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特許7628070硬化性高分子化合物、及び該化合物を含む樹脂組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-30
(45)【発行日】2025-02-07
(54)【発明の名称】硬化性高分子化合物、及び該化合物を含む樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08F 8/30 20060101AFI20250131BHJP
   C09J 125/08 20060101ALI20250131BHJP
   C09J 7/35 20180101ALI20250131BHJP
   C08F 299/00 20060101ALI20250131BHJP
   C08F 290/12 20060101ALI20250131BHJP
【FI】
C08F8/30
C09J125/08
C09J7/35
C08F299/00
C08F290/12
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021165622
(22)【出願日】2021-10-07
(65)【公開番号】P2023056332
(43)【公開日】2023-04-19
【審査請求日】2024-04-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000004086
【氏名又は名称】日本化薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】赤塚 泰昌
(72)【発明者】
【氏名】林本 成生
【審査官】佐藤 貴浩
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-018008(JP,A)
【文献】特開2007-045736(JP,A)
【文献】特開2023-023223(JP,A)
【文献】特許第7182343(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 6/00-246/00
C09J 1/00-201/10
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
【化1】
(式中、m及びnは繰り返し単位数の平均値であってそれぞれ独立に1乃至2,000の範囲にある。)で表される高分子化合物。
【請求項2】
請求項1に記載の高分子化合物及びラジカル開始剤を含む樹脂組成物。
【請求項3】
一分子中に一つ以上ラジカル反応性の官能基を有するラジカル反応性モノマーを含む請求項2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
一分子中に二つ以上ラジカル反応性の官能基を有するラジカル反応性ポリマーを含む請求項2に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
請求項2乃至4のいずれか一項に記載の樹脂組成物からなるフィルム状接着剤。
【請求項6】
請求項2乃至4のいずれか一項に記載の樹脂組成物、又は請求項5に記載のフィルム状接着剤の硬化物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶液を基材中にキャストする方法で容易にフィルム状に成形することができ、ラジカル開始剤と併用することにより、熱あるいは光硬化反応が可能で、しかもその硬化物は誘電特性、接着性、耐熱性に優れた高分子化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
フェノキシ樹脂は二官能のエポキシ樹脂と二官能のフェノール化合物を重合することにより得られる分子量の非常に大きな高分子化合物である。このフェノキシ樹脂を添加することにより、一般的なエポキシ樹脂組成物やラジカル重合性組成物をフィルム形状にすることができるため、フィルム状接着剤の重要な成分として幅広い分野で使用されており、特に電気・電子分野においてはプリント配線基板の層間絶縁層や樹脂付き銅箔などに用いられている。
フェノキシ樹脂を添加した樹脂組成物の硬化物は接着性に優れフィルム形成能は有するものの耐熱性が低く、しかも誘電率及び誘電正接が高いため(周波数1GHzで誘電率3.5、誘電正接0.03程度である。)、近年の信号応答速度が高速化した電子機器用途には使用できないのが実情である。誘電特性に優れた樹脂としてはポリテトラフルオロエタン(PTFE)などの高分子フッ素化合物(特許文献1)や液晶ポリマー(特許文献2)が一般に知られているが、これらの樹脂は他の樹脂との相溶性が極めて低く、接着性も不充分である。特許文献3には、ジアリルイソシアヌレートとジハロゲン化合物を反応させることにより得られるビス(ジアリルイソシアヌレート)化合物が記載されているが、本発明者が追試したところ、同文献の構造式で得られた硬化性高分子化合物の硬化物は、10GHzの誘電正接が0.005程度であり、現在の高周波回路基板用途に求められる低誘電特性を充分に満たすものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-001274号公報
【文献】特開2014-060449号公報
【文献】特開2015-151413号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、フィルム化できるだけの十分なフレキシビリティーを有し、低粗度銅箔に対する接着性が高く、かつ誘電率及び誘電正接の低い硬化性高分子化合物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは鋭意検討を行った結果、特定構造の高分子化合物を含む樹脂組成物を用いることにより上記の課題が解決することを見出し、本発明を完成させた。
即ち本発明は、
(1)下記式(1)
【0006】
【化1】
【0007】
(式中、m及びnは繰り返し単位数の平均値であってそれぞれ独立に1乃至2,000の範囲にある。)で表される高分子化合物、
(2)前項(1)に記載の高分子化合物及びラジカル開始剤を含む樹脂組成物、
(3)一分子中に一つ以上ラジカル反応性の官能基を有するラジカル反応性モノマーを含む前項(2)に記載の樹脂組成物、
(4)一分子中に二つ以上ラジカル反応性の官能基を有するラジカル反応性ポリマーを含む前項(2)に記載の樹脂組成物、
(5)前項(2)乃至(4)のいずれか一項に記載の樹脂組成物からなるフィルム状接着剤、及び
(6)前項(2)乃至(4)のいずれか一項に記載の樹脂組成物、又は前項(5)に記載のフィルム状接着剤の硬化物、
に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明による高分子化合物及びそれを含む樹脂組成物は、ラジカル開始剤を併用し熱或いは光エネルギーを加えることにより硬化物とすることが可能で、該樹脂組成物の硬化物は誘電特性、接着性、耐熱性及び耐水性に優れる高分子化合物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明の実施形態について説明する。
本発明の上記式(1)で表される高分子化合物は、クロロメチルスチレンとスチレンのランダム共重合体が有するクロロメチル基と、1,3-ジアリルイソシアヌレートとの脱塩酸縮合物である。
尚、式(1)では、スチレンに由来するユニットとクロロメチルスチレン及び1,3-ジアリルイソシアヌレートに由来するユニットの繰り返し単位数の平均値により高分子化合物の構造を表しているが、本発明の高分子化合物は、スチレンに由来するユニットm個とクロロメチルスチレン及び1,3-ジアリルイソシアヌレートに由来するユニットn個(m及びnは何れも平均値)がランダムに結合したものであり、本明細書における以下の式(2)等も同じ意図で表記したものである。
【0010】
ランダム共重合体の原料であるクロロメチルスチレンとしては、4-クロロメチルスチレン、2-クロロメチルスチレンなどが挙げられる。
【0011】
クロロメチルスチレンとスチレンとの共重合方法は、公知の共重合方法であれば特に限定されず、例えば塊状重合、溶液重合、乳化重合及び懸濁重合などが挙げられる。
溶液重合に使用可能な溶剤としては、トルエン、キシレン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、N-メチルピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド及びγ-ブチロラクトンなどが挙げられる。乳化重合及び懸濁重合には通常水と界面活性剤が用いられ、水中で原料成分を乳化あるいは懸濁した状態で共重合反応が行われる。
【0012】
共重合反応はラジカル重合、カチオン重合及びアニオン重合のいずれであっても構わない。ラジカル重合の場合は、ラジカル重合開始剤を用いることが好ましい。ラジカル重合開始剤の具体例としては、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二塩酸塩、過酸化水素、ジ-t-ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド及びベンゾイルパーオキサイド等が挙げられる。
ラジカル重合開始剤の配合量は、共重合体の原料成分100質量部に対して通常0.001乃至5質量部である。重合温度は通常50乃至250℃、好ましくは60乃至200℃であり、重合時間は通常0.5乃至30時間、好ましくは1乃至20時間である。ラジカル重合反応は空気中の酸素に重合阻害を防ぐために、窒素ガス雰囲気下で行うことが好ましい。
【0013】
カチオン重合開始剤の具体例としては、硫酸及び塩酸等の無機酸、CFCOOH及びCClCOOH等の有機酸、CFSOH及びHClO等の超強酸挙げられる。またアニオン重合開始剤の具体例としては、ブチルリチウム、Na-ナフタレン錯体、アルカリ金属、アルキルリチウム化合物、ナトリウムアミド、グリニャール試薬及びリチウムアルコキシド等が挙げられる。しかしながら、カチオン重合やアニオン重合に使用されるイオン性の開始剤は、重合反応後も共重合体中に残存して誘電特性や絶縁性に悪影響を及ぼす懸念があるため、本発明の高分子化合物の中間原料となる共重合体の合成は、ラジカル重合で行うことが好ましい。
カチオン重合開始剤又はアニオン重合開始剤の配合量は、共重合体の原料成分100質量部に対して通常0.01乃至5質量部である。重合温度は通常40乃至150℃、好ましくは50乃至120℃であり、重合時間は通常0.5乃至20時間、好ましくは1乃至15時間である。
【0014】
重合を行った後、加熱減圧下で未反応のスチレンを除去するか、或いは貧溶媒中に投入することによりポリマーのみを沈殿させることによって未反応のスチレンを除去する。
【0015】
下記式(2)は、クロロメチルスチレンとスチレンとのランダム共重合体の構造式であり、式(2)中のm及びnは式(1)におけるm及びnと同じ意味を表し、本発明の式(1)で表される化合物(式(1)で表される構造を有する化合物)としては、下記式(2)で表される共重合体を中間原料とする上記式(1)で表される高分子化合物が好ましい。
【0016】
【化2】
【0017】
本発明の高分子化合物の中間原料となるランダム共重合体の数平均分子量は通常3,000乃至300,000であり、好ましくは5,000乃至200,000である。
数平均分子量が前記の範囲内の共重合体を得るためには、共重合体を合成する際の開始剤の使用量を適切な量に調整することが好ましい。重量平均分子量が前記の範囲内の共重合体を得るために必要な開始剤の量は、溶剤の種類や共重合反応に用いるクロロメチルスチレン化合物とスチレンの量にもよるので一概には言えないが、開始剤の量を減ずると分子量の大きな共重合体が得られることが一般に知られており、上記した配合量の範囲内で所望の分子量の共重合体が得られる開始剤の配合量を選択すればよい。
【0018】
本発明の高分子化合物の中間原料となるランダム共重合体を合成する際のクロロメチルスチレン化合物とスチレンの使用割合は特に限定されないが、スチレンの使用量(質量)はクロロメチルスチレンの質量の通常4乃至99.5倍、好ましくは4.5乃至99.7倍である。共重合体の原料となるクロロメチルスチレン化合物とスチレンの使用割合を前記の範囲とすることにより、その硬化物が優れた誘電特性(低誘電率及び低誘電正接)を発現する本発明の高分子化合物が得られる。
【0019】
本発明の高分子化合物は、前記のランダム共重合体が有するクロロメチル基と1,3-ジアリルイソシアヌレートとを炭酸塩の存在下で脱塩酸反応させることにより得られる。
【0020】
上記炭酸塩の具体例として、例えば、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ルビジウム並びに炭酸セシウム等のアルカリ金属炭酸塩、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸ストロンチウム並びに炭酸バリウム等のアルカリ土類金属炭酸塩、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素ルビジウム並びに炭酸水素セシウム等のアルカリ金属炭酸水素塩、炭酸水素マグネシウム、炭酸水素カルシウム、炭酸水素ストロンチウム並びに炭酸水素バリウム等のアルカリ土類金属炭酸水素塩、及び炭酸アンモニウム並びに炭酸水素アンモニウム等のアンモニウム塩等を挙げることができる。本発明において、炭酸塩は上記例示に限定されるものではない。また、上記炭酸塩は、単独で、又は2種以上を組み合わせて用いられる。
炭酸塩は、1,3-ジアリルイソシアヌレート1モルに対して1モル以上、好ましくは、1.5モル以上が用いられる。
【0021】
尚、上記の炭酸塩と共にヨウ化物を用いることによって、1,3-ジアリルイソシアヌレートと前記ジハロゲン化合物との反応を促進することができる。
【0022】
ヨウ化物としては、例えば、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム等のアルカリ金属ヨウ化物を好ましい例として挙げることができる。しかし、本発明においてヨウ化物は上記に限定されるものではなく、上記以外にも種々の金属塩、例えば、ヨウ化銅等も好ましい例として挙げることができる。本発明において、上記ヨウ化物は、ランダム共重合体中のクロロメチル基1当量に対して、通常0.005乃至3モル部、好ましくは0.01乃至0.30.5モル部の範囲で用いられる。
【0023】
1,3-ジアリルイソシアヌレートと中間原料であるランダム共重合体との反応は、反応溶媒中で行う。反応溶媒としては、上記の反応を阻害しないものであれば、特に制限はなく、例えば、ベンゼン、トルエン並びにキシレン等の芳香族炭化水素類、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、クロロトリフルオロメタン、ジクロロエタン、クロロベンゼン並びにジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素類、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメトキシエタン並びにジエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類、ホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン並びにヘキサメチルホスホロトリアミド等のアミド類、及びジメチルスルホキシド等のスルホキシド類等を挙げることができる。これら反応溶媒は単独で、又は2種以上組み合わせて用いられる。
【0024】
1,3-ジアリルイソシアヌレートと中間原料であるランダム共重合体との反応は、反応に用いる溶媒にもよるが、通常、0乃至200℃の範囲、好ましくは、80乃至130℃の範囲の温度で行われ、反応時間は、通常30分間乃至48時間程度の範囲である。
1,3-ジアリルイソシアヌレートと中間原料であるランダム共重合体とを前記炭酸塩(及び前記ヨウ化物)の存在下に反応溶媒中、加熱下に反応させた後、得られた反応混合物を濾過して未溶解分を除去して得られた濾液を濃縮することによって、目的とする高分子化合物を得ることができる。
【0025】
こうして得られた本発明の高分子化合物の数平均分子量の範囲は、好ましくは11,000乃至300,000、より好ましくは15,000乃至200,000である。前記の範囲よりも分子量が小さい場合は低粗度銅箔に対する接着性が低くなり、大きい場合は粘度が高くなり塗工等が困難となることがある。
尚、本明細書における分子量は、GPCの測定結果に基づいてポリスチレン換算で算出した値を意味する。
【0026】
本発明の樹脂組成物は、本発明の高分子化合物及びラジカル開始剤を含有する。
好ましい熱ラジカル開始剤としては、例えばベンゾイルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、2,5-ジメチルヘキサン-2,5-ジハイドロパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3、ジ-t-ブチルパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイド、α,α-ビス(t-ブチルパーオキシ-m-イソプロピル)ベンゼン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジクミルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキシイソフタレート、t-ブチルパーオキシベンゾエート、2,2-ビス(t-ブチルパーオキシ)ブタン、2,2-ビス(t-ブチルパーオキシ)オクタン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、ジ(トリメチルシリル)パーオキサイド及びトリメチルシリルトリフェニルシリルパーオキサイド等の過酸化物が挙げられる。
【0027】
好ましい光ラジカル開始剤の例としてはベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル等のベンゾインとそのアルキルエーテル類;アセトフェノン、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン、1,1-ジクロロアセトフェノン等のアセトフェノン類;2-メチルアントラキノン、2-アミルアントラキノン、2-t-ブチルアントラキノン、1-クロロアントラキノン等のアントラキノン類;2,4-ジメチルチオキサントン、2,4-ジイソプロピルチオキサントン、2-クロロチオキサントン等のチオキサントン類;アセトフェノンジメチルケタール、ベンジルジメチルケタール等のケタール類;ベンゾフェノン等のベンゾフェノン類;2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルホリノ-プロパン-1-オンや2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)-ブタノン-1;アシルホスフィンオキサイド類およびキサントン類等が挙げられる。
【0028】
本発明の樹脂組成物におけるラジカル開始剤の含有量は、高分子化合物及び後述する任意成分であるラジカル反応性モノマー等の樹脂成分の合計100質量部に対して、通常0.1乃至10質量部、好ましくは0.1乃至8質量部である。
【0029】
本発明の樹脂組成物には、ラジカル反応性モノマーを併用してもよい。ラジカル反応性モノマーを併用することにより、本発明の樹脂組成物の反応性や硬化物の耐熱性などを向上することができる。尚、本発明におけるラジカル反応性モノマーとは、一分子中にラジカル反応性の官能基を一つ以上有し、かつその数平均分子量が500以下(数平均分子量の下限は概ね100程度)の化合物を意味する。
ラジカル反応性モノマーの具体例としては、アセナフチレン、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングルコールジメタクリレート、トリエチエレングルコールジメタクリレート、1,4-ブタンジオールジメタクリレート、ネオペンチルグルコールジメタクリレート、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート、1,9-ノナンジオールジメタクリレート、グリセリンジメタクリレート、2-ヒドロキシ-3-アクリロイロキシプロピルメタクリレート、ビスフェノールAのエチレンオキシド付加物メタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリシクロデカンジメタノールジメタクリレート、グリセリンジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、エトキシ化イソシアヌル酸トリアクリレート、ε-カプロラクトン変性トリス-(2-アクリロキシエチル)イソシアヌレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールポリアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート、ジビニルベンゼン、イソフタル酸ジビニル、N-フェニル-マレイミド、N-フェニル-メチルマレイミド、N-フェニル-クロロマレイミド、N-p-クロロフェニル-マレイミド、N-p-メトキシフェニル-マレイミド、N-p-メチルフェニル-マレイミド、N-p-ニトロフェニル-マレイミド、N-p-フェノキシフェニル-マレイミド、N-p-フェニルアミノフェニル-マレイミド、N-p-フェノキシカルボニルフェニル-マレイミド、1-マレイミド-4-アセトキシスクシンイミド-ベンゼン、4-マレイミド-4’-アセトキシスクシンイミド-ジフェニルメタン、4-マレイミド-4’-アセトキシスクシンイミド-ジフェニルエーテル、4-マレイミド-4’-アセトアミド-ジフェニルエーテル、2-マレイミド-6-アセトアミド-ピリジン、4-マレイミド-4’-アセトアミド-ジフェニルメタンおよびN-p-フェニルカルボニルフェニル-マレイミドN-エチルマレイミド、N-2.6-キシリルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド、N-2,3-キシリルマレイミド、キシリルマレイミド、2,6-キシレンマレイミド及び4,4’-ビスマレイミドジフェニルメタン等が挙げられるが、マレイミド基を官能基として有するものが好ましい。
これらのラジカル反応性モノマーは一種のみを用いてもよく、二種以上を混合して用いてもよい。
【0030】
本発明の樹脂組成物には、ラジカル反応性ポリマーを併用してもよい。ラジカル反応性ポリマーを併用することにより、本発明の樹脂組成物の接着性や硬化物の耐熱性などを向上することができる。尚、本発明のおけるラジカル反応性ポリマーとは、一分子中にラジカル反応性の官能基を一つ以上、好ましくは二つ以上有し、かつその数平均分子量が500以上の化合物を意味する。
ラジカル反応性ポリマーの具体例としては、スチレンとブタジエンの共重合体、或いは変性ポリフェニレンエーテル樹脂、或いはイミド延長されたビスマレインイミドが挙げられる。
【0031】
ラジカル反応性ポリマーであるスチレンとブタジエンの共重合体は、ランダム共重合体でもブロック共重合体でもよい。ポリマー中のスチレンとブタジエンの比率は通常10:90乃至90:10であり、その数平均分子量は通常1,000乃至10,000である。具体的な製品例としてはクレイバレー社のRicon100、Ricon181、Ricon184などが挙げられる。
【0032】
ラジカル反応性ポリマーである変性ポリフェニレンエーテル樹脂は、分子の両末端にメタクリロイル基、アクリロイル基又はビニル基を有し、かつ数平均分子量が1,000乃至10,000の化合物が好ましい。具体例としては、両末端にメタクリロイル基を有し、数平均分子量が約1,700である下記式(3)で表される化合物(製品名SA9000 SABICジャパン合同会社製)、或いは両末端にビニル基を有し、数平均分子量が約1,200あるいは2,200である下記式(4)で表される化合物(製品名OPE-2St 1200あるいはOPE-2St 2200 三菱瓦斯化学株式会社製)が挙げられる。
【0033】
【化3】
【0034】
【化4】
【0035】
ラジカル反応性ポリマーであるイミド延長されたビスマレインイミド樹脂は、特許公報5328006号などに記載されている公知の方法で得ることができる。具体的には脂肪族ジアミンと芳香族或いは脂肪族のテトラカルボン酸二酸無水物とを、脂肪族ジアミンが過剰になるモル比で、有機溶剤中で酸触媒を用いて脱水縮合反応を行った後、高分子末端中に存在するアミノ基と無水マレイン酸とを脱水縮合し、触媒を水洗によって除去することにより得ることができる。
【0036】
脂肪族ジアミンの具体例としては1,10-ジアミノデカン;1,12-ジアミノドデカン;ダイマージアミン;1,2-ジアミノ-2-メチルプロパン;1,2-ジアミノシクロヘキサン;1,2-ジアミノプロパン;1,3-ジアミノプロパン;1,4-ジアミノブタン;1,5-ジアミノペンタン;1,7-ジアミノヘプタン;1,8-ジアミノメンタン;1,8-ジアミノオクタン;1,9-ジアミノノナン;3,3’-ジアミノ-N-メチルジプロピルアミン;ジアミノマレオニトリル;1,3-ジアミノペンタン;9,10-ジアミノフェナントレンなどが挙げれられるが、特にダイマージアミンが好ましい。
【0037】
芳香族或いは脂肪族のテトラカルボン酸二酸無水物の具体例としては、無水ピロメリット酸、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,4,9,10-ペリレンテトラカルボン酸二無水物、ビシクロ(2.2.2)オクト-7-エン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、ジエチレントリアミンペンタ酢酸二無水物、エチレンジアミン四酢酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、4,4’-オキシジフタリックス無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、2,2’-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物、4,4’-ビスフェノールA ジフタル酸無水物、5-(2,5-ジオキシテトラヒドロ)-3-メチル-3-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン無水物、エチレングリコールビス(トリメリット酸無水物)、ヒドロキノンジフタル酸無水物、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物(CBDA)、1,2-ジメチル-1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-テトラメチル-1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、1,1’-ビシクロヘキサン-3,3’,4,4’-テトラカルボン酸-3,4:3’,4’-二無水物、4-(2,5-ジオキソテトラヒドロフラン-3-イル)-1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン-1,2-ジカルボン酸無水物、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロフリル)-3-メチル-3-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、2,3,4,5-テトラヒドロフランテトラカルボン酸二無水物、3,5,6-トリカルボキシ-2-ノルボルナン酢酸二無水物などが挙げられるが特に無水ピロメリット酸、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物が好ましい。具体的な製品名としてはデザイナーモレキュールズインク社のBMI-3000が挙げられる。
【0038】
本発明の樹脂組成物には、有機溶剤を併用してもよい。有機溶剤の具体例としては、トルエン及びキシレン等の芳香族系溶剤、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルモノアセテート及びプロピレングリコールモノブチルエーテル等のエーテル系溶剤、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン及びシクロヘキサノン等のケトン系溶剤、γ-ブチロラクトン及びγ-バレロラクトン等のラクトン類、N-メチルピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド及びN,N-ジメチルイミダゾリジノン等のアミド系溶剤、テトラメチレンスルフォン等のスルフォン類、等が挙げられる。本発明の樹脂組成物における有機溶剤の含有量は、樹脂組成物中に通常90質量%以下、好ましくは30乃至80質量%である。
【0039】
本発明の樹脂組成物には、保存安定性を向上させるために重合禁止剤を併用してもよい。併用し得る重合禁止剤は一般に公知のものであれば特に限定されず、例えば、ハイドロキノン、メチルハイドロキノン、p-ベンゾキノン、クロラニル及びトリメチルキノン等のキノン類や、芳香族ジオール類、ジ-t-ブチルヒドロキシトルエン等が挙げられる。
【0040】
本発明の樹脂組成物は、その用途に応じて所望の性能を付与させる目的で本来の性能を損なわない範囲の量の充填剤や添加剤を配合して用いることができる。充填剤は繊維状であっても粉末状であってもよく、シリカ、カーボンブラック、アルミナ、タルク、雲母、ガラスビーズ、ガラス中空球等を挙げることができる。
【0041】
本発明の樹脂組成物には、難燃性化合物、添加剤などの併用も可能である。これらは一般に使用されているものであれば、特に限定されるものではない。例えば、難燃性の化合物では、4,4-ジブロモビフェニルなどの臭素化合物、リン酸エステル、リン酸メラミン、リン含有エポキシ樹脂、メラミンやベンゾグアナミンなどの窒素化合物、オキサジン環含有化合物、シリコン系化合物等が挙げられる。添加剤としては、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光重合開始剤、蛍光増白剤、光増感剤、染料、顔料、増粘剤、滑剤、消泡剤、分散剤、レベリング剤、光沢剤等、所望に応じて適宜組み合わせて使用することも可能である。
【0042】
本発明の樹脂組成物は、さまざまな基材上に塗布あるいは含浸して使用することができる。例えば熱ラジカル開始剤を用いた場合、PETフィルム上に塗布することにより多層プリント基板の層間絶縁層として、ポリイミドフィルム上に塗布することによりカバーレイとして、また銅箔上に塗布乾燥することにより樹脂付き銅箔として、使用することができる。またガラスクロスやガラスペーパー、カーボンファイバー、各種不織布などに含浸させることにより、プリント配線基板やCFRPのプリプレグとして使用することができる。さらに光ラジカル開始剤を用いることにより各種レジストとして使用することもできる。
【0043】
本発明の層間絶縁層やカバーレイ、樹脂付き銅箔、プリプレグなどはホットプレス機などで加温加圧成形することにより、硬化物とすることができる。
【実施例
【0044】
以下、本発明を実施例、比較例により更に詳細に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0045】
実施例1(本発明の高分子化合物の合成)
(工程1)下記式(5)で表されるランダム共重合体(共重合体1)の合成
温度計、冷却管、窒素ガス導入管、撹拌器を取り付けたフラスコに、スチレン98.47部、4-クロロメチルスチレン1.53部、アゾビスイソブチロニトリル0.05部及びトルエン40部を加え、窒素雰囲気下125℃で7時間反応させることにより、下記式(5)で表される共重合体1のトルエン溶液を得た。このトルエン溶液にジメチルスルホキシドを50部加え、加熱減圧下でトルエン、未反応スチレン、及びジメチルスルホキシドの一部を留去した。前記した「ジメチルスルホキシドの添加と加熱減圧下での溶剤留去」を更に4回繰り返すことにより、ランダム共重合体のジメチルスルホキシド溶液120部を得た。この溶液をガスクロマトグラフィーで分析したところ、トルエンとスチレンは存在していなかった。この溶液の一部を減圧下で加温して乾燥質量を固形分量として算出した共重合体1の得量は70.2部であり、未反応スチレンが28.27部だったことを考慮すると、得られたランダム共重合体はスチレン70.47部と4-クロロメチルスチレン1.53部の共重合物であった。また、前記乾燥質量の算出に供したサンプルの数平均分子量は92,000、重量平均分子量は245,000であった。4-クロロメチルスチレンの共重合比と数平均分子量から式(5)におけるnの値は869、mの値は13と算出される。
【0046】
【化5】
【0047】
(工程2)下記式(6)で表される本発明の高分子化合物(高分子化合物1)の合成
工程1で得られた共重合体1のジメチルスルホキシド溶液に更にジメチルスルホキシドを加え、共重合体1の濃度を20質量%に調整した後、炭酸カリウム2.07部、ヨウ化カリウム0.166部及び1,3-ジアリルイソシアヌレート2.09部を加えて撹拌下110℃で8時間反応させた。反応液を補足粒子径1μmの濾紙で加圧濾過して生成塩などの固形分を除去し、濾過液からロータリエバポレーターによって一旦過剰のジメチルスルホキシドを留去した後、再度ジメチルスルホキシドを追加することにより、下記式(6)で表される本発明の高分子化合物(高分子化合物1)を25質量%含むジメチルスルホキシド溶液288部を得た。得られた高分子化合物1の数平均分子量は93,000、重量平均分子量は247,000であった。
【0048】
【化6】
【0049】
実施例2(本発明の樹脂組成物の調製)
実施例1で得られた本発明の高分子化合物1のジメチルスルホキシド溶液10部に、ラジカル開始剤としてジクミルパーオキサイド0.05部を加えて均一に混合することにより本発明の樹脂組成物1を得た。
【0050】
実施例3(本発明の樹脂組成物の調製)
実施例1で得られた本発明の高分子化合物1のジメチルスルホキシド溶液10部に、ラジカル開始剤としてジクミルパーオキサイド0.05部及びブタジエンとスチレンの共重合体ライコン100(クレイバレー社製)0.5部を加えて均一に混合することにより本発明の樹脂組成物2を得た。
【0051】
実施例4(本発明の樹脂組成物の調製)
実施例1で得られた本発明の高分子化合物1のジメチルスルホキシド溶液10部に、ラジカル開始剤としてジクミルパーオキサイド0.05部及び変性ポリフェニレンエーテル樹脂SA-9000(サビック合同会社製)0.5部を加えて均一に混合することにより本発明の樹脂組成物3を得た。
【0052】
実施例5(本発明の樹脂組成物の調製)
実施例1で得られた本発明の高分子化合物1のジメチルスルホキシド溶液10部に、ラジカル開始剤としてジクミルパーオキサイド0.05部及びイミド延長されたビスマレインイミド樹脂BMI-3000(デザイナーモレキュールズインク社製)0.5部を加えて均一に混合することにより本発明の樹脂組成物4を得た。
【0053】
(樹脂組成物の硬化物の誘電特性評価)
実施例2乃至5で得られた本発明の樹脂組成物1乃至4を、アプリケーターを用いて厚さ18μmの銅箔の鏡面上に厚さ280μmでそれぞれ塗布し、90℃で10分間加熱して溶剤を乾燥させて銅箔上にフィルム状接着剤を設けた。前記で得られた銅箔上のフィルム状接着剤を、真空オーブンを用いて180℃で1時間加熱硬化させた後、エッチング液に浸して銅箔を除去した。実施例2乃至5の樹脂組成物からなるフィルム状接着剤からは、フィルムとして取り扱い可能な厚さ70μmの硬化物が得られたため、前記で得られた硬化物を用いて誘電特性を評価した。誘電特性は、ネットワークアナライザー8719ET(アジレントテクノロジー製)を用いて、10GHzにおける誘電率と誘電正接を空洞共振法で測定した結果により評価した。結果を表1に示した。
【0054】
(樹脂組成物の硬化物の接着強度評価)
実施例2乃至5で得られた本発明の樹脂組成物1乃至4を、アプリケーターを用いて厚さ12μmの高周波用低粗度銅箔(CF-T4X-SV:福田金属箔粉株式会社製)のマット面上に厚さ50μmで塗布し、90℃で10分間加熱して溶剤を乾燥させることにより本発明の樹脂組成物からなるフィルム状接着剤を有する銅箔を得た。前記で得られた銅箔の接着剤面上に、前記と同じ銅箔のマット面を重ねあわせて真空プレス中で3MPaの圧力で1時間加熱硬化させた後、銅箔間の90°引きはがし強さ(接着強度)をオートグラフAGX-50(株式会社島津製作所製)を用いて測定した。結果を表1に示した。また張り合わせた銅箔を3cm角に切り出し、288℃の半田浴に浮かべて、銅箔上に膨れ・剥がれなどの異常が発生するまでの時間を測定した。
【0055】
【表1】
【0056】
以上のように、本発明の高分子化合物は、ラジカル開始剤を併用して硬化することによりフレキシブルなフィルムとすることが可能であり、かつ該硬化物は優れた誘電特性、接着性及び耐熱性を示した。