(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-30
(45)【発行日】2025-02-07
(54)【発明の名称】音環境の生成方法及び生産施設
(51)【国際特許分類】
G05D 1/43 20240101AFI20250131BHJP
B60Q 5/00 20060101ALI20250131BHJP
【FI】
G05D1/43
B60Q5/00 610A
B60Q5/00 620A
B60Q5/00 630B
B60Q5/00 650B
(21)【出願番号】P 2020209136
(22)【出願日】2020-12-17
【審査請求日】2023-09-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】100074273
【氏名又は名称】藤本 英夫
(74)【代理人】
【識別番号】100173222
【氏名又は名称】藤本 英二
(74)【代理人】
【識別番号】100151149
【氏名又は名称】西村 幸城
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 達夫
(72)【発明者】
【氏名】石本 明子
【審査官】渡邊 捷太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開昭59-106336(JP,A)
【文献】特開2013-049302(JP,A)
【文献】特開平06-180070(JP,A)
【文献】特開2010-026033(JP,A)
【文献】特開2018-020736(JP,A)
【文献】特開平03-256104(JP,A)
【文献】米国特許第10414336(US,B1)
【文献】中国実用新案第200967732(CN,Y)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05D 1/43
B60Q 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークを無人で搬送するための複数の自動搬送車が、不規則に音を連ねて形成した走行報知音を発しながら
生産施設に設けられた特定のエリアを走行するようにし、
素材とする音について、部分的に音を時間的に引き伸ばしたり縮めたりする、部分的に音を大きくしたり小さくしたりする、別の素材から採取した音を挿入する、のいずれかの加工を行って、元の音のメロディやリズムを無くすあるいは乱して、前記自動搬送車に搭載される音楽再生装置で使用される走行報知音のソースデータ
を得るようにし、音楽再生装置で再生される走行報知音が
不規則に音を連ねて形成したものとなるようにする音環境の生成方法。
【請求項2】
前記複数の自動搬送車は相互に異なる走行報知音を発する請求項1に記載の音環境の生成方法。
【請求項3】
前記走行報知音は消音時間を断続的に有する請求項1又は2に記載の音環境の生成方法。
【請求項4】
ワークを無人で搬送するための複数の自動搬送車が、不規則に音を連ねて形成した走行報知音を発しながら
生産施設に設けられた特定のエリアを走行するようにし、前記走行を利用して請求項1~3の何れか一項に記載の音環境の生成方法が実施される生産施設であって、
前記エリアの1階に直線状に延びる吹抜け通路を設け、吹抜け通路を左右から挟む壁の一方の上方に、吹抜け通路に沿って延びる通路を設け、この通路の一部は吹抜け通路の上方に向かって迫り出したステージ状の執務エリアとなっていて、吹抜け通路において複数の自動搬送車が行き交っている様子を、吹抜け通路に面する上階のワークスペースである前記通路及び執務エリアから眺めることができるようにした生産施設。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、走行報知音を発しながら走行する自動搬送車(AGV)を用いる生産施設等で実施して好適な音環境の生成方法及び生産施設に関する。
【背景技術】
【0002】
生産施設で物流を担う自動搬送車は、一般に、接触防止の目的で走行報知音を発しながら走行する(特許文献1参照)。そして、走行報知音には、例えば歌謡曲などの音楽(メロディ音)が採用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、複数台の自動搬送車どうしが近づいた際、その場所付近では各々の自動搬送車から流れる音楽どうしが重なり合い、働く人にとって不快なノイズと化す。
【0005】
また、各自動搬送車から毎日同じ音楽を流した場合、音の刺激に脳が慣れてしまうため、働く人にとって心地よい刺激とはならない。この改善のためには、ソフト(音楽データ)の更新が頻繁に必要となり、手間やコストが掛かるという問題もある。
【0006】
本発明は上述の事柄に留意してなされたもので、その目的は、走行報知音を発しながら走行する自動搬送車を用いる生産施設等において、働く人にとって心地よい刺激となる音楽が流れるようにすることが容易な音環境の生成方法及び生産施設を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明に係る音環境の生成方法は、ワークを無人で搬送するための複数の自動搬送車が、不規則に音を連ねて形成した走行報知音を発しながら生産施設に設けられた特定のエリアを走行するようにし、素材とする音について、部分的に音を時間的に引き伸ばしたり縮めたりする、部分的に音を大きくしたり小さくしたりする、別の素材から採取した音を挿入する、のいずれかの加工を行って、元の音のメロディやリズムを無くすあるいは乱して、前記自動搬送車に搭載される音楽再生装置で使用される走行報知音のソースデータを得るようにし、音楽再生装置で再生される走行報知音が不規則に音を連ねて形成したものとなるようにする(請求項1)。
【0008】
上記音環境の生成方法において、前記複数の自動搬送車は相互に異なる走行報知音を発するようにしてもよい(請求項2)。
【0009】
上記音環境の生成方法において、前記走行報知音は消音時間を断続的に有するようにしてもよい(請求項3)。
上記目的を達成するために、本発明に係る生産施設は、ワークを無人で搬送するための複数の自動搬送車が、不規則に音を連ねて形成した走行報知音を発しながら生産施設に設けられた特定のエリアを走行するようにし、前記走行を利用して請求項1~3の何れか一項に記載の音環境の生成方法が実施される生産施設であって、前記エリアの1階に直線状に延びる吹抜け通路を設け、吹抜け通路を左右から挟む壁の一方の上方に、吹抜け通路に沿って延びる通路を設け、この通路の一部は吹抜け通路の上方に向かって迫り出したステージ状の執務エリアとなっていて、吹抜け通路において複数の自動搬送車が行き交っている様子を、吹抜け通路に面する上階のワークスペースである前記通路及び執務エリアから眺めることができるようにした(請求項4)。
【発明の効果】
【0010】
本願発明では、走行報知音を発しながら走行する自動搬送車を用いる生産施設等において、働く人にとって心地よい刺激となる音楽が流れるようにすることが容易な音環境の生成方法及び生産施設が得られる。
【0011】
すなわち、本願の各請求項に係る発明の音環境の生成方法では、複数の自動搬送車が特定のエリアを走行しながら相互に近づき、遠ざかることで、日々、ランダムな音の重なりが生まれるのであり、各自動搬送車が発する走行報知音を、メロディを覚えることのできるような一般的な音楽ではなく、不規則に音を連ねて形成したもの(メロディを認識し、覚えることのできないようなもの)とすることにより、走行報知音の重なり合いによって生じるランダム性(偶然性)をより楽しみ易くすることができる。すなわち、走行報知音を発しながら走行する自動搬送車に、移動する音源として音環境の生成の役割を積極的に担わせることができる。
【0012】
請求項2に係る発明の音環境の生成方法では、複数の自動搬送車が相互に異なる走行報知音を発するようにすることにより、走行報知音の重なり合いのランダム性を上げることができ、そのランダム性を一層楽しみ易くすることができる。
【0013】
請求項3に係る発明の音環境の生成方法では、消音時間を設けることにより、走行報知音の重なり合いのランダム性を上げつつ、重なり合わない時間を増やすことにより、重なり合った走行報知音が不快なノイズとなり難くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施の形態に係る音環境の生成方法を実施する生産施設の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施の形態について以下に説明する。
【0016】
図1に示す音環境の生成方法は、複数の自動搬送車(無人搬送車)1が、それぞれ自身の接近を知らせるために走行報知音を発しながら特定のエリアAを走行することを利用して実施するものである。
【0017】
すなわち、自動搬送車1は、例えば生産施設に設けられたエリアAにおいて、加工、組立等の作業の実施対象であるワーク(仕掛品)を無人で搬送するためのものであり、搬送するワークの種類等に応じて決定された搬送ルート2(例えば「○○から××へ△△を運ぶ」といった内容のオーダーが単発で発せられ、こうしたオーダーに対応する搬送ルート2が決定される)を走行するように構成してある。
図1の例では、点線で示す搬送ルート(往路)2Aと、破線で示す搬送ルート(復路)2Bとを設けてあり、自動搬送車1は、図外の出発エリアを出発し、搬送ルート2Aを走行して所定の複数(単数でもよい)の目的エリアに順次到達した後、搬送ルート2Bを走行して元の出発エリアに帰還する。搬送ルート2の種類等は任意に変更可能であり、また、自動搬送車1は搬送するワークに対する作業内容等に応じて各種の搬送ルート2の一部のみを走行してもよい。
【0018】
エリアAには、自動搬送車1からワークが移載され、そのワークに対して特定の作業を行った後、自動搬送車1にワークを移載する作業ステーションや、自動搬送車1に保持された状態のままのワークに対して特定の作業を行う作業ステーション等が複数設けられている。なお、エリアAにおける少なくとも一部の作業ステーションに、作業者が常駐し、ワークに対する加工、組立等の作業を実施してもよいし、全ての作業ステーションが無人で作業を行うものであってもよい。
【0019】
ここで、上記のような搬送を実現する自動搬送車1やそのシステムには公知の技術を採用可能であり、この搬送のための具体的な構成についての説明は省略する。
【0020】
一方、自動搬送車1は、上記のように走行報知音を発することを可能とするために、音楽再生装置を搭載している。この音楽再生装置としては、例えば、走行報知音の音楽ソースデータを外部機器から受信可能とする受信装置(通信装置及びインターフェース装置等)と、CPU等からなるプロセッサと、メモリ(光ディスク及びそのドライブ装置や、半導体メモリ等)と、表示装置(ディスプレイ等)と、音声出力装置(アンプ、スピーカー等)とを具備したものを挙げることができるが、これに限らず、例えば、音楽再生装置が、上記受信装置を持たず、その代わりに、音楽再生装置に接続した外部機器から走行報知音の音楽ソースデータを書き込むことのできる記憶装置等を有していてもよい。いずれにしても、この音楽再生装置は、専用機器を導入することなく、再生する走行報知音(データ)の変更・更新を容易に行えるものであることが好ましい。
【0021】
そして、本例の自動搬送車1は、不規則に音を連ねて形成した走行報知音を発するようにしてある。ここで、「不規則に音を連ねて形成した走行報知音」とは、メロディやリズムが明瞭でも主体でもない音であり、歌謡曲等の通常の曲が持つ曲調を持たない、いわば断片化ないし非連続化された音楽であって、一般人がそのメロディないしリズムを明確に認識し難い傾向を持ち、それゆえに聞こえてきた音の先を予期し難く、飽き難い、といった特徴を有する。具体的には、風で葉がこすれる音、波の音、動物の鳴き声のような自然界で自然に発生する音の他、風で鳴る風鈴の音のように、自然の力を利用して鳴る人工物の音等を素材とすることができるが、単調なメロディやリズムの繰り返しになっている部分が連続する場合、そのメロディやリズムを無くすあるいは乱すために、部分的に音を時間的に引き伸ばしたり縮めたりする、部分的に音を大きく(強く)したり小さく(弱く)したりする、消音(無音)時間を挿入する、別の素材から採取した音等を挿入する、といった加工を行うことが考えられる。
【0022】
上記のように構成した本例の音環境の生成方法では、複数の自動搬送車1が特定のエリアAを走行しながら相互に近づき、遠ざかることで、日々、ランダムな音の重なりが生まれるのであり、各自動搬送車1が発する走行報知音を、メロディを覚えることのできるような一般的な音楽ではなく、不規則に音を連ねて形成したものとしたことにより、走行報知音の重なり合いによって生じるランダム性(偶然性)をより楽しみ易くすることができる。すなわち、本例の音環境の生成方法では、走行報知音を発しながら走行する自動搬送車1に、移動する音源として音環境の生成の役割を積極的に担わせることができる。
【0023】
そして、上述したことから明らかなように、自動搬送車1が発する走行報知音は、他の自動搬送車1が発する走行報知音と重なることを前提とし、相互に響き合うことを意図して制作・選定した音であるのが好ましい。
【0024】
ここで、本例の複数の自動搬送車1が相互に異なる走行報知音を発するようにしてもよく、この場合、走行報知音の重なり合いのランダム性を上げることができ、そのランダム性を一層楽しみ易くすることができる。
【0025】
また、走行報知音は消音時間を断続的に有するようにしてもよく、消音時間を設けることにより、走行報知音の重なり合いのランダム性を上げつつ、重なり合わない時間を増やすことにより、重なり合った走行報知音が不快なノイズとなり難くすることができる。
【0026】
ところで、自動搬送車1が走行報知音を発する一番の目的は、安全のため、自動搬送車1の存在(通行)を周囲に認知させることにあり、周囲の作業音等にかき消されてしまうほどの一定未満の音量での走行報知音の再生が有る程度長く継続すると、衝突等の危険が高まる。そのため、走行報知音に、周囲の作業音等にかき消されてしまうほどの一定未満の音量になる小音量時間(消音時間を含む)を設ける場合、自動搬送車1の走行速度、小音量時間の直前の走行報知音の音量の大きさ等を考慮して、その小音量時間の長さを、衝突等の危険を高めない範囲に抑えることが好ましい。
【0027】
また、本例では、
図1に示すように、エリアA(生産施設)の1階に、直線状に延びる吹抜け通路3を設け、
図2に示すように、吹抜け通路3において複数の自動搬送車1が行き交っている様子を、吹抜け通路3に面する上階(本例では2階)のワークスペースから眺めることができるようにしてある。
【0028】
具体的には、
図2に示すように、吹抜け通路3を左右から挟む壁の一方の上方に、吹抜け通路3に沿って延びる通路4を設け、この通路4の一部は吹抜け通路3の上方に向かって迫り出し、種々の執務(例えば技術者らによるものづくりの情報交換等)を行えるステージ状の執務エリア5となっている。なお、
図2には執務エリア5を一つのみ示してあるが、実際は通路4に沿って複数設けられている。
【0029】
そして、通路4や執務エリア5にいる者(例えば技術者等の従業員)にも吹抜け通路3を走行する自動搬送車1が発する走行報知音が聞こえる。そのため、通路4や執務エリア5といったワークスペースにおいて、吹抜け空間の下部に展開する自動搬送車1による生産・物流の進行を実感できる視覚的な刺激と、聴覚刺激の相乗効果により知的生産性を高めることも可能であり、ワークスペースと物流空間の高い共存性の実現にも資するものとなる。
【0030】
なお、本発明は、上記の実施の形態に何ら限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々に変形して実施し得ることは勿論である。例えば、以下のような変形例を挙げることができる。
【0031】
図1、
図2の例では、エリアAの一部に吹抜け通路3を設け、この吹抜け通路3に面する上階の位置に通路4や執務エリア5といったワークスペースを設けているが、これに限らず、例えばエリアA全体を吹抜け空間とし、エリアAの任意の上階の位置にワークスペースを設けるようにしてもよい。
【0032】
もちろん、本明細書で挙げた変形例どうしを適宜組み合わせてもよいことはいうまでもない。
【符号の説明】
【0033】
1 自動搬送車
2 搬送ルート(2A,2B)
3 吹抜け通路
4 通路
5 執務エリア
A エリア