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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-31
(45)【発行日】2025-02-10
(54)【発明の名称】浸水対策構造
(51)【国際特許分類】
   E04H 9/14 20060101AFI20250203BHJP
【FI】
E04H9/14 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020215367
(22)【出願日】2020-12-24
(65)【公開番号】P2022101031
(43)【公開日】2022-07-06
【審査請求日】2023-09-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】100154726
【弁理士】
【氏名又は名称】宮地 正浩
(72)【発明者】
【氏名】小林 春之
(72)【発明者】
【氏名】畝 博志
(72)【発明者】
【氏名】木下 康仁
(72)【発明者】
【氏名】鴉越 元紀
(72)【発明者】
【氏名】宮本 勇貴
(72)【発明者】
【氏名】前 康大
【審査官】須永 聡
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-101625(JP,A)
【文献】特開2020-159006(JP,A)
【文献】特開2015-052261(JP,A)
【文献】特許第6723676(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/00-9/16
E02D 29/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
施設側への浸水を防止する浸水対策構造であって、
地上に設置されて前記施設側への水の流れ込みを防止する耐洪水擁壁と、地中に設置されて前記耐洪水擁壁の下方から前記施設側への水の回り込みを防止する遮水壁とを備え、
前記耐洪水擁壁と前記遮水壁とが連接され、
前記遮水壁と前記耐洪水擁壁との連接箇所に水返し構造が設けられている浸水対策構造。
【請求項2】
施設側への浸水を防止する浸水対策構造であって、
地上に設置されて前記施設側への水の流れ込みを防止する耐洪水擁壁と、地中に設置されて前記耐洪水擁壁の下方から前記施設側への水の回り込みを防止する遮水壁とを備え、
前記耐洪水擁壁と前記遮水壁とが連接され、
前記耐洪水擁壁の設置個所には、当該耐洪水擁壁を支持する複数の杭が、それらの頭部側を地上に突出させた状態で、前記耐洪水擁壁の敷設方向に一定ピッチで地中に打ち込まれており、
前記耐洪水擁壁は、前記杭の頭部側を芯材にして構成され、
前記遮水壁が前記杭よりも前記施設側の位置に前記杭に隣接して構築されている浸水対策構造。
【請求項3】
施設側への浸水を防止する浸水対策構造であって、
地上に設置されて前記施設側への水の流れ込みを防止する耐洪水擁壁と、地中に設置されて前記耐洪水擁壁の下方から前記施設側への水の回り込みを防止する遮水壁とを備え、
前記耐洪水擁壁と前記遮水壁とが連接され、
前記耐洪水擁壁の設置個所には、当該耐洪水擁壁を支持する複数の杭が、それらの頭部側を地上に突出させた状態で、前記耐洪水擁壁の敷設方向に一定ピッチで地中に打ち込まれており、
前記耐洪水擁壁は、前記杭の頭部側を芯材にして構成され、
前記遮水壁が前記杭間に構築されている浸水対策構造。
【請求項4】
前記耐洪水擁壁は鉄筋コンクリート又は鉄骨鉄筋コンクリートで構築され、前記遮水壁はソイルセメントで構築されている請求項1~3のいずれか一項に記載の浸水対策構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、施設側への浸水を防止する浸水対策構造に関する。
【背景技術】
【0002】
上記のような浸水対策構造としては、例えば、1または複数の建物のほぼ全周を取り巻く形で水密性を有する耐洪水擁壁(耐洪水塀)を構築することにより、洪水や高潮などの水害発生時に、建物および居住者を水害からまもりつつ、当該建物内での長期の避難生活を可能とするものがある(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許6723676号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
耐洪水擁壁が構築される地盤には、砂層などの透水性の高い地盤部分と粘性土層などの透水性の低い地盤部分とが混在している場合が多く、このような場合に、単に耐洪水擁壁を建物のほぼ全周を取り巻く形で構築するだけでは、透水性の高い地盤部分では、耐洪水塀にてせき止められた水が、施設外と施設内との水圧差に起因して、耐洪水擁壁の下方から施設側に回り込むことによって施設内が浸水する虞がある。
【0005】
この実情に鑑み、本発明の主たる課題は、耐洪水擁壁にてせき止められた水が、施設外と施設内との水圧差に起因して、耐洪水擁壁の下方から施設側に回り込むのを防止する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1特徴構成は、施設側への浸水を防止する浸水対策構造であって、
地上に設置されて前記施設側への水の流れ込みを防止する耐洪水擁壁と、地中に設置されて前記耐洪水擁壁の下方から前記施設側への水の回り込みを防止する遮水壁とを備え、
前記耐洪水擁壁と前記遮水壁とが連接され
前記遮水壁と前記耐洪水擁壁との連接箇所に水返し構造が設けられている点にある。
【0007】
本構成によると、洪水や高潮などの水害発生時には、施設側への水の流れ込みを耐洪水擁壁にて防止することができるのに加えて、耐洪水擁壁にてせき止められた水が、施設外と施設内との水圧差に起因して、耐洪水擁壁の下方から施設側に回り込むのを、遮水壁にて防止することができる。
そして、耐洪水擁壁と遮水壁とが連接されていることにより、遮水壁にて耐洪水擁壁の下方から施設側への回り込みが防止された水が、耐洪水擁壁と遮水壁との隙間から施設側に浸入するのを防止することができる。
その結果、洪水や高潮などの水害が発生した場合に、水害が施設側の建物や人々などに及ぶのをより確実に防止することができ、施設側での避難生活などをより安全に長期にわたって行えるようにすることができる。
更に、本構成によると、水害発生時に構造の異なる耐洪水擁壁と遮水壁との連接箇所から施設側に水が浸入するのをより確実に防止することができる。
【0010】
本発明の第2特徴構成は、施設側への浸水を防止する浸水対策構造であって、
地上に設置されて前記施設側への水の流れ込みを防止する耐洪水擁壁と、地中に設置されて前記耐洪水擁壁の下方から前記施設側への水の回り込みを防止する遮水壁とを備え、
前記耐洪水擁壁と前記遮水壁とが連接され、
前記耐洪水擁壁の設置個所には、当該耐洪水擁壁を支持する複数の杭が、それらの頭部側を地上に突出させた状態で、前記耐洪水擁壁の敷設方向に一定ピッチで地中に打ち込まれており、
前記耐洪水擁壁は、前記杭の頭部側を芯材にして構成され、
前記遮水壁が前記杭よりも前記施設側の位置に前記杭に隣接して構築されている点にある。
【0011】
本構成によると、洪水や高潮などの水害発生時には、施設側への水の流れ込みを耐洪水擁壁にて防止することができるのに加えて、耐洪水擁壁にてせき止められた水が、施設外と施設内との水圧差に起因して、耐洪水擁壁の下方から施設側に回り込むのを、遮水壁にて防止することができる。
そして、耐洪水擁壁と遮水壁とが連接されていることにより、遮水壁にて耐洪水擁壁の下方から施設側への回り込みが防止された水が、耐洪水擁壁と遮水壁との隙間から施設側に浸入するのを防止することができる。
その結果、洪水や高潮などの水害が発生した場合に、水害が施設側の建物や人々などに及ぶのをより確実に防止することができ、施設側での避難生活などをより安全に長期にわたって行えるようにすることができる。
更に、本構成によると、耐洪水擁壁を自立させるための底版などの大規模な構造を不要にすることができ、これにより、工期の短縮などを図りながら、支持強度の高い耐洪水擁壁を設置することができる。
その上、例えば、遮水壁を杭間に構築する場合には、遮水壁の構築時に各杭の根固め部の一部を崩す虞があるが、本構成においては、遮水壁が各杭よりも施設側の位置に構築されることから、各杭の根固め部の一部を崩す虞を無くすことができる。
その結果、各杭の根固め部の一部を崩すことなく、遮水壁を極力敷地の最外位置に近づけた状態で構築することができる。
【0012】
本発明の第3特徴構成は、施設側への浸水を防止する浸水対策構造であって、
地上に設置されて前記施設側への水の流れ込みを防止する耐洪水擁壁と、地中に設置されて前記耐洪水擁壁の下方から前記施設側への水の回り込みを防止する遮水壁とを備え、
前記耐洪水擁壁と前記遮水壁とが連接され、
前記耐洪水擁壁の設置個所には、当該耐洪水擁壁を支持する複数の杭が、それらの頭部側を地上に突出させた状態で、前記耐洪水擁壁の敷設方向に一定ピッチで地中に打ち込まれており、
前記耐洪水擁壁は、前記杭の頭部側を芯材にして構成され、
前記遮水壁が前記杭間に構築されている点にある。
【0013】
本構成によると、洪水や高潮などの水害発生時には、施設側への水の流れ込みを耐洪水擁壁にて防止することができるのに加えて、耐洪水擁壁にてせき止められた水が、施設外と施設内との水圧差に起因して、耐洪水擁壁の下方から施設側に回り込むのを、遮水壁にて防止することができる。
そして、耐洪水擁壁と遮水壁とが連接されていることにより、遮水壁にて耐洪水擁壁の下方から施設側への回り込みが防止された水が、耐洪水擁壁と遮水壁との隙間から施設側に浸入するのを防止することができる。
その結果、洪水や高潮などの水害が発生した場合に、水害が施設側の建物や人々などに及ぶのをより確実に防止することができ、施設側での避難生活などをより安全に長期にわたって行えるようにすることができる。
更に、本構成によると、耐洪水擁壁を自立させるための底版などの大規模な構造を不要にすることができ、これにより、工期の短縮などを図りながら、支持強度の高い耐洪水擁壁を設置することができる。
その上、本構成によると、耐洪水擁壁を支持する各杭又は杭周囲の根固め部を遮水壁の一部に兼用しながら、遮水壁を敷地の最外位置に構築することができる。
【0016】
本発明の第4特徴構成は、
前記耐洪水擁壁は鉄筋コンクリート又は鉄骨鉄筋コンクリートで構築され、前記遮水壁はソイルセメントで構築されている点にある。
【0017】
本構成によると、耐洪水擁壁を鉄筋コンクリート又は鉄骨鉄筋コンクリートにて水害発生時の水圧に耐え得る高い強度を有するように構築しながら、耐洪水擁壁の下方から施設側への水の回り込みを防止する遮水壁をソイルセメントにて地中に容易に構築することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】浸水対策構造の平面図
図2】浸水対策構造の垂直断面図
図3】(a)は第1浸水対策構造体の正面図、(b)は第1浸水対策構造体の垂直断面図、(c)は第1浸水対策構造体の水平断面図、(d)は第1浸水対策構造体の別実施形態を示す水平断面図
図4】(a)は第2浸水対策構造体の正面図、(b)は第2浸水対策構造体の垂直断面図、(c)は第2浸水対策構造体の水平断面図
図5】(a)は第3浸水対策構造体の一部縦断背面図、(b)は第3浸水対策構造体の垂直断面図、(c)は第3浸水対策構造体の水平断面図、(d)は第3浸水対策構造体の別実施形態を示す水平断面図
図6】第1浸水対策構造体の水返し構造を示す要部の拡大垂直断面図
図7】(a)は第2浸水対策構造体の水返し構造を示す要部の拡大垂直断面図、(b)は第2浸水対策構造体における水返し構造の別実施形態を示す要部の拡大垂直断面図
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための形態の一例を図面に基づいて説明する。
【0020】
図1に示すように、本発明に係る浸水対策構造1は、所定の敷地内に建設された単一又は複数の建物2などからなる教育施設、医療施設、工場、宿泊施設、商業施設、集合住宅、などを取り囲むように構築されており、これにより、洪水や高潮などの水害が発生した場合には、前述した施設側への浸水を防止して、水害が施設側の建物2や人々などに及ぶのを防止している。
【0021】
図1~2に示すように、浸水対策構造1には、第1浸水対策構造体1Aと第2浸水対策構造体1Bと一対の第3浸水対策構造体1Cとが含まれており、浸水対策構造1は、これらの浸水対策構造体1A~1Cが前述した施設などを取り囲むように一連に連接されることによって構築されている。
尚、浸水対策構造1は、上記のように構築されるものに限らず、例えば、前述した第1浸水対策構造体1Aと第3浸水対策構造体1C、又は、第2浸水対策構造体1Bと第3浸水対策構造体1Cとが上記のように一連に連接されて構築されたものであってもよく、又、前述した第1浸水対策構造体1Aと第2浸水対策構造体1Bと第3浸水対策構造体1Cとに加えて、これらとは構造が異なる別の浸水対策構造体をも含む複数の浸水対策構造体が上記のように一連に連接されて構築されたものであってもよい。
【0022】
図1~7に示すように、浸水対策構造1には、地上に設置されて施設側への水の流れ込みを防止する耐洪水擁壁10と、地中に設置されて耐洪水擁壁10の下方から施設側への水の回り込みを防止する遮水壁20とが備えられている。耐洪水擁壁10は、所定の高さを有して前述した施設などを取り囲むように地上に設置されている。遮水壁20は、所定の埋め込み長さを有して前述した施設などを取り囲むように地中に設置されている。
尚、本実施形態においては、遮水壁20として、地盤3における砂層などの透水性の高い地盤部分3Aよりも下方の粘性土層などの透水性の低い地盤部分3Bに達する長い埋め込み長さを有するものを例示するが、これに限らず、例えば、耐洪水擁壁10の下方から施設側への水の回り込みを防止することが可能であれば、透水性の低い地盤部分3Bに達しない短い埋め込み長さを有するものであってもよい。
【0023】
耐洪水擁壁10には、第1浸水対策構造体1A及び第2浸水対策構造体1Bに使用されるSRC造(鉄骨鉄筋コンクリート造)の第1耐洪水擁壁11(図1~4、図6~7参照)と、第3浸水対策構造体1Cにおいて水防扉壁として使用されるRC造(鉄筋コンクリート造)の第2耐洪水擁壁12(図1図5参照)とが含まれている。遮水壁20には、第1浸水対策構造体1Aに使用される第1遮水壁21(図2~3、図6参照)と、第2浸水対策構造体1Bに使用される第2遮水壁22(図2図4図7参照)と、第3浸水対策構造体1Cに使用される第3遮水壁23(図5参照)とが含まれている。第1遮水壁21及び第3遮水壁23は、第1耐洪水擁壁11よりも施設側の位置に埋設されている。第2遮水壁22は、第1耐洪水擁壁11の真下に埋設されている。
【0024】
図2~4、図6に示すように、各第1耐洪水擁壁11の設置個所には、第1耐洪水擁壁11を支持する複数の杭13としてのH鋼杭13Aが、それらの頭部13a側を地上に突出させた状態で、第1耐洪水擁壁11の敷設方向に一定ピッチで地中に打ち込まれている。各H鋼杭13Aの周囲には、その周囲に注入された根固め液(セメントミルク)が固化することで各H鋼杭13Aを地盤3に固定する根固め部14が形成されている。図5に示すように、各第2耐洪水擁壁12の設置個所には、第2耐洪水擁壁12を支持する複数の杭13として、水害発生時に第2耐洪水擁壁(水防扉壁)12及び防水扉4の反力を支持する第1RC杭13Bが、施設の内外方向に一対で、かつ、各第2耐洪水擁壁12の敷設方向に一定ピッチで地中に打ち込まれている。各第1RC杭13Bは、それらの頭部13bにRC造の基礎部15と柱部16とが連接されている。
【0025】
図2~4、図6~7に示すように、各第1耐洪水擁壁11は、複数のH鋼杭13Aの頭部13a側を芯材にして、複数のH鋼杭13Aにわたって構築されている。そして、各第1耐洪水擁壁11の下端部が地中に埋設されている。図5に示すように、各第2耐洪水擁壁12は、所定の第1RC杭13Bの頭部13bに基礎部15と柱部16とを介して連接された状態で、複数の第1RC杭13Bにわたって構築されている。図1図5に示すように、各第2耐洪水擁壁12には、上面を地表に露出させた状態で基礎部15に連接される床版12Aと、隣り合う所定の柱部16間に構築される擁壁部12Bとが備えられ、擁壁部12Bが構築されない一対の柱部16間に出入口12Cが形成され、出入口12Cを開閉する防水扉4が備えられている。床版12Aの下方には、防水扉4の開閉案内用として床版12Aの上面に敷設されたレール(図示せず)の沈下を防止する複数の第2RC杭17がレールの敷設方向(第2耐洪水擁壁12の敷設方向)に一定ピッチで地中に打ち込まれている。
【0026】
図2~3、図6に示すように、各第1遮水壁21は、第1耐洪水擁壁11を支持する各H鋼杭13Aよりも施設側の位置に当該H鋼杭13Aに隣接して構築されている。図3の(a)~(c)に示すように、各第1遮水壁21は、中層地盤の改良などによって等厚に形成されたソイルセメント壁(固化壁)21Aからなり、それらの上端部が水返し構造30を介して第1耐洪水擁壁11の下端部に連接されている。各水返し構造30は、第1耐洪水擁壁11の下端部にズレ止め筋5(図6参照)又は接着系アンカー(図示せず)を介して接続されたコンクリート板31にて構築されている。そして、第1耐洪水擁壁11と第1遮水壁21と水返し構造30とから、前述した第1浸水対策構造体1Aが構築されている。
尚、第1遮水壁21は、等厚のソイルセメント壁21Aからなるものに限らず、例えば、図3の(d)に示すように、柱状改良によって形成される複数のソイルセメント杭(固化杭)21Bを、それらをオーバーラップさせた状態で連接して構築されたものであってもよい。
【0027】
図2図4図7に示すように、各第2遮水壁22は、第1耐洪水擁壁11の敷設方向で隣り合うH鋼杭13A間に構築されている。具体的には、第2遮水壁22は、第1耐洪水擁壁11の敷設方向で隣り合うH鋼杭13Aの間に、柱状改良によって形成される複数のソイルセメント杭(固化杭)22Aを、それらをオーバーラップさせた状態で連接することで、第1耐洪水擁壁11の真下に連接して構築されている。各H鋼杭13Aの根固め部14には、隣接するソイルセメント杭22Aを連接方向でオーバーラップさせるための凹部14aが形成されている。図7の(a)に示すように、第1耐洪水擁壁11と第2遮水壁22との連接箇所には、施設外側が施設側よりも低くなる段差部32にて構成された水返し構造30が設けられている。そして、第1耐洪水擁壁11と第2遮水壁22と水返し構造30とから、前述した第2浸水対策構造体1Bが構築されている。
尚、水返し構造30は、前述した段差部32にて構成されるものに限らず、例えば、図7の(b)に示すように、施設外側が施設側よりも低くなる傾斜部33にて構成されたものであってもよい。
【0028】
図5の(a)~(c)に示すように、各第3遮水壁23は、第2耐洪水擁壁12の敷設方向で隣り合う第2RC杭17間に構築されている。具体的には、第3遮水壁23は、第2耐洪水擁壁12の敷設方向で隣り合う第2RC杭17の間に、柱状改良によって形成される複数のソイルセメント杭(固化杭)23Aを、それらをオーバーラップさせた状態で連接することで、第2耐洪水擁壁12を支持する各第1RC杭13Bよりも施設側の位置に構築されている。各第2RC杭17には、隣接するソイルセメント杭23Aを連接方向でオーバーラップさせるための凹部17aが形成されている。そして、第2耐洪水擁壁12と第3遮水壁23とから、前述した第3浸水対策構造体1Cが構築されている。
尚、第3遮水壁23は、上記のように第2RC杭17間に複数のソイルセメント杭23Aを連接して構築されるものに限らず、例えば、図5の(d)に示すように、各第1RC杭13Bよりも施設側の位置に構築された中層地盤の改良などによる等厚のソイルセメント壁(固化壁)23Bからなるものであってもよい。
【0029】
以上の通り、本実施形態で例示する浸水対策構造1においては、地上に設置されて施設側への水の流れ込みを防止する耐洪水擁壁10と、地中に設置されて耐洪水擁壁10の下方から施設側への水の回り込みを防止する遮水壁20とが備えられ、当該耐洪水擁壁10と遮水壁20とが連接されている。そして、遮水壁20と耐洪水擁壁10との連接箇所には水返し構造30が設けられている。
これにより、洪水や高潮などの水害発生時には、施設側への水の流れ込みを耐洪水擁壁10にて防止することができるのに加えて、耐洪水擁壁10にてせき止められた水が、施設外と施設内との水圧差に起因して、耐洪水擁壁10の下方から施設側に回り込むのを、遮水壁20にて防止することができる。
そして、耐洪水擁壁10と遮水壁20とが連接され、しかも、その連接箇所には水返し構造30が設けられていることから、遮水壁20にて耐洪水擁壁10の下方から施設側への回り込みが防止された水が、耐洪水擁壁10と遮水壁20との隙間から施設側に浸入する不都合の発生をより確実に防止することができる。
その結果、洪水や高潮などの水害が発生した場合に、水害が施設側の建物2や人々などに及ぶのをより確実に防止することができ、施設側での避難生活などをより安全に長期にわたって行えるようにすることができる。
【0030】
又、本実施形態で例示する浸水対策構造1においては、各耐洪水擁壁11,12が、それらの敷設方向に一定ピッチで地中に打ち込まれた複数のH鋼杭13A又は第1RC杭13Bで支持されている。これにより、各耐洪水擁壁11,12を高い支持強度で設置することができる。
特に、第1耐洪水擁壁11を支持する各H鋼杭13Aは、それらの頭部13a側を地上に突出させた状態で、各第1耐洪水擁壁11の敷設方向に一定ピッチで地中に打ち込まれており、各第1耐洪水擁壁11は、各H鋼杭13Aの頭部13a側を芯材にして構成されている。これにより、各第1耐洪水擁壁11においては、それらを自立させるための底版などの大規模な構造を不要にすることができる。
その結果、工期の短縮などを図りながら、支持強度の高い耐洪水擁壁10を設置することができる。
【0031】
更に、本実施形態で例示する浸水対策構造1においては、各第1遮水壁21が各H鋼杭13Aよりも施設側の位置に各H鋼杭13Aに隣接して構築されている。又、各第2遮水壁22が、第1耐洪水擁壁11の敷設方向で隣り合うH鋼杭13A間に構築され、各第3遮水壁23が、第2耐洪水擁壁12の敷設方向で隣り合う第2RC杭17間などに構築されている。
これにより、各第1遮水壁21は、各H鋼杭13Aの周囲に形成された根固め部14の一部を崩すことなく、敷地の最外位置に極力近づけた状態で構築することができる。又、各第2遮水壁22は、各H鋼杭13Aの周囲に形成された根固め部14を第2遮水壁22の一部に兼用しながら、敷地の最外位置に構築することができ、各第3遮水壁23は、各第2RC杭17を第3遮水壁23の一部に兼用しながら、敷地の最外位置に極力近づけた状態で構築することができる。
【0032】
そして、本実施形態で例示する浸水対策構造1においては、各第1耐洪水擁壁11が鉄骨鉄筋コンクリートで構築され、各第2耐洪水擁壁12が鉄筋コンクリートで構築され、各遮水壁21~23がソイルセメントで構築されている。
これにより、各耐洪水擁壁11,12を鉄骨鉄筋コンクリート又は鉄筋コンクリートにて水害発生時の水圧に耐え得る高い強度を有するように構築しながら、各耐洪水擁壁11,12の下方から施設側への水の回り込みを防止する各遮水壁21~23をソイルセメントにて地中に容易に構築することができる。
【0033】
〔別実施形態〕
本発明の別実施形態について説明する。
尚、以下に説明する各別実施形態の構成は、それぞれ単独で適用することに限らず、上記の実施形態や他の別実施形態の構成と組み合わせて適用することも可能である。
【0034】
(1)上記の実施形態においては、浸水対策構造1として、第1浸水対策構造体1Aと第2浸水対策構造体1Bとが第3浸水対策構造体1Cを介して連接されたものを例示したが、これに限らず、例えば、第1浸水対策構造体1Aと第2浸水対策構造体1Bとが第3浸水対策構造体1Cを介さずに直接連接されるものであってもよい。
【0035】
(2)上記の実施形態においては、各第1耐洪水擁壁11として、複数のH鋼杭13Aで支持されて、それらの頭部13a側を芯材とするSRC造(鉄骨鉄筋コンクリート造)のものを例示したが、これに限らず、例えば、複数のRC杭で支持されるRC造(鉄筋コンクリート造)のものであってもよい。
【0036】
(3)上記の実施形態においては、各第2耐洪水擁壁12として、複数の第1RC杭13Bで支持されるRC造(鉄筋コンクリート造)のものを例示したが、これに限らず、例えば、複数のH鋼杭13Aで支持されて、それらの頭部13a側を芯材とするSRC造(鉄骨鉄筋コンクリート造)のものであってもよい。
【0037】
(4)上記の実施形態においては、各第3遮水壁23として、各第1RC杭13Bよりも施設側の位置に構築されるものを例示したが、これに限らず、例えば、第2耐洪水擁壁12の敷設方向で隣り合う第1RC杭13B間に構築されるものものであってもよい。
【0038】
(5)上記の実施形態及び別実施形態(2)、(3)においては、各耐洪水擁壁10(第1耐洪水擁壁11及び第2耐洪水擁壁12)を支持する杭13として、H鋼杭13A又はRC杭13Bを例示したが、これに限らず、使用する杭13の種類は、各耐洪水擁壁10の厚さ、及び、敷地の条件(土質や周囲状況など)に応じて種々の変更が可能であり、例えば、敷地の条件によってはPHC杭などを使用してもよい。
【符号の説明】
【0039】
1 浸水対策構造
10 耐洪水擁壁
13 杭
13a 頭部
20 遮水壁
30 水返し構造
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7