(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-30
(45)【発行日】2025-02-07
(54)【発明の名称】延焼防止型セルユニットおよびその製造方法ならびにバッテリー
(51)【国際特許分類】
H01M 50/204 20210101AFI20250131BHJP
H01M 10/647 20140101ALI20250131BHJP
H01M 10/658 20140101ALN20250131BHJP
H01M 10/6556 20140101ALN20250131BHJP
H01M 10/6567 20140101ALN20250131BHJP
【FI】
H01M50/204 401F
H01M10/647
H01M10/658
H01M10/6556
H01M10/6567
(21)【出願番号】P 2021140607
(22)【出願日】2021-08-31
【審査請求日】2023-11-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000190116
【氏名又は名称】信越ポリマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110973
【氏名又は名称】長谷川 洋
(74)【代理人】
【識別番号】110002697
【氏名又は名称】めぶき弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】傳刀 賢二
【審査官】山田 倍司
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0308186(US,A1)
【文献】特開2015-196332(JP,A)
【文献】国際公開第2021/166346(WO,A1)
【文献】特開2018-206604(JP,A)
【文献】特開2006-008942(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2021/0184307(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/52-10/667
50/20-50/298
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バッテリーセルと、
前記バッテリーセルの並べる方向に位置する側面に貼付される延焼防止シートと、
を備え、
前記延焼防止シートは、多孔性のスポンジシートであって、
前記多孔性のスポンジシートは、そのシートの内部に、空気を含む複数の孔を備え、
前
記孔は、細長の形状であって、かつ前記延焼防止シートの面に沿って前記孔の長さ方向を向けて
配向していることを特徴とする延焼防止型セルユニット。
【請求項2】
前記延焼防止シートにおいて、前記バッテリーセルへの貼付面の粘着性は、前記貼付面に対して前記延焼防止シートの厚さ方向反対側に位置する外面の粘着性よりも高いことを特徴とする請求項1に記載の延焼防止型セルユニット。
【請求項3】
前記延焼防止シートは、難燃材をさらに含むことを特徴とする請求項1または2に記載の延焼防止型セルユニット。
【請求項4】
前記延焼防止シートはシリコーンゴムを主材としていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の延焼防止型セルユニット。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の延焼防止型セルユニットを製造する方法であって、
硬化後に延焼防止シートとなる硬化性組成物をプレートで挟む挟持工程と、
前記挟持工程後に、前記プレートで挟む挟持方向に孔の長さ方向が向くように発泡させてスポンジ状の硬化体を製造する硬化工程と、
前記硬化体を用いて、前記延焼防止シートの面に沿って前記孔の長さ方向が向く形態のシートに賦形するシート賦形工程と、
前記シート賦形工程後の前記延焼防止シートを前記バッテリーセルの並べる方向に位置する側面に貼付する貼付工程と、
を含むことを特徴とする延焼防止型セルユニットの製造方法。
【請求項6】
請求項1から4のいずれか1項に記載の延焼防止型セルユニットを複数並べて備えることを特徴とするバッテリー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バッテリーセルに延焼防止シートを備える延焼防止型セルユニットおよびその製造方法ならびに当該延焼防止型セルユニットを備えるバッテリーに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、世界中で、地球環境への負荷軽減を目的として、従来からのガソリン車あるいはディーゼル車を徐々に電気自動車に転換しようとする動きが活発化している。特に、フランス、オランダ、ドイツをはじめとする欧州諸国の他、中国でも、電気自動車の普及が進行してきている。
【0003】
上記自動車用バッテリー等の各種バッテリーは、何らかの原因により熱暴走し、発火や発煙等が生じる虞がある。近年、自動車用バッテリーとして、筐体内に複数のバッテリーセルを並べて装着したものが知られている。このような複数のバッテリーセルが並べて装着されたバッテリーにおいて、1つのバッテリーセルから発火や発煙等が生じた場合、周囲のバッテリーセルに熱が伝わることにより、さらに大きな発火、発煙、爆発等の不具合が生じる虞がある。このような不具合による被害を最小限に抑えるため、異常高温になったバッテリーセルの熱を周囲のバッテリーセルに伝え難くする方法が検討されている。例えば、複数のバッテリーセル同士の間に耐火材や断熱層等の延焼防止シートを設ける方法が従来から知られている(特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
延焼防止シートは、バッテリーセルが過熱によって膨張しても当該シートの破損を低減する必要から、低硬度で変形容易であることが要望されている。また、延焼防止シートの断熱性を高めるために、シート内に空気を含む方が好ましい。本発明者は、上記要望に応えるために、多孔性ゴムシートをバッテリーセルの側面に備え、バッテリーセル同士の間に当該シートを挟むことを考えた。本発明者は、多孔性ゴムシートの断熱性をさらに高めるべく開発を行い、本発明を完成した。本発明は、「すべての人々の、安価かつ信頼できる持続可能な近代的エネルギーへのアクセスを確保する」という本出願人の持続可能な開発目標の達成にも資する。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、バッテリーセルの過熱膨張に追随して変形容易であって、かつ断熱性に優れる延焼防止シートをバッテリーセルに備える延焼防止型セルユニットおよびその製造方法ならびにバッテリーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)上記目的を達成するための一実施形態に係る延焼防止型セルユニットは、
バッテリーセルと、
前記バッテリーセルの並べる方向に位置する側面に貼付される延焼防止シートと、
を備え、
前記延焼防止シートは、多孔性のスポンジシートであって、
前記延焼防止シート内の孔は、細長の形状であって、かつ前記延焼防止シートの面に沿って前記孔の長さ方向を向けている。
(2)別の実施形態に係る延焼防止型ユニットにおいて、好ましくは、前記延焼防止シートの前記バッテリーセルへの貼付面の粘着性は、前記貼付面に対して前記延焼防止シートの厚さ方向反対側に位置する外面の粘着性よりも高くしても良い。
(3)別の実施形態に係る延焼防止型ユニットにおいて、好ましくは、前記延焼防止シートは、難燃材をさらに含んでも良い。
(4)別の実施形態に係る延焼防止型ユニットにおいて、好ましくは、前記延焼防止シートはシリコーンゴムを主材としていても良い。
(5)上記目的を達成するための一実施形態に係る延焼防止型セルユニットの製造方法は、上述のいずれかの延焼防止型セルユニットを製造する方法であって、
硬化後に延焼防止シートとなる硬化性組成物をプレートで挟む挟持工程と、
前記挟持工程後に、前記プレートで挟む挟持方向に孔の長さ方向が向くように発泡させてスポンジ状の硬化体を製造する硬化工程と、
前記硬化体を用いて、前記延焼防止シートの面に沿って前記孔の長さ方向が向く形態のシートに賦形するシート賦形工程と、
前記シート賦形工程後の前記延焼防止シートを前記バッテリーセルの並べる方向に位置する側面に貼付する貼付工程と、
を含む。
(6)上記目的を達成するための一実施形態に係るバッテリーは、上述のいずれかの延焼防止型セルユニットを複数並べて備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、バッテリーセルの過熱膨張に追随して変形容易であって、かつ断熱性に優れる延焼防止シートをバッテリーセルに備える延焼防止型セルユニットおよびその製造方法ならびにバッテリーを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係る延焼防止型セルユニットの構成を説明するための斜視図を示す。
【
図2】
図2は、
図1の延焼防止型セルユニットのA-A線断面図および一部Bの拡大図を示す。
【
図3】
図3は、
図1の延焼防止型セルユニットを延焼防止シートの外面側から見た図(A)、および延焼防止型セルユニットの変形例をその外面側から見た図(B)を示す。
【
図4】
図4は、本発明の実施形態に係る延焼防止型セルユニットの製造工程のフローおよび各工程における代表的な形態の断面図を示す。
【
図5】
図5は、熱伝導試験の方法を説明するための図を示す。
【
図6】
図6は、熱伝導試験の結果(加温開始から5min後)を説明するための図を示す。
【
図7】
図7は、熱伝導試験の結果(加温開始から30min後)を説明するための図を示す。
【
図8】
図8は、実施形態に係るバッテリーに延焼防止型セルユニットを装填する状況および装填完了後の状況の斜視図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。なお、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また、実施形態の中で説明されている諸要素及びその組み合わせの全てが本発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0011】
1.延焼防止型セルユニット
最初に、本発明の実施形態に係る延焼防止型セルユニットについて図面を参照しながら説明する。
【0012】
図1は、本発明の実施形態に係る延焼防止型セルユニットの構成を説明するための斜視図を示す。
図2は、
図1の延焼防止型セルユニットのA-A線断面図および一部Bの拡大図を示す。
【0013】
この実施形態に係る延焼防止型セルユニット1は、バッテリーセル20と、バッテリーセル20の並べる方向に位置する側面に貼付される延焼防止シート10と、を備える。より詳細には、延焼防止型セルユニット1は、バッテリーセル20を並べる方向にある2つの側面の内の少なくとも1つの側面に貼付している延焼防止シート10とバッテリーセル20とを一体にしたものである。延焼防止シート10は、バッテリー内部の複数のバッテリーセル20の間に配置され、バッテリーセル20が過熱状態の際に他のバッテリーセル20への伝熱を抑制して延焼防止可能なシートである。延焼防止シート10は、その最も広い面をバッテリーセル20に貼り付けて用いられる。延焼防止シート10をバッテリーセル20に貼り付けた1つの構成体を延焼防止型セルユニット1と称する。この実施形態では、延焼防止シート10は、バッテリーセル20と密着しており、接着剤などの層を介在せずに貼付することができる。延焼防止シート10の厚さは、特に制約はないが、好ましくは1~20mm、より好ましくは2~8mmである。
【0014】
延焼防止シート10において、好ましくは、バッテリーセル20への貼付面11の粘着性は、貼付面11に対して延焼防止シート10の厚さ方向反対側に位置する外面12の粘着性よりも高い。この結果、延焼防止型セルユニット1ごとに、バッテリー内に装填し、または引き出すことが容易になる。本願では、「粘着」は、「接着」または「固着」と異なり、繰り返し貼付可能な状態に解釈される。
【0015】
この実施形態では、延焼防止シート10をバッテリーセル20に貼り付ける貼付面11は、高い平滑性を有する面であって、バッテリーセル20の最も広い面(側面)との間にほとんど空気が介在しない状態で密着可能な面である。貼付面11の面粗さは、「ISO 25178表面性状」に基づく算術平均高さ(Sa)の値で比べて、外面12の面粗さよりも小さい。
【0016】
Sa以外を基準とする場合には、「ISO 25178表面性状」に基づく最大高さ(Sz)を基準とするのが好ましい。貼付面11の面粗さは、「ISO 25178表面性状」に基づく最大高さ(Sz)の値で比べて、外面12の面粗さよりも小さい。なお、SaおよびSzは、貼付面11および外面12において開口状態の孔15を避けて測定される。
【0017】
貼付面11および外面12の各粗さは、例えば、金型成形にて延焼防止シート10を製造する場合には、金型の内面や金型内に入れた樹脂シートの各粗さを転写して容易に得ることができる。また、外面12の面粗さを、より大きくしたい場合には、微細粒子を衝突させるブラスト処理等を行っても良い。このように、貼付面11に比べて外面12の面粗さを大きくすると、複数の延焼防止型セルユニット1の中から、1つの延焼防止型セルユニット1の単位でバッテリーの筐体内に装填もしくは引き出し容易となる。延焼防止型セルユニット1の装填および引き出しの際に、当該延焼防止型セルユニット1が隣の延焼防止型セルユニット1と密着しにくいからである。特に、バッテリー内の複数の延焼防止型セルユニット1は、バッテリーに装填された後に、延焼防止型セルユニット1の列方向外側から圧縮されることが多い。そのような場合でも、外面12の面粗さが大きいと、延焼防止型セルユニット1同士が付着してしまう状況を低減できる。また、貼付面11を平滑にすると、延焼防止シート10とバッテリーセル20の側面との密着力を高めることができ、1つの延焼防止型セルユニット1の単位で、バッテリー内に装填し、あるいは引き出しやすくなる。
【0018】
なお、外面12を貼付面11よりも低粘着性とする手段としては、上述の面粗さに差異を設けることに限定されず、他の手段でも良い。他の手段としては、例えば、延焼防止シート10を2層のシートで構成し、外面12側のシートを、貼付面11側のシートよりも高硬度のシートとすることを挙げることができる。
【0019】
この実施形態では、延焼防止シート10は、バッテリーセル20の最も広い面(側面)と略同一の大きさであるが、当該側面より大きく、または小さくとも良い。ただし、延焼防止を高めるには、延焼防止シート10は、バッテリーセル20の側面と同一若しくは当該側面より大きいのが好ましい。
【0020】
この実施形態では、延焼防止シート10は、多孔性のスポンジシートである。このスポンジシートは、シート全体の体積に対して、好ましくは40~95体積%、より好ましくは60~90体積%の孔15を有する。スポンジシートの孔15の中の空気は、延焼防止シート10に優れた断熱性を付与する。このため、延焼防止シート10は、隣り合うバッテリーセル20間の低熱伝導性に寄与する。孔15は、細長の形状、すなわち異方性を有する形状であって、かつ延焼防止シート10の面に沿って孔15の長さ方向を向けている。孔15の長さ方向は、延焼防止シート10の厚さ方向に対して略直角(90度±5度)を成す方向である。ただし、複数個の孔15の一部に、細長の形状以外の形状を有する孔、あるいは細長い形状を有していても上記厚さ方向に対して略直角の方向を向いていない孔が存在していても良い。全ての孔15の数の50%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは90%以上が細長の形状であって、かつその長さ方向を延焼防止シート10の厚さ方向に対して略直角を成す方向に向けていれば良い。
【0021】
図2に示すように、延焼防止シート10において、細長い形状の孔15は、そのシート面に沿う方向に孔15の長さ方向が向くように配向している。この場合、延焼防止シート10の厚さ方向の熱伝導率(S1)は、孔15の長さ方向(
図2ではバッテリーセル20の高さ方向)を伝わる熱伝導率(S2)よりも低くなる。このため、延焼防止シート10は、隣り合うバッテリーセル20間の熱伝導を低減できる。
【0022】
延焼防止シート10は、主に、樹脂またはゴムから成り、好ましくはゴムから成る。ゴムとしては、例えば、シリコーンゴム、ウレタンゴム、イソプレンゴム、エチレンプロピレンゴム、天然ゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、ニトリルゴム(NBR)あるいはスチレンブタジエンゴム(SBR)等の熱硬化性エラストマー; ウレタン系、エステル系、スチレン系、オレフィン系、ブタジエン系、フッ素系等の熱可塑性エラストマー、あるいはそれらの複合物等を含むように構成される。ゴムの中では比較的耐熱性の高いシリコーンゴムをより好適に用いることができる。延焼防止シート10は、好ましくは、シリコーンゴムを主材としている。延焼防止シート10は、より好ましくは、多孔性のシリコーンゴム製スポンジシートである。なお、本願では、「主に」または「主材」は、構成材料全体に対して50質量%を超えるように解釈される。
【0023】
延焼防止シート10には、延焼防止性能をより高めるために難燃材を含有させるのが好ましい。難燃材は、好ましくは、カーボン(アモルファスカーボン、グラファイトを含む)、ハロゲン化物、リン化合物、白金、白金錯体、水酸化マグネシウムや水酸化アルミニウム等の1または2以上の無機化合物である。難燃材は、延焼防止シート10の全質量に対して、好ましくは0.5~20質量%、より好ましくは1~20質量%含まれている。
【0024】
図3は、
図1の延焼防止型セルユニットを延焼防止シートの外面側から見た図(A)、および延焼防止型セルユニットの変形例をその外面側から見た図(B)を示す。
【0025】
この実施形態では、バッテリーセル20の最長辺の方向、2番目に長い辺の方向および最短辺の方向を、それぞれ、高さ方向、幅方向および厚さ方向と称する。Aでは、孔15は、延焼防止シート10の面に沿って、かつ孔15の長さ方向がバッテリーセル20の高さ方向に向くように配向している。一方、Bでは、孔15は、延焼防止シート10の面に沿って、かつ孔15の長さ方向がバッテリーセル20の幅方向に向くように配向している。AおよびBのいずれの場合においても、孔15の長さ方向は、延焼防止シート10の厚さ方向と略直角を成している。したがって、AおよびBのいずれの場合においても、延焼防止シート10は、隣り合うバッテリーセル20間の熱伝導性を低減するのに有効に寄与する。なお、孔15の長さ方向は、バッテリーセル20の高さ方向および幅方向以外に、高さ方向と幅方向の間、すなわち斜め方向に向いていても良い。
【0026】
2.延焼防止型セルユニットの製造方法
次に、本発明の実施形態に係る延焼防止型セルユニットの製造方法について図面を参照しながら説明する。
【0027】
図4は、本発明の実施形態に係る延焼防止型セルユニットの製造工程のフローおよび各工程における代表的な形態の断面図を示す。
【0028】
この実施形態に係る延焼防止型セルユニットの製造方法は、前述の延焼防止型セルユニット1を製造する方法であって、挟持工程(S101)と、硬化工程(S102)と、シート賦形工程(S103)と、貼付工程(S104)とを含む。以下、各工程について詳述する。
【0029】
(1)挟持工程(S101)
この工程は、硬化後に延焼防止シートとなる硬化性組成物26をプレート25で挟む工程である。硬化性組成物26は、好ましくは、その形状を保持可能であって、例えば、完全に硬化していない半硬化状態にある。プレート25で挟まれる硬化性組成物26は、好ましくは、円柱、角柱、またはそれに似た形態を有する。硬化性組成物26は、例えば、硬化時に発泡するための有機発泡剤を含有する。発泡剤としては、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)またはアゾジカルボンアミド(ADCA)を例示できる。なお、有機発泡剤を含まない例として、ゴム中に熱膨張性樹脂ビーズを添加した硬化性組成物26を用いる方法を挙げることができる。この場合、硬化時に樹脂ビーズがバルーン状となり、スポンジ状の硬化体を得ることができる。また、有機発泡剤を含まない別の例として、非発泡性の液状ゴム中に空気を高圧下で混ぜ込んでおいた硬化性組成物26を用いる方法を挙げることができる。この場合、常圧下で硬化性組成物26を硬化することによって、スポンジ状の硬化体を得ることができる。いずれの発泡方法においても、挟持工程では、発泡性の硬化性組成物26は、両側からプレート25によって挟持される。プレート25としては、硬化性組成物26の硬化時にその形状を保つことが可能であれば構成材料に制約はなく、例えば、アルミニウム製の板に代表される金属板、またはポリエチレンテレフタレート製の板に代表される樹脂板を用いることができる。
【0030】
(2)硬化工程(S102)
この工程は、挟持工程後に、プレート25で挟む挟持方向に孔15の長さ方向が向くように発泡させてスポンジ状の硬化体27を製造する工程である。硬化性組成物26の側面は、プレート25に接していない。このため、側面は、プレート25に接する上下両面に比べて熱の伝わり方が早い。このため、側面の領域では、発泡前に硬化しやすい。この結果、硬化性組成物26の内部では、孔15がプレート25の方向に向いて細長くなりやすい。こうして、プレート25の方向に細長い孔15を有するスポンジ状の硬化体27が完成する。硬化性組成物26として硬化性シリコーンゴム組成物を用いる場合には、この工程では当該組成物に対して加温が行われる。
【0031】
(3)シート賦形工程(S103)
この工程は、硬化工程後の硬化体27を用いて、延焼防止シート10の面に沿って孔15の長さ方向が向く形態のシートに賦形する工程である。賦形方法の例示的な方法は、硬化体27からシートを切り出す方法である。切り出しに代えて、切削および/または研磨の手法を用いても良い。また、延焼防止シート10の貼付面11と外面12との粘着性に差をつける工程を、この工程内またはこの工程直後にて行っても良い。外面12を貼付面11に比べて粗い面に加工する場合には、外面12に対してブラスト処理を行えば良い。また、貼付面11を外面12に比べて平滑な面に加工する場合には、貼付面11を鏡面研磨すれば良い。
【0032】
(4)貼付工程(S104)
この工程は、シート賦形工程後の延焼防止シート10をバッテリーセル20の並べる方向に位置する側面に貼付する工程である。貼付方法の代表的な手法は、何らの接着剤をも介在させない貼り付けであるが、延焼防止シート10とバッテリーセル20の側面との間に接着剤または両面テープを介在させることもできる。
【0033】
3.熱伝導試験
次に、孔の方向を変えた熱伝導試験の方法および結果を説明する。
【0034】
図5は、熱伝導試験の方法を説明するための図を示す。
【0035】
まず、孔15が上下方向に長い発泡シリコーンゴム試験片(30mm径×10mm厚)Vと、孔15が水平方向に長い発泡シリコーンゴム試験片(30mm径×10mm厚)Hと、を用意し、縦に切断して断面を露出させた。断面観察には、デジタルマイクロスコープ(キーエンス社製)を用いた。また、比重計(アルファミラージュ社製)を用いて計測を行い、両試験片V,Hとも、0.23g/cm
3の比重を有していることを確認した。この結果から、両試験片V,Hとも空孔率はほぼ同一であると判断した。
図5は、両試験片V,Hの断面写真と、それらを模式的に示す図とを示す。
図5の写真と模式図とから、試験片Vは縦方向に長い孔15を有しており、試験片Hは横方向(水平方向)に長い孔15を有していることがわかる。
【0036】
図6は、熱伝導試験の結果(加温開始から5min後)を説明するための図を示す。
図7は、熱伝導試験の結果(加温開始から30min後)を説明するための図を示す。
【0037】
両試験片V,Hをホットプレート30上に静置して、約150℃まで加温した。この試験では、両試験片V,Hの下面から加熱される。
図6および
図7は、加温開始から5分後(a)および加温開始から30分後(b)の両試験片V,Hのサーモグラフィカメラで撮影した温度分布をそれぞれ示す。なお、(a)と(b)では、試験片を変えて撮影した。温度分布は、サーモグラフィカメラ(日本アビオニクス社製)を用いて観察した。
図6および
図7中の「セル目方向」は、孔15の長い方向を意味する。両試験片V,Hにおける横縞模様は温度分布を示し、ホットプレート30に近いゾーンほど高い温度となっている。
【0038】
両試験片V,Hの温度分布を比較すると、加温開始から5分後および30分後の両条件において、試験片Hの方が約70℃の温度ライン(白矢印の示す位置)が低い位置にあることがわかった(矢印の指している位置の白線を参照。)。また、70℃より高温のラインで見ても、同様に、試験片Hの方が低い位置にあることがわかった。この結果から、孔15が横方向に長い試験片Hは、孔15が縦方向に長い試験片Vに比べて、熱伝導速度が小さいことがわかった。
【0039】
4.バッテリー
次に、本発明の実施形態に係るバッテリーについて図面を参照しながら説明する。バッテリー内には、前述の実施形態に係る延焼防止型セルユニット1が装填されている。
【0040】
図8は、実施形態に係るバッテリーに延焼防止型セルユニットを装填する状況および装填完了後の状況の斜視図を示す。
【0041】
この実施形態に係るバッテリー40は、例えば、電気自動車用のバッテリーであって、バッテリーセル20を複数並べて備える。バッテリーセル20の個数は、この実施形態では12個であるが、2~11個または13個以上でも良い。バッテリー40は、蓄電池であり、好ましくはリチウムイオンバッテリーである。バッテリー40は、一方に開口する有底型の筐体41を備える。バッテリーセル20は、筐体41の内部44に配置される。複数のバッテリーセル20は、好ましくは、筐体41内において、その両側からネジ等を利用して圧縮する方向に力を与えられて、互いに密着するようになっている(不図示)。筐体41の底部42(冷却部位の一例)には、冷却剤45の一例である冷却水を流すために、1または複数の水冷パイプ43が備えられている。冷却剤45は、冷却媒体あるいは冷却材と称しても良い。バッテリーセル20は、隣接するバッテリーセル20との間に、延焼防止シート10を挟む形態で筐体41内に配置されている。延焼防止シート10は、バッテリーセル20に付着して1つの延焼防止型セルユニット1を形成している。延焼防止型セルユニット1は、筐体41の内部44に向けて装填される(矢印C方向を参照。)。
【0042】
バッテリーセル20間に配置される延焼防止シート10は、延焼防止シート10の面内に平行で、かつ延焼防止シート10の厚さ方向に略直角を成す方向に、孔15の長さ方向を向けている多孔性のシートである。このため、延焼防止シート10は、過熱状態のバッテリーセル20の熱が隣のバッテリーセル20に伝導する際に熱伝導を低くすることができる。この結果、延焼防止シート10は、バッテリーセル20間の延焼防止効果の高いシートとなる。
【0043】
5.その他の実施形態
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、当該実施形態に限定されることなく、種々変形して実施可能である。
【0044】
上述の実施形態では、貼付面11および外面12の面粗さの比較は、「ISO 25178表面性状」に基づく算術平均高さ(Sa)または最大高さ(Sz)で行われている。しかし、これに代えて、JIS B 0601に基づく算出平均粗さ(Ra)または最大高さ(Rz)でも同様の比較ができる。その場合、貼付面11のRa(またはRz)は、外面12のRa(またはRz)より小さい。
【0045】
孔15の長短比(アスペクト比)は、1を超えていれば特に制約は無く、好ましくは2以上、より好ましくは3以上である。
【0046】
延焼防止シート10は、バッテリーセル20の側面に繰り返し貼付可能であるのが好ましい。しかし、延焼防止シート10をバッテリーセル20の側面に固着して、繰り返し貼付できないようにしても良い。
【0047】
上述の各実施形態の複数の構成要素は、互いに組み合わせ不可能な場合を除いて、自由に組み合わせ可能である。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、バッテリーの分野にて利用可能である。
【符号の説明】
【0049】
1・・・延焼防止型セルユニット、10・・・延焼防止シート、11・・・貼付面、12・・・外面、15・・・孔、20・・・バッテリーセル、25・・・プレート、26・・・硬化性組成物、27・・・硬化体、40・・・バッテリー。