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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-31
(45)【発行日】2025-02-10
(54)【発明の名称】セメント組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B28C 7/04 20060101AFI20250203BHJP
   C04B 28/02 20060101ALI20250203BHJP
【FI】
B28C7/04
C04B28/02
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021113372
(22)【出願日】2021-07-08
(65)【公開番号】P2023009794
(43)【公開日】2023-01-20
【審査請求日】2024-04-11
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103539
【弁理士】
【氏名又は名称】衡田 直行
(74)【代理人】
【識別番号】100111202
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 周彦
(74)【代理人】
【識別番号】100162145
【弁理士】
【氏名又は名称】村地 俊弥
(72)【発明者】
【氏名】阿武 稔也
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 幸一
(72)【発明者】
【氏名】早川 隆之
【審査官】大西 美和
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-152631(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0077045(US,A1)
【文献】特公平02-017502(JP,B2)
【文献】特開2005-279370(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00-32/02
C04B 40/00-40/06
B28B 11/00-19/00
B28C 1/00- 9/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント、骨材、水、及びセメント混和剤を含むセメント組成物を製造するための方法であって、
上記セメントの一部と、上記水の一部を混合して、セメントスラリーを得るセメントスラリー調製工程と、
上記セメントスラリーの中に炭酸ガスを供給して、炭酸ガス含有スラリーを得る炭酸ガス供給工程と、
上記炭酸ガス含有スラリーと、上記セメントの残部を混練して、高濃度セメント含有組成物を得るセメント追加供給工程と、
上記高濃度セメント含有組成物と、上記水の残部と、上記セメント混和剤を混練して、上記セメント組成物を得る水追加供給工程、を含み、
上記セメントの全量中、上記セメントスラリー調製工程で用いられる上記セメントの一部の量の割合が1~50質量%であり、かつ、上記セメント追加供給工程で用いられる上記セメントの残部の量の割合が50~99質量%であり、
上記水の全量中、上記セメントスラリー調製工程で用いられる上記水の一部の量の割合が50~99質量%であり、かつ、上記水追加供給工程で用いられる上記水の残部の量の割合が1~50質量%であり、
上記骨材が、上記セメント追加供給工程と上記水追加供給工程のいずれか一方または両方で供給され、
上記セメント混和剤が、減水剤、AE減水剤、高性能減水剤及び高性能AE減水剤からなる群より選ばれる一種以上のセメント分散剤、並びに、AE剤を含むことを特徴とするセメント組成物の製造方法。
【請求項2】
上記骨材が、細骨材及び粗骨材を含み、
上記セメント組成物の水セメント比が30~65%である請求項に記載のセメント組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化の抑制のため、二酸化炭素の排出量の低減が重要な課題になっている。
これに関連して、セメント製造工場で発生する排ガス等から回収された二酸化炭素を、コンクリート等に固定化する技術が検討されている。
二酸化炭素が効率よく固定化されたコンクリートを提供することができる方法として、特許文献1には、コンクリートを製造する方法であり、セメントと水を含む第1の混合物を形成すること、前記第1の混合物に二酸化炭素を添加して第2の混合物を形成すること、および前記第2の混合物を硬化することを含み、前記水の重量は、前記コンクリートに残存する未水和セメントが0%以上50%以下になるように調整される方法が記載されている。
また、特許文献2には、粉体成分として、γ-CS(記号γ)、製鋼スラグ粉末(記号B)の1種または2種と、ポルトランドセメント(記号C)を含有し、上記γ、B、Cの合計含有量に占めるγ、Bの合計が25~95質量%であり、水セメント比W/Cが80~250%である配合のコンクリート混練物を型枠に打設し、脱型後に当該コンクリートの固化体に通気可能な1または2以上の孔を穿ち、そのコンクリート固化体をCO濃度5~95%の雰囲気中で炭酸化養生することにより表面(前記孔内部の表面を除く)から深さ20mm以上の部位(ただし肉厚が20mm未満の部分は肉厚全体)に炭酸化領域を形成させるとともに、前記孔内部の表面からも炭酸化領域を形成させる、CO吸収プレキャストコンクリートの製造方法が記載されている。該方法では、炭酸化養生において、工場や施設から排出される燃焼排ガスを利用することができ、二酸化炭素の排出量を低減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2020-37493号公報
【文献】特開2011-168436号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
コンクリート等に二酸化炭素を固定化する目的で、コンクリート等の製造において、セメントと水を混合してなるセメントスラリーに炭酸ガスを吹き込んだ場合には、セメント組成物の流動性及び空気連行性が著しく低下するという問題がある。
本発明の目的は、コンクリート等のセメント組成物に二酸化炭素を固定化することができ、かつ、流動性及び空気連行性に優れたセメント組成物を製造することができる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、セメントの一部と、水の一部を混合して、セメントスラリーを得るセメントスラリー調製工程と、セメントスラリーの中に炭酸ガスを供給して、炭酸ガス含有スラリーを得る炭酸ガス供給工程と、炭酸ガス含有スラリーと、セメントの残部を混練して、高濃度セメント含有組成物を得るセメント追加供給工程と、高濃度セメント含有組成物と、水の残部を混練して、セメント組成物を得る水追加供給工程を含み、セメントの全量中、セメントの一部の量の割合が1~50質量%であり、かつ、セメントの残部の量の割合が50~99質量%であり、水の全量中、水の一部の量の割合が50~99質量%であり、かつ、水の残部の量の割合が1~50質量%であり、骨材が、セメント追加供給工程と水追加供給工程のいずれか一方または両方で供給されるセメント組成物の製造方法によれば、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の[1]~[4]を提供するものである。
【0006】
[1] セメント、骨材、及び水を含むセメント組成物を製造するための方法であって、上記セメントの一部と、上記水の一部を混合して、セメントスラリーを得るセメントスラリー調製工程と、上記セメントスラリーの中に炭酸ガスを供給して、炭酸ガス含有スラリーを得る炭酸ガス供給工程と、上記炭酸ガス含有スラリーと、上記セメントの残部を混練して、高濃度セメント含有組成物を得るセメント追加供給工程と、上記高濃度セメント含有組成物と、上記水の残部を混練して、上記セメント組成物を得る水追加供給工程、を含み、上記セメントの全量中、上記セメントスラリー調製工程で用いられる上記セメントの一部の量の割合が1~50質量%であり、かつ、上記セメント追加供給工程で用いられる上記セメントの残部の量の割合が50~99質量%であり、上記水の全量中、上記セメントスラリー調製工程で用いられる上記水の一部の量の割合が50~99質量%であり、かつ、上記水追加供給工程で用いられる上記水の残部の量の割合が1~50質量%であり、上記骨材が、上記セメント追加供給工程と上記水追加供給工程のいずれか一方または両方で供給されることを特徴とするセメント組成物の製造方法。
[2] 上記セメント組成物が、セメント混和剤を含み、上記セメント混和剤が、上記水追加供給工程で供給される、前記[1]に記載のセメント組成物の製造方法。
[3] 上記セメント混和剤が、減水剤、AE減水剤、高性能減水剤及び高性能AE減水剤からなる群より選ばれる一種以上のセメント分散剤、並びに、AE剤を含む、前記[2]に記載のセメント組成物の製造方法。
[4] 上記骨材が、細骨材及び粗骨材を含み、上記セメント組成物の水セメント比が30~65%である前記[1]~[3]のいずれかに記載のセメント組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明のセメント組成物の製造方法によれば、コンクリート等のセメント組成物に二酸化炭素を固定化することができ、かつ、流動性及び空気連行性に優れたセメント組成物を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明のセメント組成物の製造方法は、セメント、骨材、及び水を含むセメント組成物を製造するための方法であって、セメントの一部と、水の一部を混合して、セメントスラリーを得るセメントスラリー調製工程と、セメントスラリーの中に炭酸ガス(気体の形態を有する二酸化炭素)を供給して、炭酸ガス含有スラリーを得る炭酸ガス供給工程と、炭酸ガス含有スラリーと、セメントの残部を混練して、高濃度セメント含有組成物を得るセメント追加供給工程と、高濃度セメント含有組成物と、水の残部を混練して、セメント組成物を得る水追加供給工程、を含み、セメントの全量中、セメントスラリー調製工程で用いられるセメントの一部の量の割合が1~50質量%であり、かつ、セメント追加供給工程で用いられるセメントの残部の量の割合が50~99質量%であり、水の全量中、セメントスラリー調製工程で用いられる水の一部の量の割合が50~99質量%であり、かつ、水追加供給工程で用いられる水の残部の量の割合が1~50質量%であり、骨材が、セメント追加供給工程と水追加供給工程のいずれか一方または両方で供給されるものである。
以下、工程ごとに詳しく説明する。
【0009】
[セメントスラリー調製工程]
本工程は、セメントの一部と、水の一部を混合して、セメントスラリーを得る工程である。
上記セメントとしては、特に限定されるものではなく、例えば、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント等の各種ポルトランドセメントや、高炉セメント、フライアッシュセメント等の混合セメントや、エコセメント等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0010】
セメントの全量(セメント組成物に含まれるセメントの全量)中のセメントの一部の量の割合は、1~50質量%、好ましくは3~40質量%、より好ましくは5~30質量%、さらに好ましくは8~25質量%、さらに好ましくは10~20質量%、特に好ましくは12~18質量%である。上記割合が1質量%未満であると、セメント組成物に固定化される二酸化炭素の量が少なくなる。上記割合が50質量%を超えると、セメント組成物の強度発現性が低下する。
【0011】
水の全量(セメント組成物に含まれる水の全量)中の水の一部の量の割合は、50~99質量%、好ましくは60~98質量%、より好ましくは70~97質量%、特に好ましくは75~96質量%である。上記割合が50質量%未満であると、セメントスラリーの流動性が著しく低下し、後述の炭酸ガス供給工程において、セメントスラリーに、均質に炭酸ガスを供給することが難しくなる。上記割合が99質量%を超えると、セメント組成物に含まれる空気量が少なくなり、セメント組成物の流動性が低下する。
【0012】
本工程において、水セメント比は、好ましくは100~500%、より好ましくは150~450%、さらに好ましくは200~400%、特に好ましくは250~350%である。上記比が100%以上であれば、セメントスラリーの流動性がより向上し、後述の炭酸ガス供給工程において、セメントスラリーに、均質に炭酸ガスを供給することが容易になる。上記比が500%以下であれば、セメント組成物に固定化される二酸化炭素の量がより多くなる。
なお、水セメント比とは、水(本工程では、水の一部)とセメント(本工程では、セメントの一部)の質量比(水/セメント)を百分率(%)で表したものである。
本工程において、セメントの一部と、水の一部を混合する方法は特に限定されず、例えば、撹拌槽等に水の一部を投入し、次いで、セメントの一部を投入した後、混合してもよく、撹拌槽等に水の一部とセメントの一部を同時に投入した後、混合してもよい。
【0013】
[炭酸ガス供給工程]
本工程は、セメントスラリー調製工程で得られたセメントスラリーの中に炭酸ガスを供給して、炭酸ガス含有スラリーを得る工程である。
本工程において、セメントスラリーに均質に炭酸ガスを供給する観点から、セメントスラリーを流動させながら炭酸ガスを供給することが好ましい。
セメントスラリーの中に炭酸ガスを供給する方法としては、例えば、以下の(i)~(iii)の方法等が挙げられる。
(i) 上記セメントスラリー調製工程で用いたセメントスラリーを得るための撹拌槽内に、セメントスラリー中に炭酸ガスを供給するための炭酸ガス供給手段を設置し、セメントスラリーの中に炭酸ガスを供給する方法。
より具体的な例としては、セメントと水を撹拌し混合してセメントスラリーを得るための撹拌槽と、該撹拌槽の中の混合物収容用空間内に配設された、炭酸ガス供給手段(例えば、散気板)を備えた装置内において、上述のセメントスラリー調製工程で得たセメントスラリーを撹拌しながら、該セメントスラリーの中に、上記炭酸ガス供給手段を用いて炭酸ガスを吹き込んで、炭酸ガス含有スラリーを得る方法が挙げられる。
【0014】
(ii) セメントスラリーを、セメントスラリーを収容するための撹拌槽から、炭酸ガスを供給するための炭酸ガス供給手段(例えば、散気板)を有する装置内に移送した後、該装置内でセメントスラリーの中に炭酸ガスを吹き込んで、炭酸ガス含有スラリーを得て、次いで、該炭酸ガス含有スラリーを、炭酸ガス含有スラリーを収容するための炭酸ガス含有スラリー槽に移送する方法。
なお、上記撹拌槽と上記炭酸ガス含有スラリー槽は、同一のものであってもよく、異なるものであってもよい。
【0015】
より具体的な例としては、セメントと水を撹拌し混合して、混合物を得るための撹拌槽内に収容された、セメントの一部と水の一部を混合してなる混合物(上記セメントスラリー調製工程で得られたセメントスラリー)を、炭酸ガスを供給するための炭酸ガス供給手段(例えば、散気板)を有する装置内に、ポンプ等を用いて、上記撹拌槽の中の上記混合物を上記装置内に供給するための第一の流通路を通して移送した後、上記装置内において、上記混合物を撹拌しながら、上記混合物の中に炭酸ガスを供給し、次いで、炭酸ガス供給後の混合物を、上記撹拌槽に、ポンプ等を用いて、上記装置内の上記混合物を上記撹拌槽に供給するための第二の流通路を通して移送して、炭酸ガス含有スラリーを得る方法が挙げられる。
上記装置の例としては、上記混合物を収容しかつ撹拌するための混合物収容槽と、該混合物収容槽の中の混合物収容用空間内に配設された、上記炭酸ガスを供給するための散気手段(例えば、散気板)を備えたものが挙げられる。
また、上記混合物を、十分な量の炭酸ガスが供給されるまで、上記撹拌槽、上記第一の流通路、上記装置、及び、上記第二の流通路の順に繰り返し循環させてもよい。
さらに、炭酸ガス含有スラリーを得た後、上記炭酸ガス含有スラリーを、炭酸ガス含有スラリー槽とは異なる、炭酸ガス含有スラリーを貯蔵するための貯蔵槽に一旦貯蔵して、該貯蔵槽から、上記炭酸ガス含有スラリーを、適宜、上記炭酸ガス含有スラリー槽に供給してもよい。
【0016】
(iii) セメントスラリーを、セメントスラリーを収容するための撹拌槽から、炭酸ガス含有スラリーを収容するための炭酸ガス含有スラリー槽に移送する際に、セメントスラリーの中に炭酸ガスを吹き込む方法。
より具体的な例としては、セメントと水を撹拌し混合して、混合物を得るための撹拌槽内に収容された、セメントの一部と水の一部を混合してなる混合物(上記セメントスラリー調製工程で得られたセメントスラリー)を、上記撹拌槽から供給された上記混合物を流通させるための管路内で流通させながら、上記混合物の中に炭酸ガスを供給かつ撹拌して、炭酸ガス含有スラリーを得た後、該炭酸ガス含有スラリーを上記炭酸ガス含有スラリー槽に移送する方法が挙げられる。
【0017】
上記管路としては、例えば、上記管路内を流通している上記混合物に上記炭酸ガスを供給するための炭酸ガス供給口を有し、上記混合物と上記炭酸ガスを撹拌して混合することのできる形態を有するものが挙げられる。具体的には、管路内に、上記炭酸ガスを供給するための散気手段(例えば、散気板)、及び、撹拌手段(例えば、ラインミキサーやスタティックミキサー)を配設したものが挙げられる。
また、上記混合物の中に炭酸ガスを供給した後、該混合物を、炭酸ガス含有スラリー槽に移送せずに、上記撹拌槽に戻してもよい。さらに、上記混合物を、上記撹拌槽、及び、上記管路内の順に繰り返し循環させて、十分な量の炭酸ガスを供給した後、上記混合物を炭酸ガス含有スラリーとして、炭酸ガス含有スラリー槽に移送してもよい。
また、上記方法において、上記炭酸ガス含有スラリーを得た後、炭酸ガス含有スラリーを貯蔵するためのスラリー貯蔵槽に一旦貯蔵して、該貯蔵槽から、上記炭酸ガス含有スラリーを、適宜、上記炭酸ガス含有スラリー槽に供給してもよい。
【0018】
セメント組成物に固定化される二酸化炭素の量を増加させる観点から、炭酸ガスの供給は、セメントスラリーの液面の加圧下(例えば、セメントスラリーを収容してなるタンクの内部圧力を、大気圧を超える1,200hPa以上に高めるなど)で行ってもよい。
このことから、炭酸ガスを供給するための炭酸ガス供給手段は加圧できる構造のものが好ましい。
【0019】
また、炭酸ガスは、炭酸ガスのみからなる気体として、セメントスラリーに供給されてもよいが、入手の容易性等の観点から、炭酸ガスを含む気体として、セメントスラリーに供給されてもよい。
炭酸ガスを含む気体中の炭酸ガスの割合は、好ましくは5体積%以上、より好ましくは10体積%以上、さらに好ましくは20体積%以上、さらに好ましくは50体積%以上、さらに好ましくは80体積%以上、特に好ましくは90体積%以上である。該割合が5体積%以上であれば、セメント組成物に固定化される二酸化炭素の量をより増やすことができる。また、炭酸ガスの供給に要する時間を短くすることができる。
炭酸ガスを含む気体の例としては、セメント製造工程において発生した排ガス(炭酸ガス濃度:約20体積%)、製鉄工程において発生した排ガス(炭酸ガス濃度:約20体積%)、火力発電工程において発生した排ガス(炭酸ガス濃度:約10体積%)、及び、これらの排ガスからの分離回収ガス(炭酸ガス濃度:約100体積%)等が挙げられる。
【0020】
本工程において、炭酸ガスの供給は、炭酸ガス含有スラリーのpHが、好ましくは5.0~11.5、より好ましくは5.5~11.0、さらに好ましくは6.0~10.0、特に好ましくは6.5~9.5の範囲内となるように行われる。上記pHが5.0以上となるように炭酸ガスの供給を行った場合、セメント組成物の強度発現性がより向上する。また、炭酸ガスの供給に要する時間が短くなり、本発明の方法における製造効率がより向上する。上記pHが11.5以下となるように炭酸ガスの供給を行った場合、セメント組成物に固定化される二酸化炭素の量がより多くなる。なお、炭酸ガスを供給することによって、炭酸ガス含有スラリーのpHは低下する。
セメント組成物に固定化される二酸化炭素の量を十分に多くするために必要な、炭酸ガスの供給時間は、水セメント比、炭酸ガス供給手段、該手段を用いて供給される炭酸ガスを含む気体の炭酸ガス濃度等によって変わる。このため、本工程において、炭酸ガスの供給を終了するタイミングは、炭酸ガス含有スラリーのpHの実測値を基に定めることが好ましい。
【0021】
[セメント追加供給工程]
本工程は、炭酸ガス供給工程で得られた炭酸ガス含有スラリーと、セメントの残部を混練して、高濃度セメント含有組成物を得る工程である。
セメントの全量(セメント組成物に含まれるセメント全量)中のセメントの残部の量の割合は、50~99質量%、好ましくは60~97質量%、より好ましくは70~95質量%、さらに好ましくは75~92質量%、さらに好ましくは80~90質量%、特に好ましくは82~88質量%である。上記割合が50質量%未満であると、セメント組成物の強度発現性が低下する。上記割合が99質量%を超えると、セメント組成物に固定化される二酸化炭素の量が少なくなる。
【0022】
[水追加供給工程]
本工程は、セメント追加供給工程で得られた高濃度セメント含有組成物と、水の残部を混練して、セメント組成物を得る工程である。
水の全量(セメント組成物に含まれる水の全量)中の水の残部の量の割合は、1~50質量%、好ましくは2~40質量%、より好ましくは3~30質量%、特に好ましくは4~25質量%である。上記割合が1質量%未満であると、セメント組成物に含まれる空気量が少なくなり、セメント組成物の流動性が低下する。上記割合が50質量%を超えると、上記セメントスラリー調製工程において得られるセメントスラリーの流動性が、相対的に著しく低下し、上記炭酸ガス供給工程において、セメントスラリーに、均質に炭酸ガスを供給することが難しくなる。
【0023】
なお、セメントスラリー調製工程及び水追加供給工程において、通常、水の全量が用いられる。ただし、本発明において、水追加供給工程で用いる水の残部の一部を、上記炭酸ガス供給工程及びセメント追加供給工程の少なくともいずれか一方で投入してもよい。この実施形態も、本発明に包含されるものである。この場合、上記水の残部100質量%中の上記水の残部の一部の量の割合は、好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下、特に好ましくは5質量%以下である。
【0024】
本発明において、セメント組成物に含まれる骨材は、上記セメント追加供給工程と上記水追加供給工程のいずれか一方または両方で供給される。中でも、製造の効率性の観点から、セメント追加供給工程で供給することが好ましい。
本発明で用いられる骨材としては、細骨材のみ、または、細骨材と粗骨材の組み合わせが挙げられる。また、天然骨材、人工骨材、再生骨材のいずれも用いることができる。
細骨材としては、特に限定されず、例えば、川砂、山砂、陸砂、海砂、砕砂、珪砂、スラグ細骨材、及び軽量細骨材、又は、これらの中から選ばれる2種以上からなる混合物等が挙げられる。
粗骨材としては、特に限定されず、例えば、川砂利、山砂利、陸砂利、海砂利、砕石、スラグ粗骨材、及び軽量粗骨材、又は、これらの中から選ばれる2種以上からなる混合物等が挙げられる。
骨材の配合量(細骨材と粗骨材を併用する場合は、各々の配合量)は特に限定されず、モルタル又はコンクリートにおける一般的な配合量であればよい。
【0025】
また、セメント組成物の水セメント比(セメント組成物に含まれる、水の全量と、セメントの全量の質量比〔(水の全量)/(セメントの全量)〕を百分率(%)で表したもの)は、好ましくは30~65%、好ましくは40~60%である。上記比が30%以上であれば、前述のセメント追加供給工程及び水追加供給工程における混練の作業性、及び、水追加供給工程で得られたセメント組成物を打設するときの作業性(セメント組成物の流動性)がより向上する。上記比が65%以下であれば、セメント組成物の強度発現性がより向上する。
【0026】
また、セメント組成物は、セメント組成物の空気連行性及び流動性をより向上する観点から、セメント混和剤を含むことが好ましい。
セメント混和剤としては、セメント分散剤及びAE剤等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよいが、セメント組成物の空気連行性及び流動性をより向上する観点から、セメント分散剤とAE剤を併用することが好ましい。
また、セメント分散剤の例としては、減水剤、AE減水剤、高性能減水剤及び高性能AE減水剤等が挙げられる。中でも、セメント組成物の流動性を改善する観点から、遅延形の、減水剤、AE減水剤、又は高性能AE減水剤が好ましい。
これらは1種を単独で用いてもよいが、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
セメント混和剤は、セメント組成物の空気連行性及び流動性をより向上する観点から、水追加供給工程において供給されることが好ましい。
また、セメント組成物の凝結を遅延、調整させる目的で、グルコン酸、クエン酸、及び酒石酸等の遅延剤を使用してもよい。
【0027】
また、セメント組成物は、必要に応じて、フライアッシュ、シリカフューム、高炉スラグ微粉末等の各種混和材を含んでいてもよい。各種混和材の混合方法は、特に限定されないが、製造の効率性や、炭酸ガス供給工程において、炭酸ガス含有スラリーのpHに影響を与えない等の観点から、セメント追加供給工程及び水追加供給工程の少なくともいずれか一方の工程において混合されることが好ましい。
【実施例
【0028】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[使用材料]
(1) セメント;太平洋セメント社製、普通ポルトランドセメント
(2) 細骨材;山砂
(3)粗骨材:砕石
(4)水;上水道水
(5)AE減水剤;ポゾリス社製、商品名「マスターポリヒード15S」
(6)AE剤;ポゾリスソリューションズ社製、商品名「マスターエア303A」
【0029】
[実施例1~3]
表1に示す単位量となる量のセメントの一部と水の一部を、容器内でハンドミキサを用いて60秒間混練して混合物(セメントスラリー、温度:23℃)を得た(セメントスラリー調製工程)。
上記容器内の混合物を、流通路を通して、上記混合物に炭酸ガスを供給するための無気泡溶解水製造装置(巴商会社製、商品名「高濃度気体溶解装置」)に移送した後、該装置内で上記混合物に二酸化炭素を供給し、次いで、上記流通路とは異なる流通路を通して、上記容器内に上記混合物を移送することを繰り返して、上記混合物を8時間循環させ、炭酸ガス含有スラリーを得た(炭酸ガス供給工程)。なお、得られた炭酸ガス含有スラリーのpHは8.56であった。
得られた炭酸ガス含有スラリーに、表1に示す単位量のセメントの残部と細骨材と粗骨材を添加して、30秒間混練し、高濃度セメント含有組成物を得た(セメント追加供給工程)。
次いで、得られた高濃度セメント含有組成物に、表1に示す単位量となる量の水の残部と表1に示す量のAE減水剤及びAE剤を予め混合してなる液状物を添加して、60秒間混練し、次いで、ミキサの内壁に付着した混練物を掻き落とした後、さらに60秒間混練して、コンクリート(セメント組成物)を得た(水追加供給工程)。
【0030】
得られたコンクリートのスランプを、「JIS A 1101:2020(コンクリートのスランプ試験方法)」に準拠して測定した。
また、得られたコンクリートの材齢1日、7日及び28日の圧縮強度を、「JIS A 1108:2018(コンクリートの圧縮強度試験方法)」に準拠して測定した。
さらに、圧縮強度を測定するため用いた材齢28日のコンクリートの供試体のモルタル部分の二酸化炭素の割合(質量%)を、熱重量-示差熱分析(TG-DTA)を用いて求めた。具体的には、上記供試体を粉砕して粗骨材を除去した後、粗骨材が除去された試料(モルタル部分)について、熱重量-示差熱分析(TG-DTA)を行い、測定結果から、550~800℃付近の吸熱ピーク範囲における質量の減少を、上記モルタル部分に含まれている炭酸カルシウムの脱炭酸によるものと判断し、上記減少の量から、コンクリートの供試体のモルタル部分中の二酸化炭素の割合(質量%;炭酸カルシウムの二酸化炭素換算の値)を算出した。
【0031】
[比較例1]
単位量が336kg/mとなる量のセメント、単位量が840kg/mとなる量の細骨材、及び単位量が938kg/mとなる量の粗骨材を、ホバートミキサを用いて30秒間空練りした後、単位量が168kg/mとなる量の水と、セメント100質量部に対して、1.4質量部となる量のAE減水剤、及び、0.006質量部となる量のAE剤を予め混合してなる液状物を投入し、60秒間混練した。次いで、ミキサの内壁に付着した混練物を掻き落とした後、さらに60秒間混練してコンクリート(セメント組成物)を得た。
なお、水のpHは7.4であった。得られたコンクリートのスランプの測定等を、実施例1と同様にして行った。
【0032】
[比較例2]
単位量が56.0kg/mとなる量のセメントと、単位量が168kg/mとなる量の水を、容器内でハンドミキサを用いて60秒間混練して混合物(セメントスラリー、温度:23℃)を得た。
上記容器内の混合物を、流通路を通して、上記混合物に炭酸ガスを供給するための無気泡溶解水製造装置(巴商会社製、商品名「高濃度気体溶解装置」)に移送した後、該装置内で上記混合物に二酸化炭素を供給し、次いで、上記流通路とは異なる流通路を通して、上記容器内に上記混合物を移送することを繰り返して、上記混合物を8時間循環させ、炭酸ガス含有スラリーを得た。なお、得られた炭酸ガス含有スラリーのpHは8.56であった。
得られた炭酸ガス含有スラリーに、セメント100質量部に対して、1.6質量部となる量のAE減水剤と0.012質量部となる量のAE剤の混合物、単位量が840kg/mとなる量の細骨材、及び、単位量が938kg/mとなる量の粗骨材を添加、混練し、コンクリート(セメント組成物)を得た。得られたコンクリートのスランプの測定等を、実施例1と同様にして行った。
結果を表2に示す。
【0033】
【表1】
【0034】
【表2】
【0035】
表2から、実施例1~3の、コンクリートの供試体のモルタル部分中の二酸化炭素の割合(2.79~2.92質量%)は、比較例1の上記割合(1.89質量%)よりも大きいことから、実施例1~3では二酸化炭素がセメント組成物に固定化されたことがわかる。
また、比較例2の上記割合は2.81質量%であり、比較例2においても、実施例1~3と同等に二酸化炭素が固定化されていることがわかる。
ここで、実施例1~3と比較例2の比較から、実施例1~3のスランプ(18.0~19.0cm)及び空気量(4.4~5.1%)は、比較例2のスランプ(4.0cm)及び空気量(2.3%)よりも大きいことから、本発明によれば、セメント組成物の流動性及び空気連行性が向上することがわかる。