(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-30
(45)【発行日】2025-02-07
(54)【発明の名称】水性塗料組成物および塗装物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C09D 201/06 20060101AFI20250131BHJP
C09D 7/65 20180101ALI20250131BHJP
C09D 7/60 20180101ALI20250131BHJP
B05D 3/02 20060101ALI20250131BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20250131BHJP
【FI】
C09D201/06
C09D7/65
C09D7/60
B05D3/02 Z
B05D7/24 302P
B05D7/24 303E
(21)【出願番号】P 2021211198
(22)【出願日】2021-12-24
【審査請求日】2023-12-21
(73)【特許権者】
【識別番号】593135125
【氏名又は名称】日本ペイント・オートモーティブコーティングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132252
【氏名又は名称】吉田 環
(74)【代理人】
【識別番号】100088801
【氏名又は名称】山本 宗雄
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 知来
【審査官】上坊寺 宏枝
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-143320(JP,A)
【文献】国際公開第2017/131101(WO,A1)
【文献】特表2009-516638(JP,A)
【文献】特開2014-214219(JP,A)
【文献】国際公開第2011/135993(WO,A1)
【文献】特開2019-006036(JP,A)
【文献】特開2008-115254(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0217471(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第102134296(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第105176365(CN,A)
【文献】特開2019-56019(JP,A)
【文献】特開2019-56020(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-10/00、101/00-201/10
B05D 3/00、3/02、7/24
C08F 20/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一液型の水性塗料組成物であって、
(A)水酸基およびカルボキシ基を有する水性樹脂と、
(B)親水化変性カルボジイミド化合物と、
(C)塩基性化合物と、を含み、
前記(A)水性樹脂のガラス転移点は、0℃以上20℃以下であり、
前記(B)親水化変性カルボジイミド化合物は、分子内に、少なくとも1個のカルボジイミド基およびポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルから水酸基を除いた構造を有し、
前記水性塗料組成物のpHは、8.5以上10未満であり、
前記水性塗料組成物は、ポリイソシアネート硬化剤を含まないか、あるいは、前記水性塗料組成物の固形分100質量部に対して1質量部未満含む、水性塗料組成物。
【請求項2】
前記(C)塩基性化合物の含有量は、前記水性塗料組成物の固形分100質量部に対して、1質量部以上10質量部以下である、請求項1に記載の水性塗料組成物。
【請求項3】
前記(C)塩基性化合物の沸点は、180℃以下である、請求項1または2に記載の水性塗料組成物。
【請求項4】
前記(C)塩基性化合物は、アンモニアおよびアミン化合物よりなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の水性塗料組成物。
【請求項5】
前記(A)水性樹脂は、樹脂固形分換算で、20mgKOH/g以上100mgKOH/g以下の水酸基価、および、5mgKOH/g以上80mgKOH/g以下の酸価を有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の水性塗料組成物。
【請求項6】
前記(A)水性樹脂の酸基の当量Eaに対する、前記(B)親水化変性カルボジイミド化合物のカルボジイミド基の当量Ecの比:Ec/Eaは、0.1以上1.5以下である、請求項1~5のいずれか一項に記載の水性塗料組成物。
【請求項7】
前記(A)水性樹脂の含有量は、前記水性塗料組成物の固形分100質量部に対して、30質量部以上75質量部以下である、請求項1~6のいずれか一項に記載の水性塗料組成物。
【請求項8】
前記(B)親水化変性カルボジイミド化合物の含有量は、前記水性塗料組成物の固形分100質量部に対して、5質量部以上15質量部以下である、請求項1~7のいずれか一項に記載の水性塗料組成物。
【請求項9】
前記(B)親水化変性カルボジイミド化合物は、下記一般式(α):
-OCONH-X-Q-Y (α)
(式中、Xは、それぞれ独立して、少なくとも1個のカルボジイミド基を含有する2官能性有機基であり、Yは、それぞれ独立して、ポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルから水酸基を除いた構造を有し、Qは、-NHCOO-またはNHCONH-である。)
で表される構造単位を1以上有する、請求項1~8のいずれか一項に記載の水性塗料組成物。
【請求項10】
前記(B)親水化変性カルボジイミド化合物は、
下記一般式(I):
【化1】
(式中、Xは、それぞれ独立して、少なくとも1個のカルボジイミド基を含有する2官能性有機基であり、Yは、それぞれ独立して、ポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルから水酸基を除いた構造を有し、Zは、数平均分子量200以上5,000以下の2官能ポリオールから水酸基を除いた構造を有する。)、
下記一般式(II):
【化2】
(式中、Xは、それぞれ独立して、少なくとも1個のカルボジイミド基を含有する2官能性有機基であり、Yは、それぞれ独立して、ポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルから水酸基を除いた構造を有し、R
0は、水素、メチル基、またはエチル基であり、R
1は、それぞれ独立して、炭素数4以下のアルキレン基であり、nは0または1であり、mは0~60である。)、および、
下記一般式(III):
【化3】
(式中、Xは、それぞれ独立して、少なくとも1個のカルボジイミド基を含有する2官能性有機基であり、Yは、それぞれ独立して、ポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルから水酸基を除いた構造を有する。)
で表される化合物よりなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の水性塗料組成物。
【請求項11】
請求項1~10のいずれかに記載の水性塗料組成物を被塗物に塗装して、未硬化の塗膜を形成する工程と、
前記未硬化の塗膜を75℃以上100℃以下の温度で加熱して、硬化された塗膜を得る工程と、を備える、塗装物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性塗料組成物および塗装物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、一液型の水性塗料の硬化剤として、得られる塗膜物性の観点から、ブロックイソシアネートが用いられている。しかし、ブロックイソシアネートを含む塗料は、貯蔵安定性が十分でない場合がある。
【0003】
特許文献1および2は、一液型の水性塗料あるいは水性樹脂組成物の硬化剤として、カルボジイミド化合物を用いることを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2021-143320号公報
【文献】特開2018-104605号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の水性塗料は貯蔵安定性に劣る。特許文献2の水性樹脂組成物は、耐水性に劣る場合がある。さらに、特許文献2の水性塗料組成物は、使い捨てされる物品に使用されるものであり、屋外で長期間にわたり使用することは想定されていない。本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、貯蔵安定性に優れる、低温硬化可能な一液型の水性塗料組成物、および耐水性に優れる塗装物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明は下記態様を提供する。
[1]
一液型の水性塗料組成物であって、
(A)水酸基およびカルボキシ基を有する水性樹脂と、
(B)親水化変性カルボジイミド化合物と、
(C)塩基性化合物と、を含み、
前記(A)水性樹脂のガラス転移点は、0℃以上20℃以下であり、
前記(B)親水化変性カルボジイミド化合物は、分子内に、少なくとも1個のカルボジイミド基およびポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルから水酸基を除いた構造を有し、
前記水性塗料組成物のpHは、8.5以上10未満であり、
前記水性塗料組成物は、ポリイソシアネート硬化剤を含まないか、あるいは、前記水性塗料組成物の固形分100質量部に対して1質量部未満含む、水性塗料組成物。
[2]
前記(C)塩基性化合物の含有量は、前記水性塗料組成物の固形分100質量部に対して、1質量部以上10質量部以下である、上記[1]に記載の水性塗料組成物。
[3]
前記(C)塩基性化合物の沸点は、180℃以下である、上記[1]または[2]に記載の水性塗料組成物。
[4]
前記(C)塩基性化合物は、アンモニアおよびアミン化合物よりなる群から選択される少なくとも1種を含む、上記[1]~[3]のいずれかに記載の水性塗料組成物。
[5]
前記(A)水性樹脂は、樹脂固形分換算で、20mgKOH/g以上100mgKOH/g以下の水酸基価、および、5mgKOH/g以上80mgKOH/g以下の酸価を有する、上記[1]~[4]のいずれかに記載の水性塗料組成物。
[6]
前記(A)水性樹脂の酸基の当量Eaに対する、前記(B)親水化変性カルボジイミド化合物のカルボジイミド基の当量Ecの比:Ec/Eaは、0.1以上1.5以下である、上記[1]~[5]のいずれかに記載の水性塗料組成物。
[7]
前記(A)水性樹脂の含有量は、前記水性塗料組成物の固形分100質量部に対して、30質量部以上75質量部以下である、上記[1]~[6]のいずれかに記載の水性塗料組成物。
[8]
前記(B)親水化変性カルボジイミド化合物の含有量は、前記水性塗料組成物の固形分100質量部に対して、5質量部以上15質量部以下である、上記[1]~[7]のいずれかに記載の水性塗料組成物。
[9]
前記(B)親水化変性カルボジイミド化合物は、下記一般式(α):
-OCONH-X-Q-Y (α)
(式中、Xは、それぞれ独立して、少なくとも1個のカルボジイミド基を含有する2官能性有機基であり、Yは、それぞれ独立して、ポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルから水酸基を除いた構造を有し、Qは、-NHCOO-またはNHCONH-である。)
で表される構造単位を1以上有する、上記[1]~[8]のいずれかに記載の水性塗料組成物。
[10]
前記(B)親水化変性カルボジイミド化合物は、
下記一般式(I):
【化1】
(式中、Xは、それぞれ独立して、少なくとも1個のカルボジイミド基を含有する2官能性有機基であり、Yは、それぞれ独立して、ポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルから水酸基を除いた構造を有し、Zは、数平均分子量200以上5,000以下の2官能ポリオールから水酸基を除いた構造を有する。)、
下記一般式(II):
【化2】
(式中、Xは、それぞれ独立して、少なくとも1個のカルボジイミド基を含有する2官能性有機基であり、Yは、それぞれ独立して、ポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルから水酸基を除いた構造を有し、R
0は、水素、メチル基、またはエチル基であり、R
1は、それぞれ独立して、炭素数4以下のアルキレン基であり、nは0または1であり、mは0~60である。)、および、
下記一般式(III):
【化3】
(式中、Xは、それぞれ独立して、少なくとも1個のカルボジイミド基を含有する2官能性有機基であり、Yは、それぞれ独立して、ポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルから水酸基を除いた構造を有する。)
で表される化合物よりなる群から選択される少なくとも1種を含む、上記[1]~[9]のいずれかに記載の水性塗料組成物。
[11]
上記[1]~[10]のいずれかに記載の水性塗料組成物を被塗物に塗装して、未硬化の塗膜を形成する工程と、
前記未硬化の塗膜を75℃以上100℃以下の温度で加熱して、硬化された塗膜を得る工程と、を備える、塗装物の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、貯蔵安定性に優れる、低温硬化可能な一液型の水性塗料組成物、および耐水性に優れる塗装物の製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[水性塗料組成物]
本実施形態では、水性樹脂の硬化剤としてカルボジイミド化合物を用い、塩基性化合物を併用する。塩基性化合物により、水性樹脂が有するカルボキシ基が中和されるため、カルボジイミド化合物との反応が抑制される。
【0009】
さらに、水性塗料組成物のpHを8.5以上10未満に調整する。pHが8.5以上であることにより、水性塗料組成物中における水性樹脂のカルボキシ基の反応が抑制されて、水性塗料組成物は長期間(例えば、1か月以上)にわたって安定となる。
【0010】
水性塗料組成物のpHが10未満であることにより、水性塗料組成物に含まれる成分に与える影響が小さくなって、所望の塗膜が得られる。例えば、pHが10未満であることにより、光輝性顔料として含まれ得るアルミ片の黒化が抑制される。
【0011】
加えて、水性樹脂のガラス転移点(Tg)を0℃以上20℃以下にする。これにより、カルボジイミド化合物を硬化剤として使用する系において、低温硬化性を確保しながら、得られる塗膜の物性を向上することができる。例えば、本実施形態に係る水性塗料組成物は、低温(例えば、100℃以下)で硬化させることができ、かつ、得られる塗膜は、優れた耐水性を有する。
【0012】
すなわち、本実施形態に係る水性塗料組成物は、一液型であって、(A)水酸基およびカルボキシ基を有する水性樹脂と、(B)親水化変性カルボジイミド化合物と、(C)塩基性化合物と、を含む。(A)水性樹脂のガラス転移点は、0℃以上20℃以下である。水性塗料組成物のpHは、8.5以上10未満である。
【0013】
(B)親水化変性カルボジイミド化合物は、分子内に、少なくとも1個のカルボジイミド基およびポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルから水酸基を除いた構造を有する。
【0014】
水性塗料組成物は、ポリイソシアネート硬化剤を含まないか、あるいは、水性塗料組成物の固形分100質量部に対して1質量部未満含む。ポリイソシアネート硬化剤は、水性樹脂の水酸基と反応し得る。このような硬化剤がほとんど含まれないため、貯蔵安定性はより向上する。
【0015】
本実施形態に係る水性塗料組成物は、調製後、例えば常温(20℃から25℃の間)で1か月以上2か月程度保管しても使用可能であって、耐水性に優れる塗膜を形成することができる。
【0016】
水性塗料組成物のpHは、9.9以下であってよく、9.8以下であってよい。一般的な水性塗料のpHは8.0程度である。pHの調整は、塩基性化合物によって行われる。
【0017】
水性塗料組成物の固形分濃度は、特に限定されない。水性塗料組成物の固形分濃度は、例えば、15質量%以上60質量%以下であってよい。
【0018】
本実施形態に係る水性塗料組成物は、着色塗膜の形成に適している。着色塗膜は、1層または2層以上のいわゆる中塗り塗膜であり得、1層または2層以上のいわゆるベース塗膜であり得、これらの組み合わせであり得る。
【0019】
(A)水酸基およびカルボキシ基を有する水性樹脂
水性樹脂とは、水に溶解することのできる樹脂あるいは水に分散することのできる樹脂である。本実施形態で用いられる樹脂は、カルボキシ基を有しているため、水溶性あるいは水分散性を有する。(A)水性樹脂は、水分散性であってよい。
【0020】
水性媒体に分散している(A)水性樹脂の体積平均粒子径は、例えば、0.01μm以上1μm以下である。この範囲であると、安定して水に分散できて、さらに、得られる塗膜の外観が良好になり得る。(A)水性樹脂の体積平均粒子径は、原料モノマーの組成および/または重合条件によって調節される。
【0021】
(A)水性樹脂のカルボキシ基は、(B)親水化変性カルボジイミド化合物と反応して、架橋構造を形成する。これにより、塗膜性能(特に耐水性)が向上する。
【0022】
(A)水性樹脂のTgは、0℃以上20℃以下である。(A)水性樹脂のTgが過度に低いと、塗膜に水などの分子量の小さい成分が浸透し易くなって、耐水性が低下する。さらに、得られる塗膜の強度が小さくなったり、塗膜を成形することが困難になったりする。(A)水性樹脂のTgが過度に高いと、硬化後の冷却工程における体積収縮が大きくなって、内部応力が発生する。内部応力は、塗膜の密着性を低下させる。特に、(A)水性樹脂のTgが硬化温度より高いと、応力が緩和され難いため、塗膜が割れる原因になり得る。そのため、低温硬化性の水性塗料組成物において、塗膜形成樹脂のTgの設定は重要である。(A)水性樹脂のTgが0℃以上20℃以下であると、低温硬化が可能であって、かつ、優れた耐水性を有する塗膜が得られる。
【0023】
(A)水性樹脂のTgは、3℃以上であってよく、5℃以上であってよい。(A)水性樹脂のTgは、18℃以下であってよく、15℃以下であってよい。
【0024】
(A)水性樹脂のTgは、原料モノマーの種類および量から計算によって求めることができる。(A)水性樹脂のTgは、また、示差走査型熱量計(DSC)によって測定することができる。
【0025】
(A)水性樹脂は、例えば、樹脂固形分換算で20mgKOH/g以上100mgKOH/g以下の水酸基価を有する。これにより、被塗物に対する密着性を付与するためである。水酸基価は、30mgKOH/g以上であってよく、80mgKOH/g以下であってよい。
【0026】
(A)水性樹脂は、例えば、樹脂固形分換算で5mgKOH/g以上80mgKOH/g以下の酸価を有する。これにより、(B)親水化変性カルボジイミド化合物との反応効率が向上し得、また、貯蔵安定性がより高まり易い。酸価は、10mgKOH/g以上であってよく、60mgKOH/g以下であってよい。
【0027】
(A)水性樹脂の数平均分子量は、例えば、5万以上である。(A)水性樹脂の数平均分子量は、20万以上であってよく、30万以上であってよい。
【0028】
数平均分子量は、ポリスチレン標準サンプル基準を用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により測定される。
【0029】
(A)水性樹脂の含有量は、例えば、水性塗料組成物の固形分100質量部に対して、30質量部以上75質量部以下である。分子量の比較的大きな水性樹脂が固形分の多くの割合を占めることにより、塗膜形成中にその構成成分が移行することが抑制され易くなる。その結果、凹凸の形成が抑制されて意匠性が向上し得る。
【0030】
(A)水性樹脂の含有量は、水性塗料組成物の固形分100質量部に対して、40質量部以上であってよく、50質量部以上であってよい。(A)水性樹脂の含有量は、水性塗料組成物の固形分100質量部に対して、95質量部以下であってよく、90質量部以下であってよい。
【0031】
(A)水性樹脂などの10万以上の数平均分子量を有する構成成分(以下、高分子量成分と称する。)の全含有量が、水性塗料組成物の固形分100質量部に対して、60質量部以上95質量部以下であってよい。
【0032】
意匠性の観点から、分子量の小さい構成成分の含有量は少ない方が望ましい。例えば、1,000以下の数平均分子量を有する構成成分(以下、低分子量成分と称する。)の含有量は、水性塗料組成物の固形分100質量部に対して、30質量部以下であってよく、20質量部以下であってよく、10質量部以下であってよい。
【0033】
(A)水性樹脂の種類は特に限定されない。(A)水性樹脂は、単一の樹脂であってよく、異種の樹脂の混合物であってよい。(A)水性樹脂は、製造あるいは入手が容易な点で、水酸基およびカルボキシ基を有する、アクリル樹脂およびポリエステル樹脂の少なくとも一方であってよい。塗膜物性の調整が容易な点で、上記(A)水性樹脂は、少なくとも上記アクリル樹脂を含んでいてよい。
【0034】
水性塗料組成物が中塗り用である場合、(A)水性樹脂として、例えば、上記のアクリル樹脂およびポリエステル樹脂の混合物が用いられる。アクリル樹脂およびポリエステル樹脂の比率は、アクリル樹脂/ポリエステル樹脂=5/1~1/1であってよい。水性塗料組成物がベース用である場合、(A)水性樹脂として、例えば、上記のアクリル樹脂が用いられる。
【0035】
(水酸基およびカルボキシ基を有するアクリル樹脂)
水酸基およびカルボキシ基を有するアクリル樹脂は、例えば、水酸基を有するα,β-エチレン性不飽和モノマー(以下、第1モノマーと称する場合がある。)とカルボキシ基を有するα,β-エチレン性不飽和モノマー(以下、第2モノマーと称する場合がある。)とのアクリル共重合により得られる。
【0036】
第1モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル、アリルアルコール、メタクリルアルコール、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチルとε-カプロラクトンとの付加物が挙げられる。第1モノマーは、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル、および、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチルとε-カプロラクトンとの付加物よりなる群から選択される少なくとも1種であってよい。
【0037】
「(メタ)アクリル」とは、アクリルとメタクリルとの両方を意味する。
【0038】
第2モノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸二量体、クロトン酸、2-アクリロイルオキシエチルフタル酸、2-アクリロイルオキシエチルコハク酸、ω-カルボキシ-ポリカプロラクトンモノ(メタ)アクリレート、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸が挙げられる。第2モノマーは、アクリル酸および/またはメタクリル酸であってよい。
【0039】
アクリル共重合の際、必要に応じて、その他のα,β-エチレン性不飽和モノマー(以下、第3モノマーと称する場合がある。)を用いてよい。第3モノマーとしては、(メタ)アクリル酸エステル(例えば(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸ラウリル、アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、メタクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸t-ブチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタジエニル、(メタ)アクリル酸ジヒドロジシクロペンタジエニルなど)、重合性アミド化合物(例えば、(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N-ブトキシメチル(メタ)アクリルアミドなど)が挙げられる。
【0040】
(A)水性樹脂の調製法は特に限定されない。(A)水性樹脂は、例えば、溶液重合により重合体を得た後、水性化する方法、あるいは、水性媒体中で乳化重合を行って、エマルションを得る方法が挙げられる。
【0041】
<溶液重合>
溶液重合は、例えば、加熱条件下、第1および第2モノマーの混合物を、撹拌されている溶媒中へ、重合開始剤と共に滴下することにより行われる。溶液重合は、例えば、温度60℃から160℃、滴下時間0.5時間から10時間の条件で行われる。第1および第2モノマーは、2段階に分けて重合されてもよい。
【0042】
重合開始剤は、通常の重合に用いられるものであれば特に限定されない。例えば、アゾ系化合物や過酸化物が挙げられる。モノマー混合物100質量部に対する重合開始剤の量は、例えば、0.1質量部以上18質量部以下であり、0.3質量部以上12質量部以下であってよい。
【0043】
溶媒は、反応に悪影響を与えない限り特に限定されない。溶媒としては、例えば、アルコール、ケトン、エーテルおよび炭化水素系溶媒が挙げられる。さらに、分子量を調節するために、連鎖移動剤を添加してもよい。連鎖移動剤としては、例えば、ラウリルメルカプタンのようなメルカプタン、α-メチルスチレンダイマーが挙げられる。
【0044】
溶液重合で得られたアクリル樹脂は、塩基性化合物によって中和される。これにより、水分散性のアクリル樹脂が得られる。塩基性化合物としては、後述するものが使用できる。なかでも、水分散化のための塩基性化合物は、アンモニア、メチルアミン、エチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ジメチルエタノールアミン、ジエタノールアミン、ジエチルアミノエタノール、トリエタノールアミンであってよい。上記塩基性化合物は、例えば、溶液重合で得られたアクリル樹脂が有するカルボキシ基の中和率が60%以上100%以下になる量、添加される。中和率がこの範囲であると、水分散性が向上する。
【0045】
中和率は、カルボキシ基に対する塩基性化合物の使用当量と同意義である。塩基性化合物の使用当量は、下記式により算出される。
【0046】
上記のカルボキシ基の中和は、カルボキシ基含有樹脂の水性化のために通常行われる処理である。しかし、このようにして中和された水性樹脂は、8.0程度のpHを有する水性塗料組成物に用いられる。pHが8.0程度であると、カルボキシ基を中和状態(例えば、-COO-NH4
+)に維持することが難しく、貯蔵安定性を向上させることは期待できない。
【0047】
<乳化重合>
乳化重合は、例えば、加熱条件下、水、または必要に応じてアルコールなどのような有機溶剤を含む水性媒体に乳化剤を溶解させ、これを加熱および撹拌しながら、第1および第2モノマーの混合物を重合開始剤とともに滴下することにより行われる。モノマーの混合物は、乳化剤と水とを用いて予め乳化されていてもよい。
【0048】
乳化重合を行う場合、第3モノマーとして、架橋性モノマーが使用できる。架橋性モノマーは、分子内に2つ以上のラジカル重合可能なエチレン性不飽和基を有している。例えば、ジビニルベンゼン、アリル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0049】
重合開始剤としては、アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)などのアゾ系の油性化合物;アニオン系の4,4’-アゾビス(4-シアノ吉草酸)、2,2-アゾビス(N-(2-カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジン、カチオン系の2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)などの水性化合物;ベンゾイルパーオキサイド、パラクロロベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、t-ブチルパーベンゾエートなどのレドックス系の油性過酸化物;過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなどの水性過酸化物、が挙げられる。
【0050】
乳化剤としては、当業者が通常用いる一般的な乳化剤を用いてよい。乳化剤として、例えば、アントックス(Antox)MS-60(日本乳化剤社製)、エレミノールJS-2(三洋化成工業社製)、アデカリアソープNE-20(旭電化社製)、アクアロンHS-10(第一工業製薬社製)、ラテムルPD-104(花王社製)などの反応性乳化剤が挙げられる。さらに、分子量を調節するために、上記の連鎖移動剤を添加してもよい。
【0051】
反応温度は、重合開始剤に応じて設定される。例えば、アゾ系開始剤や過酸化物を用いる場合、反応温度は60℃から90℃であってよく、レドックス系を用いる場合、反応温度は30℃から70℃であってよい。反応時間は、例えば、1時間から8時間である。重合開始剤の量は、モノマー混合物100質量部に対して、0.1質量部以上5質量部以下であってよい。乳化重合は、多段階で行ってよく、二段階で行ってよい。例えば、モノマー混合物の一部を乳化重合し、ここにモノマー混合物の残部を添加して、さらに乳化重合してもよい。
【0052】
(水酸基およびカルボキシ基を有するポリエステル樹脂)
水酸基およびカルボキシ基を有するポリエステル樹脂は、例えば、多価アルコール成分と多塩基酸成分との縮合反応により得られる。得られたポリエステル樹脂は、上記の塩基性化合物で中和することにより、水性化される。
【0053】
多価アルコール成分としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、1,9-ノナンジオール、1,4-シクロヘキサンジオール、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールエステル、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2,2,4-トリメチルペンタンジオールが挙げられる。
【0054】
多塩基酸成分としては、例えば、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、無水トリメリット酸、テトラクロロ無水フタル酸、無水ピロメリット酸などの芳香族多価カルボン酸;これらの酸無水物;ヘキサヒドロ無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、1,4-および1,3-シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環族多価カルボン酸;これらの無水物;無水マレイン酸、フマル酸、無水コハク酸、アジピン酸、セバチン酸などの脂肪族多価カルボン酸;これらの無水物、が挙げられる。
【0055】
必要に応じて、安息香酸、t-ブチル安息香酸などの一塩基酸を併用してもよい。
反応成分として、1価アルコール、カージュラE(商品名:シエル化学製)などのモノエポキサイド化合物;β-プロピオラクトン、ジメチルプロピオラクトン、ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、ε-カプロラクトン、γ-カプロラクトンなどのラクトン類、を併用してもよい。
【0056】
さらに、ヒマシ油、脱水ヒマシ油などの脂肪酸、およびこれらの脂肪酸のうち1種、または2種以上の混合物を、反応系に添加してもよい。
【0057】
ポリエステル樹脂は、アクリル樹脂および/またはビニル樹脂がグラフトされていてもよく、ポリイソシアネート化合物と反応されていてもよい。
【0058】
(水酸基およびカルボキシ基を有するウレタン樹脂)
(A)水性樹脂として、アクリル樹脂および/またはポリエステル樹脂とともに、水性ポリウレタン樹脂を用いてもよい。水性ポリウレタン樹脂もまた、水酸基およびカルボキシ基を有する。
【0059】
水性ポリウレタン樹脂の含有量は、塗膜の種類に応じて適宜設定される。水性塗料組成物が中塗り用である場合、水性ポリウレタン樹脂の含有量は、水性塗料組成物の固形分100質量部に対して、30質量部以上40質量部以下であってよい。水性塗料組成物がベース用である場合、水性ポリウレタン樹脂の含有量は、水性塗料組成物の固形分100質量部に対して、15質量部以上30質量部以下であってよい。
【0060】
(その他の樹脂)
水性塗料組成物は、水酸基およびカルボキシ基のいずれかあるいは両方を有さない、その他の樹脂を含んでいてよい。その他の樹脂としては、例えば、ポリエーテルジオール、ポリカーボネートジオールなどの水酸基を有する樹脂、メチロール基を有するメラミン樹脂、リン酸基を有する樹脂が挙げられる。
【0061】
その他の樹脂の含有量は、塗膜の種類に応じて適宜設定される。水性塗料組成物がベース用である場合、その他の樹脂の含有量は、水性塗料組成物の固形分100質量部に対して、15質量部以上45質量部以下であってよい。
【0062】
ただし、水酸基のみを有する樹脂の含有量は少ない方が望ましい。このような樹脂は硬化に寄与しないため、塗膜物性を低下させ易い。
【0063】
(B)親水化変性カルボジイミド化合物
(B)親水化変性カルボジイミド化合物は、分子内に、少なくとも1個のカルボジイミド基およびポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルから水酸基を除いた構造を有する。
【0064】
(B)親水化変性カルボジイミド化合物は、例えば、分子内に、下記式(α):
-OCONH-X-Q-Y (α)
(式中、Xは、それぞれ独立して、少なくとも1個のカルボジイミド基を含有する2官能性有機基であり、Yは、それぞれ独立して、ポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルから水酸基を除いた構造を有し、Qは、-NHCOO-またはNHCONH-である。)
で表される構造単位(以下、構造単位αと称する。)を有している。
【0065】
構造単位αにより、水分散性および硬化性が向上する。構造単位αは、1分子中に1以上存在すればよい。構成単位の数は、1分子中に1個であってよく、2個であってよく、3個であってよい。
【0066】
Xは、例えば、下記一般式(a)で表される。
【化4】
【0067】
式中、R2は、炭素数6~15の炭化水素基である。R2としては、例えば、フェニレン基、ジフェニレンメチル基、ジフェニレン(ジメチル)メチル基、メチルフェニレン基、ジメチルフェニレン基、テトラメチルキシリレン基、ヘキシレン基、シクロヘキシレン基、ジシクロヘキシレンメチル基が挙げられる。R2は、ジシクロヘキシレンメチル基であってよい。
【0068】
pは、1~10である。pは、上記構造単位に存在するカルボジイミド基の個数である。硬化性の観点から、pは、2以上であってよく、8以下であってよい。
【0069】
繰り返し数(例えば、上記のp)は、平均値である。
【0070】
Yは、例えば、下記一般式(b)または(c)で表される。
【化5】
【0071】
式中、R3は、炭素数1~20のアルキル基である。R3としては、例えば、メチル基、エチル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基、ステアリル基が挙げられる。水分散性の観点から、R3はメチル基であってよい。
【0072】
R4は、水素原子またはメチル基である。水分散性の観点から、R4は、水素原子で
【0073】
あってよい。R4が水素である場合、一般式(b)および(c)は同じ構造を示す。
qは、4~40である。水分散性および水が揮発した後の反応性の観点から、qは、4~20であってよく、6~12であってよい。
【0074】
(A)水性樹脂の酸基の当量Eaに対する、(B)親水化変性カルボジイミド化合物のカルボジイミド基の当量Ecの比:Ec/Eaは、例えば、0.1以上1.5以下である。当量比がこの範囲であると、架橋密度が高くなって、耐水性がより向上し得る。比:Ec/Eaは、0.5以上であってよく、0.8以上であってよい。比:Ec/Eaは、1.4以下であってよく、1.2以下であってよい。
【0075】
(B)親水化変性カルボジイミド化合物の含有量は、例えば、水性塗料組成物の固形分100質量部に対して、5質量部以上15質量部以下である。(B)親水化変性カルボジイミド化合物の含有量がこの範囲であると、塗膜の耐水性がより向上し得、水による縮みが抑制され易い。上記含有量は、水性塗料組成物の固形分100質量部に対して、7質量部以上であってよく、8質量部以上であってよい。上記含有量は、水性塗料組成物の固形分100質量部に対して、14質量部以下であってよく、13質量部以下であってよい。
【0076】
(親水化変性カルボジイミド化合物(I))
構造単位αを2個有する(B)親水化変性カルボジイミド化合物は、例えば、下記一般式(I)で表される。
【化6】
【0077】
式中、XおよびYは、上記式(α)と同意義である。
Zは、数平均分子量200以上5000以下の2官能ポリオールから水酸基を除いた構造を有する。Zは、エーテル結合、エステル結合またはカーボネート結合を有する重合体を構成しており、一般式化することは困難である。Zの詳細は、後述する合成方法を参照できる。
【0078】
<合成方法>
まず、1分子中にイソシアネート基を少なくとも2個含有する原料カルボジイミド化合物と、分子末端に水酸基を有し、数平均分子量200以上5,000以下である2官能ポリオールとを、上記原料カルボジイミド化合物のイソシアネート基のモル量が上記ポリオールの水酸基のモル量を上回る比率で反応させる。次に、得られた反応生成物に、ポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルを反応させる。これにより、式(I)で表される(B)親水化変性カルボジイミド化合物が得られる。
【0079】
原料カルボジイミド化合物は、反応性の観点から、両末端にイソシアネート基を有していることが好ましい。このような原料カルボジイミド化合物の製造方法は、当業者によってよく知られており、例えば、有機ジイソシアネートの脱二酸化炭素を伴う縮合反応を利用することができる。
【0080】
有機ジイソシアネートとしては、例えば、芳香族ジイソシアネート、脂肪族ジイソシアネート、脂環族ジイソシアネート、およびこれらの混合物が挙げられる。具体的には、1,5-ナフチレンジイソシアネート、4,4-ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4-ジフェニルジメチルメタンジイソシアネート、1,3-フェニレンジイソシアネート、1,4-フェニレンジイソシアネート、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、2,4-トリレンジイソシアネートと2,6-トリレンジイソシアネートとの混合物、ヘキサメチレンジイソシアネート、シクロヘキサン-1,4-ジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン-4,4-ジイソシアネート、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネートが挙げられる。反応性の観点から、ジシクロヘキシルメタン-4,4-ジイソシアネートであってよい。
【0081】
縮合反応には、通常、カルボジイミド化触媒が用いられる。カルボジイミド化触媒としては、例えば、1-フェニル-2-ホスホレン-1-オキシド、3-メチル-2-ホスホレン-1-オキシド、1-エチル-2-ホスホレン-1-オキシド、3-メチル-1-フェニル-2-ホスホレン-1-オキシドや、これらの3-ホスホレン異性体などのホスホレンオキシドが挙げられる。反応性の観点から、3-メチル-1-フェニル-2-ホスホレン-1-オキシドであってよい。
【0082】
上記2官能ポリオールとしては、例えば、ポリエーテルジオール、ポリエステルジオール、ポリカーボネートジオールが挙げられる。具体的には、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレンプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリヘキサメチレンエーテルグリコール、ポリオクタメチレンエーテルグリコールなどのポリアルキレングリコール、ポリエチレンアジペート、ポリブチレンアジペート、ポリヘキサメチレンアジペート、ポリネオペンチルアジペート、ポリ-3-メチルペンチルアジペート、ポリエチレン/ブチレンアジペート、ポリネオペンチル/ヘキシルアジペートなどのポリエステルジオール、ポリカプロラクトンジオール、ポリ-3-メチルバレロラクトンジオールなどのポリラクトンジオール、ポリヘキサメチレンカーボネートジオールなどのポリカーボネートジオールおよびこれらの混合物が挙げられる。
【0083】
原料カルボジイミド化合物のイソシアネート基のモル量と上記2官能ポリオールの水酸基のモル量との比率は、反応効率および経済性の観点から、1.0:1.1~1.0:2.0であってよい。原料カルボジイミド化合物と上記2官能ポリオールとの重合度は、反応効率の観点から、1~10であってよい。
【0084】
このようにして得られた反応生成物に、さらにポリアルキレングリコールモノアルキルエーテル(以下、PAGAEと称する。)を反応させる。これにより、構造単位αを2個有する(B)親水化変性カルボジイミド化合物が得られる。
【0085】
PAGAEとしては、例えば、下記一般式(b’)または(c’)で表される。
【化7】
(式中、R
3、R
4、およびqは、上記と同意義である。)
【0086】
PAGAEの数平均分子量は、200以上5,000以下であってよい。PAGAEのアルキル基の炭素数は1~20であってよい。PAGAEとしては、例えば、炭素数1~20のアルキル基で片末端が封鎖された、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールまたはそれらの混合物が挙げられる。PAGAEとしては、具体例に、数平均分子量200~5,000の、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、ポリエチレングリコールモノ-2-エチルヘキシルエーテル、ポリエチレングリコールモノラウリルエーテル、ポリプロピレングリコールモノメチルエーテル、ポリプロピレングリコールモノ-2-エチルヘキシルエーテル、ポリプロピレングリコールモノラウリルエーテルが挙げられる。
【0087】
上記反応生成物とPAGAEとの反応は、上記反応生成物のイソシアネート基のモル量がPAGAEの水酸基のモル量と同量または上回る比率で行われる。イソシアネート基のモル量は、直接測定により求められる。イソシアネート基のモル量は、また、仕込み量から計算される。
【0088】
反応の際、触媒を用いてもよい。反応温度は、特に限定されないが、反応系の制御や反応効率の観点から、60℃以上120℃以下であってよい。溶媒は、活性水素を含有しない有機溶媒であってよい。
【0089】
このような2段階の反応を経て製造された(B)親水化変性カルボジイミド化合物は、一般式(I)で表される化合物と、その他の反応生成物との混合物であり得る。ただし、これらの混合物も、一般式(I)の構造を有する(B)親水化変性カルボジイミド化合物見なしてよい。
【0090】
(親水化変性カルボジイミド化合物(II))
構造単位αを3個有する(B)親水化変性カルボジイミド化合物は、例えば、下記一般式(II)で表される。
【化8】
【0091】
式中、XおよびYは、上記式(α)と同意義である。
R0は水素、メチル基、またはエチル基である。R1は、それぞれ独立して、炭素数4以下のアルキレン基である。具体的には、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基が挙げられる。nは、0または1である。mは、それぞれ独立して、0~60である。
【0092】
R0、R1、nおよびmは、(B)親水化変性カルボジイミド化合物を製造する際に用いる3官能ポリオールによって決定される。
【0093】
mが11以上である場合、疎水部に対する親水部の割合が2.0~6.3であることが好ましい。上記割合は、カルボジイミド化合物中に存在するオキシメチレン基またはオキシエチレン基の部分の分子量を、カルボジイミド化合物の分子量で除することにより求められる。
【0094】
<合成方法>
まず、上記の原料カルボジイミド化合物と、上記のPAGAEとを、原料カルボジイミド化合物のイソシアネート基の当量がPAGAEの水酸基の当量を上回る比率で反応させる。次いで、得られた反応生成物に、3官能ポリオールを反応させる。これにより、一般式(II)で表される(B)親水化変性カルボジイミド化合物が得られる。イソシアネート基と水酸基との当量比は、2/1であってよい。
【0095】
3官能ポリオールの量は、反応物のイソシアネート当量以上の水酸基当量になる量であってよく、上記イソシアネート当量と水酸基当量とは等しくてよい。反応生成物のイソシアネート当量は、直接測定により求められる。イソシアネート基のモル量は、また、仕込み量から計算される。
【0096】
反応は通常、当業者によく知られた条件で行うことができ、必要に応じてスズ系の触媒を使用することができる。反応は、一般式(I)で表される(B)親水化変性カルボジイミド化合物と同様に行われる。
【0097】
3官能ポリオールは、入手が容易な点で、トリメチロールプロパン、グリセリン、またはそれらのアルキレンオキサイド付加物であってよい。アルキレンオキサイドとしては、例えば、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイドが挙げられる。グリセリンのアルキレンオキサイド付加物は三洋化成社からGPシリーズとして市販されている。得られる親水化変性カルボジイミド化合物の硬化反応性を考慮すると、3官能ポリオールは、1つの水酸基に対してアルキレンオキサイドがそれぞれ付加した構造を有していてよい。先のGPシリーズの中で、このような構造を有するのは、例えば、GP-250、GP-3000である。
【0098】
このような2段階の反応を経て製造された(B)親水化変性カルボジイミド化合物は、一般式(II)で表される化合物と、その他の反応生成物との混合物であり得る。ただし、これらの混合物も、一般式(II)の構造を有する(B)親水化変性カルボジイミド化合物見なしてよい。
【0099】
(親水化変性カルボジイミド化合物(III))
構造単位αを1個有する(B)親水化変性カルボジイミド化合物は、例えば、下記一般式(III)で表される。
【化9】
(式中、XおよびYは、上記式(α)と同意義である。)
【0100】
Yは、それぞれ独立して、下記(i)または(ii)から選択される構造を有していてよい。これにより、水分散性および安定性が向上し得、さらに架橋密度が高くなり易い。
【0101】
(i)繰り返し数6~20のポリエチレンオキサイドユニットの末端に、炭素数1~3のアルキル基がエーテル結合したポリエチレングリコールモノアルキルエーテルから、水酸基を除いた構造
(ii)繰り返し数4~60のポリプロピレンオキサイドユニットの末端に、炭素数1~8のアルキル基がエーテル結合した、ポリプロピレングリコールモノアルキルエーテルから、水酸基を除いた構造
【0102】
なかでも、Yは、(ii)の構造を有していてよく、そのポリプロピレンオキサイドユニットの繰り返し数が15~60であってよい。
【0103】
一方のYが(i)の構造を有し、他方のYが(ii)の構造を有していてよい。このとき、(i)の構造を有するYと(ii)の構造を有するYとの数の比は、(i):(ii)=1:0.7~1:8であってよい。
【0104】
水によるカルボジイミドの失活が抑制される点や、塗膜の耐水性向上の観点から、カルボジイミド基の周辺はある程度疎水性であって、水分子との接触が低い状態になっていることが望ましい。一方、カルボジイミド化合物自体は親水性を有していることが求められる。(i):(ii)が上記範囲であると、上記疎水性と上記親水性とがバランスし易い。(i):(ii)は、1:0.7~1:1.5であってよい。
【0105】
<合成方法>
一般式(III)で表される(B)親水化変性カルボジイミド化合物は、上記の原料カルボジイミド化合物と、同一または異種のPAGAEとの反応によって得られる。
【0106】
PAGAEは、下記(i’)および(ii’)よりなる群から選択される少なくとも一方であってよい。
(i’)繰り返し数6~20のポリエチレンオキサイドユニットの末端に、炭素数1~3のアルキル基がエーテル結合したポリエチレングリコールモノアルキルエーテル
(ii’)繰り返し数4~60のポリプロピレンオキサイドユニットの末端に、炭素数1~8のアルキル基がエーテル結合した、ポリプロピレングリコールモノアルキルエーテル
【0107】
(i’)としては、具体的には、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、ポリエチレングリコールモノエチルエーテル、ポリエチレングリコールモノプロピルエーテルが挙げられる。特に、ポリエチレングリコールモノメチルエーテルであってよい。
(ii’)としては、具体的には、ポリプロピレングリコールモノメチルエーテル、ポリプロピレングリコールモノエチルエーテル、ポリプロピレングリコールモノブチルエーテル、ポリプロピレングリコール2-エチルヘキシルエーテルが挙げられる。特に、ポリプロピレングリコールモノブチルエーテルであってよい。
【0108】
架橋密度の点で、(B)親水化変性カルボジイミド化合物は、一般式(III)で表されてよい。
【0109】
(その他の硬化剤)
水性塗料組成物は、(B)親水化変性カルボジイミド化合物以外のその他の硬化剤を含み得る。その他の硬化剤としては、例えば、ポリイソシアネート硬化剤(ブロックポリイソシアネート硬化剤を含む。)、アミノ樹脂、エポキシ化合物、アジリジン化合物、オキサゾリン化合物が挙げられる。
【0110】
ただし、ポリイソシアネート硬化剤の含有量は、水性塗料組成物の固形分100質量部に対して、1質量部未満であり、0質量部であってよい。ポリイソシアネート硬化剤は、貯蔵安定性を低下させるためである。上記の通り、意匠性の観点から、低分子量成分に相当する硬化剤の含有量も少ない方が望ましい。
【0111】
(C)塩基性化合物
塩基性化合物は、ブレンステッド-ローリーの定義による塩基として作用する化合物である。塩基性化合物は、プロトン(H+)を受け取る。
【0112】
塩基性化合物は、水性塗料組成物において、(A)水性樹脂が有するカルボキシ基を中和する。そのため、(A)水性樹脂と(B)カルボジイミド化合物との反応が抑制されて、貯蔵安定性およびポットライフが向上する。
【0113】
塩基性化合物の含有量は、水性塗料組成物のpHが8.5以上10未満になる範囲であれば、特に限定されない。塩基性化合物の含有量は、例えば、水性塗料組成物の固形分100質量部に対して、1.0質量部以上であってよく、1.2質量部以上であってよく、1.4質量部以上であってよい。(C)塩基性化合物の含有量は、例えば、水性塗料組成物の固形分100質量部に対して、10.0質量部以下であってよく、7.0質量部以下であってよく、5.0質量部以下であってよい。
【0114】
水性塗料組成物が被塗物に塗装された後、塩基性化合物は揮発することが求められる。塩基性化合物の揮発によって、水性樹脂のカルボキシ基がカルボジイミド化合物と反応可能となる。塩基性化合物の沸点は、塗装後に行われる加熱処理で揮発できる程度であればよい。塩基性化合物の沸点は、例えば、180℃以下であってよく、170℃以下であってよく、160℃以下であってよい。塩基性化合物の沸点は、水性塗料組成物の保管時に揮発しない程度であればよい。塩基性化合物の沸点は、例えば、60℃以上であってよく、70℃以上であってよく、80℃以上であってよい。
【0115】
塩基性化合物のpKa(酸解離定数)は、例えば、5.0以上である。これにより、カルボジイミド化合物と水性樹脂との反応は、さらに抑制され易い。塩基性化合物のpKaは、7.0以上であってよく、8.5超であってよい。塩基性化合物のpKaは、例えば、30.0以下である。これにより、得られる塗膜の耐水性が向上し易い。塩基性化合物のpKaは、20.0以下であってよく、15.0以下であってよい。一態様において、塩基性化合物のpKaは、5.0以上30.0以下である。pKaは、25℃において、溶媒として水を用いたときの値である。
【0116】
塩基性化合物は、特に限定されず、例えば、アンモニア(pKa9.25℃)およびアミン化合物よりなる群から選択される少なくとも1種を含む。アミン化合物としては、例えば、ジメチルアミン(pKa10.64)、トリメチルアミン(pKa9.76)、エチルアミン(pKa10.63)、ジエチルアミン(pKa10.98)、トリエチルアミン(pKa10.7)、n-プロピルアミン(pKa10.53)、イソプロピルアミン(pKa10.63)、トリアリルアミン(pKa8.3、沸点156℃)、トリエチレンジアミン(pKa8.7、沸点174℃)、N、N-ジメチルエタノールアミン(沸点135℃)、N、N-ジエチルエタノールアミン、アミノエタノールアミン、N-メチル-N,N-ジエタノールアミン、イミノビスプロピルアミン、3-エトキシプロピルアミン、3-ジエチルアミノプロピルアミン、メチルアミノプロピルアミン、メチルイミノビスプロピルアミン、3-メトキシプロピルアミン、モノエタノールアミン(pKa9.5)、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モルホリン(pKa8.4、沸点129℃)、アリルモルホリン(pKa7.1、沸点158℃)N-メチルモルホリン(pKa7.4、沸点116℃)、N-エチルモルホリン(pKa7.7、沸点139℃)が挙げられる。塩基性化合物は、N、N-ジメチルエタノールアミンが好ましい。
【0117】
(その他)
水性塗料組成物は、必要に応じて、例えば、希釈成分、顔料、硬化触媒、表面調整剤、消泡剤、顔料分散剤、可塑剤、造膜助剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、pH調整剤を含んでいてよい。本発明の水性塗料組成物は、水性塗料組成物を構成する各成分を、通常用いられる手段によって混合することによって、調製することができる。
【0118】
[塗装物の製造方法]
本実施形態に係る水性塗料組成物は、低温硬化可能である。塗装物は、例えば、本実施形態に係る水性塗料組成物を被塗物に塗装して、未硬化の塗膜を形成する工程と、未硬化の塗膜を75℃以上100℃以下の温度で加熱して、硬化された塗膜を得る工程と、を備える方法により製造される。得られる硬化塗膜は、優れた耐水性を有する。
【0119】
本実施形態に係る水性塗料組成物により着色塗膜を形成する場合、塗装物は、例えば、本実施形態に係る水性塗料組成物を被塗物に塗装して、未硬化の着色塗膜を形成する工程と、未硬化の着色塗膜を75℃以上100℃以下の温度で加熱して、硬化された着色塗膜を形成する工程と、クリヤー塗料組成物を着色塗膜上に塗装して、未硬化のクリヤー塗膜を形成する工程と、未硬化のクリヤー塗膜を加熱して、硬化されたクリヤー塗膜を得る工程と、を備える方法により製造される。
【0120】
クリヤー塗膜が形成される際、着色塗膜は硬化していてもよく、未硬化であってもよい。なかでも、生産性、付着性および耐水性の観点から、各塗膜を硬化させることなく積層した後(いわゆる、ウェット・オン・ウェット塗装)、これら複数の未硬化の塗膜を同時に硬化させることが好ましい。すなわち、塗装物は、被塗物上に、本実施形態に係る水性塗料組成物を塗装して未硬化の着色塗膜を形成する工程と、未硬化の着色塗膜上に、クリヤー塗料組成物を塗装して未硬化のクリヤー塗膜を形成する工程と、未硬化の着色塗膜および未硬化のクリヤー塗膜を硬化させる工程と、を備える方法により製造されてよい。
【0121】
以下、本実施形態に係る水性塗料組成物が着色塗膜の形成に使用され、かつ、ウェット・オン・ウェット塗装される場合について説明する。ただし、本実施形態に係る水性塗料組成物の用途はこれに限定されない。
【0122】
(1)未硬化の着色塗膜を形成する工程
本実施形態に係る水性塗料組成物を被塗物に塗装する。これにより、未硬化の着色塗膜が形成される。この工程は、クリヤー塗料組成物を塗装する前に、複数回繰り返されてよい。これにより、複数の未硬化の着色塗膜が形成される。
【0123】
着色塗膜は、1層であってよく、2層以上の積層塗膜であってよい。着色塗膜は、1層または2層以上のいわゆる中塗り塗膜であり得、1層または2層以上のいわゆるベース塗膜であり得、これらの組み合わせであり得る。中塗り塗膜は、典型的には被塗物に隣接して形成される。ベース塗膜は、典型的には中塗り塗膜上に形成される。
【0124】
(被塗物)
被塗物としては、鉄、鋼、ステンレス、アルミニウム、銅、亜鉛、スズなどの金属およびこれらの合金などの鋼板;ポリエチレン樹脂、EVA樹脂、ポリオレフィン樹脂(ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂など)、塩化ビニル樹脂、スチロール樹脂、ポリエステル樹脂(PET樹脂、PBT樹脂などを含む)、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)樹脂、アクリロニトリルスチレン(AS)樹脂、ポリアミド樹脂、アセタール樹脂、フェノール樹脂、フッ素樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリフェニレンオキサイド(PPO)などの樹脂;有機-無機ハイブリッド材が挙げられる。被塗物は、平板状であってよく、立体形状を有していてよい。
【0125】
金属製の被塗物は、予め、化成処理および電着塗装されていてよい。化成処理としては、例えば、リン酸亜鉛化成処理、ジルコニウム化成処理、クロム酸化成処理が挙げられる。電着塗装は、カチオン電着塗装であってよく、アニオン電着塗装であってよい。
【0126】
樹脂製の被塗物は、予め、脱脂処理されていてよい。樹脂製の被塗物は、脱脂処理後、さらにプライマー塗料により塗装されていてよい。プライマー塗料は特に限定されず、その上方に塗装される塗料の種類に応じて適宜選択すればよい。
【0127】
(着色塗膜)
着色塗膜の形成に用いられる水性塗料組成物は、顔料を含む。顔料としては、例えば、着色顔料、光輝性顔料および体質顔料が挙げられる。
【0128】
着色顔料としては、例えば、アゾキレート系顔料、不溶性アゾ系顔料、縮合アゾ系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、ベンズイミダゾロン系顔料、フタロシアニン系顔料、インジゴ顔料、ペリノン系顔料、ペリレン系顔料、ジオキサン系顔料、キナクリドン系顔料、イソインドリノン系顔料および金属錯体顔料等の有機系着色顔料:黄鉛、黄色酸化鉄、ベンガラ、カーボンブラックおよび二酸化チタン等の無機着色顔料が挙げられる。これらは、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0129】
光輝性顔料としては、例えば、金属片(アルミニウム、クロム、金、銀、銅、真鍮、チタン、ニッケル、ニッケルクロム、ステンレス等)、金属酸化物片、パール顔料、金属あるいは金属酸化物で被覆されたガラスフレーク、金属酸化物で被覆されたシリカフレーク、グラファイト、ホログラム顔料およびコレステリック液晶ポリマー挙げられる。これらは、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0130】
体質顔料として、例えば、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、クレーおよびタルクが挙げられる。これらは、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0131】
全顔料の濃度、すなわち、水性塗料組成物の樹脂固形分100質量%に対する全顔料の質量割合(PWC)は、0.1質量%以上50質量%以下が好ましい。これにより、得られる塗膜の平滑性が向上する。個々の顔料のPWCは特に限定されない。光輝性顔料のPWCは、例えば、1質量%以上40質量%以下であってよい。光輝性顔料のPWCは、5質量%以上が好ましい。光輝性顔料のPWCは、30質量%以下が好ましい。
【0132】
塗装方法は特に限定されない。塗装方法としては、例えば、エアスプレー塗装、エアレススプレー塗装、回転霧化塗装、カーテンコート塗装が挙げられる。これらの方法と静電塗装とを組み合わせてもよい。なかでも、塗着効率の観点から、回転霧化式静電塗装が好ましい。回転霧化式静電塗装には、例えば、通称「マイクロ・マイクロベル(μμベル)」、「マイクロベル(μベル)」、「メタリックベル(メタベル)」などと呼ばれる回転霧化式の静電塗装機が用いられる。
【0133】
水性塗料組成物を塗装した後、予備乾燥(プレヒートとも称される)を行ってもよい。このとき、塩基性化合物が揮発し得る。また、希釈成分の突沸が抑制されて、ワキの発生が抑制され易くなる。さらに、未硬化の着色塗膜とその上に塗装される塗料組成物とが混ざりあうことが抑制されて、混相が形成され難くなる。そのため、得られる塗装物品の平滑性が向上し易くなる。
【0134】
予備乾燥の条件は特に限定されない。予備乾燥としては、例えば、20℃以上25℃以下の温度条件で15分以上30分以下放置する方法、50℃以上100℃以下の温度条件で30秒以上10分以下加熱する方法が挙げられる。
【0135】
中塗り塗膜の厚さは特に限定されない。塗装物品の平滑性および耐チッピング性の点で、硬化後の中塗り塗膜の1層当たりの厚さは5μm以上40μm以下が好ましい。硬化後の中塗り塗膜の1層当たりの厚さは、15μm以上がより好ましい。硬化後の中塗り塗膜の1層当たりの厚さは、30μm以下がより好ましい。
【0136】
ベース塗膜の厚さは特に限定されず、目的に応じて適宜設定される。硬化後のベース塗膜の1層当たりの厚さは、例えば、10μm以上であり、15μm以上であってよく、20μm以上であってよい。硬化後のベース塗膜の1層当たりの厚さは、例えば、50μm以下であり、45μm以下であってよく、40μm以下であってよい。
【0137】
(2)未硬化のクリヤー塗膜を形成する工程
未硬化の着色塗膜上に、クリヤー塗料組成物を塗装する。これにより、未硬化のクリヤー塗膜が形成される。
【0138】
クリヤー塗料組成物は特に限定されない。クリヤー塗料組成物は、例えば、水酸基含有樹脂とポリイソシアネート硬化剤とを含む。水酸基含有樹脂の水酸基価は、20mgKOH/g以上200mgKOH/g以下であってよい。水酸基含有樹脂の数平均分子量は、1000以上20000以下であってよい。ポリイソシアネート硬化剤は特に限定されず、例えば、脂肪族イソシアネート、脂肪族環式イソシアネート、芳香族イソシアネート、脂環族イソシアネート、これらのビュレット体、ヌレート体などの多量体および混合物が挙げられる。
【0139】
クリヤー塗料組成物として、市販品を用いることもできる。市販品として、例えば、ポリウレエクセルO-1100クリヤー、O-1200クリヤー(日本ペイント・オートモーティブコーティングス株式会社製、イソシアネート硬化型クリヤー塗料組成物)などが挙げられる。
【0140】
塗装方法は特に限定されない。塗装方法としては、例えば、上記の水性塗料組成物の塗装方法と同様の方法が挙げられる。なかでも、塗着効率の観点から、回転霧化式静電塗装が好ましい。クリヤー塗料組成物を塗装した後、予備乾燥を行ってもよい。予備乾燥の条件は特に限定されず、着色塗膜の予備乾燥と同様であってよい。
【0141】
(4)硬化工程
未硬化の各塗膜を75℃以上100℃以下の温度で加熱する。
(C)塩基性化合物は、着色塗膜に対する予備乾燥、クリヤー塗膜に対する予備乾燥、および、この硬化工程における加熱よりなる群から選択される少なくとも1工程において、揮発する。つまり、水性樹脂の中和されていたカルボキシ基から塩基性化合物由来のカチオンが外れて、カルボキシ基が再生される。これにより、水性樹脂と親水化変性カルボジイミド化合物とが反応して、塗料組成物が硬化する。
【0142】
硬化温度は90℃以下であってよい。ただし、本実施形態に係る水性塗料組成物をより高温で硬化させてもよい。例えば、硬化温度は、100℃超120℃以下であってよい。
【0143】
加熱時間は、加熱温度に応じて適宜設定すればよい。加熱時間は、例えば5分以上60分以下であってよく、10分以上45分以下であってよい。加熱時間は、加熱装置内が目的の温度に保たれている時間を意味し、目的の温度に達するまでの時間は考慮しない。加熱装置としては、例えば、熱風、電気、ガス、赤外線等の加熱源を利用した乾燥炉が挙げられる。
【実施例】
【0144】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。実施例中、「部」および「%」は、ことわりのない限り、質量基準による。
【0145】
(水酸基およびカルボキシ基を有するアクリルエマルション1の製造)
撹拌機、窒素導入管、温度制御装置、コンデンサー、滴下ロートを備えた反応容器に、脱イオン水607部および乳化剤としてのラテムルPD-104(花王社製、20%水溶液)5部を仕込み、窒素雰囲気下で攪拌しながら80℃に昇温した。
別途、脱イオン水271部にラテムルPD-104 45部を混合した乳化剤水溶液に対し、スチレン191部、メタクリル酸メチル61部、アクリル酸2-エチルヘキシル179部、アクリル酸ヒドロキシエチル46部、メタクリル酸8部、メタクリル酸アリル15部を加えて乳化し、プレエマルションを得た。
【0146】
このプレエマルションを、過硫酸アンモニウム1.5部を脱イオン水204部に溶解した開始剤水溶液とともに、2時間かけて反応容器に滴下した。滴下終了後、さらに80℃で2時間反応を継続した。その後、冷却して、N、N-ジメチルアミノエタール0.8部(樹脂が有する酸価の10%相当(中和率10%))を加え、樹脂固形分30質量%のアクリルエマルション1を得た。
【0147】
モノマー組成から計算される、アクリルエマルション1の樹脂固形分換算での水酸基価は40mgKOH/g、酸価は10mgKOH/gであった。
【0148】
(親水化変性カルボジイミド化合物の製造)
4,4-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート700部および3-メチル-1-フェニル-2-ホスホレン-1-オキシド7部を170℃で7時間反応させ、上記一般式(a)で表される構造を有し、1分子にカルボジイミド基を3個有し、両末端にイソシアネート基を有するカルボジイミド化合物を得た。
【0149】
次に、製造したカルボジイミド化合物180部に、PTMG-1000(三菱化学社製の数平均分子量1,000のポリテトラメチレングリコール、数平均分子量から計算されるテトラメチレンオキサイドの繰り返し単位13.6)95部およびジブチル錫ジラウレート0.2部を加えて、85℃に加熱し、これを2時間保った。
【0150】
次いで、メチルポリグリコール130(日本乳化剤社製のポリエチレングリコールモノメチルエーテル、水酸基価130mgKOH/gから計算されるエチレンオキサイドの繰り返し数9)86.4部を加え、85℃で3時間保った。IR測定によりNCOのピークが消失していることを確認して反応を終了し、60℃に冷却した後、脱イオン水を加えて、樹脂固形分40質量%の親水化変性カルボジイミド化合物の水分散体を得た。得られた親水化変性カルボジイミド化合物は、上記一般式(I)で表される化合物であった。
【0151】
(着色顔料ペーストの調整)
市販の分散剤「Disperbyk 190」(ビックケミー社製)9.2部、イオン交換水17.8部、ルチル型二酸化チタン73.0部を予備混合した。続いて、ペイントコンディショナーを用いて、予備混合物をビーズ媒体とともに、室温で粒度5μm以下となるまで混合分散し、着色顔料ペーストを得た。
【0152】
[実施例1]
(1)水性ベース塗料組成物の調製
撹拌機を有する容器に、アクリルエマルション1(樹脂固形分30%)を100部、親水化変性カルボジイミド化合物(樹脂固形分40%)を10部、光輝性顔料としてアルペーストMH8801(旭化成社製アルミニウム顔料、固形分65%)を10部(PWC12%)、ラウリルアシッドフォスフェート0.3部を添加し、さらに、2-エチルヘキサノール30部、アデカノールUH-814N2部(ADEKA社製増粘剤、固形分30%)、N、N-ジメチルエタノールアミン(キシダ化学社製)を1部、イオン交換水を50部を、均一分散することにより水性ベース塗料組成物を得た。水性ベース塗料組成物のpHは、9.5であった。
【0153】
(2)複層塗膜の形成
リン酸亜鉛処理したダル鋼板に、パワーニクス150(商品名、日本ペイント・オートモーティブコーティングス株式会社製カチオン電着塗料)を、乾燥塗膜が20μmとなるように電着塗装し、160℃で30分間の加熱硬化後冷却して、鋼板基板を準備した。
得られた基板に、上記水性ベース塗料を回転霧化式静電塗装装置にて乾燥膜厚が15μmとなるように塗装した。続いて、80℃で3分間プレヒートを行った。
【0154】
さらに、その塗板にクリヤー塗料(ポリウレエクセル O-1200、日本ペイント・オートモーティブコーティングス株式会社製、ポリイソシアネート化合物含有2液アクリルウレタン系有機溶剤型クリヤー塗料)を回転霧化式静電塗装装置にて乾燥膜厚が35μmとなるように塗装した。その後、80℃で20分間の加熱硬化を行い、硬化した複層塗膜を有する塗装物を得た。
【0155】
[実施例2~4、比較例1~5]
水性ベース塗料組成物の組成を、下記表に示した成分および配合量に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、水性ベース塗料組成物を調製し、塗装物を得た。
【0156】
[評価]
水性ベース塗料組成物および塗装物に対して、以下の評価試験を行った。評価結果を表1に示す。
【0157】
(1)貯蔵安定性
塗料組成物を調製した後、40℃で10日間放置した。塗料組成物中に、流動性のない塊ができるか、または塗料組成物全体の粘度が初期粘度に比べて0%以下もしくは150%以上のものを「不良」、これ以外を「良」と評価した。
【0158】
(2)耐水性
塗装物を、40℃の温水に240時間浸漬した。その後、塗装物を引き上げて、20℃で24時間乾燥した。続いて、塗装物の複層塗膜を、素地に達するまでカッターで格子状に切り込み、大きさ2mm×2mmの100個の碁盤目状に分割した。次いで、碁盤目の表面に粘着セロハンテープ(商標)を貼着し、20℃においてそのテープを急激に剥離した。複層塗膜が剥離した碁盤目の数をカウントした。この数が少ないほど、耐水性に優れる。
良:剥離した碁盤目数がない
不良:剥離した碁盤目数が1以上
【0159】
【0160】
実施例の水性塗料組成物は貯蔵安定性に優れ、80℃という低温条件下で硬化させても、優れた耐水性を有する塗膜を形成することができる。
【0161】
一方、比較例1の水性塗料組成物は親水化変性カルボジイミド化合物を含んでいないため、貯蔵安定性に優れる。しかしながら、水性樹脂のTgが0℃未満であるため、複層塗膜の耐水性は低い。比較例2の水性塗料組成物はpHが8.5未満であるため、貯蔵安定性に劣る。さらに、水性樹脂のTgが0℃未満であるため、複層塗膜の耐水性も低い。比較例3の水性塗料組成物は貯蔵安定性に優れる一方、pHが高いため、複層塗膜の耐水性は低い。比較例4および5の水性塗料組成物のpHは8.5以上10未満であるため、貯蔵安定性に優れる。一方、水性樹脂のTgが0~20℃の範囲にないため、複層塗膜の耐水性は低い。
【産業上の利用可能性】
【0162】
本発明の水性塗料組成物は、貯蔵安定性に優れ、低温硬化可能であるため、様々な用途に使用可能である。