289164号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、温度変化の激しい環境下において乳成分の分離、凝集が抑制された乳成分含有飲料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題に対して鋭意検討を行った結果、特定の乳化剤を組合せて用いることにより、上記課題が解決されることを見出し、この知見に基づいて本発明を成すに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、次の成分(A)~(D):
(A)静菌性乳化剤、
(B)主構成脂肪酸がステアリン酸であり、且つポリグリセリンの平均重合度が3.5~5.0であるポリグリセリン脂肪酸エステル、
(C)グリセリン有機酸脂肪酸エステル、
(D)グリセリンモノ脂肪酸エステル
を含有する乳成分含有飲料、からなっている。
【発明の効果】
【0010】
本発明の乳成分含有飲料は、温度変化の激しい環境下における白色浮遊物の発生が抑制されている。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[成分(A)]
本発明の乳成分含有飲料は、成分(A)として静菌性乳化剤を含有する。静菌性乳化剤は、飲料の品質劣化の原因である耐熱性フラットサワー菌に対して効果を持つ食品用乳化剤であり、その効果を有する食品用乳化剤であれば、特に制限なく使用することができるが、例えば、ジグリセリンモノミリスチン酸エステル、ジグリセリンモノパルミチン酸エステル、トリグリセリンモノパルミチン酸エステル、ショ糖パルミチン酸エステル等が挙げられる。これらの中では、静菌性の強さの点から、トリグリセリンモノパルミチン酸エステル、ショ糖パルミチン酸エステルが好ましい。静菌性乳化剤としては、商業的に製造及び販売されている製品中に含まれる、耐熱性フラットサワー菌に対して効果を持つ食品用乳化剤を使用することができる他、静菌性乳化剤として商業的に製造及び販売されている製品を使用することができる。
【0012】
[成分(B)]
本発明の乳成分含有飲料は、成分(B)として、主構成脂肪酸がステアリン酸であり、且つポリグリセリンの平均重合度が3.5~5.0(好ましくは、3.6~4.8)であるポリグリセリン脂肪酸エステルを含有する。
【0013】
成分(B)について「主構成脂肪酸」とは、ポリグリセリン脂肪酸エステルを構成する全脂肪酸100質量%中、50質量%以上、好ましくは60質量%以上を占める脂肪酸をいう。従って、本発明の成分(B)は、構成脂肪酸の50質量%以上をステアリン酸が占め、残部にその他の脂肪酸を含む。その他の脂肪酸としては、食用可能な動植物油脂を起源とする脂肪酸(ステアリン酸を除く)であれば特に制限はなく、例えば、炭素数6~24の直鎖の飽和脂肪酸(例えば、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸等)又は不飽和脂肪酸(例えば、パルミトオレイン酸、オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、γ-リノレン酸、α-リノレン酸、アラキドン酸、リシノール酸等)が挙げられ、好ましくは炭素数14~22の飽和又は不飽和脂肪酸(例えば、ミリスチン酸、パルミチン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エルカ酸等)である。これら脂肪酸は1種類のみであっても、2種類以上を任意に組み合わせたものであっても良い。
【0014】
また、成分(B)を構成するポリグリセリンの平均重合度が3.5~5.0であると、乳成分含有飲料について乳成分の分離、凝集を抑制する効果が十分に発揮される。
【0015】
ここで、前記平均重合度は、ポリグリセリン脂肪酸エステルを構成するポリグリセリンの組成(即ち、ポリオール組成)を分析することにより求められる。その方法を、下記工程(1)~(3)に示す。
【0016】
(1)試料の調製
先ず、被検試料を、けん化分解処理して脂肪酸とポリオールとに分解する。具体的には、被検試料2.0gをけん化用フラスコに量り取り、これに0.5mol/L水酸化カリウム-エタノール標準液30mLを加え、該フラスコに冷却器を付け、時々振り混ぜながら、還流するエタノールが冷却器の上端に達しないように約70~80℃の範囲内で温度を調節して穏やかに約1時間加熱した後、温水40~50mL、水40~50mL、ヘキサン100mLで順次フラスコを洗いながら分液漏斗に移す。この分液漏斗に10容量%塩酸約5mLを加えて分液漏斗を振り混ぜ、これにヘキサン50mLを加えて更に振り混ぜ、その後静置する。分離した下層をビーカーに採り、0.5mol/L水酸化カリウム溶液でpHを調製して中和し、60℃の通風乾燥機内にビーカーを静置し、脱水する。完全に脱水したらメタノール5~10mLを2~3回に分け入れて内容物をかき混ぜ、自然濾過する。得られた濾液をフラスコに移し、エバポレータにてメタノールを除去する。
【0017】
(2)測定方法
次に、得られた濃縮物を50mg計量し、これにピリジン(試薬特級;富士フイルム和光純薬社製)1~2mg入れて混合し溶解する。これに1,1,1,3,3,3,-ヘキサメチルジシラザン(東京化成工業社製)を0.5mL加えて混合し、更にトリフルオロ酢酸(和光特級;富士フイルム和光純薬社製)0.1mLを加えて混合する。これを約1分間放置した後、GC(ガスクロマトグラフィー)を用いて下記条件でポリオール組成分析を行う。
<GC分析条件>
装置:ガスクロマトグラム(型式:GC-2010Plus;島津製作所社製)
データ処理ソフトウェア(型式:GCsolution バージョン2.4;島津製作所社製)
カラム(型式:Ultra ALLOY-TRG;P/N:UATRG-30M-0.1F;フロンティア・ラボ社製)
カラムオーブン条件:初期温度 100℃(1分間);昇温速度 15℃/分;最終温度 365℃(11分間)
サンプル注入量:1.0μL
キャリアガス:窒素
【0018】
(3)定量
分析後、データ処理ソフトウェアによりクロマトグラム上に記録された被検試料の各成分に対応するピークについて、積分計を用いてピーク面積を測定し、測定されたピーク面積に基づいて、面積百分率としてポリオール組成を求め、各成分の重合度の重量平均値を算出し、平均重合度とする。
【0019】
成分(B)の好ましい製法の概略は次の通りである。例えば、撹拌機、加熱用のジャケット、邪魔板等を備えた通常の反応容器に、平均重合度が3.5~5.0のポリグリセリンとステアリン酸の含有量が50質量%以上(好ましくは60質量%以上)の脂肪酸組成物とをモル比で1:0.1~1:2.0、好ましくは1:0.2~1:1.5で仕込み、触媒として水酸化ナトリウムを加えて撹拌混合し、窒素ガス雰囲気下で、エステル化反応により生成する水を系外に除去しながら、所定温度で加熱する。反応温度は、180~260℃の範囲、好ましくは200~250℃の範囲である。また、反応圧力条件は、減圧下又は常圧下で、反応時間は、0.5~15時間、好ましくは1~3時間である。反応の終点は、通常反応混合物の酸価を測定し、酸価2以下を目安に決められる。反応終了後、得られた反応液に酸を加えて触媒を中和し、120℃以上180℃未満に冷却し、未反応のポリオールが分離した場合はそれを除去する。次いで、減圧下で蒸留して残存するポリオールを留去し、成分(B)として使用し得るポリグリセリン脂肪酸エステルを得る。
【0020】
尚、上記製法で原材料として用いるポリグリセリンは、得られるポリグリセリン脂肪酸エステルを構成するポリグリセリンの平均重合度が3.5~5.0となるようなものを適宜選択して用いれば良い。そのようなポリグリセリンは、1種のみを用いても良く、2種以上のポリグリセリンを組合せて用いても良い。
【0021】
また、成分(B)として用いられるポリグリセリン脂肪酸エステルは、所望により、グリセリンモノ脂肪酸エステル〔即ち、後述の成分(D)〕と共に、70~100℃で加熱して溶融及び混合し、得られた溶融物を冷却及び固化することにより、成分(B)及び(D)を含有する組成物として一剤化しても良い。このような一剤化により、粘着性のあるポリグリセリン脂肪酸エステルのハンドリング性を向上させ取扱い易くすることができる。
【0022】
[成分(C)]
本発明の乳成分含有飲料は、成分(C)としてグリセリン有機酸脂肪酸エステルを含有する。グリセリン有機酸脂肪酸エステルは、グリセリンと、有機酸及び脂肪酸とのエステルであり、グリセリンモノ脂肪酸エステルと有機酸(又は有機酸の酸無水物等の有機酸の反応性誘導体)との反応、又はグリセリンと有機酸と脂肪酸との反応等自体公知の方法で製造される。
【0023】
グリセリン有機酸脂肪酸エステルを構成する有機酸としては、例えば、コハク酸、ジアセルチル酒石酸、乳酸、クエン酸、酢酸が挙げられる。これら有機酸の中でも、コハク酸が好ましく用いられる。
【0024】
グリセリン有機酸脂肪酸エステルを構成する脂肪酸としては、食用可能な動植物油脂を起源とする脂肪酸であれば特に制限はなく、例えば、炭素数6~24の直鎖の飽和脂肪酸(例えば、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸等)又は不飽和脂肪酸(例えば、パルミトオレイン酸、オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、γ-リノレン酸、α-リノレン酸、アラキドン酸、リシノール酸等)が挙げられ、好ましくは炭素数14~22の飽和又は不飽和脂肪酸(例えば、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エルカ酸等)である。これら脂肪酸は1種類のみであっても、2種類以上を任意に組み合わせたものであっても良い。グリセリン有機酸脂肪酸エステルを構成する有機酸と脂肪酸とのモル比(有機酸:脂肪酸)は、1:0.5~1:2であることが好ましい。
【0025】
尚、グリセリン有機酸脂肪酸エステルとして商業的に製造及び販売されている製品は、原料として用いられたグリセリンモノ脂肪酸エステルのうち未反応のものが含まれることが多く、また、反応生成物にグリセリンモノ脂肪酸エステルを加えて製品化しているものがある。本発明においては、このようなグリセリンモノ脂肪酸エステルは、成分(C)には含まれず、後述の成分(D)に含まれることとする。
【0026】
ここで、グリセリン有機酸脂肪酸エステル製品中のグリセリンモノ脂肪酸エステルの含有量は、HPLC(高速液体クロマトグラフィー)で分析することにより求められる。具体的には、以下に示す分析条件にて試料を分析し、分析後、データ処理ソフトウェアによりクロマトグラム上に記録された被検試料の各成分に対応するピークについて、積分計を用いてピーク面積を測定する。測定されたピーク面積に基づいて、面積百分率として各成分の含有量を求めることができる。HPLC分析条件を以下に示す。
<HPLC分析条件>
装置:島津高速液体クロマトグラフ
データ処理ソフトウェア(型式:LCsolution ver.1.25;島津製作所社製)
ポンプ(型式:LC-20AD;島津製作所社製)
カラムオーブン(型式:CTO-20A;島津製作所社製)
オートサンプラ(型式:SIL-20A;島津製作所社製)
検出器:RI検出器(型式:RID-10A;島津製作所社製)
カラム:GPCカラム(型式:SHODEX KF-801;昭和電工社製)
カラム:GPCカラム(型式:SHODEX KF-802;昭和電工社製)
2本連結
移動相:THF(テトラヒドロフラン)
流量:1.0mL/min
カラム温度:40℃
サンプル濃度:0.01g/1mL THF
サンプル注入量:20μL(in THF)
【0027】
[成分(D)]
本発明の乳成分含有飲料は、成分(D)としてグリセリンモノ脂肪酸エステルを含有する。グリセリンモノ脂肪酸エステルは、グリセリンが有するヒドロキシル基のいずれか1つに脂肪酸がエステル結合した、エステル結合数が1の化合物である。
【0028】
グリセリンモノ脂肪酸エステルを構成する脂肪酸は、食用可能な動植物油脂を起源とする脂肪酸であれば特に制限はなく、例えば炭素数6~24の直鎖の飽和脂肪酸(例えば、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸等)又は不飽和脂肪酸(例えば、パルミトオレイン酸、オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、γ-リノレン酸、α-リノレン酸、アラキドン酸、リシノール酸等)等が挙げられ、好ましくは炭素数14~22の飽和又は不飽和脂肪酸(例えば、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エルカ酸等)である。これら脂肪酸は1種類のみであっても、2種類以上を任意に組み合わせたものであっても良い。
【0029】
グリセリンモノ脂肪酸エステルとしては、商業的に製造及び販売されているグリセリン有機酸脂肪酸エステル製品中に含まれるものを使用することができる他、グリセリンモノ脂肪酸エステルとして商業的に製造及び販売されている製品を使用することができる。このような製品としては、例えば、エマルジーP-100(商品名;グリセリンモノパルミチン酸エステル;理研ビタミン社製)、エマルジーMS(商品名;グリセリンモノステアリン酸エステル;理研ビタミン社製)等が挙げられる。
【0030】
本発明の乳成分含有飲料は、成分(A)~(D)を含有する。本発明の乳成分含有飲料全量に対する成分(A)~(D)の含有量は、成分(A)が10~3000ppm、好ましくは50~1500ppmであり、より好ましくは100~1000ppmであり、成分(B)が5~1000ppm、好ましくは10~500ppmであり、より好ましくは15~200ppmであり、成分(C)が10~2000ppm、好ましくは20~1000ppmであり、より好ましくは30~500ppmであり、成分(D)が15~2500ppm、好ましくは30~1500ppmであり、より好ましくは40~750ppmである。
【0031】
本発明において乳成分含有飲料とは、乳及び/又は乳製品を含有する飲料をいい、例えば、ミルクコーヒー、ミルクティー、ミルクココア、抹茶ミルク等が挙げられる。該乳としては、例えば、「乳及び乳製品の成分規格等に関する省令」(昭和26年12月27日厚生省令第52号)に規定された生乳、牛乳、特別牛乳、生山羊乳、殺菌山羊乳、生めん羊乳、成分調整牛乳、低脂肪牛乳、無脂肪牛乳及び加工乳等が挙げられる。該乳製品としては、例えば、前記省令に規定されたクリーム、バター、バターオイル、チーズ、濃縮ホエイ、アイスクリーム類、濃縮乳、脱脂濃縮乳、無糖練乳、無糖脱脂練乳、加糖練乳、加糖脱脂練乳、全粉乳、脱脂粉乳、クリームパウダー、ホエイパウダー、たんぱく質濃縮ホエイパウダー、バターミルクパウダー、加糖粉乳、調製粉乳、発酵乳等が挙げられる。
【0032】
本発明の乳成分含有飲料の製造方法に特に制限はないが、例えば、コーヒー乳飲料の製法の概略は以下の通りである。例えば、焙煎されたコーヒー豆から90~98℃の精製水で抽出されたコーヒー抽出液(マンナン分解酵素等により多糖類の低分子化処理されたコーヒー抽出液を含む)に、乳及び/又は乳製品、砂糖、成分(A)~(D)、炭酸水素ナトリウム(重曹)、カゼインナトリウム等を加えて溶解し、高圧式均質化処理機を用いて均質化する。高圧式均質化処理機としては、例えば、APVゴーリンホモジナイザー(APV社)、マイクロフルイダイザー(マイクロフルイデックス社)、アルティマイザー(スギノマシン社)、ナノマイザー(大和製罐社)、HV-OA-07-1.5S(イズミフードマシナリ社)等が挙げられる。均質化の条件は、装置の仕様により異なり一様ではないが、例えば5~50MPaを例示できる。
【0033】
均質化された乳飲料は、続いて加熱殺菌が施されるのが好ましい。加熱殺菌の方法としては、缶入り飲料の場合はレトルト殺菌が、またPET(ポリエチレンテレフタレート)ボトル入り飲料の場合はUHT(Ultra High Temperature)殺菌が好ましい。レトルト殺菌は、乳飲料を缶に充填して密封し、レトルト殺菌機により、121~124℃、20~40分間の加熱条件で行われ得る。UHT殺菌の方法としては、乳飲料に直接水蒸気を吹き込むスチームインジェクション式や乳飲料を水蒸気中に噴射して加熱するスチームインフュージョン式等の直接加熱方式、プレートやチューブ等表面熱交換器を用いる間接加熱方式等が挙げられ、好ましくはプレート式殺菌装置を用いる方法である。プレート式殺菌装置を用いるUHT殺菌は、130~150℃で、121℃の殺菌価(F0)が10~50に相当する加熱条件で行われ得る。UHT殺菌された乳飲料は、無菌的にPETボトルに充填され、密栓されるのが好ましい。
【0034】
以下、実施例をもって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例
【0035】
[ポリグリセリン脂肪酸エステル(試作品1)の製造]
撹拌機、温度計、ガス吹込管および水分離器を取り付けた1Lの四つ口フラスコにポリグリセリン(商品名:R-PG3;阪本薬品工業社製)300g、ステアリン酸(商品名:ステアリン酸65;ステアリン酸含有量65質量%;ミヨシ油脂社製)300gを仕込み、触媒として水酸化ナトリウム0.48gを加え、窒素ガス気流中240℃で、酸価2以下となるまで、約3時間エステル化反応を行った。得られた反応混合物にリン酸(85質量%)0.96gを添加して触媒を中和し、150℃で約1時間放置し、分離した未反応のトリグリセリン、テトラグリセリンを含むポリオール約35gを除去した。次に遠心式蒸留機にて約1Paの条件で減圧蒸留して残留するポリオールを留去し、主構成脂肪酸がステアリン酸であるポリグリセリン脂肪酸エステル(試作品1)約550gを得た。得られたポリグリセリン脂肪酸エステルを構成するポリグリセリンの平均重合度は、3.65であった。
【0036】
[ポリグリセリン脂肪酸エステル(試作品2)の製造]
撹拌機、温度計、ガス吹込管および水分離器を取り付けた1Lの四つ口フラスコにポリグリセリン(商品名:R-PG3;阪本薬品工業社製)150g、ポリグリセリン(商品名:T-GR;阪本薬品工業社製)150g、ステアリン酸(商品名:ステアリン酸65;ステアリン酸含有量65質量%;ミヨシ油脂社製)300gを仕込み、触媒として水酸化ナトリウム0.48gを加え、窒素ガス気流中240℃で、酸価2以下となるまで、約3時間エステル化反応を行った。得られた反応混合物にリン酸(85質量%)0.96gを添加して触媒を中和し、150℃で約1時間放置し、分離した未反応のトリグリセリン、テトラグリセリンを含むポリオール約35gを除去した。次に遠心式蒸留機にて約1Paの条件で減圧蒸留して残留するポリオールを留去し、主構成脂肪酸がステアリン酸であるポリグリセリン脂肪酸エステル(試作品2)約550gを得た。得られたポリグリセリン脂肪酸エステルを構成するポリグリセリンの平均重合度は、4.69であった。
【0037】
[ポリグリセリン脂肪酸エステルとグリセリンモノ脂肪酸エステルを含有する組成物(試作品3)の製造]
製造例1と同様に実施し、主構成脂肪酸がステアリン酸であり、且つポリグリセリンの平均重合度が3.65のポリグリセリン脂肪酸エステル約550gを得た。このポリグリセリン脂肪酸エステル550g及びエマルジーP-100(製品名;グリセリンモノパルミチン酸エステル;理研ビタミン社製)296gを1000mL容量のガラス製ビーカーに入れて恒温槽で90℃に加熱し、ガラス棒で撹拌して溶融混合した。得られた溶融物をポリスポイトでアルミホイル上に粒状になるよう滴下し常温で30分間冷却固化し、ポリグリセリンの平均重合度が3.65のポリグリセリン脂肪酸エステルとグリセリンモノ脂肪酸エステルを含有する組成物(試作品3)約846gを得た。
【0038】
[ポリグリセリン脂肪酸エステルとグリセリンモノ脂肪酸エステルを含有する組成物(試作品4)の製造]
製造例3で用いたエマルジーP-100(商品名;グリセリンモノパルミチン酸エステル;理研ビタミン社製)296gに替えてエマルジーMS(商品名;グリセリンモノステアリン酸エステル;理研ビタミン社製)296gを用いたこと以外は、製造例3と同様に実施し、ポリグリセリンの平均重合度が3.65のポリグリセリン脂肪酸エステルとグリセリンモノ脂肪酸エステルを含有する組成物(試作品4)約846gを得た。
【0039】
[試験例]
[缶入りミルクコーヒーにおける評価試験]
(1)供試乳化剤
1)トリグリセリンモノパルミチン酸エステル(商品名:ポエムTRP-97RF;理研ビタミン社製)
2)ショ糖パルミチン酸エステル(商品名:リョートーシュガーエステルP-1670;粉末状;三菱化学フーズ社製)
3)試作品1~4
4)ポリグリセリン脂肪酸エステル1(商品名:TR-40S;主構成脂肪酸:ステアリン酸;ポリグリセリンの平均重合度3.04;理研ビタミン社製)
5)ポリグリセリン脂肪酸エステル2(商品名:サンソフトA-181E;主構成脂肪酸:ステアリン酸;ポリグリセリンの平均重合度6.55;太陽化学社製)
6)グリセリンコハク酸脂肪酸エステル(商品名:ポエムB-25KV;グリセリンモノ脂肪酸エステルの含有量48.2質量%;理研ビタミン社製)
7)グリセリンモノパルミチン酸エステル(商品名:エマルジーP-100;理研ビタミン社製)
【0040】
(2)供試乳化剤及び成分(A)~(D)の添加量
上記供試乳化剤を用いて調製した缶入りミルクコーヒー1~10について、供試乳化剤の添加量並びにこれら乳化剤を添加したことによる成分(A)~(D)の添加量を表1及び表2に示す。このうち、表1の缶入りミルクコーヒー1~7は本発明に係る実施例であり、表2の缶入りミルクコーヒー8~10はそれらに対する比較例である。
【0041】
【表1】
【0042】
【表2】
【0043】
(3)缶入りミルクコーヒーの調製
焙煎コーヒー豆500gを95℃の精製水5000gで抽出し、コーヒー抽出液(Brix3質量%)を得た。該コーヒー抽出液3200g、牛乳(乳脂肪3.5質量%以上、無脂乳固形分8.3質量%以上)960g、グラニュー糖384gを配合し、これに精製水を加えて全量を6400gとし、さらに表1又は2に記載の乳化剤及び炭酸水素ナトリウム(重曹)9.6g及びカゼインナトリウム3.2gを加えた。ウォーターバスを用いて70℃に達温後10分撹拌を行い溶け残りが無い事を確認した。高圧式均質化処理機(型式:HV-OA-07-1.5S;イズミフードマシナリー社製)を用いて、液温約60~70℃、第一段圧力約15MPa、第二段圧力5MPaの条件で均質化した。均質化されたミルクコーヒーを飲料缶に各190gずつ充填して密封し、約123℃で20分間レトルト殺菌し、缶入りミルクコーヒー1~10を得た。
【0044】
(4)安定性試験
缶入りミルクコーヒーを37℃で2週間保存した後、低温恒温器(型式:IN804;ヤマト科学社製)にて37℃で12時間の保存と-4℃で24時間の保存を交互に2回繰り返し行った。その後、-4℃の状態で開缶し、遊離した脂肪分が固化して飲料表面に浮上する白色浮遊物を観察し、以下の基準に従って記号化した。結果を表3に示す。
【0045】
<記号化基準>
- :白色浮遊物がない
± :ごく少量の白色浮遊物がある
+ :少量の白色浮遊物がある
++ :目立つ白色浮遊物が液面に部分的に散らばっている
+++ :目立つ白色浮遊物が液面全体に散らばっている
【0046】
【表3】
【0047】
表3の結果から明らかなように、本発明の実施例である缶入りミルクコーヒー1~7は、「+」以上の結果を得たことから、白色浮遊物の抑制効果が優れていた。これに対し、比較例の缶入りミルクコーヒー8~10は、「++」以下の結果であり、本発明のものに比べて劣っていた。