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特許7628216造形物、造形物設計方法及び造形物製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-30
(45)【発行日】2025-02-07
(54)【発明の名称】造形物、造形物設計方法及び造形物製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 64/106 20170101AFI20250131BHJP
   B29C 64/209 20170101ALI20250131BHJP
   B29C 64/386 20170101ALI20250131BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20250131BHJP
   B33Y 80/00 20150101ALI20250131BHJP
【FI】
B29C64/106
B29C64/209
B29C64/386
B33Y10/00
B33Y80/00
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2024193021
(22)【出願日】2024-11-01
(62)【分割の表示】P 2024069247の分割
【原出願日】2024-04-22
【審査請求日】2024-11-01
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000201582
【氏名又は名称】前澤化成工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092565
【弁理士】
【氏名又は名称】樺澤 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100112449
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 哲也
(72)【発明者】
【氏名】寺山 陽葵
(72)【発明者】
【氏名】野口 大輝
【審査官】家城 雅美
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0002658(US,A1)
【文献】特表2022-529540(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 64/00-64/40
B33Y 10/00
B33Y 80/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
造形物製造装置により製造される造形物であって、
トーラス結び目に基づき規定されるループ形状を持つ造形部を有し、
複数の前記造形部が連結されて構成され、多孔質構造体の少なくとも一部をなす
ことを特徴とする造形物。
【請求項2】
複数の造形部は、ループ形状が互いに交差するように連結されている
ことを特徴とする請求項1記載の造形物。
【請求項3】
複数の造形部は、閉ループ形状同士が互いに交差しないように連結されている
ことを特徴とする請求項1記載の造形物。
【請求項4】
複数の造形部は、互いに同一形状又は鏡像対称形状である
ことを特徴とする請求項1記載の造形物。
【請求項5】
複数の造形部は、互いに大小が異なる形状である
ことを特徴とする請求項1記載の造形物。
【請求項6】
請求項1記載の造形物を設計する造形物設計方法であって、
隣り合う2つのトーラス結び目間を線で結んだサーフェスに厚みを設定することにより造形部の造形データを形成する
ことを特徴とする造形物設計方法。
【請求項7】
請求項1記載の造形物を設計する造形物設計方法であって、
所定の断面形状を、ループ形状のトーラス結び目に沿ってスイープすることにより造形部の造形データを形成する
ことを特徴とする造形物設計方法。
【請求項8】
請求項6又は7の造形物設計方法により形成された造形データに基づき、造形物製造装置により造形物を製造する
ことを特徴とする造形物製造方法。
【請求項9】
造形物製造装置は、熱溶解積層方式又は光造形方式の3D造形装置である
ことを特徴とする請求項8記載の造形物製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3次元の造形物、造形物設計方法及び造形物製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、3次元の造形物を製造するための造形物製造装置としては、例えば熱溶解積層方式の3Dプリンタが広く知られている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
3Dプリンタを用いて製造する造形物の場合、従来よりも設計の自由度が高く、複雑な形状にも対応できるものの、複雑な形状ほど造形時にモデルの支持必要部を支持するサポートが必要になり、また、造形後に不要となるサポートの除去が困難であることが多い。
【0004】
また、従来3Dプリンタを用いて造形物を製造する場合には、格子構造が用いられてきた(例えば特許文献2参照)。格子構造は、枝状に分岐した格子を周期的に並べた構造で、造形物の中身を空洞にできるため、簡単に軽量化が図れる。しかし、この格子構造の各要素(辺)は直線的な構造のため、柔軟性(弾性)に乏しく、曲面(曲線)を構成する際は複数の単位セルを組み合わせる必要があった。加えて、格子構造は頂点があるため、連結方向(角度)が限定されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2000-500709号公報
【文献】特開2015-93461号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明の課題の一つは、造形の自由度をより向上することが可能な造形物、造形物設計方法及び造形物製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の実施形態に係る造形物は、造形物製造装置により製造される造形物であって、トーラス結び目に基づき規定されるループ形状を持つ造形部を有し、複数の造形部が連結されて構成され、多孔質構造体の少なくとも一部をなすものである。
【0008】
上記造形物において、複数の造形部は、ループ形状が互いに交差するように連結されていてもよい。
【0009】
上記造形物において、複数の造形部は、閉ループ形状同士が互いに交差しないように連結されていてもよい。
【0010】
上記造形物において、複数の造形部は、互いに同一形状又は鏡像対称形状であってもよい。
【0011】
上記造形物において、複数の造形部は、互いに大小が異なる形状であってもよい。
【0012】
また、本発明の造形物設計方法は、隣り合う2つのトーラス結び目間を線で結んだサーフェスに厚みを設定することにより造形部の造形データを形成するものである。
【0013】
上記造形物設計方法であって、所定の断面形状を、ループ形状のトーラス結び目に沿ってスイープすることにより造形部の造形データを形成するものでもよい。
【0014】
また、本発明の造形物製造方法は、上記造形物設計方法により形成された造形データに基づき、造形物製造装置により造形物を製造するものである。
【0015】
上記造形物製造方法は、造形物製造装置が熱溶解積層方式又は光造形方式の3D造形装置であってもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の実施形態によれば、造形の自由度をより向上することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一の実施形態に係る造形物製造装置である熱溶解積層方式の3Dプリンタを概略的に示す正面図である。
図2】トーラス結び目を示す説明図である。
図3】同上3Dプリンタを使用して製造された一の造形物を示す図で、(a)はZ軸方向から示す平面図、(b)はX軸方向から示す側面図、(c)は-Y軸方向から示す側面図、(d)は一の方向から示す斜視図、(e)は他の方向から示す斜視図である。
図4図3に示す一の造形物の第1の設計方法を示し、(a)は2つのトーラス結び目間を線により結んだサーフェスを示す斜視図、(b)は(a)に厚みを付けた造形データを示す斜視図である。
図5】同上第1の設計方法により設計された造形データに基づき3Dプリンタを使用して製造された他の造形物を示す図で、(a)はZ軸方向から示す平面図、(b)はX軸方向から示す側面図、(c)は-Y軸方向から示す側面図、(d)は一の方向から示す斜視図、(e)は他の方向から示す斜視図である。
図6】同上第1の設計方法により設計された造形データに基づき3Dプリンタを使用して製造された更に他の造形物を示す図で、(a)はZ軸方向から示す平面図、(b)はX軸方向から示す側面図、(c)は-Y軸方向から示す側面図、(d)は一の方向から示す斜視図、(e)は他の方向から示す斜視図、(f)はその部分拡大図である。
図7】同上第1の設計方法により設計された造形データに基づき3Dプリンタを使用して製造された更に他の造形物を示す図で、(a)はZ軸方向から示す平面図、(b)はX軸方向から示す側面図、(c)は-Y軸方向から示す側面図、(d)は一の方向から示す斜視図、(e)は他の方向から示す斜視図である。
図8図7に示す更に他の造形物の第1の設計方法を示し、(a)は2つのトーラス結び目間を線により結んだサーフェスを示す斜視図、(b)は(a)に厚みを付けた造形データを示す斜視図である。
図9】同上3Dプリンタを使用して製造された更に他の造形物を示す図で、(a)はZ軸方向から示す平面図、(b)はX軸方向から示す側面図、(c)は-Y軸方向から示す側面図、(d)は一の方向から示す斜視図、(e)は他の方向から示す斜視図である。
図10図9に示す更に他の造形物の第2の設計方法を示し、(a)はスイープ線となるトーラス結び目を示す斜視図、(b)は(a)の一部を拡大して示す斜視図、(c)は(a)のスイープ線に対し、一の断面形状をスイープさせた造形データの斜視図、(d)は断面形状の側縁部が造形テーブルに沿って延びている例を示す斜視図である。
図11】同上第2の設計方法により設計された造形データに基づき3Dプリンタを使用して製造された更に他の造形物を示す図で、(a)はZ軸方向から示す平面図、(b)はX軸方向から示す側面図、(c)は-Y軸方向から示す側面図、(d)は一の方向から示す斜視図、(e)は他の方向から示す斜視図、(f)は(b)のI-I相当位置の断面図である。
図12】同上第2の設計方法により設計された造形データに基づき3Dプリンタを使用して製造された更に他の造形物を示す図で、(a)はZ軸方向から示す平面図、(b)はX軸方向から示す側面図、(c)は-Y軸方向から示す側面図、(d)は一の方向から示す斜視図、(e)は他の方向から示す斜視図、(f)は(b)のII-II相当位置の断面図である。
図13】同上第2の設計方法により設計された造形データに基づき3Dプリンタを使用して製造された更に他の造形物を示す図で、(a)はZ軸方向から示す平面図、(b)はX軸方向から示す側面図、(c)は-Y軸方向から示す側面図、(d)は一の方向から示す斜視図、(e)は他の方向から示す斜視図、(f)は(b)のIII-III相当位置の断面図である。
図14】同上第2の設計方法により設計された造形データに基づき3Dプリンタを使用して製造された更に他の造形物を示す図で、(a)はZ軸方向から示す平面図、(b)はX軸方向から示す側面図、(c)は-Y軸方向から示す側面図、(d)は一の方向から示す斜視図、(e)は他の方向から示す斜視図、(f)は(b)のIV-IV相当位置の断面図である。
図15】同上3Dプリンタを使用して製造された更に他の造形物を示す図で、(a)はZ軸方向から示す平面図、(b)はX軸方向から示す側面図、(c)は-Y軸方向から示す側面図、(d)は一の方向から示す斜視図、(e)は他の方向から示す斜視図である。
図16図15に示す更に他の造形物の第1の設計方法を示し、(a)は2つのトーラス結び目間を線により結んだサーフェスを示す斜視図、(b)は(a)に厚みを付けた造形データを示す斜視図である。
図17】同上第2の設計方法により設計された造形データに基づき3Dプリンタを使用して製造された更に他の造形物を示す図で、(a)はZ軸方向から示す平面図、(b)はX軸方向から示す側面図、(c)は-Y軸方向から示す側面図、(d)は一の方向から示す斜視図、(e)は他の方向から示す斜視図、(f)は更に他の方向から示す斜視図、(g)は更に他の方向から示す斜視図、(h)は(b)のV-V相当位置の断面図である。
図18】同上第2の設計方法により設計された造形データに基づき3Dプリンタを使用して製造された更に他の造形物を示す図で、(a)はZ軸方向から示す平面図、(b)はX軸方向から示す側面図、(c)は-Y軸方向から示す側面図、(d)は一の方向から示す斜視図、(e)は他の方向から示す斜視図、(f)は更に他の方向から示す斜視図、(g)は更に他の方向から示す斜視図、(h)は(b)のVI-VI相当位置の断面図である。
図19】同上3Dプリンタを使用して製造された更に他の造形物を示す図で、(a)はZ軸方向から示す平面図、(b)はX軸方向から示す側面図、(c)は-Y軸方向から示す側面図、(d)は一の方向から示す斜視図、(e)は他の方向から示す斜視図、(f)は(b)のVII-VII相当位置の断面図である。
図20】同上3Dプリンタを使用して製造された更に他の造形物を示す図で、(a)はZ軸方向から示す平面図、(b)はX軸方向から示す側面図、(c)は-Y軸方向から示す側面図、(d)は一の方向から示す斜視図、(e)は他の方向から示す斜視図、(f)は(b)のVIII-VIII相当位置の断面図である。
図21図18に示す更に他の造形物が更に連結されて製造された更に他の造形物を示す図で、(a)はZ軸方向から示す平面図、(b)はX軸方向から示す側面図、(c)は斜視図である。
図22図20に示す更に他の造形物が更に連結されて製造された更に他の造形物を示す図で、(a)はZ軸方向から示す平面図、(b)はX軸方向から示す側面図、(c)は斜視図である。
図23図20に示す更に他の造形物が更に連結されて製造された更に他の造形物を示す図で、(a)はZ軸方向から示す平面図、(b)はX軸方向から示す側面図、(c)は斜視図である。
図24図20に示す更に他の造形物が更に連結されて製造された更に他の造形物を示す図で、(a)はZ軸方向から示す平面図、(b)はX軸方向から示す側面図、(c)は斜視図である。
図25図23に示す造形物の製造例を示す写真である。
図26】同上3Dプリンタを使用して製造された更に他の造形物を示す図で、(a)はZ軸方向から示す平面図、(b)はX軸方向から示す側面図、(c)は-Y軸方向から示す側面図、(d)は一の方向から示す斜視図、(e)は他の方向から示す斜視図である。
図27】同上3Dプリンタを使用して製造された更に他の造形物を示す図で、(a)はZ軸方向から示す平面図、(b)はX軸方向から示す側面図、(c)は-Y軸方向から示す側面図、(d)は一の方向から示す斜視図、(e)は他の方向から示す斜視図である。
図28】同上3Dプリンタを使用して製造された更に他の造形物を示す図で、(a)はZ軸方向から示す平面図、(b)はX軸方向から示す側面図、(c)は-Y軸方向から示す側面図、(d)は一の方向から示す斜視図、(e)は他の方向から示す斜視図である。
図29】同上造形物の造形部のループ形状を規定するトーラス結び目の例を示す図で、(a)はZ軸方向から示す平面図、(b)はX軸方向から示す側面図、(c)は-Y軸方向から示す側面図、(d)は一の方向から示す斜視図、(e)は他の方向から示す斜視図である。
図30】同上造形物の造形部のループ形状を規定するトーラス結び目の他の例を示す図で、(a)はZ軸方向から示す平面図、(b)はX軸方向から示す側面図、(c)は-Y軸方向から示す側面図、(d)は一の方向から示す斜視図、(e)は他の方向から示す斜視図である。
図31】同上3Dプリンタを使用して製造された更に他の造形物を示す図で、(a)はZ軸方向から示す平面図、(b)はX軸方向から示す側面図、(c)は-Y軸方向から示す側面図、(d)は一の方向から示す斜視図、(e)は他の方向から示す斜視図である。
図32】(a)は図26に示す造形物が変形した状態の例を示す写真、(b)は(a)が復帰変形した状態の例を示す写真である。
図33】同上3Dプリンタによりサポートレス造形可能な造形物の造形テーブルからの立ち上がり角度の参考例を示す断面図である。
図34図33の参考例の製造例を示す写真である。
図35図6に示す造形物の製造例を示す写真である。
図36図14に示す造形物の製造例を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の一の実施形態について図面を参照して説明する。
【0019】
図1において、1は造形物製造装置である熱溶解積層方式の3Dプリンタで、この熱溶解積層方式の3Dプリンタ(以下では単に「3Dプリンタ1」という場合がある)は、3D造形データに基づいて、熱で溶解(溶融)した造形材料である樹脂を1層ずつ順次積層して3次元の造形物Wを製造するための造形機である。
【0020】
なお、3Dプリンタ1に用いられる造形材料である樹脂は、例えば熱可塑性樹脂で、汎用プラスチック、エンジニアリングプラスチック、スーパーエンジニアリングプラスチック、強化樹脂、リサイクルプラスチック、バイオマスプラスチック、生分解性プラスチック等である。より具体的には、例えばPVC、POM、PBAT、AAS、PS、PLA、植物繊維入りPLA、ABS、硝子繊維入りABS、炭素繊維入りABS、PP、硝子繊維入りPP、炭素繊維入りPP、PC、PC・ABS、ASA、TPE、TPU、酢酸セルロース、PA、PETG等である。造形材料の形状はペレットやフィラメント等、任意のものを使用してよい。また、3Dプリンタ1は、例えばシングルノズルヘッド仕様のもので、造形に用いる樹脂は1種類のみでよく、サポート専用の樹脂(水溶性の樹脂等)は不要である。また、造形材料は樹脂に限らず、金属、セラミック、シリコーン等でもよい。また、これらの造形材料は、可撓性、抗菌性、耐薬品性、耐熱性、防汚性及び対候性のうちの一つ又は複数の性質を有したり、所望の添加材を用いてこれらの性質を付加させたりしたものでもよい。
【0021】
3Dプリンタ1は、例えば造形室2を内部に有する箱状の本体3と、造形室2内でX軸方向(水平方向である左右方向)及びZ軸方向(上下方向である高さ方向)に移動可能な造形ヘッド4と、造形室2内でY軸方向(水平方向である前後方向)に移動可能な造形テーブル5とを備えている。
【0022】
なお、このように造形ヘッド4がX軸方向及びZ軸方向に移動可能でかつ造形テーブル5がY軸方向に移動可能であることから、造形ヘッド4は造形テーブル5に対して相対的に3次元に移動する(後述するが、3Dプリンタ1は、図1に図示した構成には限定されず、造形ヘッド4が造形テーブル5に対して相対的に少なくとも3次元に移動する構成であればよい)。
【0023】
また、3Dプリンタ1は、造形ヘッド4を造形室2内でX軸方向及びZ軸方向に移動させる第1駆動部6と、造形テーブル5を造形室2内でY軸方向に移動させる第2駆動部7と、STLデータ等の3D造形データに基づいて両駆動部6,7等を制御する制御部8とを備えている。
【0024】
そして、その制御部8による制御に基づいて、造形ヘッド4が造形テーブル5に対して相対的に3次元に移動しながら、この移動中の造形ヘッド4のノズル11から樹脂(溶解樹脂)が吐出され、この吐出された樹脂が硬化して固まることで、造形テーブル5上に樹脂が積層状態となって所望形状の3次元造形物Wが造形される。
【0025】
ここで、シングルノズルヘッド仕様の熱溶解積層方式の3Dプリンタ1の造形ヘッド4は、例えば溶解樹脂押出方式のもので、当該造形ヘッド4内の加熱手段(図示せず)からの熱で溶解した樹脂を吐出口から吐出する単一のノズル11を有している。
【0026】
すなわち、図示しないヒータ等の加熱手段で加熱されて溶けた樹脂は、造形ヘッド4内のギア等の押出手段(図示せず)にて押し出されるようにして、造形材料吐出用の1つのノズル11の吐出口からこの吐出口の中心軸方向、例えば下方に向かって吐出(排出)される。なお、加熱手段や押出手段は、造形ヘッド4内ではなく造形ヘッド4外に設けてもよい。
【0027】
そして、本実施の形態の3Dプリンタ1により製造される造形物Wは、トーラス結び目に基づき規定されるループ形状を持つ造形部W1を有し、多孔質構造体の少なくとも一部を構成する。
【0028】
ここで、図2に示すように、トーラス結び目Kは、仮想的なトーラスTの表面に貼り付いて巻き付く結び目として定義される。このトーラス結び目Kは、媒介変数tを用いて次の式(以下、これらをまとめて式(1)と称する)で規定される。
【0029】
Xt=(a・cos(d・t)+e)・cos(f・t)
Yt=(b・cos(d・t)+e)・sin(f・t)
Zt=c・sin(d・t)
【0030】
X軸方向、Y軸方向、Z軸方向は、3Dプリンタ1(図1に示す)におけるX軸方向、Y軸方向、Z軸方向に対応する。a~fはそれぞれ0でない係数である。媒介変数tは0~2π[rad]とし、係数a,b,cは、それぞれトーラスTの単位トーラスに対するX軸方向、Y軸方向、Z軸方向の拡大率を設定する係数、係数eはトーラスTのいわば「径」を設定する係数であって、係数a,bとともに、単位トーラスに対するX軸方向及びY軸方向の径の拡大率を設定する係数であり、係数dはその絶対値がトーラス結び目Kの経線(メリディアン)方向Mにおけるループ回数を設定する係数、係数fはその絶対値がトーラス結び目Kの緯線(ロンジチュード)方向Lにおけるループ回数を設定する係数である。係数d,fについては、基本的にはそれぞれ絶対値が1以上、好ましくは少なくともいずれかの絶対値が2以上であり、ループ形状を形成すれば任意の値としてよいが、好ましくはトーラス結び目Kが閉ループ形状を形成するように選択し、一例として整数値とする。また、係数d,fについては、好ましくは、互いの絶対値の最大公約数が1、つまり、一方の絶対値が1で他方の絶対値が2以上の整数値、又は、絶対値の比が互いに素な整数の比と等しくなる値に設定する。その他、係数a,b,c,eについては、ループ形状の大きさを規定するもので、整数値には限らない。好ましくは、係数a,b,c,eは、それぞれループ形状に自己交差が生じないように設定するが、自己交差が生じてもよい。なお、式(1)から自明であるように、Xt、Yt、Ztの値を相互に入れ替えた場合でも合同なトーラス結び目Kが形成されるが、図1に示す3Dプリンタ1による造形をしやすくするために、トーラスT(図2に示す)の軸方向をZ軸方向に固定し、XtとYtとの値の入れ替えのみを許容することが好ましい。
【0031】
本実施の形態では、式(1)を用いて造形部W1の3Dの造形データをコンピュータ等により設計し、その設計した造形データに基づき、3Dプリンタ1を駆動させて造形物Wを製造する。
【0032】
次に、造形物Wの設計方法について説明する。
【0033】
造形物Wを製造するための造形データは、式(1)を用いた場合、大別して2通りの方法で設計可能である。
【0034】
第1の設計方法は、隣り合う2つのトーラス結び目間を線で結んで形成したサーフェスに厚みを付けることで造形データを形成する方法である。
【0035】
第2の設計方法は、トーラス結び目に沿って、所定の断面形状をスイープすることで造形データを形成する方法である。なお、スイープ(掃引)とは、所定の断面形状を軌跡、ここではトーラス結び目に沿って連続的に移動させることを言う。
【0036】
第1の設計方法について、図面を参照して説明する。
【0037】
図3には、式(1)において、|a|=|b|=|c|、d=1、f=2の閉ループ形状をなすトーラス結び目に基づいて規定される造形部W1(造形物W)の例を示す。図4(a)に示すように、式(1)の係数eの値のみが異なる(位が異なる)、互いに隣り合う略相似形状の2つのトーラス結び目K1,K2を用い、これらトーラス結び目K1,K2の間を線15、例えば直線で結んでサーフェス16を形成する。線15としては、非自己交差線が好ましい。そして、このサーフェス16に対して図4(b)に示すように法線方向に厚みを付けることにより3次元化(ソリッド化)することで、造形データDを形成する。2つのトーラス結び目K1,K2を示す式(1)の係数eの差を変えることにより造形部W1の幅を制御でき、例えば図5に示す例は、図3に示す例よりも2つのトーラス結び目を示す式(1)の係数eの差が小さい場合の造形データを用いて形成された造形部W1(造形物W)である。また、式(1)の係数d,fを固定し、係数a,b,c,eの絶対値を大きく取ることで、ループ回数を変えることなく造形部W1(造形物W)をX軸方向、Y軸方向、Z軸方向に拡大することが可能になる。
【0038】
これら図3及び図5に示す例の造形部W1(造形物W)は、見る角度に応じて形状が大きく異なり、大ループ中に小ループがある円形状を呈したり、特に図5(b)に示すように、大ループと小ループとが反対方向に展開する8の字状を呈したりする。
【0039】
同様に、図6には、式(1)において、|a|≠|b|<<|c|(|a|<<|b|<<|c|)、d=1、f=2の閉ループ形状をなすトーラス結び目に基づいて規定される造形部W1(造形物W)の例を示す。この例では、係数aの絶対値を係数b,cと比較して小さく取っていることにより、造形部W1がX軸方向に薄く、平坦に近い形状のメビウスリング状の造形となっている。サーフェス自体のねじれ構造は、図6(f)に示すように造形部W1にもねじれ構造として反映される。
【0040】
サーフェスの厚み付けについては、自己交差しないように設定されてもよいし、一部が自己交差するように設定されてもよい。なお、自己交差部は、格子構造における交差部とみなせる。自己交差部については、例えば任意の箇所で厚みを持たせることにより耐衝撃性の向上が図れる。自己交差部の厚みを増加させる場合には、3Dプリンタ1の造形材料の吐出量を増加させる等の操作が可能である。
【0041】
第1の設計方法に用いる線は直線に限らず、任意の曲線としてよい。例えば、図7には、式(1)において、|a|=|b|=|c|、d=1、f=2の閉ループ形状をなすトーラス結び目に基づいて規定される造形部W1(造形物W)の例を示し、図8(a)に示すように、式(1)の係数eが異なる2つのトーラス結び目K1,K2間を線15としてサインカーブ状の曲線で結んで形成したサーフェス16に対して図8(b)に示すように厚みを付けることにより3次元化することで造形データDを形成している。
【0042】
また、第2の設計方法について、図面を参照して説明する。
【0043】
図9には、式(1)において、|a|=|b|=|c|、d=1、f=2の閉ループ形状をなすトーラス結び目に基づいて規定される造形部W1(造形物W)の例を示す。図10(a)に示すように、スイープ線20をトーラス結び目により設定し、図10(b)に示す所定の断面形状21の中心又は重心を図10(c)に示すようにスイープ線20に沿って移動(周回)させることにより3次元化することで、造形データDを形成する。例えば、断面形状21としては、六角形、特に正六角形の例を示している。この例では、断面形状21は、閉ループ状のスイープ線20となるトーラス結び目に対して、式(1)において断面形状21の幅と等しい係数eを増減させたトーラス結び目である仮想線20a,20bを通過することとなる。
【0044】
好ましくは、図10(d)に示すように、断面形状21は、造形テーブル5に沿って延びる側縁部22を有する。すなわち、側縁部22は、Z軸方向成分を実質的に有しない部分である。側縁部22の形状は、例えば直線が好ましいが、これに限らず、例えば直線に近似した(曲率半径が大きい)曲線や、例えば波形形状、ジグザグ形状、あるいは鋸形状等のような、先端部において造形テーブル5に沿って延びる直線又は直線に近似した曲線を接線又は包絡線として持つ形状等でもよい。このように、造形部W1の断面形状21が、3Dプリンタ1の造形テーブル5に沿って延びる側縁部22を有することで、側縁部22を造形テーブル面(又は造形テーブル面上のラフト面)に対する支持部として造形部W1を3Dプリンタ1で製造できるので、造形部W1(造形物W)をサポートレスで製造できる。
【0045】
また、図11には、式(1)において、|a|=|b|<<|c|、d=1、f=2の閉ループ形状をなすトーラス結び目に基づいて規定される造形部W1(造形物W)の例を示す。
【0046】
断面形状21については、六角形に限らず、例えば図12に示すように、三角形状、特に正三角形状、あるいは、図13に示すように、四角形状、特に正方形状等の多角形でもよいし、多角形に限らず、図14に示すように、円形状でもよい。その他、中空形状でもよいし、楕円形状や長円形状等のオーバル形状でもよいし、凸多角形状に限らず、凹多角形状等、任意の形状としてよい。なお、断面係数の違いを利用し、任意の断面形状にすることで、所望の強度を持つ造形部W1(造形物W)を製造できる。また、断面形状21の大きさについては、造形部W1に自己交差部が形成されないように設定されることが好ましいが、造形部W1の一部に自己交差部が形成されるように設定されてもよい。自己交差部については、格子構造における交差部となる。
【0047】
これら図11ないし図14の例では、造形部W1(造形物W)は、見る角度に応じて、大小のループが重なる円形状、8の字(メビウスリング)状、三葉結び目状等の様々な形状を呈する。
【0048】
また、造形部W1は、図3ないし図14に示すように単独で造形物Wを構成してもよいし、複数連結されて造形物Wを構成してもよい。
【0049】
複数の造形部W1を連結して造形物Wを形成する場合には、大別して2通りの方法がある。
【0050】
第1の連結方法は、造形部W1をループ形状が交差するように連結する方法である。第2の連結方法は、造形部W1が少なくとも一部に閉ループ形状をなす場合、その閉ループ形状同士が交差しないように、いわば鎖(チェーン)状又はトーラス絡み目状等に連結する方法である。
【0051】
第1の連結方法について、図面を参照して説明する。
【0052】
図15には、式(1)において、|a|=|b|<|c|、d=1、f=2の閉ループ形状をなすトーラス結び目に基づいて規定される2つの造形部W1a,W1bが連結された造形物Wの例を示す。この例では、造形部W1a,W1bは互いに大きさが異なり、かつ、ループ回数が同一の、略相似形状である。そして、この例では、例えば上記の第1の設計方法を用い、図16(a)に示すように、まず、式(1)において係数eの値が異なる(位が異なる)一の2つのトーラス結び目K1a,K2aと、式(1)において係数eの値が異なる(位が異なる)他の2つのトーラス結び目K1b,K2bと、を用いる。このとき、トーラス結び目K1a,K2aと、トーラス結び目K1b,K2bと、が互いに1以上の交点を有するように係数を選択する。この例では、式(1)において係数a~d,fを全て等しくしておき、トーラス結び目K1a,K1bが1点で交差し、トーラス結び目K2a,K2bが他の1点で交差するように係数eを選択する。また、トーラス結び目K1a,K2aを示す式(1)における係数eの差と、トーラス結び目K1b,K2bを示す式(1)における係数eの差を等しく設定しておくことにより、連結される造形部W1a,W1b同士の幅を互いに等しくすることができる。
【0053】
次いで、トーラス結び目K1a,K2aの間を線15a、例えば直線で結んで形成したサーフェス16aを形成するとともに、トーラス結び目K1b,K2bの間を線15b、例えば直線で結んで形成したサーフェス16bを形成する。そして、これらのサーフェス16a,16bのそれぞれに対して図16(b)に示すように法線方向に厚みを付けることにより3次元化(ソリッド化)した形状のブール和を取ることで、造形データDを形成する。なお、線15a,15bについては、直線に限らず、曲線でもよい。また、線15aと線15bとが同種の線である必要もない。
【0054】
トーラス結び目K1a,K2aを示す式(1)における係数eの差及びトーラス結び目K1b,K2bを示す式(1)における係数eの差を変えることにより造形部W1の幅を制御できる。
【0055】
このように互いに大小が異なる略相似形状の複数の造形部W1を連結する場合には、自己相似性を有する外観又はそれに類する外観を呈する、見栄えのよい造形物Wを容易に製造できる。
【0056】
第1の連結方法において造形データDを設計する場合には、上記の第2の設計方法を用いてもよい。
【0057】
図17及び図18には、式(1)において、|a|=|b|<<|c|、d=1、f=2の閉ループ形状をなすトーラス結び目に基づいて規定される2つの造形部W1a,W1bが連結された造形物Wの例を示す。この例では、造形部W1a,W1bは互いに鏡像対称形状であり、式(1)において、各係数の絶対値はそれぞれ等しく、Xtの正負のみが異なっている。
【0058】
これら造形部W1a,W1bを形成するための造形データDは、互いに鏡像対称形状のトーラス結び目をそれぞれスイープ線とし、所定の断面形状21の中心又は重心を各スイープ線に沿って移動(周回)させることにより3次元化した形状のブール和を取って形成する。例えば、断面形状21としては、図17では六角形、特に正六角形の例を示し、図18では円形の例を示すが、これらの形状に限らず、任意の形状としてよい。
【0059】
このように、第1の連結方法では、複数の造形部W1のループ形状を互いに交差するように連結することで、一体的に連なる剛体状の造形物Wを容易に製造できる。
【0060】
例えば、造形物Wは、図17(f)及び図18(f)に示す角度から見て、8の字結び目状の形状を呈し、図17(g)及び図18(g)に示す角度から見て、エピトロコイド結び目状の形状を呈する。
【0061】
なお、第2の連結方法については、第1の連結方法とは逆に、交差する位置が生じないように式(1)における係数を選んだ複数のトーラス結び目に基づき規定される造形部W1を製造することにより実現可能である。この第2の連結方法では、造形部同士の連結部において容易に変形し得る鎖状の造形物Wを容易に製造できる。
【0062】
そして、連結される造形部W1は、2つに限らず、3つ以上の任意としてよい。
【0063】
例えば、図19には、式(1)において、|a|=|b|<<|c|、d=1、f=2の閉ループ形状をなすトーラス結び目に基づいて規定される4つの造形部W1a,W1b,W1c,W1dが連結された造形物Wの例を示す。この例では、造形部W1a,W1bは互いに鏡像対称形状であり、式(1)において、各係数の絶対値はそれぞれ等しく、Xtの正負のみが異なっている。また、造形部W1a,W1cは、式(1)におけるXtとYtとが互いに入れ替わっているものであり、同様に、造形部W1b,W1dは、式(1)におけるXtとYtとが互いに入れ替わっているものである。すなわち、造形部W1c,W1dは、造形部W1a,W1bをそれぞれZ軸回りにπ/2[rad]回転させた形状である。したがって、造形部W1c,W1dは互いに鏡像対称形状であり、式(1)において、各係数の絶対値はそれぞれ等しく、Ytの正負のみが異なっている。
【0064】
これら造形部W1a,W1b,W1c,W1dを形成するための造形データは、上記の第1の設計方法により設計する場合、式(1)における係数eが異なる相似形状の2つのトーラス結び目を2組設定し、それらの組の2つのトーラス結び目間を線により結んで形成したサーフェスに厚みを付けて3次元化した形状のブール和を取って形成する。また、第2の設計方法により設計する場合、各トーラス結び目をそれぞれスイープ線とし、所定の断面形状の中心又は重心を各スイープ線に沿って周回させることにより3次元化した形状のブール和を取って形成する。例えば、断面形状21としては、図19では四角形、特に長方形の例を示しているが、これに限らず、図20に示すように円形状等、任意の形状としてよい。
【0065】
更に、複数の造形部W1を連結したものをメッシュ(単位形状、単位セル)としてそれらを多数連結することにより造形物Wを構成してもよい。また、前述したような造形物Wを単位形状として更に左右方向に並べたり、上下方向に重ねたりすることでより大きな一つの造形物Wを構成することも可能である。
【0066】
例えば、図21には、図18に示す造形部W1a,W1bの組み合わせからなるメッシュを円形状に配置した造形物Wの例を示し、図22及び図23には、図20に示す造形部W1a~W1dの組み合わせからなるメッシュを円形状に配置した造形物Wの例を示す。これらの例では、Z軸上、及び/又は、Z軸を中心とした複数の同心円上に、Z軸方向に1列のメッシュが等角度で並べられて連結されて造形物Wが構成されている。また、図23に示す造形物Wは、図22に示す造形物Wに対して、中央部にメッシュを連結するX字状又は十字状の連結部25を備える。つまり、多数の造形部W1を互いに連結して造形物Wを形成する場合、単に造形部W1の一部同士を連結部とするだけでなく、別途の連結部を用いてもよい。また、造形部W1の並べ方については、等角度や等間隔でなくてもよい。
【0067】
また、図24には、図20に示す造形部W1a~W1dの組み合わせからなるメッシュをX軸方向、Y軸方向、及び、Z軸方向に複数ずつ、直方体状に連結した造形物Wの例を示す。
【0068】
これらの例では、メッシュ同士は、ループ形状が交差する位置で第1の連結方法により連結されて全体として一塊の造形物Wとして構成されているが、これに限らず、閉ループ形状同士が交差しない位置で第2の連結方法を適用して連結されていてもよい。すなわち、複数の造形部W1を連結して造形物Wを構成する場合、造形部W1は、特定の部位が連結部として作用するのではなく、ループ形状又は閉ループ形状の任意位置が連結部として作用する。
【0069】
このように、互いに同一形状又は鏡像対称形状の複数の造形部W1を連結することで、対称性や規則性を持つ外観を呈する、見栄えのよい造形物Wを容易に製造できる。対称性や規則性を持たせた造形物Wについては、例えば熱溶解積層方式及び光造形方式(DLP方式)の3Dプリンタ1において、サポートレスで造形可能である(DLP方式の3Dプリンタ1により製造した図23に示す造形物Wの例の写真を図25に示す)。
【0070】
また、複数の造形部W1を連結したものをメッシュとして多数連結した造形物Wは、例えばフィルタやネット、クッション(クッション材)、装具、雨水貯水槽、植物育成用培地、水処理用の濾材、特に浄水処理用の濾床の少なくとも一部として利用することが好ましいが、これらの例に限らず、多孔質の任意の物品として造形物W(造形部W1)を利用してよい。特に、図21ないし図24に示すように、各方向から見てそれぞれ異なる形状を呈する造形部W1を規則的に配置して造形物Wを構成することにより、空気や水等の流体の通過しやすさに偏りを持たせることができるので、各造形部W1の形状に応じて配置パターンを選択することによって、造形物Wをフィルタや濾材として有効に作用させることができる。また、造形部W1の連結構造に偏りを持たせることで、造形物Wの弾性や剛性等も任意に操作できる。更に、生体スキャンデータ、例えば生体の形状に沿って圧力センサ等により算出されたデータ等に合わせて任意の配置パターンで造形部W1を連結することで、個々の生体の形状に適したクッションや装具等を造形することも可能である。
【0071】
造形部W1(造形物W)の連結構造を変えることで、同一の材料でも性質を変化させることができる。例えば、図示しないがクッション付きの椅子等も同一の材料で造形可能であり、この場合には廃棄する際にも分別の必要がないため、分別の手間が省け、リサイクルしやすい等、環境面への配慮にもつながる。また、クッションや植物育成培地等、ウレタンマットが使用される機会が多い物品を造形部W1(造形物W)で構成することにより、柔軟性、弾性に富んだ物品を造形しつつ、廃棄する際にはウレタンのような焼却後埋め立て処理等が不要となる。これにより、廃棄コスト、環境負荷の削減等も見込める。
【0072】
また、造形部W1(造形部W)はループ形状を持つため、把持部や治具の引っ掛け部等となるので、メッシュとして造形した場合には容易に交換しやすい。
【0073】
連結させる造形部W1(造形物W)を密にすることで、強度の向上につながる。
【0074】
なお、上記の実施の形態では、基本的に式(1)において、|d|<|f|であって、数学的に円と同相の自明な(ほどくことができる)閉ループ形状をなすトーラス結び目により規定される造形部W1又は造形物Wの例を示したが、これに限らず、係数d,fは任意の値を選択してよい。
【0075】
例えば、|d|又は|f|が3以上の例として、図26には、式(1)において、|a|=|b|=|c|、d=5、f=6の閉ループ形状をなすトーラス結び目に基づいて規定される造形部W1の例を示す。
【0076】
また、|d|>|f|の例として、図27には、式(1)において、|a|=|b|=|c|、d=-7、f=4の閉ループ形状をなすトーラス結び目に基づいて規定される造形部W1の例を示し、図28には、式(1)において、|a|=|b|=|c|、d=3、f=2の閉ループ形状をなすトーラス結び目に基づいて規定される造形部W1の例を示す。なお、図29には、図28に示す造形部W1のループ形状を規定するトーラス結び目と同様に、式(1)において、d=3、f=2の閉ループ形状をなす他のトーラス結び目Kの例を示すが、図28に示す造形部W1と比較して、係数c,eの絶対値が大きいため、図29に示すトーラス結び目Kは、特に図29(e)に示すように、Z軸方向に立ち上がった立体クローバー状の形状を呈する。このように、係数d,fの絶対値又は比が等しい場合であっても、その他の係数a~c,eを選択することにより、造形部W1に容易に造形バリエーションを与えることができる。
【0077】
また、図30には、|a|=|b|<<|c|、d=6、f=5の閉ループ形状をなすトーラス結び目Kの例を示す。このトーラス結び目Kにより規定される閉ループ形状を有する造形部W1については、リサジュー図形状の外観を呈することとなる。図29及び図30に示す例は、造形部W1が立方体に内接しており、連結して造形物Wとして構成する際の単位形状としてより扱いやすい。
【0078】
さらに、造形部W1には、ループ形状を規定するためのトーラス結び目自体に自己交差が生じていてもよく、図31には、式(1)において、|a|=|b|=|c|、d=2、e=1、f=5の閉ループ形状をなすトーラス結び目に基づいて規定される造形部W1の例を示す。この例では、トーラス結び目自体が、中央部すなわちZ軸付近において近接又は自己交差しているため、このトーラス結び目によりループ形状が規定される造形部W1についても同様に自己交差が生じている。このような例であっても、本実施の形態の造形部W1に含むものとする。
【0079】
その他、トーラス結び目については、Z軸付近以外の位置で自己交差が生じていてもよい。
【0080】
このように、式(1)における係数d,fの絶対値を大きく設定した造形部W1(造形物W)の場合には、数学的に自明でない(ほどくことができない)閉ループ形状をなすトーラス結び目により造形部W1のループ形状が規定されることとなる。この場合、造形部W1(造形物W)は多数のループ形状が絡み合うように形成されることにより、軟らかな触感を得ることができ、特に材料を軟質材(弾性材)等とした場合に、Z軸方向にばね状に弾性的に変形可能な造形物Wを構成できる。上記の例では、図26に示す造形物Wの例において、特に優れた弾性変形性能を有し、造形部W1(造形物W)を複数連結させなくても、特に弾性に富んだクッションとして造形できる。しかも、造形部W1に自己交差部を有さない造形物Wの例では、数学的に円と同相であるため、自己交差部を有する構成と比較して様々な方向へ変形させることができるとともに、数学的に円と同相な一筆書きの構造であるため、拡径方向に引っ張った場合でもループ形状同士の相互位置が変わるのみで外力が解除されると容易に元の形状に戻ることができ(例えば図32(a)及び図32(b)参照)、同様に縮径方向に押し込んだ場合でも外力が解除されると容易に元の形状に戻ることができる。すなわち、造形部W1(造形物W)は、造形材料が仮に硬質であっても、構造的に縮拡変形可能であって、柔軟性や弾性変形性能、耐衝撃性を有することができるため、例えば可塑剤を減らしたり、可塑剤自体を使用することなく造形したりでき、環境面への配慮にもつながる。
【0081】
例えば、造形物Wは、造形物Wの外形より小さい断面形状を有する管路等に押し込むと、その変形性能によって復帰変形して管路等の内面に対して圧接され、いわば突っ張り棒式に管路等に容易に取り付け可能になる。また、造形物Wは外周が曲線(曲面)状に形成されるため、仮に造形部W1に自己交差部を有していたとしても、管路等に容易に取り付け可能になる。管路等に固定する場合には、例えば外側部に接着材等を塗布してから押し込むことにより、支持部材等を必要とすることなく容易に固定可能となる。また、水流が弱い場所においては、接着剤が無くとも押し込むだけで管路に取り付け可能である。その場合、手や治具で造形物Wを任意の位置にスライドさせ、取付位置を移動させることもでき、かつ、接着剤を使用しないことにより手間やコストを省くことができる。
【0082】
一例として、造形物Wは、汚れにくい(防汚性を有する)素材を用いて造形することにより、水を循環させて栽培養液を再利用する等の植物工場の配管に配置されて栽培槽内の不純物を分離するためのメッシュ又は濾材等として利用できる。特に、本実施の形態の造形物Wは、対称性を有する(方向性がない)形状に造形することが容易であるため、取り付け方向を間違えること等がなく、容易に取り付け可能となる。また、既設の配管に合わせた寸法で造形物Wを造形すれば、配管を簡単に変えられない(水の流れを容易に止められない)植物工場等でも容易に適用できるだけでなく、所望のサイズで造形すれば配管に対して水平にも取り付けやすい。更に、造形部W1のループ形状を引っ掛け部や把持部として利用できることから、配管の奥の方への設置であっても、取り付け及び交換が容易になるので、頻繁な交換やメンテナンスが必要な濾材等としても使いやすい。
【0083】
さらに、式(1)については、整数係数の例を示したが、これに限らず、例えば係数d~fが整数でない例も本実施の形態に含むものとする。
【0084】
このように、本実施の形態によれば、トーラス結び目に基づき規定されるループ形状を持つ曲線的な構造をとる造形部W1(造形物W)を有することで、加重を圧縮力で支えることができ、かつ柔軟性、弾性に優れ、また、造形部W1の自由な連結構造が可能となる等、造形の自由度をより向上することが可能となる。また、曲線的な構造であるため、直線的な構造に比べて握りやすく、角がないため安全性にも優れている。
【0085】
連続関数である式(1)を利用し、その係数a~fを適宜選択することで、見る角度によって形状が大きく異なる、複雑な形状を呈する造形部W1すなわち造形物Wを任意形状に製造することが可能になるとともに、造形部W1すなわち造形物Wの造形バリエーションを容易に増やすことができる。
【0086】
また、直線状の格子構造を規則的に連結する構造と比較して、複数の造形部W1を、ループ形状を互いに交差させて連結する場合、連結位置を任意に設定できるため、造形材料を適切に選定することにより様々な性質を有する連結部を提供することで、造形物Wの性能を設定できる。例えば任意の箇所で連結部に厚みを持たせることにより、耐衝撃性に優れた造形物Wを提供できる。
【0087】
そして、上記の造形部W1(造形物W)は、仮想的なトーラスT(図2に示す)の表面に巻き付く滑らかな曲線であるトーラス結び目K(図2に一例を示す)に基づき規定されるループ形状を持つので、サポート材が必要となるオーバーハング部や造形テーブル面に水平な方向に延びるブリッジ部等を備えない形状であり、3Dプリンタ1を用いて、サポートレスで製造可能である。また、複数の造形部W1を連結して造形物Wを構成する場合には、より複雑な形状をサポートレスで製造可能となる。
【0088】
例えば、本実施の形態の3Dプリンタ1のように、3軸造形においてサポートレスで造形部W1(造形物W)を造形する条件としては、ノズル11の中心軸と造形テーブル5とのなす角度が90°のとき、造形部W1(造形物W)の立ち上がり角度が45°であるのが望ましいが、この限りではなく、造形テーブル5に対して少なくとも6.5°立ち上がっていれば造形可能であることが確認された(図33に参考例を示し、図34にその製造例の写真を示す)。また、6軸造形の3Dプリンタ1の場合には、上記の全ての造形部W1及び造形物Wについてサポートレスで造形可能であることが確認された(図35図36に製造例の写真を示す)。
【0089】
なお、上述した種々の造形物(モデル)を製造(造形)するための造形物製造装置である熱溶解積層方式の3Dプリンタは、例えばノズル径φが10mm以上のペレット式の大型3Dプリンタでもよく、この大型3Dプリンタでは、専用のフィラメント樹脂ではなく、安価に取得可能な一般的なペレット状の熱可塑性樹脂(リサイクルペレット材等でもよい)を造形材料として利用することが可能である。
【0090】
また、造形物製造装置は、熱溶解積層方式の3Dプリンタには限定されず、例えば光造形方式(DLP方式やSLA方式)の3Dプリンタ等でもよい。
【0091】
さらに、造形物製造装置は、造形材料を吐出するノズルを有する造形ヘッド(吐出手段)がX軸方向及びZ軸方向に移動可能でかつ造形テーブルがY軸方向に移動可能な構成には限定されず、造形ヘッドが造形テーブルに対して相対的に少なくとも3次元に移動可能な構成であればよく、例えば造形ヘッドがX軸方向及びY軸方向に移動可能でかつ造形テーブルがZ軸方向に移動可能な構成や、例えば造形ヘッドがロボットアーム(例えば6軸のロボットのロボットアームが好ましい)の先端部に設けられて、X軸方向、Y軸方向及びZ軸方向の3方向を含む任意の方向に移動可能な構成等でもよい。3軸造形や6軸造形の3Dプリンタにおいてサポートレス造形が可能であるため、サポートを造形しない分、造形時間の短縮(造形物Wの造形速度の向上)につながる。例えば、造形物製造装置が6軸造形であれば、ノズル11が造形部W1(造形物W)に干渉しない場合は連続関数であるトーラス結び目を一筆書きでなぞることが可能なため、造形物Wの造形速度が向上する。
【符号の説明】
【0092】
1 造形物製造装置である熱溶解積層方式の3Dプリンタ
5 造形テーブル
15 線
16 サーフェス
21 断面形状
22 側縁部
D 造形データ
K トーラス結び目
W 造形物
W1 造形部
【要約】
【課題】造形の自由度をより向上することが可能な造形物を提供する。
【解決手段】3Dプリンタにより製造される造形物Wであって、トーラス結び目に基づき規定されるループ形状を持つ造形部W1a,W1bを有し、複数の造形部W1a,W1bが連結されて構成され、多孔質構造体の少なくとも一部をなす。
【選択図】図21
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31
図32
図33
図34
図35
図36