(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-30
(45)【発行日】2025-02-07
(54)【発明の名称】有機化合物、薄膜、青色有機光電子変換素子用材料、有機光電変換素子及びこれらを用いた有機撮像素子
(51)【国際特許分類】
H10K 30/60 20230101AFI20250131BHJP
C07D 495/04 20060101ALI20250131BHJP
H10K 85/60 20230101ALI20250131BHJP
【FI】
H10K30/60
C07D495/04 CSP
C07D495/04 101
H10K85/60
(21)【出願番号】P 2021145348
(22)【出願日】2021-09-07
【審査請求日】2024-04-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000004086
【氏名又は名称】日本化薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】堀 駿介
(72)【発明者】
【氏名】前田 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】新見 一樹
(72)【発明者】
【氏名】刀祢 裕介
(72)【発明者】
【氏名】青竹 達也
【審査官】丸橋 凌
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-26559(JP,A)
【文献】特開2010-34450(JP,A)
【文献】国際公開第2018/016465(WO,A2)
【文献】国際公開第2015/163349(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/117622(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10K 10/00-99/00
C07D 495/04
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
【化1】
(式(1)中、R
1乃至R
4はそれぞれ独立に水素原子又は置換基を有してもよい芳香族基を、Xは酸素原子又は硫黄原子を表す。)
で表される化合物。
【請求項2】
請求項1に記載の式(1)で表される化合物を含有する青色光電変換素子用材料。
【請求項3】
請求項2に記載の青色光電変換素子用材料からなる有機薄膜。
【請求項4】
請求項2に記載の青色光電変換素子用材料、又は請求項3に記載の有機薄膜を含む有機光電変換素子。
【請求項5】
請求項4に記載の有機光電変換素子を備えた光センサ。
【請求項6】
請求項4に記載の有機光電変換素子を備えた有機撮像素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、置換基を有するベンゾチエノ[2,3-d]ナフト[2,3-b]チオフェン(以下BTNT」と称す)である有機化合物、有機光電変換素子用材料、有機光電変換素子及びこれらを用いた有機撮像素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロニクスデバイスは、原材料に希少金属などを含まず,安定した供給が可能であるのみならず、無機材料には無い屈曲性や湿式成膜法による製造が可能な点から、近年研究開発がなされている。有機エレクトロニクスデバイスの具体例としては有機EL素子、有機太陽電池素子、有機光電変換素子、有機トランジスタ素子等があり、他にもデバイスとしての性能は勿論、有機化合物の特色を活かした様々な用途が検討されている。
【0003】
上記デバイスのうち、有機光電変換素子は光センサ等に利用されており、例えば撮像素子として用いることが検討されている。現在、既存の無機材料を用いた撮像素子は3板式、単板式のものが知られている。この内、3板式のものは光をプリズムにより赤、緑、青の三原色に分離し、それぞれの光毎に撮像デバイスで光電変換するため、感度に優れる一方、デバイスの小型化が困難である。他方、単板式は撮像デバイスにカラーフィルタを設けた構造をとり、小型化が可能であるが、3板式に比べて解像度が劣る。以上の背景から、今日では有機化合物を用いた光電変換膜を積層した有機撮像素子の検討がなされている(特許文献1、特許文献2)。この様な有機撮像素子は、赤、緑、青の波長領域の光をそれぞれ選択的に吸収し、他の波長領域の光を透過する有機材料からなる有機薄膜の積層構造、即ち、薄膜とした時の有機材料の吸収帯が600nm以上700nm以下の範囲内である赤色光電変換層、500nm以上600nm以下である緑色光電変換層、そして400nm以上500nm以下である青色光電変換層の積層構造から成る。積層構造の有機撮像素子は小型化、高解像度化が期待できる点で魅力的であり、次代の撮像デバイスへの展開が期待されている。
【0004】
上記の積層構造からなる有機撮像素子において、入射光は青色光電変換層、緑色光電変換層、赤色光電変換層の順に透過する。このことから、青色光電変換層の光吸収の波長選択性が高くなるほど、緑色光電変換層、赤色光電変換層への光透過性が向上することから、光の利用効率が高まり、高精細な撮像素子が実現できると期待できる。
【0005】
積層構造からなる有機撮像素子の青色光電変換層に用いる材料としては、クマリン30(非特許文献1)、ポルフィリン誘導体(非特許文献2)、アントラキノン誘導体(特許文献3)及びジナフトチエノチオフェン誘導体(特許文献4、特許文献5、非特許文献3)等が検討されている。
しかしながら、例えば非特許文献1に記載のクマリン30は薄膜で410nmにピークトップであり、450から500nmの波長における吸収は効率的ではない。非特許文献2に記載のポルフィリン誘導体は具体的な光電変換性能が示されているが、500nm以上の波長の光を吸収しており、青色光の選択性を有していないこと等が問題である。特許文献5に記載のジナフトチエノチオフェン誘導体についても光電特性を有することが示されているが、実際に成膜を行ったところ500nm以上の波長の光に感度を有しており、青色光の選択性に課題があった。これらの問題により吸収波長の選択性や光電変換特性等について、市場の要求を満足する材料は未だ見出されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2003-158254号公報
【文献】特開2005-303266号公報
【文献】特開2011-238781号公報
【文献】特開2011-192966号公報
【文献】特開2018-26559号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】Jpn.J.Appl.Phys,2010,49,111601.1-11160.4
【文献】Jpn.J.Appl.Phys.,2005,44(6A),3743-3747
【文献】Org.Electron.,2015,20,63-68
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上の状況を鑑み、本発明は、400nm以上500nm以下の光を効率的に吸収すると共に、500nmを超える波長の光透過性に優れた特定構造の化合物、該化合物を含有する撮像素子用の青色光電変換素子用材料、及び該光電変換材料を用いて得られる有機光電変換素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
斯かる問題を克服すべく本発明者らは鋭意検討を行った結果、特定構造のBTNT誘導体は青色波長領域に選択的な吸収帯を有し、該誘導体を光電変換素子の光電変換部に用いた場合は優れた光応答電流を示すことを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は
[1]下記式(1)
【0010】
【0011】
(式(1)中、R1乃至R4はそれぞれ独立に水素原子又は置換基を有してもよい芳香族基を、Xは酸素原子又は硫黄原子を表す。)
で表される化合物、
[2]前項[1]に記載の式(1)で表される化合物を含有する青色光電変換素子用材料、
[3]前項[2]に記載の青色光電変換素子用材料からなる有機薄膜、
[4]前項[2]に記載の青色光電変換素子用材料、又は前項[3]に記載の有機薄膜を含む有機光電変換素子、
[5]前項[4]に記載の有機光電変換素子を備えた光センサ、及び
[6]前項[4]に記載の有機光電変換素子を備えた有機撮像素子、
に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の式(1)で表される有機化合物を用いた有機光電変換素子は、光吸収帯の極大吸収が400nm以上500nm以下の青色光を選択的に吸収すると共に、500nm以降の波長の光の透過性に優れている。また優れた光応答電流を示すことから、青色光用の有機光電変換素子並びに有機撮像素子、その材料などへ利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は本発明の有機光電変換素子の実施態様を例示した断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の内容について詳細に説明する。ここに記載する構成要件の説明については、本発明の代表的な実施態様や具体例に基づくものである一方、本発明はそのような実施態様や具体例に限定されるものではない。
【0015】
本発明の化合物は下記式(1)で表される。
式(1)中、R1乃至4はそれぞれ独立に水素原子又は置換基を有してもよい芳香族基を、Xは酸素原子又は硫黄原子を表す。
【0016】
【0017】
式(1)のR1乃至R4が表す芳香族基とは、芳香族化合物の芳香環から水素原子を一つ除いた残基であり、その具体例としては、フェニル基、ビフェニル基、インデニル基、ナフチル基、アントリル基、フルオレニル基及びピレニル基等の芳香族炭化水素基が挙げられる。
式(1)のR1乃至R4が表す芳香族基は置換基を有していてもよい。本発明において置換基を有する芳香族基とは、芳香族基が有する水素原子の一つ若しくは複数が置換基で置換された芳香族基を意味し、置換位置及び置換位置は特に限定されない。また、無置換の芳香族基とは、芳香族基が有する水素原子が置換基で置換されていない芳香族基を意味する。
式(1)のR1乃至R4が表す芳香族基は特に限定されないが、例えばフェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、アンスリル基、ピレニル基等が挙げられる。
【0018】
式(1)におけるR1乃至R4としては、R1とR2が異なること、又はR3とR4が異なることが好ましく、R1とR2が異なり、かつR3とR4が異なることがより好ましく、R1とR3が芳香族基であり、かつR2とR4が水素原子であることが更に好ましい。
尚、式(1)は共鳴構造の一つを示したものに過ぎず、図示した共鳴構造に限定されるものではない。
【0019】
式(1)で示される化合物の具体例として化合物(A-1)から化合物(A-14)を以下に示すが、本発明の化合物はこれらに限定されるものではない。尚、具体例として示した構造式は共鳴構造の一つを表したものに過ぎず、図示した共鳴構造に限定されるものではない。
【0020】
【0021】
【0022】
式(1)で示される化合物は、公知の方法(例えば、特許第6161168号)と同様の反応工程で合成可能である。これらの化合物の精製方法は特に限定されず、例えば洗浄、再結晶、カラムクロマトグラフィー、真空昇華等が採用でき、必要に応じてこれらの方法を組み合わせることができる。
以下に、式(1)で表される化合物の合成フローの一例を記載する。尚、下記のフロー中のR1乃至R4及びXは式(1)におけるR1乃至R4及びXと同じ意味を表し、Meはメチル基を、TMSはトリメチルシリル基をそれぞれ表す。
【0023】
【0024】
本発明の青色光電変換素子用材料は本発明の式(1)で表される化合物を含有する。
本発明の光電変換素子用材料は、本発明の効果を損なわない範囲であれば式(1)で表される化合物以外の成分を含有しても構わないが、本発明の青色光電変換素子用材料は400nm以上500nm以下の青色波長領域の光を吸収し、500nmを超える波長の光の吸収が少ないことが好ましいため、前記と類似の吸光特性を有する成分を併用することが好ましい。
青色光電変換素子用材料における式(1)で表される化合物の含有量は、通常80質量%以上、好ましくは90質量量%以上、より好ましくは95質量%以上、更に好ましくは98質量%以上、特に好ましくは99質量%以上である。
尚、青色光電変換素子用材料には、式(1)に包含される複数の化合物を併用しても構わない。
【0025】
本発明の有機薄膜は、本発明の青色光電変換素子用材料からなる。有機薄膜の膜厚は、その用途に最適な値とすればよいが、通常1nm乃至1μm、好ましくは5nm乃至500nm、より好ましくは10nm乃至300nmである。
有機薄膜の形成方法は、蒸着法などのドライプロセス(青色光電変換素子用材料をそのまま用いる方法)や種々の溶液プロセス(青色光電変換素子用材料を有機溶媒等に溶解した溶液を用いる方法)などがあげられるが、溶液プロセスで形成することが好ましい。溶液プロセスとしてはたとえば、スピンコート法、ドロップキャスト法、ディップコート法、スプレー法、フレキソ印刷、樹脂凸版印刷などの凸版印刷法、オフセット印刷法、ドライオフセット印刷法、パッド印刷法などの平板印刷法、グラビア印刷法などの凹版印刷法、スクリーン印刷法、謄写版印刷法、リングラフ印刷法などの孔版印刷法、インクジェット印刷法、マイクロコンタクトプリント法等、さらにはこれらの手法を複数組み合わせた方法が挙げられる。溶液プロセスで成膜する場合、上記の塗布、印刷したのち、溶媒を蒸発させて薄膜を形成することが好ましい。
【0026】
本発明の有機光電変換素子は、本発明の青色有機光電変換素子用材料、又は本発明の有機薄膜を含む。青色有機光電変換素子用材料及び有機薄膜は、青色光用光電変換素子の光電変換層に用いることができる。
青色光用の光電変換素子としては、先に述べた有機薄膜の形成方法である一般的な乾式成膜法や湿式成膜法により成膜した有機薄膜において、分光光度計による波長-吸光度の測定を行ったとき観測される可視光領域(380nm乃至780nm)の光を吸収する帯、即ち光吸収帯のうち、一般的にλmaxと称され、主たる光吸収帯の最も吸光度の高い波長位置を意味する極大吸収が400nm以上500nm以下であり、好ましくは420nm以上490nm以下であり、更に好ましくは450nm以上480nm以下である。
【0027】
有機光電変換素子は、対向する一対の電極膜間に光電変換部(膜)を配置した素子であって、電極膜の上方から光が光電変換部に入射されるものである。光電変換部は前記の入射光に応じて電子と正孔を発生するものであり、半導体により前記電荷に応じた信号が読み出され、光電変換膜部の吸収波長に応じた入射光量を示す素子である。光が入射しない側の電極膜には読み出しのためのトランジスタが接続される場合もある。光電変換素子は、アレイ状に多数配置されている場合、入射光量に加え入射位置情報をも示すため、撮像素子となる。又、より光源近くに配置された光電変換素子が、光源側から見てその背後に配置された光電変換素子の吸収波長を遮蔽しない(透過する)場合は、複数の光電変換素子を積層して用いてもよい。
【0028】
有機光電変換素子の電極膜は、後述する光電変換部に含まれる光電変換層が、正孔輸送性を有する場合や光電変換層以外の有機薄膜層が正孔輸送性を有する正孔輸送層である場合は、該光電変換層やその他の有機薄膜層から正孔を取り出してこれを捕集する役割を果たし、又光電変換部に含まれる光電変換層が電子輸送性を有する場合や、有機薄膜層が電子輸送性を有する電子輸送層である場合は、該光電変換層やその他の有機薄膜層から電子を取り出して、これを吐出する役割を果たすものである。依って、電極膜として用い得る材料は、ある程度の導電性を有するものであれば特に限定されないが、隣接する光電変換層やその他の有機薄膜層との密着性や電子親和力、イオン化ポテンシャル、安定性等を考慮して選択することが好ましい。電極膜として用い得る材料としては、例えば、酸化錫(NESA)、酸化インジウム、酸化錫インジウム(ITO)及び酸化亜鉛インジウム(IZO)等の導電性金属酸化物;金、銀、白金、クロム、アルミニウム、鉄、コバルト、ニッケル及びタングステン等の金属:ヨウ化銅及び硫化銅等の無機導電性物質:ポリチオフェン、ポリピロール及びポリアニリン等の導電性ポリマー:炭素等が挙げられる。これらの材料は、必要により複数を混合して用いてもよいし、複数を2層以上に積層して用いてもよい。電極膜に用いる材料の導電性も、光電変換素子の受光を必要以上に妨げなければ特に限定されないが、光電変換素子の信号強度や、消費電力の観点から出来るだけ高いことが好ましい。例えばシート抵抗値が300Ω/□以下の導電性を有するITO膜であれば、電極膜として充分機能するが、数Ω/□程度の導電性を有するITO膜を備えた基板の市販品も入手可能となっていることから、この様な高い導電性を有する基板を使用することが望ましい。ITO膜(電極膜)の厚さは導電性を考慮して任意に選択することができるが、通常5乃至500nm、好ましくは10乃至300nm程度である。ITOなどの膜を形成する方法としては、従来公知の蒸着法、電子線ビーム法、スパッタリング法、化学反応法及び塗布法等が挙げられる。基板上に設けられたITO膜には必要に応じUV-オゾン処理やプラズマ処理等を施してもよい。
【0029】
また、検出する波長の異なる光電変換層を複数積層する場合、それぞれの光電変換層の間に用いられる電極膜(これは上記記載の一対の電極膜以外の電極膜である)は、それぞれの光電変換層が検出する光以外の波長の光を透過させる必要があり、該電極膜には入射光の90%以上を透過する材料を用いることが好ましく、95%以上の光を透過する材料を用いることがより好ましい。
【0030】
電極膜はプラズマフリーで作製することが好ましい。プラズマフリーでこれらの電極膜を作成することにより、電極膜が設けられる基板にプラズマ与える影響が低減され、光電変換素子の光電変換特性を良好にすることができる。ここで、プラズマフリーとは、電極膜の成膜時にプラズマが発生しないか、又はプラズマ発生源から基板までの距離が2cm以上、好ましくは10cm以上、更に好ましくは20cm以上であり、基板に到達するプラズマが減ぜられるような状態を意味する。
【0031】
電極膜の成膜時にプラズマが発生しない装置としては、例えば、電子線蒸着装置(EB蒸着装置)やパルスレーザー蒸着装置等が挙げられる。EB蒸着装置を用いて透明電極膜の成膜を行う方法をEB蒸着法と称し、パルスレーザー蒸着装置を用いて透明電極膜の成膜を行う方法をパルスレーザー蒸着法と称する。
【0032】
成膜中プラズマを減ずることが出来るような状態を実現できる装置(以下、プラズマフリーである成膜装置という)としては、例えば、対向ターゲット式スパッタ装置やアークプラズマ蒸着装置等が考えられる。
【0033】
透明導電膜を電極膜(例えば第一の導電膜)とした場合、DCショート、あるいはリーク電流の増大が生じる場合がある。この原因の一つは、光電変換層に発生する微細なクラックがTCO(Transparent Conductive Oxide)などの緻密な膜によって被覆され、透明導電膜とは反対側の電極膜との間の導通が増すためと考えられる。そのため、Alなど膜質が比較して劣る材料を電極に用いた場合、リーク電流の増大は生じにくい。電極膜の膜厚を、光電変換層の膜厚(クラックの深さ)に応じて制御することにより、リーク電流の増大を抑制することができる。
【0034】
通常、導電膜を所定の値より薄くすると、急激な抵抗値の増加が起こる。本実施形態の光センサ用光電変換素子における導電膜のシート抵抗は、通常100乃至10000Ω/□であり、膜厚の自由度が大きい。又、透明導電膜が薄いほど吸収する光の量が少なくなり、一般に光透過率が高くなる。光透過率が高くなると、光電変換層で吸収される光が増加して光電変換能が向上するため非常に好ましい。
【0035】
本発明の有機光電変換素子が有する光電変換部は、光電変換層及び光電変換層以外の有機薄膜層を含む場合もある。光電変換部を構成する光電変換層には一般的に有機半導体膜が用いられるが、その有機半導体膜は一層若しくは複数の層であってもよく、一層の場合は、P型有機半導体膜、N型有機半導体膜、又はそれらの混合膜(バルクヘテロ構造)が用いられる。一方、複数の層である場合は、2乃至10層程度であり、P型有機半導体膜、N型有機半導体膜、又はそれらの混合膜(バルクヘテロ構造)の何れかを積層した構造であり、層間にバッファ層が挿入されていてもよい。
【0036】
本発明の有機光電変換素子において、光電変換部を構成する光電変換層以外の有機薄膜層は、光電変換層以外の層、例えば、電子輸送層、正孔輸送層、電子ブロック層、正孔ブロック層、結晶化防止層又は層間接触改良層等としても用いられる。特に電子輸送層、正孔輸送層、電子ブロック層及び正孔ブロック層から成る群より選択される一種以上の薄膜層として用いることにより、弱い光エネルギーでも効率よく電気信号に変換する素子が得られるため好ましい。
【0037】
また、有機撮像素子は一般的には高コントラスト化や省電力化を目的として、暗電流の低減により性能向上を目指すと考えられる。この為、層構造内にキャリアブロック層を挿入する手法が用いられており、素子としては多層構造となる。この為、光電変換色素子用材料としては、例えば抵抗加熱蒸着の様な手法による薄膜作成が可能であることが望ましい。尚、上記のキャリアブロック層は、有機エレクトロニクスデバイス分野では一般に用いられており、それぞれデバイスの構成膜中において正孔若しくは電子の逆移動を制御する機能を有する。
【0038】
電子輸送層は、光電変換層で発生した電子を電極膜へ輸送する役割と、電子輸送先の電極膜から光電変換層に正孔が移動するのをブロックする役割とを果たす。正孔輸送層は、発生した正孔を光電変換層から電極膜へ輸送する役割と、正孔輸送先の電極膜から光電変換層に電子が移動するのをブロックする役割とを果たす。電子ブロック層は、電極膜から光電変換層への電子の移動を妨げ、光電変換層内での再結合を防ぎ、暗電流を低減する役割を果たす。正孔ブロック層は、電極膜から光電変換層への正孔の移動を妨げ、光電変換層内での再結合を防ぎ、暗電流を低減する機能を有する。
【0039】
図1に本発明の有機光電変換素子の代表的な素子構造を示すが、本発明はこの構造に限定されるものではない。
図1の態様例においては、1が絶縁部、2が一方の電極膜、3が電子ブロック層、4が光電変換層、5が正孔ブロック層、6が他方の電極膜、7が絶縁基材又は他の有機光電変換素子をそれぞれ表す。図中には読み出し用のトランジスタを記載していないが、2又は6の電極膜と接続されていればよく、更には光電変換層4が透明であれば、光が入射する側とは反対側の電極膜の外側に成膜されていてもよい。有機光電変換素子への光の入射は、光電変換層4を除く構成要素が、光電変換層の主たる吸収波長の光を入射することを極度に阻害することがなければ、上部若しくは下部からの何れからでもよい。
【実施例】
【0040】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。合成例に記載の化合物は、必要に応じて質量分析スペクトル、核磁気共鳴スペクトル(NMR)により構造を決定した。実施例における1H NMRの測定は、JNM-ECS400(JEOL社製)を用いて、分子量の測定はISQ LT GC-MS(Thermo Fisher Scientific社製)を用いて、また吸収スペクトルのλmaxの値はUV-1700(島津製作所製)を用いてそれぞれ行った。また有機光電変換素子の電流電圧の印加測定は、PVL-3300(朝日分光社製)を用いて照射光強度130μW、半値幅20nmの照射条件で、半導体パラメータアナライザ4200-SCS(ケースレーインスツルメンツ社製)を用いて350乃至1100nmの範囲で行った。
【0041】
実施例1(本発明の化合物(A-8)の合成)
窒素雰囲気中、脱気した中間体(1-6)(0.4mmol)及びNaOAc(67mg、0.8mmol)のDMAc(14ml)溶液中に、PdCl2(PPh3)2(14mg、0.02mmol)を添加した後、140℃で15時間撹拌した。前記で得られた反応液を室温まで冷却した後、固体をろ取して水及びアセトンで洗浄した。前記で得られた粗体を昇華精製することにより、化合物(A-8)の黄色固体を得た。(収率20%)
前記で得られた化合物(A-8)の分子量の測定結果は以下のとおりであった。
EI-MS(m/z):624[M]+
【0042】
【0043】
比較例1(比較用の化合物の合成)
特許第6739290に記載の方法に準じて、下記式(B-1)で表される比較用の化合物を得た。
【0044】
【0045】
実施例2(本発明の有機薄膜の作製及びλmaxの確認)
予め昇華精製した実施例1で得られた化合物(A―8)を用いて、抵抗加熱真空蒸着法によりガラス基板上に100nmの膜厚の本発明の有機薄膜を得た。得られた有機薄膜について吸収スペクトルを測定し、長波長吸収帯のλmaxの値を確認した。結果を表1に示した。
【0046】
比較例2(比較用の有機薄膜の作製及びλmaxの確認
化合物(A-8)の代わりに比較例1で得られた式(B-1)で表される化合物を用いた以外は実施例2に準じた方法で比較用の有機薄膜の作製及びλmaxの確認を行った。結果を表1に示した。
【0047】
【0048】
実施例3(化合物(A-8)を用いた有機光電変換素子の作製)
ITO透明導電ガラス(ジオマテック(株)製、ITO膜厚150nm)に、具体例に示した化合物(A―8)を抵抗加熱真空蒸着により100nmの膜厚に成膜した。次に、電極としてアルミニウムを100nm真空成膜し、本発明の有機光電変換素子を作製した。
【0049】
比較例3(式(B-1)で表される化合物を用いた有機光電変換素子の作製)
化合物(A-8)の代わりに比較例1で得られた式(B-1)で表される化合物を用いた以外は実施例3に準じた方法で比較用の有機光電変換素子を作成した。
【0050】
(有機光電変換素子の波長選択性の評価)
実施例3及び比較例3で得られた本発明及び比較用の有機光電変換素子に、300nmから1100nmの光照射を行った状態で5Vの電圧を印加した際の光電流密度をそれぞれ測定した。前記で得られた光電流密度の測定結果において、400nmにおける光電流密度を100%とした場合の420nm、440nm、460nm、480nm、500nm及び520nmにおける光電流密度の保持率を算出し、結果を表2に示した。
【0051】
【0052】
表2の結果より本発明の有機光電変換素子が比較用の有機光電変換素子よりも420乃至500nmの波長領域、特に460乃至500nmの波長領域における電流密度が高いが、一方で、緑色光領域の520nmでは光電作用を示していない。このことから、本発明の有機薄膜を含む有機光電変換素子が青色光に対する選択的な光電変換に優れることは明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の式(1)で表される有機化合物を用いた有機光電変換素子は、光吸収帯の極大吸収が400nm以上500nm以下の青色光を選択的に吸収すると共に、500nm以降の波長の光の透過性に優れている。また優れた光応答電流を示すことから、青色光用の有機光電変換素子並びに有機撮像素子、その材料などへの利用することができる。
【符号の説明】
【0054】
(
図1)
1 絶縁部
2 上部電極
3 電子ブロック層
4 光電変換層
5 正孔ブロック層
6 下部電極
7 絶縁基材若しくは他光電変換素子