(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-31
(45)【発行日】2025-02-10
(54)【発明の名称】実験動物の管理システムおよび管理方法
(51)【国際特許分類】
A01K 1/03 20060101AFI20250203BHJP
A01K 29/00 20060101ALI20250203BHJP
【FI】
A01K1/03 A
A01K29/00 C
(21)【出願番号】P 2023542153
(86)(22)【出願日】2021-08-20
(86)【国際出願番号】 JP2021030561
(87)【国際公開番号】W WO2023021687
(87)【国際公開日】2023-02-23
【審査請求日】2023-09-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(73)【特許権者】
【識別番号】304020292
【氏名又は名称】国立大学法人徳島大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】弁理士法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹島 雅之
(72)【発明者】
【氏名】柴田 由之
(72)【発明者】
【氏名】束 敏正
(72)【発明者】
【氏名】沼崎 和也
(72)【発明者】
【氏名】森松 文毅
(72)【発明者】
【氏名】高垣 堅太郎
(72)【発明者】
【氏名】平田 真樹
【審査官】星野 浩一
(56)【参考文献】
【文献】秋吉珠早 外5名,輸送距離の違いが黒毛和種肥育素牛の被毛と糞便中コルチゾル含有量および血液成分に及ぼす影響,産業動物臨床医学雑誌,第12巻第1号,日本,2021年04月30日,第1-7頁,https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjlac/12/1/12_1/_article/-char/ja/
【文献】植竹勝治 外4名,輸送牛の家畜福祉,畜産の研究,第62巻1号,日本,2008年01月,第70―86頁,https://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2030752040.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 1/03
A01K 29/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
実験動物の管理システムであって、
実験場所まで輸送される実験動物に関する実験情報を特定する情報特定部と、
前記実験情報に基づき、前記実験動物が輸送中に受けるストレスを表すストレス値を算出するストレス値算出部と、
を備え、
前記実験情報は、前記実験動物が輸送される輸送距離、前記実験動物が輸送される輸送時間、同時に輸送される前記実験動物の数、前記実験動物の年齢、
前記実験動物に対して行われる実験内容、及び、実験開始日を含み、
更に、
算出された前記ストレス値と、前記実験内容とに基づいて、前記実験動物がストレスから回復する回復時間を推定する回復時間推定部と、
前記実験開始日と、推定された前記回復時間と、前記実験動物の輸送時間とに基づいて、前記実験動物の輸送開始時期を決定する輸送時期決定部と、
を備える管理システム。
【請求項2】
請求項
1に記載の管理システムであって、
前記回復時間推定部は、算出された前記ストレス値が、前記実験内容に応じて定められた実験可能ストレス値に低下するまでの時間を、前記回復時間として求める、管理システム。
【請求項3】
請求項
2に記載の管理システムであって、
前記回復時間推定部は、時間の経過とストレス値の低下との関係を表す減衰関数を用いて、算出された前記ストレス値が、前記実験可能ストレス値に低下するまでの時間を求める、管理システム。
【請求項4】
請求項
3に記載の管理システムであって、
前記減衰関数は、前記実験動物の体格および前記実験動物の年齢の少なくとも一方に応じて異なる、管理システム。
【請求項5】
請求項
1から
4までのいずれか一項に記載の管理システムであって、
前記ストレス値算出部は、実験前の前記実験動物のコルチゾール濃度に応じて、前記ストレス値を補正する、管理システム。
【請求項6】
請求項1から5までのいずれか一項に記載の管理システムであって、
前記実験情報は、更に、輸送前に前記実験動物に施された予備処置に関する情報を含む、管理システム。
【請求項7】
実験動物の管理方法であって、
コンピューターが、実験場所まで輸送される実験動物に関する実験情報を特定する工程と、
前記コンピューターが、前記実験情報に基づき、前記実験動物が輸送中に受けるストレスを表すストレス値を算出する工程と、
を備え、
前記実験情報は、前記実験動物が輸送される輸送距離、前記実験動物が輸送される輸送時間、同時に輸送される前記実験動物の数、前記実験動物の年齢、
前記実験動物に対して行われる実験内容、及び、実験開始日を含み、
更に、
前記コンピューターが、算出された前記ストレス値と、前記実験内容とに基づいて、前記実験動物がストレスから回復する回復時間を推定する工程と、
前記コンピューターが、前記実験開始日と、推定された前記回復時間と、前記実験動物の輸送時間とに基づいて、前記実験動物の輸送開始時期を決定する工程と、を備える、
管理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、実験動物の管理システムおよび管理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、自動車によって移動させることのできる実験動物飼育装置が開示されている。この装置は、内部に、実験動物飼育室や実験動物手術室などを備えており、所望の場所に移動させて利用することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、上記のような移動型の飼育装置に動物を積み込み、研究機関等に輸送する場合、輸送によるストレスを受けて動物が体調を崩す場合がある。そうすると、その動物に対して施術や投薬などの実験を行っても、実験結果の信憑性が低下するおそれがある。そのため、輸送時における実験動物のストレスを予測可能な技術が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
本開示の一形態における実験動物の管理システムは、実験場所まで輸送される実験動物に関する実験情報を特定する情報特定部と、前記実験情報に基づき、前記実験動物が輸送中に受けるストレスを表すストレス値を算出するストレス値算出部と、を備え、前記実験情報は、前記実験動物が輸送される輸送距離、前記実験動物が輸送される輸送時間、同時に輸送される前記実験動物の数、前記実験動物の年齢、前記実験動物に対して行われる実験内容、及び、実験開始日を含み、更に、算出された前記ストレス値と、前記実験内容とに基づいて、前記実験動物がストレスから回復する回復時間を推定する回復時間推定部と、前記実験開始日と、推定された前記回復時間と、前記実験動物の輸送時間とに基づいて、前記実験動物の輸送開始時期を決定する輸送時期決定部と、を備える。本開示は以下の形態を含む。
【0006】
(1)本開示の第1の形態によれば、実験動物の管理システムが提供される。この管理システムは、実験場所まで輸送される実験動物に関する実験情報を特定する情報特定部と、前記実験情報に基づき、前記実験動物が輸送中に受けるストレスを表すストレス値を算出するストレス値算出部と、を備え、前記実験情報は、前記実験動物が輸送される輸送距離、前記実験動物が輸送される輸送時間、同時に輸送される前記実験動物の数、前記実験動物の年齢、輸送前に前記実験動物に施された予備処置に関する情報、のうちの少なくとも一部を含む。
このような形態の管理システムによれば、実験情報に基づいて、実験動物が輸送中に受けるストレスを予測することができる。
(2)上記形態の管理システムにおいて、前記実験情報は、前記実験動物に対して行われる実験内容を含み、算出された前記ストレス値と、前記実験内容とに基づいて、前記実験動物がストレスから回復する回復時間を推定する回復時間推定部、を備えてもよい。このような形態の管理システムによれば、実験動物が回復する回復時間を実験内容に応じて推定することができる。
(3)上記形態の管理システムにおいて、前記回復時間推定部は、算出された前記ストレス値が、前記実験内容に応じて定められた実験可能ストレス値に低下するまでの時間を、前記回復時間として求めてもよい。このような形態の管理システムによれば、実験内容に応じてその実験を行うことが可能になるまでの回復時間を求めることができる。
(4)上記形態の管理システムにおいて、前記回復時間推定部は、時間の経過とストレス値の低下との関係を表す減衰関数を用いて、算出された前記ストレス値が、前記実験可能ストレス値に低下するまでの時間を求めてもよい。このような形態の管理システムによれば、回復時間を容易に求めることができる。
(5)上記形態の管理システムにおいて、前記減衰関数は、前記実験動物の体格および前記実験動物の年齢の少なくとも一方に応じて異なってもよい。このような形態の管理システムによれば、実験動物の体格や年齢に応じて、実験動物の回復時間を求めることができる。
(6)上記形態の管理システムにおいて、前記ストレス値算出部は、実験前の前記実験動物のコルチゾール濃度に応じて、前記ストレス値を補正してもよい。このような形態の管理システムによれば、ストレス値を精度良く算出することができる。
(7)上記形態の管理システムにおいて、前記実験情報は、実験開始日を含み、前記実験開始日と、前記回復時間と、前記実験動物の輸送時間とに基づいて、前記実験動物の輸送開始時期を決定する輸送時期決定部、を備えてもよい。このような形態によれば、実験動物の輸送開始時期を適切に決定することができる。
本開示は上述した実験動物の管理システムとしての形態以外にも、実験動物の管理方法や、実験動物の管理装置として実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図2】管理システムの概略構成を示すブロック図である。
【
図4】係数knを求めるためのテーブルを示す図である。
【
図5】値Pdを求めるためのグラフを示す図である。
【
図6】値Ptを求めるためのグラフを示す図である。
【
図7】値Pg,Pm,Poを求めるためのテーブルを示す図である。
【
図8】値Ps,Pr,Pyを求めるためのテーブルを示す図である。
【
図10】輸送開始時期の決定方法を示す説明図である。
【
図11】補正係数決定処理のフローチャートである。
【
図12】コルチゾール濃度とストレス値との対応関係を示すグラフである。
【
図14】補正係数の変更による効果を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
A.第1実施形態:
図1は、本開示の第1実施形態としての実験動物の管理システム100の説明図である。管理システム100は、インターネット等の通信回線NTを介して客先端末200から、動物実験に関する実験計画情報を受信し、その情報に応じて、実験動物を実験場所となる客先施設250に輸送する輸送開始時期を決定する。客先端末200としては、例えば、コンピューターやスマートフォン、タブレット端末が用いられる。輸送には、例えば、実験設備が備えられた移動型動物実験車両や、実験設備を備えていない動物運搬車など、各種の車両300が用いられる。本実施形態において、実験動物とはブタである。なお、実験動物としては、ウシ、ウマ、ヒツジ、イヌ、ネコ、ウサギ、マウス、ニワトリなど、種々の動物種を用いることができる。
【0009】
図2は、管理システム100の概略構成を示すブロック図である。管理システム100は、コンピューターによって構成されており、CPU10とメモリ20と記憶装置30と通信インタフェース40とを備える。これらは所定のバス50によって相互に通信可能に接続されている。通信インタフェース40は、各種の情報の入力を行う入力部および出力を行う出力部として機能する。
【0010】
CPU10は、記憶装置30に記憶された所定のコンピュータプログラムをメモリ20にロードして実行することで、情報特定部12、ストレス値算出部14、回復時間推定部16、輸送時期決定部18として機能する。なお、これらの機能部は、回路によって構成されてもよい。
【0011】
情報特定部12は、客先端末200から送信される実験計画情報に基づいて、実験場所まで輸送される実験動物に関する実験情報を特定する。ストレス値算出部14は、実験情報に基づき、実験動物が輸送中に受けるストレスを表すストレス値を算出する。回復時間推定部16は、ストレス値と実験内容とに基づいて、実験動物が輸送によるストレスから回復する回復時間を推定する。輸送時期決定部18は、実験開始日と回復時間と輸送時間とに基づいて、実験動物の輸送開始時期を決定する。以下、フローチャートに基づき、これらの各部によって実現される処理内容を説明する。
【0012】
図3は、管理システム100において実行される輸送管理処理のフローチャートである。この処理は、管理システム100が、通信回線NTを介して客先端末200から、実験動物の輸送要求を受信した場合に開始される。
【0013】
輸送管理処理の実行が開始されると、管理システム100の情報特定部12は、ステップS10において、客先端末200から実験計画情報を取得する。本実施形態において、実験計画情報には、例えば、以下の情報が含まれる。
(i) 輸送先の位置を表す情報。
(ii) 同時に輸送される実験動物の数。
(iii) 輸送される実験動物の年齢(月齢、週齢を含む)。
(iv) 輸送される実験動物の体格(全長、体重、胴回り等)。
(v) 輸送前に実験動物に施す予備処置に関する情報。
(vi) 実験動物に対する実験内容を表す情報。
(vii) 実験開始日。
(viii)輸送する動物の種類。
(ix) 同時輸送する設備や装置。
【0014】
「輸送先の位置」とは、例えば、動物実験が行われる客先施設250の所在地であり、住所や、経緯度によって表される。「同時に輸送される実験動物の数」とは、同じ車両300によって同時に輸送される実験動物の匹数である。輸送される実験動物の「年齢」には、「月齢」や「週齢」も含まれる。「実験動物の体格」は、例えば、全長、体重、胴回りの少なくともいずれか一つによって表される。「予備処置に関する情報」には、例えば、ゲノム編集の有無や、事前に投薬された薬品名、脳波測定器が埋め込まれているか否か等といった情報が含まれる。「輸送する動物の種類」は、管理システム100で取り扱う実験動物の種が限定されている場合には省略してもよい。上記のとおり、本実施形態の管理システム100ではブタを対象としている。「同時輸送する設備や装置」は、車両300によって実験動物と同時に運搬する設備や装置である。
【0015】
CPU10は、ステップS20において、ステップS10で取得した実験計画情報のうちの輸送先の位置を表す情報と、実験動物の輸送元の所在地とから、実験動物の輸送経路を特定し、その輸送経路に応じて、輸送距離と輸送時間とを決定する。輸送経路や、輸送距離、輸送時間は、地図データを用いた公知の経路探索アルゴリズムを用いて決定することができる。CPU10は、輸送経路の特定や、輸送距離および輸送時間の決定を、外部のサーバに行わせてもよい。
【0016】
情報特定部12は、ステップS30において、実験動物に関する実験情報を特定する。本実施形態において、情報特定部12は、実験情報として、ステップS10で取得した実験計画情報に含まれる情報と、ステップS20で決定された輸送距離および輸送時間とを特定する。
【0017】
ストレス値算出部14は、ステップS40において、ステップS30で特定された実験情報に基づき、実験動物が輸送中に受けるストレスを表すストレス値を算出する。本実施形態において、ストレス値算出部14は、以下に示す式(1)に基づいて、ストレス値Siを算出する。ストレス値Siは、値が大きいほどストレスが大きいことを示す。
【0018】
Si=kc×kn×(Pd+Pt+Pg+Pm+Po+Ps+Pr+Py)・・・(1)
ただし、
kcは、任意に定められる補正係数であり、通常は、「1.0」である。
knは、同時に輸送される実験動物の数に応じて定まる係数である。
Pdは、輸送距離に応じて定まる値である。
Ptは、輸送時間に応じて定まる値である。
Pgは、ゲノム編集の有無に応じて定まる値である。
Pmは、事前に投薬された薬品の種類に応じて定まる値である。
Poは、脳波測定器の埋込の有無に応じて定まる値である。
Psは、車両300の防音設備の有無に応じて定まる値である。
Prは、輸送中に実験動物に音楽を聴かせるか否かに応じて定まる値である。
Pyは、実験動物と同時に各種設備の運搬を行うか否かに応じて定まる値である。
【0019】
図4は、係数knを求めるためのテーブルを示す図である。ストレス値算出部14は、記憶装置30に記憶された
図4に示すテーブルを参照して、同時に輸送される実験動物の数に応じて、係数knを決定する。
図4に示すように、係数knは、同時に輸送される数が多いほど大きな値となる。
【0020】
図5は、値Pdを求めるためのグラフを示す図である。値Pdは、実験動物の輸送距離と、実験動物の年齢とに応じて決定される。値Pdは、輸送距離が長くなるほど大きくなり、年齢が低くなるほど大きくなる。
図5に表された輸送距離と年齢と値Pdとの関係は、記憶装置30に関数またはマップとして記憶されている。ストレス値算出部14は、記憶装置30に記憶された関数またはマップを参照することで、実験動物の輸送距離および年齢から値Pdを求める。
【0021】
図6は、値Ptを求めるためのグラフを示す図である。値Ptは、実験動物の輸送時間と、実験動物の年齢とに応じて決定される。値Ptは、輸送時間が長くなるほど大きくなり、年齢が低くなるほど大きくなる。
図6に表された輸送時間と年齢と値Ptとの関係は、記憶装置30に関数またはマップとして記憶されている。ストレス値算出部14は、記憶装置30に記憶された関数またはマップを参照することで、実験動物の輸送時間および年齢から値Ptを求める。
【0022】
図7は、値Pg,Pm,Poを求めるためのテーブルを示す図である。ストレス値算出部14は、記憶装置30に記憶された
図7に示すテーブルを参照して、値Pg,Pm,Poを決定する。例えば、実験動物に対して、輸送前の予備処理としてゲノム編集が施されていれば、値Pgが所定の値(
図7では「5」)に決定される。予備処理として投薬が行われていれば、値Pmが、投薬された薬品の種類に応じて決定される(
図7では、2、3または5)。予備処理として、脳波測定器が埋め込まれていれば、値Poが所定の値に決定される(
図7では、「10」)。値Pg,Pm,Poは、実験動物の負担になる予備処理ほど、値が大きくなるように、それぞれ設定されている。
【0023】
図8は、値Ps,Pr,Pyを求めるためのテーブルを示す図である。ストレス値算出部14は、記憶装置30に記憶された
図8に示すテーブルを参照して、値Ps,Pr,Pyを決定する。例えば、輸送用の車両300に防音設備が備えられていれば、値Psが所定の値(
図8では「-5」)に決定される。輸送中に実験動物に音楽を聴かせる場合には、値Prが所定の値に設定される(
図8では「-4」)。輸送中に実験動物と同時に各種の設備や装置の運搬を行う場合には、値Pyが所定の値に設定される(
図8では「+10」)。値P
s,P
r,P
yは、それぞれ、輸送時における快適性に関する値であり、輸送が不快な環境になるほど、値が大きくなり、快適な環境になるほど、値が小さくなるように設定されている。なお、値Prは、実験動物に聞かせる音楽に応じて異なる値となってもよい。また、値Pyは、設備が前もって車両300に搭載されている場合と、実験動物の積載後に設備を搭載する場合とで、異なる値となってもよい。例えば、設備が前もって車両300に搭載されているよりも、実験動物の積載後に設備を搭載する方が、値Pyは大きな値となってもよい。
【0024】
図3のステップS40においてストレス値算出部14がストレス値Siを算出した後、回復時間推定部16は、ステップS50において、実験動物がストレスから回復するまでの時間である回復時間の推定を行う。
【0025】
図9は、回復時間推定部16における回復時間の推定方法を示す説明図である。記憶装置30には、ストレス値と経過時間の対応関係を表す減衰関数が記憶されている。この減衰関数は、時間が経過するほど、ストレス値が小さくなる関数である。減衰関数は、実験動物の体格(全長、体重、胴回り)と年齢の少なくとも一方に応じて定められている。回復時間推定部16は、まず、記憶装置30に記憶された減衰関数を参照して、ステップS40で算出したストレス値Siに対応する時間t0を求める。次に、回復時間推定部16は、実験動物に対して行われる実験内容に対応する実験可能ストレス値を特定する。実験内容毎の実験可能ストレス値は、記憶装置30に記憶されている。
図9には、実験A、実験B、実験Cに対応する実験可能ストレス値を、それぞれ、値Sa、値Sb、値Scとして示している。例えば、実験動物に対して実験Cが行われる場合、実験可能ストレス値は、値Scとなる。そこで、回復時間推定部16は、この値Scに対応する時間t1を、減衰関数を参照して求める。すると、ストレス値が値Siから値Scに減少するまでの回復時間taが、時間t1と時間t0の差から算出される。実験動物は、この回復時間taが経過すれば、対応する実験を行うことが可能なストレス状態となる。
【0026】
図3のステップS50において回復時間推定部16が回復時間taを推定した後、輸送時期決定部18は、ステップS60において、実験動物の輸送を開始する輸送開始時期を決定する。
【0027】
図10は、輸送時期決定部18における輸送開始時期の決定方法を示す説明図である。輸送時期決定部18は、
図10に示すように、ステップS30において特定された実験情報中の実験開始日から、ステップS50において推定された回復時間と、ステップS30において決定された実験情報中の輸送時間と、を遡った日を輸送開始時期として決定する。
【0028】
以上で説明した一連の処理によって実験動物の輸送開始時期が決定すると、管理システム100は、その時期を客先端末200に通信回線NTを介して通知するとともに、実験動物を輸送する輸送機関に対して輸送開始時期を通知し、実験動物の配送を手配する。なお、
図3のステップS40で算出されるストレス値や、ステップS50で推定される回復時間も、通信回線NTを介して客先端末200に通知してもよい。
【0029】
以上で説明した第1実施形態の管理システム100では、客先端末200から受信した実験計画情報から実験情報を決定し、その実験情報に基づいて、実験動物が輸送中に受けるストレスを予測する。実験情報には、実験動物が輸送される輸送距離や、実験動物が輸送される輸送時間、同時に輸送される実験動物の数、実験動物の年齢、輸送前に実験動物に施された予備処置に関する情報等、が含まれるので、これらの情報に基づき、実験動物が輸送中に受けるストレスを精度良く予測することができる。
【0030】
また、本実施形態では、予測されたストレスと、実験内容とに基づいて、実験動物がストレスから回復する回復時間を推定できるので、実験を開始できる日程を容易に特定できる。この結果、ストレスを受けた状態で実験動物に対して施術や投薬などが行われることを抑制できるので、実験結果の信憑性を向上させることができる。また、実験動物の臓器を再生医療に用いる場合には、ダメージの少ない状態で臓器を摘出できる。
【0031】
また、本実施形態では、算出されたストレス値が、実験内容に応じて定められた実験可能ストレス値に低下するまでの時間を、回復時間として求めるので、実験内容に応じて適切な回復時間を求めることができる。特に本実施形態では、時間の経過とストレス値の低下との関係を表す減衰関数を用いて回復時間を求めるので、回復時間を容易に求めることができる。また、本実施形態では、減衰関数は、実験動物の体格や年齢に応じて異なっているので、実験動物の体格や年齢に応じて適切な回復時間を求めることができる。
【0032】
また、本実施形態では、実験開始日と回復時間と輸送時間とに基づいて、輸送開始時期を適切に決定することができるので、実験動物を生産する機関や輸送機関の稼働率を向上させることができる。
【0033】
B.第2実施形態:
第2実施形態の管理システム100の構成は、第1実施形態の管理システム100の構成と同じである。第2実施形態では、
図2に示したストレス値算出部14が、ストレス値を補正する機能を備えている。ストレス値算出部14がストレス値を補正するために、管理システム100は、以下に説明する補正係数決定処理を実行する。
【0034】
図11は、管理システム100が実行する補正係数決定処理のフローチャートである。この処理は、
図3に示した輸送管理処理が実行されるのに先立って実行される処理である。
【0035】
ストレス値算出部14は、まず、ステップS100において、実験前の実験動物、すなわち、輸送後において実験可能なストレス状態になった実験動物のコルチゾール濃度を取得する。コルチゾールとは、副腎皮質から分泌されるホルモンの一つであり、ストレスを受けると分泌が増えるホルモンである。コルチゾール濃度は、実験動物の唾液や血液を採取することによって測定することができる。
【0036】
ステップS110において、ストレス値算出部14は、ステップS100で取得したコルチゾール濃度に対応するストレス値を求める。
【0037】
図12は、コルチゾール濃度とストレス値との対応関係を示すグラフである。この対応関係は、関数やマップとして予め記憶装置30に記憶されている。ストレス値算出部14は、記憶装置30に記憶された関数またはマップを参照することで、コルチゾール濃度に対応するストレス値S1を求める。なお、コルチゾール濃度とストレス値との対応関係は、実験動物の体格や年齢に応じて異なっていてもよい。
【0038】
図11のステップS120において、ストレス値算出部14は、ステップS110で求めたストレス値S1に基づき、第1実施形態に示した式(1)中の補正係数kcを導出する。
【0039】
図13は、補正係数kcの導出方法の説明図である。例えば、実験Cを開始できるほどストレスが低下した実験動物のストレス値は、実験開始前には値Scになることが想定されている。従って、ステップS110において求めたストレス値S1は、実験Cの実施前には、ストレス値Scに一致するはずである。これに対して、ステップS110において求めたストレス値S1が、
図13に示すように、ストレス値Scではない場合、ストレス値算出部14は、ストレス値Scとストレス値S1とを比較し、ストレス値S1がストレス値Scよりも小さければ、補正係数kcを小さくする。逆に、ストレス値S1がストレス値Scよりも大きければ、補正係数kcを大きくする。そして、次回実行する
図3に示した輸送管理処理では、その補正係数kcを用いて、ステップS40におけるストレス値の算出や、ステップS50における回復時間の推定を行う。
【0040】
図14は、補正係数kcの変更による効果を示す説明図である。
図13に示したように、ストレス値Scとストレス値S1とを比較し、ストレス値S1がストレス値Scよりも小さい場合、ストレス値算出部14は、補正係数kcを小さくする。そうすると、上記式(1)によって算出されるストレス値Siは、それまでの補正係数kc(例えば、1.0)よりも小さな補正係数kc(例えば、0.9)が乗算されることによって、本来のストレス値Siよりも小さなストレス値Si’として算出される。そうすると、
図14に示すとおり、回復期間の算出に用いられる時間t0が遅くなり、ストレス値が値Scに低下するまでの回復期間ta’が短くなる。
【0041】
以上で説明した第2実施形態によれば、実験動物の実際のコルチゾール濃度を測定することによって、ストレス値を精度良く補正することが可能になる。この結果、回復期間を正確に求めることができるので、輸送開始時期も正確に求めることも可能になり、実験動物の生産機関や輸送機関の稼働率を向上させることができる。
【0042】
C.他の実施形態:
(C-1)上記実施形態において、実験情報には、実験動物が輸送される輸送距離、実験動物が輸送される輸送時間、同時に輸送される実験動物の数、実験動物の年齢、輸送前に実験動物に施された予備処置に関する情報、が含まれるが、これらは、すべて含まれていなくてもよく、これらのうちの一部が含まれていてもよい。
【0043】
(C-2)上記実施形態において、管理システム100は、回復時間推定部16と輸送時期決定部18とを備えているが、輸送時期決定部18を備えていなくてもよい。この場合、管理システム100は、回復時間を推定し、推定した回復時間を通信インタフェース40によって客先端末200に通知するシステムや、回復時間を表示装置に表示するシステムとして運用されてもよい。また、管理システム100は、輸送時期決定部18および回復時間推定部16を備えていなくてもよい。この場合、管理システム100は、ストレス値を算出することによって、輸送中に実験動物が受けるストレスを予測し、予測したストレスを通信インタフェース40によって客先端末200に通知するシステムや、予測したストレスを表示装置に表示するシステムとして運用されてもよい。
【0044】
(C-3)上記実施形態では、
図9に示した減衰関数は実験動物の体格や年齢に応じて異なるものとしたが、減衰関数は、体格や年齢にかかわらず、一つの関数が定められていてもよい。また、減衰関数は、体格や年齢だけではなく、動物種に応じて異なる関数が定められていてもよい。
【0045】
(C-4)上記実施形態においてストレス値Siを算出する式(1)は適宜変更可能である。例えば、値knは、係数ではなく、項であってもよい。また、値Pd、Pt、Pg、Pm、Po、Ps、Pr、Pyのうちの少なくとも何れか一つは、項ではなく係数であってもよい。また、上記式(1)の各係数および各項は必須ではなく、一部の係数または項を適宜省略しても構わない。
【0046】
本開示は、上述の実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【符号の説明】
【0047】
10…CPU、12…情報特定部、14…ストレス値算出部、16…回復時間推定部、18…輸送時期決定部、20…メモリ、30…記憶装置、40…通信インタフェース、50…バス、100…管理システム、200…客先端末、250…客先施設、300…車両