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特許7628338動物細胞増殖促進剤、動物細胞培養用培地及び動物細胞培養装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-31
(45)【発行日】2025-02-10
(54)【発明の名称】動物細胞増殖促進剤、動物細胞培養用培地及び動物細胞培養装置
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/073 20100101AFI20250203BHJP
   C12N 5/02 20060101ALI20250203BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20250203BHJP
   C12M 3/00 20060101ALI20250203BHJP
【FI】
C12N5/073
C12N5/02
C12M1/00 D
C12M3/00 Z
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2023207262
(22)【出願日】2023-12-07
(62)【分割の表示】P 2020555593の分割
【原出願日】2019-11-07
(65)【公開番号】P2024028914
(43)【公開日】2024-03-05
【審査請求日】2023-12-25
(31)【優先権主張番号】P 2018210910
(32)【優先日】2018-11-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】516132301
【氏名又は名称】インテグリカルチャー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川島 一公
(72)【発明者】
【氏名】羽生 雄毅
(72)【発明者】
【氏名】福本 景太
【審査官】黒川 美陶
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-209585(JP,A)
【文献】特開昭62-166883(JP,A)
【文献】特開2006-280234(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0057783(US,A1)
【文献】国際公開第2017/191691(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2007/0178586(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00-7/08
C12M 1/00-3/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鳥類の有精卵由来の胚膜から得られる、1)羊膜由来細胞と漿尿膜由来細胞と卵黄嚢由来細胞、2)羊膜由来細胞と漿尿膜由来細胞、3)羊膜由来細胞と卵黄嚢由来細胞、または4)漿尿膜由来細胞と卵黄嚢由来細胞、からなる群から選択されるいずれか1つの混合培養の培養上清の製造方法。
【請求項2】
前記鳥類の有精卵が鶏卵である、請求項1に記載の培養上清の製造方法。
【請求項3】
動物細胞増殖促進剤の製造方法であって、
請求項1または2に記載の培養上清の製造方法によって培養上清を得る工程と、
前記培養上清を含有する動物細胞増殖促進剤を製造する工程と、
を含む製造方法。
【請求項4】
動物細胞増殖促進剤の製造方法であって、
鳥類の有精卵由来の胚膜から得られる羊膜由来細胞の培養上清を得る工程と、
前記培養上清を含有する動物細胞増殖促進剤を製造する工程と、
を含む製造方法。
【請求項5】
前記鳥類の有精卵が鶏卵である、請求項4に記載の動物細胞増殖促進剤の製造方法。
【請求項6】
前記動物細胞増殖促進剤が、肝臓、膵臓、輸卵管、胃、骨格筋、心臓、胆嚢、腸、脳、ファブリキウス嚢及び骨からなる群から選択されるいずれか1種以上の動物細胞に対する動物細胞増殖促進剤である、請求項3~5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
動物細胞培養用培地の製造方法であって、
請求項3~6のいずれか1項に記載の製造方法によって動物細胞増殖促進剤を得る工程と、
前記動物細胞増殖促進剤を含有する動物細胞培養用培地を製造する工程と、
を含む、製造方法。
【請求項8】
鳥類有精卵から得られた、1)羊膜由来細胞と漿尿膜由来細胞と卵黄嚢由来細胞、2)羊膜由来細胞と漿尿膜由来細胞、3)羊膜由来細胞と卵黄嚢由来細胞、または4)漿尿膜由来細胞と卵黄嚢由来細胞のうちいずれか1つが混合培養されている第1の培養槽と、
増殖を目的とする肝臓、膵臓、輸卵管、胃、骨格筋、心臓、胆嚢、腸、脳、ファブリキウス嚢及び骨からなる群から選択されるいずれか1種以上の動物細胞が培養されている第2の培養槽と、
第1の培養槽から第2の培養槽へ培地を流す第1の流路と、
第2の培養槽から第1の培養槽へ培地を流す第2の流路と、
第1の培養槽、第1の流路、第2の培養槽、第2の流路の順に動物細胞培養用培地を還流させ、前記動物細胞及び/又は前記動物細胞培養用培地の状態に従って、第1の流路及び第2の流路における前記動物細胞培養用培地の流れを制御する培地流量制御部と、を備える動物細胞培養装置。
【請求項9】
鳥類有精卵から得られた羊膜由来細胞が培養されている第1の培養槽と、
増殖を目的とする肝臓、膵臓、輸卵管、胃、骨格筋、心臓、胆嚢、腸、脳、ファブリキウス嚢及び骨からなる群から選択されるいずれか1種以上の動物細胞が培養されている第2の培養槽と、
第1の培養槽から第2の培養槽へ培地を流す第1の流路と、
第2の培養槽から第1の培養槽へ培地を流す第2の流路と、
第1の培養槽、第1の流路、第2の培養槽、第2の流路の順に動物細胞培養用培地を還流させ、前記動物細胞及び/又は前記動物細胞培養用培地の状態に従って、第1の流路及び第2の流路における前記動物細胞培養用培地の流れを制御する培地流量制御部と、を備える動物細胞培養装置。
【請求項10】
前記還流する前記動物細胞培養用培地に新鮮な動物細胞培養用培地を導入するための培地導入路と、
前記還流する前記動物細胞培養用培地から培養後の動物細胞培養用培地を除去するための培地除去路と、をさらに有し、
前記培地流量制御部は、前記動物細胞及び/又は前記動物細胞培養用培地の状態に従って、前記培地導入路からの前記新鮮な動物細胞培養用培地の導入及び前記培地除去路からの前記培養後の動物細胞培養用培地の除去を制御する、請求項8または9に記載の動物細胞培養装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動物細胞増殖促進剤、動物細胞培養用培地及び動物細胞培養装置に関する。
【背景技術】
【0002】
動物細胞の培養においては、一般に細胞増殖を維持する機能を有する因子として培地にウシ胎児血清等を添加した血清培地や血清の代わりにホルモンや増殖因子などを添加した無血清培地が用いられている。
【0003】
それらの因子以外に、特開2013-247927号公報には、米糠抽出物が培養動物細胞に対して増殖促進作用を有することが開示されている。また、特開2011-182736号公報には、β-コングリシニン濃縮物の加水分解物を添加した培地で動物細胞を培養すると細胞増殖率を高めることができることが開示されている。さらに、特開平7-188292号公報には、ヒト由来の線維芽細胞の培養上清に含まれる糖蛋白質がヒト血管内皮細胞及び肝実質細胞の増殖を促進することが開示されている。さらに、特開平5-301893号公報には、ヒト由来グリオーマ細胞株を培養した細胞培養上清に含まれる蛋白質がグリア細胞や線維芽細胞に対する増殖促進効果を有することが開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、新規な動物細胞増殖促進剤、動物細胞培養用培地及び動物細胞培養装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明にかかる一実施態様は、鳥類または爬虫類の卵の胚膜の培養上清を有効成分として含有する動物細胞増殖促進剤である。前記卵がニワトリ卵であってもよい。前記動物細胞増殖促進剤が、筋肉系細胞、内臓系細胞、または神経系細胞に対する細胞増殖剤であってもよく、肝臓細胞、膵臓細胞、輸卵管細胞に対する細胞増殖剤であってもよい。
【0006】
本発明にかかる他の一実施態様は、上記いずれかに記載の細胞増殖促進剤を含有する細胞培養用培地である。
【0007】
本発明にかかる他の一実施態様は、鳥類または爬虫類の卵の胚膜由来の細胞を培養する第1の培養槽と、増殖を目的とする動物細胞を培養する第2の培養槽と、第1の培養槽から第2の培養槽へ培地を流す第1の流路と、第2の培養槽から第1の培養槽へ培地を流す第2の流路と、第1の培養槽、第1の流路、第2の培養槽、第2の流路の順に細胞培養用培地を還流させ、前記動物細胞及び/又は前記細胞培養用培地の状態に従って、第1の流路及び第2の流路における前記細胞培養用培地の流れを制御する培地流量制御部と、を備える動物細胞培養装置である。また、前記還流する前記細胞培養用培地に新鮮な細胞培養用培地を導入するための培地導入路と、前記還流する前記細胞培養用培地から培養後の細胞培養用培地を除去するための培地除去路と、をさらに有し、前記培地流量制御部は、前記動物細胞及び/又は前記細胞培養用培地の状態に従って、前記培地導入路からの前記新鮮な細胞培養用培地の導入及び前記培地除去路からの前記培養後の細胞培養用培地の除去を制御するものであってもよい。
【0008】
==関連文献とのクロスリファレンス==
本出願は、2018年11月8日付で出願した日本国特許出願2018-210910に基づく優先権を主張するものであり、当該基礎出願を引用することにより、本明細書に含めるものとする。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施形態における細胞増殖装置の模式図である。
図2】本発明の一実施例において、ニワトリ卵漿尿膜の培養上清を培地に添加した場合に、図に示した組織(胃、骨格筋、心臓、胆嚢、腸、脳、ファブリキウス嚢及び骨)由来の細胞で細胞増殖が促進されることを示す観察結果の写真である。
図3】本発明の一実施例において、肝臓、膵臓、および輸卵管由来の細胞について、図1の結果を定量的に示したグラフである。
図4】本発明の一実施例において、ニワトリ卵卵黄嚢の培養上清を培地に添加した場合に、図に示した組織(胃、筋肉、心臓、肝臓、腸、脳、ファブリキウス嚢及び骨)由来の細胞で細胞増殖が促進されることを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の目的、特徴、利点、およびそのアイデアは、本明細書の記載により、当業者には明らかであり、本明細書の記載から、当業者であれば、容易に本発明を再現できる。以下に記載された発明の実施の形態および具体的な実施例などは、本発明の好ましい実施態様を示すものであり、例示または説明のために示されているのであって、本発明をそれらに限定するものではない。本明細書で開示されている本発明の意図並びに範囲内で、本明細書の記載に基づき、様々な改変並びに修飾ができることは、当業者にとって明らかである。
【0011】
==動物細胞増殖促進剤==
本開示の動物細胞増殖促進剤は、鳥類または爬虫類の卵の胚膜の培養上清を有効成分として含有する。
【0012】
胚膜を採取する卵の由来である鳥類または爬虫類は、ウズラ、ニワトリ、トカゲ、ヘビ、ワニ、カメなどが例示できるが、これらに限定されず、卵の胚膜を有する鳥類または爬虫類の動物であればよい。
【0013】
ここで胚膜とは、鳥類・爬虫類の発生過程において、胚体外に形成され、胚の保護・栄養・呼吸などの機能を果し、孵化または出生後の体の構築には加わらない膜組織を意味し、例えば、胚の最外側に位置する漿膜、胚体を包む羊膜、尿嚢をつくる尿膜、漿膜と尿膜とが部分的に癒着した漿尿膜(chorioallantoic membrane: CAM)、卵黄を包む卵黄嚢などが挙げられる。
【0014】
胚膜の培養上清とは、胚膜を単離して培養した培地のことである。培養する胚膜は、上述した漿膜、羊膜、尿膜、漿尿膜、卵黄嚢などの膜のうち、一種類を培養しても、複数種類を混合して培養してもよい。
【0015】
胚膜は、公知の方法で卵から採取することができる(例えば、一島英治:化学と生物,13巻8号,p489-497(1975)などを参照のこと)。例えば、具体的には、以下のような方法で胚膜を単離できる。まず、有精卵を所定期間人工孵化に適した条件でインキュベートした後、卵殻を割り、(1)尿膜は、胚の消化管後部の腹側から生じている膨らんだ膜を取り出すことで得ることができ、(2)羊膜は、胎児の周囲に存在する血管の走行していない透明の膜組織を取り出すことで得ることができ、(3)卵黄嚢は、卵黄を包んでいる膜組織を取り出すことで得ることができ、(4)漿膜は、卵内のすべての要素を囲んだもっとも外側にある膜組織を取り出すことで得ることができる。さらに、インキュベートする時間を長くすると、漿膜と尿膜は部分的に融合し、漿尿膜となる。この時期に、漿尿膜は、卵殻と接していて、血管が走行している膜組織を取り出すことで得ることができる。インキュベートする期間は、各動物によって、また目的の膜組織によって、最適期間を適宜決めればよく、例えばニワトリ卵の場合、4日~21日間が好ましく、10日~18日間がより好ましく、13日~15日間がさらに好ましい。これら胚膜を培養する際、膜状のまま培養してもよいが、物理的に膜を破砕したり、プロテアーゼ(例えば、コラゲナーゼ、エラスターゼ、ディスパーゼ、パパインなど)で酵素処理を行ったりすることにより、胚膜から胚膜由来の細胞を単離して培養してもよい。
【0016】
胚膜の培養には、一般的な動物細胞培養に利用する培地を用いることができ、例えば、DMEM、F12などが例示できるが、これらに限定されない。この培地には、培地添加剤として通常配合されているサプリメントを添加してもよい。培養条件も、通常の動物細胞培養に用いられる条件を使用することができ、典型的には、炭酸バッファー系の培地を用いて、5%CO2、37℃で培養するが、培養条件はこれに限定されず、当業者が適宜選択することができる。培養時間は特に限定されないが、1~7日間が好ましく、2~6日間がより好ましい。培養後は、上清を回収し、そのまま細胞培養用培地に添加してもよいが、フィルトレーションや遠心分離などで、細胞残渣などの固形物を除去して得られる培地を添加してもよい。細胞培養用培地への培養上清の添加量は、培養細胞の増殖効果が認められる有効量であれば特に制限されないが、培地中の最終濃度は20%以上が好ましく、35%以上がより好ましく、50%以上がさらに好ましい。
【0017】
この培養上清を添加した細胞培養用培地で培養する動物細胞の種類は特に限定されず、平滑筋細胞、心筋細胞、骨格筋細胞などの筋肉系細胞、心臓細胞、肝細胞、胃由来の細胞、腸由来の細胞などの内臓系細胞、または神経細胞やグリア細胞などの神経系細胞が例示できる。細胞が由来する動物種も特に限定されず、ヒト、マウス、ラット、サル、ブタなどが例示できる。
【0018】
このように、胚膜由来の細胞を培養して得られた培養上清を動物細胞培養用培地に添加することにより、培養している動物細胞の増殖を促進させることができる。従って、この培養上清を動物細胞増殖促進剤として用いることができる。
【0019】
なお、胚膜由来の細胞の培養上清を動物細胞増殖促進剤として用いる場合、同時に他の細胞増殖因子を用いても構わない。
【0020】
==細胞増殖装置==
本発明の細胞増殖装置は、鳥類または爬虫類の卵の胚膜由来の細胞を培養する第1の培養槽と、増殖を目的とする動物細胞を培養する第2の培養槽と、第1の培養槽から第2の培養槽へ培地を流す第1の流路と、第2の培養槽から第1の培養槽へ培地を流す第2の流路と、第1の培養槽、第1の流路、第2の培養槽、第2の流路の順に細胞培養用培地を還流させ、前記動物細胞及び/又は前記細胞培養用培地の状態に従って、第1の流路及び第2の流路における前記細胞培養用培地の流れを制御する培地流量制御部と、を備える。
【0021】
第1の培養槽では、上述したような、動物細胞増殖促進剤を調製する際に行う胚膜由来の細胞の培養方法に準じた培養を行う。第2の培養槽では、上述したような、動物細胞増殖促進剤を添加した培地で動物細胞を培養する培養方法に準じた培養を行う。
【0022】
第1の培養槽と第2の培養槽は、第1の流路と第2の流路とで流体接続されている。例えば、図1(A)のように、第1の培養槽11と第2の培養槽12が第1の流路21と第2の流路22とで直接接続されていてもよい。第1の培養槽11と第2の培養槽12が流体接続されている限り、1つあるいは複数の他の培養槽を設けてもよく、他の培養槽と、第1の培養槽11または第2の培養槽12との接続も様々な構成が考えられる。例えば、図1(B)のように、第1の流路21の途中に第3の培養槽13を設け、流路が第1の培養槽11から第3の培養槽13を通じて第2の培養槽12に接続されていてもよい。あるいは、図1(C)のように、第2の培養槽12とは独立に、第3の培養槽13を設け、流路も、第1の流路21と第2の流路22とは別に、第1の培養槽11と第3の培養槽13を流体接続する第3の流路31と第4の流路32を設けてもよい。(B)や(C)の場合、第3の培養槽13で培養する細胞を適当に選択することによって、その細胞が第1の培養槽11での培養や第2の培養槽12での培養から影響を受けたり、それらの培養に影響を及ぼしたりすることができる。
【0023】
ここで、第1の培養槽11での培養や第2の培養槽12以外の培養槽での培養が、第1の培養槽での培養や第2の培養槽での培養から受ける影響や、第1の培養槽での培養や第2の培養槽での培養に与える影響は様々なものが考えられ、例えば、細胞の増殖、細胞の分化、組織の形態形成、培地のpH調製、培地への細菌混入予防などが例示できる。
【0024】
例えば、具体的には、第3の培養槽13に、第2の培養槽12とは異なる細胞であって、胚膜由来の細胞を培養した培地で増殖できる細胞を入れておくことで、第2の培養槽12と第3の培養槽13で、同時に細胞を増殖させることができる。あるいは、第3の培養槽13で、第1の培養槽11とは異なる胚膜由来の細胞を培養することによって、第2の培養槽12で培養している細胞の増殖をさらに促進させることができる。あるいは、第3の培養槽13で培養する細胞が、胚膜由来の細胞を培養した培地で増殖でき、かつ第2の培養槽12で培養する細胞を増殖させる因子を分泌する細胞であってもよい。
【0025】
槽と槽の間は管で接続され、その管が流路を形成してもよい。また、これらの管には、弁が設置されていてもよい。培地流量制御部が、培養している細胞及び/又は細胞培養用培地の状態をモニターし、その状態に従い、この弁を介して各流路における細胞培養用培地の流れ(例えば、流速、流量など)を制御してもよい。
【0026】
弁の構造は特に限定されず、フランジ形、ねじ込み形などの公知の構造であればよく、弁の調整方法も特に限定されず、空気駆動式、電磁式、電動式、油圧式などの公知の調整方法であればよい。また、細胞培養用培地の管内での逆流を防ぐため、管に逆止弁を備えていてもよい。
【0027】
培地流量制御部がモニターする細胞及び/又は細胞培養用培地の状態とは、例えば、細胞の増殖の様子や、細胞の分化の様子、培地のpHなどが例示できるが、これらに限定されない。細胞の増殖の様子は、例えば、単位面積当たりの細胞数を数えたり、プレートの底面積に対する細胞の占める面積の割合などを測ったりすることで判断できる。細胞の分化の様子は、例えば、分化すると発現して蛍光発光するマーカー遺伝子を細胞に導入しておくことによって、蛍光を測定することで判断できる。培地のpHは、例えば、直接pHを測定してもよく、あるいはpHによって変化する色素を培地に添加しておき、その色で判断してもよい。
【実施例
【0028】
(1)漿尿膜又は卵黄嚢の単離方法
試験に用いる漿尿膜又は卵黄嚢は、以下の方法によってそれぞれ単離した。
【0029】
ニワトリの有精卵を37℃でインキュベートし、14日後に卵殻を割って、卵殻と接していて、血管が走行している膜組織を漿尿膜として取り出すとともに、一方で卵黄を包んでいる膜組織を卵黄嚢として取り出し、これらの膜組織をHBSS(Hank’s Balanced Salt Solution )中にそれぞれ浸漬した。これらの膜組織をピンセットなどで物理的に細かく裁断した後、遠心分離を行い、上清を除去した。
【0030】
単離した各膜組織に、コラゲナーゼ溶液(200IU/mL)を加えて37℃で1時間保持した後、再度遠心分離を行い、その上清を除去した。このコラゲナーゼ処理した各膜組織にHBSSを加え、40μmのフィルターでろ過し、得られた濾液を遠心分離して上清を除去することにより漿尿膜由来細胞又は卵黄嚢由来細胞を回収した。なお、漿尿膜由来細胞又は卵黄嚢由来細胞を保存する場合には、これを細胞凍結液(10%DMSO溶液)に懸濁し、-80℃まで徐々に冷却することにより凍結し、-80℃で保存した。
【0031】
(2)漿尿膜又は卵黄嚢の培養方法
(1)で得られた漿尿膜由来細胞又は卵黄嚢由来細胞を10%ウシ胎児血清(FBS)および1%ペニシリン・ストレプトマイシン(PS)溶液を含有したDMEM(以下、FBS・PS含有DMEMと称する)に加え、4×10cells/dishの濃度で細胞培養用ディッシュ(直径10cm)に播種し、37℃、5%CO環境下で2~4日間培養した。
【0032】
(3)培養上清の回収方法
(2)で示した培養方法によって調製した漿尿膜培養液又は卵黄嚢培養液を0.22μmのフィルターを用いてろ過し、得られた濾液を動物細胞増殖促進剤として動物細胞培養に用いた。なお、調製した培養上清を保存する場合には、-20℃で凍結して保存した。
【0033】
(4)動物細胞培養
(4-1)各組織からの細胞の単離方法
培養に用いるニワトリ細胞は、以下の方法によって単離した。
【0034】
まず、ニワトリの有精卵を37℃でインキュベートし、14日後に卵殻を割って、ニワトリ胚を取り出した。このニワトリ14日胚から胃、骨格筋、心臓、胆嚢、腸、脳、ファブリキウス嚢及び骨を単離し、それぞれHBSS溶液に浸漬した。その後、(1)と同様の方法で各組織由来の細胞を単離した。
【0035】
(4-2)各組織からの細胞の培養方法
各組織由来の細胞は、FBS・PS含有DMEMに(3)で調製した漿尿膜培養上清又は卵黄嚢培養上清を等量加えた培養用培地を用いて、(2)と同様の方法で培養を行った。なお、対照として、漿尿膜培養上清又は卵黄嚢培養上清を添加せずにFBS・PS含有DMEMのみの培地を用いた以外は同じ条件で培養した細胞を用いた。
【0036】
(4-3)各培養における、細胞数の計測方法
(4-2)の結果を、肝臓、膵臓、輸卵管、胃、筋肉、心臓、腸、脳、ファブリキウス嚢及び骨由来の細胞について、定量的に評価した。ここで、各組織由来の細胞数は、以下の方法によって計測した。
【0037】
まず、各組織由来の細胞の培養液をディッシュから除去し、PBSを加えて細胞をそれぞれ洗浄した。PBSを取り除いた後、トリプシン-EDTA溶液を加え、37℃で1~2分間インキュベートして細胞を剥離させた後、FBS・PS含有DMEMを加えて反応を停止させた。剥離した細胞を含む溶液をすべて回収し、これを遠心分離することで細胞を得た。さらに、この細胞にFBS・PSを加えて懸濁し、この細胞懸濁液20μLとトリパンブルー溶液20μLとを混合した。この細胞懸濁液中で、トリパンブルーで染色されていない生きた細胞の数を、顕微鏡下で、血球計算盤を用いて計測した。
【0038】
(4-4)結果
まず、漿尿膜培養上清を添加した培地で約3~5日間培養した時の細胞を位相差顕微鏡で観察した。図2にその細胞の写真を示すが、どの細胞を培養した場合も、(3)で調製した漿尿膜培養上清を添加した場合のほうが、漿尿膜培養上清を添加しない場合より細胞数が多かった。これは、添加した漿尿膜培養上清によって細胞の増殖が促進されたことを示している。
【0039】
この結果を定量的に示すため、肝臓、膵臓、輸卵管由来の細胞に対して漿尿膜培養上清を用い、3個のシャーレで実験した場合の細胞数の平均と標準誤差を図3に示したが、肝臓、膵臓、輸卵管由来の細胞のいずれの場合も、漿尿膜培養上清を添加したほうが、漿尿膜培養上清を添加しない場合に比べて約2.5~4倍に細胞が増殖していた。
【0040】
次に、卵黄嚢培養上清を添加した培地を用いて、胃、筋肉、心臓、肝臓、腸、脳、ファブリキウス嚢及び骨由来の細胞に対する増殖促進効果についても同様に調べたところ(n=2)、図4に示したように、いずれの場合も卵黄嚢培養上清を添加した場合のほうが、漿尿膜培養上清を添加しない場合より細胞数が多かった。これは、添加した卵黄嚢培養上清によって細胞の増殖が促進されたことを示している。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明によって、新規な動物細胞増殖促進剤、動物細胞培養用培地及び動物細胞培養装置を提供することができるようになった。
図1
図2
図3
図4