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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-30
(45)【発行日】2025-02-07
(54)【発明の名称】アキシチニブを有効成分とする医薬錠剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/4439 20060101AFI20250131BHJP
   A61K 9/20 20060101ALI20250131BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20250131BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20250131BHJP
【FI】
A61K31/4439
A61K9/20
A61K47/32
A61K47/38
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021009518
(22)【出願日】2021-01-25
(65)【公開番号】P2022113343
(43)【公開日】2022-08-04
【審査請求日】2023-10-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000004086
【氏名又は名称】日本化薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】中村 崇則
【審査官】金子 亜希
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-509289(JP,A)
【文献】国際公開第2020/225413(WO,A1)
【文献】特開2001-278780(JP,A)
【文献】特開2013-079234(JP,A)
【文献】特開2016-188181(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-31/80
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/69
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アキシチニブ、ポリ酢酸ビニル及び水溶性高分子を含む造粒物、並びに結晶セルロースを含有する医薬錠剤であって、
結晶セルロースを50~95質量%で含有する、医薬錠剤。
【請求項2】
ポリ酢酸ビニルを、アキシチニブ1質量部に対して0.5~15質量部で含有する、請求項1に記載の医薬錠剤。
【請求項3】
崩壊剤を含む、請求項1又は2に記載の医薬錠剤。
【請求項4】
アキシチニブ、ポリ酢酸ビニル及び水溶性高分子を含む造粒物、並びに結晶セルロースを含有する造粒物を含む、請求項1~3の何れか一項に記載の医薬錠剤。
【請求項5】
アキシチニブを0.1~10質量%で含有する、請求項1~4の何れか一項に記載の医薬錠剤。
【請求項6】
アキシチニブを有効成分とする医薬錠剤の製造方法であって、
(1)アキシチニブ、ポリ酢酸ビニル及び水溶性高分子を含む造粒物、並びに結晶セルロースを、溶媒不存在下で混合して組成物を調製する工程、
(2)前記組成物を成型して医薬錠剤とする工程、
を含み、
結晶セルロースを50~95質量%で含有する、医薬錠剤の製造方法。
【請求項7】
アキシチニブを有効成分とする医薬錠剤の製造方法であって、
(1)アキシチニブ、ポリ酢酸ビニル及び水溶性高分子を含む造粒物、並びに結晶セルロースを、溶媒不存在下で混合して組成物を調製する工程、
(2)前記組成物を圧縮して造粒物を調製する工程、
(3)前記造粒物を成型して医薬錠剤とする工程、
を含み、
結晶セルロースを50~95質量%で含有する、医薬錠剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アキシチニブを有効成分としアキシチニブの溶出を抑制できる医薬錠剤に関する。
【背景技術】
【0002】
アキシチニブは、化学名をN-メチル-2-({3-[(1E)-2-(ピリジン-2-イル)エテン-1-イル]-1H-インダゾール-6-イル}スルファニル)ベンザミドとする、式(1)で示される構造を有する化合物である。
【0003】
【化1】
【0004】
アキシチニブは血管内皮増殖因子受容体(VEGFR-1、-2及び-3)をターゲットとした選択的キナーゼ阻害剤である。VEGFRは血管新生及びリンパ管新生を調節する主要な受容体型チロシンキナーゼであり、腫瘍の増殖及び転移に関与している。アキシチニブは、インライタ(登録商標)錠の商品名にて提供されている。
アキシチニブには複数種類の結晶多形が存在することが知られている。特許文献1にはアキシチニブの多形体I型、II型、III型、IV型、VI型、VII型およびVIII型が開示されている。また、特許文献2には多形体XLI型や、複数種類の溶媒和物を含めた結晶多形、並びに非晶質形態が記載されている。結晶多形が異なると、水溶解性等の物性が異なるため、医薬品における溶出性や吸収性が異なる。これらの中で、既存のアキシチニブ製剤は無水物のXLI型結晶多形を有効成分とし、フィルムコーティングされた医薬錠剤として提供されている。非特許文献1にはアキシチニブ(XLI型)、乳糖水和物、結晶セルロース、クロスカルメロースナトリウムの混合物を乾式造粒し、これにステアリン酸マグネシウムを加え打錠して得られる医薬錠剤であり、酸化チタンを含むコーティング剤(オパドライ(登録商標)レッド)を用いフィルムコーティングを施した医薬錠剤が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2008-518904号公報
【文献】特許第5869197号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】EUROPEAN MEDICINES AGENCY CHMP assessment report Inlyta
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
医薬錠剤において、有効成分の急速な溶出は副作用等の原因となるため、適切に制御管理されたものであることが望ましい。本発明者は、アキシチニブ原薬の結晶多形の違いにより溶解性が大きく異なること、異なる結晶多形原薬を用いて医薬錠剤を調製した場合に溶出性が大きく異なることを見出した。本発明の目的は、アキシチニブを有効成分とする医薬錠剤において、溶出を抑制できる錠剤を提供することである。特に、アキシチニブ原薬の結晶多形に関わらず、溶出性を抑制的に制御した医薬錠剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、アキシチニブを有効成分とする医薬錠剤において、ポリ酢酸ビニルを含有させることにより、溶出抑制効果を持たせることが可能となることを見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明は以下の[1]~[11]を要旨とする。
【0009】
[1] アキシチニブ、並びにポリ酢酸ビニルを含有する医薬錠剤。
アキシチニブの医薬錠剤として、ポリ酢酸ビニルを含有させることにより、アキシチニブの溶出性を抑制的に制御した医薬錠剤を得ることが可能となる。
[2] ポリ酢酸ビニルを、アキシチニブ1質量部に対して0.5~15質量部で含有する、[1]に記載の医薬錠剤。
[3] 水溶性高分子を含む、[1]又は[2]に記載の医薬錠剤。
[4] ポリ酢酸ビニルが、ポリ酢酸ビニル及び水溶性高分子を含む造粒物である、[1]~[3]の何れか一項に記載の医薬錠剤。
[5] 難水溶性賦形剤を含む、[1]~[4]の何れか一項に記載の医薬錠剤。
難水溶性賦形剤を適用することにより、溶出速度の調整が可能となり、所望の溶出性を有するアキシチニブの医薬錠剤を調製することができる。
[6] 前記難水溶性賦形剤を50~95質量%で含有する、[5]に記載の医薬錠剤。
[7] 崩壊剤を含む、[1]~[6]の何れか一項に記載の医薬錠剤。
崩壊剤を含有するアキシチニブの医薬錠剤であっても、溶出性を抑制的に制御した医薬錠剤を得ることが可能となる。
[8] アキシチニブ、ポリ酢酸ビニル及び難水溶性賦形剤を含有する造粒物を含む、[1]~[7]の何れか一項に記載の医薬錠剤。
[9] アキシチニブを0.1~10質量%で含有する、[1]~[8]の何れか一項に記載の医薬錠剤。
【0010】
[10] アキシチニブを有効成分とする医薬錠剤の製造方法であって、
(1)アキシチニブ、ポリ酢酸ビニルを、溶媒不存在下で混合して組成物を調製する工程、
(2)前記組成物を成型して医薬錠剤とする工程、
を含む医薬錠剤の製造方法。
[11] アキシチニブを有効成分とする医薬錠剤の製造方法であって、
(1)アキシチニブ、ポリ酢酸ビニルを、溶媒不存在下で混合して組成物を調製する工程、
(2)前記組成物を圧縮して造粒物を調製する工程、
(3)前記造粒物を成型して医薬錠剤とする工程、
を含む医薬錠剤の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
アキシチニブを有効成分とする医薬錠剤において、ポリ酢酸ビニルを適用することにより、アキシチニブの溶出性を抑制的に制御することができる。特にpH1.2等の酸性域での溶出性を抑制することができ、所望の溶出特性を有する医薬錠剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の詳細について、以下に説明する。
本発明の医薬錠剤は、有効成分としてアキシチニブを用いる。アキシチニブは、化学名をN-メチル-2-({3-[(1E)-2-(ピリジン-2-イル)エテン-1-イル]-1H-インダゾール-6-イル}スルファニル)ベンザミドとする化合物である。当該化合物は、特許第3878849号公報にて開示されており、それに記載の方法により合成することができる。
【0013】
アキシチニブとしては、アキシチニブ無水物、アキシチニブ水和物、有機溶媒和物又はその医薬的に許容な塩を用いても良い。例えば、無水物、水和物、エタノール溶媒和物、THF溶媒和物、イソプロパノール溶媒和物は、いずれも特許第5869197号公報にて公開されており、これに記載の方法により調製することができる。アキシチニブとしては、医薬品の有効成分として用いることができる品質レベルの化合物を用いることが望ましい。
本発明の前記錠剤において、アキシチニブとしてはアキシチニブ無水物を用いることが好ましい。
アキシチニブ無水物には、複数の結晶多形が存在する。代表的なものとしては、XLI型結晶多形及びIV型結晶多形が挙げられ、特許第5869197号公報及び特表2008-518904号公報において開示されている。
XLI型結晶多形は、粉末X線結晶回折(XRD)にて、2θ(°)が略6.0、11.5、11.9、12.5、12.9、14.9、15.6、16.2、16.5、17.9、19.9、20.7、21.0、21.6、22.4、22.8、23.1、24.2、24.5、25.0、25.3、25.6、25.9、26.4、26.9、27.7、28.0、28.1、28.5、29.9、30.9、31.5、32.9、33.2、34.8、35.0及び36.1のピークで特徴付けられる。
IV型結晶多形は、粉末X線結晶回折(XRD)にて、2θ(°)が略8.9、12.0、14.6、15.2、15.7、17.8、19.2、20.5、21.6、23.2、24.2、24.8、26.2及び27.5のピークで特徴付けられる。
本発明において、有効成分であるアキシチニブ無水物としては、医薬品原薬として用いられる品質であれば特に問題なく用いることができる。また、結晶多形においても特に限定されることなく適用することができる。好ましくはIV型結晶多形が適用される。
有効成分であるアキシチニブは、当該医薬錠剤総量に対し0.1質量%以上10質量%以下で使用されることが好ましい。好ましくは0.2質量%以上5質量%以下である。
【0014】
本発明は、ポリ酢酸ビニルを用いることを特徴とする。ポリ酢酸ビニルとしては、分子量300,000~600,000のものを用いることが好ましい。好ましくは分子量400,000~500,000である。
ポリ酢酸ビニルは、アキシチニブ1質量部に対して、0.5質量部以上15質量部以下で用いられることが好ましい。より好ましくは0.6質量部以上13質量部以下である。更により好ましくは0.7質量部以上11質量部以下である。
また、ポリ酢酸ビニルは、当該医薬錠剤総量に対し0.5質量%以上50質量%以下で使用されることが好ましい。好ましくは1質量%以上40質量%以下である。より好ましくは1.5質量%以上35質量%以下である。更により好ましくは2質量%以上30質量%以下である。
【0015】
本発明は、水溶性高分子を含むことが好ましい。水溶性高分子としては、ポビドン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルメロースナトリウム、メチルセルロース、部分アルファ化デンプン、ポリビニルアルコール等が挙げられ、これらの単独使用、若しくは2種以上を組み合せて用いることが好ましい。好ましくはポビドン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルメロースナトリウム、メチルセルロースである。より好ましくはポビドンである。
水溶性高分子を用いる場合は、当該医薬錠剤総量に対し0.1質量%以上15質量%以下で使用することが好ましい。好ましくは0.3質量%以上10質量%以下である。
【0016】
ポリ酢酸ビニルとしては、前記水溶性高分子との造粒物を用いることが好ましい。ポリ酢酸ビニル、前記水溶性高分子及び可溶化剤を含む造粒物を用いても良い。もしくは、ポリ酢酸ビニル、前記水溶性高分子、可溶化剤及び流動化剤を含む造粒物を用いても良い。
ポリ酢酸ビニル及び水溶性高分子を含有する前記造粒物は、これらの成分を混合して溶媒を用いずに乾式造粒した造粒物であってもよい。または、これらの成分を混合して溶媒を用いて湿式造粒した造粒物であってもよい。もしくは、噴霧乾燥して調製した造粒物であってもよい。
【0017】
ポリ酢酸ビニルを含む造粒物に用いられる可溶化剤としては、ラウリル硫酸ナトリウム、大豆レシチン、精製大豆レシチン、ソルビタン脂肪酸エステル、ダイズ油、ラウロマクロゴール等が挙げられ、これらの単独使用、若しくは2種以上を組み合せて用いることが好ましい。好ましくはラウリル硫酸ナトリウムである。
可溶化剤を用いる場合は、当該医薬錠剤総量に対し0.005質量%以上0.5質量%以下で使用することが好ましい。好ましくは0.01質量%以上0.4質量%以下である。
ポリ酢酸ビニルを含む造粒物に用いられる流動化剤としては、二酸化ケイ素、軽質無水ケイ酸、タルク等が挙げられ、これらの単独使用、若しくは2種以上を組み合せて用いることが好ましい。好ましくは二酸化ケイ素である。
流動化剤を用いる場合は、当該医薬錠剤総量に対し0.001質量%以上0.2量%以下で使用することが好ましい。好ましくは0.0025質量%以上0.15質量%以下である。
【0018】
ポリ酢酸ビニルとしては、ポリ酢酸ビニル、水溶性高分子を含む添加剤を、予め混合し、造粒して調製されたプレミックス型添加剤を用いることが好ましい。
好ましくは、ポリ酢酸ビニルとしては、ポリ酢酸ビニル、水溶性高分子、可溶化剤、流動化剤を含む添加剤を、予め混合し、造粒して調製されたプレミックス型添加剤を用いることである。
より好ましくは、ポリ酢酸ビニルとしては、ポリ酢酸ビニル、ポビドン、ラウリル硫酸ナトリウム、二酸化ケイ素を含む添加剤を、予め混合し、造粒して調製されたプレミックス型添加剤を用いることである。
ポリ酢酸ビニル、ポビドン、ラウリル硫酸ナトリウム、二酸化ケイ素からなる造粒物を用いる場合は、ポリ酢酸ビニル75~85質量%、ポビドン18~21質量%、ラウリル硫酸ナトリウム0.1~1質量%、二酸化ケイ素0.1~1質量%で使用することが好ましい。例えば、ポリ酢酸ビニル、ポビドン、ラウリル硫酸ナトリウム、二酸化ケイ素からなるプレミックス型添加剤(コリドン(登録商標)SR BASF)が知られており、入手可能である。コリドン(登録商標)SRは、ポリ酢酸ビニル(分子量約450,000);80.0質量%、ポビドン(分子量約50,000);19.0質量%、ラウリル硫酸ナトリウム;0.8質量%、二酸化ケイ素;0.2質量%を含有する平均粒子径80~100μm、かさ密度約0.45g/mLの粒状添加剤である。本発明において、コリドン(登録商標)SRを用いることが好ましい。
【0019】
本発明において、難水溶性賦形剤を用いることが好ましい。難水溶性賦形剤としては、結晶セルロース等のセルロース類、トウモロコシデンプン等のデンプン類、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、無水リン酸水素カルシウム等が挙げられ、これらの単独使用、若しくは2種以上を組み合せて用いることが好ましい。好ましくは結晶セルロース、トウモロコシデンプンであり、これらを1種以上含む賦形剤である。
難水溶性賦形剤を用いる場合は、当該医薬錠剤総量に対し40質量%以上95質量%以下で使用することが好ましい。好ましくは50質量%以上95質量%以下である。
【0020】
本発明における崩壊剤としては、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、クロスポビドン、カルメロース、カルメロースカルシウム、低置換度カルボキシメチルスターチナトリウム等が挙げられ、これらの単独使用、若しくは2種以上を組み合せて用いることが好ましい。好ましくはクロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、クロスポビドンである。より好ましくはクロスカルメロースナトリウムである。
崩壊剤を用いる場合は、当該医薬錠剤総量に対し0.1質量%以上7質量%以下で使用することが好ましい。好ましくは0.2質量%以上6質量%以下である。また、本発明の医薬錠剤は前記崩壊剤を含まなくとも良い。
【0021】
本発明の医薬錠剤は、医薬錠剤を調製する際に用いられる賦形剤、結合剤、滑沢剤、可溶化剤、流動化剤、着色剤等を含んでいても良い。
賦形剤としては、乳糖、マンニトール、マルトース、スクロース、ソルビトール、キシリトール、イノシトール等の糖類が挙げられ、これらの単独使用、若しくは2種以上を組み合せて用いることができる。好ましくは乳糖、マンニトールであり、これらを1種以上含んでいても良い。賦形剤として前記糖類を用いる場合は、当該医薬錠剤総量に対し5質量%以上60質量%以下で使用することが好ましい。好ましくは5質量%以上40質量%以下である。
結合剤としては、ポビドン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルメロースナトリウム、メチルセルロース、部分アルファ化デンプン、ポリビニルアルコール等が挙げられ、これらの単独使用、若しくは2種以上を組み合せて用いることができる。好ましくはポビドン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルメロースナトリウム、メチルセルロースである。より好ましくはポビドンである。結合剤を用いる場合は、当該医薬錠剤総量に対し0.1質量%以上15質量%以下で使用することが好ましい。好ましくは0.3質量%以上10質量%以下である。
【0022】
滑沢剤としては、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸アルミニウム、モノステアリン酸グリセリン、フマル酸ステアリルナトリウム、ステアリン酸カルシウム、タルク、カルナウバロウ等が挙げられ、これらの単独使用、若しくは2種以上を組み合せて用いることができる。好ましくはステアリン酸マグネシウムである。滑沢剤を用いる場合は、当該医薬錠剤総量に対し0.1質量%以上10質量%以下で使用することが好ましい。好ましくは0.2質量%以上5質量%以下である。
可溶化剤としては、ラウリル硫酸ナトリウム、大豆レシチン、精製大豆レシチン、ソルビタン脂肪酸エステル、ダイズ油、ラウロマクロゴール等が挙げられ、これらの単独使用、若しくは2種以上を組み合せて用いることができる。好ましくはラウリル硫酸ナトリウムである。可溶化剤を用いる場合は、当該医薬錠剤総量に対し0.1質量%以上15質量%以下で使用することが好ましい。好ましくは0.1質量%以上10質量%以下である。
流動化剤としては、二酸化ケイ素、軽質無水ケイ酸、タルク等が挙げられ、これらの単独使用、若しくは2種以上を組み合せて用いることができる。好ましくは二酸化ケイ素である。流動化剤を用いる場合は、当該医薬錠剤総量に対し0.1質量%以上15量%以下で使用することが好ましい。好ましくは0.1質量%以上10質量%以下である。
着色剤としては、酸化チタン、三二酸化鉄、タルク、黄酸化鉄、黄色三二酸化鉄、黒酸化鉄、酸化亜鉛、褐色酸化鉄、食用黄色素類、食用青色素類、食用赤色素類等が挙げられ、これらの単独使用、若しくは2種以上を組み合せて用いることができる。好ましくは酸化チタン、三二酸化鉄である。着色剤を用いる場合は、当該医薬錠剤総量に対し0.1質量%以上20質量%以下で使用することが好ましい。好ましくは0.2質量%以上10質量%以下である。
これらの任意の添加剤としては、医薬品製剤用途で許容される純度であれば特に制限されることなく用いることができる。これらの添加剤としては、1種のみを用いても良く、これらの混合物として用いても良い。
【0023】
当該医薬錠剤は、前述した製剤成分の混合物を成型して調製される。その成型方法としては、ロータリー打錠、単発打錠等が挙げられ、これらの方法により成型することで医薬錠剤が調製される。その製剤型は、裸錠、フィルムコーティング錠、分散錠、口腔内崩壊錠、チュアブル錠、発泡錠等の形態の何れの態様であっても良い。
【0024】
当該医薬錠剤は、コーティング剤及び任意の可塑剤、遮光剤・着色剤等を用い被覆することにより調製したフィルムコーティング錠であっても良い。
コーティング剤としては、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルアルコール・ポリエチレングリコール・グラフトコポリマー、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、エチルセルロース、アミノアルキルメタクリレートコポリマーE、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、アクリル酸エチル・メタクリル酸メチルコポリマー、ポリビニルアルコール・アクリル酸・メタクリル酸メチルコポリマー等が挙げられ、これらの単独使用、若しくは2種以上を組み合せて用いることができる。好ましくはヒドロキシプロピルメチルセルロースである。コーティング剤を用いる場合は、当該医薬錠剤総量に対し0.1質量%以上20質量%以下で使用することが好ましい。好ましくは0.2質量%以上10質量%以下である。
【0025】
可塑剤としては、トリアセチン、クエン酸トリエチル、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリソルベート、D-ソルビトール、流動パラフィン等が挙げられ、これらの単独使用、若しくは2種以上を組み合せて用いることができる。好ましくはトリアセチンである。可塑剤を用いる場合は、当該医薬錠剤総量に対し0.1質量%以上20質量%以下で使用することが好ましい。好ましくは0.2質量%以上10質量%以下である。
遮光剤・着色剤としては、酸化チタン、三二酸化鉄、タルク、黄酸化鉄、黄色三二酸化鉄、黒酸化鉄、酸化亜鉛、褐色酸化鉄、食用黄色素類、食用青色素類、食用赤色素類等が挙げられ、これらの単独使用、若しくは2種以上を組み合せて用いることができる。好ましくは酸化チタン、三二酸化鉄である。遮光剤・着色剤を用いる場合は、当該医薬錠剤総量に対し0.1質量%以上20質量%以下で使用することが好ましい。好ましくは0.2質量%以上10質量%以下である。
【0026】
フィルムコーティング錠は、コーティング剤及び任意の可塑剤、遮光剤・着色剤等を水性溶媒にて溶解又は懸濁させてコーティング剤水性溶液を調製し、スプレー等により錠剤表面に付着させ、熱風を送り錠剤表面から溶媒を除去乾燥させる製造方法により調製することができる。
該水性溶媒は、水を含む溶媒であって、水のみであっても、水と水混和性有機溶媒の混合溶媒であっても良い。水混和性有機溶媒としては、エタノール、アセトン等が挙げられる。
【0027】
本発明のアキシチニブの医薬錠剤は、アキシチニブ、ポリ酢酸ビニル及び難水溶性賦形剤を含有する造粒物を含む錠剤であっても良い。該造粒物は、乾式造粒法により調製される造粒物であることが好ましい。前記造粒物は、更に水溶性高分子を含んだものであっても良い。若しくは、ポリ酢酸ビニルが、ポリ酢酸ビニル、水溶性高分子、可溶化剤及び流動化剤を含み、予め調製された粒状添加剤であって、これとアキシチニブ及び難水溶性賦形剤を含有する造粒物を含む錠剤であっても良い。前記造粒物は、更に崩壊剤を含んだものであっても良い。前記造粒物に、前述した添加剤を混合し、成型することで当該医薬錠剤が調製される。
【0028】
本発明の医薬錠剤は、アキシチニブ及び前述した製剤添加剤成分を、溶媒不存在下で混合し、これを成型する直接打錠法で製造することができる。または、アキシチニブを含む造粒物を、乾式造粒法により調製し、これを成型する方法で製造することができる。
本発明の医薬錠剤を直接打錠法により製造する場合には、第一工程では、アキシチニブ、ポリ酢酸ビニル、並びに任意の他の添加剤を混合して組成物を調製する。混合方法としては、V型混合、W型混合、ドラム型混合、リボン混合、円錐スクリュー混合等が挙げられ、嵩減り度が小さくなった時点で混合を終了する。
第二工程では、前記組成物を成型して医薬錠剤とする。すなわち、前記組成物に、任意の他の添加剤を混合し、これを成型して医薬錠剤とする。
当該医薬錠剤の成型方法としては、ロータリー打錠、単発打錠等が挙げられ、これらの方法により成型することで医薬錠剤が調製される。その製剤型は、裸錠、フィルムコーティング錠、分散錠、口腔内崩壊錠、チュアブル錠、発泡錠等の形態の何れの態様であっても良い。
【0029】
本発明の医薬錠剤を乾式造粒法により製造する場合には、第一工程では、アキシチニブ、ポリ酢酸ビニル、並びに任意の他の添加剤を混合して組成物を調製する。混合方法としては、V型混合、W型混合、ドラム型混合、リボン混合、円錐スクリュー混合等が挙げられ、嵩減り度が小さくなった時点で混合を終了する。
第二工程では、前記組成物を圧縮し、造粒物を調製する。造粒物を調製する方法は、前記組成物を圧縮して造粒した後、整粒し、その後、必要であれば適度にふるい分けして造粒物を得る操作である。
第三工程では、前記造粒物を成型して医薬錠剤とする。すなわち、前記組成物に、任意の他の添加剤を混合し、これを成型して医薬錠剤とする。
当該医薬錠剤の成型方法としては、ロータリー打錠、単発打錠等が挙げられ、これらの方法により成型することで医薬錠剤が調製される。その製剤型は、裸錠、フィルムコーティング錠、分散錠、口腔内崩壊錠、チュアブル錠、発泡錠等の形態の何れの態様であっても良い。
【0030】
直接打錠法又は乾式造粒法により調製された医薬錠剤は、コーティング剤及び任意の可塑剤、遮光剤・着色剤等を用い被覆することにより調製したフィルムコーティング錠であっても良い。フィルムコーティングするための各種添加剤の種類及び好適な含有量は、前述の通りである。
【0031】
本発明により得られるアキシチニブを有効成分とする医薬錠剤は、アキシチニブの溶出性を抑制的に制御することができる。特に、pH1.2における初期の溶出性を制御することができることを特徴とするものであり、アキシチニブの適切な薬物動態をもたらす医薬錠剤を提供することができる。
本発明の医薬錠剤の溶出性は、通常の溶出試験法により確認することができる。その溶出試験法を例示すると、溶出試験におけるpH1.2の水性溶液は、日本薬局方に記載されている方法で調製することができる。そして、前記の試験液900mLを用い、日本薬局方溶出試験第2法(パドル法)により、本発明の医薬錠剤から有効成分を試験液中へ溶出させ、紫外可視吸光度計もしくは液体クロマトグラフィーを用いて試験液への溶出率を評価することで、本発明の特徴である優れた溶出抑制効果を確認することができる。
【実施例
【0032】
以下、本発明を実施例により更に説明する。ただし、本発明がこれらの実施例に限定されるものではない。
【0033】
[実施例1]
1錠当たりの含量として、アキシチニブ(IV型)5mg、コリドン(商標登録)SR(ポリ酢酸ビニル;80.0質量%、ポビドン;19.0質量%、ラウリル硫酸ナトリウム;0.8質量%、二酸化ケイ素;0.2質量%を含有する粒状添加剤 BASF)42.3mg、結晶セルロース126.7mgの比率となるように混合した。この混合物174mgに対して、ステアリン酸マグネシウム1.8mgの比率になるように混合し打錠することで、実施例1に係る錠剤を調製した。
【0034】
[実施例2]
1錠当たりの含量として、アキシチニブ(IV型)5mg、コリドン(商標登録)SR (BASF)10.6mg、結晶セルロース158.4mgの比率となるように混合した。この混合物174mgに対して、ステアリン酸マグネシウム1.8mgの比率になるように混合し打錠することで、実施例2に係る錠剤を調製した。
【0035】
[実施例3]
1錠当たりの含量として、アキシチニブ(IV型)5mg、コリドン(商標登録)SR (BASF)5.3mg、結晶セルロース163.7mgの比率となるように混合した。この混合物174mgに対して、ステアリン酸マグネシウム1.8mgの比率になるように混合し打錠することで、実施例3に係る錠剤を調製した。
【0036】
[実施例4]
1錠当たりの含量として、アキシチニブ(IV型)5mg、コリドン(商標登録)SR (BASF)42.3mg、結晶セルロース125.0mg、クロスカルメロースナトリウム1.7mgの比率となるように混合した。この混合物174mgに対して、ステアリン酸マグネシウム1.8mgの比率になるように混合し打錠することで、実施例4に係る錠剤を調製した。
【0037】
[実施例5]
1錠当たりの含量として、アキシチニブ(IV型)5mg、コリドン(商標登録)SR (BASF)21.1mg、結晶セルロース147.9mgの比率となるように混合し、乾式造粒し、得られた造粒物を整粒した。この乾式造粒物174mgに対して、ステアリン酸マグネシウム1.8mgの比率になるように混合し打錠することで、実施例5に係る錠剤を調製した。
【0038】
[実施例6]
1錠当たりの含量として、アキシチニブ(IV型)5mg、コリドン(商標登録)SR (BASF)5.3mg、結晶セルロース163.7mgの比率となるように混合し、乾式造粒し、得られた造粒物を整粒した。この乾式造粒物174mgに対して、ステアリン酸マグネシウム1.8mgの比率になるように混合し打錠することで、実施例6に係る錠剤を調製した。
【0039】
[実施例7]
1錠当たりの含量として、アキシチニブ(IV型)5mg、コリドン(商標登録)SR (BASF)63.4mg、結晶セルロース100.4mg、クロスカルメロースナトリウム5.2mgの比率となるように混合し、乾式造粒し、得られた造粒物を整粒した。この乾式造粒物174mgに対して、ステアリン酸マグネシウム1.8mgの比率になるように混合し打錠することで、実施例7に係る錠剤を調製した。
【0040】
[実施例8]
1錠当たりの含量として、アキシチニブ(IV型)5mg、コリドン(商標登録)SR (BASF)42.3mg、結晶セルロース125.8mg、クロスカルメロースナトリウム0.9mgの比率となるように混合し、乾式造粒し、得られた造粒物を整粒した。この乾式造粒物174mgに対して、ステアリン酸マグネシウム1.8mgの比率になるように混合し打錠することで、実施例8に係る錠剤を調製した。
【0041】
[実施例9]
1錠当たりの含量として、アキシチニブ(IV型)5mg、コリドン(商標登録)SR (BASF)63.4mg、結晶セルロース96.9mgの比率となるように混合し、乾式造粒し、得られた造粒物を整粒した。この乾式造粒物165.3mgに対して、クロスカルメロースナトリウム8.7mgの比率になるように混合した。この混合物174mgに対して、ステアリン酸マグネシウム1.8mgの比率になるように混合し打錠することで、実施例9に係る錠剤を調製した。
【0042】
[実施例10]
1錠当たりの含量として、アキシチニブ(IV型)5mg、コリドン(商標登録)SR (BASF)63.4mg、結晶セルロース100.4mgの比率となるように混合し、乾式造粒し、得られた造粒物を整粒した。この乾式造粒物168.8mgに対して、クロスカルメロースナトリウム5.2mgの比率になるように混合した。この混合物174mgに対して、ステアリン酸マグネシウム1.8mgの比率になるように混合し打錠することで、実施例10に係る錠剤を調製した。
【0043】
[実施例11]
1錠当たりの含量として、アキシチニブ(IV型)5mg、コリドン(商標登録)SR (BASF)42.3mg、結晶セルロース125.8mgの比率となるように混合し、乾式造粒し、得られた造粒物を整粒した。この乾式造粒物173.1mgに対して、クロスカルメロースナトリウム0.9mgの比率になるように混合した。この混合物174mgに対して、ステアリン酸マグネシウム1.8mgの比率になるように混合し打錠することで、実施例11に係る錠剤を調製した。
【0044】
[比較例1]
1錠当たりの含量として、アキシチニブ(IV型)5mg、乳糖水和物83mg、結晶セルロース83mg、クロスカルメロースナトリウム9.1mgの比率となるように混合し、乾式造粒し、得られた造粒物を整粒した。この乾式造粒物180.1mgに対して、ステアリン酸マグネシウム1.8mgの比率になるように混合し打錠することで、比較例1に係る錠剤を調製した。
【0045】
[試験例1]
実施例1~11、並びに比較例1の錠剤、及び既存のアキシチニブ製剤であるインライタ(登録商標)錠と、日本薬局方に記載されている方法で調製したpH1.2の試験液を用い、日本薬局方溶出試験第2法(パドル法)により溶出率を評価した。
溶出試験器(NTR-6600A、富山産業株式会社製)及び紫外可視分光度計(UV-1900、島津製作所製)を用い、試験液量を900mL、試験液温を37±0.5℃、パドル回転数を50rpmとして溶出率を評価した。
類似判定には試験開始15分時点の溶出率を用い、インライタ(登録商標)錠の溶出率±15%以内で類似と判定した。
各錠剤試料のアキシチニブ溶出率を表1にまとめた。
【0046】
【表1】
【0047】
本発明の医薬錠剤は、溶出初期5分で溶出率75%以下であり、10分で90%以下であり、15分で90%以下であり、アキシチニブの溶出性を抑制的に制御することができた。また、本発明の医薬錠剤は、試験開始15分時点においてインライタ(登録商標)錠と類似判定を示した。一方、比較例1は、初期溶出を抑制的に制御することができず、5分で90%以上、10分で95%以上の溶出性を示すものであった。すなわち、本発明によって、特に初期の溶出性を抑制的に制御したアキシチニブ錠剤を提供することができ、既存製剤であるインライタ(登録商標)錠と異なる結晶多形原薬を用いた場合であっても、既存製剤と類似の溶出挙動を示す医薬錠剤を提供することが可能である。