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特許7628013圧電素子及びその製造方法、並びに圧電振動装置
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  • 特許-圧電素子及びその製造方法、並びに圧電振動装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-30
(45)【発行日】2025-02-07
(54)【発明の名称】圧電素子及びその製造方法、並びに圧電振動装置
(51)【国際特許分類】
   H10N 30/853 20230101AFI20250131BHJP
   C04B 35/495 20060101ALI20250131BHJP
   H10N 30/87 20230101ALI20250131BHJP
   H10N 30/045 20230101ALI20250131BHJP
   H10N 30/097 20230101ALI20250131BHJP
   H10N 30/20 20230101ALI20250131BHJP
   H10N 30/30 20230101ALI20250131BHJP
   H10N 30/50 20230101ALI20250131BHJP
【FI】
H10N30/853
C04B35/495
H10N30/87
H10N30/045
H10N30/097
H10N30/20
H10N30/30
H10N30/50
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020184243
(22)【出願日】2020-11-04
(65)【公開番号】P2022074304
(43)【公開日】2022-05-18
【審査請求日】2023-10-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100206829
【弁理士】
【氏名又は名称】相田 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100127513
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100140198
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 保子
(74)【代理人】
【氏名又は名称】奥井 正樹
(74)【代理人】
【識別番号】100199691
【弁理士】
【氏名又は名称】吉水 純子
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 亮
(72)【発明者】
【氏名】後藤 隆幸
【審査官】小山 満
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-167407(JP,A)
【文献】特開2017-163055(JP,A)
【文献】特開2020-147466(JP,A)
【文献】特開2009-010367(JP,A)
【文献】特開2013-189325(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N 30/853
C04B 35/495
H10N 30/87
H10N 30/045
H10N 30/097
H10N 30/20
H10N 30/30
H10N 30/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成式LiNa1-x-yNbO(ただし、0.02<x≦0.1、0.02<x+y≦1)で表されるペロブスカイト型化合物を主成分とし、
カルシウム、ストロンチウム、及びバリウムから選択される少なくとも1種のアルカリ土類金属と銀とを含有する
圧電セラミックスで形成され、
表面にLiNbOを含有し、
表面からの深さが5μm以上の部分にはLiNbOを含有しない
焼結体、並びに
前記焼結体の表面に形成された少なくとも1対の電極
を備える圧電素子。
【請求項2】
前記アルカリ土類金属の含有量が、前記主成分100モルに対して、合計で0.2~5.0モルである、請求項1に記載の圧電素子。
【請求項3】
前記銀の含有量が、前記主成分100モルに対して、0.5~5.0モルである、請求項1又は2に記載の圧電素子。
【請求項4】
前記圧電セラミックスが、前記主成分100モルに対して、0.1~3.0モルのLi、及び0.1~3.0モルのSiをさらに含有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の圧電素子。
【請求項5】
前記圧電セラミックスが、前記主成分100モルに対して、0~2.0モルのMnをさらに含有する、請求項1~4のいずれか1項に記載の圧電素子。
【請求項6】
前記少なくとも1対の電極が銀を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の圧電素子。
【請求項7】
組成式LiNa1-x-yNbO(ただし、0.02<x≦0.1、0.02<x+y≦1)で表されるペロブスカイト型化合物を主成分とし、カルシウム、ストロンチウム、及びバリウムから選択される少なくとも1種のアルカリ土類金属と銀とを含有するセラミックスで形成された焼結体を準備すること、
前記焼結体を、常温よりも高温の水中に配置して、焼結体表面のLi NbO を分解ないし除去すること、
前記配置後の焼結体の表面に、少なくとも1対の電極を形成すること、及び
前記少なくとも1対の電極間に電圧を印加して分極処理を行うこと
を含む、圧電素子の製造方法。
【請求項8】
組成式Li Na 1-x-y NbO (ただし、0.02<x≦0.1、0.02<x+y≦1)で表されるペロブスカイト型化合物を主成分とし、カルシウム、ストロンチウム、及びバリウムから選択される少なくとも1種のアルカリ土類金属と銀とを含有するセラミックスで形成された焼結体を準備すること、
前記焼結体を、常温よりも高温の水中に配置すること、
前記配置後の焼結体の表面に、少なくとも1対の電極を形成すること、及び
前記少なくとも1対の電極間に電圧を印加して分極処理を行うこと
を含み、
前記配置後の焼結体を、前記電極の形成に先立って、大気中、300~900℃で熱処理することをさらに含む、圧電素子の製造方法。
【請求項9】
請求項1~6のいずれか1項に記載の圧電素子と、該圧電素子に接合された振動板とを含む圧電振動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電素子及びその製造方法、並びに圧電振動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
圧電素子は、圧電性を有する圧電体と、これに接続された少なくとも一対の電極とで構成される。圧電素子は、その機械的変位によって電荷を生じたり、電極間の電位差によって機械的変位を生じたりする性質を有する。このような性質を利用して、圧電素子は、センサ、アクチュエータ等に広く利用されている。
【0003】
圧電素子を構成する圧電体には、圧電性を有する焼結体である圧電セラミックスが用いられることが多い。この圧電セラミックスの組成としては、チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O、PZT)及びその固溶体が広く用いられている。PZT系の圧電セラミックスは、高いキュリー温度を有することから、高温環境下でも使用可能であるという利点を有する。加えて、高い電気機械結合係数を有することから、電気的エネルギーと機械的エネルギーとを効率良く変換可能であるという利点も有する。さらに、適切な組成を選択することにより、1000℃を下回る温度で焼成できるため、圧電素子の製造コストを低減できる利点も有する。この点については、特に、積層型圧電セラミックスにおいて、圧電セラミックスと同時焼成される内部電極に、白金やパラジウム等の高価な材料の含有量を減らした低融点の材料が使用できるようになることが、大きなコスト低減効果を生む。しかし、PZT系の圧電セラミックスは、有害物質である鉛を含むことが問題視されており、これに代わる、鉛を含まない圧電セラミックスが求められている。
【0004】
現在まで、鉛を含まない圧電セラミックスの組成として、ニオブ酸アルカリ((Li,Na,K)NbO)系、チタン酸ビスマスナトリウム((Bi0.5Na0.5)TiO、BNT)系、ビスマス層状化合物系及びタングステンブロンズ系等の種々のものが報告されている。これらのうち、ニオブ酸アルカリ系の圧電セラミックスは、キュリー点が高く、電気機械結合係数も比較的大きいため、PZT系に代わる圧電セラミックスとして注目されている。
【0005】
例えば、特許文献1では、銀の含有量が50重量%以上である第1及び第2の電極と、前記第1及び第2の電極の間に配置され、カルシウム、ストロンチウム、及びバリウムの少なくとも1つのアルカリ土類金属と、銀と、を含有するアルカリニオブ酸系圧電セラミックスの多結晶体で構成される圧電セラミックス層と、を具備することを特徴とする圧電素子について、高い電気抵抗や圧電性を得ることができることが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2017-163055号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
こうしたニオブ酸アルカリ系の圧電セラミックスを用いた圧電素子を実用化するにあたり、その機械的変位性能の向上や、発生する電荷の増大に加えて、耐久性の向上も重視されつつある。例えば、圧電素子及びこれを搭載した種々の機器が、使用者の不注意や不可抗力等により、通常の使用状況としては想定されていない高温高湿度環境下に置かれた場合の、圧電素子の基板からの脱落、圧電素子に接着した部材の脱落、及び圧電素子表面からの電極の剥離等の故障の発生を抑制できることが好ましいとされている。
【0008】
そこで本発明は、高温高湿度環境下に置かれた場合でも故障を発生しにくい、ニオブ酸アルカリ系の圧電セラミックスを用いた圧電素子の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、前記課題を解決するために種々の検討を行ったところ、圧電素子が高温高湿度環境下に置かれた際に生じる故障が、ニオブ酸アルカリ系圧電セラミックスの表面又はそこに配置された電極との界面に存在するLiNbOに起因するとの仮説に思い至った。そして、このLiNbOを除去する方法についてさらに検討を行ったところ、焼成により得られた焼結体を、表面に電極を形成する前に、常温よりも高温の水中に配置することで、これを簡便かつ効率的に除去することができ、高温高湿度環境下においても基板や電極との接着強度が保持されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、前記課題を解決するための本発明の第1の側面は、組成式LiNa1-x-yNbO(ただし、0.02<x≦0.1、0.02<x+y≦1)で表されるペロブスカイト型化合物を主成分とし、カルシウム、ストロンチウム、及びバリウムから選択される少なくとも1種のアルカリ土類金属と銀とを含有する圧電セラミックスで形成され、表面にLiNbOを含有し、表面からの深さが5μm以上の部分にはLiNbOを含有しない焼結体、並びに前記焼結体の表面に形成された少なくとも1対の電極を備える圧電素子である。
【0011】
また、本発明の第2の側面は、組成式LiNa1-x-yNbO(ただし、0.02<x≦0.1、0.02<x+y≦1)で表されるペロブスカイト型化合物を主成分とし、カルシウム、ストロンチウム、及びバリウムから選択される少なくとも1種のアルカリ土類金属と銀とを含有するセラミックスで形成された焼結体を準備すること、前記焼結体を、常温よりも高温の水中に配置すること、前記配置後の焼結体の表面に、少なくとも1対の電極を形成すること、及び前記少なくとも1対の電極間に電圧を印加して分極処理を行うことを含む、圧電素子の製造方法である。
【0012】
さらに、本発明の第3の側面は、前述の圧電素子及びこれに接合された振動板を含む圧電振動装置である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、高温高湿度環境下に置かれた場合でも故障を発生しにくい、ニオブ酸アルカリ系の圧電セラミックスを用いた圧電素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例及び比較例に係る圧電素子における焼結体表面のX線回折プロファイルを示す図
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら、本発明の構成及び作用効果について、技術的思想を交えて説明する。但し、作用機構については推定を含んでおり、その正否は、本発明を制限するものではない。また、以下の実施形態における構成要素のうち、最上位概念を示す請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。なお、数値範囲の記載(2つの数値を「~」でつないだ記載)については、下限及び上限として記載された数値をも含む意味である。
【0016】
本明細書において、「セラミックス」とは、複数の粒子同士の結合体である「焼結体」中の、電極以外の部分をいう。したがって、内部に電極を含まない「焼結体」は、概念上「セラミックス」と同義のものとして記述される。また、「圧電セラミックス」とは、前述した「セラミックス」のうち、分極処理を施されて圧電性を発現するに至ったものをいう。
【0017】
[圧電素子]
本発明の第1の側面に係る圧電素子(以下、単に「第1側面」と記載することがある。)は、ニオブ酸アルカリ系の圧電セラミックスで形成された焼結体、及びその表面に形成された少なくとも1対の電極で構成される。
【0018】
焼結体を形成する圧電セラミックスは、組成式LiNa1-x-yNbO(ただし、0.02<x≦0.1、0.02<x+y≦1)で表されるペロブスカイト型化合物を主成分とする。ここで、「主成分」とは、質量基準で最も多く含まれる成分を意味する。前記組成式において、xの値、すなわちLiの含有割合を0.02超とすることで、圧電セラミックスが緻密なものとなる。この点からは、xの値は0.04以上とすることが好ましく、0.06以上とすることがより好ましい。他方、xの値を0.1以下とすることで、LiNbO等の導電性を有する化合物の過度の生成が抑制され、絶縁性及び耐久性に優れた圧電セラミックスとなる。この点からは、xの値は、0.09以下とすることが好ましく、0.08以下とすることがより好ましい。また、前記組成式における、x+yの値、すなわちLiの含有割合と任意成分であるNaの含有割合との合計を、0.02を超え1以下とすることで、優れた圧電特性を有する圧電セラミックスとなる。
【0019】
ここで、圧電セラミックスが、前述の組成式で表されるペロブスカイト型化合物を主成分とすることは、以下の方法で確認する。
まず、圧電素子の表面に露出する圧電セラミックスについて、Cu-Kα線を用いたX線回折装置(株式会社リガク製、RINT2500シリーズ)で回折線プロファイルを測定する。次いで、得られたX線回折プロファイルにおいて、ペロブスカイト構造由来のプロファイルが主成分として認められ、かつ他の結晶構造由来と考えられる回折線プロファイルにおける最強回折線強度の、前記ペロブスカイト構造由来の最強回折線強度に対する割合が10%以下となった圧電セラミックスを、ペロブスカイト型化合物を主成分とするものと判定する。なお、圧電セラミックスの表面に電極が形成されていたり、圧電セラミックスが被覆されていたりして、圧電素子の表面に圧電セラミックスが露出していない場合には、測定に先立ち、研磨等により該電極又は被覆を除去する。
次いで、ペロブスカイト型化合物を主成分とすると判定された圧電セラミックスに、導電性を付与するために炭素を蒸着し、電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM:日立ハイテクノロジーズ社製、S-4300)に設置した、シリコンドリフト型エネルギー分散型X線検出器(アメテック社製、Appolo)によってエネルギー分散型X線スペクトル(EDS)の測定を行う。測定時の電圧は10kVとし、K-K、Na-K、及びNb-Lスペクトルを定量評価に用いる。測定は、K-Kスペクトルの線強度が5000カウント以上となるように十分な時間をかけて行う。それぞれのスペクトルには、原子番号補正、吸収補正、蛍光補正を施して(ZAF補正)、各元素の含有量を算出する。
最後に、算出されたNb含有量(モル%ないし原子%)に対するNa及びKの含有量比率をそれぞれ、前述の組成式におけるy及び1-x-yの値として組成式を決定し、該決定された組成式が前述の組成式の範囲内にあるものを、前述の組成式で表されるペロブスカイト型化合物を主成分とする圧電セラミックスとする。
【0020】
圧電セラミックスは、前述した主成分に加えて、カルシウム、ストロンチウム、及びバリウムから選択される少なくとも1種のアルカリ土類金属を含有する。前述した組成式の化合物を主成分とする圧電セラミックスが、前記アルカリ土類金属を少なくとも1種含むことで、優れた圧電特性を有するものとなることに加えて、微細な多結晶体の生成により絶縁抵抗に優れたものとなる。この点からは、前記アルカリ土類金属の含有量は、前述の主成分100モルに対して、合計で0.2モル以上とすることが好ましく、0.4モル以上とすることがより好ましく、0.5モル以上とすることがさらに好ましい。前記アルカリ土類金属の含有量の上限は、特に限定されないが、高い圧電性能を保持する点からは、前述の主成分100モルに対して、合計で5.0モル以下とすることが好ましく、4.0モル以下とすることがより好ましく、3.0モル以下とすることがさらに好ましい。
【0021】
圧電セラミックスは、前述した主成分及びアルカリ土類金属に加えて、銀を含有する。これにより、焼結粒子が微細なものとなり、優れた圧電特性を発現すると共に、絶縁抵抗が向上する。これは、前述したアルカリ土類金属と銀との相互作用によるものである。この作用を十分に発現させる点からは、銀の含有量を、前述の主成分100モルに対して0.5モル以上とすることが好ましく、0.7モル以上とすることがより好ましく、1.0モル以上とすることがさらに好ましい。他方、耐久性に優れた圧電素子を得る点からは、銀の含有量を、前述の主成分100モルに対して5.0モル以下とすることが好ましく、4.0モル以下とすることがより好ましく、3.0モル以下とすることがさらに好ましい。
【0022】
圧電セラミックスは、前述した主成分100モルに対して、0.1モル以上3.0モル以下のLi、及び0.1モル以上3.0モル以下のSiをさらに含有してもよい。Li及びSiの両元素を含有することで、圧電セラミックスを緻密化できる。また、ペロブスカイト型構造に固溶しきれずに余剰となったLiとSiとが反応してLiSiOやLiSiO等の電気的絶縁性の高い化合物を生成することで、LiNbOをはじめとする導電性を有する化合物の生成を抑制し、圧電セラミックスの電気抵抗率の低下抑制に寄与する。この作用を高める点からは、Liに対するSiのモル比(Si/Li)を1.0以上とすることが好ましく、2.0以上とすることがより好ましい。
【0023】
Liの含有量は、前述の作用を十分に発揮させる点からは、前記主成分100モルに対して0.3モル以上とすることがより好ましく、0.5モル以上とすることがさらに好ましい。他方、前記主成分100モルに対するLiの含有量を3.0モル以下とすることで、LiNbOをはじめとする導電性を有する化合物の生成が抑制され、電気的絶縁性及び耐久性に優れた圧電セラミックスとなる。この点からは、Liの含有量は、前記主成分100モルに対して2.0モル以下とすることがより好ましく、1.5モル以下とすることがさらに好ましい。
なお、Liは上述した主成分の構成元素でもあるが、ここで説明されるLiの量には、該主成分中のLiは含まれない。圧電セラミックスに含まれる前記主成分を構成しないLiの量は、レーザー照射型誘導結合プラズマ質量分析装置(LA-ICP-MASS)等のLiを定量できる装置を用いて圧電セラミックスに含まれるLiの総量を測定し、該総量から、前述したアルカリニオブ酸塩の組成式の決定方法において算出された、アルカリニオブ酸塩中に固溶し得るLi量を除いた残部として算出される。
【0024】
圧電セラミックス中のSiの含有量は、前述の作用を十分に発揮させる点からは、前記主成分100モルに対して0.5モル以上とすることがより好ましく、1.0モル以上とすることがさらに好ましい。他方、前記主成分100モルに対するSiの含有量を3.0モル以下とすることで、圧電性を有さない異相の生成量が抑えられ、優れた圧電特性を有する圧電セラミックスとなる。この点からは、Siの含有量は、前記主成分100モルに対して2.5モル以下とすることがより好ましく、2.0モル以下とすることがさらに好ましい。
【0025】
また、圧電セラミックスは、上述した主成分100モルに対して、0~2.0モルのMnを含有してもよい。圧電セラミックスがMnを含有することで、その電気抵抗が向上する。この作用を十分に発揮させる点からは、Mnの含有量は0.2モル以上とすることが好ましい。他方、Mn含有量を2.0モル以下とすることで、高い圧電性能を保持することができる。前記Mnの含有量は、1.5モル以下とすることが好ましく、1.0モル以下とすることがより好ましい。
【0026】
ここで、Li以外の前記各元素の主成分に対する含有量は、圧電セラミックスについて、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP-AES、サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製、iCAP6500)、イオンクロマトグラフィー装置(サーモサイエンティフィック、ICS-1600)ないしは、蛍光X線分析装置(XRF、株式会社リガク製ZSX Primus-IV)によってNb及び前記各元素の含有量を測定し、前記各元素のNbに対する含有量比率に基づいて、Nbの含有量を100モルとしたときの前記各元素のモル数を算出することで求める。
【0027】
圧電セラミックスは、前述した組成式で表されるペロブスカイト型化合物を主成分とするものであれば、所期の特性が得られる範囲内で他の添加元素ないし化合物を含有するものであってもよい。含有し得る添加元素の例としては、慣用されているTa及びSbの他、Sc、Ti、V、Cr、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Y、Mo、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Hf及びW等が挙げられる。
【0028】
第1側面における焼結体は、前述した圧電セラミックスと電極との層状構造を有するものであってもよい。この場合、第1側面は、いわゆる積層型圧電素子となり、焼結体を形成する電極は内部電極となる。
【0029】
焼結体が内部電極を含む場合、これを構成する電極材料は、導電性が高く、積層型圧電素子の使用環境下で物理的及び化学的に安定な材料であれば特に限定されない。使用可能な電極材料の例としては、銀(Ag)、銅(Cu)、金(Au)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)及びニッケル(Ni)、並びにこれらの合金等が挙げられる。中でも、銀を50質量%以上含むものが、高い導電性を示す点で好ましい。この場合、電極材料中の銀の含有量は、70質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることがさらに好ましい。
【0030】
第1側面では、焼結体は、その表面にLiNbOを含有する。このLiNbOは、焼成直後の圧電セラミックスの表面に含まれるLiNbOに由来するものである。LiNbOは化合物としての安定性が比較的低いため、高温高湿度環境下では、水分の作用により分解してしまう。このため、LiNbOが表面に存在する状態の焼結体は、これに電極を形成した圧電素子が高温高湿度環境下に置かれると、電極との間の接着力が低下し、電極が剥離する虞がある。また、このような焼結体を備える圧電素子を、接着剤を介して基板や振動板等の他の部材と接着した装置が高温高湿度環境下に置かれると、焼結体と接着剤との接着力が低下し、圧電素子又は他の部材が脱落する虞もある。このような剥離や脱落が、装置の故障を引き起こす。しかし、後述する処理により、焼結体表面のLiNbOを分解ないし除去した後、安定性の高いLiNbOを生成させることで、こうした故障の発生を抑制することができる。
【0031】
また、焼結体の表面に含まれるLiNbOを分解ないし除去した後LiNbOを生成させることは、圧電素子の絶縁性向上の点でも好ましいものである。すなわち、焼結体の表面に、導電性の高いLiNbOが存在すると、これに接触する電極からLiNbOへと電流が流れることにより表面伝導が起こり、短絡や絶縁破壊のリスクが高くなる。これに対し、絶縁性の高いLiNbOの生成によって、こうしたリスクを低減できる。
【0032】
焼結体がその表面にLiNbOを含有することは、以下の方法で確認する。
まず、圧電素子の表面に露出する焼結体の圧電セラミックス部分について、Cu-Kα線を用いたX線回折装置(株式会社リガク製、Ultima IV)で回折線プロファイルを測定する。X線の発生条件は、加速電圧40kV、電流40mAとする。また、測定は、サンプリング幅を0.0200°、スキャンスピードを5.0°/min.、発散スリット幅を1°、発散縦制限スリット幅を10mm、散乱スリット及び受光スリットを開放として、モノクロ受光スリットは使用せず、2θ/θモードで2θ=10~90°の範囲を連続スキャンすることで行う。なお、圧電セラミックスの表面に電極が形成されていたり、圧電セラミックスが被覆されていたりして、圧電素子の表面に圧電セラミックスが露出していない場合には、測定に先立ち、研磨等により該電極又は被覆を除去する。
次いで、得られた回折線プロファイルの全範囲(2θ=10~90°)における回折強度の最大値Imax及び最小値Imin、並びに2θ=23.4~24.0°の範囲における回折強度の最大値I1max及び最小値I1minから、下記式1を用いて、規格化したLiNbOの回折強度ILNを算出する。そして、得られたILNの値が1.2以上となったことをもって、焼結体の表面にLiNbOを含有するものと判定する。
【0033】
【数1】
【0034】
焼結体は、その表面にLiNbOを含有する一方で、表面からの深さが5μm以上の部分にはLiNbOを含有しない。これは、前述したLiNbO由来のLiNbOの生成が、焼結体の表面近傍でのみ起こることによる。表面から離れた部分にLiNbOが含まれない点で、第1側面における焼結体は、圧電セラミックス中に均一にLiNbOを含有するものとは区別される。
【0035】
焼結体の表面からの深さが5μm以上の部分にLiNbOが含まれないことは、以下の方法で確認する。
まず、圧電素子を構成する焼結体の全面を研磨して、その表面を5μm除去する。焼結体の表面に電極や被覆が形成されている箇所については、これらを除去して焼結体を露出させた後、その表面を5μm除去する。
次いで、研磨後の焼結体を粉砕し、X線回折測定用試料とする。
次いで、前述した焼結体表面についてのLiNbO含有の確認方法と同条件で、X線回折測定用試料の回折線プロファイルを測定する。
最後に、得られた回折線プロファイルから、前述の式1を用いてILNを算出し、これが1.2未満となったことをもって、焼結体の表面からの深さが5μm以上の部分にLiNbOが含まれないと判定する。
【0036】
第1側面では、焼結体の表面に、少なくとも1対の電極が形成される。電極の材質、形状及び配置は、圧電セラミックスに対して所期の電圧を印加することができ、又は圧電セラミックスから所期の電圧若しくは電荷を取り出すことができるものであれば特に限定されない。電極の材質の例としては、、銀(Ag)、銅(Cu)、金(Au)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)及びニッケル(Ni)並びにこれらの合金等が挙げられる。また、電極の形状及び配置の例としては、焼結体の特定の面のほぼ全体を覆うもの、及び焼結体が圧電セラミックスと内部電極との層状構造を有するものである場合に、内部電極の露出部分を覆ってこれを1層おきに接続するもの等が挙げられる。
【0037】
第1側面では、焼結体の表面に配置される電極が銀を含むものであると、その低い電気抵抗に起因して使用時の抵抗発熱が抑制されると共に、高温高湿度環境下に置かれた場合の銀のマイグレーションが抑制されるため好ましい。表面にLiNbOを含む焼結体では、高温高湿度環境下で分解したLiNbO由来の成分が、焼結体表面に銀のマイグレーション経路を形成する上、圧電セラミックスの焼結粒子間に浸透して該粒子間にも銀のマイグレーション経路を形成するため、銀のマイグレーションが促進される虞がある。これに対し、表面のLiNbOが分解ないし除去されLiNbOが生成した第1側面における焼結体では、前述のマイグレーション経路が形成されないために、銀のマイグレーションが抑制される。
【0038】
[圧電素子の製造方法]
本発明の第2の側面に係る圧電素子の製造方法(以下、単に「第2側面」と記載することがある。)は、組成式LiNa1-x-yNbO(ただし、0.02<x≦0.1、0.02<x+y≦1)で表されるペロブスカイト型化合物を主成分とし、カルシウム、ストロンチウム、及びバリウムから選択される少なくとも1種のアルカリ土類金属と銀とを含有するセラミックスで形成された焼結体を準備すること、前記焼結体を、常温よりも高温の水中に配置すること、前記配置後の焼結体の表面に、少なくとも1対の電極を形成すること、及び 前記少なくとも1対の電極間に電圧を印加して分極処理を行うことを含む。
【0039】
焼結体を得る方法は特に限定されないが、粉末状の原料を混合し、ペロブスカイト型化合物が生成するよう熱処理した後、成形し焼成する方法を採用することが、コストの点で好ましい。以下、製造方法の一例を説明する。
【0040】
まず、所定量のリチウム化合物、ナトリウム化合物、カリウム化合物及びニオブ化合物の粉末を混合し、仮焼して、組成式LiNa1-x-yNbO(ただし、0.02<x≦0.1、0.02<x+y≦1)で表されるペロブスカイト型化合物を主成分とする仮焼粉を得る。
【0041】
原料として使用するリチウム化合物、ナトリウム化合物、カリウム化合物及びニオブ化合物は、仮焼によって互いに反応し、組成式LiNa1-x-yNbO(ただし、0.02<x≦0.1、0.02<x+y≦1)で表されるペロブスカイト型化合物を生成する粉末であれば、組成、純度及び粒径等は限定されない。Li、Na、K及びNbのうち2種類以上の元素を含む化合物であってもよく、添加元素として作用する他の元素を含む化合物であってもよい。使用できるリチウム化合物の例としては、炭酸リチウム(LiCO)等が挙げられる。また、使用できるナトリウム化合物の例としては、炭酸ナトリウム(NaCO)及び炭酸水素ナトリウム(NaHCO)等が挙げられる。また、使用できるカリウム化合物の例としては、炭酸カリウム(KCO)及び炭酸水素カリウム(KHCO)等が挙げられる。また、使用できるニオブ化合物の例としては、五酸化ニオブ(Nb)等が挙げられる。
【0042】
原料粉末の混合方法は、不純物の混入を防ぎつつ各粉末が均一に混合されるものであれば特に限定されず、乾式混合、湿式混合のいずれを採用してもよい。混合方法としてボールミルを用いた湿式混合を採用する場合には、例えば8~24時間程度混合すればよい。
【0043】
仮焼条件は、各原料が反応して上述した組成式で表されるペロブスカイト型化合物を主成分とする仮焼粉が得られるものであれば限定されず、例えば大気雰囲気中、700~1000℃で2~8時間とすればよい。焼成温度が低すぎたり、焼成時間が短すぎたりすると、未反応の原料や中間生成物が残存する虞がある。反対に、焼成温度が高すぎたり、焼成時間が長すぎたりすると、アルカリ成分の揮発により所期の組成の化合物が得られない虞や、生成物が固結して解砕しにくくなることで生産性が低下する虞がある。
【0044】
次いで、仮焼により得られた仮焼粉に対して、Ca、Sr及びBaからなる群から選択される少なくとも1種のアルカリ土類金属元素を含む化合物、及び銀又はこれを含む化合物を混合して、成形用粉末を得る。その際、Li、Si及びMnを始めとする各種添加元素を含む化合物を同時に混合してもよい。
【0045】
仮焼粉に混合するアルカリ土類金属を含む化合物、及び銀又はこれを含む化合物、並びに必要に応じて仮焼粉に混合する各種添加元素を含む化合物は、最終的に得られる焼結体において所期の組成のセラミックスを形成できるものであれば、組成、純度及び粒径等は限定されない。組成については、添加元素のうち2種類以上を含むものであってもよい。使用できるアルカリ土類金属元素を含む化合物の例としては、カルシウム化合物として、炭酸カルシウム(CaCO)、メタケイ酸カルシウム(CaSiO)及びオルトケイ酸カルシウム(CaSiO)等が、ストロンチウム化合物として、炭酸ストロンチウム(SrCO)等が、バリウム化合物として、炭酸バリウム(BaCO)等が、それぞれ挙げられる。また、使用できる銀を含む化合物の例としては、酸化銀(AgO)等が挙げられる。また、使用できるリチウム化合物の例としては、炭酸リチウム(LiCO)、メタケイ酸リチウム(LiSiO)及びオルトケイ酸リチウム(LiSiO)等が挙げられる。また、使用可能なケイ素化合物の例としては、二酸化ケイ素(SiO)、メタケイ酸リチウム(LiSiO)、オルトケイ酸リチウム(LiSiO)、メタケイ酸カルシウム(CaSiO)及びオルトケイ酸カルシウム(CaSiO)等が挙げられる。さらに、使用できるマンガン化合物の例としては、炭酸マンガン(MnCO)、一酸化マンガン(MnO)、二酸化マンガン(MnO)、四三酸化マンガン(Mn)及び酢酸マンガン(Mn(OCOCH)等が挙げられる。
【0046】
これらの化合物と仮焼粉との混合方法は、不純物の混入を防ぎつつ各粉末が均一に混合されるものであれば特に限定されず、乾式混合、湿式混合のいずれを採用してもよい。また、混合は、仮焼粉の解砕を兼ねることもできる。混合方法としてボールミルを用いた湿式混合を採用する場合には、例えば8~24時間程度混合すればよい。
【0047】
次いで、混合により得られた成形用粉末を、所期の形状に成形する。成形方法としては、一軸加圧成形法、鋳込み成形法、押出成形法又はドクターブレード法等の、セラミックスの成形に慣用されているものを採用できる。成形用粉末は、成形方法に応じて、予めバインダー、可塑剤又は分散剤等と混合して成形用組成物としてもよい。
【0048】
焼結体が内部電極を含む、すなわちセラミックスと電極との層状構造を有するものである場合には、成形方法として、成形用粉末をバインダー等と混合し、スラリー又は坏土を形成した後、これをシート状に成形して生シートとし、該生シート上に内部電極パターンを形成した後、生シートを所定の順序で所定の枚数だけ積層・接着する方法を採用すればよい。その際、内部電極パターンは、積層方向に1層おきに接続可能な形状とする。内部電極パターンは慣用されている方法で形成すればよく、電極材料を含むペーストを印刷又は塗布する方法がコストの点で好ましい。印刷又は塗布により電極パターンを形成する際には、焼成後のセラミックスへの付着強度を向上させるため、ガラスフリットや成形用粉末と同様の組成の粉末(共材)をペースト中に含有させてもよい。
【0049】
最後に、成形された成形体を焼成して焼結体を得る。成形体がバインダー、可塑剤又は分散剤等の有機成分を含む場合には、焼成に先立って該有機成分の除去を行う。その際には、有機成分の除去と焼成とは、同じ焼成装置を用いて連続して行ってもよい。焼成条件の例としては、大気雰囲気中、850~1100℃で1~5時間が挙げられる。
【0050】
第2側面では、準備した焼結体を、常温よりも高温の水中に配置する。ここで、「常温」とは、特に冷却又は加熱を行わない温度を意味し、概ね5~35℃程度の温度のことをいう。また、「水中に配置」とは、焼結体の表面全体が水に接することをいう。常温よりも高温の水中に配置する態様としては、温水中への浸漬や、飽和水蒸気量を超える水分を含む加熱された雰囲気中への配置等が例示される。焼結体を常温よりも高温の水中に配置することで、焼成時に焼結体の表面に生成したLiNbOが分解ないし除去される。LiNbOの分解ないし除去を促進する点からは、焼結体が配置される(焼結体に接触する)水の温度は、60℃以上とすることが好ましく、70℃以上とすることがより好ましく、80℃以上とすることがさらに好ましい。また、浸漬又は配置する時間は、20分以上とすることが好ましく、30分以上とすることがより好ましく、1時間以上とすることがさらに好ましい。水温が高くなるほど、短時間でLiNbOの分解ないし除去が可能となるため、生産性向上の点からは、高温の水を利用して配置時間を短縮することが好ましい。
【0051】
前述の配置を行った焼結体は、後述する電極の形成に先立って、大気中、300~900℃で熱処理されてもよい。これにより、LiNbOの分解後に、Li化合物及びNb化合物が焼結体表面に残存する場合でも、これらが反応して化学的安定性及び電気的絶縁性の高いLiNbOが生成する。このため、高温高湿度環境下での焼結体表面の変質が顕著に抑制され、故障の発生が抑えられる。また、LiNbOの高い電気的絶縁性により、短絡や絶縁破壊のリスクを低減できる。
【0052】
次いで、焼結体の表面に電極を形成する。電極の形成方法としては、電極用ペーストを印刷若しくは塗布した後、焼き付ける方法、電極材料を蒸着する方法等が挙げられる。焼付けにより電極を形成する場合には、焼結体が加熱されることで、前述した機序により、焼結体表面にLiNbOが生成することもある。電極の材質としては、第1側面にて説明したものが使用可能である。
【0053】
最後に、電極間に電圧を印加して分極処理を行う。これにより、セラミックス中の自発分極の向きが揃い、圧電性が発現する。分極処理の条件は、焼結体に亀裂等の損傷を生じることなく、セラミックス中の自発分極の向きを揃えられるものであれば特に限定されない。一例として、100~150℃の温度にて4~6kV/mmの電界を印加することが挙げられる。
【0054】
[圧電振動装置]
第1側面に係る圧電素子は、圧電振動装置に好適に用いられる。そこで、本発明の第3の側面として、圧電素子を用いた振動装置について説明する。
本発明の第3の側面に係る振動装置は、圧電素子に電気信号を加えることで振動させ、それによって振動板を振動させることで作動する。
使用する振動板の材質としては、圧電素子の振動により振動するものであれば特に限定されず、例えばポリカーボネートやアクリル等の樹脂、SUSや黄銅等の金属、又はガラス等が使用できる。また、振動板の寸法及び形状についても特に限定されず、例えば厚さ10~500μmの矩形板、多角形板、円形板又は楕円形板等が利用できる。
圧電素子を振動板に接合する手段は、圧電素子の振動を振動板に対して効率よく伝達できるものであれば特に限定されず、エポキシ系樹脂等の接着剤又は両面テープ等が利用できる。
【実施例
【0055】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は該実施例に限定されるものではない。
【0056】
(比較例1)
[仮焼粉の製造]
出発原料として、高純度の炭酸リチウム(LiCO)、炭酸ナトリウム(NaCO)、炭酸カリウム(KCO)及び五酸化ニオブ(Nb)を使用した。
これらの出発原料を、得られる仮焼粉の組成式がLi0.06Na0.520.42NbOとなるように秤量し、ボールミルにて湿式混合を行った。
混合後のスラリーを乾燥して得た混合粉について、大気中、900℃で3時間の条件で仮焼を行い、仮焼粉を得た。
【0057】
[成形体の製造]
得られた仮焼粉に対して、高純度の炭酸リチウム(LiCO)、炭酸ストロンチウム(SrCO)、炭酸マンガン(MnCO)及び二酸化ケイ素(SiO)を、Li0.06Na0.520.42NbO100モルに対して、Liが1.3モル、Srが0.5モル、Mnが0.5モル及びSiが1.3モルとなる量で添加して成形用粉末を得た。
得られた成形用粉末にポリビニルブチラール系バインダーを混合して、成形用組成物を得た。
得られた成形用組成物をドクターブレードにて成形し、厚さ80μmの生シートを得た。この生シート上に、Ag及びPdをAg/Pd=7/3の質量比で含む導体ペーストを所期のパターンでスクリーン印刷した。導体ペーストの乾燥後、生シートを30枚積層し、加熱しながら50MPa程度の圧力で加圧することで圧着して成形体を得た。
【0058】
[焼結体の製造]
得られた成形体を個片化し、大気中で脱バインダー処理を行った後、大気中、1100℃で3時間の焼成を行い、焼結体を得た。
【0059】
[圧電素子の製造]
得られた焼結体の対向する側面(生シートを積層した方向に平行な面)に、該各側面に露出する内部電極の端部を覆うようにAgペーストを塗布した後、800℃に設定したベルト炉内を通過させて焼き付けることで1対の電極を形成した。電極形成後の焼結体を、100℃の恒温槽内に配置し、電極間に3kV/mmの電界を15分間印加して分極処理を行い、比較例1に係る圧電素子を得た。
【0060】
[焼結体の表面におけるLiNbOの有無の確認]
得られた圧電素子について、焼結体の表面におけるLiNbO含有の有無を、上述した方法で確認したところ、ILN=0.47となり、LiNbOは含有されないと判定された。比較例1に係る圧電素子の焼結体表面についてのX線回折測定結果(回折線プロファイル)を、図1中に(a)として示す。回折線プロファイル中には、LiNbOのピークが確認された。
【0061】
[圧電振動装置の製造及び振動板付着強度の測定]
比較例1に係る圧電素子の上面、すなわち生シートを積層した方向に垂直な面の一方に、振動板としての厚さ500μmのSUS板(SUS304製)を、エポキシ系接着剤を用いて接着し、比較例1に係る圧電駆動装置を得た。
【0062】
得られた圧電駆動装置について、荷重-変位測定ユニット(株式会社イマダ製、FSAシリーズ)により、振動板と圧電素子との間に、振動板の接着面に対して垂直方向に引張荷重を印加して引張試験を行い、振動板が圧電素子から剥離するまでの最大応力を振動板付着強度とした。得られた振動板付着強度は18N/cmであった。また、同様の方法で製造された圧電振動装置を、40℃、相対湿度90%に設定した恒温恒湿槽中に24時間置いた後、同様の方法で引張試験を行ったところ、振動板付着強度は0.7N/cmと大幅に低下した。
【0063】
[焼結体表面に含まれるLiNbOの安定性確認]
前述した振動板付着強度の低下が、焼結体表面に含まれるLiNbOの分解に起因すること、及び該LiNbOが、焼結体を常温よりも高温の水中に配置することで分解ないし除去できることを確認するため、焼成まで行って得た焼結体を80℃の温水中に30分間浸漬した測定用試料について、LiNbOの有無を確認したのと同様の方法でX線回折測定を行った。得られた回折線プロファイルを、図1中に(b)として示す。回折線プロファイルでは、温水中への浸漬前の圧電素子に見られたLiNbOのピーク(同図(a)参照)の消失が確認された。この結果から、焼結体表面に含まれるLiNbOは化学的安定性が低く、高温高湿度環境下で水の作用により分解し、これが振動板接着強度の低下を引き起こすことが判る。また、焼結体を常温よりも高温の水中に置くことで、焼結体表面に含まれるLiNbOが分解ないし除去され、振動板接着強度の低下が抑制されるといえる。
【0064】
[電極からのAgのマイグレーションの評価]
40℃、相対湿度90%の高温恒湿槽に24時間置いた後の圧電振動装置に対して、同じ高温恒湿槽内にて、3kV/mm、50Hz、200万サイクルの条件でACユニポーラ駆動試験を行った。試験後の圧電振動装置の表面に露出する圧電セラミックス部分について、駆動試験時に+極となっていた電極の近傍をSEM―EDS(日立ハイテクノロジーズ社製のFE-SEM(S-4300)に、アメテック社製のシリコンドリフト型エネルギー分散型X線検出器(Appolo)を搭載したもの)を用いて面分析し、Agの分布を示すマッピング像に基づいて、電極からのAgのマイグレーションの程度を評価した。マッピング像中のAg濃度の高い領域が、電極からの距離が400μmを超える位置まで広がっていたことから、比較例1に係る圧電駆動装置は、高温高湿度環境下に置かれると、駆動時のAgのマイグレーションが活発に起こるものといえる。
【0065】
(実施例1)
[圧電素子の製造及びLiNbOの有無の確認]
比較例1と同様の方法で製造した焼結体を、80℃の温水中に30分間浸漬した後、大気中、600℃で30分間熱処理して得た焼結体に、比較例1と同様の手順で電極の形成及び分極処理を行い、実施例1に係る圧電素子を得た。得られた圧電素子について、焼結体の表面におけるLiNbO含有の有無を、比較例1と同様の方法で確認したところ、ILN=2.1となり、LiNbOが含有されると判定された。また、表面からの深さが5μm以上の部分におけるLiNbO含有の有無を、上述した方法で確認したところ、ILN=0.73となり、LiNbOは含有されないと判定された。実施例1に係る圧電素子の焼結体表面についてのX線回折測定結果(回折線プロファイル)を、図1中に(c)として示す。回折線プロファイルでは、比較例1に係る圧電素子で見られたLiNbOのピーク(同図(a)参照)の消失と、LiNbOのピークの出現とが確認された。
【0066】
[圧電振動装置の製造及び振動板付着強度の測定]
実施例1に係る圧電素子に、比較例1と同様の方法で振動板を接着し、実施例1に係る圧電駆動装置を得た。得られた圧電駆動装置について、比較例1と同様の方法で振動板付着強度を測定したところ、製造直後が18N/cm、恒温恒湿槽に置いた後が17N/cmとなり、高い付着強度を保持していた。
【0067】
[焼結体表面に含まれるLiNbOの安定性確認]
実施例1に係る圧電素子の焼結体表面に含まれるLiNbOの安定性を確認するため、電極形成前の焼結体を80℃の温水中に30分間浸漬した測定用試料について、焼結体の表面におけるLiNbO含有の有無を、比較例1と同様の方法で確認した。その結果、ILN=2.49となり、LiNbOが含有されると判定された。測定用試料のX線回折測定結果(回折線プロファイル)を、図1中に(d)として示す。回折線プロファイルでは、実施例1に係る圧電素子の焼結体表面の回折線プロファイル(同図(c)参照)との間に、LiNbOのピーク強度の差異は確認できなかった。この結果から、実施例1に係る圧電素子の焼結体表面に含まれるLiNbOは、化学的安定性が高く、このことが、高温高湿度環境に置かれた後でも振動板付着強度が殆ど低下しないことに寄与しているといえる。
【0068】
[電極からのAgのマイグレーションの評価]
恒温恒湿槽に置いた後の圧電振動装置に対して、比較例1と同様の方法でAC駆動試験を行った。試験後の圧電振動装置について、比較例1と同様の方法で電極からのAgのマイグレーションの程度を評価した。マッピング像中のAg濃度の高い領域が、圧電セラミックス部分には見られなかったことから、実施例1に係る圧電駆動装置は、高温高湿度環境下に置かれた場合でも、駆動時のAgのマイグレーションが抑制されるものといえる。
【0069】
以上のことから、組成式LiNa1-x-yNbO(ただし、0.02<x≦0.1、0.02<x+y≦1)で表されるペロブスカイト型化合物を主成分とし、カルシウム、ストロンチウム、及びバリウムから選択される少なくとも1種のアルカリ土類金属と銀とを含有する圧電セラミックスが高温高湿度環境下に置かれた際の故障の原因は、焼結体表面に含まれるLiNbOにあり、焼結体を常温より高温の水中に置くことで、LiNbOが分解ないし除去され、故障の発生が抑えられるといえる。また、常温より高温の水中に置いた後の焼結体を、大気中、300~900℃で熱処理することで、LiNbOが分解後の焼結体表面にLi化合物及びNb化合物が残存する場合でも、これらが反応して化学的安定性及び電気的絶縁性の高いLiNbOを生成し、故障の発生が顕著に抑えられるといえる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明によれば、高温高湿度環境下に置かれた場合でも故障を発生しにくい、ニオブ酸アルカリ系の圧電セラミックスを用いた圧電素子を提供することができる。これにより、圧電素子及びこれを搭載した種々の機器が、使用者の不注意や不可抗力等により、通常の使用状況としては想定されていない高温高湿度環境下に置かれた場合でも、故障の発生を抑制できる点で、本発明は有用なものである。また、本発明の好ましい態様は、焼結体表面に化学的安定性及び電気的絶縁性に優れるLiNbOを含有することで、故障の発生が顕著に抑制されると共に、短絡や絶縁破壊が起こる可能性を低減できる点で有用なものである。
図1