(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-31
(45)【発行日】2025-02-10
(54)【発明の名称】衝撃工具
(51)【国際特許分類】
B25D 17/24 20060101AFI20250203BHJP
B25D 17/08 20060101ALI20250203BHJP
B25D 17/11 20060101ALI20250203BHJP
【FI】
B25D17/24
B25D17/08
B25D17/11
(21)【出願番号】P 2023213478
(22)【出願日】2023-12-19
【審査請求日】2023-12-19
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】510155210
【氏名又は名称】アピュアン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135460
【氏名又は名称】岩田 康利
(74)【代理人】
【識別番号】100084043
【氏名又は名称】松浦 喜多男
(74)【代理人】
【識別番号】100142240
【氏名又は名称】山本 優
(72)【発明者】
【氏名】渡部 幸雄
【審査官】山内 康明
(56)【参考文献】
【文献】実開昭59-176683(JP,U)
【文献】実開昭51-105667(JP,U)
【文献】特開2019-022921(JP,A)
【文献】特許第7321478(JP,B1)
【文献】特許第7411995(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25D 17/24
B25D 17/08
B25D 17/11
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源を具備
し、作業者が手に持って扱う工具本体と、
前記工具本体に対して前後方向に摺動自在に取り付けられた状態で、先端部分が前記工具本体を基準にして前方へ差し出される部分を有する長尺状の先端具と、
前記工具本体の前端部に取り付けられ、前記先端具の差し出された部分の根端部を被覆するキャップ部材と、を備え、
前記キャップ部材に前記先端具が挿通されて前記キャップ部材から前方に向かって前記先端具の先端部が突き出されており、前記駆動源を用いて前記先端具を往復動させて当該先端具の先端部からワークに衝撃を付与する衝撃工具であって、
前記キャップ部材は、
前記工具本体に取り付けられる後端側キャップ部材と、
前記後端側キャップ部材の先端に取り付けられ、前記先端具が挿通される挿通孔部を備える先端側キャップ部材と、
を備え、
さらに、前記工具本体の前端部の外周面には、工具本体ネジ溝が形成されており、前記後端側キャップ部材には、前記工具本体ネジ溝と螺着する後端寄り後端側ネジ溝、及び先端寄り後端側ネジ溝が形成されており、前記先端側キャップ部材には、前記先端寄り後端側ネジ溝と螺着する先端側ネジ溝が形成されており、
前記後端側キャップ部材は、前記工具本体に取り付けられた状態で、前記工具本体ネジ溝と前記後端寄り後端側ネジ溝との間に形成された揺動用間隙によって前記工具本体とは互いに離脱することがない範囲で
前記工具本体に対して個別に揺動自在とされており、
前記先端側キャップ部材は、前記後端側キャップ部材に取り付けられた状態で、前記先端寄り後端側ネジ溝と前記先端側ネジ溝との間に形成された揺動用間隙によって前記後端側キャップ部材とは互いに離脱することがない範囲で
前記後端側キャップ部材に対して個別に揺動自在とされており、
前記工具本体と前記キャップ部材との間に形成される内部空間には、
前記工具本体の先端と前記先端側キャップ部材との間で、弾性変形可能な範囲で弾縮した振動吸収コイルスプリングが配置されてなり、前記先端側キャップ部材は、前記工具本体よりも先端側に向かって付勢されており、
前記先端具と前記先端側キャップ部材との間で、弾性変形可能な範囲で弾縮した先端具復帰コイルスプリングが配置されてなり、前記先端具は、前記先端側キャップ部材に対して後方側に向かって付勢されてな
り、前記先端具において前記内部空間に位置する部位には前記挿通孔部の内径よりも径大な径大部を有しており、前記径大部の前側に位置する前壁部に前記先端具復帰コイルスプリングの後端部が当接しており、前記挿通孔部の内径よりも前記径大部が径大であることで、往復動する当該先端具が前方に移動した際に前記先端側キャップ部材から先端方向へ抜け出ることを防止する飛び出し防止構造が構成されてなる
ことを特徴とする衝撃工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、先端具が往復動する機構の作用によってワークに衝撃を付与する衝撃工具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ワークに衝撃を与えて当該ワークを掘削したり、切除したりする衝撃工具としては、工具本体内にシリンダを備え、当該シリンダ内を往復動する先端具を備えたものが知られている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
また、先端具の飛び出し防止のために、先端具の後端部を被覆するキャップを備えた衝撃工具も知られている(例えば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】実開昭59-176683号公報
【文献】実開昭51-105667号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような衝撃工具にあっては、シリンダ内を先端具が激しく往復するため、作業者の手に強い振動が伝わり、作業を長時間にわたって行うことが困難であった。また、部材同士が激しく衝突することに起因して騒音も大きくなることがあるため、これらの問題を改善する余地がある。
【0006】
そこで本発明は、より一層、振動吸収効果及び静音効果のある衝撃工具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、駆動源を具備する工具本体と、前記工具本体に対して前後方向に摺動自在に取り付けられた状態で、先端部分が前記工具本体を基準にして前方へ差し出される部分を有する長尺状の先端具と、前記工具本体の前端部に取り付けられ、前記先端具の差し出された部分の根端部を被覆するキャップ部材と、を備え、前記キャップ部材に前記先端具が挿通されて前記キャップ部材から前方に向かって前記先端具の先端部が突き出されており、前記駆動源を用いて前記先端具を往復動させて当該先端具の先端部からワークに衝撃を付与する衝撃工具であって、前記キャップ部材は、前記工具本体に取り付けられる後端側キャップ部材と、前記後端側キャップ部材の先端に取り付けられ、前記先端具が挿通される挿通孔部を備える先端側キャップ部材と、を備え、前記後端側キャップ部材は、前記工具本体に取り付けられた状態で、前記工具本体とは個別に揺動自在とされており、前記先端側キャップ部材は、前記後端側キャップ部材に取り付けられた状態で、前記後端側キャップ部材とは個別に揺動自在とされており、前記工具本体と前記キャップ部材との間に形成される内部空間には、前記工具本体の先端と前記先端側キャップ部材との間で、弾性変形可能な範囲で弾縮した振動吸収コイルスプリングが配置されてなり、前記先端側キャップ部材は、前記工具本体よりも先端側に向かって付勢されており、前記先端具と前記先端側キャップ部材との間で、弾性変形可能な範囲で弾縮した先端具復帰コイルスプリングが配置されてなり、前記先端具は、前記先端側キャップ部材に対して後方側に向かって付勢されてなり、前記先端具において前記内部空間に位置する部位には前記挿通孔部の内径よりも径大な径大部を有していることをとく長とする衝撃工具である。
【0008】
かかる構成にあっては、キャップ部材が、当該キャップ部材の先端側から先端具が飛び出することを防止する機能を備えている。さらに、キャップ部材が当該先端具の差し出された部分の根端部を被覆することで音漏れが低減されて静音効果が向上する。そして、キャップ部材を後端側キャップ部材と先端側キャップ部材との構成とし、工具本体とは個別に揺動自在とすることによって衝撃の吸収効果と応力集中による部品の破損を抑制する効果とが得られる。また、振動吸収コイルスプリングはキャップ部材を工具本体よりも前方へ向かって付勢する機能を有し、キャップ部材が発する衝撃や振動を吸収する。さらに、先端具復帰コイルスプリングは、先端具をキャップ部材よりも後方へ向かって付勢することによって、衝撃工具の作動時に速やかに先端具が後方へ移動して単位時間当たりの衝撃付与回数を増大させる機能を有する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の衝撃工具は、先端具の飛び出し防止効果があるとともに、作業者の手に伝わる振動を低減する効果及び静音効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例にかかる衝撃工具の部分側断面図である。
【
図2】実施例にかかる衝撃工具の部分拡大側断面図を示し、(a)はキャップ部材が振動吸収コイルスプリングの付勢力に従って先端側へ最も移動した状態を示し、(b)はキャップ部材が振動吸収コイルスプリングの付勢力に抗して後端側へ最も移動した状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施形態を実施例に従って説明する。なお本発明は、下記に示す実施例に限定されることはなく、適宜、設計変更が可能である。また便宜上、実施例において前後を規定して説明しているが、これによって本発明が限定されるものではない。
【0012】
図1に示すように、衝撃工具1は、例えば圧縮空気を駆動源としており、工具本体10を備えている。そして、工具本体10内には、前後方向に長いシリンダ部20が備えられている。さらにシリンダ部20には、導入された圧縮空気の作用により当該シリンダ部20内を前後方向に摺動自在に往復動する長尺状の先端具30が取り付けられている。具体的には、先端具30は、シリンダ部20内に配置された径大なフランジ部31が形成された部分と、フランジ部31よりも前端側に位置してフランジ部31よりも径小な部分とで構成されている。そして、かかる径小な部分が工具本体10の前端部から前方に差し出されており、先端がワークWに接触する。
【0013】
また、工具本体10の前端部の外周面には、キャップ部材40が嵌着されている。詳述すると、キャップ部材40は、工具本体10に取り付けられる円筒形状の後端側キャップ部材50と、後端側キャップ部材50の先端側に取り付けられる円盤形状の先端側キャップ部材60とを備えている。そして、工具本体10の前端部の外周面には、工具本体ネジ溝11が形成されている。また、後端側キャップ部材50の内周面において、後端側に後端寄り後端側ネジ溝51と先端側に先端寄り後端側ネジ溝52が形成されている。また、先端側キャップ部材60の後端側の外周面には、先端側ネジ溝61が形成されている。そして、工具本体ネジ溝11と後端側キャップ部材50の後端寄り後端側ネジ溝51とが螺着することで工具本体10に後端側キャップ部材50が取り付けられ、後端側キャップ部材50の先端寄り後端側ネジ溝52と先端側キャップ部材60の先端側ネジ溝61とが螺着することで後端側キャップ部材50に先端側キャップ部材60が取り付けられる。
【0014】
なお、工具本体10に後端側キャップ部材50が取り付けられた状態で、工具本体ネジ溝11と後端寄り後端側ネジ溝51との間には隙間(揺動用間隙)が形成されており、いわゆる互いに緊締されない構造となっている。これにより、後端側キャップ部材50は、工具本体10に取り付けられた状態で、互いに離脱することがない範囲で工具本体10とは個別に揺動自在とされている。
【0015】
また、後端側キャップ部材50に先端側キャップ部材60が取り付けられた状態で、先端寄り後端側ネジ溝52と先端側ネジ溝61との間には隙間(揺動用間隙)が形成されており、いわゆる互いに緊締されない構造となっている。これにより、先端側キャップ部材60は、後端側キャップ部材50に取り付けられた状態で、互いに離脱することがない範囲で後端側キャップ部材50とは個別に揺動自在とされている。
【0016】
また、先端側キャップ部材60には先端具30が挿通される挿通孔部65が備えられている。すなわち、先端具30の先端部は挿通孔部65を介して先端側キャップ部材60から前方に向かって突き出されている一方、前記フランジ部31の外径が挿通孔部65の孔径より径大となる寸法とされて、先端具30の飛び出し防止構造が構成されている。
【0017】
さらに、後端側キャップ部材50と先端側キャップ部材60とにわたって回り止めピン68が差し込まれており、衝撃工具1の作動中に先端側キャップ部材60が緩んで抜けてしまうことを防止している。なお、回り止めピン68は、後端側キャップ部材50と先端側キャップ部材60とを上記態様で連結する連結手段として機能するところ、後端側キャップ部材50と先端側キャップ部材60とががたつきなく固定されてしまうことがないような連結構造となっており、具体的には回り止めピン68の先端部と当該先端部が差し入れられる先端側キャップ部材60の部位との間には、先端側キャップ部材60が揺動自在となるべく隙間(揺動用間隙)が形成されている。
【0018】
また、工具本体10とキャップ部材40との間に形成される内部空間Sには、振動吸収コイルスプリング70及び先端具復帰コイルスプリング80が夫々配置されている。
【0019】
振動吸収コイルスプリング70は、内部に先端具30及び先端具復帰コイルスプリング80が挿通され、弾性変形可能な範囲で弾縮した状態で、後端部が工具本体10の先壁部10aに当接し、先端部が先端側キャップ部材60の後壁部にあたる振動吸収コイルスプリング受け面部60aに当接している。これにより、先端側キャップ部材60は、工具本体10よりも先端側に向かって付勢されている。
【0020】
工具本体10とキャップ部材40との関係を再度述べると、工具本体ネジ溝11の山の径(外径)をL1とし、後端寄り後端側ネジ溝51の谷の径(内径)をL2とした場合、
L1<L2
とされている。
なお、後端寄り先端側ネジ溝52の谷の径(内径)は後端寄り後端側ネジ溝51の谷の径(内径)と等しいL2であり、先端側ネジ溝61の山の径(外径)は工具本体ネジ溝11の山の径(外径)と等しいL1である。
【0021】
なお、工具本体ネジ溝11と後端寄り後端側ネジ溝51、及び先端寄り後端側ネジ溝52と先端側ネジ溝61は互いにネジのピッチが等しいものとされている。
【0022】
さらに、振動吸収コイルスプリング70によって先端側キャップ部材60は工具本体10に対して前方に向かって付勢されている。これにより、
図2(a)に示すように、工具本体ネジ溝11と後端寄り後端側ネジ溝51との間の隙間で可動な範囲で、工具本体10に対して後端側キャップ部材50は前方へ向かって移動する。同様に、後端寄り先端側ネジ溝52と先端側ネジ溝61との間の隙間で可動な範囲で、後端側キャップ部材50に対して先端側キャップ部材60は前方へ向かって移動する。
【0023】
なお、上述のように前方へ移動した後端側キャップ部材50及び先端側キャップ部材60は振動吸収コイルスプリング70の付勢力に抗して後方へ向かって移動可能である。すなわち、
図2(b)に示すように、工具本体ネジ溝11、後端寄り後端側ネジ溝51、先端寄り後端側ネジ溝52、及び先端側ネジ溝61は互いにネジ溝の山を乗り越えない範囲で合わせてL3だけ先端側キャップ部材を後方へ移動することができる。
【0024】
すなわち、衝撃工具1を作動させると、工具本体10に発生した振動が後端側キャップ部材50及び先端側キャップ部材60に伝播して、後端側キャップ部材50及び先端側キャップ部材60は
図2(a)に示される状態から
図2(b)に示される状態まで前後に揺動することができ、作業者に伝わる不快な振動を好適に吸収することができる。
【0025】
かかる構成により、工具本体10とキャップ部材40とは螺着構造であるために脱着容易であり、キャップ部材40によって先端具30の飛び出しを好適に防止しながらも先端具30の交換が容易となる。また、工具本体10に対してキャップ部材40が揺動自在とされ、衝撃工具1を使用する作業者に伝わる振動を低減することができる。
【0026】
先端具復帰コイルスプリング80は、内部に先端具30が挿通され、弾性変形可能な範囲で弾縮した状態で、後端部が先端具30のフランジ部31における前壁部31aに当接し、先端部が先端側キャップ部材60の後壁部にあたり、振動吸収コイルスプリング受け面部60aとは異なる面部である先端具復帰コイルスプリング受け面部60bに当接している。これにより、先端具30は、先端側キャップ部材60よりも後端側に向かって付勢されている。
【0027】
かかる衝撃工具1は、工具本体10に対して後端側キャップ部材50及び先端側キャップ部材60が揺動自在とされていながら振動吸収コイルスプリング70によって先端側に向かって付勢されており、衝撃工具1の作動中においては衝撃や振動を低減して騒音を減らすことができる。また、キャップ部材40を後端側キャップ部材50と先端側キャップ部材60の2部材構成とすることにより、振動吸収効果の増大や部品の摩耗を低く抑える効果が得られる。
【0028】
上記実施例において、各部の寸法形状は適宜自由に選択可能である。
振動吸収コイルスプリング70及び先端具復帰コイルスプリング80はそれぞれ複数個備えられていても構わない。
なお本発明の衝撃工具は、例えば水中で使用される衝撃工具にも適用可能である。
【符号の説明】
【0029】
1 衝撃工具
10 工具本体
10a 工具本体における前壁部
11 工具本体ネジ溝
20 シリンダ部
30 先端具
31 フランジ部(径大部)
31a フランジ部における前壁部
40 キャップ部材
50 後端側キャップ部材
51 後端寄り後端側ネジ溝
52 先端寄り後端側ネジ溝
60 先端側キャップ部材
60a 振動吸収コイルスプリング受け面部
60b 先端具復帰コイルスプリング受け面部
61 先端側ネジ溝
65 挿通孔部
68 回り止めピン
70 振動吸収コイルスプリング
80 先端具復帰コイルスプリング
S 内部空間
【要約】 (修正有)
【課題】より一層、振動吸収効果及び静音効果のある衝撃工具を提供する。
【解決手段】工具本体10に取り付けられる後端側キャップ部材50と、後端側キャップ部材50の先端に取り付けられ、先端具30が挿通される挿通孔部65を備える先端側キャップ部材60と、を備え、後端側キャップ部材50は、工具本体10とは個別に揺動自在とされており、先端側キャップ部材60は、後端側キャップ部材50とは個別に揺動自在とされており、工具本体10とキャップ部材40との間に形成される内部空間Sには、振動吸収コイルスプリング70が配置されてなり、先端側キャップ部材60は、工具本体10よりも先端側に向かって付勢されており、先端具10と先端側キャップ部材60との間で、先端具復帰コイルスプリング80が配置されてなり、先端具10は、先端側キャップ部材60に対して後方側に向かって付勢される衝撃工具1である。
【選択図】
図1