(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-31
(45)【発行日】2025-02-10
(54)【発明の名称】ErCo2系の磁気熱量化合物及びこれを用いた磁気冷凍装置
(51)【国際特許分類】
C22C 28/00 20060101AFI20250203BHJP
F25B 21/00 20060101ALI20250203BHJP
F25J 1/00 20060101ALI20250203BHJP
【FI】
C22C28/00 A
F25B21/00 A
F25J1/00 A
(21)【出願番号】P 2023510901
(86)(22)【出願日】2022-03-15
(86)【国際出願番号】 JP2022011748
(87)【国際公開番号】W WO2022209879
(87)【国際公開日】2022-10-06
【審査請求日】2023-04-26
(31)【優先権主張番号】P 2021056525
(32)【優先日】2021-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、未来社会創造事業「磁気冷凍材料および水素液化システムに関する研究開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】タン シン
(72)【発明者】
【氏名】ライ ジャウェイ
(72)【発明者】
【氏名】セペリ アミン ホセイン
(72)【発明者】
【氏名】大久保 忠勝
(72)【発明者】
【氏名】宝野 和博
【審査官】小川 武
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-077438(JP,A)
【文献】LIU X. B. et al.,Magnetocaloric effect in Co-rich Er(Co1-xFex)2 Laves phase,Journal of Applied Physics,2008年01月18日,Vol. 103,07B304
【文献】Prokleska, J.; Vejpravova, J.; Vasylyev, D.; Sechovsky, V.,Magnetism of Er(Co1-xXx)2 compounds: effects on structure and electronic properties,Journal of Alloys and Compounds ,2004年,Vol.383 No.1-2,P.122-125 ,10.1016/j.jallcom.2004.04.020
【文献】Garcia, F.; dos Santos, H.; Soares, M. R.; Takeuchi, A. Y.; da Cunha, S. F,Recovery of ErCo2 Fermi level by substitution of Co by Ni and Fe,Journal of Applied Physics,1998年,Vol.83 No.11, Pt. 2,p.6969-6970
【文献】和田 裕文,磁気冷凍への応用をめざした巨大磁気熱量効果材料の開発,応用物理,第72巻第7号,社団法人応用物理学会,2003年07月10日,p.905-908
【文献】CHAABA, I. et al.,Magnetic and magnetocaloric properties of Er(Co1-xFex)2 intermetallic compounds,Journal of Magnetism and Magnetic Materials,2017年05月15日,Vol. 439,p. 269-276
【文献】YAMAMOTO Takao A. et al.,Magnetocaloric effect of rare earth mono-nitrides, TbN and HoN,Journal of Alloys and Compounds,2004年,Vol. 376,p. 17-22
【文献】DUC, N. H. et al.,The magnetic phase transitions in R(Co, Al)2 compounds (R: Dy, Ho, Er),Physica B,1992年,Vol. 176,p. 232-238
【文献】MAKSIM Anikin et al.,Features of magnetic and thermal properties of R(Co1-xFex)2(x<=0.16) quasibinary compounds with R=Dy,Journal of Magnetism and Magnetic Materials,2016年02月27日,Vol. 418,p.181-187
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 28/00
F25B 21/00
F25J 1/00
JSTPlus/JSTChina/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Er(エルビウム)、Co(コバルト)、Al(アルミニウム)、Fe(鉄)、Ni(ニッケル)並びに不可避的不純物からなり、次の組成式:
ErCo
2-x-y(Al,Fe)
xNi
y;0.01≦x≦0.1,0.01≦y≦0.2の組成を有する化合物を含むと共に、
磁気相転移の転移温度T
trは25Kから46Kの温度範囲であって、
前記転移温度T
trの前後20Kの範囲で2次磁気相転移を示すことを特徴とする磁気冷凍材料。
【請求項2】
前記化合物は、次の組成式:
ErCo
2-x-yAl
xNi
y;0.01≦x≦0.1,0.01≦y≦0.2の組成を有する請求項1に記載の磁気冷凍材料。
【請求項3】
前記化合物は、次の組成式:
ErCo
2-x-yAl
xNi
y;0.01≦x≦0.1,0.12≦y≦0.2の組成を有する請求項2に記載の磁気冷凍材料。
【請求項4】
前記化合物は、次の組成式:
ErCo
2-x-yFe
xNi
y;0.035≦x≦0.1,0.01≦y≦0.2の組成を有する請求項
1に記載の磁気冷凍材料。
【請求項5】
請求項1乃至
4の何れかに記載の磁気冷凍材料において、前記2次磁気相転移は転移温度T
trの前後20Kの範囲で体積変化率(dV/V)が0.4%以下であることを特徴とする磁気冷凍材料。
【請求項6】
請求項1乃至
4の何れかに記載の磁気冷凍材料において、前記転移温度T
trの前後20Kの範囲で、エントロピー変化は、5T磁界の元、△S>0.05J/cm
3・Kが得られることを特徴とする磁気冷凍材料。
【請求項7】
請求項
6に記載の磁気冷凍材料において、
前記エントロピー変化は、5T磁界の元、△S>0.1J/cm
3・Kが得られることを特徴とする磁気冷凍材料。
【請求項8】
請求項1乃至
7の何れかに記載の磁気冷凍材料を用いた磁気冷凍装置。
【請求項9】
請求項
8に記載の磁気冷凍装置を用いた水素液化装置、又はヘリウム液化装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はErCo2系の磁気熱量化合物及びこれを用いた磁気冷凍装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、燃料電池社会に向けて水素エネルギーの需要が高まる中、液状(輸送・貯蔵時)でのエネルギー効率が高いことから、水素液化の研究が盛んに行われている。従来の液化システムと比較して、カルノーサイクルに近い磁気液化の方がエネルギー効率が高い。水素液化装置としては、例えば特許文献1~3、非特許文献1に開示された能動的蓄冷式磁気冷凍(AMR;Active Magnetic Refrigeration)サイクルが知られている。
磁気熱量水素液化には、水素の沸騰温度、液体水素貯蔵のための熱損失の防止、磁気熱量冷凍システムの実用化を考慮すると、20Kから70Kまでの広範な温度範囲で巨大な磁気熱量効果(GMCE;giant magnetocaloric effect)を有する磁気冷凍材料が好ましい。
【0003】
このような大きな温度範囲をカバーするための妥協策として、転移温度の異なる一連の傾斜機能材料を用いることで、磁気熱量水素液化システムを構築することが提案されている。例えば、HoB2,HoN及びHoNi2は、30K未満の温度範囲では、十分なエントロピー変化(△Sm>0.2J/cm3K)を示し、この用途を満足させることができる。しかし、温度が70Kまで上昇すると、エントロピー変化は大幅に低下する。例えば、45-70Kの温度範囲では、△Sm>0.2J/cm3Kを示す材料は現時点では知られておらず、水素液化のための磁気冷却技術の実用化が困難とされている。
【0004】
R=重希土類、M=金属であるラーベス相RM2系化合物は、極低温用途に大きな可能性を示している。例えば、R=Dy,Hoを持つRAl2化合物は60KでΔSm=0.11J/cm3K、30Kで0.17J/cm3Kを示している。一方、化合物RCo2、ここでR=Dy,Ho,Erの場合は、キュリー温度TC=135,77,32KでΔSm=0.14J/cm3K,0.2J/cm3K,0.37J/cm3Kの1次強磁性-常磁性転移を5Tでそれぞれ示す。これらのラーベス相化合物の中で、最大のエントロピー変化を示し、かつ望ましいキュリー温度TC(Curie temperature)を示すErCo2は、水素液化のための巨大な磁気冷凍材料の開発のための有力な候補である。
【0005】
ただし、ErCo2化合物の構造相転移を伴なう1次磁気相転移(FOMT)により、熱ヒステリシスに起因する磁気熱量効果の可逆性が低く、機械的安定性が低いため、ErCo2化合物は磁気熱量水素液化での実際の使用には必ずしも向いていない。実用化に向けてErCo2化合物の環状性能を向上させるためには、ErCo2の相転移を1次磁気相転移から構造相転移を実質的に伴わない2次磁気相転移(SOMT)へと変化させることが望ましい。ErをGdとTbで置換することでRCo2ラーベス相の2次磁気相転移を実現することができるが、TbCo2とGdCo2はそれぞれキュリー温度TC=235K,406Kであり、関心のある温度範囲(20-70K)からは遠く離れている。
Coを6%の3d元素で置換した場合、キュリー温度TCは45-60K程度まで上昇するが、これらの化合物ではまだ1次磁気相転移が見られる。Coを12.5%のFeで置換した場合、キュリー温度TCは85K以上に上昇し、エントロピー変化は0.03J/cm3・Kに却って悪化した。Mnは1次磁気相転移(FOMT)から2次磁気相転移(SOMT)への相転移を調整することが報告されているが、非化学量論的なErCoMnx化合物ではキュリー温度150Kで0.01J/cm3K以下しか得られなかった。
【0006】
ここで、ErCo2の1次磁気相転移(FOMT)から2次磁気相転移(SOMT)への相転移を25Kから70Kの範囲で十分な磁気記録特性とキュリー温度TCを持つように調整できることが好ましい。すなわち、ErCo2の相転移を2次相転移(SOPT)に調整することが重要である。また、相転移温度を25-70Kまで上昇させることが重要である。この場合、例えば相転移温度が45-70Kの磁気冷凍材料が存在するのであれば、これより低温側に大略20K離れている、例えば相転移温度25-45Kの磁気冷凍材料が探索できれば、磁気熱量水素液化の用途に好適である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特表2003-532861号公報
【文献】WO2015-199139号公報
【文献】特開2012-37112号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】斎藤明子、他 『能動的蓄冷式磁気冷凍の基礎的研究』 低温工学、第50巻、第2号、第88頁~第95頁(2015)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ErCo2ベースの化合物は、水素液化などの極低温磁気冷凍アプリケーションに巨大な磁気熱量効果をもたらすことが知られている。ただし、この材料の磁気熱量効果は1次磁気相転移に起因するため、材料はヒステリシスを示し、磁気冷凍サイクル中の巨大な磁気熱量効果と機械的安定性を低下させ、実用化には困難性がある。
【0010】
そこで、巨大な磁気熱量効果を維持しながら、磁気相転移温度Ttrを25~46Kの温度範囲に調整することができる。また、2次磁気相転移による連続的な相転移で、温度サイクルによるヒステリシスが実質的にないと言えるようにすることができる。そして、天然ガス、H2、He等の液化用に好適な磁気冷凍材料を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を進めた結果、水素液化のための磁気熱量冷凍システムの実用化を考えると、例えば20Kから70Kの温度範囲で巨大な磁気熱量効果GMCEを備えた磁気冷凍材料が好ましいと考えた。ErCo2化合物は、その望ましいキュリー温度TCと、構造相転移を伴なう1次磁気相転移(FOMT)に起因する大きなエントロピー変化のため、有望な材料の1つである。しかしながら、1次磁気相転移(FOMT)の性質上、ErCo2化合物では磁気熱量性能の可逆性が低く機械的安定性が低いと予想されていた。一方、ErをGdやTbで置換したのではErCo2化合物とはならず、望ましいキュリー温度TCの達成が難しい。ErCo2化合物のままで、ラーベス相の2次相転移を実現した例は、本発明者らが知る限りではない。そこで、本発明者らは、鋭意研究を行った結果、Coの一部を特定の他の元素に置換することで、ErCo2化合物のまま(結晶構造がそのまま)でも実質的に2次相転移が達成できることを見出した。これにより、望ましいキュリー温度TCと、優れた磁気冷凍特性を達成できる。このような磁気冷凍材料では、磁気熱量特性の可逆性を高めるために、Coの一部を第三元素Mに置換することができる。これにより、磁気相転移が構造相転移を実質的に伴わない2次磁気相転移になるものが得られたと考えられる。
【0012】
第三元素Mとしては、Co(コバルト)と近い性質を有しつつも、同時に異なる性質を有することが好ましいと考えられるが、背景技術で述べたように、このような元素を見出すのは容易ではない。本発明者らは、このような状況下で、特定の元素又は元素の組合せがCoの置換元素として所定量加えることにより、望ましいキュリー温度TCを有することを新たに見出した。また、実質的に2次磁気相転移になることを新たに見出した。
具体的には、以下のようなものを提供することができる。
本発明の実施例において、磁気冷凍材料は、Er(エルビウム)、Co(コバルト)、Al(アルミニウム)、Fe(鉄)、Ni(ニッケル)並びに不可避的不純物からなり、次の組成式:
ErCo2-x-y(Al, Fe)xNiy;0<x≦0.1,0≦y≦0.2の組成を有する化合物を含むものであってもよい。ここで、ErCo2-x-y(Al,Fe)xNiyは、Al及び/又はFeが合計してxだけ存在することを意味してもよい。例えば、x=0.05及びy=0.1とすれば、ErCo2-0.05-0.1(Al,Fe)0.05Ni0.1は、ErCo1.85Al0Fe0.05Ni0.1(ErCo1.85Fe0.05Ni0.1)、ErCo1.85Al0.02Fe0.03Ni0.1、ErCo1.85Al0.03Fe0.02Ni0.1、ErCo1.85Al0.05Fe0Ni0.1(ErCo1.85Al0.05Ni0.1)、を含んでもよい。また、条件により、x≦0.12及びy≦0.3であってもよく、例えば、ErCo2-0.12-0.3Al0.05Fe0.07Ni0.3(即ち、ErCo1.58Al0.05Fe0.07Ni0.3)も含まれてもよいかもしれない。y=0の場合は、ErCo2-x(Al,Fe)xとなる。
〔1〕本発明の実施例において、磁気冷凍材料は、Er(エルビウム)、Co(コバルト)、Ni(ニッケル)並びにAl(アルミニウム)並びに不可避的不純物からなり、次の組成式:
ErCo2-x-yAlxNiy;0.0<x≦0.1,0.0≦y≦0.2の組成を有するものであってもよい。好ましくは、0.01≦x≦0.1,0.01≦y≦0.2の組成を有するものであってもよい。
〔2〕本発明の実施例では、上述する何れかの磁気冷凍材料において、好ましくは、
ErCo2-x-yAlxNiy;0.01≦x≦0.1,0.12≦y≦0.2の組成を有するものであってもよい。
ここで、yが0.2を超えると、転移温度Ttrが大幅に20Kを下回るおそれがある。目的とする温度範囲での磁気冷凍に適さないかもしれない。yが0.01未満の場合は、Niの含有量が不可避的不純物の基準量を下回るおそれがある。このため、実質的に三元系ErCo2-xAlxと区別できないおそれがある。yが0.12未満の場合は、構造相転移を伴なう1次磁気相転移(FOMT)を生じるおそれがある。この場合、長期使用には必ずしも適するとは限らない。しかしながら、短期間の使用であれば対応できるかもしれない。
上記のNi含有量の下で、xが0.1を超えると、転移温度Ttrが70Kを超えるおそれがある。目的とする温度範囲での磁気冷凍に適さないおそれがある。xが0.01未満の場合は、Alの含有量が不可避的不純物の基準量を下回るおそれがある。このため、実質的に三元系ErCo2-yNiyと区別できないおそれがある。
【0013】
〔3〕本発明の実施例において、上述する何れかの磁気冷凍材料は、Er(エルビウム)、Co(コバルト)、Ni(ニッケル)並びにFe(鉄)並びに不可避的不純物からなり、次の組成式:
ErCo2-x-yFexNiy;0.035≦x≦0.1,0.00≦y≦0.2の組成を有するものであってもよい。
〔4〕本発明の実施例において、上述する何れかの磁気冷凍材料は、好ましくは、
ErCo2-x-yFexNiy;0.035≦x≦0.1,0.01≦y≦0.2の組成を有するものであってもよい。
xが0.035未満の場合は、転移温度Ttrの前後20Kの範囲で1次磁気相転移(FOPT)となるおそれがある。一般に、相転移を繰り返すと結晶構造が崩れやすくなる。そして、長期間の安定的な使用に適さないおそれがある。xが0.1を超えると、転移温度Ttrが70Kを超えるおそれがある。そして、目的とする温度範囲での磁気冷凍に適さないかもしれない。yが0.2を超えると、転移温度Ttrが大幅に20Kを下回るおそれがある。そして、目的とする温度範囲での磁気冷凍に適さないかもしれない。yが0.01未満の場合は、Niの含有量が不可避的不純物の基準量を下回るおそれがある。そして、実質的に三元系ErCo2-xFexと区別できないおそれがある。
【0014】
〔5〕本発明の実施例では、上述する何れかの磁気冷凍材料において、磁気相転移の転移温度Ttrは25Kから46Kの温度範囲であって、前記転移温度Ttrの前後20Kの範囲で2次磁気相転移を示してもよい。
〔6〕本発明の実施例において、上述する何れかの磁気冷凍材料では、前記2次磁気相転移は転移温度Ttrの前後20Kの範囲で体積変化率(dV/V)が0.4%以下であってもよい。
体積変化率(dV/V)が0.4%以下であれば、転移温度Ttrの前後20Kの範囲で2次磁気相転移(SOMT)と評価され得る。例えば、相転移の繰り返しがあっても結晶構造の崩れが実質的に少ないかもしれない。そして、長期間の安定的な使用に適する。
〔7〕本発明の実施例において、上述する何れかの磁気冷凍材料では、前記転移温度Ttrの前後20Kの範囲で、エントロピー変化は、5T磁界の元、△S>0.05J/cm3・Kが得られてもよい。
〔8〕本発明の実施例において、上述する何れかの磁気冷凍材料では、前記エントロピー変化は、5T磁界の元で、△Sm>0.1J/cm3・Kが得られるものであってもよい。
〔9〕本発明の実施例において、磁気冷凍装置は、上述する何れかの磁気冷凍材料を用いていてもよい。
〔10〕本発明の実施例において、水素液化装置、又はヘリウム液化装置は、上述する何れかの磁気冷凍装置を用いていてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の実施例において、ErCo2系の磁気熱量化合物は、巨大な磁気熱量効果を維持できる。また、キュリー温度TCが25~46Kの温度範囲にあり得る。そして、2次磁気相転移による連続的な転移であり得る。また、温度サイクルによるヒステリシスが実質的にないと言える。そして、天然ガス、H2、He等の液化用に好適な磁気冷凍材料と考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1A】本発明の実施例において使用可能な磁気冷凍材料を構成してもよいラーベス相化合物の1つの例であるErCo
2の結晶構造を図解する。
【
図1B】使用可能な磁気冷凍材料を構成してもよい化合物の組成をCo、Ni、及びAl若しくはFeの3元系の組成図(ここで、Erは常に一定量存在するのでこの組成図からは除外されている)を図解する。
【
図2】ErCo
2化合物について、1Tでの磁化Mの温度依存性を示している。
【
図3】ErCo
2化合物について、0-5Tでのエントロピー変化ΔSmの温度依存性を示している。
【
図4】ErCo
2-xFe
x化合物について、1Tでの磁化Mの温度依存性を示している。
【
図5】本発明の一実施形態を示すErCo
2-x-yAl
xNi
y化合物について、1Tでの磁化Mの温度依存性を示している。
【
図6】本発明の一実施形態を示すErCo
2-x-yAl
xNi
y化合物について、0-5Tでのエントロピー変化ΔSmの温度依存性を示している。
【
図7】本発明の一実施形態を示すErCo
2-x-yFe
xNi
y化合物について、1Tでの磁化Mの温度依存性を示している。
【
図8】本発明の一実施形態を示すErCo
2-x-yFe
xNi
y化合物について、0-5Tでのエントロピー変化ΔSmの温度依存性を示している。
【
図9】300Kから5Kに冷却したときの化学式ごとの体積変化を示す図で、1次磁気相転移(FOMT)が2次磁気相転移(SOMT)に向かって変化していく状態を極低温X線回折により解析したものである。
【
図10】本発明の実施例の磁気冷凍材料が使用される磁気冷凍サイクルの各工程を説明する概略図である。
【
図11】能動的蓄冷式磁気冷凍(AMR)サイクルを説明する概略図である。
【
図12】磁気冷凍材料をカスケード配置したAMRの一例を示す概略図で、(A)は装置概略図、(B)は磁気冷凍材料の動作温度帯の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本明細書で用いる技術用語の定義を以下に説明する。
相転移(phase transition)は、転移を横切る秩序変数(例えば、強磁性体の磁化)が変化することである。磁性体の相転移(磁気相転移(温度の変化に応じて、固体の磁性が常磁性から強磁性若しくは反強磁性へ、又は逆に強磁性若しくは反強磁性から常磁性へと相転移すること)、例えば強磁性と常磁性の相転移)における秩序変数(order parameter)は、磁化である。磁化は巨視的な物理量だが、磁性体の内部に存在する微視的な電子のスピンから導かれる。スピンは固有の磁気モーメントを持ち、磁化は系全体の磁気モーメントを足し合わせたものとして定義される。
1次磁気相転移(FOPT;first-order phase transition)は、秩序変数が不連続的に変化することを意味する。
2次磁気相転移(SOPT;second -order phase transition)は、連続相転移とも呼ばれるものであってもよく、秩序変数が連続的に変化することをいう。
1次及び2次に関し、一般には、1次の転移では結晶のエントロピー、体積、分極等に不連続がおこるが、2次の転移ではこれらの諸量は連続で温度微分が不連続変化を示すとされている。
ここで、秩序変数とは、相が持つ秩序を表すマクロな変数のことである。例えば結晶では、原子の並び方にある一定の秩序があり、秩序変数の値の変化で相転移現象が特徴付けられる。秩序変数は温度や圧力などの外的な変数の関数として振る舞い、例えば、温度による相転移の場合には、転移温度以下の低温相(対称性の破れた相、あるいは秩序相)において、有限の値を持ち、高温相(対称性を持つ相、あるいは無秩序相)においてゼロとなってもよい。
【0018】
磁気冷凍材料における1次磁気相転移(FOMT;First-Order Magnetic phase Transition)とは、結晶構造の変化又は結晶体積の変化のいずれかを伴って、転移温度での磁気相転移を持つ材料をいう。ここで、転移温度は、実質的にキュリー温度に相当すると考えられる。
磁気冷凍材料における2次磁気相転移(SOMT;Second -Order Magnetic phase Transition)は、結晶構造や結晶体積の変化を実質的に伴わずに、転移温度での磁気相転移(強磁性体から常磁性体への転移など)のみを実質的に有している。
具体的には、1次磁気相転移と2次磁気相転移の境界値は、転移温度Ttrの前後の範囲(Ttr±20K)で体積変化率(dV/V)が0.4%としてもよく、dV/Vが0.4%以下であれば2次磁気相転移とする。また、dV/Vが0.4%を超えれば1次磁気相転移とする。
【0019】
図1Aは、ErCo
2の結晶構造を図解する。構造はラーベス相のMgCu
2型で、格子パラメータはa=b=c=0.71536nm、α=β=γ=90°である。このようなラーベス相では原子半径比がおおよそ1.2:1のA,B金属元素がAB
2の組成比で結合して化合物を形成している。大きな原子Aと小さな原子Bからなる結晶構造は大小の球の詰め込み構造と考えられ、特定の格子位置であるAサイト及びBサイトに入る。Aサイトは4ヶのA原子と12ヶのB原子を隣接原子として持ち、Bサイトは6ヶのA原子と6ケのB原子によって取り囲まれる。現想的なラーベス相結晶では、A-A原子、B-B原子はそれぞれ接触し、A-B原子間の接触はないように原子充填が行なわれている。このような場合に,両原子の原子半径比には、RA/RB=√3/2=1.225の関係が成立する。一般に、Aサイトに配置された原子はダイヤモンド構造と同様な配置となり、Bサイトの原子はAサイト周りに4面体を形成する。ラーベス相化合物は一種の稠密充填構造なので、面心立方格子と六方稠密格子の違いに似た原子の積み重ねの違いによって,cubicのMgCu
2型(C15)、hexagonalのMgZn
2型(C14)、MgNi
2型(C36)の3種類の結晶構造を有している。
以下の説明において、Coを置換するように、Al、Fe、及び/又はNiがこのような結晶構造に入ると考えられる。
【実施例】
【0020】
原料として、日本イットリウム社製の塊状Er(純度99.9%)、フルウチ科学社製の塊状Co(純度99.9%)、レアメタリック社製の粉末状Al(純度99.99%)、東邦亜鉛社製の粉末状Fe(純度99.95%)、及びフルウチ科学社製の粉末状Ni(純度99.95%)を秤量し、ErCo2-x-y(Al,Fe)xNiy系化合物の純粋な組成元素を日新技研社製の雰囲気制御アーク炉にてアルゴン雰囲気下でアーク溶融して調製した。ErとMnの蒸発を補償するために、余分なErを2wt.%、余分なMnを5wt.%ずつ装入した。このインゴットを4回の裏返しとアーク溶解工程での再溶解により均質化した。その後、アルゴン雰囲気下で石英中に封入し、1000℃で50時間焼鈍した。このようにして、表1の組成となる化合物を合成した。得られた化合物は、直径約300ミクロンの粒状であった。相成分は、Cr-Kα線を用いたX線回折(株式会社リガク製)により調べ、磁気特性はSQUID-VSM(カンタムデザイン社製)を用いて測定した。
【0021】
表1は、本発明等に関する実験結果を示すErCo
2-x-y(Al,Fe)
xNi
y系化合物の元素組成を示す表である。実験例1は二元系合金の基本形であるErCo
2を用いた試料の元素組成を示している。
実験例2から実験例4は三元系合金の基本形であるErCo
2-xFe
xを用いた試料の元素組成で、Feの組成比率xを1.33~2.33%の範囲で振っている。
実験例5では、4元系合金のErCo
2-x-yAl
xNi
y系化合物の元素組成を原子%で表わしており、Alの組成比率を1.67%とし、Niの組成比率を5.0%としている。実験例8では、Alの組成比率を1.00%とし、Niの組成比率を5.67%としている。
実験例6から実験例7では、4元系合金のErCo
2-x-yFe
xNi
y系化合物の元素組成を原子%で表わしており、Feの組成比率を1.33%とし、Niの組成比率を2.0%~3.67%の範囲で振っている。
図1Bは、これらの実験例の組成をCo、Ni、及びAl若しくはFeの3元系の組成図(ここで、Erは常に一定量存在するのでこの組成図からは除外されている)において図解する。全体として、100%とされているので、Erを含めて全体を100%とする場合には、記載された数値に2/3をかければよい。例えば、95は、63.33であり、90は60であり、85は56.67であり、5は3.33であり、10は6.67であり、15は10である。太線は、ErCo
2-x-y(Al,Fe)
xNi
yにおいて、x=0、x=0.1、y=0、及びy=0.2に相当する。従って、この太線で囲まれた範囲は、x=0となる場合を除外することとして、0<x≦0.1及び0≦y≦0.2の範囲を示すことができる。本願の発明の実施例において、太線で囲まれた範囲が対象となる組成範囲ともいえる。
【0022】
【0023】
表2は、本発明等に関する実験結果を示すErCo2-x-y(Al,Fe)xNiy系化合物の物性値を示している。なお、表1ではAl,Feの組成比を原子%で表していたが、表2では化学式で表している。
【0024】
【0025】
ErCo
2-x-yAl
xNi
y系化合物についての相転移温度T
trに関しては、外部磁場1T(テスラ)の下で、実験例5のErCo
1.8Ni
0.15Al
0.05では24K、実験例8のErCo
1.8Ni
0.17Al
0.03では19Kであった。
磁化Mの温度当たりの変化率dM/dT(Am
2/kg・K)は、実験例5のErCo
1.8Ni
0.15Al
0.05では11.7、実験例8のErCo
1.8Ni
0.17Al
0.03では8.5であった。ここで、磁化とは、磁性物質の単位体積あたりの磁気双極子モーメントをいう。
図2は、ErCo
2化合物について、1Tでの磁化Mの温度依存性を示している。
図5は、本発明等の実験例を示すErCo
2-x-yAl
xNi
y化合物について、1Tでの磁化Mの0-80Kでの温度依存性を示している。
【0026】
単位体積当たりのエントロピー△S(J/cm
3・K)は、実験例5では測定していない。実験例8のErCo
1.8Ni
0.17Al
0.03では0.32であった(
図6)。
図3はErCo
2化合物について0-5Tでのエントロピー変化ΔSmの温度依存性を示している。
図6は本発明等の実験例を示すErCo
2-x-yAl
xNi
y化合物について0-5Tでのエントロピー変化ΔSmの0-80Kでの温度依存性を示している。
磁気相転移に関しては、実験例5、実験例8では、SOMTを示した(実施例)。
熱ヒステリシスΔT
hys(K)に関しては、1次磁気相転移で現れ、2次磁気相転移では現れない傾向がある。実験例1では熱ヒステリシスΔT
hys(K)が1.8Kの幅で現れており、実験例5は0.65Kとなり、実験例8は0.2Kとなっている。
【0027】
ErCo
2-x-yFe
xNi
y系化合物について、常磁性から強磁性への転移温度を示す相転移温度T
trに関しては、外部磁場1T(テスラ)の下で、実験例2のErCo
1.96Fe
0.04では46K、実験例3のErCo
1.95Fe
0.05では55K、実験例4のErCo
1.93Fe
0.07では66K、実験例6のErCo
1.9Ni
0.06Fe
0.04では36K、実験例7のErCo
1.85Ni
0.11Fe
0.04では28Kであった。
磁化Mの温度当たりの変化率dM/dT(Am
2/Kg・K)は、実験例2のErCo
1.96Fe
0.04では7.31、実験例3のErCo
1.95Fe
0.05では5.2、実験例4のErCo
1.93Fe
0.07では2.8、実験例6のErCo
1.9Ni
0.06Fe
0.04では7.1、実験例7のErCo
1.85Ni
0.11Fe
0.04では7.2であった。
図4はErCo
2-xFe
x化合物について1Tでの磁化Mの温度依存性を示している。
図7は本発明等の実験例を示すErCo
2-x-yFe
xNi
y化合物について1Tでの磁化Mの0-80Kでの温度依存性を示している。
【0028】
単位体積当たりのエントロピー△S(J/cm
3・K)は、実験例2のErCo
1.96Fe
0.04では0.21、実験例3のErCo
1.95Fe
0.05では0.17、実験例4では測定していない。実験例6と実験例7では共に0.24であった。
図8は、本発明等の実験例を示すErCo
2-x-yFe
xNi
y化合物について、0-5Tでのエントロピー変化ΔSmの0-80Kでの温度依存性を示している。
磁気相転移に関しては、実験例2~4ではSOMTを示した。実験例6及び実験例7はSOMTを示した。
熱ヒステリシスΔT
hys(K)に関しては、1次磁気相転移で現れ、2次磁気相転移では現れない傾向がある。実験例2~4では熱ヒステリシスΔT
hys(K)が現れておらず、好ましい。実験例6は0.2Kの幅で現れており、実験例7では0.2Kの幅で現れている。
【0029】
図9は、300Kから5Kに冷却したときの化学式ごとの体積変化を示す図で、1次磁気相転移(FOMT)が2次磁気相転移(SOMT)に向かって変化していく状態を極低温X線回折により解析したものである。
ErCo
2化合物では、キュリー温度付近で体積変化のステップジャンプが見られた。
ErCo
2-xM
x(M=Al,Fe)の化合物については、
図9に示したMを含まない試料に比べて体積変化の大きさが大幅に小さくなっている。また、Mの増加に伴い、ErCo
2-xM
x(M=Al,Fe)の化合物では、転移温度付近での結晶構造転移による化学式あたりの体積変化は見られず、これらの化合物ではFOPTが大幅に抑制され、SOPTが実現されていることが示唆された。
【0030】
ErCo2化合物では、
図9に示すように、キュリー温度TCでの体積膨張が観測された。その結果、
図5のErCo2化合物では、温度スパンの狭いシャープなM-T曲線が得られた。ここで、温度スパンの狭いシャープとは、-dM/dTが18Am
2/kg・Kを超えている場合を言ってもよい。より好ましくは9Am
2/kg・Kを超えている場合を言ってもよい。上述のように、転移温度Ttrの20K前後の範囲で体積変化率(dV/V)が、0.4%以下であれば2次磁気相転移とし、0.4%を超えれば1次磁気相転移とすることができる。このような体積変化率が得られない場合は、副次的に、-dM/dTを使って、1次磁気相転移を判断することもできる。例えば、2次相転移は-dM/dTが18Am
2/kg・K以下、より好ましくは9Am
2/kg・K以下の場合とすることもできるが、これは体積変化率が得られない場合にのみ使用することができる。
M(M=Al,Fe)を添加した場合、ErCo
2-xM
x(M=Al,Fe)化合物の相転移温度における体積変化の大きさは、ErCo
2化合物に比べて非常に小さくなった。
図9に示すように、キュリー温度の前後での体積変化率(dV/V)が0.4%以下であり、連続的で緩やかな体積変化が得られた。その結果、ErCo
2-xM
x(M=Al,Fe)化合物の磁気秩序状態への相転移は連続的であり、より2次転移に近い状態となり、磁気記録性能の可逆性を高めることができた。そこで、キュリー温度の前後での体積変化率(dV/V)が0.4%以下の場合を2次相転移と定義
する。また、この値を超える場合を1次相転移と定義
する。
【0031】
なお、本発明等の磁気冷凍材料の実験例として、
図2~
図8に示す実験形態を示した。本発明はこれに限定されるものではない。また、種々の実施態様が、当業者に自明な範囲で考えられる。このような自明な範囲も本発明の権利範囲に含まれる。
【0032】
続いて、本発明の実施例の磁気冷凍材料が使用される磁気冷凍装置について説明する。
図10は磁気冷凍サイクルの各工程を説明する概略図である。
磁気冷凍サイクルでは、定温環境下における励磁によるエントロピー変化(温度上昇)と、断熱状態における消磁による断熱温度変化(温度低下)の繰り返しサイクルにより、蒸気圧縮サイクルと類似の熱サイクルが構成される。
【0033】
図11は能動的蓄冷式磁気冷凍(AMR)サイクルを説明する概略図である。なお、
図11において、破線は工程動作前の温度分布、実線は工程動作後の温度分布を示している。
AMRサイクル用の磁気冷凍機は、磁気冷凍材料充填層と熱交換器を兼ねたAMRベッド、磁石、駆動装置(ディスプレーサ)、及び熱移動媒体(水素・ヘリウム・空気など)により構成されている。駆動装置は磁気冷凍材料とAMRベッドとの相対的な位置を調整する制御装置である。
【0034】
AMRサイクルは、断熱的励磁、熱移動媒体の移動(低温端から高温端への移動)、断熱的消磁、熱移動媒体の移動(高温端から低温端への移動)の4工程で構成される。
(1)断熱的励磁では、磁気冷凍材料に励磁され、AMRベッド全体の温度が上昇する。
(2)低温端から高温端への熱移動では、駆動装置により熱移動媒体を高温側に移動させる。AMRベッド内にあった高温の熱移動媒体は高温側に移送される一方で、低温側からの熱移動媒体の流入により、AMRベッド内の温度分布が変化する。
(3)断熱的消磁では、磁気熱量効果によりAMRベッド内の温度が低下する。AMRベッド内の温度分布を有した状態で全体的に温度が低下する。
(4)高温端から低温端への熱移動では、駆動装置により熱移動媒体を低温側に移動させる。AMRベッド内にあった低温の熱移動媒体は低温側に移送される一方で、高温側からの熱移動媒体の流入により、AMRベッド内の温度分布が変化する。
【0035】
この一連の4工程を一サイクルとすると、一サイクル後には、AMRベッド内の温度分布は低温側はサイクル開始時よりもやや低温となり、高温側はサイクル開始時よりもやや高温となる。この蓄熱再生サイクルを繰り返すことで、温度差が拡大し、やがてAMRベッド内の温度分布はほぼ一定の状態となる。このAMRベッド内の温度分布はAMRベッドを構成する磁気冷凍材料の特性によって決まる。
【0036】
図12は磁気冷凍材料をカスケード配置したAMRの一例を示す概略図で、(A)は装置概略図、(B)はこの装置に沿った磁気冷凍材料の動作温度帯の説明図である。
図12に示すAMRでは、動作する温度帯を変えた磁気冷凍材料を選択的に配置することで、励磁・消磁により効率的に温度差を生じさせる階層構造を有するAMR機構を実現できる。キュリー温度T
Cは強磁性体が常磁性を示す温度であり、最大の磁気熱量効果を生じる温度と一致する。そこで、
図12に示すAMRでは、複数の温度帯(T
C1~T
C4)において、大きな磁気熱量効果を示すため、磁気冷凍材料充填層に温度勾配を生じても性能低下が生じにくい。適切なキュリー温度T
Cを有する磁気冷凍材料を選択的に配置することで、水素液化に適したAMRを実現できる。
【0037】
図13は、磁気冷凍装置の主要部を示す模式図である。上述する実施例の材料を含む磁気冷凍材料を用いることができる。この磁気冷凍材料の1つの形態としては、50μm以上1000μm以下の範囲の粒子径を有する粒子であってもよい。例えば、球形近似で、50μm以上、100μm以上、200μm以上としてもよく、2000μm以下、1000μm以下、500μm以下の径を有する粒子状であってもよい。また、これらの下限及び上限を適宜組み合わせて、所定の範囲としてもよい。粒子形態を採るとAMRベッドへの充填率を高めることができ、粒子径により熱輸送冷媒との熱交換断面積や圧力損失を変化させることができる。粒子径が小さくなるほど熱交換断面積は大きくなり、この観点では冷凍性能向上に有効であるが、一方で、粒子径が小さくなるほど圧力損失が上昇して冷凍性能を低下させる。実際の圧力損失の大きさは、粒子径のみならず熱輸送冷媒の種類や運転条件にも依存する。ここで、粒径は、体積基準のメディアン径(d50)とし、体積基準の平均粒径の測定は、例えば、マイクロトラックやレーザ散乱法によって測定できる。より具体的には、静的画像解析法及び動的画像解析法が採用され得る。前者は、多数の粒子画像(SEM像など)を撮影し、画像解析ソフトを用いて各粒子の面積から、円形に換算した粒子径を求めることができる。このような磁気冷凍材料を備えた磁気冷凍装置200は、超低温の生成、例えば水素の液化に用いることができる。磁気冷凍装置200は、磁気冷凍材料210が充填されたAMRベッド220と、これに磁場を印加する磁場印加手段230と、冷温により被冷却物を冷却する冷却ステージ290と、AMRベッド220における磁気冷凍仕事により発生した温熱を排熱する熱交換器240とを更に備える。
【0038】
磁場印加手段230は、AMRベッド220に磁場を印加する任意の手段を適用でき、例えば、1~10T(テスラ)程度の強度の磁場を用いることが現実的である。磁場印加手段230として、超伝導マグネット、永久磁石等を採用できる。また、図示しない駆動機構によって、磁場印加手段230とAMRベッド220との相対位置を変化させて、AMRベッド220に印加される磁場の大きさを変化させることができる。
【0039】
AMRベッド220の高温側には予冷段260が設けられ、予冷段260の低温側には80Kシールド270が、予冷段260の高温側には300Kシールド280がそれぞれ接続して具備されている。更に、AMRベッド220の低温側には、冷却ステージ290が設けられ、液化容器250が冷却ステージ290と熱的に接続して具備されている。つまり、液化容器250には被冷却物となる気体が供給され液化される。また、AMRベッド220には熱輸送冷媒の流出入口が設けられ、磁気冷凍材料210の間隙を通って熱輸送冷媒がAMRベッド220の内部を往復流動できる構造となっている。
【0040】
液化容器250には、液化させるべき気体310(例えば、水素、ヘリウム(He)等)が、図示しないタンクより供給される。磁気冷凍装置200は、以下のようにして動作してもよい。磁気冷凍材料210が充填されたAMRベッド220に、磁場印加手段230により磁場を印加し、磁気冷凍材料210の温度を上昇させる。次いで、AMRベッド220の低温端側から高温端側に向かう方向300Aに熱輸送冷媒を流動させる。熱輸送冷媒はAMRベッド220の内部に充填された磁気冷凍材料210と熱交換して温熱を受け取りながら、磁気冷凍材料210の隙間を縫って流動し、AMRベッド220の高温端部より流出する。AMRベッド220の高温端部より流出した熱輸送冷媒は予冷段260を介して温熱を排熱する熱交換器240に流入し、余分な熱が外部へ排熱される。次いで、磁気冷凍材料210が充填された磁場を取り除き(減少させて)、磁気冷凍材料210の温度を降下させる。
【0041】
そして、AMRベッド220の高温端側から低温端側に向かう方向300Bに熱輸送冷媒を流動させる。熱輸送冷媒は予冷段260を介してAMRベッド220の高温端部に流入し、内部に充填された磁気冷凍材料210と熱交換して冷却されながら、磁気冷凍材料210の隙間を縫って流動し、AMRベッド220の低温端部に到達する。尚、熱輸送冷媒の流動は図示しない冷媒駆動手段によって駆動される。冷媒駆動手段は熱輸送冷媒をAMRサイクルに同期して往復流動する振動流を駆動できれば特に限定されるものではなく、ピストン、ブロアとバルブを組み合わせる方式等が挙げられる。
【0042】
AMRベッド220の低温端部の温度が液体水素の沸点(大気圧にて20K)よりも低下すると、液化容器250に供給される水素ガスは、AMRベッド220の低温端側に設けられた冷却ステージ290との熱交換により冷却され、濃縮液化する。このような工程を繰り返し、液化容器250の内部ではガスを周期的に液化ないし冷却する。
【産業上の利用可能性】
【0043】
以上詳細に説明したように、本発明のErCo2系の磁気熱量化合物によれば、AMRサイクルを使用する水素液化装置にとって有用な、磁気冷凍材料を提供できる。本発明のErCo2系の磁気熱量化合物は、極低温磁気冷凍用途向けのRECo2ベースの材料の用途に新たな地平を開くことができる。
【符号の説明】
【0044】
200 磁気冷凍装置
220 AMRベッド
230 磁場印加手段
240 熱交換器
250 液化容器
260 予冷段
270 80Kシールド
280 300Kシールド
290 冷却ステージ
300A 熱輸送冷媒の移動方向
300B 熱輸送冷媒の移動方向