IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社フジクラの特許一覧

<>
  • 特許-無線通信装置 図1
  • 特許-無線通信装置 図2
  • 特許-無線通信装置 図3
  • 特許-無線通信装置 図4
  • 特許-無線通信装置 図5
  • 特許-無線通信装置 図6
  • 特許-無線通信装置 図7
  • 特許-無線通信装置 図8
  • 特許-無線通信装置 図9
  • 特許-無線通信装置 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-31
(45)【発行日】2025-02-10
(54)【発明の名称】無線通信装置
(51)【国際特許分類】
   H04W 16/28 20090101AFI20250203BHJP
   H04B 7/06 20060101ALI20250203BHJP
   H01Q 3/26 20060101ALI20250203BHJP
【FI】
H04W16/28
H04B7/06 950
H01Q3/26 Z
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021025409
(22)【出願日】2021-02-19
(65)【公開番号】P2021176226
(43)【公開日】2021-11-04
【審査請求日】2024-02-01
(31)【優先権主張番号】16/864,239
(32)【優先日】2020-05-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】000005186
【氏名又は名称】株式会社フジクラ
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100126882
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 光永
(74)【代理人】
【識別番号】100160093
【弁理士】
【氏名又は名称】小室 敏雄
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 健
【審査官】松原 徳久
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0055302(US,A1)
【文献】特開2019-146161(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01Q3/00-3/46
21/00-25/04
H04B7/02-7/12
7/24-7/26
H04L1/02-1/06
H04W4/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビームフォーミングアンテナと、
ビームテーブルから選択されたアンテナウェイトベクトルに従って、前記ビームフォーミングアンテナのビームパターンを設定するビームフォーマと、を備えており、
前記ビームテーブルは、各アンテナウェイトベクトルに対応するアレイファクタのピーク方向が角度空間において非一様に分布するビームテーブルであり、
前記ビームテーブルを構成する各アンテナウェイトベクトルに対応するアレイファクタのピーク方向について、角度空間において互いに隣接する2つのピーク方向の差は、前記ビームフォーミングアンテナを構成するアンテナエレメントが並ぶ平面に直交する方向との差に応じて変化し、
前記2つのピーク方向の差は、前記平面に直交する方向近傍において最小になり、前記平面に直交する方向から遠ざかるに従って次第に大きくなる
無線通信装置。
【請求項2】
前記ビームテーブルを構成する各アンテナウェイトベクトルに対応するアレイファクタのピーク方向の分布は、アレイファクタのビーム半値幅が最小となる方向近傍において最密になる、
請求項1に記載の無線通信装置。
【請求項3】
ビームフォーミングアンテナと、
ビームテーブルから選択されたアンテナウェイトベクトルに従って、前記ビームフォーミングアンテナのビームパターンを設定するビームフォーマと、を備えており、
前記ビームテーブルは、各アンテナウェイトベクトルに対応するアレイファクタのピーク方向が角度空間において非一様に分布するビームテーブルであり、
前記ビームテーブルを構成する各アンテナウェイトベクトルに対応するアレイファクタのピーク方向の分布は、アレイファクタの谷における利得が一定になるように設定されている
線通信装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビームフォーミングアンテナを備えた無線通信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
無線通信の大容量化を図るために、使用する周波数帯域の広帯域化及び高周波化が進んでいる。例えば、ミリ波帯(周波数が30GHz以上300GHz以下となる周波数帯域)は、ITU(International Telecommunication Union)においてEHF(Extremely High Frequency)と規定され、これを使用する無線通信装置の開発が急速に進んでいる。なかでも、酸素の吸収帯域と重なる60GHz帯は、伝搬損失が大きい(その結果、伝搬距離が短い)ので、多くの国において近距離通信を目的とした免許不要周波数帯域とされている。このため、例えば、モバイル通信網と連携したスモールセルや、ワイヤレスインターネットサービスプロバイダの無線アクセス網などにおいて、或いは、無線基地局、無線中継局、又は公衆無線LAN通信アクセスポイントなどの無線バックホールリンクにおいて、60GHz帯の利用が検討されている。これらの用途においては、数十mから数百m離れた無線通信装置間で数Gbpsの通信容量を実現することが期待されている。
【0003】
ミリ波帯を使用する無線通信装置においては、通常、利得が高く指向性が鋭いビームアンテナが利用される。なかでも、通信相手装置が移動端末であることや、複数の通信相手装置とP2MP(Point To MultiPoint)通信を行うことなどが想定される無線通信装置においては、ビームパターンを制御可能なビームフォーミングアンテナが利用される。ビームフォーミングアンテナを備えた無線通信装置においては、ビームフォーミングアンテナのビームパターンを、通信相手装置が存在する方向に応じて変更する構成が採用される。IEEE802.11adに従う無線通信装置は、このような構成が採用される無線通信装置の一例である。
【0004】
ビームフォーミングアンテナは、複数のアンテナエレメントにより構成される。送信時には、分波器にて分波された送信信号が、振幅調整器及び可変移相器にて振幅及び位相を調整された後、各アンテナエレメントに入力される。受信時には、各アンテナエレメントから出力された受信信号が、可変移相器及び振幅調整器にて位相及び振幅を調整された後、合波器にて合波される。ビームフォーミングアンテナを備えた無線通信装置は、各アンテナエレメントに対応する振幅調整器の利得及び可変移相器の移相量を制御することによって、ビームフォーミングアンテナのビームパターンを制御する。
【0005】
ビームフォーミングアンテナを備えた無線通信装置は、複数のアンテナウェイトベクトルにより構成されるビームテーブルを有している。ここで、アンテナウェイトベクトルとは、各アンテナエレメントに対応する振幅調整器の利得及び可変移相器の移相量を表すベクトルのことを指す。ビームフォーミングアンテナがn個のアンテナエレメントにより構成されている場合、アンテナウェイトベクトルは、例えば、n次元の複素ベクトル又は2n次元の実ベクトルにより与えられる。
【0006】
ビームフォーミングアンテナを備えた無線通信装置は、ビームテーブルから選択したアンテナウェイトベクトルを参照することによって、振幅調整器の利得及び可変移相器の移相量を設定する。ビームテーブルから選択するアンテナウェイトベクトルを、第1のアンテナウェイトベクトルから第2のアンテナウェイトベクトルに変更すれば、ビームフォーミングアンテナのビームパターンを、第1のアンテナウェイトベクトルに対応する第1のビームパターンから第2のアンテナウェイトベクトルに対応する第2のビームパターンに変更することができる。
なお、アンテナウェイトベクトルのみから算出されるビームフォーミングアンテナのビームパターンのことを、アレイファクタと呼ぶ。ビームフォーミングアンテナのビームパターンは、アレイファクタとアンテナエレメントのビームパターンとを乗算することによって算出される。
【0007】
特許文献1には、ビームテーブルをアップデートする技術が開示されている。この技術は、IEEE802.11adに従う無線通信装置に適用することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】米国特許第9318805号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来の無線通信装置においては、各アンテナウェイトベクトルに対応するアレイファクタのピーク方向が角度空間において一様に分布する(等間隔に並ぶ)ビームテーブルが使用されている。このため、様々な方向に存在する通信相手装置に対して信号品質を公平に保証することが困難である。以下、この理由を、具体例に即して説明する。
【0010】
一例として、31個のアンテナウェイトベクトルにより構成されるビームテーブルであって、以下の指針に従い設計したビームテーブルを考える。(1)同一の平面上において同一の直線上に等間隔配置(1/2波長間隔配置を仮定)された16個のアンテナエレメント(平面パッチアンテナを仮定)からなるビームフォーミングアンテナを想定する。(2)この平面に直交する方向を90°方向として、30°方向から150°方向までの方向において31個のターゲット方向を一様に分布させる。すなわち、ターゲット方向の角度間隔を、一律に(150°-30°)/(31-1)=4°とする。(3)各ターゲット方向に対応するアンテナウェイトベクトルとして、アレイファクタのピーク方向が該ターゲット方向に予め定められた精度で一致するアンテナウェイトベクトルのなかで、アレイファクタの該ターゲット方向における利得が最大となるアンテナウェイトベクトルを選択する。このように設計されたビームテーブルにおける各アレイアンテナウェイトベクトルのアレイファクタのピーク方向と、隣接するピーク方向間の角度間隔との一覧表を以下に示す。
【表1】
【0011】
図7は、以上のように設計されたビームテーブルを構成する各アンテナウェイトベクトルに対応するアレイファクタを示すグラフ(極座標表示)である。図8は、図7に示すアレイファクタの包絡線を示すグラフ(縦軸を利得とし横軸を方向とする直交座標表示)である。図9は、図7に示すアレイファクタの谷(図8に示す包絡線の極小点)をピックアップしてプロットしたグラフ(縦軸を利得とし横軸を方向とする直交座標表示)である。図10は、図7に示す各アレイファクタのビーム半値幅をプロットしたグラフ(縦軸をビーム半値幅とし横軸をピーク方向とする直交座標表示)である。なお、アレイファクタの算出に際しては、使用周波数を60.48GHzとし、可変移相器のデジタイズを8bit(256段階)とした。
【0012】
図8に示すグラフによれば、アレイファクタの谷となる方向、すなわち、ビームフォーミングアンテナのビームパターンを何れのアンテナウェイトベクトルに対応するビームパターンに設定しても利得の落ち込みを免れない方向が存在することが分かる。また、図9に示すグラフによれば、アレイファクタの谷における利得は、およそ11.5dBから11.9dBまでの範囲を変動し、その変動幅は、およそ0.4dBになることが分かる。利得が最小となるアレイファクタの谷は、アンテナエレメントが並んでいる平面に直交する方向である90°方向近傍に現れ、その谷における利得の落ち込み(目標ピーク利得12dBとの差)は、0.5dBに達する。また、図10に示すグラフによれば、ビーム半値幅が最小となるアレイファクタのピーク方向は、利得が最小となるアレイファクタの谷と同様、アンテナエレメントが並んでいる平面に直交する方向である90°方向近傍に現れることが分かる。
【0013】
アレイファクタの谷における利得が大きく変動することは、保証し得る電波品質が通信相手装置の存在する方向によって大きく変化することを意味する。すなわち、ある方向(上述した例では30°方向及び150°方向)近傍に存在する通信相手装置に対しては、高い信号品質を保証できるのに対して、ある方向(上述した例では90°方向近傍)に存在する通信相手装置に対しては、高い電波品質を保証できないという不公平が生じることを意味する。
【0014】
なお、通信相手装置が移動端末である場合、上述した不公平が生じても、通信相手装置が深刻な不利益を被る可能性は低い。利得の著しい落ち込みを免れない方向に通信相手装置が存在し続ける可能性が低いからである。一方、通信相手装置が固定端末である場合、上述した不公平が生じると、通信相手装置が深刻な不利益を被る可能性が高い。一度、利得の著しい落ち込みを免れない方向に設置された通信相手装置は、以後、その方向に存在し続ける可能性が高いからである。なお、通信相手装置が被る不利益としては、例えば、電波品質に応じてMCS(Modulation and Coding Scheme)を切り替える無線通信装置において生じ得る、電波品質の低下に伴う通信速度の低下が挙げられる。
【0015】
本発明の一態様は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、様々な方向に存在する通信相手装置に対して信号品質をより公平に保証することが可能な無線通信装置を実現する。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の一態様に係る無線通信装置は、ビームフォーミングアンテナと、ビームテーブルから選択されたアンテナウェイトベクトルに従って、前記ビームフォーミングアンテナのビームパターンを設定するビームフォーマと、を備えており、前記ビームテーブルは、各アンテナウェイトベクトルに対応するアレイファクタのピーク方向が角度空間において非一様に分布するビームテーブルである。
【発明の効果】
【0017】
本発明の一態様によれば、各アンテナウェイトベクトルに対応するアレイファクタのピーク方向が角度空間において非一様に分布するビームテーブルを用いることによって、様々な方向に存在する通信相手装置に対して信号品質をより公平に保証することが可能な無線通信装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態に係る無線通信システムの構成を示す図である。
図2図1に示す無線通信システムが備える第1の無線通信装置の構成を示すブロック図である。
図3図2に示す第1の無線通信装置が利用するビームテーブルを構成する各アンテナウェイトベクトルに対応するアレイファクタを示すグラフ(極座標表示)である。
図4図3に示すアレイファクタの包絡線を示すグラフ(縦軸を利得とし横軸を方向とする直交座標表示)である。
図5図3に示すアレイファクタの谷(図4に示す包絡線の極小点)をピックアップしてプロットしたグラフ(縦軸を利得とし横軸を方向とする直交座標表示)である。
図6図3に示すアレイファクタのビーム半値幅をプロットしたグラフ(縦軸をビーム半値幅とし横軸をピーク方向とする直交座標表示)である。
図7】従来の無線通信装置が利用するビームテーブルを構成する各アンテナウェイトベクトルに対応するアレイファクタを示すグラフ(極座標表示)である。
図8図7に示すアレイファクタの包絡線を示すグラフ(縦軸を利得とし横軸を方向とする直交座標表示)である。
図9図7に示すアレイファクタの谷(図8に示す包絡線の極小点)をピックアップしてプロットしたグラフ(縦軸を利得とし横軸を方向とする直交座標表示)である。
図10図7に示すアレイファクタのビーム半値幅をプロットしたグラフ(縦軸をビーム半値幅とし横軸をピーク方向とする直交座標表示)である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(無線通信システム)
本実施形態に係る無線通信システムSの構成について、図1を参照して説明する。図1は、無線通信システムSの構成を示す図である。
【0020】
無線通信システムSは、図1に示すように、第1の無線通信装置1(請求の範囲における「無線通信装置」の一例」)と、第2の無線通信装置2(請求の範囲における「通信相手装置」の一例)と、を備えている。
【0021】
第1の無線通信装置1は、上流側ネットワークに接続された無線通信装置である。一例として、第1の無線通信装置1は、ワイヤレスインターネットサービスプロバイダが管理する無線通信装置である。この場合、第1の無線通信装置1は、例えば、プロバイダ網を介してインターネット(上流側ネットワークの一例)に接続される。第1の無線通信装置1とプロバイダ網との接続には、例えば、光ファイバ回線や無線通信回線などが用いられる。
【0022】
第2の無線通信装置2は、下流側ネットワークに接続された無線通信装置である。一例として、第2の無線通信装置2は、サービスプロバイダと契約したユーザが管理する無線通信装置である。この場合、第2の無線通信装置2は、例えば、ユーザ宅内のローカルエリアネットワーク(下流側ネットワークの一例)に接続される。
【0023】
なお、図1においては、第2の無線通信装置2が1台である構成を例示しているが、これに限定されない。例えば、第2の無線通信装置2が2台以上である構成を採用してもよい。この場合、2台以上の第2の無線通信装置2の各々が1台の第1の無線通信装置1と無線通信を行うことになる。
【0024】
第1の無線通信装置1及び第2の無線通信装置2は、それぞれ、ビームフォーミングアンテナを備えている。第1の無線通信装置1は、ビームフォーミングの過程で第2の無線通信装置2が存在する方向を特定すると共に、第1の無線通信装置1が備えるビームフォーミングアンテナのビームパターンとして、特定した方向に応じたビームパターンを選択する。同様に、第2の無線通信装置2は、ビームフォーミングを実施する過程で第1の無線通信装置1が存在する方向を特定すると共に、第2の無線通信装置2が備えるビームフォーミングアンテナのビームパターンとして、特定した方向に応じたビームパターンを選択する。その後、第1の無線通信装置1及び第2の無線通信装置2は、それぞれ、信号品質に応じたMCS(Modulation and Coding Scheme)に従って無線通信を行う。例えば、信号品質が良好な場合には高速無線通信を行い、信号品質が劣悪な場合には低速無線通信を行う。
【0025】
本実施形態に係る無線通信システムSは、第2の無線通信装置2との無線通信に用いるビームフォーミングアンテナのビームパターンとして、第1の無線通信装置1が選択し得るビームパターンに特徴がある。第2の無線通信装置2との無線通信に用いるビームフォーミングアンテナのビームパターンとして、第1の無線通信装置1が選択し得るビームパターンについては、参照する図面を代えて後述する。
【0026】
なお、第1の無線通信装置1は、サービスプロバイダが設置する無線通信装置に限定されない。同様に、第2の無線通信装置2は、サービスプロバイダと契約したユーザが設置する無線通信装置に限定されない。例えば、第1の無線通信装置1及び第2の無線通信装置2は、企業や公的機関などの組織が設置する無線通信装置であってもよい。
【0027】
(第1の無線通信装置の構成)
無線通信システムSが備える第1の無線通信装置1の構成について、図2を参照して説明する。図2は、第1の無線通信装置1の構成を示すブロック図である。
【0028】
第1の無線通信装置1は、図2に示すように、BBIC(Base Band Integrated Circuit)11と、RFIC(Radio Frequency Integrated Circuit)12と、ビームフォーミングアンテナ13と、ネットワークインタフェース14と、コントロールシステム15と、電源ユニット16と、を備えている。
【0029】
BBIC11は、BB(Base Band)信号を処理する集積回路である。RFIC12は、RF(Radio Frequency)信号を処理する集積回路である。ビームフォーミングアンテナ13は、ビームパターンをアンテナウェイトベクトルに応じて設定することが可能なアンテナであり、第2の無線通信装置2との間の無線通信に利用される。本実施形態においては、ビームフォーミングアンテナ13として、複数のアンテナエレメントにより構成されたフェイズドアレイアンテナを用いている。ネットワークインタフェース14は、無線通信装置1を上流側ネットワークに接続するためのインタフェースである。コントロールシステム15は、BBIC11及びRFIC12を制御することによって、第1の無線通信装置1に接続された上流側ネットワークと第2の無線通信装置2に接続された下流側ネットワークとの間の通信を媒介する。コントロールシステム15は、BBIC11及びRFIC12の制御を、与えられたプログラムに従って、各種データベースを参照することにより実行する。電源ユニット16は、外部から取得した電力を第1の無線通信装置1の各部に供給する。
【0030】
RFIC12は、LUT(Look Up Table)121と、ビームフォーマ122と、を備えている。LUT121には、後述するストレージ151から転送されたアンテナウェイトベクトルが格納される。ビームフォーマ122は、LUT121に格納されたアンテナウェイトベクトルに応じてビームフォーミングアンテナ13のビームパターンを設定する。ビームフォーマ122は、例えば、アンテナウェイトベクトルに従って利得が設定される振幅調整器及び移相量が設定される可変移相器により構成される。
【0031】
コントロールシステム15は、ストレージ151を備えている。ストレージ151には、複数のアンテナウェイトベクトルが格納されている。なお、ストレージ151としては、例えば、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、フラッシュメモリなどの記憶媒体を用いることができる。また、コントロールシステム15として機能するASIC(Application Specific Integrated Circuit)又はSoC(System On a Chip)に内蔵された不揮発性記憶領域を、ストレージ151として用いてもよい。コントロールシステム15は、ストレージ151に格納されている複数のアンテナウェイトベクトルの中から1つのアンテナウェイトベクトルを選択すると共に、選択したアンテナウェイトベクトルを上述したLUT121に転送する。
【0032】
なお、以下の説明において、あるアンテナウェイトベクトルに対応するビームパターンとは、ビームフォーマ122を構成する振幅調整器の利得及び可変移相器の移相量を、そのアンテナウェイトベクトルに従って設定したときに得られるビームフォーミングアンテナ13のビームパターンのことを指す。また、あるアンテナウェイトベクトルに対応するアレイファクタとは、そのアンテナウェイトベクトルに対応するビームパターンであって、各アンテナエレメントが無指向である場合のビームパターンのことを指す。あるアンテナウェイトベクトルに対応するビームパターンは、そのアンテナウェイトベクトルに対応するアレイファクタと各アンテナエレメントのビームパターンとを乗算することによって算出される。
【0033】
(ストレージに格納されたビームテーブル)
第1の無線通信装置1が備えるストレージ151には、複数のアンテナウェイトベクトルにより構成されるビームテーブルBTが格納されている。ビームテーブルBTを構成する各アンテナウェイトベクトルに対応するアレイファクタのピーク方向は、角度空間において非一様に分布する(等間隔に並ばない)。一例をあげると、ビームテーブルBTを構成する各アンテナウェイトベクトルに対応するアレイファクタのピーク方向について、角度空間において互いに隣接する2つのピーク方向の差は、ビームフォーミングアンテナ13を構成するアンテナエレメントが並ぶ平面に直交する方向との角度差に応じて変化する。
【0034】
本実施形態に係る無線通信装置1において、ビームテーブルBTを構成する各アンテナウェイトベクトルに対応するアレイファクタのピーク方向は、ビームフォーミングアンテナ13を構成するアンテナエレメントが並ぶ平面に直交する方向において最密になり、更に、その方向から遠ざかるに従って次第に疎になるように分布している。換言すれば、ビームテーブルBTを構成する各アンテナウェイトベクトルに対応するアレイファクタのビーム半値幅が最小となる方向において最密になり、その方向から遠ざかるに従って次第に疎になるように分布している。なお、ある方向においてピーク方向が最密になるとは、角度空間において互いに隣接する2つのピーク方向の差がその方向において最小になることと等価であり、ピーク方向が次第に疎になるとは、角度空間において互いに隣接する2つのピーク方向の差が次第に大きくなることと等価である。
【0035】
第1の無線通信装置1は、第2の無線通信装置2の存在する方向が特定されていない場合、このようなビームテーブルBTを利用する。例えば、IEEE802.11adに対応した無線通信装置1は、このような標準ビームテーブルSBTを、第2の無線通信装置2の存在する方向が特定されていない状態で実施されるSector level sweep (SLS) phase または Beam Refinement Protocol (BRP) phaseにおいて利用する。この際、コントロールシステム15は、ストレージ151に格納されたビームテーブルBTを構成するアンテナウェイトベクトルをRFIC12のLUT121に転送する。そして、RFIC12のビームフォーマ122は、RFIC12のLUT121に転送されたアンテナウェイトベクトルに応じてビームフォーミングアンテナ13のビームパターンを設定する。
【0036】
一例として、31個のアンテナウェイトベクトルにより構成されるビームテーブルBTであって、以下の指針に従い設計したビームテーブルBTを考える。(1)同一の平面上において同一の直線上に等間隔配置(1/2波長間隔配置を仮定)された16個のアンテナエレメント(平面パッチアンテナを仮定)からなるビームフォーミングアンテナ13を想定し、この平面に直交する方向を90°方向として、30°方向から150°方向までの方向をカバーする。この時、各アンテナウェイトベクトルに対応するアレイファクタの谷における利得が一定になるように、31個のターゲット方向を非一様に分布させる。詳細には、31個のターゲット方向を一様に分布させた場合には、ターゲット方向の角度間隔の設計結果は、一律に(150°-30°)/(31-1)=4°となる。この一様分布させた場合の設計結果と比較して、アレイファクタの谷における利得が大きい方向についてはターゲット方向の角度間隔を広く調整し、アレイファクタの谷における利得が小さい方向についてはターゲット方向の角度間隔を狭く調整してターゲット方向を分布させる。(2)各ターゲット方向に対応するアンテナウェイトベクトルとして、アレイファクタのピーク方向が該ターゲット方向に予め定められた精度で一致するアンテナウェイトベクトルのなかで、アレイファクタの該ターゲット方向における利得が最大となるアンテナウェイトベクトルを選択する。(3)設計した結果を検討し、各アンテナウェイトベクトルに対応するアレイファクタの谷における利得の差が十分に小さくなるまで、ターゲット方向の分布を再調整して再設計する。このようにして設計した、各アレイアンテナウェイトベクトルのアレイファクタのピーク方向と、隣接するピーク方向間の角度間隔との一覧表を表2に示す。
【表2】
【0037】
図3は、以上のように設計されたビームテーブルBTを構成する各アンテナウェイトベクトルに対応するアレイファクタを示すグラフ(極座標表示)である。図4は、図3に示すアレイファクタの包絡線を示すグラフ(縦軸を利得とし横軸を方向とする直交座標表示)である。図5は、図3に示すアレイファクタの谷(図4に示す包絡線の極小点)をピックアップしてプロットしたグラフ(縦軸を利得とし横軸を方向とする直交座標表示)である。図6は、図3に示す各アレイファクタのビーム半値幅をプロットしたグラフ(縦軸をビーム半値幅とし横軸をピーク方向とする直交座標表示)である。なお、アレイファクタの算出に際しては、使用周波数を60.48GHzとし、可変移相器のデジタイズを8bit(256段階)とした。
【0038】
表2に示すように、ビームテーブルBTを構成する各アンテナウェイトベクトルに対応するアレイファクタのピーク方向は、ビームフォーミングアンテナ13を構成するアンテナエレメントが並ぶ平面に直交する方向である90°方向において最密になり、更に、その方向から遠ざかるに従って次第に疎になるように分布している。ピーク方向が最密に分布する90°方向近傍におけるピーク方向の角度間隔は、3.3°であり、ピーク方向が最疎に分布する30°方向及び150°方向近傍におけるピーク方向の角度間隔は、6.0°である。
【0039】
図5に示すグラフを図9に示すグラフと比較すると、以下のことが分かる。すなわち、従来のビームテーブルを用いた場合、アレイファクタの谷における利得は、およそ11.5dBから11.9dBまでの範囲を変動し、その変動幅は、およそ0.4dBになる。これに対して、本実施形態のビームテーブルBTを用いた場合、アレイファクタの谷における利得は、11.65dBから11.67dBまでの範囲を変動し、その変動幅は、0.02dBになる。すなわち、本実施形態のビームテーブルBTを用いることによって、アレイファクタの谷における利得の変動幅を小さくすることができる。実際、本実施形態のビームテーブルBTを用いた場合、アレイファクタの谷における利得の変動幅は、アレイファクタの谷の利得と比べて無視できる程度に小さく、アレイファクタの谷における利得は、略一定である。
【0040】
したがって、本実施形態に係る第1の無線通信装置1によれば、様々な方向に存在する第2の無線通信装置2に対して信号品質をより公平に保証することが可能になる。
【0041】
なお、xy平面内においてビームフォーミングアンテナ13を構成するアンテナエレメントが直交座標系のx軸に沿って並んでいるとすると、0°方向がx軸正方向となり、90°方向がz軸正方向となり、180°方向がx軸負方向となり、270°方向がz軸負方向となる。この場合、アレイファクタは、xy平面に対して面対称になる。このため、上述したグラフにおいては、180°方向から360°方向までのプロットを省略した。
【0042】
なお、本実施形態においては、ビームテーブルBTをストレージ151に格納する構成について説明したが、本発明は、これに限定されない。ビームテーブル151は、コントロールシステム15として機能するASIC(Application Specific Integrated Circuit)又はSoC(System On a Chip)に内蔵された不揮発性記憶領域に格納してもよい。
【0043】
本発明の第1の態様に係る無線通信装置は、ビームフォーミングアンテナと、ビームテーブルから選択されたアンテナウェイトベクトルに従って、前記ビームフォーミングアンテナのビームパターンを設定するビームフォーマと、を備えており、前記ビームテーブルは、各アンテナウェイトベクトルに対応するアレイファクタのピーク方向が角度空間において非一様に分布するビームテーブルである。
【0044】
本発明の第2の態様に係る無線通信装置においては、本発明の第1の態様に係る無線通信装置の構成に加えて、前記ビームテーブルを構成する各アンテナウェイトベクトルに対応するアレイファクタのピーク方向について、角度空間において互いに隣接する2つのピーク方向の差は、前記ビームフォーミングアンテナを構成するアンテナエレメントが並ぶ平面に直交する方向との差に応じて変化する、構成が採用されていてもよい。
【0045】
本発明の第3の態様に係る無線通信装置においては、本発明の第2の態様に係る無線通信装置の構成に加えて、前記ビームテーブルを構成する各アンテナウェイトベクトルに対応するアレイファクタのピーク方向について、角度空間において互いに隣接する2つのピーク方向の差は、前記平面に直交する方向近傍において最小になる、構成が採用されていてもよい。
【0046】
本発明の第4の態様に係る無線通信装置においては、本発明の第3の態様に係る無線通信装置の構成に加えて、前記ビームテーブルを構成する各アンテナウェイトベクトルに対応するアレイファクタのピーク方向について、角度空間において互いに隣接する2つのピーク方向の差は、前記平面に直交する方向から遠ざかるに従って次第に大きくなる、構成が採用されていてもよい。
【0047】
本発明の第5の態様に係る無線通信装置においては、本発明の第1の態様に係る無線通信装置の構成に加えて、前記ビームテーブルを構成する各アンテナウェイトベクトルに対応するアレイファクタのピーク方向の分布は、アレイファクタのビーム半値幅が最小となる方向近傍において最密になる、構成が採用されていてもよい。
【0048】
本発明の第6の態様に係る無線通信装置においては、本発明の第1の態様に係る無線通信装置の構成に加えて、前記ビームテーブルを構成する各アンテナウェイトベクトルに対応するアレイファクタのピーク方向の分布は、アレイファクタの谷における利得が一定になるように設定されている、構成が採用されていてもよい。
【0049】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものでなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0050】
S…無線通信システム 1…第1の無線通信装置(無線通信装置) 11…BBIC 12…RFIC 121…LUT 122…ビームフォーマ 13…ビームフォーミングアンテナ 14…ネットワークインタフェース 15…コントロールシステム 151…ストレージ 16…電源ユニット 2…第2の無線通信装置(通信相手装置)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10