(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-31
(45)【発行日】2025-02-10
(54)【発明の名称】MEW組織足場
(51)【国際特許分類】
A61L 27/18 20060101AFI20250203BHJP
A61F 2/24 20060101ALN20250203BHJP
【FI】
A61L27/18
A61F2/24
(21)【出願番号】P 2021561916
(86)(22)【出願日】2020-04-17
(86)【国際出願番号】 AU2020050383
(87)【国際公開番号】W WO2020210877
(87)【国際公開日】2020-10-22
【審査請求日】2023-04-05
(32)【優先日】2019-04-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(73)【特許権者】
【識別番号】504206827
【氏名又は名称】ザ ユニバーシティ オブ ウェスタン オーストラリア
(74)【代理人】
【識別番号】110003041
【氏名又は名称】安田岡本弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ハットマッハー ディートマー
(72)【発明者】
【氏名】フアン パルド マリア エレナ
(72)【発明者】
【氏名】バス オヌール
(72)【発明者】
【氏名】トゥーシサイディ ナビッド
(72)【発明者】
【氏名】メラ ペトラ
【審査官】高橋 樹理
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/042961(WO,A1)
【文献】ACS Applied Materials & Interfaces,2017年,Vol.9,p.29430-29437
【文献】Nature Communications,2015年,Vol.6:6933,p.1-10
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 27/00-27/60
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の繊維セットおよび第2の繊維セットを含む第1の領域を有する本体を含んでなり、
前記第1の領域は異方性であり、
前記第1の繊維セットは、互いにほぼ平行に配列され、
該第1の繊維セットの各繊維は、ピークとトラフとが形成された曲がりくねった構造を有し、
該第1の繊維セットは第1のヤング率を有し、
前記第2の繊維セットは、互いにほぼ平行に配列され、
該第2の繊維セットは、前記第1の繊維セットに対して横切る方向に配列され、
該第2の繊維セットの各繊維は、ピークとトラフとが形成された曲がりくねった構造を有し、
該第2の繊維セットは第2のヤング率を有し、
前記第1の領域において、前記第2の繊維セットの1つまたは複数の繊維が、前記第1の繊維セットの隣接する繊維を接続し、
前記第1のヤング率は前記第2のヤング率と等しくない
ことを特徴とする、心血管組織のためのメルトエレクトロライティングされた軟組織足場。
【請求項2】
前記第2のヤング率が、前記第1の繊維セットのヤング率の少なくとも2倍である、
請求項1に記載の足場。
【請求項3】
予め規定された距離にわたる前記第1の繊維セットの繊維の経路長が、該予め規定された距離にわたる前記第2の繊維セットの繊維の経路長に等しくない、
請求項1または2に記載の足場。
【請求項4】
前記第2の繊維セットの繊維の経路長に対して前記第1の繊維セットの繊維の経路長を増加させると、該第1の繊維セットと該第2の繊維セットとの異方性比が大きくなる、
請求項3に記載の足場。
【請求項5】
前記第1の繊維セットの各繊維が第1の距離だけ離れており、
前記第2の繊維セットの各繊維が第2の距離だけ離れている、
請求項1~4のいずれか一項に記載の足場。
【請求項6】
前記第1の距離が約0.1mm~約2.5mmの範囲である、
請求項5に記載の足場。
【請求項7】
前記第2の距離が前記第1の距離と等しくない、
請求項5または6に記載の足場。
【請求項8】
前記第1の距離が前記第2の距離の約1~10倍である、
請求項5~7のいずれか一項に記載の足場。
【請求項9】
前記第1の繊維セットが、約1kPa~約10MPaの範囲、例えば1MPaのヤング率を有する、
請求項1~8のいずれか一項に記載の足場。
【請求項10】
前記第2の繊維セットが、約1kPa~約10MPaの範囲、例えば5MPaのヤング率を有する、
請求項1~9のいずれか一の項に記載の足場。
【請求項11】
前記第2の繊維セットが、前記第1の繊維セットよりも約5~10倍硬い、
請求項1~10のいずれか一項に記載の足場。
【請求項12】
前記第1の繊維セットと前記第2の繊維セットとが第1の層状構造を形成している、
請求項1~11のいずれか一項に記載の足場。
【請求項13】
複数の層状構造を含む、
請求項12に記載の足場。
【請求項14】
前記第1の繊維セットの繊維が、前記第2の繊維セットの繊維と織り合わされている、
請求項1~13のいずれか一項に記載の足場。
【請求項15】
前記本体が、前記第1の領域から延びる第2の領域を含んでおり、
該第2の領域が該第1の領域を支えている、
請求項1~14のいずれか一項に記載の足場。
【請求項16】
前記第2の領域が、第1の方向および第2の方向に配列された繊維を有するメッシュであり、
該第1および第2の方向は互いに横切る方向である、
請求項15に記載の足場。
【請求項17】
前記第1の領域と前記第2の領域との境界部に位置する中間領域をさらに含んでおり、
該中間領域が複数の繊維を含んでいる、
請求項15または16に記載の足場。
【請求項18】
前記第1の領域が半円形であり、
前記第2の領域が、該第1の領域の湾曲側から延び、該第1の領域の直線側が足場の縁部を形成している、
請求項15~17のいずれか一項に記載の足場。
【請求項19】
前記第1の領域が複数の半円形領域を含み、
隣接する半円の頂点が互いに近接して配置されている、
請求項18に記載の足場。
【請求項20】
前記中間領域が湾曲側に沿って配置されている、
請求項17による場合の請求項18または19に記載の足場。
【請求項21】
前記中間領域が、互いに平行に配置された第1の同心半円繊維セットおよび隣接する同心半円繊維を接続している前記第2の繊維セットを含んでいる、
請求項20に記載の足場。
【請求項22】
前記第1の領域と前記第2の領域とが一体になっている、
請求項15~21のいずれか一項に記載の足場。
【請求項23】
前記第1の領域からの前記第1および前記第2の繊維セットが、ポリカプロラクトンから形成されている、
請求項1~22のいずれか一項に記載の足場。
【請求項24】
前記第1の領域の前記第1および/または前記第2の繊維セットの繊維が、約100nm~約100μmの範囲の直径を有する、
請求項1~23のいずれか一項に記載の足場。
【請求項25】
前記第1の領域が心臓弁弁尖足場の一部を形成し、
前記第1の繊維セットが、概して、該心臓弁弁尖の半径方向に配向されており、
前記第2の繊維セットが、概して、該心臓弁弁尖の円周方向に配向されている、
請求項1~24のいずれか一項に記載の足場。
【請求項26】
さらに、ヒドロゲルを含んでおり、
前記第1の領域の少なくとも一部が該ヒドロゲル中に埋め込まれている、
請求項1~
25のいずれか一項に記載の足場。
【請求項27】
平面領域および/または管状領域を含んでいる、
請求項1~
26のいずれか一の項に記載の足場。
【請求項28】
前記心血管組織は、心臓弁である、
請求項1~
27のいずれか一項に記載の足場。
【請求項29】
ノズルを通してポリマー溶融物を押し出して繊維を形成することを含み、
該繊維を堆積させて、異方性である第1の領域を有する本体を形成することを含み、
該第1の領域は互いにほぼ平行に配列された第1の繊維セットを含み、
該第1の繊維セットの各繊維は、ピークとトラフが形成された曲がりくねった構造を有しており、
互いにほぼ平行に配列された第2の繊維セットを含み、
該第2の繊維セットは、前記第1の繊維セットに対して横切る方向に配列され、
該第2の繊維セットの各繊維は、ピークとトラフが形成された曲がりくねった構造を有しており、
前記第1の領域において、前記第2の繊維セットの1つまたは複数の繊維が、前記第1の繊維セットの隣接する繊維を接続し、
前記第1の繊維セットは、該第1の繊維セットが第1のヤング率を有するように堆積され、
前記第2の繊維セットは、該第2の繊維セットが第2のヤング率を有するように堆積される
メルトエレクトロライティングを用いて心血管組織のための異方性軟組織足場を製造する方法。
【請求項30】
前記第1の領域が、予め規定された距離にわたる前記第1の繊維セットの繊維の経路長が、該予め規定された距離にわたる前記第2の繊維セットの繊維の経路長と等しくないように形成される、
請求項
29に記載の方法。
【請求項31】
前記第1の領域が、前記第1の繊維セットの各繊維が第1の距離だけ離れていて、
前記第2の繊維セットの各繊維が第2の距離だけ離れているように形成される、
請求項
29または
30に記載の方法。
【請求項32】
前記第1の距離が約0.1mm~約2.5mmの範囲である、
請求項
31に記載の方法。
【請求項33】
前記第2の距離が前記第1の距離と等しくない、
請求項
31または
32に記載の方法。
【請求項34】
前記第1の距離が前記第2の距離よりも約1~10倍大きい、
請求
31~
33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
前記第1の繊維セットの繊維が前記第2の繊維セットの繊維と織り合わされるように、該第1および第2の繊維セットが堆積される、
請求項
29~
34のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
前記第1および第2の繊維セットが、それらが層状構造を形成するように堆積される、
請求項
29~
35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
前記第1の領域から延びる第2の領域を形成するように繊維を堆積することをさらに含み、
該第2の領域は、第1の方向および第2の方向に配列された繊維を有するメッシュを含んでおり、
該第1および第2の方向は互いに横切る方向である、
請求項
29~
36のいずれか一項に記載の方法。
【請求項38】
前記第1の領域と第2の領域との境界部に配置された中間領域を形成するように繊維を堆積することをさらに含み、
該中間領域が複数の繊維を含む、
請求項
37に記載の方法。
【請求項39】
前記第1の領域の前記第1および第2の繊維セットがステージの上に堆積され、
該ステージは、平面状、管状および/または3次元特徴を有する型である、
請求項
29~
38のいずれか一項に記載の方法。
【請求項40】
前記第1の領域が心臓弁弁尖足場であり、
前記第1の繊維セットが、概して、該心臓弁弁尖の半径方向に配向され、
前記第2の繊維セットが、概して、該心臓弁弁尖の円周方向に配向される、
請求項
29~
39のいずれか一項に記載の方法。
【請求項41】
前記ポリマー溶融物がポリカプロラクトンを含む、
請求項
29~
40のいずれか一項に記載の方法。
【請求項42】
前記第1の領域を少なくとも部分的に埋め込むヒドロゲルを形成することをさらに含む、
請求項
29~
41のいずれか一項に記載の方法。
【請求項43】
前記心血管組織は、心臓弁である、
請求項
29~
42のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、概して、心臓弁再生のために用いる足場のように組織工学で使用される軟組織足場に関する。
【背景技術】
【0002】
心臓弁膜症(VHD)は、心臓血管疾患の3分の1の原因となる著しい健康負荷であり、それにより毎年世界中で580万人を超える人が死亡している。先進国では、高齢化が進んでいるため、VHDの有病率が上昇すると予想されている。たとえば、2020年までに、欧州連合の人口の約20%が65歳以上になるだろう。さらに、心臓弁膜症は子供と若年成人に大きな影響を及ぼし、統計的に1000人中8人の出生が先天性弁膜症の影響を受け、これは発展途上国では2050年までに3倍になると予想されている。疾患のある心臓弁の主な治療法として、機械または生体人工置換弁の外科的移植がある。置換弁の採用は、高齢患者の生活の質を高めるのに適切な役割を果たすが、それらの適用は複数の制限を伴うことが多く、長期生存率は概して60~70%の程度である。
【0003】
機械弁は、生まれながらの血行動態環境内で充分な耐久性を提供するが、その設計は本来の弁の形状に似ていないため、血栓塞栓症を起こしうる危険性を軽減するために抗凝固療法が必要である。一方、生体人工置換弁は、ブタまたはヒツジを供給源とする脱細胞化弁であり、人間の心臓弁の生理機能をある程度再現している。生体弁は、血栓形成性はかなり低いが、高血圧で血圧が変化している下ではうまく機能しない。また、生体弁は、劣化しやすくて寿命が短く、平均余命がわずか10~15年になってしまう。2つの異なる置換弁のいずれを選択するかは患者の病状と年齢層に依存し、特定の群の患者にはこれらの選択肢からより適したいずれかが選ばれる。先天性心臓弁欠陥に苦しむ患者の場合、解剖学的な寸法の小ささおよび急激な生物学的な成長が技術的に加わって、利用可能な置換弁の範囲がさらに制限される。具体的には、生体および機械弁の性能は、非常に小さな寸法では低下する。さらに、子供の体の成長に伴って拡大および改造することができないため、患者が年を重ねるに伴って複数の手術が必要になる。したがって、過去20年間で、先天性弁膜症のための心臓弁組織工学(HVTE)に対する注目が高まっている。HVTEは、生分解性でありながら機械的に安定した3次元(3D)構築物(足場)を提供することにより、現在の治療法の欠点を克服することを目的としている。HVTEは、生体が再吸収する前に組織を成長、リモデリング、および修復させることができ、その後に機能的に完全に再生された心臓弁を内在した状態で与えることができる。HVTEの進歩にもかかわらず、現在の構築物では依然として再生された心臓弁を内在した状態で得ることができない。
【0004】
本明細書で先行技術の刊行物が参照されていたとしても、そのような参照はその刊行物がオーストラリアまたは他の国における当技術分野の一般的な知識の一部を形成しているということを認めるものではないことを理解されたい。
【発明の概要】
【0005】
一態様において、本発明が提供するメルトエレクトロライティングされた異方性軟組織足場は、互いにほぼ平行に配列された第1の繊維セットを含み、第1の繊維セットの各繊維は、ピークとトラフとが形成されている曲がりくねった構造を有し、第1の繊維セットの各繊維についての隣接するピークは、第1の距離だけ離れており、かつ、互いにほぼ平行に配列された第2の繊維セットを含み、第2の繊維セットは、第1の繊維セットに対して横切る方向に配列され、第2の繊維セットの1つまたは複数の繊維は、第1の繊維セットにおいて隣接し合う繊維を接続し、第2の繊維セットの各繊維は、ピークとトラフとが形成されている曲がりくねった構造を有しており、第1の距離にわたる第1の繊維セットの繊維の経路長は、第1の距離と同じ距離にわたる第2の繊維セットの繊維の経路長と等しくない。
【0006】
第1の繊維セットおよび第2の繊維セットは、足場の第1の領域に提供することができる。
一態様において、本発明が提供するメルトエレクトロライティングされた軟組織足場は、第1の繊維セットおよび第2の繊維セットを含む第1の領域を有する本体を含んでなり、第1の領域は異方性であり、第1の繊維セットは互いにほぼ平行に配列され、第1の繊維セットの各繊維は、ピークとトラフとを形成している曲がりくねった配列を有し、第1の繊維セットは第1のヤング率を有しており、第2の繊維セットは互いにほぼ平行に配列され、第2の繊維セットは、第1の繊維セットに対して横切る方向に配列され、第2の繊維セットの各繊維は、ピークとトラフとが形成されている曲がりくねった構造を有しており、第2の繊維のセットは第2のヤング率を有しており、および、第1のヤング率は第2のヤング率と等しくない。
【0007】
第2のヤング率は、第1の繊維セットのヤング率の少なくとも2倍とすることもできる。
予め規定された距離を横切る第1の繊維セットの繊維の経路長は、予め規定された距離を横切る第2の繊維セットの繊維の経路長と等しくなくてもよい。
異なる経路長を持つ2つの繊維セットを提供することにより、生来の組織の機械的特性を模倣できる異方性足場を作成できる。例えば、足場は、コラーゲン構造への構造類似体を提供することができる。このような類似体は、心臓弁組織などの組織を再生する能力を改善するのに役立つ可能性がある。
【0008】
第1の距離を横切る第1の繊維セットの繊維の経路長は、第1の距離と同じ直線距離を横切る第2の繊維セットの繊維の経路長よりも長くてもよい。いくつかの実施形態において、第2の繊維セットの繊維の経路長に対して第1の繊維セットの繊維の経路長を増加させると、第1の繊維セットと第2の繊維セットとの異方性比を大きくすることができる。これは、第1および第2の繊維セットが引き伸ばされて長くなるとき、第1の繊維セットが第2の繊維セットよりも引き伸ばすことができることを意味している。これは、個別に特性を有する第1および第2の繊維セットを、互いに接続された状態で有する足場を提供するのに役立つ可能性がある。
【0009】
第1の繊維セットの中で隣接し合う繊維は、第2の距離だけ離れていてよい。
第2の距離は第1の距離と等しくなくてもよい。
第1の繊維セットの中で隣接し合う繊維において、それぞれのピークに近い領域には、第2の繊維セットの1つまたは複数の繊維が接続されていてもよい。
一態様において、本発明が提供するメルトエレクトロライティングされた軟組織足場は、互いにほぼ平行に配列された第1の繊維セットを含み、第1の繊維セットの各繊維は、ピークとトラフとが形成されている曲がりくねった構造を有し、第1の繊維セットの各繊維についての隣接するピークは第1の距離だけ離れており、かつ、互いにほぼ平行に配列された第2の繊維セットを含み、第2の繊維セットは、第1の繊維セットに対して横切る方向に配列され、第2の繊維セットの1つまたは複数の繊維は、第1の繊維セットにおいて隣接し合う繊維を接続しており、第2の繊維セットの各繊維は、ピークとトラフとが形成されている曲がりくねった構造を有しており、第1の繊維セットの各繊維は、第2の距離だけ離れており、第2の距離は第1の距離と等しくない。
【0010】
第1および第2の繊維セットは、足場の第1の領域に提供することができる。
本明細書で使用される「横切る方向に」および「横切る方向」という用語は、第1の繊維セットと第2の繊維セットとの間に形成される角度が約1°から約179°の範囲であることを意味すると広く解釈されるべきである。
第1および/または第2の繊維セットは、細長い直線繊維構造を有する領域を含むことができる。また、直線繊維構造を、曲がりくねった構造に追加することができる。別の言い方をすれば、第1および/または第2の繊維セットは、1つまたは複数の繊維が曲がりくねっていない構造を含むことができる。
【0011】
第2の繊維セットは、第1の繊維セットよりも約2~10倍硬くてもよい。例えば、第2の繊維セットは、第1の繊維セットと比較して8倍硬くてもよい。第1の繊維セットと比較して第2の繊維セットの剛性を増加させることは、第1の繊維セットと比較して第2の繊維セットの繊維の経路長を短縮させることによって達成することができる。
なお、開示された足場の第1の繊維セットは、約0.1Mpa~10MPaのヤング率を有することができる。一態様において、第1の繊維セットは、約1Mpaのヤング率を有することができる。
【0012】
第2の繊維セットは、約0.1MPa~10MPaのヤング率を持つことができる。一態様において、第2の繊維セットは、約5Mpaのヤング率を有することができる。第2の距離に対して第1の距離を増加させると、第1の繊維セットと第2の繊維セットとの異方性比が大きくできる。異方性比は、第1の繊維セットと第2の繊維セットの機械的特性の違いを比率にしたものである。異方性の程度は、繊維の設計を調整することによって変更でき、結果として得られる構築物は、各荷重方向で0.1MPa~10MPaのヤング率を有することができる。第1の距離は、第2の距離よりも約1~10倍大きく、例えば、2~4倍大きくてもよい。第1の距離は、約0.5mm~約2.5mm、例えば、約1.0mm~約2.0mmの範囲であってもよい。第2の距離は、約0.1mm~約2.0mm、例えば、約0.25mm~約0.50mmの範囲であってもよい。この間隔は、第1の繊維セットの中で隣接し合う繊維の間の間隔が、約0.1mm~約2.0mm、例えば、約0.1mm~約0.5mmであることを意味する。局所的な変動により、この間隔は約0.1mm~約2.0mm程度大小する可能性があることを理解されたい。このことは、足場に細胞が播種された後、および/またはその場でさらに移植された後に、特に当てはまる可能性がある。第1の繊維のセットおよび/または第2の繊維のセットにおいて隣接し合う繊維の間隔、つまり細孔寸法が細胞増殖を可能とするように、第1および第2の距離は選択してもよい。すなわち、2.0mmを超える細孔は足場を介した細胞の増殖を妨げ、3次元組織の成長よりも薄層状の成長を促進してしまう傾向があるため、約2.0mmの細孔寸法が細孔寸法の上限になる場合が多い。細孔寸法の増加は約2.0mmまでであるので、時間が経てば細胞が全ての細孔空間に融合し、細胞と細胞外マトリックスの両方で埋められるようになる。しかしながら、用途によっては、2.0mmより大きい細孔寸法を必要とすることがある。そして、上述した開示は、2.0mmの最大細孔寸法に限定するものでないことを理解されたい。
【0013】
第1および第2の繊維セットは、配設されて層状構造の1層目を形成することができる。いくつかの態様において、足場は複数の層を含む。繊維の配置や設計は各層で異なっていてもよい。第1および第2の距離は各層で異なっていてもよい。
開示された足場のいくつかの態様において、第1の繊維セットの繊維は、第2の繊維セットの繊維と織り合わせることができる。また、織り合わせに代えて、あるいは、織り合わせに加えて、第1および/または第2の繊維セットの繊維を、互いに積層することができる。織り合わされた繊維は、第1の繊維セットと第2の繊維セットとの間をより良好に接続するのに役立つ可能性がある。例えば、それぞれの繊維を融合することによって第1の繊維セットを第2の繊維セットへ接続することができる。いくつかの態様において、横断方向に対して勾配を有する第1の繊維セットと第2の繊維セットとの間に遷移ゾーンを設けることで、第1および第2の繊維セットの層剥離が回避される。第1および第2の繊維セットは、医療グレードの生分解性熱可塑性物質から形成することができる。第1および第2の繊維セットは、異なる熱可塑性物質から形成することができる。熱可塑性物質は、ホモポリマーまたはコポリマーであってもよい。一態様において、熱可塑性物質として、ポリ-e-カプロラクトン(PCL)、ポリ(グリコリド-co-トリメチレンカーボネート-co-カプロラクトン)サーモポリマー、例えば、Poly-Med Inc.製のStrataprene(登録商標)、(ポリカーボネート)尿素、ポリウレタンおよび/またはポリ(エステルウレタン)尿素が挙げられる。熱可塑性物質は、生分解性であってもよい。熱可塑性物質は、非生分解性であってもよい。メルトエレクトロライティングの条件(温度、圧力など)は、一般に、足場を形成するために使用される熱可塑性物質の種類に依存する。第1および第2の繊維セットの繊維は、約100nm~約100μmの範囲の直径を有することができる。いくつかの実施形態において、直径は約20μmである。足場は、ヒドロゲルをさらに含むことができる。第1の領域の少なくとも一部を、ヒドロゲルに埋め込むことができる。
【0014】
足場は、布などのシートのように平面領域を含むことができる。足場は、管状領域を含むことができる。管状領域の直径は、0.5~50mmの範囲であってよい。管状領域は、血管の再生のための足場、および/またはロボット装置における軟組織として代表的な軟マイクロアクチュエータの構築に用いられる。足場はアクチュエータの一部を形成することができる。例えば、アクチュエータコンポーネント用のメルトエレクトロライティングされた足場を例に挙げることができる。平面領域と管状領域の組み合わせを使用することができる。足場は、3次元的な特徴、例えば、シートの平面から上に延びる、あるいは半径方向に非対称な部分に形成された突起を有することができる。いくつかの態様において、足場は心臓弁弁尖足場である。これらの態様において、第1の繊維セットは、概して心臓弁弁尖の半径方向に配向することができ、第2の繊維セットは、概して心臓弁弁尖の円周方向に配向することができる。
【0015】
もう一態様において、本発明が提供するメルトエレクトロライティングされた異方性軟組織足場は、第1のヤング率を有する第1の繊維セットおよび第2のヤング率を有する第2の繊維セットを含んでおり、第1のヤング率は第2のヤング率と等しくなく、第1の繊維セットは、第2の繊維セットに対して横切る方向に配列されている。第1および第2の繊維セットは、足場の第1の領域に配設されている。
【0016】
第1のヤング率は第1の曲率を有する第1の繊維セットによって規定され、第2のヤング率は、第2の曲率を有する第2の繊維セットによって規定される。いくつかの実施形態において、直線繊維は、特定の機械的特性と、結果として第1および/または第2の繊維セットにヤング率を付与することができる。繊維の直径、細孔寸法、第1および/または第2の繊維セットのパターンの配列(例えば、曲率)を異なる荷重方向に変更すると、第1および/または第2の繊維セットのヤング率が変化する可能性があり、これは、次に、軟組織足場の異方性特性を変える可能性がある。
【0017】
開示された足場の一つの態様は、第1の領域から延びる第2の領域をさらに含むことができる。第2の領域は、第1の領域を支えることができ、例えば、第2の領域は、支持体として機能することができる。第2の領域は異方性または等方性であってよい。第2の領域は、軟組織の足場であってもよい。第2の領域は、第1の方向および第2の方向に配列された繊維を有するメッシュであってもよい。第1および第2の方向は、互いに横切る方向であってもよい。第1および第2の方向の両方において隣接し合う繊維の間の間隔は同じであってもよい。一つの態様は、第1の領域と第2の領域との境界部に配置された中間領域をさらに含むことができる。中間領域は、複数の繊維を含むことができる。中間領域は、組織に移植および縫合された後に、足場を補強する、例えば、足場に加えられる応力に耐えるのを助けることができる。
【0018】
第1の領域は半円形とすることができる。第2の領域は、第1の領域の湾曲側から延びることができ、第1の領域の直線側は、足場の縁部を形成する。一つの態様において、第1の領域は、隣接する半円の頂点が互いに近接して配置されている複数の半円形領域を含むことができる。中間領域は、湾曲側に沿って配置することができる。中間領域は、一つの態様において、互いに平行に配列された第1の同心半円繊維セット、および隣接する同心半円繊維を接続している第2の繊維セットを含むことができる。第1の領域と第2の領域とは一体になっていてもよい。
【0019】
もう一態様において、本発明が提供するメルトエレクトロライティングを使用して異方性軟組織足場を製造する方法は、ノズルを通してポリマー溶融物を押し出して繊維を形成することを含み、この繊維を堆積させて、互いにほぼ平行に配列された第1の繊維セットを形成することを含み、第1の繊維セットの各繊維は、ピークとトラフとが形成されている曲がりくねった構造を有しており、第1の繊維セットの各繊維における隣接し合うピークが第1の距離だけ離れており、この繊維を堆積させて、互いにほぼ平行に配列された第2の繊維セットを形成することを含み、第2の繊維セットは、第1の繊維セットに対して横切る方向に配列され、第2の繊維セットの1つまたは複数の繊維は、第1の繊維セットにおける隣接し合う繊維を接続しており、第2の繊維セットの各繊維は、ピークとトラフとが形成されている曲がりくねった構造を有している。一つの態様において、第1の繊維セットは、第1の繊維セットが第1のヤング率を有するように堆積され、第2の繊維セットは、第2の繊維セットが第2のヤング率を有するように堆積される。第1および第2の繊維セットは、足場の第1の領域を形成することができる。
【0020】
もう一つの態様において、本発明が提供するメルトエレクトロライティングを使用して異方性軟組織足場を製造する方法は、ノズルを通してポリマー溶融物を押し出して繊維を形成することを含み、この繊維を堆積させて、異方性である第1の領域を有する本体を形成することを含み、第1の領域は互いにほぼ平行に配列された第1の繊維セットを含み、第1の繊維セットの各繊維は、ピークとトラフとが形成されている曲がりくねった構造を有しており、かつ、互いにほぼ平行に配列された第2の繊維セットを含み、第2の繊維セットは、第1の繊維セットに対して横切る方向に配列され、第2の繊維セットの各繊維は、ピークとトラフとが形成されている曲がりくねった構造を有しており、第1の繊維セットは、第1の繊維セットが第1のヤング率を有するように堆積され、第2の繊維セットは、第2の繊維セットが第2のヤング率を有するように堆積される。
【0021】
第1の距離にわたる第1の繊維セットの繊維の経路長は、第1の距離と同じ距離にわたる第2の繊維セットの繊維の経路長と等しくなくてもよい。第1の繊維セットは、第1の繊維セットの各繊維の隣接するピークが第1の距離だけ離れているように堆積することができる。第1の繊維セットは、第1の繊維セットにおいて隣接し合う繊維が第2の距離だけ離れているように堆積することができる。第1および第2の繊維セットは、第1の繊維セットの繊維が第2の繊維セットの繊維と織り合わされるように堆積することができる。第1および第2の繊維セットは、第1の繊維セットの一部が第2の繊維セットの一部に融合されるように堆積することができる。それぞれの繊維の融合は、その融点を超える温度で繊維を堆積させることによって実施することができる。例えば、繊維がPCL繊維である場合、それは約70℃を超える温度で堆積することができる。この方法は、足場をアニーリングして、それぞれの繊維の融合を改善することをさらに含むことができる。
【0022】
この方法は、複数の繊維層を堆積させて層状構造を形成することを含むことができる。第1および第2の繊維セットは、それらが層状構造を形成するように堆積することができる。この方法は、第2のおよびそれ以降の層状構造を堆積することをさらに含むことができる。層状構造は、各層状構造が異なる異方性方向を有するように堆積することができる。別の言い方をすれば、各層状構造の第1の繊維セットは、互いに横切る方向になるように配列することができる。
【0023】
一つの態様は、第1の領域から延びる第2の領域を形成するように繊維を堆積させることをさらに含むことができる。第2の領域は等方性であってよい。第2の領域は、第1の方向および第2の方向に配列された繊維を有するメッシュを含むことができる。第1および第2の方向は、互いに横切る方向であってもよい。一つの態様において、第1および第2の方向は互いに垂直である。第1および第2の方向の両方において隣接し合う繊維の間の間隔は同じであってもよい。一つの実施形態は、第1の領域と第2の領域との境界部に配置された中間領域を形成するように繊維を堆積させることをさらに含むことができる。中間領域は、複数の繊維を含むことができる。一つの態様は、足場の表面を処理して足場の親水性を高めることをさらに含むことができる。この方法は、第1の領域を少なくとも部分的に埋め込むヒドロゲルを形成することをさらに含むことができる。
【0024】
第1および第2の繊維セットは、ステージ上に堆積することができる。ステージは、平面状、管状、および/または3次元特徴を有する型であってもよい。したがって、この方法を使用して、平面状、管状、および/または3次元特徴を有する足場を調製することができる。この方法は、第1の繊維セットを概して半径方向に堆積させることと、第2の繊維セットを円周方向に堆積させることをさらに含むことができる。足場は、心臓弁弁尖足場であってもよい。
【0025】
もう一つの態様は、上記の方法を使用して形成された足場を提供する。
もう一つの態様において、本発明が提供する軟組織足場を形成するためのメルトエレクトロライティングの方法は、導電性マンドレルをマンドレルの長手方向軸の回りで回転させることを含み、マンドレルは径方向に非対称な部分を有しており、ノズルを通してポリマーを押し出して繊維を形成することを含み、および、マンドレルが回転して足場を形成するときに、長手方向軸に対して所定の巻き付け角度で繊維をマンドレル上に堆積させることを含む。
【0026】
径方向に非対称であるということは、マンドレルの半径が長手方向軸に対して一定ではないことを意味し、径方向に沿った延び方が異なる部分が一つ以上あり、そして異なる半径を生じさせていることを意味する。径方向に沿った延びとは、マンドレルの中心軸から離れるように延びる、および/または中心軸に向かって延びることを意味する。このように径方向に延びるものとして、中心軸から離れるように延びる突起、および中心軸に向かってくぼんだ溝およびチャネルなどの特徴が挙げられる。チャネルは、突起によって形成することができる。
【0027】
一般的にはメルトエレクトロライティングでは平坦および/または対称構造しか形成できず、また通常は骨足場などの非軟質の組織足場しか形成できなかった。マンドレルに径方向に非対称な部分を設けることにより、バルサルバ洞などの天然組織に似た3次元特徴を有する足場を、メルトエレクトロライティングを使用して形成することが可能になった。
【0028】
医療グレードのプラスチックを使用したメルトエレクトロライティングを用いて、径方向に非対称な部分をマンドレルに設けることにより、3次元足場を形成する他の方法と比較して、患者に特有な3次元の足場構造をより簡単かつ安価に製造できる。
繊維を堆積させるステップを設けることで、足場の第1の領域を形成することができる。繊維を堆積することには、繊維をマンドレルに印刷および/または巻き付けることが含まれる。この方法は、ノズルとマンドレルを互いに対して相対移動させることをさらに含む。マンドレルは、ノズルに対して横切る方向に動かすことができる。マンドレルは、ノズルに対して長手方向に動かすことができる。ノズルは、横方向に沿ったマンドレルの移動面に対して垂直となる方向に移動することができる。さらに、いくつかの態様において、ノズルとマンドレルとは、3以上の自由度、例えば6自由度で相対移動することができる。いくつかの実施形態において、ノズルおよびマンドレルは、2自由度、3自由度、4自由度、5自由度または6自由度で相対移動することができる。この方法で使用されるステージ(例えば、マンドレル)に対するノズルの移動の自由度の数を増やすことによって、足場上に複雑な印刷パターンを形成することができる。これは、足場と印刷ヘッド(例えば、ノズル)の位置を動的に調整することで電界を安定的に維持できるため、印刷の一貫性と精度を確保するためにも重要である。
【0029】
この方法は、マンドレルとノズルが互いに対して移動する速度を調整することによって、巻き付け角度を変えることをさらに含む。また、この方法は、マンドレルの回転速度を調整することによって巻き付け角度を変化させることを含む。マンドレルは、マンドレルの外面の並進速度で約10mm/分~約2000mm/分の範囲、例えば約1000mm/分のような移動速度でノズルに対して移動することができる。並進速度が与えられた状況で、マンドレルの実際の1分当たりの回転数は、マンドレルの外面の半径に依存する。この方法は、マンドレルとノズルとの回転、および/または、マンドレルとノズルとの相対運動を制御することによって、マンドレル上に堆積する繊維に対して、隣接し合う繊維の間の繊維間隔を変化させることをさらに含む。繊維は、1つまたは複数の巻き付け角度でマンドレル上に堆積させることができる。1つまたは複数の角度は、約0~90°の範囲、例えば30~60°である。
【0030】
繊維は、1つまたは複数の層としてマンドレル上に堆積させられる。どの層もそれぞれ1つの構造を有している。マンドレルに複数の構造が堆積されてもよい。1層目の繊維は、第1の温度でマンドレル上に堆積される。第2およびそれ以降の層の繊維は、第2の温度でマンドレル上に堆積される。第1の温度は、第2の温度よりも低くてもよい。温度を変えれば、異なる層を融合させやすくなる。各層の繊維は、異なる巻き付け角度でマンドレル上に堆積させることができる。例えば、ある層は30°でマンドレル上に堆積される繊維を有し、別の層は45°でマンドレル上に堆積される繊維を有してもよい。
【0031】
この方法は、足場の第1の構成を形成し、次に第1の構成の外面上に足場の第2の構成を形成することをさらに含む。第1の構成は、メルトエレクトロライティングを使用して形成できる。第1の構成は、マンドレル上に形成することができる。
マンドレルは、第1の組成を有する第1のセグメントと、第2の組成を有する第2のセグメントとを含むことができる。第1および第2のセグメントは、第2の組成が第1の組成の一部に被さるように、互いに係合させることができる。第1の構成は、繊維を第1の組成で堆積させることによって形成することができる。次に、第2の構成は、繊維を少なくとも第2の組成で堆積させることによって形成することができる。
【0032】
この方法は溶媒を用いなくてもよい。例えば、ポリマーは、溶媒を必要とすることなくノズルを通して押し出すことができる。この場合、押し出されたポリマーは溶融物であり得る。ポリマーは、移植用として認定されたものであってもよい。ポリマーは、医療グレードのポリマーであってもよい。ポリマーは、ポリ-e-カプロラクトン(PCL)であってもよい。繊維は、PCL繊維であってもよい。
【0033】
この方法は、後の機能化に向けた予備処理を足場に対して行うステップをさらに含むことができる。後の機能化に向けた予備処理は、プラズマによる表面活性化、および/またはヒドロゲル内に足場を埋め込んで繊維強化ヒドロゲルを形成することを含む。ヒドロゲルは生分解性であってよい。ヒドロゲルは生分解性であるとよい。後の機能化に向けた予備処理は、足場が形成された後、足場がマンドレルから取り外される前に実行することができる。つまり、足場部分がマンドレル上にあるときに、予備処理を行うことができる。
【0034】
もう一つの態様は、上記の方法を使用して形成された軟組織足場を提供する。
もう一つの態様は、メルトエレクトロライティングされた軟組織足場を提供する。この足場は、径方向に対称であり、且つ、長手方向に沿った軸を有する第1の中空セグメントと、径方向に非対称であり、且つ、第1の中空セグメントと相関がある第2の中空セグメントと、を含み、第1の中空セグメントおよび第2の中空セグメントは、1つまたは複数の角度で長手方向の軸に対して配向された繊維から形成されている。
【0035】
第1の中空セグメントは、長手方向の軸に対して第1の角度で配列された繊維を有することができる。第2の中空セグメントは、長手方向の軸に対して第2の角度で配列された繊維を有することができる。足場はさらに2つ以上の層を含むことができる。それぞれの層は、互いに異なる平均繊維角度、直径、および距離を有している。1つまたは複数の角度は、約0~90°の範囲、例えば30~60°であってもよい。複数の層が構造を形成することができる。足場は複数の構造を有していてもよい。複数の構造は、互いに対して半径方向および/または長手方向に配列することができる。
【0036】
繊維は、約10nm~約100μmの範囲の直径を有することができる。隣接繊維の間の間隔は、細孔を形成する可能性がある。したがって、いくつかの実施形態において、足場は細孔を含むことができる。隣接繊維の直径および隣接繊維の間の間隔が、細孔寸法を決定することができる。細孔は、約1μm~約5mm、例えば、約10μm~約100μmの範囲のサイズを有することができる。細孔は、足場内およびその周辺での細胞増殖を可能にするのに役立つ可能性がある。したがって、細孔のサイズは、足場に播種することを意図した細胞および足場上で成長させることを意図した組織のタイプによって決定することができる。
【0037】
足場は、足場が再生しようとする天然組織に似た機械的特性を有することができる。例えば、足場は、天然の大動脈根などの軟組織に似た機械的特性を有することができる。足場は、大動脈根を形成することができる上皮細胞などの細胞材料を注入したときに、注入された足場が天然組織と同様の機械的特性を有するように、機械的特性を有することができる。新鮮な足場、すなわち、まだ患者に移植されていない足場の機械的特性は、その場で劣化し、時間とともに変化することを理解されたい。足場の劣化速度は、繊維を形成するために使用されるポリマー、患者、足場上に形成される組織のタイプ、および足場および/またはその場で再生された組織に加えられる力によって決定される。
【0038】
足場は、大動脈基部のための足場であってもよい。第2のセグメントは、バルサルバ洞の足場を形成する半径方向に延びる膨らみを含むことができる。足場は、隆起によって形成された空洞内に配列された弁尖足場部分をさらに含むことができる。弁尖足場の位置は、大動脈基部の弁用の足場として使用することができる。
足場は、ヒドロゲルをさらに含むことができる。足場を足場に埋め込むか、または、ヒドロゲルを足場に埋め込むことができる。ヒドロゲルは、足場へ細胞を導入する方法に使用することができ、ヒドロゲルと足場とを組み合わせることで、それぞれが最適な細胞-足場の相互作用を高め、機械特性を完全な状態に改善する。
【0039】
足場は、大動脈壁を考えて約1mm~約50mmの範囲の直径とすることができる。繊維は、ポリマー、コポリマー、または複合材料、例えば、PCL、PLLA、PLGA、PDO、PMMAを含む脂肪族ポリエステル/ポリエーテルから作製することができる。
もう一つの態様において、本発明が提供する軟組織足場を形成するためのメルトエレクトロライティングシステムは、ステージと、使用中にステージに固定されるように構成された導電性マンドレルと、を含み、マンドレルは、長手方向の軸および径方向に非対称の部分を有しており、導電性マンドレルは長手方向の軸の回りで回転可能であり、ポリマー繊維を押し出すためのノズルを含み、およびノズルと導電性マンドレルとの間に電位を印加するための電源を含んでなる。
【0040】
マンドレルは、アルミニウム、ステンレス鋼、銅などの1つまたは複数の金属、あるいは、またはそれに加えて、導電性ポリマーから形成することができる。マンドレルは、導電性材料で覆われた非導電性材料から形成することができる。マンドレルは、金属棒などの導電性コアを有することができる。一つの実施形態において、マンドレルは、金属コアを有する導電性ポリ(乳酸)などの導電性プラスチックである。金属コアはシャフトとして機能することができる。
【0041】
マンドレルは、互いに係合可能な1つまたは複数のセグメントから形成することができる。マンドレルは、第2のセグメントと係合可能な第1のセグメントを含むことができる。第1のセグメントは第1の組成を有することができ、第2のセグメントは第2の組成を有することができる。第1および第2のセグメントが互いに係合している場合には、第1の組成が第2の組成の一部を被覆してもよい。
【0042】
ステージおよび/またはノズルは、互いに相対移動可能である。ステージとノズルは、互いに対してX、Y、Z方向に移動できる。ステージの自由度を上げれば、より複雑な動きを容易に行うことが可能となる。ステージおよびノズルは、2つ以上の自由度、例えば、3つ以上の自由度や、6つの自由度などで相対移動可能であってもよい。
もう一つの態様は、上記のシステムを使用して調製された足場を提供する。足場は上記の通りであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0043】
以降では、添付された図を参照する例として実施形態を説明するが、実施形態は図によって限定されるものではない。
【
図1】
図1は、足場の構造の実施形態を示している。
【
図2】
図2は、足場の構造の別の実施形態を示している。
【
図3】
図3は、足場の構造の別の実施形態を示している。
【
図4】
図4は、PCLのメルトエレクトロスピニングで形成された足場の実施形態のSEM画像を示している。(a)は20層の直線の繊維で形成された、円周方向に0.5mmおよび径方向に2mmの寸法を備えた細孔、(b)は20層のらせんパターンの繊維で形成された、円周方向に0.5mmおよび径方向に2mmの寸法を備えた細孔、(c)は20層のらせんパターンの繊維で形成された、円周方向に0.25mmおよび径方向に2mmの寸法を備えた細孔、(d)は断面方向に層状に重ねられた繊維、および(e)は円周方向の繊維と径方向の繊維との融合を示している。
【
図5】
図5は、大動脈弁弁尖コラーゲン線維の変形挙動と応力/ひずみのJ字状変位の原因を説明する概略図を示している。
【
図6】
図6は、円周方向の一軸引張試験によって得られるメルトエレクトロライティング足場の機械的特性を示している。(a)は細孔寸法と層数とを変えつつ100%までひずみを変化させた代表的な足場の応力/ひずみ曲線、(b)が曲がりくねった構造から直線構造までの繊維を連続して漸次変化させた図(スケールバー=2mm)、(c)は20層で細孔寸法が0.5および0.25の細孔をもつ足場を、30%までひずみを変化させた代表的な応力/ひずみ曲線、(d)は細孔寸法が0.5mmの足場の代表的な応力/ひずみ曲線の15層、20層、および30層での比較、(e)は細孔寸法が異なる足場の引張弾性率、(f)は足場の引張弾性率の層数による比較を示している。
【
図7】
図7は、最大応力でのひずみに及ぼす曲率の影響を明らかにするために行われた一軸引張試験の結果を示している。(a)は代表的な応力/ひずみ曲線であり、(b)はJ字型曲線のさまざまな領域での引張弾性率である。
【
図8】
図8は、最適な足場と、生体の大動脈弁弁尖との異方性特性を比較して示している。(a)は円周方向(0.25mmの細孔)および半径方向(1および2mmの細孔)の代表的な応力/ひずみ曲線、(b)はMEW足場の異方性比、(c)はPCLを用いて形成されたMEW足場の弾性率と、ブタ、ヒツジおよびヒトの大動脈弁弁尖の弾性率とを、円周方向および半径方向の試験方向において比較である(天然組織特性は破線で表され、実線はそれぞれ半径方向および円周方向の値を表す
1)。
【
図9】
図9は、一軸引張試験で得られる足場の特徴的な応力緩和応答を示している。
【
図10】
図10は、実施形態の足場の実測および予測の疲労特性であり、(a)は円周方向および(b)径方向で試験された結果である。
【
図11】
図11は、実施形態の足場の特徴的なヒステリシス特性を示している。(b)は円周方向の代表的な曲線、(c)は半径方向の代表的な曲線、(d)は除荷/負荷比に対するひずみの影響を示している。
【
図12】
図12は、ヒト/HUVSMC(ヒト臍帯静脈平滑筋細胞)封入フィブリン複合体として1週間および2週間静的培養された実施形態の足場について、(a)全体的外観、(b)SEM画像、および(c)生/死染色を示している。
【
図13】
図13は、ヒト/HUVSMC(ヒト臍帯静脈平滑筋細胞)封入フィブリン複合体として1週間および2週間静的培養された実施形態の足場について、開示された実施形態の足場の免疫組織化学的分析結果を示している。静的培養中に合成されたコラーゲンは、I型コラーゲン(i、v)については(緑)に染色し、III型コラーゲン(iii、vi)については(赤)に染色して示した。播種された細胞についてはa-SMAに対して陽性なものが染色された(ii、vi)。スケールバーは(b):500μm、(c):200μm、(d):i、ii、iii、v、vi、vii:100μm、およびiv、viii:200μmである。
【
図14】
図14は、本開示の実施形態の足場を3つの単一弁の尖弁に縫合した大動脈根のシリコーン模造体を示す。(i)は縫合経路を強調して示した側面図であり、(ii)は大動脈側から見た図、および(iii)は心室側から見た図である。
【
図16】
図16は、生理学的な大動脈圧および血流条件下で
図14の弁の性能をプロットしたグラフを示している。
【
図18】
図18は、2つの領域を有する心臓弁の足場の実施形態を示している。
【
図19】
図19は、2つの領域を有する足場の実施形態の概略図を示す。
【
図20】
図20は、2つの領域および中間領域を有する足場のもう一つの実施形態の概略図を示す。
【
図21】
図21は、2つの領域を有する管状心臓弁足場の実施形態を示している。
【
図22A】
図22Aは、生理学的な大動脈および肺動脈の血圧と血流の条件下で
図21の弁の性能をプロットしたグラフを示している。
【
図23】
図23は、メルトエレクトロライティングシステムの実施形態を示す。
【
図27】
図27は、異なる繊維巻き付け角度で準備された足場の実施形態を示す。
【
図28】
図28は、異なる巻き付け角度の管状足場の顕微鏡画像を示す。
【
図30】
図30は、さまざまな寸法の多層構造の軟組織足場を示す。
【
図31】
図31は、管状メルトエレクトロライティング(MEW)足場の巻き付け角度と繊維径の特性を示している。(a)壁と洞の巻き付け角度;(b)壁および洞上の繊維径;および(c)壁と洞の間の巻き付け角度と繊維径の統計的比較。
【
図32】
図32は、0.5mmの直線、0.5mmの曲がりくねった部分、0.25mmの曲がりくねった細孔寸法を持つMEW足場に直接播種され、静的条件下で1週間および2週間培養されたHUVSMCの生存率を示している。a)全体的外観;b)SEM画像;およびc)生/死染色。スケールバーa:2mm;b:500μm;c:200μm。
【発明を実施するための形態】
【0044】
図1は、メルトエレクトロライティングされた異方性軟組織足場の実施形態を示している。
図1の足場は、シート10の形態である。シート10は、第1の繊維セット12を有する。第1の繊維セット12は、およそ互いに平行に配列された複数の繊維(12a、12b・・・12x)から作られる。各繊維12a~xは、破線21により表される長手方向に対して、非直線的に進むような、曲がりくねった構造を有している。第1の繊維セット12においては、各繊維12a~xは、上側部分14として形成されるピークと、下側部分16として形成されるトラフとを有している。各繊維12a~xの各上側部分14は、第1の距離d1だけ離れている。第1の距離d1は、第1の繊維セット12の繊維12a~xのすべての上側部分に対して、隣接し合うピークの頂点の間隔において共通である。
図1の実施形態において、各繊維12a~xは、概して正弦波形である。上側部分12間の間隔は、下側部分16間の間隔とほぼ同じである。第1の繊維セットの隣接繊維(例えば、12aおよび12b)は、第2の距離d2だけ離れている。
図1の実施形態において、第1の繊維セット12は、約0.5mmの直径を有する半円として提供され、ここで、d1は、直径よりも大きい。これは、シートの異方性を制御および模倣するのに役立つ。
【0045】
シート10は、第1の繊維セット12に対してほぼ横切る方向に配列された第2の繊維セット18を有する。「横切る方向」という用語は、第1の繊維セット12および第2の繊維セット18が互いに0°~90°の所定の角度、例えば、約30°~90°の角度で配列されていることを意味すると広く解釈されるべきである。第1の繊維セット12と同様に、第2の繊維セット18は、複数の繊維(18a~x)から構成され、各繊維は、左側部分20として形成されたピークおよび右側部分22として形成されたトラフを有する。第2の繊維セットは、一般的な正弦波形を持っている。第2の繊維セット18は、第1の繊維セット12に接続されている。
図1は、例えば符号13で示される第1の繊維セットと第2の繊維セットとの間の接続点が、第1の繊維セット12のピーク14に存在していること、及び、第2の繊維セット18の左側部分20と右側部分22との変曲点であることを示している。言い換えると、第2の繊維セット18は、第1の繊維セット12の上側部分14の近傍の領域に接続されている。いくつかの実施形態において、第2の繊維セット18は、第1の繊維セット12の上側部分14以外の場所、または上側部分14と上側部分14以外の場所とのそれぞれに取り付けられている。このような場所には、上側部分14および/または左側部分20に対して近接または離れた場所、または上側部分14および/または右側部分22に近接または離離れた場所などがある。
【0046】
「ピーク」、「トラフ」、「上側部分」、「下側部分」、「左側部分」および「右側部分」という用語は相対的な用語であり、これらの用語でシート10の向きが特定の方向に限定されることがないことを理解されたい。別の言い方をすれば、各繊維は長手方向(すなわち、21)を有し、繊維の経路長は、曲がりくねって進む繊維経路を提供するように、長手方向から左右または上下いずれかの側に向かって交互に張り出すように配備される。一例を挙げれば、シート10を上から下へ反転させると、ピーク14がトラフ16に変換される。また、その逆に、シート10を左から右へ反転させると、左側部分20が右側部分22に変換される。
【0047】
第1の距離d1に対する第1の繊維セット12の経路長は、第1の距離d1と同じ距離d1’の第2の繊維セットの繊維の経路長と等しくない。
図1の実施形態の場合であれば、第1の繊維セット12の経路長は、第2の繊維セット18の経路長よりも大きい。経路長とは、第1の距離について繊維を長手方向に伸ばしたときの繊維の全長、例えば、ポイント13と15との間の繊維12aの全長である。このように第1の繊維セット12がより長い経路長を有するのは、第2の繊維セット18と比較して第1の繊維セット12がより高い湾曲度を有することに一部は起因する。より長い経路長を与えれば、第1の繊維セット12を
図1の曲がりくねった状態からさらに直線状態に延伸させても、第2の繊維セット18と比較して低い印加応力/歪みで大きな拡張を得ることができる。第1の繊維セット12および/または第2の繊維セット18を直線状態に(すなわち、細長く)引き伸ばすと、一定の極限引張応力に達するまでは、初期の直線的に変化する低い応力/ひずみ関係が、高い(急激に変化する)応力/ひずみ関係に遷移する。したがって、より高いの曲率を付与することにより、シート10は、低応力/ひずみから高応力/ひずみに移行する前に、第2の繊維セット18よりも、第1の繊維セット12を一般的な方向にさらに伸ばすことができる。言い換えれば、シート10は、X方向およびY方向に異なる延伸特性(すなわち、異なる機械的特性)を有する。
【0048】
第1の距離d1に対する第1の繊維セット12の経路長が第2の繊維セット18の経路長よりも大きいと仮定して、第2の距離d2に対して第1の距離d1を増加させると、第2の繊維セット18に対する第1の繊維セット12の異方性比も大きくなる。異方性比は、第2の繊維セット18の方向へのシート10の伸びに対する第1の繊維12の方向へのシート10の伸びの比である。言い換えれば、第1の繊維セット12は、一定の極限引張応力に達する前に、第2の繊維セット18よりもさらに伸ばすことができる。
図1の実施形態において、第1の繊維セット12は、約1Mpaの高い引張弾性率を有し、第2の繊維セット18は、約5Mpaの高い引張弾性率を有する。第1および/または第2の繊維セットを構成する繊維の数を増やすと、繊維のセットの極限引張応力が増加する。例えば、第2の距離d2が減少するが、第1の距離d1が同じままである(すなわち、第1の繊維セットの密度が増加する)場合、シート10の極限引張応力は、第1の繊維12の方向に増加するが、低い印可応力/ひずみでの大きな伸びは同じままである。第1の繊維セット12に対して第2の繊維セット18の密度を増加させると、第2の繊維セット18の極限引張応力が増加する。これは、第1の距離d1、第2の距離d2、第1および第2の繊維セットの経路長、ならびに第1および/または第2の繊維セットの密度を変更することによって、シート10の特定の機械的特性を調整できることを意味する。しかしながら、第1および第2の繊維セットの繊維の経路長を異なる状態に保つことにより、シート10は異なる方向、すなわち第1および第2の繊維の方向に沿って異なる機械的特性を有するので、シートは異方性になる。
【0049】
図1の実施形態における第1の距離d1は、約0.5mm~約2.5mmの範囲であり、例えば、約1.0~2.0mmである。第2の距離d2は、約0.1mm~約0.5mmの範囲である。d2を小さくすると、第1の繊維セットの極限引張強さが増す。シート10は軟組織の足場として機能するので、隣接し合う繊維の間に形成される細孔のサイズが重要になると考えられる。細孔寸法が小さすぎる場合、足場への細胞浸潤が規制される。
【0050】
細胞癒着も影響を受ける可能性がある。細孔寸法が大きすぎると、適正な細胞浸潤が起こらず、成長が低下する可能性がある。例えば、細孔寸法が大きすぎる場合、細胞は最初に細孔の周囲に付着し、次に半径方向内側に成長するが、半径方向内側への成長は、細胞が不均一に支持されている場合にのみ継続できる。したがって、第1および第2の繊維によって形成される細孔のサイズは、約1μm~約400μmとすべきである。
【0051】
メルトエレクトロライティング装置などのすべての3次元印刷装置が、どの装置も繊維の解像度がしばしば約200μmに制限されるような細部をシートに提供できるわけではないことを理解されたい。そのような大きな繊維は、異方性特性を有するとともに細胞増殖を引き起こすことができる軟組織足場を提供することができない。いくつかの実施形態において、第1および第2の繊維セットの直径は、約100nm~約100μmの範囲、一例を挙げれば約20μmである。いくつかの実施形態において、繊維はPCLを含む。いくつかの実施形態において、繊維はPCL繊維である。メルトエレクトロライティングによって処理できる他のポリマーも、繊維を形成するために使用することができる。
【0052】
異方性の機械的特性を備えた足場は、コラーゲン構造に対する構造的な類似体を提供するのに役立つ。これは、天然組織に類似した機械的特性を有する軟組織足場を使用して、損傷した組織および/または罹患組織を再生できることを意味する。例えば、心臓弁弁尖は、円周方向と比較して径方向にさらに伸ばすことができる。したがって、異方性の機械的特性を備えた軟組織足場は、心臓弁弁尖を再生するための足場として有用となる可能性がある。いくつかの実施形態において、第1の繊維セット12(曲率がより高い)は、概して半径方向に配向され、第2の繊維セット18(曲率がより低い)は、概して円周方向に配向される。そうすれば天然コラーゲン構造に類似した心臓弁弁尖構造を提供する。
【0053】
図1は、第1の繊維セット12および第2の繊維セット18が略正弦波形を有する実施形態を示している。いくつかの実施形態では、直線(すなわち、細長い)領域、方形波および/またはジグザグ波形を備えた繊維を有することもできる。いくつかの実施形態において、繊維構造が組み合わせて使用される。例えば、第1の繊維セットは曲がりくねった構造を有することができ、第2の繊維セットは方形波を有することができる。
図2の実施形態において、シート40は、ジグザグ構造を有するように配備された曲がりくねった第1の繊維セット42を有する。第1の繊維セット21の各繊維は、上側部分ピーク44の形状に形成されたピークと、下側部分ピーク46の形状に形成されたトラフとを有する。隣接し合う上側ピーク44は、第1の距離d1だけ離れている。第1の繊維セット42の各繊維は、第2の距離d2だけ離れている。シート40は、また第2の繊維セット48を有している。第2の繊維セットの各繊維は、左側ピーク52の形状に形成されたピークおよび右側ピーク50の形状に形成されたトラフを有するジグザグ構造を有する。第1の繊維セット42の曲率の度合いは、第2の繊維セット48の曲率の度合いよりも大きい。
【0054】
図3は、上側セクション64の形状に形成されたピークおよび下側セクション66の形状に形成されたトラフを有する方形波構造を有する曲がりくねった第1の繊維セット62を有するシート60の実施形態を示す。隣接し合う上側セクション64の中央領域は、第1の距離d1だけ離れている。第1の繊維セットの各繊維は、互いにほぼ平行に配列され、第2の距離d2だけ離れている。第2の繊維セット68は、右セクション70の形状に形成されたピークおよび左セクション72の形状に形成されたトラフを有する方形波構造を有している。第1の繊維セット62は、第2の繊維セット68よりも高い度合いの曲率を有する。
【0055】
「曲がりくねった」という用語は、長手方向を基準とするいずれかの側に交互に曲がりくねって進んでいる繊維を意味すると広く解釈されるべきである。例えば、
図1の実施形態において、第1の繊維セット12の長手方向が破線21で表される。第1の繊維セットの各繊維は、長手方向を基準として交互に曲がりくねって進んで、上側セクション64および下側セクション66を形成している。
【0056】
いくつかの実施形態において、複数の第1および/または第2の繊維セットが、互いの上に積み重ねられている。例えば、第1の繊維セット12は繊維を10~30層を有しており、これらは積層体を形成している。いくつかの実施形態において、第1および/または第2の繊維セットは互いに最大2500層に亘って積み重ねられている。いくつかの実施形態において、層の数は1から2500の範囲である。単一の層は、繊維の直径とほぼ同じ厚さを有する。2500層は、最大約10cmの厚さ(Z方向に延びる)を有することができる。いくつかの実施形態において、複数のシートが組み合わされて、軟組織足場を形成する。複数のシートのそれぞれは、積層体であってもよい。これらの実施形態において、各シートは同じであってもよいか、または異なるシートの組み合わせ、例えばシート10およびシート60を有する2シート足場を使用することができる。各シートについての第1の繊維セットの長手方向は、互いに平行に、および/または互いに横切る方向に配列することができる。いくつかの実施形態において、各シートについて、第1の繊維セットの互いに対する長手方向の角度を調整することは、結果として生じる足場の異方性挙動を制御するのに役立つ。足場が複数の層を有する場合、各層の繊維を個別に積み重ねることができ、その結果、得られる多層足場は、曲がりくねった構造を有する外層から内層に(すなわち、Z方向に)延びる壁または同様のものを有する。これは、X/Y方向に異なる機械的特性を持つことに加えて、軟組織足場がZ方向に異なる機械的特性を持つことができることを意味する。
【0057】
シート10を形成するために、メルトエレクトロライティング(MEW)装置および/またはシステムを使用して、ポリマーを溶融し、ノズルを通して押し出して繊維を形成する。MEW装置の実施形態を
図12に示す。ノズルとステージの間に電位を印加することにより、繊維をステージ上に堆積させる。複数の繊維が互いにほぼ平行に堆積されて、第1の繊維セット12を形成する。第2の繊維セット18もまた、第1の繊維セット12を横切る角度で複数のほぼ平行な繊維を堆積することによって形成される。いくつかの実施形態において、第1および第2の繊維セット12/18は、第1の繊維セット12の繊維が第2の繊維セット18の繊維と織り合わされるように堆積される。そのような構造は、接触点、例えば13での、第1の繊維セット12と第2の繊維セット18との結合を改善するのに役立つ。堆積される繊維の温度が充分に高い場合、それはすでに堆積された繊維に融合し、接触点を形成する。堆積される繊維の温度を充分に高くするのを助けるために、いくつかの実施形態におけるノズルの温度は、押し出しの前にポリマー溶融物を形成するために使用される温度よりも高い。例えば、いくつかの実施形態において、繊維を形成するためにPCLが使用される場合、ノズルは約85℃にあり、溶融物は約75℃にある。
【0058】
いくつかの実施形態において、第1および第2の繊維セットは、堆積され積層体を形成する。これらの実施形態において、この方法は、2番目または2番目以降の積層体、例えば複数の積層体を堆積することをさらに含む。各積層体は、複数の第1および/または第2の繊維セットを互いに重ねて堆積させることにより形成することができる。1つの層における第1の繊維セットの長手方向は、2番目または2番目以降の層における第1の繊維セットの長手方向に対して平行および/または所定の角度で配備することができる。
【0059】
ステージの形状により、シート10の形状をある程度拡張的に決定することができる。例えば、平面ステージは、略平面の足場をもたらす。ただし、マンドレルなどの管状ステージを使用する場合、足場は管状になる。したがって、足場は多くの異なる形状の形をとることができる。例えば、血管の足場は、
図1に示すようなポリマー構造体を持つことができる。いくつかの実施形態におけるステージはまた、同じ3次元特徴を有する足場を生じさせる3次元特徴を含む。例えば、ステージは、大動脈根の弁尖を形成するための型を形成する要素を有することができる。これらの実施形態において、第1の繊維セット12は、半径方向における弁尖の機械的特性を反映するように半径方向に堆積され、第2の繊維セット18は、円周方向における弁尖の機械的特性を反映するように円周方向に堆積される。したがって、特定の方向で第1および/または第2の繊維セット12/18を堆積することを利用して、天然コラーゲンの細胞外マトリックス支持体の構造類似体として作用する軟組織足場を形成することができる。
【0060】
一般にノズルとステージとの間の作動距離を約10mm未満とすれば、シート10の特徴はメルトエレクトロライティングされた軟組織足場として比較的微細となる。なお、一般に、作動距離を4mm未満にすれば、解像度および細部が最も良い状態で堆積させることができる
実施形態および実施例は、心臓弁弁尖のための軟組織足場に向けられてきたが、本開示は、心臓弁弁尖のための足場に限定されず、一般に異方性コラーゲンでできた細胞外マトリックスの使用を必要とする血管、表皮、腱、靭帯、乳房、および他の組織の再生に用いる異方性軟組織足場にも範囲を広げて適応させることができる。
【0061】
足場80のもう一つの実施形態を
図17Aに示す。足場80は、2つの異なる足場構造体として形成された、2つの異なる領域を持つ管状の足場である。足場80の1つの領域は、第1の構造体81を有し、足場の別の領域は、第2の構造体82を有する。第1の構造体81は、81aとして概略的に表されるように、ダイアモンドタイプのパターンを有する。第2の構造体は、82aとして概略的に表されるように、正方形のメッシュタイプのパターンを有する。境界領域83が、第1の構造体81が第2の構造体82に変化する境界に形成される。第1の構造体81と第2の構造体82とは、
図17Aにおいて一体になっている。しかしながら、第1の構造体81と第2の構造体82とが一体になっていない実施形態もいくつかある。
【0062】
もう一つの実施形態である足場84が
図17Bに示されている。足場84は管状であり、85で概略的に表されるように、曲がりくねった繊維を有するメッシュから形成される構造体を有する。もう一つの実施形態である足場86が
図17Cに示されている。足場86は管状であり、87で概略的に表されるように、曲がりくねった繊維を有するメッシュから形成される構造を有する。いくつかの実施形態において、第1の構造体81または第2の構造体82は、構造体85および/または87で置き換えられる。足場80、84および86は、一つの実施形態において、約10nm~約100μmの範囲の直径を有するPCL繊維から形成される。隣接繊維の間の距離は、約0.1mm~約2.5mmの範囲である。
【0063】
足場200のもう一つの実施形態を
図18に示す。足場200は、第1の領域202を有する。第1の領域202は、メルトエレクトロライティングされた異方性軟組織足場から形成される。いくつかの実施形態における第1の領域の異方性軟組織足場は、
図1~13を参照して説明したものである。例えば、第1の領域は、シート10の構造体を有することができる。
【0064】
第1の領域202から延びるのは、第2の領域204である。第2の領域204は、メルトエレクトロライティングされた材料から形成される。第2の領域204は、足場200を大動脈根などの組織に縫合するための支持体として機能する。第2の領域202は、軟組織足場であってもよい。第2の領域204の構造体は、良好な縫合糸保持特性を提供するように選択される。いくつかの実施形態において、第2の領域の構造体は、使用中に、大動脈根に一致する拍動性の挙動を提供するように選択される。いくつかの実施形態において、第2の領域204は等方性である。例えば、第2の領域204は、82aと同様のポリマー構造体を有することができる。いくつかの実施形態において、第2の領域204は異方性である。第2の領域204の等方性は、繊維の異なるセット間の相対角度を調整することによって調整することができる。例えば、第1および第2の繊維セットが互いに約90°で配列されている場合には等方性材料を形成することができるが、第1および第2の繊維セットが互いに>90°の角度で配列されている場合には異方性材料を形成することができる。第1の領域202および第2の領域204の間の遷移は、境界部206によって規定される。第1の領域202と第2の領域204とが一体になっている場合、境界部206は、繊維の向きを変化させることで形成される。
【0065】
図18の管状足場の概略図を
図19に示す。
図19に示す足場200は、
図18に示す管状構造を平面投影したものである。いくつかの実施形態において、足場200は、丸めて接合することで管状構造を形成する平坦なシートとして準備される。例えば、縁部216および縁部218は、一緒に結合されて管状構造を形成することができる。しかしながら、いくつかの実施形態において、足場200は管として準備される。
図19の実施形態において、足場200は、3つの第1の領域202a、202b、および202cを有する。第1の領域202a~202cは、形状が半円形である。第2の領域204は、第1の領域202a~202cから延びる。第1の領域202のそれぞれと第2の領域204との間の境界部206は、第1の領域202の湾曲した縁部207で形成される。
【0066】
「領域」という用語は、同様のポリマー構造体を有する領域という意味に広く解釈されるべきである。例えば、第1の領域には異方性のポリマー構造体があり、第2の領域には等方性の構造体がある。一般に、第1の領域202の構造体はそれぞれ同じであるが、それらが異なる実施形態がいくつかあってもよい。本開示の実施形態を説明する目的で、
図19および20に示される第1および第2の領域は、異なるハッチングによって表される。なお、第1および第2の領域の構造体は、描かれているハッチングの構造に限定されるものではない。
【0067】
第1の領域202a~202cは、大動脈基部の3つの心臓弁弁尖を形成する。隣接する第1の領域、例えば、202bおよび202cの頂点210は互いに近接して配置されている。頂点210は互いに離間されており、隣接し合う第1の領域202の頂点の間に第2の領域204が一部配置されている。しかしながら、第1の領域202の頂点が、互いに接触および/または重なり合う実施形態がいくつかあってもよい。足場200は、対向する縁部212および210を有する。縁部212は、第1の領域202a~202cに関連する下流縁部(例えば、大動脈側)である。縁部214は、第2の領域204に関連する上流縁部(心室側)である。
【0068】
いくつかの実施形態における足場200は、補強領域208の形態の中間領域を有する。補強領域208は、互いに平行に配列された一連の同心半円形の繊維220と、隣接し合う繊維220を接続するいくつかのコネクタ222とを有する。使用中、足場200は組織を取り囲む位置に縫合される。補強領域208は、縫合位置で足場200に加えられる力を放散し、それに耐えるのを助ける。補強領域208はまた、第1の領域202および第2の領域204に加えられる力の差に耐えるのに役立つ。補強領域208は、一般に、境界部206に配置されるか、境界部206上に重ね合わされる。補強領域208は、第1の領域202および/または第2の領域204と同じ領域に及んでいてもよい。
【0069】
第1の領域202a~bのそれぞれの補強領域208は、縁部210の近くで重なり合う。中間領域208は、例えば202bの頂点のような最初の第1の領域から、例えば202cの頂点のような次の第1の領域まで延びる。一般に、足場の剛性は、補強領域208で増加する。補強領域208の重なりにおいて、足場の剛性は、望ましい値を超えて増加することができる。いくつかの実施形態において、補強領域208は、補強領域208の剛性を制御するために先細りになっている。例えば、補強領域208が頂点209から末端211の縁部212に延びるに従って、繊維220および/またはコネクタ222の数を変化させることができる。管状形態では、第1の領域202のそれぞれの間に配置された末端は、隣接する心臓弁弁尖の間の角を形成する。補強領域208の構造を変化させることは、足場200の機械的特性を調整し、結果として使用特性を調整するために用いることができる。これは、足場200の機械的特性を調整するために使用することができる。一つの実施形態における足場200は、約10nm~約100μmの範囲の直径を有するPCL繊維から形成される。隣接し合う繊維の間の距離は、約0.1mm~約2.5mmの範囲である。
【0070】
補強領域を有する管状足場250の実施形態が
図21に示されている。足場250は、半円形の心臓弁弁尖252の形態の第1の領域と、管状本体254の形態の第2の領域とを有する。第2の領域254は、第1の領域252を支持する支持体として機能する。足場250は、3つの心臓弁弁尖を有する。管状本体254は、心臓弁弁尖252から延びる。補強領域256は、心臓弁弁尖252と管状本体254との間に配置される。心臓弁弁尖252は、下流縁部(大動脈側)258を有する。足場250の使用中、背圧が足場250に加えられると、3つの心臓弁弁尖252の縁部258が一緒になり、互いに係合して弁を閉じる(
図22Bに最もよく見られるように)。縫合糸260は、鋭角Qがそれらの間に形成されるように、隣接する心臓弁弁尖の頂点を接続する。角度Qは、生来の大動脈基部心臓弁の角度Qと似ている。一つの実施形態において、角度Qは、約30°~約50°の範囲である。角度Qは、挟み込み(縫合)点から第1の領域252の頂点262までの距離に依存する。角度Qを形成することは、足場250によって形成された弁の閉鎖中に縁部258が互いに確実に接触させるのに役立つ。いくつかの実施形態において、縫合糸260はまた、足場250が移植されると、足場250を周囲の組織に取り付けるために使用される。一つの実施形態における足場250は、約10nm~約100μmの範囲の直径を有するPCL繊維から形成される。隣接し合う繊維の間の距離は、約0.1mm~約2.5mmの範囲である。
図21の実施形態において、第2の領域254は、等方性の軟組織足場として提供される。しかしながら、第2の領域254が異方性である実施形態もいくつか存在する。すべての実施形態において、第2の領域254を軟組織足場とする必要はない。
【0071】
足場250内には、ヒドロゲルが埋め込まれている。ヒドロゲルがエラスチンベースのものである実施形態がいくつか存在する。ヒドロゲルは、好ましい組織成長を促進するのに役立つ可能性がある。ヒドロゲルはまた、縫合場所などで組織が形成される前に、使用中の足場に加えられる機械的な力に耐えるのに役立つ可能性がある。一つの実施形態において、足場250は、円筒型の外側コンポーネントの内壁と内側コンポーネントの外壁との間に環帯状に配置される。次に、ヒドロゲルの前駆体を環帯に注入すると、ヒドロゲルが硬化し、ヒドロゲルが足場に埋め込まれる。本明細書で使用される「埋め込まれた」という用語、または「埋め込まれ」などのその類似した文言は、ヒドロゲルが足場の表面に接触したり、足場がヒドロゲル内に完全に含まれたり、ヒドロゲルが足場の細孔内に含まれていたり、さらにはこれらを組み合わせた状態になったりすることを意味すると広く解釈されるべきである。
【0072】
ヒドロゲルは、生分解性または非生分解性のいずれかでもよい。非生分解性のヒドロゲルとしては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)および発泡PTFE、ポリシロキサン(シリコーン、PDMS)、熱可塑性ポリウレタン(TPU)、熱可塑性ポリウレタン尿素、多面体オリゴマーシルセスキオキサンポリ(カーボネート-尿素)ウレタン(POSS-PCUU)、および/またはポリシロキサンウレタン(尿素)(PSU)が挙げられる。非生分解性のヒドロゲルは、足場が非分解性の代替心臓弁として機能することを可能にすることができる。ヒドロゲルが非生分解性である場合、足場を形成するために使用される繊維は非生分解性であるのが好ましい。ヒドロゲルが生分解性である場合、足場を形成するために使用される繊維は生分解性であるのが好ましい。
【0073】
生理学的な大動脈圧および流動条件下での足場250の性能をプロットするグラフを、
図22Aに示す。見てわかるように、足場250はほとんど逆流を示さず、ISO5840と一致する逆流値を持っている。シミュレートされた生理学的大動脈圧および流動条件中の足場250の心臓弁弁尖252の相対運動を
図22Bに示す。最大流量の間、各弁尖252の下流端258は互いに最も離れており、最小流量の間、各弁尖252の下流端は互いに接触して弁を閉じる。
【0074】
図は、大動脈根の弁に関連する特定の実施形態を説明した。しかしながら、本開示のポリマーの構造および足場は、静脈弁を含む血管弁などの他の弁、および管状組織などの他の組織に適用することができる。
図23は、管状の軟組織の足場を形成するためのメルトエレクトロライティングシステム100の実施形態を示している。システムはMEWを使用して足場構造を形成する。システム100は、導電性マンドレル114を取り付け可能なステージ112を有する。マンドレル114は、ノズル116とマンドレル114との間に電位が印加されることを可能にするために導電性である。ノズル116は、ポリマーが押し出されてポリマー繊維118を形成することを可能にする。
図23の実施形態において、ノズル116を通して押し出されてPCL繊維118を形成するポリマーは、ポリカプロラクトン(PCL)である。マンドレル114は、ステージのベース199によって規定される平面の周りで水平方向に移動可能である、すなわち、マンドレル114は、XY方向に移動可能である。システム100のノズル116は固定されているので、マンドレル114は、ノズル116に対して移動可能である。しかしながら、いくつかの実施形態において、マンドレル114が固定され、ノズル116がマンドレル114に対してXY方向に移動してもよい。また、いくつかの実施形態において、ノズル116および/またはマンドレル114がZ方向に移動可能であってもよい。いくつかの実施形態において、ノズルが、1つまたは複数の軸の回りで回転可能である。これは、いくつかの実施形態において、ノズル16およびマンドレル114が3を超える自由度などで移動可能であることを意味する。
【0075】
マンドレルの実施形態を
図24A、
図24B、
図24Cに示す。マンドレル150の中心には長手方向に沿って延びる軸151がある。管状セクション152の形状に形成された第1のセグメントは、径方向に対称である。管状セクション152からは、球根領域154の形状に形成された第2のセグメントが延びている。球根領域154は、放射状に非対称であり、これは、
図24Bからよく見て取れる。球根領域154は、3つの放射状に延びる半球突起156から形成される。
図24A、
図24B、及び
図24Cの実施形態において、球根領域154は、大動脈根のバルサルバ洞の3つの葉の型として機能するように形作られる。
図24A、
図24B、及び
図24Cの実施形態において、中央ボア156が、長手方向151に沿って延びる。ボア156は、マンドレルがステージ112に関連するシャフトと同軸に配列されることを可能にする。マンドレル150は回転可能であり、したがって、関連するシャフトおよびマンドレルは、使用中に互いに固定された関係にあることを理解されたい。
【0076】
マンドレル150は導電性である。いくつかの実施形態において、マンドレル150は金属から形成されている。しかしながら、実施形態によっては、マンドレルは非導電性材料で形成され、マンドレル150の外側の繊維受容面に導電性コーティングを適用することによって導電性にされていてもよい。例えば、マンドレルは、従来の3次元プリンターを使用して、
図24Cに示すように、銅などの導電性材料の層をマンドレルに塗布して用意することができる。マンドレルに金属を塗布して導電性にする場合は、蒸着、スパッタコーティングなどを使用できる。他の実施形態において、マンドレル150は、導電性ポリ(乳酸)/グラフェン複合材料などの導電性プラスチックを使用して3次元プリンターから形成される。
【0077】
突起156の寸法および管状領域152と比較したそれらの相対的なサイズは、形成される足場のサイズに依存する。例えば、患者の大動脈根の3次元モデルは、バルサルバ洞(すなわち、突起156)を有するものとして、Thubrikar(European Journal of Cardio-Thoracic Surgery、28(6)、850-855)が記載した寸法に従って、調製することができる。次に、この3次元モデルは3次元プリンターを使用して印刷され、導電性プラスチックで形成されていない場合でも結果として導電性の構造に形成される。マンドレル150を準備するために3次元プリンターを使用すると、患者に固有のマンドレルを形成でき、その結果、得られる足場も患者固有のものとなる。付加的製造法(additive manufacturing method)、CNC、および鋳造などのマンドレル114を形成する他の方法を使用して、マンドレル114を形成することができる。
【0078】
図24A、
図24B、及び
図24Cの実施形態において、マンドレル150は一体物の構築物である。しかしながら、いくつかの実施形態において、マンドレルが2つ以上のセグメントから作られることが有益であることがある。これは、足場が形成された後でマンドレルから足場を除去することを支援するのに役立つ可能性があるからである。また、足場の壁に空洞を印刷するという特徴を可能にするのに役立つ可能性がある。
図25は、第1のセグメント(i)および第2のセグメント(ii)を有する2つの部分からなるマンドレル160を示している。第1のセグメント(i)は、径方向に延びるフラップ162の形状に形成された第1のフォーメーションを有する。第2のセグメント(ii)は、内方に延びる凹状のくぼみ164の形状に形成された第2のフォーメーションを有する。くぼみ164は、稜部166で終端する。稜部166は連続していないため、各稜線の間にギャップが存在する。
【0079】
この稜部は、一般に、長手方向軸の近くに位置する共通点168から延びる。使用中、第2のセグメント(ii)はステージ112に取り付けられ、繊維118がマンドレル上に配列されて足場を形成する。くぼみ164は、大動脈根のバルサルバ洞に関連する弁のための型を形成する。繊維がくぼみ164の上に堆積されて弁の足場を形成すると、次に、第1のセグメント(i)が第2のセグメント(ii)に接続され、それにより、フラップ162が、そこに同軸的に配列されるくぼみに袖を付ける(図示されていない)。次に、大動脈根足場の壁は、第1のセグメント(i)および第2のセグメント(ii)上に繊維118を堆積させることによって形成することができる。第1のセグメント(i)および第2のセグメント(ii)は、互いに固定された関係を維持するように、互いに係合可能である。例えば、締まり嵌めおよび/またはボルトを使用して、第1のセグメント(i)および第2のセグメント(ii)を一緒に係合させることができる。
【0080】
マンドレル160は、患者の個人化された解剖学的特徴に従って、バルサルバ洞を含む大動脈弁弁尖および大動脈根の3次元モデルを使用して設計されている。次に、このモデルは、2ピースモデルに分けられる。第1のコンポーネントは、流出側のバルサルバ洞および大動脈を含み、第2のコンポーネントは、流入側の弁尖の凹型形状(くぼみ164)および大動脈壁(左心室)を含む。足場を管状MEWで形成する際に繊維を堆積させることで、天然の大動脈弁を模倣する継ぎ目、小葉間の三角形、および輪部を融合させた管状足場を、小葉足場へ容易に取り付けることができる。
【0081】
マンドレル160の利点は、大動脈基部足場の弁および壁が単一のマンドレルを使用して準備することができることである。さらに、マンドレル160は3次元プリンターを使用して印刷することができるので、フラップ162(バルサルバ洞の型として機能する)およびくぼみ164(弁の型として機能する)の形状を、患者のために特別に調整することができる。これにより、カスタムの軟組織足場の製造が可能になる。さらに、足場を形成するためにメルトエレクトロライティングを使用することは、単純で迅速な製造技術が採用できることを意味する。
【0082】
2つの部分からなるマンドレルのもう一つの実施形態を
図26Aに示す。この実施形態において、マンドレル170は、マンドレル160と同様の第1のセグメント(i)および第2のセグメント(ii)を有する。第1のセグメント(i)は、径方向に延びるフラップ172の形状に形成された第1のフォーメーションを有する。第2のセグメント(ii)は、半円形の切り欠き174の形状に形成された第2のフォーメーションを有する。マンドレル170を使用して大動脈基部の足場を形成するために、
図26Bにおいて最もよく見られるように、足場メッシュ176の形状に形成された第1のコンポーネントが切り欠き174の周りに巻かれる。次に、マンドレル170の第1のセグメント(i)は、メッシュ76が所定の位置に保持されている間に、マンドレルの第2のセグメント(ii)に取り付けられる。次に、組み立てられたマンドレルが、ステージ112に配置され、大動脈足場の壁および洞が、次に、繊維118を堆積することによってマンドレル170上に形成される。メッシュ176の一部が壁に組み込まれ、メッシュが壁に対して所定の位置に固定される。マンドレル170を使用して形成された足場の実施形態を
図26A、
図26B、
図26Cに示す。
図26C(i)は、バルサルバ洞182の周りの壁178(
図26C(ii))によって形成された空洞内にメッシュ176が存在している足場180の実施形態を、長手方向の軸(例えば、151)に沿って見た図である。2つの部分からなるマンドレルを使用すると、足場が作成された後、マンドレルから足場を取り外すのに役立つ。
【0083】
いくつかの実施形態において、コイルヒーターがボア156内に配置されて、メッシュ176(すなわち、弁尖)をその融点近くに加熱し、メッシュ176の上側部分に壁(すなわち、根足場)をメルトエレクトロライティングして、メッシュ76と壁180との間により安全な接続を提供する。他の実施形態において、弁尖の基底部の壁への良好な付着を助けるためにヒドロゲル系が継ぎ目に組み込まれる。これは、後処理ステップで実行できる。他の実施形態において、取り付け点の局所加熱は、メッシュ176と壁180との間のより良い融合を容易にする。これは、融合点を所望の位置に正確に位置付けるために低強度レーザーを利用することによって実行することができる。いくつかの実施形態において、メッシュ76(すなわち、弁尖)と壁180(すなわち、根足場)との間のより安全な接続を提供する複数の形態を使用できることを理解されたい。
【0084】
システム100を使用して足場を形成するために、繊維118は、ノズル116から引き出され、マンドレル114上に堆積(例えば、印刷)される。同時に、マンドレル14は、回転され、X方向に(すなわち、マンドレルの長手方向軸に沿って)移動されて、それにより、繊維118が、長手方向511に対する所定の角度でマンドレル114上に巻くように堆積される。いくつかの実施形態において、ノズル116とマンドレル114の外面との間の距離は、ステージ112および/またはノズルをZ方向に動かすことによって調整される。マンドレル114がX方向に移動する速度は、巻き付け角度を決定する。マンドレルがX方向に移動する速度が増加するにつれて、繊維118の巻き付け角度は減少する。逆に、マンドレルがX方向に移動する速度が低下すると、繊維118の巻き付け角度が増加する。いくつかの実施形態において、マンドレル114が回転する速度もまた、巻き付け角度を調整するために変更される。マンドレル114の回転速度を増加させると、方向Xにおけるマンドレル114上の所与の動きが一定に保たれているときには、巻き付け角度が増加し、マンドレル114の回転速度を減少させると、巻き付け角度が減少する。いくつかの実施形態において、マンドレル114がX方向に移動する速度およびマンドレル114が回転する速度は、巻き付け角度を制御するように調整される。いくつかの実施形態において、マンドレル114はまた、X方向に加えて、Y方向(すなわち、マンドレル114の長手方向に対して横切る方向)に移動される。マンドレル114のXY方向への移動を用いて、特定の繊維構造体を堆積(すなわち、印刷)することができる。さらに、マンドレルは、事前に規定された座標に従って移動して、繊維が堆積される(例えば、印刷される)位置を制御することができる。言い換えれば、繊維は、曲がりくねった構造や有機マイクロ構造体などのような特定の繊維構造を備えた3次元導電性マンドレルとして印刷することができる。マンドレル114は、足場の壁が形成されるまで、X方向に沿って前後に回転および移動される。単一の繊維を使用して足場の壁を形成することができ、その場合は壁および壁に関連する特徴は互いに一つだけである。あるいは、2つ以上の繊維を使用して壁を形成することができる。例えば、いくつかの実施形態は、2つ以上の異なる繊維を形成する2つ以上のノズルを使用する。
【0085】
巻き付け角度を変更すると、足場の機械的特性を制御するのに役立つ。バルサルバ洞182の洞の周りの壁178は、一般に、足場180が足場180の使用中に径方向および円周方向に延びる機械的な力に耐えるのを助けるために、45°を超える、例えば60°の巻き付け角度で堆積された繊維で形成される。大動脈根足場180の基部184(すなわち、弁の流入側)および上側部分186(すなわち、弁の流出側)は、繊維を管状セクション152に巻き付けることによって形成される。基部の繊維角度は、足場が足場の長手方向軸に沿って作用する力に耐えるのを助けるために、一般に、45°よりも小さく、例えば30°である。足場の繊維密度を上げることは、足場の機械的強度を高めるのにも役立つ。一般に、足場の洞182は、壁(184/186)と比較してより硬いことが予想される。例えば、繊維は、バルサルバ洞に小さい繊維間隔で、および大動脈壁に大きい繊維間隔で堆積させることができる。
【0086】
特定の巻き付け角度、異なる巻き付け角度間の遷移、および特定の巻き付け角度を有する領域の長さは、足場180のサイズおよび足場180の構造要件によって決定される。例えば、成人患者に移植するための足場は、小児患者に移植するための足場に対して異なる要件を有するであろう。異なる寸法および繊維角度を有する足場の例を
図27に示す。足場190は長手方向に対して約30°の繊維角度を有し、足場192は約45°の繊維角度を有し、足場194は約60°の繊維角度を有する。30°(足場90)および45°(足場192)に繊維を備えた足場の管状足場実施形態の顕微鏡画像を
図28にさらに明確に示す。
図27に示す足場の1つを製造するためにシステム100で使用されるパラメーターを表1に示す。マンドレルの回転速度が上がると、巻き付け角度が大きくなる。いくつかの実施形態において、ベース層は、最初にマンドレル114上に堆積(例えば、印刷)される。次に、繊維118の後続の層が、ベース層の上に直接適用される。層が一緒に結合するのを助けるために、第2以上の層がマンドレル114上に堆積される温度は、ベース層がマンドレル114上に堆積される温度よりも高い。例えば、第1の層は81°Cで堆積することができ、第2の層は91°Cで堆積することができる。第2のおよびそれ以降の層に高い温度を使用すると、層を融合させるのに役立つ。いくつかの実施形態において、足場は、様々な層を一緒に融合するのを助けるためにアニーリングされる。本明細書に記載の実施形態は、PCLベースの繊維に基づいている。しかしながら、PCLは、本明細書に記載されるように、軟組織足場を形成するためにメルトエレクトロライティングに使用することができるポリマーの一例にすぎない。
【0087】
【表1】
繊維径は、マンドレル114の回転速度および巻き付け角度を変更することによっても調整することができる。一般に、巻き付け角度が増加するにつれて、繊維118の直径は減少する。
【0088】
いくつかの実施形態において、繊維118は、約10nm~約100μmの範囲の直径を有する。足場を形成するために、1つまたは複数の繊維直径を使用することができる。特定の繊維径は、足場に播種する細胞の種類と再生する組織、および足場の機械的特性の要件に依存する可能性がある。
構造を形成するためにマンドレルに繊維の複数の層を堆積させることによって、足場の層を形成できることを理解されたい。ただし、足場は複数の構造を持つことができる。例えば、いくつかの実施形態において、複数の構造がマンドレル114上に堆積される。各構造の繊維は、単一の角度または複数の角度で配列することができる。3層構造の足場の一つの実施形態を
図29に示す。
図29(a)は、それぞれが互いに同軸に配列された内部構造1002、中間構造104、および外部構造106を有するシミュレートされたモデル1000を示している。内部構造1002は、50°に配列された繊維を有し、中間構造は、65°に配列された繊維を有し、外部構造は、40°に配列された繊維を有する。この配列は、内側構造1002が内膜の足場として機能し、中間構造1004が中膜の足場として機能し、外側構造1006が外膜の足場として機能する、天然大動脈のコラーゲン線維配向に類似している。いくつかの実施形態における足場1000は、足場が再生しようとする天然組織に類似する機械的特性を有する。これは、再生組織がまだ完全にそれ自体を支えるには未熟である移植の初期段階の間に、その場で経験する機械的な力を足場に伝達することができることを意味する。細胞が増殖し、新しい組織が成長し始めると、生分解性の繊維を使用した足場が再生組織に置き換えられて、足場が分解する。この足場支持組織から再生組織への移行中に、その場で弁に加えられる機械的な力は、足場から再生組織に徐々に伝達される。
【0089】
この3層構造を有する足場の実施形態を
図29(b)に示し、外側構造1006と重ね合わせたシミュレートされたモデルを示す。足場1000の寸法および特徴は、繊維がその上に堆積されるマンドレルの寸法および特徴、および特定の患者のための要件に依存する。
図31は、さまざまな3層構造のメルトエレクトロスピニング足場を示している。足場1010は、直径が約10mmの大動脈壁を有し、足場1012は、直径が約15mmの大動脈壁を有し、足場1014は、直径が約20mmの大動脈壁を有し、および足場1016は、直径が約25mmの大動脈壁を有する。それぞれのマンドレル(110a、112a、114a、および116a)も示されている。
【0090】
実施形態および実施例は、大動脈根足場に向けられてきたが、本開示は、一般に、血管などの管状軟組織足場に拡張して適用され、大動脈根足場に限定されない。
【実施例】
【0091】
典型的な実施形態を例としてのみで説明する。
【実施例1】
【0092】
1.1 材料および方法
1.1.1 材料の選択および足場の設計の合理性
PCLは、足場が分解し機械的な完全さを喪失するまでの間に、ECMタンパク質を分泌し、組織が発達するのに必要な時間を提供することができる。、その遅い分解プロファイルのため、このアプリケーションの候補として選択される。このポリマーの生体適合性と比較的安価な製造ルートは、HVTEアプリケーションの有望な基盤を提供する。材料特性に加えて、繊維配列、多孔性、繊維直径、および階層的微細構造は、細胞接着、浸潤、分化、ECM生成などの足場の生物学的活性と同様に異方性の機械的特性に寄与する要因である。これらの要因は、心臓弁組織工学用の足場の設計と製造において慎重に考慮する必要がある。メルトエレクトロライティング(MEW)の機能を活用して、制御され、事前に規定された構造、多孔性、および繊維径を備えた足場を、大動脈心臓弁の位置に合わせて設計および製造できる。この目的のために、生物学的に着想されたエレクトロスピニングにより形成された繊維は、細胞外マトリックス(ECM)の堆積を可能とする生体構造を模倣し、天然の大動脈弁弁尖の組成、寸法、および機械的特性を再現する線維、および心室層において見られるコラーゲン繊維の波状の配向状態を模倣するように設計されている。
【0093】
1.1.2 生体模倣足場の製造
生物学的に着想された足場は、
図12に概略的に示されるような屋内のメルトエレクトロライティング(MEW)で製造される。MEWは、エレクトロスピニングと添加剤製造の原理を組み合わせることにより、無溶媒の足場の製造を可能にする新しい足場製造技術である。このプロセスでは、医療グレードのPCLペレット(Purasorb(登録商標)のPC12、Purac Biomaterials社、オランダ製)をプラスチックシリンジ中で75および85℃に加熱した(販売元情報)。2.0barの空気圧により、メルトポリマーが23Gの針に押し込まれ、6~6.5kVの高電圧により、横方向に並進するアルミニウムコレクター上に繊維が引き付けられる。ニードルは最初コレクターから7mmの距離に保たれたが、動的条件下でテストされたサンプルでは4mmまで短縮された。これは、ニードルまでの距離がより低くくされたメルトエレクトロライティングによって、堆積の精度を高めることができるためである。針がコレクターから4mmに保たれたとき、ステージは280mm/minで移動させた。これは、以前に行われた研究との比較から、より小さなギャップとより遅い収集速度でエレクトロライティングを行うことで、堆積の精度を高めることができるためである。すべての繊維ネットワーク(80mm×20mm×0.5mm)を、レーザー切断機(ILS12.75、Universal Laser Systems、Inc社、USA製)を使用して80Wで、(20mm×10mm)のサンプルに切断し、機械的特性評価、画像化、および細胞播種に用いた。
【0094】
1.1.3 イメージング技術による形態学的特性評価
足場の形態学的特性は、走査型電子顕微鏡(SEM、JSM、7001f、日本電子株式会社、日本)によって分析された。PCLをメルトエレクトロスピニングしたサンプルは、イメージングの前に10mAで150秒間金スパッタコーティング(JEOLファインスパッタコーター)され、観察は32mmの作動距離、10kV、真空条件下で行われた。全体的外観、繊維積層、および溶融点は、印刷品質の決定要因であるため、イメージングプロセスで検討される。実体顕微鏡(Leica M125、ライカマイクロシステムズ、ドイツ製)を使用して、印刷最適化のプロセスを通じて繊維の直径と繊維の配列を評価した(n=20)。
【0095】
1.1.3 機械的特性の特性評価
一軸引張試験は、500Nロードセル(5848、Instron、オーストラリア製)を備えたInstron Micro Testerを使用して、足場のすべてのグループで実施された。サンプル(n=5)は、空気圧クランプで円周方向に固定され、室温で空気中に浮遊している。足場の高さの100%の引張ひずみを、0.1mm/秒のひずみ速度で適用し、応力/ひずみ曲線をプロットして、細孔の焼き付き、層数、および曲率の程度の影響を特徴付けた。すべてのサンプルの線形弾性率、接線係数、および高引張弾性率は、それぞれ、初期直線的領域(0~5%)、遷移領域(15~20%)、および曲線の最も急な領域(20~30%)での、応力/ひずみ曲線の傾斜から計算した。ピーク点での最大応力が記録され、極限引張応力(UTS)として表され、天然大動脈弁弁尖の破損時の最大応力と比較された。次に、本来の大動脈弁弁尖の機械的特性を最もよく表す足場が、さらなる機械的試験のために選択された。足場の異方性比を測定するために、サンプルを半径方向(代表的な
図5に示す)に(20mm×10mm)でレーザー切断した。天然弁尖組織の異方性を最もよく模倣したグループを、応力/ひずみ曲線にプロットし、生理学的条件(37°C)でリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に沈めたサンプルで実行される段階的な応力緩和、疲労、ヒステリシステストを含む徹底的な動的機械的テストに対して選択した。
【0096】
平衡条件下で選択したPCLメルトエレクトロスピニング足場の挙動を評価するために、段階的な応力緩和試験を実施した。サンプルは、0.1mm/秒のひずみ速度で10%のランプ引張延伸ステップにかけられ、各ステップ間で15分間一定に保たれた。応力緩和挙動は、15分の緩和期間を超えても観察されたが、応力緩和試験の緩和期間を特定するために、最初に0.0001Nのしきい値が規定された。平衡弾性率は、応力緩和試験からプロットされた応力/ひずみ曲線の傾きから計算された。
【0097】
機械的疲労は、収縮期および拡張期の心血管サイクル中に加えられる反復応力のために、弁膜の生体力学の意味で非常に重要である。疲労特性は、サンプルが500回の繰り返しサイクルで振幅10%、周波数1ヘルツの正弦波引張ひずみを受けた一軸引張試験セットアップで調査された。この疲労試験に使用される周波数と振幅は、70拍/分(1Hzに相当)で引張力が加えられ、大動脈弁弁尖が最初の長さの10%まで伸びるときに、心臓血管の負荷条件を完全に再現する。疲労条件下での足場の剛性低下を測定するために、最初のサイクルおよび100サイクルごとの足場の剛性が報告された。さらに、このエレクトロスピニングされた足場が劣化する傾向を特徴づけるために、足場に加えられた力サイクルの数に関して足場の剛性が報告された。
【0098】
他の重要な粘弾性特性のヒステリシスと回復性は、Anssari-Benamら2によって公開されたブタ大動脈弁弁尖の粘弾性特性と比較されるように特徴付けられる。ヒステリシステストは、初期長の最大40%まで5%サイクルの増分ロードおよびアンロードで実行される。サンプルは、最初に0.1mm/minのひずみ速度で初期長さの5%までロードされ、次に開始点に戻される。次に、サンプルを10%まで伸ばすことによってこれを繰り返し、継続的に繰り返して、大きなエネルギー散逸が観察され、足場が最初の長さを完全に回復できないポイントを特定する。
【0099】
1.1.4 臨床における生物学的な特徴
1.1.4.1 細胞の分離と培養
ヒト臍帯静脈平滑筋細胞(HUVSMC)は、倫理委員会(EK2067)の被験者の承認に従って、アーヘン大学病院の婦人科から好意的に提供された臍帯から分離された。HUVSMCは、臍帯を剥ぎ取り、残っている付着結合組織を取り除き、1mmの組織リングに切断し、細胞培養フラスコに入れることによって分離された。組織培養プラスチック(TCP)での組織リングからのHUVSMCの成長を、1~2週間後に観察した。HUVSMCは、5%CO2および95%湿度の10%ウシ胎児血清(FCS;Gibco社製)を添加したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM;Gibco社製)で、37℃で80%から90%の細胞占有面積率まで培養し、その後継代した。5~7継代の間の細胞をMEW足場の播種に使用した。播種前に、細胞表現型を、アルファ平滑筋アクチン(a-SMA)およびフォンウィルブランド因子(vWF)の免疫細胞化学的染色によって検証した。ここで、細胞はa-SMAに対して陽性であり、vWFに対して陰性である必要がある。このため、細胞を96ウェルプレートに播種し、リン酸緩衝生理食塩水(PBS;Gibco社製)中のメタノールを含まない3%パラホルムアルデヒド(PFA;Roth社製)で30分間固定し、PBSで再水和した。非特異的エピトープをブロックし、0.1%Triton-PBS中の5%正常ヤギ血清(Dako社製)を使用して室温で1時間細胞膜を透過処理した。一次抗体として、HUVSMCを1:400に希釈したマウス抗a-SMA(A2547;Sigma社製)、または1:200に希釈したウサギポリクローナル抗ヒトvWf(A0082;Dako社製)とともに37℃で1時間インキュベートした。次に、サンプルを洗浄し、対応する二次抗体と共に37℃で1時間インキュベートした:Alexa Fluor594ヤギ抗マウス(A 1 1005; Invitrogen社製)、またはAlexa Fluor488ヤギ抗ウサギ(A 1 1008; Invitrogen社製)、それぞれ1:400に希釈。
【0100】
対比染色は、4’,6-ジアミジノ-2-フェニルインドール(DAPI)核酸染色(MolecularProbes)を用いて行った。染色された細胞を播種したMEW足場を、落射照明用の顕微鏡(AxioObserver Z1; Carl Zeiss GmbH社製)で観察した。画像はデジタルカメラ(AxioCam MRm; Carl Zeiss GmbH社製)を使用して取得した。
【0101】
1.1.4.2 フィブリン合成
凍結乾燥したフィブリノーゲン(Calbiochem社製)をMilli-Q精製水に溶解し、分子量6000~8000のカットオフメンブレン(Novodirect社製)を使用してトリス緩衝生理食塩水(TBS;pH7.4)に対して一晩透析した。得られたフィブリノーゲン溶液をフィルター滅菌し、Infinite M200分光光度計(Tecan Group Ltd社製)を使用して280nmでの吸光度を測定することにより濃度を決定した。この構築物のフィブリンゲル成分(合計5.0mL)は、2.5mLのフィブリノーゲン溶液(10mg/mL)で構成され、フィブリン重合開始溶液は、5×107の臍帯動脈SMC/FB細胞またはAD-MSC、TBS中の0.375mLの50mM CaCl-2(Sigma社製)、および0.375mLの40U/mLトロンビン(Sigma社製)を含む1.75mLのTBSで構成されていた。
【0102】
1.1.4.3 細胞播種実験
MEW足場は、80%エタノールに浸した後、バイオセーフティキャビネット内で蒸発させることにより滅菌した。完全に乾燥させた後、MEW足場をカスタムメイドのシリコーン(M4641-A;B&G Faserverbundwerkstoffe GmbH社製)細胞播種型に入れた。HUVSMCは、0.25%トリプシン/0.02%EDTA溶液(Gibco社製)によってTCPから酵素的に分離され、コニカルチューブ(Sarstedt社製)に収集され、Neubauerチャンバーを使用してカウントされた。細胞を500×gで5分間遠心分離し、1250万細胞/mL培地の濃度で細胞培養培地に再懸濁した。足場あたり4つのスポット(A=4cm2)を播種し、それぞれに80pLの容量で100万個の細胞(足場あたり合計400万個の細胞)を播種した。
【0103】
MEW足場をフィブリンゲルに埋め込むために、細胞を重合開始溶液に2,000万細胞/mLの濃度で再懸濁した。型はフィブリンゲル成分で満たされていた。フィブリノーゲンの急速な重合は、移植片全体に均一な細胞分布を保証した。最終的な細胞濃度は1000万細胞/mLフィブリンゲルであった。
播種およびフィブリン包埋した足場を、10%FCS、1%抗生物質/抗真菌剤(ABM;Gibco社製)および1mM L-アスコルビン酸2-リン酸(Sigma社製)を添加したDMEMで、37℃および湿度95%の静的条件で1週間および2週間培養した。培地は2~3日ごとに交換した。
【0104】
1.1.4.4 生/死染色
1週間後および2週間後のMEW足場での細胞生存率は、カルセインAMおよびヨウ化プロピジウムを使用した生死(LD)染色によって評価された。カルセインは生存可能なHUVSMCを緑色に染色するために使用され、ヨウ化プロピジウムは死細胞を赤色に標識するために使用された。サンプルを37℃で10分間染色した後、PBSで洗浄した。続いて、染色されたサンプルを、落射照明用に装備された顕微鏡(AxioObserver Z1;Carl Zeiss GmbH社製)で観察した。画像はデジタルカメラ(AxioCam MRm;Carl Zeiss GmbH社製)を使用して取得した。
【0105】
1.1.4.5 電子顕微鏡検査
細胞接着および細胞被覆率およびMEW足場での拡散を調査するために、両方の培養期間後に走査型電子顕微鏡を実施した。細胞を播種したMEW足場を、0.1M Sorenson’s buffer(pH7.4)中の3%グルタルアルデヒド中で1時間に亘って室温で固定した。その後、リン酸ナトリウム緩衝液(0.2M、pH7.39、Merck社製)で洗浄し、30%、50%、70%、90%エタノールで連続的に脱水し、100%エタノールで10分間3回脱水した。サンプルをCO2で臨界点乾燥した後、20nmの金-パラジウム層でスパッタコーティング(Leica EM SC D500)した。画像は、ESEM XL 30FEG顕微鏡(FEI、フィリップス、アイントホーフェン、オランダ、製)を使用して加速電圧10kVで取得した。
【0106】
1.1.4.6 免疫組織化学
細胞を播種した足場の免疫組織化学的分析を行うために、メタノールが含まれない3%PFAのPBS中でサンプルを室温において1.5時間固定し、その後PBSで洗浄した。フィブリン包埋サンプルを脱水し、パラフィンに包埋し、切片にした。非特異的エピトープをブロックし、細胞膜を0.1%Triton-PBS中の5%正常ヤギ血清(NGS;Dako社製)を用いて室温で1時間透過処理した。播種した足場を以下の一次抗体とともに37℃で1時間インキュベートした。1:1000に希釈したマウス抗ヒトa-SMA(A 2547;Sigma社製)、1:300に希釈したウサギ抗ヒトコラーゲンI型(R 1038、Acris社製)、および1:50に希釈したウサギ抗ヒトコラーゲンIII型(R 1040、Acris社製)。サンプルを洗浄し、以下の二次抗体とともに室温で1時間インキュベートした。a-SMAについて染色したサンプルをAlexa Fluor594ヤギ抗マウス(A 11005、Invitrogen社製)抗体と共にインキュベートし、I型コラーゲンについて染色したサンプルをAlexa Fluor488ヤギ抗ウサギ(A 11008、Invitrogen社製)抗体と共に、両方とも1:400に希釈されて37°Cで1時間インキュベートした。コラーゲンIII型について染色したサンプルを、1:300に希釈したウサギ免疫グロブリン/ビオチン化(E 0432、Dako社製)と共に37°Cで1時間インキュベートした後、1:1000に希釈したストレプトアビジン/TRITC(RA 021、Acris社製)と共に37℃で1時間インキュベートした。天然の人間の臍帯が、陽性対照として機能した。陰性対照については、サンプルを、希釈液と二次抗体のみでインキュベートした。
【0107】
アクチン染色は、製造元の指示に従って実施した。PFA固定サンプルをPBSで洗浄し、細胞を0.1%Triton-PBSを用いて室温で1時間透過処理し、PBS中の3.5nMファロイジンと共に室温で1時間インキュベートした。すべてのサンプルは対比染色され、画像は上記のように撮影された。
1.1.5 統計分析
すべての構築物の機械的特性は、平均標準偏差として報告される。対応のないT検定を用いて、細孔寸法が可変の足場を比較し(n=5)、テューキー多重比較コンポーネントを用いた一元配置分散分析を利用して、層数と曲率度の影響を調査した(n=3)(GraphPad、Prism 7)。p<0.05の値は有意であると見なされ、(p<0.001****、0.0001<p<0.001***、0.001<p<0.01**、0.01<p<0.05*)を用いてすべての棒グラフでの有意性の水準を示した。
【0108】
1.1.6 弁機能テストのセットアップ
カスタムメイドのフローループシステムを使用して、生理学的大動脈条件(流量:5.0L/分、周波数:70bμm、平均大動脈圧:100mmHg、120-80mmHg)での弁の機能を評価し、平均圧力勾配と有効オリフィス面積(EOA)を調べた。弁の流入側と流出側の直ぐ傍らに配置された圧力トランスデューサー(DPT 6000、pvd CODAN Critical Care GmbH社製)を使用して圧力を測定し、流量計(sonoTT、em-tec GmbH社製)を使用して弁への瞬間的な流入を測定した。次に、LabVIEWアプリケーションをインターフェースとして使用して、圧力トランスデューサーと流量計によって測定された圧力と流量の値を記録した。ISO5840-2ガイドラインに従って、平均圧力勾配とEOAを特定するために、心室と大動脈の圧力差と流入の二乗平均平方根を10サイクルから計算した。
【0109】
1.2 結果と考察
足場の構造は、大動脈心臓弁弁尖の線維および心室層に見られるコラーゲン線維を模倣しており、直径1mmのらせん状パターンが、円周方向の線維のレイダウンパターンとして定義されている(
図5、
図13)。らせん状にパターン化された繊維は、繊維の間隔が最終的な構築物の剛性にどのように影響するかを定量化するために、円周方向に0.5mmと0.25mmの間隔で配置される。コラーゲン繊維は、天然の弁尖の半径方向に高度に圧着されたエラスチン繊維と組み合わせて、より低い密度で利用可能であり、異方性の挙動をもたらす。したがって、直径0.5mmの半円は、異方性を制御および模倣するために、より大きな間隔(2および1mm)で設計されている。さらに、10、20、および30層の繊維を積み重ねて、引張特性に対する層数の影響と、天然弁尖特性との相関関係を特徴付ける。天然大動脈弁の機能特性は、J字型の応力/ひずみ曲線と最大応力が発生するひずみに関連している。この挙動を再現し、応力の上昇が発生するひずみ速度を制御するために、繊維が堆積する曲率の程度を制御し、足場を製造して、天然の弁尖の特性に従って最適な構造を見つける。
【0110】
1.2.1 形態学と生物学に触発された足場構造体
円周方向の繊維間隔が0.5mmと0.25mmの直線状およびらせん状にパターン化された足場の形態と印刷品質を、
図4に示す代表的なSEM画像で示す。
足場の構造に関係なく、平均繊維径は、構築物全体で19.76±1.54μmであると測定された。この繊維径は、概して繊維径が200μmを超えるメルト堆積モデリング(FDM)や生体押出成形などの他のメルト押出成形技術で製造された足場よりも桁違いに小さくなっている。繊維は、曲線または直線といった繊維の構造に関係なく、足場のすべてのグループの堆積層全体に正確に積み重ねられる(
図4a、
図4c)。MEWプロセス中に蓄積された静電荷が原因で、0.25mmの繊維間隔の場合、意図したスタッキング構造体を横切って交差する繊維が少数ある。直線繊維の構造の足場では、単に融合しているというよりは、円周方向および放射状の繊維が互いに重なり合って配列されている。0.5mmの繊維間隔でらせんパターンを有する足場の場合に明確な融合挙動が観察される。0.25mm間隔のらせん状にパターン化された足場の動的な機械的特性評価に進むと、針からコレクターまでの距離が短くなるため、より大きな繊維(28.62±0.87μm)が観察された。動的機械的特性評価のサブセクションでさらに説明するように、MEWパラメーターのこの変更の結果として、より優れたメルトエレクトロライティング品質と優れた機械的特性が達成された。
【0111】
1.2.2 さまざまな細孔寸法、層数、および曲率の程度を持つ足場の機械的特性
心臓弁組織工学に適用するように製造された足場は、心臓血管の血流体制に適用されても機械的負荷条件に耐えると同時に、弁の開閉が成功するように変形するという性能が要求される。心臓弁弁尖は、この軟組織の最適な機能を決定するJ字型の応力-ひずみ曲線を示すことが知られている。一軸引張試験を行った結果、足場のすべてのグループについてのJ字型応力/ひずみ曲線が、
図6に示すように示された。螺旋状の繊維が、最初に半円から直線配向に変換され(
図6)、低い印可応力での大きな拡張を可能にした。この変換プロファイルにより、一定の極限引張応力に達するまで、初期の直線的低応力関係から急勾配の応力/ひずみプロファイルへの曲線遷移が発生する。この特性は、
図6に示すように、組織全体にわたる波状で相互接続されたコラーゲン繊維が、最初にねじれと曲げによって解かれ、続いて、らせん状のパターンから真っ直ぐな繊維に変化して、結果として剛性が接線方向に上昇するという、天然の大動脈弁組織の特性に類似している。従って、J字型の応力/ひずみ曲線に対して計算された引張弾性率を、変位の過程で特定された特定のひずみレベルに関して分析する必要がある。
【0112】
繊維の間隔は剛性に大きな影響を及ぼし、足場の細孔寸法を半分にすることにより、UTSが0.55±0.040MPaから0.93MPa±0.029にほぼ2倍になることがわかった。この大幅な増加は、高い引張弾性率の値(E
HTM、0.5mm=3.07±0.23MPa、E
HTM、0.25mm=4.87±0.094MPa)でも見られたが、接線方向および直線的弾性率の増加はそれほど大きくなかった。この挙動は、両方の足場の製造に使用された同一の曲率パターンによって説明され、同様の変形挙動をもたらすが、高い引張弾性率と極限引張弾性率の値が異なる(
図7および
図6d)。一方、足場の厚さの増分で足場の耐力の影響を正規化した場合には、MEWプロセスで積層された層数が引張弾性率に及ぼす影響は細孔寸法に関係なく小さいものでしかなかった(
図6a)。ただし、
図4に示すSEM画像で観察されるように、PCL繊維はより高い層に小さな曲率で堆積されるため、最大応力が発生するひずみは、より多くの層を積み重ねることによって低下する。
【0113】
天然大動脈弁弁尖のJ字型の応力/ひずみ挙動を模倣するには、極限引張応力(UTSへのひずみ)を発揮するひずみの値を調整することが重要である。設計されたらせんパターンの曲率を0.1mm増やすと、UTSを発揮するひずみが最初の試験片の長さの23%から47%に上昇する。このような2倍の増加は、J字型の動作を維持しながら、0.1mmを追加して足場の長さを2倍にして曲率を増加させることによっても観察された。この挙動は、足場の構造体のように初期に曲がっているものを真っ直ぐにするためには、より高い曲率を有する足場ほど、対照群と比較して、より多くの伸長を必要とするという事実と一致している。さらに、より湾曲したパターンについての接線弾性率の顕著な低下が観察され、曲率の程度によって引き起こされる直線状から高引張弾性率への曲線的遷移の変化をサポートしている(
図7)。同様のMEWパラメーターで製造されたものの、高度に湾曲した繊維の繊維径が減少したため、曲率の高い足場でもUTSのわずかな減少が観察される。
【0114】
大動脈弁弁尖のJ字型の応力/ひずみ挙動に加えて、異方性は、円周方向ではなく半径方向の伸縮性を高めるものである。
したがって、異方性比を調整するために、足場の半径(1および2mm)方向に大きな細孔寸法が設計されている。1mmの細孔寸法は、UTSが2.56±0.15倍で、降伏強度が円周方向の細孔寸法の0.25よりも半径方向で9.06±0.73倍小さい場合に、より大きな弾性をもたらす。半径方向の細孔寸法を2mmに増やすと、この比率は2倍になる。異方性比は、心臓弁弁尖の位置に関係なく、すべての心臓弁弁尖に必要な異方性のレベルに応じて変更できる。
【0115】
この非常に複雑な組織の機械的特性を模倣するには、足場に、最適な構造体、細孔寸法、足場の厚さ、および曲率の程度を選択する必要がある。この目的のために、0.25mmと2mmの繊維間隔がそれぞれ円周方向と半径方向とに選択された。
図11cに示すように、このメルトエレクトロスピニングされた軟組織足場が示すJ字型の応力/ひずみ挙動は、さまざまな供給源の天然弁弁尖の挙動に似ている。重要なのは、バイオリアクターのコンディショニング(
図8(d))よりも、ブタとヒツジの弁尖の高い引張弾性率の値が我々の足場で完全に模倣されたかどうかである。メルトエレクトロライティングされた足場の機械的特性は、Missirlisによって公表された結果と比較した場合、ヒト大動脈弁弁尖の特性とほぼ同じ程度となった
3。他の研究で報告されているように、この足場の細胞播種および動的コンディショニング時に、構築物全体にECMタンパク質が堆積した結果として引張弾性率の上昇が観察される可能性があると依然として予想される。
【0116】
この非常に複雑な組織の機械的特性を完全に模倣するには、足場に、最適な構造体、細孔寸法、足場の厚さ、曲率の程度、および細孔寸法を選択する必要がある。
1.2.3 応力緩和
応力緩和は、細胞培養プラットフォームとして足場を製造する際に考慮すべき機械感受性細胞型の細胞-ECM相互作用を調節する重要な特性として注目される。生体材料の粘弾性挙動を変えると、細胞が基質の剛性の低下を感知するため、剛性とは別に細胞の挙動に影響が及ぶことがわかっている。したがって、応力緩和試験を実施して、引張ひずみランプの10%で足場を伸ばし、各サイクルで15分間足場を緩和させることにより、粘弾性挙動を評価した(
図9)。メルトエレクトロスピニングされた足場は、より高いひずみ速度で緩和挙動がより顕著である応力緩和特性を示した。最初に急速な緩和が観察され、その後、すべてのひずみレベルで緩和速度が遅くなった。足場を10%伸ばすと、30%の緩和が観察され、伸展のひずみ値が増加すると、足場は44%に増加した。メルトエレクトロスピニングされた足場の機械的応答は、ステラらによって二軸セットアップで27.5±0.77%と報告されている天然大動脈弁弁尖の緩和挙動に似ていた。天然弁尖について報告された応力緩和値は、大動脈弁尖が生理学的血圧でどれだけ伸びるかである10%のひずみ速度でのメルトエレクトロスピニングされた足場の応力緩和挙動と相関する。この応力緩和の類似性は、播種された細胞に天然のような環境を提供し、適切な一連の負荷条件で機械的刺激を促進する。
【0117】
1.2.4 疲労
機械的疲労は、弁がせん断、たわみ、および伸長荷重条件の組み合わせを受けるため、弁の生体力学において重要な役割を果たす。大動脈心臓弁は、その機能中に反復的な周期的ストレスが加えられる非常に厳しい生理学的状態に位置している。疲労特性の重要性にもかかわらず、心臓弁組織工学の目的で製造された足場だけでなく、天然の心臓弁の疲労挙動に関する情報は非常に限られている。周期的な一軸引張試験は、円周方向と半径方向の両方の心血管負荷条件に従って、製造されたMEW足場で実行された。J形状の応力/ひずみ挙動は、天然の大動脈弁弁尖と同様の両方のテスト方向で観察され、円周方向は半径方向の8倍の剛性があり、メルトエレクトロスピニング足場の異方性がさらに確認される(
図10)。力が足場に500サイクル繰り返し加えられると、剛性は円周方向に19%、半径方向に20%低下し、この低下の速度は約70サイクルのコンディショニング後に減少する。
【0118】
次に、対数方程式をこのグラフに当てはめて、足場が6000万サイクル、つまり弁の2年間の機能に相当する場合の疲労特性を予測した。円周方向と半径方向でそれぞれテストした場合、足場の剛性が47%と62%低下すると計算される。最も重要なことは、2年間の機能後の足場の剛性41.1kPaが、大動脈心臓弁弁尖に適用される経弁圧(10.7kPaに相当する80mmHg)をはるかに上回っていることである。
【0119】
1.2.5 ヒステリシスと回復性
大動脈弁弁尖の粘性効果およびその弾力性との相関は、弁の機能的特性にとって重要であるにもかかわらず、組織および組織工学心臓弁の両方についてほとんど知られていないままである。メルトエレクトロスピニング足場の粘弾性特性をさらに特徴づけるために、ヒステリシステストを円周方向と半径方向の両方で足場に負荷および除荷することによって実行し、さまざまなひずみレベルでのエネルギー散逸を測定することによってこの構築物の弾力性を特徴づけた。与えられたひずみレベルまでの応力/ひずみヒステリシス負荷曲線の下の領域は、基本的に、指定された範囲で足場を伸ばすために使用されるエネルギーである。
【0120】
同様に、除荷曲線の下の領域は、足場を元の長さに戻すことによって、その蓄積されたエネルギーの回復を表している。これらの2つの値の違いは、このひずみエネルギーの散逸であり、大きな場合は、試験片を不可逆的に伸ばす可能性があることが以前に示されている。
図11に示すように、J字型の応力/ひずみ曲線が両方のテスト方向で観察され、すべてのひずみレベルが、製造された足場のJ字型の動作をさらに強調している。ただし、直線的変形挙動は、塑性変形の指標として以前に示された、円周方向の4番目のサイクル(15%)および試験の半径方向の5番目のサイクル(20%)から開始して識別された。直線的応力/ひずみ挙動は、同じひずみレベルでの除荷/負荷足場領域の突然の減少に関連しており、これらのひずみレベルでの塑性変形の開始をさらに強調している。同様の現象が、大動脈弁弁尖組織についてAnsar-Benamら
2によって報告され、天然の弁尖が機械的および定量的に類似した挙動をすると報告されている。
【0121】
1.2.6 足場の生物学的活性の評価
PCL MEW足場は製造後に疎水性であるため、最初に足場をO2/Ar2プラズマでプラズマ処理して、表面を親水性にした。次に、ヒト臍帯静脈平滑筋細胞(HUVSMC)の成長、増殖、および細胞外マトリックス堆積をサポートする足場の能力を評価した。HUVSMCは、心血管組織工学に適切であり、体細胞の成長に対応するために繰り返しの手術を回避することで組織工学による心臓弁から大きな恩恵を受ける可能性のある小児集団に臨床的に関連することが示されているため、選択された。HUVSMCは、2つの異なる構成で播種された。i)足場の表面に直接播種し、ii)フィブリンに封入して成形プロセスで合成し、細胞を含むフィブリンゲルに足場を完全に埋め込んだ。どちらの場合も、構築物は静的培養で1週間と2週間維持された。
【0122】
図32は、直接播種アプローチの結果を示している。生/死染色アッセイ(
図32c)によって示される高い細胞生存率は、細胞がコロニーを形成するPCLメルトエレクトロライティング足場の適合性を示している。培養の1週間後、曲がりくねったパターンの足場では少数の細孔が細胞によって埋められたが、直線繊維の足場では埋められなかった。これは、細胞の付着とさらなるコロニー形成を促進する曲線状の繊維によって提供されるより大きな表面積に起因する可能性がある。次の週、すべての足場構成の細孔は完全に埋められ(
図32b)、死んだ細胞の数は少ないままであった(
図32c)。免疫組織化学的分析により、天然の心臓弁弁尖の2つの主要成分であるI型コラーゲンとIII型コラーゲンの合成が明らかになった。
【0123】
次は、MEW足場は、繊維相によって提供される機械的特性および生体を模倣した微細な構造という両方の要素を利用してハイブリッド構築物を生成し、細胞を含んだフィブリンについて典型的に観察される細胞外マトリックスを増産させるために、HUVSMCを含んだフィブリンゲル中に埋め込まれた。埋め込みプロセスによって、PCL繊維の露出がなく(
図12aおよび
図12b)、HUVSMC生存率に負の効果も与えない(
図12c)、均一に埋め込まれたMEW足場がもたらされた。コラーゲンIおよびIIIの細胞外マトリックスの堆積は、免疫組織化学(
図12d)により確認した。2週間の培養中のハイブリッド構築物のリモデリングは、繊維によって提供される機械的支持のために組織収縮をもたらさなかったが、対照フィブリンゲルは、最初の1週間以内にすでに大きく収縮した(
図12aiiおよび
図12aiv)。細胞を媒介する組織収縮は、不充分な弁閉鎖を招き、結果として弁尖短縮に至る。このよく知られた現象は、生体外および生体内の両方で機能的な組織を加工する全体的コンセプトを脅かす重大な欠点である。
【0124】
1.2.7 弁機能
最後に、原理の証明として、三葉弁に成形されるMEW足場の適合性と、カスタムメイドのフローループシステムにおいて大動脈位置での厳しい血行力学的条件に耐える可能性を調べた。ほとんどの弁が肺プロテーゼとしての低圧循環中に移植される結果、組織工学心臓弁の機械的特性が不充分となることが、もう一つの主要な問題である。MEW足場をフィブリンに埋め込み、バルサルバ洞を特徴とする大動脈根の直径2.2cmのシリコーンモデル(
図14)に単一の弁尖として縫合され、直径2.2cmの弁が得られた。これらの弁が、生理的大動脈圧およびISO5840によって示される流動条件下でのモック循環系で試験され、2.45±0.36mmHgの平均弁通過圧力低下および3.3cm
2±0.26のEOAである良好な流体力学的性能を示した。これは直径2.2cmの弁についてのISOの要求を満たしている(
図16を参照)。これは、足場が全身状態に耐えるのに充分な強度を持ち、同時に狭窄挙動を回避するのに充分な曲げ剛性を持っていることを示している。曲げ剛性をどのように決定するかは、暫定的に開発されるか繊維の特性評価のための標準に基づくものであるが、技術的または概念的な制限の影響を受けている実施要項に沿って報告されている。したがって、本研究で骨格の曲げ挙動に対する層の影響は、定性的に示されており、カスタムメイドのフローループにおける弁の適切な曲げ挙動を評価した。高速動画から抽出されたフレームが全閉とシミュレートされた心周期中弁尖の遮るもののない開口部(
図15)を表示する。また、流体力学的な評価により、縫合糸保持特性と弁が、生理的負荷に耐える任意の剛性ステント構造に依存していなかったことが実証された。原理実証弁の性能が無細胞フィブリン層で達成され、細胞を含んだ構築物の動的刺激がさらにフィブリンの機械的特性を改善することが期待されているという点に着目することが重要である。PCLの分解速度が遅いため、最初の生体内相(18か月)において、MEW足場が、その場での組織形成をサポートして、その後の足場の分解時に、機能性と、機械的に適切な弁へのさらなる発達とを保証すると予想される。
【実施例2】
【0125】
2.1 材料および方法
2.1.1 大動脈根のモデルの3次元プリント
パーソナライズされた足場の製造プロセスを容易に促進するために、導電性金属からマンドレルを物理的に製造する代わりに、その後エレクトロスピンする型(マンドレル)を作製するために、溶融堆積モデリング(FDM)3Dプリンターを用いるラピッドプロトタイピングが選択される。大動脈根の型を、モデルの取り付けを良くするように90度に保たれた並進コレクター(1000mm/分)上の0.2mmノズルからPLA繊維(Bilby 3d、オーストラリア)を堆積することによって作製した(ウオンバットドラフター、オーストラリア)。得られたモデルは、滑らかな表面を有する高品質であり、寸法はモデル化された部分と調和していた。ただし、コレクターの導電率は、メルトエレクトロライティングのプロセスにおける基本的な要件であり、FDM3次元印刷に一般的に使用される材料には欠けている要素である。したがって、銅の導電層は、物理蒸着スパッタリング(PVDS)によるモデルの表面上に堆積させた。PVDSコーティングは、モデルを真空チャンバー(5.1 E-7 Torr)内に2000秒間配置して毎秒8.946Aおよび200ワットの理論的な速度で行ない、このコーティング実験要項の結果としてモデルが完全にコーティングされた(
図23c)。PVDSコーティングの代わりは、所望のモデルを印刷する3次元に使用することができる導電性ポリマーフィラメントを使用することである。導電性PLA/グラフェン複合体(Proto pasta)を用いてモデルを作製した(Makerbot、Replicator2×、オーストラリア、製)。この複合体の定格体積抵抗率は、層全体で15オーム-cmと報告されている。フィラメントを210℃で溶融し、1000mm/分で移動する並進コレクター上に堆積させ、バルサルバ洞を含む平滑大動脈根型を得た。後者のアプローチは、後処理コーティングの必要性を排除し、プロセスをさらに一歩促進するため、この用途により適していることがわかった。MEWが3次元足場を形成するためのマンドレルとしてこのモデルが使用される。
【0126】
2.1.2 大動脈根の巨視的形状を複製するパーソナライズされた管状足場のMEW
カスタムメイドのMEW管状コレクターを使用して、バルサルバ洞を含む大動脈根の巨視的形状を複製するメルトエレクトロライティングされた足場を製造した。このプロセスでは、医療グレードのPCLペレット(Purasorb(登録商標)PC12、Purac Biomaterials、オランダ製)をプラスチックシリンジで80℃または92℃に加熱する。2.0barの空気圧により、溶融ポリマーが23Gの針に押し込まれ、10.5~11.0kVの高電圧により、マンドレルがx軸で横切る方向に移動しながら、回転するマンドレルコレクターに繊維が引き下げられる。針はマンドレルの壁から10.5mmに保たれ、他のMEWパラメーターが一定に保たれている間、洞の最高点から7.5mmに配置された。対称アルミニウム管1の場合、回転速度と並進速度の異なる組み合わせを利用して、所望の巻き付け角度を達成することができる。ただし、ポリマーで作られた非対称モデルに関するMEWに関する文献の研究はない。さらに、MEWは、確立されたパラメーターがこの構築物に準拠していない新しいマンドレルコレクターアセンブリで実行された。この新しいコレクターの回転速度と並進速度の組み合わせと巻き付け角度の関係を確立するために同様の原理が使用されたが、MEWパラメーターは、ポリマーの新しいコレクターの設定、形状、および導電率の値に準拠するように最適化する必要があった。
【0127】
まず、モーターのプログラムされた回転速度は、プーリーシステムによって引き起こされる損失のためにマンドレルコレクターの効果的回転速度と等しくないため、モーターの効果的回転速度は実験的に測定された。予想通り、設定されたスピンドル速度とマンドレル回転速度の間には線形関係が見られる。この比率は、バルサルバの壁と洞を横切る3次元プリントモデルの直径に関連する接線速度を計算するために使用される。繊維の巻き付け角度は、マンドレルの回転速度を変更しながら、一定の並進速度(1000mm/分)を維持することによって制御される。考慮すべきもう1つの重要な要素は、プログラムされたチューブの長さとは対照的に、実際の堆積の長さに対するポリマージェットの遅れの影響である。この比率は、私たちのグループで以前に確立された実際の繊維巻き付け角度に直接影響する効果的なコレクター並進を識別するために使用される。繊維の巻き付け角度は、マンドレルの回転速度を変更しながら、一定の効果的並進速度(1000mm/分)を維持することによって制御される(表1)。大動脈基部の繊維は、マンドレルの軸に対して30°、45°、60°に整列するようにプログラムされている。バルサルバ洞では、この領域での接線速度が増加するため、より高い巻き付け角度が達成されると予想される。針と回転マンドレルの間に印加される電圧は、マンドレルの回転速度の増加によって加えられる追加の引っ張り力が原因で、45°および60°の足場でわずかに増加した(0.2kV)。
【0128】
2.1.3 形態学的特徴付け
管状MEW足場の形態学的特性を分析して、異なる巻き付け角度および繊維径を有する足場を製造する際のこのプロセスの有効性を評価した。試験片を8つの部分に分け、各セグメントの3つの複製上のランダムな点を光学顕微鏡(Axio Lab A1、ZEISS社製)で画像化して、画像上でのコレクターから針までの距離を変化させる効果を調べた(
図27)。これらのセグメントは、上行大動脈が基本的に足場の上側部分であり左心室が足場の底部と呼ばれる場合に、それに従って命名された。各サンプルは、足場片を平坦化し、全区間にわたってより一貫性を可能にするために2枚の顕微鏡のガラススライドの間に入れた。合計で81枚の画像は、すべての独立した足場巻き付け角度について得られ、画像は、繊維径および巻き付け角度を測定する画像解析ソフトウェア(Image J)にエクスポートした。その後、異なるグループ間での巻き付け角度および繊維径を比較しながら全てのサンプルにわたる印刷の一貫性を定量的に評価するために、得られたデータを統計的に分析し、Minitab18を用いてプロットした。
【0129】
2.2 結果と考察
足場は、構築物全体を通して一定の表面厚さで、良好な定性的仕上げで首尾よく製造された。
図27に示す顕微鏡画像は、事前にプログラムされた30、45、60°の足場における巻き付け角度の違い、および個々の足場についての洞を視覚的に強調して示している。繊維巻き付け角度を明確に識別可能なように変えると、管状のメルトエレクトロライティングされた足場について報告されているように[Biointerphases 7、1-16(2012)]、異方性特性が直接的に生成される。
【0130】
図示の定性分析は、
図31aに示すように、全てのサンプルおよび大動脈根および洞についての複製を横切る繊維の巻き付け角を測定し統計的評価することで得られた。全ての足場群にわたる堆積されたメルトエレクトロライティングされた繊維の巻き付け角度は、事前にプログラムされた30、45および60°の構成角度とほぼ同じである。これらは、実験要項に挙げられた式を用いて算出されている。すべての計算は、大動脈壁を横切る繊維の巻き付け角度を予測および事前規定するために行われた。30、45および60°の構成について、繊維を29.25±3.08°、45.22±4.96°および56.55±2.14°で巻き、繊維巻き付け角度を事前規定するこの方法の有効性を検証した。全ての印刷パラメーターがメルトエレクトロライティングプロセス全体を通して一定に保たれたので、より高い巻き付け角度が、足場のすべてのグループについて洞を横切って観察された(
図31b)。洞を横切る繊維巻き付け角度は、全ての構成について壁上での測定角度よりも一貫して4.5度大きかった。一元配置ANOVAおよび事後テューキー多重比較統計検定を、足場構成のすべてにおいて実施して前述の関係の統計的有意性を確保した。
図31に示すように、足場のすべてのグループの壁と洞を横切る巻き付け角度は、行われた多重比較試験によると、著しく異なる。針からコレクターまでの距離が小さいほど、洞での有効接線速度が高くなり、この領域での繊維の巻き付け角度が大きくなる。実際、接線速度と繊維巻き付け角度の間の確立された関係により、バルサルバ洞で見られる高さの勾配にわたる繊維巻き付け角度の予測が可能になった。これらのデータは、天然大動脈弁洞の機械的特性とよく相関しており、これは、研究により、大動脈根の洞が大動脈壁組織と比較してより機械的に堅牢であることが認められているためである。
【0131】
巻き付け角度に加えて、3つの足場構成すべての壁と洞を横切って繊維径を測定した。繊維の直径と構成された巻き付け角度の逆の関係は、
図31bに明確に示されている。60°の足場のマンドレルの回転速度が高いと、30°および45°の足場と比較して、堆積した繊維に大きな伸縮効果が生じる。
この現象により、繊維径が30°足場の20.24±1.59mmから45°および60°足場の18.03±1.38mmおよび14.84±1.63mmにそれぞれ低下する。さらに、
図31cは、ジェットパルスに対する可変ニードルからコレクターまでの距離の影響を確認している。洞上に堆積した繊維は、対応する足場壁と比較して、直径が平均4.3μmだけ明らかに大きいことが示された。テューキー多重比較統計検定は、足場の3つのグループすべてについて、壁全体の繊維径と洞の間の統計的差異を認証した。
【0132】
最後に、
図28に示すように、階層的な3層およびマルチスケールの足場を理想的な表面仕上げで正常に製造した。大動脈基部の位置についてのこの構築物の機械的有効性を評価するために、3層の足場に対してさらに機械的および形態学的特性評価が実行される。
利用された設計と製造の方法論は、大動脈基部の幾何学的寸法に似た足場の製造に成功した。この例示的な実施形態は、バルサルバ洞を含む大動脈弁の形状を複製する既製の型(すなわち、マンドレル)に適合しながら、PCL繊維の巻き付け角度を制御することを目的とした。
【0133】
繊維の巻き付け角度と、コレクターの並進速度とマンドレルの回転速度の組み合わせの数学的関係は、式1~4に従って、3次元プリントされた導電性型上にメルトエレクトロライティングされた足場を製造することによって検証された。
式1~4:
【0134】
バルサルバ洞では、この領域の針からコレクターまでの距離が短いため、より高い巻き付け角度と繊維径が達成された。さらに、より高い巻き付け角度は、その巻き付け角度を達成するためには、より大きなマンドレル回転速度を用いる必要があるため、繊維直径を減少させることが見出された。巻き付け角度が小さいほど、軸方向の剛性が高いと仮定されるので、この管状MEW足場には異方性の機械的特性が期待されている。一方、巻き付け角度が大きいほど、円周方向のコンプライアンスが高くなると予想される。
【0135】
心臓弁弁尖と大動脈根メルトエレクトロスピニング足場を統合して、弁導管全体を製造する。
平坦な管状パーソナライズ足場の機械的および形態学的特性は、それぞれ、大動脈心臓弁弁尖および大動脈根の特性に向けて最適化されている。ただし、これらの足場は、異なるコレクター(つまり、マンドレル)設定によって製造されるため、1つのステップで両方の足場を製造することはできない。弁の寸法およびデザインを模倣しながら、大動脈心臓弁の位置のための足場を製造するために、平坦な足場は、管状大動脈根の足場に組み込むことができる。あるいは、多段階の設計および製造フレームワークを使用して、弁尖足場を管状大動脈根足場に組み込むことができる(例えば、
図25)。
【0136】
事前に確立された最適なフラットメルトエレクトロスピニング足場は、弁尖の寸法にレーザーカット(レーザー切断デバイス)され、3次元印刷モデルの周りに巻き付けられる。交連点で足場を局所的に加熱すると、足場を凹状プロファイルに一致させる3つの融合点が作成され、天然の大動脈弁弁尖に見られる接合が可能になる(
図25b)。その後、アルミニウム製マンドレルコレクターを使用して、管状MEW製造プロセスのためにこれら2つのマンドレルを一緒に保持した。バルサルバ洞は、弁尖足場を形成するエレクトロワインティングステップからの繊維堆積を阻止するシールドマンドレルとして機能する。
【0137】
管状メルトエレクトロスピニング足場は、チューブ内の平らな弁尖足場を伴う2ピースモデルで首尾よく製造された。弁尖は、主に大動脈基部の継ぎ目および弁尖間三角形領域で管状足場の内側にシームレスに取り付けられた。ただし、平坦部の最上層および管状足場の第1の層のみ限定されていたため、付着点は弱いと思われる。融合点を改善するために、管状の足場は、以前のMEWパラメーターと比較して付着が比較的強いように思われるより高い温度(92℃)および回転速度で製造された。心血管条件下で大動脈弁足場の機能を確保するために、補強技術が必要になる場合がある。これらの取り付け点の補強は、MEW製造プロセスを通じて、または管状メルトエレクトロライティングの完了後の後処理ステップとして行うことができる。
【0138】
以下の特許請求の範囲および前述の説明において、明示的な文言または必要な暗示のために文脈が別のことを要求する場合を除いて、「含む(comprise)」という単語、または「含む(comprises)」または「含んでいる(comprising)」などの変形は、包括的意味で使用される。すなわち、記載された特徴の存在を特定するが、足場および方法の様々な実施形態におけるさらなる特徴の存在または追加を排除するものではない。
【0139】
本開示の精神および範囲から逸脱することなく多くの修正を行うことができることは、本開示の当業者には理解されるであろう。