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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-30
(45)【発行日】2025-02-07
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 51/04 20060101AFI20250131BHJP
   C08K 5/00 20060101ALI20250131BHJP
   C08F 279/04 20060101ALI20250131BHJP
   C08J 3/12 20060101ALI20250131BHJP
   C08J 3/215 20060101ALI20250131BHJP
【FI】
C08L51/04
C08K5/00
C08F279/04
C08J3/12 Z CET
C08J3/12 Z CEQ
C08J3/215
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021054725
(22)【出願日】2021-03-29
(65)【公開番号】P2022152087
(43)【公開日】2022-10-12
【審査請求日】2023-12-04
(73)【特許権者】
【識別番号】399034220
【氏名又は名称】日本エイアンドエル株式会社
(72)【発明者】
【氏名】成瀬 太智
【審査官】横山 法緒
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-188293(JP,A)
【文献】特開2001-011138(JP,A)
【文献】特開2002-128984(JP,A)
【文献】特開2020-139054(JP,A)
【文献】特開平09-316279(JP,A)
【文献】特開2019-167475(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
C08F 251-00-283/00
C08J 3/00-3/28;99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記条件(1)~(2)を満足する、ゴム強化スチレン系樹脂パウダーを含む熱可塑性樹脂組成物。
(1)ゴム強化スチレン系樹脂パウダーは、ゴム強化スチレン系樹脂成分100質量部に対して滑剤を0.2質量部以上含有する。
(2)熱可塑性樹脂組成物のメルトボリュームレイト(220℃、10kg)が、20(cm/10分)以上である。
【請求項2】
さらに、下記条件(3)を満足することを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
(3)下記式(i)を満足する。
5≦X/Y≦250・・・式(i)
X:熱可塑性樹脂組成物のメルトボリュームレイト(220℃、10kg)
Y:ゴム強化スチレン系樹脂パウダーの滑剤含有量
【請求項3】
ゴム強化スチレン系樹脂ラテックス100質量部(固形分換算)に対してエマルジョン状態の滑剤0.2質量部以上(固形分換算)を混合した後、パウダー化されたゴム強化スチレン系樹脂パウダーを含む配合物を、溶融混練して得られる、メルトボリュームレイト(220℃、10kg)が、20(cm/10分)以上である熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項4】
さらに、下記式(i)を満足することを特徴とする請求項3に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
5≦X/Y≦250・・・式(i)
X:熱可塑性樹脂組成物のメルトボリュームレイト(220℃、10kg)
Y:ゴム強化スチレン系樹脂パウダーの滑剤含有量

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐衝撃性、流動性、耐熱性及び表面外観のバランスに優れる熱可塑性樹脂組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ABS樹脂を代表とするゴム強化スチレン系樹脂は、耐衝撃性、成形加工性ならびに表面外観に優れ、車両部品、電気製品など種々の分野にて利用されている。ゴム強化スチレン系樹脂は、ゴム質重合体にスチレン系単量体がグラフト重合したグラフト重合体が分散しており、その分散状態が、耐衝撃性や表面外観に影響を与えることが知られている。そして、生産性、経済性及びゴム強化スチレン系樹脂を配合した最終組成物の成分設計自由度の向上のため、グラフト重合体中のゴム質重合体の割合を高くする傾向である。しかし、グラフト重合体中のゴム質重合体の割合を高くすると、他の樹脂と溶融混練した際、ゴム質重合体の分散性が低下し、耐衝撃性や表面外観が低下してしまう。そこで、特許文献1には、グラフト重合体(A)と重合体(B)からなる熱可塑性樹脂組成物で、グラフト重合体(A)の溶融粘度a(Pa・s)、重合体(B)の溶融粘度b(Pa・s)、及びグラフト重合体(A)中のゴム質重合体の含有割合x(重量%)を用い、(式1)a/(b・x)≦0.7を満たすことで改善されることが提案されている。しかし、グラフト重合体(A)中のゴム質重合体の含有割合xを増やすと、必然的にグラフト重合体(A)の溶融粘度aが上昇し、(式1)を満たすためには重合体(B)の溶融粘度bを高くする必要がある。そうすると、グラフト重合体(A)と重合体(B)からなる熱可塑性樹脂組成物の流動性が低下してしまう。よって、グラフト重合体中のゴム質重合体の割合を増やすと、ゴム質重合体の分散性と、熱可塑性樹脂組成物の流動性とがトレードオフの関係になり、これらを兼ね備える材料としては、未だ満足できるものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平10-273578号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、耐衝撃性、流動性、耐熱性及び表面外観のバランスに優れる熱可塑性樹脂組成物及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは鋭意検討した結果、メルトボリュームレイト(220℃、10kg)が、20(cm/10分)以上であるゴム強化スチレン系樹脂パウダーを含む熱可塑性樹脂組成物に関して、ゴム強化スチレン系樹脂パウダーに特定量の滑剤を含有させることで、上記課題を解消できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明は以下の[1]~[4]で構成される。
[1]下記条件(1)~(2)を満足する、ゴム強化スチレン系樹脂パウダーを含む熱可塑性樹脂組成物。
(1)ゴム強化スチレン系樹脂パウダーは、ゴム強化スチレン系樹脂成分100質量部に対して滑剤を0.2質量部以上含有する。
(2)熱可塑性樹脂組成物のメルトボリュームレイト(220℃、10kg)が、20(cm/10分)以上である。
[2]さらに、下記条件(3)を満足することを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
(3)下記式(i)を満足する。
5≦X/Y≦250・・・式(i)
X:熱可塑性樹脂組成物のメルトボリュームレイト(220℃、10kg)
Y:ゴム強化スチレン系樹脂パウダーの滑剤含有量
[3]ゴム強化スチレン系樹脂ラテックス100質量部(固形分換算)に対してエマルジョン状態の滑剤0.2質量部以上(固形分換算)を混合した後、パウダー化されたゴム強化スチレン系樹脂パウダーを含む配合物を、溶融混練して得られる、メルトボリュームレイト(220℃、10kg)が、20(cm/10分)以上である熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
[4]さらに、下記式(i)を満足することを特徴とする請求項3に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
5≦X/Y≦250・・・式(i)
X:熱可塑性樹脂組成物のメルトボリュームレイト(220℃、10kg)
Y:ゴム強化スチレン系樹脂パウダーの滑剤含有量
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、耐衝撃性、流動性、耐熱性及び表面外観のバランスに優れる熱可塑性樹脂組成物及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明につき詳細に説明する。
【0009】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、ゴム強化スチレン系樹脂パウダーを含有するものである。
【0010】
本発明のゴム強化スチレン系樹脂パウダーは、乳化重合法で得られるスチレン系単量体成分を必須としたグラフト共重合体(A)のラテックス、又は、グラフト共重合体(A)のラテックスと乳化重合法で得られるビニル系単量体成分を含む重合体(B)とのラテックス混合物、を含むゴム強化スチレン系樹脂ラテックスをパウダー化することで得られる。
【0011】
グラフト共重合体(A)は、ゴム質重合体と、スチレン系単量体を含む単量体とがグラフト重合して得られるものである。
【0012】
グラフト共重合体(A)を構成するゴム質重合体として特に制限はなく、ポリブタジエンゴム、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)等の共役ジエン系ゴム;エチレン-プロピレンゴム、エチレン-プロピレン-非共役ジエン(エチリデンノルボルネン、ジシクロペンタジエン等)ゴム等のエチレン-プロピレン系ゴム;ポリブチルアクリレートゴム等のアクリル系ゴム;シリコーン系ゴムなどが挙げられ、1種又は2種以上用いることができ、さらに、これらを組み合わせた多層構造を有するゴム質重合体として用いることもできる。中でも、共役ジエン系ゴムを含むことが耐衝撃性の観点から好ましい。
【0013】
また、ゴム質重合体の質量平均粒子径に特に制限はないが、50~1000nmが好ましく、200~800nmがより好ましく、300~500nmがさらに好ましい。上記範囲に調整することで、機械的強度と表面外観のバランスに優れる傾向にある。
【0014】
グラフト共重合体(A)のゴム質重合体にグラフト重合可能な単量体としては、スチレン、α-メチルスチレンなどのスチレン系単量体を必須とし、さらにシアン化ビニル系単量体、(メタ)アクリル酸エステル系単量体、マレイミド系単量体、アミド系単量体、不飽和カルボン酸系単量体、多官能性単量体等が挙げられ1種または2種以上用いることができる。
【0015】
シアン化ビニル系単量体としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリル、フマロニトリル等が挙げられる。
【0016】
(メタ)アクリル酸エステル系単量体としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸4-t-ブチルフェニル、(メタ)アクリル酸(ジ)ブロモフェニル、(メタ)アクリル酸クロルフェニル等が挙げられる。
【0017】
マレイミド系単量体としては、N-フェニルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド等が挙げられる。
【0018】
アミド系単量体としては、アクリルアミド、メタクリルアミド等が挙げられる。
【0019】
不飽和カルボン酸系単量体としては、(メタ)アクリル酸、エタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、クロトン酸等が挙げられる。
【0020】
多官能性単量体としては、ジビニルベンゼン、アリル( メタ) アクリレート、エチレングリコールジ( メタ)アクリレート、ジアリルフタレート、ジシクロペンタジエンジ( メタ) アクリレート、トリメチロールプロパントリ( メタ) アクリレート、ペンタエリスリトールヘキサ( メタ)アクリレート、1 , 4 - ブタンジオールジ( メタ) アクリレート、1 , 6 - ヘキサンジオールジ( メタ) アクリレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート等が挙げられる。
【0021】
グラフト共重合体(A)中のゴム質重合体の含有割合については特に制限はなく、20~80質量%が好ましく、40~70質量%がより好ましい。上記範囲に調整することで、機械的強度と表面外観のバランスに優れる傾向にある。
【0022】
グラフト共重合体(A)のグラフト率及びアセトン可溶分の還元粘度に特に制限はないが、グラフト率は20~150%であることが好ましく、30~100%がより好ましく、36~75%がさらに好ましい。アセトン可溶分の還元粘度は、0.2~1.5dl/gであることが好ましく、0.3~1.0dl/gであることがより好ましい。上記範囲に調整することで、機械的強度と流動性のバランスに優れる傾向にある。
【0023】
上記グラフト率及びアセトン可溶分の還元粘度は、下記により求めることができる。
【0024】
分別方法
三角フラスコにグラフト共重合体(A)を約2g、アセトンを60ml投入し、24時間浸漬させた。その後、遠心分離器を用いて15,000rpmで30分間、遠心分離することで可溶部と不溶部に分離する。不溶分は、真空乾燥により常温で一昼夜乾燥させることで得られる。可溶分は、アセトン可溶部をメタノールに沈殿させ、真空乾燥により常温で一昼夜乾燥させることで得られる。
グラフト率
グラフト率(%)=(X―Y)/Y×100
X:真空乾燥後のアセトン不溶分量(g)
Y:グラフト共重合体(A)中のゴム質重合体量(g)
アセトン可溶分の還元粘度(dl/g)
アセトン可溶分をN,N-ジメチルホルムアミドに溶解し、0.4g/100mlの濃度の溶液とした後、キャノンフェンスケ型粘度管を用い30℃で測定した流下時間より還元粘度を求める。
【0025】
重合体(B)は、ビニル系単量体を含む単量体が重合した重合体である。
【0026】
ビニル系単量体としては、スチレン系単量体、シアン化ビニル系単量体、(メタ)アクリル酸エステル系単量体、マレイミド系単量体、アミド系単量体、不飽和カルボン酸系単量体、多官能性単量体等が挙げられ1種または2種以上用いることができる。各単量体としては、上述したものを用いることができる。
【0027】
重合体(B)の還元粘度に特に制限はないが、0.2~1.5dl/gであることが好ましく、0.3~1.0dl/gであることがより好ましい。上記範囲に調整することで、機械的強度と流動性のバランスに優れる傾向にある。
【0028】
上記還元粘度は、下記式により求めることができる。
【0029】
重合体(B)を、N,N-ジメチルホルムアミドに溶解し、0.4g/100mlの濃度の溶液とした後、キャノンフェンスケ型粘度管を用い30℃で測定した流下時間より還元粘度を求める。
【0030】
上記、ゴム質重合体、グラフト共重合体(A)及び重合体(B)は、公知の乳化重合法によって得ることができる。
【0031】
乳化重合法に用いる乳化剤としては、例えば、オレイン酸カリウム、アルケニルコハク酸ジカリウム、ロジン酸ナトリウムなどの脂肪族カルボン酸塩;ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどのアルキルベンゼンスルホン酸塩;ラウリル硫酸ナトリウムなどの脂肪族スルホン酸塩;アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩;高級アルコールの硫酸エステル塩;ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物;非イオン性界面活性剤の硫酸エステル塩等のアニオン性界面活性剤;ポリエチレングリコールのアルキルエステル型、アルキルフェニルエーテル型、アルキルエーテル型等のノニオン性界面活性剤などが挙げられ1種または2種以上用いることができる。
【0032】
乳化重合法に用いる開始剤としては、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウムなどの過硫酸塩、レドックス型の開始剤として亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート、アスコルビン酸、硫酸第一鉄等を還元剤とし、ペルオキソ二硫酸カリウム、過酸化水素、過酸化ベンゾイル、クメンハイドロパーオキサイド、tert‐ブチルハイドロパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、1,1,3,3-テトラメチルブチルハイドロパーオキサイドなどを酸化剤としたものが挙げられる。
【0033】
本発明のゴム強化スチレン系樹脂パウダーのゴム質重合体の含有量は、40質量% 以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましく、60質量% 以上であることがさらに好ましい。上記範囲に調整することで、ゴム強化スチレン系樹脂パウダーを配合した最終組成物の成分設計自由度を向上させることができる。
【0034】
ゴム強化スチレン系樹脂パウダーのゴム質重合体の含有量は、グラフト共重合体(A)を構成するゴム質重合体の含有量や、グラフト共重合体(A)と重合体(B)をラテックス状態で混合することで調整可能である。
【0035】
本発明のゴム強化スチレン系樹脂パウダーは、グラフト共重合体(A)のラテックス、又は、グラフト共重合体(A)のラテックスと重合体(B)のラテックスとのラテックス混合物、を含むゴム強化スチレン系樹脂ラテックスをパウダー化することで得られる。
【0036】
パウダー化する方法としては、例えば、スプレードライ法や凝固剤を添加しスラリー状に凝析する湿式法などが挙げられる。
【0037】
湿式法に用いる凝固剤としては、塩酸、リン酸、硫酸、硝酸などの無機酸、蟻酸、酢酸などの有機酸、硫酸マグネシウム、塩化カルシウム、硫酸アルミニウムなどの無機酸金属塩などが挙げられる。これらは1種または2種以上用いることができる。
【0038】
凝固後、水洗、脱水、乾燥させることでゴム強化スチレン系樹脂パウダーを得ることができる。
【0039】
本発明のゴム強化スチレン系樹脂パウダーは、滑剤をゴム強化スチレン系樹脂成分(グラフト共重合体(A)、又は、グラフト共重合体(A)と重合体(B))100質量部に対して0.2質量部以上含有するものであり、0.3質量部以上含有することが好ましい。滑剤を上記範囲に調整することで表面外観に優れる傾向にある。
滑剤の含有量とは、ゴム強化スチレン系樹脂をパウダー化する前までに添加された量であり、例えば、溶融混練時に添加された滑剤は、含まれない。
【0040】
滑剤としては、例えば、低分子量ワックス、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス、塩素化炭化水素、フルオロカーボンなどの炭化水素系滑剤や、カルナバワックス、キャンデリワックスなどの天然ワックス系滑剤や、ラウリン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸などの高級脂肪酸、又はヒドロキシステアリン酸のようなオキシ脂肪酸等の脂肪酸系滑剤や、ステアリルアミド、ラウリルアミド、オレイルアミドなどの脂肪族アミド化合物又はメチレンビスステアリルアミド、エチレンビスステアリン酸アミドのようなアルキレンビス脂肪族アミド化合物等の脂肪族アミド系滑剤や、ステアリルステアレート、ブチルステアレート、ジステアリルフタレートなどの脂肪酸と1価アルコールとのエステル化合物や、グリセリントリステアレート、ソルビタントリステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート、ジペンタエリスリトールヘキサステアレート、ポリグリセリンポリリシノレート、硬化ヒマシ油などの脂肪酸と多価アルコールとのエステル化合物や、ジペンタエリスリトールのアジピン酸・ステアリン酸エステルなどの1価脂肪酸及び多塩基性有機酸と多価アルコールの複合エステル化合物等の脂肪酸アルコールエステル系滑剤や、ステアリルアルコール、ラウリルアルコール、パルミチルアルコール等の脂肪族アルコール系滑剤や、脂肪族アルコールとアルカリ土類金属、チタン、ジルコニウム、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、アルミニウム等の金属との金属石鹸や、部分ケン化モンタン酸エステルなどのモンタン酸系滑剤や、アクリル系滑剤や、シリコーンオイル等が挙げられ、1種又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0041】
滑剤は、エマルジョン状態でゴム強化スチレン系樹脂パウダーを製造する際に添加することが滑剤をパウダーへ均一に分散できる観点から好ましい。
【0042】
エマルジョン状態の滑剤を添加するタイミングに特に制限なく、(1)パウダー化させる前のゴム強化スチレン系樹脂ラテックスに混合させる、(2)ゴム強化スチレン系樹脂ラテックスを凝固させたスラリーに添加する方法等が挙げられる。中でも、(1)の方法が表面外観の観点から好ましい。
【0043】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、ゴム強化スチレン系樹脂パウダーの他に、例えば、ポリメチルメタクリレートなどのアクリル系樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂;ポリカーボネート樹脂;ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリ乳酸樹脂等のポリエステル系樹脂;ポリアミド樹脂;ポリイミド系樹脂等のその他樹脂を、1種又は2種以上組み合わせて含んでもよい。
【0044】
さらに、本発明の効果を損なわない範囲で、ヒンダードアミン系の光安定剤;ヒンダードフェノール系、含硫黄有機化合物系、含リン有機化合物系等の酸化防止剤;フェノール系、アクリレート系等の熱安定剤;ベンゾエート系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、サリシレート系等の紫外線吸収剤;有機ニッケル系、高級脂肪酸アミド類等の滑剤;リン酸エステル類等の可塑剤;ポリブロモフェニルエーテル、テトラブロモビスフェノール-A、臭素化エポキシオリゴマー、臭素化等の含ハロゲン系化合物、リン系化合物、三酸化アンチモン等の難燃剤・難燃助剤;臭気マスキング剤;カーボンブラック、酸化チタン等の顔料;染料等を添加することもできる。さらに、タルク、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、ガラス繊維、ガラスフレーク、ガラスビーズ、ガラスウール、炭素繊維、金属繊維等の補強剤や充填剤を添加することもできる。
【0045】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、メルトボリュームレイト(220℃、10kg)が20(cm/10分)以上であることが必要であり、35(cm/10分)以上であることが好ましく、45(cm/10分)以上であることがより好ましい。また、80(cm/10分)以下であることが好ましく、70(cm/10分)以下であることがより好ましい。上記範囲に調整することで、耐衝撃性、流動性、及び耐熱性のバランスに優れる傾向にある。
【0046】
さらに、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、下記式(i)を満足することが好ましい。
5≦X/Y≦250・・・式(i)
X:熱可塑性樹脂組成物のメルトボリュームレイト(220℃、10kg)
Y:上述のゴム強化スチレン系樹脂パウダーの滑剤含有量
下限値としては、10以上がより好ましく、50以上がさらに好ましい。上限値としては、200以下がより好ましく、150以下がさらに好ましく、130以下がもっとも好ましい。上記範囲に調整することで耐衝撃性、流動性、耐熱性及び表面外観のバランスに優れる傾向にある。
X/Yは、熱可塑性樹脂組成物のメルトボリュームレイトとゴム強化スチレン系樹脂パウダーの滑剤含有量が相関関係にあることを示し、例えば、熱可塑性樹脂組成物のメルトボリュームレイトを高く設計する場合、ゴム強化スチレン系樹脂パウダーに滑剤を多く含まなければならない。
【0047】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、上述の成分を溶融混練することで得ることができる。溶融混練するためには、例えばロール、バンバリーミキサー、単軸押出機、多軸押出機、ニーダー等公知の混練機を用いることができる。
【実施例
【0048】
以下に実施例及び比較例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらによって何ら制限されるものではない。なお、実施例及び比較例中にて示す部および%は質量に基づくものである。
また、各実施例、比較例での各種物性の測定は次の方法による。
【0049】
[耐衝撃性]
各実施例および比較例で得られたペレットを用い、ISO試験方法294に準拠して各種試験片を成形し、ISO試験方法179に準拠し、4mm厚みで、ノッチ付きシャルピー衝撃値(NC)を測定した。単位:kJ/m2
【0050】
[流動性]
メルトボリュームフローレイト(MVR)
各実施例および比較例で得られたペレットを用い、ISO試験方法1133に準拠して、220℃、10kg荷重の条件でメルトボリュームフローレイトを測定した。単位:cm/10分
【0051】
[耐熱性]
各実施例および比較例で得られたペレットを用い、ISO試験方法294に準拠して各種試験片を成形し、ISO試験方法75に準拠し、荷重1.8MPaの荷重たわみ温度(HDT)を測定した。単位:℃
【0052】
[表面外観評価]
各実施例及び比較例で得られたペレットを40g使用し、230℃の加熱プレスにて厚み0.1mm以下のフィルム試験片を作成した。
得られた試験片の任意の場所に、直径9mmの円を3つ書き、それぞれの円内にある直径50μm以上のブツ個数を光学顕微鏡にて数え、平均値を算出した。その後、直径10cmの円に相当するブツ個数に換算し、下記基準で表面外観を判定した。

〇:50μm以上のブツ個数が550個未満。
△:50μm以上のブツ個数が550個以上800個未満。
×:50μm以上のブツ個数が800個以上。
【0053】
<グラフト共重合体ラテックスの製造>
ガラスリアクターに、凝集肥大化スチレン-ブタジエンゴムラテックス(スチレン5質量%、ブタジエン95質量%、質量平均粒子径440nm)を固形分換算で65質量部仕込み、撹拌を開始させ、窒素置換を行った。窒素置換後、槽内を昇温し65℃に到達したところで、ブドウ糖0.06質量部、無水ピロリン酸ナトリウム0.03質量部及び硫酸第1鉄0.001質量部を脱イオン水10質量部に溶解した水溶液を添加した後に、70℃に昇温した。その後、アクリロニトリル10質量部、スチレン25質量部、ターシャリードデシルメルカプタン0.3部、t-ブチルハイドロパーオキサイド0.1質量部の混合液及びオレイン酸カリウム1.0質量部(固形分換算)を脱イオン水20質量部に溶解した乳化剤水溶液を4時間かけて連続的に滴下した。滴下後、3時間保持してグラフト共重合体ラテックスを得た。
得られたグラフト共重合体ラテックスのグラフト率は42%、アセトン可溶部の還元粘度は0.28dl/gであった。
また、上記凝集肥大化スチレン-ブタジエンゴムラテックスの質量平均粒子径は下記のように求めた。
四酸化オスミウム(OsO4)で染色し、乾燥後に透過型電子顕微鏡で写真撮影した。画像解析処理装置(装置名:旭化成(株)製IP-1000PC)を用いて800個のゴム粒子の面積を計測し、その円相当径(直径)を求め、質量平均粒子径を算出した。
<ゴム強化スチレン系樹脂パウダー(A-1)の製造>
滑剤として、エチレンビスステアリン酸アミドのエマルジョンを使用した。
(工程1)
上記グラフト共重合体ラテックス100質量部(固形分換算)にエチレンビスステアリン酸アミドのエマルジョン(固形分換算)を0.39質量部添加し、混合した。
(工程2)
撹拌槽に最終スラリー濃度が25%になるように脱イオン水を仕込み、さらに硫酸マグネシウムを5質量部添加し、撹拌を開始し、槽内温度を75℃まで昇温した。
(工程3)
槽内温度が75℃に到達した後、(工程1)で得られた混合物を全量添加した。
(工程4)
その後、得られた凝析スラリーを脱水、乾燥することで、ゴム強化スチレン系樹脂パウダー(A-1)を得た。
【0054】
<ゴム強化スチレン系樹脂パウダー(A-2)の製造>
ゴム強化スチレン系樹脂パウダー(A-1)の製造において、(工程1)のエチレンビスステアリン酸アミドのエマルジョン(固形分換算)の添加量を0.39質量部から0.48質量部に変更した以外は同様の方法で製造した。
<ゴム強化スチレン系樹脂パウダー(A-3)の製造>
ゴム強化スチレン系樹脂パウダー(A-1)の製造において、(工程1)のエチレンビスステアリン酸アミドのエマルジョン(固形分換算)の添加量を0.39質量部から0.67質量部に変更した以外は同様の方法で製造した。
<ゴム強化スチレン系樹脂パウダー(A-4)の製造>
ゴム強化スチレン系樹脂パウダー(A-1)の製造において、(工程1)のエチレンビスステアリン酸アミドのエマルジョン(固形分換算)の添加量を0.39質量部から0.95質量部に変更した以外は同様の方法で製造した。
<ゴム強化スチレン系樹脂パウダー(A-5)の製造>
ゴム強化スチレン系樹脂パウダー(A-1)の製造において、(工程1)のエチレンビスステアリン酸アミドのエマルジョン(固形分換算)の添加量を0.39質量部から10.00質量部に変更した以外は同様の方法で製造した。
<ゴム強化スチレン系樹脂パウダー(A-6)の製造>
ゴム強化スチレン系樹脂パウダー(A-1)の製造において、(工程1)のエチレンビスステアリン酸アミドのエマルジョン(固形分換算)の添加量を0.39質量部から20.00質量部に変更した以外は同様の方法で製造した。
<ゴム強化スチレン系樹脂パウダー(A-7)の製造>
ゴム強化スチレン系樹脂パウダー(A-1)の製造において、(工程1)のエチレンビスステアリン酸アミドのエマルジョン(固形分換算)の添加量を0.39質量部から0質量部に変更した以外は同様の方法で製造した。
<ゴム強化スチレン系樹脂パウダー(A-8)の製造>
ゴム強化スチレン系樹脂パウダー(A-1)の製造において、(工程1)のエチレンビスステアリン酸アミドのエマルジョン(固形分換算)の添加量を0.39質量部から0.19質量部に変更した以外は同様の方法で製造した。
【0055】
<重合体(B-1)の製造>
公知の塊状重合法により、スチレン75質量部、アクリロニトリル25質量部からなる重合体(B-1)を得た。上述の方法により、得られた重合体(B-1)の還元粘度は0.44dl/gであった。
<重合体(B-2)の製造>
公知の塊状重合法により、スチレン75質量部、アクリロニトリル25質量部からなる重合体(B-2)を得た。上述の方法により、得られた重合体(B-2)の還元粘度は0.62dl/gであった。
<重合体(B-3)の製造>
公知の乳化重合法により、スチレン75質量部、アクリロニトリル25質量部からなる重合体(B-3)を得た。上述の方法により、得られた重合体(B-3)の還元粘度は1.20dl/gであった。
【0056】
<その他添加剤>
エチレンビスステアリン酸アミド(EBS):花王(株)製 カオーワックス EB-P
【0057】
実施例1~6および比較例1~5
ゴム強化スチレン系樹脂パウダー(A)、重合体(B)及びその他添加剤を表1記載の配合割合で混合した後、シリンダー温度230℃に設定したφ26mmの2軸押出機にて主スクリュー回転数300rpm、吐出量25kg/hrの条件で溶融混練し、ペレット化した。得られたペレットを用いて各種評価を実施した。結果を表1に示す。
【0058】
【表1】
【0059】
表1から明らかなように、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、耐衝撃性、流動性、耐熱性及び表面外観のバランスに優れるものが得られた。
比較例1、2は、耐衝撃性、耐熱性、表面外観は良好であるものの、MVRが20(cm/10分)未満と流動性に劣るものであった。
比較例3~5は、耐衝撃性、耐熱性が良好であり、MVRが20(cm/10分)以上と流動性も良好であるが、ゴム強化スチレン系樹脂パウダーの滑剤含有量が0.2質量部未満であり、表面外観に劣るものであった。
【産業上の利用可能性】
【0060】
上記の通り、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、耐衝撃性、流動性及、耐熱性及び表面外観のバランスに優れることから、例えば車両用部品、電子・電気部品、住宅設備部品等の多彩な用途に使用することができ、中でも大型成形部品の材料として好適である。