(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-31
(45)【発行日】2025-02-10
(54)【発明の名称】RNAを含有する抗腫瘍剤及びその利用
(51)【国際特許分類】
A61K 31/7115 20060101AFI20250203BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20250203BHJP
A61P 35/04 20060101ALI20250203BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20250203BHJP
C12N 15/11 20060101ALN20250203BHJP
【FI】
A61K31/7115
A61P35/00
A61P35/04
A61P37/04
C12N15/11 Z ZNA
(21)【出願番号】P 2024505121
(86)(22)【出願日】2023-05-17
(86)【国際出願番号】 JP2023018498
(87)【国際公開番号】W WO2023224080
(87)【国際公開日】2023-11-23
【審査請求日】2024-01-26
(31)【優先権主張番号】P 2022081120
(32)【優先日】2022-05-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】520293070
【氏名又は名称】株式会社GF・Mille
(73)【特許権者】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平塚 佐千枝
(72)【発明者】
【氏名】富田 毅
(72)【発明者】
【氏名】林 輝
(72)【発明者】
【氏名】上野 義仁
(72)【発明者】
【氏名】茶野 徳宏
(72)【発明者】
【氏名】古市 泰宏
(72)【発明者】
【氏名】河出 美和
(72)【発明者】
【氏名】柿澤 侑里
【審査官】愛清 哲
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-195364(JP,A)
【文献】TOMITA Takeshi et al.,Extracellular mRNA transported to the nucleus exerts translation-independent function,NATURE COMMUNICATIONS,2021年,12:3655,pp.1-19,https://doi.org/10.1038/s41467-021-23969-1,ABSTRACT
【文献】KOIZUMI Kana et al.,Synthesis of 4′-C-aminoalkyl-2′-O-methyl modified RNA and their biological properties,Bioorganic & Medicinal Chemistry,2018年,26,pp.3521-3534,https://doi.org/10.1016/j.bmc.2018.05.025,ABSTRACT
【文献】KANO Toshifumi et al.,Synthesis and properties of 4′-C-aminoalkyl-2′-fluoro-modified RNA oligomers,Bioorganic & Medicinal Chemistry,2018年,26,pp.4574-4582,https://doi.org/10.1016/j.bmc.2018.08.001,ABSTRACT
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-31/80
A61P 35/00-35/04
A61P 37/00-37/08
C12N 15/11
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号2で表される塩基配列のうち、配列番号6又は10で表される塩基配列を含むとともに、全長が130塩基以下の塩基配列であって、配列番号6又は10以外の塩基配列において配列番号2で表される塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列からなり、その3’末端から20塩基以内の3’末端領域及び/又は5’末端から25塩基以内の5’末端領域に、少なくとも一つ
の以下の式(1)で表される第1のヌクレオチド単位を有するRNAを有効成分として含む抗腫瘍剤。
【化12】
(式(1)中、R
1は、水素原子が
メチル基で置換された水酸基又はハロゲン原子を表し、R
2は、
アミノエチル基を表し、nは0又は1を表し、X
1は、酸素原
子を表し、X
2は、OH又は
O
-
を表し、Bは、プリン塩基又はピリミジン塩基を表す。)
【請求項2】
前記RNAは、全長が70塩基以内であり、前記3’末端領域は、前記3’末端から15塩基以内であり、前記5’末端領域に、前記5’末端から15塩基以内であり、前記第1のヌクレオチド単位を備える、請求項1に記載の抗腫瘍剤。
【請求項3】
前記RNAは、全長が60塩基以内であり、前記3’末端領域は、前記3’末端から10塩基以内であり、前記5’末端領域に、前記5’末端から10塩基以内であり、前記第1のヌクレオチド単位を備える、請求項1に記載の抗腫瘍剤。
【請求項4】
前記RNAは、前記第1のヌクレオチド単位を、前記3’末端領域の3’末端から2塩基以内に少なくとも一つ有し、前記5’末端領域の5’末端から2塩基以内に少なくとも一つ有する、請求項2又は3に記載の抗腫瘍剤。
【請求項5】
前記第1のヌクレオチド単位は、前記式(1)中、R
1はフッ素原子であ
るヌクレオチド単位である、請求項2又は3に記載の抗腫瘍剤。
【請求項6】
前記RNAは、配列番号4で表される塩基配列のうち、配列番号6又は10で表される塩基配列を含むとともに、配列番号6又は10以外の塩基配列において配列番号4で表される塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列からなる、請求項1に記載の抗腫瘍剤。
【請求項7】
前記第1のヌクレオチド単位の塩基は、シトシン又はウラシルである、請求項1に記載の抗腫瘍剤。
【請求項8】
前記RNAにおけるウリジンヌクレオシドの総数のうちの80%以上が、シュードウリジン、1-メチルシュードウリジン、1-エチルシュードウリジン、2-チオウリジン、4'-チオウリジン、5-メチルシトシン、2-チオ-1-メチル-1-デアザ-シュードウリジン、2-チオ-1-メチル-シュードウリジン、2-チオ-5-アザ-ウリジン、2-チオ-ジヒドロシュードウリジン、2-チオ-ジヒドロウリジン、2-チオ-シュードウリジン、4-メトキシ-2-チオ-シュードウリジン、4-メトキシ-シュードウリジン、4-チオ-1-メチル-シュードウリジン、4-チオ-シュードウリジン、5-アザ-ウリジン、ジヒドロシュードウリジン、5-メトキシウリジン、および2'-O-メチルウリジンからなる群より選択されるウリジン類似体を含む、請求項1に記載の抗腫瘍剤。
【請求項9】
配列番号2で表される塩基配列のうち、配列番号6又は10で表される塩基配列を含むとともに、全長が130塩基以下の塩基配列であって、配列番号6又は10以外の塩基配列において配列番号2で表される塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列からなり、その3’末端から20塩基以内の3’末端領域及び/又は5’末端から25塩基以内の5’末端領域に、少なくとも一つの以下の式(1)で表される第1のヌクレオチド単位を有するRNAを有効成分として含む免疫賦活剤。
【化13】
(式(1)中、R
1は、水素原子が
メチル基で置換された水酸基又はハロゲン原子を表し、R
2は、
アミノエチル基を表し、nは0又は1を表し、X
1は、酸素原
子を表し、X
2は、OH又は
O
-
を表し、Bは、プリン塩基又はピリミジン塩基を表す。)
【請求項10】
配列番号2で表される塩基配列のうち、配列番号6又は10で表される塩基配列を含むとともに、全長が130塩基以下の塩基配列であって、配列番号6又は10以外の塩基配列において配列番号2で表される塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列からなり、その3’末端から20塩基以内の3’末端領域及び/又は5’末端から25塩基以内の5’末端領域に、少なくとも一つ
の以下の式(1)で表される第1のヌクレオチド単位を有するRNAを有効成分として含む、腫瘍の転移抑制剤。
【化14】
(式(1)中、R
1は、水素原子が
メチル基で置換された水酸基又はハロゲン原子を表し、R
2は、
アミノエチル基を表し、nは0又は1を表し、X
1は、酸素原
子を表し、X
2は、OH又は
O
-
を表し、Bは、プリン塩基又はピリミジン塩基を表す。)
【請求項11】
配列番号2で表される塩基配列のうち、配列番号6又は10で表される塩基配列を含むとともに、全長が130塩基以下の塩基配列であって、配列番号6又は10以外の塩基配列において配列番号2で表される塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列からなり、その3’末端から20塩基以内の3’末端領域及び/又は5’末端から25塩基以内の5’末端領域に、少なくとも一つ
の以下の式(1)で表される第1のヌクレオチド単位を有するRNAを有効成分として含む、免疫賦活剤の免疫賦活効果又は抗腫瘍剤の抗腫瘍効果の増強剤。
【化15】
(式(1)中、R
1は、水素原子が
メチル基で置換された水酸基又はハロゲン原子を表し、R
2は、
アミノエチル基を表し、nは0又は1を表し、X
1は、酸素原
子を表し、X
2は、OH又は
O
-
を表し、Bは、プリン塩基又はピリミジン塩基を表す。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2022年5月17日に日本国特許庁に出願した日本国特許出願である特願2022-81120に基づく優先権を主張する出願であって、ここに、当該日本国特許出願の内容を本明細書の一部を構成するものとして援用する。
本明細書は、RNAを含有する腫瘍の転移を抑制するなどの抗腫瘍剤及び免疫細胞の活性化方法等の利用に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、潜在的な抗転移免疫細胞を発見した。具体的には、B220+CD11c+NK1.1+ナチュラルキラー(NK)細胞が、癌を有するマウスの肝臓から肺へと移動していることを見出した(非特許文献1)。かかるNK細胞はフィブリノーゲン+過剰浸透性部位に蓄積し、濃縮されたフィブリノーゲンを除去するとともに、インターフェロンガンマ(IFNγ)生産による腫瘍破壊能を有する(非特許文献2)。
【0003】
肝臓のB220+CD11c+NK1.1+NK細胞と肺のB220+CD11c+NK1.1+細胞間の遺伝子発現解析の比較によると、RNA結合性亜鉛フィンガーファミリーに属するZC3H12Dが肺細胞で最も高倍率の変化を示すことが示された。ZC3H12Dは、リンパ腫及び肺癌患者における推定の腫瘍サプレッサーとして報告されている(非特許文献3、4)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】EMBOMolMed10,doi:10.15252/emmm.201708643(2018)
【文献】NatCommun4,1853,doi:10.1038/ncomms2856(2013)
【文献】CancerRes67,93-99,doi:10.1158/0008-5472.CAN-06-2723(2007)
【文献】BrJHaematol139,161-163,doi:10.1111/j.1365-2141.2007.06752.x(2007)
【発明の概要】
【0005】
本発明者らによれば、これまでの研究から、ZC3H12Dタンパク質が抗転移機能において細胞外RNA(exRNA)と相互作用して、NK細胞が活性化されることが推定された。
【0006】
本明細書は、ZC3H12Dタンパク質と効果的に相互作用して、NK細胞を活性化できるRNAを有効成分とする抗腫瘍剤及びその利用を提供する。
【0007】
[1]以下の(1)及び(2)からなる群から選択されるいずれかの塩基配列を有し、その3’末端から20塩基以内の3’末端領域及び/又は5’末端から25塩基以内の5’末端領域に、少なくとも一つ以下の式(1)で表される第1のヌクレオチド単位又は少なくとも一つの以下の式(2)で表される第2のヌクレオチド単位を有するRNAを有効成分として含む抗腫瘍剤。
(1)配列番号2で表される塩基配列又は当該配列と90%以上の同一性を有する塩基配列
(2)前記(1)の塩基配列のうちの連続する20個以上200塩基以下の塩基配列
【化1】
(式(1)中、R
1は、水酸基、水素原子がアルキル基又はアルケニル基で置換された水酸基又はハロゲン原子を表し、R
2は、連結基を有するNHR
3を表し、連結基は炭素数1個以上の2価炭化水素基であり、R
3は、水素原子、アルキル基又はアルケニル基を表し、nは0又は1を表し、X
1は、酸素原子又は硫黄原子を表し、X
2は、OH(又はO
-)又はSH(又はS
-)を表し、Bは、プリン塩基又はピリミジン塩基を表す。)
【化2】
(式(2)中、R
1は、水酸基、水素原子がアルキル基又はアルケニル基で置換された水酸基又はハロゲン原子を表し、R
4は、連結基を有するNHR
5を表し、連結基は炭素数1個以上の2価炭化水素基であり、R
5は、水素原子、アルキル基又はアルケニル基を表し、nは0又は1を表し、X
1は、酸素原子又は硫黄原子を表し、X
2は、OH(又はO
-)又はSH(又はS
-)を表し、Bは、プリン塩基又はピリミジン塩基を表す。)
[2]前記RNAは、前記3’末端領域及び/又は前記5’末端領域に、これらの領域につき前記ヌクレオチド単位を1個以上20個以下有する、[1]に記載の抗腫瘍剤。
[3]前記第1のヌクレオチド単位は、前記式(1)中、R
1は、メトキシ基又はフッ素原子であり、R
2は、アミノエチル基であるヌクレオチド単位である、[1]又は[2]に記載の抗腫瘍剤。
[4]前記第1のヌクレオチド単位において、nは、1であり、R
1は、フッ素原子であり、R
2は、アミノエチル基であるヌクレオチド単位であり、
前記第1のヌクレオチド単位を、前記3’末端領域の3’末端から2塩基以内に少なくとも一つ有し、前記5’末端領域の5’末端から2塩基以内に少なくとも一つ有する、[1]又は[2]に記載の抗腫瘍剤。
[5]前記第2のヌクレオチド単位において、nは、1であり、R
1は、メトキシ基であり、R
4は、アミノプロピル基であるヌクレオチド単位であり、
前記第2のヌクレオチド単位を、前記3’末端領域の3’末端から2塩基以内に少なくとも一つ有し、前記5’末端領域の5’末端から2塩基以内に少なくとも一つ有する、[1]又は[2]に記載の抗腫瘍剤。
[6]前記塩基配列は、配列番号4で表される塩基配列のうちの連続する30塩基以上70塩基以下の塩基配列と90%以上の同一性を有する、[4]又は[5]に記載の抗腫瘍剤。
[7]前記塩基配列は、配列番号4で表される塩基配列のうちの連続する40塩基以上60塩基以下の塩基配列と90%以上の同一性を有する、[4]又は[5]に記載の抗腫瘍剤。
[8]前記塩基配列は、配列番号6又は10で表される塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列である、[6]又は[7]に記載の抗腫瘍剤。
[9]前記第1又は第2のヌクレオチド単位の塩基は、シトシン又はウラシルである、[8]に記載の抗腫瘍剤。
[10]前記第1又は第2のヌクレオチド単位において、nは、1であり、前記RNAは、前記3’末端領域及び/又は前記5’末端領域の各領域に、前記式(1)中、X
1又はX
2のいずれかが、S又はSH(S
-)である前記第1又は第2のヌクレオチド単位を有する、[1]~[9]のいずれかに記載の抗腫瘍剤。
[11]前記RNAにおけるウリジンヌクレオシドの総数のうちの80%以上が、シュードウリジン、1-メチルシュードウリジン、1-エチルシュードウリジン、2-チオウリジン、4'-チオウリジン、5-メチルシトシン、2-チオ-1-メチル-1-デアザ-シュードウリジン、2-チオ-1-メチル-シュードウリジン、2-チオ-5-アザ-ウリジン、2-チオ-ジヒドロシュードウリジン、2-チオ-ジヒドロウリジン、2-チオ-シュードウリジン、4-メトキシ-2-チオ-シュードウリジン、4-メトキシ-シュードウリジン、4-チオ-1-メチル-シュードウリジン、4-チオ-シュードウリジン、5-アザ-ウリジン、ジヒドロシュードウリジン、5-メトキシウリジン、および2'-O-メチルウリジンからなる群より選択されるウリジン類似体を含む、[1]~[10]のいずれかに記載の抗腫瘍剤。
[12]前記RNAが、配列番号1で表される塩基配列を有するRNAの変異型であって、配列番号1で表される塩基配列の88番目から897番目までのコード配列が、天然のコード配列に比べて1~5個の追加の終止コドンを有するよう置換された塩基を有する、[1]~[11]のいずれかに記載の抗腫瘍剤。
[13]前記RNAの長さが20~100塩基長である[1]~[12]のいずれかに記載の抗腫瘍剤。
[14]以下の(1)及び(2)からなる群から選択されるいずれかの塩基配列を有し、その3’末端から20塩基以内の3’末端領域及び/又は5’末端から25塩基以内の5’末端領域に、少なくとも一つの以下の式(1)で表される第1のヌクレオチド単位又は少なくとも一つの以下の式(2)で表される第2のヌクレオチド単位を有するRNAを有効成分として含む、免疫賦活剤。
(1)配列番号2で表される塩基配列又は当該配列と90%以上の同一性を有する塩基配列
(2)前記(1)の塩基配列のうちの連続する20個以上200塩基以下の塩基配列
【化3】
(式(1)中、R
1は、水酸基、水素原子がアルキル基又はアルケニル基で置換された水酸基又はハロゲン原子を表し、R
2は、連結基を有するNHR
3を表し、連結基は炭素数1個以上の2価炭化水素基であり、R
3は、水素原子、アルキル基又はアルケニル基を表し、nは0又は1を表し、X
1は、酸素原子又は硫黄原子を表し、X
2は、OH(又はO
-)又はSH(又はS
-)を表し、Bは、プリン塩基又はピリミジン塩基を表す。)
【化4】
(式(2)中、R
1は、水酸基、水素原子がアルキル基又はアルケニル基で置換された水酸基又はハロゲン原子を表し、R
4は、連結基を有するNHR
5を表し、連結基は炭素数1個以上の2価炭化水素基であり、R
5は、水素原子、アルキル基又はアルケニル基を表し、nは0又は1を表し、X
1は、酸素原子又は硫黄原子を表し、X
2は、OH(又はO
-)又はSH(又はS
-)を表し、Bは、プリン塩基又はピリミジン塩基を表す。)
[15]以下の(1)及び(2)からなる群から選択されるいずれかの塩基配列を有し、その3’末端から20塩基以内の3’末端領域及び/又は5’末端から25塩基以内の5’末端領域に、少なくとも一つの以下の式(1)で表される第1のヌクレオチド単位又は少なくとも一つの以下の式(2)で表される第2のヌクレオチド単位を有するRNAを有効成分として含む、腫瘍の転移抑制剤。
(1)配列番号2で表される塩基配列又は当該配列と90%以上の同一性を有する塩基配列
(2)前記(1)の塩基配列のうちの連続する20個以上200塩基以下の塩基配列
【化5】
(式(1)中、R
1は、水酸基、水素原子がアルキル基又はアルケニル基で置換された水酸基又はハロゲン原子を表し、R
2は、連結基を有するNHR
3を表し、連結基は炭素数1個以上の2価炭化水素基であり、R
3は、水素原子、アルキル基又はアルケニル基を表し、nは0又は1を表しX
1は、酸素原子又は硫黄原子を表し、X
2は、OH(又はO
-)又はSH(又はS
-)を表し、Bは、プリン塩基又はピリミジン塩基を表す。)
【化6】
(式(2)中、R
1は、水酸基、水素原子がアルキル基又はアルケニル基で置換された水酸基又はハロゲン原子を表し、R
4は、連結基を有するNHR
5を表し、連結基は炭素数1個以上の2価炭化水素基であり、R
5は、水素原子、アルキル基又はアルケニル基を表し、nは0又は1を表し、X
1は、酸素原子又は硫黄原子を表し、X
2は、OH(又はO
-)又はSH(又はS
-)を表し、Bは、プリン塩基又はピリミジン塩基を表す。)
[16]以下の(1)及び(2)からなる群から選択されるいずれかの塩基配列を有し、その3’末端から20塩基以内の3’末端領域及び/又は5’末端から25塩基以内の5’末端領域に、少なくとも一つ以下の式(1)で表される第1のヌクレオチド単位又は少なくとも一つの以下の式(2)で表される第2のヌクレオチド単位を有するRNAを有効成分として含む、免疫賦活剤の免疫賦活効果又は抗腫瘍剤の抗腫瘍効果の増強剤。
(1)配列番号2で表される塩基配列又は当該配列と90%以上の同一性を有する塩基配列
(2)前記(1)の塩基配列のうちの連続する20個以上200塩基以下の塩基配列
【化7】
(式(1)中、R
1は、水酸基、水素原子がアルキル基又はアルケニル基で置換された水酸基又はハロゲン原子を表し、R
2は、連結基を有するNHR
3を表し、連結基は炭素数1個以上の2価炭化水素基であり、R
3は、水素原子、アルキル基又はアルケニル基を表し、nは0又は1を表し、X
1は、酸素原子又は硫黄原子を表し、X
2は、OH(又はO
-)又はSH(又はS
-)を表し、Bは、プリン塩基又はピリミジン塩基を表す。)
【化8】
(式(2)中、R
1は、水酸基、水素原子がアルキル基又はアルケニル基で置換された水酸基又はハロゲン原子を表し、R
4は、連結基を有するNHR
5を表し、連結基は炭素数1個以上の2価炭化水素基であり、R
5は、水素原子、アルキル基又はアルケニル基を表し、nは0又は1を表し、X
1は、酸素原子又は硫黄原子を表し、X
2は、OH(又はO
-)又はSH(又はS
-)を表し、Bは、プリン塩基又はピリミジン塩基を表す。)
【発明の効果】
【0008】
本明細書に開示される抗腫瘍剤によれば、特定の化学修飾を含むヌクレオチド単位を、RNAの3’末端領域及び/又は5’末端領域に備えるRNAを有効成分とするため、生体内での安定性に優れている。また、本明細書に開示されるRNAは、効率的に免疫細胞と相互作用し、免疫細胞を活性化させることができる。これにより、効果的に腫瘍を抑制することができる。かかるRNAによれば、同様の作用により、効果的に免疫細胞の活性化し、腫瘍細胞の転移を効果的に抑制し、免疫細胞を効果的に活性化させ、例えば併用される抗腫瘍剤の抗腫瘍効果を増強することができる。本明細書に開示されるRNAは、腫瘍の予防及び/又は治療に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施例で用いた合成RNAの概要を示す図である。
【
図2】ZC3H12D過剰発現させた786-O細胞に対して合成RNAを投与したときの、遊走細胞数を示す図である。
【
図3】ヒトCD56
+CD3
-NK細胞におけるIFNγ生産に対する化学修飾RNAの影響の評価結果を示す図である。
【
図4】ヒトCD56
+CD3
-NK細胞におけるIFNγ生産に対する化学修飾RNAの影響の評価結果を示す図である。
【
図5】実施例で用いた合成RNAの概要を示す図である。
【
図6】担癌マウス血清中における化学修飾RNAのRNase抵抗性についての評価結果を示す図である。
【
図7】ウシ血清中における化学修飾RNAのRNase抵抗性についての評価結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示は、IL-1βのRNA3'末端領域側の非翻訳領域付近の配列であるexILβ-mRNAに関連する合成RNA及びその利用に関する。発明者らは、exILβ-mRNAの相当する合成RNAの3’末端及び5’末端に、特定のヌクレオチド単位を化学修飾として導入した場合であっても、exIL1β-mRNAと同等程度のNK細胞活性化の効果を発揮できることを見出した。かかる合成RNAは、抗腫瘍機能又は抗転移機能を有する固有の細胞間神経伝達物質としての役割を生体内において発揮すると考えられる。
【0011】
本明細書において、RNAの「化学修飾」は、RNAに施される任意の化学修飾であればよく、例えば、ヌクレオチドのリボース、ホスホジエステル結合部分及び塩基における修飾を包含しうる。塩基に関しては、天然の塩基配列とは異なる塩基配列に置換するのみならず、天然の塩基配列の塩基と塩基の種類は同じであっても、かかる塩基を化学修飾する場合も含む。
【0012】
以下では、本発明の代表的かつ非限定的な具体例について、適宜図面を参照して詳細に説明する。この詳細な説明は、本発明の好ましい例を実施するための詳細を当業者に示すことを単純に意図しており、本発明の範囲を限定することを意図したものではない。また、以下に開示される追加的な特徴ならびに発明は、さらに改善された抗腫瘍剤及びその利用を提供するために、他の特徴や発明とは別に、又は共に用いることができる。
【0013】
また、以下の詳細な説明で開示される特徴や工程の組み合わせは、最も広い意味において本発明を実施する際に必須のものではなく、特に本発明の代表的な具体例を説明するためにのみ記載されるものである。さらに、上記及び下記の代表的な具体例の様々な特徴、ならびに、独立及び従属クレームに記載されるものの様々な特徴は、本発明の追加的かつ有用な実施形態を提供するにあたって、ここに記載される具体例のとおりに、あるいは列挙された順番のとおりに組合せなければならないものではない。
【0014】
本明細書及び/又はクレームに記載された全ての特徴は、実施例及び/又はクレームに記載された特徴の構成とは別に、出願当初の開示ならびにクレームされた特定事項に対する限定として、個別に、かつ互いに独立して開示されることを意図するものである。さらに、全ての数値範囲及びグループ又は集団に関する記載は、出願当初の開示ならびにクレームされた特定事項に対する限定として、それらの中間の構成を開示する意図を持ってなされている。
【0015】
なお、以下、本明細書において記載される化合物における置換基における「低級」の意は、該置換基を構成する炭素数が、最大10個までであることを意味している。例えば、通常は炭素数1~6個、又は炭素数1~5個が例示され、また例えば、炭素数1個以上4個以下であり、また例えば、炭素数1個以上3個以下である。
【0016】
以下、本明細書の開示についての各種実施形態について詳細に説明する。まず、本明細書において用いるRNAについて説明し、その後、RNAを用いた実施形態いついて説明する。
【0017】
(RNA)
本開示のRNAは、以下の(1)及び(2)のいずれかの塩基配列を有し、その3’末端から20塩基以内の3’末端領域及び/又は5’末端から25塩基以内の5’末端領域に、少なくとも一つの式(1)で表される第1のヌクレオチド単位又は少なくとも一つの以下の式(2)で表される第2のヌクレオチド単位を有することができる。
【0018】
本開示のRNAは、以下の配列を有している。
(1)配列番号2で表される塩基配列又は当該配列と90%以上の同一性を有する塩基配列
(2)前記(1)の塩基配列のうちの連続する20個以上200塩基以下の塩基配列
【0019】
配列番号2で表される塩基配列からなるRNAは、ヒトインターロイキン1β(IL1β、NM_000576)のmRNAであるIL1β-mRNA(全長塩基配列を配列番号1で表す)の3’非翻訳領域(3'UTR)(exIL1β-mRNA)に相当する。
【0020】
本開示のRNAとしては、配列番号2で表される塩基配列の全長を有していてもよいし、当該塩基配列と90%以上、また例えば、95%以上、また例えば、96%以上、また例えば、97%以上、また例えば、98%以上、また例えば、99%以上の同一性を有する塩基配列を有していてもよい。なお、ここで、塩基配列の同一性は、例えば、NCBIのBLAST(BLAST:BasicLocalAlignmentSearchTool(nih.gov)のページ)(https://blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cg)におけるblastnによる2以上の塩基配列を用いてhighlysimilarsequence(megablast)で最適化された条件でアラインメントすることにより決定することができる。
【0021】
配列番号2で表される塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列は、本開示の観点からは、NK細胞の活性化能を有している。NK細胞等の免疫細胞の活性化能については、後述する実施例に開示する方法で確認することができる。
【0022】
本開示のRNAは、配列番号2で表される塩基配列又は当該塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列(以下、かかる配列を、まとめて配列番号2で表される塩基配列番号等ともいう。)の一部であってもよい。配列番号2で表される塩基配列は、全長605塩基であり、配列番号2で表される塩基配列等の一部は、例えば、配列番号2で表される塩基配列等のうちの連続する20塩基長以上200塩基長以下であってもよい。塩基長は、また例えば、25塩基長以上であり、また例えば、30塩基長以上であり、また例えば、40塩基長以上であり、また例えば、45塩基長以上である、また、塩基長数は、180塩基長以下であり、また例えば、160塩基長以下であり、また例えば、150塩基長以下であり、また例えば、140塩基長以下であり、また例えば、130塩基長以下であり、また例えば、120塩基長以下であり、また例えば、110塩基長以下であり、また例えば、100塩基長以下であり、また例えば、90塩基長以下であり、また例えば、80塩基長以下であり、また例えば、75塩基長以下であり、また例えば、70塩基長以下であり、また例えば、60塩基長以下である。本開示のRNAは、こうした下限及び上限を適宜組み合わせて範囲を設定することができる。例えば、20塩基長以上100塩基長以下であり、30塩基長以上100塩基長以下であり、30塩基長以上80塩基長以下であり、40塩基長以上60塩基長以下などとすることができる。
【0023】
配列番号2で表される塩基配列等における前記一部の範囲は、特に限定するものではなく、NK細胞活性化能を有する領域を適宜選択することができる。配列番号2で表される塩基配列中、例えば、5’末端から200塩基~500塩基の範囲、また例えば、同220塩基~480塩基、また例えば、同260塩基~460塩基、また例えば、同300塩基~450塩基などの範囲から選択することができる。
【0024】
こうした塩基配列としては、例えば、配列番号4、配列番号5及び配列番号6で表される塩基配列が挙げられるほか、これらの配列と、90%以上、また例えば、95%以上、また例えば、96%以上、また例えば、97%以上、また例えば、98%以上、また例えば、99%以上の同一性を有する塩基配列が挙げられる。なお、本開示の観点から、配列番号2で表される塩基配列等の一部の配列は、NK細胞の活性化能を有している。配列番号5で表される塩基配列からなるmRNAは、ヒトIL1β-mRNAを、150ヌクレオチドを含む4個のフラグメントに分割した場合のフラグメントの1つである。また、配列番号10で表される塩基配列又はこの塩基配列と90%以上、また例えば、95%以上、また例えば、96%以上、また例えば、97%以上、また例えば、98%以上、また例えば、99%以上の同一性を有する塩基配列も挙げられる。
【0025】
<RNAにおける化学修飾>
(第1のヌクレオチド単位:式(1)で表されるヌクレオチド単位)
以下の式(1)で表されるヌクレオチド単位中、R1は、水酸基、水素原子がアルキル基又はアルケニル基で置換された水酸基又はハロゲン原子を表す。
【0026】
【0027】
アルキル基としては、直鎖状、分枝状、環状、又はそれらの組み合わせである飽和炭化水素基が挙げられる。通常は、低級アルキル基が好ましく、例えば炭素数1~6個の低級アルキル基、又は炭素数1~5個の低級アルキル基がより好ましい例として挙げられ、さらに炭素数1~4個又は炭素数1~3個の低級アルキル基が特に好ましい例として挙げられる。直鎖状の炭素数1から4までのアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、又n-ブチル基等が好適な例として挙げられ、このうち、メチル基、エチル基、n-プロピル基が好ましく、また例えばメチル基、エチル基が好ましく、また例えばメチル基が好ましい。また分枝状の炭素数1から4までのアルキル基としては、イソプロピル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基等が挙げられ、このうち、イソプロピル基が特に好ましい例として挙げられる。また、環状の炭素数1から4までのアルキル基としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、又はシクロプロピルメチル基等が挙げられる。
【0028】
アルケニル基としては、直鎖状、分枝状、環状、又はそれらの組み合わせである飽和炭化水素基が挙げられる。通常は、低級アルケニル基が好ましく、低級アルケニル基としては、例えばエテニル基、1-プロペニル基、2-プロペニル基、1-メチル-2-プロペニル基、1-メチル-1-プロペニル基、2-メチル-1-プロペニル基、1-ブテニル基、2-ブテニル基などが挙げられる。
【0029】
ハロゲン原子は、特に限定されないが、例えば、フッ素原子である。
【0030】
R2は、連結基を有するNHR3を表すことができる。すなわち、NHR3は、窒素原子に結合する連結基を介して4’位の炭素原子に結合している。
【0031】
連結基としては、例えば、炭素数1個以上の2価炭化水素基を表すことができる。すなわち、2価の炭化水素基としては、炭素数1~8個以下のアルキレン基、炭素数2~8個以下のアルケニレン基などが挙げられる。
【0032】
連結基としてのアルキレン基としては、直鎖状、分枝状であってもよいが、好ましくは直鎖状である。例えば、低級アルキレン基が好ましく、例えば炭素数1~6個の低級アルキレン基、また例えば、炭素数2~6個の低級アルキレン基が好ましく、また例えば、炭素数2~4個又は炭素数2~3個の低級アルキレン基が好ましい。直鎖状の炭素数1から4までのアルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、プロパン-1,3-ジイル基、n-ブタン-1,1-ジイル基、n-ペンチル-1,5-ジイル基、n-ヘキシル-1,6-ジイル基等が挙げられる。また、例えば、ブタン-1,2-ジイル基等が挙げられる。また例えば、エチレン基、プロパン-1,3-ジイル基、n-ブタン-1,1-ジイル基が特に好ましい例として挙げられる。
【0033】
連結基としてのアルケニレン基としては、直鎖状、分枝状であり、好ましくは直鎖状である。例えば、低級アルケニレン基が好ましく、低級アルケニレン基としては、例えば、エテン-1,2-ジイル基、プロペン-1,3-ジイル基、ブテン-1,4-ジイル基等が挙げられる。
【0034】
式(1)で表されるヌクレオチド単位においては、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基などの炭素数1以上3以下のアルキレン基などの2価炭化水素基であることが本開示のRNAのNK細胞活性化能の観点から好適である。
【0035】
R3としては、水素原子、アルキル基又はアルケニル基が挙げられる。アルキル基は、既に説明したアルキル基のほか、低級アルキル基が好ましく挙げられ、例えば、炭素数1~3のアルキル基、炭素数1又は2のアルキル基、メチル基が挙げられる。アルケニル基としては、既に説明したアルケニル基のほか、低級アルケニル基が好ましく挙げられる。R3が水素原子などこれらの基であるとき、連結基は、炭素数2以上、また例えば3以上、また例えば4以上で、例えば6以下、また例えば5以下、また例えば4以下のアルキレン基であることが好適である。
【0036】
また、R3が水素原子のとき、R2は、連結基を有するNH2(アミノ基)、すなわち、連結基がアルキレン基のときには、アミノアルキル基となる。式(1)中、R2がアミノエチル基、アミノプロピル基などのアミノアルキル基などであることにより、本開示のRNAとして好適であると考えられる。
【0037】
nは0又は1を表す。nが0のとき、当該ヌクレオチド単位の3’位は、O-となり、例えば、OHとなっていてもよい。nが1のとき、X1は、酸素原子又は硫黄原子を表し、X2は、OH(又はO-)又はSH(又はS-)を表す。X1又はX2が硫黄原子又はSH(S-)であるとき、ヌクレオチド単位は、3’側にホスホロチオエート結合で次のヌクレオチド単位を備えることになる。nが1のとき、ヌクレオチド単位は、3’位に、リン酸基やホスホロチオエート基を備えることができる。また、リン酸基などであるときは、適当な塩基との塩となっていてもよい。
【0038】
Bは、プリン塩基又はピリミジン塩基を表す。プリン塩基としては、特に限定するものではないが、例えば、プリン-9-イル基のほか、2,6-ジメトキシプリン-9-イル、2,6-ジクロロプリン-9-イルなどの各種の置換プリン-9-イル基が挙げられる。また、ピリミジン塩基としては、2-オキソ-ピリミジン-1-イル基、2-オキソ-ピリミジン-1-イルが挙げられる。さらに、2-オキソ-4-メトキシ-ピリミジン-1-イル、4-(1H-1,2,4-トリアゾール‐1-イル)-ピリミジン-1-イルなどの置換2-オキソ-ピリミジン-1-イル基が挙げられる。
【0039】
Bは、この他、後述する修飾塩基であってもよい。
【0040】
(第2のヌクレオチド単位:式(2)で表されるヌクレオチド単位)
以下の式(2)で表される第2のヌクレオチド単位は、より具体的には、以下の式(2a)及び2(b)のいずれか又は双方で表されるヌクレオチド単位である。式(2a)で表されるヌクレオチド単位は、5’位の不斉炭素原子に関し、R体であり、式(2b)で表されるヌクレオチド単位は、5’位の不斉炭素原子に関し、S体である。なお、これらのヌクレオチド単位は、本明細書に開示されるRNAにおいて、R体とS体とを組み合わせて用いることもできるし、いずれか一方のみを用いてもよい。例えば、本明細書に開示されるRNAは、ヌクレアーゼ耐性、血清中での安定性、並びにRNA/RNA二重鎖の熱的安定性の観点から式(2)で表されるヌクレオチド単位としてS体のみを用いることが好ましい場合もある。なお、本明細書において、特に、S体及びR体について明記しない限り、式(2)で表されるヌクレオチド単位及び第2のヌクレオチド単位は、S体及び/又はR体を意味している。
【0041】
【0042】
【0043】
第2のヌクレオチド単位において、R1は、式(1)におけるのと同義である。
R1は、水素原子がアルキル基又はアルケニル基で置換された水酸基又はハロゲン原子を表すことが好ましい場合がある。なかでも、R1は、水素原子が炭素数が1~3のアルキル基で置換された水酸基であることが好ましい場合がある。例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基が好ましく、また例えばメチル基、エチル基が好ましく、また例えばメチル基が好ましい。ハロゲン原子は、特に限定されないが、例えば、フッ素原子であることが好ましい場合がある。
【0044】
第2のヌクレオチド単位において、R4は、連結基を有するNHR5を表すことができる。すなわち、NHR5は、窒素原子に結合する連結基を介して5’位の炭素原子に結合している。
【0045】
第2のヌクレオチド単位において、連結基及びR5は、式(1)におけるR2についての連結基及びR3と同義である。連結基は、例えば、低級アルキレン基、また例えば、炭素数1~6個の低級アルキレン基、また例えば、炭素数2~6個の低級アルキレン基、また例えば、炭素数2~4個又は炭素数2~3個の低級アルキレン基が好ましい場合がある。例えば、メチレン基、エチレン基、プロパン-1,3-ジイル基、n-ブタン-1,1-ジイル基、n-ペンチル-1,5-ジイル基、n-ヘキシル-1,6-ジイル基等が挙げられる。また、例えば、ブタン-1,2-ジイル基等が挙げられる。また例えば、エチレン基、プロパン-1,3-ジイル基、n-ブタン-1,1-ジイル基が特に好ましい場合があり、プロパン-1,3-ジイル基が好ましい場合がある。
【0046】
連結基としてのアルケニレン基としては、直鎖状、分枝状であり、好ましくは直鎖状である。例えば、低級アルケニレン基が好ましい場合があり、低級アルケニレン基としては、例えば、エテン-1,2-ジイル基、プロペン-1,3-ジイル基、ブテン-1,4-ジイル基等が挙げられる。
【0047】
第2のヌクレオチド単位において、例えば、メチレン基、エチレン基、プロパン-1,3-ジイル基などの炭素数1以上3以下のアルキレン基などの2価炭化水素基であることが本開示のRNAのNK細胞活性化能などの観点から好適である。
【0048】
第2のヌクレオチド単位において、R5としては、水素原子、炭素数1~3のアルキル基、炭素数1又は2のアルキル基、メチル基であることが好ましい場合がある。またR5が、水素原子などこれらの基であるとき、連結基は、炭素数2以上、また例えば3以上、また例えば4以上で、例えば6以下、また例えば5以下、また例えば4以下のアルキレン基であることが好ましい場合があり、エチレン基、プロパン-1,3-ジイル基がこの好ましい場合がある。
【0049】
また、R5が水素原子のとき、R4は、連結基を有するNH2(アミノ基)、すなわち、連結基がアルキレン基のときには、アミノアルキル基となる。式(2)中、R4がアミノエチル基、アミノプロピル基などのアミノアルキル基などであることにより、本開示のRNAとして好適であると考えられる。
【0050】
第2のヌクレオチド単位において、X1及びX2は、第1のヌクレオチド単位におけるのと同義であり、同様の態様を採ることができる。第2のヌクレオチド単位において、nは0又は1を表す。nが0又は1であるときの第2のヌクレオチド単位の態様は、第1のヌクレオチド単位におけるのと同様の態様を採ることができる。また、Bは、第1のヌクレオチド単位におけるBと同義であり、同様の態様を採ることができる。
【0051】
本開示のRNAは、その5’末端から25塩基以内の5’末端領域及び/又は3’末端から25塩基以内の3’末端領域に、少なくとも一つの式(1)で表されるヌクレオチド単位及び/又は少なくとも一つの式(2)で表されるヌクレオチド単位を有する。本開示のRNAは、5’末端領域にのみこれらのいずれかのヌクレオチド単位を備えていてもよいし、3’末端領域にのみこれらのいずれかのヌクレオチド単位を備えていてもよいし、5’末端領域及び3’末端領域にこれらのいずれかのヌクレオチド単位を備えていてもよい。
【0052】
また、本開示のRNAは、5’末端領域に、第1のヌクレオチド単位と第2のヌクレオチド単位とを組み合わせて備えていてもよい。また、3’末端領域に、第1のヌクレオチド単位と第2のヌクレオチド単位とを組み合わせて備えていてもよい。さらに、本開示のRNAは、5’末端領域及び3’末端領域に、第1のヌクレオチド単位と第2のヌクレオチド単位とを、適宜組み合わせて備えていてもよい。例えば、5’末端領域及び3’末端領域において、それぞれ第1のヌクレオチド単位及び第2のヌクレオチド単位を備えていてもよいし、その逆であってもよい。
【0053】
5’末端領域は、また例えば、5’末端から20塩基以内であり、また例えば、同15塩基内であり、また例えば、同10塩基以内である。さらに例えば、同8塩基以内であり、例えば、同6塩基以内であり、また例えば、同4塩基以内であり、また例えば、同3塩基以内であり、また例えば、同2塩基以内であり、また例えば、同1塩基(5’末端)である。3’末端領域は、また例えば、3’末端から20塩基以内であり、また例えば、同15塩基以内であり、また例えば、同10塩基以内であり、また例えば、同8塩基以内であり、また例えば、同6塩基以内であり、また例えば、同5塩基以内であり、また例えば、同4塩基以内である。さらに例えば、同3塩基以内であり、また例えば、同2塩基以内であり、また例えば、同1塩基(3’末端)である。
【0054】
本開示のRNAは、5’末端領域に少なくとも一つの式(1)で表されるヌクレオチド単位及び/又は式(2)で表されるヌクレオチド単位を有する。当該領域における式(1)及び式(2)で表されるヌクレオチド単位で表されるヌクレオチド単位の個数は特に限定するものではないが、例えば、1個以上6個以下であり、1個以上5個以下であり、1個以上4個以下であり、1個以上3個以下であり、1個又は2個である。式(1)で表されるヌクレオチド単位及び式(2)で表されるヌクレオチド単位は、例えば、5’末端から6塩基以内の領域に、備えられている。こうすることで、5’末端側を効果的に保護できると考えられる。式(1)で表されるヌクレオチド単位及び式(2)で表されるヌクレオチド単位は、例えば、少なくとも、5’末端の塩基又は5’末端から2個の塩基の位置に備えられると効果的である場合がある。
【0055】
本開示のRNAは、3’末端領域に少なくとも一つの式(1)で表されるヌクレオチド単位及び/又は式(2)で表されるヌクレオチド単位を有する。当該領域における式(1)で表されるヌクレオチド単位及び式(2)で表されるヌクレオチド単位の個数は特に限定するものではないが、例えば、1個以上6個以下であり、1個以上5個以下であり、1個以上4個以下であり、1個以上3個以下であり、1個又は2個である。式(1)で表されるヌクレオチド単位及び式(2)で表されるヌクレオチド単位は、例えば、3’末端から6塩基以内の領域に、備えられている。こうすることで、3’末端側を効果的に保護できると考えられる。式(1)で表されるヌクレオチド単位及び式(2)で表されるヌクレオチド単位は、例えば、少なくとも、3’末端の塩基又は5’末端から2個の塩基の位置に備えられると効果的である場合がある。
【0056】
本開示のRNAは、3’末端領域及び5’末端領域の双方に、式(1)で表されるヌクレオチド単位及び/又は式(2)で表されるヌクレオチド単位をそれぞれ少なくとも1つ有することができる。こうしたRNAは、これらのヌクレオチド単位をこれらの末端領域に備えるため、ヌクレアーゼ耐性が優れており、その結果、優れた抗腫瘍作用、転移抑制作用を発揮する。これらの各末端領域に備えられる式(1)で表されるヌクレオチド単位及び式(2)で表されるヌクレオチド単位は、例えば、1個以上5個以下、また例えば1個以上4個以下、また例えば、1個以上3個以下、また例えば1個以上2個以下である。これらの各末端領域において、各末端から3塩基以内、または2塩基以内に、式(1)で表されるヌクレオチド単位及び/又は式(2)で表されるヌクレオチド単位を1個又は2個有することが好ましい場合がある。さらに、これらの各末端領域に備えられる式(1)で表されるヌクレオチド単位の少なくとも1つ又はすべてが、それぞれリボースの2’位にフッ素原子を有し、4’位にアミノエチル基を備えることが好ましい場合があり、これらの各末端領域に備えられる式(2)で表されるヌクレオチド単位の少なくとも一つ又はすべてが、それぞれ、リボースの2’位にメトキシ基を有し、5’位にアミノプロピル基を備えることが好ましい場合がある。さらにまた、RNAの5’末端領域の5’末端から1個又は2個の領域において、5’位にアミノプロピル基などを備える式(2)で表されるヌクレオチド単位を有し、RNAの3’末端領域の3’末端から1個又は2個の領域において4’位にアミノエチル基などを備える式(1)で表されるヌクレオチド単位を有することが好ましい場合がある。この形態であると、ヌクレアーゼに曝される5’末端及び3’末端にそれぞれアミノアルキル基がより近くになるからである。また、これらのヌクレオチド単位における塩基の種類は特に限定されないが、例えば、ピリミジン環を有する塩基であることが好適な場合があり、また例えば、シトシン又はウラシルであることが好適な場合がある。
【0057】
以上のことから、例えば、本開示のRNAとしては、例えば以下の態様が好適な場合がある。
[1]式(1)で表されるヌクレオチド単位は、nは、1であり、R1は、フッ素原子であり、R2は、アミノエチル基であるヌクレオチド単位であり、
式(2)で表されるヌクレオチド単位は、R1は、メトキシ基であり、R4は、アミノプロピル基であるヌクレオチド単位であり、
式(1)で表されるヌクレオチド単位及び/又は式(2)で表されるヌクレオチド単位を、前記3’末端領域の3’末端から2塩基以内に少なくとも一つ有し、前記5’末端領域の5’末端から2塩基以内に少なくとも一つ有する、特に、当該5’末端領域に式(2)で表されるヌクレオチド単位を有し、当該3’末端領域に式(1)で表されるヌクレオチド単位を有する
[2][1]において前記塩基配列は、配列番号4で表される塩基配列のうちの連続する30塩基以上70塩基以下の塩基配列と90%以上の同一性を有する
[3][1]において、前記塩基配列は、配列番号4で表される塩基配列のうちの連続する40塩基以上60塩基以下の塩基配列と90%以上の同一性を有する
[4][1]~[3]において、前記塩基配列は、配列番号6又は10で表される塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列である
[5][1]~[4]において、前記ヌクレオチド単位の塩基は、シトシン又はウラシルである
【0058】
本開示のRNAの5’末端領域及び3’末端領域においては、式(1)で表されるヌクレオチド単位及び/又は式(2)で表されるヌクレオチド単位を備えることのほか、リボースが、ホスホロチオエート結合で連結された構造を備えることができる。ホスホロチオエート結合による連結は、式(1)で表されるヌクレオチド単位及び式(2)で表されるヌクレオチド単位においても備えることができるが、当該ヌクレオチド単位で置換されていない他の塩基に対応するヌクレオチドもホスホロチオエート結合で連結されていることが有利な場合がある。
【0059】
5’末端領域及び3’末端領域におけるホスホロチオエート結合の導入個所や個数は特に限定するものではない。例えば、それぞれ、5’末端及び3’末端からの最初の連結部分を含んで連続して1個以上8個以下、1個以上6個以下、1個以上5個以下、1個以上4個以下、1個以上3個以下などを備えていてもよいし、当該末端からの最初の連結部分のほか、さらに、例えば1個以上2個以下の塩基をおいて1個以上4個以下など備えていてもよい。
【0060】
本開示のRNAは、5’末端領域及び/又は3’末端領域において、少なくとも1つの式(1)で表されるヌクレオチド単位及び/又は式(2)で表されるヌクレオチド単位を備えているほか、他のヌクレオチド単位は、天然のヌクレオチド、すなわち、天然のリボースを備えるヌクレオチド単位であってもよいし、例えば、リボースの2’位にメトキシ基が導入されるなど、リボースのOH基が修飾されたヌクレオチド単位であってもよいし、その他のリボースに公知の化学修飾がなされたヌクレオチド単位であってもよい。例えば、本開示のRNAは、その5’末端領域及び/又は3’末端領域に備えられる式(1)で表されるヌクレオチド単位以外のすべてのヌクレオチド単位をリボースの2’位にメトキシ基を有する化学修飾リボースを備えるRNAであってもよい。
【0061】
以上のことから、例えば、本開示のRNAとしては、上記(1)~(5)いずれかの態様において、前記ヌクレオチド単位以外のすべてのヌクレオチド単位がリボースの2’位にメトキシ基を有する化学修飾リボースを備えることが好適な場合がある。
【0062】
本開示のRNAは、さらに、RNAにおけるウリジンを、ウリジン類似体とする化学修飾を備えることができる。ウリジンに替えてウリジン類似体とする化学修飾は、例えば、本開示のRNAにおけるウリジンの総数のうち割合は特に限定するものではない。例えば、ウリジン総数の80%以上を、また例えば、同90%以上を、また例えば、同100%をウリジン類似体とすることができる。
【0063】
ウリジン類似体を含む核酸塩基およびヌクレオシドとしては、例えばウリジンシュードウリジン、1-メチルシュードウリジン、1-エチルシュードウリジン、2-チオウリジン、4'-チオウリジン、5-メチルシトシン、2-チオ-1-メチル-1-デアザ-シュードウリジン、2-チオ-1-メチル-シュードウリジン、2-チオ-5-アザ-ウリジン、2-チオ-ジヒドロシュードウリジン、2-チオ-ジヒドロウリジン、2-チオ-シュードウリジン、4-メトキシ-2-チオ-シュードウリジン、4-メトキシ-シュードウリジン、4-チオ-1-メチル-シュードウリジン、4-チオ-シュードウリジン、5-アザ-ウリジン、ジヒドロシュードウリジン、5-メトキシウリジン、および2'-O-メチルウリジンからなる群より選択されるウリジン類似体が挙げられるがこれらに限定されない。例えば、ウリジン類似体は1-メチル-シュードウリジンである。
【0064】
本開示のRNAは、さらに、RNAにおけるシチジンを、シチジン類似体にする化学修飾を備えることができる。シチジンに替えてシチジン類似体とする化学修飾は、例えば、本開示のRNAにおけるシチジンの総数のうち割合は特に限定するものではない。例えば、シチジン総数の80%以上を、また例えば、同90%以上を、また例えば、同100%をシチジン類似体とすることができる。
【0065】
シチジン類似体を含む核酸塩基およびヌクレオシドとしては、5-アザ-シチジン、6-アザ-シチジン、シュードイソシチジン、3-メチル-シチジン、4-アセチル-シチジン、5-ホルミルシチジン、4-メチルシチジン、5-メチル-シチジン、5-ハロ-シチジン、5-ヒドロキシメチルシチジン、1-メチル-シュードイソシチジン、ピロロ-シチジン、ピロロ-シュードイソシチジン、2-チオ-シチジン、2-チオ-5-メチル-シチジン、4-チオ-シュードイソシチジン、4-チオ-1-メチル-シュードイソシチジン、4-チオ-1-メチル-1-デアザ-シュードイソシチジン、1-メチル-1-デアザ-シュードイソシチジン、ゼブラリン、5-アザ-ゼブラリン、5-メチル-ゼブラリン、5-アザ-2-チオ-ゼブラリン、2-チオ-ゼブラリン、2-メトキシ-シチジン、2-メトキシ-5-メチル-シチジン、4-メトキシ-シュードイソシチジン、4-メトキシ-1-メチル-シュードイソシチジン、リシジン、α-チオ-シチジン、2’-O-メチル-シチジン、5,2’-O-ジメチル-シチジン、4-アセチル-2’-O-メチル-シチジン、4,2’-O-ジメチル-シチジン、5-ホルミル-2’-O-メチル-シチジン(f5Cm)、4,4,2’-O-トリメチル-シチジン、1-チオ-シチジン、2’-F-アラ-シチジン、2’-F-シチジン、および2’-OH-アラ-シチジンが挙げられる。
【0066】
本開示のRNAは、さらに、RNAにおけるアデニンを、アデニン類似体とする化学修飾を備えることができる。アデニンに替えてアデニン類似体とする化学修飾は、例えば、本開示のRNAにおけるアデニンの総数のうち割合は特に限定するものではない。例えば、アデニン総数の80%以上を、また例えば、同90%以上を、また例えば、同100%をアデニン類似体とすることができる。
【0067】
アデニン類似体を含む核酸塩基およびヌクレオシドとしては、2-アミノプリン、2,6-ジアミノプリン、2-アミノ-6-ハロ-プリン(例えば、2-アミノ-6-クロロ-プリン)、6-ハロ-プリン(例えば、6-クロロ-プリン)、2-アミノ-6-メチル-プリン、8-アジド-アデノシン、7-デアザ-アデニン、7-デアザ-8-アザ-アデニン、7-デアザ-2-アミノ-プリン、7-デアザ-8-アザ-2-アミノ-プリン、7-デアザ-2,6-ジアミノプリン、7-デアザ-8-アザ-2,6-ジアミノプリン、1-メチルアデノシン、2-メチル-アデニン、6-メチルアデノシン、2-メチルチオ-6-メチル-アデノシン、6-イソペンテニルアデノシン、2-メチルチオ-6-イソペンテニル-アデノシン、6-(cis-ヒドロキシイソペンテニル)アデノシン、2-メチルチオ-6-(cis-ヒドロキシイソペンテニル)アデノシン、6-グリシニルカルバモイルアデノシン、N6-トレオニルカルバモイルアデノシン、6-メチル-N6-トレオニルカルバモイル-アデノシン、2-メチルチオ-6-トレオニルカルバモイル-アデノシン、6,6-ジメチル-アデノシン、6-ヒドロキシノルバリルカルバモイル-アデノシン、2-メチルチオ-6-ヒドロキシノルバリルカルバモイル-アデノシン、6-アセチル-アデノシン、7-メチルアデニン、2-メチルチオ-アデニン、2-メトキシ-アデニン、α-チオ-アデノシン、2'-O-メチル-アデノシン、6,2'-O-ジメチル-アデノシン、6,6,2'-O-トリメチル-アデノシン、1,2'-O-ジメチル-アデノシン、2'-O-リボシルアデノシン(ホスフェート)、2-アミノ-N6-メチル-プリン、1-チオ-アデノシン、8-アジド-アデノシン、2'-F-アラ-アデノシン、2'-F-アデノシン、2'-OH-アラ-アデノシン、および6-(19-アミノ-ペンタオキサノナデシル)-アデノシンが挙げられる。
【0068】
本開示のRNAは、さらに、RNAにおけるグアニンを、グアニン類似体とする化学修飾を備えることができる。グアニンに替えてグアニン類似体とする化学修飾は、例えば、本開示のRNAにおけるグアニンの総数のうち割合は特に限定するものではない。例えば、グアニン総数の80%以上を、また例えば、同90%以上を、また例えば、同100%をグアニン類似体とすることができる。
【0069】
グアニン類似体を含む核酸塩基およびヌクレオシドとしては、イノシン、1-メチル-イノシン、ワイオシン、メチルワイオシン、4-デメチル-ワイオシン、イソワイオシン、ワイブトシン、ペルオキシワイブトシン、ヒドロキシワイブトシン、未修飾ヒドロキシワイブトシン、7-デアザ-グアノシン、クエオシン、エポキシクエオシン、ガラクトシル-クエオシン、マンノシル-クエオシン、7-シアノ-7-デアザ-グアノシン、7-アミノメチル-7-デアザ-グアノシン、アルカエオシン、7-デアザ-8-アザ-グアノシン、6-チオ-グアノシン、6-チオ-7-デアザ-グアノシン、6-チオ-7-デアザ-8-アザ-グアノシン、7-メチルグアノシン、6-チオ-7-メチル-グアノシン、7-メチル-イノシン、6-メトキシ-グアノシン、1-メチルグアノシン、2-メチル-グアノシン、2,2-ジメチル-グアノシン、2,7-ジメチル-グアノシン、2,2,7-ジメチル-グアノシン、8-オキソ-グアノシン、7-メチル-8-オキソ-グアノシン、1-メチル-6-チオ-グアノシン、2-メチル-6-チオ-グアノシン、2,N2-ジメチル-6-チオ-グアノシン、α-チオ-グアノシン、2'-O-メチル-グアノシン、2-メチル-2'-O-メチル-グアノシン、2,2-ジメチル-2'-O-メチル-グアノシン、1-メチル-2'-O-メチル-グアノシン、2,7-ジメチル-2'-O-メチル-グアノシン、2'-O-メチル-イノシン、1,2'-O-ジメチル-イノシン、2'-O-リボシルグアノシン(ホスフェート)、1-チオ-グアノシン、O6-メチル-グアノシン、2'-F-アラ-グアノシン、および2'-F-グアノシンが挙げられる。
【0070】
本開示のRNAは、(1)及び(2)で規定される塩基配列を第1の領域とした場合、第1の領域よりも5’末端側に、5’非翻訳領域(UTR)を有してもよい。5’UTRは、第1の領域によりコードされた目的とするポリペプチドの天然5’UTRであってもよいし、コードされた目的とするポリペプチドとは異なる5’UTRであってもよい。例えば、5’UTRは、コザック配列、配列内リボソーム侵入部位(IRES)、および/またはその断片等の少なくとも1つの翻訳開始配列を含んでいてもよい。RNA医薬におけるこれらの5’UTRの配列及び設計は周知である。
【0071】
本開示のRNAはさらに、5’キャップおよびポリAテールを含んでもよい。5’キャップは、通常、修飾ヌクレオチドの構成要素であり、一般的には成熟mRNAの5’末端に付加される構造を指す。
【0072】
5’キャップは、修飾ヌクレオチドによって、特にグアニンヌクレオチドの誘導体によって形成され得る。好ましくは、5’キャップは5’-5’-三リン酸結合を介して5’末端に結合している。5’キャップはメチル化されてもよく、例えばm7GpppNは、Nが、5’キャップを有する核酸の末端5’ヌクレオチドである。
【0073】
ポリAテールはポリA尾部ともよばれ、連続するアデニンポリヌクレオチドを指す。ポリAの塩基長は特に限定されないが、20以上が好ましく、50以上が好ましい。塩基長の上限は特に限定されないが、例えば200以下である。
【0074】
本開示のRNAは、mRNA又はその一部でありうる。mRNA又はその一部の場合、5’UTR及び/又はポリAテールを含むことができる。本明細書のRNAが、mRNAであるときであって、コーディング領域、例えば、配列番号1で表される塩基配列を有するRNAの変異型であって、配列番号1で表される塩基配列の88番目から897番目までのコード配列を含むとき、終止コドンを1個~5個程度まで含めるような変異を含んでいてもよい。例えば、配列番号3で表される塩基配列(終止コドンを3個含む)が挙げられる。また、本開示のRNAは、必要に応じてGなどの塩基の連続を回避するためにG→Aの変異を含んでいてもよい。
【0075】
本開示のRNAは、RNAi誘導剤、RNAi剤、siRNA、shRNA、miRNA、アンチセンスRNA、RNA、アプタマー、ベクター等であってもよい。
【0076】
本開示のRNAは、その一部に、蛍光物質、発色物質等の標識分子が取り付けられていてもよい。
【0077】
以上の種々の化学修飾は、当業者において公知又は周知であり、本明細書の開示及び本願出願時の技術常識に基づいて当業者であれば、所望の化学修飾を用いるRNAを取得することができる。式(1)で表されるヌクレオチド単位及び/又は式(2)で表されるヌクレオチド単位を備えるRNAは、国際公開第2018/110678号パンフレット及び国際公開第2019/088179号パンフレットに記載の方法により製造することができる。
【0078】
本開示のRNAをZC3H12Dタンパク質を過剰発現させた細胞に投与すると、細胞の遊走能の活性化、細胞の抗転移活性の誘導、細胞がナチュラルキラー(NK)細胞の場合には腫瘍破壊活性の増大などを引き起こし得る。
【0079】
本開示のRNAの各種実施形態は、単独で又は組み合わせて、以下の本開示のRNAの各態様に適用可能である。
【0080】
(抗腫瘍剤及び腫瘍の増殖抑制方法)
本開示の抗腫瘍剤は、本開示のRNAを有効成分として含有する。本開示の腫瘍細胞の増殖抑制方法は、本開示のRNAをインビトロ、ヒト又は非ヒト動物に投与する。本開示のRNAは、本開示のRNAをインビトロ、ヒト又は非ヒト動物に投与することで、免疫細胞の活性化能等を有するため、それにより抗腫瘍効果を発揮できる。
【0081】
抗腫瘍剤の有効成分としての本開示のRNAは、免疫細胞を活性化又は細胞の抗腫瘍活性を増大させることができるRNAである。なお、細胞は、がん細胞、腫瘍細胞、又は免疫細胞であり、免疫細胞は、ナチュラルキラー細胞(NK細胞)、マクロファージ、好酸球、好中球、好塩基球、樹状細胞、リンパ球等が挙げられる。好ましくは、免疫細胞は、ナチュラルキラー細胞(NK細胞)、マクロファージ、又はその両方である。
【0082】
腫瘍としては、頭頚部癌、食道癌、胃癌、結腸癌、直腸癌、肝臓癌、胆嚢癌、胆管癌、胆道癌、膵臓癌、肺癌、乳癌、卵巣癌、子宮頚癌、子宮体癌、腎癌、膀胱癌、前立腺癌、精巣腫瘍、骨肉腫、多発性骨髄腫、皮膚癌、脳腫瘍、中皮腫等が挙げられる。
【0083】
免疫細胞の活性化は、免疫細胞におけるIFNγ産生や、免疫細胞又はZC3H12Dタンパク質を発現させた腫瘍細胞の遊走能力の向上等により評価することができる。抗腫瘍活性は、公知の抗腫瘍活性の評価方法で評価できる。
【0084】
(免疫細胞の活性化剤(賦活化剤)及び免疫細胞の活性化(賦活化)方法)
本開示の免疫細胞の活性化剤は、本開示のRNAを有効成分として含有する。本開示の免疫細胞の活性化方法は、本開示のRNAをインビトロ、ヒト又は非ヒト動物に投与することを含むことができる。細胞、免疫細胞及び免疫細胞の活性化については、抗腫瘍剤についての既述の実施態様が適用される。
【0085】
(腫瘍細胞の転移抑制剤及び腫瘍細胞の転移の抑制方法)
本開示の腫瘍細胞の転移抑制剤は、本開示のRNAを有効成分として含有する。本明細書に開示される腫瘍細胞の転移の抑制方法は、本開示のRNAをインビトロ、ヒト又は非ヒト動物に投与することを含むことができる。本開示のRNAは、免疫細胞を活性化することで細胞の抗腫瘍活性を増大させて腫瘍細胞の転移を抑制できる。細胞、免疫細胞、免疫細胞の活性化及び抗腫瘍活性については、抗腫瘍剤について既述の実施態様が適用される。
【0086】
腫瘍細胞の転移の抑制は、公知の転移性腫瘍細胞数の計測等により評価することができる。
【0087】
転移抑制剤による原発癌の転移の抑制を意図した治療は、原発癌の治療と組み合わせて、あるいは独立して行われる。例えば、転移抑制剤を併用するとき、例えば、原発癌に対する外科的治療、抗癌剤による治療、放射線治療(X線、陽子線、重粒子線)及び電磁波治療(ラジオ波)の1種又は2種以上の前後又は同時に用いることができる。外科的治療との組み合わせは好ましい態様の一つである。
【0088】
典型的には、例えば、以下の使用態様が挙げられる。
(a)原発癌の外科的治療後に、原発癌が残留するとき、抗癌剤治療、放射線治療及び電磁波治療等の1種又は2種以上と併用する
(b)原発癌の外科的治療後に、原発癌を除去できた場合、転移を抑制するために、単独で、あるいは、抗癌剤治療、放射線治療及び電磁波治療等の1種又は2種以上と併用する。
(c)原発癌の外科的治療後であって、その後に、新たに原発癌が見つかった場合又は転移が見つかった場合において、転移を抑制するために、単独で、あるいは、外科的治療、抗癌剤治療、放射線治療及び電磁波治療等の1種又は2種以上と併用する。
【0089】
(免疫賦活剤の免疫賦活効果等の増強剤及び当該効果等の増強方法)
本開示の増強剤は、本開示のRNAを有効成分として含有する。本明細書に開示される増強方法は、本開示のRNAをインビトロ、ヒト又は非ヒト動物に投与することを含むことができる。本開示のRNAは、免疫細胞を活性化、細胞の抗腫瘍活性の増大、又は腫瘍細胞の転移を抑制できるRNAである。したがって、免疫細胞の活性化剤、抗腫瘍剤及び転移抑制剤と併用されるなどして、これらの薬剤の免疫細胞活性化効果、抗腫瘍活性効果、転移抑制効果を増強することができる、細胞、免疫細胞、免疫細胞の活性化、抗腫瘍活性及び転移の抑制については、抗腫瘍剤及び転移抑制剤についての既述の実施態様が適用される。
【0090】
併用される免疫賦活剤としては、公知の免疫賦活剤を用いることができる。また、併用される転移抑制剤としては、公知の転移抑制剤を用いることができる。
【0091】
併用される抗腫瘍剤としては、キナーゼ阻害剤、アポトーシス誘導剤、核内受容体調整剤、免疫調整剤、核外搬出シグナル阻害剤、プロテアソーム調整剤、DNA障害剤、代謝拮抗剤、プラチナ系抗腫瘍剤(白金錯体)、微小管阻害剤、アルキル化剤、及びアントラサイクリン系抗腫瘍剤から選ばれる1種又は複数種の抗腫瘍剤等が挙げられ、該化合物の塩も包含する。これらの抗腫瘍剤は良く知られており、市販のものを利用できる。
【0092】
上記の被併用薬剤と、本開示の増強剤とは、本開示の増強剤の所定の増強作用が奏される範囲であれば、それらの投与方法は特に制限されず、同時に投与したり、逐次的に又は間隔をあけて投与したりできる。それら組成物の投与順序も特に制限されず、抗腫瘍剤はRNAの前、同時、又は後に投与されてもよい。
【0093】
被併用薬剤と、本開示の増強剤とは、個々の薬剤の用法として、併用されてもよいし、合剤又は薬剤キットとして、用法が規定されて提供されてもよい。
【0094】
(医薬組成物、免疫の改善方法、腫瘍の予防又は治療方法)
本明細書に開示される医薬組成物は、本RNAを有効成分として含有する。本明細書に開示される、免疫の改善方法、腫瘍の予防又は治療方法は、本開示のRNAをインビトロ、ヒト又は非ヒト動物に投与することを含むことができる。本開示のRNAは、免疫細胞を活性化、細胞の抗腫瘍活性の増大、又は腫瘍細胞の転移を抑制できるRNAである。したがって、これらを含む医薬組成物によれば、免疫細胞の活性化等により種々の状態や疾患の予防又は改善のほか、抗腫瘍活性や腫瘍の転移抑制活性により、腫瘍などの疾患の予防又は治療に有用である。腫瘍としては、例えば、既述の各種腫瘍が挙げられる。
【0095】
細胞、免疫細胞、免疫細胞の活性化、抗腫瘍活性、腫瘍細胞の転移抑制については、既述の実施態様が適用される。
【0096】
本開示のRNAを医薬の有効成分として用いるにあたっては、必要に応じて薬学的担体を配合し、予防又は治療目的に応じて各種の投与形態を採用可能である。上記RNAを含む抗腫瘍剤の形態としては、例えば、注射剤、坐剤、経口剤、軟膏剤、点眼剤等のいずれでもよく、好ましくは、注射剤(静脈内注射等)が採用される。これらの投与形態は、各々当業者に公知慣用の製剤方法により製造できる。
【0097】
薬学的担体としては、製剤素材として慣用の各種有機或いは無機担体物質が用いられ、固形製剤における賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、コーティング剤等、液状製剤における溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、pH調節剤、pH緩衝剤、無痛化剤等として配合される。また、必要に応じて防腐剤、抗酸化剤、着色剤、矯味剤、矯臭剤、安定化剤等の製剤添加物を用いることもできる。
【0098】
本発明の実施形態の各種剤及び医薬組成物の投与対象は、哺乳動物、好ましくはヒトである。
【0099】
また、上記RNAの1日あたりの投与量は、患者の症状、体重、年齢、性別等によって異なり一概には決定できないが、化合物として通常成人(体重50kg)1日あたり好ましくは10ng~1mg、より好ましくは100ng~100μg、さらに好ましくは1μg~10μgとすればよい。
【0100】
上記の各投与単位形態中に配合されるべきRNAの量は、用いられるRNAの性質、患者の症状、その剤形等に応じて、適宜設定される。
【0101】
本明細書中に引用されているすべての特許出願及び文献の開示は、それらの全体が参照により本明細書に組み込まれるものとする。
【0102】
以下に実施例を挙げて本開示をより具体的に説明するが、本開示はこれらに限定されない。
【実施例】
【0103】
特に言及しない限り、以下の方法に従った。
【0104】
(1)試薬
以下の一次抗体及び因子を本研究に用いた:ヒト抗ZC3H12D抗体(ab1000862;Abcam),ヒトCD56に対する細胞選別:PE抗ヒトCD56(NCAM)抗体(BioLegend)及びアイソタイプコントロール,マウスIgG1,κ(BioLegend)。ヒトCD3に対する細胞選別:AlexaFluor488抗ヒトCD3抗体(BioLegend)及びアイソタイプコントロール,マウスIgG1,κ(BioLegend)。マウス(D-17,sc-9344;SantaCruzBiotechnology)及びヒト(B27;BioLegend)抗IFNγ抗体を細胞染色に使用した。ヒトIL2(BioLegend)及びヒトIL12(PeproTech)を細胞培養に使用した。
【0105】
(2)腫瘍細胞株及び腫瘍細胞培養上清
ヒト腎がん細胞786-OはATCCから購入した。該ヒト細胞をDMEM/Han'sF-12培地で培養した。
【0106】
(3)ヒト細胞の初代培養
初代ヒトBMCs(HPBMCs;Lonza)を200IU/mLのIL2を添加したLGM-3培地(Lonza)で培養した。
【0107】
(4)遊走アッセイ
細胞の遊走は、chemotaxis Boydenchamber(NeuroProbe)を用いて評価した。上側及び下側のウェルを5-μmポアサイズのポリビニルピロリドン無含有ポリカーボネートフィルター(Nucleopore,Costar)により分離した。種々のRNAを下側ウェルに適用した。細胞懸濁液(2×105から2×106cells/mL)のアリコート(50μL)を上側ウェルの各々に接種し、3.5時間インキュベートした。
【0108】
(5)IFNγ誘導アッセイ
200IU/mLのIL2を補給したLGM-3培地(Lonza)にて50ng/mLのRNAで48時間刺激した後、ヒトCD56+CD3-NK細胞を抗ヒトIFNγ抗体で染色した。IFNγ誘導の陽性対照については、細胞を40ng/mLのhIL-12で48時間インキュベートした。
【0109】
(6)ベクター構築及びZC3H12Dを安定発現する細胞の樹立
ヒトZC3H12D発現ベクター(hZC58及びhZC36)は、ヒトZC3H12Dコード領域pCMV6-entryベクター(C-terminalmyc-FLAGtag)に入れてクローニングしたものであるが、これをOriGeneTechnologiesInc.(Rockville,MDUSA)より購入した。マウスZC3H12Dをプライマーセット5′-GGTACCATGGAGCATCGGAGCAAGATGG-3′(配列番号7)及び5′-CTCGAGTTAAGGATCCCCCAACGGAGCACC-3′(配列番号8)を用いてPCR増幅し、次にpCRBluntIIベクター(Thermo)でクローニングした。クローニングした断片をKpnI-XhoIにより二本鎖消化し、C-terminalFLAG-tagを取り付けたpcDNA3でサブクローニングした。ヒトZC3H12Dを安定発現する細胞株を樹立するために、上述の構築物のうちの一つを細胞株にトランスフェクトし、細胞を400μg/mLG418の存在下で2週間よりも長く培養した。G418選択の後、細胞可溶化液をDDDDK抗体(MBLCo.,Ltd,Japan)のプローブを用いてウェスタンブロッティングにより試験し、ZC3H12D-FLAGタンパク質の発現を確認した。
【0110】
(7)免疫組織化学及び細胞数の計測
抗ZC3H12D(ab1000862,Abcam)抗体を使用して、CD56+CD3-NK細胞を染色した。免疫染色された細胞領域の数値を、DAPIシグナルに対して正規化したピクセル数として示す。標識された細胞を共焦顕微鏡又は蛍光顕微鏡により検出し、全表面積に対して正規化した。
【実施例1】
【0111】
(化学修飾RNAの合成)
図1に示す塩基配列(ヒトIL1βの部分配列(配列番号6))及び化学修飾を備える2種類のRNA(HumanIL1β_AE、HumanIL1β_Me)を、常法に従い合成した。なお、2’位にフッ素原子、4’位にアミノエチル基を備えるヌクレオチド単位は、特開2019-10035号公報等に従い、ホスホロアミダイト法に従い全長を合成した。なお、コントロールとして、併せて、
図1に示す化学修飾を施した50merのPolyA(PolyA_50mer_Me_AE)(配列番号9)も合成した。
【実施例2】
【0112】
(ZC3H12D過剰発現細胞における化学修飾RNAによる細胞遊走能活性化作用の確認)
実施例1で合成した2種類の化学修飾RNAと、コントロールとしての50merのpolA_50mer_Me_AEを、ZC3H12D過剰発現させた786-O細胞を含む培地中に投与し、遊走した細胞の数の平均値で細胞遊走能を測定した。RNAの濃度は、100ng/mLとした。結果を
図2に示す。
【0113】
図2に示すように、2種類の合成RNAは、無添加及びコントロールに対して有意に遊走活性の向上を示した。
【実施例3】
【0114】
(ヒトNK細胞における化学修飾RNAによるIFNγの誘導の確認)
実施例1で合成した2種類の化学修飾RNAと、コントロールとしての50merのpolyA_50mer_Me_AEとを用いて、ヒトCD56
+CD3
-NK細胞におけるIFNγ生産に対する化学修飾RNAの影響を評価した。結果を、
図3及び
図4に示す。
【0115】
図3には、DAPI染色によるINFγから得られたシグナル強度を示す。
図3に示すように、無添加の場合に比較して2種類の化学修飾RNAは、いずれも、有意にINFγを生産していることがわかった。
【0116】
図4には、全NK細胞当たりのINFγポジティブNK細胞数を示す。
図4に示すように、2種類の化学修飾RNAは、高いINFγ産生細胞数を示した。
【0117】
以上のことから、本開示のRNAは、部分的に化学修飾を施しているが、遊走活性化能とINFγ誘導活性化能を有していることがわかった。
【実施例4】
【0118】
(化学修飾RNAの合成)
図5に示す塩基配列(ヒトIL1βの部分配列(配列番号10)及びマウスIL1βの部分配列(配列番号11))及び化学修飾を備える7種類のRNA(HumanIL1β_OME_AE、MouseIL1β_OMe_AE、MouseIL1β_OMe_AE_F、MouseIL1β_F、HumanIL1β_OME_AP、HumanIL1β_OME_AP_F、HumanIL1β_F)を、常法に従い合成した。なお、2’位にフッ素原子、4’位にアミノエチル基を備えるヌクレオチド単位は、特開2019-10035号公報等に従い、ホスホロアミダイト法に従い全長を合成した。また、2’位にメトキシ基、5’位にアミノプロピル基を備えるヌクレオチド単位は、国際公開第2019/088179号パンフレット等に従い、ホスホロアミダイト法に従い全長を合成した。なお、コントロールとして、併せて、
図5に示す化学修飾を施した50merのPolyA(PolyA_50_OMe_AE)(配列番号9)も合成した。また、MouseIL1β_OMe_AE_F、MouseIL1β_F、HumanIL1β_OME_AP_F及びHumanIL1β_Fは、その5’末端にフルオレセインで標識されている。
【実施例5】
【0119】
(化学修飾RNAのRNase抵抗性評価)
実施例4で合成したフルオレセインで標識したMouseIL1β_OME_AE_F及びMouseIL1ββ_Fを用いて、2’位にフッ素原子、4’位にアミノエチル基を備えるヌクレオチド単位(2’-F-4’-AE)を両末端に各一個備え、他のすべてのヌクレオチド単位が2’位にメトキシ基を備えるヌクレオチド単位(2’-OMe)である合成RNAの担癌マウスの血清中のヌクレアーゼ(RNase)抵抗性を評価した。なお、担癌マウスは、8-12週齢のC57BL/6マウスの乳腺内に、1×106個/マウスのE0771細胞を注射して作製した。担癌マウス血清は、E0771細胞の注射から1週間後、乳腺に約1cm弱の腫瘤を形成したマウスの心腔内採血により取得した。
【0120】
実施例4で合成したフルオレセインで標識したHumanIL1β_OMe_AP_F及びHumanIL1β_Fを用いて、2’位にメトキシ基、5’位にアミノプロピル基を備えるヌクレオチド単位(2’-OMe-5’-AP)を両末端に各一個備え、他のすべてのヌクレオチド単位が2’位にメトキシ基を備えるヌクレオチド単位(2’-OMe)である合成RNAのウシ血清中のヌクレアーゼ(RNase)抵抗性を評価した。
【0121】
ヌクレアーゼ抵抗性は、各RNA300pmolをOPTI-MEM37.5μLに溶解し、そこから1.1μLを分注し、loading buffer(10mMEDTA、90%formamide)15μlLを加えて0分のサンプルとした。また、そこに担癌マウス血清4μl(10%)又はウシ血清4μL(10%及び20%)、9.1μL(20%)を加え、37℃でインキュベートした。5分、1時間、3時間、6時間、12時間、24時間、48時間後に、あらかじめ別のサンプリングチューブに分注しておいたloading solution10μL中に、反応液を2μLずつ加え、反応を停止させた。この反応溶液を20%変性PAGE(500V,20mA)で泳動した後、Image analyzer LAS-4000(富士フィルム株式会社)を用いて分析した。結果を、
図6及び
図7に示す。なお、
図6においては、電気泳動結果に基づく0分におけるRNA量に対する5分~48時間経過後のRNA量(%)を示す。
【0122】
なお、変性PAGEは以下の方法で調製した。40%アクリルアミド(19:1)溶液(20ml)、尿素(16.8g)、10×TBEbuffer(4ml)を加えて溶解し、H2Oを加え40mlとした。最後にAPS(27.5mg)を加えて溶かし、TEMED(20μl)を加えて振り混ぜ、スペーサーを挟んで固定した2枚ガラス板の間に流し込み、1時間以上静置して固化させた。なお、1×TBEbufferを泳動用緩衝液として用いた。
【0123】
図6に示すように、両末端に(2’-F-4’-AE)を各一個備え、他のすべてのヌクレオチド単位が(2’-OMe)である化学修飾RNAは、血清中48時間経過後であっても、80%のRNA量を維持していた。また、これに対して、すべてのヌクレオチド単位が天然ヌクレオチド単位であるRNAでは、5分後に概ねすべてのRNAが消失したことがわかった。以上のことから、末端に(2’-F-4’-AE)を備えるRNAが血清中のRNaseに対して優れた抵抗性を備えていることがわかった。
【0124】
また、
図7に示すように、両末端に(2’-OMe-5’-AP)を各一個備え、他のすべてのヌクレオチド単位が(2’-OMe)である化学修飾RNAは20%血清中48時間経過後であっても、ほぼ100%のRNA量を維持していた。また、これに対して、すべてのヌクレオチド単位が天然ヌクレオチド単位であるRNAでは、5分後に概ねすべてのRNAが消失したことがわかった。以上のことから、末端に(2’-OMe-5’-AP)を備えるRNAが血清中のRNaseに対して優れた抵抗性を備えていることがわかった。
【実施例6】
【0125】
(化学修飾RNAによる細胞遊走能活性化作用の確認)
実施例4で合成したHumanIL1β_OME_AEと、コントロールとしてのPolyA_50_OMe_AEを、ZC3H12Dタンパク質を過剰発現させた786-O細胞を含む細胞懸濁液にフィルターを介して投与し、遊走した細胞の数をカウントした。装置として、Boyden chamber (Neuro Probe社製)を使用した。上部と下部のウェルは、孔径5μmのポリカーボネートフィルター(Nucleopore; Costar)で分離した。上部のウェルには細胞懸濁液 (1×106/ml)を、下部のウェルには上記各RNAを1ng/ml、10ng/ml、100ng/ml及び1μg/mlの各濃度で添加した培地を入れ、3時間インキュベートして、下部ウェルに遊走した細胞数をカウントした。結果を表1に示す。
【0126】
【0127】
表1に示すように、HumanIL1β_OME_AEを投与したとき、遊走細胞数は、無添加時を100としたとき、RNAの各濃度における遊走細胞数は平均で150となった。また、概ねRNA濃度に応じて有意に増大し、100ng/mlで200程度となった。一方、PolyA_50_OMe_AEを投与したときは、いずれの濃度であっても、無添加と同様であり、平均で110であった。以上のことから、両末端に(2’-F-4’-AE)を各一個備えるHumanIL1β_OME_AEは、ZC3H12Dタンパク質を発現したNK細胞の遊走能の増大に貢献することがわかった。
【実施例7】
【0128】
(IFNγ誘導の確認)
実施例4で合成したHumanIL1β_OME_AEと、コントロールとしてのPolyA_50_OMe_AEと、を用いて、ヒトCD56+CD3-NK細胞におけるIFNγ生産に対する化学修飾RNAの影響を評価した。ヒトCD56+CD3-NK細胞は凍結保存されたヒトPBMCからFACSにて採取した。200U/mLのIL-2(BioLegend) 存在下のHPLM培地(Gibco) で10ng/mLの各RNAでプライミングした24時間後に、抗ヒトIFN-γ抗体 (BioLegend) で染色した。なお、IFNγ誘導のポジティブコントロールとしてIL-12 (Proteintech) を用いた。結果を、表2に示す。
【0129】
【0130】
表2に示すように、HumanIL1β_OME_AEを用いたときには、無添加時のIFNγ量に対して2.3倍のINFγが誘導された。これは、ポジティブコントロールと同等程度であった。一方、PolyA_50_OMe_AEを用いたときには、無添加時と同等程度にしかIFNγが誘導されなかった。以上のことから、両末端に(2’-F-4’-AE)を各一個備えるHumanIL1β_OME_AEは、ヒトNK細胞のINFγの産生量の増大に貢献することがわかった。
【実施例8】
【0131】
(ヒトNK細胞の殺細胞能の評価)
実施例4で合成したHumanIL1β_OME_AEと、コントロールとしてのPolyA_50_OMe_AEと、について、Zombie Green Fixable Viability Kit (BioLegend)を使用して、ヒトCD56+CD3-NK細胞の殺細胞能を評価した。すなわち、10ng/mLの各RNAで18時間プライミングしたヒトCD56+CD3-NK細胞と、がん細胞(Caco-2:結腸癌細胞株)を1:1で共培養した24時間後に、緑色に濃く染色された腫瘍細胞割合を観察した。結果を表3に示す。
【0132】
【0133】
表3に示すように、HumanIL1β_OME_AEを用いたときには、無添加時に対して2.5倍の殺細胞が観察された。一方、PolyA_50_OMe_AEを用いたときには、無添加時と同等程度の殺細胞が観察された。以上のことから、両末端に(2’-F-4’-AE)を各一個備えるHumanIL1β_OME_AEは、ヒトNK細胞の殺細胞能の増大に貢献することがわかった。
【実施例9】
【0134】
(擬似肺転移モデルマウスにおける抗転移活性の評価)
実施例4で合成したHumanIL1β_OME_AEと、コントロールとしてのPolyA_50_OMe_AEと、について、抗転移活性について評価した。E0771乳癌細胞にて担癌状態としたマウスの尾静脈から数日おきに各RNA(HumanIL1β_OME_AE及びPolyA_50_OMe_AE、各1μg)及びネガティブコントロールとしてのPBSを注射した。PKH-26(Sigma-Aldrich)で染色した腫瘍細胞(E0771乳癌細胞)を尾静脈から注射した48時間後にマウスを解剖し、肺におけるPKH-26陽性細胞数を観察した。結果を表4に示す。
【0135】
【0136】
表4に示すように、HumanIL1β_OME_AEを用いたときには、PBS添加時に対して65%の陽性細胞数が観察された。一方、PolyA_50_OMe_AEを用いたときには、PBS添加時と同等程度の陽性細胞が観察された。以上のことから、両末端に(2’-F-4’-AE)を各一個備えるHumanIL1β_OME_AEは、インビボにおいても、腫瘍細胞の転移の抑制に貢献することがわかった。
【配列表フリーテキスト】
【0137】
配列番号7,8:プライマー
配列番号9:コントロールRNA
【配列表】