(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-31
(45)【発行日】2025-02-10
(54)【発明の名称】圧延機および圧延方法
(51)【国際特許分類】
B21B 37/28 20060101AFI20250203BHJP
B21B 37/40 20060101ALI20250203BHJP
B21B 37/38 20060101ALI20250203BHJP
B21B 27/02 20060101ALI20250203BHJP
【FI】
B21B37/28 C
B21B37/40 A
B21B37/38 A
B21B27/02 A
(21)【出願番号】P 2023554127
(86)(22)【出願日】2021-10-19
(86)【国際出願番号】 JP2021038619
(87)【国際公開番号】W WO2023067696
(87)【国際公開日】2023-04-27
【審査請求日】2024-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】314017543
【氏名又は名称】Primetals Technologies Japan株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】堀井 健治
(72)【発明者】
【氏名】杉本 達則
(72)【発明者】
【氏名】宇杉 敏裕
(72)【発明者】
【氏名】黒田 彰夫
【審査官】石田 宏之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/83794(WO,A1)
【文献】特許第3040638(JP,B2)
【文献】特許第2807379(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21B 37/28
B21B 37/40
B21B 37/38
B21B 27/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向の一端から他端に向かって直径が増減を繰り返すことで湾曲した輪郭を有し、互いに点対称となるように配置された上下一対のワークロールと、
前記ワークロールをそれぞれ支持する上下一対のバックアップロールと、
前記ワークロールを水平方向に移動させるワークロール水平方向アクチュエータと、
前記ワークロールを前記軸方向に移動させるワークロール軸方向アクチュエータと、
前記ワークロール水平方向アクチュエータによる角度調整、および前記ワークロール軸方向アクチュエータによる軸方向位置調整を制御する制御装置と、を備えた圧延機において、
前記制御装置は、
上ワークロールおよび上バックアップロールの上側ペアを平行な状態で、かつ下ワークロールおよび下バックアップロールの下側ペアを平行な状態で、前記上側ペアと前記下側ペアの角度を調節するように指令を出す第1角度指令部、
前記バックアップロールの角度を維持した状態で前記ワークロールを傾斜させる指令を出す第2角度指令部、
前記第2角度指令部の指令により傾斜された前記ワークロールが前記バックアップロールおよび圧延材から受ける合計のスラスト力が働く方向に前記ワークロールを移動させる指令を出す軸方向位置指令部、を有し、
前記第1角度指令部、前記第2角度指令部、および前記軸方向位置指令部の指令に基づき前記ワークロール水平方向アクチュエータ、および前記ワークロール軸方向アクチュエータを制御する
ことを特徴とする圧延機。
【請求項2】
請求項1に記載の圧延機において、
前記制御装置は、前記合計のスラスト力が0になるときの前記ワークロールと前記バックアップロールとの成す角度θwb
baseを得る角度取得部を更に有し、
前記第2角度指令部は、前記軸方向の前記上ワークロールと前記下ワークロールの間隙分布を凹形状方向に修正する場合は、前記第2角度指令部により傾斜させた前記ワークロールと前記バックアップロールとの成す角度をθwbとしたときに前記θwbが前記角度取得部で得られた前記θwb
baseより大きくなるように指令を出し、
前記軸方向位置指令部は、前記圧延材と接触する前記上ワークロールと前記下ワークロールの径が最も太い部分を近づけるように指令を出す
ことを特徴とする圧延機。
【請求項3】
請求項1に記載の圧延機において、
前記制御装置は、前記合計のスラスト力が0になるときの前記ワークロールと前記バックアップロールとの成す角度θwb
baseを得る角度取得部を更に有し、
前記第2角度指令部は、前記軸方向の前記上ワークロールと前記下ワークロールの間隙分布を凸形状方向に修正する場合は、前記第2角度指令部により傾斜させた前記ワークロールと前記バックアップロールとの成す角度をθwbとしたときに前記θwbが前記角度取得部で得られた前記θwb
baseより小さくなるように指令を出し、
前記軸方向位置指令部は、前記圧延材と接触する前記上ワークロールと前記下ワークロールの径が最も太い部分を離すように指令を出す
ことを特徴とする圧延機。
【請求項4】
請求項2に記載の圧延機において、
前記第2角度指令部は、前記軸方向の前記上ワークロールと前記下ワークロールの間隙分布を凸形状方向に修正する場合は、前記第2角度指令部により傾斜させた前記ワークロールと前記バックアップロールとの成す角度をθwbとしたときに前記θwbが前記角度取得部で得られた前記θwb
baseより小さくなるように指令を出し、
前記軸方向位置指令部は、前記圧延材と接触する前記上ワークロールと前記下ワークロールの径が最も太い部分を離すように指令を出す
ことを特徴とする圧延機。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れか1項に記載の圧延機において、
前記バックアップロールを水平方向に移動させるバックアップロール水平方向アクチュエータを更に備え、
前記制御装置は、前記バックアップロール水平方向アクチュエータによる角度調整を制御し、
前記第1角度指令部は、前記上ワークロールおよび上バックアップロールの上側ペアを平行な状態で、かつ前記下ワークロールおよび下バックアップロールの下側ペアを平行な状態で、前記上側ペアと前記下側ペアを水平面内で互いに反対方向に傾斜させる指令を出す
ことを特徴とする圧延機。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れか1項に記載の圧延機において、
少なくとも前記第2角度指令部および前記軸方向位置指令部は、前記圧延材の圧延中に指令を出す
ことを特徴とする圧延機。
【請求項7】
請求項1乃至6の何れか1項に記載の圧延機において、
前記第2角度指令部の出力する角度指令値の角度は、前記第1角度指令部の出力する角度指令値の角度の最大値に比べて小さい
ことを特徴とする圧延機。
【請求項8】
軸方向の一端から他端に向かって直径が増減を繰り返すことで湾曲した輪郭を有し、互いに点対称となるように配置された上下一対のワークロール、前記ワークロールをそれぞれ支持する上下一対のバックアップロール、前記ワークロールを水平方向に移動させるワークロール水平方向アクチュエータ、前記ワークロールを前記軸方向に移動させるワークロール軸方向アクチュエータ、を備えた圧延機による圧延材の圧延方法において、
上ワークロールおよび上バックアップロールの上側ペアを平行な状態で、かつ下ワークロールおよび下バックアップロールの下側ペアを平行な状態で、前記上側ペアと前記下側ペアの角度を調節する第1角度制御ステップと、
前記バックアップロールの角度を維持した状態で前記ワークロールを傾斜させる第2角度制御ステップと、
前記第2角度制御ステップにより傾斜された前記ワークロールが前記バックアップロールおよび前記圧延材から受ける合計のスラスト力が働く方向に前記ワークロールを移動させる指令を出す軸方向位置制御ステップ、を有する
ことを特徴とする圧延方法。
【請求項9】
請求項8に記載の圧延方法において、
前記合計のスラスト力が0になるときの前記ワークロールと前記バックアップロールとの成す角度θwb
baseを得る角度取得ステップを更に有し、
前記第2角度制御ステップは、前記軸方向の前記上ワークロールと前記下ワークロールの間隙分布を凹形状方向に修正する場合は、前記第2角度制御ステップにより傾斜させた前記ワークロールと前記バックアップロールとの成す角度をθwbとしたときに前記θwbが前記角度取得ステップで得られた前記θwb
baseより大きくなるように指令を出し、
前記軸方向位置制御ステップは、前記圧延材と接触する前記上ワークロールと前記下ワークロールの径が最も太い部分を近づけるように指令を出す
ことを特徴とする圧延方法。
【請求項10】
請求項8に記載の圧延方法において、
前記合計のスラスト力が0になるときの前記ワークロールと前記バックアップロールとの成す角度θwb
baseを得る角度取得ステップを更に有し、
前記第2角度制御ステップは、前記軸方向の前記上ワークロールと前記下ワークロールの間隙分布を凸形状方向に修正する場合は、前記第2角度制御ステップにより傾斜させた前記ワークロールと前記バックアップロールとの成す角度をθwbとしたときに前記θwbが前記角度取得ステップで得られた前記θwb
baseより小さくなるように指令を出し、
前記軸方向位置制御ステップは、前記圧延材と接触する前記上ワークロールと前記下ワークロールの径が最も太い部分を離すように指令を出す
ことを特徴とする圧延方法。
【請求項11】
請求項9に記載の圧延方法において、
前記第2角度制御ステップは、前記軸方向の前記上ワークロールと前記下ワークロールの間隙分布を凸形状方向に修正する場合は、前記第2角度制御ステップにより傾斜させた前記ワークロールと前記バックアップロールとの成す角度をθwbとしたときに前記θwbが前記角度取得ステップで得られた前記θwb
baseより小さくなるように指令を出し、
前記軸方向位置制御ステップは、前記圧延材と接触する前記上ワークロールと前記下ワークロールの径が最も太い部分を離すように指令を出す
ことを特徴とする圧延方法。
【請求項12】
請求項8乃至11の何れか1項に記載の圧延方法において、
前記圧延機は、前記バックアップロールを水平方向に移動させるバックアップロール水平方向アクチュエータを更に備え、
前記第1角度制御ステップは、前記上ワークロールおよび上バックアップロールの上側ペアを平行な状態で、かつ前記下ワークロールおよび下バックアップロールの下側ペアを平行な状態で、前記上側ペアと前記下側ペアを水平面内で互いに反対方向に傾斜させる指令を出す
ことを特徴とする圧延方法。
【請求項13】
請求項8乃至12の何れか1項に記載の圧延方法において、
少なくとも前記第2角度制御ステップおよび前記軸方向位置制御ステップは、前記圧延材の圧延中に実行される
ことを特徴とする圧延方法。
【請求項14】
請求項8乃至13の何れか1項に記載の圧延方法において、
前記第2角度制御ステップで出力される角度指令値の角度は、前記第1角度制御ステップで出力される角度指令値の角度の最大値に比べて小さい
ことを特徴とする圧延方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧延機および圧延方法に関する。
【背景技術】
【0002】
簡単な操作によって板クラウンとエッジドロップを適正に制御できる圧延機の一例として、特許文献1には、圧延機は、胴長中心から軸方向にとった座標Xに対し直径の変化量がax5-bx2-cxで与えられるクラウニングが施されると共に互いに点対称となるように配置された一対の圧延ロールと、圧延ロールを相対的に軸方向に移動させるロールシフト手段と、圧延ロールを被圧延材と平行な面内で互いに反対方向に傾斜させるロールクロス手段とを備える、ことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
圧延製品の精度、特に板幅方向の板厚精度に対する要求を満たすことが求められているが、板幅方向の板厚異常の主なものは、金属板の板幅方向中央部が膨らむ板クラウンと、板幅方向両端から所定距離程度まで急激に板厚が変化するエッジドロップ、あるいはエッジアップがある。
【0005】
板厚精度の向上を図る技術の一つとして上述の特許文献1に記載の技術がある。特許文献1では、クラウニングが施されてる上下のカーブドワークロールをシフトしてからクロスすることで、板クラウンやエッジドロップを抑制している。
【0006】
しかしながら、カーブドワークロールやカーブのないロールのいずれにおいても、接するロール間で該ロール軸心同士のわずかな傾きで軸方向のスラスト力が生じるため、軸方向にシフトさせる際の抵抗が生じ、特に圧延中は圧延荷重が作用しているため、その抵抗が大きくなる。このため、ロールの圧延中シフトを実現するための改善が求められる。
【0007】
本発明は、圧延材の形状を適切に制御すると共に、圧延中のロールシフトを従来に比べて実行しやすい圧延機および圧延方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一例を挙げるならば、軸方向の一端から他端に向かって直径が増減を繰り返すことで湾曲した輪郭を有し、互いに点対称となるように配置された上下一対のワークロールと、前記ワークロールをそれぞれ支持する上下一対のバックアップロールと、前記ワークロールを水平方向に移動させるワークロール水平方向アクチュエータと、前記ワークロールを前記軸方向に移動させるワークロール軸方向アクチュエータと、前記ワークロール水平方向アクチュエータによる角度調整、および前記ワークロール軸方向アクチュエータによる軸方向位置調整を制御する制御装置と、を備えた圧延機において、前記制御装置は、上ワークロールおよび上バックアップロールの上側ペアを平行な状態で、かつ下ワークロールおよび下バックアップロールの下側ペアを平行な状態で、前記上側ペアと前記下側ペアの角度を調節するように指令を出す第1角度指令部、前記バックアップロールの角度を維持した状態で前記ワークロールを傾斜させる指令を出す第2角度指令部、前記第2角度指令部の指令により傾斜された前記ワークロールが前記バックアップロールおよび圧延材から受ける合計のスラスト力が働く方向に前記ワークロールを移動させる指令を出す軸方向位置指令部、を有し、前記第1角度指令部、前記第2角度指令部、および前記軸方向位置指令部の指令に基づき前記ワークロール水平方向アクチュエータ、および前記ワークロール軸方向アクチュエータを制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、圧延材の形状を適切に制御すると共に、圧延中のロールシフトを従来に比べて実行しやすい圧延機および圧延方法を得ることができる。上記した以外の課題、構成および効果は、以下の実施例の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施例の圧延機の装置構成を示す側面図である。
【
図2】
図1に示す圧延機のうち、上ワークロール周辺の設備の構成の概要を示す上面図である。
【
図3】実施例の圧延機の装置構成の他の例を示す側面図である。
【
図4】実施例の圧延機での、クロス状態における各ロールの中心を説明する図。
【
図5】実施例の圧延機での、各クロス角度と各スラスト力を説明する図。
【
図6】圧延機における、バックアップロールクロス角度θb=0.5°のときのクロス角度とスラスト係数との関係を示す図。
【
図7】圧延機における、バックアップロールクロス角度θb=1.0°のときのクロス角度とスラスト係数との関係を示す図。
【
図8】圧延機における、バックアップロールクロス角度θb=1.5°のときのクロス角度とスラスト係数との関係を示す図。
【
図9】圧延機における、バックアップロールクロス角度θbとスラスト力が0になるθwb
baseとの関係を示す図。
【
図10】実施例の圧延機において、バックアップロールのクロス角が任意(≠0)のときを圧延方向入側からみた状態を示す図。
【
図11】実施例の圧延機において、圧延中に所望のメカニカルクラウンが変化する場合の対応の概要を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の圧延機および圧延方法の実施例について
図1乃至
図11を用いて説明する。
【0012】
なお、本明細書で用いる図面において、同一のまたは対応する構成要素には同一、または類似の符号を付け、これらの構成要素については繰り返しの説明を省略する場合がある。
【0013】
また、以下の説明や図面では、駆動側(「DS(Drive Side)」とも記載)とは圧延機を正面から見てワークロールを駆動する電動機が設置されている側を、作業側(「WS(Work Side)とも記載」とはその反対側を意味するものとする。
【0014】
最初に、圧延機の全体構成について
図1および
図2を用いて説明する。
図1は本実施例の圧延機の側面図、
図2は
図1に示す圧延機のうち、上ワークロール周辺の設備の構成の概要を示す上面図である。
【0015】
図1において、圧延機1は、圧延材Sを圧延する4段のクロスロール圧延機であって、ハウジング100と、制御装置20と、油圧装置30とを有している。なお、圧延機は
図1に示すような1スタンドの圧延機に限られず、2スタンド以上からなる圧延機とすることができる。
【0016】
ハウジング100は、上下一対の上ワークロール(「WR」とも記載)110Aおよび下ワークロール110B、上ワークロール110Aを支持する上バックアップロール(「BUR」とも記載)120A、および下ワークロール110Bを支持する下バックアップロール120Bを備えている。これらバックアップロール120A,120Bも上下一対で配置されており、軸方向の輪郭が直線状のストレートロールである。
【0017】
本実施例の上ワークロール110Aおよび下ワークロール110Bは、
図2に示すように、軸方向の一端から他端に向かって直径D
Wが増減を繰り返すことで湾曲した輪郭を有しているカーブドロールであり、互いに点対称となるように配置されている。ここで、本発明でいう「点対称」の「点」の位置は、圧延材Sの板幅方向の幾何中心とする場合、あるいは圧延機1を圧延方向あるいは反圧延方向から見たときの幾何中心とする場合のいずれかがあり、圧延条件に応じて適宜変化する。
【0018】
圧下シリンダ装置170は、上バックアップロール120Aを押圧することで、上バックアップロール120Aや上ワークロール110A,下ワークロール110B,下バックアップロール120Bに対して圧下力を付与するシリンダである。圧下シリンダ装置170は、ハウジング100の作業側と駆動側にそれぞれ設けられている。
【0019】
ロードセル180は、上ワークロール110Aおよび下ワークロール110Bによる圧延材Sの圧延力を計測する圧延力計測手段としてハウジング100の下部に設けられており、計測結果を制御装置20に出力している。
【0020】
上ワークロールベンディングシリンダ190Aは、操作側および駆動側のいずれにおいても、ハウジング100のうち、圧延材Sの入側および出側に設けられている。上ワークロールベンディングシリンダ190Aを適宜駆動することで上ワークロール110Aの軸受に対して鉛直方向にベンディング力を付与する。
【0021】
同様に、下ワークロールベンディングシリンダ190Bは、操作側および駆動側のいずれにおいても、ハウジング100のうち、圧延材Sの入側および出側に設けられており、適宜駆動することで下ワークロール110Bの軸受に対して鉛直方向にベンディング力を付与する。
【0022】
スラスト力測定装置300A,300Bは、それぞれ、上ワークロール110A、あるいは下ワークロール110Bの軸に作用するスラスト力を測定する。
【0023】
油圧装置30は、ワークロール押圧装置130A,130Bやワークロール定位置制御装置140A,140Bの油圧シリンダ、バックアップロール押圧装置150A,150Bやバックアップロール定位置制御装置160A,160Bの油圧シリンダ、シフトシリンダ115A,115B、更には上ワークロールベンディングシリンダ190A、下ワークロールベンディングシリンダ190Bにも接続されている。なお、
図1では、図示の都合上、通信線や圧油の供給ラインの一部は省略している。以下の図面でも同様である。
【0024】
制御装置20は、圧延機1内の各機器の動作を制御するコンピュータなどで構成される装置であり、本実施例では第1角度指令部20a、第2角度指令部20b、軸方向位置指令部20c、角度取得部20dなどを有する。
【0025】
この制御装置20は、スラスト力測定装置300A,300Bで測定されたワークロール110A,110Bの軸に作用するスラスト力の計測結果信号、ロードセル180、ワークロール定位置制御装置140A,140B、バックアップロール定位置制御装置160A,160Bの位置計測器からの計測信号の入力を受けている。
【0026】
制御装置20は、第1角度指令部20a、第2角度指令部20b、および軸方向位置指令部20cの指令に基づき油圧装置30を作動制御し、ワークロール押圧装置130A,130Bやワークロール定位置制御装置140A,140Bの油圧シリンダ、シフトシリンダ115A,115Bに圧油を給排することで、ワークロール押圧装置130A,130B、ワークロール定位置制御装置140A,140Bによる角度調整、シフトシリンダ115A,115Bによる軸方向位置調整の作動を制御している。
【0027】
同様に、制御装置20は油圧装置30を作動制御し、バックアップロール押圧装置150A,150Bやバックアップロール定位置制御装置160A,160Bの油圧シリンダに圧油を給排することでバックアップロール押圧装置150A,150Bやバックアップロール定位置制御装置160A,160Bによる角度調整の作動を制御している。
【0028】
更に、制御装置20は、上ワークロールベンディングシリンダ190Aや下ワークロールベンディングシリンダ190Bに圧油を給排することでその作動を制御している。
【0029】
次に、
図2を用いて上ワークロール110Aや下ワークロール110Bに関係する構成について説明する。なお、上バックアップロール120A,下バックアップロール120Bについても、ロール形状やシフトシリンダ115A,115Bの有無以外は同等の構成を有しており、その詳細な説明も略同じであるため、省略する。
【0030】
図2に示すように、圧延機1の上ワークロール110Aの両端側にハウジング100があり、上ワークロール110Aのロール軸に対して垂直に立てられている。
【0031】
上ワークロール110Aは、ハウジング100にそれぞれ作業側ロールチョック112Aおよび駆動側ロールチョック112Bを介して回転自在に支持されている。
【0032】
ワークロール押圧装置130Aは、作業側および駆動側のそれぞれにおいて、ハウジング100の入側と作業側ロールチョック112A,駆動側ロールチョック112Bとの間に配置され、上ワークロール110Aの作業側ロールチョック112Aおよび駆動側ロールチョック112Bを圧延方向に所定の圧力で押し付ける。
【0033】
ワークロール定位置制御装置140Aは、作業側および駆動側のそれぞれにおいて、ハウジング100の出側と作業側ロールチョック112A,駆動側ロールチョック112Bの間に配置されており、上ワークロール110Aの作業側ロールチョック112Aおよび駆動側ロールチョック112Bを反圧延方向に押圧する油圧シリンダ(押圧装置)を有している。ワークロール定位置制御装置140Aは、油圧シリンダの動作量を計測する位置計測器(図示省略)を備えており、油圧シリンダの位置制御を行う。
【0034】
ここで、定位置制御装置とは、装置内に内蔵されている位置計測器を用いて押圧装置としての油圧シリンダの油柱位置を測定し、所定の油柱位置となるまで油柱位置を制御する装置のことを意味する。
【0035】
これらワークロール押圧装置130A,130Bや、バックアップロール押圧装置150A,150B、定位置制御装置140A,140B,160A,160Bは、ワークロール110A,110Bやバックアップロール120A,120Bのクロス角を調整する角度調整器の役割をなす。
【0036】
なお、
図1および
図2では、クロス装置のアクチュエータであるワークロール定位置制御装置140A,140Bや、バックアップロール定位置制御装置160A,160Bとして油圧装置を用いる例を示したが、これは油圧装置に限ったものでなく、電動式等の構成の装置を用いることができる。
【0037】
また、圧延材Sの入側にワークロール押圧装置、出側にワークロール定位置制御装置を配備した形態としているが、反対に配備されることもあり、配置は
図1等に示すパターンに限られるものではない。
【0038】
更に、
図1および
図2では、定位置制御装置の反対側に押圧装置を具備した例としているが、これは必須ではなく、定位置制御装置のみで構成することができる。ただし、押圧装置を設置することによってロールチョック112A,112Bと定位置制御装置とのガタ取りが可能となり、ロールチョック112A,112Bの圧延方向位置を安定させることができる。
【0039】
シフトシリンダ115Aは、上ワークロール110Aを軸方向に移動させるシリンダである。シフトシリンダ115Bは、下ワークロール110Bを軸方向に移動させるシリンダである。
【0040】
図1に戻り、バックアップロール押圧装置150Aは、作業側および駆動側のそれぞれにおいて、ハウジング100の入側と作業側ロールチョック,駆動側ロールチョック(図示省略)との間に配置され、上バックアップロール120Aの作業側ロールチョックおよび駆動側ロールチョックを圧延方向に所定の圧力で押し付ける。
【0041】
バックアップロール定位置制御装置160Aは、作業側および駆動側のそれぞれにおいて、ハウジング100の出側と作業側ロールチョック,駆動側ロールチョックの間に配置されており、上バックアップロール120Aの作業側ロールチョックおよび駆動側ロールチョックを反圧延方向に押圧する油圧シリンダ(押圧装置)を有している。バックアップロール定位置制御装置160Aは、油圧シリンダの動作量を計測する位置計測器(図示省略)を備えており、油圧シリンダの位置制御を行う。なお、圧延材Sの出側にバックアップロール押圧装置、入側にバックアップロール定位置制御装置を配備した形態としているが、反対に配備されることもあり、配置は
図1等に示すパターンに限られるものではない。
【0042】
なお、圧延機は
図1に示す形態に限られない。例えば、
図3に示す本実施例の圧延機1Aのように、
図1の圧延機1にバックアップロール摺動装置200A,200Bを更に設けた装置とすることができる。
【0043】
バックアップロール摺動装置200Aは上バックアップロール120Aの鉛直方向の上部分に、バックアップロール摺動装置200Bは下バックアップロール120Bの鉛直方向の下部分に、それぞれ設けられている。
【0044】
次に、本実施例に係る圧延機の圧延時のクロス角度の調整方法について、
図4以降を参照して説明する。
図4はクロス状態における各ロールの中心を説明する図、
図5は各クロス角度と各スラスト力を説明する図、
図6乃至
図8はクロス角度とスラスト係数との関係を示す図、
図9はバックアップロールクロス角度θbとスラスト力が0になるθwb
baseとの関係を示す図、
図10は実施例の圧延機を圧延方向入側からみた状態を示す図、
図11は圧延中に所望のメカニカルクラウンが変化する場合の概要を示す図、である。
【0045】
図4および
図5に示すクロス状態のうち、制御装置20の第1角度指令部20aは、上ワークロール110Aおよび上バックアップロール120Aの上側ペアを平行な状態で、かつ下ワークロール110Bおよび下バックアップロール120Bの下側ペアを平行な状態で、上側ペアと下側ペアの角度を調節するように指令を出す部分である。この第1角度指令部20aが、好適には第1角度制御ステップの実行主体となる。なお、
図4では紙面の手前側を操作側、紙面の背面側を駆動側とする。
【0046】
好適には、本実施例の制御装置20の第1角度指令部20aは、上ワークロール110Aおよび上バックアップロール120Aの上側ペアを平行な状態で、かつ下ワークロール110Bおよび下バックアップロール120Bの下側ペアを平行な状態で、上側ペアと下側ペアを水平面内で互いに反対方向に傾斜させる指令を出す、いわゆるペアクロスを行うものとする。
【0047】
なお、ワークロール110A,110Bをバックアップロール120A,120Bとともにクロス角を変更するペアクロスミルの場合について説明するが、ワークロール110A,110Bだけクロス角をつけるワークロールクロスミルに対しても本発明の圧延機および圧延方法を適用することができる。この場合、第1角度指令部20aは、上ワークロール110Aおよび上バックアップロール120Aの上側ペアと下ワークロール110Bおよび下バックアップロール120Bの下側ペアとが全て平行な状態を保つよう角度を調節する(すなわち角度0)ように指令を出すものとする。
【0048】
また、
図4および
図5に示すクロス状態のうち、制御装置20の第2角度指令部20bは、バックアップロール120A,120Bの角度を維持した状態でワークロール110A,110Bを傾斜させる指令を出す部分である。この第2角度指令部20bが、好適には第2角度制御ステップの実行主体となる。
【0049】
第2角度指令部20bの出力する角度指令値の角度は、第1角度指令部20aの出力する角度指令値の角度の最大値に比べて小さいものとすることが望ましい。すなわち、本実施例では、上ワークロール110Aと下ワークロール110Bをクロスさせたのちに更に微小にクロスさせるものとすることが望ましい。例えば、ペアクロスをさせた状態から、更にワークロール110A,110Bを好適には微小(例えば0.1°以下)にクロスさせるものとすることが望ましい。
【0050】
制御装置20の軸方向位置指令部20cは、第2角度指令部20bの指令により傾斜されたワークロール110A,110Bがバックアップロール120A,120Bおよび圧延材Sから受ける合計のスラスト力が働く方向にワークロール110A,110Bを移動させる指令を出す部分である。この軸方向位置指令部20cが、好適には軸方向位置制御ステップの実行主体となる。
【0051】
上述の第2角度指令部20bおよび軸方向位置指令部20cは、少なくとも圧延材Sの圧延中に指令を出すものとすることが望ましい。すなわち、少なくとも第2角度制御ステップおよび軸方向位置制御ステップは、圧延材Sの圧延中に実行されるものとすることが望ましい。
【0052】
制御装置20の角度取得部20dは、ワークロール110A,110Bが受ける合計のスラスト力が0になるときのワークロール110A,110Bとバックアップロール120A,120Bとの成すスラスト力0角度θwbbaseを得る部分である。この角度取得部20dが、好適には角度取得ステップの実行主体となる。
【0053】
このような制御は、以下のような検討、知見に基づき見出されたものである。
【0054】
例えば圧延機を7段備えた圧延設備を考えたとき、6段目および7段目の圧延機では直線的な輪郭を有するワークロールを圧延中にシフトすること、4段目および5段目の圧延機では湾曲した輪郭を有するワークロールを圧延中シフトすることの要求がある。
【0055】
しかし、圧延材とワークロールの間のスラスト力とワークロールとバックアップロールの間のスラスト力は、ロール同士の傾斜の状態によりランダムに生じることが多い。そのため、ある方向にはシフト速度は極端に遅いが反対方向には極端に速いとか、また、逆の場合もある。
【0056】
6段目および7段目では、摩耗分散を目的としたワークロールシフトが主に求められるが、圧延材の切れ目の空転中にシフトするときは圧延荷重が作用していないのでシフト抵抗は小さいが、圧延設備の前でつなぎ切れ目なく圧延を継続するエンドレス圧延においては圧延荷重が継続して作用しているため、エンドレス圧延中の摩耗分散のためのワークロールシフトはシフト方向に制約が生じてしまい、所望のワークロールシフトができなくなる。
【0057】
また、4段目および5段目の圧延は、6段目および7段目に比べて圧延荷重が高い。そのため、圧延中にワークロールシフトを行うことには制約が大きい、との制約がある。
【0058】
ワークロールの熱変形が進行したとき、そのワークロール熱変形補償、圧延材の温度がだんだん下がってしまうと板厚維持のために圧延荷重をだんだん上げる必要がある。しかし、圧延荷重を上げることは圧延材を凸にするようにロールを曲げるので、板クラウン/板形状制御は凹方向に制御を修正していく必要が生じる。
【0059】
ワークロールベンディングシリンダの調整だけでは調整しきれなくなったときに備えて、圧延中のワークロール微小クロスや湾曲した輪郭を有するワークロールを圧延中にシフト(走間シフト)を実行することが望まれる。
【0060】
また、圧延中に板厚変更を行う圧延があり、これは走間板厚変更と呼ばれている。このような走間板厚変更を行ったときでも、圧延条件が変化しても所望の板クラウン/板形状を得ることが求められるものの、ワークロールベンディングシリンダだけでは調整能力が不足する場合、圧延中にワークロール微小クロスや湾曲した輪郭を有するワークロールの圧延中シフトを行うことが望まれる。
【0061】
圧延中にクロス角の変更が可能であれば、より大きな走間条件変更に対応できるが、圧延中のクロス角変更に必要な機構は高価で大型のフラットベアリング部を有するバックアップロール摺動装置を必要とする。これに比べて、ペアクロスとワークロールシフトの両方の機能をもっている圧延機は、そもそもシフト装置を備えているので、前記バックアップロ-ル摺動装置を装備していなくとも、圧延中に湾曲した輪郭を有するワークロールをシフトさせることができるようになれば、かなりの制御範囲を比較的低コストでかつシンプルな構造で実現できることになる。
【0062】
ここで、圧延中にワークロールをシフトするときにワークロールに作用するスラスト力と摩擦抵抗の両方の合計がシフト力として必要となる。摩擦抵抗としては、圧延荷重のオフセット分力の摩擦抵抗、ワークロールベンディングシリンダの摩擦抵抗、駆動スピンドル伸縮部の抵抗などがある。
【0063】
シフト方向と同じ方向にスラスト力が作用しているときはシフト力=摩擦抵抗-スラスト力、シフト方向と反対方向にスラスト力が作用しているときはシフト力=摩擦抵抗+スラスト力となるので、スラスト力の方向を調整することはシフト力軽減の上で重要である。
【0064】
接するロール同士に傾きがあると回転中にロール間で軸方向の滑りが生じてスラスト力が生じる。また、一方のロールを軸方向へ動かすとき他のロールに対して軸方向の滑りを生じその際スラスト力が作用する。ロールを軸方向にシフトする際に生じるスラスト力はシフト速度が速いほど大きくなる傾向があるため、必要とするシフト力がシフト力=摩擦抵抗+スラスト力となり大きいときはシフト速度が著しく遅くなる場合があったり、場合によっては全くシフト動しないこともありうる。言い換えると、接するロール同士の傾きを変えてスラスト力を小さくしたり、スラスト力の方向を変えたりすることで実際に必要とする速さのシフト速度を得ることが可能となる。
【0065】
図6は、バックアップロールクロス角度θb=0.5°のときの各スラスト係数μ
sw、μ
wb、μ
totalを計算した結果を示している。クロス角度0から0.5°まではワークロールとバックアップロールとが一緒にクロスし、バックアップロールクロス角度θbが0.5°のところでθbを維持した状態でワークロール角度を大きくしたときの各スラスト係数を求めている。
図6から、圧延材からワークロールに作用するスラスト力Ft
swは、Ft
sw=μ
sw×P、
図5に示すように駆動側方向の力である場合はμ
swは-の値となる。また、バックアップロールからワークロールに作用するスラスト力Ft
wbは、Ft
wb=μ
wb×P、
図5に示すように操作側方向の力である場合はμ
wbは+の値になる。ワークロールに作用するスラスト力の合計Ft
totalは、Ft
total=Ft
sw+Ft
wb=μ
total×Pであり、ワークロールクロス角度θswが0.5144°のとき、Ft
totalがほぼ0あたりになる。このときのワークロール微小クロス角度θwbは、θwb=θsw-θb=0.0144°となる。
【0066】
図7は、バックアップロールクロス角度θb=1.0°のときの各スラスト係数μ
sw、μ
wb、μ
totalを計算した結果を示している。
図6と同様に、クロス角度0から1.0°まではワークロールとバックアップロールとが一緒にクロスし、バックアアップロールクロス角度θbが1.0°のところでθbを維持した状態でワークロール角度を大きくしたときの各スラスト係数を求めている。
図7から、ワークロールクロス角度θswが1.0256°のとき、Ft
totalがほぼ0あたりになり、このとき、ワークロール微小クロス角度θwbは、θwb=θsw-θb=0.0256°となる。
【0067】
図8は、バックアップロールクロス角度θb=1.5°のときの計算結果である。
図6、
図7と同様に、
図8から、ワークロールクロス角度θswが1.5350°のとき、Ft
totalがほぼ0あたりになり、このときのワークロール微小クロス角度θwbは、θwb=θsw-θb=0.0350°である。
【0068】
これら
図6乃至
図8に示すように、圧延材とワークロールのスラスト係数μ
swはワークロールクロス角度θswの増加によって絶対値が大きくなっていくが、その絶対値の増加傾向に比べ、θbを維持した状態でワークロール角度を大きくしたときワークロールとバックアップロールのスラスト係数μ
wbの絶対値の増加する度合いがかなり大きく、ワークロール微小クロス角度のわずかな変化でμ
total=μ
sw+μ
wb=0近くになる。
【0069】
図9は圧延機における、バックアップロールクロス角度θbとスラスト力が0になるθwb
baseとの関係を示す図である。
図6,7,8からθb=0.5°、1.0°、1.5°においてFt
totalがほぼ0あたりとなる各ワークロール微小クロス角度θwb=0.0144°、0.0256°、0.0350°を記述したものである。
図9の縦軸はスラスト力が0となるワークロール微小クロス角度θwbを示し、これをスラスト力0角度θwb
baseとする。そして、任意のθbのとき、ワークロール微小クロス角度θwbがスラスト力0角度θwb
baseの値よりも大きいとき、Ft
total=Ft
sw+Ft
wb>0となり、スラスト力の合計は操作側方向となる。したがって、この場合は操作側方向にシフトすることが容易となる。
【0070】
また、ワークロール微小クロス角度θwbをスラスト力0角度θwbbaseよりも大きくしたときは、ワークロールクロス角度θswを大きくしたことになるので凹方向に上ワークロール110Aと下ワークロール110B間の間隙分布(以下、「メカニカルクラウン」とも記載)を変更するように作用することとなる。
【0071】
ここで、間隙分布(メカニカルクラウン)について説明する。本明細書における「間隙分布(メカニカルクラウン)」とは、ロール中央とロール端の上下作業ロール間間隙の差を示すものとする。そして、メカニカルクラウン調整量は任意の状態におけるメカニカルクラウンを基準となるメカニカルクラウンとしたとき、該基準となるメカニカルクラウンから当該圧延状態における所望のメカニカルクラウンを得るためのメカニカルクラウンの変化量を示す。
【0072】
具体的には、ロール中央の上下作業ロール間間隙をHc、ロール端の上下作業ロール間間隙をHeと表したとき、メカニカルクラウンCceをCce=He-Hcと表すものとする。また、基準となるメカニカルクラウンをCce1とし、所望のメカニカルクラウンをCce2とすると、メカニカルクラウン調整量ΔCceは、ΔCce=Cce2-Cce1と表すことができる。
【0073】
ここで、ロール端とは例えば圧延材料の中で最大板幅の板幅端に相当するロール位置とするか、最大板幅の板幅端付近に相当するロール位置などとし、評価位置として適宜選択される。
【0074】
ここから、湾曲した輪郭を有するワークロール+シフトのシフトをWSへシフトしたとき凹方向にメカニカルクラウンが変化するように調整することによって、ワークロール微小クロスによる板形状調整とワークロール微小クロスによりシフトしやすくなる方向へ湾曲した輪郭を有するワークロールをシフトしたときにできる板形状調整とが同じになるようにできる、ことが判る。
【0075】
このように、湾曲した輪郭を有するワークロールを2段階に分けて角度を調整し、好適には2回目は微小なクロスとしたうえで、ワークロールがバックアップロールおよび圧延材から受ける合計のスラスト力が働く方向にワークロールをシフトさせることとした。
【0076】
次いで、
図10を用いて、本実施例に係る圧延機の圧延時のクロス角度の好適な詳細な調整方法について説明する。なお、
図10では上ワークロール110Aの駆動側が前方(圧延方向の出側)になるようクロスされる場合について示しているが、操作側が前方になるようクロスしてもよい。その場合は、上ワークロール110Aと下ワークロール110Bの向きが左右逆になるものとする。
【0077】
この
図10では、圧延中のあるタイミングで、任意のバックアップロールクロス角度θbで、望まれる上ワークロール110Aと下ワークロール110B間のメカニカルクラウンがフラットなタイミングからの調整について示す。
【0078】
図10の(b)に示すように、ワークロール微小クロス角度θwbがスラスト力0角度θwb
baseに一致しているときは、Ft
total=Ft
sw+Ft
wb=0、スラスト力の合計は0、この場合はワークロールに作用するスラスト力は0となる。このとき、メカニカルクラウンはフラット状態である。
【0079】
また、
図10の(a)に示すように、ワークロール微小クロス角度θwbがスラスト力0角度θwb
baseより大きいときは、Ft
total=Ft
sw+Ft
wb>0、スラスト力の合計は操作側方向となる。この場合は操作側方向にシフトすることが容易となる。ワークロールを操作側方向にシフトすることは、メカニカルクラウンを凹方向に変更するように作用する。
【0080】
そこで、第2角度指令部20bは、軸方向の上ワークロール110Aと下ワークロール110Bの間隙分布を凹形状方向に修正する場合は、第2角度指令部20bにより傾斜させたワークロール微小クロス角度θwbが角度取得部20dで得られたスラスト力0角度θwbbaseより大きくなるように指令を出すものとする。
【0081】
また、軸方向位置指令部20cは、圧延材Sと接触する上ワークロール110Aの径が最も太い部分(
図2中、径D
w1の部分)と下ワークロール110Bの径が最も太い部分とを近づけるように指令を出す。言い換えると、上ワークロール110Aの径が最も細い部分(
図2中、径D
w2の部分)と下ワークロール110Bの径が最も細い部分とを離すように指令を出すものとする。
【0082】
更に、
図10の(c)に示すように、ワークロール微小クロス角度θwbがスラスト力0角度θwb
baseより小さいときは、Ft
total=Ft
sw+Ft
wb<0、スラスト力の合計は駆動側方向となる。この場合は駆動側方向にシフトすることが容易となる。
【0083】
そこで、第2角度指令部20bは、軸方向の上ワークロール110Aと下ワークロール110Bの間隙分布を凸形状方向に修正する場合は、第2角度指令部20bにより傾斜させたワークロール微小クロス角度θwbが角度取得部20dで得られたスラスト力0角度θwbbaseより小さくなるように指令を出すものとする。
【0084】
また、軸方向位置指令部20cは、圧延材Sと接触する上ワークロール110Aの径が最も太い部分(径Dw1の部分)と下ワークロール110Bの径が最も太い部分とを離すように指令を出す。言い換えると、上ワークロール110Aの径が最も細い部分(径Dw2の部分)と下ワークロール110Bの径が最も細い部分とを近づけるように指令を出すものとする。
【0085】
これらの調整によって、ワークロール微小クロスによる板形状調整とワークロール微小クロスによりシフトしやすくなる方向へ湾曲した輪郭を有するワークロール110A,110Bをシフトしたときにできる板形状調整とが同じになるようにできる。
【0086】
次いで、圧延中のあるタイミングで、任意のバックアップロールクロス角度θb=0であり、望まれる上ワークロール110Aと下ワークロール110B間のメカニカルクラウンがフラットなタイミングからの調整について説明する。
【0087】
ワークロール微小クロス角度θwbがスラスト力0角度θwbbaseに一致しているときは、Fttotal=Ftsw+Ftwb=0、スラスト力の合計は0、この場合はロールに作用するスラスト力は0となる。このとき、メカニカルクラウンがフラット状態である。
【0088】
ワークロール微小クロス角度θwbがスラスト力0角度θwbbase(=0)より大きいときは、Fttotal=Ftsw+Ftwb>0、スラスト力の合計は操作側方向となる。この場合は操作側方向にシフトすることが容易となる。そこで、圧延材Sと接触する上ワークロール110Aの径が最も太い部分(径Dw1の部分)と下ワークロール110Bの径が最も太い部分とを近づけるように調整する。θbが0°のときはθwbはワークロールクロス角度θswと同じになり、θwbがθwbbase(=0)より大きいときはメカニカルクラウンを凹方向に変化させるので、これによって、ワークロールの微小クロスによる板形状調整とワークロールの微小クロスによりシフトしやすくなる方向へ湾曲した輪郭を有するワークロール110A,110Bをシフトしたときにできる板形状調整のどちらも同じ凹方向への調整になるようにできる。
【0089】
ワークロール微小クロス角度θwbがスラスト力0角度θwbbaseより小さいときは、Fttotal=Ftsw+Ftwb<0、スラスト力の合計は駆動側方向となる。この場合は駆動側方向にシフトすることが容易となる。そこで、圧延材Sと接触する上ワークロール110Aの径が最も太い部分(径Dw1の部分)と下ワークロール110Bの径が最も太い部分とを離すように調整する。θbが0°のときはθwbはワークロールクロス角度θswと同じになり、θwbがθwbbase(=0)より小さいときもメカニカルクラウンを凹方向に変化させる板形状調整となるのに対し、ワークロールの微小クロスによりシフトしやすくなる方向へ湾曲した輪郭を有するワークロール110A,110Bをシフトしたときにできる板形状調整は凸方向となり、2つの形状調整は逆の方向になる。一方で、θbが0°のときθwbがそもそも非常に小さな値(せいぜい0.1°程度)であることから、θwbと同じ値であるθswも非常に小さいので、θswによって生じる凹方向への板形状変化はシフトしやすい方向へロールをシフトすることで得られる凸方向の板形状変化に比べて極めて小さい値となるので、シフトによる凸方向の板形状調整を有効に発揮し得る。
【0090】
次に、本実施例の効果について説明する。
【0091】
上述した本実施例の圧延機1,1Aの制御装置20は、上ワークロール110Aおよび上バックアップロール120Aの上側ペアを平行な状態で、かつ下ワークロール110Bおよび下バックアップロール120Bの下側ペアを平行な状態で、上側ペアと下側ペアの角度を調節するように指令を出す第1角度指令部20a、バックアップロール120A,120Bの角度を維持した状態でワークロール110A,110Bを傾斜させる指令を出す第2角度指令部20b、第2角度指令部20bの指令により傾斜されたワークロール110A,110Bがバックアップロール120A,120Bおよび圧延材Sから受ける合計のスラスト力が働く方向にワークロール110A,110Bを移動させる指令を出す軸方向位置指令部20c、を有し、第1角度指令部20a、第2角度指令部20b、および軸方向位置指令部20cの指令に基づきワークロール押圧装置130A,130B、ワークロール定位置制御装置140A,140B、およびシフトシリンダ115A,115Bを制御する。
【0092】
図11に示すように、圧延中に所望のメカニカルクラウン調整量が変化することがある。
【0093】
より具体的には、
図11中(a)のタイミングでは、メカニカルクラウン調整量が変化したとき、上ワークロールベンディングシリンダ190Aと下ワークロールベンディングシリンダ190Bを調整することでメカニカルクラウン調整量の変化に対応する。
【0094】
その後、
図11中(b)のタイミングでは、ワークロールベンダ力の目標値を目指してワークロール微小クロス調整を開始し、メカニカルクラウン調整量を維持しつつワークロールベンダ力が目標値になるように調整する。
【0095】
図11中(c)のタイミングでは、(b)のタイミング以降で行ってきたワークロール微小クロス調整によりワークロールベンダ力が目標値へ到達し、その調整がほぼ完了するが、このときはワークロール微小クロス調整はほとんど使い切っている。すなわち、ワークロール微小クロス角度θwbの絶対値をこれ以上大きくするとワークロール110A,110Bのスラストベアリングやロールネックがもたなくなることを意味しており、他の手段により対応するしかない状態である。
【0096】
その後、
図11中(d)のタイミングでは、メカニカルクラウン調整量が変化したとき、上ワークロールベンディングシリンダ190Aと下ワークロールベンディングシリンダ190Bの調整でメカニカルクラウン調整量の変化に対応する。
【0097】
図11中(e)のタイミングでは、ワークロール微小クロス調整はこれ以上動かせない状態になっていることから、ワークロールベンダ力の目標値を目指し、湾曲した輪郭を有するワークロール110A,110Bのシフト調整を開始して、メカニカルクラウン調整量を維持しつつ、ワークロールベンダ力が目標値になるように調整する。その際、ワークロール微小クロス量は湾曲した輪郭を有するワークロール110A,110Bのシフトが動きやすい方向になっているのでシフトが可能となっている。
【0098】
図11中(f)のタイミングでは、湾曲した輪郭を有するワークロール110A,110Bのシフト調整によりワークロールベンダ力の目標値へ到達し、その調整がほぼ完了する。
【0099】
このように、第1角度調整で形状制御することによりワークロール110A,110Bに生じるスラスト力を、第2角度調整をすることで適切に修正してからシフトさせるので、大きなシフト力を与えることなくワークロール110A,110Bをシフトさせることができ、圧延中のロールシフトを従来に比べて実行しやすく、圧延材Sの形状を適切に制御することが可能となる。
【0100】
また、制御装置20は、合計のスラスト力が0になるときのワークロール110A,110Bとバックアップロール120A,120Bとの成すスラスト力0角度θwbbaseを得る角度取得部20dを更に有し、第2角度指令部20bは、軸方向の上ワークロール110Aと下ワークロール110Bの間隙分布を凹形状方向に修正する場合は、第2角度指令部20bにより傾斜させたワークロール110A,110Bとバックアップロール120A,120Bとの成す角度をθwbとしたときにθwbが角度取得部20dで得られたスラスト力0角度θwbbaseより大きくなるように指令を出し、軸方向位置指令部20cは、圧延材Sと接触する上ワークロール110Aと下ワークロール110Bの径が最も太い部分を近づけるように指令を出すため、第1角度指令による角度調節によってメカニカルクラウンが凹形状方向になるように制御されているところに、θwb>θwbbaseとなるようにワークロールを動かし、メカニカルクラウンが凹方向になるようにシフトするので、間隙分布は更に大きな凹形状に変更可能となり、形状制御範囲を広げることができる。
【0101】
更に、第2角度指令部20bは、軸方向の上ワークロール110Aと下ワークロール110Bの間隙分布を凸形状方向に修正する場合は、第2角度指令部20bにより傾斜させたワークロール110A,110Bとバックアップロール120A,120Bとの成す角度をθwbとしたときにθwbが角度取得部20dで得られたスラスト力0角度θwbbaseより小さくなるように指令を出し、軸方向位置指令部20cは、圧延材Sと接触する上ワークロール110Aと下ワークロール110Bの径が最も太い部分を離すように指令を出すことで、凸形状方向になるように調整できるようになるため、微小クロスにより生じる幅方向ロール間隙分布の変化とシフトにより生じる幅方向ロール間隙分布の変化の傾向を合わせることができ、より広いメカニカルクラウンの調整を可能とする。例えば、圧延中のバー内で上ワークロールベンディングシリンダ190Aと下ワークロールベンディングシリンダ190Bだけでは板クラウン調整に不足が生じたときに微小クロス機能、湾曲した輪郭を有するワークロールのシフト機能の両方を利用できるので、広い板クラウン調整に使うことが可能となる。
【0102】
また、バックアップロール120A,120Bを水平方向に移動させるバックアップロール押圧装置150A,150B、バックアップロール定位置制御装置160A,160Bを更に備え、制御装置は、バックアップロール押圧装置150A,150B、バックアップロール定位置制御装置160A,160Bによる角度調整を制御し、第1角度指令部20aは、上ワークロール110Aおよび上バックアップロール120Aの上側ペアを平行な状態で、かつ下ワークロール110Bおよび下バックアップロール120Bの下側ペアを平行な状態で、上側ペアと下側ペアを水平面内で互いに反対方向に傾斜させる指令を出すことにより、θswを大きく変化させることが可能となり形状制御範囲をより広げることができる。
【0103】
更に、少なくとも第2角度指令部20bおよび軸方向位置指令部20cは、圧延材Sの圧延中に指令を出すことで、圧延中のメカニカルクラウンの要求量の変化により容易に追従した操業が可能となる。
【0104】
<その他>
なお、本発明は上記の実施例に限られず、種々の変形、応用が可能なものである。上述した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されない。
【0105】
例えば、上記の実施例では、熱間圧延機・熱間圧延方法の場合について説明したが、本発明の圧延機および圧延方法は冷間圧延機・冷間圧延方法にも適用可能である。
【符号の説明】
【0106】
1,1A…圧延機
20…制御装置
20a…第1角度指令部
20b…第2角度指令部
20c…軸方向位置指令部
20d…角度取得部
30…油圧装置
100…ハウジング
110A…上ワークロール
110B…下ワークロール
112A…作業側ロールチョック
112B…駆動側ロールチョック
115A,115B…シフトシリンダ
120A…上バックアップロール
120B…下バックアップロール
130A,130B…ワークロール押圧装置
140A,140B…ワークロール定位置制御装置
150A,150B…バックアップロール押圧装置
160A,160B…バックアップロール定位置制御装置
170…圧下シリンダ装置
180…ロードセル
190A…上ワークロールベンディングシリンダ
190B…下ワークロールベンディングシリンダ
200A,200B…バックアップロール摺動装置
300A,300B…スラスト力測定装置